(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】筋電位処理装置、筋電位処理方法および筋電位処理プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/397 20210101AFI20221110BHJP
A63B 69/00 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
A61B5/397
A63B69/00
(21)【出願番号】P 2021528825
(86)(22)【出願日】2019-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2019025815
(87)【国際公開番号】W WO2020261533
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】税所 修
(72)【発明者】
【氏名】塚田 信吾
(72)【発明者】
【氏名】今村 浩士
(72)【発明者】
【氏名】三原 淳慎
【審査官】磯野 光司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0256079(US,A1)
【文献】特開2016-107093(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102319482(CN,A)
【文献】本元 泰穂 ほか,表面筋電位および踏力計測に基づくペダリング動作解析システム,ロボティクス・メカトロニクス 講演会2015 講演論文集,2015年05月,1P1-F03(1)~1P1-F03(4),Online ISSN:2424-3124, DOI:10.1299/jsmermd.2015._1P1-F03_1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/24-5/398
A63B 69/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Scopus
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対の筋肉を交互に使う運動者の前記左右一対の筋肉に設定された電極から取得した筋電位の時間経緯を示す筋電位データを生成する筋電位取得部と、
左右一対の筋肉を交互に使うことを示す切替指標を、同時刻に取得した左側の筋肉の筋電位と右側の筋肉の筋電位から算出して、出力する評価部
を備える筋電位処理装置。
【請求項2】
前記評価部は、前記同時刻に取得した左右の筋肉の筋電位の乗算から、前記切替指標を算出する
請求項1に記載の筋電位処理装置。
【請求項3】
前記評価部は、前記同時刻に取得した左右の筋肉の筋電位をそれぞれ正規化した値の乗算から、前記切替指標を算出する
請求項1に記載の筋電位処理装置。
【請求項4】
コンピュータが、左右一対の筋肉を交互に使う運動者の前記左右一対の筋肉に設定された電極から取得した筋電位の時間経緯を示す筋電位データを生成するステップと、
前記コンピュータが、左右一対の筋肉を交互に使うことを示す切替指標を、同時刻に取得した左側の筋肉の筋電位と右側の筋肉の筋電位から算出して、出力するステップ
を備える筋電位処理方法。
【請求項5】
前記出力するステップは、前記同時刻に取得した左右の筋肉の筋電位の乗算から、前記切替指標を算出する
請求項4に記載の筋電位処理方法。
【請求項6】
前記出力するステップは、前記同時刻に取得した左右の筋肉の筋電位をそれぞれ正規化した値の乗算から、前記切替指標を算出する
請求項4に記載の筋電位処理方法。
【請求項7】
コンピュータを、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の筋電位処理装置として機能させるための筋電位処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筋電位処理装置、筋電位処理方法および筋電位処理プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
