(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】交換レンズ、カメラボディ及びカメラシステム
(51)【国際特許分類】
G03B 5/00 20210101AFI20221109BHJP
G03B 17/14 20210101ALI20221109BHJP
H04N 5/225 20060101ALI20221109BHJP
H04N 5/232 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
G03B5/00 G
G03B17/14
H04N5/225 400
H04N5/232 480
H04N5/232 030
(21)【出願番号】P 2018133506
(22)【出願日】2018-07-13
【審査請求日】2020-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100142147
【氏名又は名称】本木 久美子
(72)【発明者】
【氏名】三家本 英志
【審査官】登丸 久寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-054264(JP,A)
【文献】特開2015-106086(JP,A)
【文献】特開2016-114792(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B 5/00
G03B 17/14
H04N 5/225
H04N 5/232
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カメラボディに着脱可能な交換レンズであって、
移動可能なブレ補正レンズを備え、被写体の像を形成する光学系と、
ブレを検出して信号を出力する検出部と、
前記カメラボディで前記被写体の像を撮像して生成された画像データから前記カメラボディが算出した動きベクトルの情報、及び前記動きベクトルの信頼の度合いに関する情報を受信するレンズ側受信部と、
前記検出部から出力された前記信号を用いて前記ブレ補正レンズの駆動を制御する制御部と、を有し、
前記信頼の度合いに関する情報は、前記動きベクトルの信頼の度合いを示す予め設定された複数のレベルのうちのいずれのレベルに属するかを示す数値である交換レンズ。
【請求項2】
請求項1に記載の交換レンズにおいて、
前記予め設定された複数のレベルのうちの1つは、前記動きベクトルの演算が演算途中あることを示す交換レンズ。
【請求項3】
請求項1に記載の交換レンズにおいて、
前記予め設定された複数のレベルは、動きベクトルの信頼度の高さを示す複数のレベルと、前記動きベクトルの演算状態を示す複数のレベルとからなる交換レンズ。
【請求項4】
請求項1に記載の交換レンズにおいて、
前記制御部は、前記信頼の度合いに関する情報に基づいて、受信した前記動きベクトルを使用するか否かを決定する交換レンズ。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の交換レンズにおいて、
前記レンズ側受信部は、周期的に前記信頼の度合いに関する情報を受信する交換レンズ。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の交換レンズにおいて、
前記制御部は、前記信頼の度合いに関する情報における信頼の度合いが高いほど、前記ブレ補正レンズの制御に用いる前記動きベクトルの情報の比率を高くする交換レンズ。
【請求項7】
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の交換レンズであって、
前記制御部は、
前記検出部から出力される前記信号の基準値を演算する基準値演算部と、
前記動きベクトルの情報に基づいて前記基準値を補正する基準値補正部と、
前記検出部から出力された前記信号から、前記基準値補正部により補正された基準値を減算した信号を用いて、前記ブレ補正レンズを駆動する目標位置を演算する目標位置演算部と、を備え、
前記基準値補正部は、前記信頼の度合いに関する情報により前記基準値を補正する補正量を変化させる交換レンズ。
【請求項8】
請求項7に記載の交換レンズにおいて、
前記基準値補正部は、前記信頼の度合いに関する情報における信頼の度合いが高いほど、前記基準値を補正する補正量の絶対値を大きくする交換レンズ。
【請求項9】
請求項7に記載の交換レンズにおいて、
前記基準値補正部は、前記信頼の度合いに関する情報における信頼性がない場合には、前記基準値を補正しない交換レンズ。
【請求項10】
請求項7から9のいずれか一項に記載の交換レンズにおいて、
前記動きベクトルの情報は、前記動きベクトルの方向に関する情報である交換レンズ。
【請求項11】
請求項8から10のいずれか一項に記載の交換レンズにおいて、
前記動きベクトルの情報に基づいて前記基準値を補正することを示す情報を前記カメラボディに送信するレンズ側送信部とを有する交換レンズ。
【請求項12】
交換レンズを取り付ける取付部と、
前記交換レンズにより形成された被写体の像を撮像し、撮像信号を出力する撮像部と、
前記撮像信号から生成された複数の画像データを用いて動きベクトルを算出する動きベクトル算出部と、
前記動きベクトルの信頼の度合いに関する情報、及び動きベクトルの情報を、前記交換レンズに送信するカメラボディ側送信部と、を備え、
前記動きベクトルの信頼の度合いに関する情報は、前記動きベクトルの信頼の度合いを示す予め設定された複数のレベルのうちのいずれのレベルに属するかを示す数値であるカメラボディ。
【請求項13】
請求項12に記載のカメラボディであって、
前記信頼の度合いに関する情報は、前記動きベクトルを算出に使用した前記画像データから判断された前記動きベクトルの算出の信頼の度合いに関する情報である、
カメラボディ。
【請求項14】
カメラボディと交換レンズとからなるカメラシステムであって、
前記カメラボディは、
前記交換レンズにより形成された被写体の像を撮像して生成された画像データを用いて動きベクトルを算出する動きベクトル算出部と、
前記動きベクトルの信頼の度合いに関する情報、及び前記動きベクトルの方向に関する情報を含む動きベクトルの情報を、前記交換レンズに送信可能なカメラボディ側送信部と、を備え、
前記交換レンズは、
前記カメラボディ側送信部より送信された前記信頼の度合いに関する情報及び前記動きベクトルの情報を受信するレンズ側受信部を備え、
