(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】半導体レーザ素子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01S 5/028 20060101AFI20221110BHJP
H01S 5/343 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
H01S5/028
H01S5/343 610
(21)【出願番号】P 2021206248
(22)【出願日】2021-12-20
(62)【分割の表示】P 2019213863の分割
【原出願日】2017-05-11
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】落合 真尚
【審査官】小澤 尚由
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-16684(JP,A)
【文献】特開2004-14997(JP,A)
【文献】特開2004-111622(JP,A)
【文献】特開2012-169642(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0189349(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光出射側面及び光反射側面を有する窒化物半導体構造体と、
前記光出射側面に設けられた出射側ミラーと、
前記光反射側面に設けられた反射側ミラーとを備えた
、半導体レーザ素子であって
、
前記窒化物半導体構造体の活性層がInを含み、
前記出射側ミラーは、
屈折率の異なる2種類以上の膜が積層された積層構造であり、
特定の波長λに対して、
実質的にλ/4nの整数倍の膜厚であるλ/4膜を1以上有し、
実質的にλ/4nの整数倍とは異なる膜厚である非λ/4膜を少なくとも1つ有し、
前記λ/4膜の数が前記非λ/4膜の数よりも多く、
前記半導体レーザ素子の発振波長
は、500nm以上
であり、且つ、λ±Xnm(5≦X≦15)の範囲内にあり、
前記出射側ミラーは、前記λ±Xnm(5≦X≦15)の範囲内で、前記反射側ミラーの反射率よりも低く且つ波長の増加と共に増加する反射率を有する、半導体レーザ素子。
(ただし、nは各膜の屈折率である。)
【請求項2】
前記非λ/4膜の数は1つであることを特徴とする請求項
1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
前記非λ/4膜は、前記出射側ミラーを構成する膜のうち最も外側の膜であることを特徴とする請求項
2に記載の半導体レーザ素子。
【請求項4】
前記出射側ミラーは、前記
λ±Xnm(5≦X≦15)の範囲内で、波長が10nm増加するごとに2%以上変化する反射率を有することを特徴とする請求項
1~
3のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項5】
前記反射側ミラーは、前記
λ±Xnm(5≦X≦15)の範囲内で、実質的に一定の反射率を有することを特徴とする請求項
1~
4のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記発振波長は、515~540nmの範囲内であることを特徴とする請求項
1~
5のいずれか1項に記載の半導体レーザ素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザ素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ素子は、活性層を含む半導体構造体と、光出射側面に設けられた出射側ミラーと、光反射側面に設けられた反射側ミラーとを有する。反射側ミラーは例えば80%以上という高反射率の膜であり、出射側ミラーはそれよりも低い反射率の膜である。例えば特許文献1には、反射率3~13%の出射側ミラーを有し、発振波長が410nm付近である半導体レーザ素子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の
図3には、出射側ミラーの反射率の波長依存性が記載されている。この図によれば、出射側ミラーの反射率は、実際の発振波長が目標値から多少ずれたとしてもほとんど変わらない。発振波長のずれによって半導体構造体の発光効率が変わらないのであれば、実際の発振波長が多少ずれても目標どおりの閾値電流や光出力を得ることができるはずである。
【0005】