様々なスポーツ技術の向上のために、身体の使い方を直接表現する生理学的情報である筋電位の活用が注目されている。筋電位は、筋肉を動かす時に生じる電圧である。筋電位は、EMG(electromyography)とも称される。筋電位の振幅は、力が入ると大きくなり、力が抜けると0に近づく。筋電位に着目することにより、運動者自身が、トレーニング現場で筋肉が適切に使われているか否かを解釈し、トレーニングに生かして成績を向上させることが期待されている。
【0003】
しかしながら、筋電位は、単なる電気信号であるため、筋電位データの解釈が難しく、筋電位データを運動者自身が理解できるように加工する技術が求められている。例えば、複数の筋肉に対して、筋肉が動き、筋電位が大きくなるタイミングを検知して、各筋肉に与えられた周波数の音を鳴らして、運動者に音でフィードバックする技術がある(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】NTTコミュニケーション科学基礎研究所、"オープンハウス2016 「スポーツで勝てる脳」をつくる"、[online]、2016年、NTT、[令和1年6月20日検索]、インターネット〈URL:http://www.kecl.ntt.co.jp/openhouse/2016/exhibition/28/index.html〉
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
走る、自転車をこぐ等の運動は、身体の左右一対の筋肉を交互に使う。左右一対の筋肉が、互いに与える影響を少なく動作することが重要である。例えば自転車のペダルにパワーメーターを装着し、ペダルにかかる左右の力に差がないことを確認する方法がある。しかしながらこの方法は、左右の力の差の要因を特定できない。左右一対の筋肉を交互に使う運動における各筋肉の影響を評価する方法がない。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、左右一対の筋肉を交互に使う運動における各筋肉の影響を評価する技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の筋電位処理装置は、左右一対の筋肉を交互に使う運動者の左右一対の筋肉に設定された電極から取得した筋電位の時間経緯を示す筋電位データを生成する筋電位取得部と、左右一対の筋肉を交互に使うことを示す切替指標を、同時刻に取得した左側の筋肉の筋電位と右側の筋肉の筋電位から算出して、出力する評価部を備える。
【0008】
本発明の一態様の筋電位処理方法は、コンピュータが、左右一対の筋肉を交互に使う運動者の左右一対の筋肉に設定された電極から取得した筋電位の時間経緯を示す筋電位データを生成するステップと、コンピュータが、左右一対の筋肉を交互に使うことを示す切替指標を、同時刻に取得した左側の筋肉の筋電位と右側の筋肉の筋電位から算出して、出力するステップを備える。
【0009】
本発明の一態様は、上記筋電位処理装置として、コンピュータを機能させる筋電位処理プログラムである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、左右一対の筋肉を交互に使う運動における各筋肉の影響を評価する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る筋電位処理装置の機能ブロックを説明する図である。
【
図2】
図2は、電極が設けられるタイツの一例を説明する図である。
【
図3】
図3は、前処理部による前処理を説明するフローチャートである。
【
図4】
図4は、前処理部が入出力する信号の一例である。
【
図5】
図5は、前処理部が算出する二乗平均平方根を説明する図である。
【
図6】
図6は、評価部による評価処理を説明するフローチャートである。
【
図7】
図7は、筋電位に基づいて算出された切替指標の一例である。
【
図9】
図9は、コンピュータのハードウエア構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。図面の記載において同一部分には同一符号を付し説明を省略する。
【0013】
図1を参照して、本発明の実施の形態に係る筋電位処理装置1を説明する。筋電位処理装置1は、自転車競技またはランニングなどの反復を繰り返す運動を行う運動者が、反復運動中の筋肉の動きの変化を捉えることが可能なデータを出力する。本発明の実施の形態において特に、運動者は、左右一対の筋肉を交互に使う運動を行う。
