(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】画像解析装置、画像解析方法及び画像解析プログラム
(51)【国際特許分類】
G01P 13/00 20060101AFI20221107BHJP
【FI】
G01P13/00 D
G01P13/00 E
(21)【出願番号】P 2018186608
(22)【出願日】2018-10-01
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新井田 靖郎
【審査官】森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】特公平5-11909(JP,B2)
【文献】特開2015-127669(JP,A)
【文献】特開2000-88870(JP,A)
【文献】特開2000-19193(JP,A)
【文献】特開2011-17603(JP,A)
【文献】特許第6399517(JP,B2)
【文献】特開2017-133901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
UAV(Unmanned Aerial Vehicle)に搭載され、飛行する前記UAVから水面の水温分布を表すサーモグラフィ画像を
複数撮影するカメラと、
前記カメラにより撮影された
前記サーモグラフィ画像のそれぞれから陸地側特徴点を抽出し、抽出した前記陸地側特徴点を基にアフィン変換を行なって、各前記サーモグラフィ画像の相互の位置を補正する補正部と、
前記補正部により補正された前記サーモグラフィ画像から前記水温分布のパターンを取得し、取得した前記水温分布のパターンの変化を基に水流の状態を検出する検出部と
を備えることを特徴とする画像解析装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記水流の状態として水の流速及び乱流統計量を取得することを特徴とする請求項1に記載の画像解析装置。
【請求項3】
前記検出部は、取得した前記水温分布のパターンに対して直接相互相関法を用いて、前記水流の状態を取得することを特徴とする請求項1に記載の画像解析装置。
【請求項4】
前記カメラは、陸地を含ませて前記水面の前記サーモグラフィ画像を撮影し、
前記補正部は、前記サーモグラフィ画像上の前記陸地の中から前記
陸地側特徴点を抽出する
ことを特徴とする
請求項1に記載の画像解析装置。
【請求項5】
前記水温分布及び前記検出部により検出された前記水流の状態を報知する報知部をさらに備えたことを特徴とする請求項1
~4のいずれか一つに記載の画像解析装置。
【請求項6】
飛行するUAVに搭載されたカメラに、水面のサーモグラフィ画像を
複数撮影させ、
前記カメラにより撮影された
前記サーモグラフィ画像のそれぞれから陸地側特徴点を抽出し、抽出した前記陸地側特徴点を基にアフィン変換を行なって、各前記サーモグラフィ画像の相互の位置を補正し、
補正した前記サーモグラフィ画像から水温分布のパターンを取得し、
取得された前記水温分布のパターンの変化を基に水流の状態を検出する
ことを特徴とする画像解析方法。
【請求項7】
飛行するUAVに搭載されたカメラで
複数撮影された水面のサーモグラフィ画像
のそれぞれから陸地側特徴点を抽出し、抽出した前記陸地側特徴点を基にアフィン変換を行なって、各前記サーモグラフィ画像の相互の位置を補正し、
補正した前記サーモグラフィ画像から水温分布のパターンを取得し、
取得した前記水温分布のパターンの変化を基に水流の状態を検出する
処理をコンピュータに実行させることを特徴とする画像解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像解析装置、画像解析方法及び画像解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
沿岸域の水温分布は砕波による鉛直混合や河川プルームの流入及び水面での熱交換などの自然要因に加え、工場などから海洋へ流れ出す人為的な排水によって、時空間的に大きく変動する。海水温は、豊かな生態系を形成する沿岸環境を評価するうえで、最も重要なパラメータの1つであり、上述のような沿岸域における物理イベントが水温変化に与える影響について現地観測による知見の集積が求められている。
