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特許7170750基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-04
(45)【発行日】2022-11-14
(54)【発明の名称】基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/316 20060101AFI20221107BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20221107BHJP
   H01L 21/318 20060101ALI20221107BHJP
   C23C 16/56 20060101ALI20221107BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20221107BHJP
【FI】
H01L21/316 P
H01L21/31 B
H01L21/316 X
H01L21/318 C
C23C16/56
C23C16/455
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2020565673
(86)(22)【出願日】2019-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2019049987
(87)【国際公開番号】W WO2020145084
(87)【国際公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-04-30
(31)【優先権主張番号】P 2019003056
(32)【優先日】2019-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】318009126
【氏名又は名称】株式会社KOKUSAI ELECTRIC
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】曽根 新
(72)【発明者】
【氏名】堀池 亮太
(72)【発明者】
【氏名】八田 啓希
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-296814(JP,A)
【文献】特開2011-134793(JP,A)
【文献】特開2005-229028(JP,A)
【文献】特開2001-148381(JP,A)
【文献】国際公開第2017/046921(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/146632(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
H01L 21/31
H01L 21/318
C23C 16/56
C23C 16/455
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1圧力とした処理室内の基板上に形成された膜に対して、水素および酸素を含むガスを供給することで、前記膜を改質させる工程と、
(b)(a)を行った後の前記処理室内に残留した前記水素および酸素を含むガスが気体状態を維持する第2圧力下で、前記処理室内へ不活性ガスを供給し、前記処理室内を排気することで、前記処理室内をパージする工程と、
(c)(b)を行った後の前記処理室内を前記第2圧力よりも低い第3圧力まで減圧させるように、前記処理室内を真空引きする工程と、
を有し、
(b)における前記第2圧力を、(a)における前記第1圧力と同等とする基板処理方法。
【請求項2】
(a)第1圧力とした処理室内の基板上に形成された膜に対して、水素および酸素を含むガスを供給することで、前記膜を改質させる工程と、
(b)(a)を行った後の前記処理室内に残留した前記水素および酸素を含むガスが気体状態を維持する第2圧力下で、前記処理室内へ不活性ガスを供給し、前記処理室内を排気することで、前記処理室内をパージする工程と、
(c)(b)を行った後の前記処理室内を前記第2圧力よりも低い第3圧力まで減圧させるように、前記処理室内を真空引きする工程と、
を有し、
(b)における前記処理室内の設定圧力を、(a)における処理室内の設定圧力と同等とする基板処理方法。
【請求項3】
(a)第1圧力とした処理室内の基板上に形成された膜に対して、水素および酸素を含むガスを供給することで、前記膜を改質させる工程と、
(b)(a)を行った後の前記処理室内に残留した前記水素および酸素を含むガスが気体状態を維持する第2圧力下で、前記処理室内へ不活性ガスを供給し、前記処理室内を排気することで、前記処理室内をパージする工程と、
(c)(b)を行った後の前記処理室内を前記第2圧力よりも低い第3圧力まで減圧させるように、前記処理室内を真空引きする工程と、
を有し、
(e)(a)を行う前の前記処理室内の前記基板に対してシリコンと炭素とで構成される環状構造およびハロゲンを含む原料ガスを供給する工程と、前記処理室内の前記基板に対して窒化剤を供給する工程と、を非同時に行うサイクルを所定回数行うことで、前記基板上に、前記膜として、前記環状構造および窒素を含む膜を形成する工程を更に有する基板処理方法。
【請求項4】
(b)における前記第2圧力は、前記処理室内に残留した前記水素および酸素を含むガスが液化または固化しない圧力である請求項1~3のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項5】
(a)および(b)を、前記処理室内の圧力を制御しつつ行い、(c)を、前記処理室内の圧力を制御することなく行う請求項1~4のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
(a)および(b)を、前記処理室内の圧力を制御しつつ行い、(c)を、前記処理室内を引き切った状態で行う請求項1~5のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
(a)および(b)を、前記処理室内を排気する排気管に設けられた排気バルブの開度を調整しつつ行い、(c)を、前記排気バルブの開度を固定とした状態で行う請求項1~6のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項8】
(e)(a)を行う前の前記処理室内の前記基板に対して、処理ガスを供給することで、前記基板上に前記膜を形成する工程を更に有し、
(a)における前記第1圧力を、(e)における前記処理室内の圧力よりも高くする請求項1または2に記載の基板処理方法。
【請求項9】
(a)における前記第1圧力を、1333Pa以上101325Pa以下とする請求項1~8のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項10】
(a)、(b)、および(c)を、同等の処理温度下で行う請求項1~9のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項11】
(e)、(a)、(b)、および(c)を、同等の処理温度下で行う請求項8に記載の基板処理方法。
【請求項12】
(d)(c)を行った後に、改質後の前記膜を熱アニールする工程を更に有する請求項1~11のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項13】
(b)および(c)では、(a)により前記処理室内に残留した前記水素および酸素を含むガスを除去し、
(d)では、(a)により前記膜中に物理的に吸収された前記水素および酸素を含むガスを脱離させる請求項12に記載の基板処理方法。
【請求項14】
前記サイクルは、前記処理室内の前記基板に対して酸化剤を供給する工程を、前記原料ガスを供給する工程および前記窒化剤を供給する工程のそれぞれと、非同時に行うことを更に含む請求項に記載の基板処理方法。
【請求項15】
(d)(c)を行った後に、改質後の前記膜を熱アニールする工程を更に有し、
(e)、(a)、(b)、(c)、および(d)を、前記原料ガスに含まれる前記環状構造が破壊されることなく保持される条件下で行う請求項に記載の基板処理方法。
【請求項16】
(d)(c)を行った後に、改質後の前記膜を熱アニールする工程を更に有し、
(e)、(a)、(b)、(c)、および(d)を、前記原料ガスに含まれる前記環状構造を構成するシリコンと炭素との化学結合が切断されることなく保持される条件下で行う請求項に記載の基板処理方法。
【請求項17】
(d)(c)を行った後に、改質後の前記膜を熱アニールする工程を更に有し、
(e)、(a)、(b)、(c)、および(d)を、前記処理室内で連続して行う請求項に記載の基板処理方法。
【請求項18】
(a)第1圧力とした処理室内の基板上に形成された膜に対して、水素および酸素を含むガスを供給することで、前記膜を改質させる工程と、
(b)(a)を行った後の前記処理室内に残留した前記水素および酸素を含むガスが気体状態を維持する第2圧力下で、前記処理室内へ不活性ガスを供給し、前記処理室内を排気することで、前記処理室内をパージする工程と、
(c)(b)を行った後の前記処理室内を前記第2圧力よりも低い第3圧力まで減圧させるように、前記処理室内を真空引きする工程と、
を有し、
(b)における前記第2圧力を、(a)における前記第1圧力と同等とする半導体装置の製造方法。
【請求項19】
(a)第1圧力とした処理室内の基板上に形成された膜に対して、水素および酸素を含むガスを供給することで、前記膜を改質させる工程と、
(b)(a)を行った後の前記処理室内に残留した前記水素および酸素を含むガスが気体状態を維持する第2圧力下で、前記処理室内へ不活性ガスを供給し、前記処理室内を排気することで、前記処理室内をパージする工程と、
(c)(b)を行った後の前記処理室内を前記第2圧力よりも低い第3圧力まで減圧させるように、前記処理室内を真空引きする工程と、