しかしながら、例えば500nm以上の緑色領域の光を発振する半導体レーザ素子では、紫色~青色領域の光を発振する半導体レーザ素子と比較して、その半導体構造体の発光効率が未だ十分ではない。このような半導体レーザ素子では、発振波長が長波になるほど半導体構造体の発光効率が低下する傾向がある。また、例えば発振波長が緑色領域である半導体レーザ素子は活性層としてInGaN層などを有するが、InGaN層のIn組成比が増加するほどInGaN層におけるInの実際の取り込み量が安定しにくいため、実際の発振波長が目標値からずれやすい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は、以下の発明を含む。
波長λoを発振波長の目標値とする、光出射側面及び光反射側面を有する窒化物半導体構造体を準備する工程と、
前記光出射側面に出射側ミラーを形成する工程と、
前記光反射側面に反射側ミラーを形成する工程とを備える半導体レーザ素子の製造方法であって、
前記半導体レーザ素子の実際の発振波長λaは、500nm以上であり、且つ、λo±Xnm(5≦X≦15)の範囲内にあり、
前記出射側ミラー形成工程において、λo±Xnmの範囲内で、前記反射側ミラーよりも反射率が低く且つ波長の増加と共に反射率が増加する出射側ミラーを、前記光出射側面に形成することを特徴とする半導体レーザ素子の製造方法。
【0007】
光出射側面及び光反射側面を有する窒化物半導体構造体と、
前記光出射側面に設けられた出射側ミラーと、
前記光反射側面に設けられた反射側ミラーとを備えた、発振波長が500nm以上の半導体レーザ素子であって、
前記出射側ミラーは、前記発振波長を含む10nm以上30nm以下の幅の波長領域において、前記反射側ミラーの反射率よりも低く且つ波長の増加と共に増加する反射率を有することを特徴とする半導体レーザ素子。
【発明の効果】
【0008】
このような発明によれば、閾値電流のばらつきを低減することができる半導体レーザ素子及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態に係る製造工程を概略的に示すフローチャートである。
【
図2】実施形態に係る半導体レーザ素子の製造工程を説明するための模式的な断面図である。
【
図3A】実施形態に係る半導体レーザ素子の製造工程を説明するための模式的な断面図である。
【
図3B】出射側ミラー及びその付近を示す部分拡大図である。
【
図4】実施例の出射側ミラーの反射率の波長依存性を示すグラフである。
【
図5】比較例1の出射側ミラーの反射率の波長依存性を示すグラフである。
【
図6】比較例2の出射側ミラーの反射率の波長依存性を示すグラフである。
【
図7】実施形態に係る半導体レーザ素子を示す模式的な断面図である。
【
図8】実施例の半導体レーザ素子の発振波長と閾値電流との関係を示すグラフである。
【
図9】実施例、比較例1及び2の発振波長520nmの半導体レーザ素子の電流と光出力の関係を示すグラフである。
【
図10】実施例、比較例1及び2の発振波長525nmの半導体レーザ素子の電流と光出力の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するための方法を例示するものであって、本発明を以下の実施形態に特定するものではない。さらに以下の説明において、同一の名称、符号については同一もしくは同質の部材を示しており、詳細説明を適宜省略する。
【0011】
図1に示すように、本実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法は、以下の工程を含む。
S100:波長λoを発振波長の目標値とする、光出射側面及び光反射側面を有する窒化物半導体構造を準備する工程。
S202:光出射側面に出射側ミラーを形成する工程。
S204:光反射側面に反射側ミラーを形成する工程。
ここで、半導体レーザ素子の実際の発振波長λaは、500nm以上であり、且つ、λo±Xnm(5≦X≦15)の範囲内にある。出射側ミラーを形成する工程において、λo±Xnmの範囲内で、反射側ミラーよりも反射率が低く且つ波長の増加と共に反射率が増加する出射側ミラーを、光出射側面に形成する。
【0012】
(窒化物半導体構造を準備する工程S100)
まず、
図2に示すように、光出射側面10a及び光反射側面10bを有する窒化物半導体構造体10を準備する。
図1に示すように、窒化物半導体構造体を準備する工程S100は、例えば、基板準備工程とS102と、n側半導体層形成工程S104と、活性層形成工程S106と、p側半導体層形成工程S108と、を有する。すなわち、