【0003】
一般に、沿岸域を含め海洋観測においては、船舶やブイと水温計や流速計とを用いた直接計測や、海洋レーダーや人工衛星を用いたリモートセンシングによる観測が行われてきた。しかし、漁業や海運などの利用度の高い沿岸域を海洋観測で占有することは難しく、船舶やブイにより十分な情報を得ることは困難である。また、海洋レーダーや人工衛星は、解像度が1kmスケールなどである。そのうえ、海洋レーダーでは、例えば、沿岸から500m程度以上離れた領域が計測範囲となる。このように、海洋レーダーや人工衛星による海洋観測は、解像度が低いため沿岸域の局所的な流速分布や水温分布、乱流統計量を得ることは難しい。
【0004】
特に、排水の海洋拡散範囲予測では、噴流として振る舞う初期混合過程が重要であることが知られている。しかし、船舶やブイを用いたスポットでの観測では局所的な放水流動の空間変動を捉えることは困難であり、また、海洋レーダーや人工衛星では上述したように解像度が低いため局所的な観測が難しい。そのため、放水直後の局所的な現象を現地で観測することは極めて困難である。
【0005】
ここで、流体運動と温度変動の関係を調査する上で、水温の平面的な分布の変動が計測できるサーモグラフィが有用なツールとなる。サーモグラフィによる流体計測は、主として室内実験で行われており、サーモグラフィを用いて沿岸域の現地での観測の例は少ない。例えば、沿岸域に設置された観測塔などにサーモグラフィを設置し計測を行う技術が提案されている。
【0006】
さらに、海洋観測の技術として、飛行体に搭載したサーモカメラで得られた水面温度分布画像から所定水域における水流を検知する従来技術がある。また、所定間隔でブイを設置し、無人飛行体に搭載されたカメラで撮影したブイの位置から流速を算出する従来技術がある。また、一定間隔でビデオカメラ撮影した水面の起伏模様の移動量及び移動方向から水流の速度及び方向を測定する従来技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2015-127669号公報
【文献】特開2018-91725号公報
【文献】特開2009-74968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、沿岸域に設置された観測塔などにサーモグラフィのカメラを設置し計測を行う場合、カメラが斜上から海面をとらえるため、画像上の誤差が大きくなるおそれがある。また、観測塔などの構造物にサーモグラフィを設置する手法では、構造物が建設されている箇所での観測に限られてしまい、任意の沿岸域の局所的な流速分布や水温分布、乱流統計量を十分に得ることは難しい。
【0009】
また、飛行体に搭載したサーモカメラで得られた水面温度分布画像から所定水域における水流を検知する従来技術では、水流の大まかな情報を得ることはできるが、沿岸域の流速分布や水温分布の時空間的な局所変動及び乱流統計量を得ることは困難である。また、無人飛行体に搭載されたカメラで撮影したブイの位置から流速を算出する従来技術では、漁業や海運などの利用度の高い沿岸域に十分なブイを設置することは難しく、沿岸域の局所的な流速分布や水温分布、乱流統計量を得ることは困難である。さらに、一定間隔でビデオカメラ撮影した水面の起伏模様の移動量及び移動方向から水流の速度及び方向を測定する従来技術では、波浪の存在する沿岸域において起伏模様の移動量及び移動方向から流速を測定することは困難である。また、この従来技術では、ビデオカメラの設置場所が限られることから観測点が限定され、沿岸域の局所的な流速分布や水温分布、乱流統計量を算出するための十分な情報を得ることが困難である。
【0010】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、沿岸域の海洋状態の観測を簡易且つ正確に行う画像解析装置、画像解析方法及び画像解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の開示する画像解析装置、画像解析方法及び画像解析プログラムは、一つの態様において、以下の各部を備える。カメラは、UAVに搭載され、飛行する前記UAVから水面の水温分布を表すサーモグラフィ画像を複数撮影する。補正部は、前記カメラにより撮影された前記サーモグラフィ画像のそれぞれから陸地側特徴点を抽出し、抽出した前記陸地側特徴点を基にアフィン変換を行なって、各前記サーモグラフィ画像の相互の位置を補正する。検出部は、前記補正部により補正された前記サーモグラフィ画像から前記水温分布のパターンを取得し、取得した前記水温分布のパターンの変化を基に水流の状態を検出する。
