(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】光加工装置、光加工方法及び光加工物の生産方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/53 20140101AFI20221110BHJP
B23K 26/364 20140101ALI20221110BHJP
C03B 33/09 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
B23K26/53
B23K26/364
C03B33/09
(21)【出願番号】P 2018243957
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2018003228
(32)【優先日】2018-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【氏名又は名称】黒田 壽
(72)【発明者】
【氏名】田村 麻人
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-272794(JP,A)
【文献】特表2016-535675(JP,A)
【文献】特開2014-213334(JP,A)
【文献】特開2013-146747(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02944412(EP,A1)
【文献】特表2013-539911(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/53
B23K 26/364
C03B 33/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の加工光を用いて加工対象物を加工する光加工装置であって、
第一光照射手段により焦点位置が前記加工対象物の内部に位置するように第一加工光を照射し、該第一加工光によって加工対象物内部に発生するプラズマ又は気体の光吸収波長を含む第二加工光を第二光照射手段により照射
し、
前記第二加工光のビーム形状を所定の周波数で時間的に変更するビーム形状変更手段を有することを特徴とする光加工装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光加工装置において、
前記第二光照射手段は、前記第一加工光の照射開始後であって、該第一加工光によって加工対象物内部に前記プラズマ又は前記気体が存在する存在期間の開始前又は開始後に、前記第二加工光の照射を開始することを特徴とする光加工装置。
【請求項3】
請求項2に記載の光加工装置において、
前記第一加工光の照射開始から20ピコ秒以上11000ピコ秒以下の範囲内で、前記第二加工光の照射を開始することを特徴とする光加工装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光加工装置において、
前記第二光照射手段は、前記第一加工光によって加工対象物内部に前記プラズマ又は前記気体が存在する存在時期の終了前又は終了後に前記第二加工光の照射を停止することを特徴とする光加工装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光加工装置において、
前記第二光照射手段は、前記加工対象物に前記第一加工光が照射されていない期間に前記第二加工光を照射することを特徴とする光加工装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の光加工装置において、
前記第二加工光の波長は、前記第一加工光の波長よりも長いことを特徴とする光加工装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の光加工装置において、
前記第二加工光の波長は、下記の式(1)を満たす吸収係数α
IBが20cm
-1以上である波長λであることを特徴とする光加工装置。
【数1】
「n
e」は電子密度であり、「T
e」は電子温度である。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載の光加工装置において、
前記第二加工光の波長は、700nm以上であることを特徴とする光加工装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の光加工装置において、
所定のパルス幅を有するパルスレーザー光を出力するレーザー光源を有し、
前記第一光照射手段は、前記レーザー光源から出力されるパルスレーザー光の一部を前記第一加工光として前記加工対象物へ照射し、
前記第二光照射手段は、前記レーザー光源から出力されるパルスレーザー光の他部を遅延させて前記第二加工光として前記加工対象物へ照射することを特徴とする光加工装置。
【請求項10】
請求項9に記載の光加工装置において、
前記第一光照射手段及び前記第二光照射手段は、同一の集光手段を用いて、前記第一加工光及び前記第二加工光をそれぞれ前記加工対象物へ照射することを特徴とする光加工装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の光加工装置において、
前記第二光照射手段は、焦点位置が前記加工対象物の内部に位置するように前記第二加工光を照射することを特徴とする光加工装置。
【請求項12】
請求項1乃至11のいずれか1項に記載の光加工装置において、
前記第二加工光の焦点深度は、200μm以下であることを特徴とする光加工装置。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の光加工装置において、
前記第一加工光及び前記第二加工光のうちの少なくとも一方は、20ピコ秒以下のパルス幅を有するパルスレーザー光であることを特徴とする光加工装置。
【請求項14】
請求項1乃至13のいずれか1項に記載の光加工装置において、
前記第一加工光及び前記第二加工光は、前記加工対象物内部におけるビーム形状が互いに異なることを特徴とする光加工装置。
【請求項15】
請求項14に記載の光加工装置において、
前記第二加工光の前記加工対象物内部におけるビーム形状は円環状であることを特徴とする光加工装置。
【請求項16】
