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特許7172153抄紙工程におけるワイヤ及び/又はフェルトの汚れ蓄積量推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】抄紙工程におけるワイヤ及び/又はフェルトの汚れ蓄積量推定方法
(51)【国際特許分類】
   D21F 1/32 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
D21F1/32
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018112137
(22)【出願日】2018-06-12
(65)【公開番号】P2019214807
(43)【公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-03-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】桂 仁樹
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-332467(JP,A)
【文献】特開2013-213290(JP,A)
【文献】特開2014-218773(JP,A)
【文献】特開2007-271333(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
G01N33/00-33/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤパート及びプレスパートでパルプから脱水され、白水ピットに受容され、抄紙工程で用いられる白水に含まれる炭酸カルシウム及びピッチの量を測定する工程と、
測定された前記白水中の炭酸カルシウム及びピッチ量と、前記プレスパート入口の水分量と、前記ワイヤパートにより重力脱水された水分量と、を基に、前記ワイヤパートにおける、炭酸カルシウム及びピッチによるワイヤへの汚れ付着量を推定し、推定した炭酸カルシウム及びピッチによるワイヤへの汚れ付着量を稼働した日ごとに積算することによって、炭酸カルシウム及びピッチによるワイヤへの汚れ蓄積量を演算する工程と
を含む、抄紙工程におけるワイヤの汚れ蓄積量推定方法。
【請求項2】
ワイヤパート及びプレスパートでパルプから脱水され、白水ピットに受容され、抄紙工程で用いられる白水に含まれる不溶性懸濁物の量を測定する工程と、
測定された前記白水中の不溶性懸濁物量と、前記プレスパート入口の水分量と、前記ワイヤパートにより重力脱水された水分量と、を基に、前記ワイヤパートにおける、不溶性懸濁物によるワイヤへの汚れ付着量を推定し、推定した不溶性懸濁物によるワイヤへの汚れ付着量を稼働した日ごとに積算することによって、不溶性懸濁物によるワイヤへの汚れ蓄積量を演算する工程と
をさらに含み、
イヤへの合計汚れ蓄積量は、記炭酸カルシウム及びピッチによるワイヤへの汚れ蓄積量と、前記不溶性懸濁物によるワイヤへの汚れ蓄積量との積算により求められる、
請求項1に記載の抄紙工程におけるワイヤの汚れ蓄積量推定方法。
【請求項3】
ワイヤパート及びプレスパートでパルプから脱水され、白水ピットに受容され、抄紙工程で用いられる白水に含まれる炭酸カルシウム及びピッチの量を測定する工程と、
測定された前記白水中の炭酸カルシウム及びピッチ量と、前記プレスパート入口の水分量と、前記ワイヤパートにより重力脱水された水分量と、フェルトによる搾水量と、を基に、前記プレスパートにおける、炭酸カルシウム及びピッチによるフェルトへの汚れ付着量を推定し、推定した炭酸カルシウム及びピッチによるフェルトへの汚れ付着量を稼働した日ごとに積算することによって、炭酸カルシウム及びピッチによるフェルトへの汚れ蓄積量を演算する工程と
を含む、抄紙工程におけるフェルトの汚れ蓄積量推定方法。
【請求項4】
ワイヤパート及びプレスパートでパルプから脱水され、白水ピットに受容され、抄紙工程で用いられる白水に含まれる不溶性懸濁物の量を測定する工程と、
測定された前記白水中の不溶性懸濁物量と、前記プレスパート入口の水分量と、前記ワイヤパートにより重力脱水された水分量と、フェルトによる搾水量と、を基に、前記プレスパートにおける、不溶性懸濁物によるフェルトへの汚れ付着量を推定し、推定した不溶性懸濁物によるフェルトへの汚れ付着量を稼働した日ごとに積算することによって、不溶性懸濁物によるフェルトへの汚れ蓄積量を演算する工程と
をさらに含み、
ェルトへの合計汚れ蓄積量は、前記炭酸カルシウム及びピッチによるフェルトへの汚れ蓄積量と、前記不溶性懸濁物によるフェルトへの汚れ蓄積量との積算により求められる、
請求項3に記載の抄紙工程におけるフェルトの汚れ蓄積量推定方法。
【請求項5】
ワイヤパート及びプレスパートでパルプから脱水され、白水ピットに受容され、抄紙工程で用いられる白水に含まれる炭酸カルシウム及びピッチの量を測定する工程と、
