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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】金属粉体の評価方法、および評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2251 20180101AFI20221107BHJP
   H01J 37/20 20060101ALI20221107BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20221107BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20221107BHJP
   G01N 15/00 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
G01N23/2251
H01J37/20 D
H01J37/28 B
B22F1/00 Z
G01N15/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018192462
(22)【出願日】2018-10-11
(65)【公開番号】P2020060467
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 雅由
(72)【発明者】
【氏名】小林 諒太
(72)【発明者】
【氏名】浅井 剛
(72)【発明者】
【氏名】木村 昌弘
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/023354(WO,A1)
【文献】特表2017-519200(JP,A)
【文献】特開2012-256516(JP,A)
【文献】特開2004-325355(JP,A)
【文献】特開2004-361143(JP,A)
【文献】米国特許第7813523(US,B1)
【文献】特開2006-72689(JP,A)
【文献】特開平10-160693(JP,A)
【文献】中川 靖子, 廣島 進,トナー構成材料の三次元分散状態観察,日本画像学会誌,2009年,第48巻第6号,P. 470-476
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
H01J 37/00-H01J 37/36
G01B 11/00-G01B 11/30
G01B 15/00-G01B 15/08
G06T 1/00、G06T 7/00
B22F 1/00-B22F 8/00
B22F 10/00-B22F 12/90
C22C 1/04-1/05
C22C 33/02
G01N 15/00-G01N 15/14
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプルステージ上に配置される金属粉体に含まれる金属粒子の走査顕微鏡像を、前記サンプルステージを第1の軸を中心として第1の角度ごとに段階的に回転しながら取得することで、前記サンプルステージの前記第1の軸を中心とする回転角に対応する第1のイメージを取得すること、
前記サンプルステージの位置を前記第1のイメージの取得前の位置に戻すこと、
前記金属粒子の前記走査顕微鏡像を、前記サンプルステージを前記第1の軸と直交する第2の軸を中心として前記第1の角度ごとに段階的に回転しながら取得することで、前記サンプルステージの前記第2の軸を中心とする回転角に対応する第2のイメージを取得すること、
前記第1のイメージと前記第2のイメージを用いて前記金属粒子の三次元モデルを生成すること
記金属粒子の前記三次元モデルの、前記第1の軸に垂直な断面、前記第2の軸に垂直な断面、および前記第1の軸と前記第2の軸に直交する第3の軸に垂直な断面の面積を、それぞれ前記第1の軸、前記第2の軸、および前記第3の軸に対してプロットすること、および
前記三次元モデルを外接する仮想真球の体積と前記三次元モデルの体積を用いて前記金属粒子の真球からのずれを評価することを含む、金属粉体の評価方法。
【請求項2】
前記第1の角度は±3°以上±15°以下である、請求項1に記載の評価方法。
【請求項3】
前記サンプルステージの前記回転は、前記サンプルステージの法線から±45°の範囲内で行われる、請求項1に記載の評価方法。
