(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】茎枯病抵抗性クサスギカズラ属植物の作出方法、選抜マーカー及び選抜方法
(51)【国際特許分類】
A01H 1/00 20060101AFI20221110BHJP
C12Q 1/6895 20180101ALI20221110BHJP
C12N 15/29 20060101ALN20221110BHJP
C12Q 1/686 20180101ALN20221110BHJP
C12Q 1/6876 20180101ALN20221110BHJP
A01H 5/00 20180101ALN20221110BHJP
【FI】
A01H1/00 A ZNA
C12Q1/6895 Z
C12N15/29
C12Q1/686 Z
C12Q1/6876 Z
A01H5/00 A
(21)【出願番号】P 2018145748
(22)【出願日】2018-08-02
【審査請求日】2021-06-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度農林水産省「農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】592167411
【氏名又は名称】香川県
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【氏名又は名称】原田 さやか
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 行生
(72)【発明者】
【氏名】松元 賢
(72)【発明者】
【氏名】竹内 陽子
(72)【発明者】
【氏名】菅野 明
(72)【発明者】
【氏名】池内 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】森 充隆
(72)【発明者】
【氏名】浦上 敦子
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-021907(JP,A)
【文献】特開2010-124701(JP,A)
【文献】Takeuchi, Y. et al.,Features in Stem Blight Resistance Confirmed in Interspecific Hybrids of Asparagus officinalis L. and Asparagus kiusianus Makino.,The Horticulture Journal,Vol.87, No.2,2017年09月,p.200-205
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00
A01H 5/00
C12Q 1/6895
C12N 15/29
C12Q 1/686
C12Q 1/6876
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
茎枯病抵抗性を有するクサスギカズラ属植物を作出する方法であって、
茎枯病に対して罹病性であるクサスギカズラ属植物と、抵抗性であるハマタマボウキ又はハマタマボウキに由来する植物を交配する交配ステップと、
得られた後代植物において、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来である場合に、前記後代植物を選抜する選抜ステップと
を含む、作出方法。
【請求項2】
選抜ステップにおいて、罹病性であるクサスギカズラ属植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、ハマタマボウキにおける対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型に基づいて、
得られた後代植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別することを含む、請求項1に記載の作出方法。
【請求項3】
選抜ステップにおいて、罹病性であるクサスギカズラ属植物における配列番号4に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、ハマタマボウキにおける対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型に基づいて、
得られた後代植物における配列番号4に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別することを含む、請求項1に記載の作出方法。
【請求項4】
前記ヌクレオチドの塩基の多型が、配列番号4に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第12
7番目に対応するヌクレオチドの塩基の多型である、請求項3に記載の作出方法。
【請求項5】
配列番号4に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第12
7番目に対応するヌクレオチドの塩基がアデニンである場合に、得られた後代植物における配列番号
4に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であると判別することを含む、請求項3又は4に記載の作出方法。
【請求項6】
茎枯病に対して罹病性であるクサスギカズラ属植物が、アスパラガス・オフィシナリス(Asparagus officinalis)、キジカクシ(Asparagus schoberioides)、クサスギカズラ(Asparagus cochinchinensis)、タチテンモンドウ(Asparagus cochinensis var. pygmaeus)、タマボウキ(Asparagus oligoclonos)、オオミドリボウキ(Asparagus plumosus)、アスパラガス・アキュティフォリウス(Asparagus acutifolius)、シャタバリ(Asparagus racemosus)、アスパラガス・シュードスカベル(Asparagus pseudoscaber)、アスパラガス・マルチマス(Asparagus maritimus)、アスパラガス・ダウリクス(Asparagus dauricus)、アスパラガス・ベルチシタラス(Asparagus verticillatus)及びアスパラガス・スティプラリス(Asparagus stipularis)並びにこれらに由来する植物からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の作出方法。
