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特許7172020ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/025 20160101AFI20221109BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C08G75/025
C08L81/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2017051232
(22)【出願日】2017-03-16
(65)【公開番号】P2018154692
(43)【公開日】2018-10-04
【審査請求日】2020-01-27
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】茨木 拓
(72)【発明者】
【氏名】角木 将哉
(72)【発明者】
【氏名】井上 敏
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 英樹
(72)【発明者】
【氏名】古沢 高志
【審査官】前田 孝泰
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-180928(JP,A)
【文献】特開平10-298431(JP,A)
【文献】特開2013-227366(JP,A)
【文献】特開平04-145127(JP,A)
【文献】特開2018-154691(JP,A)
【文献】特開2015-214654(JP,A)
【文献】特開2014-024947(JP,A)
【文献】国際公開第2010/058713(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/152032(WO,A1)
【文献】特開2004-244619(JP,A)
【文献】国際公開第2008/020554(WO,A1)
【文献】特開2005-054181(JP,A)
【文献】国際公開第2017/057733(WO,A1)
【文献】特開2013-112783(JP,A)
【文献】特開2014-024981(JP,A)
【文献】特開2014-024983(JP,A)
【文献】特開2008-248154(JP,A)
【文献】特開2009-185143(JP,A)
【文献】特開2013-181043(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 75/00- 75/32
C08G 85/00
C08L 1/00-101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族系環状化合物の存在下で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを反応させるポリアリーレンスルフィドの製造方法であって、
不活性ガス存在下で、脂肪族系環状化合物、水およびスルフィド化剤を、スルフィド化剤の硫黄原子の合計1モルに対して、脂肪族環状化合物1.5~4.0モルの範囲の割合で200℃以上の範囲に加熱して、脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩を前記硫黄原子の合計1モルに対して、0.05~0.6モルの範囲で含む反応液を得る工程(1)、
工程(1)で得られた反応液を、150℃以上かつ200℃未満の範囲に冷却する工程(2)
工程(2)を経て得られた反応液に、ポリハロ芳香族化合物を加えること、および200℃以上かつ300℃以下の範囲に加熱することにより、重合反応させる工程(3)、を有すること、
工程(1)においてスルフィド化剤中の水分量が、硫黄原子の合計1モルに対して、0~0.55モルの範囲の割合であること、
工程(1)において、密閉系で加熱し反応させること、
工程(2)が、密閉系で反応させること、
前記脂肪族環状化合物が脂肪族環状アミド化合物であることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項2】
工程(1)における反応液の加熱後の温度と、工程(2)における反応液の冷却後の温度との温度差が、50~80℃の範囲であり、かつ、工程(2)における反応液の冷却後の温度が180℃以上199℃以下の範囲である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
工程(1)~(3)は、いずれも密閉された反応容器内で行われ、かつ同一の反応容器内で行われる、請求項1記載のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記請求項1~3の何れか一項に記載の製造方法によりポリアリーレンスルフィド樹脂を得る工程、この工程で得られたポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー及び硬化性樹脂からなる群より選ばれる、少なくとも1種の他の成分と、を溶融混練する工程を含む、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
