IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アプライド マテリアルズ インコーポレイテッドの特許一覧

特許7171917静電フィルタおよび静電フィルタを用いてイオンビームを制御するための方法
<>
  • 特許-静電フィルタおよび静電フィルタを用いてイオンビームを制御するための方法 図1
  • 特許-静電フィルタおよび静電フィルタを用いてイオンビームを制御するための方法 図2
  • 特許-静電フィルタおよび静電フィルタを用いてイオンビームを制御するための方法 図3
  • 特許-静電フィルタおよび静電フィルタを用いてイオンビームを制御するための方法 図4
  • 特許-静電フィルタおよび静電フィルタを用いてイオンビームを制御するための方法 図5A
  • 特許-静電フィルタおよび静電フィルタを用いてイオンビームを制御するための方法 図5B
  • 特許-静電フィルタおよび静電フィルタを用いてイオンビームを制御するための方法 図6
  • 特許-静電フィルタおよび静電フィルタを用いてイオンビームを制御するための方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-07
(45)【発行日】2022-11-15
(54)【発明の名称】静電フィルタおよび静電フィルタを用いてイオンビームを制御するための方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/05 20060101AFI20221108BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20221108BHJP
   H01J 49/48 20060101ALI20221108BHJP
【FI】
H01J37/05
H01J37/317 Z
H01J49/48
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021526762
(86)(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-18
(86)【国際出願番号】 US2019059067
(87)【国際公開番号】W WO2020106425
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-07-14
(31)【優先権主張番号】16/197,238
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390040660
【氏名又は名称】アプライド マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS,INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】リハンスキー, アレクサンドル
(72)【発明者】
【氏名】シンクレア, フランク
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ションウー
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-110236(JP,A)
【文献】特開2014-183042(JP,A)
【文献】特表2014-506385(JP,A)
【文献】特表2015-509268(JP,A)
【文献】特開2016-039092(JP,A)
【文献】特表2019-503567(JP,A)
【文献】米国特許第09685298(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0218894(US,A1)
【文献】T. J. Ognibene et al.,Ion-optics calculations of the LLNL AMS system for biochemical 14C measurements,Nuclear Instruments and Methods in Phys. Res. B,NL,Elsevier,2000年11月10日,Vol. 172,pp. 47-51
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/05
H01J 37/317
H01J 49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の電極を備えるメインチャンバと、
前記メインチャンバ内に延びる入口軸を有する入口トンネルと、
前記メインチャンバに接続され、出口軸を画定する出口トンネルであって、前記入口軸および前記出口軸はビーム屈曲を画定し、前記ビーム屈曲は、両者の間で少なくとも30度となり、前記出口トンネルの外側からの見通し線が前記複数の電極と重ならない、出口トンネルと、