を有し、
(b)における前記処理室内の設定圧力を、(a)における処理室内の設定圧力と同等とする半導体装置の製造方法。
【請求項20】
(a)第1圧力とした処理室内の基板上に形成された膜に対して、水素および酸素を含むガスを供給することで、前記膜を改質させる工程と、
(b)(a)を行った後の前記処理室内に残留した前記水素および酸素を含むガスが気体状態を維持する第2圧力下で、前記処理室内へ不活性ガスを供給し、前記処理室内を排気することで、前記処理室内をパージする工程と、
(c)(b)を行った後の前記処理室内を前記第2圧力よりも低い第3圧力まで減圧させるように、前記処理室内を真空引きする工程と、
を有し、
(e)(a)を行う前の前記処理室内の前記基板に対してシリコンと炭素とで構成される環状構造およびハロゲンを含む原料ガスを供給する工程と、前記処理室内の前記基板に対して窒化剤を供給する工程と、を非同時に行うサイクルを所定回数行うことで、前記基板上に、前記膜として、前記環状構造および窒素を含む膜を形成する工程を更に有する半導体装置の製造方法。
【請求項21】
基板が処理される処理室と、
前記処理室内へ水素および酸素を含むガスを供給する水素および酸素を含むガス供給系と、
前記処理室内へ不活性ガスを供給する不活性ガス供給系と、
前記処理室内を排気する排気系と、
前記処理室内の圧力を制御する圧力制御部と、
(a)第1圧力とした前記処理室内の基板上に形成された膜に対して、前記水素および酸素を含むガスを供給することで、前記膜を改質させる処理と、(b)(a)を行った後の前記処理室内に残留した前記水素および酸素を含むガスが気体状態を維持する第2圧力下で、前記処理室内へ不活性ガスを供給し、前記処理室内を排気することで、前記処理室内をパージする処理と、(c)(b)を行った後の前記処理室内を前記第2圧力よりも低い第3圧力まで減圧させるように、前記処理室内を真空引きする処理と、を行わせ、(b)における前記第2圧力を、(a)における前記第1圧力と同等とするように、前記水素および酸素を含むガス供給系、前記不活性ガス供給系、前記排気系、および前記圧力制御部を制御することが可能なよう構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項22】
基板が処理される処理室と、
前記処理室内へ水素および酸素を含むガスを供給する水素および酸素を含むガス供給系と、
前記処理室内へ不活性ガスを供給する不活性ガス供給系と、
前記処理室内を排気する排気系と、
前記処理室内の圧力を制御する圧力制御部と、
(a)第1圧力とした前記処理室内の基板上に形成された膜に対して、前記水素および酸素を含むガスを供給することで、前記膜を改質させる処理と、(b)(a)を行った後の前記処理室内に残留した前記水素および酸素を含むガスが気体状態を維持する第2圧力下で、前記処理室内へ不活性ガスを供給し、前記処理室内を排気することで、前記処理室内をパージする処理と、(c)(b)を行った後の前記処理室内を前記第2圧力よりも低い第3圧力まで減圧させるように、前記処理室内を真空引きする処理と、を行わせ、(b)における前記処理室内の設定圧力を、(a)における処理室内の設定圧力と同等とするように、前記水素および酸素を含むガス供給系、前記不活性ガス供給系、前記排気系、および前記圧力制御部を制御することが可能なよう構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項23】
基板が処理される処理室と、
前記処理室内へ水素および酸素を含むガスを供給する水素および酸素を含むガス供給系と、
前記処理室内へ不活性ガスを供給する不活性ガス供給系と、
前記処理室内へシリコンと炭素とで構成される環状構造およびハロゲンを含む原料ガスを供給する原料ガス供給系と、
前記処理室内へ窒化剤を供給する窒化剤供給系と、
前記処理室内を排気する排気系と、
前記処理室内の圧力を制御する圧力制御部と、
(a)第1圧力とした前記処理室内の基板上に形成された膜に対して、前記水素および酸素を含むガスを供給することで、前記膜を改質させる処理と、(b)(a)を行った後の前記処理室内に残留した前記水素および酸素を含むガスが気体状態を維持する第2圧力下で、前記処理室内へ不活性ガスを供給し、前記処理室内を排気することで、前記処理室内をパージする処理と、(c)(b)を行った後の前記処理室内を前記第2圧力よりも低い第3圧力まで減圧させるように、前記処理室内を真空引きする処理と、を行わせ、(e)(a)を行う前の前記処理室内の前記基板に対して前記原料ガスを供給する処理と、前記処理室内の前記基板に対して前記窒化剤を供給する処理と、を非同時に行うサイクルを所定回数行うことで、前記基板上に、前記膜として、前記環状構造および窒素を含む膜を形成する処理を行わせるように、前記水素および酸素を含むガス供給系、前記不活性ガス供給系、前記原料ガス供給系、前記窒化剤供給系、前記排気系、および前記圧力制御部を制御することが可能なよう構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項24】
(a)第1圧力とした処理室内の基板上に形成された膜に対して、水素および酸素を含むガスを供給することで、前記膜を改質させる手順と、
(b)(a)を行った後の前記処理室内に残留した前記水素および酸素を含むガスが気体状態を維持する第2圧力下で、前記処理室内へ不活性ガスを供給し、前記処理室内を排気することで、前記処理室内をパージする手順と、
(c)(b)を行った後の前記処理室内を前記第2圧力よりも低い第3圧力まで減圧させるように、前記処理室内を真空引きする手順と、
(b)における前記第2圧力を、(a)における前記第1圧力と同等とする手順と、
をコンピュータによって基板処理装置に実行させるプログラム。
【請求項25】
(a)第1圧力とした処理室内の基板上に形成された膜に対して、水素および酸素を含むガスを供給することで、前記膜を改質させる手順と、
(b)(a)を行った後の前記処理室内に残留した前記水素および酸素を含むガスが気体状態を維持する第2圧力下で、前記処理室内へ不活性ガスを供給し、前記処理室内を排気することで、前記処理室内をパージする手順と、
(c)(b)を行った後の前記処理室内を前記第2圧力よりも低い第3圧力まで減圧させるように、前記処理室内を真空引きする手順と、
(b)における前記処理室内の設定圧力を、(a)における処理室内の設定圧力と同等とする手順と、
をコンピュータによって基板処理装置に実行させるプログラム。
【請求項26】
(a)第1圧力とした処理室内の基板上に形成された膜に対して、水素および酸素を含むガスを供給することで、前記膜を改質させる手順と、
(b)(a)を行った後の前記処理室内に残留した前記水素および酸素を含むガスが気体状態を維持する第2圧力下で、前記処理室内へ不活性ガスを供給し、前記処理室内を排気することで、前記処理室内をパージする手順と、
(c)(b)を行った後の前記処理室内を前記第2圧力よりも低い第3圧力まで減圧させるように、前記処理室内を真空引きする手順と、
(e)(a)を行う前の前記処理室内の前記基板に対してシリコンと炭素とで構成される環状構造およびハロゲンを含む原料ガスを供給する手順と、前記処理室内の前記基板に対して窒化剤を供給する手順と、を非同時に行うサイクルを所定回数行うことで、前記基板上に、前記膜として、前記環状構造および窒素を含む膜を形成する手順と、
をコンピュータによって基板処理装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程の一工程として、H2Oガス等の水素および酸素を含むガスを用い、基板上にシリコン酸化膜(SiO膜)等の膜を形成する処理が行われることがある(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2013/146632号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、水素および酸素を含むガスが要因となる異物の発生を抑制することが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様によれば、
(a)第1圧力とした処理室内の基板上に形成された膜に対して、水素および酸素を含むガスを供給することで、前記膜を改質させる工程と、
(b)(a)を行った後の前記処理室内に残留した前記水素および酸素を含むガスが気体状態を維持する第2圧力下で、前記処理室内へ不活性ガスを供給し、前記処理室内を排気することで、前記処理室内をパージする工程と、
(c)(b)を行った後の前記処理室内を前記第2圧力よりも低い第3圧力まで減圧させるように、前記処理室内を真空引きする工程と、
を行う技術が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本開示によれば、水素および酸素を含むガスが要因となる異物の発生を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の一実施形態で好適に用いられる基板処理装置の縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉部分を縦断面図で示す図である。
図2】本開示の一実施形態で好適に用いられる基板処理装置の縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉部分を図1のA-A線断面図で示す図である。
図3】本開示の一実施形態で好適に用いられる基板処理装置のコントローラの概略構成図であり、コントローラの制御系をブロック図で示す図である。
図4】本開示の一実施形態の基板処理シーケンスを示すフロー図である。
図5】原料として用いられる1,1,3,3-テトラクロロ-1,3-ジシラシクロブタンの化学構造式を示す図である。