前記動きベクトルの信頼の度合いに関する情報は、前記動きベクトルの信頼の度合いを示す予め設定された複数のレベルのうちのいずれのレベルに属するかを示す数値であるカメラシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交換レンズ、カメラボディ及びカメラシステムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、撮影された画像データから、画像の動きベクトル情報を検出し、この動きベクトル情報を、ブレ補正レンズの目標駆動位置の演算にフィードバックすることにより、光学的ブレ補正の防振性能を高める技術が提案されている(特許文献1参照)。しかし動きベクトル情報が正しくない場合はブレ補正の防振性能を悪化させることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本発明の交換レンズは、カメラボディに着脱可能な交換レンズであって、移動可能なブレ補正レンズを備え、被写体の像を形成する光学系と、ブレを検出して信号を出力する検出部と、前記カメラボディで前記被写体の像を撮像して生成された画像データから前記カメラボディが算出した動きベクトルの情報、及び前記動きベクトルの信頼の度合いに関する情報を受信するレンズ側受信部と、前記検出部から出力された前記信号を用いて前記ブレ補正レンズの駆動を制御する制御部と、を有し、前記信頼の度合いに関する情報は、前記動きベクトルの信頼の度合いを示す予め設定された複数のレベルのうちのいずれのレベルに属するかを示す数値である構成とした。
【0007】
また、本発明のカメラボディは、交換レンズを取り付ける取付部と、前記交換レンズにより形成された被写体の像を撮像し、撮像信号を出力する撮像部と、前記撮像信号から生成された複数の画像データを用いて動きベクトルを算出する動きベクトル算出部と、前記動きベクトルの信頼の度合いに関する情報、及び動きベクトルの情報を、前記交換レンズに送信するカメラボディ側送信部と、を備え、前記動きベクトルの信頼の度合いに関する情報は、前記動きベクトルの信頼の度合いを示す予め設定された複数のレベルのうちのいずれのレベルに属するかを示す数値である構成とした。
【0008】
さらに、本発明のカメラシステムは、カメラボディと交換レンズとからなるカメラシステムであって、前記カメラボディは、前記交換レンズにより形成された被写体の像を撮像して生成された画像データを用いて動きベクトルを算出する動きベクトル算出部と、前記動きベクトルの信頼の度合いに関する情報、及び前記動きベクトルの方向に関する情報を含む動きベクトルの情報を、前記交換レンズに送信可能なカメラボディ側送信部と、を備え、前記交換レンズは、前記カメラボディ側送信部より送信された前記信頼の度合いに関する情報及び前記動きベクトルの情報を受信するレンズ側受信部を備え、前記動きベクトルの信頼の度合いに関する情報は、前記動きベクトルの信頼の度合いを示す予め設定された複数のレベルのうちのいずれのレベルに属するかを示す数値である構成とした。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】カメラシステムを模式的に示す断面図である。
【
図2】カメラシステムに含まれるブレ補正機構を示すブロック図である。
【
図3】動きベクトル演算部での動きベクトル情報の演算タイミングを説明する図である。
【
図4】ブレ補正機構の動作を示したフローチャートである。
【
図5】
図4の基準値補正ステップの詳細なフローチャートである。
【
図6】(a)は、Yaw方向の基準値を示したグラフであり、(b)は動きベクトル情報の方向を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面等を参照して、実施形態の交換レンズ1B、カメラボディ1A、カメラシステム1について説明する。
図1は、カメラシステム1を模式的に示す断面図である。
図2は、カメラシステム1に含まれるブレ補正機構100を示すブロック図である。
本実施形態においては、
図1に示すように、3次元直交座標系が設定される。具体的には、交換レンズ1Bの光軸に平行な軸をZ軸(紙面左右方向)とし、Z軸に垂直な平面内でZ軸と交わる軸をX軸(紙面に垂直な方向)とし、Z軸に垂直な平面内でZ軸とX軸とに垂直に交わる軸をY軸(紙面上下方向)とする。Z軸を中心とする回転方向をRoll方向、Y軸を中心とする回転方向をYaw方向、X軸を中心とする回転方向をPitch方向とする。
【0011】
(カメラシステム1)
カメラシステム1は、カメラボディ1Aと、このカメラボディ1Aに対して着脱可能に装着される交換レンズ1Bとを備える。
【0012】
(カメラボディ1A)
カメラボディ1Aは、撮像素子3、記録媒体13、ボディ記憶部14、レリーズスイッチ17、背面液晶18、シャッタ20、及び交換レンズ1Bとの通信用のボディ側送受信部21及びボディCPU2Aを備える。なお、ボディ側送受信部21、及びボディCPU2Aは、ブレ補正機構100の一部である。
【0013】
撮像素子3は撮影光学系の予定焦点面に設けられ、交換レンズ1Bの撮影光学系4,5,6を介して入射した被写体からの光を光電変換して信号を生成する行方向および列方向に二次元に画素が配列された素子であり、例えばCCD、CMOSなどの素子により構成されている。撮像素子3から出力された信号から、ボディCPU2Aに含まれる後述の信号処理部40で画像データが生成される。
【0014】
記録媒体13は、撮像された画像データを記録するための媒体であり、SDカード、CFカード等のメモリーカードが使用される。記録媒体13は内蔵の記録媒体でも構わない。
【0015】
ボディ記憶部14は、例えばEEPROM等のメモリである。
【0016】
撮像素子3は画像生成用の画像用画素と焦点検出用の焦点検出用画素とを有し、ボディCPU2Aは、焦点検出用画素からの画素出力データ(出力信号)を用いて周知の瞳分割式位相差方式により焦点検出処理を行う。撮像素子3は、1つの画素内に複数の光電変換部を有し、画像生成用の画素と焦点検出用の画素とを兼用する構成としても構わない。または、撮像素子3の画像用画素から出力されるデータを用いて周知のコントラスト方式により焦点検出を行ってもよい。
【0017】
レリーズスイッチ17は、カメラシステム1の静止画の撮影の指示または動画の指示を行う操作部材である。
【0018】
背面液晶18は、カメラボディ1Aの背面に設けられ、撮影した被写体像(再生画像、ライブビュー画像)や操作に関連した情報(メニュー)などを表示するディスプレイである。また、カメラの各種設定を行うためのタッチパネルを有しても良い。
【0019】
本実施形態では、シャッタ20を、撮像素子3の前方に配置している。シャッタ20は、レリーズスイッチ17などによる撮影指示に応じてシャッタ幕を走行させ、撮像素子3に入射する被写体光を制御する。なお、撮像素子3の蓄積時間制御によるいわゆる電子シャッタを利用する場合には、シャッタ20を配置しなくても良い。
【0020】
ボディCPU2Aは、カメラシステム1の全体の制御を行う中央処理装置である。ボディCPU2Aについては後に詳述する。
【0021】
(交換レンズ1B)
