(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】イオンビーム処理手段を備えた金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置及び製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/02 20060101AFI20221109BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20221109BHJP
C23C 14/56 20060101ALI20221109BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20221109BHJP
H05K 3/16 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C23C14/02 A
C23C14/14 G
C23C14/56 A
H05K3/00 R
H05K3/16
(21)【出願番号】P 2018174719
(22)【出願日】2018-09-19
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】大上 秀晴
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-231628(JP,A)
【文献】特開2006-164683(JP,A)
【文献】特開2007-261773(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/02
C23C 14/14
C23C 14/56
H05K 3/00
H05K 3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空中においてロールツーロール方式で搬送される長尺の樹脂フィルムに金属膜を成膜する真空成膜手段を備えた金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置であって、該真空成膜手段よりも上流側において、樹脂フィルムの搬送経路の幅方向中央部と該中央部よりも搬送方向下流側の幅方向両端部とを結ぶ2条の直線状領域に向けてイオンビームを照射する
、略V字状に配置した2基のイオンビーム照射装置又は略V字形状を有する1基のイオンビーム照射装置からなるイオンビーム照射手段が設けられていることを特徴とする金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置。
【請求項2】
前記2条の直線状領域の各々の延在方向が、前記搬送経路の搬送方向に対して30~60°傾斜していることを特徴とする、請求項1に記載の金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置。
【請求項3】
前記イオンビーム照射手段が2基の棒状のイオンビーム照射装置によって構成され、これら2基のイオンビーム照射装置によって同時に照射する前記搬送経路の幅方向中央部の位置が、該搬送方向に互いにずれていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置。
【請求項4】
前記イオンビーム処理された直後の前記樹脂フィルムをその幅方向に伸ばす拡幅機構が具備されていることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置。
【請求項5】
前記拡幅機構が、前記樹脂フィルムの幅方向両端部の各々を表裏面から挟み込む2対のピンチロールからなり、各対のピンチロールは、それらの両端部のうちの前記樹脂フィルムの幅方向内側に位置する端部が幅方向外側に位置する端部よりも前記搬送方向の下流側となるようにそれらの回転軸が該幅方向に対して傾斜していることを特徴とする、請求項4に記載の金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置。
【請求項6】
前記樹脂フィルムが、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、アラミド、トリアセテート、及び液晶ポリマーうちのいずれか1種の単体品あるいは貼り合わせ品であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置。
【請求項7】
真空中においてロールツーロール方式で搬送される長尺の樹脂フィルムに金属膜を成膜する金属膜付樹脂フィルム基板の製造方法であって、
