(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】基板載置方法、成膜方法、成膜装置、有機ELパネルの製造システム
(51)【国際特許分類】
C23C 14/50 20060101AFI20221107BHJP
C23C 14/04 20060101ALI20221107BHJP
H01L 51/50 20060101ALI20221107BHJP
H05B 33/10 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
C23C14/50 F
C23C14/04 A
H05B33/14 A
H05B33/10
(21)【出願番号】P 2018234924
(22)【出願日】2018-12-14
【審査請求日】2021-11-08
(73)【特許権者】
【識別番号】591065413
【氏名又は名称】キヤノントッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003133
【氏名又は名称】弁理士法人近島国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100158388
【氏名又は名称】鱸 英俊
(72)【発明者】
【氏名】高津 和正
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-197363(JP,A)
【文献】国際公開第2017/222009(WO,A1)
【文献】特開2018-198232(JP,A)
【文献】特開2018-003151(JP,A)
【文献】特開2006-012597(JP,A)
【文献】特開2016-134444(JP,A)
【文献】特開2012-092397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/50
C23C 14/04
H01L 51/50
H05B 33/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一辺に沿って基板を支持する第一基板支持部と、
前記一辺と対向する第二辺に沿って前記基板を支持する第二基板支持部と、
前記基板を前記第一基板支持部に向けて押圧可能な第一押圧部と、
前記基板を前記第二基板支持部に向けて押圧可能な第二押圧部と、
を備えた基板支持部を用いて前記基板を移動させ、前記基板をマスクの上に載置する基板載置方法であって、
第一基板支持部と第二基板支持部に支持された前記基板を前記第一押圧部と前記第二押圧部で押圧しながら、前記基板の少なくとも一部が前記マスクと接する第一の高さに前記基板を移動して、前記基板に設けられたアライメントマークと前記マスクに設けられたアライメントマークを撮像して前記基板と前記マスクの相対位置情報を取得し、前記基板と前記マスクの位置ずれ量を計測する計測工程と、
前記計測工程で計測した前記位置ずれ量が所定の閾値を超える場合に、前記マスクと接しない第二の高さに前記基板を移動して、前記計測工程で取得した相対位置情報に基づき、前記基板と前記マスクの位置ずれ量が減少するように前記基板を移動させるアライメント工程と、
前記計測工程で計測した前記位置ずれ量が所定の閾値以下の場合に、前記マスクと接しない第三の高さに前記基板を移動させ、さらに前記第二基板支持部に対して前記第一基板支持部が位置する方向に沿って前記基板支持部を水平移動させるオフセット動作工程と、
前記オフセット動作工程の後、前記第二押圧部の押圧力が前記第一押圧部の押圧力よりも小さくなるよう前記第二押圧部の押圧力を変更する押圧変更工程と、
前記第二押圧部の押圧力を前記第一押圧部の押圧力よりも小さくしたまま、前記基板を降下させて前記基板を前記マスクの上に載置する載置工程と、
を有する、
ことを特徴とする基板載置方法。
【請求項2】
前記押圧変更工程において、前記基板が前記第三の高さと前記第一の高さの間に位置するときに、前記第二押圧部の押圧力を変更する、
ことを特徴とする請求項1に記載の基板載置方法。
【請求項3】
前記載置工程において、前記基板の前記一辺は前記第一基板支持部に対して固定されているが、前記基板を降下させるにつれ前記第二辺は前記第二基板支持部に対して平面視でずれてゆく、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の基板載置方法。
【請求項4】
前記オフセット動作工程において、前記基板を水平移動させる距離は、前記載置工程において前記第二辺が前記第二基板支持部に対して平面視でずれる距離の0.4倍以上で0.6倍以下である、
ことを特徴とする請求項3に記載の基板載置方法。
【請求項5】
前記押圧変更工程において、前記第二押圧部を前記基板から離間させ、前記第二押圧部の押圧力をゼロにする、
ことを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に基板載置方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項の基板載置方法により前記基板を前記マスクに載置した後に、前記基板に成膜する、
ことを特徴とする成膜方法。
【請求項7】
基板の一辺に沿って基板を支持する第一基板支持部と、前記一辺と対向する第二辺に沿って前記基板を支持する第二基板支持部と、前記基板を前記第一基板支持部に向けて押圧可能な第一押圧部と、前記基板を前記第二基板支持部に向けて押圧可能な第二押圧部と、マスクと、撮像装置と、成膜源と、制御部と、を備え、
前記制御部は、
第一基板支持部と第二基板支持部に支持された前記基板を前記第一押圧部と前記第二押圧部に押圧させながら、前記基板の少なくとも一部が前記マスクと接する第一の高さに前記基板を移動させて、前記基板に設けられたアライメントマークと前記マスクに設けられたアライメントマークを前記撮像装置に撮像させて前記基板と前記マスクの相対位置情報を取得し、前記基板と前記マスクの位置ずれ量を計測する計測処理と、
前記計測処理で計測した前記位置ずれ量が所定の閾値を超える場合に、前記マスクと接しない第二の高さに前記基板を移動させて、前記計測処理で取得した相対位置情報に基づき、前記基板と前記マスクの位置ずれ量が減少するように前記基板を移動させるアライメント処理と、
前記計測処理で計測した前記位置ずれ量が所定の閾値以下の場合に、前記マスクと接しない第三の高さに前記基板を移動させ、さらに前記第二基板支持部に対して前記第一基板支持部が位置する方向に前記基板支持部を水平移動させるオフセット動作処理と、
前記オフセット動作処理の後、前記第二押圧部の押圧力が前記第一押圧部の押圧力よりも小さくなるよう前記第二押圧部の押圧力を変更する押圧変更処理と、
前記第二押圧部の押圧力を前記第一押圧部の押圧力よりも小さくしたまま、前記基板を降下させて前記基板を前記マスクの上に載置する載置処理と、
前記載置処理の後、前記成膜源から前記基板に成膜材料を飛翔させて成膜する成膜処理と、を実行する、
ことを特徴とする成膜装置。
【請求項8】
前記押圧変更処理において、前記基板が前記第三の高さと前記第一の高さの間に位置するときに、前記第二押圧部の押圧力を変更する、
