(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】接着剤組成物及び構造体
(51)【国際特許分類】
C09J 201/00 20060101AFI20221109BHJP
C09J 4/00 20060101ALI20221109BHJP
C09J 9/02 20060101ALI20221109BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20221109BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20221109BHJP
C09J 175/04 20060101ALI20221109BHJP
H05K 3/32 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C09J201/00
C09J4/00
C09J9/02
C09J11/04
C09J11/06
C09J175/04
H05K3/32 B
(21)【出願番号】P 2021164972
(22)【出願日】2021-10-06
(62)【分割の表示】P 2017552705の分割
【原出願日】2016-11-24
【審査請求日】2021-11-04
(31)【優先権主張番号】P 2015229764
(32)【優先日】2015-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】昭和電工マテリアルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100169454
【氏名又は名称】平野 裕之
(74)【代理人】
【識別番号】100211018
【氏名又は名称】財部 俊正
(72)【発明者】
【氏名】森尻 智樹
(72)【発明者】
【氏名】竹田津 潤
(72)【発明者】
【氏名】田中 勝
(72)【発明者】
【氏名】立澤 貴
(72)【発明者】
【氏名】関 耕太郎
(72)【発明者】
【氏名】菊地 健太
【審査官】岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-111846(JP,A)
【文献】特開2009-256619(JP,A)
【文献】特開2009-256581(JP,A)
【文献】特開2007-56209(JP,A)
【文献】特開2007-112949(JP,A)
【文献】特開2007-91959(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J201
C09J4
C09J9
C09J11
C09J175
H05K3
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)熱可塑性樹脂、(b)分子内にウレタン結合とアルコキシシリル基とを有するシラン化合物、(c)ラジカル重合性化合物、及び、(d)ラジカル重合開始剤を含有し、
前記(a)成分、前記(c)成分、前記(d)成分、又は、前記(a)成分、前記(b)成分、前記(c)成分及び前記(d)成分以外の成分として、(e)ウレタン結合を有する化合物を含有し、
硬化物の30~90℃における平均線熱膨張係数が800ppm/K以下であ
り、
前記(b)成分の含有量は、前記(a)成分100質量部に対して、5質量部を超える、接着剤組成物。
【請求項2】
前記(b)成分が、(メタ)アクリロイル基及びビニル基からなる群より選択される少なくとも1種を更に有する、請求項1に記載の接着剤組成物。
【請求項3】
前記(e)成分が、ポリウレタン、ポリエステルウレタン及びウレタン(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の接着剤組成物。
【請求項4】
前記(c)成分の含有量が、当該接着剤組成物中の固形分の全質量を基準として20質量%以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項5】
一次粒径が100nm以下である無機フィラーを更に含有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の接着剤組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の接着剤組成物又はその硬化物を備える、構造体。
【請求項7】
第一の回路電極を有する第一の回路部材と、
第二の回路電極を有する第二の回路部材と、
前記第一の回路部材及び前記第二の回路部材の間に配置された回路接続部材と、を備え、
前記第一の回路電極及び前記第二の回路電極が電気的に接続されており、
前記回路接続部材が、請求項1~5のいずれか一項に記載の接着剤組成物又はその硬化物を含む、構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接着剤組成物及び構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素子及び液晶表示素子(ディスプレイ表示素子)において、素子中の種々の部材を結合させる目的で従来から種々の接着剤が使用されている。接着剤に要求される特性は、接着性をはじめとして、耐熱性、高温高湿状態における信頼性等、多岐に亘る。また、接着に使用される被着体としては、プリント配線板、有機基材(例えばポリイミド基材)等をはじめ、金属(チタン、銅、アルミニウム等)、ITO、IZO、IGZO、SiNX、SiO2などの多種多様な表面状態を有する基材が用いられ、各被着体にあわせた接着剤の分子設計が必要である。
【0003】
従来、半導体素子用又は液晶表示素子用の接着剤では、高接着性及び高信頼性を示す熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂、アクリル樹脂等)が用いられてきた。エポキシ樹脂を使用した接着剤の構成成分としては、エポキシ樹脂、及び、エポキシ樹脂に対する反応性を有するカチオン種又はアニオン種を熱又は光により発生させる潜在性硬化剤が一般的に用いられている。潜在性硬化剤は、硬化温度及び硬化速度を決定する重要な因子であり、室温での貯蔵安定性及び加熱時の硬化速度の観点から、種々の化合物が用いられてきた。実際の工程では、例えば、温度170~250℃、10秒~3時間の硬化条件で硬化することにより所望の接着性を得ていた。
【0004】
また、近年、半導体素子の高集積化及び液晶表示素子の高精細化に伴い、素子間及び配線間ピッチが狭小化し、硬化時の熱によって、周辺部材に悪影響を及ぼすおそれがある。さらに、低コスト化のためには、スループットを向上させる必要があり、低温(90~170℃)且つ短時間(1時間以内、好ましくは10秒以内、より好ましくは5秒以内)での接着が要求されている。換言すれば、低温短時間硬化(低温速硬化)での接着が要求されている。この低温短時間硬化を達成するためには、活性化エネルギーの低い熱潜在性触媒を使用する必要があるが、室温付近での貯蔵安定性を兼備することが非常に難しいことが知られている。
【0005】
そのため、近年、(メタ)アクリレート誘導体と、ラジカル重合開始剤である過酸化物とを併用したラジカル硬化系の接着剤等が注目されている。ラジカル硬化系は、反応活性種であるラジカルが非常に反応性に富むため、短時間硬化が可能であり、且つ、ラジカル重合開始剤の分解温度以下では、過酸化物が安定に存在することから、低温短時間硬化と貯蔵安定性(例えば、室温付近での貯蔵安定性)とを両立した硬化系である。
【0006】
しかしながら、近年、上述のラジカル硬化系の接着剤において、85℃85%RH等の高温高湿処理(高温高湿試験)後に、被着体と接着剤との界面における剥離が発生することが問題になっている。
【0007】
これに対し、前記のような高温高湿処理後における被着体と接着剤との界面の密着力(界面密着力)を向上させ、剥離の発生を抑制する試みは、これまで数多く検討及び報告されている(例えば、下記特許文献1~6参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-177204号公報
【文献】特開2010-111846号公報
【文献】特開2003-282637号公報
【文献】特開2003-277694号公報
【文献】特開2009-256619号公報
【文献】特開2013-191625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、接着剤として用いられる接着剤組成物に対しては、高温高湿処理後における剥離の抑制効果を更に高めることが求められている。
【0010】
本発明は、前記実情に鑑みてなされたものであり、高温高湿処理後における剥離を抑制することが可能な接着剤組成物、及び、それを用いた構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らが鋭意検討した結果、高温高湿処理後における剥離を抑制するためには、接着剤組成物が、分子内にウレタン結合とアルコキシシリル基とを有するシラン化合物、及び、当該シラン化合物以外の、ウレタン結合を有する化合物を含有すること、並びに、接着剤組成物の硬化物の線熱膨張係数が低いことが重要であることが明らかになった。