図6】本開示の一実施形態の基板処理シーケンスを用いてウエハ上に形成された膜上のパーティクルの数と、比較例の基板処理シーケンスを用いてウエハ上に形成された膜上のパーティクルの数を比較して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
近年、半導体装置(デバイス)の製造工程において処理温度の低温化が求められている。それに伴い、基板としてのウエハ上に膜を形成する成膜工程だけでなく、膜特性を改善するための改質工程についても研究が進められている。
【0009】
低温成膜や膜の改質処理を実施する際に、処理室内において、その膜に対し、水素(H)および酸素(O)を含むガスとしてH2Oガス(水分)を供給する工程が行われることがある。H2Oガスを供給する工程が行われた後、処理室内に残留する水分を速やかに除去するために、H2Oガス供給工程後すぐに処理室内の真空引き(減圧排気)を実施することがある。このとき、一旦気化したH2Oが、減圧状況下で液化したり固化したりすることにより、水滴や氷が発生してしまう場合がある。この水滴や氷がウエハの表面やウエハを支持するボートのボート柱等の表面に形成された膜にぶつかり、膜剥がれ等が生じる等により、物理的に異物が発生する課題があることを本件開示者等は見出した。
【0010】
上述した課題に対し、成膜工程中または成膜工程後にH2Oガスを供給した後、H2Oガス供給時の処理室内の設定圧力をそのまま維持した状態で窒素(N2)ガスで処理室内を置換(以下、同圧N2パージまたは同圧N2置換と称する。)し、その後に処理室内を真空引きし減圧することで、H2Oガスの相変化に起因する異物を低減することができることを本件開示者等は見出した。本開示は、本件開示者等が見出した上記知見に基づくものである。
【0011】
<本開示の一実施形態>
以下、本開示の一実施形態について、図1図5を用いて説明する。
【0012】
(1)基板処理装置の構成
図1に示すように、処理炉202は加熱機構(温度調整部)としてのヒータ207を有する。ヒータ207は円筒形状であり、保持板に支持されることにより垂直に据え付けられている。ヒータ207は、ガスを熱で活性化(励起)させる活性化機構(励起部)としても機能する。
【0013】
ヒータ207の内側には、ヒータ207と同心円状に反応管203が配設されている。反応管203は、例えば石英(SiO2)または炭化シリコン(SiC)等の耐熱性材料により構成され、上端が閉塞し下端が開口した円筒形状に形成されている。反応管203の筒中空部には、処理室201が形成される。処理室201は、基板としてのウエハ200を収容可能に構成されている。
【0014】
処理室201内には、ノズル249a,249bが、反応管203の下部側壁を貫通するように設けられている。ノズル249a,249bには、ガス供給管232a,232bがそれぞれ接続されている。
【0015】
ガス供給管232a,232bには、ガス流の上流側から順に、流量制御器(流量制御部)であるマスフローコントローラ(MFC)241a,241bおよび開閉弁であるバルブ243a,243bがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aのバルブ243aよりも下流側には、ガス供給管232cが接続されている。ガス供給管232bのバルブ243bよりも下流側には、ガス供給管232d,232eがそれぞれ接続されている。ガス供給管232c,232d,232eには、ガス流の上流側から順に、MFC241c,241d,241eおよびバルブ243c,243d,243eがそれぞれ設けられている。
【0016】
図2に示すように、ノズル249a,249bは、反応管203の内壁とウエハ200との間における平面視において円環状の空間に、反応管203の内壁の下部より上部に沿って、ウエハ200の配列方向上方に向かって立ち上がるようにそれぞれ設けられている。すなわち、ノズル249a,249bは、ウエハ200が配列されるウエハ配列領域の側方の、ウエハ配列領域を水平に取り囲む領域に、ウエハ配列領域に沿うようにそれぞれ設けられている。ノズル249a,249bの側面には、ガスを供給するガス供給孔250a,250bがそれぞれ設けられている。ガス供給孔250a,250bは、反応管203の中心を向くようにそれぞれ開口しており、ウエハ200に向けてガスを供給することが可能となっている。ガス供給孔250a,250bは、反応管203の下部から上部にわたって複数設けられている。
【0017】
ガス供給管232aからは、原料(原料ガス)として、例えば、シリコン(Si)と炭素(C)とで構成される環状構造およびハロゲンを含むガスが、MFC241a、バルブ243a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給される。原料は、SiソースおよびCソースとして作用する。原料としては、例えば、1,1,3,3-テトラクロロ-1,3-ジシラシクロブタン(C24Cl4Si2、略称:TCDSCB)ガスを用いることができる。図5に、TCDSCBの化学構造式を示す。TCDSCBは、SiとCとで構成される環状構造を含み、ハロゲンとしての塩素(Cl)を含んでいる。以下、このSiとCとで構成される環状構造を、便宜上、単に、環状構造とも称する。TCDSCBに含まれる環状構造の形状は四角形である。この環状構造は、SiとCとが交互に結合してなり、4つのSi-C結合を含んでおり、2つのSi原子と2つのC原子を含んでいる。この環状構造におけるSiにはClが結合しており、CにはHが結合している。すなわち、TCDSCBは、Si-C結合のほか、Si-Cl結合およびC-H結合をそれぞれ含んでいる。
【0018】
ガス供給管232bからは、反応体(反応ガス)として、例えば、窒素(N)含有ガスが、MFC241b、バルブ243b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給される。N含有ガスとしては、例えば、窒化剤(窒化ガス)である窒化水素系ガスを用いることができる。窒化水素系ガスは、NおよびHを含み、NおよびHの2元素のみで構成される物質ともいえ、Nソースとして作用する。窒化水素系ガスとしては、例えば、アンモニア(NH3)ガスを用いることができる。
【0019】
ガス供給管232c,232dからは、不活性ガスとしての窒素(N2)ガスが、それぞれ、MFC241c,241d、バルブ243c,243d、ガス供給管232a,232b、ノズル249a,249bを介して処理室201内へ供給される。N2ガスは、パージガス、キャリアガス、希釈ガス等として作用する。
【0020】
ガス供給管232eからは、HおよびOを含むガスが、MFC241e、バルブ243e、ガス供給管232b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給される。HおよびOを含むガスは、酸化剤(酸化ガス)、すなわち、Oソースとして作用する。HおよびOを含むガスとしては、例えば、水蒸気(H2Oガス)を用いることができる。
【0021】
主に、ガス供給管232a、MFC241a、バルブ243aにより、原料供給系が構成される。主に、ガス供給管232b、MFC241b、バルブ243bにより、窒化剤供給系が構成される。主に、ガス供給管232e、MFC241e、バルブ243eにより、HおよびOを含むガス供給系が構成される。主に、ガス供給管232c,232d、MFC241c,241d、バルブ243c,243dにより、不活性ガス供給系が構成される。
【0022】
上述の各種供給系のうち、いずれか、或いは、全ての供給系は、バルブ243a~243eやMFC241a~241e等が集積されてなる集積型供給システム248として構成されていてもよい。集積型供給システム248は、ガス供給管232a~232eのそれぞれに対して接続され、ガス供給管232a~232e内への各種ガスの供給動作、すなわち、バルブ243a~243eの開閉動作やMFC241a~241eによる流量調整動作等が、後述するコントローラ121によって制御されるように構成されている。集積型供給システム248は、一体型、或いは、分割型の集積ユニットとして構成されており、ガス供給管232a~232e等に対して集積ユニット単位で着脱を行うことができ、集積型供給システム248のメンテナンス、交換、増設等を、集積ユニット単位で行うことが可能なように構成されている。
【0023】
反応管203の側壁下方には、処理室201内の雰囲気を排気する排気管231が接続されている。排気管231には、処理室201内の圧力を検出する圧力検出器(圧力検出部)としての圧力センサ245および圧力制御部(排気バルブ)としてのAPC(Auto Pressure Controller)バルブ244を介して、真空排気装置としての真空ポンプ246が接続されている。APCバルブ244は、真空ポンプ246を作動させた状態で弁を開閉することで、処理室201内の真空排気および真空排気停止を行うことができ、更に、真空ポンプ246を作動させた状態で、圧力センサ245により検出された圧力情報に基づいて弁開度を調節することで、処理室201内の圧力を制御(調整)することができるように構成されている。主に、排気管231、圧力センサ245、APCバルブ244により、排気系が構成される。真空ポンプ246を排気系に含めて考えてもよい。
【0024】
反応管203の下方には、反応管203の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシールキャップ219が設けられている。シールキャップ219は、例えばSUS等の金属材料により構成され、円盤状に形成されている。シールキャップ219の上面には、反応管203の下端と当接するシール部材としてのOリング220が設けられている。シールキャップ219の下方には、後述するボート217を回転させる回転機構267が設置されている。回転機構267の回転軸255は、シールキャップ219を貫通してボート217に接続されている。回転機構267は、ボート217を回転させることでウエハ200を回転させるように構成されている。シールキャップ219は、反応管203の外部に設置された昇降機構としてのボートエレベータ115によって垂直方向に昇降されるように構成されている。ボートエレベータ115は、シールキャップ219を昇降させることで、ウエハ200を処理室201内外に搬入および搬出(搬送)する搬送装置(搬送機構)として構成されている。