【請求項7】
茎枯病に対して罹病性であるクサスギカズラ属植物が、アスパラガス・オフィシナリス(Asparagus officinalis)又はアスパラガス・オフィシナリスに由来する植物である、請求項1~6のいずれか一項に記載の作出方法。
【請求項8】
選抜ステップが、マーカーを使用することにより、得られた後代植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNA又は配列番号4に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の作出方法。
【請求項9】
クサスギカズラ属植物において、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別するためのマーカー。
【請求項10】
罹病性であるクサスギカズラ属植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、ハマタマボウキにおける対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型に基づいて、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別するためのマーカー。
【請求項11】
罹病性であるクサスギカズラ属植物における配列番号4に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、ハマタマボウキにおける対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型に基づいて、配列番号4に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別するためのマーカー。
【請求項12】
前記ヌクレオチドの塩基の多型が、配列番号4に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第12
7番目に対応するヌクレオチドの塩基の多型である、請求項11に記載のマーカー。
【請求項13】
クサスギカズラ属植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、茎枯病に対して抵抗性であるハマタマボウキ由来である場合に、前記クサスギカズラ属植物を選抜する方法。
【請求項14】
罹病性であるクサスギカズラ属植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、ハマタマボウキにおける対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型に基づいて、クサスギカズラ属植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
罹病性であるクサスギカズラ属植物における配列番号4に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、ハマタマボウキにおける対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型に基づいて、クサスギカズラ属植物における配列番号4に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別することを含む、請求項13に記載の方法。
【請求項16】
前記ヌクレオチドの塩基の多型が、配列番号4に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第12
7番目に対応するヌクレオチドの塩基の多型である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
配列番号4に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第12
7番目に対応するヌクレオチドの塩基がアデニンである場合に、クサスギカズラ属植物における配列番号4に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であると判別することを含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
茎枯病抵抗性を有するクサスギカズラ属植物を作出する方法であって、
茎枯病に対して罹病性であるクサスギカズラ属植物に、配列番号1で示される遺伝子に対応するハマタマボウキにおける遺伝子を導入するステップを含む、作出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、茎枯病抵抗性クサスギカズラ属植物の作出方法、選抜マーカー及び選抜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アスパラガス茎枯病は、ホモプシス・アスパラギ(Phomopsis asparagi)により引き起こされ、西南暖地の露地産地を壊滅状態に追い込んだ難防除病害である。これまで、茎枯病に対する抵抗性を有するアスパラガス品種は見つかっておらず、アスパラガス近縁種で茎枯病に対する抵抗性を有するアスパラガス・デンシフロルス(Asparagus densiflorus)、クサナギカズラ(Asparagus asparagoides)、アスパラガス・ビルガタス(Asparagus virgatus)、アスパラガス・マコワニー(Asparagus macowanii)は、いずれも商業上重要なアスパラガス・オフィシナリス(Asparagus officinalis)との交配が不可能であった。そのため、アスパラガス茎枯病に対しては、薬剤防除を中心に総合的な防除対策を講じる他なかった。
【0003】
近年、アスパラガス品種の近縁種である野生種ハマタマボウキ(Asparagus kiusianus)が、茎枯病抵抗性を有することが発見され、交配により、茎枯病に対して罹病性であるアスパラガス品種に、茎枯病に対する抵抗性を付与することが期待された(非特許文献1、非特許文献2)。しかしながら、茎枯病に対して罹病性であるアスパラガス品種とハマタマボウキから得られた後代植物から、抵抗性を有する後代植物を選抜するための有効な方法は報告されておらず、その開発が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Iwato, M. et al. “Stemblight resistance of Asparagus kiusianus and its hybrid with A. officinalis.”,Adv. Hort. Sci. 28, 202-207 (2014)
