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特許7173053積層フィルム及びその製造方法並びに偏光板
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  • 特許-積層フィルム及びその製造方法並びに偏光板 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】積層フィルム及びその製造方法並びに偏光板
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/08 20060101AFI20221109BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20221109BHJP
   B32B 7/022 20190101ALI20221109BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B32B27/08
B32B27/00 A
B32B7/022
G02B5/30
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019569025
(86)(22)【出願日】2019-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2019001721
(87)【国際公開番号】W WO2019151027
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-09-27
(31)【優先権主張番号】P 2018017049
(32)【優先日】2018-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三浦 拓也
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/008493(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/154718(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/150177(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/152871(WO,A1)
【文献】特開2017-021240(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の樹脂で形成された第1の層と、第2の樹脂で形成された第2の層と、第3の樹脂で形成された第3の層と、をこの順に備え、
前記第2の樹脂が、ブロック共重合体の水素化物のアルコキシシリル基変性物を含み、
前記第2の樹脂は、37℃の水に24時間浸漬し、23℃湿度70%の環境で24時間放置した後、加熱温度150℃、加熱時間10分間の条件で測定されるカールフィッシャー法による水分含有率が、0.020質量%以下であり、
前記第2の樹脂が、前記第1の樹脂の曲げ弾性率よりも低く、かつ、前記第3の樹脂の曲げ弾性率よりも低い曲げ弾性率を有し、
前記第1の樹脂及び前記第3の樹脂のうちの一方又は双方が、脂環式構造を含有する重合体を含み、
前記第1の樹脂を厚さ100μmのフィルムにした場合にJIS K7129 B(1992)に準拠して測定される水蒸気透過率が、5g/(m・day)以下であり、
前記第2の層の厚みに対する、前記第1の層の厚み及び前記第3の層の厚みの和の比が、1以上4以下である、積層フィルム。
【請求項2】
前記第1の樹脂及び前記第3の樹脂のうちの一方又は双方の厚み4mmのフィルムの曲げ弾性率が、1900MPa以上2800MPa以下である、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記第1の樹脂及び前記第3の樹脂のうちの一方又は双方が、結晶性を有する脂環式構造を含有する重合体を含む、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
前記積層フィルムの厚みが、50μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の積層フィルム。
【請求項5】
偏光子と、請求項1~4のいずれか一項に記載の積層フィルムと、を備える、偏光板。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法であって、
第2の樹脂を乾燥する工程と、
第1の樹脂、乾燥させた前記第2の樹脂、及び、第3の樹脂によって、第1の層、第2の層、及び、第3の層を形成する工程と、を含む、積層フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルム及びその製造方法並びに偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、通常、偏光子と、この偏光子を保護するための光学フィルムとしての偏光子保護フィルムとを備える。偏光子保護フィルムとして、特許文献1及び2には、3層構造を有する積層フィルムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-031753号公報
【文献】特開2011-203400号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
偏光板は、画像表示装置に設けられることがある。近年、例えば有機エレクトロルミネッセンス表示装置(以下、適宜「有機EL表示装置」という。)のように、フレキシブルな画像表示装置が注目されている。このようなフレキシブルな画像表示装置に設けられる偏光板は、耐折り曲げ性に優れることが望ましい。よって、偏光子保護フィルムとしての積層フィルムも、耐折り曲げ性に優れることが望ましい。
【0005】
また、例えば車載用の画像表示装置に設けられる偏光板のように、偏光板は高温環境に曝されることがありえる。そのため、偏光子保護フィルムとしての積層フィルムは、耐熱性に優れることが望ましい。
【0006】
さらに、前記のような積層フィルムは、内部に気泡を含まないことが望まれる。特に、偏光子保護フィルムのような光学フィルムは、気泡はその光学特性を損なう原因となりうるので、気泡を含まないことが特に強く求められる。
【0007】
ところが、従来の技術では、耐熱性及び耐折り曲げ性の両方に優れ、且つ、気泡の形成が抑制された積層フィルムは、得られていない。
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、耐熱性及び耐折り曲げ性の両方に優れ、且つ、気泡の形成が抑制された積層フィルム及びその製造方法;並びに、前記の積層フィルムを備える偏光板;を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、本発明者は、第1の樹脂で形成された第1の層と、第2の樹脂で形成された第2の層と、第3の樹脂で形成された第3の層と、をこの順に備える積層フィルムが、所定の要件を組み合わせて満たす場合に、耐熱性及び耐折り曲げ性の両方に優れ、且つ、気泡の形成を抑制できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0009】
〔1〕 第1の樹脂で形成された第1の層と、第2の樹脂で形成された第2の層と、第3の樹脂で形成された第3の層と、をこの順に備え、
前記第2の樹脂が、ブロック共重合体の水素化物のアルコキシシリル基変性物を含み、
前記第2の樹脂は、37℃の水に24時間浸漬し、23℃湿度70%の環境で24時間放置した後のカールフィッシャー法による水分含有率が、0.020質量%以下であり、
前記第2の樹脂が、前記第1の樹脂の曲げ弾性率よりも低く、かつ、前記第3の樹脂の曲げ弾性率よりも低い曲げ弾性率を有し、
前記第1の樹脂及び前記第3の樹脂のうちの一方又は双方が、脂環式構造を含有する重合体を含み、
前記第1の樹脂を厚さ100μmのフィルムにした場合にJIS K7129 B(1992)に準拠して測定される水蒸気透過率が、5g/(m・day)以下であり、
前記第2の層の厚みに対する、前記第1の層の厚み及び前記第3の層の厚みの和の比が、1以上4以下である、積層フィルム。
〔2〕 前記第1の樹脂及び前記第3の樹脂のうちの一方又は双方の厚み4mmのフィルムの曲げ弾性率が、1900MPa以上2800MPa以下である、〔1〕に記載の積層フィルム。
〔3〕 前記第1の樹脂及び前記第3の樹脂のうちの一方又は双方が、結晶性を有する脂環式構造を含有する重合体を含む、〔1〕又は〔2〕に記載の積層フィルム。
〔4〕 前記積層フィルムの厚みが、50μm以下である、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の積層フィルム。
〔5〕 偏光子と、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の積層フィルムと、を備える、偏光板。
〔6〕 〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の積層フィルムの製造方法であって、
第2の樹脂を乾燥する工程と、
第1の樹脂、乾燥させた前記第2の樹脂、及び、第3の樹脂によって、第1の層、第2の層、及び、第3の層を形成する工程と、を含む、積層フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、耐熱性及び耐折り曲げ性の両方に優れ、且つ、気泡の形成が抑制された積層フィルム及びその製造方法;並びに、前記の積層フィルムを備える偏光板;を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る積層フィルムを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものでは無く、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0013】
以下の説明において、「偏光板」とは、別に断らない限り、剛直な部材だけでなく、例えば樹脂製のフィルムのように可撓性を有する部材も含む。
【0014】
以下の説明において、「紫外線」とは、別に断らない限り、波長が10nm以上400nm未満の光を意味する。
【0015】
[1.積層フィルムの概要]
図1は、本発明の一実施形態に係る積層フィルム10を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る積層フィルム10は、第1の層110と、第2の層120と、第3の層130とを、この順に備える。さらに、積層フィルム10は、下記の要件(i)~(vi)を満たす。
(i) 第2の樹脂が、ブロック共重合体の水素化物のアルコキシシリル基変性物を含む。
(ii)37℃の水に24時間浸漬し、23℃湿度70%の環境で24時間放置した後のカールフィッシャー法による第2の樹脂の水分含有率が、所定値以下である。
(iii)第2の樹脂が、第1の樹脂の曲げ弾性率よりも低く、かつ、第3の樹脂の曲げ弾性率よりも低い曲げ弾性率を有する。
(iv)第1の樹脂及び前記第3の樹脂のうちの一方又は双方が、脂環式構造を含有する重合体を含む。