を備えるイオン注入装置。
【請求項2】
前記複数の電極は、非対称構成で配置される、請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項3】
前記複数の電極がビーム経路を画定し、第1の電極が前記ビーム経路の第1の側に配置され、少なくとも3つの電極が前記ビーム経路の第2の側に配置される、請求項2に記載のイオン注入装置。
【請求項4】
1つの電極だけが前記ビーム経路の前記第1の側に配置される、請求項3に記載のイオン注入装置。
【請求項5】
前記入口トンネルは、前記メインチャンバの第1の側に沿って配置され、前記出口トンネルは、前記メインチャンバの前記第1の側に隣接した、前記メインチャンバの第2の側に沿って配置される、請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項6】
プラズマフラッドガンをさらに備え、前記プラズマフラッドガンは、前記出口トンネルを含み、前記複数の電極は、前記プラズマフラッドガンの外部からは見えない、請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項7】
前記入口トンネルは、前記メインチャンバの第1の側に沿って前記メインチャンバに入るように配置され、前記出口トンネルは、前記メインチャンバの前記第1の側とは反対側の、前記メインチャンバの第2の側に沿って配置される、請求項1に記載のイオン注入装置。
【請求項8】
イオンビームを生成するためのイオン源と、
前記イオンビームを受け取るように配置された静電フィルタモジュールであって、
複数の電極を備えるメインチャンバ、
入口トンネルであって、第1の方向に沿って前記メインチャンバ内に延びる入口軸を有する入口トンネル、および、
前記メインチャンバに接続され、出口軸を画定する出口トンネルであって、前記入口軸および前記出口軸はビーム屈曲を画定し、前記ビーム屈曲は、両者の間で少なくとも30度となり、前記出口トンネルの外側からの見通し線が前記複数の電極と重ならない、出口トンネル、
を備える、静電フィルタモジュールと、
を備える、イオン注入装置。
【請求項9】
前記複数の電極はビーム経路を画定し、第1の電極は、前記ビーム経路の第1の側に配置され、少なくとも3つの電極は、前記ビーム経路の第2の側に配置される、請求項8に記載のイオン注入装置。
【請求項10】
1つの電極だけが前記ビーム経路の前記第1の側に配置される、請求項9に記載のイオン注入装置。
【請求項11】
前記入口トンネルは、前記メインチャンバの第1の側に沿って配置され、前記出口トンネルは、前記メインチャンバの前記第1の側に隣接した、前記メインチャンバの第2の側に沿って配置される、請求項8に記載のイオン注入装置。
【請求項12】
プラズマフラッドガンをさらに含み、前記プラズマフラッドガンは、前記出口トンネルを含み、前記複数の電極は、前記プラズマフラッドガンの外部からは見えない、請求項8に記載のイオン注入装置。
【請求項13】
前記ビーム屈曲は、40度から90度の間である、請求項8に記載のイオン注入装置。
【請求項14】
非対称構成で配置された複数の電極を備えるメインチャンバと、
第1の方向に沿って前記メインチャンバ内に延びる入口軸を有する入口トンネルと、
出口トンネルを画定し、前記メインチャンバに接続され、出口軸を画定するプラズマフラッドガンであって、前記入口軸および前記出口軸は、両者の間に少なくとも30度のビーム屈曲を画定し、前記出口トンネルの外側からの見通し線が前記複数の電極と重ならない、プラズマフラッドガンと、
を備える、イオン注入装置に用いられる静電フィルタモジュール。
【請求項15】
前記入口トンネルは、前記メインチャンバの第1の側に沿って配置され、前記出口トンネルは、前記メインチャンバの前記第1の側に隣接した、前記メインチャンバの第2の側に沿って配置される、請求項14に記載の静電フィルタモジュール
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[0001] 本開示は概して、基板への注入を行うための装置および技術に関し、より具体的には、イオンビーム用に改良されたエネルギーフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
[0002] イオン注入は、衝突によってドーパントまたは不純物を基板に導入する処理である。半導体製造において、ドーパントは電気的、光学的、または機械的特性を変えるために導入される。
【0003】
