IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ADEKAの特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】油中水型クリーム
(51)【国際特許分類】
   A23D 7/00 20060101AFI20221108BHJP
   A23C 13/14 20060101ALI20221108BHJP
   A23L 9/20 20160101ALN20221108BHJP
【FI】
A23D7/00 508
A23C13/14
A23L9/20
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018136988
(22)【出願日】2018-07-20
(65)【公開番号】P2020010669
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-07-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 茂夫
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 一幸
(72)【発明者】
【氏名】廣川 敏幸
【審査官】吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-059323(JP,A)
【文献】国際公開第2013/027729(WO,A1)
【文献】特開2017-184638(JP,A)
【文献】特許第4594345(JP,B2)
【文献】特開2013-215176(JP,A)
【文献】特開2017-175982(JP,A)
【文献】油化学,1994年,Vol.43,No.12,pp.1062-1067
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
A23C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを油相中に2.0~6.3質量%含有し、油相の20℃におけるSFCが24未満である油中水型クリーム。
【請求項2】
構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20~60質量%、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が30~70質量%である油脂配合物をランダムエステル交換してなるエステル交換油脂を油相中に含有する、請求項1記載の油中水型クリーム。
【請求項3】
デポジッター供給用である請求項1又は2に記載の油中水型クリーム。
【請求項4】
結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを、油相中に2.0~6.3質量%含有させる、油中水型クリームの機械耐性の向上方法。
【請求項5】
結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを有効成分とする、油中水型クリームの機械耐性向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な機械耐性を有する油中水型クリームに関する。
【背景技術】
【0002】
油中水型クリームは、甘味料を含有し、油脂を連続相とするクリームのことであり、バタークリームともいわれる。バタークリームは、水を連続相とする水中油型の乳化形態のクリームの代表である生クリームに対し、コクのある風味であることや、日保ちが良好であることなどの優れた点をもつ反面、油脂を連続相とする関係上、油性感が強く、口溶けが重く感じられるという欠点があった。
【0003】
油性感が減じられたみずみずしい口溶けの油中水型クリームを得るためには、卵類や糖液などの水相成分の配合量を増加させたり、使用油脂を低融点の口溶けのよい油脂、例えば液状油の比率を上げた配合油に変更したりすればよい。しかし、そうすると当然にして耐熱保形性(高温保管時の保形性)が悪化し、特に前者の方法の場合は乳化安定性が低下して水相成分が分離しやすくなる問題もある。また、両者を併用した場合は、液状油が分離して外観や食味を損ねてしまう問題もある。
【0004】
さらに、油中水型クリームを製菓製パンのフィリングクリームとして使用するときはデポジッターなどの機械を通してフィリングする場合が多く、その場合、これらの問題がより顕著になる。デポジッターなどの機械を通すと、送り装置などの機械的な圧力によって、クリームが脱泡してキメが粗くなったり、加工軟化により結晶が融解して耐熱保形性が悪化したり、液状油成分が分離して表面に染みだし、テカリを生じて外観が悪化したり、液状油成分のぬめりにより食感が悪化したりするなど、物性も食感も悪化する。
【0005】
上記のような水相成分の配合量を増加させたり低融点の口溶けのよい油脂を使用したりした油中水型クリームの、耐熱保形性や乳化安定性などの物性を改善するための方法として、ペクチンなどの増粘安定剤を水相または油相に配合する方法(例えば非特許文献1参照)、含気していないイタリアンメレンゲを配合する方法(例えば特許文献1参照)、アルギン酸エステルを使用する方法(例えば特許文献2参照)、低HLBのシュガーエステルに代表される特定の乳化剤を油相に添加する方法(例えば特許文献3及び4参照)などの方法が提案されている。
【0006】
しかし、これらの方法は基本的に水相や油相の粘度や硬さを増やすことでその効果が得られるため、高い効果を得ようとしてこれらの増粘安定剤や乳化剤を多く配合すると、口溶けの悪化につながりやすいという問題があった。また、これらの方法では、デポジッターなどの機械を通したときの諸問題、特に液状油成分の分離にはほとんど効果が見られなかった。
【0007】
一方、トリグリセリドに、少量のジグリセリド成分を含有させることで、油脂組成物の物性を改善する試みが各種行われている。(たとえば特許文献5~9参照)。しかし、そのほとんどが水中油型乳化物であるホイップクリームであるか、油中水型乳化物であればロールイン油脂やチョコレート用油脂などの高融点油脂に関するものであり、バタークリームに代表される油中水型クリームに関するものは特許文献5及び6のみである。これは、ジグリセリド成分が高融点成分で、それそのものの口溶けが悪いため、油脂の口溶けが組成物の口溶けに直接関係しない水中油型乳化物に使用するか、あるいは、もともと高融点であるロールイン油脂やチョコレート用油脂に使用するしかなかったためと考えられる。そして、特許文献5及び6に記載のように、バタークリームに使用する際は不飽和酸のジグリセリドを使用して口溶けの悪化を抑制する必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭51-035460号公報
