IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧 ▶ 株式会社ユー・メディコの特許一覧 ▶ 株式会社特殊免疫研究所の特許一覧

特許7170983改善された保存安定性を有するタンパク質含有液体製剤およびその製造方法
<>
  • 特許-改善された保存安定性を有するタンパク質含有液体製剤およびその製造方法 図1
  • 特許-改善された保存安定性を有するタンパク質含有液体製剤およびその製造方法 図2
  • 特許-改善された保存安定性を有するタンパク質含有液体製剤およびその製造方法 図3
  • 特許-改善された保存安定性を有するタンパク質含有液体製剤およびその製造方法 図4
  • 特許-改善された保存安定性を有するタンパク質含有液体製剤およびその製造方法 図5
  • 特許-改善された保存安定性を有するタンパク質含有液体製剤およびその製造方法 図6
  • 特許-改善された保存安定性を有するタンパク質含有液体製剤およびその製造方法 図7A
  • 特許-改善された保存安定性を有するタンパク質含有液体製剤およびその製造方法 図7B
  • 特許-改善された保存安定性を有するタンパク質含有液体製剤およびその製造方法 図7C
  • 特許-改善された保存安定性を有するタンパク質含有液体製剤およびその製造方法 図7D
  • 特許-改善された保存安定性を有するタンパク質含有液体製剤およびその製造方法 図8A
  • 特許-改善された保存安定性を有するタンパク質含有液体製剤およびその製造方法 図8B
  • 特許-改善された保存安定性を有するタンパク質含有液体製剤およびその製造方法 図8C
  • 特許-改善された保存安定性を有するタンパク質含有液体製剤およびその製造方法 図8D
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】改善された保存安定性を有するタンパク質含有液体製剤およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/395 20060101AFI20221108BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20221108BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20221108BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20221108BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20221108BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
A61K39/395 A
A61K39/395 N
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/26
A61K9/10
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017199438
(22)【出願日】2017-10-13
(65)【公開番号】P2019073463
(43)【公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-10-09
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】509183774
【氏名又は名称】株式会社ユー・メディコ
(73)【特許権者】
【識別番号】593146877
【氏名又は名称】株式会社特殊免疫研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内山 進
(72)【発明者】
【氏名】野田 勝紀
(72)【発明者】
【氏名】横山 雅美
(72)【発明者】
【氏名】塩田 明
【審査官】大島 彰公
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0072356(US,A1)
【文献】The Diffusion Interaction Parameter (Kd) as an Indicator of Colloidal and Thermal Stability,Wyatt Technology,2016年09月20日,https://www.azom.com/article.aspx?ArticleID=13108
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体を含む保存安定な液体製剤の製造方法であって、
(1)所定濃度の抗体と、所定のバッファーにおいてpH、塩化ナトリウムおよび添加剤の種類および/または量の少なくとも1つが異なる該バッファーとを含む、複数の液体製剤サンプルを用意する工程、
(2)前記液体製剤サンプルのそれぞれについて、前記抗体の、凝集開始温度(Tagg)、拡散相互作用パラメータ(kD)および単量体減少速度を測定する工程、
(3)前記第2工程で決定された、前記液体製剤サンプルに対する、凝集開始温度(Tagg)、拡散相互作用パラメータ(kD)、および単量体減少速度の各値を、下記の式I:
[式I]
単量体減少速度=-A-B×kD+C×Tagg+(D×kD)×[-E×(Tagg-F)]
(式中、Taggは凝集開始温度であり、kDは拡散相互作用パラメータであり、A、B、C、D、EおよびFは異なる係数である。)
に当てはめて、最小二乗法により係数A、B、C、D、EおよびFを決定する工程、
)所定濃度の前記抗体と、所定のバッファーにおいてpH、塩化ナトリウムおよび添加剤の種類および/または量の少なくとも1つが異なる該バッファーとを含む、1または複数の液体製剤候補を用意する工程、
)前記液体製剤候補のそれぞれについて前記抗体の凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)を測定する工程、
)前記第工程で決定された、前記液体製剤候補に対する凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)の各値、ならびに前記第3工程で決定されたA、B、C、D、EおよびFの各係数を、前記式I代入して、前記抗体の単量体減少速度を決定する工程、
)前記1または複数の液体製剤候補のうち前記第工程で決定された単量体減少速度が最小となる液体製剤候補を選択する工程、
)前記第工程で選択された液体製剤候補における抗体濃度、バッファー、ならびにpH、塩および添加剤の種類および量に基づいて前記抗体を含む液体製剤を製造する工程、
を含む方法。
【請求項2】
抗体を含む液体製剤候補のなかから保存安定な液体製剤を選択する方法であって、
(1)所定濃度の抗体と、所定のバッファーにおいてpH、塩化ナトリウムおよび添加剤の種類および/または量の少なくとも1つが異なる該バッファーとを含む、複数の液体製剤サンプルを用意する工程、
(2)前記液体製剤サンプルのそれぞれについて、前記抗体の、凝集開始温度(Tagg)、拡散相互作用パラメータ(kD)および単量体減少速度を測定する工程、
(3)前記第2工程で決定された、前記液体製剤サンプルに対する、凝集開始温度(Tagg)、拡散相互作用パラメータ(kD)、および単量体減少速度の各値を、下記の式I:
[式I]
単量体減少速度=-A-B×kD+C×Tagg+(D×kD)×[-E×(Tagg-F)]
(式中、Taggは凝集開始温度であり、kDは拡散相互作用パラメータであり、A、B、C、D、EおよびFは異なる係数である。)
に当てはめて、最小二乗法により係数A、B、C、D、EおよびFを決定する工程、
)所定濃度の前記抗体と、所定のバッファーにおいてpH、塩化ナトリウムおよび添加剤の種類および/または量の少なくとも1つが異なる該バッファーとを含む、1または複数の液体製剤候補を用意する工程、
)前記液体製剤候補のそれぞれについて前記抗体の凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)を測定する工程、