【0014】
運動者が着用する服の内側には、
図2に示すように電極2aないし2dが設けられ、電極2aないし2dは、運動者の皮膚に当接する。筋電位処理装置1は、電極2aないし2dを介して、電極が設けられた場所の皮下に位置する筋肉の筋電位を、取得する。電極2aないし2dは、運動者の皮膚に貼付されても良い。
【0015】
本発明の実施の形態において電極は、左右一対の筋肉にそれぞれ設けられる。
図2に示す例において、電極2aおよび2dは、それぞれ左右の外側広筋の筋電位を取得する。電極2bおよび2cは、それぞれ左右の大腿二頭筋(ハムストリングス)の筋電位を取得する。筋電位処理装置1は、運動者による運動中に、電極から得られる筋電位を逐次取得し、取得した筋電位を解析して出力する。なお、電極2aないし2dを特に区別しない場合、電極2と称する場合がある。なお、
図2に示す電極2を設ける位置および数は一例であって、これに限るものではない。電極2は、適宜設定された測定対象の筋肉の筋電位を取得可能な位置に、設けられる。
【0016】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る筋電位処理装置1は、記憶装置10と処理装置20を備える。
【0017】
記憶装置10は、筋電位処理プログラムを記憶するとともに、筋電位データ11、RMSデータ12および切替指標データ13を記憶する。
【0018】
筋電位データ11は、左右一対の筋肉を交互に使う運動者の左右一対の筋肉に設定された電極から取得した筋電位の時間経緯を示すデータである。筋電位データ11は、電極2から取得した筋電位の値と、その取得した時間とを対応づけるデータである。複数の筋肉から筋電位を取得した場合、筋肉毎に、筋電位データ11が生成される。
【0019】
RMSデータ12は、所定時間毎の筋電位の二乗平均平方根値(RMS(Root Mean Square)値)を含む。RMSデータ12は、算出された筋電位のRMS値と、そのRMS値に対応する時間を対応づけるデータである。筋電位データ11が複数の筋肉の筋電位を含む場合、筋肉毎に、RMSデータ12が生成される。
【0020】
切替指標データ13は、所定時間毎に算出された切替指標を含む。切替指標データ13は、算出された切替指標と、その切替指標に対応する時間の識別子を対応づけるデータである。切替指標データ13は、左右一対の筋肉毎に生成されても良いし、左右一方の筋肉群をひとまとまりとして、左右一対の筋肉群毎に生成されても良い。
【0021】
処理装置20は、筋電位取得部21、前処理部22および評価部23を備える。
【0022】
筋電位取得部21は、左右一対の筋肉を交互に使う運動者の左右一対の筋肉に設定された電極2から取得した筋電位の時間経緯を示す筋電位データ11を生成する。筋電位取得部21は、各電極に対応する各筋肉について筋電位データ11を生成する。本発明の実施の形態において筋電位取得部21は、左右一対の筋肉を交互に使う運動者の左右一対の筋肉に設定された電極2から、逐次筋電位を取得する。
【0023】
前処理部22は、筋電位データ11の筋電位の値からノイズを除去して、ノイズ除去後の筋電位の値に基づいて、RMS値を算出し、RMSデータ12を生成する。前処理部22は、筋電位データ11の所定時間毎のRMS値を算出し、時間ごとのRMS値を含む二乗平均平方根データ(RMSデータ12)を生成する。複数の筋肉の筋電位を取得した場合、前処理部22は、各筋肉についてRMSデータ12を生成する。
【0024】
図3を参照して、前処理部22による前処理を説明する。
【0025】
まずステップS101において前処理部22は、筋電位データ11に対してバンドパスフィルタを通す。ステップS102において前処理部22は、ステップS101においてバンドパスフィルタを通した後のデータに対してウィナーフィルタ(Wiener filter)を通す。
【0026】
ステップS103において前処理部22は、ステップS102においてウィナーフィルタを通した後のデータに対して、二乗平均平方根を算出して、RMSデータ12を生成する。
【0027】
