(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】平面研削方法
(51)【国際特許分類】
B24B 7/00 20060101AFI20221109BHJP
B24B 1/00 20060101ALI20221109BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B24B7/00 A
B24B1/00 A
H01L21/304 621A
H01L21/304 631
(21)【出願番号】P 2020082459
(22)【出願日】2020-05-08
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 健作
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-148866(JP,A)
【文献】特開2019-165152(JP,A)
【文献】特開2011-216763(JP,A)
【文献】特開2019-9372(JP,A)
【文献】特開2015-38919(JP,A)
【文献】特開2006-261370(JP,A)
【文献】米国特許第5622875(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 7/00
B24B 1/00
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェーハの平面研削方法であって、
スライシング工程及び面取り工程によって、第一主面及び前記第一主面とは反対側の第二主面を有し、且つ前記第一主面と前記第二主面との間に位置するエッジ部を含むウェーハを準備することと、
前記ウェーハの前記第二主面の一部及び前記エッジ部に離型剤を塗布して、離型剤層を形成することと、
前記離型剤層上に前記第二主面及び前記エッジ部全面を覆う樹脂層を形成することと、
前記樹脂層上にベース部材を配置して、ウェーハ複合体を得ることと、
前記ベース部材の位置で前記ウェーハ複合体を支持固定した状態で、前記ウェーハの前記第一主面を研削することと、
前記ウェーハ複合体から前記ベース部材を除去することと、
研削された前記第一主面の位置で前記ウェーハを支持固定した状態で、前記ウェーハの前記第二主面を研削することと、
前記ウェーハを洗浄して、前記ウェーハの前記エッジ部に残留した前記離型剤層及び前記樹脂層を除去することと
を含むことを特徴とする平面研削方法。
【請求項2】
前記エッジ部を前記ウェーハの最外周の縁から2mm以下までの範囲として、前記エッジ部に前記離型剤を塗布することを特徴とする請求項1に記載の平面研削方法。
【請求項3】
前記エッジ部を前記ウェーハの前記最外周の縁から0.3mmまでの範囲として、前記エッジ部に前記離型剤を塗布することを特徴とする請求項2に記載の平面研削方法。
【請求項4】
前記ウェーハの前記第二主面の30%以上100%未満を被覆するように前記離型剤を塗布することを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の平面研削方法。
【請求項5】
前記離型剤層を、前記ウェーハの前記第二主面上に、格子状、線状、放射状、点状、同心円状、渦巻状、破線状、又は市松模様状に形成することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の平面研削方法。
【請求項6】
前記離型剤として、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、脂肪族アミド系、及びシリカ系の何れか1種を用いることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の平面研削方法。
【請求項7】
前記離型剤を、前記ウェーハの前記第二主面の前記一部及び前記エッジ部のみに塗布することを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載の平面研削方法。
【請求項8】
前記洗浄を、ブラシ洗浄又は2流体洗浄によって行うことを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の平面研削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面研削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェーハの片面に樹脂やワックス等を塗布し、この樹脂等を平坦な定盤上で硬化させて被覆物を形成し、この被覆物を基準としてウェーハを研削することでウェーハのうねりや反りを除去する平面研削方法がある(特許文献1など)。
