(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】シリコン単結晶の抵抗率測定方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20221109BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20221109BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
H01L21/66 L
C30B29/06 Z
G01N27/04 Z
(21)【出願番号】P 2019040643
(22)【出願日】2019-03-06
【審査請求日】2021-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】久米 史高
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 由佳里
(72)【発明者】
【氏名】北村 浩一
(72)【発明者】
【氏名】吉田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】横田 修二
(72)【発明者】
【氏名】江原 幸治
【審査官】安田 雅彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-026755(JP,A)
【文献】特開2001-118902(JP,A)
【文献】特開2002-076080(JP,A)
【文献】特開2000-243731(JP,A)
【文献】特開2001-015459(JP,A)
【文献】特開2018-032771(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
C30B 29/06
G01N 27/00
G01N 27/04
G01N 27/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
四探針法でシリコン単結晶の抵抗率を測定するシリコン単結晶の抵抗率測定方法において、
前記シリコン単結晶の表面を研削する第1の研削工程と、
前記第1の研削工程を行ったシリコン単結晶を洗浄する洗浄工程と、
前記洗浄工程を行ったシリコン単結晶を熱処理するドナーキラー熱処理工程と、
前記ドナーキラー熱処理工程を行ったシリコン単結晶の表面を研削する第2の研削工程を有し、
前記第2の研削工程を行った後に四探針法で前記シリコン単結晶の抵抗率を測定
し、
前記第2の研削工程を行った前記シリコン単結晶を標準サンプルとし、前記四探針法で抵抗率を測定した測定値を標準値として、他のシリコン単結晶の抵抗率の値付けを行い、又は、抵抗率測定器の管理を行うことを特徴とするシリコン単結晶の抵抗率測定方法。
【請求項2】
前記ドナーキラー熱処理工程の後に、前記シリコン単結晶をフッ酸処理するフッ酸処理工程を行い、
その後に前記第2の研削工程を行うことを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の抵抗率測定方法。
【請求項3】
前記シリコン単結晶の抵抗率が5000Ω・cm以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン単結晶の抵抗率測定方法。
【請求項4】
前記標準サンプルの前記標準値を再測定する際に、前記標準サンプルの表面を研削した後に四探針法で抵抗率を再測定し、該再測定値を、前記標準サンプルの新たな標準値として用いることを特徴とする請求項
1~請求項3のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の抵抗率測定方法。
【請求項5】
前記第1の研削工程及び/又は前記第2の研削工程において、高輝度平面研削を行うことを特徴とする請求項1~請求項
4のいずれか1項に記載のシリコン単結晶の抵抗率測定方法。
【請求項6】
前記第1の研削工程及び前記第2の研削工程において前記高輝度平面研削を行い、
前記第1の研削工程で行う高輝度平面研削において前記シリコン単結晶の両方の面を研削し、
前記第2の研削工程で行う高輝度平面研削において前記シリコン単結晶の前記抵抗率の測定を行う面を研削することを特徴とする請求項