図2に示すように、窒化物半導体構造体10は、n側半導体層11と、活性層12と、p側半導体層13と、を上方に向かってこの順に有することができる。n側半導体層11と活性層12とp側半導体層13は、それぞれが窒化物半導体からなる。窒化物半導体構造体10は基板20の上に形成することができる。なお、
図2は、共振器方向と平行な方向、すなわち後述するリッジ13aの延伸方向と平行な方向における断面を示す図である。
【0013】
窒化物半導体構造体10は、これを用いて形成する半導体レーザ素子の発振波長が特定の波長となることを目標として設計される。目標とする特定の波長をここでは波長λoとする。例えば、波長λoが520nmである場合の活性層12中の井戸層の組成の目標としては、In組成比25%のInGaNが挙げられる。もし目標どおりの組成等を有する窒化物半導体構造体10が得られれば、それを用いて形成する半導体レーザ素子の発振波長は目標値である波長λoとなるはずである。しかし、実際に得られる窒化物半導体構造体10の組成等が目標値と完全に一致するとは限らず、多くの場合、目標の組成等とはやや異なるものが得られる。実際の発振波長λaについても同様に、目標の波長λoとはやや異なる波長となることがある。実際の発振波長λaの波長λoとの差異が比較的小さければ良品として許容することができる。そこで、実際の発振波長λaはλo±Xnm(5≦X≦15)の範囲内とする。本実施形態においてはX=15とする。また、窒化物半導体構造体10を用いて得られる半導体レーザ素子は緑色レーザ光を発振するレーザ素子であり、その実際の発振波長λaは500nm以上である。さらには、発振波長λaは、515~540nmの範囲内とすることができる。なお、発振波長とはピーク波長を指す。
【0014】
基板20としては、GaN等の半導体からなる基板や、サファイア等の絶縁性材料からなる基板を用いることができる。例えば、基板20として、上面をc面((0001)面)とするGaN基板を用いる。n側半導体層11は、GaN、InGaN、AlGaN等の窒化物半導体からなる多層構造とすることができる。n側半導体層11に含まれるn型半導体層としては、Si、Ge等のn型不純物が含有された窒化物半導体からなる層が挙げられる。活性層12は単一量子井戸構造又は多重量子井戸構造を有することができる。
活性層12は、例えば、InGaN井戸層とGaN障壁層とを有する。p側半導体層13は、GaN、InGaN、AlGaN等の窒化物半導体層からなる多層構造とすることができる。p側半導体層13に含まれるp型窒化物半導体層としては、Mg等のp型不純物が含有された窒化物半導体からなる層が挙げられる。
【0015】
図2に示すように、基板20の下面にn電極30を設けることができる。また、p側半導体層13の上面に接してp電極41を設け、さらにその上にp側パッド電極42を設けることができる。各電極の材料は、例えば、Ni、Rh、Cr、Au、W、Pt、Ti、Al等の金属又は合金、Zn、In、Snから選択される少なくとも1種を含む導電性酸化物等の単層膜又は多層膜が挙げられる。導電性酸化物の例としては、ITO(Indium Tin Oxide)、IZO(Indium Zinc Oxide)、GZO(Gallium-doped Zinc Oxide)が挙げられる。
【0016】
例えば、ウェハ状の基板20を用いて、その上に、n側半導体層11と活性層12とp側半導体層13とを順に形成し、それを割断することにより得られた劈開面を光出射側面10a及び光反射側面10bとすることができる。
【0017】
(出射側ミラーを形成する工程S202)
窒化物半導体構造体10を準備した後、
図3Aに示すように、光出射側面10aに出射側ミラー50を形成する。出射側ミラー50は、λo±Xnmの範囲内で、後述する反射側ミラー60よりも反射率が低く且つ波長の増加と共に反射率が増加する。
図4は、出射側ミラー50の反射率の波長依存性の一例を示すグラフである。
【0018】
上述のとおり、発振波長が緑色領域である半導体レーザ素子は、発振波長が長波になるほど窒化物半導体構造体10の発光効率が低下する傾向がある。そこで、
図4に示すような波長依存性を有する反射率の出射側ミラー50を形成する。例えば実際の発振波長λaが波長λoよりも長波であれば、実際の発振波長λaが波長λoと同値である場合と比較して、窒化物半導体構造体10の発光効率は低下し、反射率は上昇する。
【0019】
