(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】研磨用組成物および研磨システム
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20221109BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20221109BHJP
C09K 3/14 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
H01L21/304 622D
H01L21/304 622X
H01L21/304 621D
B24B37/00 H
C09K3/14 550Z
(21)【出願番号】P 2019008736
(22)【出願日】2019-01-22
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2018058452
(32)【優先日】2018-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】八田国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】角橋 祐介
(72)【発明者】
【氏名】井澤 由裕
(72)【発明者】
【氏名】宗宮 晃子
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-183530(JP,A)
【文献】特開2014-69260(JP,A)
【文献】特開2016-94510(JP,A)
【文献】国際公開第2016/103575(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/141505(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
B24B 37/00
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高誘電率層を有する研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、
前記研磨用組成物は、砥粒および水を含み、かつpH5.0未満であり、
前記研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位をX[mV]、前記研磨用組成物を用いて研磨中の高誘電率層のゼータ電位をY[mV]としたとき、Xは負であり、Yは正であり、かつY-X≧90である、研磨用組成物。
【請求項2】
酸化剤を実質的に含まない、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
酸をさらに含む、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記酸は、オキソ酸基の数が1または2であり、水酸基(オキソ酸基を構成する水酸基を除く)の数が0以上2以下の整数である酸である、請求項3に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記酸は、オキソ酸基および水酸基(オキソ酸基を構成する水酸基を除く)の合計数が1または2である酸である、請求項4に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記酸は、マレイン酸、コハク酸、酢酸および乳酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項3~5のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記高誘電率層は、非晶質金属酸化物を含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記研磨対象物は、低誘電率層をさらに含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
高誘電率層を有する研磨対象物、研磨パッドおよび研磨用組成物を含む研磨システムであって、
前記研磨用組成物は、砥粒および水を含み、かつpH5.0未満であり、
前記研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位をX[mV]、前記研磨用組成物を用いて研磨中の高誘電率層のゼータ電位をY[mV]としたとき、Xは負であり、Yは正であり、かつY-X≧90であり、
前記研磨対象物の表面を前記研磨パッドおよび前記研磨用組成物と接触させる、研磨システム。
【請求項10】
前記研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含まない、請求項9に記載の研磨システム。
【請求項11】
前記研磨用組成物は、酸をさらに含む、請求項9または10に記載の研磨システム。
【請求項12】
前記酸は、オキソ酸基の数が1または2であり、水酸基(オキソ酸基を構成する水酸基を除く)の数が0以上2以下の整数である酸である、請求項11に記載の研磨システム。
【請求項13】
前記酸は、オキソ酸基および水酸基(オキソ酸基を構成する水酸基を除く)の合計数が1または2である酸である、請求項12に記載の研磨システム。
【請求項14】
前記酸は、マレイン酸、コハク酸、酢酸および乳酸からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項11~13のいずれか1項に記載の研磨システム。
【請求項15】
