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特許7170533正極活性材料及びそれによる前駆体の製造方法、正極活性材料及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】正極活性材料及びそれによる前駆体の製造方法、正極活性材料及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20221107BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20221107BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20221107BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20221107BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20221107BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20221107BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/131
H01M10/0567
H01M10/052
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018509581
(86)(22)【出願日】2016-08-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-09-06
(86)【国際出願番号】 EP2016069032
(87)【国際公開番号】W WO2017029166
(87)【国際公開日】2017-02-23
【審査請求日】2019-08-09
(31)【優先権主張番号】15181201.3
(32)【優先日】2015-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】シュレトレ,ジモン
(72)【発明者】
【氏名】リル,トーマス ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルコフ,アレクセイ
(72)【発明者】
【氏名】シン,チー-ヨン
(72)【発明者】
【氏名】ランパート,ジョーダン ケイ
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-147416(JP,A)
【文献】特表2016-523794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/00-53/04
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)
NiaCobMncMd(O)x(OH)y (I)
(ここで、MはAl及びTiから選択され、
xは0.01以上0.9以下の範囲内であり、
yは1.1以上1.99以下の範囲内であり、
aは0.3以上0.85以下の範囲内であり、
bは0.05以上0.4以下の範囲内であり、
cは0.1以上0.5以下の範囲内であり、
dは0.001以上0.03以下の範囲内であり、
a+b+c+d=1である)
の粒子材料を製造する方法であって、下記工程
(a)水酸化アルミニウム又は二酸化チタンの粒子の水性スラリーを提供する工程、
(b)ニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩の水溶液と、アルカリ金属水酸化物の溶液とを、工程(a)に係るスラリーに添加し、これにより、工程(a)に係る粒子の上に、ニッケルコバルト及びマンガンの混合水酸化物の層を共沈させる工程と、
(c)そうして得られた(NiaCobMncAld)(OH)2+d又は(NiaCobMncTid)(OH)2+2d粒子を除去し、それらを酸素の存在下で乾燥させる工程
を有する方法。
【請求項2】
式(I)における符号は以下のように定義される:
aは0.32以上0.7以下の範囲、
bは0.20以上0.35以下の範囲、
cは0.1以上0.35以下の範囲、かつ、
dは0.002以上0.03以下の範囲
ことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(a)は、10以上13以下の範囲内でのpH値で、水酸化アルミニウムをアルカリ金属アルミネートの溶液から沈殿させて行う請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
一般式(I)
NiaCobMncMd(O)x(OH)y (I)
(ここで、MはAl及びTiから選択され、
xは0.01以上0.9以下の範囲内、
yは1.1以上1.99以下の範囲内、
aは0.3以上0.85以下の範囲内、
bは0.05以上0.4以下の範囲内、
cは0.1以上0.5以下の範囲内、
dは0.001以上0.03以下の範囲内であり、
a+b+c+d=1である)
の粒子材料であって、
BET複数点測定に係る表面が1.5m2/g以上5.0m2/g以下の範囲にあり、
一般式(I)の前記粒子材料は、ニッケルコバルト及びマンガンの混合水酸化物の層を、水酸化アルミニウム又は二酸化チタンの粒子の上に含む、粒子材料。
【請求項5】
リチウムイオンバッテリー用の正極活性材料を製造する方法であって、以下の工程:
(d)請求項4に係る粒子材料を提供する工程、
(e)前記粒子材料を、Li2O、LiOH及びLi2CO3から選択される少なくとも1種のLi化合物と混合する工程、
(f)工程(e)で得た混合物を800℃以上950℃以下の範囲の温度で焼成する工程
を有する方法。
【請求項6】
工程(f)の期間は、3時間以上12時間以下の範囲内にある請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程(f)は、酸素含有雰囲気内で行われる請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
リチウムの、Ni、Co、Mn及びMの合計に対するモル比が1.02対1以上1.25対1以下の範囲内にある請求項5~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
一般式(II)
Li1+w(NiaCobMncMd)1-wO2 (II)
(ここで、MはAl及びTiから選択され、
wは0.01以上0.15以下の範囲内にあり、
aは0.32以上0.7以下の範囲内にあり、
bは0.2以上0.35以下の範囲内にあり、
cは0.1以上0.35以下の範囲内にあり、
dは0.001以上0.03以下の範囲内にあり、
a+b+c+d=1である)
の粒子から実質的に構成される正極活性材料であって、
BET複数点測定に係る表面が1.5m2/g以上5m2/g以下の範囲内にあり、
Mが前記粒子内に均一に分散され、かつ、
前記粒子の平均粒子直径(D50)が3μm以上8μm以下の範囲内にある正極活性材料。
【請求項10】
比電導度が10-5 S/cm以上10-3 S/cm以下の範囲内にある請求項9に記載の正極活性材料。
【請求項11】
(A)請求項9又は10に係る少なくとも1種の正極活性材料、
(B)導電体の炭素、
(C)バインダー材料、
(D)集電体
を有する正極。
【請求項12】
(A)80~95質量%の正極活性材料、
(B)3~17質量%の炭素、
(C)3~10質量%のバインダー材料を含み、
パーセントが(A)、(B)及び(C)の合計に対するものである請求項11に記載の正極。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の少なくとも1種の正極を有する電気化学電池。
【請求項14】
更に、リン酸トリメチル、CH3-P(O)(OCH3)2、リン酸トリフェニル、及びトリス-(2,2,2-トリフルオロエチル)リン酸から選択される少なくとも1種の難燃剤を含む電解質を有する請求項13に記載の電気化学電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式(I)による粒子材料を製造する方法に関する。
