(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】流体デバイス及び被分離物質の分離方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/08 20060101AFI20221109BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20221109BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20221109BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20221109BHJP
B81B 3/00 20060101ALI20221109BHJP
B01D 61/18 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
G01N35/08 A
G01N37/00 101
G01N1/10 B
G01N1/00 101M
B81B3/00
B01D61/18
(21)【出願番号】P 2019525384
(86)(22)【出願日】2018-06-08
(86)【国際出願番号】 JP2018022032
(87)【国際公開番号】W WO2018235634
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2021-06-04
(31)【優先権主張番号】P 2017121353
(32)【優先日】2017-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】三井 慶治
(72)【発明者】
【氏名】小林 遼
(72)【発明者】
【氏名】高崎 哲臣
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-026629(JP,A)
【文献】特表2017-501025(JP,A)
【文献】特表2018-524571(JP,A)
【文献】特開昭58-121959(JP,A)
【文献】実開昭61-112270(JP,U)
【文献】特開2011-064088(JP,A)
【文献】米国特許第07281632(US,B2)
【文献】IIDA Kazuhiro et al.,PLANAR ULTRA-FILTRATION CHIP FOR RAPID PLASMA SEPARATION BY DIFFUSION,Micro Total Analysis Systems 2002,2,Kluwer Academic Publishers,2002年,627-629
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/08
G01N 37/00
G01N 1/10
G01N 1/00
B81B 3/00
B01D 61/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の流路と、
前記第1の流路と接続し、前記第1の流路に被分離物質を含む第1の流体を導入する第1の流入用流路と、
前記第1の流路と接続し、前記第1の流路から前記第1の流体を排出する第1の排出用流路と、
前記第1の流入用流路及び前記第1の排出用流路にそれぞれ設けられ、前記第1の流路との接続を開閉可能とし、且つ、共に閉状態とすることで前記第1の流路を閉じた回路とするバルブと、
前記第1の流路の一部に形成され、前記第1の流体から前記被分離物質をろ過して分離するフィルターと、
前記フィルターを介して前記第1の流路と接続し、分離された前記被分離物質を回収する第2の流体が導入される第2の流路と、
前記第1の流路に配置され、前記第1の流路中の前記第1の流体の流れを調節する第1の流体調節部と、
を備える、
流体デバイス。
【請求項2】
前記第2の流路と接続し、前記第2の流路に前記第2の流体を導入する第2の流入用流路と、
前記第2の流路と接続し、前記第2の流路から前記第2の流体を排出する第2の排出用流路と、
前記第2の流入用流路及び前記第2の排出用流路にそれぞれ設けられ、前記第2の流路との接続を開閉可能とし、且つ、共に閉状態とすることで前記第2の流路を閉じた回路とするバルブと、を備える
請求項1に記載の流体デバイス。
【請求項3】
前記第2の流体の流れを調節する第2の流体調節部を備え、
前記第2の流体調節部は前記第2の流路に配置される、請求項
1又は2に記載の流体デバイス。
【請求項4】
貼り合わされた少なくとも2枚の基板を備え、
第1の基板と対向する第2の基板の表面に、前記第1の流路の少なくとも一部となる第1の凹部が形成され、
第2の基板と対向する第1の基板の表面に、前記第2の流路の少なくとも一部となる第2の凹部が形成され、
前記フィルターは、前記第1の基板と前記第2の基板に挟持され、
前記第1の凹部と前記第2の凹部が前記フィルターを介して対向する、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の流体デバイス。
【請求項5】
前記フィルターはダイアフラム部材を備え、
前記ダイアフラム部材は前記第1の基板と前記第2の基板に挟持されている、
請求項
4に記載の流体デバイス。
【請求項6】
前記ダイアフラム部材は、前記フィルターと接触して固定されている、
請求項
5に記載の流体デバイス。
【請求項7】
前記第1の流体は血液サンプルである、
請求項1~
6のいずれか一項に記載の流体デバイス。
【請求項8】
前記フィルターのろ過方向が、前記第1の流路を流体が流れる方向及び前記第2の流路を流体が流れる方向と略直交するように配置されている、
請求項1~
7のいずれか一項に記載の流体デバイス。
【請求項9】
