(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】付加硬化型シリコーン接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
C09J 183/07 20060101AFI20221109BHJP
C09J 183/05 20060101ALI20221109BHJP
C09J 183/06 20060101ALI20221109BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20221109BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C09J183/07
C09J183/05
C09J183/06
C09J11/04
C09J11/06
(21)【出願番号】P 2019070646
(22)【出願日】2019-04-02
【審査請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】豊島 武春
(72)【発明者】
【氏名】小材 利之
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-311340(JP,A)
【文献】特開2016-108456(JP,A)
【文献】特開2010-95699(JP,A)
【文献】特開2015-74741(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043270(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/159725(WO,A1)
【文献】特表2011-517327(JP,A)
【文献】特開2018-76415(JP,A)
【文献】特開2003-41231(JP,A)
【文献】特開2013-144763(JP,A)
【文献】特表2016-505647(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00- 5/10
C09J 7/00- 7/50
C09J 9/00-201/10
C08G 77/00- 77/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記(i)および(ii)の少なくとも一方、
(i)下記式(1)で表される、23℃における粘度50~10,000,000mPa・sの直鎖状オルガノポリシロキサン
R
2R
1
2SiO(R
1
2SiO)
mSiR
1
2R
2 (1)
(式中、R
1は、それぞれ独立して、付加反応性炭素-炭素不飽和結合を有しない非置換または置換の1価炭化水素基を表し、R
2は、アルケニル基を表し、mは、
100~
1,000の整数を表す。)
(ii)下記平均式(2)で示され
、重量平均分子量1,000~50,000のオルガノポリシロキサン
(R
1
3SiO
1/2)
p(R
2
aR
1
3-aSiO
1/2)
q(SiO
4/2)
r (2)
(式中、R
1は、それぞれ独立して、付加反応性炭素-炭素不飽和結合を有しない非置換または置換の1価炭化水素基を表し、R
2は、アルケニル基を表し、p、qおよびrは、p>0、q>0、r>0、かつ、(p+q+r)=1を満たす数を表し、aは、1または2を表す。)
(B)下記平均式(3)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(H
bR
1
3-bSiO
1/2)
s(R
1
3SiO
1/2)
2-s(HR
1
1SiO
2/2)
t(R
1
2SiO
2/2)
u (3)
(式中、R
1は、
メチル基を表し
、sは0であり、tおよびuは
、3≦s+t、2≦t+u≦
300、かつ、0.05≦t/(t+u)≦
0.3を満たす数を表す。)
(C)ヒドロシリル化反応触媒、および
(D)下記平均式(4)で表される直鎖状オルガノシロキサン化合物および下記平均式(5)で表される環状オルガノポリシロキサンの少なくとも一方:(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して0.05~5質量部
(A
cR
3
3-cSiO
1/2)
v(R
3
3SiO
1/2)
2-v(AR
3
1SiO
2/2)
w(R
3
2SiO
2/2)
x (4)
(AR
3
1SiO
2/2)
y(R
3
2SiO
2/2)
z (5)
〔式中、Aは、それぞれ独立して、下記構造式(6)で表される脂環式エポキシ基を表し、R
3は、それぞれ独立して、非置換または置換の1価炭化水素基を表し、cは、1または2を表し、vは、0、1または2を表し、wおよびxは、0≦w+x≦100を満たす数(ただし、vおよびwが同時に0となることはない)を表し、yおよびzは、それぞれy≧1、z≧0、かつ、3≦y+z≦5を満たす数を表す。)〕