[0003] イオン注入システムは、イオン源と一連のビームライン構成要素とを備えうる。イオン源は、所望のイオンが生成されるチャンバを備えうる。イオン源は、チャンバの近くに配置された電源および抽出電極アセンブリも備えうる。ビームライン構成要素は、例えば、質量分析器、第1の加速または減速ステージ、コリメータ、および、第2の加速または減速ステージを含んでもよい。光ビームを操作するための一連の光学レンズと同じように、ビームライン構成要素は、特定の核種、形状、エネルギー、および/または他の性質を有するイオンまたはイオンビームをフィルタにかけ、集束させ、かつ操作することができる。イオンビームは、ビームライン構成要素を通過し、プラテンまたはクランプ上に取り付けられた基板に向かって方向付けられうる。基板は、ロプラットとも称される装置によって、1つまたは複数の次元で動かされうる(例えば、平行移動、回転、および傾斜)。
【0004】
[0004] 多くのイオン注入装置では、下流の静電モジュールは、イオンビームエネルギー、イオンビーム形状、およびイオンビームサイズを制御するための静電レンズとして機能しうる。静電モジュールは、イオンビームの方向を変えながら、最終エネルギーまでイオンビームを加速または減速することができる。イオンビームの方向を変えることによって、エネルギー中性粒子を遮蔽し、その結果、十分に画定されたエネルギーを有する最終的なビームとなる。
【0005】
[0005] 公知の静電モジュールは、例えば、ペアで配置された7つの上下の電極など、複数の電極ペアを採用してもよく、電極はそこを通って進行するイオンビームを抑制して誘導する。電極は、イオンビームから等間隔に離したロッドとして配置されてもよい。ロッド/電極電位は、イオンビームを減速し、偏向させ、イオンビームを集束させるような電場を、静電モジュールに作り出すように設定される。
【0006】
[0006] 静電モジュールの動作中の主な懸念の1つは、イオンビームによって処理される基板上での粒子数を低く維持することである。
【0007】
[0007] 静電モジュールは基板に近接して配置されるため、基板から不用意に排出される材料は、電極の上などの静電モジュール内の表面に不用意に戻ってしまうことがある。反対に、静電モジュールの電極上に蓄積する異物は、静電モジュールからエッチング除去されるか、または剥がれ落ち、基板上に付着することがある。基板上への粒子の蓄積を最小限に抑えるためには、電極を洗浄または交換するため、高価な予防的メンテナンス操作が頻繁に予定されることになる。
【0008】
[0008] これらの留意事項および他の留意事項に関連して、本開示が提供される。
【発明の概要】
【0009】
[0009] 一実施形態では、装置は、複数の電極を備えるメインチャンバを含みうる。装置は、入口トンネルを含んでもよく、入口トンネルは、メインチャンバ内に延びる入口軸を有する。装置は、メインチャンバに接続され、出口軸を画定する出口トンネルを含んでもよく、入口軸および出口軸は、両者の間で少なくとも30度となるビーム屈曲を画定する。
【0010】
[0010] さらなる実施形態では、イオン注入装置は、イオンビームを生成するイオン源と、イオンビームを受け取るように配置された静電フィルタモジュールとを含みうる。静電フィルタモジュールは、複数の電極、並びに第1の方向に沿ってメインチャンバ内に延びる入口軸を有する入口トンネルを備えるメインチャンバを含んでもよい。静電フィルタモジュールは、メインチャンバに接続され、出口軸を画定する出口トンネルを含んでもよく、入口軸および出口軸は、両者の間で少なくとも30度となるビーム屈曲を画定する。
【0011】
[0011] 追加の実施形態では、静電フィルタモジュールは、非対称構成で配置された複数の電極を備えるメインチャンバを含みうる。静電フィルタモジュールは、第1の方向に沿ってメインチャンバ内に延びる入口軸を有する入口トンネルと、出口トンネルを画定するプラズマフラッドガンであって、メインチャンバに接続され、出口軸を画定する、プラズマフラッドガンと含み、入口軸および出口軸は、両者の間に少なくとも30度のビーム屈曲を画定する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示の実施形態による、イオン注入システムを実証する例示的な実施形態を示す。
図2】本開示の例示的な実施形態による、静電フィルタの構造を示す。
図3】本開示の例示的な実施形態による、図2の静電フィルタにおけるイオンおよび中性粒子の軌道を示す。
図4図2の静電フィルタの電極アセンブリおよび出口トンネルの幾何学的形状の一例を示す。
図5A】本開示の実施形態による、静電フィルタを通って運ばれる3keVのリンビームの形状を示す。
図5B図5Aの静電フィルタにおいてイオンビームを生成するために印加される静電ポテンシャルを示す。
図6】本開示の実施形態による、静電フィルタ内の基板から再スパッタリングされた粒子の軌道を示す。
図7】本開示の実施形態による、静電フィルタの電極から放出される負粒子の軌道を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[0020] 図面は、必ずしも縮尺どおりではない。図面は、単なる表現であり、本開示の特定のパラメータを表すことを意図しない。図面は、本開示の例示的な実施形態を示すことを意図しており、したがって、範囲を限定するものと見なされるべきではない。図面では、同様の番号が同様の要素を表す。