【請求項4】
前記三次元モデルの前記生成の前に、前記第1のイメージと前記第2のイメージを二値化して前記金属粒子のシルエットを決定することをさらに含み、
前記三次元モデルの前記生成は、視体積交差法を用いて行われる、請求項1に記載の評価方法。
【請求項5】
金属粒子を含む試料を保持するサンプルステージ、
前記サンプルステージの方向に電子線を照射する電子銃、
前記試料から発生する信号電子を検出する検出器、および
検出された前記信号電子を用いて前記試料の像を生成する制御装置を備え、
前記サンプルステージは、法線である第3の軸、および前記法線に垂直であり、互いに垂直な第1の軸と第2の軸を中心として回転するように構成され、
前記制御装置は、前記電子線に対する前記試料の角度が異なる状態で検出される前記信号電子に基づいて前記像を複数生成し、前記複数の像を用いて前記試料の三次元モデルを生成するように構成され、
前記制御装置はさらに、
前記金属粒子の前記三次元モデルの、前記第1の軸に垂直な断面、前記第2の軸に垂直な断面、および前記第1の軸と前記第2の軸に直交する第3の軸に垂直な断面の面積を、それぞれ前記第1の軸、前記第2の軸、および前記第3の軸に対してプロットし、
前記三次元モデルを外接する仮想真球の体積に占める前記三次元モデルの体積割合を算出するように構成される、評価装置。
【請求項6】
それぞれ前記法線と前記第1の軸を中心として前記サンプルステージを回転させる第1の回転機構と第2の回転機構をさらに有する、請求項に記載の評価装置。
【請求項7】
前記三次元モデルの生成は、視体積交差法を用いて行われる、請求項に記載の評価装置。
【請求項8】
前記制御装置は、制御部、およびプログラムを格納するためのメモリ部を備え、
前記三次元モデルは、前記プログラムの命令に従って前記制御部によって生成される、請求項に記載の評価装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、微細構造の評価方法に関する。例えば本発明の実施形態の一つは、金属粉体の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微細な構造を観察、評価する方法として、例えば、電子、イオン、X線、や光を試料にぶつけ画像を得る方法がある。中でも電子顕微鏡が知られている。その中で特に走査型電子顕微鏡(SEM)は、光学顕微鏡と比較して焦点深度が深いため、凹凸の大きな試料でも明瞭な像を得ることができることから、様々な分野で利用されている。例えば有機材料を含む微粒子や膜、生体組織、ウイルスなどの微生物、ナノスケールで製造される半導体デバイス、金属などの無機材料を含む微粒子やその集合体などをSEMを用いて観察することで、これらの形態やモルフォロジーに関する情報を容易に得ることができる。
【0003】
例えば金属粒子を含む集合体(以下、金属粉体)もSEMによって観察することで、その特性の評価や予測が可能である。金属粉体は種々の分野で利用されており、銅やニッケル、銀などの高い導電性を示す金属の金属粉体は、例えば積層セラミックコンデンサ(MLCC)の内部電極などの電子部品の原材料として幅広く利用されている。このような金属粉体は気相法(特許文献1、2)などを利用して製造される。得られた金属粉体はバインダーを含む溶媒中に分散され、この分散液と誘電体を含む分散液とを交互に塗布して形成される積層体を焼成することでMLCCが製造される。焼成によって金属粉体は焼結し、内部電極を与えるが、金属粉体に含まれる微粒子の大きさや形状がMLCCの特性にも影響を及ぼすため、これらの特性を評価する際にSEMが使用される(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平6-76609号公報
【文献】特開平10-219313号公報
