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特許7170626乳発酵成分由来たんぱく質含有液状栄養組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】乳発酵成分由来たんぱく質含有液状栄養組成物
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/13 20060101AFI20221107BHJP
   A23L 33/19 20160101ALI20221107BHJP
   A23L 29/231 20160101ALI20221107BHJP
【FI】
A23C9/13
A23L33/19
A23L29/231
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2019503049
(86)(22)【出願日】2018-02-28
(86)【国際出願番号】 JP2018007435
(87)【国際公開番号】W WO2018159659
(87)【国際公開日】2018-09-07
【審査請求日】2021-02-15
(31)【優先権主張番号】P 2017037551
(32)【優先日】2017-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100188651
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 広介
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 吾郎
(72)【発明者】
【氏名】辻 久美子
【審査官】山本 英一
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-327402(JP,A)
【文献】国際公開第2012/176852(WO,A1)
【文献】特開平10-056960(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0258827(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0133552(US,A1)
【文献】特開2010-088357(JP,A)
【文献】国際公開第2014/010669(WO,A1)
【文献】特開2005-323530(JP,A)
【文献】特開平05-000043(JP,A)
【文献】特開平08-112059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳発酵成分由来たんぱく質、スクロースおよび高メトキシルペクチンを含んでなる液状栄養組成物であって、
ホエーたんぱく質分離物および加水分解ホエーペプチドから選択される少なくとも1つをさらに含み、
スクロースと高メトキシルペクチンとの質量比(スクロース:高メトキシルペクチン)が11:1~3:1であり、熱量が0.8~2kcal/mLであり、20℃における粘度が15~100mPa・sである、液状栄養組成物。
【請求項2】
スクロースの含有量が組成物全量の2~10質量%である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
無脂乳固形分の含有量が組成物全量の6質量%を超える、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
マルトースおよびラクトースから選択される少なくとも一つの二糖をさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
単糖、オリゴ糖、および多糖からなる群から選択される少なくとも一つの糖質をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記スクロースの含有量が糖質全量の15質量%以上である、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
糖質全量が組成物全量の5~35質量%である、請求項4~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
前記高メトキシルペクチンの含有量が組成物全量の0.25~1.5質量%である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
全たんぱく質の含有量が組成物全量の3~9質量%である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記乳発酵成分が、発酵乳およびフレッシュチーズから選択される少なくとも一つのものである、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記フレッシュチーズが、クワルク、モッツアレラ、およびカッテージからなる群から選択される少なくとも一つのものである、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
脂質、ミネラルおよびビタミンのうち少なくとも一つをさらに含んでなる、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
飲食品である、請求項1~12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
乳発酵成分由来たんぱく質、スクロースおよび高メトキシルペクチンを配合すること、
ホエーたんぱく質分離物および加水分解ホエーペプチドから選択される少なくとも1つをさらに配合すること、および
前記高メトキシルペクチンの配合後に均質化処理を行うこと
を含んでなる液状栄養組成物の保存安定性の改善方法であって、
前記乳発酵成分がその調製後に均質化処理されたものであり、
前記液状栄養組成物のスクロースと高メトキシルペクチンとの質量比(スクロース:高メトキシルペクチン)が11:1~3:1、熱量が0.8~2kcal/mL、20℃における粘度が15~100mPa・sに調整される、
方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の参照】
【0001】
本特許出願は、2017年2月28日に出願された日本国特許出願2017-037551号に基づく優先権の主張を伴うものであり、かかる先の特許出願における全開示内容は、引用することにより本明細書の一部とされる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、新規な乳発酵成分由来たんぱく質含有液状栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