前記第1の流路と前記第2の流路とが略平行になる部分を有し、前記略平行になる部分に前記フィルターが設けられている、
請求項1~
8のいずれか一項に記載の流体デバイス。
【請求項10】
前記フィルターはメンブレンフィルターである、
請求項1~
9のいずれか一項に記載の流体デバイス。
【請求項11】
流体デバイスを用いて、被分離物質を含む第1の流体から前記被分離物質を分離する方法であって、
前記流体デバイスは、
第1の流路と、
前記第1の流路と接続し、前記第1の流路に被分離物質を含む第1の流体を導入する第1の流入用流路と、
前記第1の流路と接続し、前記第1の流路から前記第1の流体を排出する第1の排出用流路と、
前記第1の流入用流路及び前記第1の排出用流路にそれぞれ設けられ、前記第1の流路との接続を開閉可能とし、且つ、共に閉状態とすることで前記第1の流路を閉じた回路とするバルブと、
前記第1の流路の一部に形成され、前記第1の流体から前記被分離物質をろ過して分離するフィルターと、
前記フィルターを介して前記第1の流路と接続し、分離された前記被分離物質を回収する第2の流体が導入される第2の流路と、
前記第1の流路に配置され、前記第1の流路中の前記第1の流体の流れを調節する第1の流体調節部と、
を備え、
(a)前記第1の流路に、前記第1の流体を導入し、前記第2の流路に前記第2の流体を導入する工程と、
(b)
前記バルブを閉状態として前記第1の流路を閉じた回路とすると共に、前記第1の流体調節部により前記第1の流路の中で前記第1の流体を移動させ、前記フィルターを介して前記第1の流体から前記第2の流体に前記被分離物質を移動させる工程と、
(c)前記第2の流路の中の前記第2の流体を回収する工程と、
(d)前記第1の流路から前記第1の流体を排出させる工程と、
を含む、被分離物質の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は流体デバイス及びその使用に関する。本願は、2017年6月21日に、日本に出願された特願2017-121353号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
臨床検査では、血液から血球成分を分離し、血漿や血清が回収されている。一般的には、遠心機を用いた遠心分離により、血液中の血球成分を沈殿させ、上清を回収することで血漿や血清を得る場合が多い。しかしながら、この方法では、血球成分の分離に時間を要し、また、少量サンプルの処理が困難である。
【0003】
また、フィルターを通して血液から血球成分を分離する方法も知られている。しかしながら、この方法では、フィルターのろ過方向に圧力がかかり、血球成分がフィルターに詰まりやすく、溶血が起こりやすい。フィルターの目詰まりを抑制するために、孔のサイズが厚み方向に変化する非対称性多孔質膜を用いることが提案されているが(例えば、特許文献1参照)、構成が複雑となり、十分に溶血を防ぐこともできない。
【0004】
少量の血液から、溶血させずに血球成分を効率よく分離することができる新たなデバイスが必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
一実施形態に係る流体デバイスは、被分離物質を含む第1の流体が導入される第1流体導入部と、前記被分離物質を回収する第2の流体が導入される第2流体導入部と、前記第1の流体の流れ、及び/又は前記第2の流体の流れを調節する流体調節部と、を含み、前記第1流体導入部及び前記第2流体導入部の少なくとも一方は流路形状を有し、前記第1流体導入部及び前記第2流体導入部の少なくとも一部は、前記被分離物質を選択的に透過させるフィルター、又は、前記被分離物質以外の所定の物質を選択的に透過させないフィルターを介して互いに連通している。
【0007】
一実施形態に係る被分離物質を分離する方法は、流体デバイスを用いて、被分離物質を含む第1の流体から被分離物質を分離する方法であって、前記流体デバイスは、前記第1の流体が導入される第1流体導入部と、前記被分離物質を回収する第2の流体が導入される第2流体導入部と、前記第1の流体の流れ、及び/又は前記第2の流体の流れを調節する流体調節部と、を含み、前記第1流体導入部及び前記第2流体導入部の少なくとも一方は流路形状を有し、前記第1流体導入部及び前記第2流体導入部の少なくとも一部は、前記被分離物質を選択的に透過させるフィルター、又は、前記被分離物質以外を選択的に透過させないフィルターを介して互いに連通している流体デバイスであって、前記分離部の前記第1流体導入部に、前記第1の流体を導入し、前記第2流体導入部に前記第2の流体を導入する工程と、前記第1の流体の流れ、及び/又は前記第2の流体の流れを調節する流体調節部を作動させて前記第1の流体及び/又は前記第2の流体を移動させる工程と、前記第2流体導入部中の流体を回収する工程と、を含む。
【0008】
一実施形態に係る流体デバイスは、被分離物質を含む第1の流体から被分離物質を分離する分離部であって、前記第1の流体を流す第1の流路と、前記被分離物質を回収する流体を流す第2の流路と、前記第1の流体の流れを調節するポンプ部、及び/又は前記第2の流体の流れを調節するポンプ部と、を含み、前記第1の流路及び前記第2の流路の少なくとも一部は、前記被分離物質を選択的に透過させるフィルター、又は、前記被分離物質以外の所定の物質を選択的に透過させないフィルターを介して互いに連通している、分離部、を含む。
【0009】
