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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】ゴム架橋物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20221109BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20221109BHJP
   C08K 5/14 20060101ALI20221109BHJP
   C08J 3/24 20060101ALI20221109BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K3/04
C08K5/14
C08J3/24 Z CEW
C08J3/22
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019523947
(86)(22)【出願日】2018-06-06
(86)【国際出願番号】 JP2018021709
(87)【国際公開番号】W WO2018225789
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2017112088
(32)【優先日】2017-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】小松 正明
(72)【発明者】
【氏名】小松 安奈
(72)【発明者】
【氏名】阿多 誠介
(72)【発明者】
【氏名】畠 賢治
(72)【発明者】
【氏名】友納 茂樹
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/077595(WO,A1)
【文献】特開2012-224814(JP,A)
【文献】国際公開第2017/175807(WO,A1)
【文献】特開2017-186476(JP,A)
【文献】国際公開第2016/208203(WO,A1)
【文献】特開2014-081073(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
C08J 3/24
C08J 3/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴムと、カーボンブラックと、カーボンナノチューブと、有機過酸化物架橋剤とを含む架橋性ゴム組成物を架橋してなり、
前記架橋性ゴム組成物中に含まれている前記カーボンブラックの合計量は、前記フッ素ゴム100質量部当たり、45質量部以上70質量部以下であり、
前記カーボンナノチューブの平均直径は6nm以下であり、
50%モジュラスが5MPa以上であり、
圧縮永久歪み(230℃、500時間)が80%以下であり、
熱老化試験(230℃、72時間)前後の破断伸びの変化率が-10%以上10%以下である、ゴム架橋物。
【請求項2】
前記カーボンブラックが、炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭を含む、請求項1に記載のゴム架橋物。
【請求項3】
前記フッ素ゴム100質量部当たり、前記石炭を0.5質量部以上5質量部未満の割合で含有する、請求項2に記載のゴム架橋物。
【請求項4】
前記石炭が瀝青炭である、請求項2または3に記載のゴム架橋物。
【請求項5】
破断強度が23MPa以上である、請求項1~4の何れかに記載のゴム架橋物。
【請求項6】
前記フッ素ゴムのガラス転移温度が-7℃以下である、請求項1~5の何れかに記載のゴム架橋物。
【請求項7】
前記フッ素ゴム100質量部当たり、前記カーボンナノチューブを0.4質量部以上10質量部未満の割合で含有する、請求項1~6の何れかに記載のゴム架橋物。
【請求項8】
請求項1~7の何れかに記載のゴム架橋物の製造方法であって、
フッ素ゴムと、前記フッ素ゴム中に分散したカーボンナノチューブとを含む複合化物を得る工程(A)と、
前記複合化物と、カーボンブラックと、有機過酸化物架橋剤とを混練りし、架橋性ゴム組成物を得る工程(B)と、
前記架橋性ゴム組成物を成形および架橋してゴム架橋物を得る工程(C)と、
を含み、
前記工程(A)では、フッ素ゴムと、カーボンナノチューブと、有機溶媒とを含む混合物を湿式分散処理した後、前記有機溶媒を除去することにより前記複合化物を得る、ゴム架橋物の製造方法。
【請求項9】
前記工程(A)では、前記有機溶媒の除去を薄膜乾燥により行う、請求項8に記載のゴム架橋物の製造方法。
【請求項10】
前記工程(B)は、前記複合化物と前記カーボンブラックとを混練りしてプリコンパウンドを得る工程(B1)と、前記プリコンパウンドと前記有機過酸化物架橋剤とを混練りして前記架橋性ゴム組成物を得る工程(B2)とを含み、
前記工程(B2)では、混練物の温度が90℃以上にならないように混練りを行う、請求項8または9に記載のゴム架橋物の製造方法。
【請求項11】
前記工程(A)では、ジェットミルを用いて前記混合物を湿式分散処理する、請求項8~10の何れかに記載のゴム架橋物の製造方法。
【請求項12】
前記工程(B)では、密閉式混練機を用いて混練りを行う、請求項8~11の何れかに記載のゴム架橋物の製造方法。
【請求項13】
前記密閉式混練機が加圧型ニーダーである、請求項12に記載のゴム架橋物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム架橋物およびゴム架橋物の製造方法に関し、特には、カーボンナノチューブを含有するフッ素ゴム架橋物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、パッキンやガスケットなどのシール部材の形成に用いられる材料として、含フッ素エラストマーと、カーボンナノチューブと、瀝青炭粉砕物と、パーオキサイド架橋剤(有機過酸化物架橋剤)とを含む架橋性ゴム組成物が知られている(例えば、特許文献1~3参照)。
【0003】
ここで、特許文献1~3では、オープンロールを使用して上記架橋性ゴム組成物を調製している。具体的には、特許文献1~3では、オープンロールに含フッ素エラストマーを投入して素練りし、含フッ素エラストマーの分子鎖を適度に切断してフリーラジカルを生成させることにより含フッ素エラストマーをカーボンナノチューブと結びつき易い状態にした後、素練りした含フッ素エラストマーにカーボンナノチューブおよび瀝青炭粉砕物を添加してオープンロールで混練りおよび薄通しを行い、最後にパーオキサイド架橋剤を添加してオープンロールで再び混練りすることにより、架橋性ゴム組成物を調製している。
【0004】
そして、特許文献1~3では、上述のようにして調製した架橋性ゴム組成物を成形および架橋して、ゴム架橋物よりなるシール部材を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-108476号公報
【文献】特開2015-168777号公報
【文献】特開2014-81073号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記従来の架橋性ゴム組成物を用いて形成したシール部材は、高温(例えば、200℃以上)、高圧(例えば、70MPa以上)環境下では、長期間に亘り十分なシール性を発揮することができなかった。
【0007】
そのため、高温・高圧環境下での長期シール性に優れるシール部材を提供可能なゴム架橋物が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のゴム架橋物は、フッ素ゴムと、カーボンブラックと、カーボンナノチューブと、有機過酸化物架橋剤とを含む架橋性ゴム組成物を架橋してなり、50%モジュラスが5MPa以上であり、圧縮永久歪み(230℃、500時間)が80%以下であり、熱老化試験(230℃、72時間)前後の破断伸びの変化率が-10%以上10%以下であることを特徴とする。上述した性状のゴム架橋物を使用すれば、高温・高圧環境下での長期シール性(以下、単に「長期シール性」と称することがある。)に優れるシール部材を得ることができる。
ここで、本発明において、ゴム架橋物の「50%モジュラス」は、JIS K6251に準拠して測定することができる。
また、本発明において、ゴム架橋物の「圧縮永久歪み(230℃、500時間)」とは、JIS K6262に準拠して測定した、圧縮率25%、温度230℃で500時間保持した後の圧縮永久歪みを指す。
更に、本発明において、ゴム架橋物の「熱老化試験(230℃、72時間)前後の破断伸びの変化率」とは、JIS K6257に準拠して温度230℃で72時間の熱老化試験を実施した際の、熱老化試験前の破断伸び(EB:JIS K6251に準拠して測定)に対する熱老化試験後の破断伸び(EB:JIS K6251に準拠して測定)の変化率(={(EB-EB)/EB}×100%)を指す。
【0009】
ここで、本発明のゴム架橋物は、前記カーボンブラックが、炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭を含むことが好ましい。炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭を含むカーボンブラックを使用すれば、ゴム架橋物の耐熱性(耐熱老化性)を高めることができる。従って、シール部材の長期シール性を更に高めることができる。
なお、本発明において、石炭の「炭素含有率」は、JIS M8813に準拠してリービッヒ法で測定することができる?