【0012】
より詳細には、本発明者らは、接着剤組成物が、ウレタン結合とアルコキシシリル基とを有するシラン化合物、及び、当該シラン化合物とは異なる、ウレタン結合を有する化合物を含有する場合、前記シラン化合物により剥離が改善される効果が大幅に向上することを見出した。さらに、本発明者らは、これらの成分を用いることにより、硬化物の線熱膨張係数が低下しやすいことを見出した上で、硬化物の30~90℃における平均線熱膨張係数を800ppm/K以下に調整することが、高温高湿処理後における剥離の抑制に有効であることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明に係る接着剤組成物は、(a)熱可塑性樹脂(以下、場合により「(a)成分」ともいう)、(b)分子内にウレタン結合とアルコキシシリル基とを有するシラン化合物(以下、場合により「(b)成分」ともいう)、(c)ラジカル重合性化合物(以下、場合により「(c)成分」ともいう)、及び、(d)ラジカル重合開始剤(以下、場合により「(d)成分」ともいう)を含有し、(a)成分、(c)成分、(d)成分、又は、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分以外の成分として、(e)ウレタン結合を有する化合物(以下、場合により「(e)成分」ともいう)を含有し、硬化物の30~90℃における平均線熱膨張係数(以下、単に「平均線熱膨張係数」ともいう)が800ppm/K以下である。
【0014】
本発明に係る接着剤組成物によれば、高温高湿処理後における剥離を抑制することができる。このような剥離の抑制効果は、高温高湿処理後における界面密着力が向上することにより得られると推測される。また、本発明者らは、本発明に係る接着剤組成物において、剥離の改善効果が持続することを見出した。すなわち、本発明に係る接着剤組成物は保存安定性に優れる。
【0015】
ところで、高温高湿処理後に剥離が発生する原因としては、実装の低温短時間化による接着剤の反応不足(硬化不足)、スマートフォンをはじめとするディスプレイ部材のコモディティー化により、接着阻害の原因となりやすい安価な物質で表面が汚染されている被着体(ディスプレイ部材、液晶パネル等)が増えていること、従来絶縁膜に使用されている窒化珪素に比べて親水性が高く、高温高湿処理後において剥離が発生しやすい表面を有する被着体(素ガラス等の基板など)を使用することが増えていることなどが考えられる。これに対し、本発明に係る接着剤組成物によれば、このような被着体を用いた場合であっても、高温高湿処理後における剥離を抑制することができる。
【0016】
(b)成分は、(メタ)アクリロイル基及びビニル基からなる群より選択される少なくとも1種を更に有することが好ましい。これにより、高温高湿処理後における剥離を更に抑制することができる。
【0017】
(e)成分は、ポリウレタン、ポリエステルウレタン及びウレタン(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。これにより、高温高湿処理後における剥離を更に抑制することができる。
【0018】
(c)成分の含有量は、接着剤組成物中の固形分の全質量を基準として20質量%以上であることが好ましい。これにより、高温高湿処理後における剥離を更に抑制することができる。
【0019】
本発明に係る接着剤組成物は、一次粒径が100nm以下である無機フィラーを更に含有することが好ましい。これにより、高温高湿処理後における剥離を更に抑制することができる。
【0020】
本発明に係る構造体は、前記接着剤組成物又はその硬化物を備える。
【0021】
本発明に係る構造体は、第一の回路電極を有する第一の回路部材と、第二の回路電極を有する第二の回路部材と、前記第一の回路部材及び前記第二の回路部材の間に配置された回路接続部材と、を備え、前記第一の回路電極及び前記第二の回路電極が電気的に接続されており、前記回路接続部材が前記接着剤組成物又はその硬化物を含む態様であってもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高温高湿処理後における剥離を抑制することが可能な接着剤組成物、及び、それを用いた構造体を提供することができる。
【0023】
本発明によれば、構造体又はその製造への接着剤組成物又はその硬化物の応用を提供することができる。本発明によれば、回路接続への接着剤組成物又はその硬化物の応用を提供することができる。本発明によれば、回路接続構造体又はその製造への接着剤組成物又はその硬化物の応用を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る構造体の一実施形態を示す模式断面図である。
【
図2】本発明に係る構造体の他の一実施形態を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態に何ら限定されるものではない。
【0026】
本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート、及び、それに対応するメタクリレートの少なくとも一方を意味する。「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル酸」等の他の類似の表現においても同様である。以下で例示する材料は、特に断らない限り、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。「A又はB」とは、A及びBのどちらか一方を含んでいればよく、両方とも含んでいてもよい。「室温」とは、25℃を意味する。
【0027】
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、ある段階の数値範囲の上限値又は下限値は、他の段階の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0028】
本明細書において、「接着力」、「接着性」、「接着強度」及び「界面密着力」は互いに同義である。例えば、高温高湿処理後における接着力が高いことは、高温高湿処理後における界面密着力が高いことを意味する。本明細書において、「接着剤組成物中の固形分の全質量」とは、接着剤組成物が溶剤を含有しない場合には、接着剤組成物の全質量を意味し、接着剤組成物が溶剤を含有する場合には、接着剤組成物の全質量から溶剤の質量を引いた後の質量を意味する。なお、接着剤組成物が導電粒子を含有する場合、「接着剤組成物中の固形分の全質量」は導電粒子の質量を含まず、「接着剤組成物中の固形分の全体積」は導電粒子の体積を含まない(すなわち、「接着剤組成物中の固形分の全質量」は「接着剤組成物中の固形分(但し、導電粒子を除く)の全質量」を意味し、「接着剤組成物中の固形分の全体積」は「接着剤組成物中の固形分(但し、導電粒子を除く)の全体積」を意味する)。
【0029】
<接着剤組成物>
本実施形態に係る接着剤組成物は、(a)熱可塑性樹脂、(b)分子内にウレタン結合とアルコキシシリル基とを有するシラン化合物、(c)ラジカル重合性化合物、及び、(d)ラジカル重合開始剤を含有し、(a)成分、(c)成分、(d)成分、又は、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分以外の成分として、(e)ウレタン結合を有する化合物を含有する。本実施形態に係る接着剤組成物は、例えば、ラジカル硬化系の接着剤組成物である。
【0030】
[(a)成分]
(a)成分としては、例えば、ポリイミド、ポリアミド、フェノキシ樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタン及びポリビニルブチラールからなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂が挙げられる。(a)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
(a)成分は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、フェノキシ樹脂を含むことが好ましい。同様に、(a)成分は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、ウレタン結合を有する熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。このような熱可塑性樹脂としては、ポリウレタン、ポリエステルウレタン、ポリエーテルウレタン等が挙げられる。
【0032】