前記高誘電率層は、非晶質金属酸化物を含む、請求項9~14のいずれか1項に記載の研磨システム。
【請求項16】
前記研磨対象物は、低誘電率層をさらに含む、請求項9~15のいずれか1項に記載の研磨システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物および研磨システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、シリコン酸化物(酸化ケイ素)、シリコン窒化物や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
CMPの一般的な方法は、円形の研磨定盤(プラテン)上に研磨パッドを貼り付け、研磨パッド表面を研磨剤で浸し、基板の配線層を形成した面を押し付けて、その裏面から所定の圧力(研磨圧力)を加えた状態で研磨定盤を回し、研磨剤と配線層との機械的摩擦によって、配線層を除去するものである。例えば、特許文献1には、酸化ケイ素(TEOS膜)向けのCMP技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、半導体基板を構成する材料として、高誘電率材料の使用が検討されている。これに伴い、高誘電率材料向けのCMP技術の需要が高まっている。
【0006】
したがって、本発明は、高誘電率層を高い研磨速度で研磨できる研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、高誘電率層を有する研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、前記研磨用組成物は、砥粒および水を含み、かつpH5.0未満であり、前記研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位をX[mV]、前記研磨用組成物を用いて研磨中の高誘電率層のゼータ電位をY[mV]としたとき、Xは負であり、Yは正であり、かつY-X≧90である研磨用組成物により上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る研磨用組成物によれば、高誘電率層を高い研磨速度で研磨することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、高誘電率層を有する研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、前記研磨用組成物は、砥粒および水を含み、かつpH5.0未満であり、前記研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位をX[mV]、前記研磨用組成物を用いて研磨中の高誘電率層のゼータ電位をY[mV]としたとき、Xは負であり、Yは正であり、かつY-X≧90である、研磨用組成物である。当該研磨用組成物によれば、高誘電率層を高い研磨速度で研磨することができる。
【0010】
Xが負であり、Yが正であり、かつY-X≧90であると、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する際、研磨用組成物に含まれる砥粒と、研磨対象物が有する高誘電率層との間で、静電的相互作用が十分に働く。ゆえに、砥粒の高誘電率層への接触頻度が高くなり、高誘電率層を高い研磨速度で研磨することができると考えられる。
【0011】
なお、上記メカニズムは推測によるものであり、本発明は上記メカニズムに何ら限定されるものではない。
【0012】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。
【0013】
また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で行う。本明細書において、範囲を示す「x~y」は、xおよびyを含み、「x以上y以下」を意味する。
【0014】
<ゼータ電位の測定方法>
研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位X[mV]は、研磨用組成物を大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用いてレーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)で測定し、得られるデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、算出する。
【0015】
研磨用組成物を用いて研磨中の高誘電率層のゼータ電位Y[mV]は、高誘電率層が成膜されたシリコンウェハを大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、レーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)により測定して得られる。具体的には、測定温度25℃の条件下で平板試料用セルユニット(大塚電子株式会社製)のセル上面に高誘電率層を成膜したシリコンウェハを取り付ける。研磨用組成物(上記測定によりゼータ電位既知である砥粒をモニター粒子とする)でセルを満たし、モニター粒子の電気泳動を行い、セル上下面間の7点においてモニター粒子の電気移動度を測定する。得られた電気移動度のデータを森・岡本の式、及びSmoluchowskiの式で解析することにより、ゼータ電位Y
[mV]を算出する。
【0016】
