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  • 特許-酸化鉱石の製錬方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/02 20060101AFI20221109BHJP
   C22B 5/10 20060101ALI20221109BHJP
   C21B 13/10 20060101ALN20221109BHJP
   C22C 33/04 20060101ALN20221109BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B5/10
C21B13/10
C22C33/04 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018174026
(22)【出願日】2018-09-18
(65)【公開番号】P2020045516
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特公昭46-039588(JP,B1)
【文献】特開2017-052993(JP,A)
【文献】特開昭64-039328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
C21B 3/00-15/04
F27B 1/00-3/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを含む混合物を還元炉に装入して加熱還元処理を施すことで還元物を得る還元工程と、
得られた還元物を還元炉から取り出し、その直後に該還元物を水中に投入することにより該還元物を急冷する急冷工程と、
急冷後の還元物からメタルとスラグを分離する分離工程と、を含み、
前記還元工程では、処理時間を15分以上にして前記混合物に対して加熱還元処理を施すことにより、前記還元物に含まれるメタルを還元物内で沈降させてメタル相とスラグ相とを分離させる
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項2】
前記還元工程では、還元温度を1200℃以上1450℃以下として還元する
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項3】
前記還元工程では、前記加熱還元処理の後、得られた還元物を前記還元炉内において所定の温度で保持する
請求項1又は2に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化鉱石の製錬方法に関するものであり、例えば、ニッケル酸化鉱石等の酸化鉱石を原料として炭素質還元剤により還元することで還元物を得る製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉱石の一種であるリモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱石の製錬方法として、熔錬炉を使用してニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用して鉄とニッケルの合金(以下、鉄とニッケルの合金を「フェロニッケル」ともいう)を製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用して高温高圧で酸浸出し、ニッケルやコバルトが混在した混合硫化物(ミックスサルファイド)を製造する湿式製錬方法等が知られている。
【0003】
上述した様々な方法の中で、特に乾式製錬法を用いてニッケル酸化鉱石を還元して製錬する場合、反応を進めるために原料のニッケル酸化鉱石を適度な大きさに破砕する等して塊状物化する処理が前処理として行われる。
【0004】
具体的に、ニッケル酸化鉱石を塊状物化する、すなわち粉状や微粒状の鉱石を塊状にする際には、そのニッケル酸化鉱石と、それ以外の成分、例えばバインダーやコークス等の還元剤とを混合して混合物とし、さらに水分調整等を行った後に塊状物製造機に装入して、例えば一辺あるいは直径が10mm以上30mm以下程度の成形物(ペレット、ブリケット等を指す。以下、単に「ペレット」ということもある)とするのが一般的である。
【0005】
塊状物化して得られるペレットには、含有する水分を「飛ばす」ために、ある程度の通気性が必要となる。さらに、その後の還元処理においてペレット内で均一に還元が進まないと、得られる還元物の組成が不均一になり、メタルが分散したり偏在したりする等の不都合が生じる。そのため、ペレットを作製する際には混合物を均一に混合したり、得られたペレットを還元する際には可能な限り均一な温度を維持することが重要となる。
【0006】