(a)成分としては、応力緩和、及び、高温高湿処理後における接着性の更なる向上を目的として、ゴム成分を用いることもできる。ゴム成分としては、例えば、アクリルゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、カルボキシル基末端ポリブタジエン、水酸基末端ポリブタジエン、1,2-ポリブタジエン、カルボキシル基末端1,2-ポリブタジエン、水酸基末端1,2-ポリブタジエン、スチレン-ブタジエンゴム、水酸基末端スチレン-ブタジエンゴム、カルボキシル化ニトリルゴム、水酸基末端ポリ(オキシプロピレン)、アルコキシシリル基末端ポリ(オキシプロピレン)、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール、ポリオレフィングリコール及びポリ-ε-カプロラクトンが挙げられる。ゴム成分は、高温高湿処理後における接着性が更に向上する観点から、高極性基であるシアノ基又はカルボキシル基を側鎖基又は末端基として有することが好ましい。ゴム成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
(a)成分の重量平均分子量(Mw)は、接着剤組成物の接着力が更に向上する観点から、5000以上が好ましく、10000以上がより好ましい。(a)成分の重量平均分子量(Mw)は、他の成分との良好な相溶性が得られやすい傾向があり、接着剤組成物の好適な流動性が得られやすい観点から、1000000以下が好ましく、500000以下がより好ましく、400000以下が更に好ましい。これらの観点から、(a)成分の重量平均分子量は、5000~1000000が好ましく、5000~500000がより好ましく、10000~400000が更に好ましい。
【0034】
なお、重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレンの検量線を用いて測定することができる。より具体的には実施例に記載の条件で測定することができる。
【0035】
(a)成分の含有量は、接着剤組成物の接着力が更に向上する観点、及び、接着剤組成物のフィルム形成性が向上する観点から、(a)成分及び(c)成分の総量100質量部に対して、20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、35質量部以上が更に好ましい。(a)成分の含有量は、接着剤組成物の好適な流動性が得られやすい観点から、(a)成分及び(c)成分の総量100質量部に対して、80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、65質量部以下が更に好ましい。これらの観点から、(a)成分の含有量は、(a)成分及び(c)成分の総量100質量部に対して、20~80質量部が好ましく、30~70質量部がより好ましく、35~65質量部が更に好ましい。
【0036】
上述のとおり、(a)成分は、ウレタン結合を有する熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。換言すれば、(a)成分は(e)成分を含んでいてもよい。(a)成分が(e)成分を含む場合、ウレタン結合を有する(a)成分の含有量Ca1は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、(a)成分及び(c)成分の総量100質量部に対して下記の範囲が好ましい。含有量Ca1は、20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、35質量部以上が更に好ましい。含有量Ca1は、80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、65質量部以下が更に好ましい。これらの観点から、含有量Ca1は、20~80質量部が好ましく、30~70質量部がより好ましく、35~65質量部が更に好ましい。
【0037】
[(b)成分]
本実施形態に係る接着剤組成物は、(b)成分として、分子内にウレタン結合とアルコキシシリル基とを有するシラン化合物を含有する。(b)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
(b)成分は、分子内に、ウレタン結合と、加水分解性を示す炭素数1~2のアルコキシシリル基とを有する化合物であってもよい。(b)成分としては、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、下記式(1)で表される化合物が好ましい。
【0039】
【化1】
[式(1)中、mは1~3の整数を示し、R
11は水素原子、メチル基又はエチル基を示し、R
12は任意の1価の有機基を示し、R
13は任意の2価の有機基を示す。同一分子中の複数のR
11は同一でも異なっていてもよい。]
【0040】
(b)成分は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、反応性官能基を更に有することが好ましい。すなわち、(b)成分としては、分子内に反応性官能基とウレタン結合とを有するアルコキシシラン化合物が好ましい。例えば、(b)成分が、前記式(1)で表される化合物である場合、R12は、反応性官能基を有する有機基であることが好ましい。反応性官能基は、高温高湿処理後における剥離が一層抑制される観点から、(メタ)アクリロイル基及びビニル基からなる群より選択される少なくとも1種の官能基であってもよい。R13は、下記式で表される基であってもよい。
【0041】
【0042】
mは、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、2又は3が好ましく、3がより好ましい。nは、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、0~15が好ましく、1~10がより好ましく、1~5が更に好ましい。
【0043】
前記式(1)で表される化合物の具体例としては、下記式(1a)~(1k)で表される化合物が挙げられる。これらの化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。式(1)で表される化合物としては、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、式(1b)においてR1bが水素原子である化合物が好ましい。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
ここで、R1aは、炭素数1~10のアルキル基又は環状アルキル基を示す。R1b、R1c及びR1dのそれぞれは、水素原子又はメチル基を示す。R1e、R11f、R1g、R1h、R1i及びR1jのそれぞれは、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、環状アルキル基、アルコキシ基、アシル基又はアシロキシ基を示す。R12fは、炭素数1~3のアルキレン基を示す。Etはエチル基を示し、Meはメチル基を示す。pは1~5の整数を示す。
【0050】
(b)成分の含有量は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される(例えば、回路部材と回路接続材料との界面の剥離気泡の発生が更に抑制される)観点から、接着剤組成物中の固形分の全質量を基準として下記の範囲が好ましい。(b)成分の含有量は、0.2質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が更に好ましく、5質量部以上が特に好ましい。(b)成分の含有量は、30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下が更に好ましく、10質量部以下が特に好ましい。これらの観点から、(b)成分の含有量は、0.2~30質量部が好ましく、0.5~20質量部がより好ましく、1~15質量部が更に好ましく、5~10質量部が特に好ましい。
【0051】
(b)成分の含有量は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、(a)成分100質量部に対して下記の範囲が好ましい。(b)成分の含有量は、5質量部を超えることが好ましく、7.5質量部以上がより好ましく、10質量部以上が更に好ましく、15質量部以上が特に好ましい。(b)成分の含有量は、100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、60質量部以下が更に好ましく、40質量部以下が特に好ましく、30質量部以下が極めて好ましい。これらの観点から、(b)成分の含有量は、5質量部を超え100質量部以下が好ましく、7.5~80質量部がより好ましく、10~60質量部が更に好ましく、15~40質量部が特に好ましく、15~30質量部が極めて好ましい。
【0052】
[(c)成分]
本実施形態に係る接着剤組成物は、(c)成分として、ラジカル重合性化合物((b)成分に該当する化合物を除く)を含有してよい。(c)成分としては、モノマー及び/又はオリゴマーを用いることができる。
