(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】医用画像処理装置
(51)【国際特許分類】
A61B 6/03 20060101AFI20221109BHJP
A61B 5/055 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
A61B6/03 370B
A61B6/03 360D
A61B6/03 360Q
A61B5/055 380
A61B5/055 382
(21)【出願番号】P 2018076349
(22)【出願日】2018-04-11
【審査請求日】2021-03-26
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145308
【氏名又は名称】国立大学法人 琉球大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】弁理士法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】塚越 伸介
(72)【発明者】
【氏名】木本 達也
(72)【発明者】
【氏名】山城 恒雄
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-213604(JP,A)
【文献】特開2017-127369(JP,A)
【文献】特表2018-526107(JP,A)
【文献】特開2015-198672(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0317448(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0324871(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 6/00 - 6/14
A61B 5/055
A61B 8/00 - 8/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも3時相以上の複数時相において被検体の対象部位を含んで撮像された複数の医用画像データを取得する取得部と、
前記複数時相に対応する複数の医用画像データそれぞれについて、各医用画像データに含まれる前記対象部位の
表面の位置ごとに、
前記表面の内側の基準点と当該表面の外側の基準点とをそれぞれ設定し、前記複数時相において隣接する時相間における前記内側の基準点の位置の変化と当該時相間における前記外側の基準点の位置の変化とに基づいて、前記対象部位の表面の位置ごとの動きに関する指標を算出する算出部と、
前記複数の医用画像データそれぞれについて前記対象部位の
表面の位置ごとに算出された前記動きに関する指標に基づいて、前記対象部位の領域における第一の部分領域と当該第一の部分領域よりも動きが大きい第二の部分領域との少なくともいずれかを特定し、前記特定された前記第一の部分領域及び前記第二の部分領域のいずれかについて、前記複数の医用画像データにわたる重複状態に基づく機能情報を生成する生成部と、
前記機能情報を表示部に表示させる表示制御部と、
を備える、医用画像処理装置。
【請求項2】
前記生成部は、前記複数の医用画像データのうち所定数以上の医用画像データについて前記第一の部分領域が重複する重複領域を前記機能情報として生成する、請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項3】
前記生成部は、前記所定数以上の医用画像データについての前記第一の部分領域の論理積を得ることにより前記機能情報を生成する、請求項2に記載の医用画像処理装置。
【請求項4】
前記生成部は、前記複数の医用画像データのうち1以上の医用画像データについて前記第一の部分領域が存在する領域を前記機能情報として生成する、請求項1に記載の医用画像処理装置。
【請求項5】
前記生成部は、前記複数の医用画像データについての前記第一の部分領域の論理和を得ることにより前記機能情報を生成する、請求項4に記載の医用画像処理装置。
【請求項6】
前記算出部は、前記対象部位の表面の法線方向へ所定の距離離れた内側の位置に前記内側の基準点を設定し、前記対象部位の表面の法線方向へ所定の距離離れた外側の位置に前記外側の基準点を設定する、請求項
1~5のいずれか1つに記載の医用画像処理装置。
【請求項7】
前記生成部は、前記複数時相に対応する前記複数の医用画像データそれぞれについて前記対象部位の位置ごとに算出された前記動きに関する指標と閾値とをそれぞれ比較することで、前記第一の部分領域と前記第二の部分領域との少なくともいずれかを特定する、請求項1~
6のいずれか1つに記載の医用画像処理装置。
【請求項8】
前記生成部は、前記複数の医用画像データの前記第一の部分領域において前記複数時相の全期間に対して所定の割合の期間で重複する領域を示す前記機能情報を生成する、請求項2又は3に記載の医用画像処理装置。
【請求項9】
前記生成部は、前記複数の医用画像データのうち1以上の医用画像データについて前記第一の部分領域が存在する領域の面積に対して所定の割合の面積を有する領域を示す前記機能情報を生成する、請求項4又は5に記載の医用画像処理装置。
【請求項10】
前記算出部は、前記動きに関する指標に対して、時相に基づく重み付けを行い、
前記生成部は、前記重み付けが行われた後の前記動きに関する指標に基づいて、前記機能情報を生成する、請求項1~
9のいずれか1つに記載の医用画像処理装置。
【請求項11】
前記算出部は、前記動きに関する指標に対して、前記対象部位における位置に基づく重み付けを行い、
前記生成部は、前記重み付けが行われた後の前記動きに関する指標に基づいて、前記機能情報を生成する、請求項1~
10のいずれか1つに記載の医用画像処理装置。
【請求項12】
前記生成部は、所定の時相に対応する医用画像データに含まれる前記対象部位上に、前記機能情報を生成する、請求項1~
11のいずれか1つに記載の医用画像処理装置。
【請求項13】
前記取得部は、前記被検体の呼気を少なくとも含む呼吸動作において収集された前記複数の医用画像データを取得する、請求項1~
12のいずれか1つに記載の医用画像処理装置。
【請求項14】
前記取得部は、事前収集された前記被検体の全肺を含む医用画像データに基づいて決定された撮像範囲で収集された前記複数の医用画像データを取得し、
前記算出部は、前記複数の医用画像データそれぞれについて、前記動きに関する指標を算出し、
前記生成部は、前記被検体の全肺を含む医用画像データに、前記動きに関する指標に基づく前記被検体の肺の位置ごとの動きを示した機能情報を生成する、請求項1~
13のいずれか1つに記載の医用画像処理装置。
【請求項15】
前記撮像範囲は、前記被検体の全肺を含む医用画像データに含まれる病変部位及び前記被検体の肺の動きのうち少なくとも一方に基づいて決定される、請求項
14に記載の医用画像処理装置。
【請求項16】
前記表示制御部は、前記被検体の情報に基づいて、前記機能情報の信頼度を示す情報を前記表示部に表示させる、請求項1~
15のいずれか1つに記載の医用画像処理装置。
【請求項17】
前記算出部は、前記動きに関する指標として、滑り度、移動距離、速度、加速度、ベクトル相関及びボクセル値の変動のうち少なくとも1つを算出する、請求項1~
16のいずれか1つに記載の医用画像処理装置。
【請求項18】
前記算出部は、前記動きに関する指標として、前記滑り度、前記移動距離、前記速度、前記加速度、前記ベクトル相関及び前記ボクセル値の変動のうち少なくとも2つ以上の値を算出し、
前記生成部は、前記少なくとも2つ以上の値を組み合わせた前記機能情報を生成する、請求項
17に記載の医用画像処理装置。
【請求項19】
前記生成部は、前記被検体の特徴点を含む前記機能情報を生成する、請求項1~
18のいずれか1つに記載の医用画像処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、医用画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、胸部領域における胸膜癒着・浸潤の特定には、静止画像が用いられている。例えば、X線CT(Computed Tomography)装置によって収集された最大吸気時の胸部領域の静止画像を用いて、肺がんの胸膜浸潤の診断が行われている。また、近年、X線CT装置や、MRI(Magnetic Resonance Imaging)装置によって吸気時と呼気時の2時相の静止画像を収集し、収集した2時相の静止画像を用いることで、胸膜癒着・浸潤の有無を評価する技術も提案されてきている。
【0003】