【発明の効果】
【0012】
1つの側面では、本発明は、沿岸域の海洋状態の観測を簡易且つ正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、実施例に係る画像解析システムのブロック図である。
【
図3】
図3は、撮影されるサーモグラフィ画像の一例の図である。
【
図4】
図4は、画像の補正を説明するための図である。
【
図5】
図5は、実施例に係る画像解析システムにより取得されたサーモグラフィ画像の一例を表す図である。
【
図6】
図6は、実施例に係る画像解析システムにより取得された流速分布を表す図である。
【
図7】
図7は、実施例に係る画像解析システムにより取得された乱れエネルギーの空間分布を表す図である。
【
図8】
図8は、実施例に係る画像解析システムによる海洋観測処理のフローチャートである。
【
図9】
図9は、超音波流速計を用いて計測した流速を表す図である。
【
図10】
図10は、実施例に係る画像解析システムが計測した流速の水平方向の減衰を表す図である。
【
図11】
図11は、実施例に係る画像解析システムが計測した水温の水平方向の分布を表す図である。
【
図12】
図12は、水温変動の標準偏差の空間分布を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本願の開示する画像解析装置、画像解析方法及び画像解析プログラムの実施例を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施例により本願の開示する画像解析装置、画像解析方法及び画像解析プログラムが限定されるものではない。
【実施例】
【0015】
図1は、実施例に係る画像解析システムのブロック図である。画像解析システム100は、サーバなどの解析装置1及びドローンなどのUAV(Unmanned Aerial Vehicle)2を有する。この画像解析システム100が、画像解析装置の一例にあたる。
【0016】
UAV2は、操縦者により操縦され、空中を移動可能であり、且つ、空中でホバリングした状態で同じ地点で静止可能である。特に、本実施例に係るUAV2は、GPS(Global Positioning System)を用いた位置制御機能を有する。ただし、GPSを用いたホバリング精度は所定の幅があり、UAV2は、完全に同一地点に留まることはなく、静止中もホバリング精度に応じて移動する。例えば、本実施例に係るUAV2は、垂直が0.5mであり、水平が2.5mである。
図2は、UAVの斜視図である。UAV2は、
図2に示すようにサーモグラフィ画像を撮影するカメラ21が搭載される。
【0017】
カメラ21は、一定間隔で連続的にサーモグラフィ画像を撮影することが可能である。本実施例では、カメラ21は、画像サイズが720×480ピクセルであり、焦点距離が9mmである。カメラ21は、ホバリング時のUAV2に対して鉛直下向きに撮影方向が向くように設置される。
【0018】
本実施例では、UAV2は、沿岸部の海洋上にホバリングして、カメラ21の撮像画像の中に海洋の所定範囲とともに陸地が含まれるように撮影を行う。例えば、UAV2は、高度約148mにおいてホバリングし撮影を行う。
図3は、撮影されるサーモグラフィ画像の一例の図である。
図3のサーモグラフィ画像は、沿岸域における発電所からの放水口近傍の撮影画像である。
図3に示すように、カメラ21により撮影されたサーモグラフィ画像は、海面200及び陸地201を含む。
【0019】
カメラ21は、定点観測で連続的にサーモグラフィ画像を取得する。本実施例では、カメラ21は、40秒間の撮影期間内に2秒間隔の撮影間隔で連続的にサーモグラフィ画像を取得する。
【0020】
図1に戻って説明を続ける。解析装置1は、UAV2に搭載されたカメラ21により撮影されたサーモグラフィ画像を解析して計測範囲における温度分布、水の流速及び乱流統計量を求める装置である。解析装置1は、たとえばサーバである。解析装置1は、画像取得部11、画像補正部12、検出部13及び通知部14を有する。
