IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特許7172308ビスフェノールの製造方法、及びポリカーボネート樹脂の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】ビスフェノールの製造方法、及びポリカーボネート樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 37/20 20060101AFI20221109BHJP
   C07C 39/16 20060101ALI20221109BHJP
   C08G 64/06 20060101ALI20221109BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20221109BHJP
【FI】
C07C37/20
C07C39/16
C08G64/06
C07B61/00 300
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018165414
(22)【出願日】2018-09-04
(65)【公開番号】P2020037529
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-04-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100197642
【弁理士】
【氏名又は名称】南瀬 透
(72)【発明者】
【氏名】内山 馨
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 幸恵
【審査官】阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-21327(JP,A)
【文献】特公昭37-5926(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 37/20
C07C 39/16
C08G 64/06
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドと、硫酸とを含む反応液中で、前記芳香族アルコールと、前記ケトン又はアルデヒドとを反応させて、ビスフェノールを得るビスフェノールの製造方法において、
反応に用いる前記芳香族アルコールを分割して、硫酸と、前記芳香族アルコールとを含む第1の混合液に、ケトン又はアルデヒドと、前記芳香族アルコールとを含む第2の混合液を供給して反応液を調製する反応液調製工程と、
前記反応液調製工程の後に、ビスフェノール生成反応を進行させる反応工程とを有し、かつ、
前記反応工程における反応時間が0.3時間以上であるビスフェノールの製造方法。
【請求項2】
前記第1の混合液に含まれる芳香族アルコールと前記第2の混合液に含まれる芳香族アルコールの合計に対する前記第1の混合液に含まれる芳香族アルコールの質量比が、0.20以上0.90以下である請求項1に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項3】
前記第1の混合液が、更に有機溶媒を含む請求項1または2に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項4】
前記有機溶媒が、芳香族炭化水素及び脂肪族アルコールを成分として含む有機溶媒である請求項3に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項5】
前記芳香族アルコールがオルトクレゾールであり、
前記ケトン又はアルデヒドがアセトンであり、
前記ビスフェノールが2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンである請求項1から4のいずれか1項に記載のビスフェノールの製造方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のビスフェノールの製造方法によって製造されたビスフェノールを用いてポリカーボネートを製造するポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸の存在下で、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドからビスフェノールを得るビスフェノールの製造方法に関する。また、得られたビスフェノールを用いたポリカーボネート樹脂の製造方法に関する。
本発明のビスフェノールの製造方法で製造されるビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの樹脂原料や、硬化剤、顕色剤、退色防止剤、その他殺菌剤や防菌防カビ剤等の添加剤として有用である。
【背景技術】
【0002】
ビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの高分子材料の原料として有用である。代表的なビスフェノールとしては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンなどが知られている。
【0003】
ビスフェノールは、光学用ポリカーボネート樹脂のような光学用材料の原料として使用される分野もある。近年では、より色調の優れたポリカーボネートを得るために、原料となるビスフェノールの品質にも更なる改善が求められている。例えば、溶融重合によりポリカーボネート樹脂等を製造するためには、原料となるビスフェノールが溶融状態でも優れた色調であることが求められている。
【0004】
このようなビスフェノールは、一般的に、酸触媒の存在下で、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとを縮合させて製造される。
例えば、特許文献1には、酸性触媒として塩素ガスや硫酸を単独で使用する場合の問題点を克服し、安全に効率よくビスフェノールを製造する方法として、フェノール誘導体、アセトン、塩酸を混ぜ合わせ、さらに硫酸を滴下しながら反応させて、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンまたはその誘導体を得る製造方法が開示されている。
また、特許文献2には、副反応物の生成を抑制するために、酸性触媒を含む第1の混合物に、特定のフェノール化合物と、特定のケトン化合物又はアルデヒドと化合物を含む第2の混合物のうち少なくとも一方に有機溶媒を添加し、前記第1の混合物に前記第2の混合物を加えて縮合反応させるビスフェノール化合物の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-40376号公報
【文献】特開2008-214248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、酸触媒として塩酸を使用しているため、塩酸を単独で使用した場合に比べると設備等の腐食の問題は緩和されるものの、依然として腐食の問題があり、更なる改良が求められていた。
また、本発明者らが特許文献1に記載の方法で2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを製造したところ、得られた2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの溶融状態のハーゼン色数が高く、また該2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンを用いた溶融重合反応によりポリカーボネート樹脂を製造したところ、該溶融重合反応が期待通り進行しなかった。
【0007】
また、特許文献2に記載の方法においても、酸性触媒として塩酸が用いられており、設備等の腐食の問題があった。更に、得られるビスフェノールも、ポリカーボネート樹脂等を溶融重合により製造するための原料としては十分とはいえず、改善の余地があった。
【0008】
本発明は、硫酸触媒によって、副生成物の生成が抑制され、溶融状態の色調が良好なビスフェノールの製造方法を提供することを目的とする。
また、前記ビスフェノールを用いて、溶融重合反応を進行させ、良好な色調のポリカーボネート樹脂を製造できるポリカーボネート樹脂の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、下記の発明が上記目的に合致することを見出し、本発明に至った。