【文献】Abdelrahman, M. et al., “Comparativede novo transcriptome profiling of Asparagus officinalis and A. kiusianusduring the early stage of Phomopsis asparagi infection.”, ScientificReports, 7, 2608 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、茎枯病に対して罹病性であるクサスギカズラ属植物と、抵抗性であるハマタマボウキの交配により得られた後代植物から、抵抗性を有する後代植物を効率的に選抜し、茎枯病抵抗性を有するクサスギカズラ属植物を作出する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、抵抗性を有するクサスギカズラ属植物を効率的に選抜するためのマーカーを提供することを目的とする。さらに、本発明は、抵抗性を有するクサスギカズラ属植物を効率的に選抜する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、茎枯病に対して罹病性であるクサスギカズラ属植物と抵抗性であるハマタマボウキの特定のゲノムDNAにおける違いに基づき、効率的に抵抗性を有するクサスギカズラ属植物を選抜できることを見出すとともに、その選抜に適したマーカーを開発した。
【0007】
すなわち本発明は、以下の[1]~[14]を提供する。
[1] 茎枯病抵抗性を有するクサスギカズラ属植物を作出する方法であって、
茎枯病に対して罹病性であるクサスギカズラ属植物と、抵抗性であるハマタマボウキ又はハマタマボウキに由来する植物を交配する交配ステップと、
得られた後代植物において、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来である場合に、上記後代植物を選抜する選抜ステップと
を含む、作出方法。
[2] 選抜ステップにおいて、罹病性であるクサスギカズラ属植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、ハマタマボウキにおける対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型に基づいて、
得られた後代植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別することを含む、[1]に記載の作出方法。
[3] 上記ヌクレオチドの塩基の多型が、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第121番目に対応するヌクレオチドの塩基の多型である、[2]に記載の作出方法。
[4] 配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第121番目に対応するヌクレオチドの塩基がアデニンである場合に、得られた後代植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であると判断することを含む、[1]~[3]のいずれかに記載の作出方法。
[5] 茎枯病に対して罹病性であるクサスギカズラ属植物が、アスパラガス・オフィシナリス(Asparagus officinalis)、キジカクシ(Asparagus schoberioides)、クサスギカズラ(Asparagus cochinchinensis)、タチテンモンドウ(Asparagus cochinensis var. pygmaeus)、タマボウキ(Asparagus oligoclonos)、オオミドリボウキ(Asparagus plumosus)、アスパラガス・アキュティフォリウス(Asparagus acutifolius)、シャタバリ(Asparagus racemosus)、アスパラガス・シュードスカベル(Asparagus pseudoscaber)、アスパラガス・マルチマス(Asparagus maritimus)、アスパラガス・ダウリクス(Asparagus dauricus)、アスパラガス・ベルチシタラス(Asparagus verticillatus)及びアスパラガス・スティプラリス(Asparagus stipularis)並びにこれらに由来する植物からなる群から選択される、[1]~[4]のいずれかに記載の作出方法。
[6] 茎枯病に対して罹病性であるクサスギカズラ属植物が、アスパラガス・オフィシナリス(Asparagus officinalis)又はアスパラガス・オフィシナリスに由来する植物である、[1]~[5]のいずれかに記載の作出方法。
[7] 選抜ステップが、マーカーを使用することにより、得られた後代植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別することを含む、[1]~[6]のいずれかに記載の作出方法。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の方法により作出された、茎枯病抵抗性を有するクサスギカズラ属植物。
[9] クサスギカズラ属植物において、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別するためのマーカー。
[10] 罹病性であるクサスギカズラ属植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、ハマタマボウキにおける対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型に基づいて、クサスギカズラ属植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別するためのマーカー。
[11] クサスギカズラ属植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、茎枯病に対して抵抗性であるハマタマボウキ由来である場合に、上記クサスギカズラ属植物を選抜する方法。