一実施形態に係る被分離物質を分離する方法は、流体デバイスを用いて、被分離物質を含む第1の流体から被分離物質を分離する方法であって、前記流体デバイスは、被分離物質を含む第1の流体から被分離物質を分離する分離部であって、前記第1の流体を流す第1の流路と、前記被分離物質を回収する第2の流体を流す第2の流路と、前記第1の流体の流れを調節するポンプ部、及び/又は前記第2の流体の流れを調節するポンプ部と、を含み、前記第1の流路及び前記第2の流路の少なくとも一部は、前記被分離物質を選択的に透過させるフィルター、又は、前記被分離物質以外を選択的に透過させないフィルターを介して互いに連通している、分離部を含み、前記分離部の前記第1の流路に、前記第1の流体を導入し、前記第2の流路に前記第2の流体を導入する工程と、前記第1の流体の流れを調節するポンプ部、及び/又は前記第2の流体の流れを調節するポンプ部を作動させて前記第1の流体及び/又は前記第2の流体を移動させる工程と、前記第2の流体を回収する工程と、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】流体デバイスの一実施形態を説明する模式図である。
【
図3】(a)及び(b)は、ダイアフラムバルブの構造を説明する断面図である。
【
図4】(a)~(d)は、3個のダイアフラムバルブを備えるポンプの動作を説明する断面図である。
【
図5】(a)及び(b)は、ダイアフラムバルブの一実施形態の構造を説明する断面図である。
【
図6】(a)は、分離部の一実施形態を説明する斜視図である。(b)は(a)のb-b’線における矢視断面図である。
【
図8】実験例2において、第1の流路に疑似血液を導入し、第2の流路にリン酸バッファー(PBS)を導入した分離部の写真である。
【
図9】実験例2において、実験開始から約250秒後の分離部の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、場合により図面を参照しつつ、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一又は相当部分には同一又は対応する符号を付し、重複する説明は省略する。なお、各図における寸法比は、説明のため誇張している部分があり、必ずしも実際の寸法比とは一致しない。
【0012】
[流体デバイス]
本実施形態において、流体デバイスは、被分離物質を含む第1の流体が導入される第1流体導入部と、前記被分離物質を回収する第2の流体が導入される第2流体導入部と、前記第1の流体の流れ、及び/又は前記第2の流体の流れを調節する流体調節部と、を含み、前記第1流体導入部及び前記第2流体導入部の少なくとも一方は流路形状を有し、前記第1流体導入部及び前記第2流体導入部の少なくとも一部は、前記被分離物質を選択的に透過させるフィルター、又は、前記被分離物質以外の所定の物質を選択的に透過させないフィルターを介して互いに連通している。
【0013】
本実施形態の流体デバイスは、流体から被分離物質を分離するための分離部を有するということもできる。この場合、分離部は、被分離物質を含む第1の流体を流す第1の流路と、前記被分離物質を回収する第2の流体を流す第2の流路と、前記第1の流体の流れを調節するポンプ部、及び/又は前記第2の流体の流れを調節するポンプ部と、を含み、前記第1の流路及び前記第2の流路の少なくとも一部は、前記被分離物質を選択的に透過させるフィルター、又は、前記被分離物質以外の所定の物質を選択的に透過させないフィルターを介して互いに連通している。
【0014】
図1は、本実施形態の流体デバイスを説明する模式図である。
図1に示すように、流体デバイスは、第1流体導入部110と、第2流体導入部120と、流体調節部130と、を含み、第1流体導入部110及び第2流体導入部120の少なくとも一部は、フィルター140を介して互いに連通している。
【0015】
図1は、本実施形態の流体デバイスの分離部の一例を示す模式図であるということもできる。
図1に示すように、分離部100は、第1の流路(第1流体導入部)110と、第2の流路(第2流体導入部)120と、ポンプ部(流体調節部)130と、を備え、第1の流路110及び第2の流路120の一部は、フィルター140を介して互いに連通している。
【0016】
第1の流路110は、被分離物質を含む流体を流すためのものである。また、第2の流路120は、被分離物質を回収する流体を流すためのものである。つまり、第1の流路(第1流体導入部)及び第2の流路(第2流体導入部)は、いずれも流路形状を有していてもよい。また、ポンプ部130は、第1の流路110中の流体の流れを調節するものである。また、フィルター140は、被分離物質を選択的に透過させるもの、又は被分離物質以外の所定の物質を選択的に透過させないものである。第1流体導入部と第2流体導入部とは、略平行になる部分を有しており、該平行部分にフィルターが設けられていてもよい。
【0017】
図1に示すように、第1の流路110には、第1の流路110の内部に流体を導入するための流入用流路111が接続されていてもよい。また、第1の流路110には、第1の流路110の内部の流体を外部に排出するための排出用流路112が接続されていてもよい。また、分離部100は、流入用流路111と第1の流路110の連通を開状態又は閉状態に制御するためのバルブ113を備えていてもよい。また、分離部100は、排出用流路112と第1の流路110の連通を開状態又は閉状態に制御するためのバルブ114を備えていてもよい。
【0018】
また、第2の流路120には、第2の流路120の内部に流体を導入するための流入用流路121が接続されていてもよい。また、第2の流路120には、第2の流路120の内部の流体を外部に排出するための排出用流路122が接続されていてもよい。また、分離部100は、流入用流路121と第2の流路120の連通を開状態又は閉状態に制御するためのバルブ123を備えていてもよい。また、分離部100は、排出用流路122と第2の流路120の連通を開状態又は閉状態に制御するためのバルブ124を備えていてもよい。
【0019】
バルブ113、114、123、124としては流体デバイスに使用される任意のバルブを用いることができるが、例えば、後述する、ポンプ部130を構成するバルブと同様のものを用いることができる。