測定された前記白水中の炭酸カルシウム及びピッチ量と、前記プレスパート入口の水分量と、前記ワイヤパートにより重力脱水された水分量と、を基に、前記ワイヤパートにおける、炭酸カルシウム及びピッチによるワイヤへの汚れ付着量を推定し、かつ 測定された前記白水中の炭酸カルシウム及びピッチ量と、前記プレスパート入口の水分量と、前記ワイヤパートにより重力脱水された水分量と、フェルトによる搾水量と、を基に、前記プレスパートにおける、炭酸カルシウム及びピッチによるフェルトへの汚れ付着量を推定し、
推定した炭酸カルシウム及びピッチによるワイヤへの汚れ付着量及び推定した炭酸カルシウム及びピッチによるフェルトへの汚れ付着量をそれぞれ稼働した日ごとに積算することによって、炭酸カルシウム及びピッチによるワイヤへの汚れ蓄積量、及び炭酸カルシウム及びピッチによるフェルトへの汚れ蓄積量をそれぞれ演算する工程と
を含む、抄紙工程におけるワイヤ及びフェルトの汚れ蓄積量推定方法。
【請求項6】
ワイヤパート及びプレスパートでパルプから脱水され、白水ピットに受容され、抄紙工程で用いられる白水に含まれる不溶性懸濁物の量を測定する工程と、
測定された前記白水中の不溶性懸濁物量と、前記プレスパート入口の水分量と、前記ワイヤパートにより重力脱水された水分量と、フェルトによる搾水量と、を基に、前記ワイヤパートにおける、不溶性懸濁物によるワイヤへの汚れ付着量を推定し、かつ
測定された前記白水中の不溶性懸濁物量と、前記プレスパート入口の水分量と、前記ワイヤパートにより重力脱水された水分量と、フェルトによる搾水量と、を基に、前記プレスパートにおける、不溶性懸濁物によるフェルトへの汚れ付着量を推定し、
推定した不溶性懸濁物によるワイヤへの汚れ付着量及び推定した不溶性懸濁物によるェルトへの汚れ付着量を、それぞれ稼働した日ごとに積算することによって、溶性懸濁物によるワイヤへの汚れ蓄積量、及び不溶性懸濁物によるフェルトへの汚れ蓄積量をそれぞれ演算する工程と
をさらに含み、
イヤへの合計汚れ蓄積量は、前記炭酸カルシウム及びピッチによるワイヤへの汚れ蓄積量と、前記不溶性懸濁物によるワイヤへの汚れ蓄積量との積算により求められ、
ェルトへの合計汚れ蓄積量は、前記炭酸カルシウム及びピッチによるフェルトへの汚れ蓄積量と、前記不溶性懸濁物によるフェルトへの汚れ蓄積量との積算により求められる、請求項5に記載の抄紙工程におけるワイヤ及びフェルトの汚れ蓄積量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抄紙工程におけるワイヤ及び/又はフェルトの汚れ蓄積量推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、製紙は、パルプ原料を水質に分散させた原料スラリーを抄紙することによって行われる。抄紙に際して、パルプは漂白、叩解、混合、稀釈等の工程を経て、最終的にパルプスラリーの状態に調製された後、抄紙機のワイヤパートに送り込まれ脱水される。パルプスラリーがワイヤ上で脱水される際、ワイヤ下へ濾過された水を通常白水と呼んでいる。
【0003】
水資源の有効活用や再利用の観点から、白水は、抄紙系、原料系を循環し、回収原料として或いは稀釈水として再利用される。しかしながら、白水は、炭酸カルシウム、澱粉、サイズ剤、ラテックス、カゼイン等に起因する汚れを含むため、白水が抄紙系、原料系を循環することで、汚れ成分が濃縮し、汚れ成分が抄紙工程やプレス工程に与える影響が大きくなる。汚れ成分は、抄紙工程のワイヤや、プレス工程のフェルトに付着し、紙製品に混入することで、紙製品の品質低下につながる。
【0004】
抄紙機のワイヤパートにおける原料の歩留りが低下すると、ワイヤで捕捉されずに通過した白水を回収する白水ピット中の白水の濁度が上昇する。白水の濁度が上昇すると、白水の流れる配管で流動性が低下しスライム粕が発生し易くなる。これが成長して白水サイロや配管内部に付着して剥離したときに製品欠陥や粕穴欠点を発生させる。
【0005】
また、汚れ成分がプレス工程のフェルトに付着すると、搾水性が悪化し、後段のドライヤーでの乾燥に時間を要するため、抄速を上げることができないという弊害や、センターロールでの剥離性が悪化し、断紙を発生させてしまう等、生産効率の低下を招き得る。
【0006】
白水の濁度を抑えるため、ワイヤ下へ濾過された濾過後水の一部を系から排出し、新たな水を導入することも行われるが、それだけでは根本的な解決にはならない。
【0007】
汚れ付着防止を目的に、製紙工程の抄紙工程及び脱水工程のシャワー水系に、(A)非イオン性界面活性剤と(B)ヒドロキシカルボン酸あるいはその塩とを含有する汚れ防止剤組成物を添加することが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-163700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、これまで、抄紙機のワイヤパートにおけるワイヤや、プレス工程におけるフェルトに付着する汚れ量を、連続的かつ定量的に示すことが容易でなく、汚れ防止剤組成物は、一定量を連続して添加することが一般的である。そのため、ワイヤ洗浄剤やフェルトコンディショナー等の洗浄剤を大量に必要とする。そして、これらの洗浄剤は、比較的高価であり、洗浄剤の使用量を減らす仕組みの提供が求められている。
【0010】
