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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】半導体システム
(51)【国際特許分類】
   H03B 5/32 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
H03B5/32 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018068472
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019180028
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】308033711
【氏名又は名称】ラピスセミコンダクタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】大森 鉄男
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-030141(JP,A)
【文献】特開昭56-160106(JP,A)
【文献】特開2008-136032(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0096541(US,A1)
【文献】特開2005-094147(JP,A)
【文献】特開2009-105611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03B5/30-H03B5/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体装置と、
制御部と、
を備え、
前記半導体装置は、
水晶振動子と、
前記水晶振動子の一端と他端との間に接続された抵抗素子と、
前記抵抗素子の一端に入力が接続され、前記抵抗素子の他端に出力が接続され、インバータ素子、及び前記インバータ素子に駆動電流を供給する電流源を含む電流調整型インバータ素子と、
前記インバータ素子の入力に一端が接続され、他端が接地された第1容量素子と、
一端が接地された第2容量素子と、
前記第1容量素子の一端と、前記第2容量素子の他端と、の接続状態を切り替える第1スイッチング素子と、
前記インバータ素子の出力に一端が接続され、他端が接地された第3容量素子と、
一端が接地された第4容量素子と、
前記第3容量素子の一端と、前記第4容量素子の他端と、の接続状態を切り替える第2スイッチング素子と、
を備え、
前記制御部は、前記半導体装置の発振の開始の際に、前記電流源から供給される電流量の調整と、前記第1スイッチング素子及び前記第2スイッチング素子の動作の制御を行い、
前記水晶振動子による発振を開始させる際に、
前記電流源が供給する前記駆動電流を増加させ、
前記第1スイッチング素子は、前記第1容量素子の一端と、前記第2容量素子の他端とを接続し、
前記第2スイッチング素子は、前記第3容量素子の一端と、前記第4容量素子の他端とを接続する、
半導体システム。
【請求項2】
前記水晶振動子による発振が安定した場合、
前記第1スイッチング素子は、前記第1容量素子の一端と、前記第2容量素子の他端とを非接続とし、
前記第2スイッチング素子は、前記第3容量素子の一端と、前記第4容量素子の他端とを非接続とする、
請求項1に記載の半導体システム。
【請求項3】
前記水晶振動子による発振が開始してから所定時間経過した場合、
前記第1スイッチング素子は、前記第1容量素子の一端と、前記第2容量素子の他端とを非接続とし、
前記第2スイッチング素子は、前記第3容量素子の一端と、前記第4容量素子の他端とを非接続とする、
請求項1に記載の半導体システム。
【請求項4】
前記インバータ素子の駆動電流の変化に応じて、
前記第1スイッチング素子は、前記第1容量素子の一端と、前記第2容量素子の他端との接続状態を切り替え、
前記第2スイッチング素子は、前記第3容量素子の一端と、前記第4容量素子の他端との接続状態を切り替える、
請求項1に記載の半導体システム。
【請求項5】
前記インバータ素子の駆動電流が予め定められた電流量より少なくなった場合、
前記第1スイッチング素子は、前記第1容量素子の一端と、前記第2容量素子の他端とを非接続とし、
前記第2スイッチング素子は、前記第3容量素子の一端と、前記第4容量素子の他端とを非接続とする、
請求項4に記載の半導体システム。
【請求項6】
前記第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子は、制御信号に応じて動作する、
