IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本電信電話株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-クラック検出装置とその方法 図1
  • 特許-クラック検出装置とその方法 図2
  • 特許-クラック検出装置とその方法 図3
  • 特許-クラック検出装置とその方法 図4
  • 特許-クラック検出装置とその方法 図5
  • 特許-クラック検出装置とその方法 図6
  • 特許-クラック検出装置とその方法 図7
  • 特許-クラック検出装置とその方法 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】クラック検出装置とその方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/02 20060101AFI20221110BHJP
【FI】
G01N27/02 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018214708
(22)【出願日】2018-11-15
(65)【公開番号】P2020085459
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-02-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】美濃谷 直志
(72)【発明者】
【氏名】松永 恵里
(72)【発明者】
【氏名】中村 昌人
(72)【発明者】
【氏名】津田 昌幸
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-243584(JP,A)
【文献】特開2011-174823(JP,A)
【文献】特開2014-190761(JP,A)
【文献】特開平10-293107(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103995036(CN,A)
【文献】松永恵理,インフラ劣化検知を目的とした塗装式センサの基礎検討,第65回材料と環境討論会講演集,2018年10月12日,pp.349-350
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/24
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物のクラックを検出するクラック検出装置であって、
前記構造物に貼り付けられる伝導体-絶縁体-伝導体の三層構造のセンサ部と、
所定の周波数の範囲を掃引して前記センサ部のインピーダンスが最大及び最小になる複数の周波数を取得する周波数特性取得部と、
複数の前記周波数の不均一性からクラックの有無を判定するクラック有無判定部と、
クラックの位置と周波数のずれの方向の関係を記録したクラック位置テーブルと、
前記クラック有無判定部でクラックがあると判定された場合に、前記周波数特性取得部で取得した複数の前記周波数の内の2つの周波数の複数の組み合わせと、各組み合わせにおける2つの周波数の符号と、に対応するクラックの位置を、前記クラック位置テーブルを参照して検出するクラック位置検出部と、を備え、
前記クラック有無判定部は、
前記周波数特性取得部で取得した複数の前記周波数を、低い周波数から1から順番に付番し、該付番した番号でそれぞれの周波数を除算した正規化周波数を複数算出し、複数の前記正規化周波数が一定の場合はクラックが無いと判定し、複数の前記正規化周波数が一定でない場合はクラックありと判定する
ことを特徴とするクラック検出装置。
【請求項2】
構造物のクラックを検出するクラック検出装置が行うクラック検出方法であって、
前記クラック検出装置は、
前記構造物に貼り付けられる伝導体-絶縁体-伝導体の三層構造のセンサ部を備え、
所定の周波数の範囲を掃引して前記センサ部のインピーダンスが最大及び最小になる複数の周波数を取得する周波数特性取得ステップと、
複数の前記周波数の不均一性からクラックの有無を判定するクラック有無判定ステップと、
前記クラック有無判定ステップでクラックがあると判定された場合に、前記周波数特性取得ステップで取得した複数の前記周波数の内の2つの周波数の複数の組み合わせと、各組み合わせにおける2つの周波数の符号と、に対応するクラックの位置を、クラックの位置と周波数のずれの方向の関係を記録したクラック位置テーブルを参照して検出するクラック位置検出ステップと、を行い、