略V字状に配置した2基のイオンビーム照射装置又は略V字形状を有する1基のイオンビーム照射装置からなるイオンビーム照射手段を用いて、該成膜前の樹脂フィルムにおいて、その幅方向中央部と該中央部よりも搬送方向下流側の幅方向両端部とを結ぶ2条の直線状領域を同時にイオンビーム処理することを特徴とする金属膜付樹脂フィルム基板の製造方法。
【請求項8】
前記イオンビーム処理された直後の前記樹脂フィルムをその幅方向に拡幅させることを特徴とする、請求項7に記載の金属膜付樹脂フィルム基板の製造方法。
【請求項9】
前記2条の直線状領域の各々の延在方向を、前記樹脂フィルムの搬送方向に対して30~60°傾斜させることを特徴とする、請求項1に記載の金属膜付樹脂フィルム基板の製造方法。
【請求項10】
前記樹脂フィルムが、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、アラミド、トリアセテート、及び液晶ポリマーのうちのいずれか1種の単体品あるいは貼り合わせ品であることを特徴とする、請求項7~9のいずれか1項に記載の金属膜付樹脂フィルム基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンビーム処理手段を備えた金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置及び製造方法に関し、特に、真空中においてロールツーロール方式で搬送される長尺樹脂フィルムに金属膜を成膜する前にその密着力の向上のためイオンビーム処理を行う金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置及び製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等の電子機器には、耐熱性樹脂フィルムの表面に配線回路が形成されたフレキシブル配線基板が用いられている。このフレキシブル配線基板は、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を設けることで金属膜付樹脂フィルム基板を作製した後、該金属膜に対してフォトリソグラフィーやエッチング等の薄膜技術を適用してパターニング加工を施すことで作製することができる。このようにして作製されるフレキシブル配線基板の配線回路は近年ますます微細化、高密度化しており、よってその材料となる金属膜付樹脂フィルム基板には、樹脂フィルムに対して金属膜が強く密着していることが求められている。
【0003】
従来、上記の金属膜付樹脂フィルム基板の製造方法としては、金属箔を接着剤により耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法)、あるいは耐熱性樹脂フィルムに真空成膜法のみで成膜するか、又は真空成膜法による金属薄膜層の成膜と湿式めっき法による金属厚膜層の成膜とをこの順に行って積層させる方法(メタライジング法)等が知られている。また、上記のメタライジング法における真空成膜法には、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等を用いるのが一般的である。
【0004】
上記のメタライジング法に関し、例えば特許文献1には、ポリイミド絶縁層上にクロムをスパッタリングした後、銅をスパッタリングしてポリイミド絶縁層上に導体層を形成することで接着強度の高い金属膜付樹脂フィルム基板を作製する技術が開示されている。また、特許文献2には、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングにより形成された下地金属層と、銅をターゲットとするスパッタリングにより形成された銅薄膜層とを、この順でポリイミドフィルム上に積層することによって高温時における銅薄膜層とポリイミドフィルムとの接着力の低下を抑制したフレキシブル回路基板用の材料を作製する技術が開示されている。
【0005】
上記のように、ポリイミドフィルム表面にスパッタリングにより金属膜を成膜することで作製される金属膜付樹脂フィルム基板は、ポリイミドフィルムと金属膜との密着性を高くすることが求められている。そこでこの密着性をより一層向上させる技術として、特許文献3にはロールツーロール方式で搬送される長尺のポリイミドフィルムに対して成膜直前に真空中でイオンビーム処理を施すことで、該ポリイミドフィルムの最表面を削り取って清浄面を出し、これによりポリイミドフィルムと金属膜との密着性を向上させる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平2-98994号公報
【文献】特開平6-97616号公報