【化1】
(式中、アスタリスク(*)はケイ素原子との結合部位を表す。)
を含有し、(A)成分中のアルケニル基および(D)成分中の付加反応性炭素-炭素不飽和結合の合計数に対する、(B)成分のSi-H基を含む全Si-H基数の比が0.8~1.5である付加硬化型シリコーン接着剤組成物。
【請求項2】
(E)接着助剤(ただし、前記(D)成分は除く。)を前記(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して0.05~10質量部含み、前記(A)成分中のアルケニル基ならびに(D)成分および(E)成分中の付加反応性炭素-炭素不飽和結合の合計数に対する、前記(B)成分および(E)成分中のSi-H基の合成数の比が0.8~1.5である請求項1記載の付加硬化型シリコーン接着剤組成物。
【請求項3】
二剤型の付加硬化型シリコーン接着剤組成物であって、前記(A)成分および(C)成分を含有し、かつ(B)成分を含有しない第一剤と、前記(A)成分および(B)成分を含有し、かつ(C)成分を含有しない第二剤とからなる請求項1または2記載の付加硬化型シリコーン接着剤組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項記載の付加硬化型シリコーン接着剤組成物が硬化してなる接着層を有する物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、付加硬化型シリコーン接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
付加硬化型のシリコーン接着剤は、白金触媒によるヒドロシリル化反応を硬化のメカニズムとしており、100~150℃の環境下で液状材料を硬化させ、基材への接着が行われることが一般的である。しかし、加熱装置の導入および運用によるコストアップや、加熱・冷却時間を設けることによる生産性の悪化、さらには環境への配慮といった観点から、2液形態による常温硬化型シリコーン接着剤が提案されている(特許文献1~7参照)。
【0003】
この2液型の材料では、主剤、白金触媒および架橋剤等の成分が、第一剤、第二剤という形で個別にパッケージ化されており、第一剤および第二剤を混合することで常温でも速やかに硬化および基材への接着を行うことができるという利点を有する。
しかし、常温で作製した接着物では、耐久環境下、とりわけ高温/高湿環境下において接着性の低下が起こり、接着剤が基材から剥離してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-169386号公報
【文献】特開2009-221312号公報
【文献】特開2009-292901号公報
【文献】特表2010-539308号公報
【文献】特開2012-117059号公報
【文献】特開2013-018850号公報
【文献】特開2013-060493号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、混合後に常温において速やかに硬化して金属や樹脂などの基材への接着性を示し、また、接着後の硬化物を高温高湿環境に曝した後も基材への接着性が低下しない付加硬化型シリコーン接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、付加硬化型シリコーン接着剤組成物に、接着性付与剤として脂環式エポキシ基を有するシロキサン化合物を添加することで、高温高湿環境にて引き起こされる接着性の低下を抑制できることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、
1. (A)下記(i)および(ii)の少なくとも一方、
(i)下記式(1)で表される、23℃における粘度50~10,000,000mPa・sの直鎖状オルガノポリシロキサン
R
2R
1
2SiO(R
1
2SiO)
mSiR
1
2R
2 (1)
(式中、R
1は、それぞれ独立して、付加反応性炭素-炭素不飽和結合を有しない非置換または置換の1価炭化水素基を表し、R
2は、アルケニル基を表し、mは、1~10,000の整数を表す。)
(ii)下記平均式(2)で示されるオルガノポリシロキサン
(R
1
3SiO
1/2)
p(R
2
aR
1
3-aSiO
1/2)
q(SiO
4/2)
r (2)
(式中、R
1は、それぞれ独立して、付加反応性炭素-炭素不飽和結合を有しない非置換または置換の1価炭化水素基を表し、R
2は、アルケニル基を表し、p、qおよびrは、p>0、q>0、r>0、かつ、(p+q+r)=1を満たす数を表し、aは、1または2を表す。)
(B)下記平均式(3)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(H
bR
1
3-bSiO
1/2)
s(R