前記クラック有無判定ステップは、
前記周波数特性取得ステップで取得した複数の前記周波数を、低い周波数から1から順番に付番し、該付番した番号でそれぞれの周波数を除算した正規化周波数を複数算出し、複数の前記正規化周波数が一定の場合はクラックが無いと判定し、複数の前記正規化周波数が一定でない場合はクラックありと判定する
ことを特徴とするクラック検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物のクラックを検出するクラック検出装置とその方法に関する。
【背景技術】
【0002】
構造物のクラックを検出するためには、構造物の在る現場に行き、目視、及び機器を用いて点検する方法がある(例えば非特許文献1)。この方法では、作業者を派遣するコストが生じると共に常時監視することが不可能である。
【0003】
構造物のクラックを常時検出するためには、例えば非特許文献2に開示されたセンサを構造物に貼り付けて監視する方法がある。センサは、例えば、伝導体-絶縁体-伝導体の三層構造であり、そのインピーダンスの変化でクラックの有無を検出する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】コンクリート構造物のクラック検知ツール〔平成30年11月6日検索〕、インターネット(URL: http://www.kurabo.co.jp/chem/kk_crack_sensor.html)
【文献】原田隆郎、他2名、「PVDF フィルムセンサによるひび割れ検知に関する研究」、構造工学論文集Vol.59A(2013 年3 月)pp. 47-55.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、センサの形状は、予め決まっているため種々の構造の様々な形状に適用するのが難しいという課題がある。また、センサの端子に水等の誘電体が付着すると、センサのインピーダンスが変化する。この水等の誘電体が付着することで生じるインピーダンスの変化及び経年による変化と、クラックが生じたことによるインピーダンスの変化を見分けるのが困難であるという課題がある。
【0006】
本発明は、この課題に鑑みてなされたものであり、センサの形状に限定されず、クラックによるインピーダンスの変化を容易に見分けることが可能なクラック検出装置とその方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るクラック検出装置は、構造物のクラックを検出するクラック検出装置であって、前記構造物に貼り付けられる伝導体-絶縁体-伝導体の三層構造のセンサ部と、所定の周波数の範囲を掃引して前記センサ部のインピーダンスが最大及び最小になる複数の周波数を取得する周波数特性取得部と、複数の周波数の不均一性からクラックの有無を判定するクラック有無判定部と、クラックの位置と周波数のずれの方向の関係を記録したクラック位置テーブルと、前記クラック有無判定部でクラックがあると判定された場合に、前記周波数特性取得部で取得した2つの周波数の差を取って符号を求め、該符号で前記クラック位置テーブルを参照してクラックの位置を検出するクラック位置検出部と
を備えることを要旨とする。
【0008】
また、本発明の一態様に係るクラック検出方法は、クラックを検出する対象の構造物に貼り付けられるセンサ部を含むクラック検出装置が実行するクラック検出方法であって、所定の周波数の範囲を掃引して前記センサ部のインピーダンスが最大及び最小になる複数の周波数を取得する周波数特性取得ステップと、複数の周波数の不均一性からクラックの有無を判定するクラック有無判定ステップと、前記クラック有無判定ステップでクラックがあると判定された場合に、前記周波数特性取得ステップで取得した2つの周波数の差を取って符号を求め、該符号でクラックの位置と周波数のずれの方向の関係を記録したクラック位置テーブルを参照してクラックの位置を検出するクラック位置検出ステップとを行うことを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、センサの形状に限定されず、クラックによるインピーダンスの変化を容易に見分けることが可能なクラック検出装置とその方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係るクラック検出装置の機能構成例を示すブロック図である。