本発明において、Y-X≧92であることが好ましい。また、Y-Xの上限値は、特に制限されないが、例えばY-X≦150である。Y-Xの値は、例えば、後述する電気伝導度調整剤の添加量を調節することにより、所望の範囲に制御することができる。具体的には、電気伝導度調整剤の添加量を増やすと、XおよびYはそれぞれゼロに近づくため、Y-Xの値は小さくなる。また、Y-Xの値は、例えば、pH調整剤として後述する酸を使用することにより、所望の範囲に制御することができる。
【0017】
<研磨対象物>
[高誘電率層]
本発明に係る研磨対象物は、高誘電率層(高誘電率材料を主成分として含む層)を有する。ここで、「高誘電率材料を主成分として含む層」は、層中の高誘電率材料の含有量が、例えば、50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらにより好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であることをいう(上限値:100質量%)。
【0018】
高誘電率材料は、酸化ケイ素(SiO2、比誘電率3.9)よりも比誘電率が高い材料を指し、より具体的には、比誘電率が5.0以上である材料を指す。高誘電率材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。なお、比誘電率は、水銀プローブ法により得られる値である。
【0019】
比誘電率が5.0以上である材料としては、例えば、酸化アルミニウム(AlOx、比誘電率9~10)、酸化マグネシウム(MgOx、比誘電率9~10)、酸化ガリウム(GaOx、比誘電率9~10)、酸化ハフニウム(HfOx、比誘電率20~30)、酸化ランタン(LaOx、比誘電率20~30)、酸化ジルコニウム(ZrOx、比誘電率20~30)、酸化セリウム(CeOx、比誘電率約20)、酸化チタン(TiOx、比誘電率約100)等の金属酸化物が挙げられる。上記金属酸化物はpH5.0未満で正のゼータ電位を満たすため、高誘電率層が上記金属酸化物を主成分として含むことで、上記パラメータYは正となりうる。上記金属酸化物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
上記金属酸化物は、結晶質または非晶質のいずれであってもよいが、結晶粒界に起因するリーク電流の発生を抑制する観点から、好ましくは非晶質である。したがって、本発明の一実施形態において、高誘電率層は、非晶質金属酸化物を含む。なお、「高誘電率層が非晶質金属酸化物を含む」とは、金属酸化物を含む高誘電率層のX線回折像において、金属酸化物の結晶構造に由来する最大ピークの半値幅が1°以上であることをいう。
【0021】
なお、X線回折像は、具体的には下記の装置および条件によって得ることができる:
X線回折装置 :株式会社リガク製
型式 :SmartLab
測定方法 :XRD法(2θ/ωスキャン)
X線発生部 :対陰極 Cu
:出力 45kV 200mA
検出部 :半導体検出器
入射光学系 :平行ビーム法(スコットコリメーション)
ソーラースリット:入射側 5.0°
:受光側 5.0°
スリット :入射側 IS=1(mm)
:長手制限 5(mm)
:受光側 RS1=1 RS2=1.1(mm)
走査条件 :走査軸 2θ/ω
:走査モード 連続走査
:走査範囲 20~90°
:ステップ幅 0.02°
:走査速度 2°/min。
【0022】
高誘電率層は、蒸着法、スパッタリング法、プラズマCVD法、ゾルゲル法等の公知の方法で形成することができる。
【0023】
[低誘電率層]
本発明の研磨用組成物は、高誘電率層の他に、低誘電率層(低誘電率材料を主成分として含む層)をさらに有していてもよい。ここで、「低誘電率材料を主成分として含む層」は、層中の低誘電率材料の含有量が、例えば、50質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらにより好ましくは95質量%以上、特に好ましくは98質量%以上であることをいう(上限値:100質量%)。
【0024】
低誘電率材料は、酸化ケイ素(SiO2、比誘電率3.9)、および酸化ケイ素よりも比誘電率が低い材料(具体的には、比誘電率が3.5以下である材料)を指す。比誘電率が3.5以下である材料としては、例えば、炭素含有シリコン酸化物(SiOC)、フッ素含有シリコン酸化物(SiOF)等が挙げられる。低誘電率材料は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0025】
低誘電率層は、TEOS等を出発原料として、CVD法等の公知の方法により形成することができる。
【0026】
高誘電率層および低誘電率層を同時に研磨する場合は、両層間の段差を抑制する観点から、低誘電率層に対する高誘電率層の研磨速度比(選択比)はなるべく低いほうが好ましい。
【0027】
<研磨用組成物>
[砥粒]
本発明の研磨用組成物に使用される砥粒としては、pH5.0未満で負のゼータ電位を示す(すなわち上記パラメータXが負となる)ものとして、シリカに有機酸が固定化されてなるもの(以下、有機酸固定シリカとも称する)が好ましい。また、シリカとしては、研磨傷の発生を抑制する観点から、コロイダルシリカが好ましい。
【0028】
ここで、コロイダルシリカは、例えば、ゾルゲル法によって製造されたものでありうる。ゾルゲル法によって製造されたコロイダルシリカは、半導体中に拡散性のある金属不純物や塩化物イオン等の腐食性イオンの含有量が少ないため好ましい。ゾルゲル法によるコロイダルシリカの製造は、従来公知の手法を用いて行うことができ、具体的には、加水分解可能なケイ素化合物(例えば、アルコキシシランまたはその誘導体)を原料とし、加水分解・縮合反応を行うことにより、コロイダルシリカを得ることができる。
