(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】ウエーハの保護方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20221109BHJP
H01L 21/301 20060101ALI20221109BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
H01L21/304 622J
H01L21/78 M
H01L21/68 N
(21)【出願番号】P 2018158913
(22)【出願日】2018-08-28
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】小林 真
(72)【発明者】
【氏名】椙浦 一輝
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-166459(JP,A)
【文献】特開2007-165636(JP,A)
【文献】特開2015-126183(JP,A)
【文献】特開2013-219175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
H01L 21/301
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウエーハの面に、シート状の保護部材を配設してウエーハを保護するウエーハの保護方法であって、
保護部材の基材となるポリオレフィン系のシート、又はポリエステル系のシートを準備するシート準備工程と、
該シートの面を加熱して粘着力を生成する粘着力生成工程と、
粘着力が生成されたシートの面を、保護すべきウエーハの面に敷設し、押圧力を付与してウエーハの面に該シートを圧着するシート圧着工程と、
該ウエーハの面に圧着したシートを加熱して粘着力を強化する粘着力強化工程と、
から少なくとも構成され
、
該粘着力生成工程において、第一の加熱手段から熱風を噴射してシートの面に吹付け、シート自体を溶融させることなく、且つ粘着力が付与される温度に加熱して、該シートに粘着力を生成するウエーハの保護方法。
【請求項2】
該粘着力強化工程において、第二の加熱手段から熱風を噴射してシートの面に吹付け、シート自体を溶融させることなく、且つ粘着力が付与される温度に加熱して、粘着力を強化する請求項1に記載のウエーハの保護方法。
【請求項3】
該粘着力強化工程においてシートを加熱する際のシートの目標温度を、該粘着力生成工程においてシートを加熱する際のシートの目標温度と同等、又はそれよりも高く設定する請求項1、又は2に記載のウエーハの保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウエーハの面に、シート状の保護部材を配設してウエーハを保護するウエーハの保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の複数のデバイスが分割予定ラインによって区画され表面に形成されたウエーハは、研削装置によって裏面が研削されて所定の厚みに形成された後、ダイシング装置によって個々のデバイスに分割され携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される。
【0003】
研削装置は、ウエーハを保持する保持面を有するチャックテーブルと、該チャックテーブルに保持されたウエーハの上面を研削する研削ホイールを回転可能に備えた研削手段と、研削砥石を研削送りする送り手段と、から少なくとも構成されていて、ウエーハを所望の厚みに加工することができる(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
また、チャックテーブルの保持面と、ウエーハの表面との接触によってウエーハの表面に形成された複数のデバイスに傷が付かないように、ウエーハの表面には、粘着糊を有する保護テープが貼着される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウエーハの表面に保護部材として貼着される保護テープは、研削加工が施された後、ウエーハの表面から剥離されるが、ウエーハから剥離すると、保護テープの粘着糊の一部がウエーハの表面に付着したまま残り、デバイスの品質を低下させるという問題がある。
【0007】