[12] 罹病性であるクサスギカズラ属植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、ハマタマボウキにおける対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型に基づいて、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別することを含む、[11]に記載の方法。
[13] 茎枯病抵抗性を有するクサスギカズラ属植物を作出する方法であって、
茎枯病に対して罹病性であるクサスギカズラ属植物に、配列番号1で示される遺伝子に対応するハマタマボウキにおける遺伝子を導入するステップを含む、作出方法。
[14] 配列番号1で示される遺伝子に対応するハマタマボウキにおける遺伝子を導入したクサスギカズラ属植物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、茎枯病に対して罹病性であるクサスギカズラ属植物とハマタマボウキの交配により得られた後代植物から、抵抗性を有する後代植物を効率的に選抜し、茎枯病抵抗性を有するクサスギカズラ属植物を作出する方法を提供することができる。また、本発明によれば、抵抗性を有するクサスギカズラ属植物を効率的に選抜するためのマーカーを提供することができる。さらに、本発明によれば、抵抗性を有するクサスギカズラ属植物を効率的に選抜する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】アスパラガス・オフィシナリス×(アスパラガス・オフィシナリス×ハマタマボウキ)により作成した連鎖地図(遺伝子座数:337、地図距離:1,813cM)のうち、第1染色体~第5染色体を示す。
【
図2】アスパラガス・オフィシナリス×(アスパラガス・オフィシナリス×ハマタマボウキ)により作成した連鎖地図(遺伝子座数:337、地図距離:1,813cM)のうち、第6染色体~第10染色体を示す。
【
図3】アスパラガス茎枯病抵抗性形質に関与するQTLが座乗した第1染色体の連鎖地図を示す(Bar:LOD>3(LODの最大値:3.68))。
【
図4】アスパラガス茎枯病抵抗性形質に関与するSNP(S1_12343345)領域の塩基配列を示す。アスパラガス(T)はアスパラガス・オフィシナリスの部分配列(配列番号4)、ハマタマボウキ(A)はハマタマボウキの部分配列(配列番号5)、グレー部分は実施例で使用したdCAPSプライマー領域、囲み部分は一塩基多型を示す。アスパラガス(T)における(T)は、当該配列におけるSNPがTであることを示し、ハマタマボウキ(A)における(A)は、当該配列におけるSNPがAであることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
アスパラガスの茎枯病は、糸状菌の一種であるホモプシス・アスパラギ(Phomopsis asparagi、Diaporthe asparagi)により引き起こされる。発病は、茎の下部に紡錘状の小斑点を生じ、しだいに紡錘状の病斑となる。やがて近接する病斑が融合して、茎全周に及ぶと茎が乾燥し、枯死する。病斑上に形成された黒色小粒点から分生子が放出されることにより、2次伝染が起こり、感染が拡大する。
【0011】
<茎枯病抵抗性を有するクサスギカズラ属植物の作出方法>
本実施形態に係る茎枯病抵抗性を有するクサスギカズラ属植物の作出方法(以下「本作出方法」ともいう)は、茎枯病に対して罹病性であるクサスギカズラ属植物と、抵抗性であるハマタマボウキ又はハマタマボウキに由来する植物を交配する交配ステップと、得られた後代植物において、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来である場合に、上記後代植物を選抜する選抜ステップとを含む。
【0012】
茎枯病に対して抵抗性であるハマタマボウキは、ホモプシス・アスパラギに感染しても、茎において上記のような病斑形成もしくは病斑拡大が認められることなく、ホモプシス・アスパラギの感染も拡大しない。ハマタマボウキに由来する植物とは、例えば、ハマタマボウキを使用して交配により作出した植物(例えば、超雄系統)、葯培養により作出した半数体を倍加した植物及び遺伝子組み換え技術等により作出した植物等であって、茎枯病に対して抵抗性を示し、かつ配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAを有するものを意味する。
【0013】
ハマタマボウキに由来する植物は、ハマタマボウキにおける配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAをホモ型に有する植物であってもよい。そのような植物を作出する方法としては、例えば、茎枯病抵抗性を示す雌株及び茎枯病抵抗性を示す雄株を用いた交配により得られた後代植物からマーカー等を用いて選抜する方法、並びに茎枯病抵抗性を示す雄株から葯培養により上記ゲノムDNAを有する半数体を作出し、倍化する方法等が挙げられる。
【0014】
クサスギカズラ属植物は、キジカクシ科に属する植物の一群である。茎枯病に対して抵抗性のクサスギカズラ属植物としては、例えば、ハマタマボウキ、アスパラガス・デンシフロルス、クサナギカズラ、アスパラガス・ビルガタス及びアスパラガス・マコワニーが挙げられる。本発明においてハマタマボウキ又はハマタマボウキに由来する植物と交配する、茎枯病に対して罹病性のクサスギカズラ属植物は、ハマタマボウキ又はハマタマボウキに由来する植物と交配した際に種子を形成し得る植物であり、例えば、アスパラガス・オフィシナリス(Asparagus officinalis)、キジカクシ(Asparagus schoberioides)、クサスギカズラ(Asparagus cochinchinensis)、タチテンモンドウ(Asparagus cochinensis var. pygmaeus)、タマボウキ(Asparagus oligoclonos)、オオミドリボウキ(Asparagus plumosus)、アスパラガス・アキュティフォリウス(Asparagus acutifolius)、シャタバリ(Asparagus racemosus)、アスパラガス・シュードスカベル(Asparagus pseudoscaber)、アスパラガス・マルチマス(Asparagus maritimus)、アスパラガス・ダウリクス(Asparagus dauricus)、アスパラガス・ベルチシタラス(Asparagus verticillatus)及びアスパラガス・スティプラリス(Asparagus stipularis)並びにこれらに由来する植物が挙げられる。これらに由来する植物とは、例えば、これらの植物を使用して交配により作出した植物(例えば、超雄系統)、及び遺伝子組み換え技術等により作出した植物等であって、茎枯病に対して罹病性のクサスギカズラ属植物を意味する。本発明においてハマタマボウキ又はハマタマボウキに由来する植物と交配する、茎枯病に対して罹病性のクサスギカズラ属植物としては、アスパラガス・オフィシナリス又はアスパラガス・オフィシナリスに由来する植物が好ましい。