半導体レーザ素子の閾値電流Ithは閾値電流密度Jthに正比例する。そして、閾値電流密度Jthは、窒化物半導体構造体10の発光効率、つまり内部量子効率ηiが低下するほど増大し、また、出射側ミラー50の反射率が上昇するほど低下する。すなわち、実際の発振波長λaが波長λoよりも長波になることで発光効率が低下するので、本来であれば閾値電流Ithが上昇するはずである。しかし、一方で、出射側ミラー50の反射率が上昇するので、たとえ実際の発振波長λaが波長λoからずれたとしても閾値電流Ithの目標値からのずれを小さくすることができる。これにより半導体レーザ素子の歩留まりを向上させることができる。また、閾値電流のばらつきが低減されるほど、アプリケーションに組み込んだ際に、レーザ発振オンの電流及び/又はオフの電流をより厳密に設定することができるという利点もある。
【0020】
出射側ミラー50の反射率の波長の増加に伴う変化の度合いが小さければ、閾値電流I
thの目標値からのずれを小さくする効果が得られにくい。このため、出射側ミラー50は、λo±Xnmの範囲内で波長が10nm増加するごとに2%以上変化する反射率を有することが好ましい。一方で、反射率の変化度合いが大きすぎると安定した特性が得られにくいと考えられるため、反射率の波長10nmごとの変化は10%以下とすることが好ましい。また、窒化物半導体構造体10の発光効率はλo±Xnmの範囲内において概ね直線状に変化する傾向にあるため、出射側ミラー50の反射率も同様に概ね直線状に変化することが好ましい。例えば
図4に示す出射側ミラー50の反射率の波長依存性のグラフにおいて、λo±Xnmの範囲内に変曲点は実質的にないといえる。
【0021】
出射側ミラー50は、λo±Xnmの範囲内に加えて、さらにその前後の波長範囲においても波長の増加と共に反射率が増加することが好ましい。このような波長範囲としては、λo±(X+5)nmの範囲が挙げられる。換言すると、出射側ミラー50の反射率の波長依存性のグラフにおいて、変曲点はλo±(X+5)nmの範囲よりも外にあることが好ましい。出射側ミラー50の膜厚や屈折率が目標値からずれると反射率が目標値から変化するが、このように波長範囲に余裕を持たせることにより、膜厚等が多少ずれたとしても安定した特性を得ることができる。
【0022】
図3Bに示すように、出射側ミラー50は、屈折率の異なる2種類以上の膜が積層された積層構造を有することができる。出射側ミラー50は、例えば、光出射側面10aから順に、
膜厚158nmのAl
2O
3膜51a、
膜厚59nmのZrO
2膜52、
膜厚79nmのAl
2O
3膜51b、
膜厚59nmのZrO
2膜52、
膜厚79nmのAl
2O
3膜51b、
膜厚59nmのZrO
2膜52、
膜厚180nmのAl
2O
3膜53、
を積層することにより形成する。本実施形態において目標値とする波長λoは520nmであるから、光出射側面10aに接するAl
2O
3膜51aからZrO
2膜52までの合計6層は実質的にλo/4nの整数倍の膜厚であるλ/4膜である。そして、最も外側の膜であるAl
2O
3膜53は実質的にλo/4nの整数倍とは異なる膜厚である非λ/4膜である。なお、nは各膜の屈折率を指す。また、これらの値は目標値であり、実際の膜厚はこれらから若干のずれが生じることがある。例えば、各膜の実際の膜厚は目標値から0~10nm程度ずれることがある。
【0023】
このような出射側ミラー50において、仮に最も外側のAl
2O
3膜53を膜厚158nmとするとλ/4膜となる。この場合、
図5に示すように、波長λo及びその前後においてほぼ変化しない反射率となる。このことから、出射側ミラー50を、λ/4膜を1以上有し、非λ/4膜を少なくとも1つ有する構造とすることで、波長の増加に伴って変化する反射率とすることができると考えられる。なお、Al
2O
3膜53の膜厚をさらに減らして膜厚130nmとしても非λ/4膜となるが、この場合は
図6に示すように波長λo及びその前後において波長の増加と共に反射率が減少する反射率となる。これらのことから、出射側ミラー50の一部を非λ/4膜とした上で、その非λ/4膜の膜厚を調整することで、
図4に示すように波長の増加に伴って変化する反射率とすることができると考えられる。
【0024】
図6に示すように、波長が増加するほど反射率が低下する場合には、発振波長が反射率の比較的高い短波長域であれば閾値電流が低くなり、反射率の比較的低い長波長域であれば閾値電流が高くなる。このため、本実施形態の出射側ミラー50を用いる場合と比較して閾値電流のばらつきは大きくなる傾向がある。また、
図6に示すように、発振波長が長波になるほど反射率が低下するということは、すなわち、発振波長が長波になるほど光閉じ込めが低下するということである。光出力は室温雰囲気よりも高温雰囲気の方が低下するが、この低下の度合いは、特に長波長域において、光閉じ込めが高い方が小さいと考えられる。このため、例えば525nm以上の長波長域において、出射側ミラー50は、
