(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】芳香族アゾ化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 245/08 20060101AFI20221108BHJP
C07C 291/08 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
C07C245/08
C07C291/08
(21)【出願番号】P 2019101146
(22)【出願日】2019-05-30
【審査請求日】2021-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】中山 昌也
(72)【発明者】
【氏名】大森 皓史
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-195034(JP,A)
【文献】特開平11-001464(JP,A)
【文献】Journal of the Chemical Society ,1946年,756
【文献】J. CHEM. SOC. PERKIN. TRANS. 2,1995年,1679-1682
【文献】Macromolecules,2010年,43,1319-1328
【文献】RSC Advances,2014年,4,41371-41377
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 245/08
C07C 291/08
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニトロベンゼン類、アルドース、及びアルカリ性物質を含む混合物を、アルカリ性条件下、25~50℃に加熱してアゾキシ化合物を得た後、更に
60℃以上に昇温して芳香族アゾ化合物を製造する、芳香族アゾ化合物の製造方法。
【請求項2】
前記ニトロベンゼン類に対する前記アルドースの配合量は、ニトロ基1.0モル当量に対して0.8~2.0モル当量であり、且つ、前記ニトロベンゼン類に対する前記アルカリ性物質の配合量は、ニトロ基1.0モル当量に対して4.3~20.0モル当量である、請求項1に記載の芳香族アゾ化合物の製造方法。
【請求項3】
前記ニトロベンゼン類が、ニトロ基を有するフタル酸類である、請求項1又は2に記載の芳香族アゾ化合物の製造方法。
【請求項4】
前記ニトロベンゼン類が、5-ニトロイソフタル酸である、請求項1~3のいずれか1項に記載の芳香族アゾ化合物の製造方法。
【請求項5】
前記
60℃以上に昇温して前記芳香族アゾ化合物を製造する際に、反応系中に空気を導入しながら前記芳香族アゾ化合物を製造する、請求項1~4のいずれか1項に記載の芳香族アゾ化合物の製造方法。
【請求項6】
前記
60℃以上に昇温した後に、温度を維持しながら反応系中に空気を導入する、請求項5に記載の芳香族アゾ化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族アゾ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アゾ化合物は、古くから色素等として用いられてきたが、近年では機能性化合物の構造体又はその一部として使用されている。例えば非特許文献1~3では、光応答性材料として用いられている例が紹介されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】J. Chem. Soc. Perkin Trans. II 1995, 1679
【文献】Macromolecules; vol. 43; nb. 3; (2010); p-1319-1328
【文献】RSC Advances 2014, 4, 41371-41377
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者は、上記非特許文献を参考にして芳香族アゾ化合物の製造方法について検討したところ、上記非特許文献に記載の製造方法は、概して製造効率(ここで「製造効率」とは、仕込み原料あたりの最大反応物量を指す。)が低く、これを改善する余地があることを知見した。また、上記非特許文献に記載の製造方法は、収率においても改善する余地があることを知見した。
【0005】
