(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】線状部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 7/06 20060101AFI20221109BHJP
C25D 5/56 20060101ALI20221109BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20221109BHJP
C23C 18/20 20060101ALI20221109BHJP
C23C 18/22 20060101ALI20221109BHJP
C23C 18/26 20060101ALI20221109BHJP
C23C 18/31 20060101ALI20221109BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20221109BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20221109BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C25D7/06 U
C25D5/56 B
C25D7/00 S
C23C18/20 A
C23C18/22
C23C18/26
C23C18/31 A
C25D5/56 A
C25D7/00 Y
H01B5/14 Z
H01B7/18 D
H01B13/00 503Z
(21)【出願番号】P 2019008638
(22)【出願日】2019-01-22
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】末永 和史
(72)【発明者】
【氏名】佐川 英之
(72)【発明者】
【氏名】杉山 剛博
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-149892(JP,A)
【文献】特開2006-066512(JP,A)
【文献】特開平09-111472(JP,A)
【文献】特許第6245402(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-20/08
C25D 5/00- 7/12
H01B 5/00- 5/16
H01B 7/17- 7/288
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に複数のクラック状の溝を有する、フッ素樹脂からなる線状の絶縁体と、
前記絶縁体の表面を被覆するめっき層と、
を備え、
前記絶縁体は、前記絶縁体の表面
の算術平均粗さRaが40nm以上と、二乗平均粗さRmsが80nm以上の、少なくともいずれか一方の条件を満た
し、かつ、前記絶縁体の表面の赤外全反射吸収スペクトルにおいて、カルボキシ基に帰属する吸収ピークの積分値をフッ素樹脂のC-F収縮振動に帰属する吸収ピークの積分値で規格化した値が0.02以上である、
線状部材。
【請求項2】
フッ素樹脂からなる線状の絶縁体の表面に粗化処理を施す工程と、
前記粗化処理の後、前記絶縁体の表面にめっき処理を施してめっき層を形成する工程と、
を含み、
前記粗化処理が、ナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理
であり、前記浸漬処理が、20℃~30℃で行われる、
線状部材の製造方法。
【請求項3】
前記粗化処理後の前記絶縁体の表面の状態が、算術平均粗さRaが40nm以上と、二乗平均粗さRmsが80nm以上の、少なくともいずれかの条件を満たす、
請求項2に記載の線状部材の製造方法。
【請求項4】
前記絶縁体の表面の算術平均粗さRaが前記粗化処理により前記粗化処理前の1.7倍以上に増加するという条件と、前記絶縁体の表面の二乗平均粗さRmsが前記粗化処理により前記粗化処理前の2倍以上に増加するという条件の、少なくともいずれか一方を満たす、
請求項2
または3に記載の線状部材の製造方法。
【請求項5】
フッ素樹脂からなる線状の絶縁体の表面に親水化処理を施す工程と、
前記親水化処理の後、前記絶縁体の表面にめっき処理を施してめっき層を形成する工程と、
を含み、
前記親水化処理が、ナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理であり、前記浸漬処理が、20℃~30℃で行われ、
前記親水化処理後の前記絶縁体の表面の赤外全反射吸収スペクトルにおいて、カルボキシ基に帰属する吸収ピークの積分値をフッ素樹脂のC-F収縮振動に帰属する吸収ピークの積分値で規格化した値が0.02以上である、
線状部材の製造方法。
【請求項6】
前記親水化処理により、前記絶縁体の表面のカルボキシ基の量が前記親水化処理前の6倍以上になる、
請求項
5に記載の線状部材の製造方法。
【請求項7】
フッ素樹脂からなる線状の絶縁体と、
前記絶縁体の表面を被覆するめっき層と、
を備え、
前記絶縁体は、前記絶縁体の表面にヒドロキシ基が存在
し、かつ、前記絶縁体の表面の赤外全反射吸収スペクトルにおいて、カルボキシ基に帰属する吸収ピークの積分値をフッ素樹脂のC-F収縮振動に帰属する吸収ピークの積分値で規格化した値が0.02以上である、
線状部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線状部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一対の信号線と、信号線の周囲を被覆する絶縁体層と、絶縁体層を被覆するシールドとしてのめっき層と、を備える差動信号伝送用ケーブルの製造方法であって、絶縁体層の外周面にドライアイスブラスト処理などによる粗化処理を行い、その後、前記外周面にコロナ放電暴露処理などによる改質処理を行い、その後、前記外周面にめっき層を形成する差動信号伝送用ケーブルの製造方法が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1によれば、粗化処理により、絶縁体層の外周面における算術平均粗さRaを0.6μm以上とすることにより、めっき層と絶縁体層との密着性が向上し、めっき層が絶縁体層から剥がれたり、めっき層と絶縁体層との間に空隙が生じたりすることを抑制できるとされている。
【0004】