図6に示すような長波ほど低反射率となる構造よりも、
図4に示すような長波ほど高反射率となる構造が好ましい。
【0025】
また、非λ/4膜の数が多くなるほど、変化点の多い波長依存性や角度依存性となりやすいと考えらえる。このため、非λ/4膜は少数であることが好ましく、すなわちλ/4膜が複数であり、その数が非λ/4膜の数よりも多いことが好ましい。より好ましくは、非λ/4膜の数を1つとする。また、窒化物半導体構造体10の比較的近くに配置された膜の厚みを変更すると、窒化物半導体構造体10と出射側ミラー50との界面における電界強度が変化する傾向にある。該界面の電界強度が大きいほど、該界面やその付近が損傷しやすい。
図3Bに示すように非λ/4膜を最も外側の膜とすれば、窒化物半導体構造体10と出射側ミラー50との界面における電界強度に影響を与えにくいので、好ましい。
【0026】
出射側ミラー50は、光出射側面10aのうち少なくとも活性層12を覆う位置に形成する。出射側ミラー50は例えば光出射側面10aの全面を覆うように形成し、
図3Aに示すように出射側ミラー50の一部が窒化物半導体構造体10の上方及び/又は下方に回り込んでいてもよい。この場合、回り込んだ部分の膜厚は上述の膜厚と異なっていてよい。出射側ミラー形成工程S202における窒化物半導体構造体10は、半導体レーザ素子となる部分が光出射側面10aと平行な方向に複数連なったバー状のものとすることができる。このようなバー状の窒化物半導体構造体10は、ウェハを分割することにより得ることができる。
【0027】
(反射側ミラーを形成する工程S204)
窒化物半導体構造体10を準備した後、
図3Aに示すように、光反射側面に反射側ミラー60を形成する。反射側ミラー形成工程S204は、出射側ミラー形成工程S202を行う前でもよく、同時でもよい。λo±Xnmの範囲内において、反射側ミラー60の反射率は出射側ミラー50の反射率よりも高い。これにより、レーザ発振時に、出射側ミラー50から出射するレーザ光の光出力を、反射側ミラー60から出射するレーザ光の光出力よりも高くすることができる。
【0028】
反射側ミラー60の反射率が高いほど閾値電流を下げることができるため、λo±Xnmの範囲内における反射側ミラー60の反射率は90%以上とすることが好ましい。反射側ミラー60は、λo±Xnmの範囲内における波長の増加に対する変化量が前記出射側ミラーよりも小さい反射率を有することが好ましい。これにより、実際の波長λaがλo±Xnmの範囲内のどこであっても同程度の高反射率を得ることができるので、閾値電流のばらつきを小さくすることができる。より好ましくは、反射側ミラー60を、λo±Xnmの範囲内で実質的に一定の反射率を有するものとする。
【0029】
反射側ミラー60は、屈折率の異なる2種類以上の膜が積層された積層構造を有することができる。反射側ミラー60は、例えば、光反射側面10bから順に、
膜厚158nmのAl2O3膜、
膜厚61nmのTa2O5膜、
膜厚87nmのSiO2膜と膜厚61nmのTa2O5膜を6ペア、
膜厚174nmのSiO2膜
を積層することにより形成する。本実施形態において目標値とする波長λoは520nmであるから、反射側ミラー60を構成する各膜は実質的にλo/4nの整数倍の膜厚であるλ/4膜である。なお、nは各膜の屈折率を指す。また、これらの値は目標値であり、実際の膜厚はこれらから若干のずれが生じることがある。例えば、各膜の実際の膜厚は目標値から0~10nm程度ずれることがある。
【0030】
出射側ミラー50と同様に、反射側ミラー60は、光反射側面10bのうち少なくとも活性層12を覆う位置に形成し、例えば全面を覆うように形成する。
図3Aに示すように、反射側ミラー60の一部が窒化物半導体構造体10の上方及び/又は下方に回り込んでいてもよく、回り込んだ部分の膜厚は上述の膜厚と異なっていてよい。反射側ミラー形成工程S204における窒化物半導体構造体10は、半導体レーザ素子となる部分が光反射側面10bと平行な方向に複数連なったバー状のものとすることができる。
【0031】
(その他の工程)
半導体レーザ素子100となる部分が複数連なったバー状構造体に対して出射側ミラー50及び反射側ミラー60を形成する場合は、これらの形成が完了した後、バー状構造体を複数の半導体レーザ素子100に分割する工程をさらに備えることができる。また、実際の発振波長λaを測定し、λo±Xnmの範囲内であるものを良品として判定する工程をさらに備えてもよい。