また、レーザー加工装置やダイシング装置等の加工装置でウエーハを加工する場合、ウエーハを収容する開口を有する環状のフレームにウエーハを収容し、粘着テープでウエーハの裏面と該フレームとを貼着し、粘着テープを介してウエーハをフレームで支持した状態として、各加工装置に保持されて加工が施される。この粘着テープを介してフレームで支持されたウエーハを個々のデバイスチップに分割した後、粘着テープからデバイスチップをピックアップすると、やはり、デバイスチップの裏面に粘着テープの糊剤の一部が付着して残り、デバイスチップの品質を低下させるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記事実に鑑みなされたものであり、その主たる技術課題は、デバイスの品質を低下させることのないウエーハの保護方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記主たる技術課題を解決するため、本発明によれば、ウエーハの面に、シート状の保護部材を配設してウエーハを保護するウエーハの保護方法であって、保護部材の基材となるポリオレフィン系のシート、又はポリエステル系のシートを準備するシート準備工程と、該シートの面を加熱して粘着力を生成する粘着力生成工程と、粘着力が生成されたシートの面を、保護すべきウエーハの面に敷設し、押圧力を付与してウエーハの面に該シートを圧着するシート圧着工程と、該ウエーハの面に圧着したシートを加熱して粘着力を強化する粘着力強化工程と、から少なくとも構成され、該粘着力生成工程において、第一の加熱手段から熱風を噴射してシートの面に吹付け、シート自体を溶融させることなく、且つ粘着力が付与される温度に加熱して、該シートに粘着力を生成するウエーハの保護方法が提供される。
【0010】
該粘着力強化工程において、第二の加熱手段から熱風を噴射してシートの面に吹付け、シート自体を溶融させることなく、且つ粘着力が付与される温度に加熱して、粘着力を強化することが好ましい。さらに、該粘着力強化工程においてシートを加熱する際のシートの目標温度を、該粘着力生成工程においてシートを加熱する際のシートの目標温度と同等、又はそれよりも高く設定することが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明のウエーハの保護方法は、保護部材の基材となるポリオレフィン系のシート、又はポリエステル系のシートを準備するシート準備工程と、該シートの面を加熱して粘着力を生成する粘着力生成工程と、粘着力が生成されたシートの面を、保護すべきウエーハの面に敷設し、押圧力を付与してウエーハの面に該シートを圧着するシート圧着工程と、該ウエーハの面に圧着したシートを加熱して粘着力を強化する粘着力強化工程と、から少なくとも構成され、該粘着力生成工程において、第一の加熱手段から熱風を噴射してシートの面に吹付け、シート自体を溶融させることなく、且つ粘着力が付与される温度に加熱して、該シートに粘着力を生成することから、ウエーハに保護部材を確実に貼着することができると共に、ウエーハから保護部材を剥離しても粘着糊の一部がウエーハの表面に付着することがなく、デバイスの品質を低下させるという問題が解消する。また、該ウエーハの保護方法を、ウエーハを個々のデバイスチップに分割する際に、該保護部材を粘着テープとして使用した場合は、ウエーハを個々のデバイスチップに分割した後、粘着テープからデバイスチップをピックアップしてもデバイスチップの裏面に粘着糊の一部が付着することがなく、デバイスチップの品質を低下させるという問題が解消する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】保護部材の基材となるシートの全体斜視図である。
【
図2】
図1に示すシートに粘着力生成工程を施す態様を示す斜視図である。
【
図3】保護部材が適用されるウエーハを準備する工程を示す斜視図である。
【
図4】シート圧着工程を実施すべく準備する状態を示す斜視図である。
【
図5】シート圧着工程の実施態様を示す斜視図である。
【
図6】
図5に示すシート圧着工程の後に実施される、シート切断工程の実施態様を示す斜視図である。
【
図7】粘着力強化工程を実施する態様を示す斜視図である。
【
図8】保護部材が貼着されたウエーハを、研削装置のチャックテーブルに載置する状態を示す斜視図である。
【
図9】
図8に示すウエーハの裏面を研削する裏面研削工程の実施態様を示す斜視図である。
【