【文献】特開2017-088988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリイミドフィルムなどの耐熱性樹脂フィルムからなる基材の表面に真空成膜を行う場合は、上記特許文献3に記載されているようなスパッタリングウェブコータを用いてロールツーロール方式で長尺の樹脂フィルムを搬送しながら真空成膜を行うのが一般的である。この場合、長尺樹脂フィルムの表面に金属膜を成膜する前に、真空空間内を搬送中の長尺樹脂フィルムに対してイオンビーム処理を施すと、該樹脂フィルムに極短時間に高密度のエネルギーがその幅方向に同時に加わるため、該長尺樹脂フィルムが熱膨張あるいは軟化していわゆるトラフシワが発生することがあった。特に、密着性を上げるためにはより多くの清浄面を削り出すのが効果的であるため、一般的にイオンビームの出力を高くする傾向にある。しかしながら、イオンビームの出力を高めると、低出力では生じない樹脂フィルムの軟化を引き起こし、これがシワの原因になることがあった。
【0008】
上記のトラフシワの発生を抑えるため、イオンビーム処理の直後にピンチロールのようなフィルム拡幅機構を装備してイオンビーム処理された長尺樹脂フィルムをその幅方向に伸ばすことがあるが、上記トラフシワの発生を抑止する効果はあまり期待できなかった。本発明は、上記したロールツーロール方式での真空成膜により長尺樹脂フィルムの表面に金属膜を成膜する際、その前処理としてイオンビーム処理を長尺樹脂フィルムに施してもトラフシワが発生しにくい製造装置及び製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明に係る金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置は、真空中においてロールツーロール方式で搬送される長尺の樹脂フィルムに金属膜を成膜する真空成膜手段を備えた金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置であって、該真空成膜手段よりも上流側において、樹脂フィルムの搬送経路の幅方向中央部と該中央部よりも搬送方向下流側の幅方向両端部とを結ぶ2条の直線状領域に向けてイオンビームを照射する、略V字状に配置した2基のイオンビーム照射装置又は略V字形状を有する1基のイオンビーム照射装置からなるイオンビーム照射手段が設けられていることを特徴としている。
【0010】
また、本発明に係る金属膜付樹脂フィルム基板の製造方法は、真空中においてロールツーロール方式で搬送される長尺の樹脂フィルムに金属膜を成膜する金属膜付樹脂フィルム基板の製造方法であって、略V字状に配置した2基のイオンビーム照射装置又は略V字形状を有する1基のイオンビーム照射装置からなるイオンビーム照射手段を用いて、該成膜前の樹脂フィルムにおいて、その幅方向中央部と該中央部よりも搬送方向下流側の幅方向両端部とを結ぶ2条の直線状領域を同時にイオンビーム処理することを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ロールツーロール方式で搬送される長尺樹脂フィルムに対してイオンビーム処理を施す際に生じやすいトラフシワの発生を抑えることができる。これにより、イオンビームの照射エネルギーを高めることができるので、密着力の高い高品質の金属膜付樹脂フィルム基板を高い歩留まりで作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に係る金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置の一具体例を示す正面図である。
【
図2】
図1の製造装置が具備するイオンビーム照射手段の一具体例の斜視図である。
【
図3】従来の金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置が具備するイオンビーム照射手段を示す斜視図である。
【
図4】
図1の製造装置が具備するイオンビーム照射手段の他の具体例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置
以下、本発明の金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置の一具体例として、真空中においてロールツーロール方式で長尺の耐熱性樹脂フィルムを搬送しながら熱負荷の掛かる成膜処理により金属膜の成膜を行う真空成膜装置について
図1を参照しながら詳細に説明する。この
図1の示す真空成膜装置はスパッタリングウェブコータとも称され、長尺の樹脂フィルムAに対して熱負荷の掛かる成膜処理であるスパッタリング成膜により金属膜を連続的に成膜する装置である。なお、
