(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】銅製錬転炉の炉口冷却装置
(51)【国際特許分類】
C22B 15/06 20060101AFI20221109BHJP
F27D 1/12 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C22B15/06
F27D1/12 F
(21)【出願番号】P 2019054169
(22)【出願日】2019-03-22
【審査請求日】2022-01-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】牧野 大河
(72)【発明者】
【氏名】森 勝弘
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第4230307(US,A)
【文献】実開昭59-99059(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 15/06
F27D 1/12
C21C 5/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
横型円筒形状の銅製錬転炉の炉口冷却装置であって、前記転炉の炉口のうち傾転時に下側となる炉口下部を構成する鉄板の先端屈曲部に当接する鉄製の略直方体形状のケーシングと、該ケーシングに冷媒としての空気を導入する導入パイプと、該空気を該ケーシングから排出する排出パイプと、該ケーシングの内側に設けられた複数のフィンとからなり、該複数のフィンは該ケーシングにおいて最も高温になる部分を含む壁面に設けられていることを特徴とする炉口冷却装置。
【請求項2】
前記最も高温になる部分を含む壁面が前記鉄板の先端屈曲部との当接面であることを特徴とする、請求項1に記載の炉口冷却装置。
【請求項3】
前記複数のフィンが前記ケーシングの長手方向に均等な間隔をあけて設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の炉口冷却装置。
【請求項4】
前記導入パイプ及び排出パイプは前記ケーシングの長手方向の一端部に接続しており、前記導入パイプはその先端開口部が前記一端部とは反対側の他端部の近傍に至るように前記ケーシング内においてその長手方向に延在していることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の炉口冷却装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅製錬転炉において熔体の排出口となる炉口に具備される炉口冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乾式の銅製錬プラントにおいては、銅品位30%程度の銅精鉱を自熔炉に装入して酸化処理により鉄分や硫黄分を除去し、得られた銅品位60%程度のカワ(マット)をレードルを介して転炉に装入し、鉄分や硫黄分を更に除去して銅品位98%程度の粗銅を生成することが行われている。この転炉では、鉄分を含んだ熔体からなるスラグが粗銅の上層側に形成されるため、転炉の傾転角度を調整することでこれらスラグ及び粗銅を別々に抜き出すことが行われている。
【0003】
上記の銅製錬用の転炉には様々な形式のものが提案されているが、特許文献1に示すようなPS(Pierce-Smith)型の転炉が主に使用されている。PS型の転炉は茶筒を横向きにしたような横型円筒形の炉体からなり、その中心軸方向の略中央部に上記のスラグや粗銅の熔体を炉外に排出するための炉口が設けられている。この転炉は、上記したように傾転角度を変えることができるように、該中心軸を中心として回動可能に据え付けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
炉体からの熔体の抜き出しが行われる上記の炉口は、耐火煉瓦等の耐火物で内張りされた外壁鉄板(鉄皮)が炉体から突出した形状を有している。そのため、転炉の傾転による熔体の抜出時は、上記炉口のうち該傾転時に下側に位置する炉口下部の耐火物の表面に沿って熔体が流れ出ることになる。その際、熔体の温度は通常は1100~1400℃程度の高温になるため、かかる熔体抜出作業を数千回行っているうちに炉口下部の耐火物が徐々に損耗していく。