前記請求項4の製造方法によりポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を得る工程、この
工程で得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形する工程を含む、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(以下、これを「PPS樹脂」と略記する。)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(以下、これを「PAS樹脂」と略記する。)は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。
【0003】
PAS樹脂の代表的な製造方法として、N-メチル-2-ピロリドン等の有機アミド溶媒中で、アルカリ金属硫化物とジハロ芳香族化合物とを反応させる、いわゆるフィリップス法と呼ばれる重合方法が一般的に知られており、このうち、原料に95重量%以上の高純度アルカリ金属硫化物を使用することにより、生産性良く、高分子量のPAS樹脂を製造する方法が知られている(特許文献1参照)。しかし該方法は、反応を進行させる為に、アルカリ金属硫化物1モル当り0.1~0.8モルの水を添加するものの、添加した水は重合反応中に副反応を引き起こし、高分子量化には限界があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-145127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明が解決しようとする課題は、重合反応中の副反応を抑制し副成分が少なく、かつ、高分子量ポリアリーレンスルフィド樹脂を生産性良く製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、高分子量ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造には、ポリハロ芳香族化合物の不存在下で、脂肪族系環状化合物、水、スルフィド化剤を加熱して得られる脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩(SMAB)の割合が重要であること、このためにはポリハロ芳香族化合物の不存在下で、脂肪族系環状化合物、水、スルフィド化剤を高温で加熱してスルフィド化剤中に存在する結晶水を遊離させることが重要であること、ポリハロ芳香族化合物を脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩(SMAB)形成の後に添加することで水の副反応を抑制することが重要であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、脂肪族系環状化合物の存在下で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを反応させるポリアリーレンスルフィドの製造方法であって、
不活性ガス存在下で、脂肪族系環状化合物、水およびスルフィド化剤を、スルフィド化剤の硫黄原子の合計1モルに対して、脂肪族環状化合物1.5~4.0モルの範囲の割合で200℃以上の範囲に加熱して、脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩を前記硫黄原子の合計1モルに対して、0.05~0.6モルの範囲で含む反応液を得る工程(1)、
工程(1)で得られた反応液を、150℃以上かつ200℃未満の範囲に冷却する工程(2)
工程(2)を経て得られた反応液に、ポリハロ芳香族化合物を加えること、および200℃以上かつ300℃以下の範囲に加熱することにより、重合反応させる工程(3)、
を有することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法、に関する。
【0008】
また、本発明は、前記に記載の製造方法で得られたポリアリーレンスルフィド樹脂と、無機質充填剤、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂以外の熱可塑性樹脂、エラストマー及び硬化性樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1つとを溶融混練する工程を含む、ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物の製造方法、に関する。
【0009】
また、本発明は、前記の製造方法で得られたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形する工程を含む、ポリアリーレンスルフィド樹脂成形品の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、重合反応中の副反応を抑制し副成分が少なく、かつ、高分子量ポリアリーレンスルフィド樹脂を生産性良く製造する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のポリアリーレンスルフィドの製造方法は、脂肪族系環状化合物の存在下で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを反応させるポリアリーレンスルフィドの製造方法であって、