【0020】
ここで、分離部100を用いて、被分離物質を含む第1の流体から、被分離物質を分離する方法について、例を挙げて説明する。
【0021】
まず、分離部100の第1の流路110に、被分離物質を含む第1の流体を導入する。被分離物質としては、特に限定されないが、ここでは、一例として、血液サンプルから被分離物質として血漿成分を分離して回収する場合を説明する。すなわち、ここでは、被分離物質を含む第1の流体は血液サンプルである。血液サンプルは、全血であってもよく、全血から前処理によって一部の成分が除かれたものであってもよい。血液は、血漿成分の他、赤血球、白血球、血小板等の血球成分を含んでおり、臨床検査のためには、赤血球、白血球、血小板等を取り除いた血漿成分を回収することが必要な場合がある。
【0022】
まず、バルブ113及びバルブ114をいずれも開状態にする。この結果、流入用流路111、第1の流路110及び排出用流路112が連通した状態になる。続いて、流入用流路111から血液サンプルを導入する。導入された血液サンプルは、第1の流路110を満たした後、余剰分が排出用流路112から排出される。第1の流路110に血液サンプルが満たされたら、バルブ113及びバルブ114をいずれも閉状態にする。この結果、第1の流路110は閉じた回路を形成することとなる。
【0023】
後述するように、第1の流路110が閉じた回路を形成することにより、第1の流路110中の流体を繰り返し循環させることが可能になり、被分離物質の分離を効率よく行うことが容易になる。
【0024】
なお、第1の流路110は、閉じた回路を形成していなくてもよい。第1の流路をループ状にせず、第1の流体を一方向に流して、被分離物質を分離することもできる。
【0025】
続いて、第2の流路120に、前記被分離物質を回収する流体を導入する。本例においては、血漿成分を溶解又は分散させて回収する流体として、例えば生理食塩水を用いればよい。第1の流路110と第2の流路120に流体を導入する順序は限定されない。
【0026】
まず、バルブ123及びバルブ124をいずれも開状態にする。この結果、流入用流路121、第2の流路120及び排出用流路122が連通した状態になる。続いて、流入用流路121から生理食塩水を導入する。導入された生理食塩水は、第2の流路120を満たした後、余剰分が排出用流路122から排出される。第2の流路120に生理食塩水が満たされたら、バルブ123及びバルブ124をいずれも閉状態にする。この結果、第2の流路120は閉じた回路を形成することとなる。
【0027】
後述するように、第2の流路120が閉じた回路を形成することにより、第2の流路120中の流体を繰り返し循環させることが可能になり、被分離物質の分離・濃縮を効率よく行うことが容易になる。
【0028】
なお、第2の流路120は、閉じた回路を形成していなくてもよい。第2の流路をループ状にせず、第2の流体を一方向に流して、被分離物質を回収することもできる。
【0029】
続いて、ポンプ部130を作動させる。その結果、第1の流体、すなわち血液サンプルが第1の流路110の内部を循環する。これにより、血球成分は流路方向、すなわちフィルター140と平行な方向に力を受け、フィルターのろ過方向には力を受けにくくなる。そのため、血球成分によってフィルターに目詰まりを生じることや、血球成分が壊れて溶血することを抑えることができる。
【0030】
一方、フィルター140を透過できる被分離物質は、第1の流路110から第2の流路120に移動する。後述するように、ポンプ部130として、第1の流路110に配置された複数のバルブを使用する場合、ポンプを作動させバルブを閉めることによって第1の流路の体積がわずかに減少することから、被分離物質が第2の流路に適度に押し出され、効率よく被分離物質を分離することができる。
【0031】
フィルター140は、被分離物質のみ選択的に透過させるものであってもよく、被分離物質以外の所定の物質を選択的に透過させないものであってもよい。後者の場合、フィルター140として、被分離物質に含まれることが望ましくない所定の物質を選択的に透過させないものを使用することができる。この場合、被分離物質に加えて、被分離物質と分離できなくてもよい他の物質がフィルター140を透過することもあり得る。本例の場合、フィルター140としては、赤血球、白血球及び血小板を選択的に透過させず、血漿成分(被分離物質)を透過させるものを使用する。例えば、孔径が1μm程度のフィルターシートを用いることができる。フィルターの詳細については後述する。
【0032】
続いて、第2の流路120中の第2の流体、すなわち血漿成分を含む生理食塩水を回収する。
【0033】
まず、バルブ123及びバルブ124をいずれも開状態にする。この結果、流入用流路121、第2の流路120及び排出用流路122が連通した状態になる。続いて、排出用流路122から血漿成分が溶解又は分散した生理食塩水を排出させ、回収する。以上の操作により、血液サンプルから血漿成分を分離することができる。
【0034】
本実施形態の分離部100により分離できる被分離物質は、血漿成分に限られない。例えば、溶液中のリポソームをサイズ毎に分画することもできるし、ビーズを含む混合液からビーズを分離することもできるし、環境や呼気などの気体から微粒子(ゴミ)や菌、ウイルスを分離するために用いることもできる。すなわち、被分離物質としては、血漿成分、リポソーム、ビーズ、その他の微粒子、微生物等が挙げられる。
【0035】
本実施形態では、被分離物質(血漿成分)を回収することを目的としている。したがって、被分離物質以外の成分が、第2の流路120に十分に移動した後、第1の流路内の流体を回収する。また、被分離物質が第2の流路に移動した後、第1の流路内に残存した物質を回収してもよい。
【0036】