そこで、本発明は、製造効率及び収率に優れる芳香族アゾ化合物の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0007】
〔1〕 ニトロベンゼン類、アルドース、及びアルカリ性物質を含む混合物を、アルカリ性条件下、25~50℃に加熱してアゾキシ化合物を得た後、更に50℃超に昇温して芳香族アゾ化合物を製造する、芳香族アゾ化合物の製造方法。
〔2〕 上記ニトロベンゼン類に対する上記アルドースの配合量は、ニトロ基1.0モル当量に対して0.8~2.0モル当量であり、且つ、上記ニトロベンゼン類に対する上記アルカリ性物質の配合量は、ニトロ基1.0モル当量に対して4.3~20.0モル当量である、〔1〕に記載の芳香族アゾ化合物の製造方法。
〔3〕 上記ニトロベンゼン類が、ニトロ基を有するフタル酸類である、〔1〕又は〔2〕に記載の芳香族アゾ化合物の製造方法。
〔4〕 上記ニトロベンゼン類が、5-ニトロイソフタル酸である、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の芳香族アゾ化合物の製造方法。
〔5〕 上記50℃超に昇温して前記芳香族アゾ化合物を製造する際、反応系中に空気を導入しながら前記芳香族アゾ化合物を製造する、〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の芳香族アゾ化合物の製造方法。
〔6〕 上記50℃超の所定の温度に昇温した後に、温度を維持しながら反応系中に空気を導入する、〔5〕に記載の芳香族アゾ化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、製造効率及び収率に優れる芳香族アゾ化合物の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施態様に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施態様に限定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
【0010】
[芳香族アゾ化合物の製造方法]
本発明の芳香族アゾ化合物の製造方法(以下「本発明の製造方法」ともいう。)は、
ニトロベンゼン類、アルドース、及びアルカリ性物質を含む混合物を、アルカリ性条件下、25~50℃に加熱してアゾキシ化合物を得た後、更に50℃超に昇温して芳香族アゾ化合物を製造する、芳香族アゾ化合物の製造方法である。
【0011】
以下において、従来の製造方法と比較しながら、本発明の製造方法について説明する。なお、以下では、ニトロベンゼン類として5-ニトロイソフタル酸(以下「5-NIPA」ともいう。)、及び、アルドースとしてD-グルコースを使用して、下記構造で表されるアゾ色素A(「azo dye A」:芳香族アゾ化合物に該当する)を製造する態様を一例に挙げて説明する。
また、以下においては、ニトロベンゼン類、アルドース、及びアルカリ性物質を含む混合物を、アルカリ性条件下、25~50℃に加熱してアゾキシ化合物を得る処理を工程1と称し、上記工程1で得られた混合物を更に50℃超に昇温して芳香族アゾ化合物を製造する処理を工程2と称する。
【0012】
【0013】
5-NIPA、D-グルコース、及びアルカリ性物質(例えば、水酸化ナトリウム等)を含む混合物をアルカリ性条件下にて25~50℃に加熱すると、D-グルコースによる5-NIPAの還元反応により、下記構造式で表されるアゾキシ化合物(中間体A)が生成する。つまり、言い換えると、工程1の処理を実施することで、下記構造式で表される中間体Aが生成する。なお、D-グルコース中のアルデヒド基が5-NIPAのニトロ基に対して還元作用を示す。
【0014】
【0015】
次いで、工程1で得られた混合物を更に50℃超に昇温して(つまり、中間体Aを単離せず、工程1で得られた混合物を更に50℃超に昇温して)、アゾ色素Aを製造する処理(工程2)を行う。工程2では、中間体AをD-グルコースで還元して下記構造式で表される中間体B(ヒドラジン化合物)を生成する第1反応と、中間体Bを酸化することで、上述したアゾ色素Aを生成する第2反応が進行する。なお、D-グルコースによる中間体Aの還元反応(第1反応)は、工程1の50℃以下の温度条件では殆ど進行しない。つまり、工程1においては、中間体Bの生成は抑制されて、選択的に中間体Aが生成する。
上記第1反応では、D-グルコース中のアルデヒド基が中間体Aのアゾキシ部位に対して還元作用を示す。