)前記第工程で決定された、前記液体製剤候補に対する凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)の各値、ならびに前記第3工程で決定されたA、B、C、D、EおよびFの各係数を、前記式I
代入して、前記抗体の単量体減少速度を決定する工程、
)前記1または複数の液体製剤候補のうち前記第工程で決定された単量体減少速度が最小となる液体製剤候補を選択する工程、
を含む方法。
【請求項3】
前記抗体が、ヒト抗体、ヒト化抗体、またはキメラ抗体である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記添加剤が糖もしくは糖アルコールである、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記糖もしくは糖アルコールが、ソルビトール、スクロースまたはそれらの混合物である、請求項に記載の方法。
【請求項6】
タンパク質を含む保存安定な液体製剤の製造方法であって、
(1)所定濃度のタンパク質と、所定のバッファーにおいてpH、塩化ナトリウムおよび添加剤の種類および/または量の少なくとも1つが異なる該バッファーとを含む、1または複数の液体製剤候補を用意する工程、
(2)前記液体製剤候補のそれぞれについて前記タンパク質の凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)を測定する工程、
(3)前記第2工程で決定された、前記液体製剤候補に対する凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)の各値を、下記の式II:
[式II]
単量体減少速度=-2623086+8670×kD+36966×Tagg+(8.37+kD)×[-5453×(Tagg-45.3)]
(式中、Taggは凝集開始温度であり、kDは拡散相互作用パラメータである。)
に代入して、前記タンパク質の単量体減少速度を決定する工程、
(4)前記1または複数の液体製剤候補のうち前記第3工程で決定された単量体減少速度が最小となる液体製剤候補を選択する工程、
(5)前記第4工程で選択された液体製剤候補におけるタンパク質濃度、バッファー、ならびにpH、塩および添加剤の種類および量に基づいて前記タンパク質を含む液体製剤を製造する工程、
を含み、
前記抗体が、ヒトCD20に対する抗体TKM-011またはBM-caであり、
前記添加剤が、ソルビトール、スクロースまたはそれらの混合物である、方法。
【請求項7】
タンパク質を含む液体製剤候補のなかから保存安定な液体製剤を選択する方法であって、
(1)所定濃度のタンパク質と、所定のバッファーにおいてpH、塩化ナトリウムおよび添加剤の種類および/または量の少なくとも1つが異なる該バッファーとを含む、1または複数の液体製剤候補を用意する工程、
(2)前記液体製剤候補のそれぞれについて前記タンパク質の凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)を測定する工程、
(3)前記第2工程で決定された、前記液体製剤候補に対する凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)の各値を、下記の式II:
[式II]
単量体減少速度=-2623086+8670×kD+36966×Tagg+(8.37+kD)×[-5453×(Tagg-45.3)]
(式中、Taggは凝集開始温度であり、kDは拡散相互作用パラメータである。)
に代入して、前記タンパク質の単量体減少速度を決定する工程、
(4)前記1または複数の液体製剤候補のうち前記第3工程で決定された単量体減少速度が最小となる液体製剤候補を選択する工程、
を含み、
前記抗体が、ヒトCD20に対する抗体TKM-011またはBM-caであり、
前記添加剤が、ソルビトール、スクロースまたはそれらの混合物である、方法。
【請求項8】
前記添加剤がさらに界面活性剤を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記界面活性剤を0.02重量%以下の量で含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である、請求項8または9に記載の方法。
【請求項11】
前記非イオン性界面活性剤が、ポリソルベートである、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体などのタンパク質を含有する液体製剤において保存安定性が改善された、具体的には凝集体形成が低減もしくは抑制された、液体製剤およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体医薬などのバイオ医薬品の課題の一つにタンパク質の凝集がある。凝集体は、免疫原性の原因となる可能性があることから正確な定量と低減が望まれている。
【0003】
タンパク質の液体製剤の保存安定性のために、これまで安定化剤として界面活性剤、血清アルブミン、多糖類、(ポリ)アミノ酸、有機酸、塩類などの物質を添加することが知られている(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
【0004】
さらにまた、抗体等のタンパク質の長期保存安定性に関して、物理化学的パラメータである抗体溶液のコロイド安定性や構造安定性と特定サイズの凝集体形成との間に相関性が見出される場合があることが知られている(非特許文献1)。
【0005】
しかしながら、従来は多くの処方条件に対して物理化学的パラメータを取得する方法が限られていたため、上記の相関性に関する複数の物理化学的パラメータを用いて精度高く凝集体形成(例えば、凝集体量)を予測する技術は知られていなかった。そのため、抗体の保存安定性に関して物理化学的パラメータと凝集体量との関係を正確に見積もることは実現されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-145192号公報
【文献】米国公開特許第2011-0020328号
【文献】再表2005/033143号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】内山進,日本毒性学会学術年会40.1(0),P.2043,W4-3(抗体医薬の凝集性予測),2013
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
バイオ医薬、例えば抗体医薬などのタンパク質医薬の製剤条件の選抜は、これまで合理的な手法が欠如していたため、経験に基づくか、または限定的な条件設定による、加熱や振盪などによる短期的な加速試験(すなわち、長期の保存安定性を短期間で推定する試験)を行い、凝集体の発生量を限られた手法で定量し、特定の組成を選抜するなどの方法によって行われてきた。しかしながら、このような方法で選抜された製剤条件は、タンパク質溶液がもつ物理化学的性質を把握したうえで選抜されたものではない加速試験という結果に基づくものであるため、条件の最適性について合理的説明ができず、したがって最適であるという確証が得られ難いし、また、組成を変更した際の物性の変化の傾向が分からないため、再度、半ば場当り的に組成を探索することとなり、効率が悪いうえに不確実なアプローチをとることになるという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような課題を解決するために、抗体の液体製剤において拡散相互作用パラメータ(場合により、「第2ビリアル係数」という。)、凝集開始温度、変性中点温度などの物理化学的パラメータを取得し、その数値を抗体の保存安定性の指標として利用して、単量体減少速度(または、「凝集体形成速度」ともいう)を求める一般式を作成し、この式に基づいて抗体等のタンパク質を含む液体製剤を保存安定性にするための最適化条件を予測することを可能にし、今回、以下に特徴づけるような発明を完成した。
【0010】
本発明は、以下の特徴を包含する。
[1]タンパク質を含む保存安定な液体製剤の製造方法であって、
(1)所定濃度のタンパク質と、所定のバッファーにおいてpH、塩化ナトリウムおよび添加剤の種類および/または量の少なくとも1つが異なる該バッファーとを含む、1または複数の液体製剤候補を用意する工程、
