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特許7173488メタンハイドレート混合模擬地盤、メタンハイドレート掘削模擬実験装置、メタンハイドレート混合模擬地盤の製造方法、およびメタンハイドレート模擬地盤の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】メタンハイドレート混合模擬地盤、メタンハイドレート掘削模擬実験装置、メタンハイドレート混合模擬地盤の製造方法、およびメタンハイドレート模擬地盤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   E21C 50/00 20060101AFI20221109BHJP
   E21B 43/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
E21C50/00
E21B43/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018228369
(22)【出願日】2018-12-05
(65)【公開番号】P2020090842
(43)【公開日】2020-06-11
【審査請求日】2021-07-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.集会名 第15回地盤工学会関東支部発表会(公益社団法人地盤工学会関東支部主催) 2.開催日(公開日) 平成30年11月2日 3.開催場所 国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区代々木神園町3-1)
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】谷 和夫
(72)【発明者】
【氏名】森澤 友博
(72)【発明者】
【氏名】村上 龍太朗
(72)【発明者】
【氏名】大森 慎哉
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-082372(JP,A)
【文献】特開2003-239651(JP,A)
【文献】特開2005-200555(JP,A)
【文献】特開2003-313569(JP,A)
【文献】特開2006-206635(JP,A)
【文献】特開2011-144268(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0205004(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21C 50/00
E21B 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタンハイドレートを含む海底地盤を模擬するためのメタンハイドレート混合模擬地盤であって、
地盤材と、
前記地盤材に混合された模擬メタンハイドレートと、
を備え、
前記模擬メタンハイドレートは、大気圧、および模擬海水の凝固点よりも高い温度環境下において固体状態であり、比重が前記模擬海水よりも小さいTBABハイドレートからなり、前記TBABハイドレートと前記模擬海水との比重差がメタンハイドレートと海水との比重差以上であることを特徴とするメタンハイドレート混合模擬地盤。
【請求項2】
前記TBABハイドレートと前記模擬海水との比重差は、メタンハイドレートと海水との比重差に等しいことを特徴とする請求項1に記載のメタンハイドレート混合模擬地盤。
【請求項3】
請求項1に記載のメタンハイドレート混合模擬地盤が詰められた第1の容器と、
前記第1の容器の開口を覆うように設けられた回収膜と、
前記第1の容器が底面に固定され、前記第1の容器および前記回収膜を浸漬するように内部が前記模擬海水で満たされた第2の容器と、
ドリルビットと、先端に前記ドリルビットが設けられたシャフトと、前記シャフトを回転させる回転モータと、前記シャフトを鉛直方向に移動させるための載荷モータと、を有する掘削機構と、
を備えることを特徴とするメタンハイドレート掘削模擬実験装置。
【請求項4】
掘削時における回転トルクを計測するトルク計と、
掘削時における貫入荷重を計測するロードセルと、
をさらに備えることを特徴とする請求項に記載のメタンハイドレート掘削模擬実験装置。
【請求項5】
請求項1に記載のメタンハイドレート混合模擬地盤が詰められた第1の容器と、
前記第1の容器の開口を覆うように設けられた回収膜と、
前記第1の容器が底面に固定され、前記第1の容器および前記回収膜を浸漬するように内部が前記模擬海水で満たされた第2の容器と、
ドリルビットと、先端に前記ドリルビットが設けられたシャフトと、前記シャフトを回転させる回転モータと、を有する掘削機構と、
前記第2の容器を鉛直方向に移動させる昇降機構と、
を備えることを特徴とするメタンハイドレート掘削模擬実験装置。
【請求項6】
TBAB試薬を水に溶解させて、所定の質量パーセント濃度のTBAB水溶液を調製する工程と、
前記TBAB水溶液を氷点下まで冷却し固化させて、TBABハイドレートを生成する工程と、
前記TBABハイドレートを所定の形状に加工する工程と、
前記所定の形状に加工されたTBABハイドレートを地盤材に混合する工程と、
を備えることを特徴とするメタンハイドレート混合模擬地盤の製造方法。
【請求項7】
TBAB試薬を水に溶解させて、所定の質量パーセント濃度のTBAB水溶液を調製する工程と、
容器に地盤材を敷き詰める工程と、
前記敷き詰めた地盤材中に前記TBAB水溶液を導入する工程と、
前記容器を氷点下まで冷却して、前記地盤材中にTBABハイドレートを生成させる工程と、
を備えることを特徴とするメタンハイドレート混合模擬地盤の製造方法。
【請求項8】
前記質量パーセント濃度は、20%~45%であることを特徴とする請求項またはに記載のメタンハイドレート混合模擬地盤の製造方法。
【請求項9】
TBAB試薬を水に溶解させて、所定の質量パーセント濃度のTBAB水溶液を調製する工程と、