【0021】
画像取得部11は、カメラ21により所定間隔で撮影期間内に連続撮影された複数のサーモグラフィ画像を取得する。ここで、
図1では、画像取得部11とUAV2とを結ぶ線で画像の取得を表したが、画像取得部11は、カメラ21が撮影したサーモグラフィ画像が取りこまれた可搬記憶媒体が解析装置1に接続された状態で、その可搬記憶媒体から画像を取得してもよい。画像取得部11は、取得したサーモグラフィ画像を画像補正部12へ出力する。
【0022】
画像補正部12は、撮影期間内に撮影されたサーモグラフィ画像の入力を画像取得部11から受ける。ここで、本実施例では、カメラ21は、広角レンズを使用しており、
図3に示すように取得したサーモグラフィ画像にはたる型の歪曲収差が存在する。そこで、画像補正部12は、ハロゲンライトによって投光されたチェッカーボードが様々な角度からカメラ21により撮影された画像から推定されるカメラパラメータを予め有する。そして、画像補正部12は、保持するカメラパラメータを用いて、取得した各サーモグラフィ画像の歪曲収差を補正する。
【0023】
また、UAV2は、上述したようにGPSホバリング精度により停止位置にずれが生じ加えて風の影響によっても位置がずれる。そこで、画像補正部12は、各サーモグラフィ画像における陸地部分のSURF(Speeded Up Robust Features)特徴量を抽出する。そして、画像補正部12は、画像の幾何学的補正としてアフィン変換を用いて画像間でSURF特徴点を一致させる。すなわち、画像補正部12は、陸地における特定の点を固定し、固定した特定の点が一致するように画像を変換する。その後、画像補正部12は、補正後のサーモグラフィ画像を検出部13及び通知部14へ出力する。
【0024】
図4は、画像の補正を説明するための図である。画像補正部12は、
図3に示したようなサーモグラフィ画像の歪曲収差を補正し、
図4に示すサーモグラフィ画像211及び212を取得する。ここで、サーモグラフィ画像211は、撮影開始時のサーモグラフィ画像の歪曲収差を補正した画像であり、サーモグラフィ画像212は、撮影開始から40秒後の画像の歪曲収差を補正した画像である。サーモグラフィ画像211及び212のいずれにも、陸地201と海面200が写っている。
【0025】
画像補正部12は、サーモグラフィ画像211の陸地201上の丸で示される地点をSURF特徴点として抽出する。また、画像補正部12は、サーモグラフィ画像211の陸地201上のバツで示される地点をSURF特徴点として抽出する。そして、画像補正部12は、サーモグラフィ画像211上の丸で示される地点とサーモグラフィ画像211上のバツで示される地点とが一致するように画像を補正する。
【0026】
ここで、本実施例では、陸地201上の点をSURF特徴点として抽出したが、画像を合わせるための固定点として使用できる点であれば、他の点を抽出してもよい。例えば、海洋上に岩が出ている場合、画像補正部12は、海面から出ている岩の中からSURF特徴点を抽出してもよい。また、GPSホバリング精度に対して誤差の範囲の考えられる程度の移動を行うブイであれば、画像補正部12は、海上のブイなどをSURF特徴点として使用して画像の補正を行うことも可能である。
【0027】
検出部13は、流速分布検出部131及び乱流統計量算出部132を有する。流速分布検出部131は、画像補正部12により補正されたサーモグラフィ画像を取得する。そして、流速分布検出部131は、取得した各サーモグラフィ画像に対して直接相互相関法を適用して流速分布を算出する。本実施例では、検出部13は、直接相互相関法における各検査領域を33×33ピクセルとした。また、検出部13は、誤ベクトルを防ぐための閾値を最小相関係数について0.7とし、最大流速について10m/sとして流速分布を算出した。
【0028】
また、流速分布検出部131は、各検査領域における水の流れる方向である流向を求める。その後、流速分布検出部131は、各検査領域における流速及び流向の情報を通知部14及び乱流統計量算出部132へ出力する。
【0029】