5に記載のシリコン単結晶の抵抗率測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン単結晶の抵抗率測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
四探針法を用いてシリコン単結晶の抵抗率を測定する方法は、非特許文献1(SEMI MF84-0312 “Test Method for Measuring Resistivity of Silicon Wafers with an In-line Four-point Probe”)および非特許文献2(JIS H 0602 「シリコン単結晶及びシリコンウェーハの4探針法による抵抗率測定方法」)に規定されている。
【0003】
また、四探針法の測定に用いられる装置は、非特許文献3(NIST Special Publication 260-131, 2006Ed. “The Certification of 100mm Diameter Silicon Resistivity SRMs 2541 Through 2547 Using Dual-Configuration Four-Point Probe Measurements, 2006 Edition”)に記載されるNISTサンプルを用いて定期的に校正される。
【0004】
また、四探針法によるシリコン単結晶抵抗率測定の前処理方法として、複数の方法が提案されている。
【0005】
特許文献1は、基板の被測定面の酸化膜を除去するか又は0.5nm以下の膜厚とする処理を行った後、4時間以内に抵抗率を測定することを提案している。
【0006】
また、特許文献2は、抵抗率が2000Ω・cm以上のシリコンウェーハの抵抗率の測定方法において、シリコンウェーハをドナーキラー処理した後、少なくとも2時間経過してから、非水処理により前記シリコンウェーハの被測定面の表層を厚さ10nm以上除去し、前記表層を除去した被測定面に電極針を接触させて抵抗率を測定することを提案している。
【0007】
特許文献2の非水処理は例えばバフ研磨であり、そのような処理を行う理由は、ドナーキラー処理によりウェーハ表面に形成される上限膜厚が10nmの酸化膜を除去するためである。ウェーハ表層を厚さ10nm以上除去すれば、酸化膜が完全に除去され、抵抗率測定時に、測定に用いる電極とウェーハの被測定面との良好な電気的接触が得られる。
【0008】
特許文献3は、接触式による物性評価および、又は非接触式による物性評価を行うための検査用ウェーハであって、前記ウェーハの検査表面が高輝度平面研削面であることを提案している。
【0009】
特許文献3に開示される接触式の物性評価が四探針法による抵抗率の測定である場合、高輝度平面研削の後にドナーキラー処理を行う。
【0010】
また、特許文献4は、サンプルウェーハ片に、HF:HNO3=1:5エッチング液によりエッチング処理を行い、650℃×45minまたは1100℃×60minの雰囲気でドナーキラー熱処理を行った後、表面研磨を行い、抵抗率の測定を行うことを開示している。
【0011】
ドナーキラー熱処理とは、抵抗率測定の前処理として行う周知技術である。例えば特許文献3では、次のように記載されている。「抵抗率測定ではドナーキラーと呼ばれる熱処理を行う。CZ法で製造されたシリコン単結晶を450℃付近の低温でアニールすると、数個の酸素原子が集まって1個の電子(サーマルドナー)を放出する。このサーマルドナーの生成量はアニール時間に比例し増加するが、アニール温度が600℃以上になると消滅することが知られている。シリコン中でこのようなサーマルドナーが存在すると、例えばn型のシリコンでは抵抗率が見かけ上減少する。他方、p型のシリコンでは抵抗率が見かけ上増大する。」
【0012】
従って、正確な抵抗率(ドーパントによる抵抗率)を評価するためには、このサーマルドナーを消滅させる必要があり、ドナーキラー熱処理を行う必要がある。熱処理では検査用ウェーハ表面に不純物が付着しているなど汚れていると熱処理炉の汚染問題が生じ、また検査用ウェーハを切り出した後に直接熱処理炉に入れると検査用ウェーハ割れの発生につながることから、熱処理の前処理としてエッチングを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2002-76080号公報
【文献】特開2015-26755号公報
【文献】特開2001-118902号公報
【文献】特開2018-93086号公報
【非特許文献】
【0014】
【文献】SEMI MF84-0312
【文献】JIS H 0602