【0053】
(c)成分は、分子内に(メタ)アクリロイル基を2個以上有するラジカル重合性化合物であってもよい。(c)成分としては、分子内に(メタ)アクリロイルオキシ基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレート化合物が好ましい。この場合、硬化後の凝集力が充分に発揮され、且つ、硬化収縮を抑えられることにより、接着性が更に向上し、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される傾向がある。このような(メタ)アクリレート化合物としては、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート(ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸変性2官能(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸変性3官能(メタ)アクリレートなどが挙げられる。(c)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
エポキシ(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテルの2つのグリシジル基に(メタ)アクリル酸を付加させたエポキシ(メタ)アクリレート、ビスフェノールフルオレンジグリシジルエーテルの2つのグリシジル基にエチレングリコール及び/又はプロピレングリコールを付加させた化合物に(メタ)アクリロイルオキシ基を導入したエポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0055】
(c)成分は、分子内に(メタ)アクリロイル基を2個以上有し、且つ、ウレタン結合を有するラジカル重合性化合物を含むことが好ましい。この場合、(b)成分と(c)成分との相溶性が良好となり、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される傾向がある。このようなラジカル重合性化合物としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0056】
本実施形態に係る接着剤組成物は、流動性の調節等を目的として、(c)成分として、単官能(メタ)アクリレート化合物を含んでいてもよい。
【0057】
単官能(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート、2-シアノエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチル(メタ)アクリレート、2-エトキシエチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、n-ラウリル(メタ)アクリレート、2-メトキシエチル(メタ)アクリレート、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルホスフェート、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、複数のグリシジル基を有するエポキシ樹脂のグリシジル基の一つに(メタ)アクリル酸を反応させることで得られるグリシジル基含有(メタ)アクリレート、及び、(メタ)アクリロイルモルホリンが挙げられる。単官能(メタ)アクリレート化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
本実施形態に係る接着剤組成物は、橋架け率の向上等を目的として、(c)成分として、アリル基、マレイミド基、ビニル基等のラジカル重合性の官能基を有する化合物を含有してもよい。このような化合物としては、例えば、N-ビニルイミダゾール、N-ビニルピリジン、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルカプロラクタム、4,4’-ビニリデンビス(N,N-ジメチルアニリン)、N-ビニルアセトアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N-イソプロピルアクリルアミド及びN,N-ジエチルアクリルアミドが挙げられる。
【0059】
本実施形態に係る接着剤組成物は、接着力の向上を目的として、(c)成分として、リン酸基を有するラジカル重合性化合物(以下、場合により「(c1)成分」ともいう)を含有することが好ましい。(c1)成分としては、例えば、下記式(2a)、式(2b)又は式(2c)で表される化合物が挙げられる。
【0060】
【化8】
[式(2a)中、R
21aは水素原子又はメチル基を示し、R
22aは(メタ)アクリロイルオキシ基を示し、w及びxはそれぞれ独立に1~8の整数を示す。なお、同一分子中の複数のR
21a、R
22a、w及びxはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【0061】
【化9】
[式(2b)中、R
2bは(メタ)アクリロイルオキシ基を示し、y及びzはそれぞれ独立に1~8の整数を示す。同一分子中の複数のR
2b、y及びzは、それぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【0062】
【化10】
[式(2c)中、R
21cは水素原子又はメチル基を示し、R
22cは(メタ)アクリロイルオキシ基を示し、b及びcはそれぞれ独立に1~8の整数を示す。同一分子中の複数のR
21c及びbは同一でも異なっていてもよい。]
【0063】
(c1)成分としては、例えば、2,2’-ジ(メタ)アクリロイロキシジエチルホスフェート、EO(エチレンオキサイド)変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、リン酸変性エポキシ(メタ)アクリレート及びリン酸ビニルが挙げられる。
【0064】
(c)成分の含有量は、耐熱性が向上する観点から、(a)成分及び(c)成分の総量100質量部に対して、20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、35質量部以上が更に好ましく、40質量部以上が特に好ましく、45質量部以上が極めて好ましい。(c)成分の含有量は、高温高湿処理後における剥離を抑制する効果が更に大きい観点から、(a)成分及び(c)成分の総量100質量部に対して、80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、65質量部以下が更に好ましく、60質量部以下が特に好ましく、55質量部以下が極めて好ましい。これらの観点から、(c)成分の含有量は、(a)成分及び(c)成分の総量100質量部に対して、20~80質量部が好ましく、30~70質量部がより好ましく、35~65質量部が更に好ましく、40~60質量部が特に好ましく、45~55質量部が極めて好ましい。
【0065】
(c1)成分の含有量は、高い接着強度が得られやすい観点から、(a)成分及び(c)成分の総量100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が更に好ましく、2質量部以上が特に好ましい。(c1)成分の含有量は、接着剤組成物の硬化物の物性低下が生じにくく、接続信頼性を向上する効果が良好に得られる観点から、(a)成分及び(c)成分の総量100質量部に対して、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下が更に好ましく、3質量部以下が特に好ましい。これらの観点から、(c1)成分の含有量は、(a)成分及び(c)成分の総量100質量部に対して、0.1~15質量部が好ましく、0.5~10質量部がより好ましく、1~5質量部が更に好ましく、2~3質量部が特に好ましい。
【0066】
(c)成分の含有量は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、接着剤組成物中の固形分の全質量を基準として、20質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、40質量%以上が更に好ましい。(c)成分の含有量は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、接着剤組成物中の固形分の全質量を基準として、90質量%以下が好ましく、80質量%以下がより好ましく、70質量%以下が更に好ましく、60質量%以下が特に好ましい。これらの観点から、(c)成分の含有量は、接着剤組成物中の固形分の全質量を基準として、20~90質量%が好ましく、30~80質量%がより好ましく、40~70質量%が更に好ましく、40~60質量%が特に好ましい。
【0067】