【0029】
有機酸の固定化は、シリカと有機酸とを単に共存させただけでは果たされない。例えば、有機酸の一種であるスルホン酸をシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through of thiol groups”,Chem.Commun.246-247(2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのチオール基を有するシランカップリング剤をシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸が表面に固定化されたシリカを得ることができる。
【0030】
あるいは、有機酸の一種であるカルボン酸をシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”,Chemistry Letters,3,228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸が表面に固定化されたシリカを得ることができる。
【0031】
本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均一次粒子径の下限は、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均一次粒子径の上限は、120nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にスクラッチなどのディフェクトを抑えることができる。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて算出される。
【0032】
本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均二次粒子径の下限は、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均一次粒子径の上限は、250nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にスクラッチなどのディフェクトを抑えることができる。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。
【0033】
砥粒の平均会合度は、好ましくは5.0以下であり、より好ましくは3.0以下であり、さらにより好ましくは2.5以下である。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することにより表面欠陥の少ない研磨面を得られやすい。また、砥粒の平均会合度は、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは1.2以上である。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の除去速度が向上する利点がある。なお、砥粒の平均会合度は、砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。
【0034】
本発明の研磨用組成物中、砥粒の含有量の下限は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の含有量の上限は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、1質量%以下であることがよりさらに好ましく、0.4質量%以下であることが特に好ましい。上限がこのようであると、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に表面欠陥が生じるのをより抑えることができる。
【0035】
[水]
本発明に係る研磨用組成物は、分散媒または溶媒として、水を含む。水は、洗浄対象物の汚染や他の成分の作用を阻害するという観点から、不純物をできる限り含有しないことが好ましい。このような水としては、例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。
【0036】
[研磨用組成物のpH]
本発明の研磨用組成物のpHは5.0未満である。pHが5.0以上の場合、高誘電率層のゼータ電位が下がることによって砥粒とのゼータ電位差(すなわちY-X)が小さくなるために、高誘電率層の研磨速度が低下するため、好ましくない(後述の比較例6参照)。一方、研磨用組成物のpHの下限は、好ましくは2.0以上であり、より好ましくは3.0以上であり、特に好ましくは4.0以上である。上記下限pH以上であれば、高誘電率層の研磨速度を維持しつつ、低誘電率層の研磨速度を向上できる。その結果、低誘電率層に対する高誘電率層の選択比を小さくすることができる。ゆえに、高誘電率層および低誘電率層の同時研磨において有利となりうる。
【0037】
なお、研磨用組成物のpHは、pHメーター(例えば、株式会社堀場製作所製のガラス電極式水素イオン濃度指示計(型番:F-23))を使用し、標準緩衝液(フタル酸塩pH緩衝液pH:4.01(25℃)、中性リン酸塩pH緩衝液pH:6.86(25℃)、炭酸塩pH緩衝液pH:10.01(25℃))を用いて3点校正した後で、ガラス電極を研磨用組成物に入れて、2分以上経過して安定した後の値を測定することにより把握することができる。
【0038】