複数の加工光を用いて加工対象物を加工する光加工方法であって、
第一光照射手段により焦点位置が前記加工対象物の内部に位置するように第一加工光を照射し、該第一加工光によって加工対象物内部にプラズマ又は気体が存在する存在期間中に第二光照射手段により第二加工光を照射
し、
前記第二加工光のビーム形状を所定の周波数で時間的に変更することを特徴とする光加工方法。
【請求項17】
複数の加工光を用いて加工対象物を加工して光加工物を生産する光加工物の生産方法であって、
第一光照射手段により焦点位置が前記加工対象物の内部に位置するように第一加工光を照射し、該第一加工光によって加工対象物内部にプラズマ又は気体が存在する存在期間中に第二光照射手段により第二加工光を照射
し、
前記第二加工光のビーム形状を所定の周波数で時間的に変更することを特徴とする光加工物の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光加工装置、光加工方法及び光加工物の生産方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の加工光を用いて加工対象物を加工する光加工装置が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、2つのレーザー光(加工光)によって透明材料からなる加工対象物を加工するレーザー加工装置(光加工装置)が開示されている。このレーザー加工装置では、短パルスの第一レーザー光によって加工対象物に対して過渡的な欠陥準位を形成して光吸収率が上昇している短期間の間に、第一レーザー光よりも短い波長の第二レーザー光を照射して、両レーザー光を重畳させる。このレーザー加工装置においては、第一レーザー光を照射することで、本来なら光エネルギーを吸収しない透明材料中に多光子吸収過程による吸収を生じさせ、その箇所にカラーセンタ等の過渡的な欠陥(ディフェクト)準位を形成する。これにより、その箇所の光吸収率がごく短い時間ではあるが一時的に上昇した状態になるので、この状態である期間中に第二レーザー光を照射して、第二レーザー光のエネルギーを効率良く透明材料に伝達されて、加工(内部改質あるいは蒸散加工)を進めるとされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般に、光加工装置においては、少ないエネルギーで大きな体積を加工することが望まれているが、いまだ改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明は、複数の加工光を用いて加工対象物を加工する光加工装置であって、第一光照射手段により焦点位置が前記加工対象物の内部に位置するように第一加工光を照射し、該第一加工光によって加工対象物内部に発生するプラズマ又は気体の光吸収波長を含む第二加工光を第二光照射手段により照射し、前記第二加工光のビーム形状を所定の周波数で時間的に変更するビーム形状変更手段を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、光加工装置によって少ないエネルギーで大きな体積の加工を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態に係るレーザー加工装置の概略構成を示す断面図。
【
図2】実施形態における加工原理を説明するための説明図。
【
図3】実施形態における加工の進み方を説明するための説明図。
【
図4】従来の一般的なアブレーション加工の様子を示す説明図。
【
図5】実施形態におけるレーザー加工装置のレーザー発振器の構成を示す説明図。
【
図6】同レーザー加工装置の光遅延部の構成を示す説明図。
【
図7】同レーザー加工装置を用いてレーザー光の透過光量を測定するための実験系の構成を示す説明図。
【
図8】同レーザー加工装置を用いたレーザー光の透過光量のパルス数依存性を示す図。
【
図10】(a)~(d)は、実験により加工したガラス基板の加工状態を示す模式図。
【
図11】第二レーザー光の光路上に、ビーム形状を変化させる光制御手段を配置した例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を適用した光加工装置として、レーザー加工装置の一実施形態について説明する。
まず、実施形態に係るレーザー加工装置の基本的な構成について説明する。
図1は、実施形態に係るレーザー加工装置50の概略構成を示す断面図である。
同図において、レーザー加工装置50は、レーザー発振器1、ビーム拡大光学系2、ビーム変換ユニット5、回転ステージ7、アパーチャー8、上下ステージ9、x-yテーブル10、テーブル土台11、ステージ昇降機構12、光遅延部20などを備えている。また、上下動モーター13、ステージ回転モーター14なども備えている。
【0009】
レーザー発振器1は、波長λ、パルス幅が半値で100フェムト秒から1マイクロ秒までのレーザー光をパルス発振する。レーザー光のビームは、いわゆるガウシアンビームである。本実施形態のレーザー発振器1は、後述するように、第一加工光としての第一レーザー光L1と第二加工光としての第二レーザー光L2とを照射する。
【0010】
レーザー発振器1から発振されたレーザー光L1,L2は、ビーム拡大光学系2に進入する。ビーム拡大光学系2は、第一レンズ3と第二レンズ4とを有しており、それらレンズにレーザー光を順に通すことで、レーザー光L1,L2の径をより大きくするとともに、レーザー光L1,L2を平行光束として出射する。第二レンズ4から出射されたレーザー光L1,L2は、ビーム変換ユニット5に進入する。
【0011】
ビーム変換ユニット5は、筒状の筐体の内部に集光手段としての対物レンズ6を保持している。ビーム変換ユニット5の筐体内に進入したレーザー光L1,L2は、対物レンズ6の通過により、細径のガウシアンビームに変換されて集光される。
【0012】
ビーム変換ユニット5から出射されたレーザー光L1,L2のガウシアンビームは、回転ステージ7に固定されたアパーチャー8の貫通口を通過した後、x-yテーブル10上に固定された光透過性の加工対象物としての透明なガラス基板100に到達する。
【0013】
図1に示されるx-yテーブル10は、テーブル土台11の上に保持された状態で、光軸(z軸)方向に直交する仮想面における互いに直交するx軸方向(以下「x方向」ともいう。)と、y軸方向(以下「y方向」ともいう。)とに独立して移動可能である。このx-yテーブル10のx方向やy方向の移動により、ガラス基板100に対するレーザー加工位置が調整される。