【0016】
【0017】
第1反応は、中間体AをD-グルコースで還元して中間体Bを生成する反応であり、第1反応を経て得られた混合物は、中間体Aと中間体Bとが混在した状態になる。更に、中間体Bの生成に伴って混合物中のD-グルコースが概ね消尽すると、続いて、第2反応が進行する。第2反応は、大気中の酸素、混合物中に溶存する酸素、及び混合物中の中間体Aが酸化剤として作用することにより、中間体Bが酸化されてアゾ色素Aに転化する反応である。なお、第2反応では、中間体Bのアゾ色素Aへの転化反応において酸化剤として使用された中間体Aについても、上述した中間体Bと同様に、アゾ色素Aに転化する。
【0018】
本発明の製造方法は、上記構成により製造効率及び収率に優れる。
上記作用機序は明らかではないが、本発明の製造方法においては、第1反応を経た段階で、反応系中のアゾキシ化合物(上述した中間体Aが該当する。)とヒドラジン化合物(上述した中間体Bが該当する。)の生成比率が適切に調整されていることから、第2反応において、アゾキシ化合物が、ヒドラジン化合物から芳香族アゾ化合物(上述したアゾ色素Aが該当する。)への酸化反応の酸化剤として機能し易くなると考えられる。この結果として、工程2において芳香族アゾ化合物への転化反応が効率良く進行し、収率が向上すると推測される。また、本発明の製造方法によれば、必要となるアルドースの配合量が少ない利点もある。つまり、この結果として、製造効率(「製造効率」とは、上述したとおり、仕込み原料あたりの最大反応物量を意図する。)にも優れる。
【0019】
これに対して、従来の製造方法では、工程1の処理を設けずに70℃等の温度でニトロベンゼン類とアルドースとアルカリ性物質とを反応させて芳香族アゾ化合物を製造している。従来の製造方法は、反応速度の違いによってアゾキシ化合物(上述した中間体Aが該当する。)が形成されやすい一方で、ヒドラジン化合物(上述した中間体Bが該当する。)及び芳香族アゾ化合物(上述したアゾ色素Aが該当する。)の生成反応を制御しにくいため、収率及び純度が低い。一方で、アルドースの配合量を増やせば収率及び純度をある程度は向上させることができるものの、必要となるアルドースの配合量が多くなるため、製造効率が悪い。
【0020】
更に、本発明の製造方法においては、ニトロベンゼン類に対するアルドースの配合量は、ニトロ基1.0モル当量に対して0.8~2.0モル当量であり、且つ、ニトロベンゼン類に対するアルカリ性物質の配合量は、ニトロ基1.0モル当量に対して4.3~20.0モル当量であることが好ましい。
ニトロベンゼン類に対するアルドースの配合量が、ニトロ基1.0モル当量に対して2.0モル当量以下である場合、第1反応を経た段階で混合物中に残存するアゾキシ化合物の含有量が適切となることから、第2反応において、アゾキシ化合物が、ヒドラジン化合物から芳香族アゾ化合物への酸化反応の酸化剤として機能し易くなる。一方で、アルドースの配合量がニトロベンゼン類1.0モル当量に対して0.8モル当量以上であれば、工程1及び工程2における各反応がより適切に進行する。
【0021】
また、ニトロベンゼン類に対するアルカリ性物質の配合量が、ニトロ基1.0モル当量に対して4.3モル当量以上である場合、工程1及び工程2の各処理における反応速度が上がり、且つ、工程2の第1反応を経た際のアゾキシ化合物とヒドラジン化合物の生成比率を適切に調整でき、純度及び収率がより向上し得る。なお、ニトロベンゼン類に対するアルカリ性物質の配合量の上限値としては、特に制限されないが、例えば、ニトロ基1.0モル当量に対して20.0モル当量以下である。
【0022】
つまり、本発明の製造方法においては、上述した工程1及び工程2の各処理を実施する際の温度制御と、ニトロベンゼン類、アルドース、及びアルカリ性物質の各配合量との両観点において、工程2の第2反応に際して、アゾキシ化合物が、ヒドラジン化合物から芳香族アゾ化合物への酸化反応の酸化剤として機能し易くなるように調整している。
【0023】
以下、本発明の製造方法について詳述する。
〔ニトロベンゼン類〕
ニトロベンゼン類とは、ベンゼン環の環員炭素原子にニトロ基が1個以上置換した化合物を意図し、例えば、下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【0024】
【0025】