図10】本発明の他の実施形態を示す図であり、(a)シート圧着工程の他の実施態様を示す斜視図、(b)シート切断工程の他の実施態様を示す斜視図である。
【
図11】(a)
図10に示す他の実施形態によってシート圧着工程が施されたシートに粘着力強化工程を施す他の実施態様を示す斜視図、(b)(a)に示す粘着力強化工程が施されたウエーハが、粘着シートを介してフレームに支持された状態を示す斜視図である。
【
図12】粘着シートを介してフレームに支持されたウエーハを個々のデバイスチップに分割するダイシング加工を実施する態様を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に基づいて構成されるウエーハの保護方法に係る実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
本実施形態に係るウエーハの保護方法を実施するに際し、まず、本実施形態に用いられる保護部材の基材となるシートを準備するシート準備工程を実施する。
【0015】
図1には、保護部材の基材となるシート20の斜視図が示されている。シート20は、保護対象となるウエーハの直径よりも大きい幅寸法に設定されている。シート20は、ポリオレフィン系のシート、又はポリエステル系のシートから選択することが可能であり、本実施形態では、ポリオレフィン系のシートからポリエチレンシートが選択されている。
図1は、粘着性が生成されていない状態でシート20が芯A1に巻き取られたシートロール20Aから、その一部が矢印Xで示す方向に引き出され、その始端を芯A2に巻き取らせた状態を示している。シートロール20Aの芯A1、及び芯A2は、共に、保護部材生成装置(図示は省略している。)の図示しない支持部材に回転自在に支持されており、巻き取り側の芯A2には、図示しない回転駆動手段が配設され、作業者の図示しないスイッチ操作によりシート20を巻き取ることができる。シート20には、表面20a、裏面20bがあり、表面20aには、微小な凹凸、いわゆるシボ加工が付与されているのに対し、裏面20b側は平坦面である。
【0016】
上記したように、保護部材の基材となるシート20を準備したならば、シート20に粘着力を生成して保護部材として機能する状態とする粘着力生成工程を実施する。以下に、
図2を参照しながら、粘着力生成工程についてより具体的に説明する。
【0017】
粘着力生成工程を実施するに際し、
図2に示すように、シートロール20Aから所定の長さだけ引き出されたシート20の裏面20bの下方に、第一の加熱手段30Aを位置付ける。第一の加熱手段30Aは、第一のヒータ本体部32Aと、第一の噴射部34Aとを備える。第一のヒータ本体部32Aには、図示しない加熱ヒータ、温度センサ、送風機構等が内蔵されている。第一の噴射部34Aは、第一のヒータ本体部32Aから送られる熱風を噴射すべく円筒形状をなしており、第一のヒータ本体部32Aで生成された熱風W1は、第一の噴射部34Aの噴射口34aから上方に向けて噴射される。この第一の加熱手段30Aは、図示しない電源、及び制御装置に接続され、該温度センサを備えることにより、噴射口34aから噴射する熱風W1を所望の温度(本実施形態では300℃)に調整する。
【0018】
第一の加熱手段30Aを作動して、シート20の下面20bに向けて熱風W1を噴射すると、熱風W1が噴射口34aからシート20までの距離で冷やされる等して、シート20の所定の保護部材領域22が90~110℃に加熱される。この90~110℃の温度は、シート20として選択されたポリエチレンシートの溶融温度(120~140℃)に至らず、溶解(流動化)しない温度であり、且つ、シート20に粘着力が生成される温度(粘着力生成温度)である。なお、粘着力生成工程を実施する作業現場の気温や、噴射口34aからシート20の裏面20bまでの距離等に応じて、シート20の温度が上記した粘着力生成温度になるように、第一の加熱手段30Aから噴射される熱風W1の温度は適宜調整される。
【0019】
シート20において粘着力生成温度に加熱される保護部材領域22は、少なくとも、保護すべきウエーハよりも大きな領域となるように設定されるが、シートロール20Aから引き出されて露出するシート20全体を保護部材領域22として加熱しても良い。第一の噴射部34Aから熱風W1を噴きつけることができる面積が狭い場合は、シート20、第一の加熱手段30Aのいずれかを水平方向で適宜移動させることにより、所望の保護部材領域22全体を加熱することができる。なお、