乳酸菌等による乳発酵成分は消化吸収性のよい乳たんぱく質を含み、例えば高齢の健常人、病弱者用飲食品のたんぱく質源として極めて有効である。しかし、乳発酵成分由来たんぱく質を使用して液状栄養組成物を得る場合、乳発酵成分由来たんぱく質は粒子サイズが大きく凝集を生じる傾向が有り、上記液状栄養組成物の製造時に溶解性が乏しく沈殿が発生しやすいという問題がある。さらに、乳発酵成分由来たんぱく質を豊富に含んだ乳清成分が液状栄養組成物中で分離するホエーオフが発生しやすいという問題もある。
【0004】
液状栄養組成物において、沈殿、凝集、ホエーオフが発生すると、著しく外観を損なうだけでなく、飲用感に影響する場合もある。さらに、液状栄養組成物を均一な組成で投与することが出来ず、栄養管理の目的で使用できない。また、液状栄養組成物の離水部を短時間に投与させることで下痢等が生じるおそれもある。
【0005】
一方、近年、液状組成物に安定剤を用いる方法が報告されている。
【0006】
例えば、特許文献1には、発酵乳より乳清を除いた成分、蜂蜜ならびにペクチンおよびグァーガム酵素分解物の等量混合物を含有する長期療養患者の流動食が記載されている。
【0007】
特許文献2には、平均分子量500~10000ダルトンのカゼイン加水分解物と有機酸モノグリセライドとを含んでなる酸性タイプ液状経腸栄養剤が記載されている。
【0008】
また、栄養組成物ではないものの乳飲料において安定化剤を用いることも報告されている。例えば、特許文献3には、発酵乳を均質化処理した後に、大豆多糖類を混合し、再度均質化処理を行うことにより製造された酸性乳飲料が記載されている。
【0009】
特許文献4には、発酵乳と、大豆多糖類と、HMペクチンとを含有する発酵乳含有飲料が記載されている。
【0010】
特許文献5には、エステル化度が74~80のペクチンを含んでなる酸性乳飲料が記載されている。
【0011】
特許文献6には、HLB9以上のポリグリセリン脂肪酸エステルを含有する蛋白質含有酸性飲料が記載されている。
【0012】
しかしながら、これらの安定剤は多量に用いるとゲル化、増粘が発生しやすい。したがって、従来の液状栄養組成物では、病者用食品等としてさっぱりとした飲み口が求められる場合や、流動性が必要な場合は、液状栄養組成物を十分な量を使用(摂取)することができず、性状の安定化の点で十分とは言い難い。特に、常温下で長期に保管される病弱者用飲食品等の液状栄養組成物は、沈殿、凝集またはホエーオフが発生しやすい保管条件でも、良好な流動性または低粘性を維持するような品質を有しながら、長期保存安定性を保持することが依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平6-98717号公報
【文献】特開2010-083774号公報
【文献】特開平11-225669号公報
【文献】WO2014/199876号公報
【文献】WO2014/010669号公報
【文献】特開平5-184341号公報
【発明の概要】
【0014】
本発明は、乳発酵成分由来たんぱく質を含有する液状栄養組成物において、保存安定性を改善させる新たな技術的手段を提供することを目的とする。
【0015】
本発明者らは、今般、液状栄養組成物において、乳発酵成分由来たんぱく質、スクロースおよびペクチンを含み、スクロースとペクチンとを特定の質量比で用いると、保存安定性を効果的に改善させうることを見出した。
【0016】
本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)乳発酵成分由来たんぱく質、スクロースおよびペクチンを含んでなる液状栄養組成物であって、
スクロースとペクチンとの質量比(スクロース:ペクチン)が11:1~3:1である、液状栄養組成物。
(2)スクロースの含有量が組成物全量の2~10質量%である、(1)に記載の組成物。
(3)無脂乳固形分の含有量が組成物全量の6質量%を超える、(1)または(2)に記載の組成物。
(4)マルトースおよびラクトースから選択される少なくとも一つの二糖をさらに含む、(1)~(3)のいずれか一つに記載の組成物。
(5)単糖、オリゴ糖、および多糖からなる群から選択される少なくとも一つの糖質をさらに含む、(1)~(4)のいずれか一つに記載の組成物。
(6)前記スクロースの含有量が糖質全量の15質量%以上である、(4)または(5)に記載の組成物。
(7)糖質全量が組成物全量の5~35質量%である、(4)~(6)のいずれか一つに記載の組成物。
(8)前記ペクチンの含有量が組成物全量の0.25~1.5質量%である、(1)~(7)のいずれか一つに記載の組成物。
(9)全たんぱく質の含有量が組成物全量の3~9質量%である、(1)~(8)のいずれか一つに記載の組成物。
(10)前記乳発酵成分が、発酵乳およびフレッシュチーズから選択される少なくとも一つのものである、(1)~(9)のいずれか一つに記載の組成物。
(11)前記フレッシュチーズが、クワルク、モッツアレラ、およびカッテージからなる群から選択される少なくとも一つのものである、(1)~(10)のいずれか一つに記載の組成物。
(12)脂質、ミネラルおよびビタミンのうち少なくとも一つをさらに含んでなる、(1)~(11)のいずれか一つに記載の組成物。
(13)熱量が0.8kcal/ml以上である、(1)~(12)のいずれか一つに記載の組成物。
(14)液状栄養組成物の粘度(20℃)が15~100mPa・sである、(1)~(13)のいずれか一つに記載の組成物。
(15)飲食品である、(1)~(14)のいずれか一つに記載の組成物。
(16)ペクチンがHMペクチンである、(1)~(15)のいずれか一つに記載の組成物。
(17)乳発酵成分由来たんぱく質、スクロースおよびペクチンを配合することを含んでなる液状栄養組成物の保存安定性の改善方法であって、スクロースとペクチンとの質量比(スクロース:ペクチン)を11:1~3:1とする、方法。
【0017】
本発明によれば、保存安定性、具体的には長期保存安定性を効果的に改善させることができる。上記安定性としては、乳化安定性が好ましい。また、本発明の組成物は、乳発酵成分由来たんぱく質特有の沈殿、凝集が発生しにくく、経管投与に適した良好な流動性を得る上で有利に利用することができる。また、本発明の組成物は、甘味とのどごしを両立することから、飲食品として提供する上で有利である。
【発明の具体的説明】
【0018】
本発明の液状栄養組成物は、乳発酵成分由来たんぱく質、スクロースおよびペクチンを含んでなり、スクロースとペクチンとの質量比(スクロース:ペクチン)が、11:1~3:1であることを特徴としている。
【0019】
たんぱく質
本発明の組成物は、たんぱく質として、乳発酵成分由来たんぱく質を含む。さらに、本発明の組成物は、乳発酵成分由来たんぱく質以外のたんぱく質を含んでもよい。
【0020】
本発明のたんぱく質の含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、組成物全量に対して、好ましくは3~9質量%であり、より好ましくは3.1~8質量%であり、さらに好ましくは3.2~6質量%、さらに好ましくは3.3~5質量%である。本発明の組成物におけるたんぱく質の含有量は、ケルダール法により測定することができる。
【0021】
乳発酵成分由来たんぱく質
本発明において、たんぱく質として、乳発酵成分由来たんぱく質を含む。