【0032】
(半導体レーザ素子100)
以上の工程によって得られた半導体レーザ素子100を
図7に示す。
図7は、共振器方向と垂直な方向、すなわちリッジ13aの延伸方向と垂直な方向における断面を示す図である。半導体レーザ素子100の実際の発振波長λaは500nm以上である。
図7に示すように、半導体レーザ素子100は、光出射側面10a及び光反射側面10bを有する窒化物半導体構造体10と、光出射側面10aに設けられた出射側ミラー50と、光反射側面10bに設けられた反射側ミラー60とを有する。出射側ミラー50は、実際の発振波長λaを含む10nm以上30nm以下の幅の波長領域において、反射側ミラー60の反射率よりも低く且つ波長の増加と共に増加する反射率を有する。出射側ミラー50は、上述のとおり、λ/4膜及び非λ/4膜を有することができる。このとき、λ/4膜及び非λ/4膜は、半導体レーザ素子100の実際の発振波長λaを基準として規定してもよい。すなわち、実際の発振波長λaを含む10nm以上30nm以下の幅の波長領域の範囲内の波長をλとして、実質的にλ/4nの整数倍の膜厚であるλ/4膜、実質的にλ/4nの整数倍とは異なる膜厚である非λ/4膜、ということができる。
【0033】
このように、発振波長が目標値からずれる可能性を考慮して、窒化物半導体構造体10の発光効率が低下すると反射率が上昇する出射側ミラー50とすることにより、閾値電流の目標値からのずれを小さくすることができる。発光効率の低下は長波長になるほど顕著であるため、このような構成は発振波長が515~540nmの範囲内である半導体レーザ素子100に対してより効果的であると考えられる。
【0034】
図7に示すように、p側半導体層13の上側には例えばリッジ13aが設けられている。活性層12のうちリッジ13aの直下の部分及びその近傍が光導波路領域である。また、リッジ13aの側面から連続するp側半導体層14の上面に絶縁膜70を設けてよい。
絶縁膜70は、例えば、Si、Al、Zr、Ti、Nb、Ta等の酸化物又は窒化物等の単層又は積層膜によって形成することができる。リッジ13aは、出射側ミラー形成工程S202及び反射側ミラー形成工程S204よりも前に形成する。すなわち、窒化物半導体構造体準備工程S100において、リッジ13aが形成された窒化物半導体構造体10を準備する。絶縁膜70についても同様に、出射側ミラー形成工程S202及び反射側ミラー形成工程S204よりも前に形成することができる。
尚、上述のような本発明は、次の態様を包含していることを確認的に述べておく。
第1態様:波長λoを発振波長の目標値とする、光出射側面及び光反射側面を有する窒化物半導体構造体を準備する工程と、
前記光出射側面に出射側ミラーを形成する工程と、
前記光反射側面に反射側ミラーを形成する工程とを備える半導体レーザ素子の製造方法であって、
前記半導体レーザ素子の実際の発振波長λaは、500nm以上であり、且つ、λo±Xnm(5≦X≦15)の範囲内にあり、
前記出射側ミラー形成工程において、λo±Xnmの範囲内で、前記反射側ミラーよりも反射率が低く且つ波長の増加と共に反射率が増加する出射側ミラーを、前記光出射側面に形成することを特徴とする半導体レーザ素子の製造方法。
第2態様:前記出射側ミラー形成工程において、
屈折率の異なる2種類以上の膜が積層された積層構造を有し、
実質的にλo/4nの整数倍の膜厚であるλ/4膜を複数含み、
実質的にλo/4nの整数倍とは異なる膜厚である非λ/4膜を少なくとも1つ含む前記出射側ミラーを形成することを特徴とする上記第1態様に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
(ただし、nは各膜の屈折率である。)
第3態様:前記出射側ミラー形成工程において、
前記λ/4膜の数が前記非λ/4膜の数よりも多い前記出射側ミラーを形成することを特徴とする上記第2態様に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
第4態様:前記出射側ミラー形成工程において、
前記非λ/4膜の数が1つである前記出射側ミラーを形成することを特徴とする上記第3態様に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
第5態様:前記出射側ミラー形成工程において、
前記非λ/4膜が最も外側の膜である前記出射側ミラーを形成することを特徴とする上記第4態様に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
第6態様:前記出射側ミラー形成工程において、