ことを特徴とする請求項7に記載の成膜装置。
【請求項9】
前記載置処理において、前記基板の前記一辺は前記第一基板支持部に対して固定されているが、前記基板を降下させるにつれ前記第二辺は前記第二基板支持部に対して平面視でずれてゆく、
ことを特徴とする請求項7または8に記載の成膜装置。
【請求項10】
前記オフセット動作処理において、前記基板を水平移動させる距離は、前記載置処理において前記第二辺が前記第二基板支持部に対して平面視でずれる距離の0.4倍以上で0.6倍以下である、
ことを特徴とする請求項9に記載の成膜装置。
【請求項11】
前記押圧変更処理において、前記第二押圧部を前記基板から離間させ、前記第二押圧部の押圧力をゼロにする、
ことを特徴とする請求項7ないし10のいずれか1項に成膜装置。
【請求項12】
請求項7ないし11のいずれか1項に記載の成膜装置を複数備え、
少なくとも一台の前記成膜装置は、前記成膜処理において前記成膜源から前記基板に有機材料を蒸着する、
ことを特徴とする有機ELパネルの製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板をマスクに載置する基板載置方法、成膜方法、成膜装置、有機ELパネルの製造システムに関する。特に、基板とマスクの相対位置をアライメントした後に基板をマスク上に載置する際、位置ずれが生じるのを抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自発光型で、視野角、コントラスト、応答速度に優れた有機EL素子は、壁掛けテレビやモバイル機器をはじめとする種々の機器の表示部に盛んに応用されている。
有機EL素子の製造は、減圧されたチャンバ内に基板を搬入し、基板とマスクを高精度にアライメント(位置合わせ)し、所定パターンの有機膜をマスク開口越しに基板上に成膜する方法で行われることが多い。また、有機EL素子以外の電子デバイスの製造においても、基板とマスクを高精度にアライメントしてマスク越しに基板上に成膜することが行われている。
【0003】
一方、有機EL素子をはじめとする電子デバイスの製造には、大面積で厚みが小さなガラス基板が用いられるようになってきているが、このような基板を周辺部で支持すると、基板は自重により中央部が撓むように変形する。周辺部を支持されて撓んだ基板がマスクとは摺動しない高さでアライメントされ、その後に基板をマスクに載置して密着させようとすると、撓んでいた基板が平坦なマスクに倣う際に移動あるいは変形し、アライメントした位置関係からずれてしまう。すなわち、不特定な方向に基板が移動したり、基板の主面に反りや波打ちのような変形が生じてしまったりする。支持する位置の微妙な差により基板の撓み方は変化するため、アライメント後に基板をマスクに載置する際に発生する基板の移動や変形は一定せず、高精度な位置あわせが困難であった。
【0004】
そこで、特許文献1には、基板を挟持する挟持具のうち、一部の挟持具の挟力を他の挟持具とは独立して可変にする基板載置装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された基板載置装置は、一部の挟持具の挟力を他の挟持具の挟力よりも小さくすることにより、基板に生じた撓みを挟力が小さな挟持具の方向に逃がしながら、基板をマスクの上に載置することが可能である。この方法によれば、マスク上に載置した後に反りや波打ちのような変形が基板に残留するのを低減でき、しかも挟力が大きな挟持具で基板の片側を拘束しているため、基板全体が不測の方向に移動してしまうのを防止することができる。
【0007】
もっとも、この方法では、挟力が小さな挟持具の方向に基板の撓みを逃がす過程で、挟力が大きな挟持具の位置を固定点として、あたかも挟力の小さな挟持具の方向に基板が伸びるかのように平面視で基板が変形する。つまり、アライメントした際の相対位置関係に対して、挟力が大きな挟持具の近傍では位置ずれは殆ど生じないが、基板の撓みを解消するための変形が累積する挟力が小さな挟持具の近傍では、相対的に大きな位置ずれが発生する。マスクに対する位置ずれの大きさが基板内の場所によって異なると、位置ずれが小さな領域と大きな領域とでは、製造した電子デバイスの特性が不均一になる可能性があり得る。そのため、再度アライメントをやり直す必要が生じる可能性もあり得る。
【0008】
そこで、基板とマスクの相対位置をアライメントした後、基板をマスクに載置する際に、基板に反りや波打ちのような変形が残るのを抑制できるだけではなく、基板とマスクの位置ずれに偏在が生じるのを抑制できる基板載置方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、基板の一辺に沿って基板を支持する第一基板支持部と、前記一辺と対向する第二辺に沿って前記基板を支持する第二基板支持部と、前記基板を前記第一基板支持部に向けて押圧可能な第一押圧部と、前記基板を前記第二基板支持部に向けて押圧可能な第二押圧部と、を備えた基板支持部を用いて前記基板を移動させ、前記基板をマスクの上に載置する基板載置方法であって、第一基板支持部と第二基板支持部に支持された前記基板を前記第一押圧部と前記第二押圧部で押圧しながら、前記基板の少なくとも一部が前記マスクと接する第一の高さに前記基板を移動して、前記基板に設けられたアライメントマークと前記マスクに設けられたアライメントマークを撮像して前記基板と前記マスクの相対位置情報を取得し、前記基板と前記マスクの位置ずれ量を計測する計測工程と、前記計測工程で計測した前記位置ずれ量が所定の閾値を超える場合に、前記マスクと接しない第二の高さに前記基板を移動して、前記計測工程で取得した相対位置情報に基づき、前記基板と前記マスクの位置ずれ量が減少するように前記基板を移動させるアライメント工程と、前記計測工程で計測した前記位置ずれ量が所定の閾値以下の場合に、前記マスクと接しない第三の高さに前記基板を移動させ、さらに前記第二基板支持部に対して前記第一基板支持部が位置する方向に沿って前記基板支持部を水平移動させるオフセット動作工程と、前記オフセット動作工程の後、前記第二押圧部の押圧力が前記第一押圧部の押圧力よりも小さくなるよう前記第二押圧部の押圧力を変更する押圧変更工程と、前記第二押圧部の押圧力を前記第一押圧部の押圧力よりも小さくしたまま、前記基板を降下させて前記基板を前記マスクの上に載置する載置工程と、を有する、ことを特徴とする基板載置方法である。
【0010】