不活性ガス存在下で、脂肪族系環状化合物、水およびスルフィド化剤を、スルフィド化剤の硫黄原子の合計1モルに対して、脂肪族環状化合物1.5~4.0モルの範囲の割合で200℃以上の範囲に加熱して、脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩を前記硫黄原子の合計1モルに対して、0.05~0.6モルの範囲で含む反応液を得る工程(1)、
工程(1)で得られた反応液を、150℃以上かつ200℃未満の範囲に冷却する工程(2)
工程(2)を経て得られた反応液に、ポリハロ芳香族化合物を加えること、および200℃以上かつ300℃以下の範囲に加熱することにより、重合反応させる工程(3)、
を有することを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法を有することを特徴とする。
【0012】
・工程(1)
本発明の製造方法は、不活性ガス存在下で、脂肪族系環状化合物、水およびスルフィド化剤を、スルフィド化剤の硫黄原子の合計1モルに対して、脂肪族環状化合物1.5~4.0モルの範囲の割合で200℃以上の範囲に加熱して、脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩(以下、SMABということがある)を前記硫黄原子の合計1モルに対して、0.05~0.6モルの範囲で含む反応液を得る工程(1)を有する。
【0013】
工程(1)は、まず、脂肪族系環状化合物、水およびスルフィド化剤を必須の原料成分として反応器に仕込み、混合する。スルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物が挙げられるが、このうち、SMABが効率よく生成する観点からアルカリ金属硫化物およびアルカリ金属水硫化物を用いることが好ましい。アルカリ金属硫化物およびアルカリ金属水硫化物を併用する場合は、アルカリ金属硫化物およびアルカリ金属水硫化物の合計に対して、アルカリ金属硫化物が80~99.9質量%の範囲、好ましくは90~99質量%および残部がアルカリ金属水硫化物とする割合で用いることが好ましい。工程(1)において不活性ガスの導入は、原料成分の仕込み時でもよいし、後述する加熱時でもよい。
【0014】
その際、該脂肪族環状化合物の仕込み量は、スルフィド化剤の硫黄原子の合計1モルに対して、1.5~4.0モルの範囲の割合であることが好ましく、さらに、生産性を更に高める観点から、2.0~3.5モルの範囲がより好ましい。
【0015】
また、水の仕込み量は、工程(1)で得られた反応液がSMABを前記硫黄原子の合計1モルに対して、0.05~0.6モルの範囲、好ましくは0.1~0.3モルの範囲で生成できるのであれば特に制限されないが、例えば、工程(1)における反応系内の全水分量がスルフィド化剤の硫黄原子の合計1モルに対して、好ましくは0.05~0.6モルの範囲、さらに好ましくは0.1~0.3の範囲となるよう、原料中に(例えばスルフィド化剤中に結晶水等として)含まれる水分量(本発明において「スルフィド化剤中の水分量」ということがある)を差し引いた上で水を仕込み時に添加することが好ましい。
【0016】
工程(1)において、反応器に仕込んだ、脂肪族系環状化合物、水およびスルフィド化剤を必須の原料成分として含む混合物は、次に、不活性ガス存在下に、加熱する。加熱条件は特に限定されるものではないが、仕込み時の反応系内の全水分量が上記範囲を超える場合には、当該範囲となるよう蒸留等設備を反応容器に附設し、大気圧下ないし減圧下で加熱し反応させることができる。しかしながら、仕込み時の反応系内の全水分量が上記範囲内の場合には、密閉系で加熱し反応させることが生産性を向上させる観点からより好ましい。温度条件としては、200℃以上の範囲となるよう加熱する。工程1は重合反応を伴わないため、ポリアリーレンスルフィド樹脂の融点や分解温度等を考慮する必要がなく、温度条件の上限値は特に設定する必要はないが、生産性、すなわち反応装置の接液部の腐食性や設計強度を確保する観点から300℃以下の範囲であることが好ましい。なお、不活性ガスとしては、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどが挙げられる。
【0017】
ここで、本発明で用いる脂肪族系環状化合物としては、加水分解によって開環し得るものであれば公知のものを特に限定されることなく用いることができるが、このような脂肪族系環状化合物の具体例としてはN-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略記する。)、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、2-ピロリドン、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチル尿素、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などの脂肪族環状アミド化合物、アミド尿素、及びラクタム類が挙げられる。これらの中でも反応性が良好である点から脂肪族環状アミド化合物、特にNMPが好ましい。
