(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】磁壁移動型デバイスのデータ記録方法および記録装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/8239 20060101AFI20221110BHJP
H01L 27/105 20060101ALI20221110BHJP
H01L 29/82 20060101ALI20221110BHJP
H01L 43/08 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
H01L27/105 447
H01L29/82 Z
H01L43/08 Z
(21)【出願番号】P 2018149967
(22)【出願日】2018-08-09
【審査請求日】2021-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】川那 真弓
(72)【発明者】
【氏名】奥田 光伸
(72)【発明者】
【氏名】宮本 泰敬
【審査官】脇水 佳弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-080748(JP,A)
【文献】特表2013-503411(JP,A)
【文献】特開2016-018574(JP,A)
【文献】特開2018-018564(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0078509(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0160829(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/8239
H01L 29/82
H01L 43/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁壁移動型デバイスに所定の磁化方向のデータを記録する磁壁移動型デバイスのデータ記録方法であって、
前記磁壁移動型デバイスは、
データを導入する導入領域と、前記導入領域の他端に隣接したデータ領域と、を長さ方向に有する少なくとも1つの磁性細線と、
前記導入領域の一端で前記磁性細線に直交するように配置され通電によって発生する磁場により前記磁性細線の前記導入領域に磁区を形成する直線状の第1導体配線と、
前記導入領域の前記他端で前記磁性細線に直交するように配置され通電によって発生する磁場により前記磁性細線の前記導入領域に磁区を形成する直線状の第2導体配線と、
を備えており、
前記第1導体配線に第1方向の電流を流すことで発生する磁場と、前記第2導体配線に前記第1方向とは逆方向である第2方向の電流を流すことで発生する磁場と、により前記磁性細線の前記導入領域に第1磁化方向の磁区を形成する双方向第1磁区形成工程と、
前記第1導体配線に前記第2方向の電流を流すことで発生する磁場と、前記第2導体配線に前記第1方向の電流を流すことで発生する磁場と、により前記磁性細線の前記導入領域に第2磁化方向の磁区を形成する双方向第2磁区形成工程と、
のうちの少なくとも一方の工程を行い、
前記双方向第1磁区形成工程に続けて、
前記磁性細線に流す磁壁を駆動するための電流に連動させて、前記第2導体配線に電流を流さずに前記第1導体配線に前記第1方向の電流を流すことで発生する磁場により前記磁性細線の前記導入領域に前記第1磁化方向の磁区を形成する一方向第1磁区形成工程をさらに行うか、または、前記双方向第2磁区形成工程に続けて、
前記磁性細線に流す前記磁壁を駆動するための電流に連動させて、前記第2導体配線に電流を流さずに前記第1導体配線に前記第2方向の電流を流すことで発生する磁場により前記磁性細線の前記導入領域に前記第2磁化方向の磁区を形成する一方向第2磁区形成工程をさらに行
うデータ記録方法。
【請求項2】
データを導入する導入領域と、前記導入領域の他端に隣接したデータ領域と、を長さ方向に有する少なくとも1つの磁性細線と、
前記導入領域の一端で前記磁性細線に直交するように配置され通電によって発生する磁場により前記磁性細線の前記導入領域に磁区を形成する直線状の第1導体配線と、