【0003】
従来の平面研削方法の例を、
図13を参照しながら説明する。
まず、
図13(a)に示すように、第一主面11と第一主面11とは反対側の第二主面12を有するウェーハ1を準備する。ウェーハ1は、第一主面11と第二主面12との間に位置するエッジ部13を含む。このようなウェーハ1は、例えばウェーハ1の原材料である半導体単結晶(例えばシリコン単結晶)のインゴットからスライシングによってワークを切り出し、切り出したワークに面取りを施すことによって得られる。なお、
図13では、説明のために、第一主面11及び第二主面12を大きな凹凸を有しているように示しているが、第一主面11及び第二主面12の表面粗さは特に限定されない。
【0004】
次いで、ウェーハ1の第二主面12及びエッジ部13に接着材料等の樹脂を塗布し、この樹脂等を平坦なベース部材4(ベースプレートやフィルム)の上で硬化させて被覆物を形成する。これにより、
図13(c)に示すように、ウェーハ1の第二主面12及びエッジ部13全面を覆う樹脂層3が得られ、ウェーハ1がベース部材4に固定される。これにより、被加工体であるワーク5が得られる。
【0005】
続いて、ベース部材4の下面を基準面としてワーク5を支持固定手段(例えば真空チャック)に支持固定して、ウェーハ1の第一主面11の平面研削を行う。これにより、
図13(d)に示す、研削された第一主面11aを有するウェーハ1aが得られる。
【0006】
次いで、
図13(e)に示すように、ワーク5からベース部材4を取り外す。続いて、
図13(f)に示すようにワーク5を反転させ、平面研削された第一主面11aの位置でウェーハ1aを真空チャック手段等により支持固定し、該ウェーハ1aの第二主面12を平面研削する。これにより、
図13(g)に示す、研削された第一主面11aと研削された第二主面12aとを有するウェーハ1bが得られる。
【0007】
図13(g)に示すように、第二主面12の平面研削により、樹脂層3のうち第二主面12上を被覆していた部分は除去されるが、樹脂層3の一部33がウェーハ1bのエッジ部13上に残留する。
【0008】
最後に、ウェーハ1bの研削された第一主面11a及び研削された第二主面12a上の汚れを落とすために、洗浄を行う(
図13(h))。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2009-148866号公報
【文献】特開2019-165152号公報
【文献】特開2016-219634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図13を参照しながら先に説明した従来の方法を概略的にまとめると、ウェーハ1を樹脂3とベース部材4で固定してワーク5を得、第一主面11を研削し、ベース部材4を除去し、ワーク5を反転させて、第二主面12の研削を行う。これにより、ウェーハ1の両面の研削が行われる。
【0011】
ここで、
図13(c)に示すように、樹脂層3は、ウェーハ1の第二主面12に加え、ウェーハ1の面取り部であるエッジ部13まで覆うように形成される。
図13(e)に示すように、第二主面12の研削前にベース部材4を剥がすが、その際に樹脂層3の樹脂が強固に固まってウェーハ1及びベース部材4の両方に接着しているため、ウェーハ1及び樹脂層3からのベース部材4の分離が難しく、ウェーハ1が割れてしまう問題があった。
【0012】
また、
図13(h)に示すように、両面研削後に洗浄を行っても、ウェーハ1bのエッジ部13上に残留した樹脂層3の一部33が除去しきれないという問題があった。樹脂層3の残留した一部33は、後工程のエッチング等で除去できず不良となる問題がある。
【0013】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、ウェーハの割れ及びエッジ部での樹脂の残留を防止しながらウェーハの両面研削を行うことができるウェーハの平面研削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明では、ウェーハの平面研削方法であって、
スライシング工程及び面取り工程によって、第一主面及び前記第一主面とは反対側の第二主面を有し、且つ前記第一主面と前記第二主面との間に位置するエッジ部を含むウェーハを準備することと、
