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特許7172657ポリカーボネート樹脂含有組成物、ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品およびポリカーボネート樹脂の引張疲労特性向上剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】ポリカーボネート樹脂含有組成物、ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品およびポリカーボネート樹脂の引張疲労特性向上剤
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20221109BHJP
   C08K 5/55 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C08L69/00
C08K5/55
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019012515
(22)【出願日】2019-01-28
(65)【公開番号】P2020117665
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】竹澤 豊
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 直人
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-117666(JP,A)
【文献】国際公開第2022/059582(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂と、下記化学式(1):
【化1】
(上記式(1)中、
前記Arは、それぞれ独立して、Arが結合する窒素原子および炭素原子とともに、芳香族複素環を形成し、
前記Rは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素原子数1~20のアルキル基、置換または非置換の炭素原子数1~20のアルコキシ基、置換または非置換の炭素原子数6~20のアリール基、置換または非置換の炭素原子数2~20のヘテロアリール基であり、
前記Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素原子数1~20のアルキル基、置換または非置換の炭素原子数1~20のアルコキシ基、置換または非置換の炭素原子数6~20のアリール基、置換または非置換の炭素原子数2~20のヘテロアリール基であり、
Xは、窒素原子、C-電子求引性基、またはC-Hである。)
で表される化合物と、を含む、ポリカーボネート樹脂含有組成物であって、
下記数式:
【数1】

(上記式中、
は、前記ポリカーボネート樹脂の相互作用半径であり、
は、前記ポリカーボネート樹脂のハンセン空間上の溶解度パラメーター(HSP)と、前記化合物のハンセン空間上の溶解度パラメーター(HSP)との間の距離である。)
で表される相対エネルギー差(RED)が、1以上2.5未満であり、
前記ポリカーボネート樹脂および前記化合物の含有質量比が、ポリカーボネート樹脂:化合物=1:0.000001~0.01である、ポリカーボネート樹脂含有組成物。
【請求項2】
前記相対エネルギー差(RED)が、1.10~1.90である、請求項1に記載のポリカーボネート樹脂含有組成物。
【請求項3】
前記相対エネルギー差(RED)が、1.20~1.70である、請求項2に記載のポリカーボネート樹脂含有組成物。
【請求項4】
前記芳香族複素環が、下記化学式(2-1)~(2-13):
【化2】

(上記化学式(2-1)~(2-13)中、
は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のアルコキシ基であり、
mは、それぞれ独立して、0または1~3の整数であり、
nは、それぞれ独立して、0または1~4の整数であり、
oは、それぞれ独立して、0または1~5の整数であり、
pは、それぞれ独立して、0または1~6の整数である。)
からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項1~3のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂含有組成物。
【請求項5】
前記Rが、置換の炭素原子数6~20のアリール基、または置換の炭素原子数2~20のヘテロアリール基である、請求項1~4のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂含有組成物。
【請求項6】
前記Rの置換基が、炭素原子数3~20の直鎖アルコキシ基である、請求項5に記載のポリカーボネート樹脂含有組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリカーボネート樹脂含有組成物を成形してなる成形品。
【請求項8】
下記化学式(1):
【化3】

(上記式(1)中、
前記Arは、Arが結合する窒素原子および炭素原子とともに、芳香複素環を形成し、
前記Rは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素原子数1~20のアルキル基、置換または非置換の炭素原子数1~20のアルコキシ基、置換または非置換の炭素原子数6~20のアリール基、置換または非置換の炭素原子数2~20のヘテロアリール基であり、
前記Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素原子数1~20のアルキル基、置換または非置換の炭素原子数1~20のアルコキシ基、置換または非置換の炭素原子数6~20のアリール基、置換または非置換の炭素原子数2~20のヘテロアリール基であり、
Xは、窒素原子、C-電子求引性基、またはC-Hである。)
で表される化合物である、ポリカーボネート樹脂の引張疲労特性向上剤において、
下記数式:
【数2】

(上記式中、
は、前記ポリカーボネート樹脂の相互作用半径であり、
は、前記ポリカーボネート樹脂のハンセン空間上の溶解度パラメーター(HSP)と、前記化合物のハンセン空間上の溶解度パラメーター(HSP)との間の距離である。)
で表される相対エネルギー差(RED)が、1.00以上2.50未満である、引張疲労特性向上剤。
【請求項9】
前記相対エネルギー差(RED)が、1.10~1.90である、請求項に記載の引張疲労特性向上剤。
【請求項10】
前記相対エネルギー差(RED)が、1.20~1.70である、請求項に記載の引張疲労特性向上剤。
【請求項11】
前記芳香族複素環が、下記化学式(2-1)~(2-13):
【化4】

(上記化学式(2-1)~(2-13)中、
は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のアルコキシ基であり、
