(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】オイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び自動車用部品
(51)【国際特許分類】
C09K 3/10 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
C09K3/10 G
(21)【出願番号】P 2021513564
(86)(22)【出願日】2020-03-26
(86)【国際出願番号】 JP2020013634
(87)【国際公開番号】W WO2020209083
(87)【国際公開日】2020-10-15
【審査請求日】2021-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2019074664
(32)【優先日】2019-04-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】打它 晃
(72)【発明者】
【氏名】安田 成紀
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲郎
(72)【発明者】
【氏名】廣神 宗直
(72)【発明者】
【氏名】片山 大樹
(72)【発明者】
【氏名】坂本 隆文
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/037682(WO,A1)
【文献】特開2016-191061(JP,A)
【文献】特開2016-008228(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/10-3/12
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ケイ素原子に結合した水酸基及び/又は加水分解性シリル基を分子鎖両末端にそれぞれ1個ずつ有し、23℃における粘度が20~1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)無機質充填剤:1~500質量部、
(C)下記一般式(1)で表される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:0.1~40質量部、
【化1】
(式中、R
1はそれぞれ独立に炭素原子数1~12の非置換又は
ハロゲン置換もしくはシアノ置換の一価炭化水素基であり、R
2は炭素原子数1~12の非置換又は
ハロゲン置換、シアノ置換もしくは低級アルコキシ置換の一価炭化水素基であり、Yは加水分解性基であり、nは0、1又は2である。)
(D)下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物:0.01~5質量部、
R
3R
4
aSiX
3-a (2)
(式中、R
3は、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれるいずれか一つ以上の原子を含む官能性基を少なくとも1個有する炭素原子数1~20の一価炭化水素基である。R
4は、炭素原子数1~10の非置
換の一価炭化水素基であり、Xは加水分解性基である。aは0、1又は2である。)
(E)(C)、(D)成分以外の、下記一般式(3)で示されるグアニジン骨格を1分子中に少なくとも1個有する、非ケイ素系有機化合物、加水分解性オルガノシラン化合物及びその部分加水分解縮合物から選ばれる1種又は2種以上からなる硬化触媒:0.1~5質量部
を含有するオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【化2】
(式中、R
5はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~20の非置
換の一価炭化水素基、メチロール基又はシアノ基である。)
【請求項2】
更に、(A)成分100質量部に対して、(F)下記一般式(4)で示されるオルガノジシラザン化合物:0.5~10質量部
を含有する請求項1記載のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【化3】
(式中、R
7はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~3のアルキル基又はビニル基である。)
【請求項3】
(A)成分が下記一般式(5)で表されるジオルガノポリシロキサンである請求項1又は2記載のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【化4】
(式中、R
8はそれぞれ独立に水素原子又は炭素原子数1~10の一価炭化水素基
もしくは炭素原子数2~10のアルコキシ置換アルキル基であり、R
9はそれぞれ独立に炭素原子数1~18の非置換又は
ハロゲン置換もしくはシアノ置換の一価炭化水素基であり、Zはそれぞれ独立に酸素原子又は炭素原子数1~20の非置
換の二価炭化水素基である。また、bは0、1又は2であり、cはジオルガノポリシロキサンの23℃における粘度が20~1,000,000mPa・sになるような整数である。)
【請求項4】
(B)成分が炭酸カルシウム、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、カーボンブラック及び酸化アルミニウムから選ばれる1種又は2種以上の、表面処理されたもしくは無処理の無機質充填剤である請求項1~3のいずれか1項に記載のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項5】
金属系触媒を含有しないものである請求項1~4のいずれか1項に記載のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項6】
脱アルコール型である請求項1~5のいずれか1項に記載のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項7】
150℃で240時間エンジンオイルに浸漬させたときの硬化直後からのゴム物性の変化率がタイプAデュロメータ硬さについて±70%以内であり、引張強度について±50%以内であり、かつ切断時伸びについて±70%以内である硬化物を与えるものである請求項1~6のいずれか1項に記載のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物でシールされた自動車用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、特には、従来必須であった有機スズ触媒やチタンキレート触媒等の金属系触媒を使用せずとも、大気中の湿気によって室温(23℃±5℃)において、好ましくは脱アルコールタイプ等の縮合硬化反応によって良好に硬化し、かつ接着性に優れるシリコーンゴム硬化物(エラストマー状オルガノポリシロキサン硬化物)を与えるオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、及び該組成物の硬化物(シリコーンゴム)でシールされた自動車用部品等の物品に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用のエンジン周辺のシールについては、従来、コルク、有機ゴム、アスベストなどで作られた耐油性のガスケット、パッキング材が使用されているが、これらには在庫管理及び作業工程が煩雑であるという不利があり、更に、それらのシール性能には信頼性がないという欠点がある。そのため、この種の用途には液体ガスケットとして、好ましくは周辺環境への影響が少ない脱アルコールタイプの室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を利用したFIPG方式(Formed In Place Gasket)が採用されている。
【0003】
従来、脱アルコール型室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、触媒抜きでは反応性に乏しいため、十分な硬化性を付与するためには、有機スズ触媒やチタンキレート触媒等の金属系触媒を使用する必要があった。しかし、有機スズ化合物はその毒性から、その化合物を含む製品の使用が制限される場合があり、特にEU諸国では2012年以降、スズ換算で0.1%を超える製品は使用できない状況であり、さらには2020年にジブチル錫化合物がREACH規制登録される可能性があるなど、有機スズ化合物に対する規制は年々強まっている。
また、組成物が有機スズ化合物を含む場合は、オルガノポリシロキサンの主鎖切断によりクラッキングが生じ、硬度の経時低下をもたらすという問題があり、組成物が有機チタン化合物を含む場合は、硬化速度が遅い、あるいは硬化物(ゴム)が経時で変色してしまうという問題があった。
【0004】
さらに、脱アルコール型室温硬化性オルガノシロキサン組成物に使用される硬化剤(架橋剤)は、脱オキシム型や脱アセトン型などに使用される硬化剤と比較して反応性に劣ることから、金属触媒を使用したとしてもそれらの硬化形態よりも硬化性が劣るという欠点があった。一方で、近年では、環境保全や健康被害抑制といった観点から、性能向上とともにより環境・安全に配慮された製品が特に望まれており、脱離するガスの安全性が高い脱アルコール型製品に対する需要が高まっている。
【0005】
スズ触媒やチタン触媒以外の触媒を利用した脱アルコール型室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物としては、特許文献1(国際公開第2014/097574号)にて、硬化剤にアルコキシシリルビニレン結合を導入し、硬化触媒にグアニジン系有機触媒を使用することで、金属触媒を含有しない脱アルコール型室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を報告しており、これらの問題を解決しているが、硬化剤の合成方法が特殊であり、高価であることが欠点である。
【0006】
そのほかのスズ代替方法としては、ビスマス化合物の使用が報告されている。特許文献2(特開2003-119387号公報)では、ビスマス化合物を触媒としたシリコーン組成物が提案されているが、得られる化合物の物性値が経時で変化してしまうという欠点がある。また、特許文献3(特開2011-509317号公報)では、キレートタイプのビスマス触媒が有効であるとの記載があるが、これらは硬化が遅く、触媒の入手が難しいことが欠点である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2014/097574号
【文献】特開2003-119387号公報
【文献】特開2011-509317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、金属系触媒を含まなくても従来品以上の硬化性及び保存安定性を有し、人体に対する毒性や環境面に配慮され、硬化後に良好なゴム物性、接着性及び耐エンジンオイル性を有する硬化物を与えることができる、好適には脱アルコールタイプ等のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、及びこの組成物を硬化させることにより得られる硬化物(シリコーンゴム)でシールされた自動車用部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意研究を重ねた結果、室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物、特には脱アルコールタイプの室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物において、下記一般式(1)で表される特定のオルガノオキシメチル基を含有する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を硬化剤(架橋剤)とし、グアニジン骨格を持つ有機化合物を硬化触媒として併用添加した室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物が、特に自動車用エンジンオイル(LLC)等のオイルシール材として上記問題を解決する性能を有することを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物及び該組成物の硬化物でシールされた自動車用物品等を提供するものである。
1.