前記ウェーハの前記第二主面の一部及び前記エッジ部に離型剤を塗布して、離型剤層を形成することと、
前記離型剤層上に前記第二主面及び前記エッジ部全面を覆う樹脂層を形成することと、
前記樹脂層上にベース部材を配置して、ウェーハ複合体を得ることと、
前記ベース部材の位置で前記ウェーハ複合体を支持固定した状態で、前記ウェーハの前記第一主面を研削することと、
前記ウェーハ複合体から前記ベース部材を除去することと、
研削された前記第一主面の位置で前記ウェーハを支持固定した状態で、前記ウェーハの前記第二主面を研削することと、
前記ウェーハを洗浄して、前記ウェーハの前記エッジ部に残留した前記離型剤層及び前記樹脂層を除去することと
を含むことを特徴とする平面研削方法を提供する。
【0015】
このような平面研削方法であれば、ウェーハの割れ及びエッジ部での樹脂の残留を防止しながらウェーハの両面研削を行うことができる。
【0016】
前記エッジ部を前記ウェーハの最外周の縁から2mm以下までの範囲として、前記エッジ部に前記離型剤を塗布することが好ましい。
これにより、エッジ部で樹脂の残留を確実に防止することができる。
【0017】
前記エッジ部を前記ウェーハの前記最外周の縁から0.3mmまでの範囲として、前記エッジ部に前記離型剤を塗布することがより好ましい。
これにより、エッジ部で樹脂の残留をより確実に防止することができる。
【0018】
前記ウェーハの前記第二主面の30%以上100%未満を被覆するように前記離型剤を塗布することが好ましい。
これにより、研削中のウェーハからの樹脂層の剥がれを十分に抑えながら、ウェーハと樹脂層との接着力を十分に抑えることができ、それにより、ベース部材を除去する際にウェーハが割れるのをより確実に抑えることができる。
【0019】
前記離型剤層を、前記ウェーハの前記第二主面上に、格子状、線状、放射状、点状、同心円状、渦巻状、破線状、又は市松模様状に形成することができる。
このように、第二主面の一部に形成される離型剤層は様々な形状をとることができる。
【0020】
前記離型剤として、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、脂肪族アミド系、及びシリカ系の何れか1種を用いることができる。
このように、離型剤としては、様々な種類を用いることができる。
【0021】
前記離型剤を、前記ウェーハの前記第二主面の前記一部及び前記エッジ部のみに塗布することが好ましい。
このような方法は、離型剤の使用範囲を必要最低限とすることができ、経済的である。
【0022】
前記洗浄を、ブラシ洗浄又は2流体洗浄によって行うことができる。
本発明は、このような簡単な物理的洗浄でも、エッジ部に残留した樹脂層を十分に除去することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明のウェーハの平面研削方法であれば、ウェーハの割れ及びエッジ部での樹脂の残留を防止しながらウェーハの両面研削を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明のウェーハの平面研削方法の一部を概略に示すフローチャートである。
【
図2】本発明のウェーハの平面研削方法の一例の一部を示すフローチャートである。
【
図3】
図2のフローチャートから続く、本発明のウェーハの平面研削方法の一例の一部を示すフローチャートである。
【
図4】本発明におけるエッジ部のいくつかの態様を示す概略断面図である。
【
図5】本発明のウェーハの平面研削方法を含んだ、ウェーハの加工方法の一例を示すフローチャートである。
【
図6】実施例1及び比較例1の概略的なフローチャートである。
【
図7】実施例1のより詳細なフローチャートである。
【
図8】比較例1のより詳細なフローチャートである。
【
図9】実施例1で得られた両面研削後の1つのウェーハのエッジ部の拡大画像である。
【
図10】実施例1で得られた両面研削後の他の1つのウェーハのエッジ部の拡大画像である。
【
図11】比較例1で得られた両面研削後の1つのウェーハのエッジ部の拡大画像である。
【
図12】比較例1で得られた両面研削後の他の1つのウェーハのエッジ部の拡大画像である。
【
図13】従来の平面研削方法の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
上述のように、ウェーハの割れ及びエッジ部での樹脂の残留を防止しながらウェーハの両面研削を行うことができるウェーハの平面研削方法の開発が求められていた。