mは、0または1~3の整数であり、
nは、0または1~4の整数であり、
oは、0または1~5の整数であり、
pは、0または1~6の整数である。)
からなる群から選択される少なくとも1つである、請求項10のいずれか1項に記載の引張疲労特性向上剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂含有組成物、ポリカーボネート樹脂組成物を成形してなる成形品およびポリカーボネート樹脂の引張疲労特性向上剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、優れた機械的強度、耐熱性を有する樹脂として知られ、また、透明性も高いことから、広く用いられている。
【0003】
ポリカーボネート樹脂にタルクやガラス繊維を添加することで、剛性や強度が増すことが知られている。例えば、特許文献1では、特定の芳香族ポリカーボネート樹脂および特定のガラス繊維を含む芳香族ポリカーボネート樹脂によって、剛性等の特性が向上するととともに、耐湿熱疲労特性が向上するとしている。また、ポリカーボネート樹脂と、他の熱可塑性樹脂とのポリマーアロイとすることで、耐衝撃性や成形加工性を向上させる技術もある。例えば、特許文献2では、特定の芳香族ポリカーボネート樹脂と、スチレン系樹脂と、からなる熱可塑性樹脂組成物によって、耐衝撃性などの特性を維持しつつ、高温高湿下での機械的強度に優れた熱可塑性樹脂組成物となる、としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-26708号公報
【文献】特開2000-143910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、食品用型枠などの成形体では、成形体に横方向やねじり方向の物理的力が負荷されるとともに、成形体が繰り返し使用される。本発明者らは、このような用途では、引張疲労特性の高い樹脂組成物が求められることを知見した。
【0006】
そこで本発明は、引張疲労特性が高いポリカーボネート樹脂含有組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ポリカーボネート化合物と、特定の化合物を用い、両者の相対エネルギー差(RED)が、1以上2.5未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、引張疲労特性が高いポリカーボネート樹脂含有組成物の提供が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の第一実施形態は、
ポリカーボネート樹脂と、下記化学式(1):
【0010】
【化1】
【0011】
で表される化合物と、を含む、ポリカーボネート樹脂含有組成物であって、
下記数式:
【0012】
【数1】
【0013】
(上記式中、
は、ポリカーボネート樹脂の相互作用半径であり、
は、ポリカーボネート樹脂のハンセン空間上の溶解度パラメーター(HSP)と、上記化合物のハンセン空間上の溶解度パラメーター(HSP)との間の距離である。)
で表される相対エネルギー差(RED)が、1以上2.5未満である、ポリカーボネート樹脂含有組成物である。
【0014】
ここで、上記式(1)中、Arは、それぞれ独立して、Arが結合する窒素原子および炭素原子とともに、芳香族複素環を形成し、Rは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素原子数1~20のアルキル基、置換または非置換の炭素原子数1~20のアルコキシ基、置換または非置換の炭素原子数6~20のアリール基、置換または非置換の炭素原子数2~20のヘテロアリール基であり、Rは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素原子数1~20のアルキル基、置換または非置換の炭素原子数1~20のアルコキシ基、置換または非置換の炭素原子数6~20のアリール基、置換または非置換の炭素原子数2~20のヘテロアリール基であり、Xは、窒素原子、C-電子求引性基、またはC-Hである。
【0015】
以下、本明細書において、式(1)で表される化合物を本化合物とも称する。
【0016】
本実施形態のポリカーボネート樹脂含有組成物は、特定の化合物と、ポリカーボネート樹脂との選択性に特徴を有する。すなわち、相対エネルギー差(RED)が、1以上2.5未満である、特定の構造を有する化合物と、ポリカーボネート樹脂とを選択して組成物とする。これにより、成形後の成形体の引張疲労特性が向上する。本発明がかような効果を奏するメカニズムは以下のように推定される。なお、本発明の技術的範囲は下記推定メカニズムによって何ら制限されない。
【0017】
本化合物は、複数の芳香族環や複素環を有し、さらにホウ素原子により、高度に芳香族化された平面構造を有している。これにより、特に芳香族系のポリカーボネート樹脂とのπ-π相互作用などが生じやすく、また色素同士もスタッキングを起こすことで、ポリカーボネート樹脂の破断や割れが生じにくいことが考えられる。
【0018】
しかしながら、かような基本骨格を有するだけでは、成形した後の成形体の引張疲労特性(繰り返し使用後の機械的特性)が十分なものとはならない(後述の比較例5~8参照)。相対エネルギー差が1未満の場合は、本化合物とポリカーボネート樹脂との相溶性が高く、化合物がポリカーボネート樹脂に溶け込みやすくなる。ゆえに、本来のポリカーボネート骨格同士の相互作用により発揮されている樹脂の物性が一部抑制されてしまい、本化合物の添加による効果と相殺されてしまう。また、相対的エネルギー差が2.5以上であると、ポリカーボネート樹脂内において本化合物が一部異物となり、ポリカーボネート樹脂との組み合わせによる引張疲労特性の向上が抑制されると考えられる。相対エネルギー差が1以上2.5未満の場合には、ポリカーボネート骨格と中程度の相互作用があり、かつ本化合物同士もスタッキングすることが出来るため、ポリカーボネート樹脂中において、一部分ポリカーボネート骨格の相互作用が弱い部分に対して、本化合物が橋渡し的な役割を担い、成形体の引張疲労特性を向上させることが出来る。
【0019】
以下、本実施形態について詳細に説明する。
【0020】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0021】
[相対エネルギー差(RED)]
相対エネルギー差(RED)は、対象となる物質に対する親和性を示す指標である。本実施形態において、相対エネルギー差(RED)が1以上2.5未満である。相対エネルギー差がかような範囲内にあることで引張疲労特性が向上する。
【0022】
相対エネルギー差(RED)は、引張疲労特性向上の観点から、1.10~1.90であることが好ましく、1.20~1.70であることがより好ましい。
【0023】