(2)前記液体製剤候補のそれぞれについて前記タンパク質の凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)を測定する工程、
(3)前記第2工程で決定された、前記液体製剤候補に対する凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)の各値を、下記の式I:
[式I]
単量体減少速度=-A-B×kD+C×Tagg+(D×kD)×[-E×(Tagg-F)]
(式中、Taggは凝集開始温度であり、kDは拡散相互作用パラメータであり、A、B、C、D、EおよびFはタンパク質の種類に依存する異なる係数である。)
に代入して、前記タンパク質の単量体減少速度を決定する工程、
(4)前記1または複数の液体製剤候補のうち前記第3工程で決定された単量体減少速度が最小となる液体製剤候補を選択する工程、
(5)前記第4工程で選択された液体製剤候補におけるタンパク質濃度、バッファー、ならびにpH、塩および添加剤の種類および量に基づいて前記タンパク質を含む液体製剤を製造する工程、
を含む方法。
[2]タンパク質を含む液体製剤候補のなかから保存安定な液体製剤を選択する方法であって、
(1)所定濃度のタンパク質と、所定のバッファーにおいてpH、塩化ナトリウムおよび添加剤の種類および/または量の少なくとも1つが異なる該バッファーとを含む、1または複数の液体製剤候補を用意する工程、
(2)前記液体製剤候補のそれぞれについて前記タンパク質の凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)を測定する工程、
(3)前記第2工程で決定された、前記液体製剤候補に対する凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)の各値を、下記の式I:
[式I]
単量体減少速度=-A-B×kD+C×Tagg+(D×kD)×[-E×(Tagg-F)]
(式中、Taggは凝集開始温度であり、kDは拡散相互作用パラメータであり、A、B、C、D、EおよびFはタンパク質の種類に依存する異なる係数である。)
に代入して、前記タンパク質の単量体減少速度を決定する工程、
(4)前記1または複数の液体製剤候補のうち前記第3工程で決定された単量体減少速度が最小となる液体製剤候補を選択する工程、
を含む方法。
[3]上記タンパク質が抗体である、[1]または[2]に記載の方法。
[4]上記抗体がヒトCD20に対する抗体である、[3]に記載の方法。
[5]上記抗体がTKM-011もしくはBM-caである、[4]に記載の方法。
[6]上記添加剤が糖もしくは糖アルコールである、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]上記糖もしくは糖アルコールが、ソルビトール、スクロースまたはそれらの混合物である、[6]に記載の方法。
[8]上記添加剤がさらに界面活性剤を含む、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]上記界面活性剤を0.02重量%以下の量で含む、[8]に記載の方法。
[10]前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である、[8]または[9]に記載の方法。
[11]前記非イオン性界面活性剤が、ポリソルベートである、[10]に記載の方法。
[12]ヒトCD20に対する抗体TKM011もしくはBM-caを含む保存安定な液体製剤であって、前記保存安定な液体製剤が、抗体を0.05~30重量%含む、pHが4.0~6.0である、糖もしくは糖アルコールを0~15重量%含む、酢酸バッファーを含む、ならびに塩化ナトリウムを0~100mM含む、ことを特徴とする液体製剤。
[13]界面活性剤をさらに含む、[12]に記載の液体製剤。
[14]上記界面活性剤を0.02重量%以下の量で含む、[13]に記載の液体製剤。
[15]上記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である、[13]または[14]に記載の液体製剤。
[16]上記非イオン性界面活性剤が、ポリソルベートである、[15]に記載の液体製剤。
[17]上記糖もしくは糖アルコールが、ソルビトールもしくはスクロースである、[12]~[16]のいずれかに記載の液体製剤。
[18]ヒトCD20に対する抗体TKM-011もしくはBM-caを含む保存安定な液体製剤であって、抗体を0.05~30重量%含む、pHが4.5~5.5である、ソルビトールもしくはスクロースを1~15重量%含む、酢酸バッファーを含む、ポリソルベートを0.015重量%以下の量で含む、ならびに塩化ナトリウムを0~60mM含む、ことを特徴とする液体製剤。
[19]ヒトCD20に対する抗体TKM-011もしくはBM-caを含む保存安定な液体製剤であって、抗体を0.05~30重量%含む、pHが5.0である、スクロースを6~12重量%含む、20mM酢酸バッファーを含む、ポリソルベートを0.01重量%含む、ならびに塩化ナトリウムを含まない、ことを特徴とする液体製剤。
[20]ヒトCD20に対する抗体TKM-011もしくはBM-caを含む保存安定な液体製剤であって、抗体を0.05~30重量%含む、pHが5.0である、ソルビトールを6重量%含む、20mM酢酸バッファーを含む、ポリソルベートを0.01重量%含む、ならびに塩化ナトリウムを含まない、ことを特徴とする液体製剤。
[21]ヒトCD20に対する抗体TKM-011もしくはBM-caを含む保存安定な液体製剤であって、抗体を0.05~30重量%含む、pHが5.0である、スクロースを6~12重量%含む、20mM酢酸バッファーを含む、ポリソルベートを0.01重量%含む、ならびに塩化ナトリウムを60mM含む、ことを特徴とする液体製剤。
[22]ヒトCD20に対する抗体TKM-011もしくはBM-caを含む保存安定な液体製剤であって、抗体を0.05~30重量%含む、pHが5.0である、糖を含まない、20mM酢酸バッファーを含む、ポリソルベートを0.01重量%含む、ならびに塩化ナトリウムを含まない、ことを特徴とする液体製剤。
[23]ヒトCD20に対する抗体TKM-011もしくはBM-caを含む保存安定な液体製剤であって、抗体を0.05~30重量%含む、pHが5.0である、ソルビトールを3重量%含む、20mM酢酸バッファーを含む、ポリソルベートを0.01重量%含む、ならびに塩化ナトリウムを含まない、ことを特徴とする液体製剤。
[24]ヒトCD20に対する抗体TKM-011もしくはBM-caを含む保存安定な液体製剤であって、抗体を0.05~30重量%含む、pHが5.0である、糖を含まない、20mM酢酸バッファーを含む、ポリソルベートを0.01重量%含む、ならびに塩化ナトリウムを60mM含む、ことを特徴とする液体製剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、抗体等のタンパク質を含む液体製剤における保存安定性(特に凝集体形成)を、製剤候補サンプルにおける抗体の凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)を決定するだけで精度よく短時間で予測することができるという利点を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】後述の表5に示した保存条件の各サンプルにおける抗ヒト化CD20抗体(「TKM-011」)の拡散相互作用パラメータ(kD)(A)と凝集開始温度(Tagg)(B)の測定結果を示す。
図2】表5(後述)に示した保存条件のサンプルの4℃1ヶ月、3ヶ月および6ケ月の保管後の濁度(吸光度(ABS)(A350))の測定結果(A)、ならびに40℃1ヶ月、3ヶ月および6ケ月の保管後の濁度(ABS(A350))の測定結果(B)を示す。
図3】表5(後述)に示した保存条件のサンプルの4℃1ヶ月、3ケ月および6ケ月の保管後の可溶性成分(ABS(A280))の測定結果(A)、ならびに40℃1ヶ月、3ヶ月および6ケ月の保管後の可溶性成分(ABS(A280))の測定結果(B)を示す。