図1において、長尺の樹脂フィルムを所定の経路に沿って搬送させる役割を担う各種ロールのうち、モータで駆動するロールにはモータを意味するMが、張力測定ロールにはテンションピックアップを意味するTPが、フリーロールにはフリーを意味するFが円内に付されている。
【0014】
この
図1に示すフィルム基板処理装置は、樹脂フィルムAの巻き出しが行われる巻出室10、該巻き出された樹脂フィルムAに乾燥処理を行う乾燥室20、該乾燥処理後の樹脂フィルムAと金属膜との密着力を高めるべくイオンビーム処理を行うイオンビーム処理室30、イオンビーム処理された樹脂フィルムAに金属膜の成膜を行う成膜室40、及び成膜後の樹脂フィルムAの巻き取りを行う巻取室50がこの順に
図1の紙面右側から左側に一列に並べられており、これら室内に設けられている各種ロール群によって画定される経路に沿って長尺の樹脂フィルムAをロールツーロール方式で搬送させることで、金属膜付樹脂フィルム基板を連続的に作製することができる。
【0015】
具体的に説明すると、巻出室10内では、巻出ロール11から巻き出された成膜前の樹脂フィルムAは、フリーロール12、張力測定ロール13、及びフリーロール14によって画定される経路に沿って搬送された後、巻出室10を出て隣接する乾燥室20に入る。上記張力測定ロール13は、巻出ロール11から巻き出された時の樹脂フィルムAの張力を測定しており、この張力が一定となるように巻出ロール11によってフィードバック制御される。
【0016】
乾燥室20内では、樹脂フィルムAは駆動ロール21、フリーロール22、張力測定ロール23、フリーロール24、及びフリーロール25によって画定される上下方向に往復する経路に沿って搬送され、その際、該搬送経路を走行する樹脂フィルムAに対向する位置に設けられた5基のヒータ26によって乾燥処理が施される。この乾燥処理時の樹脂フィルムAの張力が一定となるように、張力測定ロール23で測定した張力が駆動ロール21によってフィードバック制御される。上記の乾燥処理後は、樹脂フィルムAは乾燥室20を出て隣接するイオンビーム処理室30に入る。
【0017】
イオンビーム処理室30内では、樹脂フィルムAはフリーロール31、32、33、34によって画定される経路に沿って搬送され、その際、フリーロール32と33との間の樹脂フィルムAの搬送経路に対向する位置に設けられたイオンビーム照射手段35によって、成膜前の樹脂フィルムAの成膜面がイオンビーム処理される。該イオンビーム照射手段35でイオンビーム処理された樹脂フィルムAは、ピンチロールからなる拡幅機構36によって幅方向に拡幅される。これらイオンビーム照射手段35及び拡幅機構36については後で詳細に説明する。上記イオンビーム処理及び拡幅が行われた樹脂フィルムAは、イオンビーム室30を出て隣接する成膜室40に入る。
【0018】
成膜室40内では、樹脂フィルムAは駆動ロール41、張力測定ロール42、キャンロール43、張力測定ロール44、及び駆動ロール45によって画定される経路に沿って搬送され、その際、キャンロール43の外周面に沿って設けられた4個のマグネトロンスパッタリングカソード46、47、48、49によって段階的に金属膜のスパッタリング成膜が行われる。上記キャンロール43は内部に冷媒が流れており、スパッタ成膜時の樹脂フィルムAを裏側から冷却できるようになっている。なお、上記マグネトロンスパッタリングカソードに板状ターゲットを用いた場合はその上にノジュール(異物の成長)が発生することがあるので、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを用いる場合がある。
【0019】
成膜室40では、上記キャンロール43の上流側の樹脂フィルムAの張力が一定となるように、張力測定ロール42で測定した張力が駆動ロール41によってフィードバック制御され、該キャンロール43の下流側の樹脂フィルムAの張力が一定となるように、張力測定ロール44で測定した張力が駆動ロール45によってフィードバック制御される。なお、上記マグネトロンスパッタリングカソード46~49から飛散したスパッタ粒子が壁面等に付着するのを防ぐため、成膜室40内には仕切板40aが設けられている。上記スパッタリング成膜された樹脂フィルムAは、成膜室40を出て隣接する巻取室50に入る。
【0020】
巻取室50内では、樹脂フィルムAはフリーロール51、張力測定ロール52、及びフリーロール53によって画定される経路に沿って搬送された後、巻取ロール54に巻き取られる。この巻取ロール54で巻き取る時の樹脂フィルムAの張力が一定となるように、張力測定ロール52で測定した樹脂フィルムAの張力が巻取ロール54によってフィードバック制御される。