次に、交換レンズ1Bについて説明する。交換レンズ1Bは、ズームレンズ4、フォーカスレンズ5、ブレ補正レンズ6、ズームレンズ駆動機構7、フォーカスレンズ駆動機構8、ブレ補正レンズ駆動機構9、絞り10、絞り駆動機構11、角速度センサ12、ブレ補正レンズ位置検出部23(
図2)、レンズCPU2B、及びレンズ側送受信部22を備える。
ブレ補正レンズ6、ブレ補正レンズ駆動機構9、角速度センサ12、ブレ補正レンズ位置検出部23、レンズCPU2B、及びレンズ側送受信部22は、
図2に示すブレ補正機構100の一部である。
【0022】
ズームレンズ4は、例えば、ズームリングであるズームレンズ駆動機構7により駆動され、光軸方向に沿って移動することにより、焦点距離を連続的に変化させるレンズ群である。なお、ズームレンズ駆動機構7は、ズームリングの回転等を検出してレンズCPUからの信号によりズームレンズを電動駆動するものであってもよい。また、ボタン操作によってズーミングするものであってもよい。
【0023】
フォーカスレンズ5は、フォーカスレンズ駆動機構8により駆動され、光軸方向(Z軸方向)に移動して、焦点を合わせるレンズ群である。すなわち交換レンズ1Bにより形成された特定の被写体像の位置を撮像素子3の撮像面の位置に一致させる(合焦する)ためのレンズである。
【0024】
ブレ補正レンズ6は、VCM(ヴォイスコイルモータ)等のブレ補正レンズ駆動機構9により光学的にブレ補正駆動され、光軸に交差する方向に移動可能なレンズ群である。
【0025】
絞り10は、絞り駆動機構11に駆動され、撮影光学系4,5,6を通過する被写体光の光量を制御する機構である。
【0026】
角速度センサ12は、交換レンズ1Bに生じる振れの角速度を検出するセンサである。X軸回り(Pitch)、Y軸回り(Yaw)、の角速度を検出する振動ジャイロ等のセンサである。なお、角速度センサ12は、さらにZ軸回り(Roll)の角速度も検出してもよい。
【0027】
レンズCPU2Bは、フォーカスレンズ5、ブレ補正レンズ6等のレンズの駆動量演算を行う。そして、フォーカスレンズ駆動機構8、ブレ補正レンズ駆動機構9に駆動量を指示してフォーカスレンズ5、ブレ補正レンズ6を移動させる。
【0028】
レンズ側送受信部22は、カメラボディ1Aから動きベクトルの情報を受信し、後述する角速度センサ12から出力された信号をカメラボディ1Aから受信した動きベクトルの情報で補正することを示す情報やブレ補正レンズ6を備えていることを示す情報をカメラボディ1Aに送信する不図示の第1通信端子と、ブレ補正レンズ6の位置などの駆動状態に関する情報をカメラボディ1Aに送信する不図示の第2通信端子とを備えている。第2通信端子は、フォーカスレンズ5の位置などの駆動状態に関する情報をカメラボディ1Aに送信しても構わない。また、第2通信端子は、第1通信端子から角速度センサ12から出力された信号をカメラボディ1Aから受信した動きベクトルの情報で補正するか否かを示す情報を送信しても構わない。第1通信端子を介して、カメラボディ1Aとの初期化通信の一部としてカメラボディ1Aからの要求があると、上記した情報をカメラボディ1Aへ送信しても構わない。また第2通信端子は、ブレ補正レンズ6の位置やフォーカスレンズ5の位置の情報などを定期的(1ミリ秒ごと)にカメラボディ1Aに送っても構わない。
レンズ側送受信部22は、第1通信端子や第2通信端子以外に、電源端子やグラウンド端子など他の端子を備えても良い。
レンズCPU2Bのその他の機能については後に詳述する。
【0029】
図2は、カメラシステム1に含まれるブレ補正機構100を示すブロック図である。ブレ補正機構100は、ボディCPU2Aの一部とレンズCPU2Bの一部とにより構成される。
【0030】
(ボディCPU2A)
ボディCPU2Aは、カメラボディ1Aの制御を行う中央処理装置である。
図2に示すように、ボディCPU2Aは、信号処理部40と動きベクトル演算部41とを備える。
【0031】
信号処理部40は、撮像素子3により出力された信号に対してノイズ処理やA/D変換等の処理を行い、画像データを生成する。
【0032】
動きベクトル演算部41は、信号処理部40により生成された複数の画像データから、像の動き(動き方向、動き量)である動きベクトルを演算する。動きベクトルとは、時間的に連続する複数の画像内の被写体像の変化を示すベクトルである。また、本実施形態では、後述するように撮影時にブレ補正レンズ6を駆動してブレ補正動作を行うが、動きベクトルはそのブレ補正レンズ6を駆動したブレ補正動作を行ってもブレを補正しきれずに、撮像した画像データに残るブレである。
【0033】
動きベクトルについて、説明を続ける。動きベクトルが発生する主たる理由は角速度センサの基準値に誤差が生じているためである。ブレ補正レンズ6を駆動するブレ補正動作は、角速度センサ12の出力に基づいて、振動のない静止状態とみなされる角速度センサの出力値を基準値として求め、その基準値に対する角速度センサ12の出力値の差分(実際の振動量に相当する)を求め、この差分すなわち振動を打ち消すように、ブレ補正レンズ6を駆動する。しかし、角速度の基準値は、温度特性や起動直後のドリフト特性等により変化する。そのため基準値が正確でない場合は、基準値と角速度センサ12の出力値との差分に誤差が生じることとなる。この誤差分がブレ補正レンズ6を駆動してブレ補正を行っても、振動が補正しきれずに、撮影画像にブレ(振動による画像の流れ)が残存することとなる。この残存するブレが動きベクトルである。上述した基準値の誤差以外にも、角速度センサ自体の振動検出精度や、振動演算速度および演算精度、あるいは補正レンズの移動量不足などもあるが、本実施形態では、基準値の誤差に着目し、この誤差を低減する構成としている。
【0034】
動きベクトルは、振動のない静止状態における角速度センサの出力である基準値に、フィードバックされて、基準値を補正するために用いられる。
動きベクトル演算部41が出力する動きベクトルは、X軸方向、Y軸方向、Roll方向の符号付きの大きさ等で表される。また、詳しくは後述するが、動きベクトルの発生時刻と、演算した動きベクトルをボディ側送受信部21からレンズ側送受信部22へ送信される時刻とのずれを検出遅れ時間とする。動きベクトル情報には、動きベクトル及び検出遅れ時間等が含まれる。
なお、動きベクトルは、符号付きの大きさに限らず符号付きの画素数など撮影画像に残存するブレを表すものなら何でもよい。
【0035】
具体的には、動きベクトル演算部41は、次に述べるように、撮像素子3により撮像された画像データに含まれる高輝度の特徴部の位置変化を求め、2つ以上の画像データを比較して、その高輝度の特徴部の動き方向及び動き量を検出し、動きベクトルを演算する。高輝度の特徴部を求める輝度情報以外にも、画像のパターンマッチングなどで動きベクトルを演算してもよい。
なお、動きベクトルは、1つの画像から検出してもよいし、連続する2つの画像、時間的に離れて撮影された2つの画像、3つの画像から演算してもよい。
【0036】