(v)第1の樹脂を厚さ100μmのフィルムにした場合にJIS K7129 B(1992)に準拠して測定される水蒸気透過率が、所定値以下である。
(vi)第2の層120の厚みT120に対する、第1の層110の厚みT110及び第3の層130の厚みT130の和T110+T130の比「(T110+T130)/T120」が、所定の範囲にある。
【0016】
前記の要件(i)~(vi)を満たす積層フィルム10は、耐熱性及び耐折り曲げ性の両方に優れ、且つ、気泡の形成が抑制される。したがって、積層フィルム10は、偏光子保護フィルム等の光学用途において、好適に使用できる。
【0017】
積層フィルム10は、第1の層110、第2の層120及び第3の層130以外に、任意の層を備えていてもよい。ただし、第1の層110と第2の層120とは、直接に接していることが好ましい。また、第2の層120と第3の層130とは、直接に接していることが好ましい。ここで、ある2層が接する態様が「直接」とは、それら2層の間に他の層が無いことを言う。よって、積層フィルム10は、第1の層110、第2の層120及び第3の層130のみを備える3層構造のフィルムであることが好ましい。
【0018】
[2.第1の層]
第1の層は、第1の樹脂によって形成されている。第1の樹脂としては、重合体を含み、更に必要に応じて任意の成分を含みうる樹脂を用いることができる。重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0019】
積層フィルムでは、第1の樹脂及び第3の樹脂のうちの一方又は双方として、脂環式構造を含有する重合体を含む樹脂を用いる(要件(iv))。以下、脂環式構造を含有する重合体を、適宜「脂環式構造含有重合体」ということがある。よって、第3の層に含まれる第3の樹脂が脂環式構造含有重合体を含む場合、第1の樹脂は、脂環式構造含有重合体を含んでもよく、含んでいなくてもよい。他方、第3の層に含まれる第3の樹脂が脂環式構造含有重合体を含まない場合、第1の樹脂は、脂環式構造含有重合体を含む。中でも、第1の樹脂及び第3の樹脂の双方が、脂環式構造含有重合体を含むことが好ましい。
【0020】
脂環式構造含有重合体は、機械的強度に優れるので、積層フィルムの耐折れ曲げ性を高めることができる。また、脂環式構造含有重合体は、通常、吸湿性が低い。よって、脂環式構造含有重合体を含む樹脂を用いることにより、積層フィルムの水蒸気透過率を効果的に小さくできる。これにより、通常は、高湿度環境における積層フィルムの変形を抑制できるので、積層フィルムの耐湿性を改善できる。さらに、脂環式構造含有重合体は、通常、透明性、寸法安定性及び軽量性に優れる。
【0021】
脂環式構造含有重合体は、繰り返し単位中に脂環式構造を含有する重合体であり、例えば、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素化物などが挙げられる。また、前記の脂環式構造含有重合体としては、主鎖中に脂環式構造を含有する重合体、及び、側鎖に脂環式構造を含有する重合体のいずれも用いることができる。中でも、脂環式構造含有重合体は、主鎖に脂環式構造を含有することが好ましい。脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造、シクロアルケン構造等が挙げられるが、熱安定性等の観点からシクロアルカン構造が好ましい。
【0022】
1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上、より好ましくは6個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数が上記範囲内にあることで、機械的強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
【0023】
脂環式構造含有重合体中の脂環式構造を有する繰り返し単位の割合は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上である。脂環式構造を有する繰り返し単位の割合を前記のように多くすることにより、耐熱性を高めることができる。
また、脂環式構造含有重合体において、脂環式構造を有する繰り返し単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択しうる。
【0024】
第1の樹脂及び第3の樹脂のうちの一方又は双方に含まれる脂環式構造含有重合体としては、結晶性を有するもの、及び、結晶性を有さないもののいずれを用いてもよく、両者を組み合わせて用いてもよい。ここで、結晶性を有する重合体とは、融点Mpを有する重合体をいう。また、融点Mpを有する重合体とは、すなわち、示差走査熱量計(DSC)で融点Mpを観測することができる重合体をいう。結晶性を有する脂環式構造含有重合体を用いることにより、積層フィルムの機械的強度を特に効果的に高めることができるので、耐折れ曲げ性を顕著に改善することができる。また、結晶性を有さない脂環式構造含有重合体を用いることにより、積層フィルムの製造コストを下げることができる。
【0025】
結晶性を有する脂環式構造含有重合体としては、例えば、下記の重合体(α)~重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れる積層フィルムが得られ易いことから、結晶性を有する脂環式構造含有重合体としては、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素化物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素化物等であって、結晶性を有するもの。
【0026】
具体的には、結晶性を有する脂環式構造含有重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものがより好ましく、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは100質量%の重合体をいう。
【0027】
ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物は、ラセモ・ダイアッドの割合が高いことが好ましい。具体的には、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物における繰り返し単位のラセモ・ダイアッドの割合は、好ましくは51%以上、より好ましくは60%以上、特に好ましくは65%以上である。ラセモ・ダイアッドの割合が高いことは、シンジオタクチック立体規則性が高いことを表す。よって、ラセモ・ダイアッドの割合が高いほど、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物の融点が高い傾向がある。
ラセモ・ダイアッドの割合は、後述する実施例に記載の13C-NMRスペクトル分析に基づいて決定できる。
【0028】
結晶性を有する脂環式構造含有重合体は、積層フィルムを製造するよりも前においては、結晶化していなくてもよい。しかし、積層フィルムが製造された後においては、当該積層フィルムに含まれる結晶性を有する脂環式構造含有重合体は、通常、結晶化していることにより、高い結晶化度を有することができる。具体的な結晶化度の範囲は所望の性能に応じて適宜選択しうるが、好ましくは10%以上、より好ましくは15%以上である。積層フィルムに含まれる脂環式構造含有重合体の結晶化度を前記範囲の下限値以上にすることにより、積層フィルムに高い耐熱性及び耐薬品性を付与することができる。結晶化度は、X線回折法によって測定しうる。
【0029】
結晶性を有する脂環式構造含有重合体の融点Mpは、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。このような融点Mpを有する結晶性を有する脂環式構造含有重合体を用いることによって、成形性と耐熱性とのバランスに更に優れた積層フィルムを得ることができる。
【0030】
前記のような結晶性を有する脂環式構造含有重合体は、例えば、国際公開第2016/067893号に記載の方法により、製造しうる。
【0031】
他方、結晶性を有さない脂環式構造含有重合体は、例えば、(1)ノルボルネン系重合体、(2)単環の環状オレフィン重合体、(3)環状共役ジエン重合体、(4)ビニル脂環式炭化水素重合体、及びこれらの水素化物などが挙げられる。これらの中でも、透明性及び成形性の観点から、ノルボルネン系重合体及びこの水素化物がより好ましい。
【0032】
ノルボルネン系重合体としては、例えば、ノルボルネン系モノマーの開環重合体、ノルボルネン系モノマーと開環共重合可能なその他のモノマーとの開環共重合体、及びそれらの水素化物;ノルボルネン系モノマーの付加重合体、ノルボルネン系モノマーと共重合可能なその他のモノマーとの付加共重合体などが挙げられる。これらの中でも、透明性の観点から、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素化物が特に好ましい。
上記の脂環式構造含有重合体は、例えば特開2002-321302号公報に開示されている重合体から選ばれる。
【0033】
結晶性を有さない脂環式構造含有重合体を含む樹脂としては、様々な商品が市販されているので、それらのうち、所望の特性を有するものを適宜選択し、使用しうる。かかる市販品の例としては、商品名「ZEONOR」(日本ゼオン株式会社製)、「アートン」(JSR株式会社製)、「アペル」(三井化学株式会社製)、「TOPAS」(ポリプラスチックス社製)の製品群が挙げられる。
【0034】
第1の樹脂に含まれる重合体の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、特に好ましくは20,000以上であり、好ましくは100,000以下、より好ましくは80,000以下、特に好ましくは50,000以下である。このような重量平均分子量を有する重合体は、機械的強度、成形加工性及び耐熱性のバランスに優れる。
【0035】
第1の樹脂に含まれる重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは1.2以上、より好ましくは1.5以上、特に好ましくは1.8以上であり、好ましくは3.5以下、より好ましくは3.4以下、特に好ましくは3.3以下である。分子量分布が前記範囲の下限値以上であることにより、重合体の生産性を高め、製造コストを抑制できる。また、上限値以下であることにより、低分子成分の量が小さくなるので、高温曝露時の緩和を抑制して、積層フィルムの安定性を高めることができる。
【0036】
重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、溶媒としてシクロヘキサンを用いたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(以下、「GPC」と略す。)により、ポリイソプレン換算の値で測定しうる。樹脂がシクロヘキサンに溶解しない場合には、溶媒としてトルエンを用いうる。溶媒がトルエンのときは、重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnは、ポリスチレン換算の値で測定しうる。
