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  • 特許-ポリエステロール合成のための触媒 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】ポリエステロール合成のための触媒
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/82 20060101AFI20221108BHJP
   C08G 18/42 20060101ALI20221108BHJP
   C07C 323/52 20060101ALN20221108BHJP
   C07C 321/20 20060101ALN20221108BHJP
【FI】
C08G63/82
C08G18/42
C07C323/52
C07C321/20
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020500199
(86)(22)【出願日】2018-07-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 EP2018067870
(87)【国際公開番号】W WO2019007921
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-07-01
(31)【優先権主張番号】17179787.1
(32)【優先日】2017-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】リューベンアッカー,マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ツァルバクシュ,ジルス
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03211561(US,A)
【文献】米国特許第03318835(US,A)
【文献】特開2009-091410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/82
C08G 18/42
C07C 323/52
C07C 321/20
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I
R1-CH-S-S-CH-R2 (I)
(式中、R1は、Ar1及び-(CH-COOH(式中、xは、0、1、2、又は3から選択される)からなる群から選択され、R2は、Ar2及び-(CH-COOH(式中、yは0、1、2、又は3から選択される)からなる群から選択され、Ar1及びAr2は、置換された又は非置換のフェニルである)
の化合物を、ポリエステロール製造のための触媒として使用する方法。
【請求項2】
R1が、-(CH-COOHであり、xが、0、1、2、又は3であり、
R2が、-(CH-COOHであり、yが、0、1、2、又は3である、請求項1に記載の式Iの化合物を使用する方法。
【請求項3】
R1がAr1であり、
R2がAr2である、
請求項1に記載の式Iの化合物を使用する方法。
【請求項4】
x及びyが1である、請求項1又は2に記載の式Iの化合物を使用する方法。
【請求項5】
R1及びR2が非置換のフェニルである、請求項1又は3に記載の式Iの化合物を使用する方法。
【請求項6】
少なくとも1種のジカルボン酸の、少なくとも1種のジオール又はポリオール及び請求項1から5のいずれか一項に記載の式Iの化合物との反応を含む、ポリエステロールの製造方法であって、請求項1から5のいずれか一項に記載の式Iの少なくとも1種の化合物を触媒として使用する、製造方法。
【請求項7】
反応混合物中の式Iの化合物の量が1~10ppmの範囲にある、請求項6に記載のポリエステロールの製造方法。
【請求項8】
反応混合物中の式Iの化合物の量が1~10ppmの範囲にある、請求項6に記載のポリエステロールの製造方法。
【請求項9】
前記ジカルボン酸が、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸及びピメリン酸からなる群から選択される、請求項6から8のいずれか一項に記載のポリエステロールの製造方法。
【請求項10】
前記ジオールが、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、トリメチロールプロパン(TMP)からなる群から選択される、請求項6から9のいずれか一項に記載のポリエステロールの製造方法。
【請求項11】
反応を80℃~300℃の間の温度で行う、請求項6から10のいずれか一項に記載のポリエステロールの製造方法。