1
3SiO
1/2)
2-s(HR
1
1SiO
2/2)
t(R
1
2SiO
2/2)
u (3)
(式中、R
1は、それぞれ独立して、付加反応性炭素-炭素不飽和結合を有しない非置換または置換の1価炭化水素基を表し、bは、1または2を表し、s、tおよびuは、0≦s≦2、2≦s+t、2≦t+u≦800、かつ、0.05≦t/(t+u)≦0.5を満たす数を表す。)
(C)ヒドロシリル化反応触媒、および
(D)下記平均式(4)で表される直鎖状オルガノシロキサン化合物および下記平均式(5)で表される環状オルガノポリシロキサンの少なくとも一方:(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して0.05~5質量部
(A
cR
3
3-cSiO
1/2)
v(R
3
3SiO
1/2)
2-v(AR
3
1SiO
2/2)
w(R
3
2SiO
2/2)
x (4)
(AR
3
1SiO
2/2)
y(R
3
2SiO
2/2)
z (5)
〔式中、Aは、それぞれ独立して、下記構造式(6)で表される脂環式エポキシ基を表し、R
3は、それぞれ独立して、非置換または置換の1価炭化水素基を表し、cは、1または2を表し、vは、0、1または2を表し、wおよびxは、0≦w+x≦100を満たす数(ただし、vおよびwが同時に0となることはない)を表し、yおよびzは、それぞれy≧1、z≧0、かつ、3≦y+z≦5を満たす数を表す。)〕
【化1】
(式中、アスタリスク(*)はケイ素原子との結合部位を表す。)
を含有し、(A)成分中のアルケニル基および(D)成分中の付加反応性炭素-炭素不飽和結合の合計数に対する、(B)成分のSi-H基を含む全Si-H基数の比が0.8~1.5である付加硬化型シリコーン接着剤組成物、
2. (E)接着助剤(ただし、前記(D)成分は除く。)を前記(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して0.05~10質量部含み、前記(A)成分中のアルケニル基ならびに(D)成分および(E)成分中の付加反応性炭素-炭素不飽和結合の合計数に対する、前記(B)成分および(E)成分中のSi-H基の合成数の比が0.8~1.5である1の付加硬化型シリコーン接着剤組成物、
3. 二剤型の付加硬化型シリコーン接着剤組成物であって、前記(A)成分および(C)成分を含有し、かつ(B)成分を含有しない第一剤と、前記(A)成分および(B)成分を含有し、かつ(C)成分を含有しない第二剤とからなる1または2の付加硬化型シリコーン接着剤組成物、
4. 1~3のいずれかの付加硬化型シリコーン接着剤組成物が硬化してなる接着層を有する物品
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の付加硬化型シリコーン接着剤組成物は、常温でも硬化および基材への接着が進行するため、加熱炉やそれに付随する排気設備等を必要としない。また、高温/高湿環境における経時での硬化物の接着性低下耐性に優れる。
このような特性を有する本発明の付加硬化型シリコーン接着剤組成物は、車載用途、電気電子用途等の幅広い分野で一般用接着剤として使用できるほか、シール材、ガスケット材、コーティング材、ポッティング材としても使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について具体的に説明する。
[1](A)成分
本発明の付加硬化型シリコーン接着剤組成物における(A)成分のオルガノポリシロキサンは、(i)下記式(1)で表される、23℃における粘度50~10,000,000mPa・sの直鎖状オルガノポリシロキサンおよび(ii)下記平均式(2)で示されるオルガノポリシロキサンの少なくとも一方を含む。
【0010】
R2R1
2SiO(R1
2SiO)mSiR1
2R2 (1)
(R1
3SiO1/2)p(R2
aR1
3-aSiO1/2)q(SiO4/2)r (2)
【0011】
上記各式において、R1は、それぞれ独立して、付加反応性炭素-炭素不飽和結合を有しない非置換または置換の1価炭化水素基を表し、R2は、アルケニル基を表す。
R1の1価炭化水素基は、付加反応性炭素-炭素不飽和結合を有しないものであれば特に限定はなく、直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、炭素原子数1~20のものが好ましく、炭素原子数1~10のものがより好ましく、炭素原子数1~5のものがより一層好ましい。
その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル基等の直鎖または分岐のアルキル基;シクロヘキシル基等の環状アルキル基;フェニル、トリル基等のアリール基;ベンジル、フェニルエチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