【0010】
また、本発明のゴム架橋物は、前記フッ素ゴム100質量部当たり、前記石炭を0.5質量部以上5質量部未満の割合で含有することが好ましい。炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭の含有割合が上記範囲内であれば、ゴム架橋物の強度と耐熱性とを高いレベルで両立させることができる。従って、シール部材の強度を確保しつつ長期シール性を更に高めることができる。
【0011】
更に、本発明のゴム架橋物は、前記石炭が瀝青炭であることが好ましい。瀝青炭を含むカーボンブラックを使用すれば、ゴム架橋物の耐熱性を高めることができる。従って、シール部材の長期シール性を更に高めることができる。
【0012】
また、本発明のゴム架橋物は、破断強度が23MPa以上であることが好ましい。破断強度が23MPa以上であれば、ゴム架橋物の強度を十分に確保し、シール部材の長期シール性を更に高めることができる。
なお、本発明において、ゴム架橋物の「破断強度」は、JIS K6251に準拠して測定することができる。
【0013】
更に、本発明のゴム架橋物は、前記フッ素ゴムのガラス転移温度が-7℃以下であることが好ましい。ガラス転移温度が-7℃以下のフッ素ゴムを使用すれば、低温特性に優れるゴム架橋物が得られる。従って、低温環境下においても良好なシール特性を発揮するシール部材を得ることができる。
なお、本発明において、フッ素ゴムの「ガラス転移温度」は、示差走査熱量分析(DSC)法により測定することができる。
【0014】
そして、本発明のゴム架橋物は、前記フッ素ゴム100質量部当たり、前記カーボンナノチューブを0.4質量部以上10質量部未満の割合で含有することが好ましい。カーボンナノチューブの含有割合が上記範囲内であれば、ゴム架橋物の強度と耐熱性とを高いレベルで両立させることができる。従って、シール部材の強度を確保しつつ長期シール性を更に高めることができる。
【0015】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のゴム架橋物の製造方法は、上述したゴム架橋物の製造方法であって、フッ素ゴムと、前記フッ素ゴム中に分散したカーボンナノチューブとを含む複合化物を得る工程(A)と、前記複合化物と、カーボンブラックと、有機過酸化物架橋剤とを混練りし、架橋性ゴム組成物を得る工程(B)と、前記架橋性ゴム組成物を成形および架橋してゴム架橋物を得る工程(C)とを含み、前記工程(A)では、フッ素ゴムと、カーボンナノチューブと、有機溶媒とを含む混合物を湿式分散処理した後、前記有機溶媒を除去することにより前記複合化物を得ることを特徴とする。このように、工程(A)において複合化物を調製する際に湿式分散処理を用いれば、上述した物性を有するゴム架橋物を良好に調製することができる。
【0016】
ここで、本発明のゴム架橋物の製造方法は、前記工程(A)では、前記有機溶媒の除去を薄膜乾燥により行うことが好ましい。薄膜乾燥により有機溶媒を除去すれば、少ない加熱量で有機溶媒を迅速に除去することができる。従って、有機溶媒の除去時にカーボンナノチューブが凝集するのを抑制して、強度と耐熱性とを高いレベルで両立させたゴム架橋物が得られる。
【0017】
また、本発明のゴム架橋物の製造方法は、前記工程(B)は、前記複合化物と前記カーボンブラックとを混練りしてプリコンパウンドを得る工程(B1)と、前記プリコンパウンドと前記有機過酸化物架橋剤とを混練りして前記架橋性ゴム組成物を得る工程(B2)とを含み、前記工程(B2)では、混練物の温度が90℃以上にならないように混練りを行うことが好ましい。プリコンパウンドと有機過酸化物架橋剤とを混練りする際に混練物の温度が90℃以上にならないようにすれば、ゴム架橋物の耐熱性を更に高めることができる。
【0018】
更に、本発明のゴム架橋物の製造方法は、前記工程(A)では、ジェットミルを用いて前記混合物を湿式分散処理することが好ましい。ジェットミルを使用すれば、強度と耐熱性とを高いレベルで両立させたゴム架橋物が得られる。
【0019】
また、本発明のゴム架橋物の製造方法は、前記工程(B)では、密閉式混練機を用いて混練りを行うことが好ましい。密閉式混練機を使用すれば、ゴム架橋物の耐熱性を更に高めることができる。
【0020】
そして、本発明のゴム架橋物の製造方法は、前記密閉式混練機が加圧型ニーダーであることが好ましい。加圧型ニーダーを使用すれば、ゴム架橋物の耐熱性を更に高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高温・高圧環境下での長期シール性に優れるシール部材を提供可能なゴム架橋物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明のゴム架橋物の調製に使用し得る架橋性ゴム組成物および当該架橋性ゴム組成物の製造方法、並びに、本発明のゴム架橋物および本発明のゴム架橋物の製造方法について、項分けして説明する。
【0023】
(架橋性ゴム組成物)
本発明のゴム架橋物の調製に使用し得る架橋性ゴム組成物は、フッ素ゴムと、カーボンナノチューブと、カーボンブラックと、有機過酸化物架橋剤とを含み、任意に、架橋助剤や受酸剤などの添加剤を更に含有する。
なお、架橋性ゴム組成物の用途は、本発明のゴム架橋物の調製に限定されるものではない。
【0024】
<フッ素ゴム>
フッ素ゴムとしては、特に限定されることなく、例えば、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)、テトラフルオロエチレン-プロピレン系ゴム(FEPM)およびテトラフルオロエチレン-パープルオロビニルエーテル系ゴム(FFKM)が挙げられる。中でも、低温特性に優れるという観点から、フッ素ゴムとしては、フッ化ビニリデン系ゴム(FKM)が好ましい。また、FKMの中でも特に、ASTM D1418に規定のタイプがタイプ3のFKM、タイプ4のFKMまたはタイプ5のFKMが好ましく、FKMに用いられるモノマーの1つにパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)系のモノマーが使用されているもの(例えば、タイプ3のFKMおよびタイプ5のFKM)が低温特性およびアミン耐性に優れるという観点から特に好ましい。
なお、これらのフッ素ゴムは、1種単独で、または、2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
そして、フッ素ゴムは、ガラス転移温度が、-7℃以下であることが好ましく、-15℃以下であることがより好ましい。フッ素ゴムのガラス転移温度が上記上限値以下であれば、架橋性ゴム組成物を架橋して得られるゴム架橋物の低温特性を向上させることができる。従って、ゴム架橋物をシール部材に使用した場合には、低温特性に優れるシール部材を得ることができる。なお、フッ素ゴムのガラス転移温度は、通常、-40℃以上である。
【0026】
<カーボンナノチューブ>
カーボンナノチューブ(以下、「CNT」と略記することがある。)としては、特に限定されることなく、単層カーボンナノチューブおよび/または多層カーボンナノチューブを用いることができるが、CNTは、単層から5層までのカーボンナノチューブであることが好ましく、単層カーボンナノチューブであることがより好ましい。カーボンナノチューブの層数が少ないほど、架橋性ゴム組成物を架橋して得られるゴム架橋物の強度を向上させることができる。従って、ゴム架橋物をシール部材に使用した場合には、安全性を高めることができる。
なお、架橋性ゴム組成物は、CNT以外に、炭素の六員環ネットワークが非円筒形状(例えば、扁平筒状)に形成されてなる炭素ナノ構造体などの繊維状炭素ナノ構造体を更に含んでいてもよい。
【0027】
ここで、CNTの平均直径は、1nm以上であることが好ましく、60nm以下であることが好ましく、30nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが更に好ましく、6nm以下であることが特に好ましい。CNTの平均直径を上記範囲内とすれば、架橋性ゴム組成物を架橋して得られるゴム架橋物の強度を向上させることができる。従って、ゴム架橋物をシール部材に使用した場合には、安全性を高めることができる。
ここで、「CNTの平均直径」は、透過型電子顕微鏡(TEM)画像上で、例えば、20本のCNTについて直径(外径)を測定し、個数平均値を算出することで求めることができる。
【0028】
また、CNTは、平均長さが、1μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることがさらに好ましく、600μm以下であることが好ましく、550μm以下であることがより好ましく、500μm以下であることがさらに好ましい。CNTの平均長さを上記範囲内とすれば、架橋性ゴム組成物を架橋して得られるゴム架橋物の強度を向上させることができる。従って、ゴム架橋物をシール部材に使用した場合には、安全性を高めることができる。
なお、本発明において、「CNTの平均長さ」は、走査型電子顕微鏡(SEM)画像上で、例えば、20本のCNTについて長さを測定し、個数平均値を算出することで求めることができる。
【0029】