また、本発明は、基板の一辺に沿って基板を支持する第一基板支持部と、前記一辺と対向する第二辺に沿って前記基板を支持する第二基板支持部と、前記基板を前記第一基板支持部に向けて押圧可能な第一押圧部と、前記基板を前記第二基板支持部に向けて押圧可能な第二押圧部と、マスクと、撮像装置と、成膜源と、制御部と、を備え、前記制御部は、第一基板支持部と第二基板支持部に支持された前記基板を前記第一押圧部と前記第二押圧部に押圧させながら、前記基板の少なくとも一部が前記マスクと接する第一の高さに前記基板を移動させて、前記基板に設けられたアライメントマークと前記マスクに設けられたアライメントマークを前記撮像装置に撮像させて前記基板と前記マスクの相対位置情報を取得し、前記基板と前記マスクの位置ずれ量を計測する計測処理と、前記計測処理で計測した前記位置ずれ量が所定の閾値を超える場合に、前記マスクと接しない第二の高さに前記基板を移動させて、前記計測処理で取得した相対位置情報に基づき、前記基板と前記マスクの位置ずれ量が減少するように前記基板を移動させるアライメント処理と、前記計測処理で計測した前記位置ずれ量が所定の閾値以下の場合に、前記マスクと接しない第三の高さに前記基板を移動させ、さらに前記第二基板支持部に対して前記第一基板支持部が位置する方向に前記基板支持部を水平移動させるオフセット動作処理と、前記オフセット動作処理の後、前記第二押圧部の押圧力が前記第一押圧部の押圧力よりも小さくなるよう前記第二押圧部の押圧力を変更する押圧変更処理と、前記第二押圧部の押圧力を前記第一押圧部の押圧力よりも小さくしたまま、前記基板を降下させて前記基板を前記マスクの上に載置する載置処理と、前記載置処理の後、前記成膜源から前記基板に成膜材料を飛翔させて成膜する成膜処理と、を実行する、ことを特徴とする成膜装置である。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、基板とマスクの相対位置をアライメントした後、基板をマスクに載置する際に、基板に反りや波打ちのような変形が残るのを抑制できるだけではなく、基板とマスクの位置ずれに偏在が生じるのを抑制できる基板載置方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図5】(a)基板が受け爪にアンクランプ状態で載置された状態を示す図。(b)基板が受け爪とクランプに挟持されたクランプ状態を示す図。
【
図6】(a)基板が基板保持部に保持された状態を示す平面図。(b)マスクの平面図。(c)撮像装置の視野内のマスクマークと基板マークを示す模式図。
【
図7】実施形態の基板載置方法の各工程を示すフローチャート。
【
図8】(a)ステップS101における基板とマスクの状態を示す側面図。(b)ステップS102における基板とマスクの状態を示す側面図。
【
図9】(a)ステップS103における基板とマスクの状態を示す側面図。(b)ステップS105における基板とマスクの状態を示す側面図。
【
図10】(a)ステップS106における基板とマスクの状態を示す側面図。(b)ステップS109における基板とマスクの状態を示す側面図。
【
図11】(a)ステップS110における基板とマスクの状態を示す側面図。(b)ステップS112における基板とマスクの状態を示す側面図。
【
図12】(a)ステップS113における基板とマスクの状態を示す側面図。(b)ステップS114における基板とマスクの状態を示す側面図。
【
図13】実施形態の有機ELパネルの製造システムの模式的な構成図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態である基板載置方法、成膜方法、成膜装置、有機ELパネルの製造システム等について、図面を参照して説明する。尚、以下の説明で参照する複数の図面では、特に但し書きがない限り、同一の機能の構成要素については同一の番号を付して示ものとする。また、同一図面内に同一もしくは対応する部材を複数有する場合には、図面中にa、bなどの添え字を付与して示しているが、説明文において区別する必要がない場合には、a、bなどの添え字を省略して記述する場合がある。
【0014】
[実施形態1]
(成膜装置の構成)
図1は、実施形態の成膜装置の一例である蒸着装置の全体構成を示すための模式的な断面図である。
成膜装置は、成膜チャンバ4、基板5を成膜チャンバ4内に搬入/搬出するためのゲートバルブ15、基板5およびマスク6aを保持して相対位置合わせを行うアライメント装置1、成膜材料を収納した成膜源(蒸着源)7を備えている。成膜チャンバ4の内部には、成膜源(蒸着源)7から成膜材料を基板5に向けて飛翔させるための減圧された成膜空間2が形成されている。
【0015】
アライメント装置1は、成膜チャンバ4の上部隔壁(天板)3の上に搭載されており、基板保持部8と、マスク保持部9と、基板保持部8の位置を調整する位置決め機構と、を有している。位置決め機構は、X方向、Y方向、θz方向(Z軸を中心軸とする回転方向)に駆動する回転並進機構11と、Z昇降ベース13と、Z昇降ベース13の側面に固定されるZガイド18に沿って移動するZ昇降スライダ10を含んでいる。位置決め機構は、成膜チャンバ4の外側に設けられている。可動部を多く含む位置決め機構を成膜空間の外に配置することで、成膜空間内の発塵を抑制することができる。
【0016】
Z昇降スライダ10には、基板保持シャフト12が固定されている。基板保持シャフト12は、成膜チャンバ4の上部隔壁3に設けられた貫通穴16を通って、成膜チャンバ4の外部と内部にわたって設けられている。そして、成膜空間2において、基板保持シャフト12の下部に基板保持部8が設けられ、被成膜物である基板5を保持することが可能となっている。
【0017】
基板保持シャフト12と上部隔壁3とが干渉することのないよう、貫通穴16は基板保持シャフト12の外径に対して十分に大きく設計される。また、基板保持シャフト12は、貫通穴16を通り、成膜チャンバ4の外側のZ昇降スライダ10に固定されるまでの間、Z昇降スライダ10と上部隔壁3とに固定されたベローズ40によって覆われる。つまり、基板保持シャフト12は、成膜チャンバ4と連通する閉じられた空間によって覆われるため、基板保持シャフト12全体を成膜空間2と同じ状態(例えば、真空状態)に保つことができる。ベローズ40には、Z方向およびXY方向にも柔軟性を持つものを用いるとよい。アライメント装置1の稼働によってベローズ40が変位した際に発生する抵抗力を十分に小さくすることができ、位置調整時の負荷を低減することができる。
【0018】
マスク保持部9は、成膜チャンバ4の内部において、上部隔壁3の成膜空間側の面に設置されており、マスクを保持することが可能となっている。有機ELパネルの製造に用いられるマスクは、成膜パターンに応じた開口を有する箔状のマスク6aが高剛性のマスク枠6bに架張された状態で固定された構成を有しているため、マスク保持部9はマスク6aの撓みを低減した状態で保持することができる。
【0019】
尚、
図1の成膜装置は、マスク保持部9は成膜チャンバ4に固定され、基板保持部8のみが可動であるが、実施形態の成膜装置はこの構成に限られるわけではなく、たとえば基板保持部8とマスク保持部9の両方を駆動可能に構成してもよい。
【0020】
アライメント装置1、基板保持部8、成膜源(蒸着源)7の一連の動作は、制御部50によって制御される。制御部50は、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージ、I/Oなどを有するコンピュータにより構成可能である。この場合、制御部50の機能は、メモリ又はストレージに記憶されたプログラムをプロセッサが実行することにより実現される。コンピュータとしては、汎用のパーソナルコンピュータを用いてもよいし、組込型のコンピュータ又はPLC(programmable logic controller)を用いてもよい。あるいは、制御部50の機能の一部又は全部をASICやFPGAのような回路で構成してもよい。なお、成膜装置ごとに制御部50が設けられていてもよいし、1つの制御部50が複数の成膜装置を制御してもよい。