NiaCobMncMd(O)x(OH)y (I)
ここで、
MはAl及びTiから選択され、
xは0.01以上0.9以下の範囲にあり、
yは1.1以上1.99以下の範囲にあり、
aは0.3以上0.85以下の範囲にあり、
bは0.05以上0.4以下の範囲にあり、
cは0.1以上0.5以下の範囲にあり、
dは0.001以上0.03以下の範囲にあり、
a + b+ c+ d = 1であり、
前記方法は以下の工程を含む。
(a)水酸化アルミニウム又は二酸化チタンの粒子の水性スラリーを提供する工程と、
(b)ニッケル、コバルト、及びマンガンの水溶性塩の水溶液と、アルカリ金属水酸化物の溶液とを、工程(a)のスラリーに添加し、これにより、ニッケル及びコバルトの混合(複合)水酸化物、並びに、水酸化マンガンの層を工程(a)の粒子上に共沈させる工程と、
(c)このように得られた(NiaCobMncAld)(OH)2+d(NiaCobMncTid)(OH)2+2dの粒子を除去し、それらを酸素の存在下で乾燥させる工程。
【0002】
加えて、本発明は上記方法により得られる粒子材料に関する。加えて、本発明は上記方法からの粒子材料から製造することができる正極活性材料と、それらのリチウムイオンバッテリーでの使用に関する。
【0003】
更に、本発明は、粒子材料と、それらのリチウムイオンバッテリー中での使用に関する。
【背景技術】
【0004】
層構造を持つリチウム化遷移金属酸化物は、現在、リチウムイオンバッテリー用の電極材料として使用されている。電荷密度、エネルギーのような特性のみならず、リチウムイオンバッテリーの寿命や適応性に悪影響を与えるであろう減少したサイクル寿命及び 容量ロスのような他の特性を改善するため、広範囲の調査及び発展的な作業が過去複数年行われてきた。
【0005】
リチウムイオンバッテリー用の正極材料を製造する通常の方法では、先ず、前駆体と呼ばれるものが塩基性又は非塩基性の、炭酸塩、酸化物、又は好ましくは、水酸化物として遷移金属を共沈させることに形成されている。前駆体は、次いで、リチウム塩と混合され、焼成される。このリチウム塩はこれに限定はされないが、 LiOH、Li2O、LiNO3 又は、特に Li2CO3 である。
【0006】
ここまでの全ての努力にも関わらず、電荷キャリアとしてのリチウムイオンに基づく電気化学電池(electrochemical cell)と、各リチウムイオンバッテリーは、例えば、自動車用途で使用されたときの技術的不利益から未だ抜け出せずにいた。殆どの使用者の見解では、容量は未だ不十分であり、バッテリーをあまりに短時間で再搭載(reload)する必要があった。加えて、再搭載は時間がかかる。ハイブリッド車用やプラグイン車用のLiイオンバッテリーなどの特定のケースでは、より少ない内部ロスで、高電流で早い充放電が可能な正極材に関心があった。従って、増加する改善に関心が持たれている。しかしながら、このような増加する変化は、各バッテリーの安全性能を低下させてはならない。
【0007】
EP 2 796 415 Aでは、リチウム化ニッケル-コバルト-酸化物が開示され、これには少量のマンガン及びコバルトがドープされ、アルミナで被覆されている。
【0008】
いくつかの例では、チタン又はアルミニウムなどの金属のドーピングは、可逆サイクルの間のインピーダンス増強やサイクル寿命と同様にバッテリーの安全性の改善に役立ち、しかし、このような改良は、総体的な容量を減少させることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】EP 2 796 415 A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、改善されたレート特性を備えた電気化学電池を提供することにあった。本発明の更なる目的は、電気化学電池電気化学電池の電気化学的特性に悪影響を与えることなく、電極抵抗の低下を助ける、電気化学電池の成分(要素)を提供することにあった。本発明の更なる目的は、結果得られる電気化学電池の電気化学的特性に悪影響を与えることなく、アルテ(arte)特性を向上させる電気化学電池の成分を製造する方法を提供することであった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
それゆえ、以下、本発明の方法又は本発明に係る方法とも称する、最初に定義した方法を発見した。
【0012】
本発明の方法は、 一般式(I)
NiaCobMncMd(O)x(OH)y (I)
(MはAl及びTiから選択され、好ましくはMはAlであり、
xは0.01以上0.9以下、好ましくは0.4以上0.7以下の範囲内であり、
yは1.1以上1.99以下、好ましくは1.3以上1.6以下の範囲内であり、
aは0.3以上0.85以下、好ましくは0.32以上0.7以下の範囲内であり、
bは0.05以上0.4以下、好ましくは0.2以上0.35以下の範囲内であり、
cは0.1以上0.5以下、好ましくは0.1以上0.35以下の範囲内であり、
dは0.001以上0.03以下の範囲内であり、
ここで、a + b+ c+ d = 1)
の粒子材料を製造する方法であり、当該方法は以下の工程:
(a)水酸化アルミニウム又は二酸化チタンの粒子の水性スラリーを提供する工程、
(b)ニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩の水溶液と、アルカリ金属水酸化物の溶液とを、工程(a)に係るスラリーに添加し、これにより、ニッケル及びコバルトの混合水酸化物並びに水酸化マンガンの層を工程(a)に係る粒子の上に共沈させる工程、
(c)その結果得られた(NiaCobMncAld)(OH)2+d 又は(NiaCobMncTid)(OH)2+2d の粒子を除去し、それらを酸素の存在下で乾燥させる工程
を含む。
【0013】
本発明の内容では、等式「a + b+ c+ d = 1」は、プラスマイナス0.01の丸め誤差も許容する。好ましい実施形態では、
aは0.32以上0.7以下の範囲内、
bは0.2以上0.35以下の範囲内、
c は0.1以上0.35以下の範囲内、そして、
dは0.002以上0.03以下の範囲内である。
【0014】
一般式(I)の材料に関し用語「粒子(状)」とは、当該材料が、最大粒子直径が32μmを超えない粒子の形態で提供されることである。上記最大粒子直径は、例えばふるい分けで決定することができる。
【0015】
本発明の1実施形態では、一般式(I)の粒子材料は、球形状を持つ粒子である球状粒子に含まれる。球状粒子は、正確な球形状のもののみではなく、代表的サンプルの少なくとも90% (数平均)の最大及び最小直径が、10%以下で異なる粒子をも含む。
【0016】
本発明の1実施形態では、 一般式(I)の粒子材料は、一次粒子が塊となった二次粒子を含む場合もある。好ましくは、一般式(I)の粒子材料は、一次粒子の塊である球状の二次粒子を含む。より好ましくは、一般式(I)の粒子材料は、球状一次粒子又は小板(platelet)の塊である、球状二次粒子を含む。
【0017】
本発明の1実施形態では、一般式(I)の材料の粒子の平均粒径(直径) (D50)は、3~8μmの範囲にあり、好ましくは3.5~ 6μmである。平均粒径(D50)は、本発明の内容においては、体積基準の粒子直径の中央値(メディアン)であり、例えば、光散乱により測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
ニッケル、コバルト及びマンガンの前記混合水酸化物は、水酸化物以外の対イオン、例えば、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩, カルボン酸塩(カルボキシレート)、特に酢酸塩(アセテート)又はハロゲン化物、特に塩化物を含む場合がある。水酸化物以外の、特に好ましい対イオンは、酸化物、特に、硫酸塩と組み合わせたものである。炭酸塩、硫酸塩、カルボン酸塩又はハロゲン化物が、ニッケル、コバルト及び マンガンの混合遷移水酸化物中に少量、例えば、水酸化物に対し最大1質量%存在することも可能である。ニッケル、コバルト及びマンガンの混合水酸化物中に、酸化物がより多い割合で存在する場合もあり、例えば、10アニオンのうち1つが酸素イオンである。