本発明に係る研磨用組成物のpHは、必要によりpH調整剤を適量添加することにより、調整することができる。pH調整剤は酸およびアルカリのいずれであってもよく、また、無機化合物および有機化合物のいずれであってもよい。pH調整剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0039】
(pH調整剤)
pH調整剤としては、公知の酸または塩基を使用することができる。特に、本発明の研磨用組成物はpH5.0未満であるため、pH調整剤として酸が好適に使用される。したがって、本発明の一実施形態に係る研磨用組成物は、酸をさらに含む。
【0040】
pH調整剤として使用できる酸としては、例えば、硫酸、硝酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、および乳酸などのカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機スルホン酸等の有機酸等が挙げられる。
【0041】
中でも、オキソ酸基の数が1または2であり、水酸基(オキソ酸基を構成する水酸基を除く)の数が0以上2以下の整数である酸が好ましい。かような酸をpH調整剤として用いることで、上記ゼータ電位Yの減少を抑制し、上記Y-Xを所望の範囲に制御することができる。ゆえに、高誘電率層の研磨速度に優れた研磨用組成物を得ることができる。
【0042】
ここで、「オキソ酸基」とは、プロトンとして解離しうる水素原子が酸素原子に結合した構造を有する基をいう。オキソ酸の例としては、カルボキシル基(-COOH)、リン酸基(-OP(O)(OH)2)、ホスホン酸基(-P(O)(OH)2)、硫酸基(-OS(O)2(OH))、スルホン酸基(-S(O)2(OH))等が挙げられる。
【0043】
オキソ酸基の数が1または2であり、水酸基(オキソ酸基を構成する水酸基を除く)の数が0以上2以下の整数である酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、および乳酸などのカルボン酸、ならびにメタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機スルホン酸等の有機酸が挙げられる。
【0044】
オキソ酸基の数が1または2であり、水酸基(オキソ酸基を構成する水酸基を除く)の数が0以上2以下の整数である酸の中でも、高誘電率層の研磨速度のさらなる向上の観点から、オキソ酸基および水酸基(オキソ酸基を構成する水酸基を除く)の合計数が1または2である酸がより好ましい。かような酸としては、例えば、マレイン酸、コハク酸、酢酸、または乳酸が好ましい。したがって、本発明の一実施形態において、酸は、マレイン酸、コハク酸、酢酸および乳酸からなる群より選択される少なくとも1種である。さらに、これらの酸の中でも、低誘電率層に対する高誘電率層の選択比を小さくする観点から、オキソ酸基の数が2である酸がさらにより好ましい。
【0045】
pH調整剤として使用できる塩基としては、例えば、アルカリ金属の水酸化物または塩、第2族元素の水酸化物または塩、水酸化第四級アンモニウムまたはその塩、アンモニア、アミン等が挙げられる。アルカリ金属の具体例としては、カリウム、ナトリウム等が挙げられる。
【0046】
pH調整剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物のpHが所望の範囲内となるよう適宜調整すればよいが、研磨用組成物の電気伝導度が所望の範囲内となるよう調整することが好ましい。
【0047】
[研磨用組成物の電気伝導度]
本発明の研磨用組成物の電気伝導度の上限は、高誘電率層の研磨速度の低下を抑制する観点から、好ましくは4.0mS/cm以下であり、より好ましくは2.0mS/cm以下であり、さらにより好ましくは1.0mS/cm以下であり、特に好ましくは0.5mS/cm以下である。また、本発明の研磨用組成物の電気伝導度の下限は、低誘電率層の研磨速度を向上させる観点から、好ましくは0.1mS/cm以上であり、より好ましくは0.2mS/cm以上であり、さらにより好ましくは0.3mS/cm以上であり、特に好ましくは0.4mS/cm以上である。すなわち、上記範囲内であれば、高誘電率層の研磨速度を維持しつつ、低誘電率層の研磨速度を向上できる。その結果、低誘電率層に対する高誘電率層の選択比を小さくすることができる。ゆえに、高誘電率層および低誘電率層の同時研磨において有利となりうる。なお、研磨用組成物の電気伝導度は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製、型番:DS-71)により測定される値である。
【0048】
(電気伝導度調整剤)
電気伝導度は、例えば、研磨用組成物に電気伝導度調整剤を添加することにより、制御することができる。電気伝導度調整剤としては、特に制限はないが、塩化合物が好適である。
【0049】
塩化合物としては、例えば、酸の塩、塩基の塩等が含まれ、例えば、硝酸カリウム、硝酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、クエン酸アンモニウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化テトラメチルアンモニウムおよび水酸化テトラエチルアンモニウム等が挙げられ、中でも硫酸アンモニウムが好ましい。塩化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0050】
