(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】医薬品基材のコーティング方法
(51)【国際特許分類】
A61K 9/28 20060101AFI20221108BHJP
A61K 9/30 20060101ALI20221108BHJP
A61K 31/197 20060101ALI20221108BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20221108BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20221108BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
A61K9/28
A61K9/30
A61K31/197
A61K47/02
A61K47/26
A61P29/00
(21)【出願番号】P 2019071781
(22)【出願日】2019-04-04
(62)【分割の表示】P 2015531616の分割
【原出願日】2013-09-17
【審査請求日】2019-04-24
【審判番号】
【審判請求日】2021-04-01
(32)【優先日】2012-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】390040660
【氏名又は名称】アプライド マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS,INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ホップ ペッカ
(72)【発明者】
【氏名】カーリアイネン トンミ
(72)【発明者】
【氏名】カーリアイネン マルヤ-レーナ
(72)【発明者】
【氏名】トゥルネン アイモ
【合議体】
【審判長】原田 隆興
【審判官】前田 佳与子
【審判官】渕野 留香
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/116814(WO,A1)
【文献】特表2014-510066(JP,A)
【文献】特表2010-501538(JP,A)
【文献】特開2012-51810(JP,A)
【文献】特表2005-520796(JP,A)
【文献】特表2008-539801(JP,A)
【文献】国際公開第2006/090640(WO,A1)
【文献】特開2008-13480(JP,A)
【文献】特開2005-60309(JP,A)
【文献】特開2004-269384(JP,A)
【文献】国際公開第2010/135107(WO,A1)
【文献】特開2011-63627(JP,A)
【文献】第十三改正日本薬局方解説書(通則その他),1996年,A-97-A-98
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/28
A61K47/02
A61K47/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CA/BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬製剤の製造方法であって、原子層堆積
又は分子層堆積によって活性医薬品基材のナノ粒子又はマイクロ粒子をコーティングして活性医薬品基材のナノ粒子又はマイクロ粒子にコンフォーマルでピンホールがないコーティングを提供すること、及び前記コーティングされた医薬品基材のナノ粒子又はマイクロ粒子を剤形に加工することを含む方法。
【請求項2】
原子層堆積
又は分子層堆積によって添加剤を活性医薬品基材のナノ粒子又はマイクロ粒子と共にコーティングすること、及び前記コーティングされた添加剤と
前記コーティングされた医薬品基材のナノ粒子又はマイクロ粒子との混合物を剤形に加工することを含む、請求項1の方法。
【請求項3】
原子層堆積
又は分子層堆積によって添加剤をコーティングすること、及び前記コーティングされた添加剤と前記コーティングされた医薬品基材のナノ粒子又はマイクロ粒子との混合物を剤形に加工することを含む、請求項1の方法。
【請求項4】