【0025】
基板支持具としてのボート217は、複数本の基板保持柱としてのボート柱217aを備えており、ボート柱217aのそれぞれに設けられた複数の保持溝により、複数枚、例えば25~200枚のウエハ200を、それぞれ水平姿勢で、かつ、互いに中心を揃えた状態で垂直方向に整列させて多段に支持するように、すなわち、間隔を空けて配列させるように構成されている。ボート217は、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される。ボート217の下部には、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される断熱板218が水平姿勢で多段に支持されている。
【0026】
反応管203内には、温度検出器としての温度センサ263が設置されている。温度センサ263により検出された温度情報に基づきヒータ207への通電具合を調整することで、処理室201内の温度が所望の温度分布となる。温度センサ263は、反応管203の内壁に沿って設けられている。
【0027】
図3に示すように、制御部(制御手段)であるコントローラ121は、CPU(Central Processing Unit)121a、RAM(Random Access Memory)121b、記憶装置121c、I/Oポート121dを備えたコンピュータとして構成されている。RAM121b、記憶装置121c、I/Oポート121dは、内部バス121eを介して、CPU121aとデータ交換可能なように構成されている。コントローラ121には、例えばタッチパネル等として構成された入出力装置122が接続されている。
【0028】
記憶装置121cは、例えばフラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)等で構成されている。記憶装置121c内には、基板処理装置の動作を制御する制御プログラムや、後述する基板処理の手順や条件等が記載されたプロセスレシピ等が、読み出し可能に格納されている。プロセスレシピは、後述する基板処理工程における各手順をコントローラ121に実行させ、所定の結果を得ることが出来るように組み合わされたものであり、プログラムとして機能する。以下、このプロセスレシピや制御プログラム等を総称して、単に、プログラムともいう。また、プロセスレシピを、単に、レシピともいう。本明細書においてプログラムという言葉を用いた場合は、レシピ単体のみを含む場合、制御プログラム単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。RAM121bは、CPU121aによって読み出されたプログラムやデータ等が一時的に保持されるメモリ領域(ワークエリア)として構成されている。
【0029】
I/Oポート121dは、上述のMFC241a~241e、バルブ243a~243e、圧力センサ245、APCバルブ244、ヒータ207、温度センサ263、真空ポンプ246、回転機構267、ボートエレベータ115等に接続されている。
【0030】
CPU121aは、記憶装置121cから制御プログラムを読み出して実行すると共に、入出力装置122からの操作コマンドの入力等に応じて記憶装置121cからレシピを読み出すように構成されている。CPU121aは、読み出したレシピの内容に沿うように、MFC241a~241eによる各種ガスの流量調整動作、バルブ243a~243eの開閉動作、APCバルブ244の開閉動作および圧力センサ245に基づくAPCバルブ244による圧力調整動作、真空ポンプ246の起動および停止、温度センサ263に基づくヒータ207の温度調整動作、回転機構267によるボート217の回転および回転速度調節動作、ボートエレベータ115によるボート217の昇降動作等を制御することが可能なように構成されている。
【0031】
コントローラ121は、外部記憶装置123に格納された上述のプログラムを、コンピュータにインストールすることにより構成することができる。外部記憶装置123は、例えば、HDD等の磁気ディスク、CD等の光ディスク、MO等の光磁気ディスク、USBメモリ等の半導体メモリを含む。記憶装置121cや外部記憶装置123は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体として構成されている。以下、これらを総称して、単に、記録媒体ともいう。本明細書において記録媒体という言葉を用いた場合は、記憶装置121c単体のみを含む場合、外部記憶装置123単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。なお、コンピュータへのプログラムの提供は、外部記憶装置123を用いず、インターネットや専用回線等の通信手段を用いて行ってもよい。
【0032】
(2)基板処理工程
上述の基板処理装置を用い、半導体装置の製造工程の一工程として、基板としてのウエハ200上に所望の膜を形成し、改質する基板処理シーケンス例について、主に、図4を用いて説明する。以下の説明において、基板処理装置を構成する各部の動作はコントローラ121により制御される。
【0033】
図4に示す基板処理シーケンスでは、
第1圧力とした処理室201内のウエハ200上に形成された膜に対して、HおよびOを含むガスとしてH2Oガスを供給することで、膜を改質させるH2Oアニールステップと、
2Oアニールステップを行った後の処理室201内に残留したH2Oガスが気体状態を維持する第2圧力下で、処理室201内へ不活性ガスとしてN2ガスを供給し、処理室201内を排気することで、処理室201内をパージする同圧N2パージステップと、
同圧N2パージステップを行った後の処理室201内を第2圧力よりも低い第3圧力まで減圧させるように、処理室201内を真空引きする真空引きステップと、
を行う。
【0034】
また、真空引きステップを行った後に、改質後の膜を熱アニールするN2アニールステップを更に行う。
【0035】
また、H2Oアニールステップを行う前の処理室201内のウエハ200に対して、SiとCとで構成される環状構造およびハロゲンとしてのClを含む原料ガスとしてTCDSCBガスを供給するステップ1と、ウエハ200に対して反応ガスとして窒化剤であるNH3ガスを供給するステップ2と、を非同時に行うサイクルを所定回数行うことで、ウエハ200上に、膜として、SiとCとで構成される環状構造およびNを含むSiCN膜を形成する成膜ステップを行う。原料ガスや反応ガス等の基板処理に寄与するガスを総称して処理ガスともいう。
【0036】
本基板処理シーケンスでは、成膜ステップの後に行われる、H2Oアニールステップにおいて、SiCN膜をSiOCN膜またはSiOC膜へ改質させることとなる。SiOCN膜またはSiOC膜を、便宜上、SiOC(N)膜とも称する。SiOC(N)膜は、少なくともSiとCとで構成される環状構造およびOを含む膜となる。
【0037】
なお、成膜ステップ、H2Oアニールステップ、同圧N2パージステップ、真空引きステップ、N2アニールステップの各ステップは、ノンプラズマの雰囲気下で行われる。各ステップをノンプラズマの雰囲気下で行うことにより、各ステップで生じさせる反応等を精度よく行うことが可能となり、各ステップで行う処理の制御性を高めることが可能となる。
【0038】
本明細書では、図4に示す基板処理シーケンスを、便宜上、以下のように示すこともある。以下の変形例等の説明においても、同様の表記を用いることとする。
【0039】
(TCDSCB→NH3)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ SiOC(N)
【0040】
本明細書において「ウエハ」という言葉を用いた場合は、ウエハそのものを意味する場合や、ウエハとその表面に形成された所定の層や膜との積層体を意味する場合がある。本明細書において「ウエハの表面」という言葉を用いた場合は、ウエハそのものの表面を意味する場合や、ウエハ上に形成された所定の層等の表面を意味する場合がある。本明細書において「ウエハ上に所定の層を形成する」と記載した場合は、ウエハそのものの表面上に所定の層を直接形成することを意味する場合や、ウエハ上に形成されている層等の上に所定の層を形成することを意味する場合がある。本明細書において「基板」という言葉を用いた場合も、「ウエハ」という言葉を用いた場合と同義である。
【0041】
(ウエハチャージおよびボートロード)
複数枚のウエハ200がボート217に装填(ウエハチャージ)される。その後、図1に示すように、複数枚のウエハ200を支持したボート217は、ボートエレベータ115によって持ち上げられて処理室201内へ搬入(ボートロード)される。この状態で、シールキャップ219は、Oリング220を介して反応管203の下端をシールした状態となる。
【0042】
(圧力調整および温度調整)
処理室201内、すなわち、ウエハ200が存在する空間が所望の圧力(真空度)となるように、真空ポンプ246によって真空排気(減圧排気)される。この際、処理室201内の圧力は圧力センサ245で測定され、この測定された圧力情報に基づきAPCバルブ244がフィードバック制御される。また、処理室201内のウエハ200が所望の処理温度となるように、ヒータ207によって加熱される。この際、処理室201内が所望の温度分布となるように、温度センサ263が検出した温度情報に基づきヒータ207への通電具合がフィードバック制御される。また、回転機構267によるウエハ200の回転を開始する。真空ポンプ246の稼働、ウエハ200の加熱および回転は、いずれも、少なくともウエハ200に対する処理が終了するまでの間は継続して行われる。