加えて、還元処理により生成するメタル(フェロニッケル)を粗大化させることも非常に重要な技術である。生成したフェロニッケルが、例えば数10μm以上数100μm以下の細かな大きさであった場合、同時に生成するスラグと分離することが困難となり、フェロニッケルとしての回収率(収率)が大きく低下してしまう。そのため、還元後のフェロニッケルを粗大化する処理が必要となる。
【0007】
例えば、特許文献1には、金属酸化物と炭素質還元剤とを含む塊成物を、移動床型還元溶融炉の炉床上に供給して加熱し、金属酸化物を還元溶融させる粒状金属の製造方法において、塊成物同士の距離を0としたときの塊成物の炉床への最大投影面積率に対する、塊成物の炉床への投影面積率の相対値を敷密度としたとき、平均直径が19.5mm以上32mm以下の塊成物を、敷密度が0.5以上0.8以下になるように炉床上に供給して加熱する方法が開示されている。この方法では、塊成物の敷密度と平均直径とを併せて制御することで、粒状金属鉄の生産性を高められることが記載されている。
【0008】
しかしながら、特許文献1にあるような、特定の直径を有するものを塊成物として用いる方法は、特定の直径を有しないものを取り除く必要があるため、塊成物を作製する際の収率が低いものであった。また、特許文献1にある方法は、塊成物の敷密度を0.5以上0.8以下に調整する必要があり、塊成物を積層させることもできないため、生産性の低い方法であった。これらの理由により、特許文献1にある方法は、製造コストが高いものであった。
【0009】
このように、酸化鉱石を混合及び還元して金属や合金を製造する技術には、生産性を高め、製造コストを低減させ、メタルの品質を高める点で、多くの課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-256414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、ニッケル酸化鉱石等の酸化鉱石を含む混合物を還元することでメタルを製造する製錬方法において、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質のメタルを効率的に製造することができる酸化鉱石の製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、加熱還元処理が施された還元物を還元炉から取り出した直後に急冷することにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
(1)本発明の第1は、酸化鉱石と炭素質還元剤とを含む混合物を還元炉に装入して加熱還元処理を施す還元工程と、得られた還元物を還元炉から取り出し、その直後に該還元物を急冷する急冷工程と、急冷後の還元物からメタルとスラグを分離する分離工程と、を含む酸化鉱石の製錬方法である。
【0014】
(2)本発明の第2は、第1の発明において、前記急冷工程では、得られた還元物を水中に投入して急冷する酸化鉱石の製錬方法である。
【0015】
(3)本発明の第3は、第1又は第2の発明において、前記還元工程では、還元温度を1200℃以上1450℃以下として還元する酸化鉱石の製錬方法である。
【0016】
(4)本発明の第4は、第1から第3のいずれかの発明において、前記還元工程では、前記加熱還元処理の後、得られた還元物を前記還元炉内において所定の温度で保持する酸化鉱石の製錬方法である。
【0017】
(5)本発明の第5は、第1から第4のいずれかの発明において、前記酸化鉱石は、ニッケル酸化鉱石である酸化鉱石の製錬方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る酸化鉱石の製錬方法によれば、高品質なメタルを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れの一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0021】
≪1.酸化鉱石の製錬方法の概要≫
本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石である酸化鉱石(酸化物)を炭素質還元剤と混合し、その混合物(ペレット)に対して製錬炉(還元炉)内で還元処理を施すことによって、メタルとスラグとを生成させるものである。
【0022】
例えば、酸化鉱石として、酸化ニッケルや酸化鉄等を含有するニッケル酸化鉱石を原料とし、そのニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を形成して、混合物に含まれるニッケルを優先的に還元し、また鉄を部分的に還元することで、鉄とニッケルの合金であるフェロニッケルを製造する方法が挙げられる。
【0023】