(動きベクトルの演算)
図3は、動きベクトル演算部41での動きベクトルの演算タイミングの一例を説明する図である。
図3の横軸は時間、
図3(a)の縦軸は撮像素子3の行の位置を示す。n番目の画像データについて説明すると、一番上のラインが撮像素子3の最初に画像データの蓄積が行われる画素の行である。
図3(a)の平行四辺形の領域内で、撮像素子3のn番目の画像データの蓄積が行われる。すなわち、最初の行(一番上のライン)が画像データの蓄積を行う時間と最後の行(一番下のライン)が画像データの蓄積を行う時間は、ずれている(ローリングシャッタとも呼ばれる)。
【0037】
動きベクトル演算部41は、n-1番目の画像データと、n-1番目の画像データに引き続き撮像されたn番目の画像データとから動きベクトルを演算する。その後も対象画像データとその次の画像データ(n番目とその次のn+1番目の画像データ、n+1番目とn+2番目の画像データ、・・・)とから動きベクトルを連続して演算する。
【0038】
本実施形態では、撮像素子3において15fpsで画像データが生成され、約67msごとに1回、動きベクトルが得られる。また、ボディ側送受信部21とレンズ側送受信部22との通信タイミングは、30fpsである。
したがって、動きベクトルの大きさ、動き方向及び検出遅れ時間を含む動きベクトル情報の送信は、ボディ側送受信部21とレンズ側送受信部22との通信の2回に1回となる。
【0039】
(時間遅れ)
図中、時刻t1は、撮像素子3に、n-1番目の画像データの蓄積が開始された時間である。
時刻t2はn-1番目の画像データの蓄積が開始された時刻と蓄積が終了された時刻とのちょうど中間の時刻である。
時刻t4はn番目の画像データの蓄積が開始された時間である。
時刻t5はn番目の画像データの蓄積が開始された時刻と蓄積が終了した時刻とのちょうど中間の時刻である。
時刻t6は、n-1の画像データとnの画像データとから演算された動きベクトル情報がボディ側送受信部21からレンズ側送受信部22へ送信される時刻である。この時刻t6に送信される動きベクトルの発生時刻は、t5とt2とのちょうど中間のt3と考えるのが妥当である。したがって、動きベクトル情報が送信される時刻と、動きベクトルが発生した時刻との間には、t6-t3の検出遅れ時間が生じている。
【0040】
なお、カメラボディ1Aは、交換レンズ1Bの焦点距離をレンズ側送受信部22から、ボディ側送受信部21より受信可能で、受信した焦点距離が所定の焦点距離よりもワイド側(小さい)の場合、動きベクトル演算部41は、動きベクトルを演算する際の、2枚の画像データの時間間隔を長くしてもよい。または、ボディCPU2Aで演算して求めた動きベクトルが所定値よりも小さい場合にも、動きベクトル演算部41は、動きベクトルを演算する際の、2枚の画像データの時間間隔を長くしてもよい。これにより、動きベクトル検出精度を向上させることができる。
【0041】
(信頼度)
動きベクトル演算部41においては、動きベクトルの信頼の度合いの情報である信頼度情報も求める。信頼度情報は、以下に述べる「信頼度」、「算出不能」、「算出途中」又は「算出停止」のいずれかの情報を含む。また、信頼度情報としては後述するレベルが含まれる。
信頼度は、動きベクトルの検出精度と相関性があり、例えば、以下のような判断基準に基づいて総合的に判断される。
【0042】
(コントラスト)
画像データのコントラストが低くなればなるほど対象とする画像データの中の動きベクトルを検出するための特徴点を特定することが困難となる。さらに2枚の画像データで同一の特徴点を特定することが困難となる。つまり、低コントラストの2枚の画像データ間における特徴点の位置を誤検出してしまうなど、動きベクトルを正確に検出できない可能性がある。したがって、画像データのコントラストが低い場合は、信頼度(レベル)を低くする。
【0043】
(動体の有無)
動きベクトルを求める場合、本実施形態では、1枚の画像データを複数領域に分割し、それぞれの領域において、高輝度の特徴点を検出する。動きベクトルを求めるために2枚の画像をそれぞれ複数領域に分割し高輝度の特徴点を検出し、2枚の画像データにおける、それぞれの領域内での特徴点の位置を比較する。その特徴点の移動量から動きベクトルを検出する。
静止している被写体を撮影した場合は、2つの画像データの全ての領域で動きベクトルがほぼ等しくなる。しかし動体の被写体(動いている被写体)を撮影した場合、2枚の画像を比較すると、ある特定の分割領域(動体被写体の部分)での動きベクトルが、他の領域の動きベクトと比べて大きさや動き方向が異なり、領域間でばらつきが大きくなる。領域毎にばらつきの大きい2枚の画像データから動きベクトルを演算すると、カメラの振動による動きベクトルを正確に検出できない可能性がある。したがって、領域毎の動きベクトルがばらつく場合、画像データに動体被写体が含まれていると認識し、信頼度(レベル)を低くする。
【0044】
(動きベクトルの急激な変化)
前述したように、画像データを取得するたびに、動きベクトルを連続して演算するが、演算した動きベクトルの大きさや動き方向が前に演算して得られた動きベクトルに対して急激に変化した場合は、特徴点の誤検出等の発生が考えられる。したがって、算出した動きベクトルが、急激に変化した場合、動きベクトルの信頼度(レベル)を低くする。
【0045】
(信頼度のレベル)
本実施形態では、信頼度は例えばレベル0から4の5段階で示される。レベル4は信頼度が最も高い。レベルの数値が小さくなるほど信頼度は低くなり、レベル0は信頼度が最も低い。
【0046】
また、いずれのレベルの信頼度にも当てはめることのできない以下のような場合もある。
(算出不能)
例えば、比較する2枚の画像データのうち、少なくとも1枚の画面全体が白とびや黒潰れ画像データだった場合等、動きベクトルの演算をして何らかの結果が出ても、演算結果は信用できない。このような場合、動きベクトル演算部41は、動きベクトル算出不能と判断する。
【0047】
(算出途中)
本実施形態において、上述したように、交換レンズ1Bとカメラボディ1Aとの通信は30fpsで行われている。つまり、交換レンズ1Bに対してカメラボディ1Aは30fpsで動きベクトル情報を送信可能である。しかし本実施形態では、動きベクトルの計算は15fpsで行う。そのため、カメラボディ1Aから30fps間隔で送られる動きベクトル情報を送れるが、2回に1回は動きベクトルが算出されないことになる。この30fps間隔における2回に1回の動きベクトルが演算中の場合、動きベクトル演算部41は、動きベクトル算出途中と判断する。
【0048】
(算出停止)
また、カメラボディ1Aの電源がONにされた直後で撮像素子3自体が起動していない場合や、背面液晶18がメニュー表示をしていてスルー画が作成されない場合もある。このように動きベクトルを演算する画像データが存在しない場合、動きベクトル演算部41は動きベクトルを算出することができず、動きベクトル算出停止中と判断する。