次にアライメント装置1の位置決め機構の詳細について、
図2を参照して説明する。
【0021】
図2は、アライメント機構の一形態を示す斜視図である。Z昇降スライダ10を鉛直Z方向に案内するガイドは、複数本のZガイド18a~18dを含んでおり、Z昇降ベース13の側面に固定されている。Z昇降スライダ中央には駆動力を伝達するためのボールネジ20が配設され、Z昇降ベース13に固定されたモータ19から伝達される動力が、ボールネジ20を介してZ昇降スライダ10に伝えられる。
【0022】
モータ19は不図示の回転エンコーダを内蔵しており、エンコーダの回転数により間接的にZ昇降スライダ10のZ方向位置を計測することが可能となっている。モータ19の駆動を外部コントローラで制御することにより、Z昇降スライダ10のZ方向の精密な位置決めが可能となっている。なお、Z昇降スライダ10の昇降機構は、ボールネジ20と回転エンコーダに限定されるものではなく、リニアモータとリニアエンコーダの組み合わせなど、任意の機構を採用することができる。
【0023】
図3は、アライメント装置1の回転並進機構11の一形態を示す斜視図である。アライメント装置1では、Z昇降スライダ10およびZ昇降ベース13が回転並進機構11の上に配設されており、Z昇降ベース13とZ昇降スライダ10の全体を、回転並進機構11によってX、Y、θzの各方向に駆動させることが可能となっている。
【0024】
回転並進機構11は複数の駆動ユニット21a~21dを有している。
図3の構成では、駆動ユニット21a~21dは、それぞれベースの四隅に配置されており、隣接する隅に配置された駆動ユニットをZ軸周りに90度回転させた向きに配置されている。
各駆動ユニット21は、駆動力を発生させるモータ41を備えている。さらに、モータ41の力がボールネジ42を介して伝達されることにより第1の方向にスライドする第1のガイド22と、XY平面において第1の方向と直交する第2の方向にスライドする第2のガイド23とを備えている。さらに、Z軸周りに回転可能な回転ベアリング24を備えている。例えば、駆動ユニット21cの場合は、X方向にスライドする第1のガイド22、X方向と直交するY方向にスライドする第2のガイド23、回転ベアリング24を有しており、モータ41の力がボールネジ42を介して第1のガイド22に伝達される。
【0025】
モータ41は不図示の回転エンコーダを内蔵しており、第1のガイド22の変位量を計測可能である。各駆動ユニット21において、モータ41の駆動を制御部50で制御することにより、Z昇降ベース13のX、Y、θzの各方向における位置を精密に制御することが可能となっている。
例えば、Z昇降ベース13を+X方向へ移動させる場合は、駆動ユニット21bと21cのそれぞれにおいて+X方向にスライドさせる力をモータ41で発生させ、Z昇降ベース13にその力を伝えるとよい。また、+Y方向へ移動させる場合には、駆動ユニット21aと21dのそれぞれにおいて+Y方向にスライドさせる力をモータ41で発生させ、Z昇降ベース13にその力を伝えるとよい。
Z昇降ベース13を+θ回転(時計周りにθz回転)させる場合は、対角に配置された駆動ユニット21cと21bとを用いて、Z軸周りに+θz回転させるために必要な力を発生させ、Z昇降ベース13にその力を伝えるとよい。あるいは、駆動ユニット21aと21dとを用いて、Z昇降ベース13に回転に必要な力を伝えてもよい。
【0026】
次に、本発明にかかる基板保持部8の詳細な構成について、
図4および
図5を用いて説明する。
図4は矩形の基板5を互いに対向する2辺(ここでは長辺)にそって保持した状態の基板保持部8全体を、アライメント装置1側から見た斜視図である。
図5(a)、
図5(b)は、基板保持部8の、基板を保持する部分を拡大した側面図であり、
図5(a)は基板を載置しただけの状態で保持している状態を、
図5(b)は基板の両側を挟持した状態で保持している状態を示している。尚、
図5(a)および
図5(b)では、基板5には自重による撓みが生じていないように見えるが、単に図示の便宜のためであり、実際には両端で支持された基板は自重等の影響により変形している。
【0027】
図4に示すように、基板保持部8は、基板保持シャフト12aと基板保持シャフト12bの下部に固定された保持ベース25aと、基板保持シャフト12cと基板保持シャフト12dの下部に固定された保持ベース25bとを備えている。保持ベース25aは、基板保持シャフト12aと基板保持シャフト12bにより、保持ベース25bは基板保持シャフト12cと基板保持シャフト12dにより、位置が制御される。また、保持ベース25a、保持ベース25bは、基板の長辺と同等の長さを有する板状部材で、基板の長辺に沿って複数の受け爪26が設けられている。さらに、基板保持部8は、受け爪26と対向して、駆動シャフト34を介して位置が制御される複数のクランプ27を有している。複数の受け爪26に対する複数のクランプ27の位置を制御して、基板5の互いに対向する2辺の縁部(端部)を挟み込んで挟持すれば、基板の位置を固定できる。
【0028】
なお、
図1に示すように、マスク枠6bには、基板5をマスク6aに載置させる際に受け爪26との干渉を回避するための複数の溝が掘られている。溝と受け爪26とのクリアランスを数mm程度設定しておけば、基板5の載置後に受け爪26がさらに下降しても、マスク枠6bと受け爪26が互いに衝突するのを避けることができる。
【0029】
保持ベース25の位置を制御するための基板保持シャフト12a~基板保持シャフト12dは、一括して制御してもよい。あるいは、基板保持シャフト12aと基板保持シャフト12bのグループと、基板保持シャフト12cと基板保持シャフト12dのグループに分けて、別々に制御される構成となっていてもよい。クランプ27は、それぞれが個別に設けられた駆動機構によって上下に駆動されてもよいが、ここでは保持ベース25ごとに複数のクランプ27を1つのユニットとし、ユニットごとに駆動機構で駆動する場合について説明する。複数のクランプ27を含むクランプユニット28はクランプスライダ32に固定されており、基板保持部8の保持ベース25と保持部上板35の間に配設されたリニアブッシュ39によって、クランプスライダ32がZ方向にガイドされる。クランプスライダ32は、上部隔壁3を貫通する駆動シャフト34を介してZ昇降スライダ10に固定される。クランプスライダ32は駆動シャフト34を介して電動シリンダ36から発生する力によってZ方向に駆動が可能となっている。
【0030】
クランプ27の下降が下端に達すると、クランプ27は受け爪26上に載置された基板5の表面に当接し、受け爪26の挟持面とクランプ27の挟持面との間で基板5を固定した、
図5(b)の状態となる。クランプ27によって一定の荷重を付加して基板5を保持するため、クランプ27の上部には保持力(荷重)を発生させるためのバネ29が配設される。なおクランプ27とバネ29の間にはロッド31が存在し、クランプ27はZ方向に案内される。バネ29は荷重調整ネジ30によってギャップLを変えることで全長を調整することができる。従って、バネ29の押し込み量によって、ロッド31を介してクランプ27に発生する押し込み力(基板への押圧力)も自在に調整可能である。