また、これらの1価炭化水素基の水素原子の一部または全部は、F、Cl、Br等のハロゲン原子、シアノ基等で置換されていてもよく、そのような基の具体例としては、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基;2-シアノエチル基等のシアノ置換炭化水素基等が挙げられる。
これらの中でも、式(1)および式(2)のいずれにおいても、R1としては、耐熱性の点からメチル基が好ましい。
【0012】
R2で表されるアルケニル基としては、特に限定されるものではなく、直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、炭素原子数2~20のものが好ましく、炭素原子数2~10のものがより好ましく、炭素原子数2~6のものがより一層好ましい。
その具体例としては、ビニル、アリル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル基等が挙げられるが、ビニル基が好ましい。
【0013】
上記式(1)において、mは、1~10,000の整数を表すが、100~1,000の整数が好ましい。mが0であると、大気圧環境または脱泡時の減圧環境において揮発しやすく、10,000を超えると、(i)成分が高粘度となるため作業性が悪化し、また、他の成分と均一に混ざりづらくなる。
上記式(2)において、p、qおよびrは、p>0、q>0、r>0、かつ、(p+q+r)=1を満たす数を表し、aは、1または2を表す。
【0014】
(i)成分の23℃における粘度は、50~10,000,000mPa・sであるが、1,000~100,000mPa・sが好ましい。粘度が50mPa・s未満であると、大気圧環境または脱泡時の減圧環境において揮発しやすく、10,000,000mPa・sを超えると、粘度が高すぎて作業性が悪化し、また、他の成分と均一に混ざりづらくなる。なお、粘度は回転粘度計を用いた測定値である。
また、(i)成分は、THF溶媒を用いたGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)測定による標準ポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)が500~500,000であることが好ましく、1,000~100,000がより好ましい。
【0015】
(i)成分としては、下記式(1-1)で表されるオルガノポリシロキサンが好ましい。
ViMe2SiO(SiMe2O)mSiMe2Vi (1-1)
(式中、Meは、メチル基を、Viは、ビニル基を意味する(以下同様)。mは、上記と同じ意味を表す。)
(i)成分の具体例としては、下記式で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
ViMe2SiO(Me2SiO)530SiMe2Vi
ViMe2SiO(Me2SiO)430SiMe2Vi
なお、(i)成分は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
また、(ii)成分におけるQ単位に対するM単位の比率(p+q)/rは、0.3~2.0が好ましく、0.5~1.0がより好ましい。
(ii)成分の重量平均分子量は1,000~50,000が好ましく、2,000~10,000がより好ましい。
【0017】
(ii)成分としては、下記平均式で表されるものが好ましい。
(Me3SiO1/2)p(ViMe2SiO1/2)q(SiO4/2)r
(式中、p、qおよびrは、上記と同じ意味を表す。)
(ii)成分の具体例としては、下記平均式で表されるオルガノポリシロキサンが挙げられるが、これに限定されるものではない。
(Me3SiO1/2)0.39(ViMe2SiO1/2)0.07(SiO4/2)0.54
(式中、MeおよびViは、上記と同じ意味を表す。)
なお、(ii)成分は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
(A)成分として、(i)成分と(ii)成分とを併用する場合の配合比は、特に限定されるものではないが、[(i)成分]/[(ii)成分](質量比)で0.3~10が好ましく、0.5~3がより好ましい。
また、(i)成分と(ii)成分との混合物の23℃における粘度は、1~100,000mPa・sが好ましく、5~10,000mPa・sがより好ましい。粘度がこの範囲であれば、流動性が高く、取り扱いが容易である。
なお、(ii)成分は、23℃で固体状となる場合があるため、上記(i)成分に溶解させて用いてもよい。
【0019】
[2](B)成分
本発明の付加硬化型シリコーン接着剤組成物における(B)成分は、下記平均式(3)で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンである。
(HbR1