【0026】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、樹脂層をウェーハ上に形成する前に、ウェーハの第二主面の一部及びエッジ部に離型剤を塗布して、離型剤層を形成することで、研削中に樹脂層が剥がれることを防ぐことができると共に、ベース部材の除去の際のウェーハの割れを防ぐことができ、更にはエッジ部からの樹脂の除去を容易に行うことができることを見出し、本発明を完成させた。
【0027】
即ち、本発明は、ウェーハの平面研削方法であって、
スライシング工程及び面取り工程によって、第一主面及び前記第一主面とは反対側の第二主面を有し、且つ前記第一主面と前記第二主面との間に位置するエッジ部を含むウェーハを準備することと、
前記ウェーハの前記第二主面の一部及び前記エッジ部に離型剤を塗布して、離型剤層を形成することと、
前記離型剤層上に前記第二主面及び前記エッジ部全面を覆う樹脂層を形成することと、
前記樹脂層上にベース部材を配置して、ウェーハ複合体を得ることと、
前記ベース部材の位置で前記ウェーハ複合体を支持固定した状態で、前記ウェーハの前記第一主面を研削することと、
前記ウェーハ複合体から前記ベース部材を除去することと、
研削された前記第一主面の位置で前記ウェーハを支持固定した状態で、前記ウェーハの前記第二主面を研削することと、
前記ウェーハを洗浄して、前記ウェーハの前記エッジ部に残留した前記離型剤層及び前記樹脂層を除去することと
を含むことを特徴とする平面研削方法である。
【0028】
なお、特許文献2には、半導体基板とその外周に付加された面取り補償部とを備えた半導体装置が開示されている。この特許文献2には、半導体装置の製造方法において、型枠からの面取り補償部の剥離を容易にするために、面取り補償部の材料であるシリカフィラーを含む樹脂を半導体基板の面取り部と型枠との間に充填する前に離型剤を付加することが開示されている。しかしながら、特許文献2には、離型剤を付加する具体的な態様は開示されていない。
【0029】
また、特許文献3には、積層体であって、基板と、基板に対向する側の面の周縁部全周に分離層が設けられているサポートプレートとが第一接着層を介して積層されている積層体が開示されている。この積層体では、第一接着層が離型剤としてシリコーンオイルを含んでおり、これにより、基板とサポートプレートとを好適に分離することができるように、その接着力が調整されている。しかしながら、特許文献3は、基板上に、第一接着層とは別体の離型剤の層を形成することは記載も示唆もしていない。
【0030】
以下、本発明について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0031】
まず、
図1を参照しながら、本発明のウェーハの平面研削方法を概略的に説明する。
最初に、スライシング工程及び面取り工程によって、
図1(1)に示すウェーハ1を準備する。ウェーハ1は、第一主面11及び第一主面11とは反対側の第二主面12を有し、且つ第一主面11と第二主面12との間に位置するエッジ部13を含む。
図1(1)ではウェーハ1の断面を示しているのでエッジ部13の全体は表されていないが、エッジ部13は、ウェーハ1の最外周の縁に沿って延びている。
【0032】
次に、
図1(1)に示すように、ウェーハ1の第二主面12の一部及びエッジ部13に離型剤を塗布して、離型剤層2を形成する。
【0033】
次に、離型剤層2上に、第二主面12及びエッジ部13全面を覆う、
図1(2)に示す樹脂層3を形成する。次いで、樹脂層3上にベース部材4を配置して、
図1(2)に示すウェーハ複合体10を得る。
【0034】
次に、得られたウェーハ複合体10を、ベース部材4の位置で支持固定した状態で、ウェーハ1の第一主面11を研削する。次いで、ウェーハ複合体10からベース部材4を除去する。次いで、研削された第一主面11Aの位置でウェーハ1を支持固定した状態で、ウェーハ1の第二主面12を研削する。これにより、
図1(3)に示すように、研削された第一主面11A及び研削された第二主面12Aとを有するウェーハ1Bが得られる。
【0035】
その後、ウェーハ1Bを洗浄して、ウェーハ1Bのエッジ部13に残留した剥離剤層2の一部23及び樹脂層3の一部33を除去する。これにより、
図1(4)に示すように、エッジ部13から剥離剤層2の一部23及び樹脂層3の一部33が除去されたウェーハ1Cが得られる。
【0036】