本発明の乳発酵成分とは、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば牛乳または豆乳の単独または両方である乳を微生物または酵素の作用で発酵させた加工品をいう。乳発酵成分は、生体から採取された乳のみならず、その分画または、加工したものから作製することもできる。乳の分画または加工品としては、好ましくは牛乳の分画または加工品であり、例えば、部分脱脂乳、脱脂乳、還元全乳、還元脱脂粉乳、還元部分脱脂乳、乳たんぱく質濃縮物(MPC)、分離ミルクたんぱく質(MPI)、ホエー、酸カゼイン、発酵乳またはクワルク等を製造した際に得られるカゼインホエー、酸ホエー、クワルクホエー、カゼイン、カゼインナトリウム、脱脂粉乳、ホエーたんぱく濃縮物(WPC)、ホエーたんぱく分離物(WPI)、α―ラクトアルブミン、β―ラクトグロブリン、ラクトフェリン、バター、バターミルク、クリーム、ホエーペプチド、大豆ホエー等を挙げることができる。ここで、ホエーペプチドは、例えば、ホエーやホエーたんぱく質を以下の酵素等で加水分解して製造できる。ホエー等の加水分解に用いる酵素は、ペプシン、トリプシンまたはキモトリプシンが挙げられ、また、植物起源のパパイン、バクテリアまたは菌類由来のプロテアーゼを用いても分解できる。
これらの生体から採取された乳、乳の分画または加工品を原料乳と呼ぶことがある。原料乳は、単独で、あるいは異なる原料乳を混合して乳発酵成分の原料とすることができる。
【0022】
乳発酵成分は、乳に乳酸菌等の発酵微生物を加えて発酵させた培養物として得ることができる。前記微生物の発酵によって得ることができる発酵乳、チーズ、ナチュラルチーズ、ヨーグルト、乳清(ホエー)発酵物、ホエーチーズ等は、本発明における乳発酵成分に含まれる。
【0023】
ここで、チーズは、製造後の熟成工程を経た熟成チーズと、非熟成チーズ(フレッシュチーズ)に大別される。熟成チーズの熟成工程で、通常、乳酸菌やカビの繁殖(発酵)が進行し、それぞれのチーズに特徴的な風味が形成される。熟成チーズとは対照的に、カードからホエーを除いた状態を維持したチーズが非熟成チーズである。非熟成チーズとしては、カッテージ、クワルク(quark)、ストリング、ヌーシャテル、クリームチーズ、モッツアレラ、リコッタ、マスカルポーネ、プティスイス、フェタ、フロマージュ・ブラン等が挙げられ、好ましくは、クワルク、モッツアレラ、カッテージである。
【0024】
上述のような乳発酵成分の製造に際し、乳酸菌スターターを所定量、例えば乳発酵成分の原料に対して0.1~10質量%、好ましくは0.2~3質量%、さらに好ましくは0.5~2質量%を添加して発酵ミックスとする。得られた発酵ミックスは30℃~50℃、好ましくは37℃~50℃で、5~15時間、好ましくは5~10時間発酵させ、その後所望によりホモジナイザーにより均質化処理してもよい。乳発酵成分の原料にスターターとして接種する発酵微生物としては、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・ラクティス(Lactobacillus lactis)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)等の乳酸桿菌や、ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)等の乳酸球菌や、ビフィズス菌や、プロピオン酸菌や、酵母等の中から選ばれる1種または2種以上を用いることができる。さらに、これらの発酵微生物の生菌に加え、腸内環境の改善効果等を有する発酵微生物の死菌を含むこともできる。
この中でも、ラクトバチルス・ブルガリカスとストレプトコッカス・サーモフィルスの組み合わせである、いわゆる、ヨーグルト(国際規格で規定されたもの)は、本発明の製造方法の条件下で、乳酸菌の多い発酵乳を容易に、かつ、効率的に製造できる等の観点から、好ましく用いられる。
【0025】
本発明の組成物における乳発酵成分の含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、組成物全量に対して、好ましくは25~65質量%であり、より好ましくは30~60質量%であり、さらに好ましくは25~55質量%であり、さらに好ましくは35~55質量%、さらに好ましくは40~50質量%である。
本発明の乳発酵成分由来たんぱく質の含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、組成物中のたんぱく質全量に対して、好ましくは30~100質量%であり、より好ましくは40~100質量%であり、さらに好ましくは50~100質量%、さらに好ましくは50~90質量%である。たんぱく質分解物または未発酵のたんぱく質を含む場合には、特に有利である。
【0026】
乳発酵成分由来たんぱく質以外のたんぱく質
本発明の液状栄養組成物は乳発酵成分由来たんぱく質以外のたんぱく質を含んでもよい。上記たんぱく質としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、植物性たんぱく質、動物性たんぱく質、アミノ酸もしくはペプチドを含む植物性もしくは動物性たんぱく質分解物、またはそれら組み合わせが挙げられる。動物性たんぱく質としては、乳たんぱく濃縮物、ホエーたんぱく質、カゼインが挙げられる。植物性たんぱく質としては、大豆たんぱく質等が挙げられる。さらに、ホエーたんぱく質としては、β-ラクトグロブリン、α-ラクトアルブミン、ラクトフェリン等を含むチーズホエー、レンネットホエー、ホエーたんぱく質濃縮物(WPC)等が挙げられる。植物性または動物性たんぱく質分解物としては、例えば、ホエーたんぱく質分離物(WPI)、加水分解ホエーペプチド(WPH)等のホエーたんぱく質分解物、カゼイン分解物、大豆たんぱく分離物等が挙げられる。風味や栄養学的面から、ホエーたんぱく質分離物(WPI)、加水分解ホエーペプチド(WPH)を使用することが好ましい。ここで、動物性たんぱく質の原料として、牛乳、水牛乳、ヤギ乳、羊乳、および馬乳等の獣乳が挙げられ、好ましくは、牛乳である。牛乳を原料とするカゼイン、ホエーたんぱく質を用いることが好ましい。
また、上記ホエーたんぱく質またはホエーたんぱく質分解物は抗炎症作用を有する点で好ましい。したがって、上記ホエーたんぱく質またはホエーたんぱく質分解物を含む組成物を、炎症反応の改善または抑制のための、抗炎症組成物として用いることができる。
【0027】
スクロース
本発明の組成物は、糖質として、スクロースを含む。本発明は、市販されて流通しているスクロース、例えば、上白糖、グラニュー糖、三温糖等を単独または混合して用いることができる。
【0028】
本発明のスクロースの含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、保存安定性の観点から、組成物全量に対して、例えば1~20質量%であり、好ましくは2~10質量%であり、より好ましくは2~9.5質量%であり、さらに好ましくは2~9質量%である。本発明の組成物におけるスクロースの含有量は、例えば、「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)」の「別添 栄養成分等の分析方法等」に記載の高速液体クロマトグラフ法で測定することができる。