上述のとおり、(c)成分は、ウレタン結合を有するラジカル重合性化合物を含んでいてもよい。換言すれば、(c)成分は(e)成分を含んでいてもよい。(c)成分が(e)成分を含む場合、ウレタン結合を有する(c)成分の含有量Cb1は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、(a)成分及び(c)成分の総量100質量部に対して下記の範囲が好ましい。含有量Cb1は、20質量部以上が好ましく、30質量部以上がより好ましく、40質量部以上が更に好ましい。含有量Cb1は、90質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、70質量部以下が更に好ましく、60質量部以下が特に好ましく、50質量部以下が極めて好ましい。これらの観点から、含有量Cb1は、20~90質量部が好ましく、30~80質量部がより好ましく、40~70質量部が更に好ましく、40~60質量部が特に好ましく、40~50質量部が極めて好ましい。
【0068】
(c)成分が(e)成分を含む場合、ウレタン結合を有しない(c)成分の含有量Cb2に対する含有量Cb1の質量比Cb1/Cb2は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、下記の範囲が好ましい。質量比Cb1/Cb2は、0.01以上が好ましく、0.1以上がより好ましく、1以上が更に好ましく、2以上が特に好ましく、3以上が極めて好ましい。質量比Cb1/Cb2は、50以下であってもよい。
【0069】
[(d)成分]
本実施形態に係る接着剤組成物は、(d)成分としてラジカル重合開始剤を含有する。(d)成分としては、過酸化物、アゾ化合物等の化合物から任意に選択することができる。(d)成分としては、安定性、反応性及び相溶性に優れる観点から、1分間半減期温度が90~175℃であり、且つ、分子量が180~1000の過酸化物が好ましい。「1分間半減期温度」とは、過酸化物の半減期が1分である温度をいう。「半減期」とは、所定の温度において化合物の濃度が初期値の半分に減少するまでの時間をいう。(d)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0070】
(d)成分は、例えば、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシネオデカノエート、ジ(4-t-ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)パーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカノエート、ジラウロイルパーオキサイド、1-シクロヘキシル-1-メチルエチルパーオキシネオデカノエート、t-ヘキシルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン、t-ヘキシルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシネオヘプタノエート、t-アミルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルパーオキシヘキサヒドロテレフタレート、t-アミルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、3-ヒドロキシ-1,1-ジメチルブチルパーオキシネオデカノエート、t-アミルパーオキシネオデカノエート、3-メチルベンゾイルパーオキサイド、4-メチルベンゾイルパーオキサイド、ジ(3-メチルベンゾイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ジ(4-メチルベンゾイル)パーオキサイド、2,2’-アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、1,1’-アゾビス(1-アセトキシ-1-フェニルエタン)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリン酸)、1,1’-アゾビス(1-シクロヘキサンカルボニトリル)、t-ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、t-ブチルパーオキシマレイン酸、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシラウレート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(3-メチルベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキシルモノカーボネート、t-ヘキシルパーオキシベンゾエート、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジブチルパーオキシトリメチルアジペート、t-アミルパーオキシノルマルオクトエート、t-アミルパーオキシイソノナノエート及びt-アミルパーオキシベンゾエートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であってもよい。
【0071】
(d)成分は、ウレタン結合を有するラジカル重合開始剤を含んでいてもよい。換言すれば、(d)成分は(e)成分を含んでいてもよい。
【0072】
ラジカル重合開始剤中に含有される塩素イオン又は有機酸の量は、電極(例えば、回路部材の接続端子(回路電極))の腐食を抑える観点から、5000ppm以下であることが好ましい。さらに、同様の観点から、ラジカル重合開始剤は、分解後に発生する有機酸が少ない化合物がより好ましい。また、接着剤組成物の保存安定性が更に向上する観点から、室温、常圧下、24時間の開放放置後に質量保持率が20質量%以上であるラジカル重合開始剤が好ましく用いられる。
【0073】
(d)成分の含有量は、短時間で良好な反応性を得る観点から、(a)成分及び(c)成分の総量100質量部に対して、1質量部以上が好ましく、2.5質量部以上がより好ましく、3質量部以上が更に好ましく、4質量部以上が特に好ましい。(d)成分の含有量は、保存安定性に更に優れる観点から、(a)成分及び(c)成分の総量100質量部に対して、15質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、5質量部以下が更に好ましい。これらの観点から、(d)成分の含有量は、(a)成分及び(c)成分の総量100質量部に対して、1~15質量部が好ましく、2.5~10質量部がより好ましく、3~10質量部が更に好ましく、4~5質量部が特に好ましい。
【0074】
[(e)成分]
本実施形態に係る接着剤組成物は、(a)成分、(c)成分又は(d)成分として、(e)成分を含有していてもよく、(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分以外の他の成分として(e)成分を含有していてもよい。(a)成分、(b)成分、(c)成分及び(d)成分以外の他の成分としては、例えば、ウレタンビーズが挙げられる。
【0075】
(e)成分は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、ポリウレタン、ポリエステルウレタン及びウレタン(メタ)アクリレートからなる群より選択される少なくとも1種の成分であることが好ましい。
【0076】
(e)成分は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、本実施形態に係る接着剤組成物は、ウレタン結合を有する(a)成分を2種以上含んでいてもよく、ウレタン結合を有する(a)成分と、ウレタン結合を有する(c)成分とを含んでいてもよい。本実施形態に係る接着剤組成物は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、ウレタン結合を有する(a)成分と、ウレタン結合を有する(c)成分とを含有することが好ましい。
【0077】
(e)成分の含有量は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、接着剤組成物中の固形分の全質量を基準として下記の範囲が好ましい。(e)成分の含有量は、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上が更に好ましい。(e)成分の含有量は、95質量%以下が好ましく、90質量%以下がより好ましく、85質量%以下が更に好ましい。これらの観点から、(e)成分の含有量は、5~95質量%が好ましく、10~90質量%がより好ましく、15~85質量%が更に好ましい。
【0078】