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の半導体システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置、及び半導体システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体装置として、水晶振動子を用いた発振回路(水晶発振回路)が知られている。近年の低消費電流化に伴い水晶発振回路も低消費電流化が望まれている。低消費電流化の指針としては水晶振動子とのマッチングから負荷容量CLに見合った電流までは消費電流の低減が可能である。一般に、水晶発振回路において、消費電流と発振開始までに要する時間とはトレードオフの関係にあり、消費電流を低減すると、発振開始までに要する時間は遅くなる。
【0003】
一般的に、消費電流を低減させるための回路方式として、水晶振動子の発振開始時のみ消費電流を増加させて発振が安定した後に消費電流を削減させる方式が知られている。しかしながら、この方式では、発振開始時に水晶振動子の負荷容量CLに対してあまりにも大きい電流に増加させた場合、発振停止もしくは異常発振を起こす場合がある。すなわち、発振開始時の電流についても水晶振動子の負荷容量CLに見合った電流までしか増加させることができないため、発振開始までに要する時間を所望される時間以下とすることが困難な場合がある。
【0004】
また、消費電流を低減する方法として、近年登場した負荷容量CLが極小の水晶振動子を用いて、超低消費電流化を図る方法もある。しかしながらこの方法では、超低消費電流化により、上述したようにトレードオフの関係から、発振開始時間がますます遅くなる。すなわち、消費電流を増加させないと発振開始時間を早くすることは困難である。
【0005】
そこで、発振開始時間の短縮化と、低消費電流化とを両立するための技術として、例えば、特許文献1に記載の技術がある。特許文献1には、複数のインバータ素子を備え、水晶振動子が発振を開始した直後から発振が安定化するまでの一定期間は、複数のインバータ素子を駆動させ、一定期間の経過後は、一つのインバータ素子のみを駆動させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-147815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術では、水晶振動子の発振開始直後に消費電流を増加させて駆動能力を上げているため、発振の停止や異常発振が生じる原因となる場合がある。また、特許文献1に記載の技術では、複数のインバータ素子の各々の駆動を制御するための制御回路(制御部)が必要となり、全体での消費電流が却って増加してしまう場合がある。さらに、特許文献1に記載の技術では、半導体装置全体の回路規模が大型化する。
【0008】
本開示は、簡易な構成で水晶振動子の発振開始時間を短縮化すると共に、消費電力を低減することができる、半導体装置及び半導体システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本開示の半導体装置は、水晶振動子と、前記水晶振動子の一端と他端との間に接続された抵抗素子と、前記抵抗素子の一端に入力が接続され、他端に出力が接続された、電流調整型のインバータ素子と、前記インバータ素子の入力に一端が接続され、他端が接地された第1容量素子と、一端が接地された第2容量素子と、前記第1容量素子の一端と、前記第2容量素子の他端と、の接続状態を切り替える第1スイッチング素子と、前記インバータ素子の出力に一端が接続され、他端が接地された第3容量素子と、一端が接地された第4容量素子と、前記第3容量素子の一端と、前記第4容量素子の他端と、の接続状態を切り替える第2スイッチング素子と、を備える。
【0010】
また、上記目的を達成するために、本開示の半導体システムは、本開示の半導体装置と、前記半導体装置の第1スイッチング素子及び第2スイッチング素子の動作を制御する制御信号を出力する制御部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、簡易な構成で水晶振動子の発振開始時間を短縮化すると共に、消費電力を低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態の半導体システムの一例の構成を表す構成図である。
図2】実施形態の半導体装置の一例の構成を表す回路図である。
図3】実施形態の半導体装置における、負性抵抗特性の一例を表すグラフであり。
図4】実施形態の半導体装置における、発振開始特性の一例を表すグラフである。
図5】半導体システムの制御部における動作流れの一例を表すフローチャートである。
図6】一般的な水晶発振回路の一例の回路図である。