【0031】
次に、基板5とマスク6aとの位置、すなわち、それぞれのアライメントマークの位置を同時に計測するための撮像装置について説明する。
図1において上部隔壁3の外側の面には、マスク6上のアライメントマーク(マスクマーク)および基板5上のアライメントマーク(基板マーク)の位置を取得するための位置取得手段である撮像装置14が配設されている。上部隔壁3には、撮像装置14により成膜チャンバ4の内部に配置されたアライメントマークの位置を計測できるよう、カメラ光軸上に貫通穴および窓ガラス17が設けてある。さらに、撮像装置14の内部または近傍に不図示の照明を設け、基板およびマスクのアライメントマーク近傍に光を照射することで、正確なマーク像の計測を可能としている。
図6(a)~
図6(c)を参照して、撮像装置14を用いて基板マーク37とマスクマーク38の位置を計測する方法を説明する。
【0032】
図6(a)は、基板保持部8に保持されている状態の基板5を上から見た図である。基板5上には撮像装置14で計測可能な基板マーク37a~基板マーク37dが基板の4隅に形成されている。この基板マーク37a~基板マーク37dを4つの撮像装置14によって同時計測し、各基板マークの中心位置である4点の位置関係から基板5の並進量、回転量を算出することにより、基板の位置情報を取得することができる。
【0033】
図6(b)は、マスク6を上面から見た図である。箔状のマスク6aの四隅には撮像装置で計測可能なマスクマーク38a~マスクマーク38dが形成されている。このマスクマーク38a~マスクマーク38dを4つの撮像装置14a~撮像装置14dにより同時計測し、各マスクマークの中心位置である4点の位置関係からマスク6の並進量、回転量などを算出して、マスクの位置情報を取得することができる。
【0034】
図6(c)は、マスクマーク38および基板マーク37の4つの組の中の1組を、撮像装置14によって計測した際の視野43を模式的に示した図である。この例では、撮像装置14の視野43内において、基板マーク37とマスクマーク38を同時に計測することが可能なので、マーク中心同士の相対的な位置を測定することが可能である。マーク中心座標は、撮像装置14の計測によって得られた画像に基づいて、不図示の画像処理装置を用いて求めることができる。なお、マスクマーク38および基板マーク37として□や○を示したが、マークの形状はこれに限られるわけではなく、例えば×や十字などのように中心位置を算出しやすく対象性を有する形状を用いることができる。
【0035】
精度の高いアライメントが求められる場合、撮像装置14として数μmのオーダーの高解像度を有する高倍率CCDカメラが用いられる。このような高倍率CCDカメラは、視野の径が数mmと狭いため、基板5を受け爪26に載置した際の位置ずれが大きいと、基板マーク37が視野から外れてしまい、計測不可能となる。そこで、撮像装置14として、高倍率CCDカメラと併せて広い視野をもつ低倍率CCDカメラを併設するのが好ましい。マスクマーク38と基板マーク37が同時に高倍率CCDカメラの視野に収まるよう、低倍率CCDカメラを用いて大まかなアライメントを行った後、高倍率CCDカメラを用いて高い精度でマスクマーク38と基板マーク37の位置計測を行うことができる。
【0036】
尚、撮像装置はCCDカメラに限られるわけではなく、例えばCMOSセンサを撮像素子として備えるデジタルカメラでもよい。また、高倍率カメラと低倍率カメラを別個に併設しなくとも、高倍率レンズと低倍率レンズを交換可能なカメラや、ズームレンズを用いることにより、単一のカメラで高倍率と低倍率の計測を可能にしてもよい。
【0037】
撮像装置14によって取得したマスク6の位置情報および基板5の位置情報から、マスク6と基板5との相対位置情報を取得することができる。この相対位置情報を、アライメント装置の制御部50にフィードバックし、昇降スライダ10、回転並進機構11、基板保持部8それぞれの駆動量を制御する。撮像装置14として高倍率CCDカメラを用いることにより、マスク6と基板5の相対位置を誤差数μm内の精度で調整することができる。
【0038】
(基板載置方法)
以下では、基板を基板保持部にセットし、基板とマスクとをアライメント(位置あわせ)し、基板をマスク上に載置するまでの成膜装置の一連の動作を説明する。
図7は、実施形態の成膜装置の動作シーケンスを示すフローチャートである。また、
図8~
図12は、
図7のフローチャートの各ステップにおける基板とマスクの状態を示すための模式図である。
【0039】
まず、ステップS101では、
図1に示すゲートバルブ15から、不図示のロボットハンドに搭載された基板5が成膜チャンバ4内に搬入される。そして、
図8(a)に示すように、基板5は基板保持部の両側の受け爪26上に載置された状態となる。第一基板支持部としての受け爪26aは基板の一辺に沿って支持し、第二基板支持部としての受け爪26bは前記一辺と対向する第二辺に沿って基板を支持する。
この工程では、ロボットハンドの動作スペースを十分に確保するために、受け爪26の上面とマスク6aとを隔てる距離(H1)を十分に大きく設定している。受け爪26上に載置された基板5は、自重により撓むが、H1を大きく設定しているため、基板5がマスク6aと接することはない。(D1>0)。
【0040】
次に、ステップS102では、
図8(b)に示すように、受け爪26と対向して配置されたクランプ27を駆動して、基板5をクランプ(挟持)する。具体的には、
図4に示した電動シリンダ36から発生する力が駆動シャフト34を介してクランプスライダ32に伝えられ、クランプスライダ32がZ方向に駆動する。すると、クランプスライダ32に取り付けられたクランプユニット28が下降して基板5に接触し、受け爪26との間に基板5を挟み込んでクランプする。クランプ27aは、基板を第一基板支持部である受け爪26aに向けて押圧可能な第一押圧部であり、クランプ27bは、基板を第二基板支持部である受け爪26bに向けて押圧可能な第二押圧部である。
【0041】
次に、ステップS103では、
図9(a)に示すように基板5を下降させ、低倍率CCDカメラで撮像する高さにセットする。すなわち、受け爪26を下降させ、受け爪26の上面とマスク6aの距離を、より小さなH2に変更する。(H1>H2)。この位置は、自重により撓んだ基板5がマスク6aと接触しない高さに設定する。(D1>D2>0)。
【0042】
次に、ステップS104では、低倍率CCDカメラで基板5に設けられた基板マーク37を撮像する。制御部50は、撮像された画像に基づき基板5の位置情報を取得する。
【0043】
ステップS104に続いて実行されるステップS105では、
図9(b)に示す位置まで基板5を下降させ、アライメント動作高さ(第二の高さ)にセットし、ステップS104で取得した位置情報に基づいて基板5の位置を調整する。