【文献】特開2012-000023号公報
【文献】特開昭58-043744号公報
【文献】特開平09-187222号公報
【文献】特開2004-290185号公報
【文献】特開2007-068407号公報
【文献】特開平08-103236号公報
【文献】特開平05-168412号公報
【文献】特開2013-005932号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】「製菓理論 基本生地とその応用」松田兼一著 昭和62年11月1日刊 242頁~245頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、生クリームのようなみずみずしい口溶けでありながら、良好な機械耐性を有する油中水型クリームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意研究した結果、油中水型クリームに従来バタークリームに使用されていた不飽和脂肪酸のジグリセリドではなく、飽和脂肪酸のジグリセリドを含有させることで、上記問題を解決可能であることを見出した。
【0012】
本発明は、上記知見によるものであり、結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを油相中に1.0~10質量%含有し、油相の20℃におけるSFCが24未満である油中水型クリームを提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明の油中水型クリームは、生クリームのようなみずみずしい口溶けでありながら、良好な機械耐性を有する。そのため、本発明の油中水型クリームは、製菓製パン用フィリングクリームに好適に使用でき、特にデポジッターを使用したフィリング用、すなわちデポジッター供給用として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の油中水型クリームについて、好ましい実施形態に基づき詳述する。
まず、本発明で使用するジグリセリドについて述べる。
本発明においては、ジグリセリドは油相中に含まれる。本発明で使用するジグリセリドは、グリセリンに2個の飽和脂肪酸が結合したものである。その飽和脂肪酸は、炭素数が16以上の飽和脂肪酸のみからなることが必要であり、炭素数16~33の飽和脂肪酸のみからなることが好ましく、炭素数16~22の飽和脂肪酸のみからなることがより好ましい。ジグリセリドの2個の結合のうち1個又2個が不飽和脂肪酸であったり、炭素数16未満の飽和脂肪酸を含むものであったりすると、良好な機械耐性という本発明の効果が得られないことに加え、耐熱保形性が低下するという問題が生じる。
【0015】
上記ジグリセリドは、例えば、炭素数16以上、好ましくは炭素数16~22の飽和脂肪酸を主とする油脂、例えば各種動植物性油脂の分別硬部油、水素添加油又は極度水素添加油と、グリセリンとのエステル交換によって得られる。また、炭素数16以上、好ましくは炭素数16~22の飽和脂肪酸とグリセリンのエステル化によっても得られる。エステル交換反応はアルカリ金属による化学的方法でも、酵素を使用した方法でもよい。酵素を使用する場合は、ランダムエステル交換でも1,3位選択性酵素を用いる方法でもよい。
【0016】
エステル交換やエステル化で得られたジグリセリド含有油脂に含まれるモノグリセリドや脂肪酸等の不純物は、蒸留等により除去することができる。また、未反応のトリグリセリドやグリセリンは、油中水型クリームの油相に使用する際に問題にならない程度の量であれば除去する必要はないが、結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドの含量を、上記ジグリセリド含有油脂中50質量%以上とすることが好ましく、より好ましくは65質量%以上とする。
【0017】
本発明の油中水型クリームにおける、結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドの含有量は、油相中に1.0~10質量%、好ましくは、2.0~8.0質量%である。結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドの含有量を上記範囲とすることで、口溶けが良好で、機械耐性にも優れた油中水型クリームが得られる。一方、1.0質量%以下の添加量では、本発明の効果が得られず、耐熱保形性も低下する。また、10質量%以上の添加量では、風味と口溶けが悪化する。
【0018】
次に、結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリド以外の、本発明の油相に使用し得る油脂について述べる。
本発明の油中水型クリームの油相としては、食用に適する油脂を特に制限なく用いることができる。具体的には、パーム油、パーム核油、ヤシ油、大豆油、菜種油(キャノーラ油)、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、カポック油、胡麻油、月見草油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂及びイリッペ脂等の各種植物油脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油及び鯨油等の各種動物油脂、並びにこれらに水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を使用することができる。本発明はこれらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0019】
これらの油脂の中でも、乳化安定性と耐熱保形性に優れた油中水型クリームが得られる点で、パーム系油脂を原料の一部又は全部に使用したエステル交換油や、その分別油を使用することが好ましい。さらに、口溶けの良さと耐熱保形性を兼ね備えた油中水型クリームが得られる点で、パーム系油脂とラウリン系油脂のエステル交換油を使用することがより好ましい。そして、20℃におけるSFCが24未満という条件の範囲内であっても、油中水型クリームの乳化安定性と耐熱保形性を高めることができることに加え、良好な口溶けを有する油中水型クリームとすることができることから、構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20~60質量%であり、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が30~70質量%である油脂配合物をランダムエステル交換してなるエステル交換油脂(以下、油脂Aという。)を使用することが特に好ましい。