【0043】
(成膜ステップ)
その後、以下のステップ1及びステップ2を順次実施する。
【0044】
[ステップ1]
このステップでは、処理室201内に収容されたウエハ200に対して、原料としてTCDSCBガスを供給する。具体的には、バルブ243aを開き、ガス供給管232a内へTCDSCBガスを流す。TCDSCBガスは、MFC241aにより流量調整され、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、排気管231から排気される。このとき、ウエハ200に対してTCDSCBガスが供給される。このときバルブ243c,243dを開き、ガス供給管232c,232d内へN2ガスを流すようにしてもよい。
【0045】
本ステップにおける処理条件としては、
処理温度:200~400℃、好ましくは250~350℃
処理圧力:133~2666Pa
TCDSCBガス供給流量:1~2000sccm
2ガス供給流量(各ガス供給管):0~10000sccm
各ガス供給時間:1~120秒、好ましくは5~60秒
が例示される。
【0046】
なお、本明細書における「200~400℃」等の数値範囲の表記は、下限値および上限値がその範囲に含まれることを意味する。例えば「200~400℃」は、「200℃以上400℃以下」を意味する。他の数値範囲についても同様である。
【0047】
上述の処理条件、特に温度条件は、TCDSCBに含まれるSiとCとで構成される環状構造の少なくとも一部を、破壊することなく保持(維持)することができる条件である。すなわち、上述の処理条件は、ウエハ200に対して供給されるTCDSCBガス(複数のTCDSCB分子)に含まれる複数の環状構造のうち、少なくとも一部の環状構造が破壊されることなくそのままの形で保持される条件である。つまり、ウエハ200に対して供給されるTCDSCBガスに含まれる複数の環状構造を構成する複数のSi-C結合のうち、少なくとも一部のSi-C結合がそのままの形で保持される条件である。上述のように、本明細書では、SiとCとで構成される環状構造を、単に、環状構造とも称する。
【0048】
上述の条件下でウエハ200に対してTCDSCBガスを供給することにより、ウエハ200の最表面上に、環状構造およびハロゲンとしてのClを含む第1層(初期層)が形成される。すなわち、第1層として、SiとCとで構成される環状構造およびClを含む層が形成される。第1層中には、TCDSCBガスに含まれる複数の環状構造のうち、少なくとも一部の環状構造が、破壊されることなくそのままの形で取り込まれる。なお、第1層は、環状構造を構成する複数のSi-C結合のうち一部の結合が破壊されることで生成された鎖状構造を含む場合がある。また、第1層は、Si-Cl結合およびC-H結合のうち少なくともいずれかを含む場合がある。
【0049】
ウエハ200上に第1層を形成した後、バルブ243aを閉じ、処理室201内へのTCDSCBガスの供給を停止する。そして、処理室201内を真空排気し、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する。このとき、バルブ243c,243dを開き、処理室201内へN2ガスを供給する。N2ガスはパージガスとして作用する。
【0050】
原料としては、TCDSCBガスの他、1,1,3,3-テトラクロロ-1,3-ジシラシクロペンタン(C36Cl4Si2)ガス等を用いることができる。すなわち、原料に含まれるSiとCとで構成される環状構造の形状は、四角形である場合に限らない。また、この環状構造は、SiとCとが交互に結合してなる場合に限らない。また、原料としては、1,1,3,3-テトラフルオロ-1,3-ジシラシクロブタン(C244Si2)ガス等を用いることもできる。すなわち、原料に含まれるハロゲンは、Clに限らず、フッ素(F)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等であってもよい。
【0051】
不活性ガスとしては、N2ガスの他、例えば、Arガス、Heガス、Neガス、Xeガス等の各種希ガスを用いることが可能である。この点は、後述するステップ2、パージステップ、H2Oアニールステップ、同圧N2パージステップ、真空引きステップ及びN2アニールステップにおいても同様である。
【0052】
[ステップ2]
ステップ1が終了した後、処理室201内のウエハ200、すなわち、ウエハ200上に形成された第1層に対して、反応体として窒化剤であるNH3ガスを供給する。具体的には、バルブ243b~243dの開閉制御を、ステップ1におけるバルブ243a,243c,243dの開閉制御と同様の手順で行う。NH3ガスは、MFC241bにより流量調整され、ノズル249bを介して処理室201内へ供給され、排気管231から排気される。このとき、ウエハ200に対してNH3ガスが供給される。
【0053】
本ステップにおける処理条件としては、
処理温度:200~400℃、好ましくは250~350℃
処理圧力:133~3999Pa
NH3ガス供給流量:100~10000sccm
ガス供給時間:1~120秒
が例示される。他の処理条件は、ステップ1における処理条件と同様とする。
【0054】
上述の処理条件、特に温度条件は、ステップ1でウエハ200上に形成された第1層中に含まれるSiとCとで構成される環状構造の少なくとも一部を、破壊することなく保持(維持)することができる条件である。すなわち、上述の処理条件は、ウエハ200上の第1層中に含まれる複数の環状構造のうち、少なくとも一部の環状構造が破壊されることなくそのままの形で保持される条件である。つまり、ウエハ200上の第1層中に含まれる複数の環状構造を構成する複数のSi-C結合のうち、少なくとも一部のSi-C結合が切断されることなくそのままの形で保持される条件である。この環状構造を構成するSi-C結合は強固で、SiからCが脱離しにくい状態となる。
【0055】
上述の条件下でウエハ200に対してNH3ガスを供給することにより、第1層の少なくとも一部を改質(窒化)させることができる。それにより、第1層中からClやH等を脱離させると共に、NH3ガスに含まれるNを、NにHが結合した状態で、第1層中に取り込ませることが可能となる。すなわち、第1層に含まれる環状構造を構成するSiに、NH3ガスに含まれるNを、NにHが結合した状態で結合させることが可能となる。このNHの状態でSiに結合したSi-N結合は弱く、SiからNが脱離しやすい状態となる。このようにして第1層を窒化させることで、環状構造およびClを含む層である第1層を、環状構造およびNを含む層である第2層に変換させることができる。
【0056】
すなわち、上述の条件下でウエハ200に対してNH3ガスを供給することにより、第1層に含まれる環状構造の少なくとも一部を、破壊することなく保持したまま、第2層中にそのまま取り込ませる(残存させる)ことが可能となる。すなわち、第1層の窒化を、第1層に含まれる複数の環状構造のうち、少なくとも一部の環状構造をそのままの形で残すよう、不飽和(不飽和窒化)とすることが可能となる。第1層が窒化されることで、ウエハ200上に、第2層として、SiとCとで構成される環状構造およびNを含む層であるシリコン炭窒化層(SiCN層)が形成される。このSiCN層は、Si、C、およびNを含みO非含有の層となる。なお、第2層中に含まれるCは、SiとCとで構成される環状構造を保持した状態で、第2層中に取り込まれることとなり、第2層中に含まれるNは、NがHに結合した状態で、第2層中に取り込まれることとなる。すなわち、第2層中に含まれるCは、強固なSi-C結合に起因して、脱離しにくい状態となり、第2層中に含まれるNは、脆弱なSi-N結合に起因して、脱離しやすい状態となる。
【0057】
ウエハ200上に第2層を形成した後、バルブ243bを閉じ、処理室201内へのNH3ガスの供給を停止する。そして、ステップ1と同様の処理手順により、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する。
【0058】
窒化剤(N含有ガス)としては、NH3ガスの他、ジアゼン(N22)ガス、ヒドラジン(N24)ガス、N38ガス、これらの化合物を含むガス等を用いることが可能である。
【0059】
[所定回数実施]
ステップ1およびステップ2を非同時に、すなわち、同期させることなく交互に行うサイクルを所定回数(n回、nは1以上の整数)行うことにより、ウエハ200上に、第1膜として、SiとCとで構成される環状構造およびNを含む膜であるSiCN膜が形成される。上述のサイクルは、複数回繰り返すのが好ましい。この第1膜(SiCN膜)は、Si、C、およびNを含みO非含有の膜となるが、Clと、弱い結合をもつNと、が残留しているため、水分の吸収、吸着が起こり易い膜となる。
【0060】
(パージステップ)
成膜ステップが終了した後、ガス供給管232c,232dのそれぞれからN2ガスを処理室201内へ供給し、排気管231から排気する。これにより、処理室201内がパージされ、処理室201内に残留するガスや反応副生成物等が処理室201内から除去される。
【0061】
(H2Oアニールステップ)
パージステップが終了した後、表面に第1膜が形成されたウエハ200を処理室201内に収容した状態で、第1圧力とした処理室201内のウエハ200、すなわち、ウエハ200上に形成された第1膜としてのSiCN膜に対して、HおよびOを含むガスとしてH2Oガスを供給する。具体的には、処理室201内の設定圧力(圧力設定値)を第1圧力に設定し、処理室201内の実圧力が第1圧力となるように、APCバルブ244の開度を調整しつつ(変化させつつ)、すなわち、処理室201内の圧力を制御しつつ(調整しつつ)、バルブ243e,243c,243dの開閉制御を、ステップ1におけるバルブ243a,243c,243dの開閉制御と同様の手順で行う。H2Oガスは、MFC241eにより流量調整され、ノズル249bを介して処理室201内へ供給され、排気管231から排気される。このとき、ウエハ200に対してH2Oガスが供給される。