また、フェルトの操業状態を把握するのに、フェルトの含水率の測定が行われることもあるが、この測定は、抄紙機の操業中に人手によって行われるものであり、危険を伴う。
【0011】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、抄紙機のワイヤパートにおけるワイヤや、プレス工程におけるフェルトに付着する汚れを、フェルトの含水率を測定することなく定量化し、洗浄剤の使用量を、安全に効率化することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、抄紙工程で用いられる白水に含まれる炭酸カルシウム及びピッチの量を測定し、この測定の結果から、ワイヤ及び/又はフェルトに付着する汚れ蓄積量を演算することで、汚れ蓄積量をより正確に定量化し、洗浄剤の使用量を最小限に抑えられ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下を提供する。
【0013】
(1)本発明は、抄紙工程で用いられる白水に含まれる炭酸カルシウム及びピッチの量を測定する工程と、前記炭酸カルシウム及びピッチの量の測定結果から、前記抄紙工程のワイヤパートにおけるワイヤ及び/又はプレスパートにおけるフェルトに付着する汚れ蓄積量を演算する工程とを含む、抄紙工程におけるワイヤ及び/又はフェルトの汚れ蓄積量推定方法である。
【0014】
(2)また、本発明は、抄紙工程で用いられる白水に含まれる不溶性懸濁物の量を測定する工程をさらに含み、前記汚れ蓄積量は、前記炭酸カルシウム及びピッチの量の測定結果と、前記不溶性懸濁物の量の測定結果とから演算される、(1)に記載の方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、抄紙装置の操業中に、抄紙工程におけるワイヤ及び/又はフェルトの汚れ蓄積量をより正確に定量化できることから、ワイヤやフェルトに提供する洗浄剤の使用量を最小限に抑えることができる。また、汚れ蓄積量を定量化するにあたり、抄紙機の操業中における人手によるフェルトの含水率の測定作業を伴わないため、汚れ蓄積量の定量化、ひいては洗浄剤の使用量削減を安全に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態に係る汚れ蓄積量推定方法が適用される製紙工程の一例を示す模式図である。
図2図1に示す製紙工程に組み込まれた薬注系の概要を示す概要図である。
図3図1に示す製紙工程に組み込まれた抄紙系での水バランスを示す概略図である。
図4】本発明の実施形態に係る汚れ蓄積量推定方法の概略的な処理手順を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る汚れ蓄積量推定方法による白水中の炭酸カルシウム・ピッチ濃度とフェルト搾水に含まれる炭酸カルシウム・ピッチ濃度との相関関係を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る汚れ蓄積量推定方法による白水中の全有機炭素濃度とフェルト搾水に含まれる全有機炭素濃度との相関関係を示す図である。
図7】フェルト洗浄剤を使用しないときのフェルトバキューム圧とフェルト汚れ指数との関係を示す図である。
図8】フェルト洗浄剤を使用したときのフェルトバキューム圧とフェルト汚れ指数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに特に限定されるものではない。
【0018】
<製紙工程10>
本発明に係る方法は、製紙工程に用いられる。そこで、本発明に係る方法を説明するのに先立ち、製紙工程について説明する。図1は、本発明に係る方法が実施される一例に係る製紙工程10の模式図である。製紙工程10は、原料系40、調成・抄紙系50、回収系60、薬注系20を備える。
【0019】
[原料系40]
原料系40は、製紙原料を貯留するタンク41、42、43及び44と、ミキシングチェスト47と、マシンチェスト48と、種箱49と、を含んで構成される。一方、調成・抄紙系50は、原料系40から供給されたパルプスラリーを送出するファンポンプ51と、クリーナー52と、スクリーン53と、インレット54と、ワイヤパート55と、プレスパート56と、を含んで構成される。また、調成・抄紙系50には後述する白水を貯留する白水サイロ58が設けられている。また、回収系60は、シールピット61と、回収装置62と、回収水タンク63と、離解水ポンプ64と、濃調水ポンプ65と、を含んで構成される。
【0020】
また、薬注系20は、白水の濁度を測定する濁度測定ユニット30と、各シャワー水への薬品の添加量を制御する演算処理部21と、薬品タンク22a、22bと、薬注ポンプ23a、23bと、を含んで構成される。
【0021】
本実施形態において、「白水」とは、製紙するときの抄紙工程において、抄紙機から多量に排出される水溶液をいう。白水には、原料パルプに由来する微細繊維のほか、その他の製紙用薬剤等が含まれる。
【0022】