【0049】
ボディ側送受信部21は、カメラボディ1Aに交換レンズ1Bが装着されたときに、レンズ側送受信部22と接触する。これにより、カメラボディ1Aと交換レンズ1Bとの送受信が可能となる。
ボディ側送受信部21は、動きベクトル演算部41で演算された動きベクトル情報及び信頼度情報を含む情報を、レンズ側送受信部22に送信する。
【0050】
信頼度情報は、上述のレベル0から4の信頼度、算出不能、算出途中、算出停止(カメラボディ自体が算出機能なしの場合も含む)のいずれかを示す情報である。信頼度情報は、以下の表に示す0から7のいずれかの信号値として、ボディ側送受信部21からレンズ側送受信部22へと送られる。
【表1】
【0051】
(レンズCPU2B)
図2に戻り、交換レンズ1BのレンズCPU2Bは、増幅部31と、第1A/D変換部32、第2A/D変換部33、基準値演算部34、積分部を内部に含む目標位置演算部36、センタバイアス演算部37、基準値補正部50、駆動量演算部39及び減算部43を備える。
【0052】
増幅部31は、角速度センサ12の出力を増幅する。
【0053】
第1A/D変換部32は、増幅部31の出力をA/D変換する。
【0054】
基準値演算部34は、角速度センサ12から得られた振動検出信号(第1A/D変換部32の出力)の基準値(補正前の基準値)を演算する。上述したように、角速度の基準値とは、カメラシステム1に振動が加わっていない状態(例えば静止しているとき)などで角速度センサ12から出力される値であり、角速度の基準となる値である。基準値演算部34は、角速度センサ12の出力から所定の高周波成分を低減するローパスフィルタの出力に基づいて基準値を求める。
【0055】
減算部43は、基準値演算部34において演算された基準値を、第1A/D変換部32の出力から減算する。
【0056】
目標位置演算部36は、減算部43において基準値が減算された後の角速度センサ12の出力を基に、ブレ補正レンズ6の目標位置を演算する。上述したように、基準値と角速度センサ12の出力値との差分が、カメラシステム1に加わっている実際の振動量に相当し、この差分すなわち振動を打ち消すように、ブレ補正レンズ6を駆動する目標位置を演算する。
【0057】
センタバイアス演算部37は、目標位置演算部36によって演算されたブレ補正レンズ6の目標位置に基づいて、ブレ補正レンズ6を、その可動範囲の中心に向かって移動させるための向心力に対応する量をバイアス量として演算する。
そして、ブレ補正レンズ6の目標位置から、演算したバイアス量を減算することによりブレ補正レンズ6の目標位置を修正する。
このようにセンタリングバイアス処理を行うことで、ブレ補正レンズ6がハードリミット(メカ的な駆動限界)に衝突することを有効に防止することができ、さらには、レンズの性能が悪化する可動域の周辺にブレ補正レンズが留まることを防止することで、撮影画像の見栄えを向上させることができる。
【0058】
駆動量演算部39は、目標位置演算部36からの目標位置と、ブレ補正レンズ位置検出部23により検出され、第2A/D変換部33によりA/D変換された値から求められたブレ補正レンズ6の現在位置から、ブレ補正レンズ駆動機構9の駆動量を演算する。
【0059】
レンズ側送受信部22は、上述したように、カメラボディ1Aに交換レンズ1Bが装着されると、ボディ側送受信部21と接触し、カメラボディ1Aと交換レンズ1Bとの間で種々の情報の送受信が可能になる。
レンズ側送受信部22は、ボディ側送受信部21から、動きベクトル演算部41で演算された動きベクトル情報及び信頼度情報を受信する。
【0060】
基準値補正部50は、センタバイアス除去部38、基準値補正量演算部35、減加算部42を備える。
【0061】
以下の説明では、X方向の基準値の補正について説明する。動きベクトルのX方向(X成分)の情報を、動きベクトルXとする。Y方向の基準値の補正ついても、X方向と同様である。本実施形態では、動きベクトルのRoll方向の情報は受信しない。
【0062】
センタバイアス除去部38は、動きベクトルXから、センタバイアス演算部37において演算された(ブレ補正レンズ6の目標位置から減算された)X成分のバイアス量Xに対応する動きベクトルであるバイアス補正量X(動きベクトル補正量X)を減算する。動きベクトルであるバイアス補正量Xは、バイアス量Xを微分した値に基づいて後述する式で算出される。
ブレ補正レンズ6の目標位置からバイアス量が減算されることにより画像中に発生した動きベクトルのX成分(バイアス補正量Xである動きベクトル補正量X)を、動きベクトルXから減算する。減算後の動きベクトルX(後述する補正後動きベクトルMV)にはセンタバイアス処理による影響は除去されている。すなわち、動きベクトルXからバイアス補正量X(動きベクトル補正量X)を減算することにより、基準値の変動(基準値の誤差)のみにより生じる画像のブレに対応する動きベクトルを算出することができる。
【0063】
基準値補正量演算部35は、センタバイアス除去部38においてバイアス補正量Xが除去された動きベクトルXをもとに、Y軸周り(Yaw)方向の角速度センサの出力値から基準値補正量を演算する。バイアス補正量Xが除去された動きベクトルXは基準値の誤算により生じているので、バイアス補正量Xが除去された動きベクトルXをフィードバックして、基準値を補正する。
【0064】
減加算部42は、基準値演算部34により演算された補正量で基準値を補正して補正後の基準値を求める。減加算部42で演算された基準値は、基準値演算部34にフィードバックされる。
【0065】
(ブレ補正機構100の動作)
次に、ブレ補正機構100の動作について説明する。
図4は、ブレ補正機構100の動作を示したブレ補正処理のフローチャートである。
【0066】
以下の説明で、説明を容易にするため、ブレ補正機構100の一部として交換レンズ1BのレンズCPU2Bが行う動作を交換レンズ1Bが行う動作として説明し、ブレ補正機構100の一部としてカメラボディ1AのボディCPU2Aが行う動作をカメラボディ1Aが行う動作として説明する。
【0067】
(交換レンズ1B側)
ステップ101:交換レンズ1Bは、上述したブレ補正レンズ6、角速度センサ12、ブレ補正レンズ位置検出部23などのブレ補正機能を有している場合(ステップ101,YES)ステップ102へ進む。
交換レンズ1Bは、ブレ補正機能を有していない場合(ステップ101,NO)ブレ補正処理を終了する。
【0068】
ステップ102:交換レンズ1Bは、レンズ側送受信部22から、交換レンズ1Bがブレ補正機能を有しているという信号を、カメラボディ1Aに送信し、ステップ103へ進む。
ステップ103:交換レンズ1Bは、基準値補正機能を有している場合、(ステップ103、YES)ステップ104へ進む。
交換レンズ1Bは、基準値補正機能を有していない場合(ステップ103、NO)、ステップ114へ進む。