【0062】
本ステップにおける処理条件としては、
処理温度:200~600℃、好ましくは250~500℃
処理圧力(第1圧力):1333~101325Pa、好ましくは53329~101325Pa
2Oガス供給流量:50~10000sccm
2Oガス供給時間:10~360分、好ましくは60~360分
が例示される。他の処理条件は、ステップ1における処理条件と同様とする。なお、本ステップにおける処理圧力(第1圧力)、すなわち、本ステップにおける処理室201内の圧力を、成膜ステップにおける処理室201内の圧力よりも高くするのが好ましい。
【0063】
上述の処理条件、特に温度条件および圧力条件は、成膜ステップにおいてウエハ200上に形成された第1膜中に含まれるSiとCとで構成される環状構造の少なくとも一部を、破壊することなく保持(維持)しつつ、第1膜中に含まれるNをOに置換可能な条件である。ここで、処理温度、処理圧力が高すぎると、第1膜中に含まれる環状構造が壊れ、膜中のCが脱離しやすくなる。一方、処理温度、処理圧力が低すぎると、第1膜中に含まれるNをOに置換させる反応が不充分となることがある。上述の処理条件であれば、第1膜中に含まれる環状構造の破壊を抑制しつつ、上述の置換反応を充分に生じさせることが可能となる。
【0064】
すなわち、上述の処理条件は、ウエハ200上の第1膜中に含まれる複数の環状構造のうち、少なくとも一部の環状構造が破壊されることなくそのままの形で保持されつつ、第1膜中に含まれるNがOに置き換わる条件である。つまり、ウエハ200上の第1膜中に含まれる複数の環状構造を構成する複数のSi-C結合のうち、少なくとも一部のSi-C結合が切断されることなくそのままの形で保持されつつ、第1膜中に含まれるNがOに置き換わる条件である。
【0065】
すなわち、上述の条件下では、第1膜中に含まれる環状構造の少なくとも一部を、破壊することなく保持しつつ、第1膜中に含まれるNをOに置換することが可能となる。つまり、第1膜中に含まれる複数の環状構造のうち、少なくとも一部の環状構造を、そのままの形で膜中に残存させつつ、第1膜中に含まれるNをOに置換させることが可能となる。
【0066】
また、上述したように、H2Oアニール処理前の第1膜においては、膜中の環状構造を構成するSiに、NがNHの状態で結合している。このSiに、NがNHの状態で結合したSi-N結合は脆弱であり、Nは脱離しやすい状態となっている。また、第1膜中の環状構造を構成するSi-C結合は強固であり、Cは脱離しにくい状態となっている。
【0067】
上述の条件下で第1膜に対してH2Oアニール処理を行うことにより、第1膜を酸化させ、第1膜中に含まれるSiとCとで構成される環状構造(Si-C結合)の少なくとも一部を保持しつつ、第1膜中に含まれるNを、H2Oガスに含まれるOに置き換える置換反応を生じさせることができる。このとき第1膜中に含まれるNやClはHとともに膜中から脱離することとなる。このように、第1膜をH2Oガスにより酸化させることで、環状構造およびNを含む第1膜を環状構造およびOを含む第2膜に改質させることができる。第2膜は、SiOC膜またはSiOCN膜、すなわち、SiOC(N)膜となる。また、このように、第1膜をH2Oガスにより酸化させることで、膜中からClや弱い結合をもつNを脱離させることができ、これにより、膜中の吸湿サイトを消滅させることができ、H2Oアニール処理後に第2膜が大気に曝されたときに、大気中に含まれる水分の第2膜中への吸収や吸着を抑制することが可能となる。一方で、H2Oアニール処理の際に、第2膜中に水分が吸収され、第2膜は水分を含むこととなるため、第2膜の誘電率が増加してしまう。
【0068】
(同圧N2パージステップ)
2Oアニールステップが終了した後、表面に第2膜が形成されたウエハ200を処理室201内に収容した状態で、処理室201内に残留したH2Oガスが気体状態を維持する第2圧力下で、処理室201内へN2ガスを供給し、排気管231から排気して、処理室201内をパージする。具体的には、処理室201内の設定圧力(圧力設定値)を第2圧力に設定し、処理室201内の実圧力が第2圧力となるように、APCバルブ244の開度を調整しつつ(変化させつつ)、すなわち、処理室201内の圧力を制御しつつ(調整しつつ)、ガス供給管232c,232dのそれぞれからN2ガスを処理室201内へ供給し、排気管231から排気するように制御する。N2ガスは、MFC241c,241dにより流量調整され、ノズル249a,249bを介してそれぞれ処理室201内へ供給され、排気管231から排気される。これにより、処理室201内がN2ガスによりパージされ、処理室201内に残留しているH2OガスをN2ガスに置換しつつ、処理室201内に残留するH2Oガスや反応副生成物等を処理室201内から除去する。
【0069】
本ステップにおける処理条件としては、
処理温度:200~600℃、好ましくは250~500℃
処理圧力(第2圧力):1333~101325Pa、好ましくは53329~101325Pa、より好ましくは53329~79993Pa
2ガス供給流量:100~10000sccm
2ガス供給時間:10~360分、好ましくは60~360分
が例示される。本ステップにおける処理温度、処理圧力(第2圧力)は、H2Oアニールステップにおける処理温度、処理圧力(第1圧力)と実質的に同一とすることが好ましい。
【0070】
特に、本ステップにおける処理圧力(第2圧力)を、上述したH2Oアニールステップにおける処理圧力(第1圧力)と実質的に同一の圧力とするのが好ましく、これにより、処理室201内に残留している気体状態のH2Oガスを気体状態のまま処理室201外へ排出させ、処理室201内をN2ガスに置換させることができる。
【0071】
ここで、第2圧力を第1圧力と実質的に同一の圧力とするとは、本ステップにおける処理圧力(第2圧力)を、H2Oアニールステップにおける処理圧力(第1圧力)と同様または同等の圧力、より好ましくは同一の圧力にすることを意味する。また、第2圧力をこのような圧力とするには、本ステップにおける処理室201内の設定圧力を、H2Oアニールステップにおける処理室201内の設定圧力と同様または同等の圧力、より好ましくは同一の圧力にする必要がある。
【0072】
具体的には、実質的に同一の圧力には、基準となる圧力±5%程度の圧力が含まれるものとする。第2圧力を第1圧力と実質的に同一の圧力とすることで、上述同様、処理室201内に残留しているH2Oガスの液化現象や固化現象を抑制することができる。また、H2Oアニール処理後に処理室201内の圧力を変化させることが不要となるため、その分、処理時間を短縮させ、スループットすなわち生産性を高めることが可能となる。
【0073】
つまり、本ステップにおける処理圧力(第2圧力)は、後述する真空引きステップにおける処理圧力よりも高い処理圧力であって、処理室201内に残留したH2Oガスが液化または固化しない圧力である。すなわち、本ステップにおける処理条件は、処理室201内に残留したH2Oガスの液化や固化による水滴や氷の発生を回避可能な条件である。
【0074】
上述の条件下で処理室201内をN2ガスによりパージ(置換)することで、後述する真空引きステップによる減圧前に、処理室201内に残留しているH2Oガスの液化や固化を抑制しつつ、このH2Oガスを気体状態のまま排出することが可能となる。このように、処理室201内に残留しているH2Oガスを相変化させることなく気体状態のまま排出することで、H2Oガスの液化や固化による水滴や氷の発生を抑制し、ウエハ200の表面やボート柱217a等の表面に形成された膜への水滴や氷の衝突を抑制することが可能となる。これにより、これらの膜への水滴や氷の衝突に起因する膜剥がれ等の発生、および、それによる異物の発生を抑制することが可能となる。
【0075】
なお、上述の処理条件、特に温度条件は、ウエハ200上の第2膜中に含まれる複数の環状構造のうち、少なくとも一部の環状構造が破壊されることなくそのままの形で保持される条件でもある。つまり、ウエハ200上の第2膜中に含まれる複数の環状構造を構成する複数のSi-C結合のうち、少なくとも一部のSi-C結合が切断されることなくそのままの形で保持される条件でもある。
【0076】
(真空引きステップ)
同圧N2パージステップが終了した後、引き続き、表面に第2膜が形成されたウエハ200を処理室201内に収容した状態で、処理室201内を第2圧力よりも低い第3圧力まで減圧させるように、処理室201内を真空引きする。具体的には、APCバルブ244の開度を全開(フルオープン)とした状態で、真空ポンプ246により処理室201内を真空引き(減圧排気)する。すなわち、処理室201内の真空引きを、APCバルブ244の開度を固定とし、処理室201内を引き切った状態で行う。このときガス供給管232c,232dのそれぞれからN2ガスを処理室201内へ供給し、排気管231から排気するようにしてもよい。ただし、この場合、処理室201内の減圧を効率的に行うために、N2ガスの供給流量を、同圧N2パージステップにおけるN2ガスの供給流量よりも小さくするのが好ましい。
【0077】
本ステップにおける処理条件としては、
処理温度:200~600℃、好ましくは250~500℃
処理圧力(第3圧力):1~100Pa、好ましくは1~50Pa
2ガス供給流量:0~1000sccm
真空引き時間:10~360分、好ましくは60~360分
が例示される。本ステップにおける処理温度は、H2Oアニールステップ、同圧N2パージステップにおける処理温度と実質的に同一の温度とするのが好ましい。
【0078】