前記TBAB水溶液を氷点下まで冷却し固化させて、メタンハイドレート模擬地盤としてのTBABハイドレートを生成する工程と、
を備えることを特徴とするメタンハイドレート模擬地盤の製造方法。
【請求項10】
前記質量パーセント濃度は、20%~45%であることを特徴とする請求項に記載のメタンハイドレート模擬地盤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタンハイドレート混合模擬地盤、メタンハイドレート模擬地盤、メタンハイドレート掘削模擬実験装置、メタンハイドレート混合模擬地盤の製造方法、およびメタンハイドレート模擬地盤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水深が数百メートル以深の海底表層にメタンハイドレート(表層型メタンハイドレート)が賦存することが知られているが、メタンハイドレートの掘削技術は未だ確立されていない。特許文献1には、掘削により海底地盤から分離したメタンハイドレートを海水との比重差により浮上させ、膜構造体で捕集して回収する採掘方法が記載されている。
【0003】
なお、メタンハイドレートの力学特性については不明な部分もあるが、一軸圧縮強さが1~2MN/m程度であるとの報告がなされている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特願2018-26339
【非特許文献】
【0005】
【文献】Fujiura, K., Nakamoto, Y., Taguchi, Y., Ohmura, R. and Nagasaka, Y., Thermal conductivity measurements of semiclathrate hydrates and aqueous solutions of tetrabutylammonium bromide (TBAB) and tetrabutylammonium chloride (TBAC) by the transient hot-wire using parylene-coated probe, Fluid Phase Equilibria, Vol.413, pp.129-136, 2016.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記掘削方法の商業化を実現するには、実海域での実証実験が必要である。それに先立ち、ドリルビットの回転数や降下速度など各種の掘削パラメータ(掘削条件)を把握するために、メタンハイドレートを用いて実験室内で掘削実験を行うことが考えられる。しかしながら、実海域からメタンハイドレートのサンプルを採取することや、メタンハイドレートの安定環境(低温・高圧)で実験を行うことは困難であり、高額な費用を要する。メタンを用いてメタンハイドレートを人工的に作製して実験に供することも考えられるが、メタンは可燃性ガスであることから、実験の安全性に問題を生じる。
【0007】
また、メタンハイドレートの大気圧下での安定領域は氷点下数十度以下であるため、実験を行うことが容易ではない。仮に温度環境を実現したとしても、海水が凍結してしまい、メタンハイドレートの浮上特性を確認することができない。つまり、メタンハイドレートが安定に存在する低温環境下では海水が凍結するため、掘削実験を行うことができない。一方、海水が凍結しない温度環境下ではメタンハイドレートが分解してしまい、掘削パラメータを正確に把握することができない。
【0008】
本発明は、上記の技術的認識に基づいてなされたものであり、メタンハイドレートの水中掘削、浮上および回収に係る模擬実験を実験室で容易に行うことを可能とするメタンハイドレート混合模擬地盤、メタンハイドレート模擬地盤、メタンハイドレート掘削模擬実験装置、メタンハイドレート混合模擬地盤の製造方法、およびメタンハイドレート模擬地盤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るメタンハイドレート混合模擬地盤は、
メタンハイドレートを含む海底地盤を模擬するためのメタンハイドレート混合模擬地盤であって、
地盤材と、
前記地盤材に混合された模擬メタンハイドレートと、
を備え、
前記模擬メタンハイドレートは、大気圧、および模擬海水の凝固点よりも高い温度環境下において固体状態であり、比重が前記模擬海水よりも小さいTBABハイドレートからなり、前記TBABハイドレートと前記模擬海水との比重差がメタンハイドレートと海水との比重差以上であることを特徴とする。
【0010】
また、前記メタンハイドレート混合模擬地盤において、
前記TBABハイドレートと前記模擬海水との比重差は、メタンハイドレートと海水との比重差に等しいようにしてもよい。
【0011】
本発明に係るメタンハイドレート模擬地盤は、
メタンハイドレートからなる海底地盤を模擬するためのメタンハイドレート模擬地盤であって、
大気圧、および模擬海水の凝固点よりも高い温度環境下において固体状態であり、比重が前記模擬海水よりも小さいTBABハイドレートからなり、前記TBABハイドレートと前記模擬海水との比重差がメタンハイドレートと海水との比重差以上であることを特徴とする。
【0012】
また、前記メタンハイドレート模擬地盤において、
前記TBABハイドレートと前記模擬海水との比重差は、メタンハイドレートと海水との比重差に等しいようにしてもよい。
【0013】
本発明に係るメタンハイドレート掘削模擬実験装置は、
前記メタンハイドレート混合模擬地盤または前記メタンハイドレート模擬地盤が詰められた第1の容器と、
前記第1の容器の開口を覆うように設けられた回収膜と、
前記第1の容器が底面に固定され、前記第1の容器および前記回収膜を浸漬するように内部が前記模擬海水で満たされた第2の容器と、
ドリルビットと、先端に前記ドリルビットが設けられたシャフトと、前記シャフトを回転させる回転モータと、前記シャフトを鉛直方向に移動させるための載荷モータと、を有する掘削機構と、
を備えることを特徴とする。
【0014】
また、前記メタンハイドレート掘削模擬実験装置において、