一般式(1)中、Xは、置換基を表す。mは、0~5の整数を表す。nは、1又は2を表す。但し、m+nは、6以下である。なお、mが2以上の整数である場合、複数存在するX同士は、同一であっても異なっていてもよい。
【0026】
Xで表される置換基としては特に制限されず、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子、及びアミノ基(-NH2)等が挙げられる。
上記アルキル基及び上記アルコキシ基の炭素数としては、例えば、1~6が好ましい。
上記アリール基に含まれる炭素数は、6~10が好ましく、6がより好ましい。上記アリール基を構成する芳香族炭化水素環は、単環構造であっても、縮環構造であってもよい。上記アリール基は、更に置換基を有していてもよい。
上記ヘテロアリール基を構成する芳香族複素環としては、少なくとも1つの窒素原子、酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子を環構造内に有する5~7員環であることが好ましく、少なくとも1つの窒素原子、酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子を環構造内に有する5~6員環がより好ましい。上記芳香族複素環は、単環であっても縮環構造であってもよい。また、上記ヘテロアリール基は、更に置換基を有していてもよい。
上記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及びヨウ素原子が挙げられる。
【0027】
mが2以上の整数である場合、複数存在するX同士は、同一であっても異なっていてもよい。
【0028】
上記Xとしては、なかでも、カルボキシ基又はヒドロキシ基が好ましく、カルボキシ基がより好ましい。
【0029】
mとしては、1~3が好ましく、1又は2がより好ましく、2が更に好ましい。
nとしては、1が好ましい。
【0030】
ニトロベンゼン類としては特に制限されないが、ニトロベンゼン、2-ニトロトルエン、3-ニトロトルエン、及び4-ニトロトルエン等のニトロトルエン類;2-エチルニトロベンゼン、3-エチルニトロベンゼン、及び4-エチルニトロベンゼン等のエチルニトロベンゼン類;2-プロピルニトロベンゼン、3-プロピルニトロベンゼン、及び4-プロピルニトロベンゼン等のプロピニトロベンゼン類;2-ニトロクメン、3-ニトロクメン、及び4-ニトロクメン等のニトロクメン;1-ブチルニトロベンゼン、1―t-ブチル-3-ニトロベンゼン、1―t-ブチル-4-ニトロベンゼン、及びトリ-t-ブチルニトロベンゼン等のt-ブチルニトロベンゼン類;2-フルオロニトロベンゼン、3-フルオロニトロベンゼン、及び4-フルオロニトロベンゼン等のフルオロニトロベンゼン類;2-クロロニトロベンゼン、3-クロロニトロベンゼン、及び4-クロロニトロベンゼン等のクロロニトロベンゼン類;2-ブロモニトロベンゼン、3-ブロモニトロベンゼン、及び4-ニトロニトロベンゼン等のブロモベンゼン類;2-ヨードニトロベンゼン、3-ヨードニトロベンゼン、及び4-ヨードニトロベンゼン等のヨードニトロベンゼン類;2-ニトロ安息香酸、3-ニトロ安息香酸、及び4-ニトロ安息香酸等のニトロ安息香酸類;2-ニトロイソフタル酸;5-ニトロイソフタル酸(5-NIPA);5-ニトロイソフタル酸モノメチル;ニトロテレフタル酸;ニトロビフェニルカルボン酸;ジニトロフルオロベンゼン、ジニトロクロロベンゼン、ジニトロブロモベンゼン、及びジニトロヨードベンゼン等のジニトロハロベンゼン類;3,5-ジニトロ安息香酸;2,4-ジニトロ安息香酸;4-メチル-3,5-ジニトロ安息香酸;2-ヒドロキシ-3,5-ジニトロ安息香酸;等が挙げられる。
ニトロベンゼン類としては、なかでも、ニトロ基を有するフタル酸類が好ましく、5-ニトロイソフタル酸(5-NIPA)がより好ましい。
【0031】
〔アルドース〕
アルドースとは、CnH2nOn(但し、nは3以上の整数である。)で表され、且つ、末端にアルデヒド基を1つ有する単糖類を意図する。なお、アルドース中のアルデヒド基がニトロベンゼン類のニトロ基、及び、工程1により得られるアゾキシ化合物のアゾキシ部位に対して還元作用を示す。
アルドースとしては、例えば、グリセルアルデヒド、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、グルコース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、及びタロース等が挙げられる。なかでも、グルコースが好ましい。