[1] 芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドと、硫酸とを含む反応液中で、前記芳香族アルコールと、前記ケトン又はアルデヒドとを反応させて、ビスフェノールを得るビスフェノールの製造方法において、硫酸と、芳香族アルコールとを含む第1の混合液に、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを含む第2の混合液を供給して反応液を調製する反応液調製工程を有するビスフェノールの製造方法。
[2] 前記第1の混合液に含まれる芳香族アルコールと前記第2の混合液に含まれる芳香族アルコールの合計に対する前記第1の混合液に含まれる芳香族アルコールの質量比が、0.20以上0.90以下である[1]に記載のビスフェノールの製造方法。
[3] 前記第1の混合液が、更に有機溶媒を含む[1]または[2]に記載のビスフェノールの製造方法。
[4] 前記有機溶媒が、芳香族炭化水素及び脂肪族アルコールを含む[3]に記載のビスフェノールの製造方法。
[5] 前記芳香族アルコールがオルトクレゾールであり、前記ケトン又はアルデヒドがアセトンであり、前記ビスフェノールが2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンである[1]から[4]のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法。
[6] [1]から[5]のいずれかに記載のビスフェノールの製造方法によって製造されたビスフェノールを用いてポリカーボネートを製造するポリカーボネート樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、副生成物の生成が抑制され、溶融状態の色調が良好なビスフェノールを製造することが可能である。また、得られたビスフェノールを用いて、溶融重合反応が進行しやすく、良好な色調のポリカーボネート樹脂を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施の態様の一例であり、本発明はその要旨を超えない限り、以下の記載内容に限定されるものではない。
なお、本明細書において「~」という表現を用いる場合、その前後の数値又は物性値を含む表現として用いるものとする。
【0012】
芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドと、硫酸とを含む反応液中で、前記芳香族アルコールと、前記ケトン又はアルデヒドとを反応させて、ビスフェノールを得るビスフェノールの製造方法において、硫酸と、芳香族アルコールとを含む第1の混合液に、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを含む第2の混合液を供給して反応液を調製する反応液調製工程を有するビスフェノールの製造方法(以下、「本発明のビスフェノールの製造方法」という。)に関するものである。
【0013】
本発明者らは、硫酸を触媒とした場合、得られるビスフェノールの品質が、反応液の調製時の原料の混合順に影響されるという知見を得た。特に、製造スケールが大きい場合には、反応液の調製やビスフェノール生成反応の終了までの時間が長くなるため、得られるビスフェノールの品質は、反応液の調製時の原料の混合順による影響が大きいという知見を得た。
この原因を検討したところ、硫酸と芳香族アルコールの接触により着色成分が発生することでビスフェノールの溶融状態の色調が悪化することを見出した。また、硫酸と芳香族アルコールの接触により副生する芳香族アルコールスルホン酸が製品のビスフェノールに残存してしまい、溶融重合反応における活性低下成分となることを見出した。
更に、反応初期において、ケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコールの量が少ないと、ケトン又はアルデヒド同士の自己縮合が起こってしまい、ケトン又はアルデヒドの2量体由来の副生物が増加することを見出した。
中でも、芳香族アルコールスルホン酸、及び、ケトン又はアルデヒドの2量体由来の副生物は、ビスフェノールの原料の損失を示すため、これらの生成量を制御することが重要である。特に、ケトン又はアルデヒドの2量体由来の副生物は、ビスフェノールの色調と相関があると考えられるため、生成を抑制することが重要であることを見出した。本発明は、これらの知見に基づくものである。
【0014】
本発明のビスフェノールの製造方法の特徴のひとつは、硫酸と、芳香族アルコールとを含む第1の混合液に、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを含む第2の混合液を供給して反応液を調製することである。
より詳しく説明すると、本発明のビスフェノールの製造方法では、ケトン又はアルデヒドとの反応に用いる芳香族アルコール(以下、「芳香族アルコール(T)」という。)を、第1の混合液に含まれる芳香族アルコール(以下、「芳香族アルコール(A)」という。)と、第2の混合液に含まれる芳香族アルコール(以下、「芳香族アルコール(B)」という。)とに分割して反応液を調製する。芳香族アルコール(A)の量は、芳香族アルコール(T)の量から、芳香族アルコール(B)の量を引いたものである。調製後の反応液に含まれる芳香族アルコール(T)と、第1の混合液に含まれる芳香族アルコール(A)と、第2の混合液に含まれる芳香族アルコール(B)とは同じ種類の芳香族アルコールである。
【0015】
このように本発明のビスフェノールの製造方法に用いる芳香族アルコールを第1の混合液及び第2の混合液に分割し、第1の混合液中の芳香族アルコールの量を少なくすることで、第1の混合液の調製時に、硫酸と接触する芳香族アルコールが少なくなるため、硫酸と芳香族アルコールとの反応により芳香族アルコールスルホン酸が副生することを抑制することができる。
【0016】
また、硫酸と、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとが同一の系内に存在することでビスフェノールの生成反応が起こるため、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドと、硫酸とを含む反応液の調製段階であってもビスフェノールの生成反応が起こる。本発明のビスフェノールの製造方法では、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドとを別々に供給せずに、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドを含む第2の混合液として供給することにより、ビスフェノールの生成反応は、第2の混合液を第1の混合液に供給すると開始される。この反応初期の段階(第2の混合液の供給を開始した段階)における、硫酸と芳香族アルコールとの接触も抑制することができ、副生成物である芳香族アルコールスルホン酸の生成を抑制することができる。
【0017】
更に、第1の混合液が芳香族アルコールを含むようにすることで、第2の混合液の供給により芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドとの反応が開始するときに、ケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコールの量を多くすることができる。このため、ケトン又はアルデヒドの2量体に由来する副生物の生成の抑制を抑制することができる。
【0018】
また、硫酸と、芳香族アルコールとを含む第1の混合液に、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを含む第2の混合液を供給するため、第2の混合液に第1の混合液を供給する場合に比べて、ケトン又はアルデヒドの濃度が低い状態で反応を行うことができ、ケトン又はアルデヒドの自己縮合が起こりにくく、副生成物の生成を抑制することができる。
【0019】
第1の混合液中での硫酸と芳香族アルコールとの反応による芳香族アルコールスルホン酸の生成を更に抑制するためには、第1の混合液は、更に有機溶媒を含むことが好ましい。
【0020】
本発明のビスフェノールの製造方法では、第1の混合液に第2の混合液を供給し、芳香族アルコールと、ケトン又はアルデヒドと、硫酸とを含む反応液を調製した後、前記反応液中で、芳香族アルコールとケトン又はアルデヒドを反応させてビスフェノールを製造する。ビスフェノールの生成反応は、通常、以下に示す反応式(1)に従って、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとが縮合することにより、以下の一般式(2)で表されるビスフェノールが製造される。
【0021】
【化1】
【0022】
【化2】
【0023】
反応式(1)及び一般式(2)において、R1~R4としては、それぞれに独立に水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などは、置換または無置換のいずれであってもよい。例えば、水素原子、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0024】
これらのうちR2とR3は立体的に嵩高いと縮合反応が進行しにくいことから好ましくは水素原子である。また、R1~R4は、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基であることがより好ましく、R1及びR4は、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基であり、R2及びR3は水素原子であることがさらに好ましい。
【0025】
5とR6としては、それぞれに独立に水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などが挙げられる。なお、アルキル基、アルコキシ基、アリール基などは、置換または無置換のいずれであってもよい。例えば、プロトン、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、i-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルへキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、i-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、ベンジル基、フェニル基、トリル基、2,6-ジメチルフェニル基などが挙げられる。
【0026】
5とR6は、2つの基の間で互いに結合又は架橋していても良く、R5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合してシクロアルキリデン基を形成してもよい。なお、シクロアルキリデン基とは、シクロアルカンの1つの炭素原子から2個の水素原子を除去した2価の基である。
5とR6とが隣接する炭素原子と一緒に結合し形成されるシクロアルキリデン基としては、例えば、シクロプロピリデン、シクロブチリデン、シクロペンチリデン、シクロヘキシリデン、3,3,5-トリメチルシクロヘキシリデン、シクロヘプチリデン、シクロオクチリデン、シクロノニリデン、シクロデシリデン、シクロウンデシリデン、シクロドデシリデン、フルオレニリデン、キサントニリデン、チオキサントニリデンなどが挙げられる。
【0027】
上記一般式(2)で表される化合物として、具体的には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)シクロヘキサン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ペンタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘプタン、4,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、4,4-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)ヘプタンなどが挙げられるが、何らこれらに限定されるものではない。
【0028】
この中でも、本発明のビスフェノールの製造方法は、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンまたは2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジメチルフェニル)プロパンの製造方法とすることが好ましい。
また、副生成物の抑制及び色調の改善効果が高いため、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンの製造方法とすることがより好ましい。より詳しくは、芳香族アルコールがオルトクレゾールであり、ケトン又はアルデヒドがアセトンであり、ビスフェノールが2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパンであるビスフェノールの製造方法とすることがより好ましい。
【0029】
[芳香族アルコール]
本発明のビスフェノールの製造方法に用いる芳香族アルコール(芳香族アルコール(T))は、反応液調製のときには、芳香族アルコール(A)及び芳香族アルコール(B)に分割して用いられるものであり、通常、以下の一般式(3)で表される化合物である。
【0030】
【化3】
(式中、R1~R4は、一般式(2)におけるものと同義である。)
【0031】
これらのうちR2とR3は立体的に嵩高いと縮合反応が進行しにくいことから、好ましくは水素原子である。
【0032】
1~R4は、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基であることがより好ましく、R1及びR4は、それぞれ独立に水素原子またはアルキル基であり、R2及びR3は水素原子であることがさらに好ましい。
【0033】
上記一般式(3)で表される化合物として、具体的には、フェノール、クレゾール、キシレノール、エチルフェノール、プロピルフェノール、ブチルフェノール、メトキシフェノール、エトキシフェノール、プロポキシフェノール、ブトキシフェノール、アミノフェノール、ベンジルフェニル、フェニルフェノールなどが挙げられる。
【0034】
中でも、フェノール、クレゾール、及びキシレノーからなる群から選択されるいずれかであることが好ましく、クレゾールまたはキシレノールがより好ましく、クレゾールがさらに好ましい。クレゾールとしては、オルトクレゾール又はメタクレゾールが挙げられ、オルトクレゾールが好ましい。
【0035】
[ケトン及びアルデヒド]
本発明の製造方法に用いるケトン及びアルデヒドは、通常、以下の一般式(4)で表される化合物である。
【0036】
【化4】
(式中、R5及びR6は、一般式(2)におけるものと同義である。)
【0037】
上記一般式(4)で表される化合物として、具体的には、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ペンタンアルデヒド、ヘキサンアルデヒド、ヘプタンアルデヒド、オクタンアルデヒド、ノナンアルデヒド、デカンアルデヒド、ウンデカンアルデヒド、ドデカンアルデヒドなどのアルデヒド類、アセトン、ブタノン、ペンタノン、ヘキサノン、ヘプタノン、オクタノン、ノナノン、デカノン、ウンデカノン、ドデカノンなどのケトン類、ベンズアルデヒド、フェニルメチルケトン、フェニルエチルケトン、フェニルプロピルケトン、クレジルメチルケトン、クレジルエチルケトン、クレジルプロピルケトン、キシリルメチルケトン、キシリルエチルケトン、キシリルプロピルケトンなどのアリールアルキルケトン、シクロプロパノン、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロオクタノン、シクロノナノン、シクロデカノン、シクロウンデカノン、シクロドデカノンなどの環状アルカンケトン類等が挙げられる。中でも、アセトンが好ましい。
【0038】
<反応液調製工程>
本発明のビスフェノールの製造方法は、反応液調製工程を有する。反応液調製工程は、硫酸と、芳香族アルコールとを含む第1の混合液に、ケトン又はアルデヒドと、芳香族アルコールとを含む第2の混合液を供給して反応液を調製する工程である。
【0039】
上記のように、本発明のビスフェノールの製造方法に用いる芳香族アルコール(T)を、第1の混合液に含まれる芳香族アルコール(A)及び第2の混合液に含まれる芳香族アルコール(B)の2つに分割して用いる。