【0014】
[0021] ここで、本開示によるシステムおよび方法を、システムおよび方法の実施形態が示された添付の図面を参照しながら、以下でより完全に説明する。システムおよび方法は、多くの異なる形態で具現化されてよく、本明細書に記載される実施形態に限定されるものと見做されない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が一貫した完全なものであり、システムおよび方法の範囲を当業者に完全に伝えるように提供される。
【0015】
[0022] 便宜上および明確にするために、「最上部(top)」、「底部(bottom)」、「上方(upper)」、「下方(lower)」、「垂直方向(vertical)」、「水平方向(horizontal)」、「横方向(lateral)」、および「縦方向(longitudinal)」といった用語は、本明細書では、図に見られるように、これらの構成要素およびこれらを構成する部分の相対的な配置および配向を説明するために使用される。専門用語には、具体的に言及された単語、その派生語、および、同様の重要度の単語が含まれる。
【0016】
[0023] 本明細書で使用されているように、「a」または「an」という単語に続いて、単数形で列挙される要素または動作は、同様に複数の要素または動作を含む可能性があるものとして、理解される。さらに、本開示の「一実施形態(one embodiment)」への言及は、列挙された特徴も組み込む追加的な実施形態の存在を除外するものとして解釈されることを意図しない。
【0017】
[0024] 本明細書で提供されるのは、例えば、静電フィルタとして機能する静電モジュールの動作および信頼性を改善するための手法である。例示的な実施形態では、静電フィルタは、静電モジュールのメインチャンバ内の電極アセンブリの新しい配置を含む新しいアーキテクチャを有することが開示される。
【0018】
[0025] ここで図1を参照すると、システム10を示す例示的な実施形態が示されており、システム10は、本開示によるイオン注入のために使用されてもよい。システム10は、他の構成要素のうち、リボンビームまたはスポットビームなどのイオンビーム18を生成するためのイオン源14と、一連のビームライン構成要素とを含む。イオン源14は、イオンを生成するため、ガス流24を受け取るためのチャンバを備えてもよい。イオン源14はまた、上記チャンバの近くに配置された電源および抽出電極アセンブリ(extraction electrode assembly)を備えてもよい。イオン源14から静電フィルタ40に延びるビームラインは、上流ビームライン12とみなすことができる。いくつかの非限定的な実施形態では、上流ビームラインのビームライン構成要素16は、例えば、質量分析器34、第1の加速または減速ステージ36、および静電フィルタ40の上流に配置されたコリメータ38を含むことができ、この静電フィルタは、イオンビーム18を減速および/または加速することができる。
【0019】
[0026] 例示的な実施形態では、ビームライン構成要素16は、イオンまたはイオンビーム18をフィルタ処理し、集束させ、操作して、これらが所望の核種、形状、エネルギー、および/または他の性質を有するようにすることができる。ビームライン構成要素16を通過するイオンビーム18は、処理チャンバ46内のプラテンまたはクランプ上に取り付けられた基板15に向けることができる。基板は、1つまたは複数の次元で動かされうる(例えば、平行移動、回転、および傾斜)。
【0020】
[0027] 静電フィルタ40は、イオンビーム18の偏向、減速、および焦点を独立して制御するよう構成されたビームライン構成要素である。一実施形態では、静電フィルタ40は、垂直静電エネルギーフィルタ(VEEF)または静電フィルタ(EF)である。以下でより詳細に説明するように、静電フィルタ40は、少なくとも1つの電極構成を画定する電極アセンブリとして配置されてもよい。電極構成は、静電フィルタ40を通してイオンビーム18を処理するために、ビームラインに沿って直列に配置された複数の電極を含んでもよい。いくつかの実施形態では、静電フィルタは、イオンビーム18の上方に配置された一組の上方電極と、イオンビーム18の下方に配置された一組の下方電極と、を含みうる。上方電極の組と下方電極の組との間の電位差はまた、中心光線軌道(CRT;central ray trajectory)に沿った様々な点でイオンビームを偏向させるため、中心イオンビーム軌道に沿って変更可能である。システム10はさらに、電極電圧アセンブリ50として示された電極電圧源、並びに静電フィルタ40に連結された入口トンネル52を含んでもよく、静電フィルタ40に関する入口トンネルの構成は後述される。以下の実施形態において開示されるように、入口トンネル52は、静電フィルタ40の一部を形成してよく、入口トンネルおよび静電フィルタ40内の電極は、システム10の動作を改善するために、新しい構成で配置される。