乱流統計量算出部132は、各検査領域における流速の情報の入力を流速分布検出部131から受ける。次に、乱流統計量算出部132は、各検査領域における流速の平均速度を求め、平均速度からの逸脱を変動速度とし、変動速度の2乗平均を加算して2で除算して各検査領域における乱れエネルギーを算出する。すなわち、乱流統計量算出部132は、次の数式(1)で表される計算により乱れエネルギーkを算出する。この乱れエネルギーkが乱流統計量の一例にあたる。
【0030】
【0031】
ここで、uは、検査領域における横方向の速度を表す。また、vは、検査領域における縦方向の速度を表す。そして、u’は、uの平均速度からの逸脱を表す変動速度であり、v’は、vの平均速度からの逸脱を表す変動速度である。そして、各文字の上部に付加した横棒は平均値を表す。
【0032】
その後、乱流統計量算出部132は、算出した各検査領域における乱れエネルギーの情報を通知部14へ出力する。
【0033】
通知部14は、撮影期間内に撮影された画像であって補正が加えられたサーモグラフィ画像の入力を画像補正部12から受ける。また、通知部14は、撮影期間内の各撮影タイミングにおける各検査領域での流速の情報の入力を流速分布検出部131から受ける。さらに、通知部14は、各検査領域での乱れエネルギーの情報の入力を乱流統計量算出部132から受ける。そして、通知部14は、各撮影タイミングにおける水温及び各検査領域での流速、並びに、各検査領域での乱流統計量を解析装置1の利用者へ通知する。この情報の通知方法は様々な方法が考えられるが、一例として、画像による各情報の通知を以下に説明する。
【0034】
まず、通知部14は、取得したサーモグラフィ画像を利用者へ送信することで、画像を用いた計測領域における水温の通知を行う。例えば、通知部14は、
図5に示すサーモグラフィ画像を利用者へ送信して水温の通知を行う。
【0035】
図5は、実施例に係る画像解析システムにより取得されたサーモグラフィ画像の一例を表す図である。
図5は、発電施設から海洋に放水される温排水を画像解析システム100により計測した場合の、放水口周辺の水温分布を示す。ここで、
図5の図面に向かって上側の図の横軸及び縦軸は放水口位置を原点とする二次元の座標を表す。ここでは、各座標軸をX軸及びY軸として、横軸方向をX方向と呼び、縦軸方向をY方向と呼ぶ。さらに、
図5の図面に向かって下側の帯は、横軸で温度を表し、帯上のパターンは温度に対応したパターンを表す。利用者は、上側の図上における下側の帯に応じたパターンを確認することで、所定範囲における水温の状態を把握することができる。
【0036】
ここで、本実施例では、パターンにより温度の違いを表したが、表示方法はこれに限らず、通知部14は、例えば、色の違いにより温度の違いを表してもよい。例えば、通知部14は、温度が低くなるにつれ濃い青色とし、温度が高くなるにつれ明るい黄色となるように、各検査領域に配色をおこなって計測範囲の画像を生成してもよい。
【0037】
例えば、利用者は、
図5から以下のことを把握できる。水面下の放水口から正の浮力を持つ密度噴流として放水された温排水は、直ちに浮上し放水口からX方向に50m未満の範囲の放水口近傍の海水温を上昇させる。放水口からX方向に50m未満の範囲の水温は、放水温とほぼ同じ22℃程度の周辺より高い温度となる。そして、放水口からのX方向の距離が大きくなるにつれて水温は低減する。噴流の外側の水温は、19.6℃程度であるが、放水口からX方向に30m未満で、Y方向の50m~-60mの範囲の岸壁付近は、高温域となる。
【0038】
また、通知部14は、流速に応じて各検査領域に対応するパターンを配置した計測範囲の画像を生成する。さらに、通知部14は、生成した計測範囲の画像上に、各検査領域における流向を表すベクトルを付加する。そして、通知部14は、流速を表すパターンを配置し且つ流向を表すベクトルを付加した計測範囲の画像を利用者へ送信する。これにより、通知部14は、各撮影タイミングにおける各検査領域での流速及び流向を利用者に通知することができる。
【0039】
例えば、通知部14は、
図6に示す水流分布を表す画像を利用者へ送信して流速及び流向の通知を行う。
図6は、実施例に係る画像解析システムにより取得された流速分布を表す図である。
図6は、
図5と同じタイミングにおける瞬時流速の空間分布を表す。
図6の図面に向かって上側の図の横軸及び縦軸は放水口位置を原点とするX座標及びY座標を表す。さらに、
図6の図面に向かって下側の帯は、横軸で流速を表し、帯上のパターンは流速に対応したパターンを表す。
【0040】