3-bSiO1/2)s(R1
3SiO1/2)2-s(HR1
1SiO2/2)t(R1
2SiO2/2)u (3)
【0020】
式(3)におけるR1の1価炭化水素基は、上記(A)成分で例示した基と同様のものが挙げられるが、メチル基が好ましい。
bは、1または2を表すが、1が好ましい。
sは0≦s≦2を満たす数であるが、2が好ましい。
s+tは2以上であるが、3以上が好ましい。
tおよびuは、2≦t+u≦800を満たす数であるが、2≦t+u≦300を満たす数が好ましい。また、t/(t+u)は、0.05≦t/(t+u)≦0.5を満たす数であるが、0.15≦t/(t+u)≦0.3を満たす数が好ましい。
【0021】
上記式(3)において、t+uが2未満では、三次元架橋を形成することができないか、非常に柔らかく低強度のシリコーン硬化物となるため満足するゴム物性が得られず、t+uが800を超えると、(B)成分が高粘度となり、他の成分と均一に混ざりづらくなる。また、t/(t+u)が0.05未満では、非常に柔らかく低強度のシリコーン硬化物となるため満足するゴム物性が得られず、0.5を超えると、硬化時に発泡が起こりやすくなる。
【0022】
(B)成分の25℃での動粘度は、特に限定されるものではないが、0.5~20,000mm2/sが好ましく、1~500mm2/sがより好ましい。ここで、動粘度はキャノン・フェンスケ型粘度計を用いた測定値である。
(B)成分の重量平均分子量は、600~60,000が好ましく、1,000~10,000がより好ましい。
(B)成分の具体例としては、下記平均式で表されるオルガノハイドロジェンポリシロキサンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
なお、(B)成分は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
【化2】
(左式において、シロキサン単位の配列順は任意である。)
【0024】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して1~200質量部が好ましく、2~50質量部がより好ましい。このような配合量であれば、シリコーン接着剤組成物を硬化した際に十分な硬度・強度を得ることができる。
また、(A)成分および後述する(D)成分中のアルケニル基の数に対する(B)成分のSi-H基を含む全Si-H基の数((B)成分中のSi-H基の数、または後述する(E)成分を含む場合は、(B)成分中のSi-H基と(E)成分中のSi-H基の合計数)の比は、[Si-H基]/[アルケニル基および付加反応性炭素-炭素不飽和結合]=0.8~1.5であり、1~1.3が好ましい。このような範囲であれば、硬化性が良好なものとなり、また、硬化時の発泡を抑制することができる。
【0025】
[3](C)成分
本発明の付加硬化型シリコーン接着剤組成物における(C)成分は、上記(A)成分中のアルケニル基、および後述する(D)成分中の付加反応性炭素-炭素不飽和結合と、(B)成分および後述する(E)成分中のSi-H基との付加反応を促進するためのヒドロシリル化反応触媒である。
その具体例としては、白金(白金黒を含む)、ロジウム、パラジウム等の白金族金属単体;H2PtCl4・nH2O、H2PtCl6・nH2O、NaHPtCl6・nH2O、KHPtCl6・nH2O、Na2PtCl6・nH2O、K2PtCl4・nH2O、PtCl4・nH2O、PtCl2、Na2HPtCl4・nH2O(但し、式中、nは0~6の整数であり、好ましくは0または6である。)等の塩化白金、塩化白金酸および塩化白金酸塩;アルコール変性塩化白金酸(米国特許第3,220,972号明細書参照);塩化白金酸とオレフィンとの錯体(米国特許第3,159,601号明細書、同第3,159,662号明細書、同第3,775,452号明細書参照);白金黒、パラジウム等の白金族金属をアルミナ、シリカ、カーボン等の担体に担持させたもの;ロジウム-オレフィン錯体;クロロトリス(トリフェニルフォスフィン)ロジウム(ウィルキンソン触媒);塩化白金、塩化白金酸または塩化白金酸塩とビニル基含有シロキサンとの錯体などの白金族金属系触媒が挙げられる。
なお、(C)成分は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0026】
(C)の使用量は組成物の硬化(ヒドロシリル化反応)を促進する量であれば限定されず、本組成物の各成分の質量の合計に対して、本成分中の金属原子が質量換算で0.01~500ppmの範囲となる量が好ましく、0.05~100ppmの範囲がより好ましく、0.01~50ppmの範囲がより一層好ましい。
【0027】
[4](D)成分
本発明の付加硬化型シリコーン接着剤組成物における(D)成分は、下記平均式(4)で表される直鎖状オルガノシロキサン化合物および下記平均式(5)で表される環状オルガノポリシロキサンの少なくとも一方であり、本発明の付加硬化型シリコーン接着剤組成物に高温高湿環境での接着性低下耐性を付与するための接着助剤である。