掘削時における回転トルクを計測するトルク計と、
掘削時における貫入荷重を計測するロードセルと、
をさらに備えてもよい。
【0015】
本発明に係るメタンハイドレート掘削模擬実験装置は、
前記メタンハイドレート混合模擬地盤または前記メタンハイドレート模擬地盤が詰められた第1の容器と、
前記第1の容器の開口を覆うように設けられた回収膜と、
前記第1の容器が底面に固定され、前記第1の容器および前記回収膜を浸漬するように内部が前記模擬海水で満たされた第2の容器と、
ドリルビットと、先端に前記ドリルビットが設けられたシャフトと、前記シャフトを回転させる回転モータと、を有する掘削機構と、
前記第2の容器を鉛直方向に移動させる昇降機構と、
を備えることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るメタンハイドレート混合模擬地盤の製造方法は、
TBAB試薬を水に溶解させて、所定の質量パーセント濃度のTBAB水溶液を調製する工程と、
前記TBAB水溶液を氷点下まで冷却し固化させて、TBABハイドレートを生成する工程と、
前記TBABハイドレートを所定の形状に加工する工程と、
前記所定の形状に加工されたTBABハイドレートを地盤材に混合する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るメタンハイドレート混合模擬地盤の製造方法は、
TBAB試薬を水に溶解させて、所定の質量パーセント濃度のTBAB水溶液を調製する工程と、
容器に地盤材を敷き詰める工程と、
前記敷き詰めた地盤材中に前記TBAB水溶液を導入する工程と、
前記容器を氷点下まで冷却して、前記地盤材中にTBABハイドレートを生成させる工程と、
を備えることを特徴とする。
【0018】
また、前記メタンハイドレート混合模擬地盤の製造方法において、
前記質量パーセント濃度は、20%~45%であるようにしてもよい。
【0019】
本発明に係るメタンハイドレート模擬地盤の製造方法は、
TBAB試薬を水に溶解させて、所定の質量パーセント濃度のTBAB水溶液を調製する工程と、
前記TBAB水溶液を氷点下まで冷却し固化させて、TBABハイドレートを生成する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0020】
また、前記メタンハイドレート模擬地盤の製造方法において、
前記質量パーセント濃度は、20%~45%であるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、メタンハイドレートの水中掘削、浮上および回収に係る模擬実験を実験室で容易に行うことを可能とするメタンハイドレート混合模擬地盤、メタンハイドレート模擬地盤、メタンハイドレート掘削模擬実験装置、メタンハイドレート混合模擬地盤の製造方法、およびメタンハイドレート模擬地盤の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】実施形態に係るメタンハイドレート混合模擬地盤の断面図である。
図2A】実施形態に係るメタンハイドレート混合模擬地盤の製造方法の一例を説明するためのフローチャートである。
図2B】実施形態に係るメタンハイドレート混合模擬地盤の製造方法の別の例を説明するためのフローチャートである。
図3】TBABハイドレートの平衡温度と圧力との関係の試験結果を示すグラフである。
図4】TBABハイドレートの質量パーセント濃度と密度との関係の試験結果を示すグラフである。
図5】TBABハイドレートの質量パーセント濃度と一軸圧縮強さとの関係の試験結果を示すグラフである。
図6】TBABハイドレートの質量パーセント濃度と破壊ひずみとの関係の試験結果を示すグラフである。
図7】TBABハイドレートの質量パーセント濃度と接線ヤング率との関係の試験結果を示すグラフである。
図8】実施形態に係るメタンハイドレート模擬地盤の断面図である。
図9】第1の実施形態に係るメタンハイドレート掘削模擬実験装置の一部断面図である。
図10】第2の実施形態に係るメタンハイドレート掘削模擬実験装置の一部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0024】
<メタンハイドレート混合模擬地盤>
まず、図1を参照して、実施形態に係るメタンハイドレート混合模擬地盤について説明する。図1は、供試体用容器110に詰められた、本実施形態に係るメタンハイドレート混合模擬地盤10の断面図を示している。
【0025】
本実施形態に係るメタンハイドレート混合模擬地盤10は、メタンハイドレートを含む海底地盤を模擬するためのメタンハイドレート混合模擬地盤である。
【0026】
メタンハイドレート混合模擬地盤10は、図1に示すように、地盤材11と、地盤材11に混合された模擬メタンハイドレート12とを備えている。
【0027】
地盤材11は、例えば粘性土で構成されている。地盤材11は、粘性土に限られず、砂質土であってもよいし、あるいは、少なくとも一部が土砂、砂、セメント等で構成されてもよい。このように地盤材11は所要の強度、粘性等の特性を確保するように調製されている。
【0028】
模擬メタンハイドレート12は、TBABハイドレート(臭化テトラブチルアンモニウム・ハイドレート)を所定の形状に加工したものであり、地盤材11に混合されている。本実施形態では、所定の大きさに加工された粒状のTBABハイドレートが模擬メタンハイドレート12として地盤材11に混合されている。本実施形態では、複数の模擬メタンハイドレート12が地盤材11中に均一に散在している。
【0029】
なお、大きさの異なる粒状のTBABハイドレートが模擬メタンハイドレート12として地盤材11に散在されてもよい。また、TBABハイドレートの形状は粒状以外の形状(例えば板状等)であってもよい。また、複数の形状(例えば粒状と板状)のTBABハイドレートが模擬メタンハイドレート12として地盤材11に混在していてもよい。
【0030】