前処理部22は、筋電位データ11に対してバンドパスフィルタを通して、筋電位の周波数以外の周波数をフィルタリングする。電極2から取得した筋電位を含む筋電位データ11は、「モーションアーティファクト」と呼ばれる身体の動きにより生じるノイズ、何もしていなくても肌で生じる電気などによって生じるノイズなど、様々なノイズを含む。筋電位データ11に対してバンドパスフィルタを通すことにより、筋電位の周波数帯域以外のノイズを除去する。これにより、筋電位データ11のうち、取得したい筋電位の周波数帯域に絞り込むことができる。
【0028】
バンドパスフィルタは、筋電位データ11に含まれるノイズに従って、周波数が設定される。前処理部22は、上限値および下限値を定めるバンドパスフィルタに限らず、上限および下限のうちの一方を定めないハイパスフィルタまたはローパスフィルタを用いても良い。バンドパスフィルタの上限値および下限値は、取得される筋電位のサンプリング周波数やデバイスの特性に基づいて決められる。例えばサンプリング周波数が500Hzの場合、サンプリング定理に基づき、上限値を249Hzとし、下限を、筋電位の主な周波数特性から10Hzとする。周波数フィルタリングの方法は、例えばバターワースフィルタ(Butterworth filter)が一般的であるが、その限りではない。
【0029】
前処理部22は、バンドパスフィルタを通した後のデータに対して、ウィナーフィルタを適用し、筋電位データ11の全体に載っているノイズを取り除き、筋のアクティベートにより生じる電気信号以外の信号(ノイズ)を除去する。ノイズの強度測定のために取得したデータがあれば、そのデータに基づいてウィナーフィルタのノイズ除去の強度を定める。ノイズの強度測定を行っていない場合、筋電位データ11に基づいてノイズ除去の強度を定める。前処理部22は、例えば筋電位データ11の全区間(各時間)の筋電位に基づいて、ノイズ除去の強度を定める。
【0030】
図4(a)に示す筋電位データ11に対して、前処理部22がバンドパスフィルタおよびウィナーフィルタを適用してノイズを除去すると、
図4(b)に示すデータが得られる。
図4(b)に示すデータは、
図4(a)に示すデータと比べて、電圧が0近傍の区間と、0ではない区間との区別しやすくなっている。
【0031】
さらに前処理部22は、バンドパスフィルタおよびウィナーフィルタを通した後のデータに対して、二乗平均平方根を算出する。前処理部22は、
図5(a)に示すように、フィルタを通した後のデータのうち、平均を取る範囲におけるデータに対して、
図5(b)に示す式により、RMS値であるr(T)を算出する。前処理部22は、各区間について対して二乗平方根を算出する処理を繰り返して、RMSデータ12を生成する。
【0032】
その結果、前処理部22は、
図4(c)に示すデータが得られる。
図4(c)に示す信号は、
図4(b)と比較して、1回のモーションにおける筋電位の出力を、一つのかたまりと表現可能になっている。
【0033】
評価部23は、RMSデータ12を参照して、運動者による運動を定量化する指標を算出し、出力する。評価部23は、切替指標処理部24と切替指標出力部25を備える。
【0034】
切替指標処理部24は、左右一対の筋肉を交互に使うことを示す切替指標を、同時刻に取得した左側の筋肉の筋電位と右側の筋肉の筋電位から算出する。
【0035】
まず切替指標処理部24は、RMSデータ12を、正規化する。RMSデータ12は、所定時間毎の筋電位のRMS値を含む。筋電位は、汗のかき方、筋肉に対する電極の位置、運動の強度等によって、大きく変化する。切替指標処理部24は、汗のかき方、筋肉に対する電極の位置、運動の強度等による影響を抑えるため、移動窓内のRMS値を正規化した値を用いて、切替指標を算出する。移動窓の窓幅は、運動のひとまとまりとして認識できる時間aである。本発明の実施の形態において窓幅の時間aは4秒である。移動窓のステップ幅は、RMSデータ12においてRMS値を算出した所定時間である。
【0036】
このように設定された移動窓において、式(1)により正規化されたRMS値を、本発明の実施の形態において、正規化されたRMS値と称する。
【0037】
【0038】
正規化されたRMS値は、[0,1]の範囲におさまる。RMS値の正規化は、RMSデータ12のそれぞれのRMS値について行う。
【0039】