コーティング層が、一つ以上の異なる無機物質若しくは有機物質、又はそれらの組み合わせを含むことを特徴とする請求項1の方法。
【請求項5】
無機物質が、金属酸化物を含むことを特徴とする請求項4の方法。
【請求項6】
金属酸化物が、酸化アルミニウムAl
2O
3又は酸化チタンTiO
2であることを特徴とする請求項5の方法。
【請求項7】
有機物質が、味マスキング剤より構成されることを特徴とする請求項4の方法。
【請求項8】
味マスキング剤が、甘味料であることを特徴とする請求項7の方法。
【請求項9】
味マスキング剤が、糖アルコールであることを特徴とする請求項7の方法。
【請求項10】
医薬品基材のナノ粒子又はマイクロ粒子の加工が、圧縮することによって行われる、請求項1の方法。
【請求項11】
医薬品基材のナノ粒子又はマイクロ粒子が、錠剤に圧縮される、請求項10の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬品基材のコーティングの分野に関する。特に、本発明は、医薬品基材をコーティングする方法、及び医薬製剤を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、多くの錠剤はプレス加工された後コーティングされる。コーティングは、表面の少なくとも一つの層によって薬学的活性成分又は薬物を包囲または被覆するために使用される。コーティングは、認識に、味のマスキングの目的のために、又は活性薬剤の溶解特性を変更するためのコントロールされた放出の目的のために使用される。コーティングは、活性薬剤の物理的および化学的安定性を増大させ、大気中のストレス(例えば、湿度、紫外線、酸素)に対するバリアとして機能するためにも使用され得る。
【0003】
様々な医薬コーティング法や医療機器が知られている。現代の錠剤コーティングは、ポリマーと多糖類をベースとし、可塑剤と顔料とを含んでいる。錠剤のコーティングプロセスは複雑であり、コーティング材料の均一な分布を確実にするため、すべて精密に制御しなければならない多数の非スプレー関連のパラメータに加えて、スプレーパターン、液滴サイズ、ノズル間隔のようなパラメータを含んでいる。
【0004】
従来技術は、医薬をコーティング又はカプセル化するためのいくつかの方法を開示する。WO9002546は、マイクロカプセル化された医薬を開示する。この医薬は、効果的な制御された放出活性を提供するため、活性薬剤を含むコアの周りにポリマーフィルムを蒸着することによって形成されている。DE10307568は、製薬産業において有用な膜を開示する。その膜は、エッチング又はレーザー生成開口部を有するフィルムでコーティングすることによって生じるマイクロ又はナノ細孔の直径を減じている。US2010/0297251は、化学気相蒸着プロセスを使用して、活性薬剤を、制御された放出コーティング層でカプセル化する方法を開示する。使用されるコーティング材料は、重合時に分解性又は非分解性のポリマー又はポリマーフィルムを産生する単量体又は炭素質化合物である。US2009/0186968は、多孔性金属基材に付着した薬物への原子プラズマ蒸着コーティングを開示する。この方法は、ステント表面に付着又は接着する薬物に適用可能である。
【0005】
製薬産業は、コストを削減し、医薬品製造及び薬物送達のための新しいアプローチを見つけることを強く望んでいる。医薬製剤及び医薬剤形を調製するための現在のアプローチは、複雑で、多くの技術ステップを含み、特別な添加剤や処理を必要とし、その結果、安定性の低い医薬品をもたらす。さらに、ほとんどの方法は、生産工程条件に対する出発物質の限定された許容度やコーティングプロセスに関連する数多くの技術的困難性が部分的な原因で、低い製品収率をもたらす。特に困難なのは、難溶性医薬の溶解と制御された送達である。疑いなく、流動性に乏しく、圧縮性を欠いた薬物の加工技術と加工性を改善する、より効率的な方法が必要である。さらに、最終的な剤形に直接加工することができる医薬製剤を調製する強固なプロセスの開発の必要性が残っている。
【発明の概要】
【0006】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解決するために方法を提供することである。特に本発明の目的は、医薬品をコーティングするための有利な方法であって、流動性に乏しく、圧縮性を欠いた薬物の加工性を改善する方法を提供することである。更に、本発明の目的は、医薬製剤を製造するための効果的な方法を提供することである。