また、地盤材11と模擬メタンハイドレート12の混合態様は、図1に示すような粒状の模擬メタンハイドレート12が地盤材11内に散在している態様に限られない。例えば、板状の模擬メタンハイドレート12と地盤材11が交互に積み重ねられていてもよい。
【0031】
ここで、TBABハイドレートからなる模擬メタンハイドレート12について、さらに詳しく説明する。
【0032】
模擬メタンハイドレート12は、大気圧、および模擬海水の凝固点よりも高い温度環境下において固体状態であり、比重が模擬海水よりも小さいTBABハイドレートからなる。そして、TBABハイドレートと模擬海水との比重差(密度差)は、メタンハイドレートと海水との比重差以上である。
【0033】
なお、好ましくは、TBABハイドレートと模擬海水との比重差は、メタンハイドレートと海水との比重差(約0.1)にほぼ等しい。これにより、模擬メタンハイドレートであるTBABハイドレートの浮上特性を実際のメタンハイドレートの浮上特性により近づけることができる。
【0034】
模擬メタンハイドレート12を構成するTBABハイドレートは、模擬海水の凝固点よりも高い温度、例えば冷蔵温度(10℃以下)の温度で固体状態である。後述のように、TBAB水溶液の質量パーセント濃度を調整することで、TBABハイドレートの平衡温度を変えることが可能である。
【0035】
模擬海水は、水の比重を上げるための加重剤(塩化ナトリウム、Naミョウバン、ショ糖等)を溶解させたものである。模擬海水は無色、透明であることが好ましい。メタンハイドレート混合模擬地盤10から分離し、模擬海水中を浮上するTBABハイドレートを観察し易くするためである。また、浮上する際のTBABハイドレートの挙動に影響を与えないようにするため、模擬海水は低粘度であることが好ましい。加重剤の条件として好ましくは、水溶性、無害、透明、粘性に影響を与えない、溶解度が低温でも高い(析出しない)、安価、比重が1.1以上の水溶液を作製可能である等の点が挙げられる。
【0036】
<メタンハイドレート混合模擬地盤の製造方法>
次に、図2Aのフローチャートを参照して、メタンハイドレート混合模擬地盤10の製造方法の一例について説明する。
【0037】
まず、TBAB試薬を水に溶解させて、所定の質量パーセント濃度のTBAB水溶液を調製する(ステップS11)。より詳しくは、常温および大気圧下で、顆粒状のTBAB試薬を容器の水に混合撹拌して、TBAB試薬を水に完全に溶解させる。容器としては、例えばプラスチック製の型枠(プラスチックモールド)を用いる。また、水としては、例えば精製水を用いる。なお、後述のTBABハイドレートの平衡温度および力学特性を考慮すると、ステップS11において作製するTBAB水溶液の質量パーセント濃度は、20%~45%であることが好ましい。
【0038】
TBAB水溶液を調製した後、TBAB水溶液を氷点下まで冷却し固化させて、TBABハイドレートを生成する(ステップS12)。本冷却工程では、冷却装置を用いて、例えば-20℃の温度でTBAB水溶液を冷却する。冷却温度は、-30℃以上0℃以下とすることが好ましい。このように氷点下の温度でTBAB水溶液を冷却することで、冷蔵温度で冷却する場合に比べてより短期間でTBABハイドレートを生成することができる。なお、ステップS12の後、生成されたTBABハイドレートは二次冷却で用いる冷却装置内で保存してもよいし、あるいは冷蔵温度(例えば5℃)環境下で保存してもよい。
【0039】
ところで、常温から氷点下の温度まで急激にTBAB水溶液を冷却する場合、TBABハイドレートに過剰な膨張圧が発生し、プラスチックモールド(収納容器)が破裂するおそれがある。これを防止するため、ステップS12の冷却工程は、一次冷却と二次冷却を含むようにしてもよい。一次冷却では、TBAB水溶液を冷蔵温度(例えば4~5℃)まで冷却し、所定の時間(例えば24時間程度)温度を維持する。その後、二次冷却では、TBAB水溶液を0℃よりも低い温度(例えば-20℃)まで冷却し、TBABハイドレートが生成するまで温度を維持する。このように二段階で冷却することで、TBABハイドレートの膨張圧によりプラスチックモールドが破裂することを防止できる。
【0040】
ステップS12でTBABハイドレートを生成した後、TBABハイドレートを所定の形状に加工する(ステップS13)。例えば、TBABハイドレートを粒状または板状に加工する。
【0041】
ステップS13で所定の形状に加工されたTBABハイドレートを地盤材11に混合する(ステップS14)。その後、地盤材11とTBABハイドレートの混合物を容器(例えば後述の供試体用容器110)に詰める(ステップS15)。ステップS13~S15は、TBABハイドレートが分解しないよう平衡温度よりも低い温度環境下で行われる。
【0042】
次に、図2Bのフローチャートを参照して、メタンハイドレート混合模擬地盤10の製造方法に係る別の例について説明する。
【0043】
まず、TBAB試薬を水に溶解させて、所定の質量パーセント濃度のTBAB水溶液を調製する(ステップS21)。本ステップは、前述のステップS11と同じである。
【0044】
容器(例えば後述の供試体用容器110)に地盤材を敷き詰める(ステップS22)。本ステップは、ステップS21より前に行ってもよい。
【0045】
その後、敷き詰めた地盤材中に、ステップS21で調整されたTBAB水溶液を導入する(ステップS23)。TBAB水溶液の導入は、容器にTBAB水溶液を注いで地盤材を水浸させることにより、地盤材の間隙からTBAB水溶液を浸入させることで行ってもよいし、あるいは、注入器などを用いて地盤材中にTBAB水溶液を注入することで行ってもよい。
【0046】
その後、容器を氷点下まで冷却して、地盤材中にTBABハイドレートを生成させる(ステップS24)。なお、ステップS24において、冷却温度は-30℃以上0℃以下とすることが好ましい。
【0047】
上述した図2Aおよび図2Bに示す方法によってメタンハイドレート混合模擬地盤が製造される。製造されたメタンハイドレート混合模擬地盤は、容器全体が模擬海水の平衡温度以上かつTBABハイドレートの平衡温度未満となる実験環境温度下で使用される。
