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  • 特許-逆浸透膜装置の運転方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】逆浸透膜装置の運転方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20221109BHJP
   B01D 61/12 20060101ALI20221109BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C02F1/44 D
B01D61/12
B01D61/58
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021093488
(22)【出願日】2021-06-03
【審査請求日】2022-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】後藤 秀樹
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-174030(JP,A)
【文献】特開2017-064570(JP,A)
【文献】特開平07-163979(JP,A)
【文献】特開平05-317854(JP,A)
【文献】特開2018-176033(JP,A)
【文献】国際公開第2009/128328(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水を第1ラインによって第1逆浸透膜装置に通水し、該第1逆浸透膜装置の透過水を設備用水として利用し、該第1逆浸透膜装置の濃縮水を第2ラインによって第2逆浸透膜装置に通水し、該第2逆浸透膜装置の透過水を第3ラインに流出させ、該第2逆浸透膜装置の濃縮水を第4ラインに流出させる逆浸透膜装置の運転方法であって、
該第1逆浸透膜装置からの濃縮水に該第2ラインで酸を添加してpH6以下の酸性として前記第2逆浸透膜装置に通水する処理工程と、
該逆浸透膜装置への通水を停止する停止工程と
を有する逆浸透膜装置の運転方法において、
該停止工程が所定時間以上となる場合、該停止工程の前に、前記第1ラインからの被処理水を迂回ラインによって該第1逆浸透膜装置を迂回させて該第1ラインから前記第2ラインに流し、該第2逆浸透膜装置内の水を該被処理水に置換する置換工程を行うことを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
【請求項2】
前記所定時間は3時間以上であることを特徴とする請求項1の逆浸透膜装置の運転方法。
【請求項3】
前記被処理水のpHが6.2~7.8である請求項1又は2の逆浸透膜装置の運転方法。
【請求項4】
前記置換工程では前記第2ラインへの酸添加を行わないことを特徴とする請求項1ないし3のいずれかの逆浸透膜装置の運転方法。
【請求項5】
前記被処理水のシリカ濃度が5~80mg/Lであることを特徴とする請求項1~4のいずれかの逆浸透膜装置の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆浸透膜装置(以下、RO装置ということがある。)の運転方法に係り、特にRO装置の給水のpHを酸性にして運転する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RO装置の給水のpHを6以下の酸性とすることにより、RO膜面へのシリカ析出を抑制するようにしたRO装置の運転方法が公知である(特許文献1)。
【0003】
RO装置の給水が常温(25℃)で中性(pH7)の場合、シリカの析出限界濃度は約130mg/Lであり、水温が高くなるにつれて析出限界濃度は緩やかに上昇する。
【0004】
これに対し、水温が18℃以下になると限界値が急激に低下する為、その分給水のpHを低くし、シリカの析出を防止することが必要である。
【0005】
なお、給水のpHを低くする程、シリカの析出を抑制することができるが、pHが低くなるにつれRO装置の塩分除去率が低下すると共に、部材が腐食するリスクも高くなる。特許文献1では、給水pHは4.0~5.5が好適であるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-163979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シリカの溶解度は、水のpHがアルカリ性になる程高くなり、pHが酸性になるほどシリカ溶解度は低くなる。RO装置の給水のpHを酸性とすることにより、シリカのRO膜面への析出が抑制されるのは、シリカの溶解性が高まるためではなく、水中に溶解しているシリカがゲル化するに至るまでのゲル化時間が長くなるためである。
【0008】
そのため、給水を酸性にして運転していたRO装置が停止状態におかれた場合、ゲル化時間よりも長い時間が経過すると、RO装置内や通水ラインにおいてシリカが析出し、これにより、次回のRO装置の運転時の安定性が損なわれる。
【0009】
本発明は、運転停止中におけるシリカ析出が抑制され、運転再開後に安定して逆浸透膜装置の運転を行うことができる逆浸透膜装置の運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のRO装置の運転方法は、酸を添加してpH6以下の酸性とした被処理水を逆浸透膜装置に通水する処理工程と、該逆浸透膜装置への通水を停止する停止工程とを有する逆浸透膜装置の運転方法において、該停止工程が所定時間以上となる場合、逆浸透膜装置内の水を希薄水に置換することを特徴とする。この希薄水はシリカ濃度で30mg/L未満であることが望ましく、逆浸透膜装置処理水も可とする。
【0011】
本発明の一態様では、前記所定時間は3時間以上である。
【0012】
本発明の一態様では、前記被処理水のpHが4.0~5.5であり、前記希薄水が該被処理水である。
【0013】