【文献】特開2014-024724号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に係る実施形態の一つは、微細構造を短時間で精確に、再現性良く、かつ非破壊的に評価する方法、および装置を提供することを課題の一つとする。例えば、金属粉体に含まれる金属粒子の形状や大きさなどの形態、およびそのばらつきを評価する方法、および装置を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る実施形態の一つは、金属粉体の評価方法である。この評価方法は、サンプルステージ上に配置される金属粉体に含まれる金属粒子の走査顕微鏡像を、サンプルステージを第1の軸を中心として第1の角度ごとに段階的に回転しながら取得することで、サンプルステージの第1の軸を中心とする回転角に対応する第1のイメージを取得すること、サンプルステージの位置を第1のイメージの取得前の位置に戻すこと、金属粒子の走査顕微鏡像を、サンプルステージを第1の軸と直交する第2の軸を中心として第1の角度ごとに段階的に回転しながら取得することで、サンプルステージの第2の軸を中心とする回転角に対応する第2のイメージを取得すること、および第1のイメージと第2のイメージを用いて金属粒子の三次元モデルを生成することを含む。
【0007】
第1の角度は±3°以上±15°以下とすることができ、例えば7°でも良い。この評価方法において、サンプルステージの第1の軸、第2の軸を中心とする回転は、それぞれサンプルステージの法線から±45°の範囲内で行ってもよい。
【0008】
この評価方法はさらに、三次元モデルの生成の前に、第1のイメージと第2のイメージを二値化して金属粒子のシルエットを決定することを含んでもよい。三次元モデルの生成は、視体積交差法を用いて行うことができる。
【0009】
さらにこの評価方法は、三次元モデルを外接する仮想球の体積と三次元モデルの体積とを用いて金属粒子を評価することをさらに含んでもよい。
【0010】
本発明に係る実施形態の一つは、評価装置である。この評価装置は、試料を保持するサンプルステージ、サンプルステージの方向に電子線を照射する電子銃、試料から発生する信号電子を検出する検出器、および検出された信号電子を用いて前記試料の像を生成する制御装置を備える。サンプルステージは、法線、および前記法線に垂直な第1の軸を中心として回転するように構成される。
【0011】
この評価装置は、法線と第1の軸を中心としてサンプルステージを回転させる第1の回転機構と第2の回転機構をさらに備えていてもよい。第2の回転機構は、サンプルステージを±90°の範囲で回転するように構成することができ、一方、第2の回転機構は、サンプルステージを±90°の範囲で回転するように構成することができる。
【0012】
この制御装置は、電子線に対する試料の角度が異なる状態で検出される信号電子に基づいて前記像を複数生成し、複数の像を用いて試料の三次元モデルを生成するように構成されてもよい。また、三次元モデルの生成は、視体積交差法を用いて行うことができる。
【0013】
制御装置は、制御部、およびプログラムを格納するためのメモリ部を備えてもよい。この場合、三次元モデルは、プログラムの命令に従って制御部によって生成される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態の一つに係る評価方法に用いる評価装置の断面模式図。
図2】本発明の実施形態の一つに係る評価方法に用いる評価装置のサンプルステージの模式的斜視図。
図3】本発明の実施形態の一つに係る評価方法に用いる評価装置の制御部のブロック図。
図4】本発明の実施形態の一つに係る評価方法を説明するフローチャート。
図5】本発明の実施形態の一つに係る評価方法を説明する模式的側面図。
図6】本発明の実施形態の一つに係る評価方法を説明する模式図。
図7】本発明の実施形態の一つに係る評価方法を説明する模式図。
図8】本発明の実施形態の一つに係る評価方法を説明する模式図。
図9】本発明の実施形態の一つに係る評価方法を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面などを参照しつつ説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0016】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本開示の解釈を限定するものではない。本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省くことがある。
【0017】
1.評価装置