原料系40は、化学パルプタンク41、再生パルプタンク42、ブロークタンク43及び回収原料タンク44を有し、化学パルプタンク41には針葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)などの化学パルプ、再生パルプタンク42には脱墨系から移送された脱墨パルプ(DIP)や段ボール古紙などの古紙を古紙パルパ45によりスラリーとした再生パルプ、ブロークタンク43にはブロークパルパ46によりスラリーとしたパルプ、回収原料タンク44は白水を回収装置62で固液分離したパルプがそれぞれ紙原料として収容されている。
【0023】
化学パルプタンク41の上流には、紙原料を製造し供給する装置が設けられていてもよい。すなわち、化学パルプタンク41の上流には、木材チップを蒸解する蒸解釜、パルプを漂白する装置、異物を除去するスクリーンなどが設けられてよい。なお、ブロークタンク43には、プレスパート56以降で生じたブロークパルプが供給される。
【0024】
古紙パルパ45及びブロークパルパ46には、古紙及びブロークを離解するための離解水が離解水ポンプ64から供給される。パルパ45,46で離解された後の再生パルプ及びブロークパルプ、化学パルプ及び回収原料は、濃調水ポンプ65からの、濃度を調整する濃調水と合流し、各タンクに貯留される。離解水及び濃調水としては、本実施形態では、濾過白水の回収水を用いているが、無処理の濾過白水、清水、原料系40のスラリーを脱水した濾液や絞水、他工程の余剰水を用いてもよい。
【0025】
化学パルプタンク41、再生パルプタンク42、ブロークタンク43及び回収原料タンク44に収容されたパルプは、製造しようとする銘柄に応じて適切な比率でミキシングチェスト47へと供給され、このミキシングチェスト47で混合される。混合されたパルプはマシンチェスト48で抄紙薬品が添加された後、種箱49へと移送される。
【0026】
[調成・抄紙系50]
種箱49に収容されたパルプは、後述の白水サイロ58からの濾過白水と共に、調成・抄紙系50のファンポンプ51によってクリーナー52、スクリーン53へと順次供給され、ここで異物を除去された後、インレット54へと供給される。インレット54は、ワイヤパート55のワイヤに、パルプを適正な濃度、速度、角度で供給する。供給されたパルプは、ワイヤパート55、プレスパート56で水を脱水され、図示しないリール・ワインダーを経て、紙へと製造される。
【0027】
ワイヤパート55及びプレスパート56でパルプから脱水された水は、白水としてワイヤパート55及びプレスパート56の下部に配置された白水ピット57に受容される。白水ピット57に受容された白水は、導管59を介して白水サイロ58に導入され、そこで貯留される。
【0028】
[回収系60]
白水サイロ58に貯留された白水は、その一部がファンポンプ51へと供給され、残りがシールピット61へと供給される。ファンポンプ51に供給された白水は、調成・抄紙系50においてパルプスラリーを希釈する。シールピット61に供給された白水は、回収装置62へと移送され、回収装置62で濾過されて固液分離され、濾液が回収水タンク63へと回収される。
【0029】
ここで、インレット54よりワイヤパート55に供給されるパルプスラリーは、懸濁性物質として、不溶性懸濁物(SS)、すなわち長さ20μm以上のパルプ繊維の他、填料として加えられている炭酸カルシウムやタルクなどの微細な灰分(長さ20μm未満の懸濁性物質)を含む。これらの不溶性懸濁物(SS)及び灰分は、それぞれワイヤパート55によって捕捉されて、それぞれ残りがワイヤ下へ濾過され白水中に分散する。従って、白水は、懸濁性物質として、不溶性懸濁物(SS)、すなわち長さ20μm以上のパルプ繊維の他、填料として加えられている炭酸カルシウムやタルクなどの微細な灰分(長さ20μm未満の懸濁性物質)を含む。
【0030】
[薬注系20]
以下、薬注系20について説明する。
【0031】
薬品Aを収容した薬品タンク22aが薬注ポンプ23aを介して、薬品Bを収容した薬品タンク22bが薬注ポンプ23bを介して、それぞれワイヤシャワーライン、フェルトシャワーラインに接続されている。薬注ポンプ23a、23bは、後述する制御部をなす演算処理部21の出力側に電気的に接続されており、演算処理部21の入力側には濁度測定ユニット30が電気的に接続されている。
【0032】
濁度測定ユニット30は、白水ピット57に接続された導管59から白水を採取して白水の濁度を測定し、その測定結果を演算処理部21に伝達する。演算処理部21は、伝達された測定結果に応じて薬注ポンプ23a、23bを作動させることによって、各シャワー水への、薬品タンク22a内の薬品Aの注入量及び薬品タンク22b内の薬品Bの注入量を、それぞれ制御する。
【0033】
本実施形態では、薬品タンク22aの内部には、薬品Aとしてワイヤ洗浄剤を含む製紙用薬剤が収容されている。そして、薬品Aの供給位置は特に限定されず、好ましくは、薬品タンク22aからワイヤパート55のワイヤシャワー水に供給される。
【0034】
また、内添薬品タンク22bの内部には、内添薬品Bとしてフェルトコンディショナーを含む製紙用薬剤が収容されている。そして、内添薬品Bの供給位置は特に限定されず、好ましくは、内添薬品タンク22bからプレスパート56のフェルトシャワー水に供給される。
【0035】