【0018】
本発明で用いるアルカリ金属硫化物の具体例としては、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウムまたは硫化セシウム等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これらアルカリ金属硫化物の中では硫化ナトリウムと硫化カリウムが好ましく、特に硫化ナトリウムが好ましい。また、これらのアルカリ金属硫化物は無水物であってもよいし、結晶水を含む、いわゆる水和物等であってもよい。また、アルカリ金属硫化物を、アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物とを反応させることによっても得られるが、反応系外で事前に調製されたものを用いてもかまわない。アルカリ金属水酸化物の具体例としては、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウムが挙げられる。これらの中でも特に水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。アルカリ金属水酸化物は、水溶液として用いることが好ましく、その濃度は10~50質量%となる範囲が好ましい。
【0019】
本発明で用いるアルカリ金属水硫化物の具体例としては、例えば水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウムまたは水硫化セシウム等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。これらアルカリ金属水硫化物の中では水硫化ナトリウムと水硫化カリウムが好ましく、特に水硫化ナトリウムが好ましい。また、アルカリ金属水硫化物を、硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させることによっても得られるが、反応系外で事前に調製されたものを用いてもかまわない。
【0020】
工程(1)において原料として用いる前記スルフィド化剤は、スルフィド化剤中の水分量が、硫黄原子の合計1モルに対して、0モル(無水物)~0.55モルの範囲の割合であるものを用いることが好ましく、さらに0.01~0.29モルの範囲であるものを用いることがより好ましい。スルフィド化剤中の水分量が当該範囲のものを用いることで重合時の副反応を抑えつつ、かつ、PAS樹脂の高分子量化が可能となる観点から好ましいだけでなく、さらに、工程(1)においてSMAB生成量を水の仕込み量によって調整することが可能となり、蒸留操作が不要となる結果、重合反応容器の占有時間も省ける等、生産性が向上する観点からも好ましい。なお、工程(1)において原料として用いるスルフィド化剤が、スルフィド化剤中に上記範囲を超える水分量を含む場合には、重合反応に用いる反応容器以外(反応系外)で事前に上記範囲内に水分量を調整した後に用いることが好ましい。また、アルカリ金属硫化物として固形状のものを用いる場合は、粒子径(顕微鏡法による円相当径による少なくとも50点の数平均粒子径)が10~800μmの範囲である固形状のものを用いることがより好ましく、粒子径が50~500μmの範囲である固形状のものを用いることが特に好ましい。ただし、アルカリ金属硫化物は潮解性を有するため、前記粒子同士が部分的に結合していてもよい。
【0021】
このように工程(1)は、重合反応工程に先駆けて、予めポリハロ芳香族化合物の不存在下で、スルフィド化剤、特にアルカリ金属硫化物と脂肪族系環状化合物と水とアルカリ金属水硫化物を200℃以上の温度範囲で加熱処理することで、スルフィド化剤中に結晶水がある場合には遊離が促進され、重合工程で副反応を引起す原因である系内の水分が効率的に、重合促進作用を示すと考えられる脂肪族系環状化合物の加水分解物に変換され、その結果、重合時の副反応を抑えつつ、かつ、PAS樹脂の高分子量化促進が可能となったと考えられる。
【0022】
・工程(2)
工程(1)で得られた反応液を冷却する。その際、反応液の温度範囲としては、SMABが効率よく生成し、かつ安定性して存在する観点から150℃~200℃未満の範囲、好ましくは180℃以上199℃以下の範囲である。工程(1)における反応液の加熱後の温度と、工程(2)における反応液の冷却後の温度との温度差は、特に限定されるものではないが、生産性の観点から50~80℃の範囲であることが好ましい。冷却条件は開放系、密閉系のいずれであってもよく、特に限定されるものではないが、密閉系で反応させることが生産性を向上させる観点から好ましい。
【0023】
・工程(3)
工程(3)は、工程(2)を経て得られた反応液に、ポリハロ芳香族化合物を加えること、および200℃以上かつ300℃以下の範囲に加熱することにより、重合反応させる工程である。
【0024】