そして、本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法においては、得られた還元物を還元炉から取り出し、その直後に還元物を急冷して、急冷後の還元物からメタルとスラグを分離することを特徴としている。
【0024】
このような方法によれば、還元炉から取り出した直後に加熱状態にある還元物を急冷していることにより、加熱還元処理の熱に起因する還元物の酸化を抑制することができる。これにより、得られるメタルの品位を高めることができる。
【0025】
≪2.ニッケル酸化鉱石を用いてフェロニッケルの製造する製錬方法≫
以下では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれるニッケル(酸化ニッケル)と鉄(酸化鉄)を還元することで、鉄-ニッケル合金のメタルを生成させ、さらに、そのメタルを分離することによってフェロニッケルを製造する製錬方法を例に挙げて説明する。
【0026】
具体的に、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、図1に示すように、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る混合工程S1と、混合物を還元炉に装入して加熱還元処理を施す還元工程S2と、得られた還元物を還元炉から取り出し、その直後に還元物を急冷する急冷工程S3と、急冷後の還元物からメタルとスラグを分離する分離工程S4と、を含む。
【0027】
<2-1.混合工程>
混合工程S1は、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る工程である。具体的には、まず、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に、炭素質還元剤を添加して混合し、また任意成分の添加剤として、鉄鉱石、フラックス成分、バインダー等の、例えば粒径が0.2mm以上0.8mm以下程度の粉末を添加して混合し、混合物を得る。なお、混合処理は、混合機等を用いて行うことができる。
【0028】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、特に限定されないが、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。なお、ニッケル酸化鉱石は、酸化ニッケル(NiO)と、酸化鉄(Fe)とを少なくとも含有する。
【0029】
炭素質還元剤としては、特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。なお、この炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石の粒度や粒度分布と同等の大きさのものであると、均一に混合し易く、還元反応も均一に進みやすくなるため好ましい。
【0030】
炭素質還元剤の含有量(混合物中に含まれる炭素質還元剤の含有量)としては、ニッケル酸化鉱石を構成する酸化ニッケルの全量をニッケルメタル還元するのに必要な化学当量と、酸化鉄(酸化第二鉄)を金属鉄に還元するのに必要な化学当量との両者合計値(便宜的に「化学当量の合計値」ともいう)を100質量%としたときに、50質量%以下の割合とすることが好ましく、40質量%以下の割合とすることがより好ましい。鉄の還元量を抑えて、ニッケル品位を高めることができ、高品質のフェロニッケルを製造することができる。
【0031】
炭素質還元剤の混合量としては、化学当量の合計値を100質量%としたときに、10質量%以上の割合とすることが好ましく、15質量%以上の割合とすることがより好ましい。ニッケルの還元を効率的に進行させることができ生産性が向上する。
【0032】
また、任意成分の添加剤である鉄鉱石としては、例えば、鉄品位が50質量%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。
【0033】
また、フラックス成分としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。
【0034】
混合工程S1では、ニッケル酸化鉱石を含む原料粉末を均一に混合することによって混合物を得る。下記表1に、混合工程S1にて混合する、一部の原料粉末の組成(質量%)の一例を示すが、原料粉末の組成としてはこれに限定されない。
【0035】
【表1】
【0036】
この混合に際しては、混合性を高めるために混練を同時に行ってもよく、混合後に混練を行ってもよい。混練は、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸混練機、二軸混練機等を用いて行うことができる。混合物を混練することによって、その混合物にせん断力を加え、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いて均一に混合できるとともに、各々の粒子の密着性を向上させ、また空隙を減少させることができる。これにより、その混合物において還元反応が起りやすくなるとともに均一に反応させることができ、還元反応の反応時間を短縮することができる。また、品質のばらつきを抑えることができる。