また、CNTは、BET比表面積が、200m/g以上であることが好ましく、400m/g以上であることがより好ましく、600m/g以上であることが更に好ましく、2000m/g以下であることが好ましく、1800m/g以下であることがより好ましく、1500m/g以下であることが更に好ましい。CNTのBET比表面積が上記下限値以上であれば、架橋性ゴム組成物を架橋して得られるゴム架橋物の強度を向上させることができる。従って、ゴム架橋物をシール部材に使用した場合には、安全性を高めることができる。また、CNTのBET比表面積が上記上限値以下であれば、架橋性ゴム組成物中でCNTを良好に分散させることができる。
なお、「BET比表面積」とは、BET法を用いて測定した窒素吸着比表面積を指す。
【0030】
更に、CNTは、炭素純度が、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。CNTの炭素純度を上記下限値以上とすれば、架橋性ゴム組成物を架橋して得られるゴム架橋物の強度および耐熱老化性を向上させることができる。従って、ゴム架橋物をシール部材に使用した場合には、安全性および長期シール性を高めることができる。
なお、炭素純度は、蛍光X線を用いた元素分析により求めることができる。
【0031】
なお、CNTは、特に限定されることなく、アーク放電法、レーザーアブレーション法、化学的気相成長法(CVD法)などの既知のCNTの合成方法を用いて製造することができる。具体的には、CNTは、例えば、カーボンナノチューブ製造用の触媒層を表面に有する基材上に原料化合物およびキャリアガスを供給し、化学的気相成長法(CVD法)によりCNTを合成する際に、系内に微量の酸化剤(触媒賦活物質)を存在させることで、触媒層の触媒活性を飛躍的に向上させるという方法(スーパーグロース法;国際公開第2006/011655号参照)に準じて、効率的に製造することができる。なお、以下では、スーパーグロース法により得られるカーボンナノチューブを「SGCNT」と称することがある。
そして、スーパーグロース法により製造されたCNTは、SGCNTのみから構成されていてもよいし、SGCNTに加え、例えば、非円筒形状の炭素ナノ構造体等を含んでいてもよい。
【0032】
そして、架橋性ゴム組成物中に含まれているCNTの量は、特に限定されることなく、例えば、フッ素ゴム100質量部当たり、0.4質量部以上10質量部未満であることが好ましい。CNTの量が上記下限値以上であれば、架橋性ゴム組成物を架橋して得られるゴム架橋物の強度を向上させることができる。従って、ゴム架橋物をシール部材に使用した場合には、シール部材の強度を十分に確保することができる。また、CNTの量が上記上限値以下であれば、架橋性ゴム組成物を架橋して得られるゴム架橋物の耐熱性を向上させることができる。従って、ゴム架橋物をシール部材に使用した場合には、シール部材の長期シール性を十分に高めることができる。
中でも、CNTが単層カーボンナノチューブ(SWCNT)である場合には、架橋性ゴム組成物中に含まれているCNTの量は、フッ素ゴム100質量部当たり、0.5質量部以上5質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上3質量部以下であることがより好ましく、0.7質量部以上2質量部以下であることが更に好ましく、0.9質量部以上2質量部以下であることが特に好ましい。一方、CNTが多層カーボンナノチューブ(MWCNT)である場合には、架橋性ゴム組成物中に含まれているCNTの量は、フッ素ゴム100質量部当たり、1質量部以上10質量部未満であることが好ましく、2質量部以上9質量部以下であることが好ましい。
【0033】
ここで、CNTの量を所定量以下にすることでゴム架橋物の耐熱性を向上させると共にシール部材の長期シール性を向上させることができる理由は、明らかではないが、CNTを含有する架橋性ゴム組成物ではCNTによって架橋反応が阻害されるために熱劣化し易くなると共に、CNTがゴム架橋物中でネットワーク(三次元網目構造)を形成するために弾性回復が阻害されて圧縮永久歪みが悪化するからであると推察される。
なお、CNTを配合しない場合には、ゴム架橋物の強度を十分に向上させることができない。
【0034】
<カーボンブラック>
カーボンブラックとしては、特に限定されることなく、ファーネスブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラックなどが挙げられる。また、カーボンブラックとしては、炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭も挙げられる。
なお、これらのカーボンブラックは、1種単独で、または、2種以上を混合して用いることができる。また、カーボンブラックの粒子径およびストラクチャーは特に限定されない。
【0035】
中でも、架橋性ゴム組成物を架橋して得られるゴム架橋物の耐熱性を向上させると共にゴム架橋物を用いたシール部材の長期シール性を向上させる観点からは、カーボンブラックとしては、炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭を用いることが好ましく、炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭と、ファーネスブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラックおよびアセチレンブラックからなる群より選択される少なくとも1種とを組み合わせて用いることがより好ましく、炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭とサーマルブラックとを組み合わせて用いることが更に好ましい。
なお、炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭を使用することによりゴム架橋物の耐熱性を向上させると共にゴム架橋物を用いたシール部材の長期シール性を向上させることができる理由は、明らかではないが、加熱による架橋部位の切断などの分解反応によってゴム架橋物中に生じたラジカルが、停止反応に至るまで分解反応に寄与し続けるのではなく、上記石炭中に含まれている不純物と反応して新たな架橋構造を形成するため、熱劣化による物性の低下(例えば、ゴム架橋物の軟化および弾性低下)を抑制することができるからであると推察される。
また、サーマルブラックを併用することでゴム架橋物の耐熱性を向上させると共にゴム架橋物を用いたシール部材の長期シール性を向上させることができる理由は、明らかではないが、サーマルブラックは炭素純度が高いためにゴム架橋物の耐熱老化性に影響を与え難く、また、架橋阻害を起こしにくいために耐熱性を向上させると共に凝集力が他のカーボンブラックに比べて小さいためにゴム架橋物の弾性回復を阻害し難いためであると推察される。
【0036】
なお、上記炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭としては、特に限定されることなく、例えば、瀝青炭が挙げられる。また、瀝青炭としては、特に限定されることなく、例えば、市販のオースチンブラック等を用いることができる。
【0037】
そして、架橋性ゴム組成物中に含まれているカーボンブラックの合計量は、ゴム架橋物の用途に応じて適宜調整することができる。中でも、架橋性ゴム組成物中に含まれているカーボンブラックの合計量は、特に限定されることなく、例えば、フッ素ゴム100質量部当たり、5質量部以上70質量部以下であることが好ましく、45質量部以上60質量部以下であることがより好ましい。カーボンブラックの合計量が上記下限値以上であれば、十分な補強効果が得られると共に、CNTがゴム架橋物中でネットワーク(三次元網目構造)を形成するのを立体的に阻害し、圧縮永久歪みが悪化するのを抑制することができる。従って、シール部材の長期シール性を十分に高めることができる。また、カーボンブラックの合計量が上記上限値以下であれば、カーボンブラックの分散不良が起こるのを抑制することができると共に、ゴム架橋物が過度に硬くなるのを防止することができる。
【0038】
また、架橋性ゴム組成物中に含まれている、上記炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭の量は、特に限定されることなく、例えば、フッ素ゴム100質量部当たり、0.5質量部以上5質量部未満であることが好ましく、0.5質量部以上3質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以上2質量部以下であることが更に好ましい。炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭の量が上記下限値以上であれば、熱劣化による物性の低下を十分に抑制し、架橋性ゴム組成物を架橋して得られるゴム架橋物の耐熱性を向上させることができる。従って、ゴム架橋物をシール部材に使用した場合には、シール部材の長期シール性を十分に高めることができる。また、炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭は他のカーボンブラックに比べて補強効果が低いところ、炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭の量が上記上限値以下であれば、ゴム架橋物の強度、特には熱老化試験後の強度を向上させることができる。従って、ゴム架橋物をシール部材に使用した場合には、シール部材の強度を十分に確保することができる。