芳香族アルコール(A)と芳香族アルコール(B)の合計(すなわち、芳香族アルコール(T))の量は、第2の混合液に含まれるケトン又はアルデヒドの量や有機溶媒の有無に応じて決定される。第2の混合液に含まれるケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコール(T)のモル比((芳香族アルコール(T)のモル数/第2の混合液に含まれるケトンのモル数)又は(芳香族アルコール(T)のモル数/第2の混合液に含まれるアルデヒドのモル数))は、少ない場合、ケトン又はアルデヒドが多量化しやすい。このことから、第2の混合液に含まれるケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコール(T)のモル比は、好ましくは1.5以上、より好ましくは1.6以上、更に好ましくは1.7以上である。
【0040】
また、芳香族アルコールを有機溶媒の代わりとする場合などは、芳香族アルコールは、ケトン又はアルデヒドに対して多量に使用することもできるが、この場合、芳香族アルコールの多くは未反応となる。未反応の芳香族アルコールは、蒸留などにより回収及び精製して再使用することが可能であるが、未反応の芳香族アルコールが多すぎると、蒸留等の操作がより煩雑となる。このことから、第2の混合液に含まれるケトン又はアルデヒドに対する芳香族アルコール(T)のモル比は、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは8以下である。
【0041】
更に、芳香族アルコール(T)を芳香族アルコール(A)と芳香族アルコール(B)とに分割する割合は、硫酸や有機溶媒の量等に応じて適宜決定される。
ケトン又はアルデヒドの自己縮合物に由来する副生成物等の生成をより抑制し、溶融状態における色調がより良好なビスフェノールを得るためには、芳香族アルコール(A)と芳香族アルコール(B)の合計(芳香族アルコール(T))に対する芳香族アルコール(A)の質量比(芳香族アルコール(A)の質量/芳香族アルコール(T)の質量)は、0.20以上が好ましく、0.25以上がより好ましい。また、芳香族アルコールスルホン酸等の副生をより抑制し、溶融状態における色調がより良好なビスフェノールを得るためには、芳香族アルコール(A)と芳香族アルコール(B)の合計に対する芳香族アルコール(A)の質量比が、0.90以下が好ましく、0.80以下がより好ましい。
【0042】
[第1の混合液]
第1の混合液は、硫酸と芳香族アルコール(A)を含むものである。芳香族アルコール(A)に対する硫酸のモル比(硫酸のモル数/芳香族アルコール(A)のモル数)は、少ない場合は、反応時間が長時間化する。また、多い場合は、反応液の調製時に硫酸と芳香族アルコールスルホン酸との副反応が起こりやすくなり、芳香族アルコールスルホン酸等が生成されやすくなる。これらのことから、芳香族アルコール(A)に対する硫酸のモル比は、好ましくは0.5以上、より好ましくは0.7以上であり、更に好ましくは1.0以上である。また、その上限は、好ましくは50以下、より好ましくは25以下である。また、その上限は、10以下や、5以下であってもよい。
【0043】
(硫酸)
硫酸は、化学式H2SO4で表される酸性の液体である。一般的に、硫酸は水で希釈された硫酸水溶液として用いられ、その濃度に応じて、濃硫酸や希硫酸といわれる。例えば、希硫酸とは、質量濃度が90質量%未満の硫酸水溶液である。
用いる硫酸の濃度(硫酸水溶液のH2SO4の濃度)が高いと、ケトン又はアルデヒドの自己縮合反応が進行しやすく、ビスフェノールの色調悪化やビスフェノールの反応選択率の低下を引き起こす場合がある。また、用いる硫酸の濃度が低いと、水の量が多くなるため、ビスフェノールの生成反応が進行しにくくなり、ビスフェノールを製造する反応時間が長くなり、効率的にビスフェノールを製造することが難しい場合がある。そのため、用いられる硫酸の濃度は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上である。また、用いられる硫酸の濃度は、99.5質量%以下や99質量%以下とすることができる。
なお、この硫酸の濃度は、反応液を調製するときに用いられる硫酸水溶液の濃度であり、仕込み時の濃度である。
【0044】
第1の混合液は、硫酸と芳香族アルコール(A)からなるものであっても、硫酸と芳香族アルコール(A)以外の成分を含むものであってもよい。硫酸と芳香族アルコール(A)以外の成分としては、有機溶媒や、チオール等の助触媒等が挙げられる。第1の混合液中での硫酸の芳香族アルコールとの反応による芳香族アルコールスルホン酸の生成を更に抑制するためには、第1の混合液は、更に、有機溶媒を含むことが好ましい。
【0045】
(有機溶媒)
有機溶媒としては、ビスフェノールの生成反応を阻害しない範囲で特に限定されず、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、脂肪族炭化水素などが挙げられ、これらの溶媒を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。反応終了後に、有機溶媒を回収、精製して再利用する場合は、沸点が低い溶媒が好ましい。
【0046】
芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、メシチレンなどが挙げられ、これらの溶媒を単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。芳香族炭化水素は、ビスフェノールの製造に使用した後、蒸留などで回収及び精製して再使用することが可能である。芳香族炭化水素を再利用する場合は、沸点が低いものが好ましい。
【0047】
脂肪族アルコールは、アルキル基とヒドロキシル基が結合したアルキルアルコールである。本発明において、脂肪族アルコールは、アルキル基と1個のヒドロキシル基が結合した1価アルコールでもよく、アルキル基と2個以上のヒドロキシル基が結合した多価アルコールであってもよい。また、アルキル基は、直鎖であっても、分岐していてもよく、無置換であっても、アルキル基の炭素原子の一部が酸素原子によって置換されていてもよい。
【0048】
脂肪族アルコールは、炭素数が多くなると親油性が増加し、硫酸と混ざりにくくなることから、炭素数12以下であることが好ましく、8以下であることがより好ましい。
【0049】
また、脂肪族アルコールは、アルキル基と1個のヒドロキシル基が結合した1価アルコールであることが好ましく、炭素数1~12のアルキル基と1個のヒドロキシル基が結合した1価アルコールであることがより好ましく、炭素数1~8のアルキル基と1個のヒドロキシル基が結合したアルコールであることが更に好ましい。
【0050】
具体的な脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール、i-ペンタノール、n-ヘキサノール、n-ヘプタノール、n-オクタノール、n-ノナノール、n-デカノール、n-ウンデカノール、n-ドデカノール、エチレングリコール、ジエチレングルコール、トリエチレングリコールなどを挙げることができる。
【0051】
特に、第1の混合液中の有機溶媒として、脂肪族アルコールを含む有機溶媒を用いることで、硫酸の酸強度を制御し、ケトン又はアルデヒドの縮合(多量化)をより抑制でき、また、着色をより抑制することができることから、脂肪族アルコールを含む有機溶媒を用いることが好ましい。
【0052】
有機溶媒として脂肪族アルコールを含む有機溶媒を用いる場合、硫酸の量に応じて脂肪族アルコールの量を制御することが好ましい。脂肪族アルコールの量を制御することで、硫酸の酸性度が制御でき、副反応の生成や着色等をより抑制することができる。硫酸(H2SO4)に対する脂肪族アルコールのモル比(脂肪族アルコールのモル数/硫酸のモル数)は、少ないと、未反応の硫酸が増え、原料のケトン又はアルデヒドの縮合(多量化)及び着色が顕著となる場合がある。また、硫酸(H2SO4)に対する脂肪族アルコールのモル比は多くても、硫酸濃度が低下し反応が遅くなり反応に長時間を要する。これらのことから、硫酸に対する脂肪族アルコールのモル比の下限は、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上である。また、その上限は、好ましくは10以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。
【0053】
生成してくるビスフェノールは有機溶媒に完全に溶解させずに分散させた方が、ビスフェノールが分解しにくい。また、反応終了後、反応液からビスフェノールを回収する際の損失(例えば、晶析時のろ液への損失)を低減できることからも、ビスフェノールの溶解度が低い溶媒を用いることが好ましい。ビスフェノールの溶解度が低い溶媒としては、例えば、芳香族炭化水素が挙げられる。このため、有機溶媒は、芳香族炭化水素を主成分として含むことが好ましく、有機溶媒中に芳香族炭化水素を55質量%以上含むことが好ましく、70質量%以上含むことがより好ましく、80質量%以上含むことが更に好ましい。ビスフェノールが溶解しにくいことや沸点が低いことから、好ましい芳香族炭化水素のひとつはトルエンである。