【文献】NIST Special Publication 260-131, 2006Ed.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1は、上記のように、基板の被測定面の酸化膜を除去するか又は0.5nm以下の膜厚とする処理を行った後、4時間以内に抵抗率を測定することを提案している。特許文献1によると、放置時間が4時間程度までは抵抗率測定値が略安定するが、4時間を超えると測定値が高くなり、不安定化する。
【0016】
特許文献2は、酸素原子とドーパント原子との複合体がドナーキラー処理後乖離してドーパントが再活性化するので、ドナーキラー処理後少なくとも2時間経過してからウェーハ表面を10nm以上除去して酸化膜を除去することにより、ドナーキラー処理直後の抵抗率変動を抑制することを目的としている。そのため、その実施例において、ドナーキラー処理から70時間までの抵抗率しか開示されていない。
【0017】
一方、特許文献3に記載の高輝度平面研削はサンプルの表面状態を調整するためであり、ドナーキラー処理の前に行われる。
【0018】
特許文献4には、ウェーハ製造工程用のインゴットブロックの径寸法よりも大きな径寸法に研削したインゴットブロックから切り出したサンプルウェーハ片にエッチング処理を行い、ドナーキラー熱処理を行った後、表面研磨を行い、抵抗率の測定を行うことが記載されている。しかし、どんな目的で、どのような表面処理が施されたのか、何ら記載がない。上記従来技術によると、ドナーキラー処理時に形成される酸化膜除去が目的であると推測される。
【0019】
このように、シリコン単結晶、特に高抵抗率のシリコン単結晶で生じる、ドナーキラー熱処理直後から数日間の抵抗率変動については上記の提案があるが、ドナーキラー熱処理後一週間以上の期間に発生する抵抗率の変動に対しては何ら提案されていない。しかし、シリコン単結晶の抵抗率を保証するため、また、他のシリコン単結晶の値付けを行うため、さらにまた、シリコン単結晶の抵抗率の測定を行う測定器管理のため、抵抗率が長期間安定して測定可能な方法が必要である。
【0020】
本発明は上記課題を解決するために為されたものであり、ドナーキラー熱処理後、長期間安定して測定可能なシリコン単結晶の抵抗率測定方法を提案することを目的とする。なお、本発明のシリコン単結晶は、ウェーハ形状のみならず、1/4ウェーハ等の破片形状、短冊形状、チップ形状、ブロック形状などのシリコン単結晶を含む。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明は、四探針法でシリコン単結晶の抵抗率を測定するシリコン単結晶の抵抗率測定方法において、前記シリコン単結晶の表面を研削する第1の研削工程と、前記第1の研削工程を行ったシリコン単結晶を洗浄する洗浄工程と、前記洗浄工程を行ったシリコン単結晶を熱処理するドナーキラー熱処理工程と、前記ドナーキラー熱処理工程を行ったシリコン単結晶の表面を研削する第2の研削工程を有し、前記第2の研削工程を行った後に四探針法で前記シリコン単結晶の抵抗率を測定することを特徴とするシリコン単結晶の抵抗率測定方法を提供する。
【0022】
このようなシリコン単結晶の抵抗率測定方法は、ドナーキラー熱処理工程の前に第1の研削工程を有することにより、ドナーキラー熱処理工程での加熱と冷却をシリコン単結晶内で均一にすることができる。そのため、安定したドナーキラー熱処理を行うことができる。また、ドナーキラー熱処理の後に第2の研削工程を行うことにより、四探針法による抵抗率測定において探針端とシリコン単結晶の測定面における接触状態を良好にすることができる。そして、ドナーキラー熱処理後でも、シリコン単結晶の表面を研削面として保持できるので、長期間安定した測定が可能となる。このように、ドナーキラー熱処理工程の前後で第1及び第2の研削工程を有することにより、ドナーキラー熱処理後、長期間安定して測定可能なシリコン単結晶の抵抗率測定方法となる。
【0023】
本発明のシリコン単結晶の抵抗率測定方法では、前記ドナーキラー熱処理工程の後に、前記シリコン単結晶をフッ酸処理するフッ酸処理工程を行い、その後に前記第2の研削工程を行うことができる。
【0024】
このように、本発明では、シリコン単結晶の表面に形成された酸化膜を除去するためのフッ酸処理工程をドナーキラー熱処理工程の後、かつ第2の研削工程の前に行うことができる。
【0025】