図2】クラックがある場合のセンサ部の平面を模式的に示す図である。
図3】クラックがある場合のセンサ部を伝送線で表した場合の回路モデルを示す図である。
図4】センサ部のインピーダンスの周波数特性の例を模式的に示す図である。
図5】クラックの位置を表すパラメータの例を示す図である。
図6図1に示すクラック位置テーブルの例とクラックの位置を示す図である。
図7図1に示す周波数特性取得部の概念的な構成を示すブロック図である。
図8図7に示す周波数特性取得部の具体的な機能構成例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。複数の図面中同一のものに
は同じ参照符号を付し、説明は繰り返さない。
【0012】
(センサ部)
本発明の実施形態に用いるセンサ部について説明する。センサ部は、伝導体-絶縁体-伝導体の三層構造を、柔らかいフィルムで挟んだ構造である。
【0013】
センサ部は、クラックの有無を検出する対象の構造物に貼り付けて使用される。構造物に貼り付けられたセンサ部の構造物側の伝導体を一方の端子、外側の伝導体を他方の端子とみなすと、センサ部は一方の端子対AB及び他方の端子対CDで表される伝送路の等価回路で表現することができる。
【0014】
伝送路の一方の端子対ABからみたインピーダンスZtは以下の式で表せる。
【0015】
【数1】
【0016】
上式でZoは伝送線の特性インピーダンス、γは伝播定数(複素数)、Ltは伝送線の長さを表す。ここで一般的には伝搬定数γに含まれるαを減衰定数(実数)を無視して、位相定数(実数)βとj=(-1)0.5を用いて、γ=jβとして式(1)を展開すると以下の式を得る。
【0017】
【数2】
【0018】
伝送線の単位長あたりのインダクタンスをLo、容量をCo、円周率をπ、周波数をω/2πとするとβ=ω(Lo Co)0.5の関係が分布定数回路の理論で知られている。式(2)において、分母と分子に含まれるβLt=ω(Lo Co)0.5Ltを変数とする三角関数により、インピーダンスは周期的にピークとなる周波数特性となる。インピーダンスがピークとなる周期が伝送線の長さLtに関係するのは、端子対CDが電磁波の反射点となって端子対ABと端子対CDの間で定在波がたつためである。構造物にクラックが生じた時では、クラックが電磁波の反射点となり定在波のたつ周波数が変わるため、インピーダンスがピークとなる周波数が変化する。
【0019】
検知対象である構造物が屋外に設置された場合、雨滴等によりセンサ部の端に水が付着することがある。また、構造物が屋内にある場合でも結露などによりセンサ部の端に水が付着することがある。この場合のセンサ部は、伝送線の他方の端子対CDに水の付着による寄生容量Cpが接続された回路モデルで表される。この時の端子対ABからみたインピーダンスはγ=jβとして以下の式で表される。
【0020】
【数3】
【0021】
式(3)において分母と分子に含まれる三角関数の変数はβLt+ωCpZoとなり、インピーダンスがピークとなる定在波のたつ周波数は寄生容量Cpにも依存する。式(2)で表されるCpがないときの定在波のたつ周波数と比較して、Cpがあるときの定在波のたつ周波数は変化する。
【0022】
また、絶縁体の誘電率の温度・湿度等での変化や経年での変化でも定在波のたつ周波数は変化する。
【0023】
このように、構造物にクラックが生じた場合だけでなく、センサ部の端に水等の誘電体が付着した場合や誘電体の温度・湿度や経年による変化でも定在波のたつ周波数が変化する。このため、センサ部の端に水等の誘電体が付着した場合および誘電体の温度・湿度や経年による変化の場合と、クラックが生じた場合を見分ける必要がある。
【0024】
本発明の実施形態に係るクラック検出装置は、構造物にクラックが生じたことによるセンサ部のインピーダンスの変化とそれ以外によるインピーダンスの変化の見分けを容易にし、センサ部の形状による影響を受けない構成である。
【0025】
(クラック検出装置)
図1は、本発明の実施形態に係るクラック検出装置の機能構成例を示すブロック図である。図1に示すクラック検出装置100は、センサ部10、周波数特性取得部20、クラック有無判定部30、クラック位置テーブル40、及びクラック位置検出部50を備える。
【0026】