【0069】
ステップ104:交換レンズ1Bは、基準値補正機能を有していることを示す信号をカメラボディ1Aに送信し、ステップ105へ進む。
【0070】
ステップ105:交換レンズ1Bは、角速度センサ12の出力を、増幅部31で増幅し、第1A/D変換部32によりA/D変換し、ステップ106へ進む。
【0071】
ステップ106:交換レンズ1Bは、基準値演算部34において、角速度センサ12の出力のA/D変換後の信号を基に、角速度の初期の基準値(第1基準値)を演算し、ステップ107へ進む。
【0072】
上述のとおり、角速度の基準値は、温度特性や起動直後のドリフト特性等により変化するため、例えば、工場出荷時における静止時出力を基準値に用いることはできない。このため、このようにブレ補正処理が行われている最中に、基準値演算部34において角速度の基準値を演算する。
【0073】
本実施形態では、ローパスフィルタ処理(LPF処理)による基準値演算を用いる。LPF処理のカットオフ周波数fcは、0.1[Hz]程度の低い周波数に設定するのが一般的である。これは、手ブレは1~10[Hz]程度の周波数が支配的であることに起因する。0.1[Hz]のカットオフ周波数fcであれば、手ブレ成分に与える影響は少なく、良好なブレ補正を行うことができる。
しかしながら、実際の撮影時には、構図の微調整(パンニング検出できないレベルの)等、低周波の動きが加わるため、基準値演算結果に誤差を持ってしまうこともある。また、fcが低い(時定数が大きい)為に、一端誤差が大きくなってしまった場合、真値に収束するまでに時間を要してしまうという課題がある。基準値補正は、基準値の誤差を補正するものである。
【0074】
(カメラボディ1A側)
ステップ201:カメラボディ1Aは、ボディ側送受信部21において、カメラボディ1Aと交換レンズ1Bとの間の初期通信で、交換レンズ1Bからブレ補正機能を有しているという信号を受信すると(ステップ201,YES)ステップ202へ進む。
カメラボディ1Aは、ボディ側送受信部21において、交換レンズ1Bがブレ補正機能を有しているという信号を受信しない場合、ブレ補正処理を終了する。
【0075】
ステップ202:カメラボディ1Aは、ボディ側送受信部21において、交換レンズ1Bが送信した動きベクトルで角速度センサの基準値補正機能を有しているという信号を受信すると(ステップ202,YES)、ステップ203へ進む。
カメラボディ1Aは、ボディ側送受信部21において、交換レンズ1Bが基準値補正機能を有しているという信号を受信しない場合、ブレ補正処理を終了する。
【0076】
ステップ203:カメラボディ1Aは、動きベクトルが演算可能である場合、ステップ204へ進む。
カメラボディ1Aは、動きベクトルが演算可能でない場合、すなわち、算出停止中(算出機能なしも含む)、算出途中の場合、ステップ207へ進む。
【0077】
ステップ204:カメラボディ1Aは、
図3に基づいて上述したように、動きベクトルを演算する。
【0078】
ステップ205:カメラボディ1Aは、演算した動きベクトルの信頼度情報を取得可能である場合(表1参照)、ステップ206へ進む。
カメラボディ1Aは、上述したように、少なくとも1枚の画面全体が白とびや黒潰れ画像データだった場合等で、動きベクトルが算出不能(算出されたが有効な値でない)である場合、信頼度情報を取得せずにステップ207へ進む。
【0079】
ステップ206:カメラボディ1Aは、表1に基づいて上述したように信号値0から7で示される信頼度情報を取得する。
【0080】
ステップ207:カメラボディ1Aは、ボディ側送受信部21から、動きベクトル情報及び信頼度情報を、交換レンズ1Bに送信する。
【0081】
(交換レンズ1B側)
ステップ107:交換レンズ1Bは、レンズ側送受信部22において、動きベクトル情報及び信頼度情報を受信すると(ステップ107,YES)、ステップ108へ進む。
ここで、動きベクトル情報及び信頼度情報を受信する場合について説明する。
(1)カメラボディ1Aが動きベクトル演算機能を有し、且つ信頼度情報を取得可能で、信頼度情報の信号値が2,3,4,5,6,7の場合、交換レンズ1Bはカメラボディ1Aから、動きベクトル情報と信頼度情報とを受信する(なお、信号値2の場合は、動きベクトル情報は含まなくてもよい)。この場合、動きベクトル情報も信頼度情報も使用する。
(2)カメラボディ1Aが動きベクトル演算機能を有し、且つ信頼度情報を取得可能であっても、信頼度情報の信号値が0,1の場合、交換レンズ1Bは、カメラボディ1Aから受信した動きベクトル情報と信頼度情報のうち、動きベクトル情報は使用することなく、信頼度情報だけを使用する。
(3)カメラボディ1Aが動きベクトル演算機能を有しているが、信頼度情報を取得可能でない場合、交換レンズ1Bはカメラボディ1Aから受信した動きベクトル情報と信頼度情報のうち、動きベクトル情報だけを使用し、信頼度情報は使用しない。
【0082】
交換レンズ1Bは、レンズ側送受信部22において、動きベクトル情報及び信頼度情報を受信しない場合(ステップ107,NO)、基準値補正をせずにステップ109へ進む。
ここで、動きベクトル情報及び信頼度情報を受信しない場合とは、以下である。
(1)カメラボディ1Aが動きベクトル演算機能を有していない場合、動きベクトル情報は演算されず、また信頼度情報は取得されないので、交換レンズ1Bはカメラボディ1Aから、動きベクトル情報及び信頼度情報は受信しない。
(2)光学ブレ補正の制御周期は例えば1msで、本実施形態の通信周期である33msに対して高速である。このため、交換レンズ1Bは、カメラボディ1Aとの通信周期(30fps)であると、レンズ側送受信部22において、動きベクトル情報及び信頼度情報を受信するが、それ以外では、動きベクトル情報及び信頼度情報を受信せずに、光学ブレ補正の制御を行う。
【0083】
ステップ108:受信した動きベクトル情報及び信頼度情報に基づき、基準値補正量を演算し、その基準値補正量を基準値から減加算して基準値補正を行う。このステップ108については
図5に基づいて後述する。
【0084】
ステップ109:交換レンズ1Bは、補正後(基準値減算後)の角速度センサ12の出力を積算し、焦点距離、被写体距離、ブレ補正レンズの単位シフト量に対する被写体像のズレ量の比の情報を基に、ブレ補正レンズ6の目標位置を演算し、ステップ110へ進む。
【0085】
ステップ110:交換レンズ1Bは、ブレ補正レンズ6が可動端へ到達することを防ぐため、センタバイアス処理を行い、ステップ111へ進む。
センタバイアス処理の方法については、目標位置情報に応じてバイアス量を設定する方法や、HPF処理、不完全積分処理(ステップ109にて)等、種々あるが、ここでは方法は問わない。
【0086】