また、特許文献1によれば、改質処理により、絶縁体層の外周面にカルボニル基やヒドロキシ基等の官能基を形成することにより、絶縁体層の外周面が親水化し、表面ぬれ性が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、絶縁体がフッ素樹脂である場合、特許文献1に記載されるブラスト処理による粗化処理とコロナ放電暴露処理による改質処理を施しても、めっき層が安定して形成されず、再現性が低い。この原因のひとつとして、フッ素樹脂がポリエチレンなどと比べて軟らかいため、ブラスト処理による粗化効果が薄くなり、めっき層との密着性が不十分になることが考えられる。
【0007】
したがって、本発明の目的は、フッ素樹脂からなる線状の絶縁体とその表面を被覆するめっき層を備え、絶縁体とめっき層の密着性が高い線状部材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、表面に複数のクラック状の溝を有する、フッ素樹脂からなる線状の絶縁体と、前記絶縁体の表面を被覆するめっき層と、を備え、前記絶縁体の表面の状態が、算術平均粗さRaが40nm以上と、二乗平均粗さRmsが80nm以上の、少なくともいずれか一方の条件を満たす、線状部材を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フッ素樹脂からなる線状の絶縁体とその表面を被覆するめっき層を備え、絶縁体とめっき層の密着性が高い線状部材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、第1の実施の形態に係る線状部材としてのケーブルの断面図である。
【
図2】
図2は、めっき層であるシールドの形成に用いるシールド形成システムの構成を示す模式図である。
【
図3】
図3は、本発明の変形例に係るチューブの斜視図である。
【
図4】
図4(a)、(b)は、本発明の変形例に係る導電性繊維の径方向の断面図である。
【
図5】
図5(a)、(b)、(c)は、それぞれ、粗化処理としてのナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理、低温ブラスト処理、電子線照射が施されたフッ素樹脂の表面のレーザー顕微鏡の観察像である。
【
図6】
図6(a)は、絶縁体に粗化処理としてのナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理を施した場合の、浸漬時間と算術平均粗さRa又は二乗平均粗さRmsとの関係を示すグラフである。
図6(b)は、処理前(浸漬時間が0)の算術平均粗さRaと二乗平均粗さRmsをそれぞれRa
0とRms
0としたときの、浸漬時間とRa/Ra
0又はRms/Rms
0との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7(a)、(b)は、ナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理を施した絶縁体上にめっき層を形成したチューブの外観写真である。
【
図8】
図8(a)、(b)、(c)は、それぞれ、処理前(浸漬時間が0)、10秒間の浸漬処理後、40秒間の浸漬処理後の絶縁体の赤外全反射吸収スペクトルを示す。
【
図9】
図9(a)、(b)、(c)は、それぞれ
図8(a)、(b)、(c)の赤外全反射吸収スペクトルのカルボキシ基に帰属する吸収ピーク周辺を拡大したものである。
【
図10】
図10(a)、(b)、(c)は、それぞれ
図8(a)、(b)、(c)の赤外全反射吸収スペクトルのフッ素樹脂のC-F収縮振動に帰属する吸収ピーク周辺を拡大したものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔実施の形態〕
(線状部材の構造)
図1は、第1の実施の形態に係る線状部材としてのケーブル1の断面図である。ケーブル1は、導体10と、導体10の周囲を被覆する線状の絶縁体11と、絶縁体11の表面(外周面)を直接被覆するシールド12と、を備える。ケーブル1の直径は、例えば、0.7~1.3mmである。
【0012】
線状の導体10は、ケーブル1の芯線であり、銅などの導体からなる。また、導体10は、屈曲特性を確保するために、複数の導線を撚って形成される撚線であってもよい。ケーブル1に含まれる導体10の本数は特に限定されず、ケーブル1の形態に応じて適宜設定される。
図1に示される例では、ケーブル1は、ツイナックス構造を有する差動信号用ケーブルであり、2本の導体10を備える。
【0013】
絶縁体11は、図示されない他の部材を介して導体10を被覆してもよい。すなわち、絶縁体11は、直接又は間接的に導体10を被覆する。
【0014】
シールド12は、絶縁体11の表面にめっき処理を施すことにより形成されるめっき層である。シールド12は、銅などの金属からなる。シールド12の厚さは、例えば、0.5~30μmである。
【0015】
シールド12はめっき層であるため、従来一般的に用いられている、絶縁体の周囲に巻き付けられた金属テープからなるシールドと比べて、絶縁体11との間に空隙が生じにくく、この空隙の形成による伝送特性の低下を抑えることができる。特に、ケーブル1が高速伝送用ケーブルなどの細径のケーブルである場合は、金属テープの巻き付けが難しく、より空隙が生じやすいため、めっき層をシールドに用いることによる効果が大きい。
【0016】
また、シールド12はめっき層であるため、金属テープからなるシールドのように、巻きつけに必要な機械的強度が得られる厚さを有する必要がなく、ケーブル1においてノイズを抑制できるだけの厚さを有していればよい。例えば、一般的な電子機器のシールドに必要な1/30~1/1000のノイズ減弱を想定した場合(例えば、技術解説 電磁シールドについて、岡山県工業技術センター・技術情報、No.457、p.5を参照)、表皮効果の原理上、銅シールドであれば1~2μmにまで薄くしても、数10GHz帯域では、ほぼ所望のシールド効果を得られる。このため、シールド12の厚さを金属テープからなるシールドの厚さの約1/10にすることができる。なお、後述する本実施の形態のめっき処理によれば、数10nm~数10μmの均一な厚さを有するシールド12を形成することができる。
【0017】
ケーブル1においては、絶縁体11の表面上にめっき処理によりシールド12が形成されるため、絶縁体11とシールド12との間に十分な密着性を付与するために、めっき下地である絶縁体11には、適切な条件での表面処理が施されている。ここで、表面処理とは、粗化処理や親水化処理であり、これら両方を含むことが好ましい。表面処理の詳細については後述する。
【0018】
(絶縁体の特徴)