図7図6に示した水晶発振回路の透過回路図である。
図8図7に示した水晶発振回路のさらなる透過回路図である。
図9】一般的な水晶発振回路の他の例の回路図である。
図10図9に示した水晶発振回路における、負性抵抗特性の一例を表すグラフであり。
図11図9に示した水晶発振回路における、発振開始特性の一例を表すグラフである。
図12】一般的な水晶発振回路の他の例の回路図である。
図13図12に示した水晶発振回路における、負性抵抗特性の一例を表すグラフであり。
図14図12に示した水晶発振回路における、発振開始特性の一例を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
まず、本実施形態の半導体装置の説明の前に、一般的な水晶発振回路の動作原理について説明する。
【0014】
一般的な水晶発振回路の一例として、図6には、水晶発振回路100の回路図を示す。図6に示した水晶発振回路100は、水晶振動子120と、帰還抵抗素子122と、インバータ素子124と、発振容量素子126、132と、を備える。
【0015】
また、図7には、図6に示した水晶発振回路100の等価回路図を示す。図7に示した等価回路では、水晶振動子120はインダクタンス200及び実効抵抗202に置き換えられる。また、インバータ素子124、帰還抵抗素子122、発振容量素子126、132で構成される回路側は、帰還抵抗素子122及び発振容量素子126、132に置き換えられる。
【0016】
ここで、帰還抵抗素子122の抵抗値Rfが十分に大きい場合において回路側は、図8に示した等価回路と同等となり、負荷容量204と、負性抵抗206とで表現することができる。
【0017】
図8に示した等価回路における負荷容量204の負荷容量CLは下記(1)式で表される。また、負性抵抗206の抵抗値-RLは、下記(2)式で表される。但し、発振容量素子126の容量をCg、発振容量素子132の容量をCd、インバータ素子124のコンダクタンスをgmと表し、インバータ素子124における電流の変化量をΔIout、入力電圧の変化量をΔVinで表すものとする。
CL=Cg×Cd/(Cg+Cd) ・・・(1)
-RL=-gm/(2πf)2×Cg×Cd ・・・(3)
gm=ΔIout/ΔVin ・・・(3)
【0018】
上記(1)~(3)式で表される水晶発振回路の発振条件は下記(4)式で表される。但し、水晶振動子120の実行抵抗202をReで表すものとする。
-RL≧Re ・・・(4)
【0019】
上記(4)式の条件が成立した場合に帰還抵抗素子122によって水晶振動子120の実効抵抗202は打ち消され、水晶発振回路100のインピーダンス損失がなくなり、インダクタンス200及び負荷容量204で構成されるLC発振回路となり発振することが可能となる。
【0020】
次に、一般的な水晶発振回路の他の例として、図9には、水晶発振回路110の回路図を示す。図9に示した水晶発振回路110は、インバータ素子124を駆動させる、一定量の駆動電流を発生する電流源123を備える点で、図6に示した水晶発振回路100と異なっている。
【0021】
低消費電流を実現するには水晶発振回路に含まれるインバータ素子のサイズ調整や、駆動電源電圧を下げる等の手法が用いられるが「数μA」もしくは「数nA」程度まで消費電流を低減することは困難である。そこで、図9に一例を示した水晶発振回路110では、電流源123によって供給される一定の駆動電流IBにより、インバータ素子124を駆動することにより「数μA」もしくは「数nA」程度まで、消費電流の低減を実現させることができる。
【0022】
しかしながら低消費電流化に伴い、発振開始までに要する時間が遅くなる。図10には、水晶発振回路110における、負性抵抗特性の一例を表すグラフを示す。また、図11には、水晶発振回路110における、発振開始特性の一例を表すグラフを示す。図10に示される負性抵抗特性から、水晶発振回路110における負性抵抗は少ないことが明確である。また、図11に示される発振開始特性から、水晶発振回路110における発振開始時間が遅い(発振開始までに時間を要する)ことが明確である。
【0023】
次に、低消費電流化を図った水晶発振回路の他の例として、図12には、水晶発振回路111の回路図を示す。図12に示した水晶発振回路111は、電流量が可変の駆動電流IBnを供給する電流源125を備える点で、図9に示した水晶発振回路110と異なっている。すなわち、図12に示した水晶発振回路111は、電流調整型のインバータ素子124を備えている。
【0024】
図12に示した水晶発振回路111では、発振開始時に電流源125が供給する駆動電流IBnの電流量を増加させて発振起動を早くさせ、発振の安定後に、駆動電流IBnの電流量を減少させる。このように動作させることにより、水晶発振回路111では、発振開始時間を改善させ、かつ低消費電流化を実現させている。