(A)ケイ素原子に結合した水酸基及び/又は加水分解性シリル基を分子鎖両末端にそれぞれ1個ずつ有し、23℃における粘度が20~1,000,000mPa・sであるジオルガノポリシロキサン:100質量部、
(B)無機質充填剤:1~500質量部、
(C)下記一般式(1)で表される加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物:0.1~40質量部、
【化1】
(式中、R
1はそれぞれ独立に炭素原子数1~12の非置換又は
ハロゲン置換もしくはシアノ置換の一価炭化水素基であり、R
2は炭素原子数1~12の非置換又は
ハロゲン置換、シアノ置換もしくは低級アルコキシ置換の一価炭化水素基であり、Yは加水分解性基であり、nは0、1又は2である。)
(D)下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物:0.01~5質量部、
R
3R
4
aSiX
3-a (2)
(式中、R
3は、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれるいずれか一つ以上の原子を含む官能性基を少なくとも1個有する炭素原子数1~20の一価炭化水素基である。R
4は、炭素原子数1~10の非置
換の一価炭化水素基であり、Xは加水分解性基である。aは0、1又は2である。)
(E)(C)、(D)成分以外の、下記一般式(3)で示されるグアニジン骨格を1分子中に少なくとも1個有する、非ケイ素系有機化合物、加水分解性オルガノシラン化合物及びその部分加水分解縮合物から選ばれる1種又は2種以上からなる硬化触媒:0.1~5質量部
を含有するオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【化2】
(式中、R
5はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~20の非置
換の一価炭化水素基、メチロール基又はシアノ基である。)
2.
更に、(A)成分100質量部に対して、(F)下記一般式(4)で示されるオルガノジシラザン化合物:0.5~10質量部
を含有する1記載のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【化3】
(式中、R
7はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~3のアルキル基又はビニル基である。)
3.
(A)成分が下記一般式(5)で表されるジオルガノポリシロキサンである1又は2記載のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
【化4】
(式中、R
8はそれぞれ独立に水素原子又は炭素原子数1~10の一価炭化水素基
もしくは炭素原子数2~10のアルコキシ置換アルキル基であり、R
9はそれぞれ独立に炭素原子数1~18の非置換又は
ハロゲン置換もしくはシアノ置換の一価炭化水素基であり、Zはそれぞれ独立に酸素原子又は炭素原子数1~20の非置
換の二価炭化水素基である。また、bは0、1又は2であり、cはジオルガノポリシロキサンの23℃における粘度が20~1,000,000mPa・sになるような整数である。)
4.
(B)成分が炭酸カルシウム、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、カーボンブラック及び酸化アルミニウムから選ばれる1種又は2種以上の、表面処理されたもしくは無処理の無機質充填剤である1~3のいずれかに記載のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
5.
金属系触媒を含有しないものである1~4のいずれかに記載のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
6.
脱アルコール型である1~5のいずれかに記載のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
7.
150℃で240時間エンジンオイルに浸漬させたときの硬化直後からのゴム物性の変化率がタイプAデュロメータ硬さについて±70%以内であり、引張強度について±50%以内であり、かつ切断時伸びについて±70%以内である硬化物を与えるものである1~6のいずれかに記載のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物。
8.