【0020】
上記油脂Aは、上述のように、使用することで油中水型クリームの乳化安定性と耐熱保形性を高めることができることに加え、良好な口溶けを有する油中水型クリームとすることができることから、特に液状油の配合量が多い油中水型クリームにおいて好適に使用される。本発明で使用する上記結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドは、上記油脂Aを、さらには油脂Aと液状油を多く含有するような油中水型クリームに使用した場合に、良好な乳化安定性、耐熱保形性及び優れた機械耐性を付与することができるものである。
【0021】
以下、上記油脂Aについて詳しく述べる。
上記油脂Aの製造に用いる油脂配合物は、構成脂肪酸組成における炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が20~60質量%、好ましくは30~60質量%であり、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が30~70質量%、好ましくは30~60質量%である。炭素数14以下の飽和脂肪酸が20質量%未満であると口溶けが悪くなり、炭素数14以下の飽和脂肪酸が60質量%より多いと油中水型クリームが耐熱保形性の悪い物性となる。また、炭素数16以上の飽和脂肪酸が30質量%より少ないと油中水型クリームが耐熱保形性の悪い物性となり、炭素数16以上の飽和脂肪酸が70質量%より多いと口溶けが悪くなる。
【0022】
また、上記油脂配合物は、構成脂肪酸組成における炭素数4以下の飽和脂肪酸含量が1質量%以下であることが好ましく、構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が2質量%以下であることが好ましい。構成脂肪酸組成における炭素数4以下の飽和脂肪酸含量が1質量%超であると、得られる油中水型クリームの耐熱保形性が悪化してしまうおそれがある。また、構成脂肪酸組成における炭素数20以上の飽和脂肪酸含量が2質量%超であると、得られる油中水型クリームの口溶けが悪化してしまうおそれがある。
【0023】
上記油脂配合物は、構成脂肪酸中に炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂及び構成脂肪酸中に炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂を、上記構成脂肪酸組成となるように配合することにより得られる。構成脂肪酸中に炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂における炭素数14以下の飽和脂肪酸の含有量は、好ましくは30~100%、より好ましくは65~100%である。構成脂肪酸中に炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂における炭素数16以上の飽和脂肪酸の含有量は、好ましくは30~100%、より好ましくは70~100%である。
【0024】
構成脂肪酸中に炭素数14以下の飽和脂肪酸を含有する油脂としては、例えばパーム核油、ヤシ油、ババス油、並びにこれらに対し硬化、分別及びエステル交換のうちの1種又は2種以上の操作を施した油脂を挙げることができ、これらの油脂の中の1種又は2種以上を用いることができる。油脂Aでは、好ましくはパーム核油及び/又はヤシ油を使用する。
【0025】
構成脂肪酸中に炭素数16以上の飽和脂肪酸を含有する油脂としては、例えばパーム油、米油、コーン油、綿実油、大豆油、ナタネ油(キャノーラ油)、ハイエルシンナタネ油、カカオ脂、ラード、牛脂、豚脂、魚油、並びにこれらに対し硬化、分別及びエステル交換のうちの1種又は2種以上の操作を施した油脂を挙げることができ、これらの油脂の中の1種又は2種以上を用いることができる。本発明では、好ましくは、パーム硬化油、大豆硬化油、米硬化油及びコーン硬化油の中の1種又は2種以上、更に好ましくはこれらの中でも飽和脂肪酸含量を最大限に高めた極度硬化油、すなわちパーム極度硬化油、大豆極度硬化油、米極度硬化油及びコーン極度硬化油の中の1種又は2種以上、最も好ましくはパーム極度硬化油を使用する。
【0026】
そして、上記油脂配合物に対し、ランダムエステル交換を行なうことにより、油脂Aが得られる。ランダムエステル交換の方法は、常法によればよく、例えばリパーゼ等の酵素による方法、ナトリウムメチラート等のアルカリ触媒による方法等が挙げられるが、特に制限されるものではない。
【0027】
上記油脂Aは、構成脂肪酸組成における不飽和脂肪酸含量が好ましくは5~30質量%、より好ましくは10~30質量%、更に好ましくは10~24質量%である。不飽和脂肪酸が5質量%未満であると得られる油中水型クリームの口溶けが悪くなる場合があり、不飽和脂肪酸が30質量%より多いと油中水型クリームが耐熱保形性の悪い物性となる場合がある。
【0028】
なお、本発明の油中水型クリームの油相に上記油脂Aを使用する場合、1種の油脂Aのみを使用してもよいが、好ましくは、上記条件範囲内において、融点の異なる2種の油脂Aを混合して使用することが、より高い乳化安定性と耐熱保形性に優れ、さらには、口溶けの良さと耐熱保形性をも保持する油中水型クリームを得ることが可能である点で、好ましい。この場合、融点の離間は5℃以上であることが好ましく、より好ましくは10℃以上である。なお融点差の上限については、30℃以下であることが好ましく、より好ましくは25℃以下である。
【0029】
本発明の油中水型クリームにおける上記油脂Aの含有量は、乳化安定性と耐熱保形性の観点からは、好ましくは油相中20~70質量%、より好ましくは30~50質量%である。
【0030】
本発明の油中水型クリームは、口溶けの良好な油中水型クリームが得られる点で、油相中に更に液状油を含有することが好ましい。
【0031】
上記液状油としては、大豆油、菜種油(キャノーラ油)、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、カポック油、胡麻油、月見草油等の常温(25℃)で液状の油脂が挙げられるが、その他に、パーム油、パーム核油、ヤシ油、シア脂、サル脂、マンゴ脂、乳脂、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の常温で固体の油脂を分別することで得られた軟部油であって、常温で液状である油脂も使用することもできる。また、これらの油脂に対し、水素添加、分別、エステル交換等の物理的又は化学的処理の1種又は2種以上の処理を施した油脂についても、得られる加工油脂が常温で液状である範囲内において使用することもできる。本発明においては、これらの油脂を単独で用いることもでき、又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0032】