【請求項12】
ポリウレタンの製造のための、請求項6から11のいずれか一項に記載の方法から得られるポリエステロールを使用する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステロール合成のための触媒、及びポリエステルポリオールの製造のための触媒としてジチオ化合物を使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原則として、エステルの製造のための触媒は、当技術分野で広く知られている。例えば、FR1359112は、スズ触媒をベースとするジエステルの製造のためにスズ触媒を使用する方法を記載しており、例えば、ジチオプロピオン酸は、小化合物のエステル化のための遊離体として使用される。
【0003】
本発明において、「触媒」という用語は、化学反応の反応速度を増加させる化合物を指す。「触媒」という用語の通常の定義とは異なり、本発明の化合物は、(少なくとも部分的に)生成物への(化学的)取り込みによって、消費され得る。よってポリエステロール生成物は、微量の触媒化合物を含有し得る。
【0004】
ポリエステロール(「ポリエステルポリオール」又は短縮して「PESOL」とも呼ばれる)は、例えばポリウレタン(PU)の合成に使用することができる、よく知られた種類の化合物である。ポリエステロールは、ジカルボン酸(又はエステル又は無水物などの誘導体)とジオール(又はポリオール)との間の重縮合反応によって、又は環状エステル(例えばラクトン、環状カーボネート)の開環重合によって得られる。これは、例えば、M.Ionescu、「Chemistry and technology of polyols for polyurethanes」、Rapra Technology Ltd.、2005年、第8.1章に記載されている。ポリエステロールは一般に、触媒として金属錯体を使用して製造される。最も一般的な触媒は、チタニウム又はスズ(例えば、テトラブチルチタネート又はオクタン酸スズ)をベースとする。TTB及びSDOは高い反応性を示し、短いサイクル時間が可能となる。これらの触媒は通常、生成物から分離されない。
【0005】
しかしながら、ポリエステロールの多くの適用にとって、例えば食品関連又は医療関連の適用にとって、生成物が触媒からの微量の金属を含有する場合、大きな不利益である。金属触媒がポリオール中に残留する場合、それら金属触媒は依然として触媒活性であり、ポリウレタン反応において反応性に対しマイナスの影響を及ぼす(それら金属触媒は実際に反応性を増加させ、これは望ましくない)。金属触媒は同時に、ポリオールの二酸及びジオールへの逆反応を誘発し、従ってポリエステロールの耐加水分解性を低下させる。また、生態学及び持続可能性の観点からも、金属含有触媒の使用を控えることが非常に望ましい。だが残念ながら、ポリエステロールの製造のための十分に高い反応性を有する金属を含まない触媒系は、当技術分野では知られていない。
【0006】
US2698340は、種々の樹脂の可塑剤として使用し得る、エステルの調製のためのプロセスにおける、硫黄含有触媒、好ましくはラウリルメルカプタン、n-ヘプチルメルカプタン又はイソオクチルメルカプタンの使用を開示している。しかし、大量の触媒活性化合物が必要である。さらに、チオールは、ほとんどの適用に受け入れられない悪臭を有することが知られている。また、p-トルエンスルホン酸をPESOLの製造のための触媒として使用することも記載されているが、この場合も非常に多量の酸化合物が必要であるので、この手順は非経済的で非生態学的となる。従って、ポリエステロールの製造における触媒として効率的に使用することができ、金属を含まない化合物が、当技術分野で必要とされていた。
【0007】
他の触媒系は、例えばハロゲン化有機化合物をベースとするという欠点がある。ハロゲン化有機化合物は、環境に優しい製造の観点から、使用を避けるべきである。例えば、US4996178は、リン化合物、酸受容体、及び少なくとも1種のハロゲン化化合物をベースとする触媒系を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】FR1359112
【文献】US2698340
【文献】US4996178
【非特許文献】
【0009】
【文献】M.Ionescu、「Chemistry and technology of polyols for polyurethanes」、Rapra Technology Ltd.、2005年、第8.1章
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