左右一対の筋肉について切替指標を出力する際、切替指標処理部24は、左右一対の筋肉のそれぞれについて、RMS値を正規化する。切替指標処理部24は、左側の筋肉の正規化済みRMS値と、右側の筋肉の正規化済みRMS値を用いて、切替指標を出力する。左右一対の筋肉は、例えば、左右の大腿二頭筋、または左右の外側広筋等である。
【0040】
左右一対の筋肉群について切替指標を出力する際、切替指標処理部24は、各筋肉について正規化済みRMS値を算出する。切替指標処理部24は、所定時間の左側の筋肉群の正規化済みRMS値の平均値と、同じ所定時間の右側の筋肉群の正規化済みRMS値の平均値を算出し、同じ所定時間の左右の平均値から、切替指標を出力する。左右一対の筋肉群は、例えば、左右の外側広筋、大腿直筋および内側広筋の左右3対の筋肉群、または、左右の大腿二頭筋および大殿筋の左右2対の筋肉群等である。
【0041】
切替指標処理部24は、同時刻に取得した左右の筋肉の筋電位の乗算から、切替指標を算出する。本発明の実施の形態において、筋電位のRMS値を正規化した値の乗算から切替指標を算出する場合を説明するが、これに限らない。筋電位そのものの乗算から、切替指標が算出されても良い。左右の筋の筋電位の変動幅に差がない場合に好適である。
【0042】
本発明の実施の形態において切替指標処理部24は、同時刻に取得した左右の筋肉の筋電位をそれぞれ正規化した値の乗算から、切替指標を算出する。筋電位をそれぞれ正規化した値は、筋電位のRMS値を正規化した値に対応する。筋電位のRMS値を正規化した値を用いるので、切替指標処理部24は、筋電位の瞬間的な変化や、左右の筋における筋電位の変動幅の差異による影響を抑制して、左右の筋の切替を指標化することができる。
【0043】
切替指標処理部24は、式(2)により、切替指標を算出する。
【0044】
【0045】
各筋の筋電位を正規化したRMS値は[0,1]の範囲であるので、切替指標も、[0,1]の範囲となる。切替指標が0に近いことは、少なくとも一方の値が0に近いことを意味し、一方の筋に力が入っている場合でも、もう一方の筋に力が入っていないことを意味する。切替指標が0に近い状況が続く場合、左右一対の筋に交互に力が入り、左右一対の筋の切替がうまく行われている。
【0046】
切替指標が1に近いことは、左右両方の値が1に近いことを意味し、一方の筋に力が入っている際、もう一方の筋にも力が入っていることを意味する。切替指標が1に近い状況が続く場合、左右一対の筋の切替がうまく行われておらず、左右一対の筋の両方に同時に力が入り、左右の筋のパワーが打ち消し合っていることも考えられる。
【0047】
切替指標出力部25は、切替指標処理部24が出力した切替指標を出力する。切替指標出力部25は、各時刻における切替指標を、時系列のグラフで表示しても良い。また切替指標出力部25は、切替指標そのものではなく、所定の変換により変換した結果を出力しても良い。切替指標出力部25は、切替指標「0」が100点となるように、切替指標を100点満点の点数で指標化しても良い。切替指標出力部25は、切替指標0が“Good”となるように、“Good”、”Average”および”Bad”等の段階評価で指標化しても良い。
【0048】
図6を参照して、本発明の実施の形態に係る評価部23による評価処理を説明する。
【0049】
まずステップS201において評価部23は、各筋のRMSデータ12を、式(1)により、正規化する。
【0050】
評価部23は、正規化した各時刻の値について、ステップS202の処理を行う。ステップS202において評価部23は、式(2)により、所定時刻の左右一対の筋の正規化されたRMS値の乗算から、この時刻における切替指標を算出する。
【0051】
ステップS203において評価部23は、ステップS202で算出した切替指標を、出力する。
【0052】
図7に、評価部23が出力する切替指標の例を示す。
図7は、同じ条件で自転車を漕いだ際の大腿二頭筋について、筋電位のRMS値を正規化した値と、切替指標の変化を示す。
図7(a)は、プロ選手のデータであり、
図7(b)は、アマチュア選手のデータである。
図7において、実線は、切替指標である。一点鎖線および点線は、一対の筋の正規化されたRMS値の値である。一点鎖線は、左側の筋に関する値であって、点線は、右側の筋に関する値である。
【0053】