本発明に係る実施形態の一つである微細構造の評価に使用可能な評価装置100の断面模式図を図1に示す。評価装置100は走査型電子顕微鏡(SEM)を基本構成として有する。より具体的には、評価装置100はチャンバー102を有し、チャンバー102の内部には、電子線発生装置(電子銃)104、アノード106、集束レンズ108、110、走査コイル112、対物レンズ114、サンプルステージ116、検出器118、および制御装置120が主な構成として備えられる。サンプルステージ116の上には評価対象である試料200が設置される。図示しないが、チャンバー102は図示しない減圧装置121と接続され、内部を減圧状態に保つことができる。
【0018】
電子銃104から電子線が放出され、放出された電子線はアノード106によって加速される。アノード106の下には複数の集束レンズ108、110が設置される。集束レンズの数は2つに限られず、試料200の上下に設置してもよい。集束レンズ108、110、および対物レンズ114によって加速された電子が収束され、試料200上に電子スポットとして照射される。走査コイル112は電子線の方向を制御し、これにより電子線スポットが試料200上で走査される。試料200に電子線スポットが照射されて試料200から発生する信号電子は検出器118によって検出される。制御装置120は、検出器118が検出した信号電子の量を明るさとして変換し、これにより、試料200のSEM像が得られる。
【0019】
サンプルステージ116は、図2に示すように、少なくとも二つの回転機構119a、119bによって互いに直交する三つの軸(x軸、y軸、z軸)を中心として回転するように構成される。以下、サンプルステージ116の上面が形成する平面をxy平面とし、その平面の法線方向をz軸とする。回転機構119aは、サンプルステージ116をz軸を中心に回転し、回転機構119bは、サンプルステージ116をz軸に垂直な軸を中心に回転する。図示しないが、サンプルステージはさらに三つ目の回転機構を備えてもよい。この場合、法線に垂直な二つの軸(x軸、y軸)を中心とする回転を二つの回転機構によって行うことができる。各軸を中心とする回転の角度は任意に設定することができ、例えばx軸とy軸を中心に±90°の範囲で回転するようにサンプルステージ116を構成することができる。z軸を中心とする回転に関しては角度の制約はなく、360°の範囲で自由に回転するようにサンプルステージ116を構成すればよい。この回転機能により、試料200に対して様々な角度から電子線を照射することができる。
【0020】
図3に制御装置120のブロック図を示す。制御装置120は、制御部122、メモリ部124、入力部126、表示部128、出力部130、および送受信部132を含む。
【0021】
制御部122は中央演算ユニットを有し、メモリ部124に格納されたプログラムの命令(プログラム命令)に基づいて動作し、制御装置120のみならず、サンプルステージ116を含む評価装置100を制御する。制御部122において、後述するSEM像の処理や三次元モデルの生成、試料200の評価がプログラム命令に従って行われる。制御部122は、制御部122が使用する不揮発性メモリ(ROMやフラッシュメモリなど)を内蔵してもよい。メモリ部124は不揮発性メモリを有し、上記プログラム命令や、評価装置100によって得られるSEM像のデータを格納するように構成される。入力部126はユーザインターフェースの一つであり、評価装置100の操作、制御を行う際にユーザが種々の命令を入力できるように構成される。入力部126の一例としては、キーボードやタッチパネル、マウスなどが挙げられる。表示部128もユーザインターフェースとして機能し、評価装置100の状態や取得したSEM像の表示、あるいは評価装置100へ命令を入力するためのアイコンなどを表示するように構成される。表示部128の代表例としては、液晶表示装置や有機電界発光表示装置などが挙げられる。任意の構成である出力部130は、メモリ部124に格納された各種データを印刷物として提供する、プリンタなどの出力デバイスである。送受信部132は、他の電子デバイスとの通信に用いられ、他の電子デバイスとの間で種々の情報の送信、受信を行うために設けられる。
【0022】
2.評価方法
2-1.撮像