【0015】
クサスギカズラ属植物の交配方法は特に限定されることなく、当業者が通常用いる方法により行うことができる。ハマタマボウキは雌雄異株種であるが、交配においてはハマタマボウキの雌株を用いても、雄株を用いてもよい。茎枯病に対して罹病性であるクサスギカズラ属植物とハマタマボウキ又はハマタマボウキに由来する植物を交配する交配ステップは、抵抗性を有するクサスギカズラ属植物を作出する過程でいずれかの段階で行われていればよく、最初の交配である必要はない。
【0016】
また、より優れた形質を有する後代植物を得るために、例えば、近親交配、戻し交配及び連続戻し交配等を行ってもよい。例えば、ハマタマボウキとアスパラガス・オフィシナリスの後代植物について、茎枯病抵抗性を有する植物体を選抜しながらアスパラガス・オフィシナリスとの戻し交配を行うことで、茎枯病抵抗性を有しつつ、形質はアスパラガス・オフィシナリスにより近い後代植物を得ることができる。
【0017】
後代植物は、茎枯病に対して罹病性であるクサスギカズラ属植物とハマタマボウキ又はハマタマボウキに由来する植物との交配により得られた雑種第1代(F1)であってもよく、さらなる交配により得られた雑種第2代(F2)以降の植物であってもよく、例えば、F1を罹病性であるクサスギカズラ属植物と戻し交配をした第1代(BC1)であってもよく、さらに戻し交配をした第2代(BC2)以降の植物であってもよい。
【0018】
後述するアスパラガス・オフィシナリスとハマタマボウキ間のQTL解析により見出された、茎枯病抵抗性形質に関与する一塩基多型(SNP(S1_12343345))は、アスパラガス・オフィシナリスの第1染色体上に存在するGeneID:109850261の遺伝子(Gene symbol:LOC109850261 sec-independent protein translocase protein TATB, chloroplastic)の配列(配列番号1)上に存在する。SNP(S1_12343345)は、配列番号
1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第121番目のヌクレオチドの塩基の多型であり、配列番号
1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第121番目のヌクレオチドの塩基がチミンであるのに対し、配列番号
1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するハマタマボウキのゲノムDNAにおいて、上記第121番目のヌクレオチドの塩基はアデニンである(
図4参照)。
【0019】
したがって、本作出方法は、クサスギカズラ属植物とハマタマボウキ又はハマタマボウキに由来する植物との交配により得られた後代植物において、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来である場合に、その後代植物を選抜することで効率よく茎枯病抵抗性を有する植物を選抜することができる。上記対応するゲノムDNAがハマタマボウキ由来であるか否かを判別する方法としては、当業者が通常用いる方法を用いることができるが、後述する多型に基づく方法の他に、例えば、対応するゲノムDNAに対するプローブを用いてハイブリダイゼーションを行う方法、及び対応するゲノムDNAをクローニングし、ハマタマボウキの配列と比較する方法等が挙げられる。
【0020】
アスパラガス・オフィシナリスとハマタマボウキとの雑種第1代は、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAと、ハマタマボウキ由来の対応するゲノムDNAをヘテロ型に有するが、茎枯病抵抗性を示す。したがって、後代植物において、ハマタマボウキ由来の対応するゲノムDNAがホモ型に存在するか、ヘテロ型に存在するかを判別する必要はなく、いずれかの染色体上にハマタマボウキ由来の対応するゲノムDNAが存在している場合には、その後代植物を選抜すればよい。
【0021】
本作出方法は、罹病性であるクサスギカズラ属植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、ハマタマボウキにおける対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型に基づいて、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別することを含むことができる。ヌクレオチドの塩基の多型に基づいて判別する方法としては、当業者が通常用いる方法を用いることができるが、例えば、増幅断片多型法(RAPD法)、制限酵素切断断片長多型法(RFLP法)、CAPS(Cleaved Amplified Polymorphic Sequence)法、SSLP(simple sequence length polymorphism)法、増幅断片長多型法(AFLP法)及びSSCP(Single-stranded conformation polymorphism)法等が挙げられる。また、当業者であれば、例えば、配列番号1の配列を参考にして各種操作(プライマー設計、シーケンス解析等)により、罹病性であるクサスギカズラ属植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAの配列を見出し、ハマタマボウキにおける対応するゲノムDNAの配列との比較から、両DNA間のヌクレオチドの塩基の多型を見出すこともできる。
【0022】
ヌクレオチドの塩基の多型は、SNPであってもよい。既知のSNPに基づいて判別する方法としては、当業者が通常用いる方法を用いることができるが、例えば、SSR(Simple sequence repeat)マーカー及びSNPマーカー等のDNAマーカーを使用した方法が挙げられる。DNAマーカーを使用する場合には、既知のSNPを含む領域の配列に基づいて適宜プライマー/プローブを設計し、例えば、蛍光標識したプローブによりSNPの塩基タイプを確認する方法、PCR等のDNA増幅法により増幅の有無を確認する方法、及び増幅産物を特定の制限酵素により処理した際の切断の有無を確認する方法(CAPSマーカー等)が挙げられる。増幅産物を特定の制限酵素により処理する場合であって、SNPが制限酵素認識部位に含まれない場合には、制限酵素認識部位を付加するdCAPS(Derived Cleaved Amplified Polymorphic Sequences)マーカーのプライマーを設計して使用してもよい。