【0048】
<TBABハイドレートの平衡温度>
次に、TBABハイドレートの平衡温度について図3を参照して説明する。図3は、TBABハイドレートの平衡温度と圧力との関係の試験結果を示すグラフである。グラフ中、三角形のプロットは質量パーセント濃度CTBABが10%のTBAB水溶液から生成されたTBABハイドレートの測定結果を示している。同様に、四角形のプロット、丸形のプロットおよび菱形のプロットは、それぞれ質量パーセント濃度CTBABが20%、30%および40%のTBAB水溶液から生成されたTBABハイドレートについての測定結果を示している。また、白抜きのマークはAタイプのハイドレートを示し、黒色のマークはBタイプのハイドレートを示し、斜線入りのマークはタイプが不明のものを示している。
【0049】
図3の測定結果によると、TBABハイドレートの圧力が大気圧(約0.1MPa)に達する平衡温度は、質量パーセント濃度が上がるにつれて上昇する。すなわち、質量パーセント濃度が10%の場合で約7℃、質量パーセント濃度が20%の場合で約9℃、質量パーセント濃度が30%の場合で約10℃、質量パーセント濃度が40%の場合で約12℃である。したがって、質量パーセント濃度が少なくとも10%以上のTBAB水溶液を用いることで、模擬海水が凝固しない温度で固体状態を保つTBABハイドレートを生成することができる。
【0050】
上記のようにTBAB水溶液の質量パーセント濃度を変化させることで、TBABハイドレートの平衡温度を制御することができる。
【0051】
<TBABハイドレートの密度>
次に、TBABハイドレートの密度(比重)について、図4を参照して説明する。図4は、TBABハイドレートの質量パーセント濃度と密度との関係の試験結果を示している。この測定結果から分かるように、TBABハイドレートの密度は、TBAB水溶液の質量パーセント濃度が高くなるにつれて、ほぼ直線的に上昇する。また、TBABハイドレートの密度は、メタンハイドレートの密度(約0.9g/cm)よりも高く、高濃度の場合は海水の密度(約1.02~1.03g/cm)よりも高い。したがって、海水中のメタンハイドレートの浮上特性を模擬するためには、TBABハイドレートよりも密度の高い模擬海水を用いることが必要である。
【0052】
図4では、模擬海水として使用可能な塩化ナトリウム水溶液およびNaミョウバン水溶液の密度がプロットされている。いずれの密度も5℃環境で測定された値である。塩化ナトリウム水溶液は質量パーセント濃度が22%,23%,24%の3種類のサンプルについて密度を測定した。Naミョウバン水溶液は質量パーセント濃度が42.8%のサンプルについて密度を測定した。図4に示すように、いずれのサンプルについてもTBABハイドレートとの密度差が0.1g/cm以上であった。
【0053】
<TBABハイドレートの力学特性>
次に、TBABハイドレートの力学特性について説明する。模擬メタンハイドレート12として用いるTBABハイドレートの力学特性は、メタンハイドレートの強度特性にできるだけ近いことが好ましい。図5図7を参照して、TBABハイドレートの力学特性の評価試験結果について説明する。各評価試験は、大気圧、5℃環境下で、JGS 2521-2009に規定された一軸圧縮試験方法に準じて行われた。軸ひずみ速度は、標準の毎分0.1%とした。図5図7の冷却期間tは、約-20℃の二次冷却期間である。
【0054】
図5は、TBABハイドレートの質量パーセント濃度と一軸圧縮強さとの関係の試験結果を示すグラフである。この試験結果によれば、一軸圧縮強さqは約0.3~3.5MN/mであった。メタンハイドレートの一軸圧縮強さは1~2MN/m程度であることから(非特許文献1)、TBABハイドレートの一軸圧縮強さの範囲はメタンハイドレートの一軸圧縮強さの範囲を含んでいると考えられる。また、図5から分かるように、TBAB水溶液の質量パーセント濃度が高くなるにつれて、一軸圧縮強さqは高くなる傾向を示す。
【0055】
図6は、TBABハイドレートの質量パーセント濃度と破壊ひずみとの関係の試験結果を示すグラフである。この試験結果によれば、破壊ひずみεafは約0.1~3%であった。また、図6から分かるように、TBAB水溶液の質量パーセント濃度が高くなるにつれて、破壊ひずみεafは低くなる傾向を示す。
【0056】
図7は、TBABハイドレートの質量パーセント濃度と接線ヤング率との関係の試験結果を示すグラフである。この試験結果によれば、q/q=0.5のときの接線ヤング率Et,50は約10~600kN/mであった。また、図7から分かるように、TBAB水溶液の質量パーセント濃度が高くなるにつれて、接線ヤング率Et,50は低くなる傾向を示す。
【0057】
図5図7の試験結果から、TBABハイドレートの力学特性は、冷却期間tの影響はほとんど受けず、一方、TBAB水溶液の質量パーセント濃度の影響を受けることが分かった。したがって、TBAB水溶液の質量パーセント濃度を変化させることで、TBABハイドレートの力学特性をある程度制御できる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係るメタンハイドレート混合模擬地盤10では、模擬メタンハイドレート12は、地盤材11に混合されており、大気圧、および模擬海水の凝固点よりも高い温度環境下において固体状態であり、比重が前記模擬海水よりも小さいTBABハイドレートからなる。また、TBABハイドレートと模擬海水との比重差がメタンハイドレートと海水との比重差以上である。これにより、メタンハイドレートを含む海底地盤の水中掘削、メタンハイドレートの浮上および回収に係る模擬実験を実験室で容易に行うことを可能とするメタンハイドレート混合模擬地盤を提供することができる。
【0059】
<メタンハイドレート模擬地盤>
次に、図8を参照して、メタンハイドレートからなる海底地盤を模擬するためのメタンハイドレート模擬地盤20について説明する。
【0060】