ワイヤ洗浄剤、フェルトコンディショナー剤は、例えば、製品名「プレスショット」(栗田工業株式会社)として、商業的に入手可能である。ワイヤ洗浄剤及びフェルトコンディショナー剤は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、ワイヤ洗浄剤及びフェルトコンディショナーの添加は、連続で行っても良いし、1度に行っても良いし、複数回に分けて行っても良い。
【0036】
ワイヤ洗浄剤及びフェルトコンディショナーの添加量は、特に限定されない。添加量の下限は、対シャワー水量で0.1mg/L以上であることが好ましく、1mg/L以上であることが好ましい。また、添加量の上限は、対シャワー水量で10,000mg/L以下であることが好ましく、2,000mg/L以下であることが好ましい。
【0037】
ワイヤ洗浄剤及びフェルトコンディショナーとは異なる他の製紙用薬剤の種類は、特に限定されない。他の製紙用薬剤として、例えば、界面活性剤、ワックス、サイズ剤、填料、防錆剤、導電剤、消泡剤、分散剤、粘性調整剤、凝集剤、凝結剤、紙力増強剤、歩留向上剤、紙粉脱落防止剤、嵩高剤、スライムコントロール剤等が挙げられる。
【0038】
<抄紙工程におけるワイヤ及び/又はフェルトの汚れ蓄積量推定方法>
以下、本発明に係る汚れ蓄積量推定方法について説明する。当該方法は、(A)抄紙工程で用いられる白水に含まれる炭酸カルシウム及びピッチの量を測定する工程と、(B)炭酸カルシウム及びピッチの量の測定結果から、ワイヤパート55におけるワイヤ及び/又はプレスパート56におけるフェルトに付着する汚れ蓄積量を演算する工程とを含む。
【0039】
〔(A)炭酸カルシウム及びピッチの量の測定〕
図2は、図1に示す製紙工程10に組み込まれた薬注系20の概要を示す概要図である。本実施形態では、濁度測定ユニット30を用いて、抄紙工程で用いられる白水に含まれる炭酸カルシウム及びピッチの量を測定する。炭酸カルシウム及びピッチの量の測定は、後述する「静止時濁度」を測定することによって行われる。
【0040】
濁度測定ユニット30は、白水を導管59から所定の手順で採取して測定容器31に貯留し、その濁度を測定するように構成されている。具体的には、濁度測定ユニット30は、導管59を流れる白水を汲み上げて測定容器31に供給するためのサンプリングポンプ33を備えた供給系37と、測定容器31の容量以上の白水を測定容器31から流出させ導管59に戻す循環系38とを備える。これらの供給系37及び循環系38には、演算処理部21によりそれぞれ選択的に開閉制御される供給バルブ34及び循環バルブ35が設けられており、濁度測定ユニット30は、これらの供給バルブ34及び循環バルブ35の開閉制御とサンプリングポンプ33の運転制御とを行うことで、導管59を流れる白水を測定容器31に採取できる。
【0041】
サンプリングポンプ33が容積式のものである場合には供給バルブ34は不要であり、また測定容器31を開放系のものとして採取液をオーバーフローさせる構造のものとすれば、循環バルブ35も不要となる。また、ここでは白水を導管59から採取するとしているが、白水を白水ピット57から直接採取する構成としてもよい。
【0042】
濁度測定ユニットは、本実施形態のように1つであることがシステム構成の簡素化の点で好ましいが、複数であってもよい。複数の濁度測定ユニットを採用する場合、攪拌時の濁度と、静止時の濁度とが別々の容器で測定されるため、静止までの時間を待たずに、両濁度を並行して測定することができる。
【0043】
測定容器31は、例えば0.3~1.5m程度の深さを有して白水を20~1000L、好ましくは30~50L程度貯留する容積を有するもので、その底部に排水系をなす排水バルブ36を備えている。また測定容器31の内壁面の上部であって、例えば水面から50~200mm下がった位置には測定容器31に貯留された白水の上部における濁度を測定する濁度センサ32が設けられている。濁度センサ32は、例えば吸光度センサ、反射光センサ、透過光センサなどを用いることができる。また、測定容器31の内壁面の満水位置に、白水の水面が満水位置に達したことを検知するための水面センサ(図示せず)が設けられていてもよい。
【0044】
濁度センサ32の近傍には、濁度センサ32の周囲やそのセンサ面を洗浄する水ジェットノズルやワイパー(図示せず)等を備えた洗浄機構39が設けられている。この洗浄機構39は、測定容器31に採取した白水の濁度を濁度センサ32によって測定し、その後、排水バルブ36を開けて白水を排水した後に選択的に作動して、濁度センサ32のセンサ面やその周囲を洗浄し、測定容器31の内部を清浄に保つ役割を担う。
【0045】
ここで、供給系37の供給速度(及び循環系38の排出速度)[L/sec]及び測定容器31の容量[L]は、測定容器31内の白水が供給系37から流入する白水の水流によって十分攪拌されるように設定されている。
【0046】
〔(B)汚れ蓄積量の演算〕
続いて、本方法では、炭酸カルシウム及びピッチの量の測定結果から、ワイヤパート55におけるワイヤ及び/又はプレスパート56におけるフェルトに付着する汚れ蓄積量を演算する。
【0047】