【0014】
本実施形態で用いる第一レーザー光L1は、パルス幅が「ピコ秒」レンジであるピコ秒レーザー光あるいはパルス幅が「フェムト秒」レンジであるフェムト秒レーザー光である短パルスレーザー光を用いる。そして、本実施形態では、短パルスレーザー光からなる第一レーザー光L1を用い、本来なら光エネルギーを吸収しない透明なガラス基板100中に多光子吸収過程による吸収を生じさせることで、非熱的な加工(アブレーション加工)を行う。このような光加工によれば、短時間にエネルギーを圧縮して発振する強力なレーザー光を極めて細かい範囲に照射することができ、また、多光子吸収を引き起こすだけのエネルギー密度を超えた領域のみで加工が進むため、加工領域は非常に狭い領域に限られる。その結果、ナノメートルスケールの微細加工または高精度かつ高品質の加工が可能である。
【0015】
ただし、短パルスレーザー光からなる第一レーザー光L1を用いた光加工は、上述したように微小面積で浅い微細加工ができる反面、大面積で深い大体積加工には不利である。短パルスレーザー光で大体積加工を実現するためには、大きなエネルギーを必要とし、その分、光源コストが増大する。そのため、より少ないエネルギーで大体積加工を実現する新たな光加工方法が望まれる。
【0016】
ここで、一般に、上述した多光子吸収が生じると、その加工領域の材料が固体から瞬時に気体やプラズマに相変化する。なお、発生するプラズマや気体は、加工対象物の材料等によって異なるものである。従来は、このような気体やプラズマが残留している状態で短パルスレーザー光を照射すると、そのプラズマや気体による光吸収及び光反射によって、加工対象物の材料へのエネルギー吸収の妨げになり、アブレーション加工が阻害され、加工に不利であると考えられていた。本実施形態は、このように従来は加工に不利であると考えられたプラズマや気体を利用して、少ないエネルギーで大体積加工を実現するものである。
【0017】
図2は、本実施形態における加工原理を説明するための説明図である。
図3は、本実施形態における加工の進み方を説明するための説明図である。
本実施形態においては、少なくとも第一レーザー光L1については、その焦点位置(第一焦点位置)が透明なガラス基板100の内部(ガラス基板100の表面から例えば60μm内側)に位置するように照射する。これにより、第一レーザー光L1の少なくとも一部は、透明なガラス基板100の表面を透過し、ガラス基板100の表面から一定距離だけ内側の箇所に多光子吸収を生じさせ、
図3(a)に示すように、その箇所がアブレーション加工され、加工痕Mが形成される。
【0018】
第一レーザー光L1の波長は、加工対象物に対して多光子吸収を生じさせる範囲の波長である必要がある。具体的には、加工対象物のエネルギーギャップよりも第一レーザー光L1における1光子のエネルギーが低い必要がある。例えば、加工対象物の材料がシリコン(Si)の場合には約1.1eVのエネルギーギャップをもち、シリコンカーバイド(SiC)の場合には約2.9eVのエネルギーギャップをもち、ダイヤモンドの場合には約5.5eVのエネルギーギャップをもち、溶融石英の場合には約9.0eVのエネルギーギャップをもつ。1光子のエネルギーは波長に依存し、波長が1064nmであるレーザー光では約1.1eVであり、波長が532nmであるレーザー光では約2.3eVであり、波長が355nmであるレーザー光では約3.5eVである。
【0019】
ここで、本実施形態においては、一般的なアブレーション加工(加工対象物の表面から加工を進めるアブレーション加工)と同様、
図3(b)に示すように、プラズマ又は気体Pが発生する。一般的なアブレーション加工では、
図4に示すように、発生したプラズマや気体Pは、ガラス基板100の表面からすぐに外部へ拡散(散逸)することになる。しかしながら、本実施形態では、
図2や
図3(b)に示すように、発生したプラズマや気体Pは、ガラス基板100の内部に生じる加工痕M(第一レーザー光L1による加工痕)内で発生するため、その加工痕M内に留まり、拡散しない。すなわち、本実施形態においては、大体積加工の実現のために利用するプラズマや気体Pを、その加工領域(加工痕M)に留めておくために、第一レーザー光L1の焦点位置をガラス基板100の内部に設定し、ガラス基板100の内部に加工痕Mを生じさせるものである。
【0020】
本実施形態では、
図3(c)に示すように、ガラス基板100の内部に加工痕内に留まるプラズマや気体Pに対し、そのプラズマや気体Pの光吸収波長を含む第二レーザー光L2を照射する。これにより、プラズマや気体Pは第二レーザー光L2のエネルギーを吸収する。プラズマや気体Pは、固体と比べて一般に光吸収係数が高いため、第二レーザー光L2の大部分をプラズマや気体に吸収させることができる。具体的には、プラズマの吸収率は、吸収係数α
IBとして、下記の式(1)によって表される。なお、下記の式(1)において、「n
e」は電子密度であり、「T
e」は電子温度である。
【0021】
【0022】
上述の式(1)に示すように、プラズマの吸収係数αIBは光の波長が長いほど高い。したがって、第二レーザー光L2は、その波長が長いほど、プラズマPにエネルギーを効率よく吸収させることができる。第二レーザー光L2の波長は、加工痕Mに発生するプラズマの吸収係数αIBが20cm-1以上となる波長λを選択するのが好ましい。具体的には、第二レーザー光L2の波長は700nm以上を選択するのが好ましい。
【0023】
気体やプラズマPは、第二レーザー光L2のエネルギーを吸収すると、高温状態になり、ガラス基板100内部の加工痕M内の圧力が高まる。これにより、
図3(d)に示すように、加工痕Mが拡げられ、ガラス基板100の表面に向かってクラックCを生じさせることができる。そして、加工痕MやクラックCがガラス基板100の表面付近まで進行すると、加工痕内の内圧開放に伴ってガラス基板100の表面付近の材料を爆散させ、
図3(e)に示すように、大きな体積の加工が実現される。
【0024】
以下、本発明の特徴部分について説明する。
図5は、本実施形態におけるレーザー加工装置50のレーザー発振器1の構成を示す説明図である。