【0006】
また、上記の炉口から流れ出た熔体は、ほとんどが慣性と重力に従って炉口下部の先端部から飛び出してその斜め下方へ流れ落ちるものの、一部は炉口下部の先端部の端面を伝って流れ落ちることになる。この炉口下部の先端部の端面は、外壁鉄板の先端部を内側に屈曲させたもので構成され、該屈曲部で炉口下部の耐火物を支持するようになっているため、該端面に位置する外壁鉄板の屈曲部は高温の熔体が直に接することで軟化し、炉口下部の耐火物を支えきれず炉口下部の耐火物が部分的に脱落するおそれがある。
【0007】
上記のような炉口下部における耐火物の脱落が生じると熔体を所定の位置に向けて排出できなくなり、転炉の使用は実質的に不可能になる。そこで、耐火物は炉口下部以外の部位では300バッチ程度は使用に耐えるところ、炉口下部の耐火物及びその外側の外壁鉄板に欠損の兆候が生じる250バッチ程度使用後に炉体の操業を休止して全体的に冷却し、炉口下部の耐火物及びその外側の外壁鉄板を点検して必要に応じて修復することが行われている。しかし、この保全作業は手間がかかるうえ、その間は銅製錬の生産量が低下するので炉口下部の寿命を延ばして保全作業の頻度を減らすことが望まれていた。
【0008】
本発明は上記した従来の銅製錬用の転炉が抱える問題点に鑑みてなされたものであり、炉口下部の先端部の寿命を延長することが可能な銅製錬転炉用の炉口冷却装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、本発明に係る銅製錬転炉用の炉口冷却装置は、横型円筒形状の銅製錬転炉の炉口冷却装置であって、前記転炉の炉口のうち傾転時に下側となる炉口下部を構成する鉄板の先端屈曲部に当接する鉄製の略直方体形状のケーシングと、該ケーシングに冷媒としての空気を導入する導入パイプと、該空気を該ケーシングから排出する排出パイプと、該ケーシングの内側に設けられた複数のフィンとからなり、該複数のフィンは該ケーシングにおいて最も高温になる部分を含む壁面に設けられていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、銅製錬転炉の炉口下部の先端部の寿命を延長することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の炉口冷却装置が好適に適用される転炉をその中心軸に垂直な面で切断した概略断面図であり、炉口を介してレードルに熔体を排出している様子が示されている。
【
図2】
図1の転炉を傾転させた時の炉口下部の先端部を熔体の流れ方向に平行な面で切断した断面図である。
【
図3】本発明の炉口冷却装置の一具体例の斜視図である。
【
図4】
図3の炉口冷却装置をその長手方向に垂直な面で切断した概略断面図である。
【
図5】
図3の炉口冷却装置を
図4のA-A’線で切断した概略断面図(a)、及びB-B’線で切断した概略断面図(b)である。
【
図6】本発明の炉口冷却装置の他の具体例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態の銅製錬転炉用の炉口冷却装置の一具体例について説明する。この本発明の一具体例の炉口冷却装置は、例えば
図1に示すような中心軸を水平方向に向けた円筒形状の銅製錬炉体1に好適に適用される。該炉体1は炉体鉄皮(炉体シェル)11とその内張りの耐火煉瓦12とから主に構成されており、該中心軸を中心にして回動自在に据え付けられている。該炉体1の中心軸方向の略中央部に、
図1に示すように傾転することで排出される熔体Mの通路Pとなる炉口2が該炉体鉄皮11の外周面からラジアル方向に突出するようにして設けられている。
【0013】
具体的には、上記の炉口2は、その開口部を真正面から見たとき、炉体1の中心軸方向に長軸が延在する楕円形の当該長軸方向の両端を切り落としたような形状を有しており、この開口部の周縁部を囲むように、炉体1の周方向に対向する1対の曲面部と炉体1の中心軸方向に対向する1対の平面部とで構成される4面の外壁鉄板が炉体1の外周面の炉体鉄皮11から突出しており、これら4面の外壁鉄板には耐火物として一般的に耐火煉瓦が内張りされている。
【0014】