前記導入領域の前記他端で前記磁性細線に直交するように配置され通電によって発生する磁場により前記磁性細線の前記導入領域に磁区を形成する直線状の第2導体配線と、
を備える磁壁移動型デバイスと、
前記磁性細線にパルス電流を印加するパルス電流源と、
入力された情報信号を分割し、前記第1導体配線および前記第2導体配線に前記パルス電流を供給すると共に、前記パルス電流源から前記磁性細線への前記パルス電流の供給タイミングを制御する記録系制御部と、を備え、
前記記録系制御部は、
前記第1導体配線に第1方向の電流を流すことで発生する磁場と、前記第2導体配線に前記第1方向とは逆方向である第2方向の電流を流すことで発生する磁場と、により前記磁性細線の前記導入領域に第1磁化方向の磁区を形成する双方向第1磁区形成処理と、
前記第1導体配線に前記第2方向の電流を流すことで発生する磁場と、前記第2導体配線に前記第1方向の電流を流すことで発生する磁場と、により前記磁性細線の前記導入領域に第2磁化方向の磁区を形成する双方向第2磁区形成処理と、
のうちの少なくとも一方を実行する記録装置。
【請求項3】
前記磁壁移動型デバイスは、
前記磁性細線と、前記第1導体配線および前記第2導体配線と、の間に絶縁層を備え、
前記第1導体配線および前記第2導体配線は、前記絶縁層に対して同じ側に配置されている請求項
2に記載の
記録装置。
【請求項4】
前記磁壁移動型デバイスは、
前記第1導体配線の幅および前記第2導体配線の幅
が、40nm以下であり、
前記第1導体配線と前記第2導体配線との間の距離
が、100nm以下である請求項
2または請求項
3に記載の
記録装置。
【請求項5】
前記磁壁移動型デバイスは、
前記第1導体配線の幅および前記第2導体配線の幅
が、10nm以上40nm以下であり、
前記第1導体配線と前記第2導体配線との間の距離
が、10nm以上40nm以下である請求項
4に記載の
記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁壁移動型デバイスのデータ記録方法および記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スピントランスファー効果による磁壁の電流駆動現象が注目されている(例えば非特許文献1および非特許文献2参照)。
非特許文献1に記載されたレーストラックメモリは、磁性細線を基板に対して垂直方向にも延伸させたU字型の3次元構造を持つメモリである。レーストラックメモリでは、磁性細線に直交するように配置された書き込みヘッドで磁性細線中に磁区を形成し、磁性細線にパルス電流を印加してその位置を動かしてデータを記録する。この書き込みヘッドは、書き込み電流が通電される配線からの漏れ磁場により、磁性細線に所定磁化方向のデータの書き込みを行っている。なお、レーストラックメモリでは、再生時には、読み出したいデータ(磁区)が、磁性細線に直交するように配置された読出しヘッドの直下に来るまで磁性細線にパルス電流を印加して磁区を移動させている。
【0003】
非特許文献2には、垂直磁化を示す材料としてCo/Niが積層された磁性細線上に、直交するように、12μmの間隔を空けて2本のTi/Au電極を設けた磁壁移動型デバイスが記載されている。磁性細線において2本の電極間の領域がデータ記録領域となっている。一方の電極は書き込みヘッドとして機能し、他方の電極は読出しヘッドとして機能する。このデバイスでは、一方の電極(書き込みヘッド)に電流を流すことで発生した漏れ磁場を用いることで磁性細線に磁区を書き込む。そして、磁区が書き込まれた磁性細線に電極を介して電流パルスを流すことで、この磁性細線内で磁区を移動させている。非特許文献2には、電流パルスでシフトされる磁区の幅(磁壁間距離)は、5.1±0.9μm、あるいは、3.2±0.6μmであることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Parkin Stuart S. P.et al.,” Magnetic Domain-Wall Racetrack Memory”, Science, 11 Apr 2008, Vol. 320, Issue 5873, pp. 190-194