ステップ111:交換レンズ1Bは、センタバイアス成分を加味した目標位置情報と、ブレ補正レンズ位置情報の差分から、駆動量演算部39においてレンズ駆動量を演算し、ステップ112ヘ進む。
【0087】
ステップ112:交換レンズ1Bは、ブレ補正レンズ駆動機構9によりブレ補正レンズ6を目標位置まで駆動させ、S113ヘ進む。
【0088】
ステップ113:交換レンズ1Bは、ブレ補正機能がOFFにならない場合(ステップ113,NO)、ステップ114へ進む。
交換レンズ1Bは、ブレ補正機能がOFFの場合(ステップ113,YES)、レンズ側ブレ補正処理を終了する。
【0089】
ステップ114:交換レンズ1Bは、ステップ103と同様に、新たな角速度センサ12の出力を、増幅部31で増幅し、第1A/D変換部32によりA/D変換し、ステップ115へ進む。
【0090】
ステップ115:交換レンズ1Bは、ステップ104と同様に、基準値演算部34において、角速度センサ12の出力のA/D変換後の信号を基に、演算上の角速度の基準値(ゼロdeg/s相当の値)を演算し、ステップ107へ戻り、ステップ107以降の動作を繰り返す。
【0091】
(カメラボディ1A側)
ステップ208:カメラボディ1Aは、ブレ補正機能がOFFにならない場合(ステップ208,NO)、ステップ203へ戻り、ステップ203以降の動作を繰り返す。
カメラボディ1Aは、ブレ補正機能がOFFの場合(ステップ208,YES)、ボディ側ブレ補正処理を終了する。
【0092】
図5は
図4の基準値補正ステップ108の詳細なフローチャートである。
ステップ301:交換レンズ1Bは、ブレ補正レンズ6のバイアス量を像面での大きさに換算し、撮像素子3の画素数で示される動きベクトル補正量を算出する。すなわち、ブレ補正レンズのセンタバイアス処理によって余分に生じる動きベクトルの大きさを算出する。換算は、焦点距離、撮影倍率、動きベクトルの分解能情報、バイアス量を基に以下の式で演算される。
Bias_MV=Bias_θ*f*(1+β)/MV_pitch
Bias_MV:動きベクトル補正量
Bias_θ:バイアス量(微分値)
f:焦点距離
β:撮影倍率
MV_pitch:動きベクトルピッチサイズ
(画素間隔:動きベクトルの分解能情報)
【0093】
また、動きベクトルの発生時刻と動きベクトル情報の交換レンズ1Bでの受信の時刻とでは、ずれが発生するため、動きベクトル補正量の算出に使用するバイアス量は動きベクトルの発生時刻のバイアス量を使用することが好ましい。カメラボディ1Aから受信した検出遅れ時間分だけ、前の時間に撮影した画像データから検出した動きベクトルから算出したバイアス量を用いることで、より正確に動きベクトル補正量が演算できる。
【0094】
ステップ302:交換レンズ1Bは、センタバイアス除去部38においてステップ301で演算した動きベクトル補正量をカメラボディ1Aから受信した動きベクトルから減算した補正後動きベクトル(MV)を算出し、ステップ303へ進む。
【0095】
ステップ303:交換レンズ1Bは、基準値補正量演算部35において、補正後動きベクトル(MV)を基に、動きベクトルによる基準値の補正量(基準値補正量)を設定してステップ304へ進む。基準値補正量は、以下の考えにより設定される。
すなわち、補正後動きベクトル(MV)が正の場合は、負の定数である基準値補正量が設定される。補正後動きベクトル(MV)が負の場合は、正の定数である基準値補正量が設定される。補正後動きベクトル(MV)が0の場合は、基準値補正が0となる。
MV>0:ω0_comp=-(α×ω0_comp_def)
MV<0:ω0_comp=+(α×ω0_comp_def)
MV=0:ω0_comp=0
ω0_comp:基準値補正量
ω0_comp_def:基準値補正定数
なおαは、信頼度により定まる係数であり、後述するが、本実施形態では、0.2刻みで0~1の係数である。前述した表1との対応関係を示すと以下のとおりである。
信号値7(信頼度4)の場合:α=1.0
信号値6(信頼度3)の場合:α=0.8
信号値5(信頼度2)の場合:α=0.6
信号値4(信頼度1)の場合:α=0.4
信号値3(信頼度0)の場合:α=0.2
信号値2(算出不能)の場合:α=0
信号値1(算出途中)の場合:α=0
信号値0(算出停止中)の場合:α=0
基準値補正定数は撮影レンズの焦点距離で決定される定数である。焦点距離を考慮するのは、焦点距離と角速度の乗算によって像面の移動量が変化するからである。
【0096】
ステップ304:交換レンズ1Bは、減加算部42において、ステップ303にて演算したω0_compをステップ106で演算した第1基準値から加算あるいは減算して補正後の第2基準値を求める。
なお補正後の第2基準値はその後のステップ(
図4参照)において、ステップ114からステップ103へと戻った際に、ステップ106で算出される第1基準値として使用される。すなわち、ステップ106で第1基準値を求め、ステップ109で第1基準値を補正して算出した第2基準値は、ステップ114からステップ103へ戻って再度ステップ106の処理の際に新たな第1基準値として扱われる。
【0097】
図6は本実施形態における、基準値補正処理を示す図である。
図6(a)は、Yaw方向の基準値の例を示したグラフである。図中点線は本実施形態による動きベクトルによる補正をしなかった場合の基準値を示し、図中実線は、本実施形態により補正した場合の基準値を示す。
図6(b)はX方向の動きベクトルが検出された時刻と、動きベクトルの変化の方向と、信頼度情報とを示したグラフである。
図6(a)および(b)の時間軸は同一である。
【0098】
(1)時刻T2,T4,T6,T8,T10,T12,T14,T16,T18、T24,T26の場合、レンズ側送受信部22で受信した信号値は1(算出途中)であるのでα=0である。したがって、ω0_comp=0である。
【0099】
(2)時刻T1,T13,T17の場合、レンズ側送受信部22で受信した信号値は7(信頼度4)であるのでα=1.0、また正の動きベクトルが検出されている。したがって、ω0_comp=-1.0×ω0_comp_defである。
【0100】
(3)時刻T3の場合、レンズ側送受信部22で受信した信号値は3(信頼度0)であるのでα=0.2、また正の動きベクトルが検出されている。したがって、ω0_comp=-0.2×ω0_comp_defである。
時刻T3では、時刻T1で補正された基準値(第2基準値)が時刻T3までの間に変化した基準値を第1基準値として、補正を行う。
【0101】
(4)時刻T5の場合、レンズ側送受信部22で受信した信号値は5(信頼度2)であるのでα=0.6、また正の動きベクトルが検出されている。したがって、ω0_comp=-0.6×ω0_comp_defである。
【0102】
(5)時刻T7の場合、レンズ側送受信部22で受信した信号値は6(信頼度3)であるのでα=0.8、また正の動きベクトルが検出されている。したがって、ω0_comp=-0.8×ω0_comp_defである。