(e)成分の含有量は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、(b)成分100質量部に対して下記の範囲が好ましい。(e)成分の含有量は、10質量部以上が好ましく、100質量部以上がより好ましく、200質量部以上が更に好ましく、300質量部以上が特に好ましい。(e)成分の含有量は、2000質量部以下が好ましく、1000質量部以下がより好ましく、750質量部以下が更に好ましく、500質量部以下が特に好ましい。これらの観点から、(e)成分の含有量は、10~2000質量部が好ましく、100~1000質量部がより好ましく、200~750質量部が更に好ましく、300~500質量部が特に好ましい。
【0079】
本実施形態に係る接着剤組成物によれば、シラン化合物による界面密着力の向上効果が大幅に向上し、従来の接着剤組成物と比較して、優れた界面密着力が得られると推測される。このような効果が得られる原因は明らかではないが、ウレタン結合を有する(b)成分が(e)成分と相溶し、(b)成分が接着剤組成物又はその硬化物中で局在化し難くなることにより、(b)成分が接着剤組成物又はその硬化物の表面にブリードする現象が抑制され、(b)成分の失活が抑制されることが考えられる。
【0080】
[その他の成分]
((b)成分以外のシラン化合物)
本実施形態に係る接着剤組成物は、(b)成分とは異なる任意のシラン化合物を含んでもよい。このようなシラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、及び、これらの縮合物が挙げられる。
【0081】
このようなシラン化合物の含有量は、接着剤組成物中の固形分の全質量を基準として、0.1~30質量%が好ましく、0.25~20質量%がより好ましい。シラン化合物の含有量が前記範囲である場合、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される(例えば、回路部材と回路接続材料との界面の剥離気泡の発生が更に抑制される)。
【0082】
本実施形態に係る接着剤組成物中のシラン化合物の含有量((b)成分を含むシラン化合物の総量)は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、接着剤組成物中の固形分の全質量を基準として、0.1質量%以上であってもよく、1質量%以上であってもよく、5質量%以上であってもよい。シラン化合物の含有量の増加に伴い、硬化物の平均線熱膨張係数は低下する傾向がある。本実施形態に係る接着剤組成物中のシラン化合物の含有量は、フィルム形成性に優れる観点から、30質量%以下であってもよく、20質量%以下であってもよく、15質量%以下であってもよい。
【0083】
(絶縁性フィラー)
本実施形態に係る接着剤組成物は、絶縁性フィラーとして、無機フィラー及び有機フィラーからなる群より選択される少なくとも1種を含んでもよい。無機フィラーとしては、例えば、シリカ微粒子、アルミナ微粒子、シリカ-アルミナ微粒子、チタニア微粒子、ジルコニア微粒子等の金属酸化物微粒子;窒化物微粒子などの無機微粒子が挙げられる。有機フィラーとしては、例えば、シリコーン微粒子、メタクリレート-ブタジエン-スチレン微粒子、アクリル-シリコーン微粒子、ポリアミド微粒子、ポリイミド微粒子などの有機微粒子が挙げられる。これらの微粒子は、均一な構造を有していてもよく、コア-シェル型構造を有していてもよい。本実施形態に係る接着剤組成物は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、無機フィラーを含有することが好ましい。なお、有機フィラーが(a)成分からなる場合は、当該有機フィラーは(a)成分に分類されるものとする。
【0084】
有機フィラー及び無機フィラーのそれぞれの含有量は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、(a)成分及び(c)成分の総量100質量部に対して下記の範囲が好ましい。前記含有量は、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましい。線熱膨張係数を低下させる観点から、無機フィラーの含有量は多ければ多いほど好ましい。前記含有量は、50質量部以下であってもよい。
【0085】
無機フィラーの一次粒径は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、100nm以下が好ましく、75nm以下がより好ましく、50nm以下が更に好ましい。無機フィラーの一次粒径が小さいほど、同じ量を用いた場合の無機フィラーと樹脂(例えば(a)成分)との間の界面の総面積が大きくなり線熱膨張係数が低下する傾向がある。無機フィラーの一次粒径は、5nm以上であってもよい。なお、前記無機フィラーの一次粒径は、走査型電子顕微鏡により測定することができる。
【0086】
(導電粒子)
本実施形態に係る接着剤組成物は、導電粒子を含有していてもよい。導電粒子を含有する接着剤組成物は、異方導電性接着剤として特に好適に用いることができる。
【0087】
導電粒子は、Au、Ag、Pd、Ni、Cu、はんだ等の金属粒子;カーボン粒子などが挙げられる。金属粒子は、複数の金属を組み合わせた金属粒子であってもよい。例えば、金属粒子は、銅粒子と、銅粒子を被覆する銀層とを有する粒子であってもよい。また、導電粒子は、ガラス、セラミック、プラスチック等の非導電性材料からなる核体粒子と、当該核体粒子を被覆する金属、金属粒子、カーボン等の導電層と、を有する複合粒子であってもよい。複合粒子の核体粒子は、好ましくはプラスチック粒子である。
【0088】
前記プラスチック粒子を核体粒子とする複合粒子は、加熱及び加圧によって変形する変形性を有する。そのため、前記複合粒子を用いる場合、他の導電粒子を用いる場合よりも、例えば、回路部材同士を接着する際に、当該回路部材が有する回路電極と導電粒子との接触面積を増加させることができる。したがって、前記複合粒子を導電粒子として含有する接着剤組成物によれば、接続信頼性の点でより一層優れる回路接続構造体が得られる。
【0089】
本実施形態に係る接着剤組成物は、前記導電粒子と、その表面の少なくとも一部を被覆する絶縁層又は絶縁性粒子とを有する絶縁被覆導電粒子を含有していてもよい。すなわち、前記導電粒子は、その表面の少なくとも一部を絶縁層又は絶縁性粒子によって被覆されていてもよい。絶縁層は、ハイブリダイゼーション等の方法により設けることができる。絶縁層又は絶縁性粒子は、高分子樹脂等の絶縁性材料から形成される。絶縁性粒子は、上述する有機フィラー又は無機フィラーであってもよい。このような絶縁被覆導電粒子を用いることで、隣接する導電粒子同士による短絡が生じにくくなる。
【0090】
導電粒子の平均粒径は、良好な分散性及び導電性を得る観点から、1~30μmであることが好ましい。なお、前記導電粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布計により測定することができる。
【0091】
導電粒子の含有量は、接着剤組成物中の固形分の全体積を基準として、0.1~30体積%が好ましく、0.1~10体積%がより好ましく、0.5~7.5体積%が更に好ましい。導電粒子の含有量が0.1体積%以上であれば、導電性が向上する傾向がある。導電粒子の含有量が30体積%以下であれば、電極(回路電極等)間の短絡が生じにくくなる傾向がある。導電粒子の含有量(体積%)は、硬化前の接着剤組成物を構成する各成分の23℃での体積に基づいて決定される。各成分の体積は、比重を利用して質量を体積に換算することで求めることができる。各成分の体積は、体積を測定しようとする成分を溶解したり膨潤させたりせず、且つ、その成分をよくぬらすことができる適当な溶剤(水、アルコール等)を用いて測定することもできる。具体的には、前記溶剤をメスシリンダー等に入れ、そこへ測定対象の成分を導入して増加した体積をその成分の体積として求めることができる。
【0092】
本実施形態に係る接着剤組成物は、チオール化合物を含有していてもよい。本実施形態に係る接着剤組成物は、密着向上剤(上記(b)成分、及び、(b)成分以外のシラン化合物を除く)、増粘剤、レベリング剤、着色剤、耐候性向上剤等の添加剤を適宜含有してもよい。
【0093】
本実施形態に係る接着剤組成物は、溶剤を含んでいてもよい。溶剤としては、接着剤組成物中の成分に対して反応性がなく、且つ、充分な溶解性を示す溶剤であれば、特に制限はない。溶剤は、常圧での沸点が50~150℃である溶剤が好ましい。沸点が50℃以上であると、室温での溶剤の揮発性に乏しいため、開放系でも使用できる。沸点が150℃以下であると、溶剤を揮発させることが容易であるため、接着後に良好な信頼性が得られる。
【0094】
本実施形態に係る接着剤組成物の硬化物の30~90℃における平均線熱膨張係数は、800ppm/K以下である。平均線熱膨張係数が800ppm/Kより大きい場合には、高温高湿処理後における剥離を抑制する効果が得られ難い。平均線熱膨張係数は、高温高湿処理後における剥離が更に抑制される観点から、750ppm/K以下が好ましく、700ppm/K以下がより好ましい。平均線熱膨張係数の下限は、例えば10ppm/K以上であってもよい。硬化物の平均線熱膨張係数は、例えば、熱機械分析装置(株式会社島津製作所製)を用いて測定することができる。具体的には、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0095】