基板5の高さについて言えば、受け爪26の上面とマスク6aとを隔てる距離を、ステップS104の時より小さなH3に変更する。(H2>H3)。この時、受け爪26の位置は、自重により撓んだ基板5がマスク6aと接触しない高さに設定する。(D1>D2>D3>0)。
尚、場合によっては、ステップS105とステップS104を同じ高さで実行してもよく、その場合にはH2=H3、D2=D3>0とする。
【0044】
ステップS104に続いて実行されるアライメント動作では、制御部50は、ステップS104で取得した基板5の位置情報に基づいて、アライメント装置1が備える位置決め機構を駆動する。すなわち、制御部50は、基板5の基板マーク37が高倍率CCDカメラの視野内に入るように、基板5の位置を調整する。マスク6aと高倍率CCDカメラの相対位置は、マスクマーク38が高倍率CCDカメラの視野内(望ましくは視野中心)に入るように予め調整されている。このため、ステップS104に続いて実行されるステップS105のアライメント動作により、基板マーク37とマスクマーク38の両方が高倍率CCDカメラの視野内に入るように調整されることになる。尚、アライメント動作では、基板5をX、Y、θzの各方向に移動させるが、前述のように自重により撓んだ基板5がマスク6aと接触しない高さで移動させるため、基板5の表面、あるいは、すでに形成された膜パターンがマスクと摺動して破損することはない。
【0045】
次に、ステップS106では、
図10(a)に示すように基板5を下降させ、高倍率CCDカメラで撮像する高さに基板5をセットする。すなわち、クランプ27aとクランプ27bで基板を押圧しながら受け爪26を下降させ、受け爪26の上面とマスク6aの距離を、より小さなH4(第一の高さ)に変更する。(H3>H4)。
被写界深度が浅い高倍率CCDカメラを用いて、基板マーク37とマスクマーク38の両方に合焦させて撮影するため、基板5の少なくとも一部(撓んだ部分)がマスク6aに接するまで基板5をマスク6aに近接させる。
【0046】
次に、ステップS107では、高倍率CCDカメラによって基板5の基板マーク37とマスク6aのマスクマーク38とを同時に撮像する。制御部50は、撮像された画像に基づき基板5とマスク6の相対位置情報を取得する。ここでいう相対位置情報とは、具体的には、基板マーク37とマスクマーク38の中心位置どうしの距離と位置ずれの方向に関する情報である。ステップS107は、基板とマスクの相対位置情報を取得し、基板とマスクの位置ずれ量を計測する計測工程(計測処理)である。
【0047】
次に、ステップS108では、制御部50はステップS107で計測した基板5とマスク6の位置ずれ量が所定の閾値以下かどうかを判定する。所定の閾値は、その閾値内であればステップS109からステップS114までを実行した時に、基板5とマスク6の位置ずれ量が成膜を行っても支障ない範囲内に収まる条件として、予め設定しておく。閾値は、求められる基板5とマスク6の位置あわせ精度を達成し得るよう、誤差数μm内のオーダーで設定される。
【0048】
ステップS108において、基板5とマスク6aの位置ずれ量が所定の閾値を越えると判定した場合には(ステップS108:NO)、ステップS105に戻ってアライメント動作を実行し、さらにステップS106以降の処理を続行する。
【0049】
ステップS108の判定がNOの場合に実行されるステップS105では、
図9(b)に示す位置まで基板5を上昇させ、アライメント動作高さ(第二の高さ)にセットし、ステップS107で取得した相対位置情報に基づいて基板5の位置を調整する。
基板5の高さについて言えば、受け爪26の上面とマスク6aとを隔てる距離を、ステップS106の時より大きなH3に変更する。(H3>H4)。この時、受け爪26の位置は、自重により撓んだ基板5がマスク6aと接触しない高さに設定する。(D3>0)。
【0050】
ステップS108の判定がNOの場合に実行されるアライメント動作では、制御部50は、ステップS107で取得した基板5とマスク6の相対位置情報に基づいて、アライメント装置1が備える位置決め機構を駆動する。すなわち、制御部50は、基板5の基板マーク37とマスク6aのマスクマーク38とがより近接する位置関係になるように、基板5をX、Y、θzの各方向に移動させて位置を調整する。
アライメント動作では、基板5をX、Y、θzの各方向に移動させるが、前述のように自重により撓んだ基板5がマスク6aと接触しない高さでの移動であるため、基板5の表面、あるいは、すでに形成された膜パターンがマスクと摺動して破損することはない。
ステップS105は、基板とマスクの位置ずれ量が減少するように基板を移動させるアライメント工程(アライメント処理)である。
【0051】
ステップS108において、基板5とマスク6の位置ずれ量が所定の閾値以下であると判定した場合には(ステップS108:YES)、ステップS109に移り、
図10(b)に示すように基板5を第三の高さであるオフセット動作高さに上昇させる。
オフセット動作高さとは、後述するステップS110において基板5を水平移動させる時に、自重により撓んだ基板5がマスク6aと接しない高さである。制御部50は、受け爪26の上面とマスク6aとを隔てる距離を、ステップS106の高倍率CCDカメラで撮像する高さよりも大きなH5に変更する。(H5>H4)。この時、受け爪26の位置は、自重により撓んだ基板5がマスク6aと接触しない高さに設定する。(D4>0)。尚、H5を大きくしすぎると垂直方向の移動距離が大きくなり、オフセット動作後に基板5をマスク6aに密着させる際の位置ずれ要因となりえるので、オフセット動作高さは、ステップS103の低倍率CCDカメラで撮像する高さよりも小さくする。(H2>H5)。
【0052】
次に、ステップS110では、
図11(a)に示すように、アライメント装置1が備える位置決め機構を駆動して、基板5を水平方向に移動させるオフセット動作を行う。前述のように、ステップS109で基板5の高さを調整しているので、基板5を水平方向に移動させる際に、撓んだ基板5がマスク6aと接触して基板5の表面、あるいは、すでに形成された膜パターンがマスク6aと接触して破損することはない。
【0053】
オフセット動作における移動方向OSDは、受け爪で支持された基板5の一辺から、受け爪で支持された基板5の他の一辺に向かう方向である。基板を挟んで水平方向に対向配置された受け爪を基準に言えば、移動方向OSDは、一方の受け爪26bから他方の受け爪26aに向かう方向である。
オフセット動作におけるオフセット量、つまり
図11(a)に示す移動距離OS1は、
後に基板をマスクに載置する際に生ずる基板の変形を考慮して設定されている。
【0054】
本実施形態では、後述するように、一方のクランプ27bをアンクランプ状態、他方のクランプ27aをクランプ状態にし、基板5を降下させてマスク6a上に載置するが、撓んでいた基板はマスクと接触後にマスク平面に倣って平坦になるよう徐々に変形する。この時、基板5は、クランプ状態にあるクランプ27a側は固定され、アンクランプ状態にあるクランプ27b側は可動なので、クランプ27aと受け爪26aによる挟持位置を固定点としてクランプ27bの方向に伸びるかのように平面視で基板は変形する。
【0055】