センサ部10は、構造物200に貼り付けられる伝導体-絶縁体-伝導体の三層構造である。センサ部10は、例えば、PVDFフィルムで構成することができる。
【0027】
周波数特性取得部20は、所定の周波数の範囲を掃引してセンサ部10のインピーダンスが最大及び最小になる複数の周波数を取得する。周波数特性取得部20は、例えば、インピーダンスアナライザ等の一般的な計測器で構成することもできる。又は、FFTアナライザで構成してもよい。FFTアナライザでセンサ部10の周波数特性を測定し、複数の直列共振周波数と並列共振周波数を測定するようにしてもよい。具体例については後述する。
【0028】
クラック有無判定部30は、周波数特性取得部20で取得した複数の周波数の不均一性からクラックの有無を判定する。センサ部10にクラックが無い場合は、周波数特性取得部20で取得した複数の周波数のそれぞれの間隔は一定である。センサ部10にクラックが生じた場合は、複数の周波数のそれぞれの間隔にバラツキが生じる。よって、複数の周波数の不均一性からクラックの有無を判定することができる。また、複数の周波数の不均一性からクラックの有無を判定するので、センサ部10の大きさが限定されない。つまり、任意の大きさのセンサ部10を用いることができる。詳しくは後述する。
【0029】
クラック位置テーブル40は、センサ部10上のクラックの位置と周波数のずれの方向の関係を記録したテーブルである。クラック位置テーブル40は、予め設けられる。具体例は後述する。
【0030】
クラック位置検出部50は、クラック有無判定部30でクラックがあると判定された場合に、周波数特性取得部20で取得した2つの周波数の差を取って符号を求め、該符号でクラック位置テーブル40を参照してクラックの位置を検出する。クラックが生じた位置によって、センサ部10のインピーダンス特性は変化するので、2つの周波数の差を取り、予め設定された基準と比較することでクラックの位置を特定することができる。詳しくは後述する。
【0031】
このように本実施形態に係るクラック検出装置100は、構造物200のクラックを検出するクラック検出装置であって、構造物200に貼り付けられる伝導体-絶縁体-伝導体の三層構造のセンサ部10と、所定の周波数の範囲を掃引してセンサ部10のインピーダンスが最大及び最小になる複数の周波数を取得する周波数特性取得部20と、複数の周波数の不均一性からクラックの有無を判定するクラック有無判定部30と、クラックの位置と周波数のずれの方向の関係を記録したクラック位置テーブル40と、クラック有無判定部30でクラックがあると判定された場合に、周波数特性取得部20で取得した2つの周波数の差を取って符号を求め、該符号でクラック位置テーブル40を参照してクラックの位置を検出するクラック位置検出部50とを備える。
【0032】
これにより、センサの形状に限定されず、クラックによるインピーダンスの変化を容易に見分けることが可能になる。
【0033】
以下でクラックを検知する動作の原理を詳しく説明する。図2にクラックがある場合のセンサ部10の模式図を示し、図3にクラックがある場合の回路モデルを示す。図2の模式図では上部の伝導体の左端からLt1で右端からLt2の箇所に間隙がδlのクラックが生じている状態を示している。図3の回路モデルにおいてCcはクラックの間隙の部分に存在する浮遊容量を表し、L1とC1図2においてつながっている部分を伝送線とみなした場合の単位長さあたりのインダクタンスと容量を表している。長さLt1とLt2の伝送線の特性インピーダンスをZo(実数)、伝播定数をγ(複素数)としている。
【0034】
端子AとB間の電位差をVab、端子2と2‘間の電位差をV2、端子3と3’間の電位差をV3、端子CとD間の電位差をVcdとする。また、端子Aにおいて伝送線に沿って部分に流れる電流をIab、端子2において伝送線部分の電流をI2、端子3において伝送線部分の電流をI3、端子Cにおいて伝送線に沿って流れる電流をIcdとする。分布定数回路の理論に従い、端子Bには逆方向にIabが流れ、同様に端子2‘には逆方向にI2、端子3’には逆方向にI3、端子Dには逆方向にIcdが流れるとする。本回路モデルでは以下の回路方程式が成立する。
【0035】
【数4】
【0036】
ここで、K1とK2は長さLt1の伝送線の境界条件によって決定される定数であり、K3とK4は長さLt2の伝送線の境界条件によって決定される定数である。また上式でeは自然対数の底(ネイピア数)を表す。
【0037】