上述した評価装置100を用い、以下に述べる評価方法を適用することで、評価対象である試料200の微細構造を短時間で、かつ、精確に評価することが可能である。評価対象には制約はなく、例えば微粒子を含む粉体、生体組織、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)などの半導体装置、あるいは無機化合物を含む膜でもよい。絶縁性の試料を評価する場合には、試料表面に導電性膜(炭素、白金、金、オスミウムなどの導電性物質の膜)を蒸着により形成することで、広範囲な試料を評価することができる。以下、金属粒子を含む金属粉体を評価する方法を例として説明を行う。この場合、金属粒子に含まれる金属の種類には制約はなく、金属としては例えばニッケルや銅、銀、アルミニウム、チタンなどの様々な典型金属、遷移金属が挙げられる。
【0023】
評価方法を図4のフローチャート、および図5(A)から図5(D)の側面模式図を用いて説明する。まず、サンプルステージ116上に試料200である金属粉体を設置する(S1)。具体的には、サンプルステージ116上に直接、あるいはガラスや石英、シリコン半導体などから選択される材料を含む基材(サンプルホルダー)を介して金属粉体を設置する。例えば、サンプルホルダーに粘着性テープ、例えばカーボンテープといった物を貼り付け、その上に金属粉体を塗布すればよい。必要に応じ、不要な金属粉体を取り除く。
【0024】
その後、減圧装置121を用いてチャンバー内部の圧力を調整し、試料200に対して電子線を照射し、撮像を開始する(S2)。撮像は、電子線に対する試料200の角度が異なる状態で検出される信号電子に基づいて行われ、これにより、複数のSEM像が生成される。例えば、まず、サンプルステージ116のz軸が電子線の照射方向と平行になるようにサンプルステージ116を調整して撮像を行う(図5(A))。その後、x軸、あるいはy軸のいずれか一方を中心としてサンプルステージ116を回転させる。ここでは一例として、x軸(第1の軸)を中心として正方向(例えば時計回り)にサンプルステージ116を回転させる(S3、図5(B))。回転の角度(以下、第1の角度、もしくはチルト角θ1)は任意に選択することができ、例えば3°以上15°以下、あるいは5°以上10°以下であり、典型的には7°である。x軸を中心にサンプルステージ116をチルト角θ1で正方向に回転した後、再度撮像を行う(S4)。これにより、サンプルステージ116の法線であるz軸からチルト角θ1傾いた方向から試料200に電子線が照射され、発生した電子信号によるSEM像を得ることができる。
【0025】
以下、x軸を中心とする正方向へのサンプルステージ116の回転と撮像を繰り返すことで、電子線の照射角度がチルト角θ1ずつ異なる複数のSEM像を取得する。チルト角θ1の回転の回数は任意であり、サンプルステージ116の法線が初期の方向(電子線の照射方向)から最大85°傾くまで回転を行うことができる。この角度(以下、最大傾斜角度θ2)は、20°から85°、20°から60°、あるいは20°から50°の範囲から任意に選択することができ、例えば45°である。上記範囲から選択された最大傾斜角度θ2に達すると(図5(C))撮像は一時的に終了したと判断し、サンプルステージ116を初期の状態に戻す。以上の操作により、y軸方向に沿ってチルト角θ1ずつ異なる角度から撮像されるSEM像を複数取得することができる。
【0026】
この後、z軸を中心としてサンプルステージを90°回転させ(S5)、撮像を再開する。x軸を中心とする回転と撮像と同様、サンプルステージ116の法線方向から電子線を照射して撮像した後(S6)、y軸(第2の軸)を中心として正方向(例えば時計回り)にチルト角θ1回転させ(S7)、撮像を行う(S8)。正方向への回転と撮像を繰り返し、法線が最大傾斜角度θ2正方向に回転すると撮像が終了したと判断する。以上の操作により、x軸方向に沿ってチルト角θ1ずつ異なる角度から撮像されるSEM像を複数取得することができる。
【0027】
なお、チルト角θ1は一つのSEM像を取得するごとに変化させてもよく、あるいは一つの試料200の評価において一定でもよい。また、x軸を中心とする回転とy軸を中心とする回転における最大傾斜角度θ2は同一でも良く、異なってもよい。
【0028】
また、x軸を中心とする正方向の回転が最大傾斜角度θ2に達した後、x軸を中心として負方向にサンプルステージ116を回転させつつ撮像を行ってもよい。すなわち、y軸方向に沿った撮像(S4)が完了した後、サンプルステージ116を初期の状態に戻し、その後、z軸を中心とする回転(S5)を行わずにx軸を中心としてサンプルステージ116を負方向にチルト角θ1回転し、SEM像を取得してもよい。正方向への回転時と同様、x軸を中心とする負方向への回転と撮像を繰り返す。サンプルステージ116の回転角が最大傾斜角度θ2に達すると(図5(D))、サンプルステージ116を初期の状態に戻し、上述したy軸を中心とする回転と撮像を行えばよい(S7、S8)。