【0025】
図12に示した水晶発振回路111で更なる低消費電流化を実現させるためには、上記(2)式より、発振容量素子126の発振容量Cg、及び発振容量素子132の発振容量Cdが小さい、すなわち、負荷容量CLの小さい定数の水晶振動子を用いれば、インバータ素子124のコンダクタンスgmを減少、つまり消費電流を減少させた場合でも、負性抵抗-RLを、上記(4)式の発振条件を満たすようにすることができる。しかしながら上述したように、低消費電流化に伴い、発振開始時間が遅くなる。
【0026】
上述したように、水晶発振回路111において、負荷容量CLが小さい定数の水晶振動子120を用いることにより発振開始時間を改善させることは可能である。インバータ素子124の駆動電流IBnを増加させて発振起動を早めることができるが、上記(3)式に示すように、インバータ素子124の電流増加によってインバータ素子124のコンダクタンスgmが増加する。これにより、上記(3)式により、負性抵抗-RLの値が低下し、周波数帯域も水晶振動子120の発振周波数より高域に移動してしまう場合がある。
【0027】
図13には、水晶発振回路111における、負性抵抗特性の一例を表すグラフを示す。また、図14には、水晶発振回路111における、発振開始特性の一例を表すグラフを示す。図13に示される負性抵抗特性から、水晶発振回路111では、負性抵抗が無くなり(正の抵抗となり)、水晶振動子120の発振周波数より高域側に移動していることが明確である。また、図14に示される発振開始特性から、水晶発振回路111では、発振が停止していることが明確である。
【0028】
すなわち、単にインバータ素子124の駆動電流量を調整した場合、負荷容量CLの小さい定数の水晶振動子120を用いても、一定以上の電流調整は不可能であることがわかる。
【0029】
上記水晶発振回路100、110、111に対して、本実施形態の水晶発振回路である半導体装置では、水晶振動子の発振開始時間を短縮化すると共に、消費電力を低減することができる。以下、図面を参照して本実施形態について詳細に説明する。
【0030】
図1には、本実施形態の水晶発振回路である半導体装置10を備えた半導体システム1の一例を表す構成図を示す。また、図2には、本実施形態の半導体装置10の一例を表す回路図を示す。
【0031】
図1に示すように、本実施形態の半導体システム1は、水晶振動子回路である半導体装置10と、半導体装置10を制御する制御部12と、を備える。本実施形態の制御部12は、半導体装置10に発振を開始させる場合、及び発振状態が安定した場合に、半導体装置10のインバータ素子24の駆動電流IBn、及びスイッチング素子30、36の動作を制御する(詳細後述)。本実施形態の制御部12としては、例えば、MCU(Micro Control Unit)やCPU(Central Processing Unit)等を用いることができるが、特に限定されるものではない。
【0032】
図2に示すように、本実施形態の半導体装置10は、水晶振動子20、帰還抵抗素子22、インバータ素子24、電流源25、発振容量素子26、28、32、34、及びスイッチング素子30、36を備える。
【0033】
帰還抵抗素子22は、水晶振動子20の一端と他端との間に接続されている。インバータ素子24は、帰還抵抗素子22の一端に入力XTが接続され、帰還抵抗素子22の他端に出力XTXが接続されている。また、電流源25は、電流量が可変型の電流源であり、制御部12の制御に応じた電流量の駆動電流IBnをインバータ素子24に供給する。還元すると、本実施形態のインバータ素子24は、電流調整型のインバータ素子である。
【0034】
すなわち、本実施形態の半導体装置10では、水晶振動子20と、帰還抵抗素子22と、インバータ素子24とが並列に接続されている。
【0035】
発振容量素子26は、インバータ素子24の入力XTに一端が接続され、他端が接地(GND電位の供給源に接続)されている。本実施形態の発振容量素子26が、本開示の第1容量素子の一例である。発振容量素子28は、一端が接地され(GND電位の供給源に接続)された、発振容量がCgstの容量素子である。本実施形態の発振容量素子28が、本開示の第2容量素子の一例である。
【0036】
スイッチング素子30は、発振容量素子26の一端と、発振容量素子28の他端と、の接続状態を制御部12から出力される制御信号Stに応じて切り替える。本実施形態のスイッチング素子30が、本開示の第1スイッチング素子の一例である。
【0037】