【文献】Chiba D., et al.,” Control of Multiple Magnetic Domain Walls by Current in a Co/Ni Nano-Wire”, Applied Physics Express, June 2010, 073004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
記録トラックとしての磁性細線に対してデータを書き込む配線からの漏れ磁場には磁場の広がりがある。そのため、従来の磁壁移動型デバイスでは、微小な磁区を形成しようとしたときには、安定した形状の磁区を形成することができず、改良の余地があった。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、漏れ磁場により安定した形状の磁区を形成することができる磁壁移動型デバイスのデータ記録方法および記録装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本願発明者らは、漏れ磁場により磁区を形成する手法において種々検討を行った。その結果、直線状の記録素子に平行に同様の直線状の記録素子を追加する構造を採用したときに、磁壁の形状の乱れが低減された安定した形状の磁区を形成できることを見出した。
【0008】
そこで、本発明に係るデータ記録方法は、磁壁移動型デバイスに所定の磁化方向のデータを記録する磁壁移動型デバイスのデータ記録方法であって、前記磁壁移動型デバイスは、データを導入する導入領域と、前記導入領域の他端に隣接したデータ領域と、を長さ方向に有する少なくとも1つの磁性細線と、前記導入領域の一端で前記磁性細線に直交するように配置され通電によって発生する磁場により前記磁性細線の前記導入領域に磁区を形成する直線状の第1導体配線と、前記導入領域の前記他端で前記磁性細線に直交するように配置され通電によって発生する磁場により前記磁性細線の前記導入領域に磁区を形成する直線状の第2導体配線と、を備えており、前記第1導体配線に第1方向の電流を流すことで発生する磁場と、前記第2導体配線に前記第1方向とは逆方向である第2方向の電流を流すことで発生する磁場と、により前記磁性細線の前記導入領域に第1磁化方向の磁区を形成する双方向第1磁区形成工程と、前記第1導体配線に前記第2方向の電流を流すことで発生する磁場と、前記第2導体配線に前記第1方向の電流を流すことで発生する磁場と、により前記磁性細線の前記導入領域に第2磁化方向の磁区を形成する双方向第2磁区形成工程と、のうちの少なくとも一方の工程を行い、前記双方向第1磁区形成工程に続けて、前記磁性細線に流す磁壁を駆動するための電流に連動させて、前記第2導体配線に電流を流さずに前記第1導体配線に前記第1方向の電流を流すことで発生する磁場により前記磁性細線の前記導入領域に前記第1磁化方向の磁区を形成する一方向第1磁区形成工程をさらに行うか、または、前記双方向第2磁区形成工程に続けて、前記磁性細線に流す前記磁壁を駆動するための電流に連動させて、前記第2導体配線に電流を流さずに前記第1導体配線に前記第2方向の電流を流すことで発生する磁場により前記磁性細線の前記導入領域に前記第2磁化方向の磁区を形成する一方向第2磁区形成工程をさらに行う。
【0009】
また、本発明に係る記録装置は、データを導入する導入領域と、前記導入領域の他端に隣接したデータ領域と、を長さ方向に有する少なくとも1つの磁性細線と、前記導入領域の一端で前記磁性細線に直交するように配置され通電によって発生する磁場により前記磁性細線の前記導入領域に磁区を形成する直線状の第1導体配線と、前記導入領域の前記他端で前記磁性細線に直交するように配置され通電によって発生する磁場により前記磁性細線の前記導入領域に磁区を形成する直線状の第2導体配線と、を備える磁壁移動型デバイスと、前記磁性細線にパルス電流を印加するパルス電流源と、入力された情報信号を分割し、前記第1導体配線および前記第2導体配線に前記パルス電流を供給すると共に、前記パルス電流源から前記磁性細線への前記パルス電流の供給タイミングを制御する記録系制御部と、を備え、前記記録系制御部が、前記第1導体配線に第1方向の電流を流すことで発生する磁場と、前記第2導体配線に前記第1方向とは逆方向である第2方向の電流を流すことで発生する磁場と、により前記磁性細線の前記導入領域に第1磁化方向の磁区を形成する双方向第1磁区形成処理と、前記第1導体配線に前記第2方向の電流を流すことで発生する磁場と、前記第2導体配線に前記第1方向の電流を流すことで発生する磁場と、により前記磁性細線の前記導入領域に第2磁化方向の磁区を形成する双方向第2磁区形成処理と、のうちの少なくとも一方を実行する構成を備えている。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、以下に示す優れた効果を奏するものである。