【0037】
また、混合を行った後、あるいは混合及び混練を行った後、押出機を用いて押出してもよい。これにより、混合物に対して圧力(せん断力)が加えられ、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いてその混合物をより均一に混合させた状態とすることができる。さらに、混合物内の空隙を減少させることができる。これらのことから、後述する還元工程S2において混合物の還元反応が均一に起りやすくなり、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質なメタルを製造することができる。
【0038】
押出機は、高圧、高せん断力で混合物を混練して成形できるものであることが好ましく、一軸押出機、二軸押出機等を挙げることができる。特に、二軸押出機を備えたものであることが好ましい。高圧、高せん断で混合物を混練することにより、原料粉の混合物の凝集を解くことができ、また効果的に混練することができるうえ、混合物の強度を高めることができる。また、二軸押出機を備えたものを用いることにより、連続的に高い生産性を保ちながら混合物を得ることができる。
【0039】
また、混合物を所定形状の成形物(ペレット)に成形してもよい。成形物の形状としては、例えば、球状、直方体状、立方体状、円柱状等とすることができる。このような形状は、簡易な形状であって複雑なものではないため、成形コストを抑制しつつ不良品の発生を抑制することができ、得られる成形物の品質も均一となり、歩留り低下を抑制することができる。
【0040】
成形物の形状は、特に球状であることが好ましい。球状の成形物であることにより還元処理が均一に施され、ばらつきが少なく、かつ生産性の高い製錬を行うことができる。成形物の形状を球状とする場合には、直径が10mm以上30mm以下程度となるように成形することができる。また、直方体状、立方体状、円柱状等とする場合には、概ね、縦、横の内寸が500mm以下程度となるように成形することができる。
【0041】
成形物の大きさとしては、特に限定されないが、成形物の体積が8000mm以上であることが好ましい。成形物の体積が8000mm以上であることにより、成形コストが抑制され、さらに、成形物全体に占める表面積の割合が低くなるため、加熱還元処理が均一に施され、ばらつきが少なく、かつ生産性の高い製錬を行うことができる。
【0042】
また、得られた成形物を所定の還元用の容器に充填してもよい。容器に充填された成形物が容器に充填された状態のまま還元処理が施されることにより、後述する分離工程S4において還元されたメタルが磁選等の処理によりメタルを分離回収し易くなり、ロスを抑制することができる。
【0043】
還元用の容器への成形物の充填方法としては、押出機等を用いて成形物を順次容器に供給することによって行うことができる。還元用の容器としては、特に限定されないが、直方体又は立方体の形状を有するものを用いることができる。容器の大きさについても、特に限定されないが、例えば、直方体の形状である場合、上面から視たときの面の縦と横の内寸が50mm以上1000mm以下、高さの内寸が5mm以上500mm以下のものを用いることが好ましい。還元用の容器としては、特に限定されないが、容器内に充填した成形物に対して還元処理時に悪影響をもたらさず、その還元反応を効率的に進行させることができる材質からなるものを用いることが好ましい。具体的には、黒鉛製のるつぼ、セラミックや金属からなるもの等を用いることができる。
【0044】
混合工程S1では、得られた混合物に乾燥処理を施してもよい。混合物は、混練や成形物の成形等において上記混合物を多量の水と共に混合する。本実施の形態におい乾燥処理を施すことは必須の態様ではないが、多量の水を含む混合物に乾燥処理を施すことにより、後述する還元処理において水分の気化に伴う混合物の膨張を防ぐことができる。
【0045】
混合物を乾燥する方法は、特に限定されず、混合物を所定の乾燥温度(例えば、300℃以上400℃以下)に保持する方法や所定の乾燥温度の熱風を混合物に対して吹き付けて乾燥させる方法等、従来公知の手段を用いることができる。このような乾燥処理により、例えば、混合物の固形分が70質量%程度で、水分が30質量%程度となるようにする。なお、この乾燥処理時における混合物自身の温度としては、100℃未満とすることが、混合物内部からの水分の突沸等による混合物の破裂を抑制できて好ましい。
【0046】