本実施形態のレーザー発振器1には、一般的なモードロックレーザー光源を用いることができる。本実施形態のレーザー発振器1は、シード部1a、励起部1b、合成部1c、再生増幅部1d、波長変換部1eから構成される。合成部1cは、シード部1aから出射されるシード光と励起部1bから出射される励起光とをかけ合わせて、微弱な短パルスレーザー光を形成する。再生増幅部1dは、合成部1cから出力される短パルスレーザー光のパルスエネルギーを増幅させる。これにより、レーザー加工に適用可能なエネルギーをもった短パルスレーザー光を得ることができる。
【0025】
次に、再生増幅部1dから出力される短パルスレーザー光は、波長板1fによって円偏光にされる。そして、波長変換部1eは、円偏光後の短パルスレーザー光を、プリズムビームスプリッタ1gによりp偏光成分とs偏光成分とに分離する。このように分離した短パルスレーザー光のうちの一方(本実施形態ではs偏光成分)については、二倍波結晶であるLBO素子1hによって、1/2の波長を持った短パルスレーザー光を生成する。その結果、本実施形態のレーザー発振器1からは、基本波と2倍波(高調波)という波長の異なる2つの短パルスレーザー光を生成して出力することができる。
【0026】
本実施形態では、波長が1064nmである基本波を第二レーザー光L2として用い、波長が532nmである2倍波を第一レーザー光L1として用いる。また、パルス幅はいずれも15ピコ秒であり、パルスの繰り返し周期はマイクロ秒レンジ(例えば5マイクロ秒)である。
なお、ここでは、基本波と2倍波からなる2つの短パルスレーザー光を生成する例であるが、3倍波以降の短い波長をもった短パルスレーザー光を生成してもよい。
【0027】
図6は、本実施形態におけるレーザー加工装置50の光遅延部20の構成を示す説明図である。
本実施形態においては、上述したとおり、第一レーザー光L1によってガラス基板100の内部の加工痕内に発生した気体やプラズマに第二レーザー光L2を照射することで、第二レーザー光L2のエネルギーをプラズマや気体に吸収させ、加工痕内の内圧を上昇させることにより、大体積加工を実現する。ここで、第一レーザー光L1の照射を開始した後、ガラス基板100の内部の加工痕内でプラズマや気体が発生するまでには、ピコ秒からナノ秒程度の時間を要することが確認されている。
【0028】
第二レーザー光L2は、第一レーザー光L1とは異なり、ガラス基板100の材料に直接的にエネルギーを吸収させて加工を進めることが主目的ではなく、プラズマや気体にエネルギーを吸収させることを主目的とする。そのため、第二レーザー光L2は、プラズマや気体が加工痕内に存在する存在期間の一部又は全部の期間に照射されればよい。したがって、省エネルギーの観点から第二レーザー光L2の照射時間を短くするためには、第一レーザー光L1の照射開始後であって、第一レーザー光L1によってガラス基板100内部にプラズマや気体が存在する存在期間の開始前又は開始後のタイミングで、第二レーザー光L2の照射を開始するのが好ましい。
【0029】
そのため、本実施形態では、光遅延部20を設けることで、第一レーザー光L1に対する第二レーザー光L2の時間遅延幅を0ピコ秒から11000ピコ秒までの間で可変できる構成とした。なお、第一レーザー光L1の照射開始から、20ピコ秒以上11000ピコ秒以下の範囲内で第二レーザー光L2の照射を開始するのが好ましい。
【0030】
具体的には、
図6に示すように、レーザー発振器1から同時に出力される第一レーザー光L1(s偏光)及び第二レーザー光L2(p偏光)を、第一ダイクロイックミラー21によって、第一レーザー光L1と第二レーザー光L2とに分離する。第一レーザー光L1は、第一光照射手段を構成するミラー等の第一反射光学素子22A,22B,22C,22D,22Eによって光路を折り返されて、第二ダイクロイックミラー25へ入射する。第二レーザー光L2は、第二光照射手段を構成するミラー等の第三反射光学素子23によって光路を折り返された後、ミラー等の第二反射光学素子24A,24B,24C,24Dによって光路を折り返されて、第二ダイクロイックミラー25へ入射する。これにより、第二ダイクロイックミラー25からは、第一レーザー光L1(s偏光)と第二レーザー光L2(p偏光)とが重畳した状態で出力され、第四反射光学素子26で折り返されて出力される。
【0031】
本実施形態の光遅延部20は、5つの第一反射光学素子22A,22B,22C,22D,22Eのうちの2つの第一反射光学素子22B,22Cを、第一レーザー光L1の光路長が変わるように、図中左右方向へ移動させる第一遅延光学装置27を備えている。同様に、光遅延部20は、4つの第二反射光学素子24A,24B,24C,24Dのうちの2つの第二反射光学素子24B,24Cを、第二レーザー光L2の光路長が変わるように、図中左右方向へ移動させる第二遅延光学装置28を備えている。
【0032】
光遅延部20は、第一遅延光学装置27及び第二遅延光学装置28によって、第一レーザー光L1の光路長及び第二レーザー光L2の光路長を変更することにより、第一レーザー光L1に対する第二レーザー光L2の時間遅延幅を0ピコ秒から2000ピコ秒までの間で可変することができる。
【0033】
なお、光路長を変更するための光遅延手段としては、第一遅延光学装置27及び第二遅延光学装置28のいずれか一方で構成することも可能であるが、より高精度に時間遅延幅を設定するうえでは、本実施形態のように第一遅延光学装置27及び第二遅延光学装置28の両方で構成するのが好ましい。
【0034】
また、省エネルギーの観点から第二レーザー光L2の照射時間を短くするためには、第一レーザー光L1によってガラス基板100内部にプラズマや気体が存在する存在期間の終了前又は終了後の所定のタイミングで、第二レーザー光L2の照射を停止するのが好ましい。
【0035】
次に、本実施形態のレーザー加工装置50において、第一レーザー光L1に対する第二レーザー光L2の時間遅延幅についての実験結果を示す。
図7は、
図6に示した構成において、第一レーザー光L1及び第二レーザー光L2をガラス基板100に照射した際の透過光量を測定するために、パワーメータ30を追加した実験系を示した説明図である。
本実験では、第一レーザー光L1及び第二レーザー光L2の各焦点位置をガラス基板100の表面から20μmだけ内側とし、第一レーザー光L1に対する第二レーザー光L2の時間遅延幅を0ピコ秒~1500ピコ秒の間で可変とし、パルスの繰り返し周波数を1kHz(つまり繰り返し周期を1ミリ秒)とし、同一個所に繰り返しレーザー照射したときの第二レーザー光L2のみの透過光量の変化を示す。