このように、本実施形態により新たな分離部を提供することができる。本実施形態の分離部を備える流体デバイスによれば、例えば、微量の血液を用いた臨床検査を小型のデバイス上で実施することが可能になる。この場合、第1の流路110及び第2の流路120の幅又は深さは、例えば、数μmから数百mm程度、数μmから数十mm程度、数μmから数mm程度であってもよい。
【0037】
このような分離部を用いることにより、例えば、血液から迅速に血漿成分を分離することができる。また、後述するように血球がフィルターに詰まりにくい構成にすることが容易であり、溶血を起きにくくすることができる。また、操作を行うために特殊な技術を習得する必要がない。また、分離部は使い捨てにできることから、検体同士のコンタミネーションや、検体に含まれる病原微生物等による感染のリスクが低減される。また、少量の検体に対応することができる。
【0038】
(変形例)
上述した分離部100では、ポンプ部130が第1の流路110のみに配置されていた。しかしながら、ポンプ部は第2の流路120のみに配置されていてもよいし、第1の流路110及び第2の流路120の双方に配置されていてもよい。
【0039】
図2は、流体調節部が第1流体導入部110及び第2流体導入部120の双方に配置された流体デバイスを説明する模式図である。
図2に示すように、本変形例の流体デバイスは、流体調節部130に加えて、流体調節部135を更に備える以外は上述した分離部100と同様の構成を有している。流体調節部135は、第2流体導入部120中の流体の流れを調節するものである。
【0040】
図2は、本変形例の流体デバイスの分離部の一例を示す模式図であるということもできる。
図2に示すように、分離部200は、ポンプ部(流体調節部)130に加えて、ポンプ部(流体調節部)135を更に備える以外は分離部100と同様の構成を有している。ポンプ部135は、第2の流路(第2流体導入部)120中の流体の流れを調節するものである。
【0041】
分離部200を用いた被分離物質の分離においては、ポンプ部130に加えてポンプ部135も作動させることができる。その結果、第1の流路110中の第1の流体のみでなく、第2の流路120中の第2の流体も循環させることができ、第1の流路110の内部の流体中の被分離物質の濃度、及び第2の流路120の内部の流体中の被分離物質の濃度が平衡に達するまでの時間を更に短縮することができる。
【0042】
ここで、ポンプ部130により循環させる第1の流路110中の第1の流体の流れの方向、及びポンプ部135により循環させる第2の流路120中の第2の流体の流れの方向は特に限定されない。流体の流れは、フィルター140の第1の流路側及びフィルター140の第2の流路側で同じ方向であってもよいし、異なる方向であってもよい。
【0043】
上述した例では、第1の流路110及び第2の流路120の内部に導入される流体は液体であった。しかしながら、第1の流路110及び第2の流路120の内部に導入される流体は液体に限られず、気体であってもよい。この場合、被分離物質としては、例えば、ゴミなどの微粒子、菌、ウイルス等が挙げられる。このような物質を分離する場合、フィルター140としては、例えば、フッ素樹脂フィルター等を用いることができる。
【0044】
以下、本実施形態の分離部の各構成について説明する。
(ポンプ部(流体調節部))
ポンプ部130又は135は、3連以上のバルブを備えていてもよい。また、上記のバルブは、ダイアフラム部材を備えるダイアフラムバルブであり、ダイアフラム部材はエラストマー材料から形成されていてもよい。
【0045】
図3(a)及び(b)は、ダイアフラムバルブの構造の一例を説明する断面図である。
図3(a)はダイアフラムバルブ300の開状態を示し、
図3(b)はダイアフラムバルブ300の閉状態を示す。
図3(a)及び(b)に示すように、ダイアフラムバルブ300は、第1の基板310と、エラストマー材料からなるダイアフラム部材330と、第2の基板320とを備えている。第2の基板320とダイアフラム部材330とは密着した状態で接着されている。また、第1の基板310とダイアフラム部材330との間の空間は流体が流れる流路315を形成している。また、第2の基板320の一部には貫通孔340が設けられている。また、貫通孔340においては、ダイアフラム部材330が露出している。
【0046】
ダイアフラムバルブ300は、流路315に配置されており、流路315の内部の流体の流れを調節するものである。
【0047】
図3(a)に示すダイアフラムバルブ300の開状態では、流路315の内部を流体が流れることができる。一方、
図3(b)に示すように、ダイアフラムバルブ300の貫通孔340からバルブ制御用の流体を供給し、貫通孔340の内部を加圧すると、ダイアフラム部材330が変形し、変形したダイアフラム部材330の一部が第1の基板310と密着する。この状態は、ダイアフラムバルブ300の閉状態である。その結果、流路315の内部の流体の流れが遮断される。
【0048】
ここで、
図3(a)及び(b)に示すように、ダイアフラムバルブ300の閉状態をより強固なものとするために、貫通孔340と対向する第1の基板310の領域には凸部311が形成されていてもよい。
【0049】
バルブ制御用の流体としては、N2ガス、空気等の気体、水、油等の液体等が挙げられる。バルブ制御用の流体は、例えば、貫通孔340に接続されたチューブ等により供給することができる。
【0050】
また、ダイアフラム部材330を形成するエラストマー材料としては、貫通孔340の内部の圧力変化に応じて貫通孔340の軸線方向に変形可能な材料であれば特に限定されず、例えば、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリジフェニルシロキサン等のシリコーン系エラストマー等が挙げられる。
【0051】