端子CDが開放であることからIcd=0となり、式(13)からK3とK4の関係は以下の式となる。
【0038】
【数5】
【0039】
式(14)を式(10)に代入すると以下の式が得られる。
【0040】
【数6】
【0041】
同様に式(14)を式(11)に代入すると以下の式が得られる。
【0042】
【数7】
【0043】
式(16)で式(15)を割るとV3とI3の関係式が以下のようになる。
【0044】
【数8】
【0045】
式(9)からV2はV3とI3を用いて以下の式で表される。
【0046】
【数9】
【0047】
式(8)からI2はV3とI3を用いて以下の式で表される。
【0048】
【数10】
【0049】
式(18)に代入する。
【0050】
【数11】
【0051】
ここで式(20)から式(22)のパラメータを用いると式(18)と式(19)はそれぞれ式(23)と式(24)のように表される。
【0052】
【数12】
【0053】
式(6)と式(7)からK1とK2は式(25)と式(26)で表される。
【0054】
【数13】
【0055】
ここでLp=L1+L2、Ln=-L1+L2すると、L1=(Lp-Ln)/2、L2=(Lp+Ln)/2となり、式(25)と式(26)は以下の式で表される。
【0056】
【数14】
【0057】
式(17)、式(27)、式(28)を式(4)に代入するとVabに関して以下の式が得られる。
【0058】
【数15】
【0059】
ここで、以下のパラメータを導入すると、式(29)は式(32)のように展開できる。
【0060】
【数16】
【0061】
式(17)、式(27)、式(26)を式(5)に代入するとIabに関して以下の式が得られる。
【0062】
【数17】
【0063】
ここで式(30)と式(31)を用いて展開するとIabの表式は以下のようになる。
【0064】
【数18】
【0065】
端子ABからみたインピーダンスZab=Vab/Iabは式(32)と式(33)から以下の式で表される。
【0066】
【数19】
【0067】
式(2)と式(3)の式展開と場合と同様に、βを位相定数(実数)、jを(-1)0.5として、γ=jβとすると、Zabの分子は以下のように展開できる。
【0068】
【数20】
【0069】
Zabの分母は以下のように展開できる。
【0070】
【数21】
【0071】
クラックが入った場合では、伝送線のインピーダンスZabの式の分母と分子に含まれる三角関数の変数は、{β(Lt1+Lt2)+θz}とβ(Lt1-Lt2)の2種となる。クラックが入っておらず伝送線の端の付着物(寄生容量Cp)がない場合ではインピーダンスの式に含まれる三角関数の変数は式(A-2)よりβLtの1種であり、クラックが入っておらず伝送線の端の付着物(寄生容量Cp)がある場合のインピーダンスの式に含まれる三角関数の変数は式(A-3)より(βLt+ωCpZo)の1種である。この考察からクラックの有無によりインピーダンスの式に含まれる三角関数の変数の数が変化することが分かる。ここでLtは伝送線の長さを表し、Lt=Lt1+Lt2+δlの関係がある。
【0072】
クラックが無い場合でのインピーダンスのピークの周期は、β=ω(Lo Co)0.5の関係とインピーダンスの式に含まれる三角関数の変数から考えて、Cpが無い場合で(Lo Co)0.5Lt、Cpがある場合で(Lo Co)0.5Lt+CpZoと周波数に依存せず一定である。
【0073】
これに対し、クラックがある場合において、2種の変数のうちβ(Lt1-Lt2)の成分に関しては、インピーダンスがピークとなる周期が(Lo Co)0.5(Lt1-Lt2)となる。{β(Lt1+Lt2)+θz}の成分に関しては、以下のように考察できる。
【0074】
以下の式で表されるパラメータθzはLp=L1+L2、式(20)、式(21)を用いて式(38)のように表される。
【0075】
【数22】
【0076】
構造物に生じたクラックがまだ初期段階でクラック間隙δlが非常に短い場合には以下の近似が成立する。
【0077】
【数23】
【0078】
さらに周波数ω/2πが低い領域では式(39)は以下の式(40)となり、θzは周波数に正比例する。
【0079】
【数24】
【0080】
従って、構造物に生じたクラックがまだ初期段階でクラック間隙δlが非常に短く周波数が低い領域における{β(Lt1+Lt2)+θz}の成分の周期は{(Lo Co)0.5(Lt1+Lt2)+(L1+C1 Zo2)δl/(2Zo) }となる。