本発明のウェーハの平面研削方法は、樹脂層3をウェーハ1上に形成する前に、ウェーハ1の第二主面12の一部及びエッジ部13に離型剤を塗布して、離型剤層2を形成することで、ウェーハ1に対する樹脂層3の接着力を適度に抑えることができ、その結果、第一主面11の研削後にウェーハ複合体10からベース部材4を剥がす際に、ウェーハ1が割れるのを防ぐことができる。また、両面研削後に簡単な洗浄により、ウェーハ1Cのエッジ部13に残留した樹脂層33を離型剤層23と共に容易に除去できる。一方、離型剤層2がウェーハの第二主面12の一部に塗布されているので、ウェーハ1に対する樹脂層3の接着力は、ウェーハ1の第一主面11の研削の際に剥がれるのを防ぐのに十分な大きさを有することができる。
【0037】
次に、
図2及び
図3を参照しながら具体例を示して、本発明のウェーハの平面研削方法を、より詳細に説明する。
【0038】
(ウェーハの準備)
まず、
図2(A)に示すように、第一主面11と第一主面11とは反対側の第二主面12を有するウェーハ1を準備する。ウェーハ1は、第一主面11と第二主面12との間に位置するエッジ部13を含む。このようなウェーハ1は、例えば、ウェーハ1の原材料である半導体単結晶(例えばシリコン単結晶)のインゴットからスライシングによってワークを切り出し、切り出したワークに面取り(ベベリング)を施すことによって得られる。なお、スライシング工程及び面取り工程は、これらの方法に限定されず、公知の様々な方法で行うことができる。
【0039】
また、
図2では、説明のために、第一主面11及び第二主面12を大きな凹凸を有しているように示しているが、第一主面11及び第二主面12の表面粗さは特に限定されない。そして、エッジ部13は、面取り工程によって得られたウェーハ1の最外周の縁だけでなく、この縁に隣接する部分も含むことができる。詳細は
図4を参照しながら後段で詳述する。
【0040】
(離型剤の形成)
次いで、
図2(B)に示すように、準備したウェーハ1のうち、第二主面12の一部及びエッジ部13に離型剤を塗布して、離型剤層2を形成する。
【0041】
離型剤は、
図2(B)に示すように、エッジ部13を被覆するように塗布する。一方で、離型剤は、第二主面12に対しては、全面ではなくその一部に塗布する。離型剤を第二主面12の全面に塗布すると、のちの工程で形成する樹脂層とウェーハ1との接着力が弱く研削中に剥がれてしまう恐れがあり、剥がれた隙間から研磨剤が入り込み形状が変わってしまう恐れがある。
【0042】
ウェーハ1の第二主面12の30%以上100%未満を被覆するように離型剤を塗布することが好ましい。
【0043】
このようにすることで、のちの工程で形成する樹脂層3とウェーハ1との接着面積をより適切な範囲とすることができる。それにより、研削中のウェーハ1からの樹脂層3の剥がれを十分に抑えながら、ウェーハ1と樹脂層3との接着力を十分に抑えることができ、それにより、ベース部材4(のちの工程で樹脂層3上に配置する)を除去する際にウェーハ1が割れるのをより十分に抑えることができる。
【0044】
ウェーハ1の第二主面12の40%以上90%未満を被覆するように離型剤を塗布することがより好ましい。
【0045】
離型剤層2は、ウェーハ1の第二主面12上に、例えば、格子状、線状、放射状、点状、同心円状、渦巻状、破線状、又は市松模様状に形成することができる。
このように、離型剤層は様々な形状をとることができる。
【0046】
また、用いる離型剤は特に限定されない。例えば、離型剤として、シリコーン系、長鎖アルキル系、フッ素系、脂肪族アミド系、及びシリカ系の何れか1種を用いることができる。
このように、離型剤としては、様々な種類を用いることができる。
【0047】
離型剤は、
図2(B)のように、ウェーハ1の第二主面12の一部及びエッジ部13のみに塗布することが好ましい。
【0048】
のちの工程で形成する樹脂層3は、ウェーハ1の第一主面11を研削する際の支持固定のために設けるものである。よって、樹脂層3に関する離型剤層2は、第一主面11上に形成する必要はなく、そのため離型剤も第一主面11上に塗布する必要はない。ウェーハ1の第一主面11には塗布せず、第二主面12の一部及びエッジ部13のみに塗布することで、離型剤の使用範囲を必要最低限とすることができ、経済的である。また、離型剤層2が形成されていない分、第一主面11の研削が容易になる。ただし、第一主面11上に剥離剤を塗布しても構わない。
【0049】
(樹脂層の形成及びベース部材の配置)
次に、
図2(C)に示すように、剥離剤層2上に、ウェーハ1の第二主面12及びエッジ部13の全面を覆う樹脂層3を形成する。樹脂層3は、離型剤層に接する離型剤接触面32と、離型剤接触面32とは反対側のベース接触面31とを有する。また、