1~7のいずれかに記載のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物でシールされた自動車用部品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、金属系触媒を使用せずとも保存安定性に及び硬化性に優れ、接着性、耐薬品性も良好であるシリコーンゴム硬化物(エラストマー状オルガノポリシロキサン硬化物)を与えるため、自動車用エンジンオイル(LLC)等のオイルシール材として好適に使用できるものである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、粘度は、JIS Z 8803に規定する方法に順じた回転粘度計による測定値である。特に記述がない限り、「室温」とは温度23℃±5℃、湿度50%RH±5%RHの状態をいう。
【0013】
[(A)成分]
(A)成分は、シラノール基(即ち、ケイ素原子に結合した水酸基)及び/又は加水分解性シリル基を分子鎖両末端にそれぞれ1個ずつ有するジオルガノポリシロキサンであり、本発明のオルガノポリシロキサン組成物の主成分(ベースポリマー)である。
該ジオルガノポリシロキサンの分子構造は特に制限されるものでなく、直鎖状、分岐構造を有する直鎖状のいずれであってもよいが、好ましくは、分子鎖両末端がジオルガノヒドロキシシリル基又は1~3個の加水分解性基を有するシリル基、例えば、ジオルガノアルコキシシリル基、オルガノジアルコキシシリル基、トリアルコキシシリル基などで封鎖され、主鎖が基本的にジオルガノシロキサン単位の繰返しからなる直鎖状ジオルガノポリシロキサンである。該直鎖状ジオルガノポリシロキサンは、分岐構造を少量有していてもよい。
また、該ジオルガノポリシロキサンは、分子鎖途中(例えば、分子鎖両末端に存在するジオルガノヒドロキシシリル基又は加水分解性基含有シリル基と、主鎖を構成するジオルガノシロキサン単位の繰返し構造の末端との連結部分など)にシルアルキレン構造(-Si-R-Si-)を有するものであってもよい。この式において、Rは、炭素原子数1~20、好ましくは炭素原子数2~6の二価炭化水素基(例えば、直鎖状又は分岐鎖状のアルキレン基等)である。また、Rの炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部がハロゲン原子、又はシアノ基で置換されているものであってもよい。
【0014】
該(A)成分のジオルガノポリシロキサンは、23℃における粘度が20~1,000,000mPa・s、好ましくは100~300,000mPa・s、更に好ましくは1,000~200,000mPa・s、特に10,000~100,000mPa・sであるものがよい。ジオルガノポリシロキサンの粘度が上記下限値(20mPa・s)未満であると、後述する(B)成分が多量に必要となるため、経済的に不利となる。また、ジオルガノポリシロキサンの粘度が上記上限値(1,000,000mPa・s)超では、作業性が低下するので、好ましくない。なお、本発明において、粘度は、通常、回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメータ等)により測定することができる。
【0015】
(A)成分のジオルガノポリシロキサンが有する加水分解性基として、好ましいものは、アルコキシ基又はアルコキシ置換アルコキシ基である。ジオルガノポリシロキサンの各末端に存在する水酸基(シラノール基)及び加水分解性基の数は特に限定されるものでない。好ましくは、末端に水酸基(シラノール基)を有する場合は、分子鎖の両末端に、ケイ素原子に結合する水酸基(シラノール基)を1個ずつ有する(即ち、ヒドロキシジオルガノシリル基として存在する)のがよい。また、加水分解性基として末端にアルコキシ基又はアルコキシ置換アルコキシ基を有する場合は、分子鎖の両末端に、ケイ素原子に結合するアルコキシ基(即ち、アルコキシシリル基)又はケイ素原子に結合するアルコキシ置換アルコキシ基(即ち、アルコキシアルコキシシリル基)を、2個又は3個ずつ有する(即ち、ジアルコキシオルガノシリル基又はビス(アルコキシアルコキシ)オルガノシリル基や、トリアルコキシシリル基又はトリス(アルコキシアルコキシ)シリル基として存在する)ものがよい。
【0016】
ここで、アルコキシ基としては、炭素原子数1~10、特に炭素原子数1~4のアルコキシ基が好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基等が挙げられる。アルコキシ置換アルコキシ基は、全炭素原子数2~10、特に全炭素原子数2、3又は4のアルコキシ置換アルコキシ基が好ましく、例えば、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシメトキシ基、メトキシプロポキシ基等が挙げられる。本発明においては、特に、ジオルガノポリシロキサンの両末端に水酸基、メトキシ基、又はエトキシ基を有するものが好ましい。
【0017】
水酸基及び加水分解性基以外の、ケイ素原子に結合する有機基としては、炭素原子数1~18、好ましくは炭素原子数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基が挙げられる。該一価炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、α-,β-ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基;これらの基の炭素原子に結合する水素原子の一部又は全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子又はシアノ基で置換したもの、例えば、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-クロロプロピル基等のハロゲン化一価炭化水素基;β-シアノエチル基、γ-シアノプロピル基等のシアノアルキル基が例示される。中でもメチル基が好ましい。
【0018】
上記(A)成分のジオルガノポリシロキサンとしては、特に下記一般式(5)で表される直鎖状ジオルガノポリシロキサンが好ましい。
【化5】
【0019】
上記式(5)中、R8はそれぞれ独立に、水素原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基及びオクチル基等の炭素原子数1~10のアルキル基;メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基及びメトキシプロピル基等の炭素原子数2~10のアルコキシ置換アルキル基から選択される基である。好ましくは、水素原子、メチル基又はエチル基である。
R9はそれぞれ独立に、炭素原子数1~18、好ましくは炭素原子数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基である。この一価炭化水素基としては、上述した水酸基及び加水分解性基以外の有機基が挙げられ、中でもメチル基が好ましい。bは0、1又は2である。特に、R8がアルキル基又はアルコキシ置換アルキル基である場合は、bは0又は1であり、R8が水素原子である場合は、bは2であるものがよい。
【0020】
Zはそれぞれ独立に、酸素原子、又は炭素原子数1~20、好ましくは炭素原子数1~6の非置換もしくは置換の二価炭化水素基(好ましくはアルキレン基)である。この二価炭化水素基としては、直鎖状であっても分岐構造(例えばメチルエチレン基)を有していてもよいが、メチレン基、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基)、ヘキシレン基(ヘキサメチレン基)等の直鎖アルキレン基が好ましく、中でも酸素原子が好ましい。
【0021】
上記一般式(5)で表される直鎖状ジオルガノポリシロキサン中の主鎖を構成するジシロキサン単位((R8)2SiO2/2)の繰り返し数(又は重合度)を示すcは、ジオルガノポリシロキサンの23℃における粘度が、20~1,000,000mPa・s、好ましくは100~300,000mPa・s、更に好ましくは1,000~200,000mPa・s、特に10,000~100,000mPa・sとなるような整数であり、通常、c値は、10~2,000、好ましくは20~1,500、更に好ましくは50~1,200、特には100~1,000程度の整数である。
【0022】
なお、本発明において、重合度(又は分子量)は、通常、トルエンを展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる(以下、同じ。)。
【0023】
(A)成分の具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。
【化6】
(各式中、R
8、R
9、b、cは上記と同じである。)
【0024】