図3(b)に示す閉状態のダイアフラムバルブ300において、貫通孔340の内部に印加していた圧力を低下させると、変形していたダイアフラム部材330が元の形状に戻り、再び
図3(a)に示す開状態となる。その結果、再び流路315の内部を流体が流れることができるようになる。
【0052】
3連以上のバルブにより、すなわちバルブを3個以上並べることにより、ポンプを形成することができる。
図4(a)~(d)は、3個のダイアフラムバルブ300a、300b及び300cを備えるポンプの一例の動作を説明する断面図である。
【0053】
図4(a)に示す状態では、3個のバルブ300a、300b及び300cは、いずれも開状態である。この状態では、流路315の内部の流体の流れは制御されていないため、流体は
図4(a)に向かって右側に流れる場合もあるし、左側に流れる場合もあるし、流体の流れが停止している場合もある。
【0054】
続いて、
図4(b)に示すように、バルブ300aを閉状態に制御し、バルブ300b及び300cは開状態のままにする。この結果、流路315の内部の流体の流れはバルブ300aによって堰き止められる。
【0055】
続いて、
図4(c)に示すように、バルブ300a及びバルブ300bを閉状態に制御し、バルブ300cは開状態のままにする。ここで、バルブ300bが開状態から閉状態に変化する過程で、ダイアフラム部材330が変形することにより、バルブ300bの周囲に存在していた流体が押しのけられる。ところが、バルブ300aが閉状態にあることから、押しのけられた流体は
図4(c)の矢印で示す方向、すなわち、
図4(c)に向かって右側に移動する。この結果、流体に矢印で示す方向の流れが生じる。
【0056】
続いて、
図4(d)に示すように、バルブ300b及び300cを閉状態に制御する。すると、バルブ300cが開状態から閉状態に変化する過程で、ダイアフラム部材330が変形することにより、バルブ300cの周囲に存在していた流体が押しのけられる。ところが、バルブ300aが閉状態にあることから、押しのけられた流体は
図4(d)の矢印で示す方向、すなわち、
図4(d)に向かって右側に移動する。この結果、流体に矢印で示す方向の流れが更に加速される。この時、バルブ300aは
図4(d)に示すように開状態に制御してもよいし、閉状態のまま維持してもよい。
【0057】
続いて、再び
図4(a)に示すように、バルブ300a、300b及び300cを、いずれも開状態に制御する。ここでは、慣性により、流路315の内部の流体は、
図4(a)に向かって右側に移動し続けている場合がある。
【0058】
更に、以上の工程を繰り返すことにより、流路315の内部の流体の流れを制御することができる。
【0059】
以上の工程は、3個のバルブを備えるポンプの制御方法の一例であり、3個のバルブを備えるポンプの制御方法はこれに限られない。例えば、上述したバルブの制御において、バルブ300aとバルブ300cの開閉のタイミングを逆にすることにより、流路315の内部の流体の流れを上述したものと逆方向に制御することもできる。また、
図4(a)~
図4(d)の動作を繰り返す周期を調節して、パルス的な微小溶液のフローを形成し、フィルター140への夾雑物の詰まりを抑制したり、分離速度を制御したりすることもできる。また、バルブ300a~300cを駆動する気体の圧力やバルブの径を調節することによっても、フィルター140を介した溶液のフローを制御することができる。これによって、フィルター140への夾雑物の詰まりを抑制したり、分離速度を制御したりしてもよい。
【0060】
また、バルブを4個以上備えるポンプにより、流路315の内部の流体の流れを制御することも可能である。
【0061】
また、ダイアフラムバルブの構造も、上述したものに限られない。例えば、ダイアフラムバルブとして、国際公開第2016/006615号に記載された、外筒部と内筒部とを有する筒状構造体と、前記内筒部の一端を覆うように配置された薄膜部と、前記薄膜部の周縁を一周し、前記外筒部の内壁及び前記内筒部の外壁に沿って密着したアンカー部と、を有するダイアフラム部材と、を備えたバルブを用いることもできる。
【0062】
図5(a)及び(b)は、国際公開第2016/006615号に記載されたダイアフラムバルブの構造を説明する断面図である。
図5(a)はバルブ500の開状態を示し、
図5(b)はバルブ500の閉状態を示す。
【0063】
図5(a)及び(b)に示すように、バルブ500は、上述したバルブ300と比較すると、ダイアフラム部材330が第2の基板320の全面に配置されておらず、バルブ500の周囲のみに局所的に配置されている点が主に異なっている。
【0064】
バルブ500のダイアフラム部材330は、アンカー部331を備えていることにより、ダイアフラム部材330を加圧により変形させた場合においても、ダイアフラム部材330が破損して第2の基板320から剥離することがない。
【0065】
本実施形態の分離部において、他に使用可能なバルブとしては、例えば、2つの金型を使って、樹脂部分とエラストマー部分を連続的に成形して得られた、2色成型バルブを上げることができる。2色成型バルブは、製造に要する時間が短く、樹脂とエラストマーとの密着性が高い利点がある。
【0066】
なお、以上はポンプ部が第1の流路110及び第2の流路120に配置されている例について説明したが、ポンプ部は、必ずしも第1の流路又は第2の流路に配置されていなくてもよい。例えば、第2の流路120が閉じた回路になっていない場合、第2の流路の一端に第2の流体を供給するリザーバを接続し、他端に被分離物質を含む第2の流体を回収するリザーバを接続し、リザーバに吸引部を設けて吸引することで、第2の流路120内に第2の流体を移動させることができる。
【0067】
(フィルター)