図2、及び
図4乃至6においては、説明の都合上、粘着力が生成された保護部材領域22を、粘着力が生成されない領域と区別できるように強調して示しているが、実際は粘着力が生成される保護部材領域22と、粘着力が生成されないその他の領域とで、明確に視認できるほどの相違はない。以上により、粘着力生成工程が完了し、シート20に粘着力が付与され、保護部材領域22が保護部材として機能する状態となる。
【0020】
上記したように、シート20の面を加熱して、シート20に粘着力を生成したならば、粘着力が生成されたシート20の面(保護部材領域22)を、保護すべきウエーハ面に敷設し、押圧力を付与してウエーハの面にシートを圧着するシート圧着工程を実施する。以下に、
図3乃至5を参照しながら、シート圧着工程について、より具体的に説明する。
【0021】
シート圧着工程を実施するに際し、
図3に示すように、研削加工に備えて保護部材を貼着する必要があるウエーハ10を用意する。ウエーハ10は、半導体基板からなり、複数のデバイス12が分割予定ライン14によって区画され表面10aに形成されている。本実施形態では、このウエーハ10の表面10aが保護すべき面であることから、裏面10b側を下方に向け、シート圧着工程を実施するための保持テーブル40上に形成された通気性を有する吸着チャック42上にウエーハ10を載置する。保持テーブル40には、図示しない吸引手段が接続されており、該吸引手段を作動させることにより、保持テーブル40にウエーハ10を吸引保持する(ウエーハ準備工程)。なお、このウエーハ準備工程は、シート圧着工程の前に完了していればよく、粘着力形成工程の実施前、実施後いずれであってもよい。
【0022】
保持テーブル40上にウエーハ10を保持したならば、
図4に示すように、保護部材領域22の下方に位置付けられていた第一の加熱手段30Aに替えて、ウエーハ準備工程によって準備された保持テーブル40を保護部材領域22の下方に位置付ける。保護部材領域22の下方に保持テーブル40を位置付けたならば、保持テーブル40に保持されたウエーハ10が、保護部材領域22の下面と接するようにシート20、又は保持テーブル40の高さを調整する。
【0023】
保護部材領域22の下面にウエーハ10を位置付けたならば、
図5に示す押圧ローラ50を保護部材領域22の上方に位置付ける。押圧ローラ50は、弾性を有する硬質ウレタンゴム等から構成されている。押圧ローラ50を保護部材領域22の上方に位置付けたならば、矢印Zで示す方向に下降させて保護部材領域22に押し当てて、押圧ローラ50を矢印R1で示す方向に回転させつつ、手前側端部から矢印Dで示す方向に移動させ、保護部材領域22をウエーハ10の表面10a全体に押圧して圧着して、シート圧着工程が完了する。なお、上記したように、シート20の保護部材領域22は、予め加熱されて粘着力が生成されており、温度が低下しても粘着力が維持されていることから、保護部材領域22はウエーハ10の表面10aに貼着される。また、シート20の表面20a側には、微小な凹凸が形成されていることから、上記した粘着力生成工程が施され保護部材領域22に粘着力が付与されていても、押圧ローラ50にシート20が貼り付いてしまうことが防止される。
【0024】
上記したシート圧着工程が完了したならば、後述する研削加工を考慮して、ウエーハ10の形状に合わせてシート20を切断するシート切断工程を実施する。以下に、
図6を参照しながら、シート切断工程について説明する。
【0025】
シート切断工程を実施するに際し、
図6に示すように、シート圧着工程で使用した押圧ローラ50に替えて、円盤状のローラカッター52を保護部材領域22の上方であって、ウエーハ10の外周縁の上方に位置付ける。ローラカッター52をウエーハ10の外周縁上に位置付けたならば、次いで、ローラカッター52を矢印R2の方向に回転させながら、ウエーハ10の外縁に沿って移動させてシート20を円形状にカットする。以上により、シート切断工程が完了する。
【0026】
上記したシート切断工程が完了したならば、保持テーブル40を下降させ、又は、シート20全体を上昇させて、シート20とウエーハ10を離反する。これにより、保護部材領域22のうち、ウエーハ10の外周縁に沿ってカットされた保護部材22aがウエーハ10に貼着された状態となる。なお、シート20から保護部材22aがカットされて切り離された後に、巻き取り側の芯A2を回転させて保護部材22aが切り出された領域を巻き取ることにより、シートローラ20Aから、まだ粘着力生成工程が施されていない領域が引き出され、再び粘着力生成工程を実施できる状態とすることができる。そして、上記した粘着力生成工程、シート圧着工程、及びシート切断工程を適宜繰り返すことにより、複数のウエーハ10に対して保護部材22aを配設することができる。