ポリカーボネート樹脂の相互作用半径Rは、ポリカーボネート樹脂のハンセン空間上の溶解度パラメーター(HSP)の座標を中心座標としたときに、ポリカーボネート樹脂が溶解性を示す中心座標からの距離を示す。ポリカーボネート樹脂の相互作用半径Rは、通常、HSPが確定している種々の溶剤にポリカーボネート樹脂を溶解させる溶解度試験を行うことによって決定される。具体的には、溶解度試験に用いた全ての溶剤のハンセン溶解度パラメータの座標をハンセン空間にプロットしたときに、ポリカーボネート樹脂を溶解した溶剤の座標が球の内側となり、溶解しない溶剤の座標が球の外側となる球(溶解球)を探し出し、その溶解球の半径をポリカーボネート樹脂の相互作用半径Rとする。
【0024】
なお、ハンセン空間上の溶解度パラメーター(HSP)は、チャールズ・ハンセンによって開発された、物質の溶解性を示すためのパラメータである。本明細書における、HSPの値は、Hansen, Charles (2007).Hansen Solubility Parameters: A user’s handbook,Second Editionに記載された方法により測定された値を採用するものとする。
【0025】
また、ポリカーボネート樹脂のハンセン溶解度パラメータと、本化合物とのハンセン溶解度パラメータとの距離Raは、以下の式(I)に従って求めることができる。ただし、dD、dP、及びdHは、ポリカーボネート樹脂のハンセン溶解度パラメータの分散項、分極項、及び水素結合項をそれぞれ示す。また、dD、dP、及びdHは、本化合物のハンセン溶解度パラメータの分散項、分極項、及び水素結合項をそれぞれ示す。
【0026】
【数2】
【0027】
ポリカーボネート樹脂の相互作用半径R0、dD、dP、及びdHは、ポリカーボネート樹脂によって変わり、モノマー構造、分子量、分子量分布などで変化する値である。本化合物は、特に芳香族系ポリカーボネートとの相互作用があり、その中で、Ar部分、R、RやX部分の構造を最適化することで、REDが1~2.5の範囲に設定することが好ましい。
【0028】
[ポリカーボネート樹脂]
ポリカーボネート樹脂としては、芳香族ポリカーボネート樹脂、脂肪族ポリカーボネート樹脂、芳香族-脂肪族ポリカーボネート樹脂、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。
【0029】
ポリカーボネート樹脂は、通常ジヒドロキシ化合物と、ホスゲンや環状カーボネートなどのカーボネート前駆体とを界面重縮合法、溶融エステル交換法で反応させて得られたものの他、カーボネートプレポリマーを固相エステル交換法により重合させたもの、または環状カーボネート化合物の開環重合法により重合させて得られる。
【0030】
芳香族ジヒドロキシ化合物の例としては、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,3’-ビフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、2,2-ビス(3-ブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1-ビス(3-シクロヘキシル-4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルエ-テル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエ-テル、4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、2,2’-ジメチル-4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド、2,2’-ジフェニル-4,4’-スルホニルジフェノール、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジフェニルジフェニルスルフィド、1,3-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4-ビス{2-(4-ヒドロキシフェニル)プロピル}ベンゼン、1,4-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,8-ビス(4-ヒドロキシフェニル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、4,4’-(1,3-アダマンタンジイル)ジフェノール、1,3-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-5,7-ジメチルアダマンタンなどが挙げられ、これらを単独あるいは混合物として使用することができる。
【0031】
脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、例えば2,2-ビス-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-プロパン、1,14-テトラデカンジオール、オクタエチレングリコール、1,16-ヘキサデカンジオール、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ビフェニル、ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}メタン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}エタン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}-1-フェニルエタン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル}プロパン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,2-ビス{4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,3’-ビフェニル}プロパン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル}プロパン、2,2-ビス{3-t-ブチル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}ブタン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}-4-メチルペンタン、2,2-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}オクタン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}デカン、2,2-ビス{3-ブロモ-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{3,5-ジメチル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、2,2-ビス{3-シクロヘキシル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロパン、1,1-ビス{3-シクロヘキシル-4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}シクロヘキサン、ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}ジフェニルメタン、9,9-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}フルオレン、9,9-ビス{4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル}フルオレン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}シクロヘキサン、1,1-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}シクロペンタン、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ジフェニルエ-テル、4,4’-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)-3,3’-ジメチルジフェニルエ-テル、1,3-ビス[2-{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロピル]ベンゼン、1,4-ビス[2-{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}プロピル]ベンゼン、1,4-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}シクロヘキサン、1,3-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}シクロヘキサン、4,8-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、1,3-ビス{(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル}-5,7-ジメチルアダマンタン、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-ソルビトール(イソソルビド)、1,4:3,6-ジアンヒドロ-D-マンニトール(イソマンニド)、1,4:3,6-ジアンヒドロ-L-イジトール(イソイディッド)等が挙げられる。
【0032】
炭酸ジエステルとしては、例えば、ジフェニルカーボネート、ジトルイルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネートなどのジアリールカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどのジアルキルカーボネート、ホスゲンなどのカルボニルハライド、2価フェノールのジハロホルメートなどのハロホルメートなどを用いることができるが、これらに限定されるものではない。これらの中では、ジフェニルカーボネートが好ましい。これらの炭酸ジエステルもまた、単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
ポリカーボネート樹脂としては、例えば、1,1,1-トリス(4-ヒドロキシフェニル)エタンまたは1,1,1-トリス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)エタンのような三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、芳香族または脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよい。また、ポリカーボネート樹脂を2種またはそれ以上混合して得られた混合物であってもよい。
【0034】
ポリカーボネート樹脂としては、好ましくは、芳香族ポリカーボネート樹脂である。より好ましくは、芳香族ジヒドロキシ化合物として、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタンを用いた芳香族ポリカーボネート樹脂である。
【0035】
ポリカーボネート樹脂としては市販品を用いてもよい。
【0036】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、12,000~30,000であることが好ましく、14,000~27,000であることがより好ましく、15,000~25,000が特に好ましい。かかる粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂は、組成物として十分な強度が得られ、また、成形時の溶融流動性も良好であり成形歪みが発生せず好ましい。
【0037】
粘度平均分子量(Mv)は、塩化メチレンを溶媒として、ウベローデ粘度計を使用し、温度20℃での極限粘度([η])(単位dl/g)を求め、Schnellの粘度式:[η]=1.23×10-4Mv0.83の式から算出される。
【0038】
[化学式(1)で表される化合物]
下記化学式(1):
【0039】
【化2】
【0040】
で表される化合物について説明する。
【0041】
(Ar)
式(1)中、Arは、Arが結合する窒素原子および炭素原子とともに、芳香族複素環を形成する。以下、Ar、Arが結合する窒素原子および炭素原子が形成する芳香族複素環を単にArによる芳香族複素環とも称する。
【0042】
Arによる芳香族複素環としては、芳香性を有するものであれば特に限定されるものではない。Arによる芳香族複素環としては、ピロール環、イミダゾール環、ピラゾール環、オキサゾール環、チアゾール環などの5員環;ピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、ピラジン環などの6員環;イソインドール環、インドール環、インダゾール環、プリン環、チエノピロール環、フロピロール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾオキサゾール環、キノリン環、キノキサリン環等の複数個の5員環または6員環が縮合してなる縮合芳香環が挙げられる。縮合芳香環としては、縮環数が2または3であることが好ましく、合成上の煩雑さなどの点から2であることがより好ましい。
【0043】
Arによる芳香族複素環は、置換基を有していないものであってもよく、1個または複数個の置換基を有していてもよい。当該芳香環が有する置換基としては、化合物の効果を阻害しない任意の基であればよい。なお、本明細書において、置換基と同種の置換基が当該置換基に置換されることはない。例えば、アルキル基の置換基がアルキル基となることはない。
【0044】