絶縁体11は、フッ素樹脂からなる。フッ素樹脂としては、具体的には、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフロロアルコキシ(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、エチレン・テトラフルオロエチレンコポリマー(ETFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロジオキソールコポリマー(TFE/PDD)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、エチレン-クロロトリフロオロエチレンコポリマー(ECTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)などを用いることができる。
【0019】
また、誘電率、誘電正接を小さくするため、絶縁体11の材料として、発泡フッ素樹脂を用いてもよい。この場合、例えば、フッ素樹脂に発泡剤を混練させて、成型時の温度や圧力によって発泡度を制御する方法、窒素などの不活性ガスを成型圧力によりフッ素樹脂へ注入し、圧力解放時に発泡させる方法などを用いて絶縁体11を形成することができる。
【0020】
ケーブル1の径方向の断面において、絶縁体11の外縁の形状は、円形、楕円形、角丸長方形(角が丸められた長方形)であることが好ましい。この場合、絶縁体11の表面全体に均一な厚さでめっき層を形成することが容易になる。また、絶縁体11の表面全体に均一に後述する粗化処理及び親水化処理を行うことが容易になる。
【0021】
絶縁体11は、粗化処理により形成された凹凸を表面に有する。これにより、シールド12を形成する際のめっき処理において、触媒が絶縁体11の表面から脱離しにくくなる。また、めっき液が凹凸の凹部に入り込みやすくなり、より絶縁体11の表面に広がりやすくなる。また、シールド12が凹部に入り込むことにより生じるアンカー効果が向上する。その結果、めっき層であるシールド12と絶縁体11との密着性が向上する。さらに、絶縁体11の表面積が大きくなるため、後述する親水化処理による、表面ぬれ性の向上に寄与する極性官能基の生成量が増加する。
【0022】
上記の絶縁体11の表面の粗化処理には、例えば、ナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理、低温ブラスト処理、又は電子線照射を用いることができる。
【0023】
粗化処理としてナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理を施す場合、絶縁体11の表面の凹凸は、絶縁体11の表面に形成された複数のクラック状の溝により構成される。この場合、絶縁体11の表面の状態は、算術平均粗さRaが40nm以上と、二乗平均粗さRmsが80nm以上の、少なくともいずれか一方の条件を満たす。この条件を満たすことにより、めっき層であるシールド12と絶縁体11との密着性が高くなる。
【0024】
なお、粗化処理としてナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理を施す場合の、シールド12と絶縁体11との密着性を高くするために必要な絶縁体11の表面の算術平均粗さRaや二乗平均粗さRmsの値は、粗化処理として他の方法を用いる場合に必要な値よりも格段に小さく、算術平均粗さRaと二乗平均粗さRmsがそれぞれ他の方法では十分な密着性を得ることが困難な0.6μm以下、0.8μm以下であっても十分な密着性が得られる。これは、ナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理により形成される絶縁体11の表面のクラック状の溝の幅が、他の粗化処理の方法により形成される凹凸の凹部の幅よりも狭く、絶縁体11とシールド12の間に特に高いアンカー効果が生じるためと考えられる。
【0025】
ナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理を粗化処理として用いる場合、浸漬時間、溶液の濃度や温度などを調整することにより、絶縁体11の表面の算術平均粗さRaや二乗平均粗さRmsを制御することができる。
【0026】
低温ブラスト処理は、低温条件下で対象物の温度を下げた状態で実施するブラスト処理である。温度を下げることにより対象物を硬化させることができるため、軟らかいフッ素樹脂からなる絶縁体11の表面をブラスト処理により効果的に粗化することができる。特に、液体窒素を用いて、絶縁体11の温度を液体窒素温度(-196℃)近傍まで下げた状態でブラスト処理を施すことにより、より効果的に絶縁体11の表面を粗化することができる。
【0027】
ブラスト処理としては、ドライアイスの粒子を噴射剤として用いるドライアイスブラスト、アルミナ、SiCなどの粒子を噴射剤として用いるサンドブラスト、水と研磨材の混合液(スラリー)を噴射剤として用いるウェットブラストなどを用いることができる。
【0028】
特に、絶縁体11の表面の粗化処理には、ドライアイスブラストを用いることが好ましい。ドライアイスは常圧下で昇華し、処理後に絶縁体11の表面に残らないため、ドライアイスブラストを用いた場合は、処理後の洗浄工程が不要になる。
【0029】
絶縁体11の表面の粗化処理にブラスト処理を用いる場合、ブラストの噴射剤の粒径、ブラストの噴射圧力(吹付圧力)、ブラスト装置の噴射ノズルと絶縁体との距離、絶縁体11の硬さなどを調整することにより、絶縁体11の表面の算術平均粗さRaや二乗平均粗さRmsを制御することができる。
【0030】
また、フッ素樹脂は電子線照射により削ることができるため、電子線照射をフッ素樹脂からなる絶縁体11の表面の粗化処理に用いることができる。なお、ポリエチレンのような、電子線照射に耐性を有する材料に対しては、電子線照射による表面の粗化はできない。
【0031】
絶縁体11の表面の粗化処理に電子線照射を用いる場合、電子線の照射電流密度やエネルギーなどを調整することにより、絶縁体11の表面の算術平均粗さRaや二乗平均粗さRmsを制御することができる。
【0032】
絶縁体11の表面の算術平均粗さRaや二乗平均粗さRmsは、レーザー顕微鏡などにより測定することができる。
【0033】
また、絶縁体11は、親水化処理により表面のぬれ性が高められていることが好ましい。親水化処理を施すことにより、絶縁体11の表面に極性官能基を生成することができ、それによってぬれ性が向上する。ここで、極性官能基は、カルボキシ基やヒドロキシ基などの極性を有する官能基(親水基)である。一般に、極性官能基の存在は表面ぬれ性に直結する(例えば、中島 章著、固体表面の濡れ性 超親水性から超撥水性まで(共立出版(株)、2014年)を参照)。なお、ヒドロキシ基は、カルボキシ基に含まれるため、カルボキシ基に含まれるヒドロキシ基は、カルボキシ基の一部として絶縁体11の表面に生成されるといえる。