【0027】
上記した実施形態では、粘着力生成工程、シート圧着工程、及びシート切断工程を適宜繰り返すことにより、複数のウエーハ10に対して保護部材22aを配設する旨を説明した。しかし、本発明はこれに限定されず、例えば、
図2に基づいて説明した粘着力生成工程を、シートロール20Aに巻き取られているシート20を引き出し芯A2に巻き取りながら、シート20の始端から終端まで、連続して施しておくことも可能である。シート20を加熱することにより付与される粘着力は、温度が低下しても維持されるが、シート20の上面20aには、凹凸加工(シボ加工)が施されているため、粘着力が付与された後にシート20を巻き取った後もシート20の重なった部分が固着することがない。このように、予めシート20全体に対して粘着力を付与しておくことで、ウエーハ10に対して保護部材22aを圧着するシート圧着工程及びシート切断工程を、粘着力生成工程を挟むことなく、連続して実施することができる。
【0028】
上記したように、粘着力生成工程によって粘着力が生成される際の温度は、溶融温度に対して低い値に設定されることから、シート20が溶融せず軟化し過ぎない状態で粘着力が生成され圧着される。したがって、シート圧着工程においてシート20をウエーハ10に圧着する際の取り扱い性に優れ作業性がよく、また、仮にシート圧着工程時にシート20に皺等が発生しても、剥離して作業をやり直すことも容易に実行し得る。他方、シート20から切り出された保護部材22aをウエーハ10に対して確実に貼着して一体化するという観点でみると、上記粘着力生成工程、及びシート圧着工程を経ても、一体化をより高める余地が残っている。そこで、本実施形態では、さらに、粘着力強化工程を実施する。以下に、
図7を参照しながら、粘着力強化工程について具体的に説明する。
【0029】
粘着力強化工程を実施するに際し、まず、
図7に示すように、保持テーブル40に保持されたウエーハ10の上方に、第二の加熱手段30Bを位置付ける。第二の加熱手段30Bは、第二のヒータ本体部32Bと、第二の噴射部34Bとを備えている。第二のヒータ本体部32Bには、図示しない加熱ヒータ、温度センサ、送風機構等が内蔵されている。第二の噴射部34Bは、第二のヒータ本体部32Bから送られる熱風を噴射すべく円筒形状をなしており、第二のヒータ本体部32Bで生成された熱風W2は、第二の噴射部34Bから下方に向けて噴射される。この第二の加熱手段30Bは、図示しない電源、及び制御装置に接続され、該温度センサを使用して、第二の噴射部34Bから噴射する熱風W2を所望の温度(例えば、300℃)に調整する。
【0030】
第二の加熱手段30Bを作動して、シート20から形成された保護部材22aに向けて熱風W2を噴射すると、熱風W2が第二の噴射部34Bから保護部材22aまでの距離で冷やされる等して、保護部材22aが100~120℃に加熱される。この100~120℃の温度は、シート20として選択されたポリエチレンシートの溶融温度(120~140℃)に至らず、溶解(流動化)しない温度であり、且つ、保護部材22aの粘着力が生成される、すなわち、粘着力が強化される温度(粘着力強化温度)である。なお、粘着力強化工程を実施する作業現場の気温や、第二の噴射部34Bの噴射口から保護部材22aまでの距離等に応じて、保護部材22aの温度が上記した粘着力強化温度になるように、第二の加熱手段30Bから噴射される熱風W2の温度が適宜調整されるが、好ましくは、保護部材22aが加熱される際の目標温度は、粘着力生成工程においてシート20を加熱した際の温度と同等か、又は、それよりも高い温度に設定されることが好ましい。このように粘着力強化工程を実施することで、保護部材22aが軟化してウエーハ10の表面10aの凹凸に保護部材22aが馴染み一体化度合いが高められ、後述する裏面研削加工を施す際に意図しない剥離等を生じることが防止される。以上のようにして、粘着力強化工程が完了する。
【0031】
粘着力強化工程が実施されたことにより、保護部材22aがウエーハ10の表面10aに確実に貼着され、ウエーハ10の裏面10bを研削する裏面研削加工を実施することができる。以下に、