【0029】
ペクチン
本発明のペクチンとは、野菜や果物に細胞壁成分として存在する、α-D-ガラクツロン酸を主鎖成分とする酸性多糖類である。ペクチンを構成するガラクツロン酸は部分的にメチルエステル化されており、エステル化度によってLM(低メトキシル)ペクチンとHM(高メトキシル)ペクチンに分けられる。HMペクチンは、一般的にエステル化度が50%以上であるものをいう。本発明のペクチンは好ましくはHMペクチンである。かかるHMペクチンは商業的に入手可能であり、例えば、YM115-LJ(CPケルコ社)、SM-478(三栄源エフ・エフ・アイ社製)、SM-666(三栄源エフ・エフ・アイ社製)、AYD5110SB(ユニテックフーズ社製)等がある。
【0030】
本発明の組成物におけるペクチンの含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、組成物全量に対して、好ましくは0.25~1.5質量%であり、より好ましくは0.3~1.0質量%であり、さらに好ましくは0.4~0.9質量%である。本発明の組成物におけるペクチンの含有量は、ガラクツロン酸を高速液体クロマトグラフィーで定量する方法(Shinpei MATSUHASHI, Shin-ichi INOUE, Chitoshi HATANAKA Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry Vol. 56 (1992) No. 7 P 1053-1057 Simultaneous Measurement of the Galacturonate and Neutral Sugar Contents of Pectic Substances by an Enzymic-HPLC Method)により測定することができる。
【0031】
本発明の組成物において、沈殿または凝集の発生の抑制または保存安定性の好適化の観点から、スクロースとペクチンとの質量比を調整することが好ましい。本発明の組成物において、スクロースとペクチンとの質量比(スクロース:ペクチン)は、好ましくは11:1~3:1であり、より好ましくは10:1~3:1であり、さらに好ましくは9:1~3:1である。
【0032】
糖質
本発明の糖質とは、食物繊維を除いた炭水化物をいい、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、例えば、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖等またはそれらの組み合わせが挙げられる。単糖としては、グルコース(ブドウ糖)、ガラクトース、マンノース、フルクトース(果糖)、プシコース、アロース、ソルボースまたはそれら組み合わせが挙げられる。二糖としては、ラクトース(乳糖)、スクロース、マルトース(麦芽糖)、イソマルトース、ニゲロース、コウジビオースまたはそれら組み合わせが挙げられ、物性やコストの観点から好ましくはスクロース、ラクトースまたはマルトースである。オリゴ糖としては、イソマルトオリゴ糖、イソマルチュロース等またはそれら組み合わせが挙げられる。高温加熱後もオリゴ糖が減少しない点から、イソマルトオリゴ糖、イソマルチュロースが好ましい。多糖としては、デキストリン、グリコーゲン、デンプン、加工デンプンまたはそれら組み合わせが挙げられる。さらに、デキストリンのデキストロース等量(DE)は、10~50が挙げられ、好ましくは10~30、より好ましくは15~30である。なお、デキストリンはそのDEにより、粉あめやメルトデキストリンとも称される。
【0033】
本発明の組成物における糖質全量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、組成物全量に対して、好ましくは5~35質量%であり、より好ましくは5~30質量%であり、さらに好ましくは6~25質量%である。本発明の組成物における糖質全量は、水分、たんぱく質、脂質、食物繊維、灰分のそれぞれの含有量を求めてから、固形分(組成物全量から水分を除く)から、たんぱく質、脂質、食物繊維、灰分のそれぞれ含有量の総計を除いたものとして求めることができる。
【0034】
本発明の糖質全量に対するスクロースの含有量は、保存安定性の観点から、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20~90質量%、さらに好ましくは25~85量%、さらに好ましくは30~80質量%である。
さらに、スクロース以外の糖質として、スクロース以外の二糖、オリゴ糖または多糖を用いることが好ましく、甘味や粘度の上昇を抑制する観点から多糖がより好ましい。当該多糖としてはデキストリンが挙げられる。
【0035】
また、本発明の糖質全量に対する、二糖の含有量は、保存安定性の観点から、好ましくは15~100質量%、より好ましくは25~100質量%、さらに好ましくは50~95質量%であり、前記二糖にはスクロースが含まれる。
さらに、二糖以外の糖質として、オリゴ糖や多糖を用いることが好ましく、甘味や粘度の上昇を抑制する観点から多糖がより好ましい。当該多糖としてはデキストリンが挙げられる。
【0036】
また、本発明の組成物において、二糖とペクチンとの質量比(二糖:ペクチン)は、例えば20:1~3:1であり、好ましくは15:1~3:1であり、より好ましくは14:1~4:1であり、さらに好ましくは13:1~5:1である。また、糖質とペクチンとの質量比(糖質:ペクチン)は、好ましくは16:1~3:1であり、より好ましくは15:1~4:1であり、さらに好ましくは14:1~5:1である。
【0037】
無脂乳固形分
本発明の液状栄養組成物の無脂乳固形分の含有量については、栄養補給の点から、組成物全量に対して6質量%を超え、好ましくは6.1~11質量%であり、より好ましくは6.1~10質量%であり、さらに好ましくは6.1~9質量%である。本発明の液状栄養組成物における無脂乳固形分の含有量は、乳発酵成分の無脂乳固形分の含有量から求めることができる。本発明の乳発酵成分における無脂乳固形分は、全固形分から脂質を除いた成分、すなわちたんぱく質、灰分、糖質で求めることができる。
【0038】
さらに、本発明の組成物において、沈殿または凝集の発生の抑制または飲用感の好適化の観点から、無脂乳固形分とスクロースおよび/またはペクチンとの質量比を調整することが好ましい。具体的には、本発明の組成物において、無脂乳固形分とスクロースとの質量比(無脂乳固形分:スクロース)は、例えば1:0.3~1:20であり、好ましくは1:0.4~1:10であり、さらに好ましくは1:0.4~1:5であり、さらに好ましくは1:0.4~1:2であり、さらに好ましくは1:0.4~1:0.6であり、さらに好ましくは1:0.4~1:0.5である。また、本発明の組成物において、無脂乳固形分とペクチンとの質量比(無脂乳固形分:ペクチン)は、好ましくは1:0.01~1:1であり、より好ましくは1:0.05~1:0.5であり、さらに好ましくは1:0.1~1:0.3である。本発明の組成物において、無脂乳固形分とスクロースおよびペクチンとの質量比(無脂乳固形分:スクロースおよびペクチン)は、例えば1:0.3~1:20であり、好ましくは1:0.45~1:10であり、より好ましくは1:0.5~1:5であり、さらに好ましくは1:0.5~1:2である。