【0039】
<有機過酸化物架橋剤>
有機過酸化物架橋剤としては、フッ素ゴムを架橋可能であれば特に限定されることなく、例えば、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、1,1-ジ(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、1,3-ジ(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n-ブチル-4,4-ジ(t-ブチルパーオキシ)バレレートなどの有機過酸化物が用いられる。また、これらの有機過酸化物架橋剤としては、市販品(例えば、日本油脂製、パーヘキサ25Bおよびパーヘキサ25B-40など)をそのまま用いることができる。取扱いの容易さの観点では、フィラーで希釈されたパーヘキサ25B-40のような市販品が扱いやすいが、耐熱老化性など長期物性の観点で、酸化ケイ素などのフィラーで希釈されていない純度の高い液体状の過酸化物架橋剤(市販品ではパーヘキサ25Bなど)を用いることが好ましい。そして、有機過酸化物架橋剤の配合量は、フッ素ゴムの種類等に応じて適宜調整することができる。
なお、これらの有機過酸化物架橋剤は、1種単独で、または、2種以上を混合して用いることができる。
【0040】
<添加剤>
添加剤としては、特に限定されることなく、架橋助剤や受酸剤などの、ゴム組成物の分野において一般的に用いられている添加剤を用いることができる。
【0041】
[架橋助剤]
ここで、架橋助剤としては、特に限定されることなく、例えば、トリアリルイソシアヌレート(TAIC)、トリアリルシアヌレート、ジアリルフタレート、トリビニルイソシアヌレート、トリ(5-ノルボルネン-2-メチレン)シアヌレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリアリルホルマール、トリアリルトリメリテート、ジプロパギルテレフタレート、テトラアリルテレフタレートアミド、トリアリルホスフェート、フッ素化トリアリルイソシアヌレート(1,3,5-トリス(2,3,3-トリフルオロ-2-プロペニル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン)、亜リン酸トリアリル、N,N-ジアリルアクリルアミド、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルテトラフタラミド、N,N,N’,N’-テトラアリルマロンアミド、2,4,6-トリビニルメチルトリシロキサン、トリアリルホスファイトなどの既知の架橋助剤を用いることができる。中でも、TAICが好ましい。
なお、これらの架橋助剤は、1種単独で、または、2種以上を混合して用いることができる。
【0042】
[受酸剤]
また、受酸剤としては、特に限定されることなく、例えば、酸化マグネシウム、酸化鉛、酸化亜鉛、炭酸鉛、炭酸亜鉛、ハイドロタルサイトなどの既知の受酸剤を用いることができる。中でも、酸化亜鉛が好ましい。
なお、これらの受酸剤は、1種単独で、または、2種以上を混合して用いることができる。
【0043】
なお、上述した添加剤の配合量は、フッ素ゴムや有機過酸化物架橋剤の種類等に応じて適宜調整することができる。
【0044】
(架橋性ゴム組成物の製造方法)
上述した架橋性ゴム組成物は、フッ素ゴムと、カーボンナノチューブと、カーボンブラックと、有機過酸化物架橋剤と、任意の添加剤とを混合して調製することができる。なお、フッ素ゴム、カーボンナノチューブ、カーボンブラック、有機過酸化物架橋剤および添加剤としては、上述したものを用いることができるので、以下では説明を省略する。
【0045】
ここで、上述した配合成分の混合は、特に限定されることなく、ニーダーやロールを用いて全ての配合成分を一括で混練りして混合してもよいし、多段階に分けて混合してもよい。
【0046】
中でも、配合成分を均一に混合する観点からは、上述した配合成分の混合は、多段階に分けて行うことが好ましい。そして、CNTが良好に分散した架橋性ゴム組成物を得る観点からは、フッ素ゴム中にCNTを分散させてなる複合化物を調製した後に、複合化物と、カーボンブラックと、有機過酸化物架橋剤と、任意の添加剤等とを混練りして架橋性ゴム組成物を得ることが好ましい。また、架橋性ゴム組成物の調製中に架橋が進行するのを抑制する観点からは、有機過酸化物架橋剤以外の配合成分(フッ素ゴム、カーボンナノチューブ、カーボンブラックおよび任意の添加剤)を混合してなるプリコンパウンドを調製した後に、プリコンパウンドと有機過酸化物架橋剤とを混練りして架橋性ゴム組成物を得ることが好ましく、CNTを良好に分散させつつ架橋の進行を抑制する観点からは、フッ素ゴム中にCNTを分散させてなる複合化物を調製した後に、複合化物と、カーボンブラックと、任意の添加剤等とを混練りしてプリコンパウンドを調製し、最後にプリコンパウンドと有機過酸化物架橋剤とを混練りして架橋性ゴム組成物を得ることがより好ましい。
【0047】
<複合化物の調製>
ここで、フッ素ゴム中にCNTを分散させて複合化物を得る方法に特に制限は無く、ニーダー、ロール、ミキサー等を用いて溶媒の不存在下でフッ素ゴムとCNTとを乾式混合することにより複合化物を調製してもよいし、フッ素ゴムと、カーボンナノチューブと、有機溶媒とを含む混合物を湿式分散処理した後、有機溶媒を除去することにより複合化物を調製してもよい。中でも、CNTのバンドル構造を良好に解繊してCNTの分散性を高める観点、および、CNTが有するラジカル捕捉能が複合化物の調製時に消費されるのを抑制する観点からは、複合化物の調製は、フッ素ゴムと、カーボンナノチューブと、有機溶媒とを含む混合物を湿式分散処理した後、有機溶媒を除去することにより行うことが好ましい。また、カーボンブラックとして炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭を含むカーボンブラックを使用しない場合には特に、複合化物の調製は、フッ素ゴムと、カーボンナノチューブと、有機溶媒とを含む混合物を湿式分散処理した後、有機溶媒を除去することにより行うことが好ましい。炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭を含有しない架橋性ゴム組成物では、前述した、ゴム架橋物中に生じたラジカルが石炭中に含まれている不純物と反応することによる熱劣化の抑制効果が得られないところ、複合化物の調製時にCNTが有するラジカル捕捉能が消費されるのを抑制すれば、CNTが有しているラジカル捕捉能により、上述した熱劣化の抑制効果と同様の効果を得ることができるからである。
なお、複合化物の調製には、架橋性ゴム組成物の調製に使用するフッ素ゴムの全量を使用してもよいが、架橋性ゴム組成物の調製に使用するフッ素ゴムの一部のみ(例えば、全フッ素ゴムの33質量%以上100質量%未満)を使用してもよい。そして、フッ素ゴムの一部のみを使用して複合化物を調製した場合には、フッ素ゴムの残部は、任意のタイミングで複合化物と混練りすることができ、残りの配合成分と複合化物とを混練りする前に複合化物と混練することが好ましい。
【0048】
[有機溶媒]
ここで、有機溶媒としては、フッ素ゴムを溶解可能な任意の有機溶媒を用いることができる。具体的には、有機溶媒としては、特に限定されることなく、例えば、メチルエチルケトン(MEK)およびメチルイソブチルケトン(MIBK)などのケトン系溶媒、エーテル系溶媒、並びに、それらの混合物を用いることができる。中でも、コストおよびハンドリング性の観点からは、有機溶媒としては、メチルエチルケトンを用いることが好ましい。
なお、本発明において、「フッ素ゴムを溶解可能」とは、温度40℃における溶解度が10g-フッ素ゴム/100g-有機溶媒以上であることを指す。
【0049】
[混合物]
混合物は、フッ素ゴムの有機溶媒溶液中にCNTを添加することにより調製してもよいし、有機溶媒中にCNTを分散させてなるCNT分散液とフッ素ゴムの有機溶媒溶液とを混合することにより調製してもよいし、有機溶媒中にCNTを分散させてなるCNT分散液中にフッ素ゴムを添加することにより調製してもよい。中でも、混合物は、フッ素ゴムの有機溶媒溶液中にCNTを添加することにより調製することが好ましい。
【0050】
なお、混合物には、CNTの分散性を高める目的で界面活性剤などの分散剤を配合してもよい。しかし、湿式分散処理を用いた場合にはフッ素ゴムがCNTの凝集を抑制し得るため、架橋性ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物の物性の低下を抑制する観点からは、混合物には分散剤を配合しないことが好ましい。
【0051】