【0021】
上記の金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置を用いることで、樹脂フィルムAの片面又は両面に金属膜を成膜することができる。樹脂フィルムAの片面に成膜を行う場合は、樹脂フィルムAを巻出ロール11から巻取ロール54までロールツーロールで一方向に搬送すればよい。一方、樹脂フィルムAの両面に成膜を行う場合は、先ず上記のように樹脂フィルムAをロールツーロールで一方向に搬送して樹脂フィルムAの第1面に成膜した後、この片面成膜済みの樹脂フィルムAを該巻取ロール54から取り外して巻出ロール11に再度セットする。そして、
図1の点線で示す経路から樹脂フィルムAを巻き出す以外は上記の第1面の成膜の場合と同様にして該第1面とは反対側の第2面に成膜すればよい。
【0022】
上記のように、樹脂フィルムAの両面に成膜を行う場合は、第2面の成膜後の樹脂フィルムAをそのまま巻取ロール54で巻き取ると、先に成膜した第1面の金属膜と第2面の金属膜とが真空中で強く接触して張り付くいわゆるブロッキング現象が発生することがある。このブロッキング現象の発生を防止するため、巻取室50内には合紙巻出ロール55及びフリーロール56が設けられており、第2面の成膜後の樹脂フィルムAを巻取ロール54で巻き取る際に、合紙巻出ロール55から巻き出したフィルム状の合紙Bをフリーロール56を経由させて巻取ロール54に巻き込ませている。
【0023】
上記した巻出室10から巻取室50までの各々には、内部を真空雰囲気に減圧してその状態を維持するため、ドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の図示しない種々の排気設備が設けられており、特に成膜室40ではスパッタリング成膜のため、到達圧力10-4Pa程度までの減圧と、その後のスパッタリングガスの導入による0.1~10Pa程度の圧力調整が行われる。スパッタリングガスにはアルゴンなど公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素などのガスが添加される。各真空室の形状や材質は、このような減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。
【0024】
なお、上記の本発明の一具体例の金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置は、熱負荷の掛かる成膜処理としてスパッタリング成膜を行うものであるため、成膜室40には真空成膜手段として前述したように4個のマグネトロンスパッタリングカソードが設けられているが、熱負荷の掛かる成膜処理がCVD(化学蒸着)や蒸着処理などの他の方式である場合は、上記カソードに代えてかかる他の方式の真空成膜手段が設けられることになる。また、樹脂フィルムAの搬送経路を画定する各種ロール群は
図1に示す場合に限定されるものではない。
【0025】
上記のような金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置にて作製される金属膜付樹脂フィルム基板の基材となる樹脂フィルムの材質には、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート等の比較的耐熱性に劣る樹脂フィルムのほか、ポリイミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、アラミド、トリアセテート、液晶ポリマーなどの耐熱性樹脂フィルムを用いることができる。これらの中では、金属膜付フレキシブル基板に要求される柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性に優れている点からポリイミドが好ましい。
【0026】
上記の樹脂フィルムの表面に
図1に示すスパッタリングウェブコータを用いて金属膜をスパッタリング成膜する場合は、例えばマグネトロンスパッタリングカソード46にNi系合金製のターゲットを装着し、マグネトロンスパッタリングカソード47~49にCu製のターゲットを装着することにより、上記樹脂フィルムの片面又は両面にNi系合金からなる下地金属層とCuからなる薄膜層とが積層された金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルム基板を作製することができる。
【0027】