λo±Xnmの範囲内で波長が10nm増加するごとに2%以上変化する反射率を有する前記出射側ミラーを形成することを特徴とする上記第1態様~第5態様のいずれかに記載の半導体レーザ素子の製造方法。
第7態様:前記反射側ミラー形成工程において、
λo±Xnmの範囲内における波長の増加に対する変化量が前記出射側ミラーよりも小さい反射率を有する前記反射側ミラーを形成することを特徴とする上記第1態様~第6態様のいずれかに記載の半導体レーザ素子の製造方法。
第8態様:前記反射側ミラー形成工程において、
λo±Xnmの範囲内で実質的に一定の反射率を有する前記反射側ミラーを形成することを特徴とする上記第7態様に記載の半導体レーザ素子の製造方法。
第9態様:Xは15であることを特徴とする上記第1態様~第8態様のいずれかに記載の半導体レーザ素子の製造方法。
第10態様:前記実際の発振波長λaは、515~540nmの範囲内であることを特徴とする上記第1態様~第9態様のいずれかに記載の半導体レーザ素子の製造方法。
第11態様:光出射側面及び光反射側面を有する窒化物半導体構造体と、
前記光出射側面に設けられた出射側ミラーと、
前記光反射側面に設けられた反射側ミラーとを備えた、発振波長が500nm以上の半導体レーザ素子であって、
前記出射側ミラーは、前記発振波長を含む10nm以上30nm以下の幅の波長領域において、前記反射側ミラーの反射率よりも低く且つ波長の増加と共に増加する反射率を有することを特徴とする半導体レーザ素子。
第12態様:前記出射側ミラーは、
屈折率の異なる2種類以上の膜が積層された積層構造であり、
実質的にλ/4nの整数倍の膜厚であるλ/4膜を1以上有し、
実質的にλ/4nの整数倍とは異なる膜厚である非λ/4膜を少なくとも1つ有することを特徴とする上記第11態様に記載の半導体レーザ素子。
(ただし、λは前記波長領域の範囲内の波長であり、nは各膜の屈折率である。)
第13態様:前記非λ/4膜の数は1つであることを特徴とする上記第12態様に記載の半導体レーザ素子。
第14態様:前記非λ/4膜は、前記出射側ミラーを構成する膜のうち最も外側の膜であることを特徴とする上記第13態様に記載の半導体レーザ素子。
第15態様:前記出射側ミラーは、前記波長領域において、波長が10nm増加するごとに2%以上変化する反射率を有することを特徴とする上記第11態様~第14態様のいずれかに記載の半導体レーザ素子。
第16態様:前記反射側ミラーは、前記波長領域において、実質的に一定の反射率を有することを特徴とする上記第11態様~第15態様のいずれかに記載の半導体レーザ素子。
第17態様:前記発振波長は、515~540nmの範囲内であることを特徴とする上記第11態様~第16態様のいずれかに記載の半導体レーザ素子。
【0035】
(実施例)
実施例として、以下のとおり半導体レーザ素子100を作製した。
【0036】
まず、基板20として、成長面がc面であるGaN基板を用いて、その上に、GaN系半導体からなるn側半導体層11と活性層12とp側半導体層13とを形成した。これらの半導体層の組成や膜厚等は、得られる半導体レーザ素子100の発振波長が520nmとなる組成や膜厚等を設定値として形成した。すなわち、発振波長の目標値である波長λoは520nmとした。p側半導体層13の一部を除去し、リッジ13aを形成した。さらに、リッジ13aの両側のp側半導体層14の上面を覆う絶縁膜70と、リッジ13aの上面に接触するp電極41と、p電極41と接触するp側パッド電極42と、基板20の下面に接触するn電極30と、を形成した。
【0037】
このようにして得られたウェハを複数のバー状の小片に分割した。各小片はリッジ13aを複数有するサイズとした。そして、各小片の向かい合う分割面をそれぞれ光出射側面10aと光反射側面10bとして、光出射側面10aに出射側ミラー50を形成し、光反射側面10bに反射側ミラー60を形成した。出射側ミラー50は、光出射側面10aから順に、膜厚79nmのAl
2O
3膜51a、膜厚59nmのZrO
2膜52、膜厚79nmのAl
2O
3膜51b、膜厚59nmのZrO
2膜52、膜厚79nmのAl
2O
3膜51b、膜厚59nmのZrO
2膜52、膜厚180nmのAl
2O
3膜53とした。
すなわち、実施例では、出射側ミラー50の最終膜を4/λ膜よりも厚い膜とした。なお、これらの膜厚は設定値を示す。これらの設定値を用いて算出された出射側ミラー50の反射率の波長依存性を
図4に示す。また、反射側ミラー60は、光反射側面10bから順に、膜厚158nmのAl
2O
3膜、膜厚61nmのTa
2O
5膜、膜厚87nmのSiO