置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルデヒド基、スルホン酸基、アルキルスルフォニル基、ハロゲノスルフォニル基、チオール基、アルキルチオ基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミドカルボニル基、アルキルカルボニルアミド基、アシル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、シリル基、モノアルキルシリル基、ジアルキルシリル基、トリアルキルシリル基、モノアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基、トリアルコキシシリル基、アリール基およびヘテロアリール基等が挙げられる。
【0045】
Arによる芳香族複素環上に存在しうる置換基としては、シアノ基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アルキルチオ基、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミド基、アルキルスルフォニル基、フッ素、塩素、アリール基、またはヘテロアリール基であることが好ましく、アルキル基であることがより好ましく、炭素数1~12のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~8のアルキル基であることがさらにより好ましく、炭素数1~4のアルキル基であることが特に好ましく、炭素数1~4の分岐鎖アルキル基であることが最も好ましい。
【0046】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子を挙げることができ、フッ素原子、塩素原子および臭素原子が好ましく、フッ素原子がより好ましい。
【0047】
アルキル基、アルケニル基、およびアルキニル基としては、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよく、環状(脂肪族環基)であってもよい。これらの基の炭素数は、1~20が好ましく、1~12がより好ましく、1~6がさらに好ましい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基(tert-ブチル基)、ペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられる。
【0048】
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、2-ブテニル基、1,3-ブタジエニル基、2-ペンテニル基、2-ヘキセニル基等が挙げられる。アルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、イソプロピニル基、1-ブチニル基、イソブチニル基等が挙げられる。
【0049】
アルキルスルフォニル基、アルキルチオ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルアミドカルボニル基、アルキルカルボニルアミド基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、モノアルキルシリル基、ジアルキルシリル基、トリアルキルシリル基、モノアルコキシシリル基、ジアルコキシシリル基、及びトリアルコキシシリル基におけるアルキル基部分としては、前記アルキル基と同様のものが挙げられる。例えば、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t-ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、イソアミルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ドデシルオキシ基等が挙げられる。また、例えば、モノアルキルアミノ基としては、メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、イソプロピルアミノ基、ブチルアミノ基、イソブチルアミノ基、t-ブチルアミノ基、ペンチルアミノ基、ヘキシルアミノ基等を挙げることができ、ジアルキルアミノ基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジイソブチルアミノ基、ジペンチルアミノ基、ジヘキシルアミノ基、エチルメチルアミノ基、メチルプロピルアミノ基、ブチルメチルアミノ基、エチルプロピルアミノ基、ブチルエチルアミノ基等を挙げることができる。
【0050】
アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、インデニル基、ビフェニル基等が挙げられる。好ましくはフェニル基である。
【0051】
ヘテロアリール基としては、例えば、ピロリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、チエニル基、フラニル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、チアジアゾール基等の5員環ヘテロアリール基;ピリジニル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基等の6員環ヘテロアリール基;インドリル基、イソインドリル基、インダゾリル基、キノリジニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ベンゾフラニル基、イソベンゾフラニル基、クロメニル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイソオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ベンゾイソチアゾリル基などの縮合ヘテロアリール基を挙げることができる。
【0052】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、およびヘテロアリール基は、無置換の基であってもよく、1以上の水素原子が置換基によって置換されていてもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、アルデヒド基、スルホン酸基、イソシアネート基、チオイソシアネート基、アリール基、ヘテロアリール基等が挙げられる。好ましくは無置換である。
【0053】
Arによる芳香族複素環上に存在しうる置換基数は、特に限定されるものではないが、1~3であることが好ましく、1または2であることがより好ましい。
【0054】
本発明の効果が一層奏されることから、Arによる芳香族複素環は、下記化学式(2-1)~(2-13)からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0055】
【化3】
【0056】