そして、特に限定されるものではないが、CNTの分散性および複合化物の生産性の観点からは、混合物中のフッ素ゴムの濃度は、3質量%以上であることが好ましく、5質量%以上であることがより好ましく、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
【0052】
また、特に限定されるものではないが、CNTの分散性および複合化物の生産性の観点からは、混合物中のCNTの量は、有機溶媒100質量部当たり、0.1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。なお、CNTがSWCNTの場合には、混合物中のCNTの量は、有機溶媒100質量部当たり、0.1質量部以上0.5質量部以下であることがより好ましい。また、CNTがMWCNTの場合には、混合物中のCNTの量は、有機溶媒100質量部当たり、1質量部以上10質量部以下であることがより好ましい。
【0053】
[湿式分散処理]
湿式分散処理は、特に限定されることなく、例えば、超音波分散機、ホモジナイザー、薄膜旋回型高速ミキサー、ビーズミル、湿式ジェットミル、二軸混練機などを用いて行うことができる。また、湿式分散処理は、超臨界状態の二酸化炭素の存在下で混合物を二軸混練する方法を用いて行うこともできる。中でも、フッ素ゴムに過度なせん断力を与えない観点からは、薄膜旋回型高速ミキサー、ビーズミル、湿式ジェットミルを用いることが好ましく、CNTの損傷を抑制しつつ優れた物性のゴム架橋物を提供可能な架橋性ゴム組成物を得る観点からは、湿式ジェットミルを用いることがより好ましい。
【0054】
[有機溶媒の除去]
有機溶媒の除去は、特に限定されることなく、例えば、熱風乾燥、真空乾燥、噴霧乾燥、薄膜乾燥などの任意の乾燥方法を用いて行うことができる。中でも、少ない加熱量で有機溶媒を迅速に除去する観点からは、薄膜乾燥を用いて有機溶媒を除去することが好ましい。有機溶媒を迅速に除去すれば、分散させたカーボンナノチューブが再び凝集するのを抑制することができる。従って、強度の優れたゴム架橋物を提供可能な架橋性ゴム組成物を得ることができる。また、少ない加熱量で有機溶媒を除去すれば、フッ素ゴムが熱劣化するのを抑制し、耐熱性に優れるゴム架橋物を提供可能な架橋性ゴム組成物を得ることができる。
【0055】
[複合化物]
なお、上述のようにして調製した複合化物中に含まれているCNTの量は、フッ素ゴム100質量部当たりのCNTの量(M1)が、架橋性ゴム組成物中に含まれているフッ素ゴム100質量部当たりのCNTの量(M2)の1倍以上3倍以下になる量であることが好ましい。即ち、複合化物を用いて調製する架橋性ゴム組成物中に含まれるCNTの量がフッ素ゴム100質量部当たり1質量部であれば、複合化物中に含まれているCNTの量は複合化物中のフッ素ゴム100質量部当たり1質量部以上3質量部以下であることが好ましい。M1がM2の3倍超えの場合、複合化物と混練りするフッ素ゴムの量が増加し、架橋性ゴム組成物中においてCNTを良好に分散させることが困難になるからである。
M1がM2の3倍以下であることが良いことの指標として、例えばムーニー粘度の応力緩和測定の値で評価することができる。即ち、ムーニー粘度(100℃でローター回転速度が2rpmで、予備加熱1分、試験時間10分後のムーニー粘度)測定後にローターを停止させた時の、トルクの減衰状態を見ることで判断でき、ローター回転停止後の5秒後のムーニー粘度が10ムーニー以下であることが好ましい。
【0056】
<架橋性ゴム組成物の調製>
複合化物と、カーボンブラックと、有機過酸化物架橋剤と、任意の添加剤およびフッ素ゴムの残部との混練りは、特に限定されることなく、オープンロールなどの開放式混練機を用いて行ってもよいし、バンバリーミキサーおよび加圧型ニーダーなどの密閉式混練機を用いて行ってもよいし、密閉式混練機と開放式混練機とを組み合わせて用いて行ってもよい。中でも、複合化物と、カーボンブラックと、有機過酸化物架橋剤と、任意の添加剤およびフッ素ゴムの残部との混練りは、密閉式混練機を用いて行うことが好ましく、加圧型ニーダーを用いて行うことがより好ましい。特に、カーボンブラックとして炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭を含むカーボンブラックを使用しない場合には、密閉式混練機を用いることが特に好ましく、MS式加圧型ニーダー(例えば、日本スピンドル製造株式会社製、ワンダーニーダー(登録商標)等)などの加圧型ニーダーを用いることがより一層好ましい。炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭を含有しない架橋性ゴム組成物では、前述した、ゴム架橋物中に生じたラジカルが石炭中に含まれている不純物と反応することによる熱劣化の抑制効果が得られないところ、密閉式混練機、特にはワンダーニーダーなどの加圧型ニーダーを使用すれば、混練り時のせん断発熱を低減し、CNTが有するラジカル捕捉能が消費されるのを抑制することができるからである。
【0057】
また、複合化物と、カーボンブラックと、任意の添加剤およびフッ素ゴムの残部との混練りしてプリコンパウンドを得た後、プリコンパウンドと有機過酸化物架橋剤とを混練りして架橋性ゴム組成物を得る場合には、少なくともプリコンパウンドの調製に密閉式混練機を用いることが好ましい。CNTが有するラジカル捕捉能が消費されるのを抑制することができるからである。更に、カーボンブラックとして炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭を含むカーボンブラックを使用しない場合には、上述したのと同様の理由により、プリコンパウンドの調製およびプリコンパウンドと有機過酸化物架橋剤との混練りの双方に密閉式混練機、特にはワンダーニーダーなどの加圧型ニーダーを使用することが好ましい。
【0058】
なお、プリコンパウンドと有機過酸化物架橋剤とを混練りして架橋性ゴム組成物を得る際には、混練物の温度が90℃以上にならないように混練りを行うことが好ましい。CNTが有するラジカル捕捉能が消費されるのを抑制し、架橋性ゴム組成物を架橋してなるゴム架橋物の耐熱性を向上させることができるからである。
【0059】
(ゴム架橋物)
本発明のゴム架橋物は、フッ素ゴムと、カーボンブラックと、カーボンナノチューブと、有機過酸化物架橋剤とを含む架橋性ゴム組成物を架橋してなり、且つ、50%モジュラスが5MPa以上であり、圧縮永久歪み(230℃、500時間)が80%以下であり、熱老化試験(230℃、72時間)前後の破断伸びの変化率が-10%以上10%以下である。なお、本発明のゴム架橋物は、破断強度が23MPa以上であることが好ましい。
【0060】
そして、本発明のゴム架橋物は、所定の架橋性ゴム組成物を架橋してなり、且つ、所定の物性を有しているので、シール部材として使用した際には、長期に亘って優れたシール性を発揮することができる。
【0061】
<架橋性ゴム組成物>
ここで、架橋性ゴム組成物としては、上述した架橋性ゴム組成物を用いることができる。
【0062】
<架橋>
また、架橋性ゴム組成物の架橋は、特に限定されることなく、例えば金型内での架橋性ゴム組成物の加熱および加圧などの既知の架橋方法を用いて行うことができる。なお、架橋条件は、架橋性ゴム組成物に含まれているフッ素ゴムの種類やゴム架橋物の用途に応じて適宜に設定することができる。
【0063】
<50%モジュラス>
そして、本発明のゴム架橋物は、50%モジュラスが5MPa以上である必要があり、7MPa以上であることが好ましい。50%モジュラスが5MPa以上であれば、シール部材として使用した際に十分に高い強度およびシール性を発揮することができる。特に、O-リングとして使用した際には、はみ出し破壊の発生を抑制することができ、高圧シール性に優れる。
【0064】
<圧縮永久歪み>
また、本発明のゴム架橋物は、圧縮永久歪み(230℃、500時間)が80%以下である必要があり、75%以下であることが好ましい。本発明者らの研究によれば、CNTを配合したフッ素ゴム架橋物における、高温(230℃)下、長時間(500時間)圧縮後の圧縮永久歪みは、CNTが架橋反応を阻害することによる架橋不良と、熱劣化による架橋部位の消失し易さと、CNTが三次元網目構造を形成することによる弾性回復の阻害との全ての影響を包括した指標であり、圧縮永久歪み(230℃、500時間)が80%以下であれば、上述した様々な因子の影響によるシール性の経時的な低下を十分に防止することができるからである。なお、高温(230℃)下、長時間(500時間)圧縮後の圧縮永久歪みとしたのは、低温下や、例えば70時間程度の短時間の圧縮では、ゴム架橋物の初期のクリープ変形の影響を評価できるだけであり、架橋反応の阻害の影響や熱劣化による架橋部位の消失し易さの影響を十分に把握できないからである。特に、耐熱性の高いフッ素ゴムでは、70時間程度の短時間での圧縮永久歪みや、それまでの圧縮永久歪みの経時変化では、長期シール性を予測することが出来ない。更に、フッ素ゴムは長期的に見ると分解型の劣化挙動を示すが、70時間までの比較的初期の段階では、配合の種類によっては分解型と硬化型の競争反応を示す場合もあるため、少なくとも300時間以上の長時間後の圧縮永久歪みを評価する必要がある。また、架橋不良の状態で圧縮永久歪み試験を実施すると、200時間程度は圧縮永久歪みが比較的良好でも架橋部位のゴム架橋物からの消失に伴い300時間を超える頃から急激に悪化する場合もあるからである。