【0029】
同様に、y軸を中心とする正方向の回転が最大傾斜角度θ2に達した後、y軸を中心として負方向にサンプルステージ116を回転させつつ撮像を行ってもよい。すなわち、x軸方向に沿った撮像(S8)が完了した後、サンプルステージ116の法線がz軸に平行になるよう、サンプルステージ116を水平に戻す。その後、サンプルステージ116をy軸を中心として負方向にチルト角θ1回転し、SEM像を取得してもよい。正方向への回転時と同様、y軸を中心とする負方向への回転と撮像を繰り返し、サンプルステージ116の回転角が最大傾斜角度θ2に達すると、サンプルステージ116を水平に戻す。なお、x軸、y軸を中心とする回転のいずれにおいても、正方向と負方向のチルト角θ1は互いに同一でも良く、異なってもよい。また、正方向と負方向における最大傾斜角度θ2も互いに同一でも良く、異なってもよい。
【0030】
2-2.三次元モデルの生成
上述した方法により、互いに直交する二つの方向(x軸とy軸の方向)に沿って異なる角度から撮像されるSEM像が複数取得され、メモリ部124に格納される。制御部122は、メモリ部124に格納されたプログラム命令に従ってこれらのSEM像を合成し、三次元モデルの生成を行い(S9)、そのモデルに基づいて評価を行う(S10)。三次元モデルの生成は、例えば視体積交差法を用いればよい。この方法を以下に説明する。
【0031】
まず、金属粒子の輪郭を抽出する。それぞれのSEM像140(図6(A))は種々の階調を有する画素から構成されるため、隣接する画素の階調の差がある一定の範囲内にある場合にはこれらの画素は同一の領域に属すると見做し、一つのSEM像を複数の領域に分割する。これにより各SEM像140は二値化され、その結果、図6(A)に模式的に示すように、複数の金属粒子の輪郭が決定される。このように決定された輪郭に囲まれる領域をシルエット142と呼ぶ。
【0032】
次に、最初に取得したSEM像140-1の下に、金属粒子が存在すると想定される空間(仮想空間)を設定し、その空間にSEM像140-1内のシルエット142-1の影を投影し、影と重なる空間(投影空間)144-1を得る(図6(B))。
【0033】
次に、投影空間144-1の軸をチルト角θ1回転させて得られる軸が法線となるよう、チルト角θ1で取得したSEM像140-2を配置する。このSEM像140-2内のシルエット142-2の影を仮想空間に投影し、影と重なる投影空間144-2を得る。
【0034】
この操作をすべてのSEM像140について行い、全ての投影空間144が重なる空間を金属粒子の占める空間であると認定する。このように認定された空間の三次元座標の集合が金属粒子の三次元モデルとして生成される。なお、SEM像の処理の順番は任意であり、SEM像140をその撮像時の電子線の照射方向とサンプルステージ116の法線がなす角度と法線に対する角度で配置し、これらのSEM像140のシルエット142によって形成される投影空間144がすべて重なる空間を求めればよい。
【0035】
2-3.評価
【0036】
上述した方法で得られる金属粒子の三次元モデルにより、個々の金属粒子の三次元形状を精確に評価、見積もることができる。図7(A)から図7(C)に示すように、工業的に生産される金属粉体には、ほぼ真球に近い形状を有する金属粒子202(図7(A))のみならず、複数の金属粒子202が連結することで形成される歪な形状を有する連結金属粒子204(図7(B))や、楕円球状などの、真球形状から大きく逸脱した歪な形状を有する金属粒子206など、様々な形状を有する金属粒子が混在しうる。金属粒子の形状や大きさのばらつきが大きいと、短絡が生じうる他、金属粉体の焼結開始温度が変化し、その結果、作製されるMLCCの特性にも悪影響を及ぼす。
【0037】