【0028】
(AcR3
3-cSiO1/2)v(R3
3SiO1/2)2-v(AR3
1SiO2/2)w(R3
2SiO2/2)x (4)
(AR3
1SiO2/2)y(R3
2SiO2/2)z (5)
【0029】
式(4)および(5)において、Aは、それぞれ独立して、下記構造式(6)で表される脂環式エポキシ基を表す。
【0030】
【化3】
(式中、アスタリスク(*)はケイ素原子との結合部位を表す。)
【0031】
上記R3は、それぞれ独立して、非置換または置換の1価炭化水素基を表す。
R3の一価炭化水素基は、直鎖、分岐、環状のいずれでもよいが、炭素原子数1~20のものが好ましく、炭素原子数1~10のものがより好ましく、炭素原子数1~5のものがより一層好ましい。
その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ヘキシル基等の直鎖または分岐のアルキル基;シクロヘキシル基等の環状アルキル基;ビニル、アリル、3-ブテニル、4-ペンテニル、5-ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル、トリル基等のアリール基;ベンジル、フェニルエチル基等のアラルキル基などが挙げられる。
また、これらの1価炭化水素基の水素原子の一部または全部は、F、Cl、Br等のハロゲン原子、シアノ基等で置換されていてもよく、そのような基の具体例としては、3,3,3-トリフルオロプロピル基等のハロゲン置換炭化水素基;2-シアノエチル基等のシアノ置換炭化水素基等が挙げられる。
これらの中でも、R3としては、耐熱性の点からメチル基が好ましい。
【0032】
また、上記式(4)において、cは、1または2を表し、vは、0、1または2を表し、wおよびxは、0≦w+x≦100を満たす数(ただし、vおよびwが同時に0となることはない)を表す。
式(5)において、yおよびzは、それぞれy≧1、z≧0、かつ、3≦y+z≦5を満たす数を表すが、y≧2が好ましい。
【0033】
(D)成分の具体例としては、下記構造式で表される脂環式エポキシ基含有ポリシロキサンが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
なお、(D)成分は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
【化4】
(式中、Prは、n-プロピル基を表す(以下、同様)。各シロキサン単位の配列は任意である)
【0035】
本発明において、脂環式エポキシ基含有ポリシロキサンは市販品を使用することもでき、市販品としては、X-22-169(信越化学工業(株)製)、X-40-2670(信越化学工業(株)製)、X-40-2678(信越化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0036】
(D)成分の添加量は、(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して0.05~5質量部である。添加量が0.05質量部未満であると、高温高湿環境での接着性が不十分となることがある。5質量部を超えると、柔らかく低強度のシリコーン硬化物となり、満足するゴム物性が得られないことがある。
【0037】
[5](E)成分
本発明の付加硬化型シリコーン接着剤組成物には、(E)成分として、上記(D)成分以外の接着助剤を添加してもよい。
(E)成分のうち、シロキサン結合を含む接着助剤の具体例としては、ビニルトリエトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBE-1003)、γ-(グリシジロキシプロピル)トリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM-403)、γ-(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM-503)、7-オクテニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM-1083)、およびそれらの加水分解物、並びに下記構造式で表される化合物等が挙げられる。
なお、(E)成分は1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
【0039】
また、シロキサン結合を含まない接着助剤の具体例としては、アリルグリシジルエーテル、ビニルシクロヘキセンモノオキサイド、2-アリルマロン酸ジエチル、ジアリルビスフェノールエーテル、安息香酸アリル、フタル酸ジアリル、ピロメリット酸テトラアリルエステル(富士フイルム和光純薬(株)製、TRIAM805)、トリアリルイソシアヌレート等が挙げられる。