平均線熱膨張係数を低下させる方法としては、例えば、(1)より高いTgの熱可塑性樹脂を用いる、(2)低分子量の反応性成分の含有量を低減させ、低分子量の反応性成分に対してオリゴマーサイズの反応性成分を固形分の質量比で相対的に多く用いる、(3)無機フィラーを用いる、(4)シラン化合物の含有量を増加させる等の方法が挙げられる。低分子量の反応性成分としては、例えば、イソシアヌル酸EO変性ジ(メタ)アクリレートが挙げられる。オリゴマーサイズの反応性成分としては、例えば、ウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0096】
ところで、液晶パネル及びFPC(フレキシブル回路基板)それぞれの主素材であるガラス及びポリイミドの線熱膨張係数は一般的に10ppm/K前後であるのに対し、従来のラジカル重合系の回路接続材料の線熱膨張係数は1000ppm/K以上である。そのため、液晶パネル及びFPCを従来のラジカル重合系の回路接続材料で接続して構造体を作製する場合(すなわち、FOG(Flex on Glass)接続の場合)、構造体を85℃85%RHの高温高湿条件にて処理した際に、部材ごとの熱膨張度合いの違いにより、FPCと回路接続材料との界面、及び、回路接続材料と液晶パネルとの界面にひずみが発生する。そのひずみによる応力が界面の密着力以上になると、剥離が発生する。同様の機構による剥離は、上述のようなFOG接続だけではなく、ドライバICを液晶パネルに実装するCOG(Chip OnGlass)接続、及び、FPCとFPCとを接続するFOF(Flex on Flex)接続の場合にも発生する傾向がある。一方、本実施形態に係る接着剤組成物では、硬化物の30~90℃における平均線熱膨張係数が800ppm/K以下であるため、構造体を85℃85%RHの高温高湿条件にて処理した場合であっても、前記界面におけるひずみが発生しにくいと推測され、剥離が発生しにくい。
【0097】
本実施形態に係る接着剤組成物は、室温で液状である場合にはペースト状で使用することができる。接着剤組成物が室温で固体状である場合には、加熱して使用する他、上述の溶剤を使用してペースト化してもよい。
【0098】
本実施形態に係る接着剤組成物は、フィルム状であってもよい。必要に応じて溶剤等を含有する接着剤組成物の溶液を、フッ素樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、剥離性基材(離型紙等)上に塗布した後、溶剤等を除去することによりフィルム状の接着剤組成物を得ることができる。また、不織布等の基材に前記溶液を含浸させて剥離性基材上に載置した後、溶剤等を除去することによりフィルム状の接着剤組成物を得ることができる。接着剤組成物をフィルム状で使用すると、取扱性等に優れる観点から一層便利である。フィルム状の接着剤組成物の厚さは、1~100μmであってもよく、5~50μmであってもよい。
【0099】
本実施形態に係る接着剤組成物は、加熱又は光照射と共に加圧することにより接着させることができる。加熱及び光照射を併用することにより、更に低温短時間で接着できる。光照射は、150~750nmの波長域の光を照射することが好ましい。光源は、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯(超高圧水銀灯等)、キセノンランプ、メタルハライドランプなどを使用することができる。照射量は、0.1~10J/cm2であってもよい。加熱温度は、特に制限はないが、50~170℃の温度が好ましい。圧力は、被着体に損傷を与えない範囲であれば、特に制限はないが、0.1~10MPaが好ましい。加熱及び加圧は、0.5秒~3時間の範囲で行うことが好ましい。
【0100】
本実施形態に係る接着剤組成物は、同一種の被着体の接着剤として使用してもよく、熱膨張係数の異なる異種の被着体の接着剤として使用してもよい。具体的には、異方導電接着剤、銀ペースト、銀フィルム等に代表される回路接続材料;CSP用エラストマー、CSP用アンダーフィル材、LOCテープ等に代表される半導体素子接着材料などとして使用することができる。
【0101】
<構造体及びその製造方法>
本実施形態に係る構造体は、本実施形態に係る接着剤組成物又はその硬化物を備える。本実施形態に係る構造体は、例えば、回路接続構造体等の半導体装置である。本実施形態に係る構造体の一態様として、回路接続構造体は、第一の回路電極を有する第一の回路部材と、第二の回路電極を有する第二の回路部材と、第一の回路部材及び第二の回路部材の間に配置された回路接続部材と、を備える。第一の回路部材は、例えば、第一の基板と、当該第一の基板上に配置された第一の回路電極と、を有する。第二の回路部材は、例えば、第二の基板と、当該第二の基板上に配置された第二の回路電極と、を有する。第一の回路電極及び第二の回路電極は、相対向すると共に電気的に接続されている。回路接続部材は、本実施形態に係る接着剤組成物又はその硬化物を含んでいる。本実施形態に係る構造体は、本実施形態に係る接着剤組成物又はその硬化物を備えていればよく、前記回路接続構造体の回路部材に代えて、回路電極を有していない部材(基板等)を用いてもよい。
【0102】
本実施形態に係る構造体の製造方法は、本実施形態に係る接着剤組成物を硬化させる工程を備える。本実施形態に係る構造体の製造方法の一態様として、回路接続構造体の製造方法は、第一の回路電極を有する第一の回路部材と、第二の回路電極を有する第二の回路部材との間に、本実施形態に係る接着剤組成物を配置する配置工程と、第一の回路部材と第二の回路部材とを加圧して第一の回路電極と第二の回路電極とを電気的に接続させると共に、接着剤組成物を加熱して硬化させる加熱加圧工程と、を備える。配置工程において、第一の回路電極と第二の回路電極とが相対向するように配置することができる。加熱加圧工程において、第一の回路部材と第二の回路部材とを相対向する方向に加圧することができる。
【0103】
以下、図面を用いて、本実施形態に係る一態様として、回路接続構造体及びその製造方法について説明する。
図1は、構造体の一実施形態を示す模式断面図である。
図1に示す回路接続構造体100aは、相対向する回路部材(第一の回路部材)20及び回路部材(第二の回路部材)30を備えており、回路部材20と回路部材30との間には、これらを接続する回路接続部材10が配置されている。回路接続部材10は、本実施形態に係る接着剤組成物の硬化物を含む。
【0104】
回路部材20は、基板(第一の基板)21と、基板21の主面21a上に配置された回路電極(第一の回路電極)22とを備えている。基板21の主面21a上には、場合により絶縁層(図示せず)が配置されていてもよい。
【0105】
回路部材30は、基板(第二の基板)31と、基板31の主面31a上に配置された回路電極(第二の回路電極)32とを備えている。基板31の主面31a上には、場合により絶縁層(図示せず)が配置されていてもよい。
【0106】
回路接続部材10は、絶縁性物質(導電粒子を除く成分の硬化物)10a及び導電粒子10bを含有している。導電粒子10bは、少なくとも、相対向する回路電極22と回路電極32との間に配置されている。回路接続構造体100aにおいては、回路電極22及び回路電極32が導電粒子10bを介して電気的に接続されている。
【0107】
回路部材20,30は、単数又は複数の回路電極(接続端子)を有している。回路部材20,30としては、例えば、電気的接続を必要とする電極を有する部材を用いることができる。回路部材としては、半導体チップ(ICチップ)、抵抗体チップ、コンデンサチップ等のチップ部品;プリント基板、半導体搭載用基板等の基板などを用いることができる。回路部材20,30の組み合わせとしては、例えば、半導体チップ及び半導体搭載用基板が挙げられる。基板の材質としては、例えば、半導体、ガラス、セラミック等の無機物;ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、(メタ)アクリル樹脂、環状オレフィン樹脂等の有機物;ガラスとエポキシ等との複合物などが挙げられる。基板は、プラスチック基板であってもよい。
【0108】
図2は、構造体の他の実施形態を示す模式断面図である。
図2に示す回路接続構造体100bは、回路接続部材10が導電粒子10bを含有していないこと以外は、回路接続構造体100aと同様の構成を有している。
図2に示す回路接続構造体100bでは、回路電極22と回路電極32とが導電粒子を介することなく直接接触して電気的に接続されている。
【0109】