【0081】
また、クラックが初期段階でのLp、Ln、|Az|と以下の式で与えられる。
【0082】
【数25】
【0083】
式(42)、式(43)よりクラックがまだ初期段階で間隙δlが非常に短く周波数が低い領域ではLnと|Az|は周波数に対し一定となる。クラックが生じている個所の伝導体の幅は、クラックのない伝導体の幅と比較して狭いためLo<L1、Co>C1となる。式(42)よりLnは負となる。
【0084】
次に、クラックがまだ初期段階で間隙δlが非常に短く周波数が低い領域でアドミタンスとインピーダンスがピークとなる周波数について考察する。アドミタンスはインピーダンスの逆数のため、アドミタンスのピークとなる周波数はZabの分子である式(35)がゼロとなる周波数である。式(41)から式(43)を代入すると以下の式を得る。
【0085】
【数26】
【0086】
クラックがまだ初期段階で間隙δlが非常に短く周波数が低い領域ではZo>>ω(L1-LoC1/Co)δl/2となり式(44)の第1項が支配的となるが、Zabの分子がゼロ近傍を議論することから式(44)では第2項も無視せずに考慮することとした。
【0087】
支配的な式(44)の第1項がゼロとなる周波数の近傍に式(44)がゼロとなる周波数が存在すると考えられる。式(44)の第1項のcos関数の大きさがゼロとなるとき第1項がゼロとなる。円周率をπとすると、cos関数の変数がπ/2の奇数倍となるときcos関数の大きさはゼロとなる。cos関数の性質によりcos関数の大きさがゼロになる近傍では式(44)の第1項のcos関数は以下の式で近似できる。
【0088】
【数27】
【0089】
式(45)と式(46)とβ=ω(LoCo)0.5を用いて、式(44)がゼロとなるすなわちアドミタンスのピークとなる周波数ω/2πは以下の条件を満たす。
【0090】
【数28】
【0091】
式(47)と式(48)をまとめると以下の式となる。
【0092】
【数29】
【0093】
インピーダンスのピークとなる周波数はZabの分母である式(36)がゼロとなる周波数である。式(41)から式(43)を代入すると以下の式を得る。
【0094】
【数30】
【0095】
クラックがまだ初期段階で間隙δlが非常に短く周波数が低い領域ではZo>>ω(L1-LoC1/Co)δl/2となり式(50)の第1項が支配的となるが、Zabの分母がゼロ近傍を議論することから式(50)では第2項も無視せずに考慮することとした。
【0096】
支配的な式(50)の第1項がゼロとなる周波数の近傍に式(50)がゼロとなる周波数が存在すると考えられる。式(50)の第1項のsin関数の大きさがゼロとなるとき第1項がゼロとなる。Sin関数の変数がπの整数倍となるときsin関数の大きさはゼロとなる。sin関数の性質によりsin関数の大きさがゼロになる近傍では式(50)の第1項のsin関数は以下の式で近似できる。
【0097】
【数31】
【0098】
式(51)と式(52)とβ=ω(LoCo)0.5を用いて、式(44)がゼロとなるすなわちアドミタンスのピークとなる周波数ω/2πは以下の条件を満たす。
【0099】
【数32】
【0100】
式(53)と式(54)をまとめると以下の式となる。
【0101】
【数33】
【0102】
さらに式(49)と式(55)をまとめると以下の式を得る。
【0103】
【数34】
【0104】
式(56)において周波数fm=ωm/2πを用いた。
【0105】
図4にインピーダンスの周波数特性の例を示す。図4の周波数f1やf3のインピーダンスの極小値はアドミタンスのピークを表す。アドミタンスとインピーダンスのピークの周波数を直流側から番号を付与すると式(56)中のmと同じになる。
【0106】
クラックの無いδl=0の場合では式(2)や式(3)について議論したとおりアドミタンスとインピーダンスのピークの周波数は周期的であるため、隣り合うアドミタンスとインピーダンスのピークの周波数の差は一定である。このため、アドミタンスとインピーダンスのピークの周波数を直流側から付与した番号mでその周波数を規格化した周波数は一定となる。式(56)においてもδl=0とすると右辺に周波数に依存する右辺の第3項がゼロとなるため、mで規格化した周波数fm/mは一定となる。
【0107】