驚くべきことに、3,3’-ジチオプロピオン酸又はジベンジルジスルフィドのような特定のジチオ構造が、ポリエステロールの合成に対して非常に活性な触媒であることが見出された。さらに、本発明の触媒構造を使用する場合、得られる生成物は、例えばTPU形成において反応性の増加を示さない。その上、本発明の触媒化合物の金属を含まない構造によって、生成物は微量の金属を含まず、ほとんど臭いを有しない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
よって本発明の目的は、構造要素-CH-S-S-CH-を含有する化合物を、ポリエステロールの製造のための触媒として使用する方法である。本発明のさらなる目的は、少なくとも1種のジカルボン酸の、少なくとも1種のジオール又はポリオールとの反応によるポリエステロールの製造方法であって、構造要素-CH-S-S-CH-を含有する少なくとも1種の化合物を触媒として使用する、製造方法、及び本発明の方法から得られるポリエステロールをポリウレタンの製造に使用する方法である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、様々な触媒を用いたポリエステロール合成実験の反応速度データを示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態では、構造要素-CH-S-S-CH-を含有する化合物は、式I
R1-CH-S-S-CH-R2 (I)
の化合物であり、
式中、R1はAr1及び-(CH-COOH(式中、xは0、1、2、又は3から選択される)からなる群から選択され、R2はAr2及び-(CH-COOH(式中、yは0、1、2、又は3から選択される)からなる群から選択される。Ar1及びAr2は、互いに独立して、置換された又は非置換のフェニル、好ましくは非置換のフェニルを表し、置換されている場合は、置換基は1種以上のC~Cアルキルである。
【0014】
~Cという用語には、メチル、エチル、プロピル、1-メチルエチル、ブチル、1-メチルプロピル、2-メチルプロピル、1,1-ジメチルエチルが含まれる。
【0015】
本発明の好ましい一実施形態では、式Iにおいて、
R1は、-(CH-COOHであり、
xは、0、1、2、又は3であり、
R2は、-(CH-COOHであり、yは、0、1、2、又は3である(以下、式Iaと称する)。
【0016】
本発明の同様に好ましい実施形態では、式Iにおいて、
R1及びR2は、両方とも、1~3個のC~Cラジカルにより置換されたフェニル又は非置換のフェニルである(以下、式Ibと称する)。
【0017】
本発明のより好ましい実施形態では、式Iにおいて、
R1は、-(CH-COOHであり、
xは、0、1、2、又は3であり、
R2は、-(CH-COOHであり、
yは、0、1、2、又は3であり、x及びyは同じ値を有する(例えば、x=1は、y=1を意味する)(以下、式Icと称する)。
【0018】
本発明の同様に好ましい実施形態では、式Iにおいて、R1及びR2は両方とも非置換のフェニルである(以下、式Idと称する)。
【0019】
式Iaの好ましい実施形態では、x及びyは、互いに独立して、1又は2、好ましくは1である。式Icの好ましい実施形態では、x及びyは、等しく1又は2、好ましくは1である。
【0020】
よって本発明の特定の好ましい実施形態では、式Iの化合物は3,3’-ジチオプロピオン酸である。本発明の別の好ましい実施形態(式Id)では、式Iの化合物はジベンジルジスルフィドである。
【0021】
本発明のさらなる実施形態はまた、構造式I
R1-CH-S-S-CH-R2 (I)
の少なくとも1種の化合物を触媒として使用する、ポリエステロールの製造方法であり、式中、R1は、Ar1及び-(CH-COOH(式中、xは0、1、2、又は3から選択される)からなる群から選択され、R2は、Ar2及び-(CH-COOH(式中、yは0、1、2、又は3から選択される)からなる群から選択され、Ar1及びAr2は上記で定義したとおりである。
【0022】
ポリエステロールの製造方法の好ましい実施形態では、式Ia又はIbの化合物、より好ましくは式Ic又は式Idの化合物、最も好ましくはベンジルジスルフィド又は3,3’-ジチオプロピオン酸を使用する。
【0023】