図8、及び
図9を参照しながら、裏面研削加工について説明する。
【0032】
ウエーハ10に対して裏面研削工程を実施するに際し、
図8に示すように、粘着力が強化されて保護部材22aが圧着されたウエーハ10の保護部材22a側を下方に向け、裏面10bが上方に露出した状態で研削装置60(一部のみ示している。)のチャックテーブル62に載置する。チャックテーブル62の上面には、通気性を有する吸着チャック62aが形成されており、図示しない吸引手段に接続されている。該吸引手段を作動させることにより、チャックテーブル62に載置されたウエーハ10を、保護部材22aを介して吸引保持する。
【0033】
図9に示すように、研削装置60は、チャックテーブル62上に吸引保持されたウエーハ10の裏面10bを研削して薄化するための研削手段70を備えている。研削手段70は、図示しない回転駆動機構により回転させられる回転スピンドル72と、回転スピンドル72の下端に装着されたマウンター74と、マウンター74の下面に取り付けられる研削ホイール76とを備え、研削ホイール76の下面には複数の研削砥石78が環状に配設されている。
【0034】
ウエーハ10をチャックテーブル62上に吸引保持したならば、研削手段70の回転スピンドル72を
図9において矢印R3で示す方向に、例えば3000rpmで回転させつつ、チャックテーブル62を矢印R4で示す方向に、例えば300rpmで回転させる。そして、図示しない研削水供給手段により、研削水をウエーハ10の裏面10b上に供給しつつ、研削砥石78をウエーハ10の裏面10bに接触させ、研削ホイール76を、例えば1μm/秒の研削送り速度で下方に向けて研削送りする。この際、図示しない接触式の測定ゲージによりウエーハ10の厚みを測定しながら研削を進めることができ、ウエーハ10の裏面10bを所定量研削し、ウエーハ10を所定の厚さとしたならば、研削手段70を停止し、洗浄、乾燥工程等を経て、ウエーハ10の裏面10bを研削する裏面研削加工が完了する。
【0035】
上記した裏面研削加工が完了したならば、保護部材22aを、ウエーハ10の表面10aから剥離する(保護部材剥離工程)。該保護部材剥離工程が完了したならば、適宜、次工程に搬送する。本実施形態では、上記したように、ポリオレフィン系のシート、又はポリエステル系のシートの中から選択されたポリエチレンシートを加熱することにより粘着力が付与された保護部材22aがウエーハ10に圧着され、さらに粘着力強化工程を経て貼着されており、保護部材22aとウエーハ10の表面10aとは、粘着糊等を介することなく貼着される。これにより、ウエーハ10の表面10aから保護部材22aを剥離しても、粘着糊等の一部がウエーハに付着して残存することなく、デバイスの品質を低下させる等の問題が解消する。
【0036】
本発明によれば、上記した実施形態に限定されず、種々の変形例が提供される。上記した実施形態では、ポリエチレンシートの面を加熱して粘着力が生成された保護部材22aを、裏面研削加工が施されるウエーハ10の表面10aを保護する保護部材22aとして貼着する例を示したが、本発明はこれに限定されない。他の実施形態としては、ウエーハを収容する開口を有する環状のフレームにウエーハを収容し、粘着テープでウエーハの裏面と該フレームとを貼着し、該粘着テープを介してウエーハをフレームで支持した状態とする場合の粘着テープに、本発明により提供される保護部材を適用することができる。以下に、
図10、及び
図11を参照しながら、この他の実施形態について説明する。
【0037】
図10(a)には、ウエーハ10の裏面10b上に粘着テープとして機能する保護部材を圧着するシート圧着工程の実施態様を示す斜視図が示されている。
図10(a)に示されたシート20’は、ポリエチレンシートであり、予め上記した粘着力生成工程が施されて、全体に粘着力が付与されており、シート圧着工程を実施する保持テーブル80全体を覆うことができる大きさにカットされて、保護部材24を形成している。保持テーブル80の上面82は平坦面で形成されており、ウエーハ10を収容可能な開口を有する環状フレームF全体が載置可能な寸法で設定されている。
【0038】
シート圧着工程を実施するに際し、
図10(a)に示すように、保持テーブル80の上面82には、開口Faを有する環状のフレームFと、該開口Faに収容され、裏面10bが上方に向けられたウエーハ10と、が載置される。そして、保持テーブル80上には、ウエーハ10とフレームFとを覆うように、上記保護部材24が敷設され、