上記化学式(2-1)~(2-13)中、Rは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のアルコキシ基である。ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基の例示としては、上記Arによる芳香族複素環の置換基の欄に記載したものと同様である。中でも、初期の引張特性向上の観点から、Rは、炭素原子数1~20のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~12のアルキル基であることがより好ましく、炭素数1~8のアルキル基であることがさらにより好ましく、炭素数1~4のアルキル基であることが特に好ましく、炭素数1~4の分岐鎖アルキル基であることが最も好ましい。
【0057】
上記化学式(2-1)~(2-3)中、nは、それぞれ独立して、0または1~4の整数である。中でも、初期の引張特性向上の観点から、n=0、1または2であることが好ましく、0または1であることがより好ましく、1であることがさらにより好ましい。
【0058】
上記化学式(2-4)~(2-6)中、mは、それぞれ独立して、0または1~3の整数である。中でも、初期の引張特性向上の観点から、m=0、1または2であることが好ましく、1または2であることがより好ましい。
【0059】
上記化学式(2-7)~(2-9)中、pは、それぞれ独立して、0または1~6の整数である。中でも、初期の引張特性向上の観点から、p=0、1または2であることが好ましく、0または1であることがより好ましく、1であることがさらにより好ましい。
【0060】
上記化学式(2-10)~(2-13)中、oは、それぞれ独立して、0または1~5の整数である。中でも、初期の引張特性向上の観点から、o=0、1または2であることが好ましく、0または1であることがより好ましい。
【0061】
中でも、初期の引張特性向上の観点から、Arによる芳香族複素環は、化学式(2-1)、(2-4)、(2-9)および(2-11)からなる群から選択される少なくとも1つであることがより好ましく、化学式(2-1)、(2-9)および(2-11)からなる群から選択される少なくとも1つであることがより好ましく、化学式(2-9)であることがさらにより好ましい。
【0062】
また、本発明の好適な一実施形態は、Arによる芳香族複素環が、化学式(2-1)、(2-9)および(2-11)からなる群から選択される少なくとも1つであり、かつ、Rにおける置換基が炭素原子数3~20の直鎖アルコキシ基である。
【0063】
式(1)に存在する2つのArは同じであっても異なるものであってもよいが、同じであることが好ましい。
【0064】
(R
は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素原子数1~20のアルキル基、置換または非置換の炭素原子数1~20のアルコキシ基、置換または非置換の炭素原子数6~20のアリール基、置換または非置換の炭素原子数2~20のヘテロアリール基である。ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはヘテロアリール基の具体的例示は、上記Arによる芳香族複素環の置換基の欄に記載したものと同様である。
【0065】
4つのRは同じであっても異なるものであってもよいが、同じであることが好ましい。
【0066】
アルキル基、アルコキシ基、アリール基、ヘテロアリール基に存在しうる置換基としては、化合物の効果を阻害しない任意の基であればよい。具体的な例示としては、上記Arによる芳香族複素環の置換基の欄に記載したものと同様である。
【0067】
は、引張疲労特性のさらなる向上の観点からは、ハロゲン原子、あるいは置換または非置換の炭素原子数6~20のアリール基であることが好ましく、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、あるいは置換または非置換のフェニル基、ナフチル基、インデニル基またはビフェニル基であることがより好ましく、フッ素原子またはフェニル基であることが特に好ましい。
【0068】
(R
は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換または非置換の炭素原子数1~20のアルキル基、置換または非置換の炭素原子数1~20のアルコキシ基、置換または非置換の炭素原子数6~20のアリール基、置換または非置換の炭素原子数2~20のヘテロアリール基である。
【0069】
は、引張疲労特性のさらなる向上の観点からは、置換の炭素原子数6~20のアリール基、または置換の炭素原子数2~20のヘテロアリール基であることが好ましく、置換の炭素原子数6~20のアリール基であることがより好ましく、置換のフェニル基、ナフチル基、インデニル基またはビフェニル基であることがさらにより好ましく、置換のフェニル基であることが特に好ましい。
【0070】
アルキル基、アルコキシ基、アリール基、またはヘテロアリール基に存在しうる置換基としては、化合物の効果を阻害しない任意の基であればよい。具体的な例示としては、上記Arによる芳香族複素環の置換基の欄に記載したものと同様である。中でも、アルキル基、アルコキシ基、アリール基またはヘテロアリール基に存在しうる置換基としては、アルコキシ基であることが好ましく、炭素原子数1~20のアルコキシ基であることがより好ましく、炭素原子数3~20のアルコキシ基であることがさらにより好ましく、樹脂との相互作用や本化合物同士のπ-π相互作用が高くなる観点や化合物物性の観点から、炭素原子数3~20の直鎖アルコキシ基であることが特に好ましく、炭素原子数6~12の直鎖アルコキシ基であることが最も好ましい。特にアルキル鎖が長くなる場合は、アルキル鎖が分岐しているとかさ高くなり、アルキル鎖同士の疎水相互作用が弱くなることが考えられるため、本化合物に基づく場合は、直鎖の方がより好ましいと考えられる。
【0071】
2つのRは同じであっても異なるものであってもよいが、同じであることが好ましい。
【0072】
(X)
Xは、窒素原子、C-電子求引性基、またはC-Hである。
【0073】
電子求引性基としては、例えば、トリフルオロメチル基などのようなハロゲン化メチル基;ニトロ基;シアノ基;アリール基;ヘテロアリール基;アルキニル基;アルケニル基;カルボキシル基、アシル基、カルボニルオキシ基、アミド基、アルデヒド基などのカルボニル基を有する置換基;スルホキシド基;スルホニル基;アルコキシメチル基;アミノメチル基などが挙げられ、これらの電子求引性基を置換基として持つアリール基やヘテロアリール基なども使用することができる。これらの電子求引性基の中でも、引張疲労特性を一層向上させる観点からは、強い電子求引性基として機能し得るトリフルオロメチル基、ニトロ基、シアノ基、フェニル基、スルホニル基であることが好ましく、シアノ基であることがより好ましい。
【0074】
引張疲労特性を一層向上させる観点からは、Xが、C-電子吸引性基であることが好ましい。
【0075】
本発明の好適な一実施形態は、Arによる芳香族複素環が、化学式(2-9)であり、Xが、C-電子吸引性基である。
【0076】
[ポリカーボネート樹脂含有組成物]