磁壁移動型デバイスによれば、磁性細線において第1導体配線と第2導体配線との間の導入領域に磁区を形成できる。したがって、第1導体配線と第2導体配線とを近接させて配置することで容易にサブミクロンオーダーの微小な磁区を形成することができる。
また、磁壁移動型デバイスは、磁性細線において一方の導体配線の直下に一方の磁壁を形成することができ、また、他方の導体配線の直下に他方の磁壁を形成することができる。したがって、記録装置およびデータ記録方法は、磁壁移動型デバイスに微小な磁区を形成しようとしたときに、各導体配線の直下に配置された磁壁の形状をそれぞれ乱れのない安定な形状にすることができる。
また、記録装置およびデータ記録方法は、磁壁移動型デバイスの第1導体配線および第2導体配線に異なる向きの電流を流すことができる。したがって、第1導体配線と第2導体配線との間で、第1導体配線から漏れる磁場と第2導体配線から漏れる磁場とが強め合うので、所定の磁化方向を書き込むために導体配線に流す電流の値を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(a)は、本発明の第1実施形態に係る磁壁移動型デバイスの模式図であって、(b)は、磁区が形成された磁性細線の模式図である。
【
図2】(a)-(b)、および(c)-(d)は、それぞれ磁壁移動型デバイスのデータ記録方法の模式的な説明図である。
【
図3】(a)-(b)、および(c)-(d)は、それぞれ磁壁移動型デバイスのデータ記録方法の別の例の説明図である。
【
図4】(a)は、比較例に係る磁壁移動型デバイスの模式図であり、(b)は、磁区が形成された磁性細線の模式図である。
【
図5】マイクロマグネティックスシミュレーションの計算結果を示す図であって、(a)は実施例1を示し、(b)は比較例1を示している。
【
図6】(a)は磁性細線中の磁壁の位置を示す模式図であって、(b)は磁性細線中の磁区の位置を示す模式図である。
【
図7】実施例2についてのマイクロマグネティックスシミュレーションの計算結果を示す図である。
【
図8】(a)-(e)は、磁壁移動型デバイスのデータ記録方法の模式的な説明図である。
【
図9】(a)は、本発明の第2実施形態に係る磁壁移動型デバイスの模式図であり、(b)は、磁区が形成された磁性細線の模式図である。
【
図10】磁壁移動型デバイスを適用した磁性細線メモリを示す模式図である。
【
図11】磁壁移動型デバイスを適用した空間光変調器を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態)
[磁壁移動型デバイスの構造]
まず、磁壁移動型デバイスの構造について
図1(a)および
図2(a)を参照して説明する。磁壁移動型デバイス1は、図示しない基板上に、磁性細線10と、第1導体配線21と、第2導体配線22と、を備えている。磁性細線10は、第1導体配線21および第2導体配線22の上(z方向の正の向き)に設けられている。第1導体配線21および第2導体配線22は、磁性細線10に直交するように配置された直線状の配線である。第1導体配線21および第2導体配線22は、通電によって発生する磁場により磁性細線10に磁区を形成する。
【0013】
図1(a)では、磁性細線10の長さ方向がx方向である。第1導体配線21および第2導体配線22の長さ方向がy方向である。また、磁性細線10、第1導体配線21、第2導体配線22の厚み方向がz方向である。なお、磁性細線10の幅方向がy方向であり、第1導体配線21および第2導体配線22の幅方向がx方向である。
【0014】
以下の説明では、y軸の正の方向(第1方向)へ流れる電流が電流Aであり、y軸の負の方向(第2方向)へ流れる電流が電流Bであるものとする。また、電流Aを流すことで導体配線の周囲に発生する磁場が磁場Aであり、電流Bを流すことで導体配線の周囲に発生する磁場が磁場Bであるものとする。