【0007】
出願の目的は、保護材料の層をALD(Atomic Layer Deposition、原子層堆積)法又は他の対応する技術を用いて、医薬品基材の表面に塗布する方法によって達成される。更に、出願の目的は、医薬製剤の製造方法であって、医薬品基材を最初にALDによってコーティングし、必要に応じてコーティングされた基材及び添加剤の混合物を形成し、その後、固体医薬品粒子を利用する所望の剤形に加工する方法によって達成される。本発明は、この方法によって得られる医薬製剤にも関する。また、出願の目的は、活性薬剤を含み、ALD法にコーティングされている個々の医薬品粒子からなる医薬製剤によって達成される。本発明は、医薬品基材をコーティングするためのALD法または他の対応する技術の使用にも関する。
【0008】
この発明の好適な実施態様は、従属項において開示される。
【0009】
本願の発明者は、驚くべきことに、医薬品基材のコーティングが固体剤形への加工前に行われたとき医薬製剤の製造プロセスにおける有意な改善が得られることに気づいた。ALDコーティング層は、個々の医薬品粒子をコーティングし、充填剤、結合剤、崩壊剤又は潤滑剤などの添加剤を使用する必須の必要なしに、コーティングされた個々の粒子からなる剤形の取得を可能にする。そのようなコーティングされた材料の特性は、適切な剤形への医薬製剤のさらなる加工においてかなり優れている。
【0010】
本発明の方法の利点は、扱いにくく、湿度に敏感で帯電した医薬品基材をより容易に加工できるようにすることである。この方法によって生成されたコーティングは、薄く緻密で滑らかである。さらに、ALDによって堆積されたコーティング層は、ピンホールがなく、非常にコンフォーマル(conformal)である。本発明の方法によって得られた医薬製剤は、含有量が均一であり、これは、各剤形内で、同じ活性医薬成分の用量が送達されることを保証する。また、本発明の医薬製剤は、水分、酸素及び光に対する良好な保護作用を有する。更に低い薬物溶解度は、特定の環境での修正された又は持続した放出を可能にする個々に仕立てられたコーティングによって克服できる。コーティング材料の消費が少なく、そのためコーティングコストを低減することができる。また、コーティングされた成分は、関連する薬剤や粒子の用法及び容量を減らす。
【0011】
コーティング層の厚さを、コーティング中の分子層の数を変えることによって制御できる。薄層という用語は、この文脈において、1nmと500μmとの間の任意の厚さを有する層を意味し、厚さは、薬剤、医薬成分、及び所望の最終剤形に依存する。
【0012】
本発明のコーティングプロセスは、プロセスパラメータの小さな変更に敏感ではないので、この方法の再現性は良好である。このような均一な層を、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition)法又はPVD(Physical Vapor Deposition)法で、3次元物体上に提供することは不可能である。なぜなら、コーティングプロセスを、ALD法と同様に詳細に制御することができないからである。CVDや他の類似の方法は、3次元の物体の表面全体にコーティング材料を提供するため、コーティングされる物体を回転させなければならないことを要求する。
【0013】
本発明の利点の一つは、マイクロ及びナノスケールの両方で、個別に粒子をコーティングする能力である。ナノ粒子の加工は、電気、物理的相互作用、及び凝集への自然な傾向が原因で、極めて困難であった。
【0014】
本発明の別の利点は、プロセスが無溶媒であることである。これは、非常に溶けやすい薬物も、非常に溶けにくい薬物も、乾燥形態で容易にコーティングすることを可能にする。本発明は、高溶解性の粒子がコーティングされ得る前に溶解したり、加工中に医薬成分や製剤原料がその多形形態を変化させたりする、水溶液による標準的なウェットケミストリー技術を用いることの困難性を克服する。同様に、有機溶媒や時には毒性の溶媒、及びコーティングを適用するための可塑剤の使用が必要とされず、従って、これらの望ましくない化合物の混入の可能性が排除される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、固体医薬品粒子が利用される最終剤形への加工前に、原子層堆積(ALD)又は他の対応する技術により医薬品基材をコーティングする方法に関する。