上述の条件下で処理室201内を真空引きすることにより、同圧N2パージステップで処理室201内から除去しきれなかった残留H2Oガスを除去することが可能となる。同圧N2パージステップでは、処理室201内に残留するH2Oガスの大部分を、処理室201内から除去することができるが、除去しきれずに処理室201内に残留H2Oガスが残ってしまうことがある。上述の条件下で本ステップを実施することにより、同圧N2パージステップでは除去しきれずに処理室201内に残ってしまった残留H2Oガスを処理室201内から除去することが可能となる。なお、同圧N2パージステップにより処理室201内における残留H2Oガスの大部分が除去されることから、本ステップ開始時には、処理室201内におけるH2Oガスの存在比が極めて小さくなっている。そのため、本ステップにおいて真空引きを行っても異物の発生が抑制されることとなる。また、本ステップは、APCバルブ244の開度を固定とし、処理室201内の圧力を制御することなく行うことが可能であるため、基板処理の制御を簡素化することが可能となる。
【0079】
なお、上述の処理条件、特に温度条件は、ウエハ200上の第2膜中に含まれる複数の環状構造のうち、少なくとも一部の環状構造が破壊されることなくそのままの形で保持される条件でもある。つまり、ウエハ200上の第2膜中に含まれる複数の環状構造を構成する複数のSi-C結合のうち、少なくとも一部のSi-C結合が切断されることなくそのままの形で保持される条件でもある。
【0080】
なお、H2Oアニールステップと同圧N2パージステップと真空引きステップとを、同様または同等、より好ましくは同一の処理温度下で行うのが好ましい。すなわち、H2Oアニールステップと同圧N2パージステップと真空引きステップとを、ウエハ200の温度を同様または同等、より好ましくは同一の温度とした状態で行うのが好ましい。更には、成膜ステップとH2Oアニールステップと同圧N2パージステップと真空引きステップとを、同様または同等、より好ましくは同一の処理温度下で行うのが好ましい。すなわち、成膜ステップとH2Oアニールステップと同圧N2パージステップと真空引きステップとを、ウエハ200の温度を同様または同等、より好ましくは同一の温度とした状態で行うのが好ましい。これらの場合、ウエハ200の温度を変更する工程が不要となり、その分、処理時間を短縮させ、スループットすなわち生産性を高めることが可能となる。
【0081】
(N2アニールステップ)
真空引きステップが終了した後、引き続き、表面に第2膜が形成されたウエハ200を処理室201内に収容した状態で、処理室201内のウエハ200、すなわち、ウエハ200上に形成された第2膜に対して、熱アニール処理として、N2アニール処理を行う。このとき、ガス供給管232c,232dのそれぞれからN2ガスを処理室201内へ供給し、排気管231から排気する。N2ガスは、MFC241c,241dにより流量調整され、ノズル249a,249bを介してそれぞれ処理室201内へ供給され、排気管231から排気される。このとき、ウエハ200に対してN2ガスが供給される。
【0082】
本ステップにおける処理条件としては、
処理温度:300~800℃、好ましくは400~700℃
処理圧力:67~101325Pa
2ガス供給流量:1000~5000sccm
供給時間:10~120分
が例示される。
【0083】
上述の処理条件は、H2Oアニールステップにおいて形成された第2膜中に含まれるSiとCとで構成される環状構造の少なくとも一部を、破壊することなく保持(維持)しつつ、第2膜中に含まれる水分を脱離させることができる条件である。すなわち、上述の処理条件は、ウエハ200上の第2膜中に含まれる複数の環状構造のうち、少なくとも一部の環状構造が破壊されることなくそのままの形で保持されつつ、第2膜中に含まれる水分を脱離可能な条件である。つまり、ウエハ200上の第2膜中に含まれる複数の環状構造を構成する複数のSi-C結合のうち、少なくとも一部のSi-C結合が切断されることなくそのままの形で保持されつつ、第2膜中に含まれる水分を脱離可能な条件である。
【0084】
上述の条件下で第2膜に対してN2アニール処理を行うことにより、第2膜中に含まれるSiとCとで構成される環状構造(Si-C結合)の少なくとも一部を保持しつつ、第2膜中に含まれるH2Oガスを脱離させて除去することができる。N2アニールステップを水分除去ステップとも称する。
【0085】
つまり、N2アニールステップでは、H2Oアニールステップで物理的に膜中に吸収されたH2Oガスを脱離させる。これにより、N2アニール処理後の第2膜の誘電率を低下させることが可能となる。また、H2OアニールステップからN2アニールステップまでの一連の処理により、N2アニール処理後の第2膜、すなわち、最終的にウエハ200上に形成されるSiOC(N)膜の吸湿サイトを消滅させることができ、この膜が、大気に曝されたときに、大気中に含まれる水分の膜中への吸収や吸着を抑制することが可能となる。
【0086】
なお、本実施形態では、成膜ステップとH2Oアニールステップと同圧N2パージステップと真空引きステップとN2アニールステップとを、この順に、同一の処理室201内で、in-situにて連続して行うようにしている。この場合、ウエハ200上に形成される膜を大気に曝すことなく、これらの一連の処理を連続的に行うことが可能となる。結果として、各ステップで行う処理の制御性を高めることが可能となり、更に、スループットすなわち生産性を向上させることも可能となる。
【0087】
(アフターパージおよび大気圧復帰)
2アニールステップが終了した後、ガス供給管232c,232dのそれぞれからN2ガスを処理室201内へ供給し、排気管231から排気する。これにより、処理室201内がパージされ、処理室201内に残留するガスや反応副生成物等が処理室201内から除去される(アフターパージ)。その後、処理室201内の雰囲気が不活性ガスに置換され(不活性ガス置換)、処理室201内の圧力が常圧に復帰される(大気圧復帰)。
【0088】
(ボートアンロードおよびウエハディスチャージ)
その後、ボートエレベータ115によりシールキャップ219が下降され、反応管203の下端が開口されるとともに、処理済のウエハ200が、ボート217に支持された状態で、反応管203の下端から反応管203の外部に搬出(ボートアンロード)される。処理済のウエハ200は、反応管203の外部に搬出された後、ボート217より取り出される(ウエハディスチャージ)。
【0089】
(3)本実施形態による効果
本実施形態によれば、以下に示す1つ又は複数の効果が得られる。
【0090】
(a)同圧N2パージステップでは、処理室201内に残留している気体状態のH2Oガスを気体状態のまま排出し、処理室201内から除去させることが可能となる。結果として、ウエハ表面やボート柱等の表面に形成された膜の剥がれ等の発生、および、それによる異物の発生を抑制することが可能となる。
【0091】
(b)同圧N2パージステップでは、処理室201内の圧力を変更する必要がないため、その分、処理時間を短縮させ、スループットすなわち生産性を高めることが可能となる。
【0092】
(c)同圧N2パージステップでは、処理室201内に残留しているH2Oガスの大部分を除去して処理室201内におけるH2Oガスの存在比を極めて小さくすることができる。それにより、その後に行う真空引きステップにおいて異物の発生を抑制することが可能となる。
【0093】
(d)真空引きステップでは、同圧N2パージステップで処理室201内から除去し切れなかった残留H2Oガスを、異物の発生を抑制しつつ、除去させることが可能となる。
【0094】
(e)真空引きステップでは、処理室201内の圧力を制御する必要がないため、基板処理の制御を簡素化することが可能となる。
【0095】
(f)成膜ステップとH2Oアニールステップと同圧N2パージステップと真空引きステップとN2アニールステップとを、この順に、in-situで連続して行うことにより、ウエハ200上に形成される膜を大気に曝すことなく、これら一連の処理を連続的に行うことが可能となる。結果として、各ステップで行う処理の制御性を高めることが可能となり、更に、スループットすなわち生産性を向上させることも可能となる。
【0096】
(g)H2OアニールからN2アニールまでの一連の処理により、最終的にウエハ200上に形成される膜の吸湿サイトを消滅させることができ、この膜が大気に曝されたときに、大気中に含まれる水分の膜中への吸収や吸着を抑制することが可能となる。
【0097】
(h)上述の効果は、TCDSCBガス以外の原料ガスを用いる場合や、NH3ガス以外の反応ガスを用いる場合や、N2ガス以外の不活性ガスを用いる場合にも、同様に得ることができる。
【0098】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態を具体的に説明した。但し、本開示は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0099】
例えば、以下に示す処理シーケンスのように、上述した成膜ステップに酸化剤としてのO2ガスを供給するステップを追加してもよい。すなわち、上述の成膜ステップにおけるサイクルが、O2ガスを供給するステップを、更に含んでいてもよい。この処理シーケンスでは、O2ガスを供給するステップを、TCDSCBガスを供給する工程およびNH3ガスを供給する工程のそれぞれと、非同時に行う例を示している。この場合においても、図4に示す処理シーケンスと同様の効果が得られる。なお、この場合、更に、ウエハ200上に最終的に形成されるSiOC(N)膜の組成比を、例えば、Oリッチな方向に制御することが可能となる。
【0100】
(TCDSCB→NH3→O2)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ SiOC(N)
【0101】
酸化剤として、O2ガスの代わりに、例えば、亜酸化窒素(N2O)ガス、一酸化窒素(NO)ガス、H2Oガス、H2ガス+O2ガスを用いてもよい。
【0102】