ここで、
図6の場合、X座標が0未満の範囲では、流速が検出されておらず、陸地上のSURF特徴点を画像間で一致させるアフィン変換が適切に行われていることが確認できる。また、
図6では、放水口が岸壁に対して垂直でないため、温排水の流軸はY軸の正方向に偏向している。また、水中で放水された密度噴流中の流速の鉛直断面が対となる渦から構成されるため、海面に表れる流軸は複数存在する。
【0041】
利用者は、上側の図上における下側の帯に応じた配色を確認することで、所定範囲における流速及び流向を把握することができる。例えば、利用者は、
図6から以下のことが把握できる。噴流内部の流速と比較して周囲の海面の流速は小さく、放水口からX方向に30m未満で、Y方向の50m~-60mの範囲の岸壁付近の高温域もほぼ流速が0となっており、噴流部分と区別可能である。この噴流内外での流速差は液相乱れを引き起こし、周囲流体を連行する。周囲流体を連行することで、噴流の流量が大きくなるため、放水口からのX方向の距離が大きくなるにしたがい噴流の幅が大きくなり、噴流は希釈される。
【0042】
ここで、本実施例では、パターンにより流速の違いを表したが、表示方法はこれに限らず、通知部14は、例えば、色の違いにより流速の違いを表してもよい。例えば、通知部14は、流速が遅くなるにつれ濃い青色とし、流速が早くなるにつれ明るい黄色となるように、各検査領域に配色をおこなって計測範囲の画像を生成してもよい。
【0043】
また、通知部14は、乱れエネルギーに応じて各検査領域にパターンを配置した計測範囲の画像を生成する。そして、通知部14は、乱れエネルギーを表すパターンを各検査領域に配置した計測範囲の画像を利用者へ送信する。これにより、各検査領域における乱流統計量を利用者に通知することができる。
【0044】
例えば、通知部14は、
図7に示す乱れエネルギーの空間分布を表す画像を利用者へ送信して所定範囲における乱流統計量の通知を行う。
図7は、実施例に係る画像解析システムにより取得された乱れエネルギーの空間分布を表す図である。ここで、
図7の図面に向かって上側の図の横軸及び縦軸は放水口位置を原点とするX座標及びY座標を表す。さらに、
図7の図面に向かって下側の帯は、横軸で乱れエネルギーを表し、帯上のパターンは乱れエネルギーに対応したパターンを表す。利用者は、上側の図上における下側の帯に応じた配色を確認することで、所定範囲各における乱流統計量を把握することができる。
【0045】
例えば、利用者は、
図7から以下のことが把握できる。
図7に示すように、
図6で示す噴流と周囲流体との流速差によるせん断流れは液相乱れを誘起して、放水口近傍の強い流速分布の存在する領域において、流軸に沿って高い乱れエネルギーが生じる。この放水口近傍の強い乱れが周囲流体の連行を引き起こし、排水の初期希釈に大きな影響を与える。
【0046】
ここで、本実施例では、パターンにより乱れエネルギーの違いを表したが、表示方法はこれに限らず、通知部14は、例えば、色の違いにより乱れエネルギーの違いを表してもよい。例えば、通知部14は、乱れエネルギーが低くなるにつれ濃い青色とし、乱れエネルギーが高くなるにつれ明るい黄色となるように、各検査領域に配色をおこなって計測範囲の画像を生成してもよい。
【0047】
次に、
図8を参照して、本実施例に係る画像解析システム100による海洋観測処理の流れについて説明する。
図8は、実施例に係る画像解析システムによる海洋観測処理のフローチャートである。
【0048】
海洋上をホバリングするUAV2に搭載されたカメラ21が、撮影期間内に所定間隔で陸地を含む所定範囲のサーモグラフィ画像を撮影する(ステップS1)。
【0049】
画像取得部11は、カメラ21が撮影した撮影期間において所定間隔で撮影されたサーモグラフィ画像を収集する(ステップS2)。そして、画像取得部11は、収集したサーモグラフィ画像を画像補正部12へ出力する。
【0050】
画像補正部12は、サーモグラフィ画像の入力を画像取得部11から受ける。そして、画像補正部12は、保持するカメラパラメータを用いて各サーモグラフィ画像の歪曲収差を補正する。次に、画像補正部12は、各サーモグラフィ画像における陸地部分からSURF特徴点を抽出する。そして、画像補正部12は、アフィン変換を用いて画像間でSURF特徴点が一致するように各サーモグラフィ画像の補正を加える(ステップS3)。その後、画像補正部12は、補正を施したサーモグラフィ画像を流速分布検出部131及び通知部14へ出力する。