【0023】
また、本作出方法は、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第121番目に対応するヌクレオチドの塩基の多型(SNP)に基づき、後代植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別することを含むことができる。また、本作出方法は、後代植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第121番目に対応するヌクレオチドの塩基がチミン以外の塩基である場合に、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であると判断することを含むことができる。さらに、本作出方法は、後代植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第121番目に対応するヌクレオチドの塩基がアデニンである場合に、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であると判断することを含むことができる。
【0024】
配列番号
1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第121番目に対応するヌクレオチドの塩基のSNPに基づいて判別する方法は、既知のSNPに基づいて判別する方法として上述した方法等を用いることができ、例えば、上記SNPを認識するプローブを用いてもよく、上記SNPを含む領域のDNA断片の増幅の有無により確認してもよい。配列番号
1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第121番目に存在するSNPを認識するためのマーカーとしては、例えば、以下のようなdCAPSマーカーのプライマーが設計できる(
図4も参照)。
(1)S1_12343345_2_F
CAAGAATCTCTCCTTCACTATCAACCACA
G(配列番号2)
(2)S1_12343345_2_R
GCGTGTTTGATGCTAAGATTATGCCTTTGA(配列番号3)
【0025】
プライマー(1)の下線部により制限酵素BsmAIの認識部位(GTCTC)が付与されるため、アスパラガス・オフィシナリスのゲノムDNAを鋳型としてプライマー(1)及び(2)を用いて増幅させた断片は、BsmAIにより切断される。一方、ハマタマボウキのゲノムDNAを鋳型として同様のプライマーを用いて増幅させた断片はBsmAIにより切断されない。したがって、マーカーは、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第121番目の塩基Tを含むようにBsmAIの認識部位を付与するように設計されたプライマーのセットであってもよく、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第120番目に対応するヌクレオチドの塩基をCからGに変更するプライマーを含んでもよい。また、マーカーは、配列番号2に記載の塩基配列と98%以上、95%以上、90%以上、85%以上又は80%以上の配列相同性を有するプライマーを含んでよく、配列番号3に記載の塩基配列と98%以上、95%以上、90%以上、85%以上又は80%以上の配列相同性を有するプライマーを含んでよい。上記dCAPSマーカーはBsmAIを利用した例であるが、BsmAIに限られず、他の制限酵素認識部位を付加するdCAPSマーカーを設計して用いてもよい。
【0026】
本作出方法は、得られたクサスギカズラ属植物が茎枯病抵抗性を有するか否かを判定するステップをさらに含んでもよい。茎枯病抵抗性を有するか否かを判定する方法としては、当業者が通常用いる方法を用いることができるが、例えば、交配により得られたクサスギカズラ属植物を人工的にホモプシス・アスパラギに感染させ、同様にホモプシス・アスパラギに感染させた罹病性のクサスギカズラ属親植物(Mock)と比較して、病徴が弱まれば抵抗性を有し、病徴が同等であれば抵抗性を有さない(罹病性である)と判定する方法が挙げられる。より具体的には、例えば、DSG0(病徴なし)、DSG1(小型病斑形成(長さ1cm未満))、DSG2(拡大病斑形成(長さ1cm以上で茎の半分未満の病斑))、DSG3(大型病斑形成(茎の半分以上に病斑、全枯死はしていない))及びDSG4(地上部枯死)と病徴の程度により段階的に分類し、DSG0~2を抵抗性、DSG3~4を罹病性と判定することもできる。
【0027】
本作出方法により、クサスギカズラ属植物とハマタマボウキ又はハマタマボウキに由来する植物との交配により得られた後代植物から、効率的に茎枯病抵抗性を有するクサスギカズラ属植物を作出することができる。
【0028】
<クサスギカズラ属植物の判別マーカー>
本実施形態に係るクサスギカズラ属植物の判別マーカー(以下「本判別マーカー」ともいう)は、クサスギカズラ属植物において、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別するためのマーカーである。本判別マーカーを使用することにより、当業者は容易にハマタマボウキ由来である対応するゲノムDNAを含むクサスギカズラ属植物を選抜でき、抵抗性を有する後代植物を効率的に選抜できる。
【0029】
また、本判別マーカーは、罹病性であるクサスギカズラ属植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、ハマタマボウキにおける対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型に基づいて、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別するマーカーであってもよい。
【0030】