本発明の方法では、反応における化合物Iの量は、1ppm~10ppm(1質量%)の範囲にある。好ましくは、本発明の方法では、1~1000ppm、より好ましくは10~500ppm、最も好ましくは50~200ppmであり、70~130ppmの範囲の化合物Iが最大限に好ましい。本発明の方法の実施形態において、ジカルボン酸は、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸及びピメリン酸からなる群から、好ましくはコハク酸、グルタル酸及びアジピン酸からなる群から選択され、より好ましくはアジピン酸である。本発明の方法の実施形態において、ジオールは、モノエチレングリコール、ジエチレングリコール、プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、トリメチロールプロパン(TMP)からなる群から選択され、好ましくはモノエチレングリコール及び/又は1,4-ブタンジオールである。通常、反応は80℃~300℃、好ましくは100℃~280℃の間の温度で行う。
【0024】
本発明のさらなる実施形態は、本明細書及び独立請求項及び従属請求項から明らかである。
【実施例
【0025】
粘度の決定
ポリオールの粘度は、DIN EN ISO3219(1994)に従い25℃で、回転式粘度計Rheotec RC20で、スピンドルCC25DIN(スピンドルの直径:12.5mm、メスシリンダーの内径:13.56mm)を使用して、50 1/sのせん断速度で決定した。
【0026】
ヒドロキシル価の決定
ヒドロキシル価は、無水フタル酸法DIN53240(1971-12)に従い決定し、mgKOH/gで示す。
【0027】
酸価の決定
酸価は、DIN EN1241(1998-05)に従い決定し、mgKOH/gで示す。
【0028】
ポリオールの合成
次の触媒を使用した。
【0029】
チタニウム(IV)ブトキシド CAS:5593-70-4(TTB)
スズ(II)2-エチルヘキサノエート CAS:301-10-0(SDO)
【0030】
例1(比較例、標準触媒)
温度計、窒素注入口、加熱マントル、蒸留カラム、及び攪拌機を備えた4Lのフラスコに、1887.6gの1,6-ヘキサン二酸(アジピン酸)、452.8gのモノエチレングリコール、657.4gの1,4-ブタンジオール及び25mgのチタニウム(IV)ブトキシドを入れ、120℃に加熱した。反応混合物を240℃にさらに加熱し、1mgKOH/gの酸価に達するまで凝縮水を連続的に留去した。53.26mgKOH/gのヒドロキシル価、0.708mgKOH/gの酸価、及び75℃で738mPasの粘度を有するポリエステルポリオールを得た。
【0031】
例2(ジチオプロピオン酸)
温度計、窒素注入口、加熱マントル、蒸留カラム、及び攪拌機を備えた4Lのフラスコに、1887.7gの1,6-ヘキサン二酸(アジピン酸)、452.8gのモノエチレングリコール、657.4gの1,4-ブタンジオール及び250mgの3,3-ジチオプロピオン酸を入れ、120℃に加熱した。反応混合物を240℃にさらに加熱し、1mgKOH/gの酸価に達するまで凝縮水を連続的に留去した。55.66mgKOH/gのヒドロキシル価、0.292mgKOH/gの酸価、及び75℃で974.3mPasの粘度を有するポリエステルポリオールを得た。
【0032】
例3(ジベンジルジスルフィド)
温度計、窒素注入口、加熱マントル、蒸留カラム、及び攪拌機を備えた4Lのフラスコに、1887.7gの1,6-ヘキサン二酸(アジピン酸)、452.8gのモノエチレングリコール、657.4gの1,4-ブタンジオール及び250mgのジベンジルジスルフィドを入れ、120℃に加熱した。反応混合物を240℃にさらに加熱し、1mgKOH/gの酸価に達するまで凝縮水を連続的に留去した。56.38mgKOH/gのヒドロキシル価、0.339mgKOH/gの酸価、及び75℃で849.2mPasの粘度を有するポリエステルポリオールを得た。
【0033】
例4(自己触媒)
温度計、窒素注入口、加熱マントル、蒸留カラム、及び攪拌機を備えた4Lのフラスコに、1887.7gの1,6-ヘキサン二酸(アジピン酸)、452.8gのモノエチレングリコール、657.4gの1,4-ブタンジオール及び250mgのジベンジルジスルフィドを入れ、120℃に加熱した。反応混合物を240℃にさらに加熱し、2mgKOH/gの酸価に達するまで凝縮水を連続的に留去した。52mgKOH/gのヒドロキシル価、1.73mgKOH/gの酸価、及び75℃で889.4mPasの粘度を有するポリエステルポリオールを得た。
【0034】
実施例は、本発明の化合物がポリエステロールの製造における触媒として使用できることを示している。
【0035】
図1は、様々な触媒を用いたポリエステロール合成実験の反応速度データを示す。本発明の硫黄含有化合物の使用はより速い反応をもたらすので、本発明の硫黄含有化合物は、ポリエステロールの製造において触媒活性を有することがわかる。
図1