上記の下地金属層はシード層とも称され、金属膜付樹脂フィルム基板に必要とされる電気絶縁性や耐マイグレーション性等の特性により適宜その組成が選択され、例えばNi-Cr合金、インコネル、コンスタンタン、モネル等の公知の合金が一般的に選択される。この下地金属層の上に成膜されるCu薄膜層を厚膜化する場合は、上記の真空成膜による乾式めっき処理の後工程として、湿式めっき処理で成膜するのが好ましい。この湿式めっき処理による厚膜化は、電気めっき処理のみで行ってもよいし、一次めっきとしての無電解めっき処理と二次めっきとしての電解めっき処理との組み合わせで行ってもよい。いずれの場合であっても、一般的な湿式めっき条件下で良好に厚膜化することができる。
【0028】
上記のようにして作製された金属膜付樹脂フィルム基板は、一般的なパターニング加工法により所望の回路パターンを有するフレキシブル配線基板を作製することができる。例えば金属膜の上にパターニングされたレジストを設けた後、該レジストから露出する金属膜部分をエッチング処理で除去するサブトラクティブ法により、所定の配線パターンを有するフレキシブル配線基板を得ることができる。
【0029】
2.イオンビーム照射手段
上記したように、本発明の一具体例の金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置は、真空成膜手段であるマグネトロンスパッタカソード46~49の位置よりも上流側にイオンビーム照射手段35が設けられている。このイオンビーム照射手段35は、
図2に示すように、矢印方向に搬送される樹脂フィルムAの搬送経路に対向する位置に設けられた2基の棒状のイオンビーム照射装置1a、1bから構成されており、これら2基のイオンビーム照射装置1a、1bは、該樹脂フィルムの搬送経路の幅方向中央部と該中央部よりも搬送方向下流側の幅方向両端部とを結ぶ2条の直線状領域R1、R2に向けてそれぞれイオンビームを照射するように全体として略V字状に配置されている。
【0030】
かかる構成により、ロールツーロール方式で搬送される樹脂フィルムAは、中央部から両端部に向かって徐々にイオンビームが照射されるので、該樹脂フィルムAにおける熱膨張や軟化を幅方向中央部から両端部に向かって徐々に生じさせることができる。よって、これら熱膨張や軟化によって生じ得るトラフシワの発生を抑えることができる。
【0031】
すなわち、
図3に示すように、従来のイオンビーム照射手段2は、矢印の方向に搬送される樹脂フィルムAの搬送経路の幅方向に延在するように配置されていたため、樹脂フィルムAにはその幅方向に延在する直線状領域R3に同時にイオンビームが照射されていた。その結果、樹脂フィルムAの幅方向の該直線状領域R3に極短時間に同時に熱負荷が掛かるので、熱膨張あるいは軟化による幅方向の応力が過大になり、トラフシワが生じやすい状況にあった。
【0032】
これに対して、本発明の一具体例の製造装置が具備するイオンビーム照射手段35は、前述したように2基のイオンビーム照射装置1a、1bを全体として略V字状に配置することで樹脂フィルムAの幅方向に対して傾斜した直線状領域R1、R2に同時にイオンビームが照射されるので、熱膨張あるいは軟化による幅方向の応力を適度に分散させることができ、よってトラフシワの発生を効果的に抑制することができる。
【0033】
本発明の一具体例の製造装置においては、上記の2条の直線状領域R1、R2の各々の延在方向が、樹脂フィルムAの搬送経路の搬送方向に対して30~60°傾斜するように上記2基の棒状のイオンビーム照射装置を配置するのが好ましく、略45°傾斜するように上記2基の棒状のイオンビーム照射装置を配置するのがより好ましい。この角度が30°未満では、イオンビーム照射装置が長くなりすぎる上、その設置場所に広いスペースが必要となるのでコスト高になる。逆にこの角度が60°を超えると、トラフシワ発生の抑制効果が生じにくくなる。
【0034】
なお、本発明の金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置が具備するイオンビーム照射手段35は、上記した全体として略V字状に配置した2基のイオンビーム照射装置1a、1bに限定されるものではなく、略V字形状を有する1基のイオンビーム照射装置を用いてもよい。また、
図4に示すように、2本のイオンビーム照射装置1a、1bを、それらによって同時に照射する樹脂フィルムAの搬送経路の幅方向中央部の位置が該搬送方向に互いにずれるように配置してもよい。これにより、樹脂フィルムAの幅方向中央部により確実にイオンビームを照射することが可能になる。
【0035】
3.拡幅機構
前述したように、本発明の一具体例の金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置は、上記のイオンビーム照射手段35でイオンビーム処理された直後の樹脂フィルムAをその幅方向に伸ばす拡幅機構36が設けられている。この拡幅機構36は、