【0015】
磁性細線10は、磁性体を厚さおよび幅に対して十分に長い細線状に形成してなる。
磁性細線10としては、磁化方向が膜厚方向(z方向)に向き易い垂直磁化膜を採用することができる。垂直磁化膜は、垂直磁気異方性の磁気材料で形成される。このような材料としては、公知の強磁性材料を適用できる。具体的には、Co等の遷移金属とPd,Pt,Cuとを繰り返し積層したCo/Pd多層膜のような多層膜、またTb-Fe-Co,Gd-Fe等の希土類金属と遷移金属との合金(RE-TM合金)、Tb/Coなどの希土類多層膜が挙げられる。
【0016】
これらの材料はスパッタリング法等の公知の方法により成膜され、フォトリソグラフィと、エッチングまたはリフトオフとにより、細線形状に成形されて磁性細線10となる。本実施形態においては、磁性細線10は垂直磁気異方性材料であるので、異なる2つの磁化方向とは、上向きまたは下向きのいずれかを指す。以下では、磁性細線10に形成される下向きの磁化方向を例えば第1磁化方向とも呼び、上向きの磁化方向を例えば第2磁化方向とも呼ぶ。また、下向きの磁化方向を例えばデータ「0」に対応付け、上向きの磁化方向を例えばデータ「1」に対応付けるようにしてもよい。
【0017】
図2(a)に示すように、磁性細線10は、長さ方向に、データを導入する導入領域11と、導入領域11の端部14に隣接したデータ領域12と、を少なくとも備えている。
図2(a)に示す例では、磁性細線10の長さ方向がx方向である。この磁性細線10において図中左側の一部の領域が導入領域11として利用され、その右側の大部分の領域がデータ領域12として利用される。導入領域11とデータ領域12は、磁性細線10を形式的に区分するものであり、磁性細線10は物理的には連続的に形成されている。なお、導入領域11における図中左側の一端を端部13、図中右側の他端を端部14と呼ぶ。導入領域11は、データとして上向きまたは下向きの所望の磁化方向を書き込む領域である。データ領域12は、データを記録するための記録領域である。磁性細線10は、上向きまたは下向きの磁化方向の磁区を導入領域11に形成され、この磁区が細線の長さ方向に移動してデータ領域12に到達する。なお、磁性細線10は、両端に電極を接続するための領域を備えている。これらの電極は、Cu,Al,Au,Pt,Ag等の金属やその合金のような一般的な電極用金属材料からなる。
【0018】
第1導体配線21および第2導体配線22は、y方向に延設された直線状の配線である。
図2(a)および
図2(b)に示すように、第1導体配線21は、導入領域11の端部13で磁性細線10に直交するように配置される。また、第2導体配線22は、導入領域11の端部14で磁性細線10に直交するように配置される。ここでは、磁性細線10の左端が、導入領域11の端部13になっている。
【0019】
第1導体配線21および第2導体配線22の材料としては、一般的な電極材料を適用できる。具体的には、例えば、導電性のよいCu,Al,Au,Ag,Ta,Cr等の金属やその合金を挙げることができる。一例としては、各導体配線21,22の材料に、Cuを用いることが好適である。各導体配線21,22の形成方法としては、例えばスパッタリング法等の公知の方法により電極材料を成膜し、フォトリソグラフィ工程と、エッチングまたはリフトオフ法等の工程とを用いることができる。
【0020】
第1導体配線21および第2導体配線22の幅は、後記するシミュレーション結果から、40nm以下であることが好ましく、10nm以上40nm以下であることがより好ましい。また、第1導体配線21と第2導体配線22との間の距離は、後記するシミュレーション結果から、100nm以下であることが好ましく、10nm以上40nm以下であることがより好ましい。
【0021】
図1(a)に示す例では、磁壁移動型デバイス1は、磁性細線10と、第1導体配線21および第2導体配線22と、の間に絶縁層30を備えている。絶縁層30は、第1導体配線21および第2導体配線22と、磁性細線10とを絶縁するものである。絶縁層30は、第1導体配線21および第2導体配線22上に形成されている。絶縁層30の上には磁性細線10が形成されている。すなわち、z方向において、第1導体配線21と第2導体配線22とは、絶縁層30に対して同じ側に配置されている。絶縁層30を形成する絶縁体は、一般的な絶縁体材料で構成されている。このような材料として、例えばSiO