図8に示すように、メタンハイドレート模擬地盤20は、所定の容器(供試体用容器110)内に詰められている。メタンハイドレート模擬地盤20は、TBABハイドレートからなる。
【0061】
メタンハイドレート模擬地盤20を構成するTBABハイドレートは、模擬メタンハイドレート12を構成するTBABハイドレートと同様の特性を有する。すなわち、メタンハイドレート模擬地盤20は、大気圧、および模擬海水の凝固点よりも高い温度環境下において固体状態であり、比重が模擬海水よりも小さいTBABハイドレートからなる。そして、TBABハイドレートと模擬海水との比重差は、メタンハイドレートと海水との比重差以上である。
【0062】
なお、好ましくは、TBABハイドレートと模擬海水との比重差は、メタンハイドレートと海水との比重差(約0.1)にほぼ等しい。これにより、模擬メタンハイドレートであるTBABハイドレートの浮上特性を実際のメタンハイドレートの浮上特性により近づけることができる。
【0063】
本実施形態によれば、メタンハイドレートからなる海底地盤の水中掘削、メタンハイドレートの浮上および回収に係る模擬実験を実験室で容易に行うことを可能とするメタンハイドレート模擬地盤を提供することができる。
【0064】
<メタンハイドレート模擬地盤の製造方法>
ここで、メタンハイドレート模擬地盤20の製造方法について説明する。メタンハイドレート模擬地盤20は、メタンハイドレート混合模擬地盤10の製造方法のステップS11およびステップS12を実施することにより製造される。ステップS11では、水を入れた容器として、例えばプラスチックモールドが用いられる。TBABハイドレートの平衡温度および力学特性を考慮すると、ステップS11において、TBAB水溶液の質量パーセント濃度は、20%~45%であることが好ましい。
【0065】
なお、メタンハイドレート混合模擬地盤10の場合と同様に、ステップS12で生成されたTBABハイドレートは、二次冷却で用いる冷却装置内で保存してもよいし、あるいは冷蔵温度(例えば5℃)環境下で保存してもよい。
【0066】
<メタンハイドレート掘削模擬実験装置>
次に、上述したメタンハイドレート混合模擬地盤10、メタンハイドレート模擬地盤20(以下、まとめて「模擬地盤」ともいう。)を用いてメタンハイドレートの掘削模擬実験を行うための装置に係る2つの実施形態について説明する。
【0067】
(第1の実施形態)
まず、図9を参照して、第1の実施形態に係るメタンハイドレート掘削模擬実験装置100について説明する。
【0068】
メタンハイドレート掘削模擬実験装置100は、図9に示すように、供試体用容器110(第1の容器)と、回収膜120と、回収チューブ125と、模擬海水用容器130(第2の容器)と、掘削機構140と、筐体150と、を備えている。以下、各構成要素について詳しく説明する。
【0069】
供試体用容器110は、供試体(模擬地盤)を入れるための容器であり、例えば円筒形の容器である。供試体用容器110は、回転するドリルビット141が模擬地盤に接触した際にドリルビット141と一緒に回転しないように模擬海水用容器130の底面に固定されている。なお、図9では、メタンハイドレート混合模擬地盤10が供試体用容器110内に詰められているが、これに代えてメタンハイドレート模擬地盤20が供試体用容器110内に詰められていてもよい。
【0070】
回収膜120は、図9に示すように、供試体用容器110の開口を覆うように設けられている。この回収膜120は、傘状の形状を有しており、頂部には回収チューブ125が設けられている。回収膜120には、シャフト142が挿通するための貫通孔が設けられている。
【0071】
模擬地盤の掘削時に模擬海水中に浮上するTBABハイドレート塊は、回収膜120により捕集され、回収チューブ125を通って回収される。
【0072】
回収膜120の材料は特に限定されないが、十分な強度を有するとともに、掘削された模擬地盤から模擬海水中に浮上したTBABハイドレートが回収膜120に付着しないように滑りの良い材料から構成されることが好ましい。回収チューブ125についても、丈夫で滑りの良い材料から構成されることが好ましい。なお、回収膜120の下面、回収チューブ125の内周面に滑り性を良くするための加工を施してもよい。
【0073】
模擬海水用容器130は、供試体用容器110と回収膜120を収容するための容器である。模擬地盤から分離し、模擬海水30中を浮上するTBABハイドレートを観察し易くするため、模擬海水用容器130は無色、透明であることが好ましい。例えば、模擬海水用容器130はアクリル樹脂、ポリカーボネート等の透明な合成樹脂からなる。
【0074】
模擬海水用容器130の底面には、供試体用容器110が固定されている。模擬海水用容器130は、供試体用容器110および回収膜120を浸漬するように内部が模擬海水30で満たされている。模擬海水30は、既述のように、塩化ナトリウム等の加重剤を水に溶解させたものである。なお、模擬海水用容器130は、加水試験を行う場合に溢れた泥水等の受け皿となるように構成されてもよい。
【0075】
掘削機構140は、供試体用容器110内の模擬地盤を掘削するように構成されている。この掘削機構140は、ドリルビット141と、シャフト142と、回転モータ143と、載荷モータ144と、トルク計145と、ロードセル146と、支持棒147と、載荷板148と、固定板149とを有する。
【0076】
ドリルビット141は、模擬地盤を掘削する所定形状の刃であり、シャフト142の先端に設けられている。このドリルビット141は、好ましくは、ネジ接続等により、シャフト142に着脱可能に設けられている。
【0077】
シャフト142は、先端にドリルビット141が設けられ、基端に回転モータ143が設けられている。なお、シャフト142は、回転モータ143に直接接続されてもよいし、変速機構などを介して回転モータ143に機械的に接続されてもよい。
【0078】
回転モータ143は、シャフト142の基端に機械的に接続され、シャフト142を回転させるモータである。この回転モータ143は、回転数を変えられるように構成されている。