【0037】
第1の樹脂における重合体の割合は、耐熱性及び耐折れ曲げ性に特に優れた積層フィルムを得る観点から、好ましくは80質量%~100質量%、より好ましくは90質量%~100質量%、更に好ましは95質量%~100質量%、特に好ましくは98質量%~100質量%である。
【0038】
第1の樹脂は、上述した重合体に組み合わせて、任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分の例としては、無機微粒子;酸化防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;滑剤、可塑剤等の樹脂改質剤;染料や顔料等の着色剤;及び帯電防止剤が挙げられる。これらの任意の成分としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。ただし、本発明の効果を顕著に発揮させる観点からは、任意の成分の含有割合は少ないことが好ましい。例えば、任意の成分の合計の割合は、第1の樹脂に含まれる重合体の100質量部に対して、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましく、5質量部以下が特に好ましい。また、第1の樹脂に含まれる任意の成分が少ないことにより、任意の成分のブリードアウトを抑制することができる。
【0039】
第1の樹脂は、低い透湿性を有する。よって、当該第1の樹脂を厚さ100μmのフィルムにした場合にJIS K7129 B(1992)に準拠して、温度40℃、湿度90%RHの条件で測定される水蒸気透過率が、所定値以下である(要件(v))。具体的には、前記の水蒸気透過率は、通常5g/(m・day)以下、好ましくは2g/(m・day)以下、より好ましくは1.5g/(m・day)以下、特に好ましくは1g/(m・day)以下である。このように低い透湿性を有する第1の樹脂を用いることにより、第1の層の水蒸気遮断能力を高めることができるので、第2の層への水蒸気の浸入を抑制できる。よって、水蒸気による第2の層の劣化を抑制できるので、第2の層の優れた性能を活かして積層フィルムの耐熱性及び耐折り曲げ性を改善することができる。また、高い水蒸気遮断能力を有する第1の樹脂を用いることにより、積層フィルムの水蒸気遮断能力を高めることができるので、積層フィルムを偏光子保護フィルムとして用いた場合に、偏光子を湿気から効果的に保護できる。前記の水蒸気透過率の下限値は、理想的にはゼロであり、0.1g/(m・day)としてもよい。
【0040】
前記の水蒸気透過率は、第1の樹脂によって厚さ100μmのフィルムを形成し、そのフィルムを用いて測定できる。水蒸気透過率の測定は、市販の水蒸気透過度測定装置を用いて、温度40℃、湿度90%RHの条件で行うことができる。
【0041】
第1の樹脂は、高い曲げ弾性率を有することが好ましい。具体的には、第1の樹脂の厚み4mmのフィルムの曲げ弾性率は、好ましくは1900MPa以上、より好ましくは2000MPa以上、特に好ましくは2100MPa以上であり、好ましくは2800MPa以下、より好ましくは2700MPa以下、特に好ましくは2600MPa以下である。第1の樹脂の前記フィルムの曲げ弾性率が、前記範囲の下限値以上であることにより、第1の層の剛性を高めることができるので、積層フィルムのハンドリング性を高めることができる。また、第1の樹脂の前記フィルムの曲げ弾性率が、前記範囲の上限値以下であることにより、積層フィルムの可撓性を高めることができるので、積層フィルムの耐折り曲げ性を効果的に向上させることができる。
【0042】
前記の曲げ弾性率は、第1の樹脂によって厚さ4mmのフィルムを形成し、そのフィルムを用いて測定できる。曲げ弾性率の測定は、JIS K7171に準拠して、温度23℃の条件で行うことができる。
【0043】
第1の樹脂のガラス転移温度Tgは、好ましくは80℃以上、より好ましくは85℃以上、更に好ましくは90℃以上であり、好ましくは250℃以下、より好ましくは170℃以下である。ガラス転移温度がこのような範囲にある重合体は、高温下での使用における変形及び応力が生じ難く、耐熱性に優れる。
【0044】
第1の層の厚みは、「第2の層の厚み」に対する「第1の層の厚み及び第3の層の厚みの和」の比が所定の範囲に収まるように設定される(要件(vi))。具体的には、前記の厚みの比は、通常1以上、好ましくは1.2以上、特に好ましくは1.4以上であり、通常4以下、好ましくは3以下、特に好ましくは2以下である。厚みの比が前記の範囲にあることにより、第1の層、第2の層及び第3の層それぞれの優れた物性が組み合わせられて、耐熱性及び耐折り曲げ性に優れる積層フィルムを得ることができる。特に、厚みの比が前記範囲の下限値以上であることにより、耐熱性を効果的に高めることができ、厚みの比が前記範囲の上限値以下であることにより、耐折り曲げ性を効果的に高めることができる。
【0045】
第1の層の具体的な厚みは、好ましくは5μm以上、より好ましくは8μm以上、特に好ましくは10μm以上であり、好ましくは20μm以下、より好ましくは18μm以下、特に好ましくは15μm以下である。第1の層の厚みが、前記範囲の下限値以上であることにより、第1の層による作用により、積層体の耐熱性及び耐折り曲げ性等の特性を効果的に改善できる。また、第2の層への水分の浸入を効果的に抑制することができる。さらに、第1の層がこのように厚いことにより、第2の層に含まれる任意の成分のブリードアウトを効果的に抑制できる。他方、第1の層の厚みが、前記範囲の上限値以下であることにより、積層フィルムの薄型化を達成できる。
【0046】
[3.第2の層]
第2の層は、第2の樹脂によって形成されている。第2の樹脂としては、ブロック共重合体の水素化物のアルコキシシリル基変性物を含み、更に必要に応じて任意の成分を含みうる樹脂を用いる(要件(i))。以下の説明においては、前記のブロック共重合体を、適宜「ブロック共重合体[1]」と呼ぶことがある。また、以下の説明においては、前記のブロック共重合体[1]の水素化物を、適宜「水素化物[2]」と呼ぶことがある。さらに、以下の説明において、前記のブロック共重合体[1]の水素化物[2]のアルコキシシリル基変性物を、適宜「アルコキシシリル基変性物[3]」と呼ぶことがある。
【0047】
ブロック共重合体[1]は、芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロック[A]と、鎖状共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロック[B]とを含むことが好ましい。中でも、ブロック共重合体[1]は、ブロック共重合体[1]の1分子当たり2個以上の重合体ブロック[A]と、ブロック共重合体[1]1分子あたり1個以上の重合体ブロック[B]とを有することが、特に好ましい。
【0048】
重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物単位を含有する重合体ブロックである。ここで、芳香族ビニル化合物単位とは、芳香族ビニル化合物を重合して形成される構造を有する構造単位のことをいう。
【0049】
重合体ブロック[A]が有する芳香族ビニル化合物単位に対応する芳香族ビニル化合物としては、例えば、スチレン;α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、2,4-ジイソプロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、5-t-ブチル-2-メチルスチレン等の、置換基として炭素数1~6のアルキル基を有するスチレン類;4-クロロスチレン、ジクロロスチレン、4-モノフルオロスチレン等の、置換基としてハロゲン原子を有するスチレン類;4-メトキシスチレン等の、置換基として炭素数1~6のアルコキシ基を有するスチレン類;4-フェニルスチレン等の、置換基としてアリール基を有するスチレン類;1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類;等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。これらの中でも、吸湿性を低くできることから、スチレン、置換基として炭素数1~6のアルキル基を有するスチレン類等の、極性基を含有しない芳香族ビニル化合物が好ましく、工業的入手のし易さから、スチレンが特に好ましい。
【0050】
重合体ブロック[A]における芳香族ビニル化合物単位の含有率は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。重合体ブロック[A]において芳香族ビニル化合物単位の量が前記のように多いことにより、第2の層の剛性及び耐熱性を高めることができる。
【0051】
重合体ブロック[A]は、芳香族ビニル化合物単位以外に、任意の構造単位を含んでいてもよい。重合体ブロック[A]は、任意の構造単位を、1種類で単独でも含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0052】
重合体ブロック[A]が含みうる任意の構造単位としては、例えば、鎖状共役ジエン化合物単位が挙げられる。ここで、鎖状共役ジエン化合物単位とは、鎖状共役ジエン化合物を重合して形成される構造を有する構造単位のことをいう。鎖状共役ジエン化合物単位に対応する鎖状共役ジエン化合物としては、例えば、重合体ブロック[B]が有する鎖状共役ジエン化合物単位に対応する鎖状共役ジエン化合物の例として挙げるものと同じ例が挙げられる。
【0053】
また、重合体ブロック[A]が含みうる任意の構造単位としては、例えば、芳香族ビニル化合物及び鎖状共役ジエン化合物以外の任意の不飽和化合物を重合して形成される構造を有する構造単位が挙げられる。任意の不飽和化合物としては、例えば、鎖状ビニル化合物、環状ビニル化合物等のビニル化合物;不飽和の環状酸無水物;不飽和イミド化合物;等が挙げられる。これらの化合物は、ニトリル基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシカルボニル基、又はハロゲン基等の置換基を有していてもよい。これらの中でも、吸湿性の観点から、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ドデセン、1-エイコセン、4-メチル-1-ペンテン、4,6-ジメチル-1-ヘプテン等の1分子当たり炭素数2~20の鎖状オレフィン;ビニルシクロヘキサン等の1分子当たり炭素数5~20の環状オレフィン;等の、極性基を有しないビニル化合物が好ましく、1分子当たり炭素数2~20の鎖状オレフィンがより好ましく、エチレン、プロピレンが特に好ましい。
【0054】
重合体ブロック[A]における任意の構造単位の含有率は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。
【0055】
ブロック共重合体[1]1分子における重合体ブロック[A]の数は、好ましくは2個以上であり、好ましくは5個以下、より好ましくは4個以下、特に好ましくは3個以下である。1分子中に複数個ある重合体ブロック[A]は、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0056】