図5に基づき説明したシート圧着工程と同様に、押圧ローラ50’を回転させて矢印Dに示す方向に移動させることにより、保護部材24を挟んでウエーハ10及びフレームFの全体に押圧力が付与されて、フレームF、及びウエーハ10に保護部材24が圧着される。以上により、シート圧着工程が完了する。
【0039】
シート圧着工程が完了したならば、
図10(b)に示すように、ローラカッター52を使用して、フレームFに沿って、保護部材24を円形(ラインLで示す。)にカットし、円形に整えられた保護部材24aを残し、余分な外周部を除去する(シート切断工程)。
【0040】
上記したように、シート切断工程を実施したならば、粘着力強化工程を実施する。以下に、
図11を参照しながら、粘着力強化工程について説明する。
【0041】
粘着力強化工程を実施するに際し、まず、
図11(a)に示すように、保持テーブル80に載置されたウエーハ10、及びフレームFの上方に、第二の加熱手段30Bを位置付ける。第二の加熱手段30Bは、
図7に基づいて説明した第二の加熱手段30Bと同様の機能を有する加熱手段であり、第二のヒータ本体部32Bと、第二の噴射部34Bとを備えている。この第二の加熱手段30Bも、図示しない電源、及び制御装置に接続され、該温度センサを使用して、第二の噴射部34Bから噴射する熱風W2を所望の温度(例えば、300℃)に調整する。なお、第二の噴射部34Bから熱風W2を噴射する際の噴射領域は、適宜調整されてよい。
【0042】
第二の加熱手段30Bを作動して、ウエーハ10、及びフレームFに貼着された保護部材24aに向けて熱風W2を噴射すると、熱風W2が第二の噴射部34Bから保護部材24aまでの距離で冷やされる等して、保護部材24aが100~120℃に加熱される。この100~120℃の温度は、シート20として選択されたポリエチレンシートの溶融温度(120~140℃)に至らず、溶解(流動化)しない温度であり、且つ、保護部材24aの粘着力が生成される温度であり、結果として粘着力が強化される温度(粘着力強化温度)である。なお、粘着力生成工程を実施する作業現場の気温や、第二の噴射部34Bの噴射口から保護部材24aまでの距離等に応じて、保護部材24aの温度が上記した粘着力強化温度になるように、第二の加熱手段30Bから噴射される熱風W2の温度が適宜調整される。保護部材24aが加熱される際の目標温度は、溶融温度よりも低い温度であり、粘着力生成工程においてシート20を加熱した際の温度と同等か、又は、それよりも高い温度に設定されることが好ましい。このようにして、粘着力強化工程を実施することで、ウエーハ10、及びフレームFに保護部材24aが確実に貼着され、後述する分割加工を施す際に、意図しない剥離等を生じることが防止される。以上のようにして、粘着力強化工程が完了する。
【0043】
図11(b)は、シート切断工程を終え、フレームFに支持されたウエーハ10をフレームFと共に裏返し、ウエーハ10の表面10aを上方に露出した状態を示しており、図から理解されるように、粘着テープとして機能する保護部材24aで、ウエーハ10の裏面10bとフレームFとを貼着し、保護部材24aを介してウエーハ10がフレームFで保持された状態となる。このようにして、保護部材24aを介してウエーハ10がフレームFで保持された状態としたならば、例えば、
図12に示すダイシング装置90に搬送してダイシング加工を施すことができる。以下に、
図12を参照しながら、ダイシング加工について説明する。
【0044】
図12に示すように、ダイシング装置90は、スピンドルユニット91を備えている。スピンドルユニット91は、回転スピンドル92の先端部に固定された切削ブレード93を保持するブレードカバー94を備えている。ブレードカバー94には、切削ブレード93に隣接する位置に切削水供給手段95が配設されており、切削水を切削ブレード93によるウエーハ10の切削位置に向けて供給する。切削ブレード93によって切削を実施する前に、図示しないアライメント手段を用いて、切削ブレード93と、ウエーハ10の表面10a側に形成された分割予定ライン14との位置合わせ(アライメント)を行う。該アライメント手段には、少なくとも図示しない照明手段、及び撮像手段が備えられ、表面10aの分割予定ライン14を撮像、検出することが可能に構成されている。
【0045】