【0034】
絶縁体11の表面のぬれ性が向上することにより、めっき処理に用いられる触媒液やめっき液が絶縁体11の表面と全周にわたって接触しやすくなる。その結果、めっき層であるシールド12と絶縁体11との密着性が向上し、また、シールド12の厚さの均一性が向上する。シールド12と絶縁体11との密着性が向上することにより、シールド12と絶縁体11との間に空隙が形成されることによるケーブル1の伝送特性の低下を抑えることができる。また、シールド12の厚さの均一性が向上することにより、シールド12の厚さのばらつきに起因するケーブル1の伝送特性の低下を抑えることができる。
【0035】
シールド12と絶縁体11との密着性を十分に高めるためには、親水化処理後の絶縁体11の表面の赤外全反射吸収スペクトルにおいて、カルボキシ基に帰属する吸収ピークの積分値をフッ素樹脂のC-F振動吸収ピークの積分値で規格化した値が0.02以上であることが好ましく、0.03以上であることがより好ましい。
【0036】
赤外全反射吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外吸収分光法の一つ、全反射吸収測定法(ATR:Attenuated Total Reflection)による測定により得ることができる。
【0037】
絶縁体11の表面の粗化処理にナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理又は電子線照射を用いる場合は、絶縁体11の表面に極性官能基が生成される。すなわち、ナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理及び電子線照射は、粗化処理と親水化処理の両方を兼ねる。
【0038】
ナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理を実施する場合は、浸漬時間、溶液の濃度や温度などを調整することにより、絶縁体11の表面に生成される極性官能基の量を制御することができる。また、電子線照射を実施する場合は、電子線の照射電流密度やエネルギーなどを調整することにより、絶縁体11の表面に生成される極性官能基の量を制御することができる。
【0039】
また、粗化処理とは別に、例えば、コロナ放電暴露、大気組成ガスや希ガスを混合したガス中のプラズマ暴露、紫外線照射、電子線照射、γ線照射、X線照射、イオン線照射、オゾン含有液への浸漬などを親水化処理として実施してもよい。
【0040】
例えば、絶縁体11の親水化処理に、放電プローブからコロナ放電光を噴出する形式の装置によるコロナ放電暴露を用いる場合、電圧出力、暴露時間、絶縁体11の表面と放電プローブの先端の距離などを調整することにより、絶縁体11の表面に生成される極性官能基の量を制御することができる。
【0041】
(ケーブルの製造方法)
以下、本実施の形態に係るケーブル1の製造方法の一例について説明する。
【0042】
図2は、ケーブル1のめっき層であるシールド12の形成に用いるシールド形成システム100の構成を示す模式図である。シールド形成システム100は、脱脂ユニット110と、表面処理ユニット120と、第1活性化ユニット130と、第2活性化ユニット140と、無電解めっきユニット150と、電解めっきユニット160と、ケーブル5を移送するためのボビン170a~170mと、を備える。
【0043】
シールド形成システム100においては、ボビン170a~170mを所望の回転数で連続稼働させることによって、一定の張力を維持しながら、所望の速さでケーブル5を移送する。シールド形成システム100を通過する前のケーブル5は、導体10と絶縁体11からなるケーブルであり、シールド形成システム100を通過してシールド12が形成されることにより、ケーブル1となる。なお、絶縁体11は、例えば、公知の押出成形により設けることができる。
【0044】
脱脂ユニット110は、絶縁体11の表面の油脂を取り除くためのものであり、脱脂槽111と、脱脂槽111に収容された脱脂液112を備える。脱脂液112は、例えば、ホウ酸ソーダ、リン酸ソーダ、界面活性剤などを含む。ケーブル5を移送して脱脂液112中を通過させるため、ボビン170bの少なくとも一部は脱脂液112中に位置する。
【0045】
表面処理ユニット120は、絶縁体11に表面処理を施すためのものであり、表面処理装置121を備える。表面処理装置121としては、例えば、粗化処理を施すためのブラスト装置、電子線照射装置、ナトリウムナフタレン錯体溶液をエッチャントとして用いるエッチング装置や、親水化処理を施すためのコロナ処理装置、プラズマ処理装置、紫外線照射装置、電子線照射装置、γ線照射装置、X線照射装置、イオン線照射装置、オゾン含有液などをエッチャントとして用いるエッチング装置などが用いられる。
【0046】
粗化処理と親水化処理の両方を表面処理として実施する場合や、粗化処理又は親水化処理として複数の処理を施す場合は、複数種の表面処理装置121が表面処理ユニット120に含まれていてもよい。
【0047】
第1活性化ユニット130は、絶縁体11の表面に触媒活性層を形成するためのものであり、第1活性化槽131と、第1活性化槽131に収容された第1活性化液132とを備える。第1活性化液132は、例えば、塩化パラジウム、塩化第一錫、濃塩酸などを含む。触媒活性層は、シールド12として、緻密な高品質のめっき層を形成するためのものである。ケーブル5を移送して第1活性化液132中を通過させるため、ボビン170fの少なくとも一部は第1活性化液132中に位置する。
【0048】
第2活性化ユニット140は、第1活性化ユニット130により形成された触媒活性層の表面を洗浄するためのものであり、第2活性化槽141と、第2活性化槽141に収容された第2活性化液142とを備える。第2活性化液142は、例えば、硫酸である。ケーブル5を移送して第2活性化液142中を通過させるため、ボビン170hの少なくとも一部は第2活性化液142中に位置する。
【0049】
無電解めっきユニット150は、電解めっき処理前に無電解めっき層を形成して絶縁体11の表面(触媒活性層の表面)を導電化するためのものであり、無電解めっき槽151と、無電解めっき槽151に収容された無電解めっき液152とを備える。無電解めっき液152は、例えば、硫酸銅、ロッシエル塩、ホルムアルデヒド、水酸化ナトリウムなどを含む。ケーブル5を移送して無電解めっき液152中を通過させるため、ボビン170jの少なくとも一部は無電解めっき液152中に位置する。
【0050】
電解めっきユニット160は、電解めっき処理を行うためのものであり、電解めっき槽161と、電解めっき槽161に収容された電解めっき液162と、一対のアノード163と、電源ユニット164とを備える。