また、乾燥処理は連続して一度に行ってもよいし複数回に分けて行ってもよい。乾燥処理を複数回に分けて行うことにより混合物の破裂をより効果的に抑制することができる。なお、乾燥処理を複数回に分けて行った場合において、2回目以降の乾燥温度としては、150℃以上400℃以下が好ましい。この範囲で乾燥することにより、還元反応が進むことなく乾燥することが可能となる。
【0047】
下記表2に、乾燥処理後の混合物における固形分中組成(質量部)の一例を示す。なお、成形物の組成としては、これに限定されるものではない。
【0048】
【表2】
(※固形分の組成において、上記以外の成分は残部である。)
【0049】
<2-2.還元工程>
還元工程S2は、得られた混合物を還元炉内に装入して、所定の還元温度で加熱還元処理する工程である。還元工程S2における加熱還元処理により、製錬反応(還元反応)が進行して、フェロニッケルメタル(以下、単に「メタル」という)と、フェロニッケルスラグ(以下、単に「スラグ」という)とが分かれて生成する。
【0050】
具体的に、還元工程S2における加熱還元処理は、ニッケル酸化鉱石を含む混合物を、所定の還元温度に加熱した還元炉に装入することによって行われる。加熱還元処理においては、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルは可能な限り完全にかつ優先的に還元し、一方で、ニッケル酸化鉱石に含まれる酸化鉄は一部だけ還元して、目的とする高いニッケル品位のフェロニッケルが得られる、いわゆる部分還元を施す。
【0051】
加熱還元処理では、例えば1分程度のわずかな時間で、先ず還元反応の進みやすい混合物の表面近傍において混合物中のニッケル酸化鉱石及び鉄酸化物が還元されメタル化してフェロニッケルとなり、殻(シェル)を形成する。一方で、殻の中では、その殻の形成に伴ってスラグ成分が徐々に熔融して液相のスラグが生成する。これにより、混合物中では、メタルと、スラグとが分かれて生成する。
【0052】
そして、処理時間が10分程度経過すると、還元反応に関与しない余剰の炭素質還元剤がメタルに取り込まれて融点を低下させて、メタルも液相となる。なお、この還元物の体積は、還元炉に装入する混合物と比較すると、50%以上60%以下程度の体積に収縮している。
【0053】
加熱還元処理における温度(還元温度)としては、特に限定されないが、1200℃以上1450℃以下の範囲とすることが好ましく、1300℃以上1400℃以下の範囲とすることがより好ましい。このような温度範囲で還元することによって、均一に還元反応を生じさせることができ、品質のばらつきを抑制したフェロニッケルを生成させることができる。また、より好ましくは1300℃以上1400℃以下の範囲の還元温度で還元することで、比較的短時間で所望の還元反応を生じさせることができる。
【0054】
加熱還元処理における時間(処理時間)としては、還元炉の温度に応じて設定されるが、10分以上であることが好ましく、15分以上であることがより好ましい。
【0055】
加熱還元処理においては、上述した範囲の還元温度になるまで、例えばバーナー等により還元炉の内部温度を上昇させ、昇温後にその温度を維持してもよい。
【0056】
なお、還元温度(℃)と還元時間(分)の数値を乗じた値を還元に要した熱量は、20000(℃×分)以上40000(℃×分)以下の範囲であることが好ましい。これにより、高品質なメタルを効率的に製造することができる。
【0057】
還元炉としては、特に限定されないが、単一の炉を用いても、移動炉床炉等の炉床が回転移動等して工程ごとに連続的に処理可能となる炉を用いてもよい。その中でも、還元炉として移動炉床炉を用いることで、連続的に還元反応を進行させ、一つの設備で反応を完結させることができる。また、工程ごとに別々の炉を使用して操業を行った場合、炉と炉との間を移動させる際に、温度が低下してヒートロスが生じる可能性がある。また、雰囲気ガスに変化を生じさせてしまい、炉に再装入したときに即座に反応を生じさせることができないことがある。この点、移動炉床炉を使用して一つの設備で各工程での処理を行うことで、ヒートロスが低減されるとともに炉内雰囲気も的確に制御できるため、反応をより効果的に進行させることができる。
【0058】
移動炉床炉としては、特に限定されず、例えば、円形状であって複数の処理領域に区分けされた回転炉床炉を用いることができる。回転炉床炉では、所定の方向に回転しながら、各領域においてそれぞれの処理を行う。この回転炉床炉では、各領域を通過する際の時間(移動時間、回転時間)を制御することで、それぞれの領域での処理温度を調整することができ、回転炉床炉が1回転する毎に混合物が製錬処理される。また、移動炉床炉としては、ローラーハースキルン等であってもよい。
【0059】