【0036】
本実験では、0ピコ秒、300ピコ秒、900ピコ秒、1500ピコ秒の4つの時間遅延幅を設定した。また、対物レンズには開口数がNA0.4のものを用いた。少なくともパルス数が30回までは、ガラス基板100の表面に加工痕が生じていないことを確認した。
【0037】
図8(a)~(c)は、本実験の結果を示すグラフである。
なお、
図8(a)~(c)は、横軸に、第一レーザー光L1及び第二レーザー光L2のパルス数(Number of Pulse)をとり、縦軸に、第二レーザー光L2の透過光量をとったもので、横軸のスケールが異なる同一の実験結果を示すものである。なお、縦軸は、最大の透過光量が1.0となるように規格化した値を示す。
【0038】
本実験結果から、第一レーザー光L1及び第二レーザー光L2を繰り返し照射したとき、おおよそ、どのパルス数でも、時間遅延幅が1500ピコ秒としたときに、第二レーザー光L2の透過光量が最も小さくなっていることが分かる。これは、時間遅延幅を1500ピコ秒としたときに、第一レーザー光L1により生じたガラス基板内部の気体およびプラズマに第二レーザー光L2が効果的に吸収されていることを意味する。
【0039】
本実験で使用したガラス基板100は、石英ガラス材料であり、本実験範囲では時間遅延幅が1500ピコ秒であるときに最良であったが、時間遅延幅の最良値はガラス基板100の材質によって異なってくるものである。通常、ガラス基板100の材料内部で生じたプラズマは、一定の時間を経て、周囲の固体材料への熱輸送が起こり、プラズマが気体、液体へと変化して再凝固する。このときの凝固速度は、材料への伝熱物性によって支配されるため、材料の熱拡散率に依存すると考えられる。熱拡散率は、石英ガラス材料で8×10-7m2/s程度、ソーダガラス材料で5×10-7m2/s程度、シリコンカーバイドで3×10-5m2/s程度である。
【0040】
熱拡散長[m]を(熱拡散率×単位時間[s])0.5 して算出すれば、これが一定時間での熱輸送を表すので、シリコンカーバイドでは、石英ガラス材料の7倍程度の熱輸送量となることがわかる。つまり、石英ガラス材料では、時間遅延幅が1500ピコ秒であるときに最良であったが、シリコンカーバイドでは、時間遅延幅が約11000ピコ秒程度であるときに最良になるものと考えられる。シリコンカーバイドは、透明体材料の中では最も熱輸送の大きい材料であることが知られているので、その他の透明体セラミックス材料は、これよりも小さい遅延時間幅で最適な光吸収が生じるものと考えられる。
【0041】
次に、本実施形態のレーザー加工装置50を用いた実験について説明する。
本実験では、加工対象物として溶融石英からなる透明なガラス基板100を用い、そのガラス基板100の表面に溝を形成する溝掘り加工を行って、ガラス基板100を割断するための加工処理を行った。
【0042】
図9(a)~(c)は、本実験の実験条件及び加工の進み方を説明するための説明図である。
本実験では、第一レーザー光L1の焦点位置をガラス基板100の表面から60μm内側に設定し、ガラス基板100の表面上をレーザー光L1,L2のスポットが0.01mm/sの速度で走査されるように加工を行った。本実験では、第一レーザー光L1’のみを用いて加工を行う実験と、第一レーザー光L1及び第二レーザー光L2を用いて加工を行う実験とを行った。なお、第一レーザー光L1’,L1の波長は532nmであり、第二レーザー光L2の波長は1064nmであり、いずれもパルス幅は15ピコ秒であり、パルスの繰り返し周期は5マイクロ秒である。
【0043】
また、第一レーザー光L1’のみを用いる実験では、パルスエネルギーが4.5μJである第一レーザー光L1’を用いた。一方、第一レーザー光L1及び第二レーザー光L2を用いる実験では、第一レーザー光L1のパルスエネルギーが3.3μJであり、第二レーザー光L2のパルスエネルギーが1.2μJである。第一レーザー光L1及び第二レーザー光L2を用いる実験では、第一レーザー光L1に対する第二レーザー光L2の時間遅延幅を、0ピコ秒、100ピコ秒、2000ピコ秒の3通りで行った。なお、結像光学素子(レンズ)のNAは0.4である。
【0044】
図10(a)~(d)は、本実験により加工した各ガラス基板100の加工状態を示す模式図である。
第一レーザー光L1’のみを用いる実験では、
図10(a)に示すように、ガラス基板100の表面付近に比較的深い加工痕(図中斜線部分)が形成されたが、その加工幅(図中上下方向長さ)が比較的狭いため、加工領域の体積は小さいものとなる。
【0045】
一方、第一レーザー光L1及び第二レーザー光L2を用いる実験では、時間遅延幅が0ピコ秒である遅延無しの場合、
図10(b)に示すように、形成された加工痕(図中斜線部分)が小さいものとなった。なお、図中のドットハッチング部分は、材料の改質が発生した箇所である。すなわち、遅延無しの場合、比較的広範囲で材料の改質が生じているが、この領域では加工痕を形成するに至るまで加工が進んでいない。
【0046】
また、第一レーザー光L1に対する第二レーザー光L2の時間遅延幅が100ピコ秒である場合、
図10(c)に示すように、比較的広範囲にわたって加工痕(図中斜線部分)が形成された。これにより、その後も加工を継続することによって、おおよそ当該加工痕に囲まれた領域の材料を除去することができ、大体積加工が可能となる。
【0047】
また、第一レーザー光L1に対する第二レーザー光L2の時間遅延幅が2000ピコ秒である場合、
図10(d)に示すように、比較的狭い範囲で加工痕(図中斜線部分)が形成された。その後も加工を継続することによって、おおよそ当該加工痕に囲まれた領域の材料を除去することができるが、
図10(c)と比べると加工領域の体積は狭い。
【0048】
以上の実験によれば、第一レーザー光L1に対する第二レーザー光L2の時間遅延幅を100ピコ秒に設定することで、より大きな体積の加工領域が実現できる。
【0049】
本実験においては、第一レーザー光L1の1パルス分(15ピコ秒)が、透明なガラス基板100の内部(焦点位置はガラス基板100の表面から60μm内側)に照射されると、ガラス基板100の表面から一定距離だけ内側の箇所に多光子吸収が生じ、