また、胸膜癒着・浸潤の有無を評価する指標としては、例えば、「滑り度(Sliding Value)」が知られている。「滑り度」は、動きの量を可視化するための指標であり、例えば、肺野と胸膜にそれぞれ基準点を設定し、設定した2つの基準点の移動ベクトルの差分で算出される。ここで、「滑り度」が閾値以下の場合に、胸膜に癒着・浸潤が生じていると判定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、胸膜癒着・浸潤の状態を精度よく評価することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る医用画像処理装置は、取得部と、算出部と、生成部と、表示制御部とを備える。取得部は、少なくとも3時相以上の複数時相において被検体の対象部位を含んで撮像された複数の医用画像データを取得する。算出部は、前記複数時相に対応する複数の医用画像データそれぞれについて、各医用画像データに含まれる前記対象部位の位置ごとに、動きに関する指標を算出する。生成部は、前記複数の医用画像データそれぞれについて前記対象部位の位置ごとに算出された前記動きに関する指標に基づいて、複数の時相間における前記対象部位の位置ごとの動きを示す機能情報を生成する。表示制御部は、前記機能情報を表示部に表示させる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る医用画像処理装置の構成の一例を示す図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態に係る処理回路による処理の概要を説明するための図である。
【
図3】
図3は、第1の実施形態に係る各処理機能による処理の一例を説明するための図である。
【
図4A】
図4Aは、第1の実施形態に係る生成機能によって生成される機能情報の例を示す図である。
【
図4B】
図4Bは、第1の実施形態に係る生成機能によって生成される機能情報の例を示す図である。
【
図4C】
図4Cは、第1の実施形態に係る生成機能によって生成される機能情報の例を示す図である。
【
図4D】
図4Dは、第1の実施形態に係る生成機能によって生成される機能情報の例を示す図である。
【
図5】
図5は、第1の実施形態に係る制御機能によるワーニング表示の一例を示す図である。
【
図6A】
図6Aは、第1の実施形態に係る4Dデータのスキャン範囲の設定の例を説明するための図である。
【
図6B】
図6Bは、第1の実施形態に係る4Dデータのスキャン範囲の設定の例を説明するための図である。
【
図6C】
図6Cは、第1の実施形態に係る4Dデータのスキャン範囲の設定の例を説明するための図である。
【
図6D】
図6Dは、第1の実施形態に係る4Dデータのスキャン範囲の設定の例を説明するための図である。
【
図7A】
図7Aは、第1の実施形態に係る変形例1を説明するための図である。
【
図7B】
図7Bは、第1の実施形態に係る変形例1を説明するための図である。
【
図8】
図8は、第1の実施形態に係る変形例1における機能情報の一例を示す図である。
【
図9】
図9は、第1の実施形態に係る変形例1における機能情報の一例を示す図である。
【
図10】
図10は、第1の実施形態に係る変形例2を説明するための図である。
【
図11】
図11は、第1の実施形態に係る変形例3における機能情報を示す図である。
【
図12】
図12は、第1の実施形態に係る医用画像処理装置による処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、本願に係る医用画像処理装置の実施形態を詳細に説明する。なお、本願に係る医用画像処理装置は、以下に示す実施形態によって限定されるものではない。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る医用画像処理装置300の構成の一例を示す図である。
図1に示すように、医用画像処理装置300は、ネットワーク400を介して、医用画像診断装置100及び画像保管装置200に接続される。なお、
図1に示す構成はあくまでも一例であり、図示する医用画像診断装置100、画像保管装置200及び医用画像処理装置300以外にも、端末装置などの種々の装置がネットワーク400に接続される場合であってもよい。
【0010】
医用画像診断装置100は、被検体を撮像して医用画像を生成する。具体的には、医用画像診断装置100は、3次元医用画像データ(ボリュームデータ)を経時的に収集することができる装置であり、X線CT装置や、MRI装置などである。例えば、X線CT装置は、被検体を略中心にX線管及びX線検出器を旋回移動させ、被検体を透過したX線を検出して投影データを収集する。そして、X線CT装置は、収集された投影データに基づいて、3次元CT画像データを再構成する。
【0011】
ここで、X線CT装置は、同一の撮像領域を対象に複数の3次元CT画像データを経時的に収集する。一例を挙げると、X線CT装置は、被検体の胸部領域を対象に、1呼吸分に相当する期間(例えば、6秒程度)について、複数の3次元CT画像データを経時的に収集する。すなわち、X線CT装置は、呼吸動作における各時相に対応する3次元CT画像データを収集する。なお、以下では、経時的に収集した3次元医用画像データを4Dデータとも記載する。そして、X線CT装置は、生成した4Dデータを画像保管装置200や、医用画像処理装置300に送信する。
【0012】
画像保管装置200は、各種の医用画像診断装置によって収集された医用画像データを保管する。例えば、画像保管装置200は、サーバ装置等のコンピュータ機器によって実現される。画像保管装置200は、例えば、ネットワーク400を介してX線CT装置から4Dデータを取得し、取得した4Dデータを装置内又は装置外に設けられた記憶回路に記憶させる。また、画像保管装置200は、医用画像処理装置300からの要求に応じて、記憶回路に記憶させた4Dデータを医用画像処理装置300に送信する。
【0013】
医用画像処理装置300は、ネットワーク400を介して医用画像診断装置100や、画像保管装置200から4Dデータを取得し、取得した4Dデータを処理する。例えば、医用画像処理装置300は、ワークステーション等のコンピュータ機器によって実現される。医用画像処理装置300は、例えば、ネットワーク400を介してX線CT装置又は画像保管装置200から被検体の胸部領域を対象とした4Dデータを取得し、取得した4Dデータに対して各種画像処理を行う。そして、医用画像処理装置300は、画像処理後の医用画像や、画像処理によって得られる解析結果等をディスプレイ等に表示する。
【0014】
図1に示すように、医用画像処理装置300は、通信インターフェース310と、記憶回路320と、入力インターフェース330と、ディスプレイ340と、処理回路350とを有する。
【0015】
通信インターフェース310は、処理回路350に接続され、ネットワーク400を介して接続された医用画像診断装置100又は画像保管装置200との間で行われる各種データの伝送及び通信を制御する。例えば、通信インターフェース310は、ネットワークカードやネットワークアダプタ、NIC(Network Interface Controller)等によって実現される。本実施形態では、通信インターフェース310は、X線CT装置又は画像保管装置200から胸部領域を対象とした4Dデータを受信し、受信した4Dデータを処理回路350に出力する。ここで、通信インターフェース310は、X線CT装置によって収集されたリアルタイムの4Dデータを受信して、処理回路350に出力することもできる。
【0016】
記憶回路320は、処理回路350に接続され、各種データを記憶する。例えば、記憶回路320は、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子や、ハードディスク、光ディスク等によって実現される。記憶回路320は、例えば、X線CT装置又は画像保管装置200から受信した4Dデータを記憶する。
【0017】
また、記憶回路320は、処理回路350の処理に用いられる種々の情報や、処理回路350による処理結果等を記憶する。例えば、記憶回路320は、処理回路350によって生成された機能情報などを記憶する。なお、機能情報については、後述する。また、記憶回路320は、処理回路350によって実行される各処理機能に対応するプログラムを記憶する。
【0018】
入力インターフェース330は、種々の設定などを行うためのトラックボール、スイッチボタン、マウス、キーボード、操作面へ触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力回路、及び音声入力回路等によって実現される。
【0019】
入力インターフェース330は、処理回路350に接続されており、操作者から受け付けた入力操作を電気信号に変換して処理回路350に出力する。なお、本明細書において入力インターフェース330は、マウス、キーボードなどの物理的な操作部品を備えるものだけに限られない。例えば、装置とは別体に設けられた外部の入力機器から入力操作に対応する電気信号を受け取り、この電気信号を処理回路350へ出力する処理回路も入力インターフェースの例に含まれる。
【0020】
ディスプレイ340は、処理回路350に接続され、処理回路350から出力される各種情報及び各種画像を表示する。例えば、ディスプレイ340は、液晶モニタやCRT(Cathode Ray Tube)モニタ、タッチパネル等によって実現される。例えば、ディスプレイ340は、操作者の指示を受け付けるためのGUI(Graphical User Interface)や、種々の表示画像、処理回路350による種々の処理結果を表示する。