本発明で用いるポリハロ芳香族化合物の具体例としては、例えば、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18のアルキル基を核置換基として有する化合物が挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0025】
前記ポリハロ芳香族化合物の中でも、本発明では線状高分子量PAS樹脂を効率的に製造できることを特徴とする点から、2官能性のジハロ芳香族化合物が好ましく、とりわけ最終的に得られるPAS樹脂の機械的強度や成形性が良好となる点からp-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン及び4,4’-ジクロロジフェニルスルホンが好ましく、特にp-ジクロロベンゼンが好ましい。また、線状PAS樹脂のポリマー構造の一部に分岐構造を持たせたい場合には、上記ジハロ芳香族化合物と共に、1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、又は1,3,5-トリハロベンゼンを一部併用することが好ましい。
【0026】
その他、ポリハロ芳香族化合物の適当な選択組合せによって2種以上の異なる反応単位を含む共重合体を得ることもでき、例えば、p-ジクロルベンゼンと、4,4’-ジクロルベンゾフェノン又は4,4’-ジクロルジフェニルスルホンとを組み合わせて使用することが耐熱性に優れたポリアリーレンスルフィドが得られるので特に好ましい。
ポリハロ芳香族化合物の仕込み量は、特に限定されないが、仕込み量がそのまま重合反応に供されるため、生産性ないし経済性から、工程(1)で用いるスルフィド化剤の仕込み量の硫黄原子の合計1モルに対して0.8~1.2モルの割合で用いることが好ましく、等モルの割合であることがより好ましい。工程(2)を経て得られた反応液へのポリハロ芳香族化合物の添加方法としては、仕込みに必要な量を一括して添加する方法や、2回以上に分割して添加する方法、さらには、連続して滴下する方法のいずれであってもよい。
【0027】
この工程(3)では、リチウム塩化合物を反応系内に加え、リチウムイオンの存在下で反応を行ってもよい。ここで使用できるリチウム塩化合物の具体例としては、例えば、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、硫酸リチウム、硫酸水素リチウム、リン酸リチウム、リン酸水素リチウム、リン酸二水素リチウム、亜硝酸リチウム、亜硫酸リチウム、塩素酸リチウム、クロム酸リチウム、モリブデン酸リチウム、ギ酸リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、マロン酸リチウム、プロピオン酸リチウム、酪酸リチウム、イソ酪酸リチウム、マレイン酸リチウム、フマル酸リチウム、ブタン二酸リチウム、吉草酸リチウム、ヘキサン酸リチウム、オクタン酸リチウム、酒石酸リチウム、ステアリン酸リチウム、オレイン酸リチウム、安息香酸リチウム、フタル酸リチウム、ベンゼンスルホン酸リチウム、p-トルエンスルホン酸リチウム、硫化リチウム、水硫化リチウム、水酸化リチウム等の無機リチウム塩化合物;リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムポロポキシド、リチウムイソプロポキシド、リチウムブトキシド、リチウムフェノキシド等の有機リチウム塩化合物が挙げられる。これらの中でも塩化リチウムと酢酸リチウムが好ましく、特に塩化リチウムが好ましい。また、上記リチウム塩化合物は無水物又は含水物又は水溶液として用いることができる。工程(3)でリチウム塩化合物を反応系内に加え、リチウムイオンの存在下で反応を行う場合、その使用量は、工程(1)で用いたスルフィド化剤の硫黄原子の合計1モルに対し、好ましくは0.01モル以上0.9モル未満の範囲となる割合で用いることがポリアリーレンスルフィド樹脂をより高分子量化できるため好ましい。
【0028】
工程(3)の反応条件は重合可能な温度範囲であれば特に制限されるものではないが、重合反応が容易に進行し得る温度、すなわち200℃以上かつ300℃以下の範囲、好ましくは210℃以上かつ280℃以下の範囲、更に好ましくは215℃以上かつ250℃以下の範囲にて、反応させることが好ましい。工程(3)における反応液の加熱と、ポリハロ芳香族化合物の添加のタイミングは特に限定されず、ポリハロ芳香族化合物を加えてから加熱してもよいし、加熱してからポリハロ芳香族化合物を加えてもよいし、加熱しながらポリハロ芳香族化合物を加えてもよい。
【0029】
本発明の製造方法において工程(3)における重合開始時における水分量は少いほどよく、例えば、前記硫黄原子合計1モルあたり検出限界~0.08モルの範囲であることが好ましい。更に好ましくは検出限界~0.05モルの範囲であることが好ましい。重合反応が進むにつれて水が生成されるため、工程(3)の重合反応終了時に前記硫黄原子合計1モルあたり0.1~0.3モルの水が生成されることが好ましく、さらに、ポリハロ芳香族化合物の転化率が80モル%を越えた時点以降、より好ましくは60モル%を越えた時点以降、さらに好ましくは重合開始直後から上記範囲を満たしていることが好ましい。
【0030】