(A)成分のジオルガノポリシロキサンは、従来公知の方法で製造することができる。
該ジオルガノポリシロキサンは、1種単独でも2種以上を組み合わせて使用してもよい。特に、分子鎖両末端にヒドロキシシリル基を有するジオルガノポリシロキサン(即ち、上記式(5)において両末端のR8が水素原子であるジオルガノポリシロキサン)を(A)成分100質量部中に10~100質量部となる量で含有することが好ましく、50~100質量部となる量で含有することが更に好ましい。
【0025】
[(B)成分]
次に、(B)成分である無機質充填剤は、本発明のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物にゴム物性を付与するための補強性、非補強性充填剤である。本充填剤としては、表面処理又は無処理の、焼成シリカ、粉砕シリカ、溶融シリカ、球状シリカ、煙霧質シリカ(ヒュームドシリカ)、結晶性シリカ(微粉末石英)等の乾式シリカ、沈降性シリカ、ゾル-ゲル法シリカ等の湿式シリカなどのシリカ系充填剤、カーボンブラック、タルク、ベントナイト、表面処理又は無処理の炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、表面処理又は無処理の酸化カルシウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム等が例示され、その中でも炭酸カルシウム、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、カーボンブラック、酸化アルミニウムが好ましく、より好ましくは無機質充填剤の表面が疎水化処理された、炭酸カルシウム、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、カーボンブラック、酸化アルミニウムである。この場合、これら無機質充填剤は、水分量が少ないことが好ましい。
なお、該表面処理剤の種類、量や処理方法等については特に制限はないが、代表的には、クロロシラン、アルコキシシラン、オルガノシラザン等の有機ケイ素化合物や、脂肪酸、パラフィン、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等の処理剤が適用できる。
(B)成分の無機質充填剤は、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
(B)成分の配合量は、(A)成分のジオルガノポリシロキサン100質量部に対して1~500質量部の範囲、好ましくは20~500質量部、より好ましくは20~300質量部、特に好ましくは50~300質量部の範囲である。1質量部未満では十分なゴム強度が得られないため、使用用途に適さないという問題が生じ、500質量部を超えるとカートリッジからの吐出性が悪化し、並びに保存安定性が低下するほか、得られるゴム物性の機械特性も低下してしまう。
【0027】
[(C)成分]
本発明のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、下記一般式(1)で表される分子中にケイ素原子に結合したアルコキシメチル基等のオルガノオキシメチル基を含有する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を架橋剤(硬化剤)として含むことを特徴とする。なお、本発明において「部分加水分解縮合物」とは、該加水分解性オルガノシラン化合物を部分的に加水分解・縮合して生成する、分子中に残存加水分解性基を2個以上、好ましくは3個以上有するオルガノシロキサンオリゴマーを意味する。
【化7】
(式中、R
1はそれぞれ独立に炭素原子数1~12の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、R
2は炭素原子数1~12の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、Yは加水分解性基であり、nは0、1又は2である。)
【0028】
ここで、前記一般式(1)において、R1は炭素原子数1~12、好ましくは炭素原子数1~8、より好ましくは炭素原子数1~4の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、α-,β-ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基;また、これらの基の水素原子の一部又は全部が、F、Cl、Br等のハロゲン原子やシアノ基等で置換された基、例えば、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-シアノエチル基等を例示することができる。これらの中でも、アルケニル基等の脂肪族不飽和炭化水素基を除くものであることが好ましく、メチル基、エチル基等のアルキル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0029】
次に、前記一般式(1)において、R2は炭素原子数1~12、好ましくは炭素原子数1~8、より好ましくは炭素原子数1~4の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、α-,β-ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基;また、これらの基の水素原子の一部又は全部が、F、Cl、Br等のハロゲン原子やシアノ基等で置換された基、例えば、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-シアノエチル基などや、これらの基の水素原子の一部が、メトキシ基、エトキシ基等の低級アルコキシ基で置換されたアルキル基、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等を例示することができる。これらの中でも、メチル基、エチル基等の炭素原子数1~4の低級アルキル基が好ましい。
【0030】
また、前記一般式(1)において、Yは加水分解性基であり、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基等の炭素原子数1~4のアルコキシ基;メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基、メトキシプロポキシ基等の炭素原子数2~4のアルコキシアルコキシ基、アセトキシ基、オクタノイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等の炭素原子数2~8のアシロキシ基、ビニロキシ基、プロペニルオキシ基、イソプロペニルオキシ基、1-エチル-2-メチルビニルオキシ基等の炭素原子数2~6のアルケニルオキシ基、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基等の炭素原子数3~7のケトオキシム基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロヘキシルアミノ基等の炭素原子数2~6のアミノ基、ジメチルアミノキシ基、ジエチルアミノキシ基等の炭素原子数2~6のアミノキシ基、N-メチルアセトアミド基、N-エチルアセトアミド基、N-メチルベンズアミド基等の炭素原子数3~8のアミド基等が挙げられる。これらの中でも、アルコキシ基が特に好ましい。
nは0、1又は2であり、好ましくは0又は1であり、より好ましくは0である。
【0031】
本発明に係る上記一般式(1)で表される、分子中にケイ素原子に結合したアルコキシメチル基等のオルガノオキシメチル基を含有する加水分解性オルガノシラン化合物、及びその部分加水分解縮合物の具体例としては、メトキシメチルトリメトキシシラン、エトキシメチルトリエトキシシラン、メトキシメチルメチルジメトキシシラン、エトキシメチルメチルジエトキシシラン、メトキシメチルエチルジメトキシシラン、エトキシメチルエチルジエトキシシラン、メトキシメチルヘキシルジメトキシシラン、エトキシメチルヘキシルジエトキシシラン、メトキシメチルオクチルジメトキシシラン、エトキシメチルオクチルジエトキシシラン、メトキシメチルフェニルジメトキシシラン、エトキシメチルフェニルジエトキシシラン及び、その部分加水分解縮合物などが挙げられる。
なお、例えば、上記具体例のメトキシメチルトリメトキシシラン、エトキシメチルトリエトキシシランの構造式を示せば、以下の通りである。
【化8】
【0032】