2やAl
2O
3等の酸化膜や、Si
3N
4やMgF
2等を挙げることができる。絶縁層30は、図示しない基板上で安定に支持されていればその形状は図示した平板状に限定されない。第1導体配線21と第2導体配線22の間に絶縁材料を充填したり、第1導体配線21および第2導体配線22の周囲に絶縁材料を敷き詰めたりすることが好ましい。
【0022】
[磁壁移動型デバイスのデータ記録方法]
次に、
図1(b)および
図2(b)を参照して、磁壁移動型デバイス1の磁性細線10の導入領域11へのデータの書き込み方法について説明する。
【0023】
磁性細線10へデータを書き込むには、記録したい2値情報(0または1)に対応させて上向きまたは下向きの十分な強度の磁界を第1導体配線21および第2導体配線22により発生させる。例えば第1導体配線21および第2導体配線22から下向きの磁界を発生させた場合、磁性細線10の導入領域11が下向きに磁化され、1ビット分の情報が磁区として書き込まれる。
【0024】
磁壁移動型デバイス1に所定の磁化方向のデータを記録するデータ記録方法は、例えば、双方向第1磁区形成工程を行う。この双方向第1磁区形成工程は、
図1(b)および
図2(b)に示すように、第1導体配線21に電流Aを流すことで発生する磁場Aと、第2導体配線22に電流Bを流すことで発生する磁場Bと、により磁性細線10に第1磁化方向(下向き)の磁区を形成する工程である。
【0025】
ここでは、磁性細線10に下向きの磁区を形成する前の初期状態では、
図2(a)に示すように、磁性細線10の全体に、例えば第2磁化方向(上向き)の磁区が形成されているものとする。
図2(b)において、一例として下向きの磁化はドットで示され、
図2(a)および
図2(b)において上向きの磁化は無地で示されている。
【0026】
磁性細線10の導入領域11の端部13は、
図2(c)および
図2(d)に示すように、例えば磁性細線10の左端ではなくてもよい。これらの形態では、導入領域11の端部13よりも外側(
図2において左側)に磁性細線10の左端部15が配置されている。なお、
図2(d)において、一例として下向きの磁化はドットで示され、
図2(c)および
図2(d)において上向きの磁化は無地で示されている。
【0027】
また、磁壁移動型デバイス1に所定の磁化方向のデータを記録するデータ記録方法は、前記双方向第1磁区形成工程の代わりに、双方向第2磁区形成工程を行うこととしてもよい。この双方向第2磁区形成工程は、第1導体配線21に電流Bを流すことで発生する磁場Bと、第2導体配線22に電流Aを流すことで発生する磁場Aと、により磁性細線10に第2磁化方向(上向きの磁化)の磁区を形成する工程である。
【0028】
ここでは、磁性細線10に上向きの磁区を形成する前の初期状態では、
図3(a)に示すように、磁性細線10の全体に、例えば第1磁化方向(下向き)の磁区が形成されているものとする。
図3(a)および
図3(b)において、一例として下向きの磁化はドットで示され、
図3(b)において上向きの磁化は無地で示されている。
【0029】
磁性細線10の導入領域11の端部13は、
図3(c)および
図3(d)に示すように、例えば磁性細線10の左端ではなくてもよい。
図3(c)および
図3(d)において、一例として下向きの磁化はドットで示され、
図3(d)において上向きの磁化は無地で示されている。
【0030】
[シミュレーション]
本実施形態の磁壁移動型デバイス1の性能を確認するため、磁性細線10への磁区形成過程のマイクロマグネティックシミュレーションを行った。このとき、下記の第1計算条件でLLG(Landau-Lifshitz-Gilbert)方程式を用いて計算したものを実施例1とする。
磁壁移動型デバイス1のデータ記録方法では、予め磁性細線10の全体に第2磁化方向(上向き)の磁区を形成しておいた。その上で、
図1(b)に示すように、第1導体配線21に電流Aを流すことで発生する磁場Aと、第2導体配線22に電流Bを流すことで発生する磁場Bと、により磁性細線10に第1磁化方向(下向き)の磁区を形成した。