【0065】
<破断伸びの変化率>
更に、本発明のゴム架橋物は、熱老化試験(230℃、72時間)前後の破断伸びの変化率が-10%以上10%以下である必要がある。熱老化試験(230℃、72時間)前後の破断伸びの変化率が-10%以上10%以下であれば、はみ出し破壊などの発生を十分に抑制し、長期に亘って優れたシール性を発揮することができる。
【0066】
<破断強度>
そして、本発明のゴム架橋物は、破断強度が23MPa以上であることが好ましく、25MPa以上であることがより好ましい。破断強度が23MPa以上であれば、ゴム架橋物の強度を十分に確保し、はみ出し破壊などの発生を十分に抑制し、シール部材の長期シール性を更に高めることができる。
【0067】
なお、上述した本発明のゴム架橋物は、特に限定されることなく、以下に説明する本発明のゴム架橋物の製造方法を用いて製造することができる。但し、本発明のゴム架橋物は、本発明のゴム架橋物の製造方法以外の方法で製造してもよい。
【0068】
(ゴム架橋物の製造方法)
本発明のゴム架橋物の製造方法は、上述したゴム架橋物の製造方法であって、フッ素ゴムと、フッ素ゴム中に分散したカーボンナノチューブとを含む複合化物を得る工程(A)と、複合化物と、カーボンブラックと、有機過酸化物架橋剤とを混練りし、架橋性ゴム組成物を得る工程(B)と、架橋性ゴム組成物を成形および架橋してゴム架橋物を得る工程(C)とを含む。そして、本発明のゴム架橋物の製造方法は、工程(A)において、フッ素ゴムと、カーボンナノチューブと、有機溶媒とを含む混合物を湿式分散処理した後、有機溶媒を除去することにより複合化物を得ることを特徴とする。
なお、本発明のゴム架橋物の製造方法は、工程(A)において湿式分散処理を用いることによりゴム架橋物の製造中にCNTのラジカル捕捉能が低下するのを抑制したものであり、特に限定されるものではないが、カーボンブラックとして炭素含有率が60質量%以上90質量%以下の石炭を含むカーボンブラックを使用しない場合に特に有利に用いることができる。
【0069】
そして、本発明のゴム架橋物の製造方法によれば、上述した物性を有するゴム架橋物を良好に製造することができる。
【0070】
<工程(A)>
ここで、工程(A)は、上述した架橋性ゴム組成物の製造方法の<複合化物の調製>の項に記載した内容に準拠して実施することができる。
【0071】
<工程(B)>
また、工程(B)では、複合化物と、カーボンブラックと、有機過酸化物架橋剤とを一括して混練りしてもよいが、工程(B)は、複合化物とカーボンブラックとを混練りしてプリコンパウンドを得る工程(B1)と、プリコンパウンドと有機過酸化物架橋剤とを混練りして前記架橋性ゴム組成物を得る工程(B2)とを含むことが好ましい。そして、工程(B2)では、混練物の温度が90℃以上にならないように混練りを行うことが好ましい。
【0072】
そして、工程(B)、工程(B1)および工程(B2)は、上述した架橋性ゴム組成物の製造方法の<架橋性ゴム組成物の調製>の項に記載した内容に準拠して実施することができる。
【0073】
<工程(C)>
工程(C)において架橋性ゴム組成物を成形および架橋する方法は、特に限定されない。工程(C)では、例えば、ロール等の既知の成形装置を用いて架橋性ゴム組成物を成形した後に成形体を加熱して架橋を行ってもよいし、押出成形機、射出成形機、カレンダー成形機または金型に架橋性ゴム組成物を投入して加熱および加圧することにより成形と架橋を同時に行ってもよい。
架橋制御による耐熱性付与の観点では、金型に架橋性ゴム組成物を投入して加熱および加圧する圧縮成形が好ましい。中でも、生じるガスを積極的に排出できる真空圧縮成形が特に好ましい。また、2次架橋を1次架橋よりも高温で実施することが好ましい。1次架橋条件は、架橋試験機から得られる架橋曲線から温度と時間を設定するのが好ましいが、多数のサンプルを作製した際のサンプル間の形状安定性の観点から、1次架橋時間は15分以上であることが好ましい。
なお、架橋性ゴム組成物を用いて得たシートを打抜いて所定の厚みの成形体を得る際には、複数枚数を重ねて任意の厚みにすることが出来るが、長期シール性の観点で、2枚以下の枚数を重ねて所定の厚みの成形品を得ることが好ましい。
【実施例
【0074】
以下、本発明について実施例を用いて更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において、フッ素ゴムのガラス転移温度、ゴム架橋物の50%モジュラス、圧縮永久歪み、破断伸びの変化率、破断強度および破断伸び、並びに、ゴム架橋物を用いたシール部材の長期シール性および安全性は、それぞれ以下の方法を使用して測定および評価した。
【0075】
<ガラス転移温度>
ガラス転移温度は、日立ハイテクサイエンス社製のDSC7000を用い、DSC法にて測定した。
具体的には、フッ素ゴム20mgをアルミパン上に載せ、昇温速度10℃/分で50℃まで加温した後、液体窒素で-70℃まで急冷し、再び10℃/分で昇温させてDSC曲線からガラス転移温度を読み取った。
<50%モジュラス>
50%モジュラスは、JIS K6251に準拠した方法で測定した。
具体的には、ゴム架橋物のシート(厚さ:2.0±0.2mm)から、ダンベル状3号形用スーパーダンベルカッター(ダンベル社製)を用いて試験片を打抜くことで、ダンベル状3号形の試験片を得た。
そして、ビデオ式非接触式伸び幅計(TRVierX500S、島津製作所社製)を備える引張試験機(AGS-X、島津製作所社製)を用い、23℃、50%湿度の恒温恒湿室内で、500mm/分の引張速度で引張試験を行った。なお、初期の標線間距離は20mmとした。
そして、試験片を50%伸ばした時の引張力を試験片の初期断面積で除して50%モジュラスを算出した。
<圧縮永久歪み>
圧縮永久歪みは、JIS K6262に準拠した方法で測定した。なお、試験片としては、架橋性ゴム組成物を用いて調製した円柱状の小型試験片(直径13.0±0.5mm、高さ6.3±0.3mm)を用いた。また、小型試験片を調製する際の架橋条件はゴム架橋物と同様の条件とした。
具体的には、230℃に加温した空気循環式オーブン(ギアー式オーブン、東洋精機社製)と、ダンベル社製の圧縮永久歪試験用金型とを用いて試験を実施した。小型試験片を25%の圧縮率となるように圧縮永久歪試験用金型に設置後、厚さ4.725mmのスペーサーを設置し、小型試験片の厚みが4.725mmになるように圧縮した状態で空気循環式オーブン内にて加熱した。
加熱開始後、24時間、72時間、168時間、336時間、504時間毎に空気循環式オーブンから小型試験片を取り出し、歪解放後に小型試験片を23℃、50%湿度の恒温恒湿室に30分間放置し、30分間放置後の厚みから各時間における圧縮永久歪み(%)を算出した。
そして、横軸に時間を、縦軸に圧縮永久歪みの値をプロットし、得られた曲線から加熱時間が500時間における圧縮永久歪み(%)の値を読み取った。
<破断伸びの変化率>
破断伸びの変化率は、JIS K6257に準拠した方法で熱老化試験を実施した後、JIS K6251に準拠した方法で破断伸びを測定して算出した。
具体的には、ゴム架橋物のシート(厚さ:2.0±0.2mm)から、ダンベル状3号形用スーパーダンベルカッター(ダンベル社製)を用いて試験片を打抜くことで、ダンベル状3号形の試験片を得た。
次に、230℃に加温した強制循環形熱老化試験機(ギアー式オーブン、東洋精機社製)の垂直軸を中心に回転する試験片取付枠に、ダンベル状3号形の試験片を取り付け、試験片を毎分7回転させつつ、水平方向に0.5m/秒の平均風速で空気を強制循環させて、72時間の熱老化試験を実施した。
そして、熱老化試験後のダンベル状3号形の試験片について、23℃、50%湿度の恒温恒湿条件にて、ビデオ式非接触式伸び幅計(TRVierX500S、島津製作所社製)を備える引張試験機(AGS-X、島津製作所社製)を用い、500mm/分の引張速度で引張試験を行った。なお、初期の標線間距離は20mmとした。
そして、切断時伸びを熱老化試験後の破断伸びとした。
また、予め、熱老化試験前の試験片について熱老化試験後の試験片と同様にして破断伸びを測定しておき、破断伸びの変化率を求めた。
<破断強度および破断伸び>
破断強度および破断伸びは、JIS K6251に準拠した方法で測定した。
具体的には、ゴム架橋物のシート(厚さ:2.0±0.2mm)から、ダンベル状3号形用スーパーダンベルカッター(ダンベル社製)を用いて試験片を打抜くことで、ダンベル状3号形の試験片を得た。
そして、ビデオ式非接触式伸び幅計(TRVierX500S、島津製作所社製)を備える引張試験機(AGS-X、島津製作所社製)を用い、23℃、50%湿度の恒温恒湿室内で、500mm/分の引張速度で引張試験を行った。なお、初期の標線間距離は20mmとした。
そして、切断時引張強さを破断強度とし、切断時伸びを破断伸びとした。
<長期シール性>
AS568-223型の金型を使用し、表1に示す架橋条件で線径3.53±0.1mm、内径40.87±0.5mmのO-リングを作製した。