本発明では、得られる油中水型クリームの口溶けを良好なものとすることが可能な点から、上記液状油として、大豆油、菜種油(キャノーラ油)、コーン油、綿実油、オリーブ油、落花生油、米油、べに花油、ハイオレイックサフラワー油、ひまわり油、ハイオレイックひまわり油、パームスーパーオレイン等の常温で液状の油脂のうちの1種又は2種以上を使用することが好ましい。本発明の油中水型クリームにおける上記液状油の配合量は、油相中に、好ましくは30~80質量%、より好ましくは50~70質量%である。
【0033】
本発明の油中水型クリームにおいては、油相のSFCが20℃で24未満であることが必要である。20℃におけるSFCが24以上であると、口溶け、特に低温環境下での口溶けが悪いものになってしまうため好ましくない。また、20℃におけるSFCの下限は耐熱保形性と口溶けの両立可能な点で、好ましくは10以上、より好ましくは15以上、更に好ましくは20以上である。
【0034】
本発明の油中水型クリームにおける上記油脂の含有量は、乳化安定性の観点からは、好ましくは18~80質量%、より好ましくは20~70質量%、更に好ましくは25~60質量%である。なお、本発明においては、油脂を含有する原材料を使用した場合は、該原材料に含まれる油脂純分についても上記油脂の含有量に含めることとする。
【0035】
また、本発明の油中水型クリームにおける水の含有量は、特に制限されるものではないが、好ましくは1~80質量%、より好ましくは10~50質量%、更に好ましくは20~40質量%である。なお、本発明においては、水分を含有する原材料を使用した場合は、該原材料に含まれる水分についても上記水の含有量に含めることとする。
【0036】
本発明の油中水型クリームは、上記ジグリセリド、油脂及び水に加えて甘味料を含んでいてもよい。甘味料としては、特に限定されないが、例えば、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、酵素糖化水飴、乳糖、還元澱粉糖化物、異性化液糖、ショ糖結合水飴、オリゴ糖、ポリデキストロース、ソルビトール、還元乳糖、トレハロース、キシロース、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、フラクトオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラフィノース、ラクチュロース、パラチノースオリゴ糖、ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース等が挙げられる。これらの甘味料は、単独で用いることもでき、又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。なお、果汁、野菜汁、フルーツピューレ、フルーツペースト、ジャム、清涼飲料水などの上記甘味料を含有する飲食品を使用してもよい。本発明の油中水型クリームにおける甘味料の含有量は、特に制限されるものではなく、求められる甘味度に応じて適宜設定可能であるが、固形分として水相中の85質量%以下、より好ましくは75質量%以下、より好ましくは65質量%以下、更に好ましくは50質量%以下とすることが好ましい。
【0037】
本発明の油中水型クリームは、上記ジグリセリド、油脂、水及び甘味料以外に、必要に応じその他の成分を含有させることができる。その他の成分として、例えば、ゲル化剤や安定剤、乳化剤、金属イオン封鎖剤、澱粉類、蛋白質、乳や乳製品、卵製品、穀類、無機塩、有機酸塩、酵素、植物ステロール、植物ステロールエステル、果汁、濃縮果汁、果汁パウダー、乾燥果実、果肉、野菜、野菜汁、香辛料、香辛料抽出物、ハーブ、デキストリン類、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、その他各種食品素材、着香料、苦味料、調味料等の呈味成分、着色料、保存料、酸化防止剤、pH調整剤、強化剤等を配合してもよい。
【0038】
上記ゲル化剤や安定剤としては、アルギン酸、アルギン酸塩、ペクチン、LMペクチン、HMペクチン、海藻抽出物、海藻エキス、寒天、グルコマンナン、ローカストビーンガム、グアーガム、ジェランガム、タラガントガム、キサンタンガム、カラギーナン、カードラン、タマリンドシードガム、カラヤガム、タラガム、トラガントガム、アラビアガム、カシアガムが挙げられる。本発明では、上記ゲル化剤や安定剤の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。なかでも、高温保管時における高い離水耐性が得られる点で、キサンタンガムとローカストビーンガムとを併用することが好ましい。キサンタンガムとローカストビーンガムとを併用する場合の両者の配合比率は、質量比率で、好ましくはキサンタンガム:ローカストビーンガム=30:70~70:30、更に好ましくは40:60~60:40、最も好ましくは45:55~55:45である。本発明の油中水型クリームにおける上記ゲル化剤や安定剤の含有量は、好ましくは0.01~5質量%、より好ましくは0.01~1質量%、更に好ましくは0.01~0.7質量%である。
【0039】
上記乳化剤としては、レシチン、酵素処理レシチン等の天然乳化剤、グリセリン脂肪酸エステル、グリセリン酢酸脂肪酸エステル、グリセリン乳酸脂肪酸エステル、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル、グリセリンジアセチル酒石酸脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等の合成乳化剤が挙げられる。本発明では、上記の乳化剤の中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
本発明の油中水型クリーム中、上記その他の成分は、本発明の効果を損ねない範囲で任意の量で用いることができるが、好ましくは当該その他の成分は、合計で油中水型クリーム中20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることが更に好ましい。
【0041】
本発明の油中水型クリームの製造方法について以下に説明する。