【0032】
ニトロベンゼン類に対するアルドースの配合量は、ニトロ基1.0モル当量に対して0.8~2.0モル当量が好ましく、1.0~1.8モル当量が好ましく、1.0~1.5モル当量がより好ましい。
【0033】
〔アルカリ性物質〕
アルカリ性物質としては、水に溶解させた際にpHが7超となるものであれば特に制限されない。アルカリ性物質としては、具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸ルビジウム、炭酸セシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素リチウム、炭酸水素ルビジウム、及び炭酸水素セシウムが挙げられ、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、又は炭酸水素カリウムが好ましく、水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウムがより好ましい。
【0034】
ニトロベンゼン類に対するアルカリ性物質の配合量は、ニトロ基1.0モル当量に対して4.3~20.0モル当量であり、4.4~8.0モル当量が好ましく、4.5~5.0モル当量がより好ましい。
【0035】
〔芳香族アゾ化合物〕
本発明の製造方法により得られる芳香族アゾ化合物としては特に制限されないが、例えば、下記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0036】
【0037】
一般式(2)中、Xは、置換基を表す。mは、0~5の整数を表す。なお、Xが複数存在する場合、複数存在するX同士は、同一であっても異なっていてもよい。
【0038】
一般式(2)中、X及びmは、各々、一般式(1)中のX及びmと同義であり、好適態様も同じである。
【0039】
〔製造手順〕
本発明の製造方法は、ニトロベンゼン類、アルドース、及びアルカリ性物質を含む混合物を、アルカリ性条件下、25~50℃の温度に加熱してアゾキシ化合物を得る工程1と、工程1を経て得られるアゾキシ化合物を含む混合物を更に50℃超の温度に昇温して芳香族アゾ化合物を製造する工程2と、を含む。
また、後述するように、本発明の製造方法は、工程2において50℃超に昇温して上記芳香族アゾ化合物を製造する際、反応系中に空気を導入しながら芳香族アゾ化合物を製造することが好ましい。工程2の芳香族アゾ化合物が生成する反応(第2反応)の際に、反応系中に酸化剤として空気を存在させることで、上記反応を更に加速させることができ、結果として、より高い収率及び純度で芳香族アゾ化合物を製造できる。
【0040】
<工程1>
上段部において、ニトロベンゼン類として5-ニトロイソフタル酸(5-NIPA)、及び、アルドースとしてD-グルコースを使用してアゾ色素Aを製造する態様を一例に挙げて説明したとおり、工程1を実施すると、アルドースによるニトロベンゼン類の還元反応により、アゾキシ化合物が生成する。
【0041】
工程1としては、具体的には、ニトロベンゼン類、アルドース、及びアルカリ性物質の各成分を溶媒に溶解及び/又は分散した混合物を、アルカリ性条件下にて、25~50℃の温度にて攪拌する工程であることが好ましい。
【0042】
上記溶媒としては特に制限されないが、水;エチレングリコール、及びプロピレングリコール類等のグリコ-ル類;テトラヒドロフラン、及びテトラヒドロピラン等の環状エーテル類;ジメチルアセトアミド、及びジメチルホルムアミド等のホルムアミド類;アセトン、及び2-ブタノン等のケトン類;アセトニトリル等のニトリル類;が挙げられ、なかでも、水が好ましい。
なお、これらの溶媒は、単独で使用しても、混合して使用してもよい。
【0043】
上記混合物中、溶媒の使用量としては、ニトロベンゼン類の質量に対して、3.0質量%以上が好ましく、20.0質量%以上がより好ましい。なお、上限値としては、80.0質量%以下が好ましく、40.0質量%以下がより好ましい。
【0044】
工程1はアルカリ性条件下にて実施される。つまり、上記好適態様においては、混合物のpHは、アルカリ性を示す。
工程1のアルカリ性条件のpHとしては7.0超であれば特に制限されないが、工程1の反応速度がより優れ、結果として収率がより向上する点で、11.0以上が好ましい。上限は特に制限されないが、14.0以下の場合が多い。