【0016】
本発明において、コーティングされる基材は、固体形態で、構造の変更や有効性の喪失をせずに堆積され得る任意の活性医薬品基材、医薬成分、又はそれらの混合物でよい。医薬品基材は、一つ以上の活性医薬品基材又は医薬成分を含むことがある。基材は、例えば、粒子、顆粒、ペレット、タブレット又は粉末であることがある。好ましくは、それは粒子である。医薬製剤は、活性医薬品基材を含み、特定の剤形で投与される医薬組成物である。
【0017】
ここで使用される用語「医薬」、「医薬品基材」、「治療薬」又は「薬物」は、全体として医薬として投与される組成物を意味する。それらの用語は、疾患又は患者が被る症状若しくは状態の治癒、緩和、治療、又は予防を意図した治療効果を有する活性薬剤を意味する。
【0018】
コーティングされる医薬品基材は、生体分子、小分子、又は細胞であってもよい。生体分子は、例えば、ペプチド、ポリペプチド、オリゴヌクレオチド、核酸、及び遺伝子でよい。小分子は、例えば、ヌクレオチド、アミノ酸、糖類、炭水化物、脂質、及び100kD未満の分子量を有する化合物でよい。
【0019】
原子層堆積(ALD)は、基材の表面が少なくとも第一及び第二の気体前駆体の交互の表面反応に供される一般に知られているコーティング方法である。基材の表面が両方又はすべての気体前駆体に一旦さらされると一つのALDサイクルは完了する。基材の表面が前駆体にさらされるたびに、材料の単層が基材の表面上に形成される。これらのALDの表面反応は、通常は実質的に飽和した表面反応であり、このことは、基材が前駆体にさらされると、材料のただ一つの単層が基材の表面上に形成されることを意味する。ALD法の一つの基本的な特徴は、表面反応のコンフォマリティー(conformality)である。これは、材料のALD成長層は、前駆物質にさらされているすべての表面で成長することを意味する。従って、コーティングはすべての表面で形成される。本文脈において、原子層堆積という用語は、原子層エピタキシー(ALE)、及び材料の成長が少なくとも2つの気体前駆体の連続する実質的に自己制御的な表面反応に基づいている他の対応するコーティング方法も含む。
【0020】
一つの対応するコーティング方法は、分子層堆積(MLD)である。MLDも、連続的で、自己制御的な表面反応に基づいている。しかし、「分子」の断片(それは有機物であり、無機成分を含むこともできる。)はMLD中に堆積される。純粋に有機物的なポリマーのMLD膜の堆積は、段階的な縮合反応を用いて達成されることができる。有機-無機ハイブリッド膜は、単純に有機及び無機の反応物を混合することによって堆積させることができる。
【0021】
一つの原子層は、一つのALDサイクル中に基質の表面上に生成される。この自己制御成長モードは、いくつかの利点に寄与する。膜の厚さは、反応サイクル数を制御することにより直接的なやり方で制御されることができ、従って、サブナノメートルの薄い層の制御された成長を可能にする。前駆体は、変形を持った複雑な表面や粒子上においても大面積の均一性と適合性を持つ化学量論的な膜を形成する。層ごとの成長は、各工程の後に急に材料を変更することを可能にする。これは、多成分膜(いわゆるナノラミネート又は混合酸化物)を堆積する可能性を提供する。溶解特性を開発することも可能である。
【0022】
本出願において、医薬粒子製剤は、ALD反応器内にロードされ、約2ミリバールの操作圧力までポンプで減圧される。ALD前駆体は、吸気口から反応器に導入され、その後、全てのセルを通過するように強制され、一番上のセルに接続された排気口から排出される。このプロセスの間に所望の前駆体化学物質は、セル上の物質に拡散され、その結果、その物質の表面に存在する基材表面と前駆体分子間の化学結合を形成する活性基と反応するだろう。本発明では、コーティングされる基材は、医薬製剤中の個々の粒子である。コーティングは、分子層の精度で表面上に形成されるが、粒子のバルク特性は変更されないだろう。