本発明のシリコン単結晶の抵抗率測定方法は、特に、前記シリコン単結晶の抵抗率が5000Ω・cm以上であるときに好適に適用することができる。
【0026】
本発明のシリコン単結晶の抵抗率測定方法は、前記第2の研削工程を行った後の前記シリコン単結晶を標準サンプルとし、前記四探針法で抵抗率を測定した測定値を標準値として、他のシリコン単結晶の値付け、又は、抵抗率測定器の管理を行うことができる。
【0027】
前記標準サンプルの前記標準値を再測定する際に、前記標準サンプルの表面を研削した後に四探針法で抵抗率を再測定し、該再測定値を、前記標準サンプルの新たな標準値として用いることが好ましい。
【0028】
このようにすることで、より長期にわたって標準サンプルとして用いることができる。
【0029】
さらに、前記第1の研削工程及び/又は前記第2の研削工程において、高輝度平面研削を行うことが好ましい。
【0030】
前記第1の高輝度平面研削によりシリコン単結晶をいっそう均一な厚さに研削することができるので、ドナーキラー熱処理工程の加熱と冷却もいっそう均一になり、シリコン単結晶内のドナーキラー効果を均一にすることができる。また、前記第2の高輝度平面研削によりシリコン単結晶表面を均質に研削することができるので、抵抗率測定時に、シリコン単結晶表面状態の影響を低減することができる。
【0031】
そこで、前記第1の研削工程及び前記第2の研削工程において前記高輝度平面研削を行い、前記第1の研削工程で行う高輝度平面研削において前記シリコン単結晶の両方の面を研削し、前記第2の研削工程で行う高輝度平面研削において前記シリコン単結晶の前記抵抗率の測定を行う面を研削することが望ましい。
【0032】
このような方法であれば、ドナーキラー熱処理の前に第1の研削工程においてシリコン単結晶の厚さをより精度よく調整することができる。また、第2の研削工程においては、少なくとも、シリコン単結晶の抵抗率の測定を行う面を均質な高輝度研削面に調整することができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明のシリコン単結晶の抵抗測定方法によると、安定したドナーキラー熱処理を行うことができるとともに、ドナーキラー熱処理後でも、シリコン単結晶の表面を研削面として保持できるので、長期間安定した測定が可能となる。特に、高抵抗率のシリコン単結晶の抵抗率を長期間保証することができ、また、他のシリコン単結晶の値付けや、高抵抗率の測定を行う測定器管理のために使用されるサンプルの抵抗率が長期間安定して測定可能な方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の抵抗率測定方法の一例を示す概略工程図である。
【
図2】比較例1、2、3の抵抗率日間変動を示すグラフである。
【
図3】実施例1の抵抗率日間変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0036】
本発明は、四探針法でシリコン単結晶の抵抗率を測定するシリコン単結晶の抵抗率測定方法において、シリコン単結晶の表面を研削する第1の研削工程と、第1の研削工程を行ったシリコン単結晶を洗浄する洗浄工程と、洗浄工程を行ったシリコン単結晶を熱処理するドナーキラー熱処理工程と、ドナーキラー熱処理工程を行ったシリコン単結晶の表面を研削する第2の研削工程を有し、第2の研削工程を行った後に四探針法でシリコン単結晶の抵抗率を測定することを特徴とするシリコン単結晶の抵抗率測定方法である。
【0037】
図1は、本発明の抵抗率測定方法の一例を示す概略工程図である。まず、シリコン単結晶を準備する(
図1(a)シリコン単結晶の準備)。ここでは、CZ法(チョクラルスキー法)で引き上げられたインゴットの任意の位置より薄板状のウェーハをスライスし、抵抗率測定に用いるシリコン単結晶とすることができる。
【0038】
次に、
図1(a)で準備したシリコン単結晶の少なくとも抵抗率の測定を行う面を研削する(
図1(b)第1の研削工程)。例えば、スライスされたシリコン単結晶の表面を#240~#2000番手で研削し、研削面にすることができる。特に、第1の研削工程において、高輝度平面研削(第1の高輝度平面研削工程)を行う場合は、初めに#325程度の粗い砥石を用い、シリコン単結晶の両面(主表面および裏面)を粗研削して厚さを調整した後、#1500以上の砥石を用いてさらに研削し、最終的に両面で50μm程度の高輝度平面研削を施して所望の光沢度にする。鏡面研磨の場合、片面研磨代は約10μmである。
【0039】