クラックのある場合では、fm/mは一定ではなくなる。このため、アドミタンスとインピーダンスのピークとなる周波数を数点取得し、mで規格化した周波数の一致・不一致でクラックの有無が判定できる。
【0108】
次にクラックの位置について考察する。クラックの位置をLt1とLt2のいずれかで表すことができるが、以下の式で表される全体の長さLt1+Lt2で規格化したパラメータを導入しても表すことができる。
【0109】
【数35】
【0110】
図5にパラメータLocとトランスデューサ上の位置の関係を示す。アドミタンスとインピーダンスのピークとなる周波数を計測中に全体の長さLt1+Lt2は変化しないため式(57)の分母は一定である。トランスデューサの中心ではLt1=Lt2となりLoc=0となる。LocはLt1と正比例するためクラックの位置が図5上の右側になる(Lt1が大きくなる)とLocは0より大きくなる。また、LocはLt2に-1を乗じた数に比例するためクラックの位置が図5上の左側になる(Lt2が大きくなる)とLocは0より小さくなる。
【0111】
式(56)の右辺第3項のcos関数の変数にLt1-Lt2があるため、第3項のみを抽出すればパラメータLocとの関係式が得られると考えられる。クラックがあるためfm/mは一定ではないが、f1の近傍にあると考え、さらにf1はクラックが無い時にアドミタンスがピークになる最低の周波数fbの近傍にあると考えて以下の式でfmを表す。
【0112】
【数36】
【0113】
fbは1/4波長で定在波がたったときの周波数のため、トランスデューサの全体の長さLt1+Lt2と電磁波の速度(LoCo)-0.5とに以下の関係が成立する。
【0114】
【数37】
【0115】
式(58)を用いて式(56)右辺の第3項のcos関数を展開すると以下の式を得る。
【0116】
【数38】
【0117】
式(60)の展開では2πδf(LoCo)0.5 (Lt1-Lt2)<<1とした。式(60)に式(59)を代入すると以下の式を得る。
【0118】
【数39】
【0119】
式(61)において第1項がゼロより十分大きくδf/fb<<1とすれば式(56)右辺の第3項のcos関数を以下の式で近似できる。
【0120】
【数40】
【0121】
式(62)を用いて式(56)は以下の式となる。
【0122】
【数41】
【0123】
任意のma番目の周波数とmb番目の周波数についてmで規格化した周波数の逆数の差をとるとLocに依存する第3項を取り出すことができ以下の式を得る。
【0124】
【数42】
【0125】
式(64)の右辺は周波数がなくても導出可能であり、maとmbは予め決定できる数である。また、任意の長さLt1+Lt2のトランスデューサに対してLocの範囲は-1<Loc<1であるため、BLを除けばどのような長さのトランスデューサ対しても式(64)の右辺は予め導出できる。前述の式(42)で説明したとおりBL>0であるため、右辺の正負の符号は左辺と同じである。式(64)の左辺のfmaとfmbは、アドミタンスとインピーダンスの周波数依存性の測定により得られる。このため、予めLocとma、mbの組合せに対する式(65)で表される第1の評価関数の結果をクラック位置テーブルとして保持しておき、アドミタンスとインピーダンスの周波数依存性の測定結果から得られた式(66)で表される第2の評価関数Evmの符号、ma、mbの組合せとクラック位置テーブル40からクラックの位置であるLocの領域を逆引きすることができる。
【0126】
【数43】
【0127】
式(65)と式(66)でsgnは符号関数である。
【0128】
アドミタンスとインピーダンスの個数を4とした場合のクラック位置テーブル40の例を図6(a)に示す。例えば、はじめにma=3とmb=1でのEvmの符号を評価しEvmが正の時では、次にma=4とmb=3でのEvmを評価する。ma=4とmb=3でのEvmが正の場合では図(b)に示すトランスデューサ上の(1)の領域にクラックがあることとなる。
【0129】
上述のように、予めLocとma、mbの組合せに対する式(64)で表される評価関数の結果をクラック位置テーブル40として保持しておき、アドミタンスとインピーダンスの周波数依存性の測定結果から得られた式(65)で表されるEvmの符号、ma、mbの組合せとクラック位置テーブル40からクラックの位置であるLocの領域を逆引きすることができる。
【0130】
周波数特性取得部20の具体例について説明する。
【0131】