本方法は、白水循環系の炭酸カルシウム・ピッチ等の微細分を測定することで、効率的かつ確実にワイヤ、フェルトに付着する汚れ蓄積量を定量化し、ワイヤ洗浄剤、フェルトコンディショナーの最適化を実施することで、ワイヤ、フェルト汚れ障害を抑制することができる。また、通常一定量で添加されているワイヤ洗浄剤、フェルトコンディショナーを最適化することで、最適化しない場合と比べて、ワイヤ洗浄剤、フェルトコンディショナーの使用量の低減や最適化を図ることもできる。
【0048】
その原理としては、白水循環系に濃縮された炭酸カルシウム・ピッチ等の汚れ量から、紙に移行した汚れ量と紙からワイヤ、フェルトに移行する汚れ量が水バランスを基に算出することができ、算出されたワイヤ、フェルト汚れ付着量に対して、ワイヤ、フェルトコンディショナーの添加量を最適化できる。
【0049】
演算処理部21は、前述の通り、測定容器31に採取され濁度センサ32によって測定される白水の濁度に基づき薬品A、Bの注入量を求めている。そして、演算処理部21は、薬品タンク22a内の薬品Aの注入量及び薬品タンク22b内の薬品Bの注入量を、それぞれ最適化制御するものとなっている。
【0050】
図3は、上記の水バランスを説明するための模式図である。ワイヤパート55の入口における水分量を100とすると、ワイヤにより重力脱水がなされ、プレスパート56の入口での水分量は80となる。さらに、プレス工程でのフェルトによる搾水で、湿紙に含まれる水分量は、50となる。つまり、白水中の炭酸カルシウム・ピッチ量を測定すると、以下の式(1)及び(2)により、ワイヤ、フェルトに付着する炭酸カルシウム・ピッチ量が推定される。
[式(1)]
(白水中の炭酸カルシウム・ピッチ量)×(80/20)=炭酸カルシウム・ピッチによるワイヤへの汚れ付着量
[式(2)]
(白水中の炭酸カルシウム・ピッチ量)×(80/20)×(30/80)=炭酸カルシウム・ピッチによるフェルトへの汚れ付着量
【0051】
そして、ワイヤへの汚れ付着量を日毎に積み上げることで、ワイヤに付着する汚れ蓄積量(ワイヤ汚れ指数)を算出でき、フェルトへの汚れ付着量を日毎に積み上げることで、フェルトに付着する汚れ蓄積量(フェルト汚れ指数)を算出できる。
【0052】
本発明の技術的意義は、ワイヤ及び/又はフェルトに付着する「汚れ量」ではなく、ワイヤ及び/又はフェルトに付着する「汚れ蓄積量」を演算したことにある。汚れ付着量を日毎に積み上げ、「汚れ蓄積量」を演算することで、フェルトバキューム圧との相関性が高まり、洗浄剤の使用量を抑えることができる。
【0053】
なお、抄紙工程で用いられる白水に含まれる不溶性懸濁物の量を測定し、炭酸カルシウム及びピッチの量の測定結果と、不溶性懸濁物の量の測定結果との両方を用いて汚れ蓄積量を演算することが、より好ましい。抄紙機の種類によって、炭酸カルシウム及びピッチが主な汚れの原因である場合と、炭酸カルシウム及びピッチと不溶性懸濁物(SS)との両方が主な汚れの原因である場合とが異なる。そのため、炭酸カルシウム及びピッチの量の測定結果と、不溶性懸濁物の量の測定結果との両方を用いて「汚れ蓄積量」を演算することで、フェルトバキューム圧との相関性がよりいっそう高まり、洗浄剤の使用量をさらに抑えることができる。
【0054】
不溶性懸濁物の量は、後述する「撹拌時濁度」を測定することによって行われ、以下の式(3)及び(4)により、ワイヤ、フェルトに付着する不溶性懸濁物量が推定される。
[式(3)]
(白水中の不溶性懸濁物量)×(80/20)=不溶性懸濁物によるワイヤへの汚れ付着量
[式(4)]
(白水中の不溶性懸濁物量)×(80/20)×(30/80)=不溶性懸濁物によるフェルトへの汚れ付着量
【0055】
〔本方法のフローチャート〕
図4は、本発明の実施形態に係る方法の概略的な処理手順を示す図である。
【0056】
測定容器31、供給バルブ34、循環バルブ35、及び排水バルブ36が「測定容器31:空、排水バルブ36:開、供給バルブ34及び循環バルブ35:閉」であるときを初期状態として、先ず、排水バルブ36を閉じ、供給バルブ34及び循環バルブ35を開き[ステップS1]、サンプリングポンプ33を作動させ[ステップS2]、白水を供給系37を介して導管59から汲み上げ、測定容器31に供給することから開始される。同時に測定容器31への白水の供給開始に伴い、演算処理部21が備える図示しないタイマーを起動してその供給時間を計測する。
【0057】
白水を供給することによって測定容器31内における白水の貯留量は増加し、測定容器31内に貯留された白水が満水に達すると測定容器31の容量以上の白水は循環系38を介して導管59に流出する。この状態になると、測定容器31に供給される白水の供給量と測定容器31から流出する白水の流出量とが等しくなり、測定容器31内における白水の水面位置は満水位置に保たれる。このとき、測定容器31内に貯留された白水は、白水が連続的に測定容器31に供給されることによって攪拌状態にある。
【0058】
そして上記供給時間が、予め設定した所定時間t1に達したとき、つまり白水が時間t1に亘って供給され、測定容器31内の白水が満水になったとき[ステップS3]、濁度センサ32を用いて白水の濁度(好ましくは、白水の吸光度)を測定する[ステップS4]。
【0059】
前述の通り、このとき測定容器31内に貯留された白水は白水の連続的な供給によって攪拌状態にあるので、測定される濁度は、白水の「攪拌時濁度」であり、後述の通り、不溶性懸濁物(SS)相当濁度として白水の不溶性懸濁物(SS)濃度との相関関係を有する。