発振容量素子32は、インバータ素子24の出力XTXに一端が接続され、他端が接地(GND電位の供給源に接続)されている。本実施形態の発振容量素子32が、本開示の第3容量素子の一例である。発振容量素子34は、一端が接地され(GND電位の供給源に接続)された、発振容量がCdstの容量素子である。本実施形態の発振容量素子34が、本開示の第4容量素子の一例である。
【0038】
スイッチング素子36は、発振容量素子32の一端と、発振容量素子34の他端と、の接続状態を制御部12から出力される制御信号Stに応じて切り替える。本実施形態のスイッチング素子36が、本開示の第2スイッチング素子の一例である。
【0039】
まず、本実施形態の半導体装置10において、発振起動時にインバータ素子24の駆動電流IBnを増加させても負荷容量CLが小さい定数の水晶振動子20により、安定して発振させる動作について、説明する。
【0040】
上述したようにインバータ素子24の駆動電流IBnを増加させた場合、インバータ素子24のコンダクタンスgmが大きくなり発振が停止する場合がある。ここで、負荷容量CLが大きい、すなわち発振容量素子26の発振容量Cg、及び発振容量素子32の発振容量Cdが大きければ、上記(4)式より、負性抵抗は低下せず、周波数帯域が水晶振動子20の発振周波数よりも高域側に移動することなく、発振開始時間を短縮化することができる。
【0041】
そこで、本実施形態の半導体装置10では、電流源25により、インバータ素子24の駆動電流IBnの電流量を増加させる。さらに、半導体装置10では、スイッチング素子30をオン状態にして、発振容量素子28とインバータ素子24の入力XTとを接続させ、また、スイッチング素子36をオン状態にして、発振容量素子34とインバータ素子24の出力XTXとを接続させる。これにより、インバータ素子24の入力XT側の発振容量は、発振容量素子26の発振容量Cgと、発振容量素子28の発振容量Cgstとが加算された発振容量Cg+Cgstとなる。一方、インバータ素子24の出力XTX側の発振容量は、発振容量素子32の発振容量Cdと、発振容量素子34の発振容量Cdstとが加算された発振容量Cd+Cdstとなる。すなわち、負荷容量CLが増加する。負荷容量CLを増加させたため、上述した負性抵抗は低下せず、周波数帯域が水晶振動子20の発振周波数よりも高域側に移動することなく、発振開始時間を短縮化することができる。
【0042】
図3には、半導体装置10における、負性抵抗特性の一例を表すグラフを示す。また、図4には、半導体装置10における、発振開始特性の一例を表すグラフを示す。図3に示される負性抵抗特性から、本実施形態の半導体装置10では、負性抵抗が維持され、水晶振動子20の発振周波数よりも高域側に移動しないことが明確である。また、図4に示される発振開始特性から、本実施形態の半導体装置10では、上述した水晶発振回路100等に比べて、発振開始に要する時間が短縮されていることが明確である。
【0043】
このようにして発振が開始し、さらに発振が安定した後に、本実施形態の半導体装置10では、インバータ素子24の駆動電流IBnを減少させ、かつスイッチング素子30により発振容量素子28とインバータ素子24の入力XTとを非接続状態とし、さらにスイッチング素子36により発振容量素子34とインバータ素子24の出力XTXとを非接続状態にすることで低消費電流化が実現できる。
【0044】
上記半導体装置10の動作を行わせるための、本実施形態の半導体システム1の制御部12の動作について、フローチャートを参照して説明する。制御部12は、半導体装置10に発振を開始させるための指示を受け付けると、図5に一例を示したフローチャートの処理を実行する。
【0045】
ステップS100で制御部12は、半導体装置10の電流源25に、上述したように、駆動電流IBnの電流量を増加させるよう指示する。当該指示に応じて、電流源25からインバータ素子24に供給される駆動電流IBnの電流量が増加する。
【0046】
次のステップS102で制御部12は、スイッチング素子30、36をオン状態にするための制御信号Stを出力する。当該制御信号Stに応じて、スイッチング素子30、36がオン状態となることにより、上述したように、インバータ素子24の入力XT側の発振容量が発振容量Cg+Cgstに増加し、出力XTX側の発振容量が発振容量Cd+Cdstに増加する。
【0047】
次のステップS104で制御部12は、半導体装置10において、本動作を開始してから、発振が安定するまでに要する所定時間が経過したか否かを判定する。なお、当該所定時間は、予め実験やシミュレーション等により得ておけばよい。所定時間が経過するまでステップS104の判定が否定判定となり、所定時間が経過した場合、ステップS104の判定が肯定判定となり、ステップS106へ移行する。
【0048】
ステップS106で制御部12は、半導体装置10の電流源25に、上述したように、駆動電流IBnの電流量を減少させるよう指示する。当該指示に応じて、電流源25からインバータ素子24に供給される駆動電流IBnの電流量が減少する。