【0023】
本発明の一実施態様では、パラセタモールは、酸化アルミニウムAl2O3の一つ以上の分子層でコーティングされている。トリメチルアルミニウム(CH3)3Alが前駆体として使用され、水H2Oが酸素源として使用される。本発明では、他の化合物、例えば、過酸化水素H2O2又はオゾンO3を、水の代わりに、酸素源として使用してもよい。
【0024】
本発明の他の実施態様では、医薬品基材は、二酸化チタン(TiO2)でコーティングされている。コーティング層としてチタンを選択することの利点は、生体内でのチタンのよく知られた適合性と医療用インプラントでの使用実績である。チタンは、毒性がなく、また、免疫応答に関連しない。
【0025】
ALDによって堆積されたコーティングを、苦い薬の味をマスクするために使用することができる。本発明の一つの実施態様では、医薬品基材は、呈味改善剤、通常は、甘味料(例えば、キシリトール、ソルビトール又はそれらの混合物)でコーティングされる。以前から甘味料に関連していたコーティングの問題、とても長いコーティング時間、及び水分に敏感な甘味料の材料を、本方法で克服することができる。典型的な甘味料又は他の小分子を、ALDコーティング法によって、他の化学物質と混合することができる。
【0026】
前駆体の化学的性質、プロセスのパラメータ、及び使用される基材は、コーティング材料の特性を定義する。コーティング層は、代替的に、一つ以上の様々なタイプの無機、有機、及び有機-無機ハイブリッドポリマー材料を含んでもよい。無機材料は、窒化物、炭化物、酸化物、金属、硫化物、フッ化物などを含む。無機酸化物は、例えば、酸化シリコン又は酸化亜鉛、又はCaO、CuO、Er2O3、La2O、ZrO2、HfO2、Ta2O5、Nb2O5、MgO、SC2O3、Ga2O3、ZnO、Y2O3、及びYb2O3のような材料を含むが、これらに限定されるわけではない。
【0027】
生体材料、例えば、ハイドロキシアパタイト、ポリマー、糖、ナノラミネート等も、堆積される可能性のある材料である。ALDは、無数の材料の組み合わせを可能にする。分子層堆積は、有機ポリマーとハイブリッド有機-無機ポリマーの堆積を可能にする。ALDプロセスとその利用の概観のために、私達は、Puurunen R.L. J., Appl. Phys 97 (2005), pp.1 -52に言及する。有機、及び有機-無機ハイブリッドポリマーのMLDのための表面化学の概観を、例えば、George, S.M. et al, (2009), ACC. Chem. Res., 42, pp.498-508に見ることができる。
【0028】
本発明によれば、コーティング層は、特定の用途に応じて、様々な厚さにすることができる。コーティングプロセスにおいて、通常、コーティングは望ましい特性を持つために十分に厚くなる範囲で、できるだけ薄いコーティングが望ましい。ALD層の厚さを、医薬品基材の放出を制御し、その結果、薬物の溶解時間を制御するためにも使用することができる。層の厚さを、ALDサイクルによって規定することができる。例えば、TMA及び水の一つのALDサイクルは、0.1nmの厚さのAl2O3のコーティングをもたらす。トリメチルアルミニウム(CH3)3Alが前駆体として使用される、本発明の一実施態様では、コーティングの厚さは、1nm~500nmの範囲内であり、より好ましくは1~100nmの範囲であり、最も好ましくは、5~15nmである。しかし、コーティング層は、1nmから500μmの間の任意の厚さを有してもよい。コーティング層の厚さは、医薬品基材、医薬成分、及び所望の最終的な剤形に依存する。
【0029】
コーティングプロセスにおいて使用される温度は、基材の性質及び選択された前駆体の化学的性質に依存する。最も一般的なALD法では、比較的高い温度を使用することが有利である。なぜなら、それにより、分子が容易に蒸発することができ、十分に良好な品質を有するコーティングが得られるからである。本発明では、コーティング層を医薬品基材上に堆積させるので、医薬品基材の熱劣化は、回避又は低減されるはずである。例えば、イブプロフェンの融点は約74~77℃であるが、その一方、パラセタモールの融点は169~172℃である。コーティング温度は、室温(RT)から350℃までであるかもしれない。好ましくは、医薬のための温度は200℃以下である。一般に、本発明は、蒸着法(それはより高い温度で実施される)とは対照的に、比較的低い温度範囲を利用する。