【0019】
ニッケル、コバルト及びマンガンの上記混合水酸化物は、他の金属イオンの痕跡、例えば、ナトリウム、Ca又はZnなどのユビキタス金属の痕跡を含む場合もあるが、このような痕跡は、本発明の説明には考慮されない。痕跡は、この文脈中の痕跡は、ニッケル、コバルト及び任意にマンガンの上記混合水酸化物の全金属含量を参照し、0.5 mol-%以下の量を意味する。工程(a)~(c)を以下により詳細に説明する。
【0020】
本発明の方法の工程(a)~(c)は、工程(a)、工程(b)、工程(c)の順番で実行される。これらは、実質的な中間工程がなく、連続して行われる場合もあるし、1以上の中間工程と共に行われる場合もある。
【0021】
工程(a)では、二酸化チタン、又は好ましくは水酸化アルミニウムの粒子の水性スラリーが提供される。
【0022】
本発明の文脈では、用語水酸化アルミニウム及び酸化チタンは、それぞれ各水酸化物の理想とされる態様である。本発明方法の文脈での二酸化チタンは、TiO2を含むのみならず、TiO2・aqとして省略されるような水含有材料も含む。 本発明方法の文脈での水酸化アルミニウムは、Al(OH)3を含むのみならず、Al2O3・aqとして省略される材料も含む。
【0023】
本発明の1実施形態では、二酸化チタン又は好ましくは水酸化アルミニウム 粒子の平均子径(直径)は、0.4μm以上4μm以下の範囲内、好ましくは、0.6μm以上3μm以下である(光散乱などで測定)。
【0024】
本発明の1実施形態では、工程(a)で提供されるスラリーの固体含量は、0.1 g/l以上1 g/l以下、好ましくは0.5g/l以上0.2 g/l以下の範囲にある。
【0025】
本発明方法の工程(a)により提供されるスラリーのpH値は7以上13以下、好ましくは10以上13以下、更に好ましくは11.4以上12.4以下の範囲にありうる。
【0026】
水酸化アルミニウム又は二酸化チタンの粒子は沈殿したばかりの、又は、スラリー化(懸濁)したばかりのものである。本発明の1実施形態では、上記スラリーは、前記スラリーを反応容器に充填して提供される。より好ましくは、工程(a)は、例えば、アルミネート(アルミン酸塩)の又はチタニウム塩(チタン塩)の溶液を反応容器に導入することにより、水酸化アルミニウム又は二酸化チタンの粒子を新たに沈殿させて行われる。
【0027】
アルミネートは、アルカリ金属アルミネートから選択され、好ましくはアルミン酸ナトリウム NaAlO2である。チタニウム塩の好ましい例はTiOSO4である。
【0028】
本発明の1実施形態では、アルミネート又はチタネート(チタン酸塩)の水溶液が、それぞれ1~300 gAl3+/l又はTi(+IV)/lの濃度を持つ。
【0029】
本発明の1実施形態では、前記アルミネートの水溶液は、pH値が約14である。
【0030】
本発明の1実施形態では、前記チタネートの水溶液は、pH値が1以上4以下の範囲にある。
【0031】
前記アルミネート又はチタニウム塩の水溶液のpH値は、次いで、7~13に調整され、前記調整は水酸化アルミニウム又は二酸化チタンの沈殿をそれぞれもたらす。
【0032】
pH値の前記調整は、好ましくは、混合しながら、例えば攪拌しながら行われる。
【0033】
pH値の前記調整は、アルカリ金属水酸化物若しくはアンモニア又は両方の水溶液を、アルミネート又はチタニウム塩の水溶液へ添加することにより、又は、アルミネート又はチタニウム塩の水溶液を、アルカリ金属水酸化物若しくはアンモニアの水溶液へ、又は、アルカリ金属水酸化物及びアンモニアの水溶液へ添加することにより行われる。好適なアルカリ金属水酸化物の具体例は、特に、水酸化カリウムと水酸化ナトリウムである。
【0034】
好ましい実施形態では、pH値の前記調整は、15℃以上80℃以下、より好ましくは35℃以上60℃以下の範囲の温度で行われる。圧力は限定されないが、0.5bar以上20 bar以下の範囲になりうる。技術的理由から常圧が好まれる。
【0035】
本発明方法の工程(b)は、工程(a)の完了後に開始される。工程(b)は、ニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩水溶液と、アルカリ金属水酸化物の溶液とを、工程(a)によるスラリーに添加する工程を含む。工程(b)の実行により、ニッケル、コバルト及び マンガンの混合水酸化物の混合水酸化物が共沈殿する。いかなる理論に縛り付けることを望まず、我々は工程(a)の下で得られる粒子が ニッケル、コバルト及びマンガンの前記混合水酸化物の共沈のための種粒子として役立つと推測する。
【0036】
本発明方法の工程(b)の実行により、ニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩を含む溶液が、アルカリ金属水酸化物の溶液と接触する。アルカリ金属水酸化物の一例は水酸化リチウムであり、好ましくは、水酸化カリウム であり、より好ましくは水酸化ナトリウムである。水酸化カリウムと水酸化ナトリウムの組合せ、例えば、モル比が5:1以上1:5以下の範囲を用いることもある。
【0037】
ニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩の水溶液と、アルカリ金属水酸化物の前記添加は、アルカリ金属水酸化物の溶液と、ニッケル、コバルト及びマンガン水溶性塩の1種以上の溶液を攪拌しながら同時に供給することで行うことができる。アルカリ金属水酸化物の溶液と、各コバルト、ニッケル及びマンガンが一般式(I)の前記材料のモル比である水溶性塩を含む溶液を供給することにより上記接触を行うことが好ましい。
【0038】
本発明の文脈で水溶性は、このような塩が 20℃の蒸留水中少なくとも20 g/lの溶解性を持つことを意味し、塩の量は、結晶水とアコ錯体からの水の堰き止めを除外して決定される。 ニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩は、好ましくは、それぞれNi2+、Co2+及び任意にMn2+の水溶性塩となりうる。
【0039】
本発明の1実施形態では、本発明方法の工程(b)は、10℃以上85℃以下の範囲の温度で、好ましくは、20℃以上60℃以下の範囲の温度で行われる。
【0040】
本発明の1実施形態では、本発明方法の工程(b)は、それぞれ23℃の母液で測定したpH値が8以上13以下、好ましくは10.5以上12.5以下、より好ましくは11.3以上11.9以下の範囲で行われる。
【0041】
本発明の1実施形態では、本発明方法の工程(b)は、500mbar以上20bar以下の範囲内の圧力で、好ましくは標準圧力で行われる。
【0042】
本発明の1実施形態では、過剰な沈殿剤、例えば、遷移金属に基づくアルカリ金属水酸化物が使用される。モル過剰量は例えば、1.1:1以上100:1以下の範囲にある。沈殿剤の化学量論比 で作業することが好ましい。
【0043】
本発明の1実施形態では、アルカリ金属水酸化物の水溶液は、アルカリ金属水酸化物の濃度が1質量%以上50質量%以下の範囲、好ましくは10質量%以上25質量%以下の範囲である。
【0044】
本発明の1実施形態では、ニッケル、コバルト、マンガン塩の水溶液の濃度は、広い範囲から選択可能である。好ましくは、その濃度は、それらが合計で溶液の1kg当たり、遷移金属が1~1.8molであり、より好ましくは、溶液1kg当たり遷移金属が1.5~1.7molである。ここで使用される「遷移金属塩」は、ニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩を示す。
【0045】
本発明の1実施形態では、本発明方法の工程(b)が、遷移金属の少なくとも1種のためのリガンドとして機能する少なくとも1種の化合物Lの存在下、例えば、少なくとも1種の有機アミン又は特にアンモニアの存在下で行われる。本発明のこの文脈では、水はリガンドとして認識されるべきではない。