ここで、ポリハロ芳香族化合物の転化率とは、次の式で表されるものである。
転化率(%)=(仕込み量-残存量)/仕込み量×100
ただし、「仕込み量」は反応系内に仕込んだポリハロ芳香族化合物の質量を表し、また「残存量」は反応系内に残存するポリハロ芳香族化合物の質量を表すものとする。
【0031】
・後処理工程
重合反応により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応混合物は後処理工程を施すことができる。後処理工程としては、公知の方法であればよく、特に制限されるものではないが、例えば、重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸または塩基を加えた後、減圧下または常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過および乾燥する方法、或いは、重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、且つ少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂に対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、ポリアリーレンスルフィド樹脂や無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回または2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過および乾燥をする方法等が挙げられる。
なお、上記に例示したような後処理方法において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中あるいは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0032】
この様にして得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、そのまま各種成形材料等に利用可能であるが、空気あるいは酸素富化空気中あるいは減圧条件下で熱処理を行い、酸化架橋させてもよい。この熱処理の温度は、目標とする架橋処理時間や処理する雰囲気によっても異なるものの、180℃~270℃の範囲であることが好ましい。また、前記熱処理は押出機等を用いてポリアリーレンスルフィド樹脂の融点以上で、ポリアリーレンスルフィド樹脂を溶融した状態で行ってもよいが、ポリアリーレンスルフィド樹脂の熱劣化の可能性が高まるため、融点プラス100℃以下で行うことが好ましい。
【0033】
・製造装置
本発明のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法において上記の各工程で用いる反応用装置は、原料、反応液または反応後に得られる生成物との接触部が、チタン、ジルコニウム、ニッケル合金で構成されているものを用いることが好ましい。
【0034】
前記反応用装置としては、内部に撹拌翼を具備するバッチ式反応容器(反応釜)、及び、連続式反応容器などの反応容器(重合ライン)、撹拌翼、邪魔板などが挙げられる。
【0035】
例えば、バッチ式反応容器は、該反応容器内部に反応液または粗反応混合物を保持し得る容器であればよく、例えば、上部蓋部、胴部、及び底部分から構成され、かつ、必要に応じて密閉可能な構造を有するものが挙げられ、内部に攪拌翼、撹拌翼に動力を伝える軸、邪魔板(バッフル)、温度制御用蛇管を有する構造のものが攪拌効率に優れる点から好ましい。ここで、攪拌翼としては、アンカー型攪拌翼、タービン型攪拌翼、スクリュー型攪拌翼、ダブルヘリカル型攪拌翼等が挙げられる。邪魔板(バッフル)は、下端が反応容器底面付近まで、一方、上端が液面から出る位置まで設置されていることが、熱伝導や熱制御が容易となる観点から好ましい。
【0036】
また、例えば、該反応容器は、具体的には、更に温度計や圧力計、安全弁等の各種測定機器を備えていることもできる。また、工程(1)において仕込み時の反応系内の全水分量が上記範囲を超える場合には、当該範囲となるよう、該反応容器は、その外部に蒸気留出ライン、コンデンサー、デカンター、蒸留塔、留出液戻しライン、排気ライン、硫化水素捕捉装置等(本発明において蒸留等設備という)が配設されたものであることが好ましい。
【0037】
一方、連続式反応容器は、例えば、可動部分のない複数のミキシングエレメントが内部に固定されている管状反応器が挙げられ、該管状反応器を直列に連結させた重合ライン、或いは、複数の管状反応器を連結する共に反応液の一部を前記管状反応器の原料投入口に環流させる構造を有する連続環状重合ラインを形成するものが挙げられる。これらの連続式反応容器は、プランジャーポンプなどにより原料のフィード及び反応液の移送を行うことがきできる。
【0038】