【0045】
工程1における反応温度としては、収率及び純度がより向上する点で、30~50℃が好ましい。
また、工程1における攪拌時間としては、例えば、0.5~5時間が好ましい。
【0046】
<工程2>
工程2は、アルカリ性条件下にて、工程1で得られた混合物を更に50℃超に昇温して芳香族アゾ化合物を製造する処理を行う工程である。
上段部において、ニトロベンゼン類として5-ニトロイソフタル酸(5-NIPA)、及び、アルドースとしてD-グルコースを使用してアゾ色素Aを製造する態様を一例に挙げて説明したとおり、工程2を実施すると、工程1により得られたアゾキシ化合物がアルドースで還元されてヒドラジン化合物が生成する第1反応と、第1反応により得られたヒドラジン化合物が酸化されて芳香族アゾ化合物が生成する第2反応とが生じる。
【0047】
工程2はアルカリ性条件下にて実施される。つまり、上記好適態様においては、混合物のpHは、アルカリ性を示す。
工程2のアルカリ性条件のpHとしては7.0超であれば特に制限されないが、工程2の反応速度がより優れ、結果として収率がより向上する点で、11.0以上が好ましい。上限は特に制限されないが、14.0以下の場合が多い。
【0048】
工程2における反応温度としては、収率及び純度がより向上する点で、60℃以上であることが好ましい。なお、反応温度の上限としては特に制限されないが、反応の暴走を防ぐ点で、100℃以下が好ましい。
また、工程2では、混合物が所定の温度に到達した後、更に、例えば、1~72時間攪拌することが好ましい。
更に、工程2において、反応が遅い場合には、反応を加速させることを目的として酸化剤を投入しても構わない。酸化剤としては、酸素、空気、過酸化水素、メタクロロ過安息香酸及び過酢酸等の過カルボン酸、N-メチルモルホリン-N-オキシド、二酸化マンガン、Jones試薬及びPDC(Pyridinium Dichromate)等のクロム系酸化剤、Dess-Martin試薬等のヨウ素系酸化剤、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル(TEMPO)、又はジメチルスルホキシドが好ましいが、酸素又は空気がより好ましい。
なかでも、経済性の観点から、酸化剤としては空気が更に好ましく、工程2において50℃超に昇温して上記芳香族アゾ化合物を製造する際、反応系中に空気を導入しながら芳香族アゾ化合物を製造することが好ましい。上記手順としては、50℃超に昇温しながら、反応系中に空気を導入してもよいし、50℃超の所定の温度に昇温した後に、温度を維持しながら反応系中に空気を導入してもよい。なかでも、より高い収率及び純度で芳香族アゾ化合物を製造できる点で、50℃超の所定の温度に昇温した後に、温度を維持しながら反応系中に空気を導入することが好ましい。
酸素及び空気等のガスを酸化剤として反応系中に導入する場合、その導入方法としては特に制限されず、例えば、ガス吹込みノズルを使用する方法が挙げられる。
【0049】
〔用途〕
本発明の製造方法により得られた芳香族アゾ化合物は、例えば、金属有機構造体(MOF:Metal-Organic Frameworks)の配位子として用いることができる。
【実施例】
【0050】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0051】
実施例欄にて使用した各種成分は以下のとおりである。
5-ニトロイソフタル酸(表1中の「5-NIPA」に該当する):東京化成工業社製
4-ニトロ安息香酸:富士フイルム和光純薬社製
水酸化ナトリウム(NaOH):富士フイルム和光純薬社製
水酸化カリウム(KOH):富士フイルム和光純薬社製
D-グルコース(表1中の「グルコース」に該当する):富士フイルム和光純薬社製
水:蒸留水
【0052】
[1]芳香族アゾ化合物の製造
〔実施例1〕
5-ニトロイソフタル酸30g(0.14mol)、NaOH27.0g(0.68mol)、及びD-グルコース25.5g(0.14mol)を水151.5gの中に仕込んで攪拌する。この混合物を40℃~50℃(表1中の「温度条件1」を参照。)で1時間攪拌した後(「工程1」に該当する。)、70℃(表1中の「温度条件2」を参照。)に昇温する。温度到達後は70℃(「温度条件2」)で4時間攪拌する(「工程2」に該当する。)。その後、室温まで冷却し、ろ過して目的物を得る。得られたWet結晶を50℃乾燥機で乾燥させ、恒量に達したところで取り出す。