図2(C)に示すように、樹脂層3上に、ベース接触面31と接するように、ベース部材4を配置する。これにより、ウェーハ1と、離型剤層2と、樹脂層3と、ベース部材4とを含んだウェーハ複合体10が得られる。
【0050】
樹脂層3の材料は特に限定されず、例えば、半導体ウェーハを固定するために通常用いられる接着剤等を用いることができる。樹脂層3は、硬化することにより、ウェーハ1の第二主面12のうち離型剤層2が形成されていない部分と、離型剤層2とに接着することができる。硬化は、樹脂層3の材料を塗布したのち、ベース部材4を配置する前に行っても良いし、ベース部材4を配置した後に行っても良い。
【0051】
ベース部材4は、ウェーハ複合体10の一方の面を支持固定できるように平坦にするための部材である。ベース部材4の形態は、特に限定されないが、例えば、ベースプレート、又はフィルムである。
【0052】
(第一主面の研削)
次に、
図2(C)に示すウェーハ複合体10を、ベース部材4の位置で、支持固定する。支持固定の手段は特に限定されず、半導体ウェーハの加工において通常用いられる手段、例えば真空チャックを採用することができる。
【0053】
次に、上記のようにウェーハ複合体10を支持固定した状態で、ウェーハ1の第一主面11を研削する。樹脂層3は、ウェーハ1の第二主面12に十分な強度で接着しているので、第一主面11の研削中に樹脂層3がウェーハ1から剥がれるのを防ぐことができる。これにより、
図2(D)に示すような、研削された第一主面11Aを有するウェーハ1Aが得られる。
【0054】
(ベース部材の除去)
次に、
図3(E)に示すように、ウェーハ複合体10からベース部材4を除去する。本発明の方法では、剥離剤層2をウェーハ1の第二主面12の全面ではなく一部上に形成するので、研削された第一主面11Aを有するウェーハ1Aに対する樹脂層3の接着力を適度に抑えることができる。その結果、第一主面11の研削後にウェーハ複合体10からベース部材4を剥がして除去する際に、ウェーハ1Aが割れるのを防ぐことができる。これにより、平面研削の作業性が向上するとともに、ウェーハの生産性及び歩留まりが向上する。
ウェーハ複合体10からベース部材4を除去することにより、樹脂層3のベース接触面31が露出する。
【0055】
(反転及び支持固定)
次に、
図3(F)に示すように、ウェーハ1Aを、樹脂層3のベース接触面31が研削機の方向(
図3においては上向きの方向)に反転させる。次いで、この向きのウェーハ1Aを、研削された第一主面11Aの位置で支持固定する。支持固定手段は、先と同様に、特に限定されない。
【0056】
(第二主面の研削)
次に、上記のようにウェーハ1Aを支持固定した状態で、ウェーハ1Aの第二主面12を研削する。これにより、
図3(G)に示すような、研削された第一主面11Aと研削された第二主面12Aとを有するウェーハ1Bが得られる。なお、
図3(F)と
図3(G)との比較から明らかなように示すように、この研削により、第二主面12上に形成されていた離型剤層2の一部20及び樹脂層3の一部30も除去される。一方、
図3(G)に示すように、ウェーハ1Bのエッジ部13上には、離型剤層2の一部23及び樹脂層3の一部33が残留する。
【0057】
(洗浄)
次に、ウェーハ1Bを洗浄する。この洗浄により、エッジ部13上に残留した離型剤層2の一部23及び樹脂層3の一部33を除去する。
【0058】
エッジ部13上に残留した離型剤層2の一部23の存在により、樹脂層3の一部33は、容易にエッジ部13から除去することができる。離型剤層2の一部23自体は、エッジ部13からの除去が容易である。そのため、エッジ部13からの離型剤層2及び樹脂層3の除去のための洗浄は、例えばブラシ洗浄や2流体洗浄のような簡単な物理的洗浄で行うことができる。
【0059】
この洗浄で、研削された第一主面11A上及び研削された第二主面12A上の汚れを除去することもできる。
【0060】
この洗浄により、
図3(H)に示す、研削された第一主面11A及びこの第一主面11Aとは反対側の研削された第二主面12Aを有するウェーハ1Cが得られる。
【0061】
本発明のウェーハの平面研削方法によると、ベース部材4の位置で固定された状態で第一主面11を研削し、且つ研削された第一主面11Aの位置で固定された状態で第二主面12を研削するので、ウェーハ1のうねりや反りを有効に除去することができる。
【0062】
また、ウェーハ1Cは、
図3(H)に示すように、エッジ部13上から、離型剤層2及び樹脂層3が十分に除去されている。
【0063】