次に、理研機器社製の200MPa高圧仕様の圧力容器に、O-リングを圧縮率が20~25%の範囲になるように装着した。バンドヒーターを使用し、230℃で500時間O-リングを加温した後、可変吐出型ポンプ(VFMP-15H)とブースターポンプを用いて圧力容器内の圧力を10MPaずつ昇圧させ、10分後の圧力低下の有無でシール性の評価を行った。具体的には、5分間同じ圧力を保持させ、5分後に昇圧回路を閉じ、5分後~10分後の圧力低下が10%未満であれば合格(圧力低下が無い)、10%以上であれば不合格(圧力低下がある)と判断した。そして、長期シール性を以下の基準で評価した。圧力低下が確認された圧力が大きいほど長期シール性に優れていることを示す。
A:110MPaでも圧力低下が無かった
B:70MPa以上100MPa以下で圧力低下が確認
C:60MPa以下で圧力低下が確認
<安全性>
AS568-223型の金型を使用し、表1に示す架橋条件で線径3.53±0.1mm、内径40.87±0.5mmのO-リングを作製した。
作製したO-リングを、450℃の窒素ガス雰囲気の電気炉に入れて3時間加熱分解させた。そして、サンプルを取り出し形状観察を行い、以下の基準で評価を行った。形状が維持されているものは安全性に優れている。
A:形状が維持されている
B:クラックが多数存在するが、形状は維持されている
C:形状は維持されておらず、バラバラに壊れている
【0076】
(実施例1)
<複合化物の調製>
3元系フッ素ゴム(VitonGBL600S、ケマーズ社製)1kgを9kgのメチルエチルケトン(MEK)に溶解させることで濃度10質量%のフッ素ゴム溶液を作製した。
次に、単層カーボンナノチューブ(ZEONANO SG101、ゼオンナノテクノロジー社製、SGCNT、平均直径4nm、平均長さ420μm、BET比表面積1240m/g、炭素純度99.91質量%)20.0gを濃度10質量%のフッ素ゴム溶液に加え、ホモジナイザーを用いて3000rpmで3時間撹拌させ、プレ分散処理を行った。そして、湿式ジェットミル(ナノヴェイダ、吉田機械興業社製)に、直径170μmと直径180μmのノズルが接続されたストレートノズルを接続し、プレ分散処理液を30MPaで1パス通過させて詰りが無いことを確認した。その後、100MPaで5パス通過させ、湿式分散処理を行った。
そして、レーザー回折式粒度分布計(HORIBA社製、LA-960)で平均粒径を測定したところ、平均粒径は24μmであり単峰性の分布状況を示す単分散であることを粒度分布で確認した。また、100μm以上の粒径を有するCNTは10体積%以下であることを確認した。
その後、得られた湿式分散処理液を、薄膜式乾燥法にて乾燥した。具体的には、乾燥後の厚さが500μm程度になるように湿式分散処理液を130℃程度に加温された場所に滴下し、固形物濃度が99質量%以上になるまで乾燥させた後に、90℃で真空乾燥処理を行い、フッ素ゴム100質量部当たり単層カーボンナノチューブを2質量部の割合で含有する複合化物を得た(工程(A))。
<プリコンパウンドの調製>
バンバリーミキサーを使用し、複合化物と、3元系フッ素ゴム(VitonGBL600S、ケマーズ社製)と、カーボンブラックと、架橋助剤と、受酸剤とを混練し、プリコンパウンドを調製した。
具体的には、バンバリーミキサーを温度50℃に設定し、50rpmで3元系フッ素ゴム(VitonGBL600S、ケマーズ社製)50質量部を1分間素練りした後に、複合化物51質量部(フッ素ゴム量:50質量部)を加え、更に1分間練った。その後、カーボンブラックとしての中粒熱分解サーマルブラック(Cancarb社製、Termax N990)29質量部およびオースチンブラック(COAL FILLERS社製、炭素含有率87質量%の瀝青炭)1質量部と、架橋助剤としてのTAIC(日本化成社製、トリアリルイソシアヌレート)3質量部と、受酸剤としての酸化亜鉛(ハクスイテック社製)3質量部とを添加し、1分間混練した。その後、更にカーボンブラックとしての中粒熱分解サーマルブラック(Cancarb社製、Termax N990)29質量部およびオースチンブラック(COAL FILLERS社製、炭素含有率87質量%の瀝青炭)1質量部を添加し、1分間混練して、有機過酸化物架橋剤以外の配合成分が混合されたプリコンパウンドを得た(工程(B1))。
なお、混練時にトルクが安定しない時は、更に1分間追加で混練した。また、混練物の温度は、150~175℃の範囲になるようにした。また、充填率は容積の70%になるように充填量を調整した。
<架橋性ゴム組成物の調製>
得られたプリコンパウンドをバンバリーミキサーから排出し、60℃に温度設定した二本ロールにて有機過酸化物架橋剤(パーヘキサ25B-40、日油社製、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンの40%シリカ希釈品)2質量部をプリコンパウンドに添加した。なお、バンバリーミキサーから排出された直後のプリコンパウンドに熱電対を刺し温度を測定すると162℃であった。
有機過酸化物架橋剤を全て添加した後に、3/4切り返しを3往復実施した。なお、ロール間隙は概ね0.7mm~1.5mmの間とした。
最後に、ロール間隙を0.5mmとし、丸目通しを5回実施し、架橋性ゴム組成物を得た(工程(B2))。なお、丸目通しを行った直後の架橋性ゴム組成物の表面温度(最終到達温度)は84℃だった。
<ゴム架橋物の調製>
引き続き二本ロールにて成形品の形状に合わせてシート厚みを調整する分出しを行い、架橋性ゴム組成物のシートを得た。
次に、150tの圧縮成形機を用い、40cm×40cmの大きさの鋼材製金型に対して100tonの圧力をかけて温度177℃で7分間の1次架橋を行った。更に、温度232℃で2時間の2次架橋を行って、ゴム架橋物を得た(工程(C))。
そして、各種物性を評価した。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2)
複合化物の調製時に、単層カーボンナノチューブの量を16.0gに変更してフッ素ゴム100質量部当たり単層カーボンナノチューブを1.6質量部の割合で含有する複合化物を調製し、プリコンパウンドの調製時に、複合化物の量を50.8質量部(フッ素ゴム量:50質量部)に変更すると共に2回に分けて添加するオースチンブラックの量を合計4質量部(2質量部×2)に変更した以外は実施例1と同様にして、複合化物、プリコンパウンド、架橋性ゴム組成物およびゴム架橋物を調製した。
そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例3)
<複合化物の調製>
単層カーボンナノチューブの量を10.0gに変更した以外は実施例1と同様にして、フッ素ゴム100質量部当たり単層カーボンナノチューブを1.0質量部の割合で含有する複合化物を調製した(工程(A))。
<プリコンパウンドの調製>
ワンダーニーダーを使用し、複合化物と、3元系フッ素ゴム(VitonGBL600S、ケマーズ社製)と、カーボンブラックと、架橋助剤と、受酸剤とを混練し、プリコンパウンドを調製した。なお、ワンダーニーダーは、バンバリーミキサーに比べてクリアランスが均質な構造になっており、冷却能力が高いため混練時のせん断発熱を低く抑えることが出来る。
具体的には、80℃に加温したワンダーニーダー(日本スピンドル社製、ワンダーニーダーD0.5-3、ワンダーブレードを搭載したニーダー)を使用し、50rpmで3元系フッ素ゴム(VitonGBL600S、ケマーズ社製)50質量部および複合化物50.5質量部(フッ素ゴム量:50質量部)を練った。その後、カーボンブラックとしての中粒熱分解サーマルブラック(Cancarb社製、Termax N990)35質量部と、受酸剤としての酸化亜鉛(ハクスイテック社製)3質量部とを添加し、1分間混練した。その後、更にカーボンブラックとしての中粒熱分解サーマルブラック(Cancarb社製、Termax N990)35質量部と、架橋助剤としてのTAIC(日本化成社製、トリアリルイソシアヌレート)3質量部とを添加し、3分間混練して、有機過酸化物架橋剤以外の配合成分が混合されたプリコンパウンドを得た(工程(B1))。
なお、混練物の最終到達温度は、150℃であった。また、充填率は容積の85%になるように充填量を調整した。
<架橋性ゴム組成物の調製>
その後、設定温度50℃まで下げて10rpmでプリコンパウンドを冷却し、5分間温度が安定した後に、有機過酸化物架橋剤(パーヘキサ25B-40、日油社製、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンの40%シリカ希釈品)2質量部をプリコンパウンドに3分間かけて分割添加した。そして、更に15分間混練し、架橋性ゴム組成物を得た(工程(B2))。なお、ゴムの最終到達温度は83℃であった。
<ゴム架橋物の調製>
40℃に加温した二本ロールにて、架橋性ゴム組成物の3/4切り返しを3往復以上した後、成形品の形状に合わせてシート厚みを調整する分出しを行い、架橋性ゴム組成物のシートを得た。
次に、150tの圧縮成形機を用い、40cm×40cmの大きさの鋼材製金型に対して100tonの圧力をかけて温度160℃で30分間の1次架橋を行った。更に、温度232℃で2時間の2次架橋を行って、ゴム架橋物を得た(工程(C))。
そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例4)