本発明のオイルシール用室温硬化性樹脂組成物において、(C)成分のオルガノオキシメチル基を含有する加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその加水分解縮合物は(A)成分のベースポリマー中のシラノール基と縮合、又は加水分解性シリル基と、湿気などの水分存在下で加水分解し、縮合する反応により架橋構造を形成する架橋剤(硬化剤)として作用するものであって、(C)成分の加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその加水分解縮合物の配合量は、(A)成分のジオルガノポリシロキサン100質量部に対して0.1~40質量部であり、0.5~10質量部が好ましい。(B)成分が少なすぎると該組成物を硬化しても十分なゴム物性が得られない場合があり、多すぎると速硬化性を損なう、又は経済的に不利である。
なお、(C)成分の加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその加水分解縮合物は、分子中にグアジニル官能性基(グアニジン骨格)を有さないものである点において、後述する(E)成分とは明確に区別されるものである。
【0033】
[(D)成分]
次に、(D)成分は、下記一般式(2)で示されるシランカップリング剤(即ち、官能性基含有一価炭化水素基を有する加水分解性オルガノシラン化合物又はカーボンファンクショナルシラン)及び/又はその部分加水分解縮合物であり、本発明のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物の硬化物に良好な接着性を発現させるための必須成分である。
R3R4
aSiX3-a (2)
(式中、R3は、窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれるいずれか一つ以上の原子を含む官能性基を少なくとも1個有する炭素原子数1~20の一価炭化水素基である。R4は、炭素原子数1~10の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、Xは加水分解性基である。aは0、1又は2である。)
【0034】
上記式(2)中、R3は窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれる原子を含む官能性基(例えば、非置換又は置換アミノ基、非置換又は置換イミノ基、アミド基、ウレイド基、メルカプト基、エポキシ基、(メタ)アクリロキシ基等)を少なくとも1個有する炭素原子数1~20の一価炭化水素基であり、具体的には、β-(2,3-エポキシシクロヘキシル)エチル基、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチル基、γ-グリシドキシプロピル基、γ-(メタ)アクリロキシプロピル基、γ-アクリロキシプロピル基、N-β(アミノエチル)-γ-アミノプロピル基、γ-アミノプロピル基、N-フェニル-γ-アミノプロピル基、γ-ウレイドプロピル基、γ-メルカプトプロピル基、γ-イソシアネートプロピル基等の窒素原子、硫黄原子及び酸素原子から選ばれる原子の少なくとも1つを含む、好ましくは炭素原子数3~20、特に好ましくは炭素原子数8~14の一価炭化水素基が挙げられる。なお、R3中の窒素原子を含む官能性基には、後述する(E)成分が必須とするグアジニル官能性基は含まれない。
【0035】
また、R4は、炭素原子数1~10、好ましくは炭素原子数1~6の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が好ましい。
【0036】
一般式(2)中、加水分解性基Xとしては、例えば、ケトオキシム基、アルコキシ基、アルコキシ置換アルコキシ基、アシロキシ基、アルケニルオキシ基等が挙げられる。具体的には、ジメチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、メチルイソブチルケトオキシム基等の炭素原子数3~8のケトオキシム基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等の炭素原子数1~4、好ましくは1又は2のアルコキシ基、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、メトキシプロポキシ基等の炭素原子数2~4のアルコキシ置換アルコキシ基、アセトキシ基、プロピオノキシ基等の炭素原子数2~4のアシロキシ基、ビニルオキシ基、アリルオキシ基、プロペノキシ基、イソプロペノキシ基等の炭素原子数2~4のアルケニルオキシ基などが例示できる。
【0037】
(D)成分のシランカップリング剤としては、具体的には、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-2-(アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン類、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシシラン類、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等の(メタ)アクリルシラン類、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシラン類、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン等のイソシアネートシラン類などが挙げられる。
(D)成分のシランカップリング剤及び/又はその部分加水分解縮合物は、1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0038】
上記(D)成分の配合量は、(A)成分のベースポリマー100質量部に対して0.01~5質量部であり、好ましくは0.1~4質量部である。0.01質量部未満では、硬化物が十分な接着性能を示さないものとなり、5質量部を超えて配合すると、硬化後のゴム強度が低下したり、硬化性が低下したりする。
【0039】
なお、(D)成分のシランカップリング剤及び/又はその加水分解縮合物は、加水分解性基以外には、分子中にオルガノオキシメチル基等のオルガノオキシ置換アルキル基を含有しないものである点において、上記(C)成分の加水分解性オルガノシラン化合物及び/又はその加水分解縮合物とは明確に区別されるものであり、また、(D)成分のシランカップリング剤及び/又はその加水分解縮合物は、加水分解性基以外には、分子中にグアジニル官能性基(グアニジン骨格)を有さないものである点において、後述する(E)成分とも明確に区別されるものである。
【0040】
[(E)成分]
(E)成分は、(C)、(D)成分以外の、グアニジン骨格を1分子中に少なくとも1個有する、非ケイ素系有機化合物、加水分解性オルガノシラン化合物及びその部分加水分解縮合物(以下、「加水分解性オルガノシラン化合物及びその部分加水分解縮合物」を総称して有機ケイ素化合物という)から選ばれる1種又は2種以上であり、本発明のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物において硬化触媒(触媒成分)として作用するものであり、本発明の組成物に良好な硬化性や接着性を与える。
【0041】
ここで、グアニジン骨格を1分子中に少なくとも1個有するとは、その化合物中に1個の炭素原子に対して、窒素原子が二重結合で1個、単結合で2個結合している構造を含むことを意味し、その構造は下記一般式(3)で示される。
【化9】
(式中、R
5はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~20の非置換もしくは置換の一価炭化水素基、メチロール基又はシアノ基であり、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基等の炭素原子数1~4のアルキル基、メチロール基又はシアノ基であり、より好ましくは水素原子又はメチル基である。)
【0042】
また、(E)成分における非ケイ素系有機化合物、加水分解性オルガノシラン化合物は、例えば下記一般式(3’)で表される。
【化10】
(式中、R
5は上記と同じであり、R
6は水素原子、炭素原子数1~20の非置換もしくは置換の一価炭化水素基、メチロール基、シアノ基又はアルコキシシラン残基であり、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基等の炭素原子数1~4のアルキル基、メチロール基、シアノ基又はアルコキシシラン残基であり、より好ましくは水素原子、メチル基又はアルコキシシラン残基である。また、R
5又はR
6が水素原子の場合、無機酸と水素結合して塩を形成してもよい。)
【0043】
上記式(3)、(3’)中、R5及びR6の非置換又は置換の一価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、オクタデシル基等のアルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、α-,β-ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基、また、これらの基の水素原子の一部又は全部が、F,Cl,Br等のハロゲン原子やシアノ基等で置換された基、例えば、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-シアノエチル基等を例示することができる。