【0021】
処理回路350は、入力インターフェース330を介して操作者から受け付けた入力操作に応じて、医用画像処理装置300が有する各構成要素を制御する。例えば、処理回路350は、プロセッサによって実現される。本実施形態では、処理回路350は、通信インターフェース310から出力される医用画像データ(例えば、4Dデータ)を記憶回路320に記憶させる。また、処理回路350は、記憶回路320から医用画像データを読み出し、読み出した医用画像データから生成した表示画像をディスプレイ340に表示させる。また、処理回路350は、医用画像データに対して種々の解析処理を実行して、解析結果をディスプレイ340に表示させる。
【0022】
このような構成のもと、本実施形態に係る医用画像処理装置300は、胸膜癒着・浸潤の状態を精度よく評価することを可能にする。具体的には、医用画像処理装置300は、少なくとも3時相以上の複数時相に対応する複数の医用画像データを用いて、各時相間での対象部位の動きに関する指標をそれぞれ算出し、算出した動きに関する指標に基づいて、各時相間での対象部位の位置ごとの動きを示す情報を表示することで、胸膜癒着・浸潤の状態を精度よく評価することを可能にする。
【0023】
上述したように、胸膜癒着・浸潤の特定には、例えば、最大吸気時の胸部領域の静止画像が用いられている。しかしながら、静止画を用いる場合、例えば、胸膜の石灰化や高度肥厚などを伴う強い胸膜癒着であれば特定することも可能であるが、軽度の肺癌胸膜浸潤や、石灰化や肥厚を伴わない炎症性胸膜癒着は特定することが困難である。また、吸気時と呼気時の2時相の静止画像を用いて動きの量を可視化することで、胸膜癒着・浸潤の有無を評価する技術では、用いられる時相によって動きの量が変化する可能性がある。例えば、最大呼気時の静止画像と最大吸気時の静止画とを用いて導出される動きの量と、呼吸途中における呼気時の静止画像と呼吸途中における吸気時の静止画像とを用いて導出される動きの量とでは異なる可能性が高く、胸膜癒着・浸潤の状態を精度よく評価することが困難である。
【0024】
また、さらに、複数の時相間で「滑り度」を算出し、算出した複数の「滑り度」によって胸膜癒着・浸潤の有無を評価する場合、各時相間の複数の「滑り度」の平均や、最大値、周期性の振幅や、周期を用いることが考えられる。しかしながら、この場合、例えば、呼吸のブレや、心拍の動きにより1つの時相間で「滑り度」が大きくなってしまった場合、「滑り度」の平均や、最大値、周期性の振幅や、周期に対して影響を及ぼすこととなり、胸膜癒着・浸潤の状態を精度よく評価することが困難である。
【0025】
そこで、第1の実施形態に係る医用画像処理装置300では、複数の時相間でそれぞれ算出した動きに関する指標をそれぞれ示した情報を表示することで、胸膜癒着・浸潤の状態を精度よく評価することを可能にする。例えば、医用画像処理装置300は、被検体の呼気を含む呼吸動作の各時相において収集された胸部領域の3次元CT画像データを用いて複数の時相間の動きに関する指標をそれぞれ算出し、算出した複数の指標をそれぞれ示した情報を表示することで、対象者の胸部領域における胸膜癒着・浸潤の状態を精度よく評価することを可能にする。
【0026】
第1の実施形態に係る処理回路350は、
図1に示すように、制御機能351、取得機能352、抽出機能353、位置合わせ機能354、算出機能355及び生成機能356を実行する。ここで、例えば、
図1に示す処理回路350の構成要素である制御機能351、取得機能352、抽出機能353、位置合わせ機能354、算出機能355及び生成機能356が実行する各処理機能は、コンピュータによって実行可能なプログラムの形態で記憶回路320に記録されている。処理回路350は、各プログラムを記憶回路320から読み出し、実行することで各プログラムに対応する機能を実現するプロセッサである。換言すると、各プログラムを読み出した状態の処理回路350は、
図1の処理回路350内に示された各機能を有することとなる。なお、本実施形態で説明する制御機能351は、表示制御部の一例である。また、取得機能352は、取得部の一例である。また、算出機能355は、算出部の一例である。また、生成機能356は、生成部の一例である。
【0027】
処理回路350は、制御機能351、取得機能352、抽出機能353、位置合わせ機能354、算出機能355及び生成機能356を実行することで、複数の時相間でそれぞれ算出した動きに関する指標をそれぞれ示した情報を表示する。ここで、まず、本実施形態に係る処理回路350による処理の概要について、
図2を用いて説明する。
図2は、第1の実施形態に係る処理回路350による処理の概要を説明するための図である。なお、
図2においては、被検体の呼吸1周期分の4Dデータを用いる場合について示す。
【0028】
例えば、処理回路350は、
図2の1段目の図に示すように、呼気時相から次の呼気時相までの1周期分の呼吸動作の期間中に胸部領域(肺)を対象に収集されたn個(1~n)の3次元CT画像データを取得する。なお、「n」番目の3次元CT画像データは、「1-n」番目(「1」番目の3次元CT画像データの1時相前)の3次元CT画像データを用いることができる。
【0029】
そして、処理回路350は、各時相の3次元CT画像データについて、対象部位(肺)の位置ごとに動きに関する指標を算出する。例えば、処理回路350は、肺野全域について、複数の時相間それぞれの「滑り度」、「移動距離」、「速度」、「加速度」、「ベクトル相関」、「ボクセル値の変動」等を算出する。なお、これらの詳細については後述する。
【0030】
このように、処理回路350は、対象部位(肺野全体)の位置ごとの動きの指標を算出することで、各時相間で、対象部位の「動いている部分」と「動いていない部分」とをそれぞれ抽出することができる。例えば、処理回路350は、「n」番目の3次元CT画像データ(「1-n」番目の3次元CT画像データ)に対する「1」番目の3次元CT画像データの動きに関する指標を算出することで、
図2における2段目の図に示すように、「1」番目の3次元CT画像データに含まれる肺野において「動いていない部分」R
1を抽出することができる。なお、「1」番目の3次元CT画像データに含まれる肺野において「動いていない部分」R
1以外の領域は、「動いている部分」として抽出される。
【0031】
同様に、処理回路350は、「1」番目の3次元CT画像データに対する「2」番目の3次元CT画像データの動きに関する指標を算出することで、
図2における2段目の図に示すように、「2」番目の3次元CT画像データに含まれる肺野において「動いていない部分」R
2を抽出する。このように、処理回路350は、各時相間で対象部位(肺野全体)の位置ごとの動きの指標を算出することで、各時相の3次元CT画像データについて「動いていない部分」R
3~「動いていない部分」R
nをそれぞれ抽出する。
【0032】
そして、処理回路350は、
図2の3段目の図に示すように、各時相の3次元CT画像データを所定の時相に位置合わせする。例えば、処理回路350は、最大吸気時相の3次元CT画像データに対して、その他の時相の3次元CT画像データをそれぞれ位置合わせする。なお、位置合わせの対象となる時相は、任意に設定することができる。すなわち、ユーザは、任意の時相の3次元CT画像データに対して位置合わせを実行させることができる。
【0033】
このように位置合わせすることで、各時相の3次元CT画像データで抽出した「動いていない部分」R
1~「動いていない部分」R
nを1つの3次元CT画像データ上に示すことができる。例えば、処理回路350は、
図2の4段目の図に示すように、最大吸気時相の3次元CT画像データから生成したCT画像に対して「動いていない部分」R
1~「動いていない部分」R
nを重畳させて表示させる。
【0034】
さらに、処理回路350は、「動いていない部分」R
1~「動いていない部分」R
nについて論理解析した結果をCT画像に示すこともできる。例えば、処理回路350は、
図2の4段目の上図に示すように、各時相における「動いていない部分」R
1~「動いていない部分」R
nを重畳させた際に全ての時相で重なっている領域R
andを抽出して、抽出した領域R
andを示す情報をCT画像上に表示させる。すなわち、処理回路350は、呼吸中の肺野において全く動かない領域として、領域R
andを表示させることができる。
【0035】
また、例えば、処理回路350は、
図2の4段目の下図に示すように、各時相における「動いていない部分」R
1~「動いていない部分」R
nを重畳させた際にいずれかの時相において「動いていない部分」となっている領域R
orを抽出して、抽出した領域R
orを示す情報をCT画像上に表示させる。すなわち、処理回路350は、呼吸中の肺野において動く可能性がある領域として、領域R
orを表示させることができる。
【0036】