本発明の油中水型クリームは、その製造過程において、上記炭素数が16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを油相中に含有させる工程を含むこと以外は、一般的な油中水型クリームの製造方法によって得ることができる。具体的には、例えば甘味料を含有する水相と、結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを含有する油相とを乳化することによって得ることができる。
【0042】
なお、可塑性油脂組成物に甘味料を添加しクリーミングして含気させる方法、可塑性油脂組成物をクリーミングして含気させた後に甘味料を添加する方法などの一般的な油中水型クリームの製造の際に、その可塑性油脂組成物の油相に上記結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを含有させるか、又は、クリーミング時に結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを別途添加することによっても製造することができる。
【0043】
本発明における油中水型(W/O型)とは、連続した油相中に、水又は水を主体とする粒子が分散している形態を指す。具体的な乳化形態としては、W/O型のみならず、O/W/O型やO/O型をも含み、中でもバター同様の乳化形態を有する点において、O/O型の乳化形態が特に好ましい。
【0044】
以下に、本発明の油中水型クリームの製造方法を、W/O型、O/W/O型及びO/O型の乳化形態ごとにさらに詳述する。
まず、乳化形態がW/O型の本発明の油中水型クリームの製造方法を以下に説明する。
水に、甘味料と必要に応じその他の成分を添加、混合して水相を用意する。また、油脂に、結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリド、必要に応じその他の成分を添加、混合して油相を用意する。これらの水相と油相は、好ましくは60℃以上に加温し、添加した成分を完全に溶解しておくことが好ましい。
【0045】
そして、上記水相と上記油相とを混合乳化してW/O型乳化物を得る。得られたW/O型乳化物は、殺菌処理することが望ましい。殺菌方法は、タンクを用いたバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。次に、上記W/O型乳化物を冷却し、可塑化して、乳化形態がW/O型の本発明の油中水型クリームを得る。冷却、可塑化する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。上記のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させてもよい。
【0046】
このようにして得られる乳化形態がW/O型の本発明の油中水型クリームにおける、油相と水相との割合は、質量比率で、好ましくは40~90:10~60、より好ましくは50~85:15~50、さらに好ましくは65~80:20~35である。
【0047】
次に、乳化形態がO/W/O型の本発明の油中水型クリームの製造方法を以下に説明する。
水に、甘味料と必要に応じその他の成分を添加、混合して水相を用意する。また、油脂に必要に応じその他の成分を添加、混合した油相1(内油相)、及び油脂に必要に応じその他の成分を添加、混合した油相2(外油相)を用意する。結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドは、油脂2(外油相)に含有させることが好ましい。これらの水相と油相は、好ましくは60℃以上に加温し、添加した成分を完全に溶解しておくことが好ましい。
【0048】
そして、上記水相と上記油相1とを混合し、乳化してO/W型乳化物を得る。次いで、このO/W型乳化物を上記油相2中に投入して、O/W/O型乳化物を得る。得られたO/W/O型乳化物は、殺菌処理することが望ましい。殺菌方法は、タンクを用いたバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。次に、上記O/W/O型乳化物を冷却し、可塑化して、乳化形態がO/W/O型の本発明の油中水型クリームを得る。冷却、可塑化する機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。上記のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させてもよい。
【0049】
このようにして得られる乳化形態がO/W/O型の油中水型クリームにおける、油相1(内油相)と水相と油相2(外油相)との割合は、質量比率で、好ましくは25~55:25~55:10~30、より好ましくは30~50:30~50:10~30、さらに好ましくは35~45:35~45:15~25である。
【0050】
次に、乳化形態がO/O型の本発明の油中水型クリームの製造方法について説明する。
O/O型の乳化形態とは、O/W/O型の乳化形態の一種であり、外油相中に、1つの内油相をもったO/W乳化物が多数存在する状態を指す。乳化形態がO/O型の油中水型クリームを製造する方法としては、例えば以下の4つの方法が挙げられる。
【0051】
1つめの方法を以下に説明する。
水に、甘味料と必要に応じその他の成分を添加、混合して水相を用意する。また、油脂に必要に応じその他の成分を添加、混合した油相1(内油相)、及び油脂に必要に応じその他の成分を添加、混合した油相2(外油相)を用意する。結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドは、油脂2(外油相)に含有させることが好ましい。これらの水相と油相は、好ましくは60℃以上に加温し、添加した成分を完全に溶解しておくことが好ましい。
【0052】
そして、上記の油相1(内油相)、水相及び油相2(外油相)を乳化し、O/W/O型乳化物を製造する。得られたO/W/O型乳化物は、殺菌処理することが望ましい。殺菌方法は、タンクでのバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。次に、上記O/W/O型乳化物を冷却、可塑化、転相させて、乳化形態がO/O型の本発明の油中水型クリームを得る。冷却、可塑化、転相させる機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。この方法のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させてもよい。
【0053】
2つめの方法を以下に説明する。