【0103】
(6)時刻T9の場合、レンズ側送受信部22で受信した信号値は4(信頼1)であるのでα=0.4、また正の動きベクトルが検出されている。したがって、ω0_comp=-0.4×ω0_comp_defである。
【0104】
(7)時刻T11、15の場合、レンズ側送受信部22で受信した信号値は2(算出不能)であり、動きベクトルは検出されていない。したがって、ω0_comp=0である。
【0105】
(8)時刻T19の場合、レンズ側送受信部22で受信した信号値は7(信頼4)であるが、検出された動きベクトルの変化量は0である。したがって、ω0_comp=0である。
(9)時刻T20,T21,T22の場合、レンズ側送受信部22で受信した信号値は0(算出停止中)であり、動きベクトルは検出されていない。したがってω0_comp=0である。
【0106】
(10)時刻T23の場合、レンズ側送受信部22で受信した信号値は7(信頼度4)であるのでα=1.4、また負の動きベクトルが検出されている。したがって、ω0_comp=+1.0×ω0_comp_defである。
【0107】
(11)時刻T25の場合、レンズ側送受信部22で受信した信号値は5(信頼度2)であるのでα=0.6、また負の動きベクトルが検出されている。したがって、ω0_comp=+0.6×ω0_comp_defである。
【0108】
なお、交換レンズ1Bの焦点距離の大きさに応じて、さらに基準値補正定数の係数(α)を変更してもよい。例えば、交換レンズ1Bの焦点距離が大きくなるに従いαの数値を大きくするようにしてもよい。
【0109】
以上、本実施形態によると、
図6に示すように、角速度センサ12の基準値を、カメラボディ1A側から得られた動きベクトルにより補正することができるので、
図6(a)に示すように、補正がない場合に比べて、真値に近い基準値を得ることができる。
さらに、その時の補正量は、画像データから動きベクトルを求める際の信頼度に応じて変更し、信頼度が高い場合に比べて低い場合の補正量を小さくしている。動きベクトルを求める際の信頼度が低い場合には、動きベクトルに基づいて決定された、基準値を補正する値(基準値補正定数)の信頼度(精度)も低くなる。そのため精度の低い基準値補正定数で基準値を補正する場合には、基準値に加算または減算する基準値補正定数の値を小さくすること(信頼度によって決まる定数(α)を掛けること)によって、補正後の基準値の精度を高くすることができる(補正後の基準値の精度が低くなるのを防ぐことができる)。
すなわち、信頼度によらず一律に同じ量だけ補正して基準値を算出する場合に比べて、基準値の精度が高くなる。
【0110】
また、動きベクトル情報及び信頼度情報は、ボディ側送受信部21からレンズ側送受信部22に送信される。したがって、カメラボディ1Aと交換レンズ1Bとが別体な場合であっても、交換レンズ1Bは動きベクトル情報を受信することができる。
【0111】
(変形形態)
以上、説明した実施形態に限定されることなく、以下に示すような種々の変形や変更が可能であり、それらも本発明の範囲内である。
(1)カメラボディ1Aは信頼度情報を取得可能であるが、交換レンズ1Bによっては、信頼度に応じた段階的な基準値補正ができない場合がある。このような場合、例えば、信頼度0または1のときは、ブレ補正機構100は基準値を補正せず(α=0)、信頼度2,3,4のいずれかのときは、信頼度にかかわらず一定量補正(α=1)として補正するようにしてもよい。これにより、交換レンズ1Bの性能(バージョン)が低く、信頼度に応じた段階的な基準値補正ができない場合(αが0か1のいずれかのみ)であっても、基準値の補正ができなくなることを防止できる。
【0112】
(2)なお、上述の実施形態では、目標位置演算部によって演算されたブレ補正レンズの目標位置に基づいて、ブレ補正レンズを、その可動範囲の中心に向かって移動させるための向心力であるセンタバイアスを用いた制御を行ったが、センタバイアスを用いない制御を行ってもよい。その場合は、センタバイアス演算部とセンタバイアス除去部を持たない。
【0113】
(3)上述の実施形態では、カメラボディ1A内にミラーがない形態について説明したが、これに限定されず、クイックリターンミラーおよび光学ファインダを有する構造のカメラボディ、いわゆる一眼レフであってもよい。
【0114】
(4)本実施形態はブレを補正するためのブレ補正レンズを交換レンズが備える構造であったが、これに限らず、カメラボディ1Aが備える撮像素子をXY平面内で駆動させ、ブレを補正する構造としてもよい。
(5)本実施形態は交換レンズ1Bのブレ補正レンズでブレを補正する構造であったが、これに限らず、交換レンズ1Bのブレ補正レンズ、及びカメラボディ1Aが備える撮像素子3を共にXY平面内で駆動させブレを補正する構造としてもよい。
(6)本実施形態は角速度センサ12を交換レンズ1Bが備える構造であったが、これに限らず、角速度センサ12はカメラボディ1A内に備えられていてもよいし、カメラボディ1A内及び交換レンズ1B内に備えられる構造としてもよい。カメラボディ1A内及び交換レンズ1B内に角速度センサ12が備えられている場合、カメラボディ1A内の角度センサの基準値補正部と、交換レンズ1B内の角速度センサの基準値補正部とに、それぞれ動きベクトル情報が送られる。
また、角速度センサではなく、加速度センサをカメラボディ1A及び/又は交換レンズ1B内に備えるものであってもよい。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記の実施形態の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能なことは当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態、及び、実施形態の要素と変形形態の要素との組み合わせの形態も本発明の技術的範囲に含まれることが、請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0115】
カメラシステム、1A:カメラボディ、1B:交換レンズ、2A:ボディCPU、2B:レンズCPU、3:撮像素子、4:ズームレンズ(撮像光学系)、5:フォーカスレンズ(撮像光学系)、6:ブレ補正レンズ(撮像光学系)、7:ズームレンズ駆動機構、8:フォーカスレンズ駆動機構、9:ブレ補正レンズ駆動機構、11:駆動機構、12:角速度センサ、18:背面液晶、20:シャッタ、21:ボディ側送受信部、22:レンズ側送受信部、23:ブレ補正レンズ位置検出部、31:増幅部、32:変換部、33:変換部、34:基準値演算部、35:基準値補正量演算部、36:目標位置演算部、37:センタバイアス演算部、38:センタバイアス除去部、39:駆動量演算部、40:信号処理部、41:ベクトル演算部、42:減加算部、43:減算部、50:基準値補正部