また、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第121番目に対応するヌクレオチドの塩基の多型に基づき、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別するためのマーカーであってよく、上記対応するDNAにおける第121番目に対応するヌクレオチドの塩基がチミン以外のときにハマタマボウキ由来であると判別するマーカーであってよく、上記対応するDNAにおける第121番目に対応するヌクレオチドの塩基がアデニンのときにハマタマボウキ由来であると判別するマーカーであってもよい。
【0031】
本判別マーカーはCAPSマーカー及びdCAPSマーカー等のDNAマーカーであってよい。DNAマーカーについては<茎枯病抵抗性を有するクサスギカズラ属植物の作出方法>において記載したとおりである。
【0032】
<クサスギカズラ属植物の選抜方法>
本実施形態に係るクサスギカズラ属植物の選抜方法(以下「本選抜方法」ともいう)は、クサスギカズラ属植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、茎枯病に対して抵抗性であるハマタマボウキ由来である場合に、前記クサスギカズラ属植物を選抜する方法である。本選抜方法により、茎枯病抵抗性を有する可能性の高い、ハマタマボウキ由来である対応するゲノムDNAを含むクサスギカズラ属植物を選抜することができ、抵抗性を有する後代植物を効率的に選抜することができる。
【0033】
また、本選抜方法は、罹病性であるクサスギカズラ属植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAと、ハマタマボウキにおける対応するゲノムDNA間のヌクレオチドの塩基の多型に基づいて、クサスギカズラ属植物における配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAが、ハマタマボウキ由来であるか否かを判別することを含んでもよい。
【0034】
本選抜方法は、<茎枯病抵抗性を有するクサスギカズラ属植物の作出方法>に記載した、本作出方法における選抜ステップと同様に行うことができる。
【0035】
<抵抗性遺伝子導入による茎枯病抵抗性を有するクサスギカズラ属植物の作出方法及び抵抗性遺伝子が導入されたクサスギカズラ属植物>
本実施形態に係る茎枯病抵抗性を有するクサスギカズラ属植物の作出方法は、茎枯病に対して罹病性であるクサスギカズラ属植物に、配列番号1で示される遺伝子に対応するハマタマボウキにおける遺伝子を導入するステップを含む。
【0036】
茎枯病に対して罹病性であるクサスギカズラ属植物については上述したとおりである。
【0037】
配列番号1で示される遺伝子とは、上述したアスパラガス・オフィシナリスのGeneID:109850261の遺伝子(Gene symbol:LOC109850261 sec-independent protein translocase protein TATB, chloroplastic)である。配列番号1で示される遺伝子に対応するハマタマボウキにおける遺伝子とは、上記GeneID:109850261の遺伝子のハマタマボウキにおける対立遺伝子を意味する。
【0038】
罹病性であるクサスギカズラ属植物へ遺伝子を導入する方法は、当業者が通常用いる方法を用いることができるが、例えば、アグロバクテリウム法及び交配による導入等が挙げられる。また、遺伝子を導入する形態は特に制限されず、例えば、ゲノムDNAを使用してもよく、cDNAを使用してもよい。遺伝子が導入されたクサスギカズラ属植物を<クサスギカズラ属植物の選抜方法>に記載した方法及び接種試験等により選抜してもよい。
【0039】
上記方法により、配列番号1で示される遺伝子に対応するハマタマボウキにおける遺伝子を導入したクサスギカズラ属植物を作出することができる。
【実施例】
【0040】
[RAD-seq解析]
(1)DNA抽出
アスパラガス・オフィシナリス、ハマタマボウキ、両種の種間雑種第1代(以下「F1」ともいう)及びアスパラガス・オフィシナリス×F1(以下「BC1」ともいう)の若い地上茎(擬葉)から酢酸カリウム法によりDNAを抽出した。30mgの新鮮な若い地上茎を3個の1/8サイズのステンレスビーズ(AsONE、Osaka、Japan)を用いてマルチビーズショッカー(Yasui Kikai、Osaka、Japan)で磨砕した。その後、7UのRNase(Qiagen、Hilden、Germany)を含む抽出バッファー(100mM Tris(pH8)、50mM EDTA(pH8)、500mM NaCl及び1% SDS)中で混和させ、65℃で1.5時間インキュベートした。抽出バッファーの1/3量の5M 酢酸カリウムを加え、氷上で10分間静置した。遠心分離機を用いて分離させた上澄みに等量のイソプロパノールを加えてDNAを沈殿させ、70%エタノールでリンス後に50μLのTE(10mM Tris+1mM EDTA)に溶解させた。M×3000P Real-Time QPCR System(Agilent Technology、Tokyo、Japan)を用い、QuantiFluor TM dsDNAシステム(Promega、Madison、WI、USA)によりDNA濃度を20ng・μL-1に調整した。
【0041】
(2)アダプターの調整
2種類の制限酵素によって消化した断片の両末端に正逆両方向のアダプターを付加させライブラリ作成に用いた。バーコードを付加した正方向アダプターはKpnIの認識末端でデザインし、逆方向末端はMspI認識末端でデザインした。KpnI認識末端にバーコードを付加させた96種類のアダプターについては、Bar Coded Adapter Generator(http://www.deenabio.com/services/gbs-adapters)で作成した。逆方向のアダプターは、Y-adapterとしてデザインした。95℃1分間でアダプターをアニールさせ、1分で1℃ずつ低下させながら65サイクル行った。ライゲーション後、M×3000P Real-Time QPCR System(Agilenmt Technology)を用い、QuantiFluor TM ds DNAシステム(Promega)によりアダプター濃度を測定した後に、0.1μMに調整した。
【0042】
(3)RADライブラリ作成