加熱還元処理では、混合工程S1から得られた混合物を還元炉に装入するにあたって、予めその還元炉内の炉床に炭素質還元剤(以下、「炉床炭素質還元剤」ともいう)を敷き詰めて、その敷き詰められた炉床炭素質還元剤の上に混合物を載置するようにしてもよい。また、炉床に、酸化物を主成分とする床敷材を敷いて、その上に混合物を載置してもよい。このように、炉床に炭素質還元剤や床敷材等を敷いて、その上に混合物を載置することによって、炉床と混合物の反応を抑制することができ、延いては炉床の寿命を延ばすことができる。
【0060】
ここで、上述した加熱還元処理の後、得られたメタルとスラグとからなる還元物を、同一の還元炉内において所定の温度で保持する温度保持処理を施すようにしてもよい。より具体的には、温度保持処理では、加熱還元処理により得られた還元物を、還元炉から取り出さずに、同一の還元炉内で所定の温度で一定時間保持する。
【0061】
このように、同一の還元炉において還元物に対して温度保持処理を施すことにより、半溶融状態の還元物中でメタルを有効に沈降させてメタル相とスラグ相との分離を促進させることができる。これにより、メタルの回収率を高めることができ、より高品質なメタルを得ることができる。
【0062】
加熱還元処理後における還元炉内の雰囲気ガスは、主に炭素質還元剤に由来するCOガスであり、CO等の還元性ガスが多く含まれており、不活性ガス等も含まれるが、酸素等の酸化性ガスは殆ど含まれない。したがって、酸素等の酸化性ガスが殆ど含まれない加熱還元処理後の還元炉内において、雰囲気ガスを伴った状態(還元物が酸化雰囲気から遮断された状態)で、得られた還元物を所定の温度に保持することで、還元物中のメタルが酸化されることを効果的に抑制しつつ還元物中のメタルを沈降させることができる。
【0063】
温度保持処理の処理時間(温度保持時間)としては、特に制限されないが、10分以上1000分以下であることが好ましく、30分以上180分以下であることがより好ましい。
【0064】
<2-3.急冷工程>
急冷工程S3は、得られた還元物を還元炉から取り出して、その取り出し直後に還元物を急冷する工程である。具体的には、還元物を還元炉から取り出した直後に加熱状態にある還元物を急冷する。
【0065】
加熱還元処理により得られた還元物を還元炉から大気中に取り出すと、その還元物は酸化性の雰囲気に曝されることになり、メタルが酸化される状況となる。しかも、その還元物は、冷却されるまでの間は高温の熱を帯びた状態であることから、大気に接触することでメタルの酸化がより促進される状態にある。加熱還元処理により得られたメタルが酸化されると、メタルの品位が低下してしまう。
【0066】
そこで、本実施の形態においては、還元物を還元炉から取り出した直後にその還元物を急冷することを特徴としている。これにより、還元物の冷却時間を短縮することが可能となり、熱を帯びた状態の還元物が大気と接触することによってメタルが酸化してしまうことを抑制することができ、その結果として得られるメタルの品位を高めることができる。
【0067】
また、還元物に含まれるメタルとスラグは、それぞれ熱収縮率が異なることから、還元物を急冷することによって、熱収縮したメタルとスラグとの界面にクラックを生じさせることができ、又は還元物自体を自然に割ることもできるため、後述する分離工程S4においてメタルとスラグとの分離を容易にすることができる。
【0068】
還元物を急冷する方法は、特に限定されないが、例えば還元物を冷却媒体と接触させて冷却する方法を挙げることができる。その場合、冷却媒体としては、還元物を効果的に急冷できるものであれば特に制限されないが、例えば水や液体窒素等の液体、氷やドライアイス等の固体を用いることができる。還元物を冷却媒体と接触させる場合、冷却媒体の量は特に限定されるものではないが、その冷却媒体が全て気化等しない程度の量であることが好ましい。
【0069】
例えば、還元物を冷却する冷却媒体としては水を挙げることができる。具体的には、還元炉から取り出した還元物を、冷却タンク等に収容した水中に投入することによって冷却する。このような方法は、簡便であり、還元物を効果的に冷却することができるため好ましい。また、還元物を水中に投入する場合、より効率的に放熱して還元物を冷却するために、水を循環させたり、水を補給しながら行うことが好ましい。
【0070】
還元物を急冷するにあたっては、還元炉から取り出した直後の還元物の温度にもよるが、50℃/分以上の冷却速度であることが好ましく、70℃/分以上の冷却速度であることがより好ましく、120℃/分以上の冷却速度であることがさらに好ましい。50℃/分以上の冷却速度であることにより、還元物の冷却時間を短縮して、より効果的に還元物に含まれるメタルの酸化を抑制することができる。なお、冷却速度の上限は特に制限はないが、冷却媒体が瞬間的に多量に気化しない程度の速度であることが好ましい。
【0071】
<2-4.分離工程>
