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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】親水性炭素成形体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/532 20060101AFI20221109BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C04B35/532
C04B41/87 S
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019549090
(86)(22)【出願日】2017-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2017038071
(87)【国際公開番号】W WO2019077753
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2020-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 麻理
(72)【発明者】
【氏名】内山 慶紀
(72)【発明者】
【氏名】丸山 貴史
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-004920(JP,A)
【文献】特開平05-051262(JP,A)
【文献】特開平03-265582(JP,A)
【文献】特開昭61-207484(JP,A)
【文献】特開2009-227491(JP,A)
【文献】特開平05-319928(JP,A)
【文献】特開2017-186612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/52-35/536
C04B 41/87-41/88
C04B 38/00
H01M 8/00
H01B 1/06
C22C 1/10
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素質材料を含む炭素成形体と、前記炭素成形体の表面の少なくとも一部に配置される無機酸化物層と、を備え、気孔率が26体積%~45体積%であり、前記無機酸化物層に含まれる無機酸化物の含有率が、親水性炭素成形体の0.01質量%~5.0質量%である、親水性炭素成形体。
【請求項2】
前記無機酸化物層が、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化チタン、酸化セレン、酸化ジルコニウム、及び酸化二オブからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の親水性炭素成形体。
【請求項3】
前記炭素質材料が結晶性の異なる2種以上の炭素質材料を含む、請求項1又は請求項2に記載の親水性炭素成形体。
【請求項4】
示差熱分析(DTA)において300℃以上700℃未満の温度範囲に1つの発熱ピークと、700℃以上1000℃未満の温度範囲に1つの発熱ピークとを有する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の親水性炭素成形体。
【請求項5】
体積固有抵抗が50μΩm以下である、請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の親水性炭素成形体。
【請求項6】
かさ密度が1.20g/cm~1.80g/cmである、請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の親水性炭素成形体。
【請求項7】
前記無機酸化物層の平均厚みが5μm以下である、請求項1~請求項6のいずれか1項に記載の親水性炭素成形体。
【請求項8】
炭素質材料を含む炭素成形体と、前記炭素成形体の表面の少なくとも一部に配置される無機酸化物層と、を備え、気孔率が26体積%~45体積%であり、前記無機酸化物層が、酸化スズ、酸化チタン、酸化セレン、酸化ジルコニウム、及び酸化二オブからなる群より選択される少なくとも1種を含む、親水性炭素成形体。
【請求項9】
請求項1~請求項8のいずれか1項に記載の親水性炭素成形体の製造方法であって、
炭素成形体を無機酸化物又はその前駆体を含む液体に浸漬する工程と、前記液体から取り出した前記炭素成形体を加熱する工程と、を備える、親水性炭素成形体の製造方法。
【請求項10】
炭素粉末及びバインダーを含有する炭素成形体組成物を得る工程と、前記炭素成形体組成物を成形加工して成形物を得る工程と、前記成形物を炭化焼成して前記炭素成形体を得る工程と、をさらに備える、請求項9に記載の親水性炭素成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性炭素成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素成形体は、非酸化性雰囲気下で耐熱性に優れ、薬品に侵されにくく、導電性に優れ、人体に与える毒性も極めて低いことから、様々な工業分野で広く利用されている。