重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン化合物単位を含有する重合体ブロックである。前述のように、鎖状共役ジエン化合物単位とは、鎖状共役ジエン化合物を重合して形成される構造を有する構造単位のことをいう。
【0057】
この重合体ブロック[B]が有する鎖状共役ジエン化合物単位に対応する鎖状共役ジエン化合物としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン等が挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。中でも、吸湿性を低くできることから、極性基を含有しない鎖状共役ジエン化合物が好ましく、1,3-ブタジエン、イソプレンが特に好ましい。
【0058】
重合体ブロック[B]における鎖状共役ジエン化合物単位の含有率は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、特に好ましくは99質量%以上である。重合体ブロック[B]において鎖状共役ジエン化合物単位の量が前記のように多いことにより、第2の層の可撓性を向上させることができる。
【0059】
重合体ブロック[B]は、鎖状共役ジエン化合物単位以外に、任意の構造単位を含んでいてもよい。重合体ブロック[B]は、任意の構造単位を、1種類で単独でも含んでいてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて含んでいてもよい。
【0060】
重合体ブロック[B]が含みうる任意の構造単位としては、例えば、芳香族ビニル化合物単位、並びに、芳香族ビニル化合物及び鎖状共役ジエン化合物以外の任意の不飽和化合物を重合して形成される構造を有する構造単位が挙げられる。これらの芳香族ビニル化合物単位、並びに、任意の不飽和化合物を重合して形成される構造を有する構造単位としては、例えば、重合体ブロック[A]に含まれていてもよいものとして例示したものと同じ例が挙げられる。
【0061】
重合体ブロック[B]における任意の構造単位の含有率は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは1質量%以下である。重合体ブロック[B]における任意の構造単位の含有率が低いことにより、第2の層の可撓性を向上させることができる。
【0062】
ブロック共重合体[1]1分子における重合体ブロック[B]の数は、通常1個以上であるが、2個以上であってもよい。ブロック共重合体[1]における重合体ブロック[B]の数が2個以上である場合、それらの重合体ブロック[B]は、互いに同じでもよく、異なっていてもよい。
【0063】
ブロック共重合体[1]のブロックの形態は、鎖状型ブロックでもよく、ラジアル型ブロックでもよい。中でも、鎖状型ブロックが、機械的強度に優れ、好ましい。ブロック共重合体[1]が鎖状型ブロックの形態を有する場合、ブロック共重合体[1]の分子鎖の両端が重合体ブロック[A]であることにより、第2の層のベタツキを所望の低い値に抑えることができる。
【0064】
ブロック共重合体[1]の特に好ましいブロックの形態は、[A]-[B]-[A]で表されるように、重合体ブロック[B]の両端に重合体ブロック[A]が結合したトリブロック共重合体;[A]-[B]-[A]-[B]-[A]で表されるように、重合体ブロック[A]の両端に重合体ブロック[B]が結合し、更に該両重合体ブロック[B]の他端にそれぞれ重合体ブロック[A]が結合したペンタブロック共重合体;である。特に、[A]-[B]-[A]のトリブロック共重合体であることが、製造が容易であり且つ物性を所望の範囲に容易に収めることができるため、特に好ましい。
【0065】
ブロック共重合体[1]において、ブロック共重合体[1]の全体に占める重合体ブロック[A]の重量分率wAと、ブロック共重合体[1]の全体に占める重合体ブロック[B]の重量分率wBとの比(wA/wB)は、特定の範囲に収まることが好ましい。具体的には、前記の比(wA/wB)は、好ましくは40/60以上、より好ましくは50/50以上、特に好ましくは70/30以上であり、好ましくは95/5以下、より好ましくは90/10以下、特に好ましくは85/15以下である。前記の比wA/wBが前記範囲の下限値以上であることにより、第2の層の剛性及び耐熱性を向上させたり、複屈折を小さくしたりすることができる。また、前記の比wA/wBが前記範囲の上限値以下であることにより、第2の層の可撓性を向上させることができる。ここで、重合体ブロック[A]の重量分率wAは、重合体ブロック[A]全体の重量分率を示し、重合体ブロック[B]の重量分率wBは、重合体ブロック[B]全体の重量分率を示す。
【0066】
前記のブロック共重合体[1]の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、特に好ましくは50,000以上であり、好ましくは200,000以下、より好ましくは150,000以下、特に好ましくは100,000以下である。
また、ブロック共重合体[1]の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下であり、好ましくは1.0以上である。
前記ブロック共重合体[1]の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレン換算の値として測定しうる。
【0067】
ブロック共重合体[1]の製造方法としては、例えば、国際公開第2015/099079号、特開2016-204217号公報に記載の方法を採用しうる。
【0068】
水素化物[2]は、ブロック共重合体[1]の不飽和結合を水素化して得られる重合体である。ここで、水素化されるブロック共重合体[1]の不飽和結合には、ブロック共重合体[1]の主鎖及び側鎖の、芳香族性及び非芳香族性の炭素-炭素不飽和結合を、いずれも含む。
【0069】
水素化物[2]の水素化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは97%以上、特に好ましくは99%以上である。水素化物[2]の水素化率は、別に断らない限り、ブロック共重合体[1]の主鎖及び側鎖の、芳香族性及び非芳香族性の炭素-炭素不飽和結合のうちの、水素化された結合の割合である。水素化率が高いほど、第2の層の透明性、耐熱性及び耐候性を良好にでき、更には第2の層の複屈折を小さくし易い。ここで、水素化物[2]の水素化率は、H-NMRによる測定により求めうる。水素化物[2]の水素化率の上限は、100%以下としうる。
【0070】
特に、非芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上である。非芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の水素化率を高めることにより、第2の層の耐光性及び耐酸化性を更に高くできる。
【0071】
また、芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の水素化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、特に好ましくは95%以上である。芳香族性の炭素-炭素不飽和結合の水素化率を高めることにより、重合体ブロック[A]を水素化して得られる重合体ブロックのガラス転移温度が高くなるので、第2の層の耐熱性を効果的に高めることができる。さらに、第2の樹脂の光弾性係数を下げることができる。
【0072】
水素化物[2]の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、さらにより好ましくは45,000以上であり、好ましくは200,000以下、より好ましくは150,000以下、さらにより好ましくは100,000以下である。水素化物[2]の重量平均分子量(Mw)が前記の範囲に収まることにより、第2の層の機械強度及び耐熱性を向上させることができ、更には第2の層の複屈折を小さくし易い。
【0073】
水素化物[2]の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3以下、より好ましくは2以下、特に好ましくは1.8以下であり、好ましくは1.0以上である。水素化物[2]の分子量分布(Mw/Mn)が前記の範囲に収まることにより、第2の層の機械強度及び耐熱性を向上させることができ、更には第2の層の複屈折を小さくし易い。
【0074】
水素化物[2]の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により、ポリスチレン換算の値で測定しうる。
【0075】
前述した水素化物[2]は、ブロック共重合体[1]を水素化することにより、製造しうる。水素化方法としては、水素化率を高くでき、ブロック共重合体[1]の鎖切断反応の少ない水素化方法が好ましい。このような水素化方法としては、例えば、国際公開第2015/099079号、特開2016-204217号公報に記載された方法が挙げられる。
【0076】
アルコキシシリル基変性物[3]は、上述したブロック共重合体[1]の水素化物[2]に、アルコキシシリル基を導入して得られる重合体である。この際、アルコキシシリル基は、上述した水素化物[2]に直接結合していてもよく、例えばアルキレン基などの2価の有機基を介して間接的に結合していてもよい。アルコキシシリル基変性物[3]は、多様な材料に対する密着性に優れる。よって、アルコキシシリル着変性物[3]を含む第2の樹脂で形成された第2の層は、第1の層及び第3の層との密着性に優れる。したがって、熱及び応力による第2の層の剥離を抑制できるので、これによっても、積層フィルムの耐熱性及び耐折り曲げ性を高めることができる。
【0077】
アルコキシシリル基変性物[3]におけるアルコキシシリル基の導入量は、アルコキシシリル基の導入前の水素化物[2]100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、特に好ましくは0.3質量部以上であり、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、特に好ましくは3質量部以下である。アルコキシシリル基の導入量を前記範囲に収めると、水分等で分解されたアルコキシシリル基同士の架橋度が過剰に高くなることを抑制できるので、第2の層の密着性を高く維持することができる。
アルコキシシリル基の導入量は、H-NMRスペクトルにて計測しうる。また、アルコキシシリル基の導入量の計測の際、導入量が少ない場合は、積算回数を増やして計測しうる。
【0078】