【0046】
本発明の1実施形態では、L、特にアンモニアの濃度は、0.05~1 mol/lの範囲内、好ましくは0.1~0.7mol/lの範囲内で選択される。特に好ましいのは、 母液中のNi2+の溶解性が1000ppm以下、より好ましくは500ppmとなるアンモニアの量である。
【0047】
本発明の1実施形態では、本発明方法の工程(b)の間に、例えば攪拌機で混合が行われる。少なくとも1W/l、好ましくは少なくとも3W/l、より好ましくは少なくとも5W/lの攪拌機排出を反応混合物にもたらすことが好ましい。本発明の1実施形態では、25 W/l以下の攪拌機排出を反応混合物にもたらすことができる。
【0048】
本発明方法の工程(b)は、1種以上の還元剤の存在下又は非存在下で行われる場合がある。好適な還元剤の例は、ヒドラジン、アスコルビン酸、グルコース及びアルカリ金属亜硫酸アルカリ金属塩である。工程(a)では、いかなる還元剤をも使用しないことが好ましい。
【0049】
本発明の工程(b)は、空気下、不活性ガス雰囲気下、例えば貴ガス又は窒素雰囲気下、又は、還元雰囲気下で行う場合がある。還元剤の例は、例えば、SO2である。不活性ガス雰囲気下での作業が好ましい。
【0050】
本発明の1実施形態では、工程(b)は1~40時間、好ましくは2~30時間の範囲の期間を持つ。
【0051】
本発明方法の工程(b)は、それらの母液中でスラリー化され、かつ、水酸化アルミニウム又は 二酸化チタンを有る程度含む粒子の形態の、ニッケル、コバルト及び マンガンの混合水酸化物を供給する。前記粒子は不規則な又は好ましくは球形状である。それらの組成は それぞれ(NiaCobMncAld)(OH)2+d 又は(NiaCobMncTid)(OH)2+2d,として要約される。
【0052】
本発明の1実施形態では、一方のニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩の各水溶液は、他方のアルカリ金属水酸化物の水溶液と一定速度で添加され、ニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩の水溶液は一定の組成を持つ。この実施形態では、本発明方法の工程(b)で形成される粒子中の遷移金属ニッケル、コバルト及びマンガンの分布は均一である。
【0053】
代わりの実施形態では、一方のニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩の水溶液と、他方のアルカリ金属水酸化物の水溶液は、添加速度が本発明方法の工程(a)の間に変化し、及び/又はニッケル、コバルト及びマンガンの水溶性塩の水溶液の組成は工程(a)の間に変えられる。後の実施形態では、その内部で少なくとも2種の遷移金属が濃度勾配を示す混合水酸化物の粒子が得られる場合がある。
【0054】
好ましくは、pH値は本質的に工程(a)及び(b)の間は同じに維持され、この文脈で本質的に同じの意味はpH値が0.5単位以下で変化することである。
【0055】
好ましい実施形態では、工程(a)及び工程(b)は、圧力、温度及び攪拌が同じ条件下で行う場合がある。
【0056】
本発明方法の工程(c)は、そうやって得られた(NiaCobMncAld)(OH)2+d又は(NiaCobMncTid)(OH)2+2dの粒子を取り除く工程と、それらを酸素の存在下で乾燥させる工程とを含む。
【0057】
(NiaCobMncAld)(OH)2+d又は(NiaCobMncTid)(OH)2+2dの粒子の除去は、それぞれ、前記粒子をそれぞれの母液から除去することを指す。除去は、例えば、ろ過、遠心分離、デカンテーション、噴霧乾燥若しくは沈降又は前述した作業の2以上の組合せにより行うことができる。好適な装置は、例えば、フィルタープレス、ベルトフィルター、噴霧乾燥機、ハイドロサイクロン、傾斜クラリファイヤー、又は前述した装置の組合せである。
【0058】
母液は、水水溶性塩及び溶液中に存在するいずれかの更なる添加剤を指す。可能性のある水溶性塩は、例えば、遷移金属の対イオンのアルカリ金属塩であり、例えば、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、ハロゲン化ナトリウム、特に塩化ナトリウムハロゲン化カリウム及び追加的な塩、使用されるいずれかの添加剤、及びいずれかの過剰なアルカリ金属水酸化物、及びリガンドLでもある。加えて、母液は、溶解性遷移金属塩の痕跡(微量に)を含む場合もある。
【0059】
可能な限り完全に粒子を除去することが望まれる。
【0060】
水酸化アルミニウム及び二酸化チタンを用いた場合に、式(NiaCobMncAld)(OH)2+d 及び
(NiaCobMncTid)(OH)2+2d,は、それぞれ、理想とされる式(理想式)として見られるべきである。
【0061】
実際の除去の後、(NiaCobMncAld)(OH)2+d又は (NiaCobMncTid)(OH)2+2dの粒子は、それぞれ洗浄することができる。洗浄は、例えば、純水で又はアルカリ金属炭酸塩若しくはアルカリ金属水酸化物の水溶液、特に炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム若しくはアンモニアの水溶液を用いて行うことができる。水及びアルカリ金属水酸化物、特に水酸化ナトリウムの水溶液が好ましい。
【0062】
洗浄は、例えば、上昇した圧力又は上昇した温度、例えば30~50℃を利用して行うことができる。他の変形例では、洗浄は室温で行われる。洗浄の効率は、分析的測定により確認可能である。例えば、洗浄水中の1種又は複数の遷移金属の量を導電率測定により分析できる。
【0063】
洗浄がアルカリ金属水酸化物よりも水で行われた場合、洗浄水の導電性調査の助けで、水溶性物質、例えば水溶性塩が洗い流されたか否かを確認することが可能になる。
【0064】
除去後、(NiaCobMncAld)(OH)2+d又は(NiaCobMncTid)(OH)2+2dの粒子は、それぞれ酸素の存在下で乾燥される。この文脈での酸素の存在は、酸素ガスの存在を示す。酸素の存在は、従って、空気の、純粋な酸素の、酸素から空気の混合物の、及び窒素のような不活性ガスで希釈された空気の雰囲気を含む。
【0065】
乾燥は、例えば、30℃以上150以下の範囲の温度で行われる。乾燥が空気で行われる場合、多くの場合、ある程度の遷移金属が部分的に酸化され(例えば、Mn2+ からMn4+へ、Co2+からCo3+へ)、(NiaCobMncAld)(OH)2+d 又は(NiaCobMncTid)(OH)2+2d粒子の黒変がそれぞれ観察される。
【0066】
本発明方法を実行することにより、一般式(I)
NiaCobMncMd(O)x(OH)y (I)
の粒子材料が得られ、上記のような変更が可能である。本発明の文脈では、前記粒子材料は、本発明の前駆体とも称される。
【0067】
本発明の前駆体の組成は、例えば、質量分析により測定できる。
【0068】
本発明方法は、連続して又はバッチ式で行われ、バッチ式が好ましい。2以上の攪拌タンクの反応器のカスケードでの連続式方法も可能である。
【0069】
BETによる表面は、例えば、DIN ISO 9277:2003-05に従って、窒素吸着/脱着法により測定されうる。
【0070】
任意の工程は、 水又は水性塩基(aqueous base、塩基水溶液)で、又は、水性塩基と水の両方で前駆体を洗浄する。好ましい水性塩基は、水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液であり、洗浄後に乾燥し、例えば32μmメッシュのふるいでふるい分けする。
【0071】
本発明の前駆体は、特に、リチウムイオンバッテリー用の正極活性材料の製造に有効である。
【0072】
本発明の前駆体を正極活性材料に変換させるためには、以下の工程(d)~(f)が行われる場合がある。
【0073】
(d)本発明の前駆体を提供する工程、
(e)前記本発明の前駆体を、Li2O、LiOH及びLi2CO3から選択される少なくとも1種のLi化合物と混合する工程、