上述したように、処理回路350は、3時相以上の複数の時相間での対象部位の動きに関する指標を算出して、各時相間において「動いていない部分(又は、動いている部分)」を抽出して表示することで、処理に用いた医用画像データの時相の全期間に亘って、対象部位全体の動きを網羅的に表示させることができる。例えば、処理回路350は、肺野と胸壁との間で動きに関する指標を算出して、「動いていない部分(又は、動いている部分)」を抽出して表示することで、胸膜癒着や浸潤の有無と程度、その範囲などを精度よく評価することを可能にする。
【0037】
ここで、本実施形態に係る医用画像処理装置300においては、例えば、時相間の時間間隔がより短い時間間隔で再構成された医用画像データを用いたり、動きに関する指標に適用する閾値を変化させたりすることで、種々の診断に適した解析結果を提示することができる。以下、第1の実施形態に係る処理回路350の詳細について説明する。
【0038】
制御機能351は、医用画像処理装置300の全体制御を実行する。例えば、制御機能351は、種々の画像処理によってボリュームデータから表示画像を生成し、生成した表示画像をディスプレイ340にて表示するように制御する。一例を挙げると、制御機能351は、記憶回路320によって記憶された3次元CT画像データを読み出し、読み出した3次元CT画像データに対して各種画像処理を行うことで、種々のCT画像を生成する。そして、制御機能351は、各種画像処理により生成したCT画像を記憶回路320に格納したり、生成したCT画像をディスプレイ340に表示したりする。また、制御機能351は、生成機能356によって生成された機能情報をディスプレイ340に表示させる。なお、機能情報の詳細については、後述する。
【0039】
取得機能352は、通信インターフェース310を介して、医用画像診断装置100、或いは、画像保管装置200から医用画像データを取得する。例えば、取得機能352は、X線CT装置や画像保管装置200から、3時相以上の複数時相で収集された3次元CT画像データ(ボリュームデータ)を取得する。一例を挙げると、取得機能352は、被検体の胸部領域を対象に、呼吸動作における所定の時相期間で収集された4Dデータを取得する。ここで、取得機能352は、被検体の呼気を少なくとも含む呼吸動作において収集された4Dデータを取得する。そして、取得機能352は、取得した4Dデータを記憶回路320に格納する。
【0040】
また、取得機能352は、通信インターフェース310を介して、ネットワーク400上の他の装置から、被検体情報を取得することもできる。例えば、取得機能352は、被検体の呼吸機能検査の検査結果を取得することもできる。
【0041】
抽出機能353は、取得機能352によって取得された4Dデータから対象部位をそれぞれ抽出する。具体的には、抽出機能353は、各時相の3次元医用画像データから対象部位を抽出する。例えば、抽出機能353は、公知のセグメンテーション処理を実行して、3次元CT画像データに含まれる肺野の領域や胸膜の領域などを、複数時相の3次元CT画像データからそれぞれ抽出する。
【0042】
位置合わせ機能354は、取得機能352によって取得された4Dデータについて、各時相の3次元医用画像データ間の位置合わせを実行する。例えば、位置合わせ機能354は、所定の時相を基準時相として、基準時相の3次元医用画像データに対するその他の時相の3次元医用画像データの位置合わせを実行する。また、例えば、位置合わせ機能354は、隣接する時相間での3次元医用画像データの位置合わせを実行する。一例を挙げると、位置合わせ機能354は、被検体の胸部領域が撮像された複数時相の3次元CT画像データについて、各時相の3次元CT画像データ間の位置合わせを実行する。なお、位置合わせ機能354は、非剛体位置合わせなどの公知の位置合わせ処理により、3次元医用画像データ間の位置合わせを実行する。
【0043】
算出機能355は、複数時相に対応する複数の医用画像データそれぞれについて、各医用画像データに含まれる対象部位の位置ごとに、動きに関する指標を算出する。具体的には、算出機能355は、対象部位の位置ごとに、複数時相における隣接する時相間での動きに関する指標を算出する。例えば、算出機能355は、動きに関する指標として、「滑り度」、「移動距離」、「速度」、「加速度」、「ベクトル相関」及び「ボクセル値の変動」のうち少なくとも1つを算出する。一例を挙げると、算出機能355は、被検体の肺表面の全域について動きに関する指標を算出する。
【0044】
生成機能356は、複数の医用画像データそれぞれについて対象部位の位置ごとに算出された動きに関する指標に基づいて、複数の時相間における対象部位の位置ごとの動きを示す機能情報を生成する。具体的には、生成機能356は、複数時相に対応する複数の医用画像データそれぞれについて対象部位の位置ごとに算出された動きに関する指標と閾値とをそれぞれ比較し、比較結果に基づく領域を対象部位上に示した機能情報を生成する。例えば、生成機能356は、被検体の肺表面の全域の位置ごとに算出された動きに関する指標を閾値と比較することで、「動いていない部分(或いは、動いている部分)」を抽出する。
【0045】
以下、取得機能352、抽出機能353、位置合わせ機能354、算出機能355及び生成機能356による処理の一例について、
図3を用いて説明する。
図3は、第1の実施形態に係る各処理機能による処理の一例を説明するための図である。ここで、
図3においては、肺表面の全域の位置ごとに「滑り度」を算出する場合について示す。なお、
図3においては、説明の便宜上、肺のアキシャル断面を示しているが、実際の処理は、3次元の肺全体について実行される。
【0046】
例えば、取得機能352は、
図3の1段目の図に示すように、呼吸動作中の「n」時相分の3次元CT画像データ(ボリュームデータ)を取得する。ここで、取得機能352は、被検体の呼気を少なくとも含む呼吸動作において収集された「n」時相分のボリュームデータを取得する。呼吸動作中の肺の動きは、息のはき始めが一番大きく動くため、この時相を含む「n」時相分のボリュームデータが取得されればよい。したがって、例えば、取得機能352は、最大吸気時相の少し手前の時相から呼気時相までの約半周期における各時相のボリュームデータを取得する場合であってもよい。
【0047】
抽出機能353は、
図3の2段目の図に示すように、各時相のボリュームデータから肺領域を抽出する。具体的には、抽出機能353は、再構成された各時相のボリュームデータに対して、CT値が空間的に連続する領域を抽出する領域拡張(region growing)法や形状テンプレートを用いたパターンマッチング法などを用いたセグメンテーション処理を行うことにより、肺領域の輪郭を抽出する。なお、抽出機能353は、抽出した肺領域に対して、腫瘍の形状テンプレートを用いたパターンマッチング法や、腫瘍の輝度値のプロファイルを用いた手法等により、ボリュームデータに含まれる腫瘍の位置を特定することもできる。
【0048】
なお、抽出機能353による抽出処理は、上記した処理に限られず、グラフカット処理などのその他のセグメンテーション処理が実行される場合であってもよい。また、抽出機能353は、入力インターフェース330を介してユーザによって指定された領域を肺領域として抽出する場合であってもよい。かかる場合には、制御機能351が、各時相のボリュームデータから表示画像を生成し、生成した表示画像をディスプレイ340に表示させる。ユーザは、入力インターフェース330を操作して肺領域を指定する。抽出機能353は、ユーザによって指定された領域を肺領域として抽出する。
【0049】
位置合わせ機能354は、複数時相のボリュームデータに含まれる2つのボリュームデータの一方のボリュームデータを他方のボリュームデータに対して位置合わせすることで、一方のボリュームデータ中の各ボクセルに対応する他方のボリュームデータ中のボクセルの位置を算出する。例えば、位置合わせ機能354は、
図3に示す時相「1」のボリュームデータに対して、時相「2」のボリュームデータの位置合わせを実行することで、時相「1」のボリュームデータの各ボクセルに対応する時相「2」のボリュームデータ中のボクセルの位置を算出する。
【0050】
同様に、位置合わせ機能354は、時相「1」のボリュームデータに対して、時相「3」のボリュームデータの位置合わせを実行することで、時相「1」のボリュームデータの各ボクセルに対応する時相「3」のボリュームデータ中のボクセルの位置を算出する。このように、位置合わせ機能354は、時相「1」のボリュームデータに対して、他の時相のボリュームデータの位置合わせをそれぞれ実行することで、時相「1」のボリュームデータの各ボクセルに対応する各時相のボリュームデータ中のボクセルの位置をそれぞれ算出する。
【0051】
そして、位置合わせ機能354は、一方のボリュームデータ中の各ボクセルに対応する他方のボリュームデータ中のボクセルの位置を示すボクセル位置情報を算出機能355に通知する。なお、上記した例では、時相「1」を基準時相として位置合わせする場合について説明したが、実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、隣接する2時相のボリュームデータ間で位置合わせが実行される場合であってもよい。一例を挙げると、位置合わせ機能354は、時相「1」のボリュームデータに対して、時相「2」のボリュームデータの位置合わせを実行する。そして、位置合わせ機能354は、時相「2」のボリュームデータに対して、時相「3」のボリュームデータの位置合わせを実行する。このように、隣接する2時相間で位置合わせを実行することで、変形の程度を小さくすることができ、ボクセル位置情報の算出に係る処理負荷を低減することができるとともに、より正確なボクセル位置情報を算出することができる。