アルコキシシリル基変性物[3]の重量平均分子量(Mw)は、導入されるアルコキシシリル基の量が少ないため、通常は、アルコキシシリル基を導入する前の水素化物[2]の重量平均分子量(Mw)から大きく変化しない。ただし、アルコキシシリル基を導入する際には、通常は過酸化物の存在下で水素化物[2]を変性反応させるので、その水素化物[2]の架橋反応及び切断反応が進行し、分子量分布は大きく変化する傾向がある。アルコキシシリル基変性物[3]の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは30,000以上、より好ましくは40,000以上、さらにより好ましくは45,000以上であり、好ましくは200,000以下、より好ましくは150,000以下、さらにより好ましくは100,000以下である。また、アルコキシシリル基変性物[3]の分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは3.5以下、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2.0以下であり、好ましくは1.0以上である。アルコキシシリル基変性物[3]の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)がこの範囲であると、第2の層の良好な機械強度及び引張り伸びが維持できる。
アルコキシシリル基変性物[3]の重量平均分子量(Mw)及び分子量分布(Mw/Mn)は、テトラヒドロフランを溶媒としたゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって、ポリスチレン換算の値として測定しうる。
【0079】
アルコキシシリル基変性物[3]は、前述したブロック共重合体[1]の水素化物[2]にアルコキシシリル基を導入することにより、製造しうる。水素化物[2]にアルコキシシリル基を導入する方法としては、例えば、国際公開第2015/099079号、特開2016-204217号公報に記載された方法が挙げられる。
【0080】
第2の樹脂におけるアルコキシシリル基変性物[3]の割合は、耐熱性及び耐折れ曲げ性に特に優れた積層フィルムを得る観点から、好ましくは90質量%~100質量%、より好ましくは93質量%~100質量%、更に好ましくは95質量%~100質量%、特に好ましくは97質量%~100質量%である。
【0081】
第2の樹脂は、アルコキシシリル基変性物[3]に組み合わせて、任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分としては、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。第2の層が第1の層と第3の層との間に設けられているので、第2の層に含まれる任意の成分の移動は、第1の層及び第3の層によって妨げられる。よって、積層フィルムにおいては、第2の樹脂に含まれる任意の成分のブリードアウトを抑制できる。
【0082】
任意の成分の例としては、第1の樹脂が含みうる任意の成分と同様の例が挙げられる。中でも、紫外線吸収剤が好ましい。紫外線吸収剤は、紫外線を吸収する能力を有する化合物である。紫外線吸収剤を含む第2の樹脂を用いることにより、積層フィルムは紫外線遮断能力を有することができる。よって、積層フィルムを偏光子保護フィルムとして用いた場合に、偏光子を紫外線から保護することができる。
【0083】
紫外線吸収剤としては、有機化合物を用いることが好ましい。有機化合物としての紫外線吸収剤を用いることにより、無機化合物としての紫外線吸収剤を用いた場合に比べ、通常は、積層フィルムの可視波長における光線透過率を高めたり、積層フィルムのヘイズを小さくしたりできる。有機化合物としての紫外線吸収剤としては、例えば、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤、サリシレート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、アゾメチン系紫外線吸収剤、インドール系紫外線吸収剤、ナフタルイミド系紫外線吸収剤、フタロシアニン系紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの紫外線吸収剤の具体例としては、特開2017-68227号公報に記載のものが挙げられる。
【0084】
第2の樹脂における任意の成分の割合は、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、特に好ましくは7質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、特に好ましくは10質量%以下である。任意の成分の割合が、前記範囲の下限値以上であることにより、積層フィルムにおいて当該任意の成分が有する機能を効果的に発揮することができる。また、任意の成分の割合が、前記範囲の上限値以下であることにより、第2の樹脂のゲル化を容易に抑制できる。
【0085】
第2の樹脂を、37℃の水に24時間浸漬し、23℃湿度70%の環境で24時間放置した後のカールフィッシャー法による水分含有率は、通常0.020質量%以下、好ましくは0.015質量%以下、より好ましくは0.010質量%以下、特により好ましくは0.008質量%以下である(要件(ii))。積層フィルムに用いられる第2の樹脂としては、適切な乾燥処理を施されることによって水分含有率を低くされたものを用いる。これにより、積層フィルムにおける気泡及び穴の形成を抑制することができる。さらには、第2の樹脂の水分含有率が低いことで、積層フィルムの耐折れ曲げ性を効果的に向上させることが期待できる。
【0086】
第2の樹脂の水分含有率は、当該第2の樹脂を37℃の水に24時間浸漬し、更に37℃、相対湿度70%の条件で24時間静置した後で、測定する。この測定は、カールフィッシャー水分計を用いて、試料の加熱温度を150℃、加熱時間を10分間として測定できる。
【0087】
第2の樹脂は、第1の樹脂の曲げ弾性率よりも低く、且つ、第3の樹脂の曲げ弾性率よりも低い曲げ弾性率を有する(要件(iii))。これにより、積層フィルムの耐折れ曲げ性を高めることができる。
【0088】
以下、好ましい具体的な範囲を示す。第1の樹脂によって形成された厚み4mmのフィルムの曲げ弾性率、及び、第3の樹脂によって形成された厚み4mmのフィルムの曲げ弾性率のうち低い方の曲げ弾性率と、第2の樹脂によって形成された厚み4mmのフィルムの曲げ弾性率との差を、「曲げ弾性率差」という。この曲げ弾性率差は、好ましくは1000MPa以上、より好ましくは1100MPa以上、特に好ましくは1200MPa以上であり、好ましくは2100MPa以下、より好ましくは2000MPa以下、特に好ましくは1900MPa以下である。曲げ弾性率差が前記の範囲の下限値以上であることにより、積層フィルムの耐折り曲げ性を効果的に向上させることができる。また、曲げ弾性率差が前記の範囲の上限値以下であることにより、第1の樹脂及び第3の樹脂の曲げ弾性率が過大になって第2の層の作用が相対的に過小になることを抑制できるので、これによっても、積層フィルムの耐折り曲げ性を効果的に向上させることができる。
【0089】
また、第2の樹脂によって形成された厚み4mmのフィルムの曲げ弾性率は、好ましくは550MPa以上、より好ましくは600MPa以上、特に好ましくは650MPa以上であり、好ましくは1000MPa以下、より好ましくは900MPa以下、特に好ましくは800MPa以下である。第2の樹脂によって形成されたフィルムの曲げ弾性率が、前記範囲の下限値以上であることにより、第2の層の剛性を高めることができるので、積層フィルムのハンドリング性を高めることができる。また、第2の樹脂によって形成されたフィルムの曲げ弾性率が、前記範囲の上限値以下であることにより、積層フィルムの可撓性を高めることができるので、積層フィルムの耐折り曲げ性を効果的に向上させることができる。
第2の樹脂の前記の曲げ弾性率は、第1の樹脂の曲げ弾性率と同じ方法によって測定できる。
【0090】
第2の樹脂を厚さ100μmのフィルムにした場合にJIS K7129 B(1992)に準拠して温度40℃、湿度90%RHの条件で測定される水蒸気透過率は、低いことが好ましい。具体的には、前記の水蒸気透過率は、好ましくは5g/(m・day)以下、より好ましくは4.5g/(m・day)以下、さらに好ましくは4g/(m・day)以下である。第2の樹脂がこのように低い透湿性を有することにより、積層フィルムの水蒸気遮断能力を効果的に高めることができるので、積層フィルムを偏光子保護フィルムとして用いた場合に、偏光子を湿気から効果的に保護できる。前記の水蒸気透過率の下限値は、理想的にはゼロであり、0.1g/m・dayとしてもよい。
第2の樹脂の前記の水蒸気透過率は、第1の樹脂の水蒸気透過率と同じ方法によって測定できる。
【0091】
第2の樹脂は、高い紫外線遮断能力を有することが好ましい。このような高い紫外線遮断能力は、第2の樹脂として紫外線吸収剤を含むものを用いることにより実現することができる。高い紫外線遮断能力を有する第2の樹脂を用いることにより、積層フィルムも高い紫外線遮断能力を有することができる。よって、積層フィルムを偏光子保護フィルムとして用いた場合に、偏光子を紫外線から保護することができる。
【0092】
第2の層の厚みは、前述したように、「第2の層の厚み」に対する「第1の層の厚み及び第3の層の厚みの和」の比が所定の範囲に収まるように設定される。よって、第2の層の厚みは、前記の厚みの比が前記の範囲に収まる範囲で設定される。具体的には、第2の層の厚みは、好ましくは10μm以上、より好ましくは13μm以上、特に好ましくは15μm以上であり、好ましくは25μm以下、より好ましくは23μm以下、特に好ましくは20μm以下である。第2の層の厚みが、前記範囲の下限値以上であることにより、第2の層による作用により、積層体の耐熱性及び耐折り曲げ性等の特性を効果的に改善できる。他方、第2の層の厚みが、前記範囲の上限値以下であることにより、積層フィルムの薄型化を達成できる。
【0093】
[4.第3の層]
第3の層は、第3の樹脂によって形成されている。第3の樹脂としては、重合体を含み、更に必要に応じて任意の成分を含みうる樹脂を用いることができる。重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0094】
前述したように、積層フィルムでは、第1の樹脂及び第3の樹脂のうちの一方又は双方として、脂環式構造含有重合体を含む樹脂を用いる(要件(iv))。よって、第1の樹脂が脂環式構造含有重合体を含む場合は、第3の樹脂は、脂環式構造含有重合体を含んでいてもよく、含んでいなくてもよい。また、第1の樹脂が脂環式構造含有重合体を含まない場合は、第3の樹脂は、脂環式構造含有重合体を含む。ただし、積層フィルムの耐熱性及び耐折れ曲げ性を効果的に高める観点では、第1の樹脂及び第3の樹脂の双方が、脂環式構造含有重合体を含むことが好ましい。
【0095】
第3の樹脂としては、第1の樹脂として説明した範囲のものを、任意に用いうる。これにより、第3の層によって、第1の層による効果と同じ効果を得ることができる。第1の樹脂と第3の樹脂とは、異なっていてもよいが、積層フィルムの製造コストの抑制及びカールの抑制の観点から、同じであることが好ましい。
【0096】
第3の樹脂は、低い透湿性を有することが好ましい。具体的には、当該第3の樹脂を厚さ100μmのフィルムにした場合にJIS K7129 B(1992)に準拠して測定される水蒸気透過率は、前述した第1の樹脂の水蒸気透過率の範囲と同じ範囲にあることが好ましい。第3の樹脂が低い透湿性を有することにより、第1の樹脂による効果と同じ効果を得ることができる。
第3の樹脂の前記の水蒸気透過率は、第1の樹脂の水蒸気透過率と同じ方法によって測定できる。