電気伝導度調整剤の含有量の上限は、高誘電率層の研磨速度の低下を抑制する観点から、研磨用組成物の全質量に対して、好ましくは0.3質量%未満であり、より好ましくは0.2質量%未満であり、さらにより好ましくは0.1質量%未満であり、0.05質量%未満である。また、電気伝導度調整剤の含有量の下限は、低誘電率層の研磨速度を向上させる観点から、研磨用組成物の全質量に対して、好ましくは0.001質量%以上であり、より好ましくは0.005質量%以上であり、さらにより好ましくは0.01質量%以上であり、特に好ましくは0.02質量%以上である。したがって、上記範囲内であれば、高誘電率層の研磨速度を維持しつつ、低誘電率層の研磨速度を向上することができる。その結果、低誘電率層に対する高誘電率層の選択比を小さくすることができる。ゆえに、高誘電率層および低誘電率層の同時研磨において有利となりうる。
【0051】
[その他の添加剤]
本発明の研磨用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、公知の錯化剤、金属防食剤、防腐剤、防カビ剤、還元剤、ノニオン性界面活性剤、水溶性高分子、難溶性の有機物を溶解するための有機溶媒等をさらに含んでもよい。
【0052】
ただし、高誘電率層が非晶質金属酸化物を主成分として含む層である場合、酸化剤を含む研磨用組成物で研磨すると、高誘電率層の研磨速度が低下する場合がある。したがって、本発明の研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含まないことが好ましい。すなわち、本発明の好ましい一実施形態において、高誘電率層は非晶質金属酸化物を含み、研磨用組成物は酸化剤を実質的に含まない。ここでいう酸化剤の具体例としては、過酸化水素(H2O2)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。ここで、「研磨用組成物が酸化剤を実質的に含まない」とは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。したがって、原料や製法等に由来して微量の酸化剤が不可避的に含まれている研磨用組成物は、ここでいう酸化剤を実質的に含有しない研磨用組成物の概念に包含され得る。例えば、研磨用組成物中における酸化剤のモル濃度が0.0005モル/L以下、好ましくは0.0001モル/L以下、より好ましくは0.00001モル/L以下、特に好ましくは0.000001モル/L以下である。
【0053】
<研磨システム>
本発明は、研磨対象物、研磨パッドおよび研磨用組成物を含む研磨システムであって、前記研磨用組成物は、砥粒および水を含み、かつpH5.0未満であり、前記研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位をX[mV]、前記研磨用組成物を用いて研磨中の研磨対象物のゼータ電位をY[mV]としたとき、Xは負であり、Yは正であり、かつY-X≧90であり、前記研磨対象物の表面を前記研磨パッドおよび前記研磨用組成物と接触させる、研磨システムについても提供する。
【0054】
本発明の研磨システムに適用される研磨対象物および研磨用組成物の好ましい実施形態については、上記と同様であるため、説明を省略する。
【0055】
本発明の研磨システムに使用される研磨パッドは、特に制限されず、例えば、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等を使用することができる。
【0056】
本発明の研磨システムは、研磨対象物の両面を研磨パッドおよび研磨用組成物と接触させて、研磨対象物の両面を同時に研磨するものであってもよいし、研磨対象物の片面のみを研磨パッドおよび研磨用組成物と接触させて、研磨対象物の片面のみを研磨するものであってもよい。
【0057】
本発明の研磨システムでは、上記の研磨用組成物を含むワーキングスラリーを用意する。次いで、その研磨用組成物を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。例えば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて該研磨対象物の表面(研磨対象面)に研磨用組成物を供給する。典型的には、上記研磨用組成物を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(例えば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0058】
研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10~500rpmが好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5~10psi(約3~69kPa)が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【実施例】
【0059】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0060】
<研磨用組成物の調製>
砥粒としてスルホン酸固定コロイダルシリカ(平均一次粒子径35nm、平均二次粒子径70nm、平均会合度2.0)、電気伝導度調整剤として硫酸アンモニウム、および必要に応じ、界面活性剤としてPOEラウリル硫酸エステルアンモニウム、酸化剤として過酸化水素を、表1に記載の含有量(研磨用組成物100質量%に対して)となるよう水に添加して、室温(25℃)で30分撹拌混合し、pH調整剤として表1-1および表1-2に記載した酸を用いて表1-1および表1-2に記載のpHに調整し、各研磨用組成物を調製した。
【0061】