図4】表5(後述)に示した保存条件のサンプルの4℃1ヶ月、3ヶ月および6ケ月の保管後の可溶性成分のSEC(モノマー%)の測定結果(A)、ならびに40℃1ヶ月、3ヶ月および6ケ月の保管後の可溶性成分のSEC(モノマー%)の測定結果(B)を示す。
図5】サンプル13(酢酸バッファー、6%Sucrose)を4℃および40℃で6ヶ月間保管した後のクロマトグラムの比較を示す。また挿入図は、クロマトグラムを10倍に拡大した図である。
図6】表5(後述)に示した保存条件のサンプルの4℃1ヶ月、3ケ月および6ケ月の保管後のフローイメージング(FI)分析(粒子サイズ1μm以上)の測定結果(A)、ならびに40℃1ヶ月、3ケ月および6ケ月の保管後のフローイメージング(FI)分析(粒子サイズ1μm以上)の測定結果(B)を示す。
図7A】表5(後述)に示した保存条件のサンプル11および12の4℃1ヶ月、3ケ月および6ケ月の保管後のレーダー図(A350、回収率、monomer面積、monomer%、FI(p/ml))を示す。
図7B】表5(後述)に示した保存条件のサンプル13および14の4℃1ヶ月、3ケ月および6ケ月の保管後のレーダー図(A350、回収率、monomer面積、monomer%、FI(p/ml))を示す。
図7C】表5(後述)に示した保存条件のサンプル15および16の4℃1ヶ月、3ケ月および6ケ月の保管後のレーダー図(A350、回収率、monomer面積、monomer%、FI(p/ml))を示す。
図7D】表5(後述)に示した保存条件のサンプル17および19の4℃1ヶ月、3ケ月および6ケ月の保管後のレーダー図(A350、回収率、monomer面積、monomer%、FI(p/ml))を示す。
図8A】表5(後述)に示した保存条件のサンプル11および12の40℃1ヶ月、3ケ月および6ケ月の保管後のレーダー図(A350、回収率、monomer面積、monomer%、FI(p/ml))を示す。
図8B】表5(後述)に示した保存条件のサンプル13および14の40℃1ヶ月、3ケ月および6ケ月の保管後のレーダー図(A350、回収率、monomer面積、monomer%、FI(p/ml))を示す。
図8C】表5(後述)に示した保存条件のサンプル15および16の40℃1ヶ月、3ケ月および6ケ月の保管後のレーダー図(A350、回収率、monomer面積、monomer%、FI(p/ml))を示す。
図8D】表5(後述)に示した保存条件のサンプル17および19の40℃1ヶ月、3ケ月および6ケ月の保管後のレーダー図(A350、回収率、monomer面積、monomer%、FI(p/ml))を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に本発明をさらに詳細に説明する。
【0014】
本発明は、第1の態様により、タンパク質を含む保存安定な液体製剤の製造方法であって、
(1)所定濃度のタンパク質と、所定のバッファーにおいてpH、塩化ナトリウム(NaCl)および添加剤の種類および/または量の少なくとも1つが異なる該バッファーとを含む、1または複数の液体製剤候補を用意する工程、
(2)前記液体製剤候補のそれぞれについて前記タンパク質の凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)を測定する工程、
(3)前記第2工程で決定された、前記液体製剤候補に対する凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)の各値を、下記の式I:
[式I]
単量体減少速度=-A-B×kD+C×Tagg+(D×kD)×[-E×(Tagg-F)]
(式中、Taggは凝集開始温度であり、kDは拡散相互作用パラメータであり、A、B、C、D、EおよびFはタンパク質の種類に依存する異なる係数である。)
に代入して、前記タンパク質の単量体減少速度を決定する工程、
(4)前記1または複数の液体製剤候補のうち前記第3工程で決定された単量体減少速度が最小となる液体製剤候補を選択する工程、
(5)前記第4工程で選択された液体製剤候補におけるタンパク質濃度、バッファー、ならびにpH、塩および添加剤の種類および量に基づいて前記タンパク質を含む液体製剤を製造する工程、
を含む方法を提供する。
【0015】
本明細書中の「所定濃度」のタンパク質とは、例えば10重量%のように、タンパク質の濃度が特定されていることを指す。また、同明細書中の「所定の」バッファーとは、例えば20mM酢酸バッファーのように、バッファーが特定されていることを指す。
【0016】
本発明は、第2の態様により、タンパク質を含む液体製剤候補のなかから保存安定な液体製剤を選択する方法であって、
(1)所定濃度のタンパク質と、所定のバッファーにおいてpH、塩化ナトリウム(NaCl)および添加剤の種類および/または量の少なくとも1つが異なる該バッファーとを含む、1または複数の液体製剤候補を用意する工程、
(2)前記液体製剤候補のそれぞれについて前記タンパク質の凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)を測定する工程、
(3)前記第2工程で決定された、前記液体製剤候補に対する凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)の各値を、下記の式I:
[式I]
単量体減少速度=-A-B×kD+C×Tagg+(D×kD)×[-E×(Tagg-F)]
(式中、Taggは凝集開始温度であり、kDは拡散相互作用パラメータであり、A、B、C、D、EおよびFはタンパク質の種類に依存する異なる係数である。)
に代入して、前記タンパク質の単量体減少速度を決定する工程、
(4)前記1または複数の液体製剤候補のうち前記第3工程で決定された単量体減少速度が最小となる液体製剤候補を選択する工程、
を含む方法を提供する。
上記の選択方法は、上記の製造方法における工程(1)から工程(4)に相当する。
【0017】
1.タンパク質
本明細書中で使用される「タンパク質」は、医療用途で使用される任意の治療用タンパク質を含む。そのようなタンパク質には、ヒトを含む哺乳動物由来のタンパク質、抗体、植物由来のタンパク質、病原性微生物由来のタンパク質、病原性ウイルス由来のタンパク質などが挙げられ、天然由来のまたは人工的に作製されたタンパク質(例えば、遺伝子組換えタンパク質)が含まれる。とりわけ、液体製剤の形態で保管されたときにタンパク質の凝集体が形成されやすいタンパク質が、本発明の上記方法によって製造されるのに適している。そのようなタンパク質の一つの例が、抗体である。
【0018】
抗体は、完全抗体、抗体フラグメント、組換え抗体、単鎖抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体のいずれも包含する。
【0019】
抗体医薬は、タンパク性疾患関連分子に特異的に結合する抗体を有効成分としており、生体での当該分子の機能を抑制する働きを有している。抗体医薬には、非限定的に、例えば、癌(例えばB細胞性非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫、急性リンパ芽球性白血病、乳癌、急性骨髄性白血病、黒色腫、胃癌、結腸・直腸癌、頭頸部癌など)、自己免疫疾患(例えば関節リウマチ、尋常性乾癬、多発性硬化症、重症クローン病など)、感染症(例えばRSウイルス感染など)、アルツハイマー病、骨粗しょう症、腎移植後の急性拒絶反応、心臓疾患(例えば心筋虚血など)、アレルギー性疾患(例えば喘息など)、眼疾患(例えば加齢黄班変性など)などの治療のための抗体を有効成分とする医薬が含まれる。標的となるタンパク質も多様であり、例えばCD3,CD11,CD20,CD25,CD33,CD52,CD80/CD86,TNFα,IL-6R,IL-1β,EGFR,RSV Fタンパク質,IgE,CCR4,HER2,PD-1,IL12,TLA4,VEGFR2,VEGFなどが含まれるが、これらに限定されない。後述の実施例では、CD20に対する抗体(例えばTKM-011もしくはBM-ca)を例示し、最適製剤化条件を検討した。
【0020】