【0054】
硫酸の酸性度を制御でき、ビスフェノールを分散させやすいことから、第1の混合液中の有機溶媒としてより好ましい有機溶媒は、芳香族炭化水素及び脂肪族アルコールを含むものである。例えば、第1の混合液中の有機溶媒は、有機溶媒中に芳香族炭化水素を90~99.9質量%含み、脂肪族アルコールを0.1~10質量%含むものとすることができる。
【0055】
第1の混合液の調製方法は、特に限定されず、芳香族アルコール(A)に硫酸を供給しても、硫酸に芳香族アルコール(A)を供給してもよい。芳香族アルコール(A)のスルホン化を抑制するためには、芳香族アルコール(A)に硫酸を供給することが好ましい。また、第1の混合液が、硫酸と芳香族アルコール(A)以外の成分を含む場合、その成分は、硫酸又は芳香族アルコール(A)に予め混合しておくことができる。
【0056】
[第2の混合液]
第2の混合液は、芳香族アルコール(B)と、ケトン又はアルデヒドとを含むものである。芳香族アルコール(B)の使用量は、反応に用いる芳香族アルコール(T)の量から、芳香族アルコール(A)として用いる量を引いた量となる。ケトン又はアルデヒドは、上記の通りである。
【0057】
第2の混合液は、芳香族アルコール(B)と、ケトン又はアルデヒドからなるものであっても、芳香族アルコール(B)と、ケトン又はアルデヒド以外の成分を含むものであってもよい。芳香族アルコール(B)と、ケトン又はアルデヒド以外の成分としては、有機溶媒や、チオール等の助触媒等が挙げられる。
【0058】
第2の混合液は、チオールを助触媒として含むことが好ましい。用いるチオールとしては、例えば、メルカプト酢酸、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、4-メルカプト酪酸などのメルカプトカルボン酸、メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、ブチルメルカプタン、ペンチルメルカプタン、へキシルメルカプタン、へプチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ノニルメルカプタン、デシルメルカプタン、ウンデシル、ドデシルメルカプタンなどのアルカンチオール等が挙げられる。
【0059】
第2の混合液において、ケトン又はアルデヒドに対するチオールのモル比((チオールのモル数/ケトンのモル数)又は(チオールのモル数/アルデヒドとのモル数))は、少ない場合、ビスフェノールの反応選択性に対する改善の効果が得られにくい。なお、ビスフェノールの反応選択性とは、ビスフェノールの生成反応において目的物であるビスフェノールが生成のされやすさの指標であり、ビスフェノールの反応選択性が優れるほどビスフェノールの生成量が多くなる。また、多い場合、ビスフェノールに混入して品質が悪化する。これらのことから、ケトン又はアルデヒドに対するチオールのモル比は、好ましくは0.001以上、より好ましくは0.005以上更に好ましくは0.01以上であり、また、好ましくは1以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.1以下である。
【0060】
第2の混合液は、第1の混合液と同様に、有機溶媒を含むことが好ましい。第2の混合液に含まれる有機溶媒は、第1の混合液に含まれる有機溶媒と同様に、ビスフェノールの生成反応を阻害しない範囲で特に限定されず、芳香族炭化水素、脂肪族アルコール、脂肪族炭化水素などを用いることができる。これらの溶媒は、単独で用いても、2種以上を併用して用いてもよい。また、第1の混合液に含まれる有機溶媒と同一のものであっても、異なるものであってもよい。第2の混合液に含まれる有機溶媒として好ましいものは、芳香族炭化水素である。
【0061】
第2の混合液の調製方法は、特に限定されず、芳香族アルコール(B)にケトン又はアルデヒドを供給しても、ケトン又はアルデヒドに芳香族アルコール(B)を供給してもよい。また、第2の混合液が、芳香族アルコール(B)とケトン又はアルデヒド以外の成分を含む場合、その成分は、芳香族アルコール(B)又はケトン又はアルデヒドに予め混合しておくことができる。
【0062】
第2の混合液が助触媒としてチオールを含む場合は、ケトン又はアルデヒドと予め混合してから芳香族アルコールと混合することが好ましい。チオールとケトン又はアルデヒドとの混合方法は、チオールにケトン又はアルデヒドを供給してもよく、ケトン又はアルデヒドにチオールを供給してもよい。
【0063】
[供給]
第1の混合液に第2の混合液を供給する供給時間は、芳香族アルコール、ケトン又はアルデヒドの量や濃度等に応じて適宜決定される。第1の混合液に第2の混合液を供給しているときにも、ビスフェノール生成反応は起こるため、第1の混合液に第2の混合液を供給する供給時間が短すぎると、反応温度を制御できずに、副生物が増大する傾向にある。また第1の混合液に第2の混合液を供給する供給時間が長すぎると、反応時間も長くなり、製造効率が低下する傾向にある。そのため、供給時間の下限は、0.3時間以上が好ましく、0.5時間以上がより好ましい。また、その上限は、5時間以下が好ましい。また、3時間以下や1時間以下にしてもよい。
【0064】
また、第1の混合液に第2の混合液を供給する時の温度(供給温度)は、温度が低すぎると反応液が固化しやすくなり、ビスフェノールの生成反応が進行しにくい場合がある。また、温度が高すぎると、生成したビスフェノールが分解しやすくなる。これらのことから、供給温度の下限は、-20℃以上が好ましく、-10℃以上がより好ましい。また、その上限は、40℃以下が好ましく、30℃以下がより好ましい。
【0065】
以下、本発明のビスフェノールの製造方法のおける反応液の調製方法の一例を説明する。
第1工程:反応器に、芳香族炭化水素及び脂肪族アルコールを供給する。
第2工程:芳香族炭化水素及び脂肪族アルコールを供給した反応器に、芳香族アルコール(A)を供給する。
第3工程:芳香族炭化水素、脂肪族アルコール及び芳香族アルコール(A)を供給した反応器に、硫酸を供給し、第1の混合液を調製する。
第4工程:別の容器に、ケトン又はアルデヒド、芳香族炭化水素、助触媒のチオール、及び芳香族アルコール(B)を供給し、第2の混合液を調製する。
第5工程:第2の混合液を、第1の混合液を収容する反応器に供給する。
【0066】
<反応工程>
本発明のビスフェノールの製造方法では、反応液調製工程にて、反応液を調製した後、更に、撹拌等を行い、ビスフェノール生成反応を進行させる反応工程を有する。
【0067】
反応温度は、高温の場合、ケトン又はアルデヒドの多量化が進行し、低温の場合、反応に要する時間が長時間化する。このことから、反応温度は、-30℃以上や-20℃以上、-15℃以上とすることができる。好ましくは0℃以上、より好ましくは5℃以上、更に好ましくは10℃以上である。また、その上限は、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは70℃以下である。
【0068】
本発明において、反応時間は、長い場合生成したビスフェノールが分解することから、好ましくは30時間以内、より好ましくは25時間以内、更に好ましくは20時間以内である。また、その下限は、0.3時間以上や0.5時間以上とすることができる。
なお、用いる硫酸と同等量以上の水を加えて硫酸濃度を低下させ、反応を停止することが可能である。
【0069】
<精製工程>
本発明のビスフェノールの製造方法において、縮合反応によって得られたビスフェノールの精製は、常法により行うことができる。例えば、晶析やカラムクロマトグラフィーなどの簡便な手段により精製することが可能である。具体的には、縮合反応後、反応液を分液して得られた有機相を水又は食塩水などで洗浄し、更に必要に応じて重曹水などで中和洗浄する。次いで、洗浄後の有機相を冷却し晶析させる。芳香族アルコールを多量に用いる場合は、該晶析前に蒸留による余剰の芳香族アルコールを留去してから晶析させることができる。また、晶析は複数回行うことができる。
【0070】
<ビスフェノールの用途>