なお、砥粒の平均一次粒子径は、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。また、研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメータ(株式会社 堀場製作所社製 型番:LAQUA)により確認した。また、研磨用組成物の電気伝導度は、卓上型電気伝導度計(株式会社堀場製作所製 型番:DS-71)により測定した。
【0062】
<砥粒のゼータ電位測定>
上記で調製した各研磨用組成物を大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用い、レーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)により測定を行った。得られたデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、各研磨用組成物中のスルホン酸固定コロイダルシリカのゼータ電位X[mV]を算出した。
【0063】
<高誘電率層のゼータ電位測定>
研磨用組成物を用いて研磨中の高誘電率層のゼータ電位Y[mV]は、以下のように測定した。高誘電率層として非晶質金属酸化物(AlOx、MgOx、GaOx)が厚さ1000Åで成膜されたシリコンウェハ(300mmウェーハを15×35mmに切断)について、大塚電子株式会社製ELS-Z2を使用してレーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)により測定を行った。具体的には、測定温度25℃の条件下で平板試料用セルユニット(大塚電子株式会社製)のセル上面に、上記シリコンウェハを取り付けた。上記で調製した各研磨用組成物(上記測定によりゼータ電位既知であるスルホン酸固定コロイダルシリカをモニター粒子とする)でセルを満たし、モニター粒子の電気泳動を行い、セル上下面間の7点においてモニター粒子の電気移動度を測定した。得られた電気移動度のデータを森・岡本の式、及びSmoluchowskiの式で解析することにより、ゼータ電位Y[mV]を算出した。
【0064】
各研磨用組成物を用いて得られたX、YおよびY-Xの値を表1に示す。
【0065】
<研磨性能評価>
高誘電率層として非晶質金属酸化物(AlOx、MgOx、GaOx)または低誘電率層としてSiO2(TEOS)が厚さ1000Åで成膜されたシリコンウェハ(300mmウェーハを60×60mmに切断)をそれぞれ準備し、上記で得られた研磨用組成物を用いて、各ウェーハを以下の研磨条件で研磨し、研磨レートを測定した。
【0066】
(研磨条件)
研磨機:卓上研磨機
研磨パッド:IC1010パッド(ダウケミカル社製)
圧力:1.4psi(約10kPa)
プラテン(定盤)回転数:60rpm
ヘッド(キャリア)回転数:60rpm
研磨用組成物の流量:100ml/min
研磨時間:15sec。
【0067】
(研磨レート)
研磨レート(Removal Rate;RR)は、以下の式により計算した。
【0068】
【0069】
膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(ケーエルエー・テンコール(KLA-Tencor)株式会社製 型番:ASET-f5x)によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより評価した。結果を表2に示す。
【0070】
なお、上記のゼータ電位測定および研磨性能評価に供された高誘電率層(非晶質AlOx、MgOx、GaOx層)は、スパッタリング法により成膜されたものであり、そのX線回折像の最大ピーク(AlOx:2θ=51°付近、MgOx:2θ=43°付近、GaOx:2θ=27°付近)における半値幅はいずれも3°以上であった。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
表2に示すように、Y-X≧90である場合(実施例1~11)は、Y-X<90である場合(比較例1~9)に比べて、高誘電率層(非晶質AlOx、MgOx、GaOx)の研磨速度が顕著に優れていた。この結果から、砥粒と高誘電率層との間に働く静電的相互作用の強さが、高誘電率層の研磨速度に大きく寄与していると示唆される。
【0075】
さらに、pH調整剤としてマレイン酸を用いた場合において、研磨用組成物が硫酸アンモニウムを含む場合(実施例1~4、6)は、硫酸アンモニウムを含まない場合(実施例5)に比べて、高誘電率層の研磨速度は同等でありながら、低誘電率層(TEOS層)の研磨速度が向上し、低誘電率層に対する高誘電率層の選択比が低くなった。この結果から、電気伝導度調整剤を含む形態は、高誘電率層および低誘電率層の同時研磨に有利であると言える。
【0076】
また、実施例1、7~11および比較例7~9から判るように、オキソ酸基の数が1または2であり、水酸基の数が0以上2以下の整数である酸をpH調整剤として用いた場合には、Y-X≧90に制御でき、高誘電率層の研磨速度に優れていた。さらに、オキソ酸基および水酸基の合計数が1または2である酸を用いた場合(実施例1、7~9)には、オキソ酸基および水酸基の合計数が3である酸をpH調整剤として用いた場合(実施例10、11)に比べて、高誘電率層の研磨速度がさらに向上した。
【0077】
また、同一pH条件下で比較すると、研磨用組成物が酸化剤を含む場合(実施例6)は、酸化剤を含まない場合(実施例1)に比べて、高誘電率層(特に非晶質AlOx)の研磨速度が低下した。酸化剤を添加することで、研磨用組成物の電気伝導度が上昇し、砥粒と高誘電率層との静電相互作用が妨げられた可能性が考えられる。