【0039】
また、本発明の組成物において、沈殿または凝集の発生の抑制または飲用感の好適化の観点から、無脂乳固形分と二糖および/またはペクチンとの質量比を調整することが好ましい。具体的には、本発明の組成物において、無脂乳固形分と二糖との質量比(無脂乳固形分:二糖)は、好ましくは1:0.5~1:10であり、より好ましくは1:0.5~1:5であり、さらに好ましくは1:0.6~1:2である。また、本発明の組成物において、無脂乳固形分と二糖およびペクチンとの質量比(無脂乳固形分:二糖およびペクチン)は、好ましくは1:0.6~1:10であり、より好ましくは1:0.7~1:5であり、さらに好ましくは1:0.8~1:2である。
【0040】
食物繊維
本発明の組成物はペクチン以外の食物繊維を含んでいてもよい。食物繊維とは、摂取後に、小腸において消化吸収されない3糖以上の炭水化物をいう。食物繊維としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、食品中に元来存在する可食性のもの、物理的、酵素的もしくは化学的処理により得られたもの、または合成されたものが挙げられる。また、食物繊維は、高分子水溶性食物繊維であっても低分子水溶性食物繊維であっても、不溶性食物繊維であってもよい。かかる食物繊維としては、セルロース、カルボキシメチルセルロース、寒天、キサンタンガム、サイリウム種皮、ジュランガム、低分子アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリデキストロース、アラビアガム、難消化性デキストリン、ビートファイバー、グァーガム、グァーガム酵素分解物、小麦胚芽、湿熱処理デンプン(難消化性デンプン)、レジスタントスターチ、タマリンドシードガム、ローカストビーンガム、プルラン、イヌリン等の多糖類が挙げられる。また、食物繊維として、ガラクトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ビートオリゴ糖、ゲンチオリゴ糖、キシロオリゴ糖、大豆オリゴ糖等のオリゴ糖またはそれらオリゴ糖の組み合わせが挙げられる。高温加熱後もオリゴ糖が減少しない点から、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、キシロオリゴ糖が好ましい。さらに、食物繊維として、ガラクトピラノシル(β1-6)ガラクトピラノシル(β1-4)グルコピラノース、ガラクトピラノシル(β1-3)ガラクトピラノシル(β1-4)グルコピラノース、ガラクトシルラクトース、キシロトリオース、ケストース、ラフィノース、マルトトリイトール、ゲンチオトリオース、スタキオース、ニストース、ゲンチオテトラオース、フラクトフラノシルニストース、α-サイクロデキストリン、マルトテトライトール等の六糖以下のオリゴ糖である難消化性糖質、または、β-サイクロデキストリン、マルトシルβ-サイクロデキストリン等の難消化性糖質を含んでもよい。
【0041】
本発明の組成物における食物繊維の含有量は、前記食物繊維が高分子水溶性食物繊維または不溶性食物繊維である場合には、「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)」の「別添 栄養成分等の分析方法等」に記載のプロスキー法(酵素-重量法)で測定することができる。また、前記食物繊維が低分子水溶性食物繊維である場合には、「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)」の「別添 栄養成分等の分析方法等」に記載の高速液体クロマトグラフ法(酵素-HPLC法)で測定することができる。さらに、前記食物繊維が難消化性デンプンである場合には、AOACインターナショナルのAOAC2009.01という方法で測定することができる。
また、難消化性糖質の含有量も、上記と同様の方法により測定することができる。
【0042】
安定剤
本発明の液状栄養組成物は、乳発酵成分由来たんぱく質を含有するものであるが、乳発酵成分の分離および沈殿を抑制し、組成物中で均一で安定した分散状態を維持するために、ペクチンと併用して、もしくはペクチンの代わりに安定剤を用いることができる。安定剤としては、水溶性大豆多糖類、セルロース、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸、アルギン酸プロピレングリコールエステル、でんぷん、加工でんぷん、カラギナン、キサンタンガム、ジェランガム、タマリンドシードガム、タラガムおよびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0043】
脂質
本発明の組成物は、さらに脂質を含んでいてもよい。本発明の脂質は、食品または医薬用途に使用可能なものであれば特に限定されず、いずれのものであっても良い。このような脂質としては、植物性油脂、動物性油脂、微生物油脂、合成トリグリセリド、リン脂質等が挙げられる。これらは、単独で使用しても、任意に組み合わせて使用しても良い。油脂は特に限定されないが、具体的には、例えば、菜種油、大豆油、パーム油、綿実油、コーン油、ひまわり油、サフラワー油、胡麻油、オリーブ油、亜麻仁油、米油、椿油、荏胡麻油、グレープシードオイル、ピーナッツオイル、アーモンドオイル、アボカドオイル、魚油、牛脂、豚脂、鶏脂、又はMCT(中鎖脂肪酸トリグリセリド)、ジグリセリド、硬化油、エステル交換油等の化学的あるいは酵素的処理等を施して得られる油脂等を用いることができる。リン脂質としては、乳脂肪被膜由来のリン脂質、卵黄リン脂質、大豆リン脂質等が挙げられる。
【0044】
本発明の組成物における脂質の含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、組成物全量に対して、好ましくは1~10質量%であり、より好ましくは2~8質量%であり、さらに好ましくは2.4~8質量%、さらに好ましくは2.4~5質量%である。本発明の組成物における脂質の含有量は、酸分解後にエーテル抽出法により、(「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」(平成11年4月26日衛新第13号))に記載の手順に従って測定することができる。
【0045】
ビタミン
本発明の組成物は、さらに、ビタミンを含んでいてもよい。本発明のビタミンは、食品または医薬用途に使用可能なものであれば特に限定されず、1種であっても複数の混合物であっても良い。
【0046】