上記の炉口2の4面の外壁鉄板は先端部において内側(すなわち熔体Mの通路P側)に屈曲しており、この屈曲部分の先端は炉口2の耐火煉瓦の表面にまで至って該耐火煉瓦を支持している。かかる構造を有する4面の外壁鉄板及びそれらの内張りの耐火煉瓦のうち、
図2に示すように転炉の傾転時に炉口2において下側となって熔体Mの流路の役割を担う耐火煉瓦22及びこれを支える外壁鉄板21からなる炉口下部20は、上記のように傾転時に熔体Mが直に接するので最も苛酷な損耗条件にさらされる。なお、
図2には炉口2の内張り用の耐火物として耐火煉瓦22が示されているが、該耐火煉瓦22の少なくとも一部を不定形耐火物に代替しても構わない。
【0015】
上記の損耗が進行すると、熔体Mの通り道となる炉口下部20の耐火煉瓦22の幅方向の略中央部においてより深い浸食が生じ、この浸食がより一層進行すると炉口下部20の外壁鉄板21の屈曲部21aの上端部の略中央部で溶損が進行して亀裂や外側へのめくれ等の破損が生じる。その結果、
図1に示すように転炉の炉口2の斜め下方にレードルLを設置して炉口2から熔体Mを該レードルLに注ぎ込む際、一部の熔体がレードルLよりも手前側の転炉とレードルLとの間に流れ落ちる問題が生じうる。
【0016】
上記の炉口下部20の損耗による問題が発生するのを早い段階で抑えるため、冷媒としての空気が流通する炉口冷却装置30が炉口下部20の外壁鉄板21の屈曲部21aに当接するようにして設けられており、その当接面側を除く周囲は上記炉口下部20の耐火煉瓦22によって覆われている。これにより、該炉口冷却装置30の近傍の耐火煉瓦22及び炉口下部20の外壁鉄板21の屈曲部21aが冷却されるので、当該屈曲部21aの破損や耐火煉瓦22の損耗の進行を遅らせることができ、炉口2の寿命を延ばすことができる。
【0017】
より具体的に説明すると、本発明の一具体例の炉口冷却装置30は、
図3に示すように、内部に冷媒としての好適には常温の空気が流通する中空の略直方体形状の鉄製のケーシング31と、該ケーシング31に上記冷媒を導入する好適には呼び径25~65A程度の鋼管からなる導入パイプ32と、該ケーシング31内での熱交換により加熱された高温の空気を排出する好適には呼び径25~65A程度の鋼管からなる排出パイプ33と、伝熱面積を広くすると共に該冷媒の流れを阻害して伝熱効率を高める邪魔板の役割を担う複数板のフィン34とから主に構成されている。上記のケーシング31は、炉口2をその開口部の正面から見たとき、炉口下部20の一端部から他端部にまで至るように設けてもよく、あるいは炉口下部20において最も損耗が早く進行する部位である、転炉の傾転時に熔体Mが最も速く且つ多く流れる中央部にのみ設けてもよい。
【0018】
上記のケーシング31は、炉口下部20において固定されているのが好ましく、例えば、ケーシング31と外壁鉄板21の屈曲部21aとを互いに当接させた状態でボルトナット等の接合部材や溶接により固定するのが好ましい。なお、傾転時にケーシング31のほぼ真下に位置する外壁鉄板21の先端部とケーシング31との間などに不定形耐火物23を充填するのが好ましい。また、
図2に示すように、傾転時に下側となる外壁鉄板21からケーシング31までの下部深さD1や、耐火煉瓦22の上側表面からケーシング31までの上部深さD2は、耐火煉瓦22の断熱性能や炉口冷却装置を構成する材質の耐熱温度等を考慮して適宜調整され、一般的には下部深さD1を0~150mm、上部深さD2を150~250mmにするのが好ましい。
【0019】
なお、転炉の炉口下部20の先端部は、熔体の排出時に熔体が外壁鉄板21の屈曲部21aを伝わりにくくするため、
図2に示すように、炉体からラジアル方向に突出する鉄板部分に対して屈曲部21aを90°未満の角度で傾斜するように屈曲させている。そのため、該ケーシング31はその長手方向に垂直な面での断面形状が
図4に示すように略台形になっている。この断面略台形のケーシング31は、
図2に示すように、その高さHが100~250mmであるのが好ましく、上底W
1及びこれより大きな下底W
2がいずれも50~150mm程度の範囲内に収まるのが好ましい。
【0020】