【0044】
また上記式(3’)中、R6のアルコキシシラン残基は、下記式で表される。
-A-Si(OR’)3-dR''d
(式中、Aは炭素原子数1~8の二価炭化水素基であり、R’、R''はそれぞれ独立に炭素原子数1~12の非置換又は置換の一価炭化水素基であり、dは0、1又は2である。)
【0045】
上記式中、Aは炭素原子数1~8の二価炭化水素基であり、好ましくは炭素原子数2~4の二価炭化水素基であり、-(CH2)p-(pは1~8を表す)のアルキレン基が好ましい。
また、R’、R''はそれぞれ独立に非置換又は置換の炭素原子数1~12の一価炭化水素基であり、好ましくは炭素原子数1~8、より好ましくは炭素原子数1~4の一価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基等のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等のアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、α-,β-ナフチル基等のアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、3-フェニルプロピル基等のアラルキル基;また、これらの基の水素原子の一部又は全部が、F、Cl、Br等のハロゲン原子やシアノ基等で置換された基、例えば、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、2-シアノエチル基などや、これらの基の水素原子の一部が、メトキシ基、エトキシ基等の低級アルコキシ基で置換されたアルキル基、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等を例示することができる。これらの中でも、メチル基、エチル基等の炭素原子数1~4の低級アルキル基が好ましい。
【0046】
(E)成分の分子内に少なくとも1個のグアニジン骨格を有する非ケイ素系有機化合物の具体例としては、塩酸グアニジン、炭酸グアニジン、硝酸グアニジン、硫酸グアニジン、リン酸グアニジンなどの無機グアニジン類、アミノグアニジン、1,1,3,3-テトラメチルグアニジン、n-ドデシルグアニジン、メチロールグアニジン、ジメチロールグアニジン、1-フェニルグアニジン、1,3-ジフェニルグアニジン、1,3-ジ-o-トリルグアニジン、トリフェニルグアニジン、1-ベンジル-2,3-ジメチルシアノグアニジンなどの有機グアニジン類などが例示される。また、有機ケイ素化合物の具体例としては、1,1,3,3-テトラメチル-2-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]グアニジンなどのアルコキシシラン類やその加水分解縮合物(シロキサン類)などが例示される。その中でも有機グアニジン類、アルコキシシラン類及びその加水分解縮合物を使用することが好ましく、その中でも特に1,1,3,3-テトラメチル-2-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]グアニジンなどのアルコキシシラン類やその加水分解縮合物を使用することが好ましい。
【0047】
(E)成分である硬化触媒(触媒成分)のグアニジン骨格含有非ケイ素系有機化合物及び/又は有機ケイ素化合物はそれぞれ1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
上記の1分子内に少なくとも1個のグアニジン骨格を有する非ケイ素系有機化合物及び/又は有機ケイ素化合物は、(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して、0.1~5質量部、好ましくは0.2~4質量部、より好ましくは0.25~3質量部の範囲で使用されるものであり、配合量が少なすぎると組成物の硬化性が悪化する場合があり、配合量が多すぎると臭気や保存性が悪化する場合がある。
【0048】
[(F)成分]
(F)成分のオルガノジシラザン化合物は、必要に応じて組成物に配合される任意成分であって、本発明のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物に良好な保存安定性を与える保存性向上剤として作用するものである。(F)成分として使用される保存性向上成分は、下記一般式(4)で示されるオルガノジシラザン化合物である。
【化11】
(式中、R
7はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~3のアルキル基又はビニル基である。)
【0049】
上記式(4)中、R7は水素原子、炭素原子数1~3のアルキル基又はビニル基であり、その中でも水素原子、メチル基、エチル基が好ましく、より好ましくは水素原子又はメチル基である。また、R7はすべて同一であっても異種であってもよい。
【0050】
(F)成分の具体例としては、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシラザン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラエチルジシラザン、ヘプタメチルジシラザン、1,1,3,3-テトラエチルジシラザンなどが例示され、これらは1種類で使用してもよいし、2種類以上を同時に使用してもよい。
【0051】
保存性向上成分として(F)成分を配合する場合には、その配合量は、(A)成分100質量部に対して好ましくは0.5~10質量部であり、より好ましくは1~7質量部である。配合量が0.5質量部未満では保存性が悪化する懸念があり、配合量が10質量部を超えると組成物の硬化性が悪化する場合がある。
【0052】
[その他の成分]
また、本発明のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物には、上記成分以外に一般に知られている添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で使用しても差し支えない。添加剤としては、チクソ性向上剤としてのポリエーテル、可塑剤としてのシリコーンオイル(無官能性オルガノポリシロキサン)、イソパラフィン等が挙げられ、必要に応じて顔料、染料、蛍光増白剤等の着色剤、防かび剤、抗菌剤、海洋生物忌避剤等の生理活性添加剤、ブリードオイルとしてのフェニルシリコーンオイル、フロロシリコーンオイル、シリコーンと非相溶の有機液体等の表面改質剤、トルエン、キシレン、溶剤揮発油、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、低沸点イソパラフィン等の溶剤も添加できる。
また、硬化性や保存安定性を損なわない範囲で、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシランなどの汎用の脱アルコールタイプ硬化剤を併用できる。
【0053】
本発明のオイルシール用室温硬化性樹脂組成物は、上記各成分、更にはこれに上記各種添加剤の所定量を、乾燥雰囲気中において均一に混合することにより得ることができる。また、本発明のオイルシール用室温硬化性樹脂組成物は、室温で放置することにより硬化するが、その成形方法、硬化条件などは、組成物の種類に応じた公知の方法、条件を採用することができる。
【0054】
本発明のオイルシール用室温硬化性樹脂組成物、特に1成分型の組成物は、水分の非存在下、即ち湿気を遮断した密閉容器中で保存し、使用時に空気中の水分に曝すことによって室温(23℃±5℃)で容易に硬化する。
【0055】
本発明のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、金属系触媒を含有しないものであることが好ましく、また脱アルコール型であることが好ましい。このような本発明のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は金属触媒を使用せずとも良好な硬化性や保存安定性を示し、その硬化物(シリコーンゴム)は接着性にも優れる。また、本発明のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、(B)成分の無機質充填剤として、炭酸カルシウム、煙霧質シリカ、沈降性シリカ、カーボンブラック及び酸化アルミニウムから選ばれる1種又は2種以上の、表面処理されたもしくは無処理の無機質充填剤、特には、表面処理されたもしくは無処理の1種又は2種以上の炭酸カルシウムを、(A)成分100質量部に対して1質量部以上、好ましくは20質量部以上、より好ましくは50質量部以上、かつ500質量部以下、好ましくは300質量部以下であり、範囲として1~500質量部、好ましくは20~500質量部、より好ましくは20~300質量部、特に好ましくは50~300質量部の範囲で配合することにより、150℃で240時間エンジンオイルに浸漬させたときの硬化直後からのゴム物性の変化率がタイプAデュロメータ硬さについて±70%以内であり、引張強度について±50%以内であり、かつ切断時伸びについて±70%以内である硬化物を与えることができるものである。