【0052】
算出機能355は、抽出機能353によって抽出された肺領域の動きに関する指標を算出する。具体的には、算出機能355は、位置合わせ機能354によって算出されたボクセル位置情報に基づいて、各時相間における肺領域の動きを算出する。例えば、算出機能355は、
図3の3段目の図中の点線で示すように、肺領域の輪郭に対して外側表面と内側表面とを設定する。すなわち、算出機能355は、肺野内の表面と肺野外の表面を設定する。そして、算出機能355は、ボクセル位置情報に基づいて、外側表面上のボクセルの移動ベクトルと内側表面上のボクセルの移動ベクトルを算出し、算出した移動ベクトルを用いて、肺野と胸膜との「滑り度」を算出する。なお、以下では、移動ベクトルを動きベクトルとも記載する。
【0053】
一例を挙げると、算出機能355は、まず、抽出機能353の抽出結果に基づいて、肺領域の輪郭線を示すボクセルを抽出し、抽出したボクセルに基づいて、外側表面と内側表面とを設定する。例えば、算出機能355は、輪郭線を構成する各ボクセルから、肺野の内側と外側のそれぞれに対して輪郭線の法線方向へ一定距離離れた位置に基準ボクセルをそれぞれ設定することで、外側表面と内側表面とを設定する。すなわち、算出機能355は、肺領域の輪郭線を構成するボクセルの数と同じ数の基準ボクセルのペアを設定することで、外側表面と内側表面とを設定する。
【0054】
例えば、算出機能355は、
図3の3段目の図に示すように、輪郭線を構成する1つのボクセルについて、肺野の内側の基準ボクセルP1と外側の基準ボクセルP2を設定する。同様に、算出機能355は、輪郭線を構成する全てのボクセルについて、肺野の内側の基準ボクセルと外側の基準ボクセルをそれぞれ設定する。ここで、ボクセルごとに設定された内側の基準ボクセルと外側の基準ボクセルがそれぞれペアとなり、肺表面(胸膜)の「滑り度」の算出に用いられる。
【0055】
算出機能355は、基準ボクセルのペアを設定すると、ボクセル位置情報に基づいて、基準ボクセルの位置の変化を特定する。例えば、算出機能355は、時相「1」のボリュームデータと時相「2」のボリュームデータとのボクセル位置情報に基づいて、時相「1」のボリュームデータにて設定した基準ボクセルP1と基準ボクセルP2の、時相「2」のボリュームデータ中における位置を特定する。同様に、算出機能355は、時相「1」のボリュームデータにて設定した基準ボクセルのペアについて、時相「2」のボリュームデータ中における位置をそれぞれ特定する。
【0056】
そして、算出機能355は、時相間における基準ボクセルの位置の変化に基づいて、各基準ボクセルの動きベクトルをそれぞれ算出する。一例を挙げると、算出機能355は、基準ボクセルP1の時相「1」から時相「2」における動きベクトル「a」を算出する。また、算出機能355は、基準ボクセルP1のペアである基準ボクセルP2の時相「1」から時相「2」における動きベクトル「b」を算出する。ここで、動きベクトル「a」及び「b」は、ボリュームデータのxyz座標系におけるx軸方向、y軸方向、z軸方向の動きベクトルにそれぞれ分解することができる。
【0057】
算出機能355は、基準ボクセルのペアそれぞれについて、上述したように基準ボクセルの位置の変化を特定することで、動きベクトルをそれぞれ算出する。そして、算出機能355は、基準ボクセルのペアごとに、「滑り度」をそれぞれ算出する。例えば、算出機能355は、以下の式(1)により、基準ボクセルP1と基準ボクセルP2に対応する輪郭線上のボクセルの「滑り度」を算出する。なお、式(1)における「S」は「滑り度」を示し、式(1)における「a」は、動きベクトル「a」を示し、式(1)における「b」は、動きベクトル「b」を示す。
【0058】
【0059】
すなわち、算出機能355は、式(1)に示すように、ペアの基準ボクセルの時相間での動きベクトルの差分を算出することで、基準ボクセルに対応する輪郭線上のボクセルの「滑り度」を算出する。算出機能355は、基準ボクセルのペアそれぞれについて、動きベクトルの差分を算出することで、肺領域の輪郭線を構成する各ボクセルの「滑り度」を算出する。
【0060】
算出機能355は、各時相間で上述した「滑り度」を算出する。すなわち、算出機能355は、時相「2」から時相「3」における「滑り度」から時相「n-1」から時相「n」における「滑り度」までをそれぞれ算出する。すなわち、算出機能355は、ボクセル位置情報に基づいて、時相「1」のボリュームデータで設定した基準ボクセルの位置の変化を各時相間でそれぞれ特定し、特定した位置の変化から各時相間での各基準ボクセルの動きベクトルをそれぞれ算出する。そして、算出機能355は、算出した各基準ボクセルの動きベクトルに基づいて、肺領域の輪郭線を構成する各ボクセルの「滑り度」を時相ごとにそれぞれ算出する。
【0061】
生成機能356は、算出機能355によって算出された「滑り度」と閾値とを比較することで、肺領域の輪郭線上の領域において「動いている部分」と「動いていない部分」とを、各時相のボリュームデータからそれぞれ抽出する。ここで、「滑り度」と比較される閾値は、任意に設定することができる。例えば、閾値を高く設定することで、肺領域の輪郭線上の領域においてほとんど動かない部分を「動いていない部分」として抽出することができる。一方、閾値を低く設定することで、肺領域の輪郭線上の領域においてわずかに動く部分も「動いていない部分」として抽出することができる。この閾値の設定は、状況(例えば、診断内容等)に応じて適宜変更される場合であってもよい。
【0062】
そして、生成機能356は、各時相のボリュームデータから抽出した「動いている部分」と「動いていない部分」とを用いて、複数の時相間における肺領域の位置ごとの動きを示す機能情報を生成する。例えば、生成機能356は、
図3の4段目の図に示すように、肺領域の位置ごとの動きを、肺野のボリュームレンダリング画像上に色で示した機能情報を生成する。
【0063】
かかる場合、例えば、生成機能356は、各時相における「動いていない部分」の論理解析によって、複数の時相間における肺領域の位置ごとの動きを解析し、解析結果を色で示した機能情報を生成する。一例を挙げると、生成機能356は、全時相数に対する「動いていない部分(或いは、動いている部分)」が重なった時相数の割合に応じて色分けした機能情報を生成する。例えば、生成機能356は、全時相に亘って「動いていない部分」の領域(10割の時相で「動いていない部分」が重なっている領域)を青で示し、全時相に亘って「動いている部分」の領域(「動いていない部分」が全く重なっていない領域)を赤で示し、「動いていない部分」が重なっている時相の割合に応じて色を変化させた機能情報を生成する。
【0064】
これにより、例えば、確実に胸膜癒着・浸潤が生じている領域と、もしかしたら胸膜癒着・浸潤が生じているかもしれない領域と、確実に胸膜癒着・浸潤が生じていない領域とを同時に表示させることができ、胸膜癒着・浸潤の状態を精度よく評価することができる。なお、上記した色分けの例はあくまでの一例であり、その他種々の色分けを行う場合であってもよい。例えば、生成機能356は、算出機能355によって算出された「滑り度」の大きさに応じて色分けを行うこともできる。
【0065】
例えば、生成機能356は、「動いていない部分」として判定する「滑り度」の値の範囲を、さらに複数段階に分け、それぞれの段階に応じて色を分ける場合であってもよい。一例を挙げると、生成機能356は、「動いていない部分」として判定する「滑り度」の値の範囲をさらに3段階に分け、最も高い範囲に属する「滑り度」が算出された領域を最も濃い色で示し、段階が下がるにつれて順に薄くなるように色を割り当てる。例えば、生成機能356は、全時相に亘って「動いていない部分」の領域において、最も高い範囲に属する「滑り度」が算出された領域を最も濃い青で示し、段階が下がるにつれて順に薄い青となるように色を割り当てる。
【0066】
これにより、胸膜癒着・浸潤の程度を表現することができる。例えば、用手的に剥離可能な胸膜癒着・浸潤と、デバイスを用いることで剥離可能な胸膜癒着・浸潤と、剥離不可能な重度の胸膜癒着・浸潤とを識別可能に表示させることができ、胸膜癒着・浸潤の状態を精度よく評価することができる。
【0067】
なお、上述した機能情報はあくまでも一例であり、生成機能356は、その他種々の機能情報を生成することができる。以下、生成機能356によって生成される機能情報の例について、
図4A~
図4Dを用いて説明する。
図4A~
図4Dは、第1の実施形態に係る生成機能356によって生成される機能情報の例を示す図である。
【0068】
例えば、生成機能356は、