【0051】
電解めっき液162の組成の例として、硫酸銅(CuSO4)めっき液とシアン化銅(CuCN)めっき液の組成及び製造方法を以下に示す。
【0052】
[硫酸銅めっき液]
電解めっき液162としての、硫酸銅めっき液の組成の例を表1に示す。表1中の「塩化ナトリウム、塩酸」は、塩化物の一例である。
【0053】
【0054】
まず、十分に洗浄した電解めっき槽161にめっき液全体の約60~70体積%の水を投入した後、常温から50℃程度にまで水温を上昇させる。次に、所望のシールド12の厚み、ケーブル5の大きさや長さなどに依存する必要なめっき析出量に応じた量の硫酸銅を前述の温水中に投入して、溶解が完了するまで攪拌する。そして、めっき液の導電性(電流密度)及び陽極銅板の溶解度を適正な範囲に制御するため、必要な量の硫酸を撹拌しながら追加し、その後、最終的に必要なめっき液量に到達するまで水を追加投入する。また、めっき液中の不純物を取り除くために、活性炭を投入あるいはろ過機のろ材上に活性炭層を設けた後に、ろ過機に循環させて不純物を吸着させた活性炭を除去する。
【0055】
次に、めっき層の表面光沢の作用を向上させる塩素イオン濃度を所定値に合わせこむため、適宜、めっき液中に塩化ナトリウムや塩酸等を加える。そして、硫酸と硫酸銅が規定濃度にあるかを分析し、確認する。次に、絶縁体11の材料に対応した光沢剤や界面活性剤などの添加剤を適切に添加した後、ハルセル試験(例えば、“山名式雄、機械工学入門シリーズ、めっき作業入門、理工学社”や“榎本英彦、古川直治、松村宗順、複合めっき、日刊工業新聞社”を参照)を実施して、所望のめっき層が得られるかを否か、めっき液の状態を点検する。最後に連続ろ過を行いながら10数A/dm2程度で数時間の空電解を行った後に、安定にめっき成膜が可能か否かを確認する。
【0056】
電解めっき液162として硫酸銅めっき液を用いて、CuイオンをCu原子(金属)として生成する場合、以下の式1で表される反応が生じる。式1は、2価のCu陽イオンが2個の電子を受け取ることによってCu原子(金属)となることを表している。
【0057】
【0058】
式1で表される反応においては、1個のCuイオンに対して2個の電子が必要となるため、1molのCuを生成するのに必要な電荷量は、電気素量とアボガドロ定数の積の2倍である約192,971Cである。このため、銅の原子量63.54を考慮すれば、銅1gを形成するために必要な電荷量は約3,037C/gである。
【0059】
[シアン化銅めっき液]
電解めっき液162としての、シアン化銅めっき液の組成の例を表2に示す。表2中の「遊離シアン化ナトリウム(遊離シアン化カリウム)」は、シアン化銅と反応せずに浴中に残存したシアン化アルカリである。
【0060】
【0061】
まず、めっき液全体の60%程度の、硫黄や塩素等の不純物成分を除去した純水を予備漕に入れる。次に、シアン化ナトリウム又はシアン化カリウムを純水に投入して溶解させ、シアン化アルカリ水溶液を形成する。さらに、純水を用いてのり状にしたシアン化第一銅を撹拌しながら、シアン化アルカリ水溶液に添加して溶解させる。また、シアン分解を抑制することを目的として、めっき液のpHや導電率を調整するために水酸化カリウム又は水酸化ナトリウムを追加する。次に、めっき処理時のめっき液の温度に近い40~70℃に加熱しながら活性炭等を加えて充分に撹拌した後に静置して、不純物を吸着させた活性炭を沈降させる。その後、ろ過装置に通して不純物を取り込んだ活性炭等を除去した上で、めっき漕に移した後に、純水を加えて液量を調整し、めっき液を得る。
【0062】
次に、このめっき液を分析し、めっき性能の向上と安定化を図るために、必要に応じて添加材料を追加する。具体的には、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムをpH緩衝、調整材として適量加える。また、銅アノードの溶解を円滑にして効率良く銅イオンを供給するために、酒石酸カリウムナトリウム(ロッシェル塩)を添加する。最後に、カソードとしてステンレス板、アノードとしてめっき用の圧延銅板を吊るして、弱い電流密度(0.2~0.5A/dm2)によって弱電解を行う。
【0063】
電解めっき液162としてシアン化銅めっき液を用いて、CuイオンをCu原子(金属)として生成する場合、以下の式2で表される反応が生じる。式2は、1価のCu陽イオンが1個の電子を受け取ることによってCu原子(金属)となることを表している。
【0064】
【0065】
式2で表される反応においては、1個のCuイオンに対して1個の電子が必要となるため、1molのCuを生成するのに必要な電荷量は、電気素量とアボガドロ定数の積である約96,485Cである(ファラデー定数に相当する)。このため、銅の原子量63.54を考慮すれば、銅1gを形成するために必要な電荷量は約1,518C/gである。
【0066】
以下の式3に示されるように、電流iは、電荷量Q、時間tによって表される。このため、電解めっきの電流密度が同じであれば、原理的には、電解めっき液162として低価数(価数+1)の銅イオンを擁するシアン化銅めっき液を用いる場合、硫酸銅めっき液を用いる場合の半分の時間でめっき層であるシールド12を形成することができる。そのため、電解めっき時の使用電圧と電流が一定であれば、めっき時間と直結する消費電力が半分になると考えられ、エネルギーコストを低減できる。また、電解めっき処理工程における工場稼働時間が半分になるので生産数に対する人件費の圧縮を期待できる。
【0067】
【0068】
なお、電解めっき液162として用いることのできるめっき液は、上述の硫酸銅めっき液やシアン化銅めっき液に限られるものではなく、例えば、Cu(BF4)2、HBF4、Cu金属等を混合して作製されるほうフッ化銅めっき液、Cu2P2O7・3H2O、K4P2O7・3H2O、NH4OH、KNO3、Cu金属等を混合して作製されるピロリン酸めっき液であってもよい。また、これらのめっき液のうち、2種以上のめっき液を組み合わせためっき液であってもよい。
【0069】
アノード163は電解めっき液162の中に浸漬されている。アノード163は、電解めっきにおける銅イオンの供給元であり、例えば、銅湯から作製した溶融銅(純度が約99%の粗銅)を圧延鋳造したものである。また、粗銅をアノード、ステンレスやチタン板等をカソードとした種板電解を行い、カソード表面に析出した銅を剥ぎ取ることにより得られる、純度を向上させた銅からなる剥離銅板(電気銅)をアノード163として使用してもよい。
【0070】