【0031】
また、比較のため、第2導体配線22を備えていない磁壁移動型デバイスにおいて、磁区形成過程を同様の条件で計算したものを比較例1とした。比較例1に係る磁壁移動型デバイス2を
図4(a)に示す。この磁壁移動型デバイス2は、磁性細線10と、第1導体配線21と、絶縁層30と、を備える。磁壁移動型デバイス2のデータ記録方法では、予め磁性細線10の全体に第2磁化方向(上向き)の磁区を形成しておいた。その上で、
図4(b)に示すように、第1導体配線21に、例えば電流Aを流すことで発生する磁場Aにより磁性細線10に第1磁化方向(下向き)の磁区を形成した。
【0032】
[第1計算条件]
(磁性細線の構造)
長さ(x方向):1.6[μm]
幅 (y方向):60[nm]
膜厚(z方向):12[nm]
(磁性細線の磁気特性)
飽和磁化Ms:0.25[T]
異方性磁界Hk :8.5[kOe]
交換結合係数A:1.2×10-11[J/m]
(第1導体配線、第2導体配線の構造)
長さ(y方向):1.4[μm]
幅 (x方向):40[nm]
膜厚(z方向):40[nm]
配線間距離(x方向)S:100[nm]
各導体配線と磁性細線との間の距離(z方向)h:5[nm]
各導体配線への印加電流:0.5[A]
磁性細線の初期磁化方向:z軸の正の方向(上向き)
なお、1[Oe]=103/(4π)[A/m]である。
【0033】
図5(a)および
図5(b)は、電流を印加して1[ns]後に、z軸の正の方向から見た、磁性細線10の磁化状態をそれぞれ示している。
図5(a)は、第1導体配線21に対して、y軸の正の方向へ電流(電流A)を印加した場合における磁性細線10の磁化状態を示す(比較例1)。
図5(b)は、第1導体配線21に対して、y軸の正の方向へ電流(電流A)を印加し、かつ、第2導体配線22に対して、y軸の負の方向へ電流(電流B)を印加した場合における磁性細線10の磁化状態を示す(実施例1)。
【0034】
比較例1および実施例1において、磁性細線10には、第1導体配線21の側から、濃色の領域、中間色の細い領域、淡色の幅広い領域が、この順番に表示されている。ここで、濃色の領域は下向き磁区を示している。淡色の幅広い領域は上向き磁区を示している。中間色の細い領域は磁壁を示している。なお、磁性細線10上のメッシュサイズは4nmとした。
【0035】
図5(a)に示す比較例1では、電流磁界によって第1導体配線21から見てx軸における正の方向の側において、磁性細線10に下向き磁区(濃色の領域)が形成されることが分かる。ただし、第1導体配線21からの電流磁界が空間的な分布を持つため、第1導体配線21から離れた磁壁は揺らぎが大きいことが分かった。
【0036】
図5(b)に示す実施例1では、第1導体配線21および第2導体配線22のそれぞれに電流を逆方向に印加することで、磁性細線10において第1導体配線21および第2導体配線22に挟まれた領域(導入領域)において磁壁の乱れの小さい磁区が形成された。磁壁の乱れが小さくなった理由は、第1導体配線21および第2導体配線22から発生する同心円状の磁界によって、それぞれの磁壁が、第1導体配線21の直下および第2導体配線22の直下で安定化するためであると考えられる。
【0037】
図5(b)に示すx方向の配線間距離Sを小さくすれば、磁壁移動型デバイス1によって形成される磁区の長さをより短くすることが可能である。磁壁移動型デバイス1によって形成される磁区の長さについて
図6(a)および
図6(b)を参照して説明する。
図6(a)および
図6(b)において、濃色の領域は下向き磁区を示している。淡色の幅広い領域は上向き磁区を示している。中間色の細い領域は磁壁を示している。
【0038】
図6(a)に示すように、配線間距離Sは、第1導体配線21と第2導体配線22とに挟まれた部分の長さを表している。配線間距離Sは、微細化技術により、各配線の最小幅と同程度まで、すなわち10nm程度まで短縮することが可能である。
図6(b)に示すように、磁区の境界には、所定の厚みを有した磁壁が必要である。磁区の長さ(磁区長L)は、一方の磁壁の厚み中心から、他方の磁壁の厚み中心までの長さで定義される。つまり、磁区長Lは、配線間距離Sと、1つの磁壁の厚みとの和で示される。よって、磁区長Lの最小値は約15nmであると見積もることができる。