水に、甘味料と必要に応じその他の成分を添加、混合して水相を用意する。また、油脂に、結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリド、必要に応じその他の成分を添加、混合して油相を用意する。これらの水相と油相は、好ましくは60℃以上に加温し、添加した成分を完全に溶解しておくことが好ましい。
【0054】
そして、上記水相と上記油相とを乳化してO/W型乳化物を得る。得られたO/W型乳化物は、殺菌処理することが望ましい。殺菌方法は、タンクを用いたバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。次に、上記O/W型乳化物を冷却、可塑化、転相させて、乳化形態がO/O型の本発明の油中水型クリームを得る。冷却、可塑化、転相させる機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。この方法のいずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させてもよい。
【0055】
3つめの方法を以下に説明する。
水に、甘味料と必要に応じその他の成分を添加、混合して水相を用意する。また、油脂に、結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリド、必要に応じその他の成分を添加、混合して油相を用意する。これらの水相と油相は、好ましくは60℃以上に加温し、添加した成分を完全に溶解しておくことが好ましい。
【0056】
そして、上記水相と上記油相とを乳化してW/O型乳化物を得る。得られたW/O型乳化物は、殺菌処理することが望ましい。殺菌方法は、タンクを用いたバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。次に、上記W/O型乳化物を転相させてO/W型乳化物とする。転相させる機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。
【0057】
さらに、上記O/W型乳化物を冷却、可塑化、転相させて、乳化形態がO/O型の本発明の油中水型クリームを得る。冷却、可塑化、転相させる機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。上記いずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させてもよい。
【0058】
4つめの方法を以下に説明する。
水に、甘味料と必要に応じその他の成分を添加、混合して水相を用意する。また、油脂に、結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリド、必要に応じその他の成分を添加、混合して油相を用意する。これらの水相と油相は、好ましくは60℃以上に加温し、添加した成分を完全に溶解しておくことが好ましい。
【0059】
そして、上記水相と上記油相とを乳化してW/O型乳化物を得る。得られたW/O型乳化物は、殺菌処理することが望ましい。殺菌方法は、タンクを用いたバッチ式でも、プレート型熱交換機や掻き取り式熱交換機を用いた連続式でも構わない。次に、上記W/O型乳化物を転相させてO/W/O型乳化物とする。転相させる機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。
【0060】
さらに、上記O/W/O型乳化物を冷却、可塑化、転相させて、乳化形態がO/O型の本発明の油中水型クリームを得る。冷却、可塑化、転相させる機器としては、密閉型連続式チューブ冷却機、例えば、ボテーター、コンビネーター、パーフェクター等のマーガリン製造機やプレート型熱交換機等が挙げられ、また、開放型のダイアクーラーとコンプレクターの組み合わせ等が挙げられる。上記いずれかの製造工程で、窒素、空気等を含気させてもよい。
【0061】
このようにして得られる乳化形態がO/O型の本発明の油中水型クリームにおいて、油相1(内油相)と水相と油相2(外油相)の割合は、質量比率で、好ましくは15~45:35~65:5~35、より好ましくは20~40:40~60:10~30、さらに好ましくは25~35:45~60:10~25である。
【0062】
上記の方法で得られた油中水型クリームに、更にその他の成分を添加したり、クリーミング等の方法により含気させたりすることも可能である。
【0063】
本発明の油中水型クリームは、フィリング用(サンド、トッピング、スプレッド、コーティング等を含む)、特に製菓製パン用フィリングクリームとして好適に使用できるが、なかでも、本発明の油中水型クリームは、乳化安定性が高く、機械耐性に特に優れるため、デポジッターを使用したフィリング用、すなわちデポジッター供給用として好適に使用できる。本発明の油中水型クリームの上記用途における使用量は、各用途により異なるものであり、特に制限されるものではない。
【0064】
次に、本発明の油中水型クリームの機械耐性向上方法について述べる。
本発明の油中水型クリームの機械耐性向上方法は、結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを、油相中に1.0~10質量%含有させることを特徴とする。さらに、油中水型クリームの油相の20℃におけるSFCを24未満とすることによって、特に優れた機械耐性の向上効果が得られる。
【0065】
本発明における機械耐性とは、油中水型クリームに加わる撹拌などの機械的な外圧、特に製菓製パンのフィリングクリームとして使用する場合に用いる、デポジッターなどの機械を通した際の機械的撹拌によって発生する諸問題に対する耐性をいう。このような機械的な外圧により、油中水型クリームが脱泡してキメが粗くなったり、加工軟化により結晶が融解して耐熱保形性が悪化したり、液状油成分が分離して表面に染みだし、テカリを生じて外観が悪化したり、液状油成分のぬめりにより食感が悪化したりするなどの問題が生じるが、本発明の油中水型クリームの機械耐性向上方法により解決することが可能である。結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドの添加量や添加方法は上述のとおりである。
【0066】
次に、本発明の油中水型クリームの機械耐性向上剤について述べる。
本発明の油中水型クリームの機械耐性向上剤は、結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを有効成分とするものである。さらに、油中水型クリームの油相の20℃におけるSFCを24未満とすることによって、特に優れた機械耐性の向上効果が得られる。本発明における機械耐性とは、上述の内容である。また、本発明の油中水型クリームの機械耐性向上剤の添加量や添加方法は、上述の結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドの添加量や添加方法と同様である。