(f)工程(e)による混合物を800℃以上950℃以下の範囲にある温度で焼成する工程。
【0074】
本発明の文脈では、このような方法は、本発明の焼成方法とも称される。
【0075】
本発明の焼成方法の工程(e)を実行するため、その手順は、例えば、本発明の前駆体を、Li2O、LiOH及びLi2CO3から選択される少なくとも1種のリチウム化合物と混合し、本発明の文脈では、結晶の水は無視される。好ましいリチウム源はLi2CO3である。
【0076】
本発明の焼成方法の工程(e)を実行するため、 本発明の前駆体及びリチウム化合物の量は、式(II)の所望の材料の化学量論を得るために選択される。好ましくは、本発明の前駆体及び1種以上のリチウム化合物は、リチウムの、全遷移金属と全ての(any)Mとの合計に対するモル比が、1.02:1以上1.25:1以下、好ましくは1.03:1以上1.2:1以下、更により好ましくは1.03:1以上1.15:1以下の範囲になるように選択される。
【0077】
本発明方法の工程(f)を実行するため、 工程(e)により得られる混合物は、750℃以上950℃以下、好ましくは800℃以上920℃以下の範囲内で焼成される。
【0078】
本発明方法の工程(f)は、炉内、例えば回転管状炉(ロータリーチューブ炉)内、マッフル炉内、振り子炉(pendulum furnace)内、ローラーハース炉内、又は、プッシュ-スルー炉内で行われるであろう。前述した炉の2種以上の組合せも可能である。
【0079】
本発明方法の工程(f)は、30分~24時間、好ましくは3~12時間の期間に亘って行うことができる。工程(f)は温度レベルで影響を受け、又は、温度プロファイルが進行される。
【0080】
本発明の1実施形態では、工程(f)は酸素含有雰囲気内で行われる。酸素含有雰囲気は、空気の、純酸素の、酸素から空気での混合物の、及び、窒素のような不活性ガスで希釈された空気の雰囲気を含む。工程(e)では、酸素、又は、窒素若しくは空気で希釈された酸素の雰囲気であって、酸素の最小含有量が21体積%の雰囲気が好ましい。
【0081】
本発明の1実施形態では、工程(d)と(e)の間に、少なくとも1つの予備-焼成工程(f*)が行われる。工程(f*)は、工程(d)で得られた混合物を300℃以上700℃以下の範囲の温度で 2~24時間の期間焼成し、行程(e)を1以上の工程(f*)で得られた材料について行う。
【0082】
本発明の1実施形態では、2回の予備-焼成工程が、工程(e)と(f)の間に行われる。この2回の予備-焼成工程は、工程(d)で得られた混合物を、300℃以上400℃以下の範囲の温度で2~12時間の期間加熱し、次いで、そうやって得られた材料を500℃以上700℃以下の範囲の温度で2~12時間の期間加熱する。
【0083】
温度を変える間、1K/分から10K/分までの加熱速度が得られ、好ましくは2~5K/分である。
【0084】
工程(f)の間、水酸化物前駆体は一般式(II)の粒子材料へ変換される。いかなる理論に縛られることを望まず、工程(f)の間、Al3+-カチオン又はTi4+ カチオンは、それぞれ、粒子内を自由に拡散する。Niカチオン及びCoカチオン及びMnカチオンなどの遷移金属イオンは、拡散するとしても、非常により遅く拡散する。
【0085】
本発明方法の工程(f)を行った後、式(II)に係る粒子材料が得られる。粒子材料の冷却や、32μmを超える粒子直系の塊を除去するための篩い分けなどの付加的工程も行われるであろう。
【0086】
本発明方法により得られた粒子材料正極活性材料に適している。それは、低面積比抵抗(low area specific resistance)と高容量を組み合わせる。
【0087】
本発明の他の態様は、リチウムイオンバッテリー用の正極活性材料(以下、本発明の正極材料とも称する)であり、特に、一般式(II)の粒子で実質的に構成され、
Li1+w(NiaCobMncMd)1-wO2 (II)
ここで、
MはAl及びTiから選択され、好ましくはMはAlであり、
aは0.3以上0.85以下の範囲、好ましくは0.32~0.7であり、
bは0.05以上0.4以下の範囲、好ましくは0.2以上0.35以下であり、
cは0.1以上0.5以下の範囲、好ましくは0.1以上0.35以下であり、
dは0.001以上0.03以下の範囲であり、
wは0.01以上0.15以下の範囲、好ましくは0.014~0.15であり、
a+b+c+d=1、
前記正極活性材料はBET複数点(multi-point)測定による面積が1.5m2/g以上5m2/g以下の範囲内であり、
ここで、Mは前記粒子内で均一に分散され、
前記粒子は、平均粒子直径(D50)が3μm以上8μm以下の範囲内である。
【0088】
本発明の好ましい実施形態では、前記粒子は平均粒子直径(D50)が3μm以上8μm以下の範囲内であり、好ましくは3.5~6μmである。本発明の文脈では、平均粒子直径(average particle diameter)及び平均粒径(mean particle diameter)は互換的に使用可能である。
【0089】
本発明の文脈における平均粒子直径(D50)は、例えば、光散乱法により測定可能な、体積基準粒子直径の中央値に関するものである。
【0090】
本発明の正極材料を形成する粒子は、粒子直径分布D90/D50が1.3以上2.0以下の範囲にある。
【0091】
Mは、本発明各材料を形成する前記粒子内に均一に分散されている式(II)に係る粒子材料の粒子内にMが均一に分散されているか否かは、SEM/EDXマッピングにより判断される。
【0092】
本発明の1実施形態では、bは0.25以上0.35以下の範囲内であり、cは0.25以上0.35以下の範囲であり、ここで、a+b+c+d=1である。
【0093】
本発明の正極活性材料は、一般式(II)の粒子から実質的に構成される。本発明の文脈では、本発明の正極活性材料は、SEM若しくはEDX又はEDX及びSEMの組合せにより検出される、分離したAl2O3粒子も、分離したTiO2粒子をも含まないことを意味する。本発明の文脈では、「実質的に一般式(II)の粒子からなる(構成される)」は、一般式(II)の化合物の粒子100個当たり、それぞれAl2O3又はTiO2の分離した粒子を1未満含む正極活性材料を含む。より好ましくは、本発明に係る正極材料はAl2O3及びTiO2粒子を検出可能な量で含まない。
【0094】
本発明の1実施形態では、正極活性材料が、前記正極活性材料に関し、Li2CO3として測定される、Li2CO3を0.01質量%以上2質量%以下の範囲で含む。
【0095】
本発明の1実施形態では、本発明の正極活性材料の表面(BET)は、1.5 m2/g以上5m2/g以下の範囲内、好ましくは1.75 m2/g以上4m2/g以下である。表面(BET)は、例えば、DIN 9277:2003-05に従って、窒素吸着法により測定できる。複数点測定は、1.5m2/g以上5m2/g以下の範囲にある。
【0096】
本発明の1実施形態では、本発明の正極活性材料は比電導度が10-5 S/cm以上10-3S/cm以下の範囲にある。比電導度は500barで粉末ペレットで測定される。
【0097】
本発明の1実施形態では、本発明の正極活性材料は、1,250タップ後に測定されるタップ密度が0.9 kg/l以上1.8kg/l以下の範囲内、好ましくは1.1~1.5 kg/lである。
【0098】
本発明の正極活性材料は、特に、電極材料、とりわけ、リチウムイオンバッテリー用の正極用の電極材料に使用される。
【0099】
本発明の更なる態様は、少なくとも1種の本発明の正極活性材料を含む電極である。それらは、特に、リチウムイオンバッテリー用に使用可能である。本発明に係る少なくとも1つの電極を含むリチウムイオンバッテリーは、非常に良好な放電及びサイクリング挙動を示し、そして、例えば、4.2V以上のサイクルに対し特に好ましい特定領域抵抗(specific area resistance)を示す。
【0100】
本発明の1実施形態では、本発明の正極(cathode)は、
(A)上記のような少なくとも1種の正極活性材料(cathode active material)
(B)導電状態の炭素、及び