ポリカーボネート樹脂含有組成物において、引張疲労特性を一層向上させることから、ポリカーボネート樹脂および本化合物の含有質量比が、ポリカーボネート樹脂:本化合物=1:0.000001~0.01であることが好ましく、1:0.000005~0.001であることがより好ましく、1:0.00001~0.0005であることがさらに好ましい。
【0077】
ポリカーボネート樹脂含有組成物には公知の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、特に限定されるものではないが、酸化防止剤(リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤等)、紫外線吸収剤、離型剤(グリセリン脂肪酸エステル等)、滑剤(パラフィンワックス、n-ブチルステアレート、合成蜜蝋、天然蜜蝋、グリセリンモノエステル、モンタン酸ワックス、ポリエチレンワックス、ペンタエリスリトールテトラステアレート等)、着色剤(酸化チタン、染料、顔料等)、充填剤(炭酸カルシウム、クレー、シリカ、カーボンブラック、カーボン繊維、タルク、マイカ、各種ウィスカー類等)、流動性改良剤、展着剤(エポキシ化大豆油、流動パラフィン等)、難燃剤などが挙げられる。
【0078】
ポリカーボネート樹脂含有組成物は、各成分を混合することにより得ることができる。混合方法としては、例えば、タンブラー、リボンブレンダー、高速ミキサー等の混合機を用いて、各成分を混合した後に単軸押出機、二軸押出機、ニーダー等で溶融混練する方法が挙げられる。
【0079】
本化合物は、芳香環や複素環を複数有するため、近赤外領域に吸収極大波長を有する。具体的には、ポリカーボネート樹脂含有組成物の極大吸収波長は650nm以上であることが好ましく、700nm以上であることがより好ましい。
【0080】
[引張疲労特性向上剤]
本発明の第二実施形態は、上記式(1)で表され、ポリカーボネート樹脂との相対エネルギー差(RED)が1以上2.5未満である、ポリカーボネート樹脂の引張疲労特性向上剤である。
【0081】
ポリカーボネート樹脂に対して、上記式(1)で表され、ポリカーボネート樹脂との相対エネルギー差(RED)が1以上2.5未満である化合物によって、ポリカーボネート樹脂の引張疲労特性が向上する。引張疲労特性については、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0082】
第二実施形態の引張疲労特性向上剤において、相対エネルギー差(RED)が、1.10~1.90であることが好ましく、1.20~1.70であることがより好ましい。また、式(1)中、芳香族複素環が、下記化学式(2-1)~(2-13):
【0083】
【化4】
【0084】
からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0085】
ここで、上記化学式(2-1)~(2-13)中、Rは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のアルコキシ基であり、mは、0または1~3の整数であり、nは、0または1~4の整数であり、oは、0または1~5の整数であり、pは、0または1~6の整数である。
【0086】
ポリカーボネート樹脂、式(1)で表される化合物、相対エネルギー差(RED)、ならびに化学式(2-1)~(2-13)については、第一実施形態にて記載の通りである。
【0087】
本実施形態の引張疲労特性向上剤は、該向上剤を添加前のポリカーボネート樹脂に対して、下記実施例に記載の方法により測定された40MPaでのサイクル数が、1.25を超えることが好ましく、1.28を超えることがより好ましく、1.32を超えることがさらにより好ましく、1.36を超えることが特に好ましく、1.4以上であることが最も好ましい。
【0088】
[成型品]
本発明の第二実施形態は、第一実施形態のポリカーボネート樹脂含有組成物を成形してなる成形品である。
【0089】
ポリカーボネート樹脂組成物の成形方法としては、成形方法は、特に限定されないが、キャスティング(注型法)、金型を用いた射出成形、圧縮成形及びTダイ等による押し出し成形、ブロー成形などを用いることができる。
【0090】
成形品の用途としては、例えば、チョコレート加工型などの食品加工型:テレビ部品、VTR部品、ヘアドライヤハウジング、アイロン部品、電子レンジ部品、各種光ディスク等の家電部品;リレーケース、LEDランプ、コンピュータ構造部品等の電子通信用部品;照明カバー、懐中電灯の筐体等の照明器具部品;ヘッドランプレンズ、ドアハンドル、メータカバー、二輪車風防、ルーバー等の自動車・車両部品;カメラボディ及び部品等の光学機械部品;3Dプリンタ用フィラメントなどの複写機やプリンタの構造部品、FDD部品、パソコン部品等のOA機器部品;ポンプ部品、電動工具ハウジング等の機械部品などに代表される電気・電子機器用途向けの成形品等が挙げられる。
【0091】
本化合物は、ポリカーボネート樹脂に添加すると、成形体の引張疲労特性が向上する。そのため、成形体に引張疲労特性が要求される種々の用途において、特に有用である。このため、成形品の用途としては、食品加工型、3Dプリンタ用フィラメント、光学機械部品体、自動車・車両部品などが好適である。
【実施例
【0092】
本発明の効果を、以下の実施例および比較例を用いて説明する。実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いる場合があるが、特に断りがない限り、「重量部」あるいは「重量%」を表す。また、特記しない限り、各操作は、室温(25℃)で行われる。
【0093】
(実施例1)
ポリカーボネート樹脂(商品名「SD POLYCA(TM) 301-4」(住化ポリカーボネート社製))100質量部および下記化合物1 0.005質量部を押出機を使用して混練・押出(ペレット化)を行い、ダンベル試料射出成型によりJIS K7139:2009準拠多目的試験片タイプA1 厚さ4mmの試験片を作製した。
【0094】
【化5】
【0095】
なお、ポリカーボネート樹脂のハンセン溶解度パラメータのdD、dP、及びdHの値としては、例えば、18.2MPa1/2、5.9MPa1/2、および6.9MPa1/2をそれぞれ採用することができる。
【0096】
(実施例2~9)
化合物1の代わりに下記化合物2~9を用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0097】
【化6-1】
【0098】
【化6-2】
【0099】
なお、各化合物は公知の反応により製造することができる。以下、化合物1の合成例を一例として記載する。
【0100】
[製造例]化合物1の合成
化合物1は、Organic Letters、2012年、第4巻、2670~2673ページ及びChemistry A European Journal、2009年、第15巻、4857~4864ページを参照にして、以下のように行なった。
【0101】