【0030】
本発明は、任意の好適なALD反応器を利用することができる。本発明の一実施態様では、静的粒子床反応器が使用される。このタイプの反応器において、粒子は反応器表面上に静止していて、それぞれの粒子の全体的で均一なカバレッジは、例えば、粒子が形成する実効的なアスペクト比に依存している。コーティング医薬品又はナノ粒子における主な障害の一つは、それらの自然な凝集傾向である。いくつかの要因の中でも、粘着性粒子の凝集は、流れの条件、並びに加工中に粒子に伝達される外部エネルギーに依存する。そのため、異なる反応器構成における医薬は、多様な凝集パターンを示す。流動床反応器中で、医薬品基材のALDコーティング加工をすることが好ましい。流動床反応器は、より高い熱と物質移動係数、及び容易なスケーラビリティのような利点を提供する。また、流動床中での固体混合の優れたレベルにより、コンフォーマルに(conformally)コーティングされた個々の医薬品粒子を得る。ロールツーロールALD反応器も、例えば、経皮パッチ上のような柔軟な医薬品基材上に薄膜を堆積させるため、本発明の文脈において利用され得る。
【0031】
本発明によるALDコーティングは、周囲への粒子放出に影響を与えるために使用されてもよい。例えば、難溶性コーティングは、持続的な放出を可能にする。このような難溶性コーティングは、例えば、酸化アルミニウム及び酸化チタンである。医薬品基材上のコーティングは、薬物放出速度を変更するため、多くの無機コーティング層若しくは有機層、又は無機層と有機層との組み合わせを含んでもよい。複数のコーティング層の使用は、医薬品基材の溶出における付加的な度合いの制御を可能にすることができる。より多くの堆積層は、ますます薬物の溶出を妨げ、徐放性のカスタマイズを可能にする。
【0032】
異なるコーティング層を、異なる医薬剤形(例えば、即時放出、制御放出、及び/又は即時と制御の両者の組み合わせ放出の剤形)を製造するために使用することができる。制御放出剤形は、薬物若しくは活性物質を含み、放出制御ポリマーでコーティングされている粒子若しくはビーズを含むことができる。制御放出ビーズは、不活性コアを含むことができる。その不活性コアは、内部薬物含有層、及び内部層からの薬物放出を制御する外部膜層でコーティングされている。不活性コアは、糖、親水性セルロース系ポリマー、又は架橋された親水性合成ポリマーの球体又はビーズであり得る。
【0033】
本発明によるALDコーティングは、反応性コーティングであってもよい。このようなコーティングは、例えば、コーティングに組み込まれたナノ粒子、反応性ポリマー又は分子のような成分を有する。反応性コーティングは、外条件の変化に適切かつ予測通りの応答を与えることができ、従って、医薬品基材の性能を向上させることができる。
【0034】
医薬剤形は、医薬品市販承認取得者、製造業者、又は販売業者によって供給されるような医薬品のパッケージで医薬製剤が提供されている形態である。医薬製剤の主要な定義特性は、製品が製剤化されための物質、送達方法、放出特性、及び投与部位又は経路の状態である。医薬剤形は、活性薬物成分及び非薬物成分の混合物である。投与方法に応じて、それらはいくつかのタイプとして供給される。これらは、液体剤形、固体剤形及び半固体剤形である。例えば、錠剤及びカプセルのような固体剤形は、最も確立され、好ましい投与経路である。本発明では、剤形は、固体医薬粒子を利用する任意の剤形であってよい。このような剤形は、錠剤及びカプセルに加え、坐剤、膣剤、液体製剤、経皮パッチ(経皮薬物送達)、医療用軟膏及び乳濁液(局所薬物送達、創傷包帯)、注射液(非経口的薬物送達)、並びに肺への薬物送達とすることができるが、これらに限定されるわけではない。これらを、鼻、直腸、膣、耳、眼、非経口を介して、又は経口薬物送達経路を通して、投与することができるが、これらに限定されるわけではない。
【0035】
錠剤は、通常、活性物質、充填剤、崩壊剤、潤滑剤、流動促進剤、結合剤、及び胃や腸での錠剤の崩壊、分解、溶解を確保する化合物を含む圧縮製剤である。
【0036】