また、例えば、以下に示す処理シーケンスのように、ウエハ200上に、シリコン酸窒化膜(SiON膜)、シリコン酸炭窒化膜(SiOCN膜)、シリコン酸炭化膜(SiOC膜)、シリコン酸化膜(SiO膜)等を形成するようにしてもよい。すなわち、原料(原料ガス)として、TCDSCBガスの代わりに、環状構造を含まない原料ガス、例えば、ヘキサクロロジシラン(Si2Cl6、略称:HCDS)ガスのようなハロシラン(クロロシラン)原料ガスや、1,1,2,2-テトラクロロ-1,2-ジメチルジシラン((CH32Si2Cl4、略称:TCDMDS)ガスのようなアルキルハロシラン(アルキルクロロシラン)原料ガスや、トリスジメチルアミノシラン(Si[N(CH323H、略称:3DMAS)ガスやビスジエチルアミノシラン(SiH2[N(C2522、略称:BDEAS)ガスのようなアミノシラン原料ガスを用いてもよい。また、原料(原料ガス)として、1,4-ジシラブタン(SiH3CH2CH2SiH3、略称:1,4-DSB)ガスのようなSi-C結合およびSi-H結合を含む原料ガスや、トリシリルアミン(N(SiH33、略称:TSA)ガスのようなSi-N結合およびSi-H結合を含む原料ガスを用いてもよい。また、反応体(反応ガス)として、NH3ガスの代わりに、例えば、トリエチルアミン((C253N、略称:TEA)ガスのようなアミン系ガスや、酸素(O2)ガス、オゾン(O3)ガス、プラズマ励起されたO2ガス(O2 *)、O2ガス+水素(H2)ガスのようなO含有ガス(酸化剤)や、プロピレン(C36)ガスのようなC含有ガスや、トリクロロボラン(BCl3)ガスのようなB含有ガスを用いてもよい。
【0103】
(HCDS→NH3)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ SiON
(HCDS→NH3→O2)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ SiON
(TCDMDS→NH3)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ SiOCN
(TCDMDS→NH3→O2)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ SiOCN
(HCDS→TEA)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ SiOCN
(HCDS→TEA→O2)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ SiOC(N)
(HCDS→C36→NH3)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ SiOCN
(HCDS→C36→NH3→O2)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ SiOCN
(BCl3→DSB→TSA→O2)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ SiOCN
(HCDS→O2+H2)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ SiO
(3DMAS→O3)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ SiO
(BDEAS→O2 *)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ SiO
【0104】
これらの処理シーケンスにおいても、図4に示す処理シーケンスと同様の効果が得られる。なお、原料や反応体を供給する際の処理手順、処理条件は、図4に示す処理シーケンスと同様とすることができる。
【0105】
また、原料(原料ガス)として、TCDSCBガスの代わりに、環状構造を含まない原料ガス、例えば、チタニウムテトラクロライド(TiCl4)ガスやトリメチルアルミニウム(Al(CH33、略称:TMA)ガスを用い、反応体(反応ガス)として、NH3ガスの代わりに、例えば、O2ガス、O3ガス、H2OガスのようなO含有ガス(酸化剤)を用い、以下に示す処理シーケンスにより、基板上に、チタン酸化膜(TiO膜)、チタン酸窒化膜(TiON膜)、アルミニウム酸化膜(AlO膜)、アルミニウム酸窒化膜(AlON膜)等を形成するようにしてもよい。
【0106】
(TiCl4→H2O)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ TiO
(TiCl4→NH3)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ TiON
(TiCl4→NH3→O2)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ TiON
(TMA→O3)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ AlO
(TMA→NH3)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ AlON
(TMA→NH3→O2)×n→H2O#ANL→N2#PRG→VAC→N2#ANL ⇒ AlON
【0107】
これらの処理シーケンスにおいても、図4に示す処理シーケンスと同様の効果が得られる。なお、原料や反応体を供給する際の処理手順、処理条件は、図4に示す処理シーケンスと同様とすることができる。
【0108】
これらのように、本開示は、主元素としてSi等の半金属元素を含む膜を形成する場合の他、主元素としてTiやAl等の金属元素を含む膜を基板上に形成する場合にも、好適に適用することができる。なお、本開示は、主元素として、Siの他、ゲルマニウム(Ge)、ボロン(B)等の半金属元素を含む膜を形成する場合にも、好適に適用することができる。また、本開示は、主元素として、Ti、Alの他、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ストロンチウム(Sr)等の金属元素を含む膜を形成する場合にも、好適に適用することができる。
【0109】
基板処理に用いられるレシピは、処理内容に応じて個別に用意し、電気通信回線や外部記憶装置123を介して記憶装置121c内に格納しておくことが好ましい。そして、基板処理を開始する際、CPU121aが、記憶装置121c内に格納された複数のレシピの中から、基板処理の内容に応じて、適正なレシピを適宜選択することが好ましい。これにより、1台の基板処理装置で様々な膜種、組成比、膜質、膜厚の膜を、再現性よく形成することができるようになる。また、オペレータの負担を低減でき、操作ミスを回避しつつ、処理を迅速に開始できるようになる。
【0110】
上述のレシピは、新たに作成する場合に限らず、例えば、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを変更することで用意してもよい。レシピを変更する場合は、変更後のレシピを、電気通信回線や当該レシピを記録した記録媒体を介して、基板処理装置にインストールしてもよい。また、既存の基板処理装置が備える入出力装置122を操作し、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを直接変更するようにしてもよい。
【0111】
上述の実施形態では、一度に複数枚の基板を処理するバッチ式の基板処理装置を用いて膜を形成する例について説明した。本開示は上述の実施形態に限定されず、例えば、一度に1枚または数枚の基板を処理する枚葉式の基板処理装置を用いて膜を形成する場合にも、好適に適用できる。また、上述の実施形態では、ホットウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を形成する例について説明した。本開示は上述の実施形態に限定されず、コールドウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を形成する場合にも、好適に適用できる。
【0112】
これらの基板処理装置を用いる場合においても、上述の実施形態や変形例と同様な処理手順、処理条件にて基板処理を行うことができ、これらと同様の効果が得られる。
【0113】
また、上述の実施形態や変形例は、適宜組み合わせて用いることができる。このときの処理手順、処理条件は、例えば、上述の実施形態の処理手順、処理条件と同様とすることができる。
【0114】
以下、実施例について説明する。
【0115】
<実施例>
サンプル1として、図1に示す基板処理装置を用い、図4に示す基板処理シーケンスにより、ウエハ上にSiOCN膜を形成した。処理条件は、上述の実施形態における処理条件範囲内の所定の条件とした。サンプル2として、図1に示す基板処理装置を用い、図4に示す基板処理シーケンスにおけるH2Oアニールステップ後、同圧N2パージステップを行うことなく、すぐに真空引きステップを行う基板処理シーケンスにより、ウエハ上にSiOCN膜を形成した。処理条件は、上述の実施形態における処理条件範囲内の所定の条件とした。そして、サンプル1及びサンプル2のそれぞれのSiOCN膜上に付着したパーティクルの数をカウントした。
【0116】
図6は、サンプル1及びサンプル2のそれぞれのSiOCN膜上に付着した60nm以上の大きさのパーティクルの数を比較して示す図である。
【0117】
図6に示されているように、同圧N2パージステップを行わなかったサンプル2のSiOCN膜上におけるパーティクルの数は4000個以上だった。一方、同圧N2パージステップを行ったサンプル1のSiOCN膜上におけるパーティクルの数は40個以下だった。つまり、H2Oアニールステップ後に同圧N2パージステップ、真空引きステップを行うことによりパーティクル数を劇的に低減することができ、異物の発生を著しく抑制することができることを確認できた。
【符号の説明】
【0118】
200 ウエハ(基板)
図1
図2
図3
図4
図5
図6