(C)バインダー(結合剤)、
(D)集電体
を含む。


【0101】
本発明の好ましい実施形態では、本発明の電極は、
(A)80~95質量%の正極活性材料、
(B)3~17質量%の炭素、
(C)3~10質量%のバインダー材料
を含み、ここでパーセントは(A)、(B)及び(C)の合計を参照する。
【0102】
本発明に係る正極は、炭素(B)との短くして称する、電気的に導通変性した炭素を含む。炭素(B)は、煤、活性炭素、カーボンナノチューブ、グラフェン、及びグラファイトから選択することができる。炭素(B)は、本発明に係る電極材料を製造する間などで添加することができる。
【0103】
本発明に係る電極は、更なる成分を含むことができる。それらは、アルミニウム箔に限定されないが、例えば、集電体(D)を含むことができる。それらは更にバインダー材料(C)(以下、バインダー(C)とも称する)を含む。 集電体(D)はここではこれ以上説明しない。
【0104】
好適なバインダー(C)は、好ましくは、有機(コ)ポリマーから選択される。好適な(コ)ポリマー、即ち、ホモポリマー又はコポリマーは、例えば、アニオン性、触媒又はフリーラジカル(共)重合により得られる(コ)ポリマーから選択され、特に、ポリエチレン、ポリアクリロニトリル、ポリブタジエン、ポリスチレン、並びに、エチレン、プロピレン、スチレン、(メタ)アクリロニトリル及び1,3-ブタジエンから選択される少なくとも2種のコモノマーのコポリマーから選択される。ポリプロピレンもまた好ましい。ポリイソピレン及びポリアクリレートは付加的に好ましい。特に好ましいのはポリアクリロニトリルである。
【0105】
本発明の文脈では、ポリアクリロニトリルはポリアクリロニトリルのホモポリマーのみではなく、アクリロニトリルと1,3-ブタジエン又はスチレンとのコポリマーも意味すると考えられる。好ましくはポリアクリロニトリルホモポリマーである。
【0106】
本発明の文脈には、ポリエチレンはホモポリエチレンを意味するのみではなく、少なくとも50mol%の共重合されたエチレン及び最大50mol%の少なくとも1種の更なるコモノマーを含むエチレンのコポリマーをも意味すると考えられ、ここで、コモノマーは、例えば、プロピレン、ブチレン(1-ブテン)、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ペンテン及び又はイソブテンなどのα-オレフィン、ビニル芳香族、例えば、スチレン及び(メタ)アクリル酸、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、 (メタ)アクリル酸のC1-C10アルキルエステル、特にメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート及びマレイン酸、無水マレイン酸、及び無水イタコン酸などである。ポリエチレンはHDPE又はLDPEでもよい。
【0107】
本発明の文脈では、ポリプロピレンはホモ-ポリプロピレンを意味するのみではなく、少なくとも50mol%の共重合されたプロピレンと、最大50mol%の少なくとも1種の更なるコモノマーを含むプロピレンのコポリマーも意味し、コモノマーは、例えば、エチレン、並びに、ブチレン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン及び1-ペンテンなどのα-オレフィンである。ポリプロピレンは好ましくはアイソタクチックであり、又は、実質的にアイソタクチックポリプロピレンである。
【0108】
本発明の文脈では、ポリスチレンは、スチレンのホモポリマーのみを意味するのではなく、アクリロニトリル、1,3-ブタジエン、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸のC1-C10-アルキルエステル、ジビニルベンゼン、特に、1,3-ジビニルベンゼン、1,2-ジフェニルエチレン及びα-メチルスチレンとのコポリマーを意味する。
【0109】
他の好ましいバインダー(C)はポリブタジエンである。他の好ましいバインダー(C)は、ポリエチレン酸化物(PEO)、セルロース、カルボキシ―メチルセルロール、ポリイミド及びポリビニルアルコールから選択される。
【0110】
本発明の1実施形態では、バインダー(C)は、平均分子量Mw が50,000 g/mol以上1,000,000g/mol以下、好ましくは500,000g/mol以下の範囲にある(コ)ポリマーから選択される。
【0111】
バインダー(C)は、架橋又は非架橋(コ)ポリマーである。
【0112】
本発明の得に好ましい実施形態では、バインダー(C)は、ハロゲン化(コ)コポリマー、特に、フッ化(コ)ポリマーから選択される。ハロゲン化又はフッ化(コ)ポリマーは、1分子あたり少なくとも1つのハロゲン元素又は少なくとも1つのフッ素元素を持ち、より好ましくは1分子あたり少なくとも2つのハロゲン元素又は少なくとも2つのフッ素元素を持つ、少なくとも1つの(共)重合された(コ)モノマーを持つ(コ)ポリマーを意味すると考えられる。具体例は、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ化ポリビニリデン(PVdF)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレンコポリマー、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレンコポリマー(PVdF-HFP)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレンコポリマー、パーフルオロアルキルビニルエーテルコポリマー、エチレン-テトラフルオロエチレンコポリマー、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレンコポリマー、及びエチレン-クロロフルオロエチレンコポリマーである。
【0113】
好適なバインダー(C)は、特にポリビニルアルコールとハロゲン化(コ)ポリマー、例えば、ポリ塩化ビニル又はポリ塩化ビニリデン、特に、ポリフッ化ビニルなどのフッ化(コ)ポリマー、並びに、特に、ポリフッ化ビニリデン及びポリテトラフルオロエチレンである。
【0114】
本発明の電極は、成分(a)、成分(b)及び炭素(c)の合計に対し、3~10質量%の1種以上のバインダー(d)を含む。
【0115】
本発明の更なる態様は、下記(1)-(3)を有するバッテリーである。
(1)本発明の正極活性材料(A)、炭素(B)及びバインダー(C)を含む少なくとも1つの正極、
(2)少なくとも1つの陰極、並びに、
(3)少なくとも1種の電解質
【0116】
正極(1)の実施形態は既に上記で詳細に説明した。
【0117】
陰極(2)は、炭素(グラファイト)、TiO2、リチウムチタン酸化物、シリコン又は錫などの少なくとも1種の陰極活性材料を含む。陰極は(2)、更に、集電体(例えば銅箔のような金属箔)を含む。
【0118】
電解質(3)は、少なくとも1種の非水性溶媒、すくなくとも1種の電解質塩及び任意に添加剤を含む。
【0119】
電解質(3)用の非水性溶媒は、室温で液体又は固体となりえ、好ましくは、ポリマー、環状又は非環状エーテル、環状及び非環状アセタール、並びに、環状又は非環状有機炭酸塩から選択される。
【0120】
好適なポリマーの具体例は、特に、ポリアルキレングリコール、好ましくは、ポリ-C1-C4-アルキレングリコール、および、特にポリエチレングリコールである。ポリエチレングリコールは、ここでは、最大20mol% の1種以上のC1-C4-アルキレングリコールを含むことができる。ポリアルキレングリコールは、好ましくは、2つのメチル又はエチルの末端キャップを持つポリアルキレングリコールである。
【0121】
好適なポリアルキレングリコール、及び特に好適なポリエチレングリコールの分子量Mwは、少なくとも400g/molとすることができる。
【0122】
好適なポリアルキレングリコール、及び特に好適なポリエチレングリコールの分子量Mwは最大5,000,000g/mol、好ましくは最大2,000,000g/molとすることができる。