図2に示すように2対のピンチロール3a、b及び4a、bからなり、それぞれ樹脂フィルムAの両端部を表裏面から挟み込むように配置されている。これら2対のピンチロール3a、b及び4a、bは、各ピンチロール対において、それらの両端部のうちの樹脂フィルムAの幅方向内側に位置する端部が幅方向外側に位置する端部よりも搬送方向の下流側となるようにそれらの回転軸が該幅方向に対して傾斜している。これにより樹脂フィルムAに対してその幅方向の拡幅効果が生じる。
【0036】
このように、イオンビーム処理された直後に2対のピンチロール3a、b及び4a、bで樹脂フィルムAの両端部を表裏面から挟み込んで拡幅することによって、そのフィルム拡幅効果を、該ピンチロール3a、b及び4a、bの下流側にも及ばせることができる。なお、上記したように、樹脂フィルムAの幅方向に棒状のイオンビーム照射装置を延在させる従来のイオンビーム照射手段の場合は、トラフシワが発生し易い状態であるため、その直ぐ下流側で一気に拡幅しなければならず、この場合はピンチロールなどの拡幅機構にシビアな調整が要求されるが、上記のようにイオンビーム照射手段を樹脂フィルムAの幅方向に対して略V字状に傾斜して配置させることにより、該ピンチロールなどの拡幅機構に対してシビアな調整は特に必要ではなく、この点においても本発明の一具体例の製造装置は好ましい。
【0037】
以上、本発明の金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置について具体例を挙げて説明したが、本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更例や変形例を含むことができる。例えば上記の具体例では、長尺樹脂フィルムの両面に金属膜を成膜する場合は、先ずロールツーロールで一方向に搬送して一方の面に成膜し、得られた片面成膜後の長尺樹脂フィルムを巻取ロールから外して巻出ロールにセットし、再度ロールツーロールで一方向に搬送して他方の面に成膜する必要があったが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば金属膜付樹脂フィルム基板の製造装置内に2台のキャンロールを設置し、これら2台のキャンロールにそれぞれ長尺樹脂フィルムの一方の面側及び他方の面側を巻き付けて成膜することで、1回のロールツーロールの搬送だけで両面に成膜するようにしてもよい。
【0038】
なお、上記のように2台のキャンロールで長尺樹脂フィルムの両面に成膜する場合は、上流側のキャンロールの直ぐ上流側の位置で長尺樹脂フィルムの一方の面及び他方の面に同時に若しくは時間差をつけてイオンビーム処理を施してもよいが、この場合は、下流側のキャンロールでの成膜の際の成膜面はイオンビーム処理されてから当該成膜されるまでの間にフリーロールなどが接触するのでイオンビーム処理の効果が低減するおそれがある。よって、上流側のキャンロールの直ぐ上流側の位置では最初の成膜面にのみイオンビーム処理を施し、下流側のキャンロールの直ぐ上流側の位置で上記最初の成膜面とは反対側の成膜面にイオンビーム処理を施すのが好ましい。
【実施例】
【0039】
[実施例]
図1に示すような真空成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用いて金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを作製した。基材となる長尺の樹脂フィルムAには、幅600mm、長さ1000m、厚さ25μmの宇部興産株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「ユーピレックス(登録商標)」を使用した。この樹脂フィルムAの両面に、各々、下地金属層としてのNi-Cr膜と、その上のCu薄膜層とからなる積層構造の金属膜を成膜するため、マグネトロンスパッタカソード46のターゲットにはNi-Crターゲットを用い、マグネトロンスパッタカソード47、48、49のターゲットにはCuターゲットを用いた。
【0040】
また、イオンビーム処理室30に設置したイオンビーム照射手段35には、樹脂フィルムAの搬送経路の幅方向中央部と該中央部よりも搬送方向下流側の幅方向両端部とを結ぶ2条の直線状領域に向けてイオンビームを照射するように、照射有効幅500mmのアノードレイヤーソース型の2基の棒状のイオンビーム照射装置を用い、各々、樹脂フィルムAの搬送経路の搬送方向に対して約45°傾けて配置した。また、
図4に示すようにこれらを樹脂フィルムAの搬送方向に互いにずらすことで、該2基のイオンビーム照射装置1a、bによって同時に照射する樹脂フィルムAの幅方向中央部の位置を該搬送方向に互いにずらした。