本発明のビスフェノールの製造方法にて製造されたビスフェノール(以下、「本発明のビスフェノール」という場合がある。)は、光学材料、記録材料、絶縁材料、透明材料、電子材料、接着材料、耐熱材料など種々の用途に用いられるポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレ-ト樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂など種々の熱可塑性樹脂や、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリベンゾオキサジン樹脂、シアネート樹脂など種々の熱硬化性樹脂などの構成成分、硬化剤、添加剤もしくはそれらの前駆体などとして用いることができる。また、感熱記録材料等の顕色剤や退色防止剤、殺菌剤、防菌防カビ剤等の添加剤としても有用である。
【0071】
これらのうち、良好な機械物性を付与できることより、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂の原料(モノマ-)として用いることが好ましく、なかでもポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂の原料として用いることがより好ましい。また、顕色剤として用いることも好ましく、特にロイコ染料、変色温度調整剤と組み合わせて用いることがより好ましい。
【0072】
[ポリカーボネート樹脂の製造方法]
本発明のビスフェノールを原料とするポリカーボネート樹脂の製造方法は、本発明のビスフェノールと、炭酸ジフェニル等の炭酸ジエステルとを、例えば、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物の存在下でエステル交換反応させる方法などにより製造する製造方法とすることができる。上記エステル交換反応は、公知の方法を適宜選択して行うことができるが、以下に本発明のビスフェノールと炭酸ジフェニルを原料とした一例を説明する。
【0073】
上記のポリカーボネート樹脂の製造方法において、炭酸ジフェニルは、本発明のビスフェノールに対して過剰量用いることが好ましい。該ビスフェノールに対して用いる炭酸ジフェニルの量は、製造されたポリカーボネート樹脂に末端水酸基が少なく、ポリマーの熱安定性に優れる点では多いことが好ましく、また、エステル交換反応速度が速く、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造し易い点では少ないことが好ましい。これらのことから、ビスフェノール1モルに対する使用する炭酸ジフェニルの量は、通常1.001モル以上、好ましくは1.002モル以上であり、また、通常1.3モル以下、好ましくは1.2モル以下である。
【0074】
原料の供給方法としては、本発明のビスフェノール及び炭酸ジフェニルを固体で供給することもできるが、一方又は両方を、溶融させて液体状態で供給することが好ましい。
【0075】
炭酸ジフェニルとビスフェノールとのエステル交換反応でポリカーボネート樹脂を製造する際には、通常、触媒が使用される。上記のポリカーボネート樹脂の製造方法においては、このエステル交換触媒として、アルカリ金属化合物及び/又はアルカリ土類金属化合物を使用するのが好ましい。これらは、1種類で使用してもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。実用的には、アルカリ金属化合物を用いることが望ましい。
【0076】
ビスフェノール又は炭酸ジフェニル1モルに対して用いられる触媒量は、通常0.05μモル以上、好ましくは0.08μモル以上、さらに好ましくは0.10μモル以上であり、また、通常100μモル以下、好ましくは50μモル以下、さらに好ましくは20μモル以下である。
【0077】
触媒の使用量が上記範囲内であることにより、所望の分子量のポリカーボネート樹脂を製造するのに必要な重合活性を得やすく、且つ、ポリマー色相に優れ、また過度のポリマーの分岐化が進まず、成形時の流動性に優れたポリカーボネート樹脂を得やすい。
【0078】
上記方法によりポリカーボネート樹脂を製造するには、上記の両原料を、原料混合槽に連続的に供給し、得られた混合物とエステル交換触媒を重合槽に連続的に供給することが好ましい。
エステル交換法によるポリカーボネート樹脂の製造においては、通常、原料混合槽に供給された両原料は、均一に攪拌された後、触媒が添加される重合槽に供給され、ポリマーが生産される。
【0079】
本発明のビスフェノールは、溶融重合反応の阻害成分の含有量が少なく、溶融状態においても良好な色調を有するため、良好な色調のポリカーボネート樹脂を製造することができる。
【実施例
【0080】
以下、実施例および比較例によって、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例により限定されるものではない。
【0081】
[原料及び試薬]
オルトクレゾール、トルエン、水酸化ナトリウム、硫酸、ドデカンチオール、メタノール、アセトン、炭酸水素ナトリウム、及び炭酸セシウムは、和光純薬株式会社製の試薬を使用した。
炭酸ジフェニルは、三菱ケミカル株式会社製の製品を使用した。
【0082】
[分析]
(ビスフェノールC等の定量分析)
オルトクレゾール、ビスフェノールC、{2-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-2-メチルプロピル}メチルケトン(以下、MOPCと称する)の定量分析は、高速液体クロマトグラフィーにより、以下の手順と条件で行った。
・装置:島津製作所社製LC-2010A、Imtakt ScherzoSM-C18 3μm 150mm×4.6mmID
・低圧グラジェント法
・分析温度;40℃
・溶離液組成
A液 酢酸アンモニウム:酢酸:脱塩水=3.000g:1mL:1Lの溶液
B液 酢酸アンモニウム:酢酸:アセトニトリル=1.500g:1mL:900mLの溶液
・分析時間0分ではA液:B液=60:40(体積比、以下同様。)
分析時間0~25分は溶離液組成をA液:B液=90:10へ徐々に変化させ、
分析時間25~30分はA液:B液=90:10に維持、
流速0.8mL/分、検出波長は280nmにて分析した。
【0083】
オルトクレゾール及びMOPCの定量は、オルトクレゾールを用いて検量線を作成し、絶対検量法で実施した。ビスフェノールCの定量は、ビスフェノールCを用いて検量線を作成し、絶対検量法で実施した。
【0084】
(ビスフェノールCの溶融色差(ハーゼン色数))
ビスフェノールCの溶融色差は、日電理化ガラスP-24 24mmφ×200mmの試験管にビスフェノールC20gを入れ、190℃で30分間溶融させ、日本電色工業社製SE6000を用い、そのハーゼン色数を測定した。
【0085】
(ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv))
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、 ポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解し(濃度6.0g/L)、ウベローデ粘度管を用いて20℃における比粘度(ηsp)を測定し、下記の式により粘度平均分子量(Mv)を算出した。
ηsp/C=[η](1+0.28ηsp)
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0086】
(ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度)
ポリカーボネート樹脂の末端水酸基濃度(OH濃度)は、四塩化チタン/酢酸法(Makromol.Chem. 88,215(1965)参照)に準拠し、比色定量を行うことにより測定した。
【0087】
(ポリカーボネート樹脂のペレットYI)
ポリカーボネート樹脂のペレットYI(ポリカーボネート樹脂の透明性)は、ASTM D1925に準拠して、ポリカーボネート樹脂ペレットの反射光におけるYI値(イエローネスインデックス値)を測定して評価した。
装置;コニカミノルタ社製分光測色計CM-5
測定条件;測定径30mm、SCEを選択した。
校正;シャーレ測定用校正ガラスCM-A212を測定部にはめ込み、その上からゼロ校正ボックスCM-A124をかぶせてゼロ校正を行い、続いて内蔵の白色校正板を用いて白色校正を行った。次いで、白色校正板CM-A210を用いて測定を行い、L*が99.40±0.05、a*が0.03±0.01、b*が-0.43±0.01、YIが-0.58±0.01となることを確認した。