【0123】
好適な非環状エーテルの具体例は例えば、ジイソプロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタンであり、好ましくは1,2-ジメトキエタンである。
【0124】
好適な環状エーテルの具体例は、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサンである。
【0125】
好適な非環状アセタールの具体例は、例えば、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、1,1-ジメトキシエタン及び1,1-ジエトキシエタンである。
【0126】
好適な環状アセタールの具体例は、1,3-ジオキサン及び特に1,3-ジオキソランである。
【0127】
好適な非環状有機炭酸塩の具体例は、ジメチルカーボネート(炭酸塩)、エチルメチルカーボネート(炭酸塩)及びジエチルカーボネート(炭酸塩)である。
【0128】
好適な環状有機炭酸塩の具体例は、一般式(III)及び(IV)
【化1】
の化合物であり、ここで、R1、R2及びR3は同一又は異なっていてもよく、かつ、水素及び C1-C4-アルキル、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル及びtert-ブチルの中から選択され、R2及びR3は好ましくは両方がtert-ブチルではない。
【0129】
特に好ましい実施形態では、R1はメチルであり、R2及びR3はそれぞれ水素であり、又は、R1、R2及びR3はそれぞれ水素である。
【0130】
他の好ましい環状有機炭酸塩はビニレンカーボネート、式(V)である。
【0131】
【化2】
【0132】
一種又は複数種の溶媒は、好ましくは水が無い状態、即ち、例えば、カールフィッシャー滴定により測定可能な水含量が1ppm以上0.1質量%以下の範囲である。
【0133】
電解質(3)は、更に、少なくとも1種の電解質塩を含む好適な電解質塩は、特に、リチウム塩である。好適なリチウム塩の具体例は、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiC(CnF2n+1SO2)3、LiN(CnF2n+1SO2)2などのリチウムイミド(nは1以上20以下の整数)、LiN(SO2F)2、Li2SiF6、LiSbF6、LiAlCl4及び一般式(CnF2n+1SO2)tYLiの塩(nは上記のように定義され、tは以下のように定義される)である。
【0134】
t=1(Yが酸素及び硫黄の中から選択される場合)
t=2(Yが窒素及びリンの中から選択される場合)、そして、
t=3(Y が炭素及び珪素の中から選択される場合)。
【0135】
好ましい電解質塩は、LiC(CF3SO2)3、LiN(CF3SO2)2、LiPF6、LiBF4、LiClO4の中から選択され、特に好ましくはLiPF6及びLiN(CF3SO2)2である。
【0136】
本発明の好ましい実施形態では、電解質(3)は、少なくとも1種の難燃剤を含む。有用な難燃剤は、リン酸トリアルキル(アルキルが異なる又は同一)、リン酸トリアリール、アルキルジアルキルホスホネート、及びハロゲン化リン酸トリアルキルから選択されるであろう。好ましくは、トリ-C1-C4-リン酸アルキル(C1-C4-アルキルは異なっても同一でもよい)、リン酸トリベンジル、リン酸トリフェニル、 C1-C4-アルキルジi-C1-C4-アルキルホスホネート及びフッ化トリ-C1-C4-リン酸アルキルから選択される。
【0137】
好ましい実施形態では、電解質(3)は、リン酸トリメチル、CH3-P(O)(OCH3)2、リン酸トリフェニル、及びトリス-(2,2,2-トリフルオロエチル)リン酸から選択される少なくとも1種の難燃剤を含む。
【0138】
電解質(3)は、電解質の全量を基準に、1~10質量%の難燃剤を含むことができる。
【0139】
本発明の1実施形態では、本発明に係るバッテリーが1以上のセパレータ(4)を有し、これにより電極が機械的に分離される。好適なセパレータ(4)はポリマーフィルム、特に多孔質ポリマーフィルムであり、このフィルムは金属リチウムに対し非反応である。特に好ましいセパレータ(4)用の材料は、ポリオレフィンであり、特に、フィルム形成多孔質ポリエチレン及びフィルム形成多孔質ポリプロピレンである。ポリオレフィン、特にポリエチレン又はポリプロピレンで形成されたセパレータ(4)は、35%以上45%以下の多孔率を具備することができる。好適な孔直径は、例えば、30nm以上500nm以下である。
【0140】
本発明の他の実施形態では、セパレータ(4)は、無機粒子が充填されたPET不織布から選択することができる。このようなセパレータは、40%以上55%以下の多孔率を具備することができる。好適な孔直径は、例えば、80nm以上750nm以下の範囲にある。
【0141】
本発明に係るバッテリーは、更に、ハウジング(筐体)を含むことが可能であり、ハウジングはいかなる形状ともなりえ、例えば、立方状又は円柱盤形状である。他の変形例では、袋(ポーチ)を形成する金属箔をハウジングとして使用される。
【0142】
本発明に係るバッテリーは、非常に良好な放電及びサイクリング挙動を提供し、特に、高温(45℃以上、例えば、最大60℃)での特に容量ロスに関し、非常に良好である。
【0143】
本発明に係るバッテリーは、例えば、直列に接続可能な又は並列に接続可能な、互いに組み合わされた2以上の電気化学電池を含むことができる。直列接続が好ましい。本発明に係るバッテリーでは、電気化学電池の少なくとも一つが、本発明に係る少なくとも1つの電極を有する。好ましくは、本発明に係る 電気化学電池では、大多数の電気化学電池が本発明に係る電極を含む。更により好ましくは、本発明に係るバッテリーでは、全ての電気化学電池が本発明に係る電極を含む。
【0144】
本発明は、更に、本発明に係るバッテリーの機器、特に移動可能な機器における使用を提供する。移動可能な機器の具体例は、乗り物、例えば、自動車、自転車、飛行機又は、ボートや船等の船舶である。移動可能な機器の他の具体例では、手動で移動されるもの、例えばコンピューター、特にラップトップ、電話又は例えば建築部門における電動種工具、特に、ドリル、バッテリー駆動スクリュードライバー又はバッテリー駆動ホッチキスである。
【0145】
本発明は、更に、実施例により説明される。
【実施例
【0146】
<一般的な所見>
タップ密度は、基本的にDIN53194又はDIN ISO 787-11.1981に従い、1,250タップで、しかしながら、より小さいシリンダーを用いて測定した。
【0147】
I.前駆体の合成
用語「溶液」は特に特定されない限りは水溶液を意味する。本発明の文脈においては、pH値は環境温度に関し、それは環境温度で測定される。
【0148】
I.1 TM-OH.1前駆体の合成
母液を取り除くためのオーバーフローを備えたA 9-l-攪拌リアクターを、蒸留水と、水1kg当たり36.7gの硫酸アンモニウムで充填した。その溶液を40℃に加熱し、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を添加してpH値を11.6に調整した。
【0149】
工程(a.1):
10gの量のアルミン酸ナトリウム水溶液(溶液1kg当たり100gのAl)を3分内に添加した。水酸化アルミニウム粒子が沈殿した。それらの平均直径は1μm以上2μm以下の範囲内にあった。
【0150】
工程(b.1)
工程(b)に係る沈殿反応は、(a.1)で得られたスラリーに対し、4.8時間の滞留時間になる全流量で、遷移金属の水溶液とアルカリ沈殿(析出)剤の流量比1.9での同時供給により開始された。遷移金属溶液は、Ni、Co及びMnをモル比1:1:1で含み、かつ、全遷移金属濃度が1.65mol/kgであった。アルカリ沈殿剤は、質量比8.3の25質量%水酸化物溶液と25質量%アンモニア溶液からなる。pHは、25質量%の水酸化ナトリウム溶液を別に供給して11.6に維持した。全供給の開始の冒頭から、リアクター内の液レベルが一定になるよう母液を除去した。沈殿(析出)の4.8時間後、溶液の全ての添加を停止し、工程(b.1)を終了した。