図9(a)に示すように、その箇所がアブレーション加工されて加工痕Mが形成される。第一レーザー光L1の1パルス分の照射が終わったら、所定時間(第一レーザー光L1の照射開始から100ピコ秒後)が経過した後、
図9(b)に示すように、第二レーザー光L2の1パルス分(15ピコ秒)が照射される。これにより、第一レーザー光L1の照射開始から一定時間経過後に加工痕M内に発生するプラズマや気体Pに対し、第二レーザー光L2のエネルギーを吸収させることができる。
【0050】
特に、第一レーザー光L1に対する第二レーザー光L2の時間遅延幅を100ピコ秒に設定することで、まだプラズマや気体Pが発生していない段階で第二レーザー光L2を無駄に照射することを避けることができる。また、パルス幅が15ピコ秒というごく短い時間だけ照射される第二レーザー光L2を、加工痕M内に発生したプラズマや気体Pに対してより長時間照射することができる。その結果、加工痕M内の気体やプラズマPは、第二レーザー光L2のエネルギーを吸収して高温状態になり、加工痕M内の圧力が高まって、
図9(b)に示すように加工痕Mが拡げられ、ガラス基板100の表面に向かってクラックCを生じさせることができる。そして、加工痕MやクラックCがガラス基板100の表面(すでに加工されて外部に露出している加工面を含む。)付近まで進行すると、
図9(c)に示すように、加工痕内の内圧開放に伴って材料を爆散させ、大きな体積の加工が実現される。
【0051】
今回の実験では、第二レーザー光L2の焦点位置が第一レーザー光L1と同じ位置であるが、第二レーザー光L2の焦点位置は第一レーザー光L1と同じ位置である必要はない。例えば、今回の実験において、第二レーザー光L2の焦点位置を数十μmずらした場合でも、同様の実験結果が得られることを確認している。
【0052】
今回の実験では、結像光学素子のNAが0.4であった。光透過性を有する加工対象物を加工する場合(透明材料の加工の場合)、レーザー光L1,L2のエネルギー密度を高めるためには結像光学素子のNAを0.1以上とするのが好ましい。また、その場合、焦点深度は、一般には数十~百μm程度であるため、この場合に適用できる加工処理は、加工対象物の表面から数百μm以内の加工に限られる。ただし、これは1回の走査によって加工する場合であり、複数回の走査を行うことで、より深い箇所までの加工に対応することが可能である。
【0053】
また、パルス幅に関しても、光透過性を有する加工対象物を加工する場合(透明材料の加工の場合)、単位時間あたりのエネルギー密度を高めるためには、レーザー光L1,L2のパルス幅が短いものほど好ましく、例えば20ピコ秒以下のパルス幅であるのが好ましい。今回の実験では、ピコ秒レーザー光を用いているが、フェムト秒レーザー光を用いてもよい。
【0054】
また、本実施形態では、第一レーザー光L1用の光源と第二レーザー光L2用の光源として、同一の光源であるレーザー発振器1を用いているが、第一レーザー光L1用の光源と第二レーザー光L2用の光源とを個別に設けてもよい。この場合、第一レーザー光L1及び第二レーザー光L2のパルス幅、波長、パルスエネルギーなどの設定の自由度が高まる。また、第一レーザー光L1に対する第二レーザー光L2の遅延時間幅の設定の自由度も高まる。なお、この場合、各光源から出力されるレーザー光L1,L2の出力タイミングを制御することにより、第一レーザー光L1に対して第二レーザー光L2を遅延させればよい。
【0055】
ただし、同一の光源であるレーザー発振器1を用いる方がコスト面において有利である。また、第一レーザー光L1として2倍波等の高調波を用いる場合、本実施形態のように、通常は不要となる基本波を第二レーザー光L2として利用することで、エネルギーの無駄を省くことができる。
【0056】
また、第一レーザー光L1の光路上や第二レーザー光L2の光路上に光制御手段を設けてもよい。この光制御手段は、第一レーザー光L1や第二レーザー光L2の状態や特性を変化させるものであれば制限はないが、例えば、特殊なレーザー光を生成するための特殊レンズや回折素子などが挙げられる。また、液晶機能等により透過光の形状を制御する液晶素子なども挙げられる。液晶素子などのように、ビーム形状を所定の周波数(例えば数十Hzの周波数)で時間的に変更できるビーム形状変更手段を設けることで、ビーム形状を変更しながら光加工を行うことができる。
【0057】
図11は、第二レーザー光L2の光路上における第二反射光学素子24A,24Bの間に、ビーム形状を変化させるビーム形状変更手段からなる光制御手段29を配置した例を示す説明図である。
このような光制御手段を設けて第二レーザー光L2のビーム形状を変化させることで、第一レーザー光L1によって発生した加工痕M内のプラズマや気体Pに対してより効率よくエネルギーを吸収させることが可能となり、より高効率な加工を実現できる。例えば、光制御手段29としてアキシコンレンズを用いてベッセルビーム(円環状のビーム形状)とすれば、焦点深度が長い第二レーザー光L2(例えば200μm以下)を生成できるので、加工対象物における加工痕Mの形状を焦点方向に長くなるように拡大することが可能となる。
【0058】
また、第一レーザー光L1の光路上におけるビーム形状を変化させる光制御手段を配置する場合、例えば、その光制御手段としてアキシコンレンズを用いてベッセルビーム(円環状のビーム形状)とすれば、加工対象物の表面へのエネルギー集中を減らすことができる。これにより、加工対象物の内部に効率的にエネルギーを伝え、加工対象物の内部に加工痕Mを効率よく形成することができる。
【0059】
また、本実施形態では、第一レーザー光L1に対して第二レーザー光L2を遅延させる方法として、光路長を変化させる方法を用いているが、これに限られない。例えば、第二レーザー光L2だけを光ファイバ内に通して遅延させるようにしてもよいし、光源内の電気制御によって遅延を実現してもよい。
【0060】
また、本実施形態では、パルスの繰り返し周期は1ミリ秒としたが、これは光源の選定により、12.5ナノ秒(繰り返し周波数として10MHz)まで短くすることが可能である。さらに短くすることも可能であるが、その場合、レーザ共振器の耐光性を著しく損うおそれがあるため、大幅なコスト増を招き、多くの場合現実的でない。そのため、第一レーザー光L1及び第二レーザー光L2におけるパルスの繰り返し周期は12.5ナノ秒以下とすることがよい。