測定;ペレットの測定は、内径30mm、高さ50mmの円柱ガラス容器にペレットを40mm程度の深さまで詰めて測定を行った。ガラス容器からペレットを取り出してから再度測定を行う操作を2回繰り返し、計3回の測定値の平均値を用いた。
【0088】
[実施例1]
オルトクレゾール230gを、60gと170gに分割して、第1の混合液(敷き液)中のオルトクレゾールとして60g、第2の混合液中のオルトクレゾールとして170gを用いて反応液を調製した。全オルトクレゾールに対する第1の混合液中のオルトクレゾールの割合(敷き液率:前記第1の混合液に含まれる芳香族アルコールと前記第2の混合液に含まれる芳香族アルコールの合計に対する前記第1の混合液に含まれる芳香族アルコールの質量比×100)は、60g÷230g×100=26%であった。
【0089】
(1)第1の混合液の調製
温度計、滴下ロート、ジャケット及びイカリ型撹拌翼を備えたセパラブルフラスコに、窒素雰囲気下でトルエン320g、メタノール12g、オルトクレゾール60g(0.56モル)を入れ、内温を10℃以下とした。その後、撹拌しながら98重量%硫酸95gを0.3時間かけて加えた後、室温で22時間静置し、第1の混合液(敷き液)を調製した。
【0090】
(2)第2の混合液の調製
500mLの三角フラスコに、トルエン50g、オルトクレゾール170g(1.6モル)、アセトン61g(1.1モル)、ドデカンチオール5.4gを混合し、第2の混合液(滴下液)を調製した。
【0091】
(3)反応液の調製
第1の混合液の内温を5℃以下にした後に、前記滴下ロートを用いて第2の混合液を、前記内温が10℃以上にならないように、第1の混合液へ1時間かけて供給し、反応液を調製した。
【0092】
(4)反応
内温を10℃として、調製した反応液を2.5時間撹拌した。
【0093】
(5)精製(水洗及びアルカリ洗浄)
反応終了後、25%水酸化ナトリウム水溶液190gを供給して80℃まで昇温した。80℃に到達後、静置させて、下相の水相を抜き出した。得られた第1の有機相に脱塩水400gを入れ、30分混合して静置し、水相を除去した。得られた第2の有機相に1.5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液120gを加えて、下相の水相pHが9以上になったことを確認し、下相の水相を抜き出した。得られた第3の有機相に、更に1.5質量%の炭酸水素ナトリウム溶液120gを加えて撹拌後、静置し、水相を抜き出した。得られた第4の有機相を抜出し、その質量を測定したところ、666gであった。
【0094】
第4の有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで第4の有機相の組成を確認したところ、オルトクレゾールが7.4質量%、MOPCが0.44質量%、ビスフェノールCが27.4質量%生成していた。
【0095】
(6)精製(晶析)
得られた第4の有機相を80℃から20℃まで冷却して、20℃で維持させ、ビスフェノールCを析出させた。その後、10℃まで冷却して10℃到達後、遠心分離機を用いて固液分離を行い、ウェットケーキとして第1のビスフェノールCを得た。
温度計及び撹拌機を備えたフルジャケット式1Lのセパラブルフラスコに、第1のビスフェノールC全量とトルエン373gを入れ、80℃に昇温した。均一な第5の有機相となったことを確認し、第5の有機相を脱塩水600gで3回に分けて十分洗浄し、水相を除去した。得られた第6の有機相を、80℃から10℃まで冷却した。その後、遠心分離機(毎分3000回転で10分間)を用いて濾過を行い、ウェットの第2のビスフェノールCを得た。オイルバスを備えたエバポレータを用いて、減圧下オイルバス温度100℃で軽沸分を留去することで、白色の第3のビスフェノールC 163gを得た。
【0096】
得られた第3のビスフェノールCの190℃溶融色差は、ハーゼン色数APHA16であった。
【0097】
[実施例2]
オルトクレゾール229gを、2分割して、第1の混合液中のオルトクレゾールとして114.5g、第2の混合液中のオルトクレゾールとして114.5gを用いて反応液を調製した以外は、実施例1と同様にして(5)の精製(水洗及びアルカリ洗浄)までを実施し、第4の有機相666gを得た。
【0098】
全オルトクレゾールに対する第1の混合液(敷き液)中のオルトクレゾールの割合(敷き液率)は、114.5g÷229g×100=50%であった。
【0099】
第4の有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで第4の有機相の組成を確認したところ、オルトクレゾールが7.2質量%、MOPCが0.30質量%、ビスフェノールCが24.0質量%生成していた。
【0100】
更に、第4の有機相を用いて、実施例1の(6)精製(晶析)と同様に実施し、白色の第3のビスフェノールC141gを得た。得られた第3のビスフェノールCの190℃溶融色差は、ハーゼン色数APHA13であった。
【0101】
[実施例3]
オルトクレゾール230gを、174gと56gに分割して、第1の混合液中のオルトクレゾールとして174g、第2の混合液中のオルトクレゾールとして56gを用いて反応液を調製した以外は、実施例1と同様にして(5)の精製(水洗及びアルカリ洗浄)までを実施し、第4の有機相666gを得た。
【0102】
全オルトクレゾールに対する第1の混合液(敷き液)中のオルトクレゾールの割合(敷き液率)は、174g÷230g×100=76%であった。
【0103】
第4の有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで第4の有機相の組成を確認したところ、オルトクレゾールが7.0質量%、MOPCが0.26質量%、ビスフェノールCが23.8質量%生成していた。
【0104】
更に、第4の有機相を用いて、実施例1の(6)精製(晶析)と同様に実施し、白色の第3のビスフェノールC140gを得た。得られた第3のビスフェノールCの190℃溶融色差は、ハーゼン色数APHA10であった。
【0105】
[比較例1]
オルトクレゾール230g全量を、第2の混合液中のオルトクレゾールとして用い、第1の混合液中のオルトクレゾールの量を0gとして反応液を調製した以外は、実施例1と同様にして(5)の精製(水洗及びアルカリ洗浄)までを実施し、第4の有機相666gを得た。
【0106】
全オルトクレゾールに対する第1の混合液(敷き液)中のオルトクレゾールの割合(敷き液率)は、0÷230g×100=0%であった。
【0107】
第4の有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで第4の有機相の組成を確認したところ、オルトクレゾールが7.7質量%、MOPCが0.89質量%、ビスフェノールCが28.0質量%生成していた。
【0108】
更に、第4の有機相を用いて、実施例1の(6)精製(晶析)と同様に実施し、白色の第3のビスフェノーC166gを得た。得られた第3のビスフェノールCの190℃溶融色差は、ハーゼン色数APHA20であった。
【0109】
[第4の有機相中のMOPC量の評価]
ビスフェノールCの着色の原因のひとつとして、アセトンの3量体由来の副生成物が考えられる。アセトンの3量体由来の副生成物が生成するためには、アセトン2量体を経由する必要があり、MOPC(アセトン2量体由来の副生成物)量が多いほど、アセトン3量体由来の副生成物も多くなると考えられる。そのため、ビスフェノールCに含まれるMOPC量は、色調の指標となると考えられる。そこで、実施例1~3及び比較例1について、第4の有機相中の{2-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-2-メチルプロピル}メチルケトンの量(MOPC量)を、仕込んだオルトクレゾールを基準として評価した。なお、{2-(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)-2-メチルプロピル}メチルケトンは、以下の一般式(5)で表される化合物である。
【0110】
【化5】
【0111】
第4の有機相中のMOPC量は、第4の有機相中のMOPCのモル数(高速液体クロマトグラフィーで算出した第4の有機相におけるMOPCの質量%×第4の有機相の質量666[g]/MOPCの分子量206[g/モル])を、仕込んだオルトクレゾールのモル数で除して求めた。
その結果、実施例1の第4の有機相中のMOPC量は、0.67モル%(0.44質量%×666[g]/206[g/モル]/2.1[モル]=0.67モル%)であった。