炭素成形体の表面は疎水性であるため、表面を親水化する技術が検討されている。炭素成形体の表面を親水化する方法としては、プラズマ処理、UV処理、オゾン処理等が挙げられる。例えば、特許文献1には、多孔質の炭素成形体にオゾン酸化処理を行い、貫通気孔内の含酸素官能基を0.1μmol/m~20μmol/m、含酸素官能基中のキノン基の割合を30%以上とすることにより親水性多孔質炭素成形体が得られることが開示されている。その他の親水化処理としては、炭素成形体の表面に親水性の官能基を導入する方法が挙げられる。例えば、特許文献2には、親水性のスルホン酸基により修飾された表面修飾炭素成形体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-145653号公報
【文献】特開2007-161511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、炭素成形体の用途の拡大を背景として、より長期間にわたり親水性が持続する炭素成形体の開発が求められている。
本発明は、上記事情に鑑み、長期間にわたって優れた親水性を有する炭素成形体及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
<1>炭素質材料を含む炭素成形体と、前記炭素成形体の表面の少なくとも一部に配置される無機酸化物層と、を備える、親水性炭素成形体。
<2>前記無機酸化物層が、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化チタン、酸化セレン、酸化ジルコニウム、及び酸化二オブからなる群より選択される少なくとも1種を含む、<1>に記載の親水性炭素成形体。
<3>前記炭素質材料が結晶性の異なる2種以上の炭素質材料を含む、<1>又は<2>に記載の親水性炭素成形体。
<4>示差熱分析(DTA)において300℃以上700℃未満の温度範囲に1つの発熱ピークと、700℃以上1000℃未満の温度範囲に1つの発熱ピークとを有する、<1>~<3>のいずれか1項に記載の親水性炭素成形体。
<5>体積固有抵抗が50μΩm以下である、<1>~<4>のいずれか1項に記載の親水性炭素成形体。
<6>かさ密度が1.20g/cm~1.80g/cmである、<1>~<5>のいずれか1項に記載の親水性炭素成形体。
<7>前記無機酸化物層の平均厚みが5μm以下である、<1>~<6>のいずれか1項に記載の親水性炭素成形体。
<8>前記無機酸化物層に含まれる無機酸化物の含有率が、前記親水性炭素成形体の0.01質量%~5.0質量%である、<1>~<7>のいずれか1項に記載の親水性炭素成形体。
<9>炭素成形体を無機酸化物又はその前駆体を含む液体に浸漬する工程と、前記液体から取り出した前記炭素成形体を加熱する工程と、を備える、親水性炭素成形体の製造方法。
<10>炭素粉末及びバインダーを含有する炭素成形体組成物を得る工程と、前記炭素成形体組成物を成形加工して成形物を得る工程と、前記成形物を炭化焼成して前記炭素成形体を得る工程と、をさらに備える、請求項9に記載の親水性炭素成形体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、長期間にわたって優れた親水性を有する炭素成形体及びその製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。以下の実施形態において、その構成要素(要素ステップ等も含む)は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
【0008】
本開示において「工程」との語には、他の工程から独立した工程に加え、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の目的が達成されれば、当該工程も含まれる。
本開示において「~」を用いて示された数値範囲には、「~」の前後に記載される数値がそれぞれ最小値及び最大値として含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合、各成分の含有率又は含有量は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有率又は含有量を意味する。
本開示において各成分に該当する粒子は複数種含んでいてもよい。組成物中に各成分に該当する粒子が複数種存在する場合、各成分の粒子径は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の粒子の混合物についての値を意味する。
本開示において「層」との語には、当該層が存在する領域を観察したときに、当該領域の全体に形成されている場合に加え、当該領域の一部にのみ形成されている場合も含まれる。