【0021】
[0028] 図2を参照すると、静電フィルタ40の1つの変形例の構造が示されている。図2には、静電フィルタ40、電極電圧アセンブリ50、および入口トンネル52の側断面図が示されている。図示したように、静電フィルタ40は、静電フィルタ40の上方に延び、部分的に取り囲むメインチャンバ102を含み、入口開孔54および出口開孔56は、そこを通ってイオンビーム18を導くようになっている。静電フィルタ40は、電極110、電極112、電極114、および電極116を含む、電極アセンブリ108を含む。図2に示すように、複数の電極は、非対称構成で配置され、複数の電極は、図3に示すビーム経路57を画定する。第1の電極である電極116は、ビーム経路57の第1の側に配置され、少なくとも3つの電極は、ビーム経路57の第2の側に配置されており、電極110、電極112、および電極114を意味している。また、図3には、中立軌道(neutral trajectory)58が示されており、静電フィルタ40によって捕捉されるエネルギー中性粒子の可能な経路が示されている。他の実施形態では、ビーム経路57の第2の側に、2つだけの電極が配置されてもよい。
【0022】
[0029] 図2にさらに示されるように、入口トンネル52は、第1の方向に沿ってメインチャンバ102内に延びる入口軸60を特徴とすることができる。図2には、出口トンネル124も示されており、出口トンネル124は、出口軸62を画定し、入口軸60と出口軸62は、両者の間に少なくとも30度のビーム屈曲を画定する。ビーム屈曲は、図2に角度βとして示されている。いくつかの実施形態では、ビーム屈曲は30度の小さな値であってよく、他の実施形態では、ビーム屈曲は40度から90度の間であってもよい。
【0023】
[0030] 図3に示すように、電極アセンブリ108の複数の電極は、例えば、イオンビーム18の平均伝播方向、またはイオンビーム18の中心光線軌道の位置を表すビーム経路57を画定することができる。動作時に、決定された電圧の組を電極アセンブリ108の異なる電極に印加して、イオンビーム18をビーム経路57に追従させる方法でイオンビーム18を減速、偏向、および集束させることができる。このように、電極116を意味する第1の電極は、ビーム経路57の第1の側に配置され、ビーム経路57の左側および下側を意味する。少なくとも3つの電極などの他の電極は、ビーム経路57の第2の側に、すなわちビーム経路57の上方および右側に配置される。図3に示されているように、いくつかの実施形態では、1つの電極だけがビーム経路57の第1の側に配置され、非対称構成で、少なくとも3つの電極が第2の側に配置されてもよい。
【0024】
[0031] 図3にさらに示されているように、ビーム経路57は、入口開孔54において入口軸60とほぼ平行に位置してもよく、また、出口開孔56、イオンビーム18(分かりやすくするために、イオンビーム18のほんの一部が図2に示されている)において出口軸62とほぼ平行に位置してもよい。したがって、イオンビーム18は、図2の静電フィルタ40によって画定される、ビーム屈曲に対応する角度を介して偏向されてもよい。このビーム屈曲は30度以上になりうるため、イオンビーム18と同じかまたは同様のエネルギーで静電フィルタ40に入るエネルギー中性粒子は、静電フィルタ40の壁によって容易に捕捉されうる。エネルギー中性粒子は、イオンビーム18がビーム経路57に追従するように電極アセンブリ108に印加される電圧によって偏向されず、したがって、出口トンネル124を通るように逸らされることはない。
【0025】
[0032] 動作時に、電極アセンブリ108は、電極電圧アセンブリ50から異なる電圧を受け取るように連結されてもよい。一例として、電極110および電極116は、メインチャンバ102の電極のうち最も高い負電位が電極110および電極116に印加されて電子を抑制する抑制電極として機能してもよい。また、これらの抑制電極に印加される正確な電圧は、イオンビームを集束させ、イオンビーム18の偏向を開始させるように作用しうる。電極112および電極114などの追加の電極は、出口トンネル124へのイオンビームの偏向を継続してもよく、イオンビームを減速してもよい。加えて、メインチャンバ102は、以下に詳述するように、静電フィルタ40内の静電場を形成し、基板126からスパッタリングされた材料を収集するために、チャンバ壁120を含む。
【0026】
[0033] 特に、出口トンネル124は、電極アセンブリ108にスパッタ堆積から遮蔽を提供するとともに、基板126に注入する前に出てくるイオンビームを中和するために接地されてもよい。さらに、出口トンネル124は、後に続く図に関してさらに説明されるように、電極アセンブリ108の給電電極からの粒子軌道が基板126に到達するのを遮蔽してもよい。