本発明で用いる反応用装置における「原料、反応液または反応後に得られる生成物との接触部」とは、反応用装置の内部において前記の原料、すなわち、有機極性溶媒、ポリハロ芳香族化合物、スルフィド化剤、アルカリ触媒等、それらの混合物、それらが重合反応した後に得られる生成物が接する反応用装置の内部壁面の一部乃至全部である。原料、反応液または反応後に得られる生成物はスラリー状であってもよく、その場合、固形物としては、原料として用いるアルカリ金属硫化物、アルカリ金属水硫化物や、反応により生成するアルカリ金属塩化物等のアルカリ金属含有無機塩なども含まれるものとする。
【0039】
本発明で使用する反応用装置は、その接触部の少なくとも一部が、好ましくは全てが前記ニッケル合金で構成されているものとしてもよい。ここで用いられるニッケル合金は、耐食性の面から、クロムの含有割合が43~47質量%以上、モリブデンの含有割合が0.1~2質量%および残部がニッケルおよび不可避不純物で構成された合金である。タングステン、鉄、コバルトおよび銅は、検出限界以下の含有量であるものが好ましい。
【0040】
なお、本発明において「不可避不純物」の用語は、技術的に除去が困難な微量の不純物を意味している。本発明においては、例えば、合金中において、1質量%以下、好ましくは検出限界以下の割合で含まれる炭素原子が挙げられる。
【0041】
・成形加工等
以上詳述した本発明の製造方法によって得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形の如き各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れた成形物に加工することが出来る。
【0042】
また、本発明により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、更に強度、耐熱性、寸法安定性等の性能を更に改善するために、各種充填材と組み合わせたポリアリーレンスルフィド樹脂組成物として使用することが出来る。充填材としては、特に制限されるものではないが、例えば、繊維状充填材、無機充填材等が挙げられる。繊維状充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム等の繊維、ウォラストナイト等の天然繊維等が使用出来る。また無機充填材としては、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、クレー、バイロフェライト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、マイカ、雲母、タルク、アタルパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ等が使用出来る。また、成形加工の際に添加剤として離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤等の各種添加剤を含有せしめることが出来る。
【0043】
更に、本発明により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、用途に応じて、適宜、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂、或いは、ポリオレフィン系ゴム、弗素ゴム、シリコーンゴム等のエラストマーを配合したポリアリーレンスルフィド樹脂組成物として使用してもよい。
【0044】
本発明の製造方法で得られるポリアリーレンスルフィド樹脂は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の本来有する耐熱性、寸法安定性等の諸性能も具備しているので、例えば、コネクタ、プリント基板及び封止成形品等の電気・電子部品、ランプリフレクター及び各種電装品部品などの自動車部品、各種建築物、航空機及び自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品、カメラ部品及び時計部品などの精密部品等の射出成形若しくは圧縮成形、若しくはコンポジット、シート、パイプなどの押出成形、又は引抜成形などの各種成形加工用の材料として、或いは繊維若しくはフィルム用の材料として幅広く有用である。
【実施例
【0045】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
【0046】
(PPS樹脂の溶融粘度(V6)の測定)
製造したPPS樹脂を島津製作所製フローテスター「CFT-500D」を用い、300℃、荷重:1.96×10Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した。
【0047】
(脂肪族系環状化合物の加水分解物のアルカリ金属塩(SMAB)の生成率)
1Lオートクレーブ中にNaS、NMP、水を仕込み、一定温度まで昇温した。その後、200℃まで冷却し、DCBを仕込んだ。200℃でバルブを僅かに開放し、オートクレーブ内部から残存した水を抜き出した。抜き出した水をアセトンで希釈し、水分量を測定した。消費した水分量とSMAB生成率は等しい為、下記計算式からSMAB生成率を算出した。
SMAB生成率(%)=(仕込み水分量(g)-抜けた水分量(g))/仕込み水分量(g)×100





【0048】
(フェノール(副生成物)量の定量)