近年、医療現場での利便性の面から凍結乾燥製剤などの固体製剤に代わってタンパク質成分濃度の低い液体製剤(バイアル)やタンパク質成分濃度の高い液体製剤(シリンジ)へと製剤の形態が移ってきている(S.Uchiyama,Biochim.Biophys.Acta.2014;1844:2041-2052)。上記のようにタンパク質の液体製剤は、4℃で2~3年の保管が可能であるとしても、その間にストレスを受けるとタンパク質の分解や凝集が起こり、生じた凝集体はアレルギーショックの原因になる可能性があるため、製剤条件(例えば、タンパク質濃度、pH、塩濃度、添加剤の種類や量など)を最適化し、当該製剤を高ストレス耐性、高安定性、にする必要がある。製剤にかかるストレスは、製造、輸送、保管および投与のいずれの段階でも起こりうる。具体的には、送液、界面接触、掃引、振動、攪拌、ハンドリング、衝撃、加圧減圧、温度変化、光、酸素、溶液組成変化などにより、製剤にストレスがかかる。
【0021】
したがって、以下では、タンパク質を含有する液体製剤の保存安定性についてできるだけ迅速に結果を出せる方法、ならびに、保存安定性の高い製剤をできるだけ効率よく選択する方法について説明する。
【0022】
2.保存安定な液体製剤の選択および製造方法
本発明により効率的な製剤条件を決定することができる。
タンパク質溶液中でのタンパク質の凝集に関与する物理化学的パラメータには、溶液中での構造安定性とコロイド安定性がある。
【0023】
コロイド安定性は、タンパク質分子の会合のしやすさによって評価することが可能であり、コロイド安定性が高いときにはタンパク質の分散状態がよいことを示し、一方、コロイド安定性が低いときにはタンパク質の分散状態が悪いことを示している。コロイド安定性は、これに限定されないが、超遠心沈降平衡法により抗体等のタンパク質溶液について第2ビリアル係数(B2)を求めることによって評価することが可能である。正のB2は、タンパク質分子間に斥力が働いていることを示し、一方、負のB2は、タンパク質間に引力が働いていることを示す。拡散相互作用パラメータ(kD)は、この第2ビリアル係数(B2)と高い相関性を有し、kDが大きいほど分散性がよいことに対応する。ここでkDとB2の関係は、kD=B2-R(ここで、Rは、抗体や溶媒の種類や組成により変化する定数である。)の式で表すことができる。B2は、その値から分子間力が斥力か引力か判断できる絶対的な値であるのに対し、kDは定数Rの寄与がある分、その値から分子間力が斥力か引力かを判断することはできない。相対的な比較としてkDの値が大きい方が分散性がよいことを意味する。
【0024】
構造安定性は、タンパク質分子が変性を起こさずに存在可能な程度を示し、構造安定性が高いほど変性しにくいことを意味する。通常、変性するとタンパク質は凝集することから、構造安定性はタンパク質に温度をかけた際の凝集開始温度(Tagg)によって評価することができる。凝集開始温度は、凝集による粒子のサイズが大きくなる温度を動的光散乱法によりモニターすることによって決定することができる。すなわち、タンパク質溶液の温度を徐々に上昇させるとき、粒子径が大きくなり始める温度が、凝集開始温度である。動的光散乱法では、例えば、拡散係数に応じた散乱光のゆらぎを検出し、例えばストークス・アインシュタイン式を利用して粒子径を測定することができる。安定性が高いほど、高い温度まで凝集しないため、凝集開始温度により構造安定性を評価することができる。
【0025】
本発明者らは、今回、凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)がともにpHや、塩(例えば塩化ナトリウムなど)および添加剤(例えば糖、界面活性剤など)の種類および/または量と強い相関があることを見出した。
【0026】
本発明者らは、さらに、これらの物理化学的パラメータを決定し、単量体減少速度に対して相関解析を行った。まず初めに、ステップワイズ法により、単量体減少速度と相関性のある物理化学的パラメータの決定、つまり重回帰分析における説明変数の決定を行った。その結果、凝集開始温度、拡散相互作用パラメータ、またその掛け合わせが単量体減少速度と相関性を有することを見出した。その後、それらの説明変数を用いて、単量体減少速度に対し、重回帰分析を行うことで下記の式Iを導き、式IにTaggおよびkDの実測値を代入することによって保存安定性試験の結果を予測することができることを見出した。
【0027】
[式I]
単量体減少速度=-A-B×kD+C×Tagg+(D×kD)×[-E×(Tagg-F)]
(式中、Taggは凝集開始温度であり、kDは拡散相互作用パラメータ(拡散係数の濃度依存性を示す)であり、A,B,C,D,EおよびFはタンパク質の種類に依存する異なる係数である。)
【0028】
本明細書中で使用する用語「保存安定性」は、液体製剤を例えば1ヶ月以上もしくは6ケ月以上の長期に保管するとき、タンパク質成分の分散状態および例えば変性等に起因する凝集の程度に基づいて評価することが可能であり、「保存安定性がよい」とは、液体中におけるタンパク質成分の分散性がよく、かつ凝集開始温度が高いかまたは凝集がないもしくは凝集しにくいことを示す。
【0029】
単量体減少速度を求める式を決定する具体的な手順は次のとおりである。
第1工程で、pH、塩濃度(例えば、塩化ナトリウム濃度)の異なる複数の液体製剤候補を用意する。
【0030】
第2工程で、第1工程で作製した液体製剤候補のそれぞれについてタンパク質の凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)を測定する。これにより、物理化学的パラメータであるTaggおよびkDとpHおよび/または塩濃度との相関性を取得する。
【0031】
第3工程で、kDおよびTaggの値が高い方がより安定であるという前提に基づき、第2工程で決定された相関性より、kDおよびTaggを高くするpHおよび/または塩濃度を算出し、種類および/または量を変えた(あるいは、種類および/または量の異なる)添加剤(例えば、糖、糖アルコール、界面活性剤、またはそれらの混合物、など)を加え、再度kDおよびTaggを測定し、kDおよびTaggが高くなる条件を決定する。これにより、TaggおよびkDを高くする溶液条件(pH、塩濃度および添加剤)を決定する。
【0032】
第4工程で、第3工程で定めた液体製剤候補について安定性試験を実施する。これにより、単量体減少速度など、凝集体形成に関わる数値パラメータを取得する。
【0033】
第5工程で、第4工程で得た安定性試験の結果とkD、Taggとの関係式を算出し、安定な領域マップを取得する。
【0034】
さらに係数の算出は、次のように行うことができる。
目的変数を、単量体減少速度とし、説明変数をkD、Tagg等のパラメータに設定し、ステップワイズ法による説明変数の決定を行う。その後、最小二乗法によりkD、Taggを説明変数としたモデルの当てはめを行い、係数を決定する。
【0035】
抗体TKM-011について、式IのA,B,C,D,EおよびFを決定し、よって下記の式IIが導かれた。
【0036】
[式II]
単量体減少速度=-2623086+8670×kD+36966×Tagg+(8.37+kD)×[-5453×(Tagg-45.3)]
【0037】
タンパク質を含む保存安定な液体製剤の製造方法においては、
第1工程で、所定濃度のタンパク質と、所定のバッファーにおいてpH、塩化ナトリウムおよび添加剤の種類および/または量の少なくとも1つが異なる該バッファーとを含む、1または複数の液体製剤候補を用意する。
【0038】
第2工程で、上記液体製剤候補のそれぞれについてタンパク質の凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)を測定する。
【0039】
すなわち、pH、塩(イオン強度)、添加剤などの組成を変化させたときの、液体製剤候補の物理化学的パラメータであるTaggおよびkDを取得し、一方で、ストレス負荷や時間経過後における「各サイズの凝集体量また形成速度」の評価を行う。
【0040】
「各サイズの凝集体の量または形成速度」として、加熱、振盪などのストレス付加(短期加速)あるいは長期保管試験後に、凝集体の粒子サイズが100nm以下、100nm~1μm、1μm~100μmの3領域、について定量値を取得し、必要に応じて形成速度の算出を行ってもよい。