周波数特性取得部20は、所定の周波数の範囲を掃引してセンサ部10のインピーダンスが最大及び最小になる複数の周波数を取得する。図7に周波数特性取得部20の周波数可変信号源21、負荷部22とセンサ部10の回路モデルを示す。周波数可変信号源21から出力された電圧信号は負荷部22(抵抗Rs)を介してセンサ部10に印加される。センサ部10のインピーダンスが大きい時では端子A-B間の電圧Vaも大きいため、Vaがピークとなる周波数はインピーダンスのピークとなる周波数と一致する。センサ部10のアドミタンスが大きい時では電流Isが大きくなる。電流Isが大きくなると負荷部22での電圧降下が大きくなるため、Vs-Vaを測定すればアドミタンスの大きさがわかる。従ってVs-Vaがピークとなる周波数とアドミタンスがピークとなる周波数は一致する。
【0132】
図8に周波数特性取得部20の構成例を示す。端子Aからの信号は直交復調部24と差動演算部23に入力される。直交復調部24では周波数可変信号源21から入力される基準信号の同相成分と直交成分の振幅に端子Aからの信号を分離し周波数特性算出部26に出力する。差動演算部23では負荷部22からの信号と端子Aからの信号の差をとって直交復調部25に出力する。直交復調部25では基準信号の同相成分と直交成分の振幅に差動演算部23からの入力信号を分離し周波数特性算出部26に出力する。周波数特性算出部26では直交復調部24の出力信号からインピーダンスのデータを生成し、直交復調部25の出力信号からアドミタンスのデータを生成して周波数特性データとしてクラック有無判定部30に送信する。
【0133】
所定の周波数範囲の周波数に対応した周波数特性データ取得したのち、アドミタンスとインピーダンスがピークとなる周波数を抽出するとともに低周波側から周波数に対応した番号を付与する。
【0134】
この後、アドミタンスとインピーダンスのピークの周波数を番号で規格化した複数の周波数が所定の不均一さ未満であればクラックが無いと判定する。規格化した複数の周波数が所定の不均一さ以上である場合には、2種の番号とピークの周波数を用いて式(66)で表される第2の評価関数で評価した結果とクラック位置テーブル40を照合してクラックの位置を決定する。クラックの有無の判定結果とクラックの位置の情報は、通信部(図示せず)を介して外部へ送信するようにしても良い。
【0135】
以上説明したように本実施形態に係るクラック検出装置100は、構造物200のクラックを検出するクラック検出装置であって、構造物200に貼り付けられる伝導体-絶縁体-伝導体の三層構造のセンサ部10と、所定の周波数の範囲を掃引してセンサ部10のインピーダンスが最大及び最小になる複数の周波数を取得する周波数特性取得部20と、複数の周波数の不均一性からクラックの有無を判定するクラック有無判定部30と、クラックの位置と周波数のずれの方向の関係を記録したクラック位置テーブル40と、クラック有無判定部30でクラックがあると判定された場合に、周波数特性取得部20で取得した2つの周波数の差を取って符号を求め、該符号で前記クラック位置テーブル40を参照してクラックの位置を検出するクラック位置検出部50とを備える。
【0136】
また、クラック有無判定部30は、インピーダンスが最大及び最小になる複数の周波数を低い周波数から1から順番に付番し、該付番した番号でそれぞれの周波数を正規化した正規化周波数を求め、複数の正規化周波数のそれぞれが同じであればクラックが無いと判定し、複数の正規化周波数が得られればクラックありと判定する。この判定方法によれば、周波数を番号で規格化した複数の周波数が所定の不均一さでクラックの有無を判定するので、ゼンサ部10のセンサの形状の影響を受けない。つまり、センサはどのような形状で有っても構わない。
【0137】
このように本実施形態に係るクラック検出装置100は、クラックによるインピーダンスの変化を容易に見分けることを可能にする。なお、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された要旨の範囲内で変形が可能である。
【符号の説明】
【0138】
10:センサ部
20:周波数特性取得部
21:周波数可変信号源
22:負荷部
23:差動演算部
24,25:直交復調部
26:周波数特性算出部
30:クラック有無判定部
40:クラック位置テーブル
50:クラック位置検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8