【0009】
<親水性炭素成形体>
本開示の親水性炭素成形体は、炭素質材料を含む炭素成形体と、前記炭素成形体の表面の少なくとも一部に配置される無機酸化物層と、を備える。
【0010】
上記構成を有する親水性炭素成形体は、炭素成形体の表面の少なくとも一部に無機酸化物層が配置されていることにより、優れた親水性を示す。さらに、この親水性は長期間にわたって持続する。
【0011】
本開示において「親水性炭素成形体」とは、炭素成形体の表面の少なくとも一部に無機酸化物層が配置されていることで、無機酸化物層を備えていない場合と比較して親水性が向上した炭素成形体を意味する。炭素成形体の親水性が向上しているか否かを判断する方法は特に制限されない。例えば、一定時間内の吸水量、一定量の吸水に要する時間、接触角等を基準に判断することができる。
【0012】
本開示において「炭素成形体の表面」とは、炭素成形体の内部(無機酸化物層が配置されている場合は無機酸化物層)と外部の境界の面を意味する。従って、例えば、炭素成形体が気孔を有している場合は、気孔の内壁部分も「炭素成形体の表面」に該当する。
【0013】
(炭素成形体)
炭素成形体の材質は、炭素質材料を含むものであれば特に制限されない。炭素質材料としては、黒鉛、非晶質炭素、炭素繊維等が挙げられる。炭素成形体に含まれる炭素質材料は、1種のみでも2種以上であってもよい。炭素成形体は、炭素質材料以外の成分を含むものであってもよい。また、一部の領域(例えば、表面)のみが炭素質材料を含むものであってもよい。
【0014】
炭素成形体は、結晶性の異なる2種以上の炭素質材料を含むことが好ましい。結晶性の異なる2種以上の炭素質材料の組み合わせとしては、例えば、炭素成形体の製造を2種以上の原料(例えば、炭素粉末とバインダー)を用いて行う場合のこれら原料に由来する炭素質材料の組み合わせが挙げられる。
【0015】
炭素成形体の製造に用いる炭素粉末としては、例えば、人造黒鉛、天然黒鉛、膨張黒鉛、カーボンブラック、及びこれらの混合物が挙げられる。原料の少なくとも一部が炭素粉末である炭素成形体は、耐熱性及び耐薬品性に優れ、電気抵抗が低く、摩擦係数が低く、熱伝導性が高い傾向にある。炭素粉末は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0016】
炭素粉末の粒子径は、特に限定されないが、例えば、体積平均粒子径(D50)が1μm~150μmであるものが好ましく、5μm~70μmであるものがより好ましい。炭素粉末の体積平均粒子径(D50)が1μm以上であると、良好な成形性が得られる傾向にあり、150μm以下であると、良好な強度が得られる傾向にある。
炭素粉末の体積平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により得られる体積基準の粒度分布曲線において、小径側からの積算が50%となるときの粒子径とする。
【0017】
炭素成形体の製造に用いるバインダーとしては、例えば、熱硬化性樹脂、石油、石炭等からの抽出成分などが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。石油、石炭等からの抽出成分としては、石油ピッチ、石炭ピッチ、合成ピッチ、コールタール等が挙げられる。これらのうち、成形性と炭素化収率に優れることから、フェノール樹脂が好ましい。バインダーは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0018】
炭素成形体が結晶性の異なる2種以上の炭素質材料を含むか否かは、例えば、空気気流中における示差熱分析(Differential Thermal Analysis、DTA)において互いに識別可能な2つ以上のDTAの発熱ピーク(以下、単に「発熱ピーク」とも称する)が観察されるか否かによって確認することができる。ここで、複数の発熱ピークが「識別可能」であるとは、装置の測定精度上、区別可能であればよく、発熱ピークのピーク値が少なくとも5℃以上離れていることを意味する。
【0019】
前記示差熱分析(DTA)は、示差熱熱重量同時測定装置(例えば、株式会社島津製作所製、DTG-60H)を用いて行うことができる。具体的には、α-アルミナをリファレンスとして、乾燥空気200ml/minの流通下、昇温速度10℃/minで測定を行うことができる。
【0020】
炭素成形体は、上記条件での測定において、300℃~1000℃の温度範囲に少なくとも2つのDTAの発熱ピークを有することが好ましい。この場合、発熱ピーク間の温度差について特に制限はないが、最も高温側の発熱ピークと、最も低温側の発熱ピークとの温度差が、300℃以内であることが好ましく、200℃以上290℃以下であることがより好ましく、215℃以上280℃以下であることが特に好ましく、220℃以上275℃以下であることが極めて好ましい。
【0021】