電解めっき槽161上に位置するボビン170k及びボビン170mは、導電性を有し、カソードとして機能する。電解めっき液162中に位置するボビン170lは、絶縁性である。電源ユニット164は、アノード163と、カソードボビンであるボビン170k及びボビン170mとの間に直流電圧を印加する。
【0071】
ノード163とボビン170k及びボビン170mとの間に直流電圧を印加した状態で、ケーブル5を移送して電解めっき液162中を通過させることにより、絶縁体11の表面の無電解めっき層上に電解めっき層を形成し、シールド12を得る。
【0072】
なお、電解めっきユニット160におけるケーブル5の移送機構は、ボビン170k、ボビン170l、及びボビン170mによるものに限られない。例えば、電解めっき液162中にボビン機構を設けずに、ケーブル5を所定の曲率又は多数の曲率を有する形状に曲げながら電解めっき液162中に這わせ、一方から押出し、他方から引っ張って移送するような機構であってもよい。さらに、移送機構を設けず、一纏めにしたケーブル5を電解めっき液162に浸漬させた上で、カソード電極に結線し、適切に揺動させることによってケーブル5の全表面を電解めっき液162に接触させて、電解めっきを行ってもよい。
【0073】
次に、シールド形成システム100を用いたシールド12の形成工程の流れの一例について説明する。
【0074】
まず、導体10と絶縁体11からなるケーブル5を脱脂ユニット110において脱脂液112に3~5分間浸漬する。このときの脱脂液112の温度は、例えば、40~60℃である。これにより、絶縁体11の表面に付着している油脂を除去する。
【0075】
なお、次の表面処理工程において、ブラスト法による粗化処理などの絶縁体11の表面の油脂などを除去する効果を持つ処理を行う場合は、脱脂ユニット110による脱脂工程を省略することができる。
【0076】
次に、表面処理ユニット120において、ナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理による粗化処理と親水化処理を表面処理としてケーブル5に施す。
【0077】
ナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理においては、浸漬時間を5~60秒とし、処理温度を約20~30℃(常温)とする。浸漬処理後、めっきの不着や剥離を防ぐために、アセトンやアルコール類などの有機溶剤を用いる超音波洗浄や揺動洗浄によって、浸漬処理表面に散在する錯体溶液の残滓物を十分に取り除く。
【0078】
次に、第1活性化ユニット130において、第1活性化液132にケーブル5を1~3分間浸漬する。第1活性化液132の温度は、例えば、30~40℃である。これにより、絶縁体11の表面に触媒活性層を形成する。具体的には、例えば、第1活性化液132としてPd-Sn粒子のコロイド溶液を用いることにより、高触媒活性を示すPdを含むPd-Sn粒子を絶縁体11の表面に付着させ、触媒活性層を形成する。
【0079】
次に、第2活性化ユニット140において、第2活性化液142にケーブル5を3~6分間浸漬する。第2活性化液142の温度は、例えば、30~50℃である。これによって、例えば、絶縁体11の表面の触媒活性層から活性度を低下させるSnを除去し、触媒活性層の活性度を増加させることができる。
【0080】
次に、無電解めっきユニット150において、無電解めっき液152にケーブル5を10分間以下の時間浸漬する。無電解めっき液152の温度は、例えば、20~30℃である。これによって、絶縁体11の表面に電解めっきのシード層としての無電解めっき層が形成され、絶縁体11の表面が導電化される。無電解めっき液152への浸漬時間が長いほど、無電解めっき層の厚みは大きくなる。
【0081】
次に、電解めっきユニット160において、電解めっき液162にケーブル5を3分間以下の時間浸漬する。ケーブル5の移送速度や電解めっき液162への浸漬時間により、電解めっき層の厚みを制御することができる。ケーブル5の移送速度や浸漬時間は、シールド12のシールド性能、めっき浴の管理状況、めっき浴の経時変化などに応じて、電流密度、めっき浴の濃度、pH、温度、添加剤の種類などを考慮して最適化される。
【0082】
電解めっきユニット160における電解めっきの具体的な条件の例は、以下の表3に示すとおりである。表3における「浴温度」、「浴電圧」は、それぞれめっき浴の温度、めっき浴中におけるアノード163と、カソードとしてのボビン170k及びボビン170mとの間の電圧である。
【0083】
【0084】
上述の電解めっきによって、無電解めっき層の表面に電解めっき層が形成される。この無電解めっき層と電解めっき層の積層体からシールド12が構成される。以上の工程を経ることより、本実施の形態に係るケーブル1が得られる。
【0085】
なお、
図2では記載を省略しているが、上記の各工程の間においては、前工程の薬剤残留が原因の不良が発生しないように、純水でケーブル5の洗浄(超音波洗浄、揺動洗浄、流水洗浄など)を行うことが好ましい。
【0086】
また、各工程において適したケーブル5の移送速度を得るため、ボビン170a~170mの各々について、ギア比(回転半径)を調整して回転数を最適化することが好ましい。そのため、工程間経路中での移送速度変更や一時待機が任意で実施できるように、各ユニットの間にバッファをもたせた回転機構を配備することが好ましい。
【0087】
(実施の形態の効果)
上記実施の形態に係るケーブル1によれば、絶縁体11への表面処理として、フッ素樹脂に対して効果的な粗化処理を実施することにより、フッ素樹脂からなる絶縁体11とめっき層からなるシールド12との密着性を向上させ、めっき層の絶縁体からの剥離や、めっき層と絶縁体との間の空隙の形成による伝送特性の低下を抑制することができる。
【0088】
なお、上記実施の形態のフッ素樹脂からなる絶縁体とめっき層との密着性を向上させる方法は、めっき層が表面に形成された線状の絶縁体を有する、ケーブルやチューブ、導電性繊維などの線状部材の全般に適用することができる。
【0089】
図3は、本発明の変形例に係るチューブ2の斜視図である。チューブ2は、中空の線状の絶縁体21と、絶縁体21の表面(外周面)を直接被覆するめっき層22と、を備える。絶縁体21はケーブル1の絶縁体11と同様に、フッ素樹脂からなり、算術平均粗さRaや、親水化処理後の赤外全反射吸収スペクトルにおける、カルボキシ基に帰属する吸収ピークの積分値をフッ素樹脂のC-F収縮振動に帰属する吸収ピークの積分値で規格化した値などの表面状態の満たす条件も、絶縁体11と同様である。めっき層22は、ケーブル1のシールド12と同様の材料から、同様の方法で形成することができる。チューブ2は、例えば、導波管などとして使用することができる。