なお、高輝度平面研削とは、当該シリコン単結晶を鏡面研磨ウェーハとした場合の光沢度を100%としたときに、70%以上の光沢度を有する高輝度面が得られるようにシリコン単結晶を研削することをいう。高輝度平面研削によって形成される研削面の光沢度は、鏡面研磨ウェーハの光沢度を100%としたときに、より好ましくは90%以上であり、98%以上とすることが特に好ましい。なお、光沢度については、試料面に対し入射角60度で評価する鏡面光沢度測定方法により測定することができる。
【0040】
ドナーキラー熱処理工程よりも前に第1の研削工程を行うことにより、ドナーキラー熱処理工程での加熱と冷却をシリコン単結晶内で均一にすることができる。特に、第1の研削工程で高輝度平面研削を行うと、エッチングやラッピングに比べてシリコン単結晶の厚さをより精度よく調整することができる。そのため、ドナーキラー熱処理工程での加熱と冷却がシリコン単結晶内でより均一になり、サーマルドナーの消滅レベルも均一になるため、シリコン単結晶の抵抗率をより正確に測定することができる。
【0041】
続いて、第1の研削工程を行ったシリコン単結晶を洗浄する(
図1(c)洗浄工程)。例えば、アンモニア(NH
3)水・過酸化水素(H
2O
2)水、フッ酸(HF)水・過酸化水素(H
2O
2)水などを用いてシリコン単結晶を洗浄することができる。この洗浄工程により、次工程のドナーキラー熱処理で用いられる熱処理炉が汚染されることを防止する。
【0042】
続いて、洗浄工程を行ったシリコン単結晶を熱処理するドナーキラー熱処理工程を行う(
図1(d))。このドナーキラー熱処理工程では、例えば、横型炉、縦型炉、あるいはRTP炉を用い、窒素ガス雰囲気中、650℃または1100℃でシリコン単結晶を熱処理し、酸素ドナーを消去する。
【0043】
前記ドナーキラー熱処理工程で、シリコン単結晶の表面に酸化膜が形成されるので、フッ酸(HF)水溶液を用いて酸化膜を除去することができる(
図1(e)フッ酸処理工程)。ただし、この酸化膜は次の第2の研削工程で除去することができるので、省略することもできる。フッ酸(HF)水溶液で処理することにより、確実に酸化膜を除去することができる。
【0044】
前記ドナーキラー熱処理工程、あるいは前記フッ酸処理工程で、シリコン単結晶の表面が変質する。ドナーキラー熱処理では絶縁膜(酸化膜あるいは窒化膜)が形成され、フッ酸処理では水素イオンによりドーパントが不活性化する。そこで、ドナーキラー熱処理工程を行ったシリコン単結晶の少なくとも抵抗率の測定を行う面を研削する(
図1(f)第2の研削工程)。この第2の研削工程(
図1(f))を施し、変質したシリコン単結晶の表面を数μm~数十μm削り取ると共に研削面に戻す。
【0045】
第2の研削工程において、高輝度平面研削(第2の高輝度平面研削工程)を行う場合は、抵抗率測定対象のシリコン単結晶の主表面(抵抗率の測定を行おうとする面)を#325程度の粗い砥石を用いた粗研削により前記シリコン単結晶の厚さを調整した後、さらに#1500以上の砥石を用いて研削し、最終的に片面20~30μmの高輝度平面研削を施して、シリコン単結晶の主表面を所望の光沢度にする。シリコン単結晶の裏面(主表面とは反対の表面)の研削は抵抗率測定に影響が無いので、不要であるが、行ってもよい。ここで、鏡面研磨面の表面粗さが約0.1nmに対し、高輝度平面研削面の表面粗さは約400nmであり、測定面に適度な凹凸があるので探針端と接触し易く、四探針法による抵抗率測定面として好適である。
【0046】
第2の研削工程を高輝度平面研削にすることにより、シリコン単結晶の厚さをより均一に調整できるので、四探針法で抵抗率測定をする際、正確に厚さ補正をすることができる。
【0047】
本発明では、上記のように、第1の研削工程及び第2の研削工程において高輝度平面研削を行うことが好ましい。その際、第1の研削工程で行う高輝度平面研削においてシリコン単結晶の両方の面を研削し、第2の研削工程で行う高輝度平面研削においてシリコン単結晶の抵抗率の測定を行う面を研削することが好ましい。
【0048】
また、主表面が研削面のシリコン単結晶を四探針法で測定すると(
図1(g)抵抗率測定工程)、探針端とシリコン単結晶の接触状態が良好なので、抵抗率の日間変動を殆ど無くすことができる。特に、シリコン単結晶の抵抗率が5000Ω・cm以上であっても抵抗率の日間変動が殆ど無く、シリコン単結晶の抵抗率保証や抵抗率測定器の管理に好適である。また、第2の研削工程まで行ったシリコン単結晶を標準サンプルとし、四探針法で抵抗率測定した測定値を標準値とすることにより、この標準サンプルの標準値を用いて、他のシリコン単結晶の抵抗率の値付けを行うことができる。