一般的な錠剤化プロセスでは、錠剤化される材料を空洞内に堆積させ、次いで、圧縮力を加えるとすぐに、一つ以上のパンチ部材をその空洞内に進め、プレスされる材料と密着させる。
【0037】
三つの基本的な圧縮方法、即ち、湿式造粒法、二重圧縮法(乾式造粒としても知られている)、及び直接圧縮法は、ほとんどの打錠操作で共通している。これらの各方法では、薬物の微粒子の凝集をより大きくするように促進することができる混合ステップがある。
【0038】
湿式造粒法では、秤量前の薬物と、希釈剤のような一つ以上の他の成分とが混合される。その後、混合物を、粒子を湿った塊に凝集させる、水又はエタノールのような液体と混合する。液体はバインダーを含むこともある。湿った塊を、その後乾燥される顆粒を製造するためにスクリーニングする。乾燥された顆粒を、所定の大きさの顆粒を製造するためにスクリーニングする。その後、顆粒を、典型的には、固体潤滑剤及び場合によっては他の成分と混合する。最後に、潤滑処理された顆粒及び他の顆粒外成分を錠剤に圧縮し、その後、その錠剤をコーティングしてもよい。
【0039】
二重圧縮又は乾式造粒法は、湿式造粒より工程が少なく、液体への接触又は乾燥を必要としない。このことは、前記方法を水感受性及び熱感受性薬物の製剤化によく適したものにする。二重圧縮法では、薬物及び潤滑剤のような他の成分を混合し、次いで、第一圧縮工程で圧縮する。二つの従来の第一圧縮技術が存在する。一つは、混合物を、それを押してシートにするローラーの間に送り込むローラー圧縮であり、他の一つは、混合物をスラッグに圧縮するスラグ化である。スラグは、錠剤のような形態であり、人の消費のために意図された錠剤よりも一般的に大きい形態である。その後、得られたシート又はスラグを、顆粒に微粉砕し、固体潤滑剤と混合し、第二圧縮工程で圧縮し、最終錠剤を生成する。
【0040】
直接圧縮法は、圧縮された固体剤形を製造するための三つの周知の方法の中で最も単純である。直接圧縮法では、薬物及び他の成分を一緒に混合し、直接最終錠剤に圧縮する。しかし、様々な理由のために、錠剤の製剤のために使用することができるすべての化学成分が、従来の錠剤化条件下での乏しい圧縮性、流動性及び安定性のため、このプロセスで使用するのに適しているわけではない。
【0041】
本発明は、医薬製剤を調製するための手順、及びその手順によって得られる医薬製剤に関する。本発明によれば、医薬品基材を、最初ALDによってコーティングし、その後、すべての化学成分、即ち、コーティングされた活性医薬品基材、必要に応じて追加の添加剤及び他の成分を一緒に混合し、最終医薬剤形に加工する。最終剤形は、固体医薬粒子を利用する任意の剤形であってもよい。本発明は、コーティング直後の医薬品基材の圧縮を可能にする。本発明によれば、最初に医薬品基材と添加剤を一緒にコーティングし、次いで、剤形の製造に進むことも可能である。別の方法として、医薬製剤を製造する前に添加剤を単独でコーティングしてもよい。
【0042】
医薬製剤中の成分を、混合物が薬物に関して均質になるまで、当該分野で周知の技術を用いて一緒に混合する。すべての成分が、かなり乾燥し、粉末状若しくは顆粒状で、粒径がやや均一で、自由に流れることが重要である。例えば、エアジェットミリング、ボールミリング、CADミリング、マルチミリング及び他の適切なサイズ低減技術のような従来の粉砕技術を用いて、医薬粒子の粒子サイズを小さくすることができる。
【0043】
好ましい実施態様では、最終的な剤形への加工を圧縮によって行う。「圧縮」という用語は、圧縮力を加えることによって行われる任意の公知のプロセスを含む。これらの方法は、圧縮、締固め、押出及び射出成形を含むが、これらに限定されない。
【0044】
本発明の一実施態様において、医薬剤形は錠剤である。いくつかの活性薬剤は、純粋な物質として錠剤化してもよいが、これはめったにないことである。ほとんどの製剤は、添加剤を含む。これは、錠剤を一つにしておき、それに強さを与えることを助けるために添加される薬理学的に不活性な成分である。薬学的に許容される添加剤は、希釈剤、界面活性剤、抗酸化剤、崩壊剤、結合剤、潤滑剤、流動促進剤、及びキレート剤の群から選択することができる。薬学的に許容される添加剤は、当技術分野で周知であり、この文脈において、私達は、例えば、Handbook of Pharmaceutical Excipients, 6th edition, Pharmaceutical Press and American Pharmacist's Association by Ray C. Rowe, Paul J. Sheskey and Marian Quinnを参考にする。本発明の方法により得られた錠剤を、例えば、糖衣錠又はフィルムコート錠を得るためにプレス加工した後に、さらにコーティングしてもよいことに留意すべきである。