実施例2の第4の有機相中のMOPC量は、0.46モル%(0.30質量%×666[g]/206[g/モル]/2.1[モル]=0.46モル%)であった。
実施例3の第4の有機相中のMOPC量は、0.40モル%(0.26質量%××666[g]/206[g/モル]/2.1[モル]=0.40モル%)であった。
比較例1の第4の有機相中のMOPC量は、1.37モル%(0.89質量%×666[g]/206[g/モル]/2.1[モル]=1.37モル%)であった。
【0112】
表1に、実施例1~3及び比較例1の敷き液率、第4の有機相中のMOPC量及びハーゼン色数を纏めた。
表1の結果、オルトクレゾールを分割せずに、オルトクレゾール全量とアセトンと混合し第2の混合液として、硫酸を含む第1の混合液に供給すると、第4の有機相中のMOPC量が増加することがわかる。また、表1からは、第4の有機相中のMOPC量が多いほど、ビスフェノールCのハーゼン色数が高く、第4の有機相中のMOPC量が仕込んだオルトクレゾール基準で1モル%以下(仕込んだアセトン基準で5モル%以下)になるとハーゼン色数が低くなる傾向が見られた。
【0113】
【表1】
【0114】
[比較例2]
オルトクレゾール230g全量を、第1の混合液中のオルトクレゾールとして用い、第2の混合液中のオルトクレゾールの量を0gとして反応液を調製した以外は、実施例1と同様にして(5)の精製(水洗及びアルカリ洗浄)までを実施し第4の有機相666gを得た。
【0115】
全オルトクレゾールに対する第1の混合液(敷き液)中のオルトクレゾールの割合(敷き液率)は、230g÷230g×100=100%であった。
【0116】
第4有機相の一部を取り出し、高速液体クロマトグラフィーで第4有機相の組成を確認したところ、オルトクレゾールが5.5質量%、MOPCが0.24質量%、ビスフェノールCが20.5質量%生成していた。
【0117】
更に、第4の有機相を用いて、実施例1の(6)精製(晶析)の同様に実施し、白色の第3のビスフェノールC118gを得た。得られた第3のビスフェノールCの190℃溶融色差は、ハーゼン色数APHA72であった。
【0118】
[第4の有機相中の不明成分の評価]
実施例1及び比較例2について、第4の有機相中の不明成分量を、仕込んだオルトクレゾールを基準として評価した。第4の有機相中の不明成分量は、100モル%から、第4の有機相中のオルトクレゾール量と第4の有機相中のビスフェノールC量と第4の有機相中のMOPC量との合計を引いて求めた。
なお、第4の有機相中のオルトクレゾール量は、オルトクレゾールのモル数(高速液体クロマトグラフィーで算出した第4の有機相におけるオルトクレゾールの質量%×第4の有機相の質量666[g]/オルトクレゾールの分子量108[g/モル])を、仕込んだオルトクレゾールのモル数で除して求めた。
また、第4の有機相中のビスフェノールC量は、ビスフェノールCのモル数を2倍したもの((高速液体クロマトグラフィーで算出した第4の有機相におけるビスフェノールCの質量%×第4の有機相の質量666[g]/ビスフェノールCの分子量256[g/モル])×2)を、仕込んだオルトクレゾールのモル数で除して求めた。
【0119】
実施例1において、第4の有機相中のオルトクレゾール量は、21.7モル%(7.4質量%×666[g]/108[g/モル]/2.1[モル]=21.7モル%)であり、第4の有機相中のビスフェノールC量は、67.9モル%(27.4質量%×666[g]/256[g/モル]/2.1[モル]×2=67.9モル%)であり、第4の有機相中のMOPC量は、0.67モル%であった。
その結果、実施例3の第4の有機相中の不明成分量は、9.7モル%(100モル%-21.7モル%-67.9モル%-0.67モル%=9.7モル%)であった。
【0120】
実施例2において、第4の有機相中のオルトクレゾール量は、21.1モル%(7.2質量%×666[g]/108[g/モル]/2.1[モル]=21.1モル%)であり、第4の有機相中のビスフェノールC量は、59.5モル%(24.0質量%×666[g]/256[g/モル]/2.1[モル]×2=59.5モル%)であり、第4の有機相中のMOPC量は、0.46モル%であった。
その結果、実施例3の第4の有機相中の不明成分量は、18.9モル%(100モル%-21.1モル%-59.5モル%-0.46モル%=18.9モル%)であった。
【0121】
実施例3において、第4の有機相中のオルトクレゾール量は、20.6モル%(7.0質量%×666[g]/108[g/モル]/2.1[モル]=20.6モル%)であり、第4の有機相中のビスフェノールC量は、59.0モル%(23.8質量%×666[g]/256[g/モル]/2.1[モル]×2=59.0モル%)であり、第4の有機相中のMOPC量は、0.40モル%であった。
その結果、実施例3の第4の有機相中の不明成分量は、20.0モル%(100モル%-20.6モル%-59.0モル%-0.40モル%=20.0モル%)であった。
【0122】
比較例2において、第4の有機相中のオルトクレゾール量は、16.2モル%(5.5質量%×666[g]/108[g/モル]/2.1[モル]=16.2ル%)であり、第4の有機相中のビスフェノールC量は、50.8モル%(20.5質量%×666[g]/256[g/モル]/2.1[モル]×2=50.8モル%)であり、第4の有機相中のMOPC量は、0.37モル%(0.24質量%××666[g]/206[g/モル]/2.1[モル]=0.37モル%)であった。
その結果、比較例2の第4の有機相中の不明成分量は、32.6モル%(100モル%-16.2モル%-50.8モル%-0.37モル%=32.63モル%)であった。
【0123】
表2に、実施例1~3及び比較例2の敷き液率、第4の有機相中の不明成分量及びハーゼン色数を纏めた。
表2の結果、オルトクレゾールを分割せずに、オルトクレゾール全量と硫酸とを混合し第1の混合液を調製した後、アセトンを含む混合液を供給すると、不明成分量が増加することが分かる。また、敷き液率が高いほど、不明成分量が増加することが分かる。この不明成分は、硫酸とオルトクレゾールとが反応して生成したクレゾールスルホン酸等と推定される。
【0124】
【表2】
【0125】
[実施例4]
撹拌機及び留出管を備えた内容量150mLのガラス製反応槽に、実施例1で得られた第3のビスフェノールC100.00g(0.39モル)、炭酸ジフェニル86.49g(0.4モル)及び400質量ppmの炭酸セシウム水溶液479μLを入れた。該ガラス製反応槽を約100Paに減圧し、続いて、窒素で大気圧に復圧する操作を3回繰り返し、反応槽の内部を窒素に置換した。その後、該反応槽を200℃のオイルバスに浸漬させ、内容物を溶解した。
【0126】
撹拌機の回転数を毎分100回とし、反応槽内のビスフェノールCと炭酸ジフェニルのオリゴマー化反応により副生するフェノールを留去しながら、40分間かけて反応槽内の圧力を、絶対圧力で101.3kPaから13.3kPaまで減圧した。
【0127】
続いて反応槽内の圧力を13.3kPaに保持し、フェノールを更に留去させながら、80分間、エステル交換反応を行った。
【0128】
その後、反応槽外部温度を250℃に昇温すると共に、40分間かけて反応槽内圧力を絶対圧力で13.3kPaから399Paまで減圧し、留出するフェノールを系外に除去した。
【0129】
その後、反応槽外部温度を280℃に昇温、反応槽の絶対圧力を30Paまで減圧し、重縮合反応を行った。反応槽の撹拌機が予め定めた所定の撹拌動力となったときに、重縮合反応を終了した。
【0130】
次いで、反応槽を窒素により絶対圧力で101.3kPaに復圧した後、ゲージ圧力で0.2MPaまで昇圧し、反応槽の底からポリカーボネートをストランド状で抜出し、ストランド状のポリカーボネート樹脂を得た。
【0131】
その後、回転式カッターを使用して、該ストランドをペレット化して、ペレット状のポリカーボネート樹脂を得た。
【0132】
ポリカーボネートの粘度平均分子量(Mv)は、24900であり、末端水酸基濃度(OH)濃度は829質量ppmであった。またペレットYIは、12.3であった。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明のビスフェノールの製造方法は、色調の良好なビスフェノールの製造することができる。このようなビスフェノールは、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、芳香族ポリエステル樹脂などの光学用材料の原料として有用である。