図4Aに示すように、肺野のボリュームレンダリング画像に「動いていない部分」のみを重畳させた機能情報を生成することができる。なお、生成機能356は、肺野のボリュームレンダリング画像に「動いている部分」のみを重畳させた機能情報を生成することもできる。
【0069】
さらに、生成機能356は、
図4Aに示すように、各時相における「動いていない部分」を重畳させた際に全ての時相で重なっている領域R
andと、いずれかの時相において「動いていない部分」となっている領域R
orとを同時に示した機能情報を生成することができる。ここで、生成機能356は、「動いていない部分」の形状を正確に示した機能情報の他にも、「動いていない部分」を大よその形状で示した機能情報を生成することもできる。
【0070】
また、例えば、生成機能356は、複数時相の全期間に対して所定の割合の期間で重複する領域を示す機能情報を生成することもできる。一例を挙げると、生成機能356は、
図4Bに示すように、領域R
and及び領域R
orの他に、8割の期間で重複する領域R
80を示す機能情報を生成する。また、生成機能356は、重複する割合に応じた等高線を示した機能画像を生成することもできる。例えば、生成機能356は、2割、4割、6割、8割の重複を異なる色の等高線によって示した機能情報を生成する。
【0071】
また、生成機能356は、重複する期間の割合だけではなく、面積の割合を示した機能情報を生成することもできる。例えば、
図4Bに示す領域R
orの面積を10割とした場合に、生成機能356は、8割の面積の領域を示す機能情報を生成する。ここで、生成機能356は、例えば、領域R
orの形状を維持した状態で縮小させることで、8割の面積の領域を示す機能情報を生成する。
【0072】
さらに、生成機能356は、被検体の特徴点を含む機能情報を生成することもできる。例えば、生成機能356は、
図4Cに示すように、「動いていない部分」と、領域R
andに加えて、腫瘍領域R
11を示した機能情報を生成する。これにより、例えば、「動いていない部分」が、腫瘍の浸潤によるものであるのか、或いは、腫瘍とは関係ない炎症性の癒着によるものであるのかの判断材料を提供することができる。一例を挙げると、「動いていない部分」の大きさが腫瘍領域R
11と同程度の場合、「動いていない部分」が、腫瘍の浸潤によるものであると推定することができる。一方、「動いていない部分」の大きさが腫瘍領域R
11とよりもはるかに大きい場合、「動いていない部分」が、腫瘍の浸潤によるものではなく、炎症性の癒着によるものであると推定することができる。
【0073】
また、生成機能356は、
図4Dに示すように、被検体の特徴点として肋骨を示した機能情報を生成する。これにより、被検体内における「動いていない部分」の位置を正確に把握させることができ、術前の計画に有用な情報を提供することができる。
【0074】
上述したように、医用画像処理装置300は、複数の時相間における「滑り度」に基づいて機能情報を生成して表示することで、胸膜癒着・浸潤の状態を精度よく評価することを可能にする。医用画像処理装置300は、その他にも種々の処理を実行することができる。
【0075】
例えば、制御機能351は、被検体の情報に基づいて、機能情報の信頼度を示す情報をディスプレイ340に表示させることができる。
図5は、第1の実施形態に係る制御機能351によるワーニング表示の一例を示す図である。例えば、制御機能351は、被検体が肺気腫や、慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)により、肺野内の動きが悪いことが想定される場合、
図5に示すように、「肺疾患の影響が大きいため肺野内の動きが悪い事が想定されます。そのため過大評価する可能性がありますので、ご注意ください」とワーニング表示する。
【0076】
すなわち、もともとの肺の動きが小さい被検体の場合、胸膜癒着・浸潤がなくても「動いていない部分」が抽出されるおそれがある。したがって、そのような擬陽性の結果に基づく診断を回避するために、制御機能351は、
図5のようなワーニング表示を行う。
【0077】
ここで、制御機能351は、4Dデータに基づいて、肺の状態を推定することができる。例えば、制御機能351は、位置合わせ機能354による位置合わせ処理において、全時相に亘って位置合わせの変形度が低い場合、動きにくい肺であると推定する。或いは、制御機能351は、肺気腫解析ソフトによって4Dデータを処理することで、肺の状態を推定する。制御機能351は、4Dデータに基づく肺の状態の推定において、動きにくい肺であると推定した場合、
図5に示すようなワーニング表示を実行する。
【0078】
また、4Dデータの収集時の呼吸の仕方によって、肺の動きが小さくなる場合がある。そこで、制御機能351は、肺野内のCT値の変動に基づいて、呼吸がうまくできているか否かを判定し、判定結果に基づいてワーニング表示を行う。例えば、制御機能351は、肺野内のCT値の変動が少ない場合、呼吸がうまくできていない(空気をうまく吸えていない)と判定して、「呼吸が上手く出来ていない可能性があり,過大評価の可能性があります」とワーニング表示を行う。
【0079】
なお、呼吸がうまくできているか否かの判定には、呼吸機能検査の検査結果を用いることもできる。かかる場合には、例えば、制御機能351は、通信インターフェース310を介して呼吸機能検査の検査結果を取得し、取得した検査結果から被検体の呼吸機能の情報を取得する。そして、制御機能351は、呼吸機能の情報に基づいて、4Dデータにおける呼吸の状態を判定し、判定結果に基づいてワーニング表示を行う。
【0080】
また、制御機能351は、呼吸の状態だけではなく、事前に収集される全肺のデータを用いて既往歴を確認し、ワーニング表示を行うこともできる。例えば、制御機能351は、事前に収集された全肺のデータに対してLobe解析を行うことで、被検体の全肺について、上葉(upper lobe)、中葉(middle lobe)、下葉(lower lobe)のセグメンテーションを行う。ここで、手術により、右肺の上葉が除去されていた場合、制御機能351は、「右の上葉が存在しないため、過去に手術した可能性があります。この場合、過小評価する事がありますので注意ください」とワーニング表示を行う。なお、制御機能351は、ネットワーク400を介して、HIS(Hospital Information Systems)やRIS(Radiology Information Systems)から被検体の既往歴を取得することもできる。
【0081】
また、事前に収集される全肺のデータに基づいて、4Dデータの収集範囲が設定される場合であってもよい。例えば、事前に収集された全肺のデータにおいて特定された腫瘍の位置に基づいて、4Dデータのスキャン範囲が設定されてもよい。なお、腫瘍の位置は、例えば、医師によって指定されてもよく、CAD(Computer Aided Diagnosis)によって特定されてもよい。
【0082】
以下、4Dデータのスキャン範囲の設定について、
図6A~
図6Dを用いて説明する。
図6A~
図6Dは、第1の実施形態に係る4Dデータのスキャン範囲の設定の例を説明するための図である。例えば、腫瘍の位置が上葉である場合、
図6Aに示すように、腫瘍が上下方向の中心に位置するように、4Dデータのスキャン範囲が設定される。
【0083】
または、例えば、腫瘍の位置が上葉である場合、
図6Bに示すように、スキャン範囲の上端が肺尖に設定され、できるだけ肺門部まで含むように、4Dデータのスキャン範囲が設定される。肺尖の位置は呼吸動作中にほとんど変わらないため、このように設定した場合でも、4Dデータとして適したスキャン範囲を設定することができる。
【0084】
また、例えば、腫瘍の位置が下葉である場合、
図6Cに示すように、腫瘍が上下方向の中心に位置するように、4Dデータのスキャン範囲が設定される。または、腫瘍の位置が下葉である場合、呼吸による横隔膜の動きにつられて腫瘍の位置が4~5cm上葉側へ動くため、例えば、
図6Dに示すように、上端が上側に設定されるように、4Dデータのスキャン範囲が設定される。
【0085】
取得機能352は、上述したように設定されたスキャン範囲で収集された4Dデータを取得する。すなわち、取得機能352は、事前収集された被検体の全肺を含む医用画像データに基づいて決定されたスキャン範囲で収集された複数の医用画像データを取得する。ここで、上述したように、スキャン範囲は、被検体の全肺を含む医用画像データに含まれる病変部位及び被検体の肺の動きのうち少なくとも一方に基づいて決定される。
【0086】
上述したように、全肺のデータに基づいて4Dデータのスキャン範囲が設定された場合、生成機能356は、全肺のデータの肺に動きを示した機能情報を生成することができる。すなわち、生成機能356は、被検体の全肺を含む医用画像データに、動きに関する指標に基づく被検体の肺の位置ごとの動きを示した機能情報を生成する。例えば、生成機能356は、全肺を含む医用画像データから生成した表示画像に「動いていない部分」を重畳させた機能情報を生成することができる。
【0087】
(変形例1)