【0079】
載荷モータ144は、ドリルビット141およびシャフト142を鉛直方向に移動させるためのモータである。載荷モータ144は、例えばステッピングモータを用いて構成される。
【0080】
載荷モータ144はシャフト142(ドリルビット141)の降下速度を変えられるように構成されている。より詳しくは、載荷モータ144は、固定板149上に配設されている。この載荷モータ144は、支持棒147および載荷板148を介して回転モータ143を鉛直方向に移動させることで、ドリルビット141およびシャフト142を鉛直方向に移動させる。
【0081】
トルク計145は、シャフト142に設けられており、模擬地盤の掘削時における回転トルクを計測可能に構成されている。
【0082】
ロードセル146は、支持棒147と載荷板148との間に介装されており、模擬地盤の掘削時における貫入荷重を計測可能に構成されている。本実施形態では、ロードセル146は、四角形状の載荷板148の四隅にそれぞれ設けられている。
【0083】
支持棒147は、載荷板148を介してドリルビット141、シャフト142および回転モータ143を支持し、載荷モータ144により鉛直方向に移動制御される。本実施形態では、載荷板148の四隅にそれぞれ支持棒147が設けられている。
【0084】
載荷板148は、四角形の板状の部材であり、ロードセル146を介して支持棒147に接続、支持されている。図9に示すように、載荷板148はモータ固定部148aを有しており、回転モータ143はモータ固定部148aに固定されている。これにより、載荷板148と回転モータ143が連動する。
【0085】
載荷板148には貫通孔が設けられており、この貫通孔にシャフト142が回転可能に遊挿されている。
【0086】
固定板149は、板状の部材であり、筐体150の上部153に着脱可能に構成されている。この固定板149には鉛直方向に複数の貫通孔が設けられ、各貫通孔に支持棒147が鉛直方向に移動可能に遊挿されている。
【0087】
筐体150は、台部151と、側部152と、上部153とを有している。本実施形態では、台部151は四角形の板状部材からなる。台部151の上に模擬海水用容器130が固定されている。なお、台部151の下面にキャスター(図示せず)が設けられてもよい。
【0088】
側部152は台部151に下端が固定され、鉛直方向に延在する。本実施形態では、側部152は棒状の部材からなり、台部151の四隅に立設されている。
【0089】
上部153は、側部152の上端に固定されている。本実施形態では、上部153は、四角形の枠状部材からなる。上部153には掘削機構140の固定板149が着脱可能に固定されている。例えば、上部153と固定板149はネジにより固定されている。
【0090】
次に、本実施形態に係るメタンハイドレート掘削模擬実験装置100による模擬地盤の実験方法の一例について説明する。
【0091】
まず、模擬海水用容器130、掘削機構140および筐体150を冷温実験室に搬入する。冷温実験室の温度は、模擬海水30の凝固点よりも高く、TBABハイドレートの平衡温度よりも低い温度(例えば5℃)に維持されている。搬入後、模擬海水用容器130を台部151上に載置または固定し、模擬海水用容器130内を模擬海水30で満たす。その後、冷却装置から取り出した供試体用容器110を冷温実験室に搬入し、供試体用容器110を回収膜120とともに、模擬海水30中に沈める。その後、固定板149が上部153に固定され、ドリルビット141が模擬地盤の上方に位置するように、掘削機構140を筐体150にセットする。これにより、模擬実験の準備が整う。
【0092】
模擬実験では、回転モータ143でドリルビット141を回転させ、載荷モータ144でシャフト142を降下させていき、模擬海水中の模擬地盤をドリルビット141で掘削する。掘削により模擬地盤からTBABハイドレート塊が分離され、模擬海水との比重差により浮上する。そして、模擬海水中を浮上したTBABハイドレート塊は、回収膜120と回収チューブ125により捕集され回収される。なお、模擬地盤がメタンハイドレート混合模擬地盤10の場合、粘性土等の地盤材11は掘削に伴い一時的に拡散するが、その後、模擬海水との比重差により沈降堆積する。
【0093】
実験温度環境下において、模擬メタンハイドレートとして用いられるTBABハイドレートの平衡温度は模擬海水よりも高いためほとんど分解せず、また、模擬海水は凍結しない。これにより、海底地盤の掘削によるメタンハイドレートの分離、浮上および回収に関する模擬実験を容易に行うことができる。
【0094】
上記の模擬実験により、実際に海底地盤からメタンハイドレートを採取することなく、大気圧、模擬海水が凍結しない温度環境下でメタンハイドレートの掘削模擬実験を行うことができる。また、TBABハイドレートは不燃性であり、肌への刺激が少ないことから、可燃性のメタンハイドレートに比べて、安全に実験を行うことができる。
【0095】
さらに、模擬地盤から分離され、模擬海水中を浮上するTBABハイドレート塊(模擬メタンハイドレート塊)の挙動や回収状況を観察することができる。また、回収されたTBABハイドレートの分量から回収効率を検証することができる。
【0096】
さらに、掘削に係る各種パラメータ(掘削パラメータ)を計測し、検証することができる。例えば、回転モータ143の回転数を変えることで、効率良く模擬地盤を掘削するのに適切な回転数を調査し抽出することができる。また、載荷モータ144によるドリルビット141の降下速度を変えることで、効率良く模擬地盤を掘削するのに適切な貫入速度を調査し抽出することができる。また、トルク計145による回転トルクの計測結果から、掘削に必要なトルクを調査し抽出することができる。また、ロードセル146による貫入荷重の計測結果から、掘削に必要な貫入荷重を調査し抽出することができる。また、ドリルビット141は交換可能であるため、種々の刃形状のドリルビットによる掘削効率を確認することで、効率良く模擬地盤を掘削するのに適した刃形状を調査し抽出することができる。
【0097】