【実施例
【0067】
以下に、実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明を何ら制限するものではない。
【0068】
<エステル交換油の製造>
〔製造例1〕
炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が68%、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が11%であるパーム核油75%に、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が1%、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が99%であるパーム極度硬化油25%を配合し、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が54%、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が33%である油脂配合物を得た。この油脂配合物を、Naメチラートを触媒としてランダムエステル交換し、常法により精製して融点が32℃である油脂A1を得た。得られた油脂A1は、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が54%、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が33%、不飽和脂肪酸含量が16%であった。また、結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを0.5質量%含有するものであった。
【0069】
〔製造例2〕
製造例1の油脂配合物の調製において、パーム核油の配合量を50%に、パーム極度硬化油の配合量を50%にそれぞれ変更し、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が35%、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が55%である油脂配合物を得た。この油脂配合物を、製造例1と同様の条件でランダムエステル交換し、常法により精製して融点が43℃である油脂A2を得た。得られた油脂A2は、炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が35%、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が55%、不飽和脂肪酸含量が11%であった。また、結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを1.7質量%含有するものであった。
【0070】
〔製造例3〕
牛脂88質量部に、菜種油12質量部を配合した油脂配合物を、Naメチラートを触媒としてランダムエステル交換し、常法により精製して融点が35℃である油脂Bを得た。得られた油脂Bは炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が2%、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が38%、不飽和脂肪酸含量が56%であった。また、結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを0.4質量%含有するものであった。
【0071】
〔製造例4〕
ヨウ素価55のパーム分別軟部油100質量部からなる油脂配合物を、Naメチラートを触媒としてランダムエステル交換し、常法により精製して融点が39℃である油脂Cを得た。得られた油脂Cは炭素数14以下の飽和脂肪酸含量が2%、炭素数16以上の飽和脂肪酸含量が45%、不飽和脂肪酸含量が53%であった。また、結合脂肪酸が炭素数16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを1.6質量%含有するものであった。
【0072】
<油中水型クリームの製造>
〔実施例1〕
上記製造例1で得られた油脂A1を35質量%、上記製造例2で得られた油脂A2を5質量%、及び、ナタネ液状油(キャノーラ油)60質量%からなる混合油脂49.2質量部に、グリセリンモノパルミチン酸エステル0.1質量部、大豆レシチン0.2質量部、ポエムDES70-V(理研ビタミン製:グリセリンジ脂肪酸エステル含量69質量%:炭素数16以上の飽和脂肪酸100%)1.5質量部を添加し、加温溶解した油相と、脱脂粉乳4.5質量部、転化糖液糖(固形分75%)27.6質量部、水16.4質量部、香料0.3質量部、キサンタンガム0.1質量部、ローカストビーンガム0.1質量%からなる水相とを、45~55℃の温度で混合乳化してW/O型乳化物を得た。このW/O型乳化物を80℃にて15秒間殺菌した後、コンビネーターにて急冷可塑化して、W/O型の油中水型クリーム1を製造した。急冷可塑化工程において、窒素ガスを吹き込み、油中水型クリームの比重を0.7とした。
得られた油中水型クリーム1の油相のSFCは、20℃で16.1であり、油相中に炭素数が16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを2.3質量%含有するものであった。
【0073】
〔実施例2〕
実施例1におけるポエムDES70-Vの添加量を1.5質量部から3質量部に、混合油脂を49.2質量部から47.7質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、比重0.7であるW/O型の油中水型クリーム2を製造した。
得られた油中水型クリーム2の油相のSFCは、20℃で19.4であり、油相中に炭素数が16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを4.3質量%含有するものであった。
【0074】
〔実施例3〕
実施例1におけるポエムDES70-Vの添加量を1.5質量部から4.5質量部に、混合油脂を49.2質量部から46.3質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、比重0.7であるW/O型の油中水型クリーム3を製造した。