上述した実施形態では、動きに関する指標として「滑り度」を算出する場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではなく、「移動距離」、「速度」、「加速度」、「ベクトルの相関」、「CT値の変動」が用いられる場合であってもよい。以下、これらの指標を算出する場合について、
図7A及び
図7Bを用いて説明する。
図7A及び
図7Bは、第1の実施形態に係る変形例1を説明するための図である。なお、
図7Aは、「移動距離」、「速度」、「加速度」を算出する場合について示す。また、
図7Bは、「ベクトルの相関」を算出する場合について示す。
【0088】
例えば、「移動距離」、「速度」、「加速度」を算出する場合、算出機能355は、
図7Aに示すように、肺領域の内側表面を設定する。すなわち、算出機能355は、肺野内に基準ボクセルを設定する。なお、基準ボクセルの設定は、上述した方法と同様に設定することができる。そして、算出機能355は、ボクセル位置情報に基づいて、時相「n-1」から時相「n」の基準ボクセルの移動距離「a」を算出する。例えば、算出機能355は、時相「n-1」における基準ボクセル「P3」の位置と時相「n」における基準ボクセル「P3」の位置とに基づいて、移動距離「a」を算出する。
【0089】
また、算出機能355は、時相「n-1」と時相「n」との間の時間間隔と移動距離「a」に基づいて、基準ボクセル「P3」の移動速度を算出する。また、算出機能355は、時間間隔と移動距離の差を用いて、基準ボクセル「P3」の加速度を算出する。なお、「移動距離」、「速度」、「加速度」は、値が大きいほど、動きが大きいことを示す。
【0090】
また、例えば、「ベクトルの相関」を算出する場合、算出機能355は、
図7Bに示すように、肺領域の内側表面と外側表面を設定する。すなわち、算出機能355は、肺野内と肺野外に基準ボクセルをそれぞれ設定する。なお、基準ボクセルのペアの設定は、上述した方法と同様に設定することができる。そして、算出機能355は、上述した例と同様に、各基準ボクセルの動きベクトルを算出し、算出した動きベクトルに基づいて、
図7Bに示すように「ベクトルの相関」を算出する。なお、「ベクトルの相関」は、値が大きいほど、動きが小さいことを示す。
【0091】
また、例えば、「CT値の変動」を算出する場合、算出機能355は、肺野内に設定した基準ボクセルの時相間での「CT値の変動」を算出する。なお、「CT値の変動」は、値が小さいほど、動きが小さいことを示す。
【0092】
上述したように、算出機能355が指標を算出すると、生成機能356は、算出された指標に基づいて、機能情報を生成する。以下、生成機能356によって生成される機能情報の例について、
図8及び
図9を用いて説明する。
図8及び
図9は、第1の実施形態に係る変形例1における機能情報の一例を示す図である。
【0093】
例えば、生成機能356は、
図8に示すように、「移動距離」、「速度」、「加速度」、「ベクトルの相関」の算出結果に基づいて、「動いていない部分」を抽出し、抽出した「動いていない部分」を肺野のボリュームレンダリング画像に重畳させた機能情報を生成する。ここで、生成機能356は、算出機能355によって算出された複数の指標を組み合わせた機能情報を生成することもできる。例えば、生成機能356は、
図9に示すように、「滑り度」に基づいて抽出した「動いていない部分」と、「加速度」に基づいて抽出した「動いていない部分」とを、同一のボリュームレンダリング画像に重畳させた機能情報を生成する。
【0094】
(変形例2)
また、上述した実施形態では、算出した指標をそのまま用いる場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではなく、算出した指標に重み付けを行う場合であってもよい。以下、算出した指標に対して重み付けを行う例について、
図10を用いて説明する。
図10は、第1の実施形態に係る変形例2を説明するための図である。
【0095】
例えば、算出機能355は、動きに関する指標に対して、時相に基づく重み付けを行う。一例を挙げると、算出機能355は、
図10に示すように、最大吸気時相の直後の時相が最大となり、最大呼気時相に向かって徐々に小さくなる重み付けを行う。上述したように、呼吸動作中の肺の動きは、息のはき始めが一番大きく動く。そこで、算出機能355は、最も動きが大きい時相でも「動いていない部分」に大きな重み付けを行う。
【0096】
また、例えば、算出機能355は、対象部位の位置ごとに算出した指標に基づいて、各位置の他の指標に対して重み付けを行うこともできる。一例を挙げると、算出機能355は、対象部位の各位置について「加速度」を算出して、算出した「加速度」が大きい位置の「滑り度」に対してより大きな重み付けを行う。
【0097】
また、例えば、算出機能355は、動きに関する指標に対して、対象部位における位置に基づく重み付けを行うこともできる。例えば、肺野の下端は、横隔膜の動きに伴って大きく動く。そこで、算出機能355は、例えば、下葉において算出された指標に対してより大きい重み付けを行う。
【0098】
(変形例3)
また、上述した実施形態では、ボリュームレンダリング画像を用いて機能情報を生成する場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではなく、種々の画像を用いて機能情報を生成する場合であってもよい。以下、MPR画像を用いて機能情報を生成する場合について、
図11を用いて説明する。
図11は、第1の実施形態に係る変形例3における機能情報を示す図である。
【0099】
例えば、生成機能356は、
図11に示すように、コロナル面のMPR画像に含まれる肺野の輪郭に対して動きを示す情報L1を重畳した機能情報を生成する。ここで、生成機能356は、例えば、動きの状態に応じて情報L1の色を変化させた機能情報を生成する。一例を挙げると、生成機能356は、「動いていない部分」の情報L1を青で示した機能情報を生成する。
【0100】
ここで、
図11においては、コロナル面のMPR画像のみを示しているが、実施形態はこれに限定されるものではなく、生成機能356は、アキシャル面のMPR画像、サジタル面のMPR画像に対して動きを示す情報を重畳した機能情報を生成することもできる。
【0101】
次に、第1の実施形態に係る医用画像処理装置300による処理の手順について説明する。
図12は、第1の実施形態に係る医用画像処理装置300による処理手順を示すフローチャートである。ここで、
図12におけるステップS101は、例えば、処理回路350が取得機能352に対応するプログラムを記憶回路320から呼び出して実行することにより実現される。また、ステップS102は、例えば、処理回路350が抽出機能353に対応するプログラムを記憶回路320から呼び出して実行することにより実現される。また、ステップS103は、例えば、処理回路350が算出機能355に対応するプログラムを記憶回路320から呼び出して実行することにより実現される。また、ステップS104は、処理回路350が生成機能356に対応するプログラムを記憶回路320から呼び出して実行することにより実現される。また、ステップS105は、処理回路350が位置合わせ機能354に対応するプログラムを記憶回路320から呼び出して実行することにより実現される。また、ステップS106は、処理回路350が制御機能351に対応するプログラムを記憶回路320から呼び出して実行することにより実現される。
【0102】
本実施形態に係る医用画像処理装置300では、まず、処理回路350が、3時相以上の複数時相のボリュームデータを取得する(ステップS101)。そして、処理回路350が、対象部位を抽出して(ステップS102)、時相ごとに、対象部位の位置ごとの動きに関する指標を算出する(ステップS103)。
【0103】
そして、処理回路350は、動きに関する指標に基づいて、機能情報を生成して(ステップS104)、各時相のデータを所定の時相のデータに対して位置合わせする(ステップS105)。その後、処理回路350は、所定の時相における対象部位に対して、各時相の機能情報を表示させる(ステップS106)。
【0104】
上述したように、第1の実施形態によれば、取得機能352は、少なくとも3時相以上の複数時相において被検体の対象部位を含んで撮像された複数の医用画像データを取得する。算出機能355は、複数時相に対応する複数の医用画像データそれぞれについて、各医用画像データに含まれる対象部位の位置ごとに、動きに関する指標を算出する。生成機能356は、複数の医用画像データそれぞれについて対象部位の位置ごとに算出された動きに関する指標に基づいて、複数の時相間における対象部位の位置ごとの動きを示す機能情報を生成する。制御機能351は、機能情報をディスプレイ340に表示させる。従って、第1の実施形態に係る医用画像処理装置300は、処理に用いた医用画像データの時相の全期間に亘って、対象部位全体の動きを網羅的に表示させることができ、肺野と胸壁との間の胸膜癒着・浸潤の有無や程度、その範囲などを精度よく評価することを可能にする。
【0105】