【0041】
成膜室40内では、内部の空気を複数台のドライポンプを用いて5Paまで排気した後、複数基のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10-3Paまで排気した。この状態で、キャンロール43内に冷媒を循環すると共に、モータ駆動のロールを起動して樹脂フィルムAを搬送速度5m/分で搬送させながら、アルゴンガスを300sccmで導入すると共にマグネトロンスパッタカソード46には20kWの電力を、マグネトロンスパッタカソード47~49には30kWの電力をそれぞれ印加して、樹脂フィルムAの第1面にNi-Cr層25nm、Cu層100nmを成膜した。
【0042】
上記の第1面への成膜の際、2基のイオンビーム照射装置1a、bの各々に対して、アルゴンガスを100sccm導入すると共に、印加する電力を0.5kW、1.0kW、1.5kW、及び2.0kWに段階的に変化させた。そして、各印加電力におけるイオンビーム処理直後のトラフシワの発生状況を目視にて確認した。このようにして長尺の樹脂フィルムAをロールツーロールで一方向に搬送して第1面に成膜した後、該片面成膜後の樹脂フィルムAを巻取ロール54から外して巻出ロール11にセットし、再度上記と同様にしてロールツーロールで一方向に搬送して該第1面とは反対側の第2面に成膜を行うと共に、同様に各印加電力におけるイオンビーム処理直後のトラフシワの発生状況を目視にて確認した。
【0043】
[比較例]
図3に示すように、イオンビーム照射手段35に樹脂フィルムAの幅方向に延在する照射有効幅650mmのアノードレイヤーソース型のイオンビーム照射装置2を用い、アルゴンガスを130sccm導入しながら、印加する電力を0.65kW、1.3kW、1.95kW、及び2.6kWに段階的に変化させた以外は上記実施例と同様にして、樹脂フィルムAの両面の各々にNi-Cr層25nm、Cu層100nmを成膜した。
【0044】
[評価]
実施例と比較例とのイオンビーム処理直後のトラフシワの発生状況の結果を、イオンビーム照射装置への印加電力と共に下記表1に示す。なお、下記表1には、該イオンビーム照射装置に印加したイオンビーム電力に加えて、該イオンビーム照射装置の有効幅1m当たりに換算したイオンビーム電力も記載した。この有効幅1m当たりのイオンビーム電力から分かるように、実施例の各段階での有効幅1m当たりの印加電力はそれぞれ比較例のものと同等であり、よって該イオンビーム照射装置の長さ方向のイオンビームのエネルギー密度は同じとなるため、樹脂フィルムAの幅方向の単位長さ当たりの照射時間が比較例に比べて実施例が若干長くなった。
【0045】
【0046】
上記表1に示す結果から、比較例に比べて実施例の方が、第1面への成膜時及び第2面への成膜時のいずれの場合においてもイオンビーム処理に起因するトラフシワが発生しにくいことが分かる。これは、実施例では樹脂フィルムの幅方向中央部から幅方向両端部に向かって徐々にイオンビーム処理が施されたため、比較例に比べて熱膨張による樹脂フィルムの幅方向に発生した応力が小さく、よってピンチロールの拡幅効果が有効に機能したためと考えられる。
【0047】
また、イオンビーム照射装置の有効幅1m当たりのイオンビーム電力に関し、1.0kW/mでは実施例及び比較例のいずれも片面及び両面成膜においてしわが発生しなかったが、1.0kW/mでは充分な清浄面が得られないおそれがあるため、1.0kW/mよりも高いイオンビーム電力が好ましく、2.0kW/m以上がより好ましい。しかし、比較例では2.0kW/m以上でしわが発生した。これに対して、実施例ではイオンビーム照射装置を略V字状に配置することで3.0kW/mでもしわが発生せずに成膜できた。但し、4.0kW/mでは略V字状に配置してもトラフシワが発生したので、4.0kW/m未満が好ましい。
【符号の説明】
【0048】
1a、1b、2 イオンビーム照射装置
3a、3b、4a、4b ピンチロール
10 巻出室
20 乾燥室
30 イオンビーム処理室
40 成膜室
50 巻取室
11 巻出ロール
12、14、22、24、25、31、32、51、53、56 フリーロール
13、23、42、44、52 張力測定ロール
21、41、45 駆動ロール
26a、26b、26c、26d、26e ヒータ
43 キャンロール
46、47、48、49 マグネトロンスパッタリングカソード
54 巻取ロール
55 合紙巻出ロール
35、135、235 イオンビーム照射手段
36a、36b、37a、37b ピンチロール
A 樹脂フィルム
B 合紙フィルム
R1、R2、R3 直線状領域