そのため、本発明のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、オイルシール用として好適であり、また接着剤、シーリング材、コーティング剤、又はポッティング剤等としても有用である。本発明のオイルシール用室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物を接着剤、シーリング材、コーティング剤、又はポッティング剤として使用する方法は、従来公知の方法に従えばよい。
対象となる物品としては、例えば、自動車用部品、自動車用オイルシール、電気・電子用部品、電線・ケーブル、建築用構造物、土木工事用構造物等が挙げられる。特に、本発明品は、自動車用部品のための接着剤として好適に使用することができ、例えば、FIPG材料として有用である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。また、粘度はJIS Z 8803に規定する方法に準じた23℃における回転粘度計による測定値である。
【0057】
[実施例1]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基(ケイ素原子に結合した水酸基)で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(前記一般式(5)において、R8=水素原子、R9=メチル基、Z=酸素原子、b=2、c=約620に該当するジメチルポリシロキサン)100質量部に、(C)メトキシメチルトリメトキシシランを8質量部、及び触媒成分の(E)1,1,3,3-テトラメチル-2-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]グアニジン(表1においてグアニジン型オルガノシランと表記する)を1質量部加え、減圧下で混合した。次に(B)表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)80質量部、(B)表面が脂肪酸にて処理されたコロイダル炭酸カルシウム(製品名;カーレックス300、丸尾カルシウム(株)製)20質量部、及び(B)カーボンブラック(製品名;デンカブラックLi-100、デンカ(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(D)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-903、信越化学工業(株)製)を1質量部添加したのち、減圧下で完全に混合し、組成物1を得た。
【0058】
[実施例2]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(前記一般式(5)において、R8=水素原子、R9=メチル基、Z=酸素原子、b=2、c=約620に該当するジメチルポリシロキサン)100質量部に、(C)メトキシメチルトリメトキシシランを8質量部、及び触媒成分の(E)1,1,3,3-テトラメチル-2-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]グアニジンを1質量部加え、減圧下で混合した。次に(B)表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)80質量部、(B)表面が脂肪酸にて処理されたコロイダル炭酸カルシウム(製品名;カーレックス300、丸尾カルシウム(株)製)20質量部、及び(B)カーボンブラック(製品名;デンカブラックLi-100、デンカ(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(D)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-903、信越化学工業(株)製)を1質量部及び保存性向上成分の(F)ヘキサメチルジシラザンを2質量部添加したのち、減圧下で完全に混合し、組成物2を得た。
【0059】
[実施例3]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(前記一般式(5)において、R8=水素原子、R9=メチル基、Z=酸素原子、b=2、c=約620に該当するジメチルポリシロキサン)100質量部に、(C)メトキシメチルトリメトキシシランを5質量部、ビニルトリメトキシシラン3質量部及び触媒成分の(E)1,1,3,3-テトラメチル-2-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]グアニジンを1質量部加え、減圧下で混合した。次に(B)表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)80質量部、(B)表面が脂肪酸にて処理されたコロイダル炭酸カルシウム(製品名;カーレックス300、丸尾カルシウム(株)製)20質量部、及び(B)カーボンブラック(製品名;デンカブラックLi-100、デンカ(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(D)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-903、信越化学工業(株)製)を1質量部及び保存性向上成分の(F)ヘキサメチルジシラザンを2質量部添加したのち、減圧下で完全に混合し、組成物3を得た。
【0060】
[実施例4]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(前記一般式(5)において、R8=R9=メチル基、Z=酸素原子、b=0、c=約630に該当するジメチルポリシロキサン)100質量部に、(C)メトキシメチルトリメトキシシランを8質量部、及び触媒成分の(E)1,1,3,3-テトラメチル-2-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]グアニジンを1質量部加え、減圧下で混合した。次に(B)表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)80質量部、(B)表面が脂肪酸にて処理されたコロイダル炭酸カルシウム(製品名;カーレックス300、丸尾カルシウム(株)製)20質量部、及び(B)カーボンブラック(製品名;デンカブラックLi-100、デンカ(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(D)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-903、信越化学工業(株)製)を1質量部及び保存性向上成分の(F)ヘキサメチルジシラザンを2質量部添加したのち、減圧下で完全に混合し、組成物4を得た。
【0061】
[実施例5]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がトリメトキシシリルエチレン基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン(前記一般式(5)において、R8=R9=メチル基、Z=CH2CH2、b=0、c=約630に該当するジメチルポリシロキサン)100質量部に、(C)メトキシメチルトリメトキシシランを8質量部、及び触媒成分の(E)1,1,3,3-テトラメチル-2-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]グアニジンを1質量部加え、減圧下で混合した。次に(B)表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)80質量部、(B)表面が脂肪酸にて処理されたコロイダル炭酸カルシウム(製品名;カーレックス300、丸尾カルシウム(株)製)20質量部、及び(B)カーボンブラック(製品名;デンカブラックLi-100、デンカ(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(D)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-903、信越化学工業(株)製)を1質量部及び保存性向上成分の(F)ヘキサメチルジシラザンを2質量部添加したのち、減圧下で完全に混合し、組成物5を得た。
【0062】