本発明の組成物におけるビタミンの含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、組成物全量に対して、好ましくは0.01~10質量%であり、より好ましくは0.05~5質量%であり、さらに好ましくは0.08~1質量%である。本発明の組成物におけるビタミンの含有量は、高速液体クロマトグラフ法により、(「栄養表示基準における栄養成分等の分析方法等について」(平成11年4月26日衛新第13号))に記載の手順に従って測定することができる。
【0047】
ミネラル
本発明の組成物は、さらに、ミネラルを含んでいてもよい。本発明のミネラルは、食品または医薬用途に使用可能なものであれば特に限定されず、1種であっても複数の混合物であっても良い。
【0048】
本発明の組成物におけるミネラルの含有量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、組成物全量に対して、好ましくは0.01~10質量%であり、より好ましくは0.05~5質量%であり、さらに好ましくは0.1~2質量%である。本発明の組成物におけるミネラルの含有量は、灰分の含有量から求めることができる。ここで、上記灰分の含有量は、例えば、「食品表示基準について(平成27年3月30日消食表第139号)」の「別添 栄養成分等の分析方法等」に記載の直接灰化法で測定することができる。
【0049】
熱量
本発明の液状栄養組成物の熱量としては、好ましくは0.8kcal/ml以上、より好ましくは0.8~2kcal/ml、さらに好ましくは1~1.8kcal/mlである。一般的に、液状栄養組成物の熱量が高いと、たんぱく質等の成分の濃度が高くなるため、ゲル化や凝集が起こり易くなる。一方、液状栄養組成物の熱量が低いと、ゲル化や凝集は起こり難くなるものの、本発明において望まれる効果や作用が発揮され難くなる。このため、液状栄養組成物の熱量を適切なレベルに調整することが望ましい。
本発明の組成物が上記熱量を達成するためには、組成物中において、例えば、たんぱく質を3~9質量%、脂質を1~10質量%、および糖質を5~35質量%、好ましくは10~35質量%、の各範囲となるように調整することが好ましい。
本発明の組成物における熱量は、栄養組成物に含まれるたんぱく質、脂質、糖質、食物繊維から算出されるものである。本発明および後述する実施例において、熱量の算出方法は、Atwaterのエネルギー換算係数を用いて算出することができる。
【0050】
本発明の液状栄養組成物の性質(pH、粘度等)は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、任意に設計することができる。
【0051】
本発明の液状栄養組成物のpHは、例えば、3~5であり、好ましくは3.5~4.5、より好ましくは3.8~4.2である。本発明の液状栄養組成物のpHが3を上回ることは、酸味が強く感じられ、飲みづらくなることを防止する上で好ましい。また、本発明の液状栄養組成物のpHが5を下回ることは、酸味が弱く感じられ、酸液状栄養組成物として、酸味と甘味のバランスを向上する上で好ましい。
【0052】
本発明の液状栄養組成物の粘度(20℃)は、B型粘度計により測定された液状栄養組成物の粘度である。本発明の液状栄養組成物の粘度(20℃)は、例えば、15~100mPa・sであり、好ましくは20~80mPa・s、より好ましくは25~60mPa・sである。本発明の液状栄養組成物の粘度(20℃)を100mPa・s以下とすることは、乳発酵成分由来たんぱく質を含有する液状栄養組成物でありながらも、経管投与に適した流動性または低粘性の形態を維持する上で好ましい。
【0053】
本発明の液状栄養組成物を調製直後に、組成物50gを3000×g、30分間で遠心分離して得られた不溶物(沈殿物)の質量は、例えば、2g未満であり、好ましくは1.5g未満、より好ましくは1.1g以下である。
【0054】
また、本発明の組成物は、上記成分と共に、所望により経口または経管摂取上許容可能な添加剤を配合した組成物として提供することができる。経口または経管摂取上許容可能な添加剤としては、必要に応じて、水等の水性媒体、溶剤、溶解補助剤、滑沢剤、乳化剤、等張化剤、保存剤、防腐剤、界面活性剤、調整剤、キレート剤、pH調整剤、緩衝剤、賦形剤、増粘剤、着色剤、芳香剤または香料等が挙げられる。
【0055】
本発明の組成物は液状が好ましく、乳化状態であることがさらに好ましい。
【0056】
本発明の組成物は、上記の各成分を混合、溶解、分散、懸濁する等の公知の手法により配合し、調製することができる。また、本発明の組成物の調製においては、本発明の効果を妨げない限り、上記の各成分の混合物、溶解物、分散物、懸濁物等に、均質化処理、加熱処理または殺菌処理等の処理を施してもよい。さらに、本発明の効果を妨げない限り、均質化処理や殺菌処理の後にさらに上記各成分を添加しても構わない。また、任意工程として、加熱殺菌処理を行う場合、均質化は、予備乳化の後、加熱殺菌の前に行ってもよく、また、予備乳化と加熱滅菌の後に行ってもよい。上記均質化処理は、例えば、ホモジナイザー(均質機)により行うことができる。1段階の均質化で処理する場合の圧力は、20kg/cm以上が挙げられ、200kg/cm以上が好ましく、200~400kg/cmがより好ましい。また、ホモジナイザーによる処理は多段階均質化処理が好ましく、2段階均質化処理がより好ましい。2段階均質化処理において、一段目を10~100kg/cm、好ましくは、20~50kg/cmで行い、二段目を10~400kg/cm、好ましくは、100~300kg/cmで行う。さらに、上記多段階均質化処理を複数回行ってもよく、2回行うのが好ましい。
【0057】
本発明の組成物の容量は、本発明の効果を妨げない限り特に限定されず、例えば、50~1000mLとしてもよく、好ましくは50~500mLであり、より好ましくは100~400mLであり、さらに好ましくは100~300mLであり、さらに好ましくは125~300mLであり、さらに好ましくは125~200mLである。
【0058】
本発明による液状栄養組成物は、主として栄養補給を目的としたものである。本発明の組成物は、単独で、そのまま飲食品または医薬品として摂取する他、他の食品または食品成分と併用したりして適宜常法にしたがって使用できる。その際に、摂取する対象に推奨される、たんぱく質、脂質、糖質、ビタミン、およびミネラル等の摂取量の範囲を維持することが好ましい。
このとき、たんぱく質、脂質、および糖質等の前記摂取量を決定する目的で、例えば、「日本人の食事摂取基準」(日本国厚生労働省による)等のような、健康や保健の観点から各国の政府機関や公的機関、学術機関等が公表または推奨している基準を適宜参照することができる。
【0059】
また、本発明の組成物は、1回の経口または経管摂取量単位として提供することが好ましい。本発明の組成物におけるたんぱく質、スクロースおよびペクチンの1回の経口または経管摂取量単位は、上述した組成物中の含有量と同様とすることができる。本発明の好ましい態様によれば、本発明の組成物は、1回の経口または経管摂取量単位からなり、たんぱく質3~9質量%、スクロース2~10質量%を含んでなり、ペクチンが0.25~1.5質量%である。また、1回の経口または経管摂取量単位として、好ましくは本発明の組成物100~400mLであり、より好ましくは本発明の組成物125~200mLである。