【0027】
[0034] 図2および図3にも示すように、静電フィルタ40は、プラズマフラッドガン122を含むことができ、または静電フィルタモジュールの一部としてプラズマフラッドガン122に当接することができ、プラズマフラッドガン122は、イオンビーム18に電子を供給するために使用される。プラズマフラッドガン122は、既知のプラズマフラッドガンの原理に従って動作するように構成することができる。プラズマフラッドガン122は、図示のように出口トンネル124を含んでもよく、イオンビーム18はプラズマフラッドガン122を出て、出口トンネル124から現れ、基板126に伝播する。
【0028】
[0035] 本開示の実施形態によれば、メインチャンバ102内の電極は、出口トンネル124を含むプラズマフラッドガン122と共に、電極がプラズマフラッドガン122の外側から見えないように配置されてもよい。この特徴は、見通し線軌道(line of sight trajectory)128が示されている図4にさらに図解されている。見通し線軌道128は、出口トンネル124を通る最も急峻な角度を有し、したがって、電極アセンブリ108に最も接近して移動する軌道であると考えることができる。このように、プラズマフラッドガン122の外部からの他の見通し線軌道は、電極アセンブリ108からさらに離れたところで、より水平な軌道でメインチャンバ102内に突出してもよい。したがって、プラズマフラッドガン122の外部からの見通し線軌道は、電極アセンブリ108に当たらない。
【0029】
[0036] この幾何学的形状は、直線軌道に沿って基板126から放出されるスパッタ粒子が、電極アセンブリ108の電極に当たって堆積しないようにスクリーニングされ得るという点で、図2図4の実施形態の際立った特徴を強調している。
【0030】
[0037] 図2にさらに示されるように、入口トンネル52は、メインチャンバ102の第1の側に沿ってメインチャンバ102に入るように配置され、出口トンネル124は、メインチャンバ102の第1の側に隣接した、メインチャンバ102の第2の側に沿って配置される。この構成は、電極が全て出口トンネル124の片側に配置されうるので、基板126から放出される物質から電極アセンブリ108の電極を保護するために有利でありうる。しかしながら、他の実施形態では、出口トンネル124は、入口トンネル52がメインチャンバ102に入るメインチャンバの第1の側とは反対の、メインチャンバ102の第2の側に沿って配置されてもよい。
【0031】
[0038] 次に図5Aを参照すると、本開示の実施形態に従って、静電フィルタ140を通って運ばれる際の、3keVリン(P+)イオンビームの形状、位置、および軌道のシミュレーションが断面図で示されている。静電フィルタ140は、上述した静電フィルタ40の変形を表しうる。図5Bは、図5Aの静電フィルタにおいてイオンビームを生成するために印加される静電電位を示す図である。図示したこのシミュレーションでは、イオンビーム118は、入口トンネル52から偏向されて出口トンネル124内に移動する。次の電位(電圧)が、電極アセンブリの電極に印加される。電極110および電極16上で~50kV、電極112上で~30kV、および電極114上で~10kVである。特に、この実施形態および他の実施形態では、チャンバ壁120(メインチャンバ102の内部に配置される)を含む様々な表面は、接地電位で連結される。例えば、出口トンネル124の壁は接地されてもよい。したがって、電極アセンブリ108およびチャンバ壁120および出口開孔56の電位は、図示のように、イオンビーム118を誘導しうる。この構成では、リンビームは、基板126に当たる前に、約50度のビーム屈曲を介して運ばれる。図示したシミュレーションでは、約65mAの電流が基板126に送られる。
【0032】
[0039] 図6は、本開示の実施形態による、静電フィルタ140内で基板126から再スパッタリングされる粒子の軌道を示している。図6のシミュレーションは、基板126から放出されるスパッタリングされた材料の分布を示す。スパッタリングされた材料は、基板126に最初に配置された材料を表し、基板126にイオンを注入するために使用される入射イオンビームは、基板126の表面上またはその近傍に位置するある量の材料を再スパッタリングしうる。図6のシミュレーションは、プラズマフラッドガン122と基板12との間に配置された下流領域129の至る所に再スパッタリングされた材料が存在することを示している。加えて、プラズマフラッドガン122によって画定される出口トンネル124は、再スパッタリングされた粒子で充満し、粒子が基板126から静電フィルタ40のメインチャンバ102に向かって戻ることを示している。
【0033】