よって、本発明のウェーハの平面研削方法によって両面が研削されたウェーハは、後工程のエッチング等で好適に加工することができる。
【0064】
次に、本発明のウェーハの平面研削方法で準備するウェーハのエッジ部について、説明する。
【0065】
先に述べたように、ウェーハのエッジ部は、面取り工程によって得られたウェーハの最外周の縁だけでなく、この縁に隣接する部分も含むことができる。
【0066】
例えば、
図4に示すように、本発明の1つの態様では、ウェーハ1のエッジ部13を、ウェーハ1の最外周の縁13Eと、この縁に隣接し且つ縁から2mm以下までの範囲にある部分11E及び12Eを含むものとすることができる。この態様の方法では、このようなエッジ部13を完全に覆うように離型剤層2を形成することにより、エッジ部13で樹脂の残留をより有効に防止することができる。
【0067】
本発明のより好ましい態様では、ウェーハ1のエッジ部13を、ウェーハ1の最外周の縁13Eと、この縁に隣接し且つ縁から0.3mmまでの範囲にある部分11e及び12eを含むものとする。この態様の方法では、このようなエッジ部13を完全に覆うように離型剤層2を形成することにより、エッジ部13で樹脂の残留を有効に防止することができる。
【0068】
なお、便宜上、本明細書では、上記した縁に隣接する部分11E及び11eは、ウェーハ1の第一主面11に含まれないものとして説明している。同様に、上記した縁に隣接する部分12E及び12eは、ウェーハ1の第二主面12に含まれないものとして説明している。
【0069】
<ウェーハの加工方法>
本発明のウェーハの平面研削方法は、ウェーハの加工方法の一部として適用することができる。
【0070】
図5に、本発明のウェーハの平面研削方法を含んだ、ウェーハの加工方法の一例を示すフローチャートを示す。
【0071】
この加工方法は、スライシング工程S1、面取り工程S2、研削工程S3及びエッチング工程S4を含む。
【0072】
スライシング工程S1及び面取り工程S2は、先に説明した、ウェーハを準備する手段である。研削工程S3は、先に説明した本発明のウェーハの平面研削方法のうち、スライシング工程S1及び面取り工程S2を除いた工程に対応する。すなわち、
図5に示すスライシング工程S1、面取り工程S2及び研削工程S3は、本発明のウェーハの平面研削方法Pを構成する。
【0073】
先に説明したように、本発明のウェーハ平面研削方法によると、両面研削され、且つエッジ部上から支持固定用の樹脂が除去されて残留していないウェーハが得られるので、後工程のエッチング工程S4で好適に加工することができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0075】
以下に説明する実施例1及び比較例1では、大まかには、
図6のフローチャートで示す方法により、ウェーハの加工を行った。スライシング工程S1及び面取り工程S2は、先に説明した、ウェーハを準備する手段であり、実施例1と比較例1とで同様の手順とした。次いで、実施例1では、
図7を参照しながら以下に説明する手順で、両面研削工程S3-1を行った。一方、比較例1では、
図8を参照しながら以下に説明する手順で、両面研削工程S3-1を行った。すなわち、実施例1は、両面研削工程S3-1の点で、比較例1と異なる。そして、実施例1及び比較例1では、両面研削工程S3-1に次いで、同様の洗浄工程S3-2を行った。最後に、実施例1及び比較例1では、洗浄工程S3-2に次いで、同様のエッチング工程S4を行った。
以下に、実施例1及び比較例1で行った各工程を説明する。
【0076】
(スライシング工程S1)
直径301mmのシリコン単結晶のインゴットを準備した。このインゴットから、ワイヤソーでスライスして厚さ816μmのワークピースを切り出した。
【0077】
(面取り工程S2)
上記ワークピースに面取り処理を施し、
図2(A)に示すような、第一主面及び第一主面とは反対側の第二主面を有するウェーハを準備した。準備したウェーハは、面取り処理により形成された、第一主面と第二主面との間に位置した最外周の縁(エッジ部)を有していた。
【0078】
(両面研削工程S3-1)
[実施例1]
<離型剤層の形成s1>
ウェーハの第二主面の一部及びエッジ部に、離型剤を塗布し、離型剤層を形成した(工程s1)。離型剤としては、信越化学工業製のシリコーン系離型剤(KF412SP)を使用した。
【0079】
ここで、ウェーハの最外周の縁から1mmまでの範囲をエッジ部とし、離型剤層で完全にエッジ部を覆うように、離型剤を塗布した。
【0080】