【0041】
全ての製剤候補についてと「各サイズの凝集体量または形成速度」の間の相関関数を、各条件での「各サイズの凝集体量または形成速度」に対して、「物理化学的パラメータ」の値を使用し、相関解析におけるステップワイズ法により、「各サイズの凝集体量または形成速度」と相関のある「物理化学的パラメータ」の選択、重回帰分析における説明変数の決定を行い、その後重回帰分析を行うことで、下記の式IIIを導き、各タンパク質に対して係数を決定することにより、凝集安定性予測を行うことができる。
【0042】
[式III]
各サイズの凝集体量または形成速度=切片+係数A×kD+係数B×Tagg+係数C×kD×Tagg
【0043】
第3工程で、上記第2工程で決定された、上記液体製剤候補に対する凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)の各値を、上記の式Iに代入して、上記タンパク質の単量体減少速度を決定する。
【0044】
第4工程で、上記1または複数の液体製剤候補のうち前記第3工程で決定された単量体減少速度が最小となる液体製剤候補を選択する。
【0045】
これまで、特定の「物理化学的パラメータ」と一部の「凝集体量」に相関があることは報告されているが、凝集安定性に直接関与する、2種類以上の「物理化学的パラメータ」と各サイズの「凝集体量」とを組み合わせて予測を実現した例はなかった。その意味では、本発明の方法は、抗体の液体製剤の保存安定性を簡単な方法で予測することを可能にした点で画期的である。
【0046】
凝集開始温度(Tagg)および拡散相互作用パラメータ(kD)の測定は、例えば次のような方法により行うことができる。
【0047】
SEC(サイズ排除カラムクロマトグラフィー)によって、粒子サイズの分析により重合体(凝集体)形成を測定することができる。
【0048】
吸光度(ABS)(A280可溶性成分およびA350濁度)分析によって、可溶性モノマー%、モノマー(ピーク)面積、回収率、および凝集体の存在を測定することができる。
【0049】
FI(フローイメージング)では、フローサイト粒子画像解析(例示の装置:FlowCamTM(フルイド・イメージング・テクノロジーズ社))により粒子数のカウントと粒子形状を測定することができる。このような装置により例えばタンパク質凝集体の検出などを行うことができる。
【0050】
動的光散乱法では、粒子のサイズが大きくなる温度をモニターする。このとき、安定性が高い方が高い温度まで凝集しない。
【0051】
第5工程で、上記第4工程で選択された液体製剤候補におけるタンパク質濃度、バッファー、ならびにpH、塩および添加剤の種類および量に基づいて上記タンパク質を含む液体製剤を製造する。
【0052】
バッファーは、好ましくはpH4~6のバッファーであり、より好ましくは酢酸バッファーである。バッファーの濃度は、例えば10mM~100mM、15mM~50mMなどである。
【0053】
添加剤には、例えば糖、界面活性剤、糖アルコール、アルコール、ビタミン、アミノ酸などが挙げられる。
【0054】
上記の方法で決定された液体製剤の処方の例は、非限定的に、上記タンパク質が抗体であるとき、抗体を0.05~30重量%含む、pHが4.0~6.0である、糖もしくは糖アルコールを0~15重量%含む、酢酸バッファーを含む、ならびに塩化ナトリウムを含まないかまたは100mM以下、例えば60mM以下含む、液体製剤である。
【0055】
上記糖もしくは糖アルコールは、例えばソルビトール、スクロース、トレハロース、マンニトールまたはそれらの混合物である。
【0056】
上記液体製剤にはさらに、界面活性剤を0.02重量%以下の量で含有させてもよい。
上記界面活性剤は、例えば非イオン性界面活性剤であるが、医薬品の添加剤として使用しうるものであればいずれでもよい。非イオン性界面活性剤の例として、ポリソルベート、ポロキサマーがある。
【0057】
さらにまた、実施形態によれば、抗体がヒトCD20に対する抗体(例えばTKM-011もしくはBM-ca)である液体製剤であるとき、保存安定性が改善された製剤は、抗体を0.05~30重量%(例えば0.05~5重量%)含む、pHが4.5~5.5である、ソルビトールもしくはスクロースを0~15重量%(例えば4~6重量%)含む、酢酸バッファーを含む、ポリソルベートを0.015重量%以下の量(例えば0.01重量%)で含む、ならびに塩化ナトリウムを含まないか、もしくは塩化ナトリウムを60mM以下含む(すなわち、塩化ナトリウム0~60mM)、ことを特徴とする。
【0058】
さらに非限定的な製剤例を以下に示す。
(例1)ヒトCD20に対する抗体TKM-011もしくはBM-caを含む保存安定な液体製剤であって、抗体を0.05~30重量%含む、pHが5.0である、スクロースを6~12重量%含む、20mM酢酸バッファーを含む、ポリソルベートを0.01重量%含む、ならびに塩化ナトリウムを含まない、ことを特徴とする液体製剤。
【0059】
(例2)ヒトCD20に対する抗体TKM-011もしくはBM-caを含む保存安定な液体製剤であって、抗体を0.05~30重量%含む、pHが5.0である、ソルビトールを6重量%含む、20mM酢酸バッファーを含む、ポリソルベートを0.01重量%含む、ならびに塩化ナトリウムを含まない、ことを特徴とする液体製剤。
【0060】
(例3)ヒトCD20に対する抗体TKM-011もしくはBM-caを含む保存安定な液体製剤であって、抗体を0.05~30重量%含む、pHが5.0である、スクロースを6~12重量%含む、20mM酢酸バッファーを含む、ポリソルベートを0.01重量%含む、ならびに塩化ナトリウムを60mM含む、ことを特徴とする液体製剤。
【0061】
(例4)ヒトCD20に対する抗体TKM-011もしくはBM-caを含む保存安定な液体製剤であって、抗体を0.05~30重量%含む、pHが5.0である、糖を含まない、20mM酢酸バッファーを含む、ポリソルベートを0.01重量%含む、ならびに塩化ナトリウムを含まない、ことを特徴とする液体製剤。
【0062】
(例5)ヒトCD20に対する抗体TKM-011もしくはBM-caを含む保存安定な液体製剤であって、抗体を0.05~30重量%含む、pHが5.0である、ソルビトールを3重量%含む、20mM酢酸バッファーを含む、ポリソルベートを0.01重量%含む、ならびに塩化ナトリウムを含まない、ことを特徴とする液体製剤。
【0063】
(例6)ヒトCD20に対する抗体TKM-011もしくはBM-caを含む保存安定な液体製剤であって、抗体を0.05~30重量%含む、pHが5.0である、糖を含まない、20mM酢酸バッファーを含む、ポリソルベートを0.01重量%含む、ならびに塩化ナトリウムを60mM含む、ことを特徴とする液体製剤。
【実施例
【0064】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明する。しかしながら、本発明の範囲は、これらの実施例によって制限されないものとする。
【0065】
[実施例1]
TKM-011液体製剤の保存安定化条件の検討(その1)
1.試験手順
抗体TKM-011バイアル(5mg/mL,10mL)(特殊免疫研究所製)を陽イオン交換カラムHiTrap SP HP(GEヘルスケア製)にアプライし、溶離液(開始バッファー:20mM酢酸ナトリウム,pH5.0、溶出バッファー:100mMリン酸,400mM NaCl,pH8.0)を流してポリソルベート(PS)80を除去したのち、蒸留水中で透析し、TKM-011を回収した。
【0066】
抗体TKM-011(ヒト化抗体;BM-caとも称する)のH鎖可変領域およびL鎖可変領域のアミノ酸配列はそれぞれ、米国特許8,101,179B2に記載されたSEQ ID NO:19およびSEQ ID NO:25のアミノ酸配列である。
【0067】
下記の試験条件に合うように試験サンプルを調製した。
【0068】
1条件あたり(抗体1mg/mL,1mL,N=1)×7本を用意した。
試験条件:
pH、溶媒(バッファー)、塩、糖、およびポリソルベート80の種々の組み合わせについてサンプルを用意した。
(1)拡散相互作用パラメータkD(動的光散乱法DLS);67条件
pH; 5.0,5.5,6.0,6.5,7.0