該アライメント手段によるアライメントを実施したならば、高速回転させられる切削ブレード93を、図示しないチャックテーブルに保持したウエーハ10の表面10aから分割予定ライン14に位置付けて下降させて切り込ませ、ウエーハ10を切削ブレード93に対して矢印Xで示すX方向(加工送り方向)に移動させる。これにより、ウエーハ10を切削して分割する分割溝100を形成する。この分割溝100は、ウエーハ10を完全に分割する溝である。分割溝100は、ウエーハ10を保持するチャックテーブル40を、図示しない移動手段を作動させることで、X方向に加え、矢印Xと直交するY方向、及び回転方向にも適宜移動させながら、上記した切削ブレード93による切削加工を実施し、ウエーハ10の全ての分割予定ライン14に沿って、分割溝100を形成する。以上により、ダイシング工程が完了する。このような実施形態によっても、粘着糊等を使用せず、粘着テープとして機能する保護部材24aによってウエーハ10の裏面10bが保護され、且つダイシング加工が良好に実施できる。そして、ウエーハ10が、ダイシング加工によって個々のデバイスチップに分割された後、デバイスチップ毎にピックアップしても、デバイスチップの裏面に粘着糊等の一部が付着して残存することがなく、デバイスチップの品質が低下する等の問題が解消する。
【0046】
上記した実施形態では、保護部材の基材となるシート20、シート20’として、ポリエチレンシートを選択したが、これに限定されず、ポリオレフィン系のシート、又はポリエステル系のシートから適宜選択することができる。ポリオレフィン系のシートから選択する場合は、上記したポリエチレンシートの他に、例えば、ポリプロピレンシート、ポリスチレンシートを選択することができる。また、ポリエステル系のシートから選択する場合は、例えば、ポリエチレンテレフタレートシート、ポリエチレンナフタレートシートから選択することができる。
【0047】
上記した保護部材の基材となるシートとして、ポリエチレンシート以外のシートを選択する場合は、シート自体を溶融させることなく、且つ粘着力が付与される粘着力生成温度、及び粘着力強化温度がシートの材質に応じて異なることから、粘着力生成工程、及び粘着力強化工程においてシートを加熱する際の目標温度を、選択するシートの材質に応じて調整する。例えば、溶融温度が160~180℃であるポリプロピレンシートを選択した場合は、粘着力生成工程における目標温度を130~150℃程度、粘着力強化工程における目標温度を140~160℃程度になるように加熱する。また、溶融温度が220~240℃であるポリスチレンシートを選択した場合は、粘着力生成工程における目標温度を190~210℃程度に、粘着力強化工程における目標温度を200~220℃程度になるように加熱する。同様に、溶融温度が250~270℃であるポリエチレンテレフタレートシートを選択した場合は、粘着力生成工程における目標温度を220~240℃程度に、粘着力強化工程における目標温度を230~250℃程度に、溶融温度が160~180℃のポリエチレンナフタレートシートを選択した場合は、粘着力生成工程における目標温度を130~150℃程度に、粘着力強化工程における目標温度を140~160℃程度になるようにシートを加熱するとよい。上記したように、保護部材の基材となるシートは、製品によって適切な粘着力が生成される温度が異なるため、粘着力生成工程、及び粘着力強化工程においてシートを加熱する際の目標温度は、実際に選択するシートの溶融温度を考慮しながら、粘着力が適切に生成される温度を実験により決定することが好ましい。
【0048】
上記した実施形態では、第一の加熱手段30A、第二の加熱手段30B、第三の加熱手段30Cを、図示しない加熱ヒータ、温度センサ、送風機構等により構成し、熱風を噴射してシート(保護部材)を加熱するように構成したが、本発明は、熱風を噴射して加熱する手段に限定されず、平板状に形成された発熱プレートを、シート(保護部材)に直接接触させて加熱するように構成してもよい。
【符号の説明】
【0049】
10:ウエーハ
12:デバイス
14:分割予定ライン
20:シート
20A:シートロール
22:保護部材領域
22a:保護部材
24:保護部材
30A:第一の加熱手段
30B:第二の加熱手段
32A:第一のヒータ本体部
32B:第二のヒータ本体部
34A:第一の噴射部
34B:第二の噴射部
40:保持テーブル
52:ローラカッター
60:研削装置
62:チャックテーブル
70:研削手段
80:保持テーブル
90:ダイシング装置
F:フレーム