【0040】
(E)成分を用いる場合、その添加量は、(A)成分と(B)成分との合計100質量部に対して0.05~10質量部が好ましく、0.05~5質量部がより好ましい。(E)成分の配合量が上記範囲であれば、適度な接着性が付与できる。
【0041】
[6](F)成分
本発明の光硬化型シリコーン接着剤組成物には、組成物を調製する際や、組成物を基材に塗工する際などの加熱硬化前に増粘やゲル化を起こさないようにヒドロシリル化反応触媒の反応性を制御する目的で、必要に応じて(F)反応制御剤を添加してもよい。
反応制御剤の具体例としては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニルシクロヘキサノール、エチニルメチルデシルカルビノール、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ブチン、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ペンチン、3,5-ジメチル-3-トリメチルシロキシ-1-ヘキシン、1-エチニル-1-トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2-ジメチル-3-ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン等が挙げられ、これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、1-エチニルシクロヘキサノール、エチニルメチルデシルカルビノール、3-メチル-1-ブチン-3-オールが好ましい。
【0042】
(F)成分を用いる場合、その添加量は、(A)成分および(B)成分の合計100質量部に対して0.01~2.0質量部が好ましく、0.01~0.1質量部がより好ましい。このような範囲であれば反応制御の効果が十分発揮される。
【0043】
[7]その他の成分
本発明の付加硬化型シリコーン接着剤組成物は、上記(A)~(F)成分以外にも、本発明の目的を損なわない限り、以下に例示するその他の成分を配合してもよい。
その他の成分としては、例えば、ヒュームドシリカ等のチクソ性制御剤;ヒュームドシリカ、結晶性シリカ等の補強剤;金属酸化物、金属水酸化物等の耐熱向上剤;光安定剤;金属酸化物、金属水酸化物等の耐熱向上剤;アルミナ、結晶性シリカ等の熱伝導性付与充填剤;反応性官能基を有しない非反応性シリコーンオイル等の粘度調整剤などが挙げられる。
【0044】
本発明の付加硬化型シリコーン接着剤組成物は、上記の(A)~(D)成分、必要に応じて用いられる(E)および(F)成分、並びにその他の成分を公知の方法で混合して調製することができる。
好適な態様としては、(A)成分、(C)成分および必要に応じてその他の成分からなる第一剤と、(A)成分、(B)成分および必要に応じてその他の成分からなる第二剤を別々に調製し、使用前に第一剤と第二剤を混合する二剤型の組成物である。なお、第一剤および第二剤で共通に使用される成分があってもよい。組成物をこのような二剤型とすることにより、さらに保存安定性が確保できる。
【0045】
使用時における第一剤および第二剤の混合割合は、上記成分の配合設計に基づいて定められ、混合後に本発明のシリコーン接着剤組成物が得られるように、任意の混合比率を設定できる。特に、混合のし易さの点から、第一剤および第二剤の混合比率(体積比)は、第一剤:第二剤=10:1~1:10の範囲に定めることが好ましく、第一剤:第二剤=2:1~1:2の範囲に定めることがより好ましい。
【0046】
第一剤および第二剤の混合は、それぞれの液を秤量した後にミキサー等で混合してもよく、また、先端部にスタティックミキサーを装着したディスペンサーを用い、第一剤および第二剤のパッケージから機械的に送液し、ミキサー内で混合してもよい。
パッケージ用容器としてはMIX-PAC社製樹脂2連カートリッジ、シロウマサイエンス(株)製樹脂カートリッジ、および武蔵エンジニアリング(株)製樹脂シリンジ等が挙げられる。ディスペンサーとしては、兵神装備(株)製モーノディスペンサー、武蔵エンジニアリング(株)製2液混合型ディスペンサー、(株)ナカリキッドコントロール社製2液混合型ディスペンサー等が挙げられる。
【0047】
本発明の付加硬化型シリコーン接着剤組成物は、常温(5~35℃)でも硬化および基材への接着が進行するため、加熱炉やそれに付随する排気設備等を必要としない。
なお、本発明の組成物は、加熱により硬化促進させることもでき、量産性を向上させたい場合には、この手法が有効である。この際、局所加熱用の小型の装置でも十分な効果が得られる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、下記の例において、粘度は回転粘度計により測定した23℃における値を示し、動粘度はキャノン・フェンスケ型粘度計を用いた23℃における値である。また、重量平均分子量はTHF溶媒を用いたGPC測定による標準ポリスチレン換算値である。