RADseqライブラリ作成はPolandらの方法(Poland, J. A. etal., PLoS ONE. 7: e32253.(2012))に従った。200ngのゲノムDNAを、8UのKpnI-HF(New England BioLabs)、8UのMspI(New England Biolabs)、CutSmart Buffer(New England BioLabs、Ipswich、MA、USA)を加えた20μLの処理液で制限酵素処理した。処理は37℃2時間行い、その後65℃20分で酵素を失活させた。消化したDNAにIllumina flow cellに結合するアダプターをライゲーションさせ、各サンプルにアダプター(0.1pmolの正方向アダプターと15pmolの逆方向アダプター)、CutSmart Buffer(New England Biolabs)、ATP(最終濃度1mM、Thermo Fisher Scientific、San Jose、CA、USA)、200UのT4リガーゼを加え、22℃2時間でライゲーションを行った後に60℃20分間で停止させた。ライゲーションさせたサンプルを1本のチューブにプールし、QIAquick PCR Purification Kit(Qiagen)で精製した。95℃30秒で熱変成した後に、95℃-30秒、62℃-30秒、68℃-30秒の増幅反応を16サイクル行い、72℃-5分で処理を終了させた。PCR後に再度ライブラリを精製した。
【0043】
(4)RADシークエンシングとSNP検出
Illumina Miseq(Illumina、San Diego、CA、USA)を用いMiseq Reagent Kit v3(Illumina)によりライブラリのシークエンスを行った。各末端の86bpのシークエンスを行い、tassel pipelineを用いて生データ画像から配列を決定した。その後、Burrows-Wheeler Alignment Tool(BWA)を用いて配列情報をアスパラガスリファレンスゲノム(https://www.ncbi.nlm.nih.gov/genome/?term=asparagus)と照合した。塩基配列の再調整とSNP遺伝子の決定はJava(登録商標)のカスタムスクリプト(http://www.maizegenetics.net/tassel)により行った。
【0044】
[連鎖地図作成とQTL解析]
RADシークエンシング解析結果に基づき、遺伝子連鎖解析ソフトウェアJoinMap(https://www.kyazma.nl/index.php/JoinMap/)及びMapQTL(https://www.kyazma.nl/index.php/MapQTL/)を用いて連鎖地図作成とQTL解析を行った。その結果、染色体数と同一の10種類の連関群(Chromosome 1~10)を作成でき、その中のChromosome 1中にアスパラガス茎枯病抵抗性形質に関与(LOD>3)するSNP(S1_12343345)が検出された(
図1~
図4)。アスパラガスリファレンスゲノム情報を用いた分析により、上記SNP(S1_12343345)の位置を特定すると、アスパラガス・オフィシナリスの第1染色体上に存在するGeneID:109850261の遺伝子(Gene symbol:LOC109850261 sec-independent protein translocase protein TATB, chloroplastic)の配列(配列番号1)上であること、配列番号
1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAの第121番目に対応するヌクレオチドであることが明らかとなった。
【0045】
[dCAPSマーカー作成]
作成した連鎖地図とQTL解析により抵抗性形質への関与が示されたSNP(S1_12343345)について、容易に多型を検出するためのdCAPS化を行った(S1_12343345_2)。上述の配列番号2に示されるプライマー(1)及び配列番号3に示されるプライマー(2)を設計した。プライマー(1)及び(2)を用いてアスパラガス・オフィシナリスのDNAを鋳型としてPCR法により増幅したDNA断片は、制限酵素BsmAIにより切断される。一方、ハマタマボウキを鋳型としてPCR法により増幅したDNA断片は、BsmAIにより切断されない。上記プライマー(1)、(2)及びBsmAIを用いてBC1集団のスクリーニングを行った。
【0046】
[dCAPSマーカーによる選抜効果の検証]
BC1集団66個体に対してdCAPSマーカーによるスクリーニングを行った結果を表1に示す。ヘテロタイプは、増幅断片がBsmAIにより切断されるものと切断されないものが混在しており、アスパラガス・オフィシナリス由来の遺伝子(GeneID:109850261)及びハマタマボウキ由来の対立遺伝子をヘテロ型に有すると推測される個体である。アスパラガスタイプは、増幅断片のすべてがBsmAIにより切断され、アスパラガス・オフィシナリス由来の遺伝子(GeneID:109850261)をホモ型に有すると推測される個体である。
【0047】
【0048】
上記集団に2 × 106 spores・mL-1のホモプシス・アスパラギを人工接種し、接種5週間後の病徴を確認し、DSG0(病徴なし)、DSG1(小型病斑形成(長さ1cm未満))、DSG2(拡大病斑形成(長さ1cm以上で茎の半分未満の病斑))、DSG3(大型病斑形成(茎の半分以上に病斑、全枯死はしていない))及びDSG4(地上部枯死)のうちDSG0~2を抵抗性、DSG3~4を罹病性と判定した。その結果、マーカーを利用しない場合には抵抗性と罹病性の個体が34:32でほぼ50%ずつ出現するが、ハマタマボウキ由来の遺伝子が伝達されているヘテロタイプの個体を選抜すると、29個体中23個体(約80%)が抵抗性を示した。これにより、SNP(S1_12343345)に基づき、抵抗性を示す個体を効率的に選抜できることが示された。
【0049】
GeneID:109850261の遺伝子のゲノム配列情報に基づき、アスパラガス及びハマタマボウキの当該遺伝子のDNAをクローニングした。アスパラガス及びハマタマボウキの当該遺伝子のDNA配列を比較解析した結果、SNP(S1_12343345)以外にも複数のSNPが存在することを発見した。このSNPを利用したCAPSマーカーを作成し、SNP(S1_12343345)に関してプライマー(1)及び(2)を用いて行ったスクリーニングと同様に抵抗性形質の主動遺伝子支配を示唆する系統を用いてスクリーニングを行った結果、SNP(S1_12343345)と同一の結果が得られた。これにより、GeneID:109850261の遺伝子内の他のSNPに基づいても、抵抗性を示す個体を効率的に選抜できることが示された。
【0050】
このことから、配列番号1に記載の塩基配列からなるゲノムDNAに対応するゲノムDNAがハマタマボウキ由来か否かに基づいて、効率的に茎枯病抵抗性を有する個体を選抜できることが分かった。
【配列表】