【0097】
第3の樹脂は、高い曲げ弾性率を有することが好ましい。具体的には、第3の樹脂の厚み4mmのフィルムの曲げ弾性率は、前述した第1の樹脂の曲げ弾性率の範囲と同じ範囲にあることが好ましい。第3の樹脂が高い曲げ弾性率を有することにより、第1の樹脂による効果と同じ効果を得ることができる。特に、第1の樹脂及び第3の双方が前述した範囲の曲げ弾性率を有することにより、積層フィルムの耐折り曲げ性を特に効果的に改善できる。
第3の樹脂の前記の曲げ弾性率は、第1の樹脂の曲げ弾性率と同じ方法によって測定できる。
【0098】
第3の樹脂のガラス転移温度は、第1の樹脂のガラス転移温度の範囲と同じ範囲にあることが好ましい。これにより、第1の樹脂による効果と同じ効果を得ることができる。
【0099】
第3の層の厚みは、前述したように、「第2の層の厚み」に対する「第1の層の厚み及び第3の層の厚みの和」の比が所定の範囲に収まるように設定される。よって、第3の層の厚みは、前記の厚みの比が前記の範囲に収まる範囲で設定される。具体的には、第3の層の厚みは、第1の層の厚みの範囲と同じ範囲にあることが好ましい。第3の層の厚みが前記の範囲にあることにより、第1の層による効果と同じ効果を得ることができる。第1の層の厚みと第3の層の厚みとは、異なっていてもよいが、積層フィルムのカールを効果的に抑制する観点から、同じであることが好ましい。
【0100】
[5.任意の層]
積層フィルムは、必要に応じて、上述した第1の層、第2の層及び第3の層に組み合わせて、任意の層を備えうる。例えば、積層フィルムは、第1の層の第2の層とは反対側、第3の層の第2の層とは反対側、などの位置に任意の層を備えていてもよい。任意の層としては、例えば、ハードコート層、低屈折率層、帯電防止層、インデックスマッチング層等が挙げられる。ただし、積層フィルムを薄くする観点からは、積層フィルムは任意の層を備えない3層構造のフィルムであることが好ましい。
【0101】
[6.積層フィルムの物性及び厚み]
積層フィルムは、優れた耐熱性を有する。よって、積層フィルムは、高温環境において、面状の悪化を抑制することができる。例えば、ある実施形態においては、積層フィルムに張力を掛けない状態で、その積層フィルムを140℃の雰囲気下で10分放置した場合に、積層フィルムの両面において、凹凸の発生を抑制することが可能である。
【0102】
さらに、積層フィルムは、脂環式構造含有重合体を含む第1の層又は第3の層を備えるので、通常は、特に高温高湿度環境においても、優れた寸法安定性を有する。特に、結晶性を有する脂環式構造含有重合体を用いた場合に、前記の効果を顕著に得ることが可能である。
【0103】
積層フィルムは、優れた耐折り曲げ性を有する。よって、積層フィルムは、繰り返し折り曲げを行っても、クラック、折れ目及び白濁の発生を抑制することができる。例えば、ある実施形態においては、後述する実施例に記載の耐屈曲性試験によって折り曲げを10万回繰り返した場合でも、クラック、折れ目及び白濁の発生を抑制することができる。
【0104】
積層フィルムにおいては、気泡の形成が抑制されている。よって、通常、積層フィルムは、その内部における気泡の数が少なく、好ましくはその内部に気泡を有さない。
【0105】
積層フィルムの波長380nmにおける光線透過率は、低いことが好ましい。波長380nmにおける光線透過率が低いことは、紫外線遮断能力に優れることを意味する。紫外線遮断能力に優れる積層フィルムは、偏光子保護フィルムとして用いた場合に、偏光子を紫外線から保護することができる。さらに、一般に、有機EL表示装置に含まれる有機成分は、長波長の紫外線によって特に劣化しやすい。したがって、積層フィルムを有機EL表示装置に設けた場合には、有機成分の劣化を効果的に抑制することができる。
【0106】
積層フィルムは、光学フィルムとして用いる観点から、高い全光線透過率を有することが好ましい。積層フィルムの具体的な全光線透過率は、好ましくは85%~100%、より好ましくは87%~100%、特に好ましくは90%~100%である。全光線透過率は、市販の分光光度計を用いて、波長400nm以上700nm以下の範囲で測定しうる。
【0107】
積層フィルムは、積層フィルムを組み込んだ画像表示装置の画像鮮明性を高める観点から、ヘイズが小さいことが好ましい。積層フィルムのヘイズは、好ましくは1%以下、より好ましくは0.8%以下、特に好ましくは0.5%以下である。ヘイズは、JIS K7361-1997に準拠して、濁度計を用いて測定しうる。
【0108】
積層フィルムの厚みは、好ましくは20μm以上、より好ましくは25μm以上、特に好ましくは30μm以上であり、好ましくは50μm以下、より好ましくは47μm以下、特に好ましくは45μm以下である。積層フィルムの厚みが、前記範囲の下限値以上であることにより、光学フィルム用途で求められる耐熱性及び剛性を確保することができ、上限値以下であることにより、光学フィルム用途で求められる軽量性及び省スペース性を確保することができる。
【0109】
[7.積層フィルムの製造方法]
積層フィルムは、第2の樹脂を乾燥する工程と;第1の樹脂、乾燥させた第2の樹脂、及び、第3の樹脂によって、第1の層、第2の層、及び、第3の層を形成する工程と;を含む製造方法によって、製造できる。
【0110】
第2の樹脂の乾燥工程における乾燥温度は、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、特に好ましくは50℃以上である。乾燥温度が、前記範囲の下限値以上であることにより、乾燥を速やかに進行させることができる。乾燥温度の上限は、特段の制限は無い。ただし、工業的には、第2の樹脂の乾燥工程は、製造ライン上で行われるので、第2の樹脂を搬送しながら行われることが多い。このように搬送される第2の樹脂は、熱による融着を抑制されることが好ましい。そこで、融着を安定して抑制する観点から、乾燥温度は、好ましくは100℃以下、より好ましくは80℃以下、特に好ましくは70℃以下である。
【0111】
第2の樹脂の乾燥工程における乾燥時間は、好ましくは180分以上、より好ましくは210分以上、特に好ましくは240分以上であり、好ましくは720分以下、より好ましくは660分以下、特に好ましくは600分以下である。乾燥時間が、前記範囲の下限値以上であることにより、第2の樹脂の水分含有率を効果的に下げることができる。また、乾燥時間が前記範囲の上限値以下であることにより、樹脂劣化を抑制したり、積層フィルムの製造時間を短縮して、生産効率を高めたりすることができる。
【0112】
第2の樹脂の乾燥後、第1の樹脂、乾燥した第2の樹脂及び第3の樹脂によって第1の層、第2の層、及び、第3の層を形成する工程を行って、積層フィルムを製造する。第1の層、第2の層、及び、第3の層の形成方法に制限は無い。例えば、第1の樹脂、第2の樹脂及び第3の樹脂をフィルム状に成形する工程を含む形成方法により、第1の層、第2の層、及び、第3の層を形成できる。成形方法としては、例えば、共押出法及び共流延法などが挙げられる。これらの成形方法の中でも、共押出法は、製造効率に優れ、積層フィルム中に揮発性成分を残留させ難いので、好ましい。
【0113】
共押出法は、第1の樹脂と、第2の樹脂と、第3の樹脂とを、共押し出しする工程を含む。共押出法においては、第1の樹脂、第2の樹脂及び第3の樹脂は、それぞれ溶融状態で層状に押し出され、第1の層、第2の層及び第3の層を形成する。この際、各樹脂の押出方法としては、例えば、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等が挙げられる。中でも、共押出Tダイ法が好ましい。共押出Tダイ法には、フィードブロック方式及びマルチマニホールド方式があり、厚みのばらつきを少なくできる点で、マルチマニホールド方式が特に好ましい。
【0114】
積層フィルムの製造方法は、前述した工程に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。例えば、積層フィルムの製造方法は、積層フィルムに延伸処理を施す延伸工程を含んでいてもよい。このように延伸処理を施すことにより、積層フィルムを薄くしたり、積層フィルムの機械的強度を高めたり、積層フィルムに所望の光学特性を発現させたりすることができる。
【0115】
[8.偏光板]
前述した積層フィルムは、位相差フィルム、偏光子保護フィルム、偏光補償フィルム等の光学フィルムとして、広範な用途に用いうる。中でも、積層フィルムは、偏光子保護フィルムとして用いることが好ましい。
【0116】
本発明の一実施形態に係る偏光板は、偏光子と、前述の積層フィルムと、を備える。積層フィルムは、偏光子の片側のみに設けられていてもよく、両側に設けられていてもよい。この偏光板は、積層フィルムが優れた耐熱性を有するので、高温環境における性能の劣化を抑制できる。また、この偏光板は、積層フィルムが優れた耐折り曲げ性を有するので、偏光板自体も優れた耐折り曲げ性を有する。よって、この偏光板は、有機EL表示装置等のフレキシブルディスプレイに適用することが可能である。
【0117】
偏光子としては、互いに垂直な振動方向を有する二つの直線偏光の一方を透過し、他方を吸収又は反射できるフィルムを用いうる。直線偏光の振動方向とは、直線偏光の電場の振動方向を意味する。偏光子の具体例を挙げると、ポリビニルアルコール、部分ホルマール化ポリビニルアルコール等のビニルアルコール系重合体のフィルムに、ヨウ素、二色性染料等の二色性物質による染色処理、延伸処理、架橋処理等の適切な処理を適切な順序及び方式で施したものが挙げられる。特に、ポリビニルアルコールを含む偏光子が好ましい。また、偏光子の厚さは、通常、5μm~80μmである。
【0118】
偏光板は、偏光子に積層フィルムを貼り合わせることにより、製造できる。貼り合わせに際しては、必要に応じて接着剤を用いてもよい。
【0119】
偏光板は、偏光子及び積層フィルムに組み合わせて、更に任意の層を備えていてもよい。例えば、偏光板は、積層フィルム以外の任意の保護フィルム層を、偏光子の保護のために備えていてもよい。さらに、任意の層としては、例えば、ハードコート層、低屈折率層、帯電防止層、インデックスマッチング層が挙げられる。
【0120】
上述したようにして得られる偏光板は、例えば、有機EL表示装置等の画像表示装置に用いることが可能である。
【実施例
【0121】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
以下の説明において、量を表す「ppm」、「%」及び「部」は、別に断らない限り、質量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0122】
[評価方法]
〔分子量の測定方法〕
重合体の重量平均分子量及び数平均分子量は、テトラヒドロフランを溶離液とするゲル・パーミエーション・クロマトグラフィーによる標準ポリスチレン換算値として38℃において測定した。測定装置としては、東ソー社製HLC8320GPCを用いた。
【0123】
〔ガラス転移温度Tgおよび融点Mpの測定方法〕
示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分で昇温して試料のガラス転移温度Tgおよび融点Mpをそれぞれ求めた。
【0124】
〔水素化率の測定方法〕