本発明の一態様では、酸が添加された被処理水が被処理水槽に導入され、該被処理水槽内の被処理水が高圧ポンプを介して前記逆浸透膜装置に供給され、逆浸透膜装置の濃縮水の一部が該被処理水槽と高圧ポンプとの間に返送される。
【0014】
本発明の一態様では、前記被処理水をRO装置に通水した時のRO装置の濃縮水のシリカ濃度が300~500mg/Lである。
【発明の効果】
【0015】
前述の通り、RO給水を酸性とすることによりシリカ析出が防止されるのは、シリカのゲル化時間が長くなるためである。
【0016】
本発明では、長時間運転停止を行う場合に、逆浸透膜装置内の水を希薄水に置換する。これにより、運転停止期間におけるシリカ析出が防止され、次回運転時に安定してRO装置を稼働させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施の形態に係る運転方法が行われるROシステムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図1を参照して実施の形態について説明する。
【0019】
本実施の形態において、被処理水としては、工場排水(業種に限定はない。)、工業用水、井水、市水や、必要に応じてそれらを凝集沈殿、膜濾過などの前処理を施したものなどが例示される。被処理水中のシリカ濃度は5~80mg/L、特に10~60mg/L程度であるが、これに限定されない。また、この被処理水のpHは中性(6.2~7.8程度)である。
【0020】
図1(a)では、被処理水が配管1を介して被処理水槽2に流入する。配管1には酸(好ましくは塩酸、硫酸)の添加手段3から酸が添加され、pHが6以下、好ましくは4.0~5.5に調整される。また、配管1には、置換水の導入用の配管4が接続されている。
【0021】
被処理水槽2内のpH6以下、好ましくは4.0~5.5の被処理水は、配管5、高圧ポンプ6、配管7を介してRO装置8に供給され、透過水が配管9を介して取り出され、設備用水等として利用される。
【0022】
RO装置8の濃縮水は、配管10によって取り出される。流速不足による膜面分極を防止する目的で系外排出量を上げずに濃縮水の水量を上げたい場合、濃縮水の一部は弁11を有する配管12を介して配管5に返送され、残部は弁13を有する配管14を介して中和設備に送水される。弁11,13の開度を調節することにより、濃縮水の配管5への返送比が調整される。
【0023】
このようにRO給水をpH6以下、好ましくは4.0~5.5とすることにより、RO装置8や高圧ポンプ6及び各配管でのシリカ析出が抑制される。
【0024】
なお、この実施の形態では、RO装置8の濃縮水の一部を被処理水槽2ではなく配管5に返送する事が望ましい。これにより、シリカ濃度の高いRO濃縮水が被処理水槽2に流入することがなく、被処理水槽2内での滞留時間が無くなる分、被処理水のゲル化が抑制される。
【0025】
RO装置8の運転を長期にわたって(例えば3時間以上、特に5時間以上)停止する場合には、配管1からの被処理水の供給を停止し、高圧ポンプ6を停止し、酸添加手段3からの酸添加を停止し、被処理水槽2の水抜きを行った後、配管4から置換水を配管1に流入させ、被処理水槽2、高圧ポンプ6、RO装置8及び各配管1,5,7,10,12,14内の水を中性pHのシリカ濃度が希薄な置換水に置換する。なお、この置換は、RO装置8の運転停止から所定時間経過してから行ってもよい。所定時間は、系内でのシリカ析出開始予想時間よりも短い時間であり、通常は0.5~5時間、特に1~3時間の間から選択された時間とされる。
【0026】
図1(b)は、図1(a)において、システムの前段に被処理水をRO処理する第1RO装置20を設置し、被処理水を配管18及びポンプ19を介して第1RO装置20に通水してRO処理し、その濃縮水を配管1へ送水するようにしたものである。第1RO装置20の透過水は配管21を介して取り出され、設備用水等として利用される。
【0027】
配管18から前記配管4が分岐している。第2RO装置8の運転時には、配管4には被処理水を流さない。第2RO装置8の運転を長期にわたって(例えば3時間以上、特に5時間以上)停止する場合に際しては、被処理水を置換水として配管18から配管4を介して配管1に供給し、配管1及び被処理水槽2以降の第1RO装置20濃縮水を置換する。尚この場合、酸添加手段3からの酸添加を停止する。
【実施例
【0028】
[実施例1]
図1(b)のフローのROシステムにおいて、工業用水、井水、市水や、必要に応じてそれらを凝集沈殿、膜濾過などの前処理を施したもの及びシリカ濃度80mg/L、pH6.0、水温約25℃の工場排水(業種に限定はない)などを被処理水とし、RO処理した。被処理水槽2内のpHが4.0~5.5となるように塩酸を添加手段3から添加した。
【0029】
30日運転した後、ポンプ19,6を停止し、次いで配管18,4を介して被処理水を配管1以下に供給し、系内の第1RO装置20の濃縮水を被処理水に置換した。この状態で、12時間運転を停止した。その後、運転を再開した。運転再開後、30日経過した時点でのRO装置8の透過水流束(フラックス)は初期値の80%であった。
【0030】
[比較例1]
ポンプ19,6を停止した後の酸性水の置換を行わなかったこと以外は実施例1と同一条件として運転、運転停止及び運転再開を行った。
【0031】
運転再開後、30日経過時点でのRO装置8のフラックスは、初期値の50%であった。
【0032】
この実施例及び比較例からも明らかな通り、本発明によると、運転を長時間停止しても、運転再開後のフラックス低下を防止し、安定して運転を行うことができる。
【符号の説明】
【0033】
2 被処理水槽
8,20 RO装置
【要約】
【課題】運転停止中におけるシリカ析出が抑制され、運転再開後に安定して逆浸透膜装置の運転を行うことができる逆浸透膜装置の運転方法を提供する。
【解決手段】酸を添加してpH6以下の酸性とした被処理水を逆浸透膜装置8に通水する処理工程と、逆浸透膜装置8への通水を停止する停止工程とを有する逆浸透膜装置の運転方法において、該停止工程が所定時間以上となる場合、逆浸透膜装置8内の水を希薄水に置換することを特徴とする逆浸透膜装置の運転方法。
【選択図】図1
図1