上記の導入パイプ32及び排出パイプ33は炉口2の外壁鉄板を貫通してケーシング31の長手方向の一端部に接続している。これら両パイプのうち、導入パイプ32は、その先端開口部32aがケーシング31の上記一端部とは反対側の他端部の近傍にまで至るようにケーシング31内をその長手方向に延在している。なお、ここでいうケーシング31の他端部の近傍とは、導入パイプ32から吹き出した空気が該他端部に直接あたる程度の範囲をいい、最も他端部に近いフィンよりも他端部側の範囲である。これにより、該他端部側に位置する炉口2の外壁鉄板に導入パイプ32を貫通させることなく該他端部側を良好に冷却することができる。また、該導入パイプ32の該先端開口部32aからケーシング31内に放出された空気が十分に熱交換されずにショートパスして排出パイプ33から排出されるのを防ぐことができる。ケーシング31の上記他端部と導入パイプ32の先端開口部23aとは、例えば50~150mm程度離間するのが好ましい。
【0021】
上記の導入パイプ32における上記先端開口部32aとは反対側の根元部(上流側端部)には、図示しないフレキシブルホース等の空気供給配管の吐出部が接続しており、この空気供給配管にはブロワなどの空気供給装置が接続している。かかる構成により、これら空気供給配管及び導入パイプ32を介して所定量の空気を冷媒としてケーシング31内に導入することができる。なお、転炉内で熔体の処理を行わない時や転炉が空の時は、上記の冷媒としての空気の導入を停止するのが好ましく、これにより上記の炉口冷却装置30によって転炉が急激に冷えるのを防止することができる。また、排出パイプ33からは高温の空気が排出されるので、該排出パイプ33にも上記の導入パイプ32と同様にフレキシブルホースを設けて安全な場所で放出するのが好ましい。
【0022】
上記のケーシング31の内側には、該ケーシング31において最も高熱になる部分を含む壁面31a、すなわち上記外壁鉄板21の屈曲部21aとの当接面に複数のフィン34が設けられている。これにより、ケーシング31のうち冷媒としての空気との温度差がより大きい部分の伝熱面積を広げることができるので、より一層冷却能力を高めることができる。このフィン34の枚数には特に限定はないが、複数のフィン34をケーシング31の長手方向に200~750mm程度の間隔をあけて設けるのが好ましい。その際、該ケーシング31の長手方向に均等な間隔をあけて設けてもよいし、該長手方向の中央部の間隔が両端部の間隔より狭くなるように設けてもよい。なお、
図5には長さ2000mmのケーシング31に、その長手方向の一端部から400mmごとに4枚のフィン34を設けた例が示されている。
【0023】
各フィン34の大きさ及び形状は、熱交換により加熱された空気が排出パイプ33に向って流れることが可能なスペースが確保されているのであれば特に限定はないが、面積が広い方が冷却性能を高めることができるので、
図4に示すように、導入パイプ32に端辺が当接する程度の大きさを有する台形形状にしてもよいし、
図6(a)に示す他の具体例のフィン134のように、延在方向に垂直な方向から見て導入パイプ32を部分的又は全体的に囲む大きさにしてもよい。なお、熱交換時はケーシング31の方が導入パイプ32よりも高温になるので、その際に生じる熱膨張差によってケーシング31や導入パイプ32に応力がかからないようにするため、導入パイプ32の外周面からはフィン34、134を数mm程度離間させるのが好ましい。
【0024】
また、上記したように導入パイプ32に先端開口部32aを設けることに代えて若しくは加えて、
図6(b)に示すように、上記フィン34、134で区画される領域ごとに空気を吹き出すことができるような側面開口部32bを導入パイプ32に設けてもよい。これにより、該ケーシング31における最も高熱になる部分を含む壁面31aに対して、熱交換される前の低温の空気を均等に吹き付けることができるので、炉口下部20をその幅方向に均等に冷却することができる。なお、上記の側面開口部32bは、上記フィン34、134によって区画される各領域ごとに設けてもよいし、該領域を2つ以上またいで設けてもよい。後者の場合は、側面開口部32bから放出される空気がフィン34、134によって分けられることになる。
【符号の説明】
【0025】
L レードル
M 熔体
P 通路
1 炉体
2 炉口
11 炉体鉄皮
21a 屈曲部
12 耐火煉瓦
20 炉口下部
21 炉口下部外壁鉄板
22 炉口下部耐火煉瓦
23 不定形耐火物
30 炉口冷却装置
31 鉄製ケーシング
31a 高熱側壁面
32 導入パイプ
32a 先端開口部
32b 側面開口部
33 排出パイプ
34 フィン