回路接続構造体100a,100bは、例えば、以下の方法により製造することができる。まず、接着剤組成物がペースト状である場合、接着剤組成物を塗布及び乾燥することにより、接着剤組成物を含む樹脂層を回路部材20上に配置する。接着剤組成物がフィルム状である場合、フィルム状の接着剤組成物を回路部材20に貼り付けることにより、接着剤組成物を含む樹脂層を回路部材20上に配置する。続いて、回路電極22と回路電極32とが対向配置されるように、回路部材20上に配置された樹脂層の上に回路部材30を載せる。そして、接着剤組成物を含む樹脂層に加熱処理又は光照射を行うことにより、接着剤組成物が硬化して硬化物(回路接続部材10)が得られる。以上により、回路接続構造体100a,100bが得られる。
【実施例】
【0110】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0111】
<シラン化合物1の合成>
3-イソシアナートプロピルトリエトキシシラン(商品名:KBE9007、信越化学工業株式会社製)25gと、2-ヒドロキシエチルアクリレート(東京化成工業株式会社製)17gと、ジラウリル酸ジブチルスズ(和光純薬工業株式会社製)60mg(0.1mol%)とを、メチルエチルケトン(商品名:2-ブタノン、和光純薬工業株式会社製、純度99%)50gに加えて反応液を調製した。前記反応液を120分間加熱還流させて、下記式で表されるシラン化合物1を得た。なお、FT-IR(フーリエ変換赤外分光光度計)によってイソシアネート基(NCO基)由来の吸収ピーク(2270cm-1)の消失を確認することにより、反応の終結を確認した。FT-IRの測定には、赤外分光光度計(日本分光株式会社製)を用いた。また、加熱還流の際の温度制御はオイルバス(装置名:HOB-50D、アズワン株式会社製)により行った。
【0112】
【0113】
<ポリウレタンの合成>
還流冷却器、温度計及び撹拌機を備えたセパラブルフラスコに、エーテル結合を有するジオールであるポリプロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製、数平均分子量Mn=2000)1000質量部、及び、メチルエチルケトン(溶剤)4000質量部を加えた後、40℃で30分間撹拌して反応液を調製した。前記反応液を70℃まで昇温した後、ジメチル錫ラウレート(触媒)0.0127質量部を加えた。次いで、この反応液に対して、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート125質量部をメチルエチルケトン125質量部に溶解して調製した溶液を、1時間かけて滴下した。その後、赤外分光光度計(日本分光株式会社製)によってイソシアネート基由来の吸収ピーク(2270cm-1)が見られなくなるまで前記温度で撹拌を続けて、ポリウレタンのメチルエチルケトン溶液を得た。次いで、この溶液の固形分濃度(ポリウレタンの濃度)が30質量%となるように溶剤量を調整した。得られたポリウレタンの重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)による測定の結果、320000(標準ポリスチレン換算値)であった。GPCの測定条件を表1に示す。
【0114】
【0115】
<ウレタンアクリレートの合成>
温度計、攪拌機、不活性ガス導入口及び還流冷却器を装着した2L(リットル)の四つ口フラスコに、ポリカーボネートジオール(アルドリッチ社製、数平均分子量Mn=2000)4000質量部と、2-ヒドロキシエチルアクリレート238質量部と、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.49質量部と、スズ系触媒4.9質量部とを仕込んで反応液を調製した。70℃に加熱した反応液に対して、イソホロンジイソシアネート(IPDI)666質量部を3時間かけて均一に滴下し、反応させた。滴下完了後、15時間反応を継続し、NCO%(NCO含有量)が0.2質量%以下となった時点を反応終了とみなし、ウレタンアクリレートを得た。NCO%は、電位差自動滴定装置(商品名:AT-510、京都電子工業株式会社製)によって確認した。GPCによる分析の結果、ウレタンアクリレートの重量平均分子量は8500(標準ポリスチレン換算値)であった。なお、GPCによる分析は、前記ポリウレタンの重量平均分子量の分析と同様の条件で行った。
【0116】
(導電粒子の作製)
ポリスチレン粒子の表面に厚さ0.2μmのニッケル層を形成した。さらに、このニッケル層の外側に厚さ0.04μmの金層を形成させた。これにより、平均粒径4μmの導電粒子を作製した。
【0117】
<フィルム状接着剤の作製>
(実施例1~6及び比較例1~6)
表2に示す成分を、表2に示す質量比で混合した。そこに上記導電粒子を1.5体積%の割合(基準:接着剤組成物中の固形分の全体積)で分散させて、フィルム状接着剤を作製するための塗工液(接着剤組成物)を得た。塗工装置を用いてこの塗工液を厚さ50μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムに塗布した。塗膜を70℃で10分間熱風乾燥して、厚さ18μmのフィルム状接着剤(フィルム状の接着剤組成物)を作製した。表2に示すフィルム状接着剤の各成分の含有量は、固形分の含有量である。
【0118】
表2に示す「ポリウレタン」、「シラン化合物1」及び「ウレタンアクリレート」は、上述のとおり合成した成分である。「PKHC」は、フェノキシ樹脂(商品名:PKHC、ユニオンカーバイド社製、重量平均分子量45000)である。PKHCは、40gのPKHCをメチルエチルケトン60gに溶解して調製した40質量%溶液の形態で用いた。「KBM503」は、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM-503、信越化学工業株式会社製)である。「EBECRYL436」は、ポリエステルアクリレート(ラジカル重合性化合物、商品名:EBECRYL436、ダイセル・オルネクス株式会社製)である。「M-215」は、イソシアヌル酸EO変性ジアクリレート(ラジカル重合性化合物、商品名:M-215、東亜合成株式会社製)である。「P-2M」は、2-メタクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート(リン酸エステル、商品名:ライトエステルP-2M、共栄社化学株式会社製)である。「パーロイルL」は、ジラウロイルパーオキサイド(商品名:パーロイルL、日油株式会社製、分子量398.6、1分半減期温度:116℃)である。「R104」は、シリカ粒子(無機微粒子、商品名:R104、日本アエロジル株式会社製、一次粒径12nm)である。R104は、10gのR104をトルエン45g及び酢酸エチル45gの混合溶剤に分散させて調製した10質量%の分散液の形態で用いた。
【0119】
<平均線熱膨張係数の測定>
前記フィルム状接着剤を複数枚用意した。ラミネーターを用いてこれらのフィルム状接着剤を厚さ100±20μmになるように貼り合せた後、オーブンにて180℃で1時間処理することにより、硬化物サンプルを作製した。作製したサンプルの30~90℃の平均線熱膨張係数を、熱機械分析装置(株式会社島津製作所製)により測定した。測定は、長さ10mm、幅4mmのサンプルに対し、荷重5gf(断面積0.4mm2あたり)、昇温速度5℃/分の条件で行った。結果を表2に示す。
【0120】
【0121】
<接続体の作製>
前記フィルム状接着剤を用いて、ライン幅75μm、ピッチ150μm(スペース75μm)及び厚さ18μmの銅回路を約2200本有するフレキシブル回路基板(FPC)と、ガラス(SiO2)基板(商品名:プレクリンスライドS7224、松浪硝子工業株式会社製)とを接続(接着)した。接続(接着)は、熱圧着装置(加熱方式:コンスタントヒート型、東レエンジニアリング株式会社製)を用い、140℃、3MPaで5秒間の条件で加熱及び加圧することにより行った。これにより、幅1.5mmにわたりFPCとガラス基板とがフィルム状接着剤の硬化物により接続された接続体を作製した。加圧の圧力は、圧着面積を0.495cm2として計算した。
【0122】
<ガラス界面における剥離評価>
前記接続体の作製直後の接続外観と、前記接続体を85℃、85%RHの恒温恒湿槽中に250時間放置した後(高温高湿試験後)の接続外観とを、光学顕微鏡を用いて観察した。スペース部分におけるガラス基板と硬化物との界面において剥離が発生している面積(剥離面積)を測定し、ガラス界面における剥離の有無を評価した。スペース全体に占める剥離面積の割合が30%を超える場合を剥離有りと評価し、剥離面積の割合が30%以下の場合を剥離なしと評価した。結果を表3に示す。
【0123】
【0124】
以上より、実施例1~6では、比較例1~6と比較して、高温高湿処理後にも、ガラス基板と硬化物との界面における剥離がなく、良好な外観を保つことができることが確認された。
【符号の説明】
【0125】
10…回路接続部材、10a…絶縁性物質、10b…導電粒子、20…第一の回路部材、21…第一の基板、21a…主面、22…第一の回路電極、30…第二の回路部材、31…第二の基板、31a…主面、32…第二の回路電極、100a,100b…回路接続構造体。