[比較例1]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン100質量部に、ビニルトリメトキシシランを8質量部、及び触媒成分の(E)1,1,3,3-テトラメチル-2-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]グアニジンを1質量部加え、減圧下で混合した。次に(B)表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)80質量部、(B)表面が脂肪酸にて処理されたコロイダル炭酸カルシウム(製品名;カーレックス300、丸尾カルシウム(株)製)20質量部、及び(B)カーボンブラック(製品名;デンカブラックLi-100、デンカ(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(D)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-903、信越化学工業(株)製)を1質量部及び保存性向上成分の(F)ヘキサメチルジシラザンを2質量部添加したのち、減圧下で完全に混合し、組成物6を得た。
【0063】
[比較例2]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がシラノール基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン100質量部に、ビニルトリメトキシシランを8質量部、及び触媒成分の(E)1,1,3,3-テトラメチル-2-[3-(トリメトキシシリル)プロピル]グアニジンを1質量部加え、減圧下で混合した。次に(B)表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)80質量部、(B)表面が脂肪酸にて処理されたコロイダル炭酸カルシウム(製品名;カーレックス300、丸尾カルシウム(株)製)20質量部、及び(B)カーボンブラック(製品名;デンカブラックLi-100、デンカ(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(D)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-903、信越化学工業(株)製)を1質量部、ジオクチル錫ジラウレート0.5質量部及び保存性向上成分の(F)ヘキサメチルジシラザンを2質量部添加したのち、減圧下で完全に混合し、組成物7を得た。
【0064】
[比較例3]
(A)23℃における粘度が20,000mPa・sの分子鎖両末端がトリメトキシシリル基で封鎖された直鎖状ジメチルポリシロキサン100質量部に、(B)表面がパラフィン系で処理された重質炭酸カルシウム(製品名;MCコートP-20、丸尾カルシウム(株)製)80質量部、(B)表面が脂肪酸にて処理されたコロイダル炭酸カルシウム(製品名;カーレックス300、丸尾カルシウム(株)製)20質量部、及び(B)カーボンブラック(製品名;デンカブラックLi-100、デンカ(株)製)を10質量部加えて十分に混合した後、(D)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン(製品名;KBM-903、信越化学工業(株)製)を0.5質量部、チタンエチルアセトアセテート(製品名オルガチックスTC-750、マツモトファインケミカル製)4質量部を減圧下で完全に混合し、組成物8を得た。
【0065】
[試験方法]
(初期評価)
初期評価として上記調製直後の組成物を用いて以下のタックフリータイム、硬化速度、初期シール性、ゴム物性、接着性を評価した。
タックフリータイム
上記実施例、比較例で調製された組成物(室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物)を用いて、JIS K 6249に規定する方法に準じてタックフリータイム(指触乾燥時間)を測定した。
【0066】
硬化速度
硬化速度試験方法は、内径10mmのガラスシャーレに、上記実施例、比較例で調製された組成物を充填し、23℃、50%RHで1日(24時間)後に、空気に触れた部分から硬化した厚さを測定した。
【0067】
初期シール性
初期シール性(耐圧性)の試験方法は、試験装置としてJIS K 6820に規定されている耐圧試験用フランジ圧力容器に類似する圧力容器を用い、耐圧試験を行った。該圧力容器は、内径58mm、外径80mm、厚さ10mmの上側フランジを有する上側容器と、上側フランジと同寸法の下側フランジを有する下側容器からなり、下側フランジのシール面のインナー側縁部には、幅3mm、深さ3mmの環状の切り欠きが円周に沿って設けられている。この下側のフランジのシール面をトルエンにより洗浄した。その後、上記組成物をシール面が十分に満たされるだけの塗布量で、下側のシール面中央部にビード状に塗布した。塗布後直ちに、上側容器を、上側フランジと下側フランジのシール面とが当接するように、下側容器に載せ、上下フランジのシール面間の距離を規定するための(上記フランジの厚さ方向の)高さ20.50mmの鉄製スペーサーを設置して4本の締め付けボルトを組み付けた。当該スペーサーによりシール面間に0.5mmの間隔が生じているが、これはシール材に対する耐圧試験をより過酷にする、いわゆる促進試験とするためである。その後、23℃、50%RHで30分間硬化させた後、上側の加圧口から気体を挿入し、上記組成物の硬化物であるシール材が耐えうる気体圧を測定した。
【0068】
ゴム物性
上記実施例、比較例で調製された組成物を2mmの型枠に流し込み、23℃、50%RHで7日間養生して2mm厚さのゴムシートを得た。JIS K 6249に準じてゴム物性(タイプAデュロメータ硬さ、引張強度、切断時伸び)を測定した。
【0069】
接着性
上記実施例、比較例で調製された各組成物について、幅25mm、長さ100mmのアルミニウム板2枚の間で23℃、50%RHで7日間養生して硬化させ、上下それぞれのアルミニウム板との接着面積2.5cm2、接着厚さ1mmのシリコーンゴム硬化物層を形成して、せん断接着試験体を作製した。この各試験体を用いてアルミニウムに対するせん断接着力と凝集破壊率をJIS K 6249に規定する方法に準じて測定し、凝集破壊率を比較した。
【0070】
(促進試験)
また、上記各試験(タックフリータイム、硬化速度、初期シール性、ゴム物性、接着性)については、上記実施例、比較例で調製された組成物をポリエチレン容器に密封し、70℃の乾燥機で7日間促進劣化試験を行った場合も評価した。なお、物性測定試験については、初期・促進試験後ともに、タックフリータイム10分以下、硬化速度1.5mm/24時間以上、初期シール性100kPa以上、硬さ30以上、引張強度1.5MPa以上、切断時伸び200%以上、せん断接着強さ1.0MPa以上、凝集破壊率90%以上の物性を示したものを合格(○)とし、これらから外れるものを不合格(×)とした。
【0071】
(耐薬品性試験)
耐薬品性(耐エンジンオイル性)能を確認するため、得られた硬化後のシリコーンゴムシート及びせん断接着試験体をエンジンオイル[商品名:トヨタキャッスルオイル SN 0W-20]に浸漬し、150℃にて240時間劣化させて、その後製造初期と同様の試験(ゴム物性、接着性)を行うことで、耐薬品性の確認試験を行った。
以上の結果を1に示す。
なお、表1中のタイプAデュロメータ硬さ、引張強さ、切断時伸びの耐薬品試験後の欄における括弧内の数値は、初期(硬化直後)のゴム物性からの変化率(即ち、{(耐薬品試験後のゴム物性値)-(初期のゴム物性値)}/(初期のゴム物性値)×100(%)である)を示す。
【0072】
【0073】
上記の結果から、本発明の組成物が初期より良好な硬化性(タックフリータイム、硬化速度、初期シール性)、ゴム物性及び接着性を有し、促進試験後の物性も初期と同等であることから良好な保存性を有することが示された。その中でも、アルコキシメチル基を含有する硬化剤と保存性向上成分(ヘキサメチルジシラザン)を含有する実施例2、3、4、5は特に保存安定性に優れる結果となった。一方、硬化触媒としてグアニジン型オルガノシランを使用し、かつアルコキシメチル基を含有しない硬化剤を用いた比較例1、(C)、(C’)成分を含まず、かつ硬化触媒としてグアニジン型オルガノシランを使用せず、チタン触媒を使用した比較例3は硬化性が悪く、アルコキシメチル基を含有しない硬化剤を用い、硬化触媒としてグアニジン型オルガノシランと錫触媒を併用した比較例2は保存後の物性変化が著しい結果となった。また、チタン触媒を用いた比較例3ではその他と比較して耐薬品性に劣る結果となった。
【0074】
以上の結果から、本発明のオイルシール用脱アルコール型室温硬化性オルガノポリシロキサン組成物は、金属触媒を使用しないにも拘わらず、良好な物性・硬化性・接着性・保存性・耐薬品性(耐油性)を有していることが確認され、自動車用オイルシールとして好適に使用できることが分かった。