[0040] 図6にさらに示されるように、再スパッタリングした粒子のシミュレーションは、メインチャンバ102内に高密度のプルームを形成し、出口トンネル124と並んである程度より高密度な部分を有する。プルームの密度の低い部分は、メインチャンバ102内に上方に広がる。次いで、スパッタリングされた粒子のプルームは、メインチャンバ102の(接地された)チャンバ壁120の様々な位置に付着しうる。このシミュレーションでは、再スパッタリングされた粒子が電極アセンブリ108の電極上に付着することはほとんどないか、全くない。したがって、図6の構成は、電極アセンブリ108の電極上に、少なくとも基板126からの直接の再スパッタリングによって、再スパッタリングされた材料が蓄積する可能性は低い。
【0034】
[0041] 次に図7を参照すると、図6の静電フィルタ140の変形例のさらなるシミュレーションが示されている。具体的には、図7は、電極アセンブリ108の電極から離れる負に帯電した粒子の軌道を示す。負に帯電した粒子の軌道は、所定の電極から離れる傾向があり、異なる電極に印加される個々の電圧に応じて複雑なパターンを形成する。注目すべきことに、いずれの負に帯電した粒子軌道も、電極アセンブリ108の電極の位置に関する出口トンネル124の幾何学的形状によってもたらされる遮蔽のために、基板126には至らない。
【0035】
[0042] 様々な実施形態に従って、電極アセンブリ108の電極は、示されるデカルト座標系のX軸に沿って引き延ばされてもよい。したがって、電極は、X軸に沿って引き延ばされた断面を有するリボンビームを制御するのに有用となることがあり、リボンビームは、X軸に沿って幅が数十センチメートルであってよく、数センチメートル程度の高さを有してもよい。実施形態は、この状況に限定されない。
【0036】
[0043] ビーム経路の片側に1つの電極が配置され、ビーム経路の反対側に3つの電極が配置される、図2図7の電極の具体的な構成は、低~中程度の最終イオンビームエネルギーのイオンビームを処理するために特に適切となりうる。例えば、これらの構成は、50keV未満の動作に適していてもよく、比較的低い電圧および静電応力が電極上に存在してもよく、イオンビームを減速および誘導するために、より少ない電極(例えば、3つの電極だけ)を使用することができる。このより少ない数の電極は、よりコンパクトなメインチャンバ設計を可能にし、再スパッタリングされる基板材料から、また逆に、基板に衝突しうる望ましくない負に帯電した粒子の生成から、電極を「隠す」という点で、なお有効である。
【0037】
[0044] さらに、上記の実施形態は、ビーム経路の一方の側に3つの電極を有する構成を示すが、他の構成では、4つの電極、5つの電極、またはそれ以上をビーム経路の一方の側に配置することができる。加えて、上記の実施形態は、ビーム経路の反対側に1つだけの電極を示しているが、他の実施形態では、複数の電極がビーム経路の反対側に配置されてもよい。
【0038】
[0045] また、電極が60度、70度、80度、または90度などのより急角度のビーム屈曲、あるいは30度などのより緩やかなビーム屈曲を画定するように配置される構成が可能である。これらの他の構成では、メインチャンバの形状、電極の位置、および出口トンネルの位置の配置は、基板から再スパッタリングされた粒子が電極に衝突するのを防止または大幅に低減し、負に帯電した粒子が電極から出て基板に衝突するのを防止または低減するようなものとすることができる。
【0039】
[0046] 上記に鑑みて、本明細書に開示される実施形態によって、少なくとも以下の利点が達成される。本実施形態は、フィルタ電極に発生した負に帯電した粒子が基板に衝突する能力を排除することによって、静電フィルタからの基板の直接汚染が低減されるという第1の利点を提供する。さらに、本実施形態によって提供される別の利点は、静電フィルタの電極上の基板から再スパッタリングされた材料の蓄積によって生じる間接的な基板汚染、さらなる汚染源が電極からのその後のスパッタリングまたはフレーキングに対して引き起こす間接的な基板汚染の排除である。
【0040】
[0047] 本開示の範囲は、本明細書に記載した具体的な実施形態に限定されるものではない。実際、本明細書に記載されたものに加えて、本開示に対する他の様々な実施形態および修正は、前述の説明および添付の図面から当業者には明らかであろう。このため、そのような上記以外の実施形態および変形例は、本開示の範囲に含まれるものである。さらに、本明細書では、本開示を、特定の目的のための特定の環境における特定の実装の状況で説明したが、当業者は、有用性がそれに限定されず、本開示は、任意の数の目的のために任意の数の環境において有益に実装されうることを認識するであろう。したがって、以下に記載される特許請求の範囲は、本明細書に記載される本開示のすべての範囲および主旨を考慮して解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7