また、第1の実施形態によれば、算出機能355は、対象部位の位置ごとに、複数時相における隣接する時相間での動きに関する指標を算出する。従って、第1の実施形態に係る医用画像処理装置300は、時相間での詳細な動きを表示させることができ、胸膜癒着や浸潤を精度よく評価することを可能にする。
【0106】
また、第1の実施形態によれば、生成機能356は、複数時相に対応する複数の医用画像データそれぞれについて対象部位の位置ごとに算出された動きに関する指標と閾値とをそれぞれ比較し、比較結果に基づく領域を対象部位上に示した機能情報を生成する。従って、第1の実施形態に係る医用画像処理装置300は、胸膜癒着や浸潤の程度、その範囲などを精度よく評価することを可能にする。
【0107】
また、第1の実施形態によれば、生成機能356は、複数時相の比較結果それぞれに対応する複数の領域を論理解析することで、機能情報を生成する。また、生成機能356は、複数の領域において複数時相の全期間に対して所定の割合の期間で重複する領域を示す機能情報を生成する。また、生成機能356は、複数の領域の面積に対して所定の割合の面積を有する領域を示す機能情報を生成する。従って、第1の実施形態に係る医用画像処理装置300は、胸膜癒着や浸潤の程度を精度よく評価することを可能にする。
【0108】
また、第1の実施形態によれば、算出機能355は、動きに関する指標に対して、時相に基づく重み付けを行う。生成機能356は、重み付けが行われた後の動きに関する指標に基づいて、機能情報を生成する。また、算出機能355は、動きに関する指標に対して、対象部位における位置に基づく重み付けを行う。生成機能356は、重み付けが行われた後の動きに関する指標に基づいて、機能情報を生成する。従って、第1の実施形態に係る医用画像処理装置300は、対象部位の実際の動きを考慮して動きに関する指標を算出することができ、より精度の高い評価を行うことを可能にする。
【0109】
また、第1の実施形態によれば、生成機能356は、所定の時相に対応する医用画像データに含まれる対象部位上に、複数の時相間における対象部位の位置ごとの動きをそれぞれ示した機能情報を生成する。従って、第1の実施形態に係る医用画像処理装置300は、観察し易い機能情報を表示させることを可能にする。
【0110】
また、第1の実施形態によれば、取得機能352は、被検体の呼気を少なくとも含む呼吸動作において収集された複数の医用画像データを取得する。従って、第1の実施形態に係る医用画像処理装置300は、肺の動きが大きい時相を含む医用画像データを取得することができ、評価の精度を向上さえることを可能にする。
【0111】
また、第1の実施形態によれば、取得機能352は、事前収集された被検体の全肺を含む医用画像データに基づいて決定された撮像範囲で収集された複数の医用画像データを取得する。算出機能355は、複数の医用画像データそれぞれについて、動きに関する指標を算出する。生成機能356は、被検体の全肺を含む医用画像データに、動きに関する指標に基づく被検体の肺の位置ごとの動きを示した機能情報を生成する。また、撮像範囲は、前記被検体の全肺を含む医用画像データに含まれる病変部位及び被検体の肺の動きのうち少なくとも一方に基づいて決定される。従って、第1の実施形態に係る医用画像処理装置300は、観察しやすい全肺のデータで機能情報を表示さえることを可能にする。
【0112】
また、第1の実施形態によれば、制御機能351は、被検体の情報に基づいて、機能情報の信頼度を示す情報をディスプレイ340に表示させる。従って、第1の実施形態に係る医用画像処理装置300は、擬陽性の結果に基づく診断を回避させることを可能にする。
【0113】
また、第1の実施形態によれば、算出機能355は、動きに関する指標として、滑り度、移動距離、速度、加速度、ベクトル相関及びボクセル値の変動のうち少なくとも1つを算出する。従って、第1の実施形態に係る医用画像処理装置300は、種々の指標で動きを解析することを可能にする。
【0114】
また、第1の実施形態によれば、算出機能355は、動きに関する指標として、滑り度、移動距離、速度、加速度、ベクトル相関及びボクセル値の変動のうち少なくとも1つを算出する。また、算出機能355は、動きに関する指標として、滑り度、移動距離、速度、加速度、ベクトル相関及びボクセル値の変動のうち少なくとも2つ以上の値を算出する。生成機能356は、少なくとも2つ以上の値を組み合わせた機能情報を生成する。従って、第1の実施形態に係る医用画像処理装置300は、種々の指標で動きを解析することを可能にする。
【0115】
また、第1の実施形態によれば、生成機能356は、被検体の特徴点を含む機能情報を生成する。従って、第1の実施形態に係る医用画像処理装置300は、位置関係を把握しやすい機能情報を表示させることを可能にする。
【0116】
(第2の実施形態)
さて、これまで第1の実施形態について説明したが、上述した第1の実施形態以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。
【0117】
上述した第1の実施形態では、単一のボクセルを基準ボクセルとして設定する場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、複数のボクセルを含むボクセル群を基準として設定する場合であってもよい。
【0118】
また、上述した実施形態では、医用画像処理装置300が各種処理を実行する場合について説明した。しかしながら、実施形態はこれに限定されるものではなく、例えば、X線CT装置などの医用画像診断装置100において各種処理が実行される場合であってもよい。かかる場合には、例えば、医用画像診断装置における処理回路が、上述した制御機能351と同様の処理を実行する制御機能と、上述した抽出機能353と同様の処理を実行する抽出機能と、上述した位置合わせ機能354と同様の処理を実行する位置合わせ機能と、上述した算出機能355と同様の処理を実行する算出機能と、上述した生成機能356と同様の処理を実行する生成機能とを実行する。
【0119】
また、上述した実施形態では、単一の処理回路(処理回路350)によって各処理機能が実現される場合の例を説明したが、実施形態はこれに限られない。例えば、処理回路350は、複数の独立したプロセッサを組み合わせて構成され、各プロセッサが各プログラムを実行することにより各処理機能を実現するものとしても構わない。また、処理回路350が有する各処理機能は、単一又は複数の処理回路に適宜に分散又は統合されて実現されてもよい。
【0120】
上述した各実施形態の説明で用いた「プロセッサ」という文言は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、或いは、特定用途向け集積回路(Application Specific Integrated Circuit:ASIC)、プログラマブル論理デバイス(例えば、単純プログラマブル論理デバイス(Simple Programmable Logic Device:SPLD)、複合プログラマブル論理デバイス(Complex Programmable Logic Device:CPLD)、及びフィールドプログラマブルゲートアレイ(Field Programmable Gate Array:FPGA))等の回路を意味する。ここで、記憶回路にプログラムを保存する代わりに、プロセッサの回路内にプログラムを直接組み込むように構成しても構わない。この場合には、プロセッサは回路内に組み込まれたプログラムを読み出し実行することで機能を実現する。また、本実施形態の各プロセッサは、プロセッサごとに単一の回路として構成される場合に限らず、複数の独立した回路を組み合わせて一つのプロセッサとして構成され、その機能を実現するようにしてもよい。
【0121】
ここで、プロセッサによって実行されるプログラムは、ROM(Read Only Memory)や記憶部等に予め組み込まれて提供される。なお、このプログラムは、これらの装置にインストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD(Compact Disk)-ROM、FD(Flexible Disk)、CD-R(Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記録されて提供されてもよい。また、このプログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納され、ネットワーク経由でダウンロードされることにより提供又は配布されてもよい。例えば、このプログラムは、各機能部を含むモジュールで構成される。実際のハードウェアとしては、CPUが、ROM等の記憶媒体からプログラムを読み出して実行することにより、各モジュールが主記憶装置上にロードされて、主記憶装置上に生成される。
【0122】
以上説明した少なくとも一つの実施形態によれば、胸膜癒着・浸潤の状態を精度よく評価することができる。
【0123】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0124】
350 処理回路
351 制御機能
352 取得機能
353 抽出機能
354 位置合わせ機能
355 算出機能
356 生成機能
300 医用画像処理装置