複合化物の調製時に、3元系フッ素ゴムに替えて2元系フッ素ゴム(Dai-el G801、ダイキン工業社製)を使用し、単層カーボンナノチューブの量を40.0gに変更してフッ素ゴム100質量部当たり単層カーボンナノチューブを4.0質量部の割合で含有する複合化物を調製し、プリコンパウンドの調製を以下のようにして行い、架橋性ゴム組成物の調製時に有機過酸化物架橋剤としてパーヘキサ25B、日油社製、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン)1.5質量部を使用した。なお、有機過酸化物架橋剤は液体であったため、液体がロールに付着しないようにスポイトで複数回に分けて注意深くバンク部分に添加した。また、ゴム架橋物の調製時に、1次架橋の条件を温度160℃で20分間にし、2次架橋の条件を温度180℃で4時間にした。それ以外は実施例1と同様にして、複合化物、プリコンパウンド、架橋性ゴム組成物およびゴム架橋物を調製した。
そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
<プリコンパウンドの調製>
バンバリーミキサーを使用し、複合化物と、2元系フッ素ゴム(Dai-el G801、ダイキン工業社製)と、カーボンブラックと、架橋助剤とを混練し、プリコンパウンドを調製した。
具体的には、バンバリーミキサーを温度50℃に設定し、50rpmで2元系フッ素ゴム(Dai-el G801、ダイキン工業社製)50質量部を1分間素練りした後に、複合化物52質量部(フッ素ゴム量:50質量部)を加え、更に1分間練った。その後、カーボンブラックとしての中粒熱分解サーマルブラック(Cancarb社製、Termax N990)25質量部およびオースチンブラック(COAL FILLERS社製、炭素含有率87質量%の瀝青炭)1質量部と、架橋助剤としてのTAIC(日本化成社製、トリアリルイソシアヌレート)4質量部とを添加し、1分間混練した。その後、更にカーボンブラックとしての中粒熱分解サーマルブラック(Cancarb社製、Termax N990)25質量部およびオースチンブラック(COAL FILLERS社製、炭素含有率87質量%の瀝青炭)1質量部を添加し、1分間混練して、有機過酸化物架橋剤以外の配合成分が混合されたプリコンパウンドを得た(工程(B1))。
なお、混練時にトルクが安定しない時は、更に1分間追加で混練した。また、混練物の温度は、150~175℃の範囲になるようにした。また、充填率は容積の70%になるように充填量を調整した。
【0080】
(実施例5)
複合化物の調製時に、単層カーボンナノチューブ20.0gに替えて多層カーボンナノチューブ(NC7000、Nanocyl社製、平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm、BET比表面積280m/g、炭素純度90質量%)120.0gを使用してフッ素ゴム100質量部当たり多層カーボンナノチューブを12.0質量部の割合で含有する複合化物を調製し、プリコンパウンドの調製時に、複合化物の量を56.0質量部(フッ素ゴム量:50質量部)に変更すると共に2回に分けて添加する中粒熱分解サーマルブラックの量を合計45質量部(22.5質量部×2)に変更した以外は実施例1と同様にして、複合化物、プリコンパウンド、架橋性ゴム組成物およびゴム架橋物を調製した。
そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例6)
複合化物の調製時およびプリコンパウンドの調製時に、3元系フッ素ゴム(VitonGBL600S、ケマーズ社製)に替えて3元系フッ素ゴム(VitonGFLT600S、ケマーズ社製)を使用し、複合化物の調製時に、多層カーボンナノチューブの量を60.0gに変更してフッ素ゴム100質量部当たり単層カーボンナノチューブを6.0質量部の割合で含有する複合化物を調製し、プリコンパウンドの調製時に、複合化物の量を53.0質量部(フッ素ゴム量:50質量部)に変更すると共に2回に分けて添加するオースチンブラックの量を合計4質量部(2質量部×2)に変更した以外は実施例5と同様にして、複合化物、プリコンパウンド、架橋性ゴム組成物およびゴム架橋物を調製した。
そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0082】
(比較例1)
複合化物を調製せず、プリコンパウンドの調製を以下のようにして行った以外は実施例1と同様にして、プリコンパウンド、架橋性ゴム組成物およびゴム架橋物を調製した。
そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
<プリコンパウンドの調製>
バンバリーミキサーを使用し、3元系フッ素ゴム(VitonGBL600S、ケマーズ社製)と、カーボンブラックと、架橋助剤と、受酸剤とを混練し、プリコンパウンドを調製した。
具体的には、バンバリーミキサーを温度50℃に設定し、50rpmで3元系フッ素ゴム(VitonGBL600S、ケマーズ社製)100質量部を1分間素練りした。その後、カーボンブラックとしての中粒熱分解サーマルブラック(Cancarb社製、Termax N990)22.5質量部と、架橋助剤としてのTAIC(日本化成社製、トリアリルイソシアヌレート)3質量部と、受酸剤としての酸化亜鉛(ハクスイテック社製)3質量部とを添加し、1分間混練した。その後、更にカーボンブラックとしての中粒熱分解サーマルブラック(Cancarb社製、Termax N990)22.5質量部を添加し、1分間混練して、有機過酸化物架橋剤以外の配合成分が混合されたプリコンパウンドを得た(工程(B1))。
なお、混練時にトルクが安定しない時は、更に1分間追加で混練した。また、混練物の温度は、150~175℃の範囲になるようにした。また、充填率は容積の70%になるように充填量を調整した。
【0083】
(比較例2~3)
プリコンパウンドの調製時に、2回に分けて添加する中粒熱分解サーマルブラックの合計量をそれぞれ60質量部(30質量部×2)および70質量部(35質量部×2)に変更した以外は比較例1と同様にして、プリコンパウンド、架橋性ゴム組成物およびゴム架橋物を調製した。
そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
(比較例4)
複合化物およびプリコンパウンドを調製せず、架橋性ゴム組成物の調製を以下のようにして行った以外は実施例1と同様にして、架橋性ゴム組成物およびゴム架橋物を調製した。
そして、実施例1と同様にして評価を行った。結果を表1に示す。
<架橋性ゴム組成物の調製>
ロール径が6インチのオープンロール(ロール温度15℃)に、3元系フッ素ゴム(VitonGBL600S、ケマーズ社製)100質量部を投入して、ロールに巻き付かせた。
次に、カーボンブラックとしての中粒熱分解サーマルブラック(Cancarb社製、Termax N990)10質量部、ハイストラクチャーファーネスブラック(東海カーボン社製、シーストFY、算術平均粒子径72nm、DBP吸油量152cm/100g)15質量部、およびオースチンブラック(COAL FILLERS社製、炭素含有率87質量%の瀝青炭)6質量部、CNTとしての単層カーボンナノチューブ(SG101、ゼオンナノテクノロジー社製、SGCNT、平均直径4nm、平均長さ420μm、BET比表面積1240m/g、炭素純度99.91質量%)2質量部、架橋助剤としてのTAIC(日本化成社製、トリアリルイソシアヌレート)3質量部と、受酸剤としての酸化亜鉛(ハクスイテック社製)3質量部をフッ素ゴムに投入した。このとき、ロール間隙dを1.5mmとした。続いて、ロール間隙dを1.5mmから0.3mmと狭くして薄通しを5回行い、プリコンパウンドを得た。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。
ロール温度の設定を15℃から60℃に変更し、有機過酸化物架橋剤(パーヘキサ25B-40、日油社製、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサンの40%シリカ希釈品)2質量部をプリコンパウンドに添加した。有機過酸化物架橋剤を全て添加した後に、3/4切り返しを3往復実施した。なお、ロール間隙は概ね0.7mm~1.5mmの間とした。
最後に、ロール間隙を0.5mmとし、丸目通しを5回実施し、架橋性ゴム組成物を得た。
【0085】
【表1】
【0086】
表1より、実施例1~6のゴム架橋物は、比較例1~4のゴム架橋物と比較し、シール部材として用いた際のシール性に優れていることが分かる。
また、表1より、単層カーボンナノチューブを用いた実施例1~4のゴム架橋物は、多層カーボンナノチューブを用いた実施例5~6のゴム架橋物と比較し、シール部材として用いた際の安全性に優れていることが分かる。
なお、各実施例および比較例においてゴム架橋物のガラス転移温度を測定したところ、フッ素ゴムのガラス転移温度からの上昇は5℃以下であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明によれば、高温・高圧環境下での長期シール性に優れるシール部材を提供可能なゴム架橋物が得られる。