重合体の水素化率は、H-NMR測定により測定した。
【0125】
〔重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定方法〕
オルトジクロロベンゼン-d/トリクロロベンゼン-d(混合比(質量基準)1/2)を溶媒として、200℃で、inverse-gated decoupling法を適用して、重合体の13C-NMR測定を行った。この13C-NMR測定の結果において、オルトジクロロベンゼン-dの127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルとを同定した。これらのシグナルの強度比に基づいて、重合体のラセモ・ダイアッドの割合を求めた。
【0126】
[曲げ弾性率の測定方法]
試料としての樹脂から、射出成形により厚み4mmのシート状のフィルムを形成した。得られたフィルムの曲げ弾性率を、JIS K7171に準拠して、温度23℃において測定した。測定装置としては、引張試験機(インストロン社製「5564型」)を用いた。
【0127】
[水蒸気透過率の測定方法]
試料としての樹脂から、押出成形法により、厚み100μmのフィルムを形成した。得られたフィルムの水蒸気透過率を、JIS K7129 B(1992)に準拠して測定した。測定は、水蒸気透過度測定装置(MOCON社製「PERMATRAN-W」)を用いて、温度40℃、湿度90%RHの条件にて行った。
【0128】
〔樹脂の水分含有率の測定方法〕
試料としての樹脂を、37℃の水に24時間浸漬した。その後、樹脂を水から取り出し、37℃、70%RH(相対湿度)に調節した恒温恒湿槽中で、24時間静置した。その後、恒温恒湿槽から試料を取り出し、直ちに水分含有率を測定した。水分含有率の測定は、水分気化装置(三菱化学アナリテック社製「VA-200型」)を備えたカールフィッシャー水分測定装置(三菱化学アナリテック社製「微量水分測定装置CA-200」)を用い、試料の加熱温度を150℃、加熱時間を10分間として測定した。
【0129】
〔厚みの測定方法〕
第1の層、第2の層及び第3の層を含む積層フィルムの全体の厚みは、スナップゲージを用いて測定した。
また、積層フィルムをミクロトームを用いてスライスして、厚み0.05μmの切片を得た。その後、スライスにより現れた切片の断面を、光学顕微鏡を用いて観察して、第1の層、第2の層及び第3の層それぞれの厚みを測定した。
【0130】
〔全光線透過率の測定方法〕
積層フィルムの全光線透過率を、JIS K7361に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH-4000」を用いて、5箇所の平均値から求めた。
【0131】
〔耐熱性の評価方法〕
積層フィルムに張力を掛けない状態で、その積層フィルムを140℃の雰囲気下で10分放置した。その後、目視で積層フィルムの面状を確認した。
積層フィルムの少なくとも一方の表面に凹凸が少なくとも1個確認できた場合は、耐熱温度が140℃未満であるとして、耐熱性に劣ることを示す「不良」と判定した。
また、積層フィルムの双方の表面に凹凸が確認できなかった場合は、耐熱温度が140℃以上であるとして、耐熱性に優れていることを示す「良」と判定した。
ここで、耐熱試験後にフィルムの表面に確認される凹凸とは、熱による膨張もしくは収縮により積層フィルムに局所的に生じた微小凹凸をいう。
【0132】
[耐屈曲性試験の方法]
積層フィルムを、卓上型耐久試験器(ユアサシステム機器株式会社製「DLDMLH-FS」)を用いて、面状体無負荷U字伸縮試験の方法により、耐屈曲性試験を行った。折り曲げは、伸縮幅50mm、曲げ半径2mm、伸縮速度80回/分の条件で、第1の層が外側(引張応力が加えられる側)になるよう、繰り返し行った。折り曲げ回数1000回を超えて1万回までは1000回毎に、1万回を超えて5万回までは5000回毎に、5万回を超えては1万回毎に、装置を停止して、積層フィルムを目視確認した。積層フィルムにわずかでもクラックが生じていることが確認されれば「クラック」、折れ目がついている場合は「折れ目」、折り曲げ部分が白濁していた場合は「白濁」と評価した。評価は、折り曲げ回数10万回を上限として4回行った。4回の中で、「クラック」、「折れ目」、又は「白濁」が生じるまでの折り曲げ回数が最も多い回の結果を、評価結果として採用した。
【0133】
[外観の評価方法]
積層フィルムを目視で評価して、気泡の有無を判定した。
【0134】
[製造例1:ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む結晶性COP樹脂(1)の製造]
金属製の耐圧反応器を、充分に乾燥した後、窒素置換した。この耐圧反応器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の濃度70%シクロヘキサン溶液42.8部(ジシクロペンタジエンの量として30部)、及び、1-ヘキセン1.9部を加え、53℃に加温した。
【0135】
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解し、溶液を調製した。この溶液に、濃度19%のジエチルアルミニウムエトキシド/n-ヘキサン溶液0.061部を加えて10分間攪拌して、触媒溶液を調製した。
この触媒溶液を耐圧反応器に加えて、開環重合反応を開始した。その後、53℃を保ちながら4時間反応させて、ジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液を得た。
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、8,750および28,100であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.21であった。
【0136】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部に、停止剤として1,2-エタンジオール0.037部を加えて、60℃に加温し、1時間攪拌して重合反応を停止させた。ここに、ハイドロタルサイト様化合物(協和化学工業社製「キョーワード(登録商標)2000」)を1部加えて、60℃に加温し、1時間攪拌した。その後、濾過助剤(昭和化学工業社製「ラヂオライト(登録商標)#1500」)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(ADVANTEC東洋社製「TCP-HX」)を用いて吸着剤と溶液を濾別した。
【0137】
濾過後のジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部(重合体量30部)に、シクロヘキサン100部を加え、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加して、水素圧6MPa、180℃で4時間、水素化反応を行なった。これにより、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む反応液が得られた。この反応液は、水素化物が析出してスラリー溶液となっていた。
【0138】
前記の反応液に含まれる水素化物と溶液とを、遠心分離器を用いて分離し、60℃で24時間減圧乾燥して、結晶性を有するジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物28.5部を得た。この水素化物の水素化率は99%以上、ガラス転移温度Tgは93℃、融点(Mp)は262℃、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。
【0139】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン;BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)1.1部を混合した後、内径3mmΦのダイ穴を4つ備えた二軸押出機(東芝機械社製「TEM-37B」)に投入した。二軸押出機を用いた熱溶融押出し成形により、樹脂をストランド状の成形体にした後、ストランドカッターにて細断して、結晶性COP樹脂(1)のペレットを得た。この結晶性COP樹脂(1)は、結晶性を有する脂環式構造含有重合体としてジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物を含む樹脂(ガラス転移温度Tgは92℃、融点Mpは260℃)である。
前記の二軸押出機の運転条件は、以下のとおりであった。
・バレル設定温度=270℃~280℃。
・ダイ設定温度=250℃。
・スクリュー回転数=145rpm。
・フイーダー回転数=50rpm。
【0140】
得られた結晶性COP樹脂(1)について、曲げ弾性率及び水蒸気透過率を、上述した方法で測定した。
【0141】
[製造例2:ブロック共重合体の水素化物のアルコキシシリル基変性物を含むSi変性樹脂(2)の製造]
(第1段階:重合反応による第1ブロックStの伸長)
十分に乾燥し窒素置換した、攪拌装置を備えたステンレス鋼製の反応器に、脱水シクロヘキサン550部、スチレン25部、及びジブチルエーテル0.475部を仕込み、60℃で攪拌しながらn-ブチルリチウム溶液(15質量%含有ヘキサン溶液)0.68部を添加して重合反応を開始させ、1段目の重合反応を行った。反応開始後1時間の時点で、反応混合物から試料をサンプリングし、ガスクロマトグラフィー(GC)により分析した結果、重合転化率は99.5%であった。
【0142】
(第2段階:重合反応による第2ブロックIpの伸長)
上記第1段階で得られた反応混合物に、脱水イソプレン50部を添加し、そのまま30分撹拌を続けた。引き続き第2段階の重合反応を開始した。第2段階の重合反応開始後1時間の時点で、反応混合物から試料をサンプリングし、GCにより分析した結果、重合転化率は99.5%であった。
【0143】
(第3段階:重合反応による第3ブロックStの伸長)
上記第2段階で得られた反応混合物に、脱水スチレン25部を添加し、引き続き第3段階の重合反応を開始した。第3段階の重合反応開始後1時間の時点で、反応混合物から試料をサンプリングし、ブロック共重合体の重量平均分子量Mw及び数平均分子量Mnを測定した。またこの時点でサンプリングした試料をGCにより分析した結果、重合転化率はほぼ100%であった。その後直ちに、反応混合物にイソプロピルアルコール0.5部を添加して反応を停止させた。これにより、ブロック共重合体を含む混合物を得た。
【0144】
得られたブロック共重合体は、第1ブロックSt-第2ブロックIp-第3ブロックSt=25-50-25(重量比)のトリブロック分子構造を有する重合体であることが分かった。ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw)は47200、分子量分布(Mw/Mn)は1.05であった。
【0145】
(第4段階:ブロック共重合体の水素化)
次に、上記のブロック共重合体を含む混合物を、攪拌装置を備えた耐圧反応器に移送し、水素化触媒としての珪藻土担持型ニッケル触媒(ズードケミー触媒社製「T-8400RL」)3.0部及び脱水シクロヘキサン100部を添加して、混合した。反応器内部を水素ガスで置換し、さらに溶液を攪拌しながら水素を供給し、温度190℃、圧力4.5MPaにて8時間、水素化反応を行った。水素化反応により得られた反応溶液に含まれるブロック共重合体の水素化物の重量平均分子量(Mw)は49900、分子量分布(Mw/Mn)は1.06であった。