2L容四口フラスコに4-ヒドロキシベンゾニトリル(25.3g、212mmol)、アセトン800mL、炭酸カリウム(100g、724mmol)、1-ブロモオクタン(48g、249mmol)を入れ、終夜加熱還流した。無機塩をろ過後、アセトンを減圧除去し、得られた残渣に酢酸エチルを加え、有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで処理した。硫酸マグネシウムをろ別し、溶媒を減圧除去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、4-オクトキシベンゾニトリル(A-1)の無色透明液体を得た(収量:45.2g、収率:92%)。
【0102】
次に、アルゴン気流下、500mL容四口フラスコにtert-ブチルオキシカリウム(25.18g、224.4mmol)、tert-アミルアルコール160mLを入れた。そこへ、先に合成した化合物(A-1)(14.8g、64mmol)をtert-アミルアルコール7mLと混合した溶液を加えた。加熱還流下、コハク酸ジイソプロピルエステル(6.5g、32mmol)をtert-アミルアルコール10mLに混合した溶液を約3時間かけて滴下し、滴下終了後、6時間加熱還流した。室温に戻した後、粘性の高い反応液を酢酸:メタノール:水=1:1:1の溶液に入れ、加熱還流を数分行うと赤い固体が析出した。固体をろ別し、加熱したメタノール、及び水で洗浄することによって3,6-(4-オクチルオキシフェニル)ピロロ[3,4-c]ピロール-1,4(2H,5H)-ジオン(A-2)の赤色固体を得た(収量:5.6g、収率:32%)。
【0103】
また、200mL容三口フラスコに3-tert-ブチルアニリン(10g、67mmol)、酢酸70mL、チオシアン酸ナトリウム(13g、160mmol)を入れた。系内を15℃以下に保ちながら、臭素(4.5mL、87mmol)を約20分間かけて滴下し、その後3.5時間15℃以下で攪拌した。反応液を28%アンモニア水150mLに入れ、しばらく攪拌し、析出した固体をろ別後、この固体をジエチルエーテルで抽出し、有機層を水で洗浄した。ジエチルエーテルを減圧濃縮後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ジクロロメタン/酢酸エチル)で精製し、2-アミノ-7-tert-ブチルベンゾチアゾール(A-3)を淡黄色固体として得た(収量:10.32g、収率:69%)。
【0104】
次に、水冷下、1L容4つ口フラスコに水酸化カリウム(75.4g、1340mmol)、エチレングリコール(175mL)を入れた。系内をアルゴン雰囲気下にし、化合物(A-3)(7.8g、37.8mmol)を入れ、系内の酸素を除去するために、アルゴンでバブリングを行った後、110℃で18時間反応させた。反応液を40℃以下に水冷し、予めアルゴンバブリングをした2mol/L塩酸を系内に滴下して、中和を行った(pH7付近)。析出した白色固体をろ別し、水洗後、減圧乾燥した。白色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、5-tert-ブチル-2-メルカプトアニリン(A-4)の白色固体を得た(収量:2.39g、収率:35%)。
【0105】
更に、100mL容三口フラスコに酢酸(872mg、14.5mmol)、アセトニトリル30mLを入れ、系内をアルゴン雰囲気下にした。アルゴン雰囲気下、マロノニトリル(2.4g、36.3mmol)、化合物(A-4)(2.39g、13.2mmol)を加え、2時間加熱還流した。アセトニトリルを減圧除去し、残渣を酢酸エチルに溶解し、有機層を水及び飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで処理した。硫酸マグネシウムをろ別し、溶媒を減圧除去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル)で精製し、2-(7-tert-ブチルベンゾチアゾール-2-イル)アセトニトリル(A-5)の単黄色固体を得た(収量:1.98g、収率:65%)。
【0106】
続いて、アルゴン気流下200mL容三口フラスコに化合物(A-2)(1.91g、3.5mmol)、化合物(A-5)(1.77g、7.68mmol)、トルエン68mLを加え、加熱還流した。加熱還流下、オキシ塩化リン(2.56mL、27.4mmol)をシリンジで滴下し、更に2時間加熱還流した。反応終了後、氷冷しながら、ジクロロメタン40mL及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液40mLを加え、ジクロロメタンで抽出した。有機層を無水硫酸マグネシウムで処理し、硫酸マグネシウムをろ別し、溶媒を減圧除去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/酢酸エチル)で不純物をおおまかに除去した。溶媒を留去して得られた残渣を再度シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液:ヘキサン/ジクロロメタン)で精製し、前駆体(A-6)の緑色固体を得た(収量:1.56g、収率:46%)。
【0107】
最後に、アルゴン気流下、200mL容三口フラスコに前駆体(A-6)(1.52g、1.57mmol)、トルエン45mL、トリエチルアミン(4.35mL、31.4mmol)、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(7.88mL、62.7mmol)を加え、1時間加熱還流した。反応液を氷冷し、析出した固体をろ別し、水、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液、50%メタノール水溶液及びメタノールで洗浄し、減圧乾燥させた。得られた残渣をトルエンに溶解し、メタノールを加えて、沈殿させることで化合物1の濃緑色固体を得た(収量:1.25g、収率:75%)。
【0108】
【化7】
【0109】
(比較例1~8)
化合物1の代わりに下記比較化合物2~8を用いたこと以外は、実施例1と同様にして試験片を作製した。
【0110】
【化8-1】
【0111】
【化8-2】
【0112】
(評価方法:引張疲労特性)
島津製作所製 油圧サーボ式疲労・耐久試験機 サーボパルサEHF-LVを用いて、周波数10Hz、波形正弦波、試験温度23℃の条件で試験片の長さ方向に圧縮-圧縮サイクルの繰り返し応力を付加した。最大負荷応力40(MPa)での破断するまでのサイクル数を測定した。化合物を添加しない成形体についても同様にしてサイクル数を測定した。化合物を添加しない成形体でのサイクル数に対する各実施例、比較例のサイクル数の相対値を計算し、以下評価基準に従って評価した。評価結果を下記表1に記載する。
【0113】
(評価基準:6段階)
5:1.4以上
4:1.36を超え1.4未満
3:1.32を超え1.36以下
2:1.28を超え1.32以下
1:1.25を超え1.28以下
0:1.25以下
【0114】
【表1】
【0115】
以上の結果より、本発明のポリカーボネート樹脂含有組成物は、引張疲労特性に顕著に優れていることがわかる。