【0060】
ここで、所定時間t1は、測定容器31の容積と白水の供給速度に基づき、測定容器31内における白水の水面位置が所定の満水高さに達するまでに要する時間に予め設定されている。また、ここでは白水の供給開始と共にタイマーを起動し所定の時間t1が経過することによって白水の水面位置が満水高さに達したことを検知しているが、タイマーに代えて、又はタイマーと併用して、測定容器31の満水位置に設けられた水面センサ(図示せず)によって白水の水面位置が満水高さに達したことを検知してもよい。
【0061】
白水の「攪拌時濁度」の測定が終了すると、次に、サンプリングポンプ33を停止させ[ステップS5]、排水バルブ36を閉じた状態で供給バルブ34及び循環バルブ35を閉じ[ステップS6]、これによって、白水の測定容器31への供給と測定容器31からの流出を停止させる。そして白水の供給と流出の停止によって、測定容器31に貯留された白水を静置させる。
【0062】
測定容器31に貯留された白水の静置開始と同時に、前述の通り、測定容器31に貯留された白水の上部における濁度を測定する位置に配置されている濁度センサ32を用いて白水の濁度(好ましくは、白水の吸光度)の連続的な測定を開始する[ステップS7]。この白水の濁度の連続的な測定は、濁度センサ32の計測値を所定のサンプリング周波数(例えば、サンプリング周波数=0.1~5Hz)でサンプリングすることによって行うものであってよい。
【0063】
そして、測定を開始した後十分な時間が経過して白水の濁度の連続的な測定値が安定した場合(例えば連続的な測定値の変化率が所定値以下になった場合)に終点とし[ステップS8]、当該安定した測定値を、白水の「静止時濁度」とする[ステップS9]。白水の「静止時濁度」は、炭酸カルシウム・ピッチ相当濁度となる。
【0064】
ここで、「撹拌時濁度」と「静止時濁度」との違いについて説明する。測定容器31内で白水を充分に撹拌すると、不溶性懸濁物(SS)と、炭酸カルシウム及びピッチとは、共に沈降することなく白水中に分散する。不溶性懸濁物(SS)の粒子サイズは、炭酸カルシウム及びピッチの粒子サイズより大きい為、撹拌状態で白水の濁度を測定すると、測定された濁度に対して、不溶性懸濁物(SS)の分散量の影響が支配的であり、炭酸カルシウム・ピッチの分散量の影響は小さい。したがって、白水の「撹拌時濁度」は、その不溶性懸濁物(SS)濃度との相関関係を有するので、濁度センサ32を用いて測定した白水の不溶性懸濁物(SS)濃度を把握する情報となる。
【0065】
一方、白水を静置すると白水中に分散している粒子サイズの比較的大きい不溶性件濁質(SS)は急速に沈降するが、粒子サイズの比較的小さい炭酸カルシウム・ピッチはほとんど沈降しない。したがって、このときに測定される「静止時濁度」は、炭酸カルシウム・ピッチ濃度を把握する情報となる。
【0066】
その後排水バルブ36を開けて測定容器31に貯留させた白水の全てを排水し[ステップS10]、更に洗浄機構39を作動させて濁度センサ32のセンサ面やその周囲を洗浄し、測定容器31の内部を清浄化することによって[ステップS11]、前述の初期状態に戻すことができる。
【0067】
その後、以上説明したステップをバッチ連続的に繰り返すことによって、白水の「攪拌時濁度」及び「静止時濁度」を連続的に測定する制御としてよい。すなわち、薬注系20は、ワイヤパート55、プレスパート56で生成する白水の「攪拌時濁度」及び「静止時濁度」を連続的にリアルタイムに測定することができる。
【0068】
続いて、演算処理部21は、測定容器31に採取され濁度センサ32によって測定される白水の濁度(少なくとも「静止時濁度」。好ましくは「静止時濁度」と「撹拌時濁度」との両方)から、抄紙工程のワイヤパート55におけるワイヤ及び/又はプレスパート56におけるフェルトに付着する汚れ蓄積量を演算する。そして、演算の結果に基づき、ワイヤ、フェルトに対する薬品の注入量を求める[ステップS12]。この処理において、演算処理部21は、薬品タンク22a内の薬品の注入量及び薬品タンク22b内の薬品の注入量をそれぞれ最適化制御するものとなっている。薬品は要求される効果に応じて、1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。
【0069】
そして、この最適注入量に従って、薬注ポンプ23a,23bを制御することで、薬品Aのワイヤパート55への注入量と、薬品Bのプレスパート56への注入量とを調整している[ステップS13]。
【実施例
【0070】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0071】
<試験1> 静止時濁度が示す指標について
濁度センサ32が検知する静止時濁度が白水に含まれる炭酸カルシウム・ピッチ濃度を把握する指標であることを確認するため、ストークスの式を用い、濁度センサ32が検知する物質の粒子径を推測し、その粒子径が実際に系への障害を発生させる粒径と同程度であることを確認した。
【0072】
式(5)は、ストークスの式である。
[式(5)]
【数1】
【0073】