溶媒;20mM酢酸,20mMクエン酸,20mMヒスチジン,20mMリン酸
塩;0,20mM NaCl,150mM NaCl,200mM NaCl
糖; 0,5%スクロース,10%スクロース,5%ソルビトール,10%ソルビトール
ポリソルベート80;0,0.01%,0.07%
(2)凝集開始温度Tagg(動的光散乱法DLS);27条件
pH;5.0,6.0,7.0
溶媒;20mM酢酸,20mMクエン酸,20mMヒスチジン,20mMリン酸
塩;0,20mM NaCl,200mM NaCl
糖;0,5%スクロース,10%スクロース
ポリソルベート80;0,0.01%,0.07%
(3)凝集開始温度Tagg(微量タンパク質特性解析システムOPTIMTM(Avacta社));128条件
pH;5.0,5.5,6.0,6.5,7.0
溶媒;20mM酢酸,20mMクエン酸,20mMヒスチジン,20mMリン酸
塩;0,20mM NaCl,150mM NaCl,200mM NaCl
糖;0,5%スクロース,10%スクロース,5%ソルビトール,10%ソルビトール
ポリソルベート80;0,0.01%,0.07%
【0069】
保管条件は、4℃と40℃の2種類とした。
また、保管期間は、1,3,6ヶ月の3種類とした。
【0070】
保管後1,3,6ヶ月の時点で測定および解析を行った。測定は、SEC、ABS(A280可溶性成分・A350濁度)、FI を用いて行った。
【0071】
2.測定結果
抗体TKM-011のTm(CH2)とpH、NaCl、および糖(スクロース(sucrose)もしくはソルビトール(sorbitol))との間には強い相関性があることが判明した(表1)。ここでTmは、熱変性プロセスの示差走査カロリメトリー(DSC)カーブの変性中点温度を示し、熱安定性の指標であり、Tm(CH2)は抗体TKM-011の定常領域CH2のTmである。
【0072】
さらに以下の表中、推定値は、重回帰分析で算出されるそれぞれの説明変数の係数であり、絶対値が大きいほど目的変数への影響が大きく、正負は相関の正負を表す。標準誤差は、推定値の標準偏差のことを言い、標本から得られる推定値そのもののばらつきの大きさ・推定精度を表す指標である。p値は、重回帰分析において、それぞれの説明変数の係数の有意確率を表す。t値は、重回帰分析において、それぞれの説明変数が目的変数に与える影響の大きさを表し、絶対値が大きいほど影響が強いことを意味する。
【0073】
具体的には、表1の結果から、pHおよびNaClについては負の相関がある。すなわち、このことは、低pH、低濃度NaClの方がTm値は高い、言い換えると安定性が高いことを示す。
【0074】
また、糖は、両方とも正の相関があることから、高濃度の糖がTm値は高い、言い換えると安定性が高いことを示す。
【0075】
相関性の強さは、NaCl>Sorbitol>pH>Sucroseの順に低い。相関解析については、JMP(R)Pro12.2.0(SAS Institute INC.)ソフトウェアを用いて行った。
【0076】
【表1】
【0077】
さらに、抗体TKM-011のTagg(OPTIM)とpH、NaCl、糖(sucrose、sorbitol)およびポリソルベート80(PS80)との間には相関性があることが判明した(表2)。相関解析については、JMP(R)Pro12.2.0(SAS Institute INC.)ソフトウェアを用いて行った。
【0078】
具体的な結果は次のとおりである。
相関性あり:pH、NaCl、糖(sucrose、sorbitol)、PS80
正の相関:糖
負の相関:pH、NaCl、PS80
相関性の強さ:NaCl>Sorbitol>Sucrose>pH>PS80
【0079】
【表2】
【0080】
さらに、抗体TKM-011のTagg(DLS)とpH、NaClおよび糖(sucrose)との間には相関性があることが判明した(表3)。相関解析については、JMP(R)Pro12.2.0(SAS Institute INC.)ソフトウェアを用いて行った。
【0081】
具体的な結果は次のとおりである。
相関性あり:pH、NaCl、糖(sucrose)
正の相関:糖
負の相関:pH、NaCl、PS80
相関性の強さ:NaCl>Sucrose>pH
【0082】
【表3】
【0083】
さらに、抗体TKM-011のkDとpH、NaClおよび糖(sucrose、sorbitol)との間には相関性があることが判明した(表4)。相関解析については、JMP(R)Pro12.2.0(SAS Institute INC.)ソフトウェアを用いて行った。
【0084】
具体的な結果は次のとおりである。
相関性あり:pH、NaCl、糖(sucrose、sorbitol)
負の相関:pH、NaCl、糖
相関性の強さ:Sucrose>pH>NaCl>Sorbitol
【0085】
【表4】
【0086】
次に溶媒種の影響について調べた。溶媒種として、酢酸バッファー、クエン酸バッファー、ヒスチジンバッファーおよびリン酸バッファーを使用した。上記と同様にTm(CH2)、Tagg(OPTIM)およびkDを測定した。
【0087】
その結果、低pH、低塩濃度条件下では、酢酸バッファーの方が、Tm、kD、Tagg全てについて改善されることが分かった。
【0088】
上記の結果を以下にまとめる。
【0089】
(1)全てのパラメータについて、NaClは添加しないこと、またpHは、酸性側の条件がより溶液中の抗体の安定性を高めることが、統計処理から明らかとなった。
【0090】
(2)糖の添加については、構造安定性の観点からは、添加する方が好ましいが、コロイド安定性の観点からは添加しない方が好ましいことが明らかとなった。PS80の添加は、あまり大きく影響しないことが明らかとなった。
【0091】
(3)良い安定性を示すと予想される製剤条件の例は次のとおりである。
20mM酢酸バッファーpH5.0、NaCl濃度0mM、ソルビトール5%、PS80 0.01%
【0092】
(4)中程度の安定性を示すと予想される製剤条件の例は次のとおりである。
20mMリン酸バッファーpH5.0、NaCl濃度200mM
【0093】
(5)悪い安定性を示すと予想される製剤条件の例は次のとおりである。
20mMリン酸バッファーpH7.0、NaCl濃度200mM
【0094】
[実施例2]
TKM-011液体製剤の保存安定化条件の検討(その2)
1.試験手順
上記の実施例1と同様の試験手順を用いて、下記表5の試験サンプルについて、コロイド安定性と構造安定性を評価した。サンプルは、加速試験(振盪および加熱)の結果から選抜した、合計評価の良い8条件(13,15,19,14,11,17,16,12)、従来の2条件(41,42)の合計10条件からなる。
【0095】
試験条件は、40±2℃および4±2℃、75%RH±5%、ならびに1,3,6ヶ月であり、保管終了後すぐにSEC、ABS(A280可溶性成分およびA350濁度)、FIを測定し、安定性を評価した。なお、TaggおよびkDは、保管試験開始前に測定した。
【0096】
【表5】
【0097】
2.測定結果
Tagg、kD、SEC、ABS(A280可溶性成分およびA350濁度)およびFIを測定した結果を、図1AにkD、図1BにTagg、図2にA350濁度、図3にA280可溶性成分、図4にSEC(モノマー%)、図6にFI総粒子%についてそれぞれ示した。
【0098】
40℃1ヶ月保管試験後、40℃3ヶ月保管試験後、および40℃6ヶ月保管試験後、目視で、サンプル13(酢酸バッファー、6%Sucrose)では白濁が確認できないが、サンプル41(1st campaign)、サンプル42(2nd campaign)では、40℃1ヶ月保管試験後に明らかに白濁し、沈殿物が確認できた。
【0099】
図1Aにおいて、kDが大きいほど分散性がよいことを示す。この観点から大きなkDを示すサンプルは11、13および19であり、また負であるが比較的小さいkDを示すサンプルは12、15、17である。
【0100】
図1Bにおいて、Taggは、その温度が高いほど凝集体形成が開始される温度が高くなる。Taggが45℃以上であるサンプルをみると、11~17、19である。
【0101】