【0151】
工程(c.1)
結果得られた懸濁液のろ過により前駆体TM-OH.1を得て、蒸留水で洗浄し、120℃で空気中12 hours時間の期間にわたって感想し、32μm(メッシュ)で篩い分けした。
【0152】
I.2 比較例前駆体C-TM-OH.2の合成
工程(a.1)を除いた以外は、I.1の手順を繰り返した。比較例前駆体C-TM-OH.2を得た。
【0153】
I.3 前駆体TM-OH.3の合成
母液を除去するためのオーバーフローを備えたA 9-l-攪拌リアクターを、蒸留水と水1kg当たり36.7gの硫酸アンモニウムで充填した。溶液を40℃に加熱し、25質量%の水酸化ナトリウム水溶液の添加によりpH値を11.6に調整した。
【0154】
工程(a.3):
32gのアルミン酸ナトリウム水溶液(溶液1kg当たり100gのAl)を10分内に添加した。水酸化アルミニウムの粒子が沈殿した。平均直径は1μm以上2μm以下の範囲内であった。
【0155】
工程(b.3)
工程(b)に係る沈殿反応は、(a.3)で得たスラリーに対し、遷移金属水溶液及びアルカリ沈殿剤を、4.8時間の滞留時間になる全流量で、流量比1.9kg/hで、同時供給により開始した。遷移金属溶液はNi、Co及び Mnをモル比1:1:1で、かつ、全遷移金属濃度1.65 mol/kgで含有していた。アルカリ沈殿剤は、 25質量%の水酸化ナトリウム溶液と25質量%のアンモニア溶液を、質量比8.3で構成したpHは、25質量%の水酸化ナトリウム溶液を別供給して11.6に維持した。全供給の開始の冒頭で、リアクター内の液レベルが一定に維持されるよう母液を除去した。 4.8時間の沈殿の後、溶液の全添加を停止、工程(b.3)を終了させた。
【0156】
工程(c.3)
結果として得た懸濁液のろ過により前駆体TM-OH.1を得、蒸留水で洗浄し、120℃で12時間の期間にわたって空気中で乾燥させ、32μm(メッシュ)でふるい分けした。
【0157】
II. 正極活性材料の合成
II.1 本発明に係る正極活性材料の合成
リチウム以外の金属に対するLiの比率が1.14対1になるように前駆体TM.OH.1をLi2CO3と混合した。そうして得られた混合物を、次いで、マッフル型炉の内部で以下の条件で焼成した:
加熱速度:3 K/分
300℃6時間、600℃6時間、900℃6時間
【0158】
焼成プログラムの後、そうやって得られた材料を周囲温度まで冷却し、めのう乳鉢で解砕し32μmメッシュサイズの篩を通して篩い分けした。
【0159】
本発明の正極活性材料CAM.1を得た。それは下記の特徴を示した:
【0160】
AlはCAM.1の粒子内に均一に分散
Li1.14(Ni0.335Co0.330Mn0.332Al0.003)O2.14に対応する式、平均粒子直径(D50)は5.4μm
タップ密度は1.2 kg/l、かつ、
表面積(BET)が2.0m2/g
【0161】
II.2 比較例正極活性材料の合成
Liのリチウム以外の金属に対する比率が1.14対1になるように、前駆体C-TM.OH.2をLi2CO3と混合した。そうして得られた混合物を、次いでマッフル型炉内で以下の条件で焼成した:
加熱速度:3 K/分
300℃6時間、600℃6時間、900℃6時間
焼成プログラムの後、そうして得られた材料を周囲温度に冷却し、めのう乳鉢で解砕し32μmメッシュサイズの篩を通して篩い分けした。
【0162】
本発明の正極活性材料C-CAM.2が得られた。それは以下の特徴を示した:
Li1.15(Ni0.319Co0.345Mn0.336)O2.15に対応する式
平均粒子直径(D50)が6.4μm
タップ密度が2.0 kg/l
表面積(BET)が1.0 m2/g
【0163】
II.3 本発明に係る正極活性材料CAM.3の合成
Liのリチウム以外の金属に対する比が1.14対1になるように、前駆体TM.OH.3をLi2CO3と混合した。そうして得た混合物を次いでマッフル型炉内で以下の条件下で焼成した:
加熱速度:3 K/分
300℃6時間、600℃6時間、900℃6時間.
焼成プログラムの後、そうして得た材料を周囲温度に冷却し、めのう乳鉢で解砕し32μmメッシュサイズの篩を通して篩い分けした。
【0164】
本発明の正極活性材料CAM.3が得られた。それは、下記特徴を示した:
AlがCAM.3の粒子内に均一に分散されていた
Li1.15(Ni0.323Co0.331Mn0.337Al0.01)O2.14に対応する式
平均粒子直径(D50)が4.6μm
タップ密度が1.0 kg/l
【0165】
III.電気化学性能
正極(A.1)を形成するため、下記減量を互いに配合した:
6gのポリ(二)フッ化ビニリデン(polyvinylidene difluoride)(C.1), ("PVdF")、Kynar Flex(登録商標)2801としてアルケマグループから商業的に入手可能、
3gのカーボンブラック(B.1)、 BET表面積62 m2/g、"Super C 65L"としてTimcalから商業的に入手可能、
3gのグラファイト(B.2)、KS6としてTimcalから商業的に入手可能、及び88gのCAM.1、C-CAM.2又はCAM.3のいずれか
【0166】
撹拌しながら十分な量のN-メチルピロリドン(NMP)を添加し、硬く、塊が無いペーストが得られるまで混合物をUltraturraxで撹拌した。
【0167】
正極は以下のように製造した:
30μm厚のアルミニウム箔(D.1)上に、上記ペーストを 15μmドクターブレードで塗布した。乾燥後の負荷(loading)は2mA・h/cm2であった。負荷された箔を一晩真空オーブン内、105℃で乾燥させた。フード内で室温まで冷却後、その箔から円盤(ディスク)形状の正極を打ち抜いた。正極ディスクは、次いで、計量し、それらを真空乾燥されるアルゴングローブボックス内に再度導入した。正極ディスクを用いて正極を組み立てた。
【0168】
それぞれCAM.1、CAM.3又はC-CAM.2を含む本発明の正極(cat.1)及び(cat.3)並びに比較例の正極c-(cat.2)が得られた。
【0169】
セパレータ:グラスファイバー。陰極:リチウム。本発明のセル(cell.1)及び(cell.3)並びに比較例のセルc-(cell.12)がそれぞれ得られた。セルの電位範囲(Potential range): 3V-4.3V。
【0170】
電気化学試験は"TC1"コイン型セルで行った。電解質はエチルメチルカーボネート/エチレンカーボネート(体積比1:1)中LiPF6が1Mの溶液である。
【0171】
Liイオンの可逆的貯蔵及び放出の全体的能力を測定するために、特定の放電容量を放電率0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、3C、5C及び10Cで測定した。電極抵抗はパルス試験で測定した。この目的のために、電極は、充電状態(SOC)10%と90%の間で、7つの別個の充電レベルに調整した。各充電レベルでは、電極には10C放電パルスを10秒間付した。その結果の電圧降下を、異なるSOCでの各電極についての、単位面積当たりの抵抗(area specific resistance)を算出するために使用した。放電率0.1C及び10Cでの特定の容量に関し、2つの材料CAM.1及びC-CAM.2が意かの特徴を示した。
(cell.1):0.1C 155 mA・h/kg、10C 74 mA・h/kg
c-(cell.2):0.1C 154 mA・h/kg、10C 91 mA・h/kg
【0172】
90%及び10%SOCでの単位面積当たり電気抵抗に関し、以下の値が見られた:
(cell.1):90% 21 cm2、10% 122 cm2
c-(cell.2):90% 39 cm2、10% 198 cm2
【0173】
比較例材料C-CAM.2とその結果物c-(cell.2)と比較して、本発明の正極活性材料CAM.1は、正極‐及びセル (cell.1)-で、より高い比率容量、及び、より低い電極抵抗をもたらすことが明らかになった。レート特性における観察された改善は、低放電率での全体の容量レベルに悪影響を与えない。