撓みが平坦になる際のアンクランプ側への平面視での基板の伸び量をBPEとした時、オフセット動作の移動距離OS1は、基板の伸び量BPEの半分にするのがよい。(OS1=BPE/2)。
例えば、基板の伸び量BPEが40μmであるなら、オフセット動作の移動距離OS1は20μmとすればよい。
ただし、厳密に基板の伸び量BPEの半分の距離だけ移動させるのは困難な場合もあるので、載置工程において受け爪26b側の第二辺が受け爪26bに対して平面視でずれる距離の0.4倍以上で0.6倍以下の範囲で移動させるとよい。
【0056】
基板の伸び量BPEは、予めアライメント装置1を用いて実験を行い、高倍率CCDカメラ等を用いて計測して制御部50に記憶しておけばよい。あるいは、基板5の撓み量を計測し、それに基づいて伸び量BPEをシミュレーションで求め、制御部50に記憶しておく等の方法で求めてもよい。
【0057】
以上のように、ステップS110は、第二基板支持部である受け爪26bに対して第一基板支持部である受け爪26aが位置する方向(OSD)に沿って基板支持部を水平移動させるオフセット動作工程(オフセット動作処理)である。
オフセット動作を完了したら、ステップS111に移り、基板5を下降させてマスク6aに近接させてゆく。
【0058】
そして、ステップS112では、
図11(b)に示すように、受け爪26の上面とマスク6aとの距離がH6になった時に、オフセット動作時の移動方向OSDとは反対側に位置するクランプ27bをアンクランプ状態にし、基板5の片側の挟持を解除する。アンクランプ状態にする動作は、ステップS109におけるオフセット動作高さ(H5)と、ステップS106における高倍率CCDカメラで撮像する高さ(H4)の間の高さで行う。(H5>H6>H4)。好ましくは、下降中の基板5がマスク6aと接触する直前に、クランプ27bをアンクランプ状態にするがよい。
【0059】
ステップS112は、第二押圧部であるクランプ27bの押圧力が、第一押圧部であるクランプ27aの押圧力よりも小さくなるようクランプ27bの押圧力を変更する押圧変更工程(押圧変更処理)である。本実施形態では、押圧変更工程において、第二押圧部であるクランプ27bを基板から離間させ、クランプ27bの押圧力をゼロにしている。
【0060】
そして、基板を降下させてゆくと、
図12(a)に示すように、受け爪26aとクランプ27aにより片側だけを挟持された基板5は、マスク6aの上面に倣うために、クランプ27b側に向けて(図中のMOVの方向に)移動しながら撓みを解消させてゆく。アンクランプ側では基板5と受け爪26bは線接触に近い状態なので摩擦力は小さく、基板5は受け爪26bの上をずれ動くことになる。すなわち、クランプしているクランプユニット28a側では受け爪26a上で基板5は固定され、アンクランプ側(クランプユニット28b側)では、平面視で伸びるように基板が受け爪26bの上をずれ動いていく。
【0061】
ステップS110で説明したように、本実施形態では、撓みが平坦になる際のアンクランプ側への平面視での基板の伸び量BPEの約半分にあたるOS1だけ、基板5はクランプ27a側に予めオフセットされている。このため、撓みが平坦化される際に生じる平面視での基板5の伸びは、マスク6aを基準にすれば、クランプ27a側とクランプ27b側に約半分ずつ分配されることになる。したがって、本実施形態によれば、基板とマスクの位置ずれに偏在が生じるのを抑制することができる。
【0062】
さらに、ステップS113では、基板5とマスク6aのすき間がゼロ、すなわちH=0の位置まで降下させ、基板5をマスク6aの上に載置する。(載置工程、載置処理)。
【0063】
そして、ステップS114では、
図12(b)に示すように、クランプ27aもアンクランプ状態にし、受け爪26をマスク6の上面よりも低くなる位置まで下降させ、クランプによる挟持状態から基板5を開放する。基板5は、反りや波打ちのような変形を残留させることなくマスク6aの上面に載置される。
基板5のマスク6a上へ載置が完了すると、ステップS115では、高倍率CCDカメラで基板マーク37およびマスクマーク38を撮像し、基板5とマスク6との相対位置情報を取得する。
【0064】
次に、ステップS116では、制御部50はステップS115で取得した基板5とマスク6の相対位置情報に基づき、基板5とマスク6の位置ずれ量が所定の閾値以下かどうかを判定する。所定の閾値は、その閾値内であれば成膜を行っても支障ない範囲内である条件として、予め設定しておく。
ステップS116において、基板5とマスク6aの位置ずれ量が所定の閾値を越えると判定した場合には(ステップS116:NO)、ステップS117で受け爪26を基板5の高さに上昇させ、両側のクランプ27で基板を挟持する。尚、かかるNO判定は、例えばステップS109~ステップS114の間に、外部振動により位置ずれが発生した場合などに起こりえる。
【0065】
そして、ステップS105に戻ってアライメント動作を実行する。ステップS116の判定がNOの場合に実行されるステップS105では、
図9(b)に示す位置まで基板5を上昇させ、アライメント動作高さ(位置合せ動作高さ)にセットし、ステップS115で取得した相対位置情報に基づいて基板5の位置を調整する。
その後、ステップS106以降の処理を続行する。
【0066】
一方、ステップS116において、基板5とマスク6aの位置ずれ量が所定の閾値以下であると判定した場合には(ステップS116:YES)、アライメントシーケンスは完了する(END)。
成膜材料を収納した成膜源(蒸着源)7から成膜材料を基板5に向けて飛翔させてパターンを形成するのに適した位置に基板がセットされたことになるため、成膜源から基板に成膜材料を飛翔させて成膜する成膜処理を行う。(
図7では不図示)。
【0067】
本実施形態によれば、基板とマスクの相対位置をアライメントした後、基板をマスクに載置する際に、基板に反りや波打ちのような変形が残るのを抑制できるだけではなく、基板とマスクの位置ずれに偏在が生じるのを抑制することができる。
【0068】
[実施形態2]
実施形態1の変形例である実施形態2について説明する。実施形態2は、
図7に示すアライメントシーケンスのフローチャートのステップS112の動作が、実施形態1と異なる。
実施形態1のステップS112においては、
図11(b)に示したように、オフセット動作時の移動方向OSDとは反対側に位置するクランプ27bを、基板5から離間させて押圧ゼロのアンクランプ状態とした。
【0069】
これに対して実施形態2では、ステップS112において、クランプ27bを基板5から離間させて押圧をゼロにするのではなく、クランプ27aよりも小さな力で基板5を挟持するようにする。具体的には、
図5(b)に示したクランプユニット28bの構成部品である荷重調整ネジ30bを調整して、基板5が滑り落ちない程度のクランプ力にする。この調整により、ステップS113で基板をマスク上に載置する際に、実施形態1のアンクランプ状態と同じような効果を得ることができる。すなわち、基板5は、クランプしている側(ここではクランプユニット28a)では受け爪26a上で滑ることなく固定され、かつクランプ側が起点となって、クランプ力の弱い状態のクランプユニット28b側にずれていく。つまり、クランプ力の弱いクランプ側は、基板5と受け爪26間に生じる摩擦力が極めて小さくなり、クランプ側のクランプユニット28aの摩擦力より小さくなるため、クランプユニット28bの受け爪26bの上をずれることになる。