【0045】
医薬製剤のための最終の錠剤化用混合物を製造した後、潤滑化工程は、錠剤化用混合物が打錠プロセス中に機器に付着しないことを確かにするために使用される。これは、通常、例えば、ステアリン酸マグネシウム又はステアリン酸などの粉末潤滑剤と医薬成分の低剪断性混合を含む。
【0046】
打錠機とも呼ばれる任意の従来の錠剤プレスは、手動プレス又はシングルステーション錠剤プレスからマルチステーションロータリープレスまで使用されることができる。そのような機械の操作は、全く当業者の範囲内のことである。
【0047】
本発明は、医薬品基材が粒子として提供され、コーティング層がALDによって堆積され、そのコーティング層が医薬品基材の各粒子上にコンフォーマルに(conformally)コーティングされた医薬製剤にも関する。本発明の一実施態様において、医薬製剤は、固体医薬粒子を利用した剤形であり、好ましくは、それは錠剤である。
【0048】
本発明は、医薬品基材をコーティングするためのALD法又は他の対応する技術の使用にも関する。
【0049】
技術の進歩とともに、本発明の概念は、様々な方法で実施できることが当業者には明らかであろう。本発明及びその実施態様は、以下の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲内で変えることができる。
【実施例】
【0050】
実施例1:医薬品基材のコーティング
医薬品粒子(表1に示す)を、静的粒子床反応器を備えたBeneq社のTFS 500 ALD装置でコーティングした。このタイプの粒子反応器は、少量の粒子に適している。反応器は、互いに重なり合う5つのセルから構築される。各セルは、直径が200mmで、高さが20mmである。パラセタモール粉末を、前処理なしで反応器セルの底部にロードし、次に反応器セルを、反応器に装着し、約2ミリバールの操作圧力まで減圧した。Al2O3及びTiO2を、100~140℃の温度で、平均粒子サイズ約50μmでパラセタモール粒子上に堆積させた。Al2O3膜を、トリメチルアルミニウム(TMA)と温度20℃で供給源から気化させた水から成長させた。TiO2膜を、温度41℃で供給源から気化させたテトラキス(ジメチルアミド)チタン(TDMAT)と温度20℃で供給源から気化させた水から成長させた。Al2O3の一回の堆積サイクルは、2秒の金属前駆体(TMA)パルス、2.5秒のN2パージ、0.5秒の水パルス、及び1秒のN2パージから成った。同様にTiO2堆積のために用いられた時間設定の順序は、1-5-1.5-2であった。両酸化物の堆積されたALDサイクルの数は、500であった。
【0051】
パラセタモール(USP)をHawkins Inc.(Hawkins Inc.、MN、USA)から購入し、マンニトールをRoquette Freres(Lestrem、France)から購入し、D-ソルビトールをSigma Aldricから購入し、キシリトールは市販の食品だった。
実施例2:錠剤化の検討
【0052】
実施例1から得られた材料を、計測器付き偏心式打錠機(Korsch EK-0、 Erweka Apparatebau、Heusenstamm、Germany)を用いて錠剤化した。9mmの平面パンチを使い、ダイ壁を、各圧縮の前に、5%(w/V)のステアリン酸マグネシウムのアセトン溶液を使い潤滑した。錠剤の目標重量は300mgであった。圧縮プロセス中の圧縮力を測定し、各錠剤の破砕強度を、Scleuninger-E装置(Switzerland)を使って測定した(表1)。
【0053】
【0054】
表1において示された結果は、ALDコーティングされた医薬の流動性と加工性は、純粋なパラセタモールよりも良好であることを示す。