【0051】
流速分布検出部131は、補正が施されたサーモグラフィ画像の入力を画像補正部12から受ける。次に、流速分布検出部131は、各サーモグラフィ画像を所定サイズの検査領域に分割し、直接相互相関法を適用して各検査領域における流速を算出する。また、流速分布検出部131は、各検査領域における流向を求める。これにより、流速分布検出部131は、所定範囲における流速分布を検出する(ステップS4)。その後、流速分布検出部131は、算出した流速分布の情報を乱流統計量算出部132及び通知部14へ出力する。
【0052】
乱流統計量算出部132は、所定範囲における流速分布の情報の入力を流速分布検出部131から受ける。次に、乱流統計量算出部132は、撮影期間における各検査領域における平均速度を算出し、算出した平均速度からの逸脱を表す変動速度を求めて、数式(1)を用いて乱れエネルギーを算出し、所定範囲の各検査領域における乱れエネルギーを取得する(ステップS5)。その後、乱流統計量算出部132は、取得した各検査領域における乱れエネルギーの情報を通知部14へ出力する。
【0053】
通知部14は、補正が加えられた所定範囲のサーモグラフィ画像の入力を画像補正部12から受ける。また、通知部14は、所定範囲における流速分布の情報の入力を流速分布検出部131から受ける。さらに、通知部14は、所定範囲の各検査領域における乱れエネルギーの情報の入力を乱流統計量算出部132から受ける。そして、通知部14は、所定範囲における流速分布を表す画像及び所定範囲における乱流統計量を表す画像を生成する。その後、通知部14は、所定範囲のサーモグラフィ画像、所定範囲における流速分布を表す画像及び所定範囲における乱流統計量を表す画像を利用者へ送信することで、沿岸域における海洋の温度分布、流速分布及び乱流統計量を通知する(ステップS6)。
【0054】
次に、本実施例に係る画像解析システム100により計測された流速の精度について説明する。ここでは、
図6に示した流速分布を用いて、超音波流速計(ADCP:Acoustic Doppler Current Profiler)を用いて計測した流速との比較について説明する。
【0055】
図9は、超音波流速計を用いて計測した流速を表す図である。具体的には、
図9は、
図6及び7において点線で表されるX軸が75mの位置を岸壁と並行に超音波流速計を曳航して得られた瞬時流速分布を表す。この計測は、
図5で示した画像を本実施例に係る画像解析システム100が取得してから30分後に行われた。また、超音波流速計による計測は、水面下0.5mの流速の計測であり、画像解析システム100による水面の流速の計測とは若干異なる。しかし、超音波流速計により得られたX軸が75mの位置での流速の最大値は0.7m/s程度であり、噴流の幅は50m程度であり、
図6に示した流速分布と概ね一致している。すなわち、
図6と
図9との比較から、本実施例に係る画像解析システムによる流速分布の測定精度が高いことが分かる。
【0056】
次に、本実施例に係る画像解析システム100で計測された流速及び水温の水平方向の減衰について説明する。ここでは、
図5に示したサーモグラフィ画像及び
図6に示した流速分布を用いて説明する。ただし、密度噴流中では流軸が分岐し、流速のピーク値はY軸方向の横断面内に2つ存在するが、ここでは、1つのピーク値からの流速の水平方向の減衰を例に説明する。
【0057】
図10は、実施例に係る画像解析システムが計測した流速の水平方向の減衰を表す図である。具体的には、
図10は、
図6におけるX軸が75mの位置における流軸方向の撮影期間の平均流速の水平方向の分布を表す。ここで、y
uは流速のピーク値が得られる点からの水平距離であり、b
uは流速のピーク値の半分の値が得られる幅、すなわち、半値半幅である。そして、
図10の横軸で表されるy
u/b
uは、y
uをb
uで規格化した値である。また、
図10の縦軸は、流速Uを断面最大流速U
mで無次元化した値を表す。さらに、
図10のグラフ301は、断面最大値を中心とした次の数式(2)で表されるガウス関数である。
【0058】
【0059】
図11は、実施例に係る画像解析システムが計測した水温の水平方向の分布を表す図である。