【0070】
本実施形態においても、ステップS110において、撓みが平坦になる際のクランプ27b側への平面視での基板の伸び量BPEの約半分にあたるOS1だけ、基板5はクランプ27a側に予めオフセットされている。このため、撓みが平坦化される際に生じる平面視での基板5の伸びは、マスク6aを基準にすれば、クランプ27a側とクランプ27b側に約半分ずつ分配されることになる。したがって、本実施形態においても、基板に反りや波打ちのような変形が残るのを抑制できるだけではなく、基板とマスクの位置ずれに偏在が生じるのを抑制することができる。
【0071】
[実施形態3]
次に、本発明を実施した製造システムについて説明する。
図13は、本発明を実施した製造システムの模式的な構成図で、有機ELパネルを製造する製造システム300を例示している。
【0072】
製造システム300は、複数台の成膜装置100、搬送室1101、搬送室1102、搬送室1103、基板供給室1105、マスクストック室1106、受渡室1107、ガラス供給室1108、貼合室1109、取出室1110等を備えている。成膜装置100は、有機ELパネルの発光層、正孔注入層、正孔輸送層、電子輸送層、電極層等の異なる機能層の成膜に用いられ得るため、成膜装置ごとに成膜材料やマスクなどが相違する場合がある。各成膜装置100は、基板とマスクの相対位置を調整するアライメント装置を備え、実施形態1あるいは実施形態2で説明した基板載置方法を実施できる。各成膜装置100は、本発明の基板載置方法により基板をマスクにセットした後、基板にマスク越しに成膜パターンを形成する成膜方法を実施できる。各成膜装置100は、実施形態1あるいは実施形態2で説明したように、一つの成膜チャンバが一つのアライメント装置を備える装置であってもよいし、一つの成膜チャンバが2つ以上のアライメント装置を備える装置であってもよい。2つのアライメント装置を備える場合には、一方のアライメント装置側で基板に蒸着している間に、他方のアライメント装置側では蒸着済の基板の搬出と未蒸着の基板の搬入を行い、搬入した基板にアライメント動作を行うことができる。
【0073】
基板供給室1105には、外部から基板が供給される。搬送室1101、搬送室1102、搬送室1103には、搬送機構であるロボット1120が配置されている。ロボット1120によって各室間の基板の搬送が行われる。本実施形態の製造システム300が複数台備える成膜装置100のうち、少なくとも一台は有機材料の蒸着源を備えている。製造システム300に含まれる複数の成膜装置100は、お互いが同一材料を成膜する装置であってもよいし、異なる材料を成膜する装置であってもよい。例えば、各成膜装置において、互いに異なる発光色の有機材料を蒸着してもよい。製造システム300では、基板供給室1105から供給された基板に有機材料を蒸着したり、あるいは金属材料等の無機材料の膜を形成し、有機ELパネルを製造する。
【0074】
マスクストック室1106には、各成膜装置100にて用いられ、膜が堆積したマスクが、ロボット1120によって搬送される。マスクストック室1106に搬送されたマスクを回収することで、マスクを洗浄することができる。また、マスクストック室1106に洗浄済みのマスクを収納しておき、ロボット1120によって成膜装置100にセットすることもできる。
ガラス供給室1108には、外部から封止用のガラス材が供給される。貼合室1109において、成膜された基板に封止用のガラス材を貼り合わせることで、有機ELパネルが製造される。製造された有機ELパネルは、取出室1110から取り出される。
【0075】
本製造システムに含まれる成膜装置は、実施形態1及び実施形態2で説明したように、基板とマスクの相対位置をアライメントした後、基板を一方の基板保持部側にオフセット移動させ、その後他方の基板保持部の保持力を小さくしてマスク上に載置する。
このため、本製造システムに含まれる成膜装置では、成膜時の基板に反りや波打ちのような変形が残るのを抑制できるだけではなく、基板とマスクの位置ずれに偏在が生じるのを抑制することができる。アライメント動作の精度を高めるとともに、安定的に再現させることができるようになり、成膜前に実行するアライメント動作回数を低減させた成膜装置を備えた成膜システムを提供することができる。
アライメント動作が極めて安定し高速化する本製造システムでは、大面積基板に高精度かつ高速に成膜できるため、高画質の有機ELパネルを高い歩留まりで、しかも高いスループットで製造することが可能である。
【0076】
このように、本発明は有機EL素子を製造する製造システムにおいて好適に実施され得るが、それ以外のデバイスを製造するための製造システムにおいて実施してもかまわない。電子デバイスなどの製造する際に、アライメントに要する時間を低減し、タクトタイムを短縮して、生産性を高めることができる。
【0077】
[他の実施形態]
尚、本発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で多くの変形が可能である。
例えば、基板を支持するための基板支持部、マスクを支持するためのマスク支持部、あるいはアライメント用カメラの配置や個数は、上述した実施形態の例に限られるものではない。基板の大きさや重さ、マスクの大きさや重さ、アライメントマークの数やレイアウト位置等によって、適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0078】
1・・・アライメント装置/2・・・成膜空間/3・・・上部隔壁(天板)/4・・・成膜チャンバ/5・・・基板/6a・・・マスク/6b・・・マスク枠/7・・・成膜源(蒸着源)/8・・・基板保持部/9・・・マスク保持部/10・・・Z昇降スライダ/11・・・回転並進機構/12、12a~12d・・・基板保持シャフト/13・・・Z昇降ベース/14・・・撮像装置/17・・・窓ガラス/18、18a~18d・・・Zガイド/19・・・モータ/20・・・ボールネジ/21、21a~21d・・・駆動ユニット/22・・・第1のガイド/23・・・第2のガイド/24・・・回転ベアリング/25a、25b・・・保持ベース/26、26a、26b・・・受け爪/27、27a、27b・・・クランプ/28、28a、28b・・・クランプユニット/29・・・バネ/30・・・荷重調整ネジ/31・・・ロッド/32、32a、32b・・・クランプスライダ/34・・・駆動シャフト/35・・・保持部上板/36・・・電動シリンダ/37、37a~37d・・・基板マーク/38、38a~38d・・・マスクマーク/40・・・ベローズ/41・・・モータ/42・・・ボールネジ/43・・・視野/50・・・制御部/100・・・成膜装置/300・・・製造システム/1101~1103・・・搬送室/1105・・・基板供給室/1106・・・マスクストック室/1107・・・受渡室/1108・・・ガラス供給室/1109・・・貼合室/1110・・・取出室/1120・・・ロボット