図2Aから、4℃6ヶ月間保管では、酢酸バッファーのサンプル(11~19)ではA350の値は0時間の値とほぼ同様であったが、従来条件(41)では、わずかにA350の値が上昇した。図2Bから、40℃6ヶ月間保管では、A350の値が40℃3ヶ月間保管の結果と同じ傾向になっていることが確認できた。酢酸バッファーのサンプルでは0時間の値と比べサンプル12、14、16で、A350の値が上昇し、クエン酸バッファーのサンプルおよび従来条件では、A350の値が大きく上昇した。
【0102】
図3Aから、4℃6ヶ月間保管で、酢酸バッファーのサンプル(11~19)のうちサンプル14~19では、A280の値が0時間の値と比べてわずかに減少した。従来条件(41)では、A280の値が0時間の値よりわずかに大きくなり、これは遠心後も取り除けないサイズの凝集体の散乱がA280の値に影響していたと考えられる。
【0103】
図3Bから、40℃6ヶ月間保管では、酢酸バッファーのサンプル(11~19)ではサンプル12、14で、A280の値は0時間の値より明らかに低くなったが、その他のサンプルでは0時間の値よりわずかに大きくなり、これは遠心後も取り除けないサイズの凝集体の散乱がA280の値に影響していたと考えられる。従来条件(サンプル41)では、0時間より値が明らかに低くなった。
【0104】
なお、図3では、 13,200rpm、30分遠心後の上清のA280の値について、0時間を100%とした回収率を示している(以下同じ)。
【0105】
図4Aから、4℃6ヶ月間保管では、0時間の値と比べて可溶性成分のSECモノマー(%)の値はわずかに低くなった。また図4Bから、40℃6ヶ月間保管では、可溶性成分のSECモノマー(%)の値は0時間の値と比べて明らかに下がった。
【0106】
また、図5から、サンプル13(酢酸バッファー、6%Sucrose)の4℃および40℃6ヶ月間保管後のクロマトグラムの比較から、40℃3ヶ月保管のサンプルでは、メインピークが大きく減少し、オリゴマーと考えられるピークおよび分解物由来と考えられる複数のピークの増加が確認できた。他のサンプルも類似のクロマトパターンとなった。
【0107】
図6Aから、4℃6ヶ月間保管では、0時間より1μm以上の粒子が増加した。
図6Bから、40℃6ヶ月間保管では、酢酸バッファーのサンプル(11~19)ではサンプル11~15で、1μm以上の粒子が0時間より約10倍に増加した。従来条件(サンプル41、42)では、0時間より1μm以上の粒子が100倍以上増加した。
【0108】
さらにまた、4℃6ヶ月および40℃6ヶ月の各保管後のSEC(monomer%)、FI、A280(recovery)およびA280(soluble)の測定結果に基づいた安定性の良い保管条件を良い順に選抜した結果を表6および表7に示した。
【0109】
【表6】
【0110】
【表7】
【0111】
加速試験結果から選抜したときの良い条件上位5種類のサンプル11、13、14、15、19は、4℃および40℃6ヶ月保管で、FIの1μm以上の粒子数を良い順に選抜すると、上位に位置する結果となった。
【0112】
上記サンプルのうち良い条件(4℃1ケ月、3ケ月、6ケ月保管)を提供するレーダー図(A350、回収率、monomer面積、monomer%、FI(p/ml))を示したサンプルは、サンプル11および12(図7A)、サンプル13および14(図7B)、サンプル15および16(図7C)、サンプル17および19(図7D)であった。また、これらのサンプルを40℃1ケ月、3ケ月、6ケ月保管したときのレーダー図(A350、回収率、monomer面積、monomer%、FI(p/ml))を、サンプル11および12について図8Aに、サンプル13および14について図8Bに、サンプル15および16について図8Cに、サンプル17および19について図8Dに、それぞれ示した。40℃であっても1ヶ月保管では、いずれも良好な保存安定性を示すことが分かる。
【0113】
上記の表5に示した製剤条件のサンプルに関するレーダー図(4℃および40℃保管)から判断し製剤条件の良い順番にランキングした結果を表8に示す。
【0114】
【表8】
【0115】
表8から、サンプル17、19、11、13、15、16、14および12の製剤条件は、優れた保存安定性を付与することが分かった。
【0116】
[実施例3]
抗体TKM-011の単量体減少速度式の作成
単量体減少速度は、SEC分析で得られた単量体の面積値の経時的な変化量より算出した。その後、単量体減少速度に対して、物理化学的パラメータの値を使用し、ステップワイズ法による説明変数の決定、その後重回帰分析を行い式の算出、係数の算出を行った。ステップワイズ法、重回帰分析については、JMP(R)Pro12.2.0(SAS Institute INC.)ソフトウェアを用いて行った。
【0117】
具体的な手順は次のとおりである。
【0118】
第1工程で、pH、塩化ナトリウム濃度の異なる複数の液体製剤候補を用意する。
第2工程で、第一工程で作製した液体製剤候補のそれぞれについてタンパク質の凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)を測定する。これにより、物理化学的パラメータであるTaggおよびkDとpH、塩濃度との相関性を取得する。
【0119】
第3工程で、kD、Taggの値が高い方がより安定であるという前提に基づき、第2工程で決定された相関性より、kD、Taggを高くするpH、塩濃度を算出し、添加剤(糖、ポリソルベート80など)を加え、再度kD、Taggを測定し、kD、Taggが高くなる条件を決定する。これにより、TaggおよびkDを高くする溶液条件(pH、塩濃度、添加剤)を決定する。
【0120】
第4工程で、第3工程で定めた液体製剤候補について安定性試験を実施する。これにより、単量体減少速度など、凝集体形成に関わる数値パラメータを取得する。
【0121】
第5工程で、第4工程で得た安定性試験の結果とkD、Taggとの関係式を算出し、安定な領域マップを取得する。
【0122】
上記の手順によって、抗体TKM-011の製剤の単量体減少速度に関して下記の式が得られた。
【0123】
<式>
単量体減少速度=-2623086+8670×kD+36966×Tagg+(8.37+kD)×[-5453×(Tagg-45.3)]
【0124】
係数の算出は、次のように行った。
目的変数を、単量体減少速度とし、説明変数をkD、Tagg等のパラメータを設定し、ステップワイズ法による説明変数の決定を行った。その結果、p値の値より単量体減少速度を目的変数とする場合、kD、Taggが説明変数として影響を与えることが確認された。その後、最小二乗法によりkD、Taggを説明変数としたモデルの当てはめを行い、係数を決定した。
【0125】
上記の式に、種々の保存条件にける凝集開始温度(Tagg)および拡散相互作用パラメータ(kD)を測定し、それらの各値を代入することによって各条件における単量体減少速度(すなわち、凝集体形成速度)を決定することができる。
【0126】
上記の表5の製剤条件のサンプルについて、凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)を得て(表9)、単量体減少速度を算出した結果に基づいたサンプルのランキングは、単量体減少速度の低い順に、以下のようになった。
(低い)15、17、19、12、13、16、11、14、41、42(高い)
【0127】
上記表8の総合ランキングの結果と比較すると、比較的類似した傾向が認められた。必要であれば、上記の式から決定された単量体減少速度の結果と、レーダー図(図7図8)に示される例えばA350(4℃および40℃)の結果とを考慮することにより、総合的なランキングを修正することも可能である。
【0128】
【表9】
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明により、抗体医薬等のタンパク質を含む液体製剤における保存安定性(特に凝集体形成)を、製剤候補サンプル中の該タンパク質の凝集開始温度(Tagg)と拡散相互作用パラメータ(kD)を決定するだけで精度よく短時間で予測することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図8A
図8B
図8C
図8D