【0061】
また、光加工装置には、ITOパターニング装置、レーザーマーキング装置、3Dプリンティング装置などが含まれる。すなわち、光加工装置は、切断や穴あけといった除去加工を行う装置のほか、光を照射して加熱により溶解凝固させる積層造形法のような加工を行う装置も含むものである。
【0062】
また、
図7に示したにおけるパワーメータ30は、製品中に搭載してもよい。この場合、製品中で透過光量の測定を行い、最適な時間遅延幅もしくは光出力を算定し、レーザー光源もしくは制御システムにフィードバックすることで、加工中での条件最適化が可能となる。このとき、パワーメータ30は、加工物の背面に配置する必要はなく、加工物側面に設置し、材料内部から生じるプラズマ光量を検知する構成としてもよい。
【0063】
以上に説明したものは一例であり、次の態様毎に特有の効果を奏する。
〔態様A〕
複数の加工光(例えば第一レーザー光L1、第二レーザー光L2)を用いて加工対象物(例えばガラス基板100)を加工する光加工装置(例えばレーザー加工装置50)であって、第一光照射手段(例えば、第一ダイクロイックミラー21、第一反射光学素子22A~22E、第二ダイクロイックミラー25、第四反射光学素子26、ビーム拡大光学系2、ビーム変換ユニット5等)により焦点位置が前記加工対象物の内部に位置するように第一加工光(例えば、第一レーザー光L1)を照射し、該第一加工光によって加工対象物内部に発生するプラズマ又は気体Pの光吸収波長を含む第二加工光(例えば、第二レーザー光L2)を第二光照射手段(例えば、第一ダイクロイックミラー21、第三反射光学素子23、第二反射光学素子24A~24D、第二ダイクロイックミラー25、第四反射光学素子26、ビーム拡大光学系2、ビーム変換ユニット5等)により照射することを特徴とする。
複数の加工光を用いて加工対象物を加工する従来の光加工装置では、第一加工光によって加工対象物に過渡的な構造上の欠陥を生じさせて光吸収率を上昇させた箇所に第二加工光を照射することで、第二加工光のエネルギーによって加工対象物の材料を蒸散させる等により材料を除去し、加工を進める。しかしながら、このような加工方法では、光透過性を有する加工対象物に対し、より多くの材料を除去して大きな体積の加工(大体積加工)を実現するには、大きなエネルギーを必要とする。
本態様においては、第一光照射手段により焦点位置が加工対象物の内部に位置するように第一加工光を照射するため、光透過性を有する加工対象物においては加工対象物の内部まで第一加工光を到達させることができ、加工対象物の内部に加工痕を生じさせることができる。この加工痕が形成される過程で、加工光によって加工対象物の表面から加工が進行する一般的なアブレーション加工と同様にプラズマ又は気体が発生する。このとき、一般的なアブレーション加工では、プラズマ又は気体は発生後すぐに加工対象物の表面から外部へ拡散(散逸)するが、本態様においては、プラズマ又は気体が加工対象物の内部に生じる加工痕内で発生するため、加工痕内に留まり、拡散しない。
そして、本態様では、このように加工対象物内部の加工痕内に留まるプラズマ又は気体に対し、当該プラズマ又は気体の光吸収波長を含む第二加工光を照射する。これにより、プラズマ又は気体は第二加工光のエネルギーを吸収し、加工痕を拡げ、加工対象物の表面に向かってクラックを生じさせる。そして、加工痕やクラックが加工対象物の表面付近まで進行すると、加工痕内の内圧開放に伴って加工対象物の表面付近の材料を爆散させ、大きな体積の加工が実現される。
【0064】
〔態様B〕
前記態様Aにおいて、前記第二光照射手段は、前記第一加工光の照射開始後であって、該第一加工光によって加工対象物内部に前記プラズマ又は前記気体が存在する存在期間の開始前又は開始後に、前記第二加工光の照射を開始することを特徴とする。
これによれば、第二レーザー光L2の照射不要な期間に照射される第二レーザー光L2の照射時間を少なくして、エネルギーの無駄を抑えることができる。
【0065】
〔態様C〕
前記態様Bにおいて、前記第一加工光の照射開始から20ピコ秒以上11000ピコ秒以下の範囲内、好ましくは20ピコ秒以上2000ピコ秒以下の範囲内で、前記第二加工光の照射を開始することを特徴とする。
これによれば、第二レーザー光L2の照射不要な期間に照射される第二レーザー光L2の照射時間を少なくして、エネルギーの無駄を抑えることができる。
【0066】
〔態様D〕
前記態様A~Cのいずれかの態様において、前記第二光照射手段は、前記第一加工光によって加工対象物内部に前記プラズマ又は前記気体が存在する存在時期の終了前又は終了後に前記第二加工光の照射を停止することを特徴とする。
これによれば、第二レーザー光L2の照射不要な期間に照射される第二レーザー光L2の照射時間を少なくして、エネルギーの無駄を抑えることができる。
【0067】
〔態様E〕
前記態様A~Dのいずれかの態様において、前記第二光照射手段は、前記加工対象物に前記第一加工光が照射されていない期間に前記第二加工光を照射することを特徴とする。
これによれば、第二加工光のエネルギーをプラズマ又は気体に効率良く吸収させることができる。
【0068】
〔態様F〕
前記態様A~Eのいずれかの態様において、前記第二加工光の波長は、前記第一加工光の波長よりも長いことを特徴とする。
これによれば、加工対象物の内部に加工痕を形成する好適な第一加工光と、その加工痕内に発生するプラズマ又は気体の光吸収波長を含む好適な第二加工光とを両立しやすい。
【0069】
〔態様G〕
前記態様A~Fのいずれかの態様において、前記第二加工光の波長は、上述した式(1)を満たす吸収係数αIBが20cm-1以上である波長λであることを特徴とする。
これによれば、加工痕内に発生するプラズマ又は気体に第二加工光のエネルギーを効率よく吸収させることができる。
【0070】
〔態様H〕
前記態様A~Gのいずれかの態様において、前記第二加工光の波長は、700nm以上であることを特徴とする。
これによれば、加工痕内に発生するプラズマ又は気体に第二加工光のエネルギーを効率よく吸収させることができる。
【0071】
〔態様I〕