【0090】
図4(a)、(b)は、本発明の変形例に係る導電性繊維3の径方向の断面図である。導電性繊維3は、1本の樹脂繊維30又は撚り合わされた複数の樹脂繊維30からなる中心糸31と、中心糸31の表面(外周面)を直接被覆するめっき層32と、を備える。
図4(a)は、中心糸31が撚り合わされた複数の樹脂繊維30から構成される場合の導電性繊維3の断面を示し、
図4(b)は、中心糸31が1本の樹脂繊維30から構成される場合の導電性繊維3の断面を示す。
【0091】
樹脂繊維30はケーブル1の絶縁体11と同様に、フッ素樹脂からなり、算術平均粗さRaや、親水化処理後の赤外全反射吸収スペクトルにおける、カルボキシ基に帰属する吸収ピークの積分値をフッ素樹脂のC-F収縮振動に帰属する吸収ピークの積分値で規格化した値などの表面状態の満たす条件も、絶縁体11と同様である。めっき層32は、ケーブル1のシールド12と同様の材料から、同様の方法で形成することができる。
【0092】
導電性繊維3は、例えば、xEV車用ハーネス、ロボット用ハーネス、医療用プローブの電磁シールド線、軽量イヤフォン用コード、軽量ヒーター用銅通船、高速伝送ケーブルなどの種々のケーブルに用いられる編組シールドとして用いることができる。すなわち、本発明によれば、編まれた複数の導電性繊維3から構成される編組シールドを備えたケーブルを提供することができる。
【0093】
この場合、複数の導電性繊維3を織って編組シールドを形成する。導電性繊維3からなる編組シールドは、全体が金属からなる編組シールドと比較して格段に軽いため、これを備えるケーブルなどを軽量化することができる。また、例えば、導電性繊維3からなる編組シールドを用いることにより、xEV車やロボットの総重量を低減できるため、省電力化が可能になる。
【0094】
また、導電性繊維3は、浄水機器などに用いられるフィルターとして用いることができる。この場合、複数の導電性繊維3を織ってフィルターを形成する。すなわち、本発明によれば、編まれた複数の導電性繊維3から構成されるフィルターを提供することができる。また、この場合、めっき層32は殺菌作用のあるAgやCuからなることが好ましい。導電性繊維3からなるフィルターは、全体が金属からなるフィルターと比較して格段に軽い。
【実施例1】
【0095】
まず、シート状のフッ素樹脂としてのパーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)に、粗化処理としてナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理、低温ブラスト処理、又は電子線照射を施し、それぞれの表面の状態を調べた。
【0096】
図5(a)、(b)、(c)は、それぞれ、粗化処理としてのナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理、低温ブラスト処理、電子線照射が施されたフッ素樹脂の表面のレーザー顕微鏡の観察像である。
【0097】
図5(a)、(b)、(c)によれば、低温ブラスト処理又は電子線照射が施されたフッ素樹脂の表面が平坦性を失っているのに対し、ナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理が施されたフッ素樹脂の表面はある程度の平坦性を保った状態で、クラック状の溝が形成されている。
【0098】
次に、上記実施の形態にかかるチューブ2の絶縁体21を用意し、粗化処理の処理時間と算術平均粗さRa又は二乗平均粗さRMSとの関係を調べた。絶縁体21の材料として、フッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いた。算術平均粗さRa及び二乗平均粗さRMSは、チューブ2の長さ方向に沿って測定した。
【0099】
図6(a)は、絶縁体21に粗化処理としてのナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理を施した場合の、浸漬時間と算術平均粗さRa又は二乗平均粗さRmsとの関係を示すグラフである。
【0100】
図6(a)によれば、浸漬時間の調整により算術平均粗さRa及び二乗平均粗さRmsを制御することができ、算術平均粗さRaを40nm以上、二乗平均粗さRmsを80nm以上にできることがわかる。
【0101】
図6(b)は、処理前(浸漬時間が0)の算術平均粗さRaと二乗平均粗さRmsをそれぞれRa
0とRms
0としたときの、浸漬時間とRa/Ra
0又はRms/Rms
0との関係を示すグラフである。
【0102】
図6(b)によれば、10秒間の浸漬処理を実施することにより、算術平均粗さRaが処理前の1.70倍以上となり、二乗平均粗さRmsが1.96倍以上となる。また、40秒間の浸漬処理を実施することにより、算術平均粗さRaが処理前の約2.65倍以上となり、二乗平均粗さRmsが2.85倍以上となる。
【0103】
図7(a)、(b)は、ナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理を約20~30℃の常温下で約10秒間行い、その後、揺動を伴う約30秒のアセトンによる洗浄、さらに1分間の流水による洗浄を施した絶縁体21上に上記実施の形態に係る方法でめっき層22を形成したチューブ2の外観写真である。
図7(a)、(b)によれば、めっき層22が絶縁体21の全表面上に均質に形成されており、曲げた状態でも剥がれなどが生じていないことが確認できる。このことから、めっき層22と絶縁体21との密着性が高いことがわかる。
【0104】
また、上述の絶縁体21にナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理が施されたチューブ2について、算術平均粗さRa又は二乗平均粗さRmsと、めっき層22と絶縁体21との密着性との関係を調べたところ、算術平均粗さRaが約40nm以上と、二乗平均粗さRmsが約80nm以上の、少なくともいずれか一方の条件を満たすときに、めっき層22と絶縁体21との密着性が特に高くなることが確認された。
【0105】
また、絶縁体21の表面の算術平均粗さRaが粗化処理により粗化処理前の約1.7倍以上に増加するという条件と、絶縁体21の表面の二乗平均粗さRmsが粗化処理により粗化処理前の約2倍以上に増加するという条件の、少なくともいずれか一方を満たすときに、粗化処理によりめっき層22と絶縁体21との密着性が大きく向上することが確認された。
【実施例2】
【0106】
ナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理を約20~30℃の常温下で約10秒間行い、その後、揺動を伴う約30秒のアセトンによる洗浄、さらに1分間の流水による洗浄を施した絶縁体21について、赤外全反射吸収スペクトルを測定した。絶縁体21の材料として、フッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いた。
【0107】
図8(a)、(b)、(c)は、それぞれ、処理前(浸漬時間が0)、10秒間の浸漬処理後、40秒間の浸漬処理後の絶縁体21の赤外全反射吸収スペクトルを示す。また、
図9(a)、(b)、(c)は、それぞれ
図8(a)、(b)、(c)の赤外全反射吸収スペクトルのカルボキシ基に帰属する吸収ピーク周辺を拡大したものである。
図10(a)、(b)、(c)は、それぞれ
図8(a)、(b)、(c)の赤外全反射吸収スペクトルのフッ素樹脂のC-F収縮振動に帰属する吸収ピーク周辺を拡大したものである。
【0108】
図9(a)、(b)、(c)によれば、浸漬時間の増加に伴ってカルボキシ基に帰属する吸収ピークの強度が大きくなることがわかる。処理前、10秒間の浸漬処理後、40秒間の浸漬処理後のカルボキシ基に帰属する吸収ピークの積分値は、それぞれ約0.09、約0.54、約2.01であった。
【0109】
図10(a)、(b)、(c)によれば、3つのフッ素樹脂のC-F収縮振動に帰属する吸収ピークが確認できる。
図10(a)、(b)、(c)においては、測定された赤外全反射吸収スペクトルが点線で示され、これにほぼ一致するのがフィッティングにより得られたフィッティングプロファイルであり、3つのフッ素樹脂のC-F収縮振動に帰属する吸収ピークを合成したものである。処理前、10秒間の浸漬処理後、40秒間の浸漬処理後のフッ素樹脂のC-F収縮振動に帰属する吸収ピークの積分値は、それぞれ約23.40、約21.0、約21.01であった。
【0110】
上記の赤外全反射吸収スペクトルにおいては、カルボキシ基に帰属する吸収ピークの積分値をフッ素樹脂のC-F収縮振動に帰属する吸収ピークの積分値で規格化した値、すなわちカルボキシ基に帰属する吸収ピークの積分値をフッ素樹脂のC-F収縮振動に帰属する吸収ピークの積分値で除した値は、処理前において約0.0038、10秒間の浸漬処理後において約0.026、40秒間の浸漬処理後において約0.096であった。
【0111】
赤外全反射吸収スペクトルのプロファイルとめっき層22と絶縁体21との密着性との関係をしらべたところ、カルボキシ基に帰属する吸収ピークの積分値をフッ素樹脂のC-F収縮振動に帰属する吸収ピークの積分値で規格化した値が0.02以上であるときにめっき層22と絶縁体21との密着性が大きく向上し、0.03以上であるときにより大きく向上することが確認された。
【0112】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0113】
[1]表面に複数のクラック状の溝を有する、フッ素樹脂からなる線状の絶縁体(11)、(21)と、絶縁体(11)、(21)の表面を被覆するめっき層(12)、(22)と、を備え、絶縁体(11)、(21)の表面の状態が、算術平均粗さRaが40nm以上と、二乗平均粗さRmsが80nm以上の、少なくともいずれか一方の条件を満たす、線状部材(1)、(2)。
【0114】
[2]フッ素樹脂からなる線状の絶縁体(11)、(21)の表面に粗化処理を施す工程と、前記粗化処理の後、絶縁体(11)、(21)の表面にめっき処理を施してめっき層(12)、(22)を形成する工程と、を含み、前記粗化処理が、ナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理、低温ブラスト処理、又は電子線照射である、線状部材(1)、(2)の製造方法。
【0115】
[3]前記粗化処理がナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理であり、前記粗化処理後の絶縁体(11)、(21)の表面の状態が、算術平均粗さRaが40nm以上と、二乗平均粗さRmsが80nm以上の、少なくともいずれかの条件を満たす、上記[2]に記載の線状部材(1)、(2)の製造方法。
【0116】
[4]前記粗化処理が低温ブラスト処理であり、液体窒素を用いて絶縁体(11)、(21)の温度を低下させた状態でブラスト処理を実施する、上記[2]に記載の線状部材(1)、(2)の製造方法。
【0117】
[5]絶縁体(11)、(21)の表面の算術平均粗さRaが前記粗化処理により前記粗化処理前の1.7倍以上に増加するという条件と、絶縁体(11)、(21)の表面の二乗平均粗さRmsが前記粗化処理により前記粗化処理前の2倍以上に増加するという条件の、少なくともいずれか一方を満たす、上記[2]~[4]のいずれか1項に記載の線状部材(1)、(2)の製造方法。
【0118】
[6]フッ素樹脂からなる線状の絶縁体(11)、(21)の表面に親水化処理を施す工程と、前記親水化処理の後、絶縁体(11)、(21)の表面にめっき処理を施してめっき層(12)、(22)を形成する工程と、を含み、前記親水化処理後の絶縁体(11)、(21)の表面の赤外全反射吸収スペクトルにおいて、カルボキシ基に帰属する吸収ピークの積分値をフッ素樹脂のC-F収縮振動に帰属する吸収ピークの積分値で規格化した値が0.02以上である、線状部材(1)、(2)の製造方法。
【0119】
[7]前記親水化処理が、ナトリウムナフタレン錯体溶液への浸漬処理である、上記[6]に記載の線状部材(1)、(2)の製造方法。
【0120】
[8]前記親水化処理により、絶縁体(11)、(21)の表面のカルボキシ基の量が前記親水化処理前の6倍以上になる、上記[6]又は[7]に記載の線状部材(1)、(2)の製造方法。
【0121】
[9]フッ素樹脂からなる線状の絶縁体(11)、(21)と、絶縁体(11)、(21)の表面を被覆するめっき層(12)、(22)と、を備え、絶縁体(11)、(21)の表面にヒドロキシ基が存在する、線状部材(1)、(2)。
【0122】
[10]絶縁体(11)、(21)の表面の赤外全反射吸収スペクトルにおいて、カルボキシ基に帰属する吸収ピークの積分値をフッ素樹脂のC-F収縮振動に帰属する吸収ピークの積分値で規格化した値が0.02以上である、上記[9]に記載の線状部材。
【0123】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0124】
また、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0125】
1 ケーブル
2 チューブ
3 導電性繊維
10 導体
11 絶縁体
12 シールド
21 絶縁体
22 めっき層