体積固有抵抗の観点から、前記発熱ピークは、300℃以上700℃未満の温度範囲(以下、「低温域」と称する場合がある)に観察される発熱ピークと、700℃以上1000℃以下の温度範囲(以下、「高温域」と称する場合がある)に観察される発熱ピークとを含むことが好ましく、低温域に観察される1つの発熱ピークと、高温域に観察される1つの発熱ピーク(合計で2つ)を有することがより好ましい。
【0022】
親水性炭素成形体は、気孔を有するものであってもよい。親水性炭素成形体が気孔を有する場合、気孔の占める割合(気孔率)は特に限定されるものではないが、例えば、10体積%~50体積%であることが好ましく、15体積%~45体積%であることがより好ましく、20体積%~40体積%であることがさらに好ましい。気孔率が上記の範囲内であると、良好な強度が得られる傾向にある。気孔率は、例えば、炭素成形体の製造時の原料(例えば、炭素粉末及びバインダー)の配合割合によって調節することができる。
【0023】
親水性炭素成形体が気孔を有する場合、気孔の内壁部分に無機酸化物層が形成されていてもよい。この場合、気孔の内壁部分のすべてに無機酸化物層が形成されていても、一部にのみ無機酸化物層が形成されていてもよい。
【0024】
親水性炭素成形体が気孔を有する場合、気孔の大きさは特に制限されない。例えば、気孔のメジアン細孔直径(D50)が1μm~10μmであることが好ましく、1.5μm~8μmであることがより好ましく、2μm~7μmであることがさらに好ましい。気孔のメジアン細孔直径(D50)が上記の範囲であると、良好な吸水性が得られる傾向にある。気孔の大きさは、例えば、炭素成形体の製造時の原料(例えば、炭素粉末及びバインダー)の配合割合によって調節することができる。
【0025】
親水性炭素成形体の体積固有抵抗は、特に限定されない。例えば、50μΩm以下であることが好ましく、1μΩm~50μΩmであることがより好ましく、5μΩm~40μΩmであることがさらに好ましく、10μΩm~30μΩmであることが特に好ましい。親水性炭素成形体の体積固有抵抗が上記の範囲であると、良好な導電性が得られる傾向にある。体積固有抵抗は、例えば、炭素成形体の製造時の原料(例えば、炭素粉末及びバインダー)の配合割合によって調節することができる。
【0026】
親水性炭素成形体のかさ密度は、特に限定されない。例えば、1.20g/cm~1.80g/cmであることが好ましく、1.25g/cm~1.70g/cmであることがより好ましく、1.3g/cm~1.65g/cmであることがさらに好ましい。親水性炭素成形体のかさ密度が上記の範囲であると、良好な強度が得られる傾向にある。かさ密度は、例えば、炭素成形体の製造時の原料(例えば、炭素粉末及びバインダー)の配合割合によって調節することができる。
【0027】
親水性炭素成形体の曲げ強度は、特に限定されない。例えば、8MPa以上であることが好ましく、10MPa以上であることがより好ましく、15MPa以上であることがさらに好ましい。曲げ強度の上限は、例えば、50MPa以下であることが好ましい。親水性炭素成形体の曲げ強度が上記の範囲であると、外圧耐性が良好となる傾向にある。曲げ強度は、例えば、炭素成形体の製造時の原料(例えば、炭素粉末及びバインダー)の配合割合によって調節することができる。
【0028】
(無機酸化物層)
無機酸化物層は、炭素成形体の表面の少なくとも一部に配置される。無機酸化物層が炭素成形体の表面の少なくとも一部に配置されているか否かを確認する方法としては、炭素成形体の表面を電子顕微鏡等で観察する方法、エネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X-ray spectrometry;EDX、EDS)で元素マッピングする方法、X線光電子分光分析(X-ray Photoelectron Spectroscopy;XPS)で元素分析する方法等が挙げられ、これらから適したものを選択できる。
【0029】
無機酸化物層に含まれる無機酸化物の種類は、特に制限されない。炭素成形体の表面に良好な親水性を付与する観点からは、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化チタン、酸化セレン、酸化ジルコニウム及び酸化ニオブからなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。無機酸化物層に含まれる無機酸化物は、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0030】
無機酸化物層は、無機酸化物のみからなってもよく、炭素成形体の表面に良好な親水性を付与する観点からは、無機酸化物層は、無機酸化物のみからなるか、無機酸化物の含有率が90質量%以上であることが好ましい。
【0031】