前記態様A~Hのいずれかの態様において、所定のパルス幅(例えば15ピコ秒)を有するパルスレーザー光を出力するレーザー光源(例えばレーザー発振器1)を有し、前記第一光照射手段は、前記レーザー光源から出力されるパルスレーザー光の一部を前記第一加工光として前記加工対象物へ照射し、前記第二光照射手段は、前記レーザー光源から出力されるパルスレーザー光の他部を遅延させて前記第二加工光として前記加工対象物へ照射することを特徴とする。
これによれば、低コスト化を実現しやすい。
【0072】
〔態様J〕
前記態様Iにおいて、前記第一光照射手段及び前記第二光照射手段は、同一の集光手段(例えば、対物レンズ6)を用いて、前記第一加工光及び前記第二加工光をそれぞれ前記加工対象物へ照射することを特徴とする。
これによれば、低コスト化を実現しやすい。
【0073】
〔態様K〕
前記態様A~Jのいずれかの態様において、前記第二光照射手段は、焦点位置が前記加工対象物の内部に位置するように前記第二加工光を照射することを特徴とする。
これによれば、第二光照射手段の構成部品の多くを、第一光照射手段の構成部品と共用することができ、低コスト化を実現しやすい。
【0074】
〔態様L〕
前記態様A~Kのいずれかの態様において、前記第二加工光の焦点深度は、200μm以下であることを特徴とする。
これによれば、加工対象物のより深い箇所まで加工することが可能となる。
【0075】
〔態様M〕
前記態様A~Lのいずれかの態様において、前記第一加工光及び前記第二加工光のうちの少なくとも一方は、20ピコ秒以下のパルス幅を有するパルスレーザー光であることを特徴とする。
これによれば、第一加工光や第二加工光における単位時間あたりのエネルギー密度を高めることができる。
【0076】
〔態様N〕
前記態様A~Mのいずれかの態様において、前記第一加工光及び前記第二加工光は、前記加工対象物内部におけるビーム形状が互いに異なることを特徴とする。
これによれば、加工対象物の内部に加工痕を形成する好適な第一加工光と、その加工痕内に発生するプラズマ又は気体の光吸収波長を含む好適な第二加工光とを両立しやすい。
【0077】
〔態様O〕
前記態様Nにおいて、前記第二加工光の前記加工対象物内部におけるビーム形状は円環状であることを特徴とする。
これによれば、加工対象物のより深い箇所まで加工することが可能となる。
【0078】
〔態様P〕
前記態様A~Oのいずれかの態様において、前記第二加工光のビーム形状を変更するビーム形状変更手段を有することを特徴とする。
これによれば、種々の加工に適したビーム形状をもつ第二加工光で加工を行うことができる。
【0079】
〔態様Q〕
前記態様Pにおいて、前記ビーム形状変更手段は、前記第二加工光のビーム形状を所定の周波数で時間的に変更することを特徴とする。
これによれば、第二加工光のビーム形状を所定の周波数で時間的に変更しながら光加工を行うことができる。
【0080】
〔態様R〕
複数の加工光を用いて加工対象物を加工する光加工方法であって、第一光照射手段により焦点位置が前記加工対象物の内部に位置するように第一加工光を照射し、該第一加工光によって加工対象物内部にプラズマ又は気体が存在する存在期間中に第二光照射手段により第二加工光を照射することを特徴とする。
複数の加工光を用いて加工対象物を加工する従来の光加工装置では、第一加工光によって加工対象物に過渡的な構造上の欠陥を生じさせて光吸収率を上昇させた箇所に第二加工光を照射することで、第二加工光のエネルギーによって加工対象物の材料を蒸散させる等により材料を除去し、加工を進める。しかしながら、このような加工方法では、光透過性を有する加工対象物に対し、より多くの材料を除去して大きな体積の加工(大体積加工)を実現するには、大きなエネルギーを必要とする。
本態様においては、第一光照射手段により焦点位置が加工対象物の内部に位置するように第一加工光を照射するため、光透過性を有する加工対象物においては加工対象物の内部まで第一加工光を到達させることができ、加工対象物の内部に加工痕を生じさせることができる。この加工痕が形成される過程で、加工光によって加工対象物の表面から加工が進行する一般的なアブレーション加工と同様にプラズマ又は気体が発生する。このとき、一般的なアブレーション加工では、プラズマ又は気体は発生後すぐに加工対象物の表面から外部へ拡散(散逸)するが、本態様においては、プラズマ又は気体が加工対象物の内部に生じる加工痕内で発生するため、加工痕内に留まり、拡散しない。
そして、本態様では、このように加工対象物内部の加工痕内に留まるプラズマ又は気体に対し、当該プラズマ又は気体の光吸収波長を含む第二加工光を照射する。これにより、プラズマ又は気体は第二加工光のエネルギーを吸収し、加工痕を拡げ、加工対象物の表面に向かってクラックを生じさせる。そして、加工痕やクラックが加工対象物の表面付近まで進行すると、加工痕内の内圧開放に伴って加工対象物の表面付近の材料を爆散させ、大きな体積の加工が実現される。
【0081】
〔態様S〕
複数の加工光を用いて加工対象物を加工して光加工物を生産する光加工物の生産方法であって、第一光照射手段により焦点位置が前記加工対象物の内部に位置するように第一加工光を照射し、該第一加工光によって加工対象物内部にプラズマ又は気体が存在する存在期間中に第二光照射手段により第二加工光を照射することを特徴とする。
これによれば、少ないエネルギーで大きな体積の加工を実現できるので、より低エネルギーで光加工物を生産することができる。
【符号の説明】
【0082】
1:レーザー発振器
1a:シード部
1b:励起部
1c:合成部
1d:再生増幅部
1e:波長変換部
1f:波長板
1g:プリズムビームスプリッタ
1h:LBO素子
2:ビーム拡大光学系
3:第一レンズ
4:第二レンズ
5:ビーム変換ユニット
6:対物レンズ
7:回転ステージ
8:アパーチャー
9:上下ステージ
10:x-yテーブル
11:テーブル土台
12:ステージ昇降機構
13:上下動モーター
14:ステージ回転モーター
20:光遅延部
21:第一ダイクロイックミラー
22A~22E:第一反射光学素子
23:第三反射光学素子
24A~24D:第二反射光学素子
25:第二ダイクロイックミラー
26:第四反射光学素子
27:第一遅延光学装置
28:第二遅延光学装置
29:光制御手段
30:パワーメータ
50:レーザー加工装置
100:ガラス基板
L1:第一レーザー光
L2:第二レーザー光
C:クラック
M:加工痕
P:気体又はプラズマ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0083】