得られた油中水型クリーム3の油相のSFCは、20℃で22.8であり、油相中に炭素数が16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを6.3質量%含有するものであった。
【0075】
〔実施例4〕
実施例1における混合油脂を、上記製造例1で得られた油脂A1を30質量%、上記製造例2で得られた油脂A2を5質量%、ヨウ素価60のパームスーパーオレイン30質量%及び、ナタネ液状油(キャノーラ油)35質量%からなる混合油脂に変更した以外は実施例1と同様にして、比重0.7であるW/O型の油中水型クリーム4を製造した。
得られた油中水型クリーム4の油相のSFCは、20℃で17.2であり、油相中に炭素数が16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを2.3質量%含有するものであった。
【0076】
〔実施例5〕
実施例1における混合油脂を、上記製造例1で得られた油脂A1を30質量%、上記製造例2で得られた油脂A2を5質量%、ヨウ素価60のパームスーパーオレイン45質量%及び、ナタネ液状油(キャノーラ油)20質量%からなる混合油脂に変更した以外は実施例1と同様にして、比重0.7であるW/O型の油中水型クリーム5を製造した。
得られた油中水型クリーム5の油相のSFCは、20℃で15.4であり、油相中に炭素数が16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを2.3質量%含有するものであった。
【0077】
〔実施例6〕
実施例1における混合油脂を、上記製造例1で得られた油脂A1を45質量%、上記製造例2で得られた油脂A2を5質量%、ヨウ素価60のパームスーパーオレイン35質量%及び、ナタネ液状油(キャノーラ油)15質量%からなる混合油脂に変更した以外は実施例1と同様にして、比重0.7であるW/O型の油中水型クリーム6を製造した。
得られた油中水型クリーム6の油相のSFCは、20℃で23.1であり、油相中に炭素数が16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを2.3質量%含有するものであった。
【0078】
〔実施例7〕
実施例1における混合油脂49.2質量部を、上記製造例3で得られた油脂B49.2質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、比重0.7であるW/O型の油中水型クリーム7を製造した。
得られた油中水型クリーム7の油相のSFCは、20℃で21.2であり、油相中に炭素数が16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを2.4質量%含有するものであった。
【0079】
〔実施例8〕
実施例1における混合油脂を、上記製造例4で得られた油脂Cを52質量%、パームステアリン13質量%及び、ナタネ液状油(キャノーラ油)35質量%からなる混合油脂に変更した以外は実施例1と同様にして、比重0.7であるW/O型の油中水型クリーム8を製造した。
得られた油中水型クリーム8の油相のSFCは、20℃で22.0であり、油相中に炭素数が16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを2.8質量%含有するものであった。
【0080】
〔比較例1〕
実施例1におけるポエムDES70-Vを無添加に、混合油脂を49.2質量部から50.7質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、比重0.7であるW/O型の油中水型クリーム9を製造した。
得られた油中水型クリーム9の油相のSFCは、20℃で13.1であり、油相中に炭素数が16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを0.26質量%含有するものであった。
【0081】
〔比較例2〕
実施例1におけるポエムDES70-Vを、ナタネ液状油(キャノーラ油)の脂肪酸とグリセリンをエステル化後、蒸留によりモノグリセリドと遊離脂肪酸を除去して得られた、不飽和脂肪酸を主体とするジグリセリド(グリセリンジ脂肪酸エステル含量65質量%:炭素数16以上の飽和脂肪酸が2個結合したジグリセリド含量1質量%未満、不飽和脂肪酸を含有するジグリセリド含量80質量%)に変更した以外は実施例1と同様にして、比重0.7であるW/O型の油中水型クリーム10を製造した。
得られた油中水型クリーム10の油相のSFCは、20℃で12.0であり、油相中に炭素数が16以上の飽和脂肪酸のみからなるジグリセリドを0.26質量%含有するものであった。
【0082】
<油中水型クリームの評価1(官能評価)>
上記実施例1~8並びに上記比較例1及び2でそれぞれ得られたW/O型の油中水型クリームを20℃で1晩調温したものについて、13人のパネラーに試食させて官能評価を行った。評価は、口溶け及び油性感について下記の評価基準に従って4段階で行なった。パネラーの合計点を評価点数とし、50~65点を◎、35~49点を〇、20~34点を△、0~19点を×とし、その結果を表1に記載した。
[口溶け評価基準]
5点:極めて良好な口溶けである
3点:良好な口溶けである
1点:ややもたつきが感じられ、やや不良な口溶けである
0点:口中での溶解性が悪く、不良な口溶けである
[油性感評価基準]
5点:さっぱりとしてみずみずしく、キレがある。
3点:さっぱりとしているが、ややキレが劣る。
1点:やや油っぽさを感じる。
0点:油っぽく、キレが悪い。
【0083】
<油中水型クリームの評価2(機械耐性試験)>
上記実施例1~8並びに上記比較例1及び2でそれぞれ得られたW/O型の油中水型クリームを20℃で1晩調温した後、デポジッターを想定して、卓上ミキサーを用いて30秒最高速でクリーミングし、菊型口金を付けた絞袋を用いてポリカップに絞って20℃で30分静置した。目視により、クリームのキメの粗さ、耐熱保形性、表面のテカリを観察し、下記評価基準に従って評価を行い、結果を表1に記載した。
[キメの粗さの評価基準]
◎:キメが微細で優れている。
○:キメが細かく良好である。
△:キメの粗さが見える。
×:キメの粗さがはっきりわかる。
[耐熱保形性評価基準]
◎:線もシャープでありダレが全く見られない。
○:やや線が丸くなったがダレは見られない。
△:ダレが見られるが菊型形状を有している。
×:はっきりしたダレが見られる。
[表面のテカリ評価基準]
◎:良好なクリーム表面である。
○:わずかに表面のテカリが感じられるが良好なクリーム表面である。
△:表面のテカリがはっきりと感じられる。
×:はっきりした油分分離が見られる。
【0084】
【表1】