一方、第二主面には、同心円状の離型剤層が第二主面の約80%を被覆するように、離型剤を塗布した。離型剤層の厚さは20nmであった。
【0081】
<樹脂塗布s2及びフィルム貼り付けs3>
次いで、ウェーハの第二主面及びエッジ部の全面を覆うように、樹脂を塗布した(工程s2)。樹脂としては、紫外線硬化性樹脂を用いた。厚さは100μmであった。これにより、ウェーハ及び離型剤層に接した樹脂層を形成した。次いで、樹脂層の離型剤層に接していない方の面に、ベース部材としてのフィルム(材質PET、厚さ20nm)を貼り付けた(工程s3)。次いで、樹脂層の樹脂を硬化させた。これにより、ウェーハ複合体を得た。
【0082】
<第一主面研削s4>
次いで、フィルムの下面の位置で真空チャックによりウェーハ複合体を固定した状態で、ウェーハの第一主面を平面研削した(工程s4)。
【0083】
<フィルム除去s5>
次いで、第一主面が研削されたウェーハから、フィルムをフィルムリムーバー装置により除去した(工程s5)。
【0084】
<第二主面研削s6>
次いで、研削された第一主面の位置でウェーハを固定した状態で、ウェーハの第二主面を平面研削した(工程s6)。
【0085】
[比較例1]
図8のように、離型剤塗布工程s1を行わずに、ウェーハの第二主面及びエッジ部に直接樹脂を塗布したこと以外は、実施例1の両面研削工程S3-1と同様の工程を行った。
【0086】
(洗浄工程S3-2)
両面研削工程S3-1後のウェーハのエッジ部に対し、ブラシ洗浄を行った(工程S3-2)。同時に、ウェーハの研削された第一主面上及び研削された第二主面上の汚れを洗浄により除去した。
【0087】
(エッチング工程S4)
洗浄工程S3-2後のウェーハを、エッチング加工に供した(工程S4)。エッチング加工は、酸エッチングで行った。
【0088】
以上に説明した実施例1の一連の工程に従い、エッチング加工したウェーハを20枚得た。同様に、以上に説明した比較例1の一連の工程に従い、エッチング加工したウェーハを20枚得た。
【0089】
[評価]
(フィルムの剥がれ易さ試験)
上記フィルム除去工程s5において、フィルムの剥がれ易さを評価した。その結果、実施例1では、小さな力でフィルムを剥がすことができ、比較例1よりも容易にフィルムを剥がすことができた。一方、比較例1では、フィルムを剥がすのに比較的大きな力を要し、その結果、得られたウェーハの30%に割れが生じてしまった。
【0090】
(樹脂残留評価)
エッチング工程S4後、KLA-Tencor製ウェーハ検査装置CV350を用いて、ウェーハのエッジ観察を行った。観察はphモードで行った。この観察により、エッジ部の樹脂残留を評価した。
【0091】
図9及び
図10は、実施例1で得られた両面研削後のそれぞれ別のウェーハの側面からのエッジ部の拡大画像(縦倍率150%UP画像)である。
図11及び
図12は、比較例1で得られた両面研削後のそれぞれ別のウェーハの側面からのエッジ部の拡大画像(縦倍率150%UP画像)である。
【0092】
図9及び
図10と、
図11及び
図12との比較から、実施例1では、比較例1よりも、エッジ部上の樹脂を除去できたことがわかる。
【0093】
以上の評価を、以下の表1にまとめて示す。
【0094】
【0095】
以上に説明した結果から、実施例1によると、ウェーハ複合体からのフィルムの除去が容易になり、作業性が向上することがわかる。また、実施例1によると、ウェーハの割れを抑えることができると共に、エッジ部に残留する樹脂を十分に除去することができることがわかる。
【0096】
一方、離型剤層を形成しなかった比較例1では、ウェーハと樹脂層との接着力が高すぎたため、ウェーハ複合体からのフィルムの除去が困難になり、その結果、ウェーハに割れが発生したと考えられる。また、比較例1では、ウェーハのエッジ部と樹脂層との接着力が高すぎたため、エッジ部に樹脂が残留したと考えられる。
【0097】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0098】
1、1A、1B、1C、1a及び1b…ウェーハ、 2…離型剤層、 3…樹脂層、 4…ベース部材、 5…ワーク、 10…ウェーハ複合体、 11…第一主面、 11A及び11a…研削された第一主面、 11E及び11e…縁に隣接する部分、 12…第二主面、 12A及び12a…研削された第二主面、 12E及び12e…縁に隣接する部分、 13…エッジ部、 13E…最外周の縁、 20…離型剤層の一部、 23…離型剤層の一部、 31…ベース接触面、 32…離型剤接触面、 33…樹脂層の一部。