2膜及び膜厚61nmのTa
2O
5膜を6ペア、膜厚174nmのSiO
2膜とした。これらの設定値を用いて算出された反射側ミラー60の反射率は波長500~550nmの範囲内において約97%であった。
【0038】
出射側ミラー50及び反射側ミラー60が設けられた小片を1つのリッジ13a毎に分割することで、1つのリッジ13aを有する半導体レーザ素子100を得た。1つのウェハから得られた約1560個の半導体レーザ素子100について、それぞれ、発振波長と閾値電流とを測定した。得られた閾値電流の値について、まず、発振波長520nm±1nmにおける閾値電流の平均値を算出し、その平均値を用いて閾値電流を規格化した。すなわち、その平均値でそれぞれの閾値電流の値を除算した。その結果を
図8に示す。
図8は、規格化された閾値電流をプロットし、近似曲線を示したグラフである。
図8において実施例の各数値を円で示し、近似曲線を実線で示す。発振波長は513~525nmの範囲内に分布していた。
【0039】
(比較例1)
比較例1として、出射側ミラー50の最終膜であるAl
2O
3膜53の膜厚の設定値を158nmとした以外は実施例と同様にして、半導体レーザ素子を作製した。すなわち、比較例1では、出射側ミラー50の最終膜をλ/4膜とした。この設定値を用いて算出された出射側ミラー50の反射率の波長依存性を
図5に示す。1つのウェハから得られた約1870個の比較例1の半導体レーザ素子について、それぞれ、発振波長と閾値電流とを測定した。得られた閾値電流の値について、発振波長520nm±1nmにおける閾値電流の平均値を用いて閾値電流を規格化した結果を
図8に示す。
図8において、比較例1の各数値をXで示し、近似曲線を破線で示す。発振波長は513~527nmの範囲内に分布していた。
【0040】
(比較例2)
比較例2として、出射側ミラー50の最終膜であるAl
2O
3膜53の膜厚の設定値を130nmとした以外は実施例と同様にして、半導体レーザ素子を作製した。すなわち、比較例2では、出射側ミラー50の最終膜をλ/4膜よりも薄い膜とした。この設定値を用いて算出された出射側ミラー50の反射率の波長依存性を
図6に示す。1つのウェハから得られた約1750個の比較例2の半導体レーザ素子について、それぞれ、発振波長と閾値電流とを測定した。得られた閾値電流の値について、発振波長520nm±1nmにおける閾値電流の平均値を用いて閾値電流を規格化した結果を
図8に示す。
図8において、比較例2の各数値を三角形で示し、近似曲線を実施例1よりも間隔の広い破線で示す。
発振波長は513~525nmの範囲内に分布していた。
【0041】
図8に示すように、実施例の半導体レーザ素子100の閾値電流のばらつきは、比較例1及び比較例2の半導体レーザ素子の閾値電流のばらつきよりも小さかった。なお、
図8中の3つの式は、それぞれ、1:実施例、2:比較例1、3:比較例2の近似曲線の式である。
【0042】
また、実施例、比較例1及び2からそれぞれ発振波長520nmの半導体レーザ素子と発振波長525nmの半導体レーザ素子とを選び、電流を変化させて光出力を測定した。
測定はケース温度T
cが25℃の場合と85℃の場合とでそれぞれ行った。その結果を
図9及び10に示す。
図9は発振波長520nmの結果であり、
図10は発振波長525nmの結果である。
図9及び10において、実施例は実線で示し、比較例1は破線で示し、比較例2は比較例1よりも間隔の広い破線で示す。
図9及び10に示すように、比較例2の構造は、発振波長520nmであれば他と同程度かそれよりも高い光出力を得ることができるが、発振波長525nmの場合には他よりも低い光出力となった。特に、85℃の場合にその差が顕著であった。
図8に示すように、比較例2は閾値電流の波長依存性が他よりも強い傾向があり、すなわち、波長の長波長化による閾値電流の上昇割合が他よりも高くなりやすい。このように、発振波長が例えば525nm以上の長波長の半導体レーザ素子においては、閾値電流が高いことによって光出力の低下が生じると考えられる。したがって、比較例2よりも実施例の方が高温雰囲気における光出力の低下度合いを低減できるといえる。
【符号の説明】
【0043】
100 半導体レーザ素子
10 窒化物半導体構造体
10a 光出射側面
10b 光反射側面
11 n側半導体層
12 活性層
13 p側半導体層
13a リッジ
20 基板
30 n電極
41 p電極
42 p側パッド電極
50 出射側ミラー
51a、51b Al2O3膜(λ/4膜)
52 ZrO2膜(λ/4膜)
53 Al2O3膜(非λ/4膜)
60 反射側ミラー
70 絶縁膜