【0049】
[実施例1~3、比較例1~3]
下記成分を表1に示される配合比で混合し、二剤型のシリコーン接着剤組成物を調製した。具体的には、先ず(A-i-2)と(A-ii)とを混合し、得られた混合物に(A-i-1)、(C)およびフュームドシリカを混合・脱泡した第一剤、並びに(A-i-1)、(A-i-2)、(B)、(D)、(E)、(F)およびフュームドシリカを混合・脱泡した第二剤をそれぞれ調製した。
【0050】
(A)成分:
(A-i-1)下記平均式で表されるオルガノポリシロキサン(23℃における粘度10,000mPa・s)
ViMe2SiO(Me2SiO)530SiMe2Vi
(A-i-2)下記平均式で表されるオルガノポリシロキサン(23℃における粘度5,000mPa・s)
ViMe2SiO(Me2SiO)430SiMe2Vi
(A-ii):下記平均式で表される、重量平均分子量4,500のオルガノポリシロキサン
(Me3SiO1/2)0.39(ViMe2SiO1/2)0.07(SiO4/2)0.54
【0051】
(B)成分:
(B-1)下記平均式で表される分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体(23℃における動粘度99.0mm2/s、ケイ素原子結合水素原子の含有量=0.0037mol/g)
【0052】
【化6】
(式中、シロキサン単位の配列はランダムまたはブロックである。)
【0053】
(C)成分:
(C-1)白金1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のジメチルシロキサン溶液(白金含有量1.0質量%)
【0054】
(D)成分:
(D-1)下記構造式で表される化合物
【0055】
【0056】
(D-2)下記構造式で表される化合物(信越化学工業(株)製、X-40-2670)
【0057】
【0058】
(D-3)下記構造式で表される化合物
【0059】
【0060】
(D-4)下記構造式で表される化合物(比較成分)
【0061】
【化10】
(式中、シロキサン単位の配列はランダムまたはブロックである。)
【0062】
(D-5)下記構造式で表される化合物((株)ダイセル製、セロキサイド2021P、比較成分)
【0063】
【0064】
(D-6)4-ヒドロキシブチルアクリレートグリシジルエーテル(三菱ケミカル(株)製、4HBAGE、比較成分)
【0065】
【0066】
(E)成分:接着助剤
(E-1)下記構造式で表される化合物
【0067】
【0068】
(E-2)下記構造式で表される化合物
【0069】
【0070】
(E-3)7-オクテニルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM-1083)
【0071】
(F)成分:反応制御剤
(F-1)エチニルメチルデシルカルビノール
【0072】
その他の成分:
フュームドシリカ(日本アエロジル(株)製、アエロジルNSX-200、比表面積140m2/g、平均一次粒子径8nm)
【0073】
【0074】
上記各実施例および比較例で調製した付加硬化型シリコーン接着剤組成物について、下記手法によって接着性を評価した。結果を表2に示す。
[付加硬化型シリコーン接着剤組成物の混合吐出方法]
付加硬化型シリコーン接着剤組成物を充填したMIX-PAC社製樹脂2連カートリッジの先端にスタティックノズル(21段)を取り付け、カートリッジガンを使用して第一剤および第二剤を1:1の体積比で混合しながら吐出させた。
【0075】
[接着性試験]
被着体としてポリブチレンテレフタレート(PBT)板、およびアルミ(Al)板を用い、それぞれに対する上記各実施例および比較例で調製した付加硬化型シリコーン接着剤組成物の接着性を評価した。被着体の上に、上記混合吐出方法を用いて付加硬化型シリコーン接着剤組成物を混合塗布し、21℃~25℃、50%RHの環境で24時間静置して付加硬化型シリコーン接着剤組成物を硬化させた。得られた硬化物に剃刀の刃で切れ込みを入れ、90°方向に手で引っ張った際の状態(剥離または接着)を21℃~25℃の環境で評価した。
さらに、上記被着体に接着した硬化物を85℃、85%RHの環境下に500時間および1,000時間曝した後に取り出し、21℃~25℃、50%の環境下に1日静置し、それぞれ上述の接着試験を行った結果を表2に併記した。
【0076】
【0077】
表2に示されるように、実施例1~3で調製した本発明の付加硬化型シリコーン接着剤組成物から得られる硬化物は、長期間にわたって高温高湿条件における基材への接着性が優れていることがわかる。
一方、本発明の(D)成分を含まない場合(比較例1~3)の組成物は、高温高湿条件における耐久性に劣ることがわかる。