金属粒子の評価方法に制約はないが、例えば図8(A)に示すように、三次元モデルに基づいて個々の金属粒子208を外接する仮想真球210を設定する。三次元モデルを利用して金属粒子208の体積を求め、これが仮想真球210の体積に占める割合を算出する。この割合が大きいほど金属粒子208は真球に近い形状を有していると判断することができ、逆にこの割合が小さいほど、形状が歪であり、真球からのずれが大きいと判断することができる(図7(B)、図7(C)参照)。あるいは、三次元モデルに基づいて金属粒子208のxy平面、xz平面、yx平面における投影図212を作成し(図8(B)から図8(D))、それを外接する仮想円214を設定する。図8(A)に示した金属粒子206が理想的な楕円球であり、その長軸がx軸に平行であると仮定すると、yz平面では投影図212は真円となり(図8(D))、一方、xy平面とxz平面では楕円となる(図8(B)、図8(C))。各平面において投影図212の面積が仮想円214の面積に占める割合を算出し、これを用いて金属粒子206の形状の真球からのずれを評価することができる。
【0038】
連結金属粒子の検出は、個々の金属粒子のxy断面、zy断面、zx断面の面積を、これらの断面にそれぞれ直交するz軸、x軸、y軸の方向に対してプロットすることで可能となる。例えば図9(A)に示す連結金属粒子220が、二つの球状の金属粒子によって形成され、これらの中心を結ぶ直線がx軸に平行であるとする。この場合、xy断面の面積のz軸方向に対するプロットは、ピークが一つであり、変曲点は持たない(図9(B))。同様に、xz断面の面積のy軸方向に対するプロットは、ピークが一つであり、変曲点は持たない(図9(D))。これに対し、yz断面の面積のx軸方向に対するプロットはピークが複数であり、複数の変曲点を有する。このように、xy断面、xz断面、yz断面の面積のプロットの少なくとも一つに変曲点とピークが複数存在する場合に、その金属粒子は連結金属粒子であると認定することができ、これによって金属粉体中の連結金属粒子が検出できる。なお、上記プロットは適宜スムージングを行い、ピークや変曲点の検出のための閾値を適宜設定してもよい。
【0039】
従来、金属粉体の評価は、サンプルステージ116のz軸方向から電子線を照射して得られるSEM像のみを用い、そのSEM像を目視観察することによって行われていた。この場合、例えば、図7(A)で示すような独立した複数の金属粒子202がz軸方向に重なった状態と、図7(B)で示すようなz軸方向に配向した連結金属粒子とを区別することは非常に困難である。このため、評価結果は評価者の経験や能力に左右されることが多く、人為的要素を完全に排除することが事実上不可能であった。また、評価には長時間が要求され、迅速に金属粉体を評価することができなかった。
【0040】
これに対し本実施形態の評価方法は、制御装置120のメモリ部124に格納され、上述した評価方法を実行可能なプログラム命令に従い、制御部122によって行われる。したがって、三次元モデルを迅速に、かつ精確に生成することができるだけでなく、人為的要素を完全に排除しつつ、金属粉体に含まれる金属粒子の形状や大きさに関する情報を得ることができる。このため、金属粉体の評価を迅速に、精確に、かつ、再現性良く行うことが可能となる。
【0041】
本発明の実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったもの、または、工程の追加、省略もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0042】
上述した各実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0043】
100:評価装置、102:チャンバー、104:電子銃、106:アノード、108:集束レンズ、110:集束レンズ、112:走査コイル、114:対物レンズ、116:サンプルステージ、118:検出器、119a:回転機構、119b:回転機構、120:制御装置、121:減圧装置、122:制御部、124:メモリ部、126:入力部、128:表示部、130:出力部、132:送受信部、140:SEM像、140-1:SEM像、140-2:SEM像、142:シルエット、142-1:シルエット、142-2:シルエット、144:投影空間、144-1:投影空間、144-2:投影空間、200:試料、202:金属粒子、204:連結金属粒子、206:金属粒子、208:金属粒子、210:仮想真球、212:投影図、214:仮想円、220:連結金属粒子
図1
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図9