図1に示す装置において、終端速度vは1/900(m/s)であり、炭酸カルシウムの粒子密度は2.8(kg/m)であり、ピッチの粒子密度は1(kg/m)であり、流体密度は995.67(kg/m)であり、粘性は0.81×10-3(Pa・s。流体は30℃の水)であった。ストークスの式に各パラメーターを入力すると、3μm程度の炭酸カルシウム(填料)と60μm程度のピッチを測定していることとなり、実際に障害を発生させるそれぞれの粒径と同程度であることが確認された。
【0074】
<試験2> 白水中の炭酸カルシウム・ピッチ濃度とフェルト搾水に含まれる炭酸カルシウム・ピッチ濃度との相関関係
本実施形態に基づく濁度測定ユニット30を用いて、白水濃度をバッチ連続的に計測し、白水の「静止時濁度」を測定し、それと同時に、分析機器を用いて、その白水の炭酸カルシウム・ピッチ濃度を測定した。また、濁度測定ユニット30を用いて、フェルト搾水濃度をバッチ連続的に計測し、フェルト搾水の「静止時濁度」を測定し、それと同時に、分析機器を用いて、そのフェルト搾水の炭酸カルシウム・ピッチ濃度を測定した。
【0075】
白水中の炭酸カルシウム・ピッチ濃度を横軸にし、フェルト搾水に含まれる炭酸カルシウム・ピッチ濃度を縦軸にしたときのグラフを図5に示す。
【0076】
図5から、白水に含まれる炭酸カルシウム・ピッチ濃度と、フェルト搾水に含まれる炭酸カルシウム・ピッチ濃度との間に、正の相関関係を有することが確認された。このことから、白水に含まれる炭酸カルシウム・ピッチ濃度から、フェルトに付着する炭酸カルシウム・ピッチ量を推定することが可能であると判断できる。
【0077】
<試験3> 白水中の不溶性懸濁物(SS)濃度とフェルト搾水に含まれる不溶性懸濁物(SS)濃度との相関関係
本実施形態に基づく濁度測定ユニット30を用いて、白水濃度をバッチ連続的に計測し、白水の「撹拌時濁度」を測定し、それと同時に、分析機器を用いて、その白水の不溶性懸濁物(SS)濃度を測定した。また、濁度測定ユニット30を用いて、フェルト搾水濃度をバッチ連続的に計測し、フェルト搾水の「撹拌時濁度」を測定し、それと同時に、分析機器を用いて、そのフェルト搾水の不溶性懸濁物(SS)濃度を測定した。
【0078】
白水中の不溶性懸濁物(SS)濃度を横軸にし、フェルト搾水に含まれる不溶性懸濁物(SS)濃度を縦軸にしたときのグラフを図6に示す。
【0079】
図6から、白水に含まれる不溶性懸濁物(SS)濃度と、フェルト搾水に含まれる不溶性懸濁物(SS)濃度との間に、正の相関関係を有することが確認された。このことから、白水に含まれる不溶性懸濁物(SS)濃度から、フェルトに付着する不溶性懸濁物(SS)量を推定することが可能であると判断できる。
【0080】
<試験4> フェルト洗浄剤を使用しないときのフェルトバキューム圧とフェルト汚れ指数との関係
図1に示す装置を5日間稼働した。その間、フェルト洗浄剤を使用しなかった。
【0081】
稼働中、試験2と同様の手法にて白水静止濁度を測定し、測定値から白水中の炭酸カルシウム・ピッチ量を求めた。そして、求めた値に対して上記の式(2)を適用し、炭酸カルシウム・ピッチによるフェルトへの汚れ付着量を求めた。そして、求めた値を日毎に蓄積し、蓄積した値をフェルト汚れ指数とした。
【0082】
フェルトバキューム圧とフェルト汚れ指数との関係を示す時間変化を図7の(A)に示す。一般に、フェルトに汚れが付着し始めるとバキューム圧が高くなる。
【0083】
SD明けから徐々にフェルトバキューム圧が上昇し、フェルトの汚れが蓄積される。そして、日々のフェルト汚れ指数を蓄積していくと、フェルトバキューム圧と同様にSD明けから徐々に値が上昇し、相関性のある推移をたどる。図7の(B)は、稼働毎にフェルトバキューム圧とフェルト汚れ指数の傾きを算出し、その傾きの相関関係を示したものである。これらから、フェルト指数の蓄積が、フェルトに付着する汚れ量を示すことが確認された。
【0084】
<試験5> フェルト洗浄剤を使用したときのフェルトバキューム圧とフェルト汚れ指数との関係
フェルト洗浄剤を使用したこと以外は、<試験4>と同じ条件にて、図1に示す装置を5日間稼働した。薬剤濃度は、フェルトシャワー水量に対して、400mg/Lとし、装置を稼働する間連続供給した。
【0085】
フェルトバキューム圧とフェルト汚れ指数との関係を示す時間変化を図8に示す。フェルトコンディショナー適用時のフェルトバキューム圧とフェルト汚れ指数の関係は、フェルトコンディショナー未使用時と異なり、フェルト汚れ指数の推移に対してフェルトバキューム圧の推移が下回る。フェルト汚れ指数は、プレス工程への炭酸カルシウム・ピッチ汚れ持ち込み量の推定である。
【0086】
したがって、フェルトバキューム圧の推移がフェルト汚れ指数の推移を下回ることは、フェルト洗浄剤による洗浄効果を示していると考えられる。実際の操業においても、フェルトバキューム圧の推移がフェルト汚れ指数の推移を下回った期間において、プレスパートでの断紙が低減していることが確認された。
【符号の説明】
【0087】
10 製紙工程
30 濁度測定ユニット
55 ワイヤパート

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8