得られたPPSスラリーを10gと内標準物質(クロロベンゼン)0.2gを量り取り、アセトン15gで希釈する。得られた希釈液を超音波で5分間処理し、遠心分離機で固液分離した。その後、上澄み液を1μL採取し、ガスクロマトグラフで測定した。
【0049】
ガスクロマトグラフでの測定は、島津製作所製ガスクロマトグラフィー「GC2014」(カラム:財団法人化学物質評価研究機構製カラム「G300」、キャリアーガス:ヘリウム 、測定カラム条件:140℃5分間保持し→3℃/分で200℃まで昇温→200℃20分間保持)で行った。フェノール濃度を求める為に、まず標準サンプルで検量線を作成した。次に上記で準備した上澄み液を測定して得られたクロマトグラムから標準サンプルと同じ保持時間のピーク面積を得た。該ピーク面積と検量線から測定液中の濃度を求め、スルフィド化剤1モル(仕込んだ硫黄原子合計1モル)あたりのフェノール量のモル数を百分率で算出した(以下、「mol%/S」)。
【0050】
(水分量の定量)
水分量は、カールフィッシャー水分測定装置(平沼産業株式会社製 AQV-300)を用いて、カールフィッシャー容量滴定方式にて測定した。
【0051】
[実施例1]
圧力計、温度計、原料輸送配管を連結させた内壁(接液部)がチタン製で、撹拌翼付きのチタン製の1Lオートクレーブに水分1.1%のNaSを128.42g(NaS:1.64モル、平均粒子径300μmの固形状)、45%NaSHを7.47g(NaSH:0.06モル)、水を0.55g(水の総量:0.20モル)、NMPを301.55g仕込み、窒素置換を行った。仕込み後、オートクレーブを密閉して、攪拌させながら250℃まで3時間かけて昇温した。次に、195℃以下まで冷却した後、原料輸送配管を通して外部からオートクレーブ内に80℃で溶融させたp-ジクロロベンゼン(以下、p-DCBと略す)249.90g(DCB:1.70モル)を一括して添加して1時間保持した。系内の水分量を測定したところ0.02モルであった。次に、220℃まで昇温させ、220℃で3時間保持した。さらに250℃まで昇温し、250℃で1時間反応させた後、室温まで冷却した。
【0052】
得られた重合スラリー100gに70℃のイオン交換水400gを加えて10分間撹拌した後に、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水600gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキに70℃のイオン交換水400gを加えて10分間撹拌した後に、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水600gを加えケーキ洗浄を行った。この操作を2回繰り返した。得られた含水ケーキは熱風乾燥機を用いて120℃で4時間乾燥して白色粉末状のポリマーを得た。
【0053】
得られたポリマーの溶融粘度は155Pa・sであった。SMAB生成率は90%であった。副生成物であるフェノール量(仕込んだ硫黄合計1モルに対するモル数、以下「mol/S」)は0.05mol%/Sであった。
【0054】
[実施例2]
「仕込み後、オートクレーブを密閉して、攪拌させながら250℃まで3時間かけて昇温した。」とする部分を「仕込み後、オートクレーブを密閉して、攪拌させながら200℃まで3時間かけて昇温した」点以外は、実施例1に準拠した。DCB添加後の系内の水分量を測定したところ0.05モルであった。
得られたポリマーの溶融粘度は103Pa・sであった。SMAB生成率は74%であった。副生成物であるフェノール量は0.11mol%/Sであった。
【0055】
[比較例1]
圧力計、温度計を連結させた内壁(接液部)がチタン製で、撹拌翼付きの1Lオートクレーブに水分1.1%のNaSを128.42g(NaS:1.64モル)、45%NaSHを7.47g(NaSH:0.06モル)、水を0.55g(水の総量:0.20モル)、p-ジクロロベンゼン(以下、p-DCBと略す)を249.90g(DCB:1.70モル)、NMPを301.55g仕込み、窒素置換を行った。仕込み後、オートクレーブを密閉して、攪拌させながら200℃まで3時間かけて昇温した。なお、系内の水分量を測定したところ0.10モルであった。その後、220℃まで昇温させ、220℃で3時間保持した。その後、250℃まで昇温し、250℃で1時間保持した。
【0056】
得られた重合スラリー100gに70℃のイオン交換水400gを加えて10分間撹拌した後に、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水600gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキに70℃のイオン交換水400gを加えて10分間撹拌した後に、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水600gを加えケーキ洗浄を行った。この操作を2回繰り返した。得られた含水ケーキは熱風乾燥機を用いて120℃で4時間乾燥して白色粉末状のポリマーを得た。
【0057】
得られたポリマーの溶融粘度は41Pa・sであった。SMAB反応率は51%であった。副生成物であるフェノール量は0.38mol%/Sであった。