無機酸化物層の厚みは、特に制限されない。例えば、平均厚みが5μm以下であることが好ましい。無機酸化物の平均厚みの下限は特に制限されないが、0.05μm以上であることが好ましい。無機酸化物層の平均厚みは、任意の5箇所で測定した値の算術平均値である。
無機酸化物層の単位面積あたり質量は、特に制限されない。例えば、0.1mg/m~1.0mg/mの間であってもよい。
【0032】
親水性炭素成形体における無機酸化物の含有率は、特に制限されない。例えば、親水性炭素成形体全体の0.01質量%~5.0質量%であることが好ましく、0.05質量%~3.0質量%であることがより好ましく、0.1質量%~2.0質量%であることが特に好ましい。無機酸化物の含有率が上記の範囲内であると、良好な親水性が得られる傾向にある。
【0033】
<親水性炭素成形体の製造方法>
本開示の親水性炭素成形体の製造方法は、炭素成形体を無機酸化物又はその前駆体を含む液体に浸漬する工程と、前記液体から取り出した前記炭素成形体を加熱する工程と、を備える。
【0034】
上記方法によれば、炭素成形体の表面の少なくとも一部に無機酸化物層を形成することができる。また、炭素成形体が気孔を有している場合であっても、無機酸化物を含む液体が気孔の内部に入り込み、気孔の内壁部分に無機酸化物層を形成することができる。
【0035】
上記方法において、無機酸化物又はその前駆体を含む液体は、例えば、無機酸化物又は加熱により無機酸化物となる物質(無機酸化物の前駆体)を液状媒体に混合することで調製することができる。無機酸化物又はその前駆体は、液状媒体に溶解した状態であっても分散した状態であってもよい。
【0036】
液状媒体の種類は、特に制限されない。例えば、水、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒、非プロトン性極性溶媒、グリコールモノエーテル系溶媒、テルペン系溶媒等が挙げられる。液状媒体は1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0037】
無機酸化物又はその前駆体を含む液体として具体的には、金属アルコキシド溶液、金属キレート溶液、金属酸化微粒子の分散液、液状の表面コート剤、液状のカップリング剤等が挙げられる。無機酸化物又はその前駆体を含む液体は、自前で調製しても、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、多木化学株式会社の商品名、タイノックA-6、M-6、AM-15、CZP-223等の酸化チタン微粒子の分散液が挙げられる。
【0038】
無機酸化物の種類は、特に制限されない。例えば、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化スズ、酸化チタン、酸化セレン、酸化ジルコニウム及び酸化ニオブが挙げられる。これらの中でも、酸化チタンが好ましい。
【0039】
無機酸化物の前駆体の種類は、特に制限されない。例えば、上述した無機酸化物に含まれる元素のアルコキシド化合物が挙げられる。具体的には、アルミニウムブトキシド、アルミニウムイソプロポキシド等のアルミニウムアルコキシド類、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等のシランアルコキシド類、スズn-ブトキシド、スズテトライソプロポキシド等のスズアルコキシド類、チタンブトキシド、チタンテトライソプロポキシド等のチタンアルコキシド類、ナトリウム-tert-ブチルセレノキシド等のセレンアルコキシド類、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムイソプロポキシド等のジルコニウムアルコキシド類、ニオブブトキシド、ニオブイソプロポキシド等のニオブアルコキシド類などが挙げられる。これらの中でもチタンアルコキシド類が好ましく、チタンブトキシド及びチタンテトライソプロポキシドがより好ましい。
【0040】
炭素成形体を、無機酸化物を含む液体に浸漬する方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法が用いられる。炭素質材料を浸漬する時間も、特に限定されるものではなく、炭素成形体の数や面積により、適宜調整することができる。炭素成形体を浸漬する際の無機酸化物を含む液体の温度についても、特に限定されるものではなく、必要に応じて冷却又は加温してもよい。
【0041】
無機酸化物又はその前駆体を含む液体から取り出した炭素成形体を加熱する方法は特に制限されず、公知の方法で行うことができる。
本開示において「加熱」には、乾燥、焼結等を目的とするものが含まれる。親水性に優れる無機酸化物層を形成する観点からは、加熱は乾燥と焼結をこの順に行うものであることが好ましい。乾燥の温度は、特に制限されないが、例えば、80℃~250℃であることが好ましく、100℃~230℃であることがより好ましく、120℃~210℃であることがさらに好ましい。焼結の温度は、特に制限されないが、例えば、280℃~500℃であることが好ましく、290℃~450℃であることがより好ましく、300℃~400℃であることがさらに好ましい。