【0049】
次のステップS108で制御部12は、スイッチング素子30、36をオフ状態にするための制御信号Stを出力した後、本動作を終了する。当該制御信号Stに応じて、スイッチング素子30、36がオフ状態となることにより、上述したように、インバータ素子24の入力XT側の発振容量が発振容量Cgに減少し、出力XTX側の発振容量が発振容量Cdに減少する。
【0050】
なお、ここでは、制御部12が、電流源25から供給される駆動電流IBnの電流量の調整と、スイッチング素子30、36の接続状態の制御とを行う形態について説明したが、当該形態に限定されない。電流量の調整及び接続状態の制御のいずれか一方または両方を、制御部12以外で行ってもよく、例えば、半導体装置10内で行ってもよい。また、上述したように、半導体装置10の発振の開始、及び、発振の安定化に応じて駆動電流IBnの電流量が変化するため、当該電流量の変化をモニタリングして、当該変化に応じて、スイッチング素子30、36の接続状態を切り替えるように制御を行うようにしてもよい。
【0051】
また、ステップS100の動作及びステップS102の動作を行うタイミングは、本実施形態に限定されず、例えば、ステップS100の動作とステップS102の動作とを同じタイミングで行ってもよい。具体的には、制御部12は、駆動電流IBnの電流量を増加させつつスイッチング素子30、36をオン状態にするための制御信号Stを出力することもできる。また、ステップS106の動作及びステップS108の動作を行うタイミングも、本実施形態に限定されず、例えば、ステップS106の動作とステップS108の動作とは、同じタイミングで行ってもよい。具体的には、制御部12は、駆動電流IBnの電流量を減少させつつスイッチング素子30、36をオフ状態にするための制御信号Stを出力することもできる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態の半導体装置10は、水晶振動子20と、水晶振動子20の一端と他端との間に接続された帰還抵抗素子22と、帰還抵抗素子22の一端に入力XTが接続され、他端に出力XTXが接続された、電流調整型のインバータ素子24と、インバータ素子24の入力XTに一端が接続され、他端が接地された発振容量素子26と、一端が接地された発振容量素子28と、発振容量素子26の一端と、発振容量素子28の他端との接続状態を切り替えるスイッチング素子30と、インバータ素子24の出力XTXに一端が接続され、他端が接地された発振容量素子32と、一端が接地された発振容量素子34と、発振容量素子32の一端と、発振容量素子34の他端との接続状態を切り替えるスイッチング素子36と、を備える。
【0053】
上記構成を有することにより、本実施形態の半導体装置10では、発振開始時に負荷容量CLが小さくとも発振が停止することなく、安定して早い発振を実現することができる。また、発振の安定後は、低消費電流化も実現することができる。従って、本実施形態の半導体装置10によれば、簡易な構成で水晶振動子20の発振開始時間を短縮化すると共に、消費電力を低減することができる。
【0054】
また、本実施形態の半導体装置10によれば、負荷容量CLに依存せず、消費電流の低減と発振開始時間の改善(高速化)とを両立することが可能となる。
【0055】
なお、本実施形態の半導体装置10では、半導体装置10自身がスイッチング素子30、36、及び発振容量素子28、34を備える形態について説明したが、当該形態に限定されず、スイッチング素子30、36、及び発振容量素子28、34の一部または全部を、外付けの素子としてもよい。これらの素子を外付けする場合、上記図12に示したディスクリートな水晶発振回路111やモジュールの水晶振動子20に対しても半導体装置10と同様の動作を行わせることができる。
【0056】
なお、上記各実施形態で説明した半導体システム1及び半導体装置10等の構成及び動作等は一例であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲内において状況に応じて変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0057】
1 半導体システム
10 半導体装置
12 制御部
20 水晶振動子
22 帰還抵抗素子
24 インバータ素子
25 電流源
26、28、32、34 発振容量素子
30、36 スイッチング素子
IBn 駆動電流
St 制御信号
XT インバータ素子24の入力
XTX インバータ素子24の出力
図1
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