【0060】
また、本発明の組成物は、包装形態で提供することが好ましい。包装形態としては、特に限定されず、ソフトバック(パウチ袋)、ブリックパック(紙容器)、缶容器等の容器等が挙げられる。好ましくは、パック、レトルトパウチ、ソフトバッグ、定形の容器が挙げられる。この場合、使用される容器は、例えば、紙、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、金属を含有するフィルム一つ以上を組合せた袋型あるいは積層型の袋型、成形容器や金属缶、瓶等の通常の形態で提供することができる。ここで、本発明の組成物を容器詰とすることにより、例えば、希釈せずに飲用できる。また、包装の表面には、成分の表示、用量や用法の表示等を付していてもよい。かかる包装形態の好適な例としては、サプリメント、ドリンク剤、医薬製剤、食品、飲料等が挙げられる。ここで、表示は、本発明の組成物を含有する容器、包装材または添付文書に付したものであってよい。また、表示は、本発明の組成物の関連する情報として、チラシ、パンフレット、ポップ、カタログ、ポスター、書籍、DVD等の記憶媒体、電子掲示板やインターネット等での広告等で、本発明の組成物が効果的であることを表示・広告するものであってもよい。
【0061】
本発明の摂取の方法は、本発明の効果を妨げない限り、特に限定されないが、好ましくは、経口摂取、経管摂取(経鼻摂取、経腸栄養、胃ろう等)であり、より好ましくは、経口摂取、経腸栄養、胃ろうである。
【0062】
本発明の組成物としては、医薬品、医薬部外品、ドリンク剤、サプリメント、化粧料、または、特定保健用食品、栄養機能食品もしくは機能性表示食品を含む機能性食品、病者用食品もしくはえん下困難者用食品を含む特別用途食品、栄養補助食品、流動食、医療食等の食品もしくは飲料等の飲食品、経管栄養剤、経腸栄養剤等の栄養補給剤、飼料での提供が挙げられ、好ましくは、病者用食品を含む特別用途食品、機能性表示食品、栄養補助食品、流動食、医療食等の食品または飲料等の飲食品、経管栄養剤、経腸栄養剤である。
【0063】
本発明の摂取の用法は、本発明の効果を妨げない限り、対象の種類、年齢、性別、症状に応じて、当業者が適宜設定することができる。また、本発明の組成物の1日の摂取回数は、1日に1~5回であり、好ましくは、1日に1~4回であり、より好ましくは、1日に1~3回である。
【0064】
本発明の対象は、好ましくは、ヒトであり、より好ましくは、乳幼児、高齢(例えば、60歳以上)の健常者、フレイル等の虚弱者、病後のヒト、長期療養患者、リハビリテーションをしている患者、競技者、スポーツ愛好家等である。
【0065】
また、本発明の別の態様によれば、乳発酵成分由来たんぱく質、スクロースおよびペクチンを配合することを含んでなる液状栄養組成物の保存安定性の改善方法であって、スクロースとペクチンとの質量比(スクロース:ペクチン)が、11:1~3:1である方法が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、乳発酵成分由来たんぱく質、スクロースおよびペクチンを配合することを含んでなる液状栄養組成物における沈殿または凝集の抑制方法であって、スクロースとペクチンとの質量比(スクロース:ペクチン)が、11:1~3:1である方法が提供される。また、本発明のさらに別の態様によれば、乳発酵成分由来たんぱく質、スクロースおよびペクチンを配合することを含んでなる液状栄養組成物における流動性または低粘性の維持または改善方法であって、スクロースとペクチンとの質量比(スクロース:ペクチン)が、11:1~3:1である方法が提供される。
【0066】
上記態様は何れも、本発明の組成物に関する記載に準じて実施することができる。
【実施例
【0067】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術範囲はこれらの例示に限定されるものではない。なお、特に指摘されない限り、本発明で用いられる全てのパーセンテージおよび比率は質量による。また、特に指摘されない限り、本明細書に記載の単位および測定方法はJIS規格による。
【0068】
実施例1
1:製造方法
18質量%還元脱脂粉乳に、乳酸菌を0.15質量%となるように添加し37℃で7時間発酵させた後、ホモジナイザー(高圧ホモジナイザーTwinPanda600、GEAウエストファリアセパレーター株式会社製)(圧力150kg/cm)で均質化処理した。
次に、得られた発酵乳1400g(無脂乳固形分(SNF):16.5質量%、ラクトース:5.6質量%、単糖:2.4質量%)に対し、950mlの温水(60℃)、上白糖228g、ペクチン(CPケルコ社YM115-LJ)25g、難消化性デキストリン(松谷化学工業社パインファイバーC)25g、植物性油脂67g、ミネラル混合物13g、ビタミン混合物2.3g、香料0.3gを添加し、TKホモミキサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて予備乳化(8000rpm、15分間)した後、水を添加して総量を2700gに調製し予備乳化物を得た。上記予備乳化物を高圧ホモジナイザー(Type NS2002H、GEAプロセスエンジニアリング株式会社製)を用いて、一段目50kg/cm、二段目200kg/cmの2段階均質化処理を計2回行って、乳化状の本発明の乳発酵成分由来たんぱく質含有液状栄養組成物(実施例1)を作製した。上記各成分の含有量を表1に示す。なお、表中の各成分の含有量は小数点第2位を四捨五入して示した。実施例1の組成物における、組成物全量に対するSNFの含有量は、8.6質量%であった。実施例1の組成物における、組成物全量に対するたんぱく質の含有量は3.7質量%であった。なお、たんぱく質の測定はケルダール法で行った。また、実施例1の組成物の熱量は1kcal/mlであった。また、上記組成物における、糖質全量に対するスクロースの含有量は66.6質量%であった。さらに、実施例1の組成物のpHは4.0であった。
【0069】
2:沈殿量の評価
調製直後の乳発酵成分由来たんぱく質含有液状栄養組成物50gを3000×g、30分間で遠心分離した後、上清を取り除き、得られた不溶物(沈殿物)の質量を測定した。乳発酵成分由来たんぱく質含有液状栄養組成物の採取量(50g)に占める不溶物質量の割合(質量%)を沈殿量とした。沈殿量が2g未満である場合を良好と評価した。
得られた実施例1の乳発酵成分由来たんぱく質含有組成物について、上記評価方法で沈殿量について評価した。結果を表1に示す。
【0070】
3:安定性の評価
乳発酵成分由来たんぱく質含有液状栄養組成物の調製直後および40℃に7日間保存した後の状態を訓練されたパネラー(10名)により目視にて観察した。
○:調製直後および40℃に7日間保存後ともに乳化安定性は良好であり、油層分離または離水が発生しなかった。
△:調製直後の乳化状態は良好であったが、40℃に7日間保存した後に油層分離、離水が発生した。