上記のように、メタンハイドレート掘削模擬実験装置100によれば、模擬地盤の掘削時における模擬メタンハイドレート塊(TBABハイドレート塊)の挙動や回収状況を詳細に観察できるとともに、回収効率を検証したり、望ましい掘削パラメータを抽出することができる。
【0098】
(第2の実施形態)
次に、図10を参照して、第2の実施形態に係るメタンハイドレート掘削模擬実験装置100Aについて説明する。第1の実施形態と第2の実施形態との相違点の一つは、掘削機構の構成である。第1の実施形態では載荷モータ144によりドリルビット141およびシャフト142を鉛直方向に移動させて模擬地盤を掘削するのに対し、第2の実施形態では模擬海水用容器130をドリルビット141に近づけることで模擬地盤を掘削する。以下、相違点を中心に第2の実施形態に係るメタンハイドレート掘削模擬実験装置について説明する。
【0099】
メタンハイドレート掘削模擬実験装置100Aは、図10に示すように、供試体用容器110と、回収膜120と、回収チューブ125と、模擬海水用容器130と、掘削機構140Aと、筐体150Aと、昇降機構160とを備えている。供試体用容器110、回収膜120、回収チューブ125および模擬海水用容器130については第1の実施形態と同様であるため、詳しい説明は省略する。
【0100】
掘削機構140Aは、ドリルビット141、シャフト142、回転モータ143Aおよびトルク計145を有している。シャフト142は、上部153に設けられた貫通孔に回転可能に遊挿されている。ドリルビット141およびトルク計145については第1の実施形態と同様である。
【0101】
回転モータ143Aは、図10に示すように、シャフト142を回転させるモータであり、筐体150Aの上部153に着脱可能に固定されている。回転モータ143Aは、回転数を変えられるように構成されている。
【0102】
筐体150Aは、台部151Aと、側部152Aと、上部153Aとを有している。本実施形態では、台部151Aは四角形の板状部材からなる。台部151Aの上に昇降機構160が設けられ、昇降機構160の上に模擬海水用容器130が載置されている。なお、台部151の下面にキャスター(図示せず)が設けられてもよい。
【0103】
側部152Aは台部151Aに下端が固定され、鉛直方向に延在する。本実施形態では、側部152Aは棒状の部材からなり、台部151Aの四隅に立設されている。
【0104】
上部153Aは、側部152Aの上端に固定されている。本実施形態では、上部153Aは、四角形の板状部材であり、中央領域にシャフト142を挿通させるための貫通孔が設けられている。上部153Aには回転モータ143Aが固定される。
【0105】
昇降機構160は、模擬海水用容器130を鉛直方向に移動させるように構成されている。昇降機構160は、例えば電動リフターにより構成される。昇降機構160が模擬海水用容器130を鉛直上方に移動させることにより、ドリルビット141が模擬地盤に接触し、模擬地盤が掘削される。
【0106】
なお、模擬地盤の掘削時における貫入荷重を計測するために、昇降機構160と模擬海水用容器130との間にロードセル(図示せず)が設けられてもよい。
【0107】
次に、本実施形態に係るメタンハイドレート掘削模擬実験装置100Aによる模擬地盤の実験方法の一例について説明する。
【0108】
まず、模擬海水用容器130、掘削機構140A、筐体150および昇降機構160を冷温実験室に搬入する。冷温実験室の温度は、模擬海水30の凝固点よりも高く、TBABハイドレートの平衡温度よりも低い温度(例えば5℃)に維持されている。模擬海水用容器130を昇降機構160上に載置または固定し、模擬海水用容器130内を模擬海水30で満たす。その後、冷却装置から取り出した供試体用容器110を冷温実験室に搬入し、供試体用容器110を回収膜120とともに、模擬海水30中に沈める。その後、シャフト142が上部153Aの貫通孔に挿通されるように回転モータ143Aを筐体150Aの上部153Aにセットする。これにより、模擬実験の準備が整う。
【0109】
模擬実験では、回転モータ143Aでドリルビット141を回転させ、昇降機構160で模擬海水用容器130を持ち上げていき、模擬海水中の模擬地盤をドリルビット141で掘削する。掘削により模擬地盤からTBABハイドレート塊が分離され、模擬海水との比重差により浮上する。そして、模擬海水中を浮上したTBABハイドレート塊は、回収膜120と回収チューブ125により捕集され回収される。
【0110】
本実施形態に係るメタンハイドレート掘削模擬実験装置100Aによれば、第1の実施形態と同様に、模擬地盤の掘削時における模擬メタンハイドレート塊(TBABハイドレート塊)の挙動や回収状況を詳細に観察できるとともに、回収効率を検証したり、望ましい掘削パラメータを抽出することができる。
【0111】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容及びその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更及び部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0112】
10 メタンハイドレート混合模擬地盤
11 地盤材
12 模擬メタンハイドレート
20 メタンハイドレート模擬地盤
30 模擬海水
100,100A メタンハイドレート掘削模擬実験装置
110 供試体用容器
120 回収膜
125 回収チューブ
130 模擬海水用容器
140,140A 掘削機構
141 ドリルビット
142 シャフト
143,143A 回転モータ
144 載荷モータ
145 トルク計
146 ロードセル
147 支持棒
148 載荷板
148a モータ固定部
149 固定板
150,150A 筐体
151,151A 台部
152,152A 側部
153,153A 上部
160 昇降機構
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10