図11は、
図5におけるX軸が75mの位置における流軸方向の撮影期間の平均温度の水平方向の分布を表す。ここで、y
Tは水温の断面最大値が得られる点からの水平距離であり、b
Tは水温の断面最大値の半分の値が得られる幅、すなわち、半値半幅である。そして、
図11の横軸で表されるy
τ/b
τはy
τをb
τで規格化した値である。また、
図11の縦軸は、水温差ΔTを断面最大水温差ΔT
mで無次元化した値を表す。さらに、
図11のグラフ302は、断面最大値を中心とした次の数式(3)で表されるガウス関数である。
【0060】
【0061】
本実施例に係る画像解析システム100により求められた流速と水温は、
図10及び11に示すようにグラフ301及び302とほぼ一致している。ここで、室内実験などによって噴流の性質として、流速値及び水温値の水平方向の減衰はともにガウス分布で記述されることが知られている。すなわち、本実施例に係る画像解析システム100により求められた流速と水温がガウス分布に近似することから、本実施例に係る画像解析システム100は、流速及び水温を精度良く計測できているといえる。
【0062】
次に、本実施例に係る画像解析システム100により計測された乱流統計量について説明する。ここでは、
図7に示した乱れエネルギーの空間分布を用いて説明する。
【0063】
図12は、水温変動の標準偏差の空間分布を表す図である。ここでは、平均水温Tからの偏差θを計算し、水温変動の標準偏差の空間分布を求めた。ここで、
図12の図面に向かって上側の図の横軸及び縦軸は放水口位置を原点とするX座標及びY座標を表す。さらに、
図12の図面に向かって下側の帯は、横軸で水温変動の標準偏差を放水温度と環境場の表層水温との差ΔTmaxで無次元化した値を表し、帯上のパターンは各値に対応するパターンを表す。
図12におけるθθの上に横棒を配置した記号の2乗根が、水温変動の標準偏差にあたる。また、ここでは、環境場の表層水温を19.6℃とした。
【0064】
ここで、乱れが周囲流体を噴流内部へと連行し水温の変動を引き起こすため、
図12における水温変動の標準偏差の高い位置と、乱流せん断応力によって誘起される
図7における乱れエネルギーが高い位置とがほぼ一致する。すなわち、水温から求められる水温変動から得られる海洋の状態と、本実施例に係る画像解析システム100が求めた乱れエネルギーから得られる海洋の状態とが一致するといえる。このことから、本実施例に係る画像解析システム100は、流体運動と水温変動との関係を把握することができているといえる。
【0065】
以上に説明したように、本実施例に係る画像解析システムは、短時間で水温の空間分布を短時間で取得し、高い解像度で水温分布、水流分布及び乱流統計量を精度よく求めることができ、沿岸域の海洋状態の観測を簡易且つ正確に行うことができる。例えば、本実施例に係る画像解析システムは、沿岸域における局所的な密度噴流の拡散現象を正確に捉えることができる。
【0066】
(ハードウェア構成)
図13は、解析装置のハードウェア構成図である。解析装置1は、例えば
図13に示すように、CPU(Central Processing Unit)91、メモリ92、ネットワークインタフェース93及びハードディスク94を有する。CPU91は、バスを介してメモリ92、ネットワークインタフェース93及びハードディスク94と接続される。
【0067】
ハードディスク94は、
図1に例示した画像取得部11、画像補正部12、検出部13及び通知部14の機能を実現するためのプログラムを含む各種プログラムを格納する。
【0068】
CPU91は、ハードディスク94から各種プログラムを読み出し、メモリ92上に展開して実行する。これにより、CPU91は、
図1に例示した画像取得部11、画像補正部12、検出部13及び通知部14の機能を実現する。
【0069】
また、ネットワークインタフェース93は、外部の装置と通信を行うためのインタフェースである。通知部14による外部装置への沿岸域における海洋の温度分布、流速分布及び乱流統計量の通知は、ネットワークインタフェース93を介して行われる。
【符号の説明】
【0070】
1 解析装置
2 UAV
11 画像取得部
12 画像補正部
13 検出部
14 通知部
21 カメラ
100 画像解析システム
131 流速分布検出部
132 乱流統計量算出部