×:調製直後に油層分離、顕著な離水が発生した。
得られた実施例1の組成物について、上記評価方法で安定性について評価した。結果を表1に示す。
【0071】
4:飲用感の評価
乳発酵成分由来たんぱく質含有液状栄養組成物の調製直後の飲用感を訓練されたパネラー(10名)により評価した。
○:適度な甘味があり、のどごしがよい。
△:甘味がわずかにあり、のどごしもある。
×:甘味がなく、のどごしも悪い。
得られた実施例1の組成物について、上記評価方法による飲用感の結果を表1に示す。
【0072】
実施例2~6、比較例1~4
実施例2~4、比較例1~3では、糖質について、表1に示した種類、含有量とした以外は、実施例1と同様にして乳発酵成分由来たんぱく質含有液状栄養組成物を製造した。
実施例2~4、比較例1~3では、デキストリン、具体的にはK-SPD(昭和産業社、DE27)、M-SPD(昭和産業社、DE20)、TK-16(松谷化学工業社、DE18)を用いた。実施例2~4、比較例1~3の組成物の組成物全量に対するたんぱく質の含有量はいずれも3.7質量%であった。また、実施例2~4、比較例1~3の組成物の熱量はいずれも、1kcal/mlであった。また、実施例2~4の組成物における、糖質全量に対するスクロースの含有量は、いずれも33.0質量%であった。比較例1~3の組成物における、糖質全量に対するスクロースの含有量は、いずれも0質量%であった。さらに、実施例2~4、比較例1~3の組成物のpHはいずれも4.0であった。
実施例5~6では、たんぱく質について、表1に示した種類、含有量とした以外は、実施例1と同様にして乳発酵成分由来たんぱく質含有液状栄養組成物を製造した。すなわち、実施例5、6では、発酵乳の他に、ホエーたんぱく質分離物(WPI8899、フォンテラ社)(SNF:94質量%、ラクトース:1質量%)、加水分解ホエーペプチドWPH(IF3090、アーラフーズ社)(SNF:94質量%、ラクトース:0.2質量%)を添加した。実施例5、6の組成物における組成物全量に対するたんぱく質含有量は、いずれも3.7質量%であった。また、実施例5、6の組成物の熱量は、いずれも0.91kcal/mlであった。また、実施例5、6の組成物における、糖質全量に対するスクロースの含有量は、それぞれ79.8、79.9質量%であった。さらに、実施例5、6の組成物のpHはいずれも4.0であった。
比較例4では、ペクチンを表1に示した含有量とした以外は、実施例1と同様にして乳発酵成分由来たんぱく質含有液状栄養組成物を製造した。比較例4の組成物における組成物全量に対するたんぱく質の含有量は3.7質量%であった。また、比較例4の組成物の熱量は1kcal/mlであった。また、比較例4の組成物における、糖質全量に対するスクロースの含有量は、66.6質量%であった。さらに、比較例4の組成物のpHは4.0であった。
実施例2~6、比較例1~4について、実施例1と同様に評価した。その結果を表1に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示すように、実施例1~6の乳発酵成分由来たんぱく質含有液状栄養組成物は、沈殿量および安定性のすべてにおいて良好な結果であった。したがって、実施例1~6の組成は、長期保存安定性に優れていたと評価できる。一方、比較例1~4は沈殿量が多く、安定性においても満足いくものではなかった。なお、実施例1~6では、飲用感も良好であった。
【0075】
実施例7
1:製造方法
18質量%還元脱脂粉乳に、乳酸菌を0.15質量%となるように添加し37℃で7時間発酵させた後、ホモゲナイザーで圧力150kg/cmの均質化処理を行った。
次に、得られた発酵乳(無脂乳固形分(SNF):16.5質量%、ラクトース:5.6質量%、単糖:2.4質量%)24kgに対し、17kgの温水(60℃)、ホエーたんぱく質濃縮物(フォンテラ社WPC80)(無脂乳固形分(SNF):90質量%、ラクトース:6質量%)900g、上白糖2400g、ペクチン(CPケルコ社YM115-LJ)600g、難消化性デキストリン(松谷化学工業社パインファイバーC)600g、植物性油脂1600g、ミネラル混合物310g、ビタミン混合物55g、香料7gを添加し、TKホモミキサー(特殊機化工業株式会社製)を用いて予備乳化(8000rpm、15分間)した後、水を添加して総量を65kgに調整した。予備乳化物を、高圧ホモジナイザーを用いて、一段目50kg/cm、二段目300kg/cmを1回、一段目50kg/cm、二段目200kg/cmを1回、計2回の2段階均質化処理を行い、乳発酵成分由来たんぱく質含有液状栄養組成物(実施例7)を作製した。上記各成分の含有量を表2に示す。なお、表中の各成分の含有量は小数点第2位を四捨五入して示した。実施例7の組成物における組成物全量に対するたんぱく質含有量は3.7質量%であった。また、実施例7の組成物の熱量は1kcal/mlであった。また、実施例7の組成物における、糖質全量に対するスクロースの含有量は、54.3質量%であった。さらに、実施例7の組成物のpHは4.0であった。
【0076】
2:沈殿量、安定性の評価
得られた実施例7の乳発酵成分由来たんぱく質含有液状栄養組成物についても、沈殿量、安定性について、実施例1と同様に評価した。その結果を表2に示す。
3:粘度の評価
調製直後の乳発酵成分由来たんぱく質含有液状栄養組成物を20℃に調整し、B型粘度計(TVB-10M、東機産業社製)で、60rpmで測定した。経管投与に適した流動性、飲用感を考慮して、粘度は100mPa・s以下を良好と評価した。
得られた実施例7の組成物について、上記評価方法で粘度について評価した。結果を表2に示す。
【0077】
実施例8、比較例5
また、実施例8、比較例5では、糖質について、表2に示した種類、含有量とした以外は、実施例7と同様にして乳発酵成分由来たんぱく質含有液状栄養組成物を製造した。実施例8、比較例5では、上白糖の他にTK-16(松谷化学工業社、DE18)を用いた。実施例8、比較例5の組成物における組成物全量に対するたんぱく質含有量は、いずれも3.7質量%であった。また、実施例8、比較例5の組成物の熱量はいずれも1kcal/mlであった。また、実施例8、比較例5の組成物における、糖質全量に対するスクロースの含有量は、それぞれ41.9質量%、8.6質量%であった。さらに、実施例8、比較例5の組成物のpHはいずれも4.0であった。
得られた実施例8、比較例5の組成物についても、実施例7と同様に、沈殿量、安定性、粘度を評価した。その結果を表2に示す。
【0078】
【表2】
【0079】
表2に示すように、実施例7~8の組成物は、沈殿量および安定性のすべてにおいて良好な結果であった。実施例7~8の組成物は、長期保存安定性に優れていたと評価できる。一方、比較例5の組成物は、実施例7~8の組成物と粘度は同等であるにも関わらず、沈殿量が多く、安定性においても満足いくものではなかった。このことから、スクロースとペクチンとの質量比を特定のものとした結果、低粘性を維持しながら、長期保存安定性を飛躍的に高めることを実証した。なお、実施例7~8の組成物では、飲用感も良好であった。