分離工程S4は、得られた還元物からメタルとスラグを分離する工程である。具体的には、混合物に対する還元加熱処理によって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(スラグ固相)とを含む混在物(還元物)からメタル相を分離して回収する。
【0072】
固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0073】
また、得られたメタル相とスラグ相は、濡れ性が悪いことから容易に分離することができ、大きな混在物に対して、例えば、所定の落差を設けて落下させる、あるいは篩い分けの際に所定の振動を与える等の衝撃を与えることで、その混在物からメタル相とスラグ相とを容易に分離することができる。
【0074】
特に、本実施の形態では、上述した急冷工程S3において還元炉からの取り出し直後の還元物を急冷するようにしていることから、その急冷による熱収縮によって意図的にメタルとスラグとの界面にクラックを生じさせることができ、還元物の粉砕を容易にして、より効率的にメタル相とスラグ相とを分離することができる。
【実施例
【0075】
以下、本発明の実施例及び比較例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0076】
<実施例、比較例>
原料鉱石としてのニッケル酸化鉱石と、鉄鉱石と、フラックス成分である珪砂及び石灰石、バインダー、及び炭素質還元剤(石炭粉、炭素含有量:85質量%、平均粒径:約180μm)を、適量の水を添加しながら混合機を用いて混合して混合物を得た。炭素質還元剤(石炭粉)は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルと酸化鉄(Fe)とを過不足なく還元するのに必要な量を100質量%としたときに、混合物に応じて25質量%の割合となる量で含有させた。下記表3に、乾燥処理後の混合物固形分組成(炭素を除く)を示す。そして、得られた混合物を12個の試料に均等に取り分けた。
【0077】
【表3】
【0078】
次に、酸素を含まない窒素雰囲気にした還元炉の炉床に炉床保護剤(主成分はSiOであり、その他の成分としてAl、MgO等の酸化物を少量含有する。)を敷き詰め、その上に12個の混合物(試料)を置いた。なお、装入時の温度条件は、500±20℃とした。
【0079】
そして、炉内に装入した混合物の表面のうち、温度が最も高くなる部分の温度(還元温度)が下記表4に記載の温度になるまで還元炉を昇温させ、混合物に対して加熱還元処理を施した。なお、加熱還元処理の処理時間は、下記表4に記載の時間とした。
【0080】
加熱還元処理の後、実施例1~7の試料については、還元炉から取り出した直後に大量の水の中に投入して試料を急冷した。一方で、比較例1~5の試料については、還元炉から取り出した後、大気下に置いて室温まで自然冷却させた。
【0081】
冷却後の実施例1~7及び比較例1~5の試料について粉砕機を用いてそれぞれの試料を同じ条件で粉砕し、その後磁選機を用いて同じ条件で磁力選別によってメタルを回収した。
【0082】
還元加熱処理後の各試料について、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率を、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100型)により分析して算出した。
【0083】
ニッケルメタル化率、メタル中のニッケル含有率は、以下の式(1)、(2)により算出した。
ニッケルメタル化率=メタル中のニッケルの質量÷(還元物中の全てのニッケルの質量)×100(%) ・・・(1)式
メタル中ニッケル含有率=メタル中のニッケルの質量÷(メタル中のニッケルと鉄の合計質量)×100(%) ・・・(2)式
【0084】
また、回収したメタルとスラグに随伴したメタルのそれぞれの量からメタル回収率を算出した。すなわち計算式は式(3)のとおりである。
メタル回収率=回収したメタルの質量÷(回収したメタルの質量+スラグに随伴したメタルの質量)×100(%) ・・・(3)式
【0085】
下記表4に、それぞれの試料における、ニッケルメタル化率、メタル中のニッケル含有率を示す。
【0086】
【表4】
【0087】
表4の結果からわかるように、得られた還元物を還元炉から取り出して、その直後に還元物を急冷した実施例1~7では、比較例1~5と比べてニッケルメタル化率及びメタル中ニッケル含有率がいずれも高くなった。このことは、還元炉から取り出した直後に加熱状態の還元物を急冷したことで、還元物の酸化を抑制することができたためと考えられる。
【0088】
また、実施例1~7では、比較例1~5と比べてメタル回収率が高くなった。このことは、還元物を急冷したことで、メタルとスラグとの界面にクラックが生じ、効果的にメタル相とスラグ相とが分離されたためと考えられる。
図1