【0042】
加熱の温度は、特に限定されるものではないが、親水性に優れる無機酸化物層を形成する観点からは、例えば、80℃~500℃であることが好ましく、100℃~400℃であることがより好ましく、150℃~350℃であることがさらに好ましい。加熱工程は、開始から終了まで一定の温度で行っても、異なる温度で行ってもよい。
【0043】
加熱の時間は、特に限定されるものではないが、例えば、30分~180分であってもよい。
【0044】
上記方法はさらに、無機酸化物を含む液体に浸漬する前の炭素成形体を作製する工程を備えてもよい。
炭素成形体を作製する方法は、特に制限されない。例えば、下記に示すような(A)炭素粉末及びバインダーを含有する炭素成形体組成物を得る工程と、(B)炭素成形体組成物を成形加工して成形物を得る工程と、(C)成形物を炭化焼成して炭素成形体を得る工程と、を備える方法によって作製してもよい。
【0045】
(工程(A))
工程(A)では、炭素粉末及びバインダーを含有する炭素成形体組成物を得る。炭素成形体組成物は、例えば、上述した炭素粉末とバインダーを混合することで得られる。混合方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法により混合することができる。
【0046】
炭素粉末とバインダーとの配合割合は、特に限定されるものではないが、例えば、炭素化した後の比率(質量基準)として炭素粉末/バインダー=95/5~60/40であることが好ましく、90/10~70/30であることがより好ましく、85/15~75/25であることがさらに好ましい。バインダーの配合割合が炭素粉末とバインダーの合計の5質量%以上であると、炭素粉末とバインダーが十分に混合され、成形性が良好となるため、得られる炭素成形体の曲げ強度が良好となる傾向にある。また、バインダーの配合割合が炭素粉末とバインダーの合計の40質量%以下であると、炭素成形体の気孔率が低くなりすぎず、炭化焼成時に炭素成形体の膨れが抑制される傾向にある。
【0047】
炭素成形体組成物は炭素粉末とバインダー以外の成分を混合してもよい。このような成分としては、炭素粉末とバインダーに該当しない成分であって工程(C)の炭化焼成により炭化する成分、炭化焼成の際に揮発する成分等が挙げられる。
【0048】
(工程(B))
工程(B)では、工程(A)で得られた炭素成形体組成物を成形加工して成形物を得る。成形加工の方法は特に制限されない。例えば、炭素成形体組成物を金型に流し込み、加熱加圧する方法が挙げられる。
【0049】
加熱加圧の条件は、特に制限されない。加熱時の温度は、例えば、150℃~250℃であることが好ましく、160℃~240℃であることがより好ましく、170℃~230℃であることがさらに好ましい。加圧時の圧力は、例えば、0.5MPa~10MPaであることが好ましく、1MPa~8MPaであることがより好ましく、2MPa~5MPaであることがさらに好ましい。加熱加圧の時間は、例えば、0.1分~30分であることが好ましく、0.5分~20分であることがより好ましく、1分~10分であることがさらに好ましい。
【0050】
(工程(C))
工程(C)では、工程(B)で得られた成形物を炭化焼成して炭素成形体を得る。炭化焼成の方法は、特に制限されないが、真空又は不活性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。不活性ガスは、特に限定されないが、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられる。焼成温度は、特に限定されないが、800℃~1500℃の範囲であることが好ましい。焼成温度が上記の範囲であると、バインダーの炭化が充分に進む傾向にあり、製造時におけるエネルギー効率の点からも有利である。
【実施例
【0051】
以下、実施例に基づいて本開示の実施形態をより具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は質量基準である。
【0052】
<実施例1>
炭素粉末として平均粒子径(D50)が40μmの人造黒鉛粉末85質量部と、バインダーとしてフェノール樹脂15質量部とを混合し、炭素成形体組成物を得た。これを成形用金型に充填し、190℃、1000kNで5分間の熱圧成形を行い、長さ140mm、幅190mm、厚み2.5mmの成形物を作製した。この成形物を不活性ガス雰囲気下、900℃で60分間焼成して炭素成形体を得た。
【0053】
得られた炭素成形体を、長さ50mm、幅50mmの大きさに切断し、チタンテトライソプロポキシド(和光純薬工業株式会社、構造式:[(CHCHO]Ti)をメタノールで0.5質量%に希釈した液体に30分間浸漬した。
【0054】