【0146】
(第5段階:揮発成分の除去)
水素化反応の終了後、反応溶液をろ過して、水素化触媒を除去した。その後、反応溶液に、フェノール系酸化防止剤であるペンタエリスリチル・テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](松原産業社製「Songnox1010」)0.1部を溶解したキシレン溶液2.0部を添加して、溶解させた。
次いで、上記の反応溶液から、円筒型濃縮乾燥器(日立製作所社製「コントロ」)を用いて、温度260℃、圧力0.001MPa以下で、溶媒であるシクロヘキサン、キシレン及びその他の揮発成分を除去した。溶融ポリマーをダイからストランド状に押出し、冷却後、ペレタイザーを用いて、ブロック共重合体の水素化物を含む樹脂のペレットを作製した。
得られたペレット状の樹脂に含まれるブロック共重合体の水素化物の重量平均分子量(Mw)は49500、分子量分布(Mw/Mn)は1.10、水素化率はほぼ100%であった。
【0147】
(第6段階:エチレン性不飽和シラン化合物による変性)
前記の樹脂のペレット100部に対して、ビニルトリメトキシシラン3.0部及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン(日油社製「パーヘキサ(登録商標) 25B」)0.2部を添加して、混合物を得た。この混合物を、二軸押出し機を用いて、樹脂温度220℃、滞留時間60秒~70秒で混練し、ストランド状に押し出した。押し出された混合物を空冷した後、ペレタイザーによりカッティングし、ブロック共重合体の水素化物のアルコキシシリル基変性物を含む樹脂のペレット96部を得た。
【0148】
アルコキシシリル基変性物を含む樹脂のペレット10部をシクロヘキサン100部に溶解して、溶液を得た。この溶液を、脱水メタノール400部中に注いで、アルコキシシリル基変性物を凝固させ、凝固物を濾取した。濾過物を25℃で真空乾燥して、アルコキシシリル基変性物のクラム9.0部を単離した。
アルコキシシリル基変性物のFT-IRスペクトルを測定したところ、1090cm-1にSi-OCH基、825cm-1と739cm-1にSi-CH基に由来する新たな吸収帯が、ビニルトリメトキシシランのSi-OCH基、Si-CH基に由来する吸収帯(1075cm-1、808cm-1及び766cm-1)と異なる位置に観察された。
また、アルコキシシリル基変性物のH-NMRスペクトル(重クロロホルム中)を測定したところ、3.6ppmにメトキシ基のプロトンに基づくピークが観察された。このピーク面積比から、変性前のブロック共重合体の水素化物の100部に対してビニルトリメトキシシラン1.8部が結合したことが確認された。
こうして得られたアルコキシシリル基変性物を含む樹脂を、適宜、Si変性樹脂(2)と呼ぶ。
【0149】
得られたSi変性樹脂(2)について、曲げ弾性率及び水蒸気透過率を、上述した方法で測定した。
【0150】
[製造例3:ノルボルネン系重合体を含む非晶性COP樹脂(3)の用意]
非晶性のノルボルネン系重合体(日本ゼオン社製「ゼオノア1600」、ガラス転移温度160℃)のペレットを、非晶性COP樹脂(3)として用意した。
この非晶性COP樹脂(3)について、曲げ弾性率及び水蒸気透過率を、上述した方法で測定した。
【0151】
[製造例4:アルコキシシリル基変性物及び紫外線吸収剤を含むUVA樹脂(4)の製造]
前記の製造例2で得たSi変性樹脂(2)を90質量部と、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(ADEKA社製「アデカスタブLA-31」)10質量部とを、二軸押出し機(東芝機械社製「TEM-37B」)により混合し、アルコキシシリル基変性物及び紫外線吸収剤を含むUVA樹脂(4)のペレットを得た。
このUVA樹脂(4)について、曲げ弾性率を、上述した方法で測定した。
【0152】
[製造例5:ポリカーボネートを含むPC樹脂(5)の用意]
ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングプラスチック社製「ユーピロンH3000」)のペレットを、PC樹脂(5)として用意した。
このPC樹脂(5)について、曲げ弾性率及び水蒸気透過率を、上述した方法で測定した。
【0153】
[実施例1]
製造例2で製造したSi変性樹脂(2)を、70℃に調節した真空オーブン中で4時間乾燥させた。乾燥させたSi変性樹脂(2)の水分含有率を測定した。また、Si変性樹脂(2)の乾燥後、直ちに、共押出成形法によって、第1の樹脂で形成された第1の層と、第2の樹脂で形成された第2の層と、第3の樹脂で形成された第3の層とをこの順に備える積層フィルムを製造した。共押出成形法では、具体的には、以下のような操作を行った。
【0154】
フィーダーを備えた3台のスクリュー押出機(スクリュー径20mm、圧縮比3.1、スクリュー有効長さLとスクリュー径Dとの比L/D=30)、及び、ハンガーマニホールドタイプのTダイを備えるフィルム溶融押出成形機(据置型、GSIクレオス社製)を用意した。この押出成形機が備えるTダイは、スクリュー押出機から押し出される各樹脂を層状に共押し出して、3層構造の積層フィルムを得ることができるタイプのTダイであった。また、このTダイの寸法は、Tダイ幅150mm、ダイリップ開口0.8mm、ダイリップ幅120mmであった。
【0155】
製造例1で製造した結晶性COP樹脂(1)を、第1の層及び第3の層に対応したスクリュー押出機に導入した。導入した結晶性COP樹脂(1)を、押出スクリュー温度280℃で、Tダイに供給した。
また、乾燥させたSi変性樹脂(2)を、第2の層に対応したスクリュー押出機に導入した。導入したSi変性樹脂(2)を、押出スクリュー温度200℃で、Tダイに供給した。
前記の結晶性COP樹脂(1)及びSi変性樹脂(2)を、ダイス押出温度(マルチマニホールド)280℃でTダイから吐出させ、60℃に温度調整された冷却ロールにキャストし、積層フィルムを得た。
得られた積層フィルムを、上述した方法で評価した。
【0156】
[実施例2]
樹脂のフィーダーによる押出量を調整することにより、第1の層、第2の層及び第3の層の厚みを、表1に示すように変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、積層フィルムの製造及び評価を行った。
【0157】
[実施例3]
結晶性COP樹脂(1)の代わりに、製造例3で用意した非晶性COP樹脂(3)を、第1の層及び第3の層に対応したスクリュー押出機に導入した。また、樹脂のフィーダーによる押出量を調整することにより、第2の層の厚みを、表1に示すように変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、積層フィルムの製造及び評価を行った。
【0158】
[実施例4]
製造例4で製造したUVA樹脂(4)を、70℃に調節した真空オーブン中で4時間乾燥させた。乾燥させたUVA樹脂(4)の水分含有率を測定した。また、乾燥させたUVA樹脂(4)を、Si変性樹脂(2)の代わりに、第2の層に対応したスクリュー押出機に導入した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、積層フィルムの製造及び評価を行った。
【0159】
[実施例5]
結晶性COP樹脂(1)の代わりに、製造例3で用意した非晶性COP樹脂(3)を、第3の層に対応したスクリュー押出機に導入した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、積層フィルムの製造及び評価を行った。ただし、この実施例5では、Tダイから押し出された結晶性COP樹脂(1)、Si変性樹脂(2)及び非晶性COP樹脂(3)の冷却ロールへのキャストを、結晶性COP樹脂(1)で形成された第1の層が冷却ロールに接するように行った。
【0160】
[比較例1]
樹脂のフィーダーによる押出量を調整することにより、第1の層、第2の層及び第3の層の厚みを、表1に示すように変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、積層フィルムの製造及び評価を行った。
【0161】
[比較例2]
結晶性COP樹脂(1)の代わりに、乾燥させたSi変性樹脂(2)を、第1の層及び第3の層に対応したスクリュー押出機に導入した。また、第1の層及び第3の層に対応したスクリュー押出機の押出スクリュー温度を200℃に変更した。
製造例1で製造した結晶性COP樹脂(1)を、100℃に調節した真空オーブン中で4時間乾燥させた。乾燥させた結晶性COP樹脂(1)の水分含有率を測定した。また、乾燥させた結晶性COP樹脂(1)を、Si変性樹脂(2)の代わりに、第2の層に対応したスクリュー押出機に導入した。さらに、第2の層に対応したスクリュー押出機の押出スクリュー温度を280℃に変更した。
以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、積層フィルムの製造及び評価を行った。
【0162】
[比較例3]
結晶性COP樹脂(1)の代わりに、製造例5で用意したPC樹脂(5)を、第1の層及び第3の層に対応したスクリュー押出機に導入した。また、第1の層及び第3の層に対応したスクリュー押出機の押出スクリュー温度を300℃に変更した。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、積層フィルムの製造及び評価を行った。
【0163】
[比較例4]
製造例2で製造したSi変性樹脂(2)の乾燥を行わなかった。以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、積層フィルムの製造及び評価を行った。
【0164】
[結果]
前記の実施例及び比較例の結果を、下記の表1及び表2に示す。下記の表において、略称の意味は、下記の通りである。
「樹脂(1)」:結晶性COP樹脂(1)。
「樹脂(2)」:Si変性樹脂(2)。
「樹脂(3)」:非晶性COP樹脂(3)。
「樹脂(4)」:UVA樹脂(4)。
「樹脂(5)」:PC樹脂(5)。
「厚み比」:第2の層の厚みに対する、第1の層の厚み及び第3の層の厚みの和の比。
「第1の樹脂の水蒸気透過率」:第1の樹脂を厚さ100μmのフィルムにした場合にJIS K7129 B(1992)に準拠して測定される水蒸気透過率。
「第2の樹脂の水蒸気透過率」:第2の樹脂を厚さ100μmのフィルムにした場合にJIS K7129 B(1992)に準拠して測定される水蒸気透過率。
「全光線透過率」:積層フィルムの5箇所の平均値における全光線透過率。
「折り曲げによる変化」:耐屈曲性試験において、折り曲げを繰り返すことによって生じた変化。
「折り曲げ回数」:耐屈曲性試験において、折り曲げを繰り返すことによってクラック、折れ目又は白濁が生じるまでの折り曲げ回数。
【0165】
【表1】
【0166】
【表2】
【符号の説明】
【0167】
10 積層フィルム
110 第1の層
120 第2の層
130 第3の層
図1