本実施形態の分離部において、フィルター140は、一例として、フィルター140のろ過方向が、第1の流路110中を流体が流れる方向及び第2の流路120中を流体が流れる方向と略直交するように配置されている。本明細書において、フィルター140のろ過方向とは、被分離物質がフィルター140を透過する方向を意味する。
【0068】
図1及び
図2に示すように、分離部100及び分離部200では、フィルター140のろ過方向が、第1の流路110中を流体が流れる方向及び第2の流路120中を流体が流れる方向と直交している。これにより、第1の流体に含まれる被分離物質以外の物質が、第1の流体によって直接フィルター140のろ過方向に力を受けて目詰まりすることを抑制することができる。被分離物質以外の物質とは、例えば、血液から血漿成分を分離する場合における、赤血球、白血球、血小板等を意味する。
【0069】
本実施形態の分離部において、フィルターは、スクリーンフィルターであってもデプスフィルターであってもよい。スクリーンフィルターとは、孔径が正確に決められたフィルターであり、円筒状の細孔が均一に分布している構造を有し、対象物はフィルター表面で捕捉されるという特徴を有する。デプスフィルターは、対象物がフィルターの表面及びフィルターの内部で捕捉されるフィルターである。
【0070】
本実施形態のフィルターは、メンブレンフィルターであってもよい。メンブレンフィルターは、孔径の揃った多孔性の膜であり、フッ素樹脂、セルロースアセテート、ポリカーボネート樹脂等で製造されたものが市販されている。メンブレンフィルターは、対象物を表面で捕捉するスクリーンフィルターの一種であり、目的に応じて、異なる孔径のフィルターが選択される。フィルターとしてメンブレンフィルターを用いることにより、孔径に基づいた被分離物質の分離をより正確に行うことができる。
【0071】
本実施形態の分離部において、第1の流路110及び第2の流路120の壁面と、フィルター140の周縁とは、ダイアフラムバルブのダイアフラム部材330を構成するエラストマー材料と同一の成分からなるエラストマー材料で固定されていてもよい。
【0072】
ダイアフラムバルブ300を備える分離部は、例えば、流路やバルブ形成用の貫通孔340が形成された樹脂からなる第1の基板310と、エラストマー材料のシートからなるダイアフラム部材330と、流路やバルブ形成用の貫通孔340が形成された樹脂からなる第2の基板320とを積層し、熱圧着すること等により製造することができる。
【0073】
また、例えば、第1の流路110の一部となる溝(凹部)を第1の基板310の表面に形成し、第2の流路120の一部となる溝(凹部)を第2の基板320の表面に形成し、これらの溝に形成される流路がフィルター140を介して連通するように構成する場合、ダイアフラム部材330は、フィルター140に対応する部分を、フィルター140より少し小さく刳り貫いておく。そして、第1の基板310と、ダイアフラム部材330と、フィルター140と、第2の基板320とを積層して、熱圧着等することにより、フィルター140をダイアフラム部材330と第2の基板320との間に固定することができる。
【0074】
図6(a)は、分離部200の一例を説明する斜視図である。また、
図6(b)は、
図6(a)のb-b’線における矢視断面図である。
図6(a)及び(b)に示すように、第1の基板310の表面には、第1の流路110の一部となる溝が形成されている。また、第2の基板320の表面には、第2の流路120の一部となる溝が形成されている。
【0075】
分離部200では、これらの溝により形成される第1の流路110及び第2の流路120が、フィルター140を介して連通するように構成されている。
【0076】
ダイアフラム部材330は、ダイアフラム部材330とフィルター140とが接触する部分において、フィルター140より少し小さく切り抜かれている。その結果、ダイアフラム部材330の切り抜かれた部分の周縁部とフィルター140の周縁部とは重なって接触している。そして、第1の基板310、ダイアフラム部材330、フィルター140、第2の基板320は、この順に積層されて熱圧着等により接着されている。
【0077】
これにより、フィルター140は、ダイアフラム部材330と第2の基板320との間に固定されている。実施例において後述するように、発明者らは、このような構造により、第1の流路110及び第2の流路120の内部を流れる流体が漏れることがなく、フィルター140を強固に固定することができることを明らかにした。
【0078】
なお、フィルター140とダイアフラム部材330とを積層する順序はこれに限定されず、例えば、第1の基板310、フィルター140、ダイアフラム部材330、第2の基板320の順に積層されて熱圧着等により接着されていてもよい。
【0079】
[被分離物質の分離方法]
本実施形態の被分離物質の分離方法は、流体デバイスを用いて、被分離物質を含む第1の流体から被分離物質を分離する方法であって、前記流体デバイスは、前記第1の流体が導入される第1流体導入部と、前記被分離物質を回収する第2の流体が導入される第2流体導入部と、前記第1の流体の流れ、及び/又は前記第2の流体の流れを調節する流体調節部と、を含み、前記第1流体導入部及び前記第2流体導入部の少なくとも一方は流路形状を有し、前記第1流体導入部及び前記第2流体導入部の少なくとも一部は、前記被分離物質を選択的に透過させるフィルター、又は、前記被分離物質以外を選択的に透過させないフィルターを介して互いに連通している流体デバイスであって、前記分離部の前記第1流体導入部に、前記第1の流体を導入し、前記第2流体導入部に前記第2の流体を導入する工程と、前記第1の流体の流れ、及び/又は前記第2の流体の流れを調節する流体調節部を作動させて前記第1の流体及び/又は前記第2の流体を移動させる工程と、前記第2流体導入部中の流体を回収する工程と、を含む。