浸漬後、炭素成形体を取り出し、表面の溶媒を自然乾燥した後、150℃に設定した乾燥機で60分間加熱(乾燥)した。その後、350℃で60分間加熱(焼結)し、無機酸化物層が形成された炭素成形体(親水性炭素成形体)を得た。
【0055】
得られた親水性炭素成形体(長さ50mm、幅50mm、厚み2.5mm)について、下記の測定を実施した。結果を表1に示す。
【0056】
[1]かさ密度
親水性炭素成形体を100℃に設定した乾燥機で60分間乾燥させた後、質量を測定した。また、親水性炭素成形体の寸法を測定し、体積を算出した。得られた質量を体積で割ることで、かさ密度(g/cm)を算出した。
【0057】
[2]体積固有抵抗
金めっきを施した平滑な銅板2枚の間に親水性炭素成形体を挟み込み、一定の電流を流した際の電圧の降下から体積固有抵抗(μΩm)を測定した。
【0058】
[3]曲げ強度
JIS K-6911(2006)に記載された3点曲げ試験により、曲げ強度(MPa)を測定した。
【0059】
[4]DTA発熱ピーク温度差
TG-DTA測定装置で測定された2つの発熱ピークのうち、高温側のピーク温度から低温側のピーク温度を引いた値をDTA発熱ピーク温度差(℃)とした。
【0060】
[5]メジアン細孔直径
水銀圧入法により親水性炭素成形体の気孔の大きさ(メジアン細孔直径、μm)を測定し、データ処理により算出した。
【0061】
[6]気孔率
水銀圧入法により親水性炭素成形体の気孔率(体積%)を測定し、データ処理により算出した。
【0062】
[7]無機酸化物の含有率
チタンテトライソプロポキシドを含む液体への浸漬後の炭素成形体の質量Aから、浸漬前の質量Bを差し引いて得られた値を浸漬前の質量Bで割った値に100を乗じた値を無機酸化物の含有率(質量%)とした。
【0063】
[8]吸水時間(製造直後)
製造直後の親水性炭素成形体に、10μLの純水をマイクロピペットで滴下し、吸水した時間をタイマーで測定した。面内5箇所で同様に測定し、算術平均値を求めた。
【0064】
[9]吸水時間(製造から1年経過後)
室温(20℃~30℃)で1年間保管した親水性炭素成形体に、10μLの純水をマイクロピペットで滴下し、吸水した時間をタイマーで測定した。面内5箇所で同様に測定し、算術平均値を求めた。
【0065】
<実施例2>
かさ密度が実施例1と異なる炭素成形体を使用したこと以外は、実施例1と同様にして親水性炭素成形体を作製し、評価した。
【0066】
<実施例3>
かさ密度が実施例1と異なる炭素成形体を用い、無機酸化物を含む液体として、微粒子酸化チタンゾル(多木化学株式会社、CZP-223)をメタノールで2質量%に希釈したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして親水性炭素成形体を作製し、評価した。
【0067】
<実施例4>
かさ密度が実施例1と異なる炭素成形体を用い、無機酸化物を含む液体として、微粒子酸化チタンゾル(多木化学株式会社、AM-15)をメタノールで2質量%に希釈したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして親水性炭素成形体を作製し、評価した。
【0068】
<実施例5>
かさ密度が実施例1と異なる炭素成形体を用い、無機酸化物を含む液体として、微粒子酸化チタンゾル(多木化学株式会社、M-6)をメタノールで1質量%に希釈したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして親水性炭素成形体を作製し、評価した。
【0069】
<実施例6>
かさ密度が実施例1と異なる炭素成形体を用い、無機酸化物を含む液体として、微粒子酸化チタンゾル(多木化学株式会社、M-6)をメタノールで1質量%に希釈したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして親水性炭素成形体を作製し、評価した。
【0070】
<実施例7>
かさ密度が実施例1と異なる炭素成形体を用い、無機酸化物を含む液体として、微粒子酸化チタンゾル(多木化学株式会社、M-6)をメタノールで1質量%に希釈したものを用いたこと以外は、実施例1と同様にして親水性炭素成形体を作製し、評価した。
【0071】
<比較例1>
かさ密度が実施例1と異なる炭素成形体を用い、無機酸化物を含む液体への浸漬(親水化処理)を施さない状態の炭素成形体について、実施例1と同様にして評価した。
【0072】
以上の結果を以下の表にまとめる。
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示されるように、親水化処理を実施した実施例1~7の炭素成形体は、親水化処理を実施していない比較例1の炭素成形体に比べて、一定量の水を吸収する時間が短く、親水性に優れていることがわかった。さらに、親水化処理による親水性の向上効果は1年経過後も持続することがわかった。
【0075】
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に援用されて取り込まれる。