【0049】
抵抗率測定器の管理としては、毎日行う日常管理と、例えば半年毎あるいは毎年行う校正があるが、どちらの管理方法でも同一のシリコン単結晶が標準サンプルとして繰り返し測定される。日常管理または校正の際に、標準サンプルに与えられた管理幅からその測定値が外れた場合、当該抵抗率測定器が異常と判断されるので、抵抗率の日間変動が殆ど無い本発明のシリコン単結晶が好適に用いられる。
【0050】
ただし、標準サンプルとして同じシリコン単結晶の同じ箇所を繰り返し測定していくと、シリコン単結晶の表面への自然酸化膜形成あるいは、探針による測定箇所のダメージ等により、しだいに測定バラツキや日間変動が顕在化するようになる。そのような場合、シリコン単結晶の表面を研削し直すとよい。研削手段として、例えば高輝度平面研削を用いることができる。すなわち、標準サンプルの標準値を値付けし直しする際に、標準サンプルの表面を研削した後に四探針法で抵抗率を再測定し、該再測定値を、標準サンプルの新たな標準値として用いることができる。
【0051】
高輝度平面研削を行うとシリコン単結晶が薄くなるので、サンプル厚さと抵抗率を測定し直して、標準値をつけ直すことが必要である。このようにして新たに付け直した標準値は、測定バラツキや日間変動が顕在化する前の値付け近くに戻る。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0053】
[比較例1]
CZ法で引き上げられた直径200mm、結晶軸方位<100>のP型シリコン単結晶インゴットをスライスしたアズカットウェーハ(シリコン単結晶、以下「サンプル」)の両面を#325で粗研削した後、#1700で高輝度研削し、サンプル厚さを1200μmに調整した。
【0054】
上記のようにして準備したサンプルをエタノールで脱脂した後、さらにアンモニア(NH3)水・過酸化水素(H2O2)水、フッ酸(HF)水・過酸化水素(H2O2)水を用いてシリコン単結晶を洗浄し、サンプル表面を清浄化した。
【0055】
次に、サンプルを窒素雰囲気下、650℃、20分間加熱し、ドナーキラー熱処理を行った。さらに、5%フッ酸水に2分間浸漬して酸化膜を除去した直後に四探針法を用いて抵抗率を測定したところ、6,000Ω・cmであった。
【0056】
その後16日間の日間変動を測定した結果を
図2に示した。抵抗率は16日間で24倍に上昇し、146,702Ω・cmになった。
【0057】
[比較例2]
比較例1と同じ方法で準備したP型サンプルをドナーキラー熱処理し、5%フッ酸水溶液で処理した直後に四探針法を用いて抵抗率を測定したところ、5,000Ω・cmであった。
【0058】
その後16日間の日間変動を測定した結果を
図2に示した。抵抗率は16日間で13倍に上昇し、66,732Ω・cmになった。
【0059】
[比較例3]
比較例1、比較例2と同じ方法で準備したP型サンプルをドナーキラー熱処理し、5%フッ酸水溶液で処理した直後に四探針法を用いて抵抗率を測定したところ、10Ω・cmであった。
【0060】
その後16日間の日間変動を測定した結果を
図2に示した。16日後の抵抗率は8Ω・cmであり、16日間で0.8倍に低下した。
【0061】
[実施例1]
比較例1~3と同じ方法で準備したP型サンプルをドナーキラー熱処理し、5%フッ酸水溶液で処理した。続いて、シリコン単結晶の両面を#325で粗研削した後、#1700で高輝度平面研削した。高輝度平面研削した直後に四探針法を用いて抵抗率を測定したところ、6,889Ω・cmであった。高輝度平面研削した後16日間の日間変動を測定した結果を
図3に示した。16日後の抵抗率は6,876Ω・cmであり、16日間での変動は0.2%であった。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の抵抗率測定方法によると、ドナーキラー熱処理工程での加熱と冷却をシリコン単結晶内で均一にすることができると同時に、ドナーキラー熱処理後でも、フッ酸処理後でも、変質したシリコン単結晶の表面を研削除去するとともに、研削面として保持できるので、長期間安定した抵抗率測定が可能となる。
【0063】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。