自転車競技では、ペダルを漕ぐときに左右交互に踏み込み動作を行う。左右の大腿二頭筋の各筋電位は、踏み込みを行う度に、大きくなる。左を踏み込み、右を踏み込む動作を繰り返す間、左右それぞれの筋電位に関する値のピークが、互い違いに現れるのが理想的である。
【0054】
図7(a)に示すプロ選手のデータでは、左側の筋の値のピークと右側の筋の値のピークは、ともに鋭い。また各ピークは、規則正しく交互に現れる。右大腿二頭筋および左大腿二頭筋のいずれかにパワーが入っているとき、もう一方にパワーが入っていない。切替指標は、0に近い値を維持し、左右の筋の切替がうまく行われていることを示す。
【0055】
図7(b)に示すアマチュア選手のデータでは、左側の筋の値のピークと右側の筋の値のピークは、ともに鈍い。また各ピーク間の幅も狭い。左右の両方の筋にパワーが入っている時間が多く、そのような時間では、切替指標値は、大きな値をとる。切替指標は、プロの選手と比べて、0から乖離した値をとることが多く、左右の筋の切替がうまく行われていないことを示す。本来、左右の筋が交互にパワーが入るべきところ、左右両方の筋にパワーが入っている場合、左右それぞれの動きが他方の生み出す推進力などの力を打ち消しあっていると考えられる。
【0056】
このような本発明の実施の形態に係る筋電位処理装置1は、左右対称の筋肉が交互に使われていること、および互いの動きを阻害していないことを、切替指標として、定量的に表すことができる。筋電位処理装置1は、運動者による左右の切替の効率性を、運動者に示すことが可能になる。
【0057】
図8を参照して、評価部23が出力する評価の一例を説明する。
図8は、切替指標から算出された各時刻のスコアである。切替指標が0に近いほどスコアは100に近づき、切替指標が1に近いほどスコアは0に近づく。さらに、
図8は、スコアの遷移に従って、“Good”、”Average”および”Bad”の3つの評価が対応づけられる。
図8(a)は、プロ選手のデータであり、
図8(b)は、アマチュア選手のデータである。
【0058】
図8(a)は、スコアが100に近い状態を維持しており、全般的に、”Good”の評価が与えられる。
図8(b)は、
図8(a)と比べてスコアが低く、最初は”Average”の評価が与えられるものの、さらにスコアが下がる後半では”Bad”の評価が与えられる。
【0059】
実施の形態に係る筋電位処理装置1は、左右一対の筋肉から同時に測定された筋電位に基づいて、左右一対の筋肉を交互に使う運動における各筋肉の影響を評価する切替指標を出力することができる。
【0060】
上記説明した本実施形態の筋電位処理装置1は、例えば、CPU(Central Processing Unit、プロセッサ)901と、メモリ902と、ストレージ903(HDD:Hard Disk Drive、SSD:Solid State Drive)と、通信装置904と、入力装置905と、出力装置906とを備える汎用的なコンピュータシステムが用いられる。CPU901は、処理装置20である。メモリ902およびストレージ903は、記憶装置10である。このコンピュータシステムにおいて、CPU901がメモリ902上にロードされた筋電位処理プログラムを実行することにより、筋電位処理装置1の各機能が実現される。
【0061】
なお、筋電位処理装置1は、1つのコンピュータで実装されてもよく、あるいは複数のコンピュータで実装されても良い。また筋電位処理装置1は、コンピュータに実装される仮想マシンであっても良い。
【0062】
筋電位処理プログラムは、HDD、SSD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、CD (Compact Disc)、DVD (Digital Versatile Disc)などのコンピュータ読取り可能な記録媒体に記憶することも、ネットワークを介して配信することもできる。
【0063】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0064】
1 筋電位処理装置
10 記憶装置
11 筋電位データ
12 RMSデータ
13 切替指標データ
20 処理装置
21 筋電位取得部
22 前処理部
23 評価部
24 切替指標処理部
25 切替指標出力部
30 入出力インタフェース
901 CPU
902 メモリ
903 ストレージ
904 通信装置
905 入力装置
906 出力装置