【0053】
〔実施例2〕
5-ニトロイソフタル酸に対するD-グルコースの配合量、及び5-ニトロイソフタル酸に対するNaOHの配合量を表1に示す数値に変えた以外は実施例1の製造方法と同様の方法により、芳香族アゾ化合物を製造する。
【0054】
〔実施例3〕
5-ニトロイソフタル酸を4-ニトロ安息香酸にかえた以外は実施例1の製造方法と同様の方法により、芳香族アゾ化合物を製造する。
【0055】
〔実施例4〕
NaOHをKOHにかえた以外は実施例1の製造方法と同様の方法により、芳香族アゾ化合物を製造する。
【0056】
〔実施例5〕
5-ニトロイソフタル酸に対するD-グルコースの配合量、5-ニトロイソフタル酸に対するNaOHの配合量、及び水の配合量を表1に示す数値に変えた以外は実施例1の製造方法と同様の方法により、芳香族アゾ化合物を製造する。
【0057】
〔実施例6〕
5-ニトロイソフタル酸30g(0.14mol)、NaOH27.0g(0.68mol)、及びD-グルコース33.3g(0.18mol)を水160gの中に仕込んで攪拌する。この混合物を40℃~50℃(表1中の「温度条件1」を参照。)で1時間程度攪拌した後(「工程1」に該当する。)、70℃(表1中の「温度条件2」を参照。)に昇温する。温度到達後に70℃(「温度条件2」)を保ったまま、反応容器中に空気を吹き込んで4時間攪拌する(「工程2」に該当する。)。その後、室温まで冷却し、ろ過して目的物を得る。得られたWet結晶を50℃乾燥機で乾燥させ、恒量に達したところで取り出す。
【0058】
〔比較例1~4〕
表1に示す配合量の5-ニトロイソフタル酸、NaOH、D-グルコース、及び水を70℃で仕込み、70℃に保持したまま数時間攪拌する。攪拌終了後に室温まで冷却し、ろ過して目的物を得る。得られたWet結晶を50℃乾燥機で乾燥させ、恒量に達したところで取り出す。
【0059】
〔比較例5〕
5-ニトロイソフタル酸、NaOH、D-グルコース、及び水を用いて、非特許文献2の製造方法により、芳香族アゾ化合物を製造する。
【0060】
〔比較例6〕
4-ニトロ安息香酸、NaOH、D-グルコース、及び水を用いて、非特許文献1の製造方法により、芳香族アゾ化合物を製造する。
【0061】
〔比較例7〕
5-ニトロイソフタル酸、NaOH、D-グルコース、及び水を用いて、非特許文献3の製造方法により、芳香族アゾ化合物を製造する。
【0062】
[評価結果]
各実施例及び各比較例の製造方法の収率(%)、純度(%)、及び製造効率を表1にまとめて記す。なお、「製造効率」とは、「混合物の総液量」を「ニトロベンゼン類の仕込み量」で除した値を意図する。
収率(%)は、実用上の観点から60%以上が好ましく、70%以上がより好ましい。純度(%)は、実用上の観点から85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。製造効率は、実用上の観点から8以下が好ましい。
【0063】
なお、表1中、「工程1」欄の「温度条件」において「A」とは、工程1における温度が25℃~50℃の範囲であることを意図し、「B」とは、工程1における温度が20℃未満、又は50℃超の範囲であることを意図する。また、「工程2」欄の「温度条件」において「A」とは、工程2における温度が50℃超の範囲であることを意図する。
【0064】
また、表1中、「水の配合量(w/w)」とは、(使用した水の量)÷(使用したニトロベンゼン類の量)で求められる数値を意図する。
【0065】
【0066】
表1に示す結果から、実施例の製造方法によれば、より高い収率及びより優れた製造効率で芳香族アゾ化合物を製造できることが明らかである。
また、実施例1~5の結果から、ニトロベンゼン類に対するアルドースの配合量が、ニトロ基1.0モル当量に対して1.0モル当量以上である場合、より高い収率及び純度で芳香族アゾ化合物を製造できることが明らかである。この理由としては、工程2におけるヒドラジン化合物が生成する反応(第1反応)の反応率がより適切になるためと推測している。
また、実施例1~6の対比から、工程2の芳香族アゾ化合物が生成する反応(第2反応)の際に、酸化剤として空気を投入して反応を更に加速させた場合、より高い収率及び純度で芳香族アゾ化合物を製造できることが明らかである。
一方、比較例の製造方法では、高い収率と、優れた製造効率とが両立し得ないことが明らかである。