【0080】
本実施形態の被分離物質の分離方法は、上述した流体デバイスの分離部の前記第1の流路に、被分離物質を含む第1の流体を導入し、前記第2の流路に前記被分離物質を回収する第2の流体を導入する工程と、前記第1の流体の流れを調節するポンプ部、及び/又は前記第2の流体の流れを調節するポンプ部(流体調節部)を作動させて前記第1の流体及び/又は前記第2の流体を移動させる工程と、前記第2の流体ごと前記被分離物質を回収する工程と、を備える方法であるということもできる。
【0081】
流体デバイスにおいて、第1流体導入部及び第2流体導入部は、いずれも流路形状を有し、且つ閉じた回路を形成していてもよい。また、第1の流体及び第2の流体の流れを調節する流体調節部は、それぞれ第1流体導入部及び第2流体導入部に配置され、且つ、それぞれ3連以上のバルブを含んでいてもよい。
【0082】
また、第1の流体と第2の流体は、それぞれ第1流体導入部と第2流体導入部を反対回りに移動してもよい。
【0083】
本実施形態の分離方法により、例えば、血液から迅速に血漿成分を分離することができる。また、分離部のフィルターを、フィルターのろ過方向が、第1の流路中を流体が流れる方向及び前記第2の流路中を流体が流れる方向と略直交するように配置することにより、被分離物質がろ過方向に直接力を受けてフィルターに詰まるのを抑制することができる。このため、例えば、血球がフィルターに詰まるのを抑制することができ、溶血が起きにくい。
【0084】
また、本実施形態の分離方法は、操作を行うために特殊な技術を習得する必要がない。また、分離部は使い捨てにできることから、検体同士のコンタミネーションや、検体に含まれる病原微生物等による感染のリスクが低減される。また、少量の検体に対応することができる。
【実施例】
【0085】
次に実施例を示して本実施形態を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
[実験例1]
(分離部の製造)
図7に写真を示す分離部を有する流体デバイスを製造した。分離部は、第1の流路110と、第2の流路120と、前記第1の流路に配置されたポンプ部130と、第2の流路に配置されたポンプ部135とを備えていた。また、第1の流路120及び第2の流路120の一部は、フィルター140を介して互いに連通していた。
【0087】
また、第1の流路110には、流入用流路111と、排出用流路112が接続されていた。また、分離部は、流入用流路111と第1の流路110との連通を開状態又は閉状態に制御するためのバルブ113と、排出用流路112と第1の流路110の連通を開状態又は閉状態に制御するためのバルブ114とを備えていた。
【0088】
また、第2の流路120には、流入用流路121と、排出用流路122が接続されていた。また、分離部は、流入用流路121と第2の流路120の連通を開状態又は閉状態に制御するためのバルブ123と、排出用流路122と第2の流路120の連通を開状態又は閉状態に制御するためのバルブ124とを備えていた。
【0089】
[実験例2]
(分離部を用いた分離)
実験例1で製造した分離部に、被分離物質を含む流体を導入して被分離物質を分離した。
【0090】
被分離物質を含む流体として、ビーズを分散させた色水を使用した。これは、血液を模したものであり、ビーズは赤血球、白血球等の血球を想定したものであり、以下、「疑似血液」という場合がある。色水としては、色素を溶解させたリン酸バッファー(PBS)を使用した。本実験例では、被分離物質は色素に対応する。また、被分離物質を回収する流体として、色素を含まないPBSを使用した。
【0091】
まず、第1の流路110に疑似血液を導入し、第2の流路にPBSを導入した。
図8は、この段階の分離部の写真である。左上の「00:05」は、実験開始から5秒後であることを示す。
【0092】
続いて、ポンプ部130及び135を作動させて、第1の流路110中の流体及び第2の流路120中の流体を流した。これにより、第1の流路中の疑似血液中の色素が、フィルター140を透過して第2の流路120中のPBS中に移動し、疑似血液から分離された。一方、ビーズはフィルター140を透過することができないため、第1の流路110中の流体中に残留した。また、ポンプ部を作動させたことにより、色素の移動が平衡に達するまでの時間が短縮された。
【0093】
図9は、実験開始から約250秒後の分離部の写真である。左上の「04:10」は、実験開始から4分10秒後(250秒後)であることを示す。
図9では、色素の濃度が平衡に達し、第1の流路中の色素の濃度と第2の流路中の色素の濃度がほぼ同じ濃度となったことが分かる。
【0094】
図10は、第2の流路中の色素の濃度を経時的に測定した結果を示すグラフである。その結果、疑似血液から色素を分離した場合に、色素が平衡到達率90%に達するまでに245秒かかったことが明らかとなった。
【0095】
なお、平衡到達率90%は次のようにして決定した。すなわち、第2の流路中の色素の濃度を光検出により測定した結果、光強度の変動がほとんどなくなった、実験開始から701秒後~900秒後の光強度を平衡とし、平衡における光強度の90%の光強度に達した時点を平衡到達率90%とした。
【符号の説明】
【0096】
100,200…分離部、110…第1の流路(第1流体導入部)、120…第2の流路(第2流体導入部)、111,121…流入用流路、112,122…排出用流路、113,114,123,124…バルブ、130,135…ポンプ部(流体調節部)、140…フィルター、300,300a,300b,300c,500…ダイアフラムバルブ、310…第1の基板、311,311a,311b,311c…凸部、315…流路、320…第2の基板、330…ダイアフラム部材、331…アンカー部、340,340a,340b,340c…貫通孔。