【0039】
配線間距離Sを実施例1よりも短くした場合のマイクロマグネティックシミュレーションを行った。このとき、下記の第2計算条件でLLG方程式を用いて計算したものを実施例2とする。
【0040】
[第2計算条件]
(磁性細線の構造)
長さ(x方向):1.6[μm]
幅 (y方向):60[nm]
膜厚(z方向):12[nm]
(磁性細線の磁気特性)
飽和磁化Ms:0.25[T]
異方性磁界Hk :8[kOe]
交換結合係数A:1.2×10-11[J/m]
(第1導体配線、第2導体配線の構造)
長さ(y方向):1.4[μm]
幅 (x方向):10[nm]
膜厚(z方向):10[nm]
配線間距離(x方向)S:10[nm]
各導体配線と磁性細線との間の距離(z方向)h:5[nm]
各導体配線への印加電流:0.01~0.03[A]
磁性細線の初期磁化方向:z軸の正の方向(上向き)
なお、1[Oe]=103/(4π)[A/m]である。
【0041】
実施例2においても、磁区形成前に、予め磁性細線10の全体に第2磁化方向(上向き)の磁区を形成しておき、
図1(b)に示す電流磁場で磁区を形成した。
図7は、第1導体配線21に対して、y軸の正の方向の電流(電流A)を印加し、かつ、第2導体配線22に対して、y軸の負の方向の電流(電流B)を印加して1[ns]後に、z軸の正の方向から見た、磁性細線10の磁化状態を示す(実施例2)。
図7に示すように、配線間距離Sを短くした場合にも、第1導体配線21および第2導体配線22間に下向き磁区(濃色の領域)が安定に形成できることが分かった。これにより、第1導体配線21および第2導体配線22の間の距離Sと電流量を調整することで、磁性細線10中に、乱れの小さい磁区を形成できると考えられる。
【0042】
次に、
図8を参照して、磁壁移動型デバイス1の磁性細線10のデータ領域12へのデータの記録方法について説明する。
図8(a)は、磁壁移動型デバイス1の磁性細線10の全体に、上向きの磁区を形成した上で(
図2(c)参照)、双方向第1磁区形成工程を行うことで磁性細線10の導入領域11に、下向きの磁区を形成した状態を示している(
図2(d)参照)。なお、
図8では、一例として下向きの磁区をドットで示し、上向きの磁区を無地で示している。
【0043】
磁壁移動型デバイス1のデータ記録方法は、例えば前記双方向第1磁区形成工程に続けて、磁壁駆動工程を行うこともできる。この磁壁駆動工程は、第1導体配線21および第2導体配線22への印加電流を止め、
図8(b)に示すように、磁性細線10に対して磁壁を駆動するための電流(電流C)を流す。詳細には、磁性細線10の長さ方向にパルス電流(電流C)を印加すると、負の電荷を持った電子e
-が
図8において右へ移動し、当該磁性細線10に形成されている磁壁を駆動する。この磁壁電流駆動現象により、導入領域11に形成されていた下向き磁区を1ビット分の長さだけ
図8において右方向へ高速に駆動(ビットシフト)させることができる。なお、
図8ではビットシフトの向きを直感的に理解し易いように電子e
-の移動方向を電流Cの向きとして図示しているが、パルス電流(電流C)は電子の移動方向とは逆向きに流す。また、磁壁駆動方向は、電子の移動方向に限定されるものではなく、磁性細線10の磁性膜を構成する材料によっては、電子の移動方向とは逆方向(電流方向)に磁壁が駆動する場合がある。
【0044】
上記1回の磁壁駆動工程によって、磁性細線10のデータ領域12には、下向き磁区が記録される。また、これにより、磁性細線10の導入領域11には、次のデータを記録できるスペースが生じる。そして、
図8(b)に示す磁性細線10の磁化状態から、続けて、上向き磁区を記録したい場合、
図8(c)に示すように、再度、磁性細線10の長さ方向にパルス電流(電流C)を印加する。これにより、導入領域11に形成されていた上向き磁区を1ビット分の長さだけビットシフトさせることができる。上記2回の磁壁駆動工程によって、磁性細線10のデータ領域12には、右から順に、下向き磁区および上向き磁区が記録される。なお、磁性細線10の導入領域11には、次のデータを記録できるスペースが生じる。
【0045】
次に、
図8(c)に示す磁性細線10の磁化状態に続いて、下向き磁区を記録したい場合、
図8(d)に示すように、双方向第1磁区形成工程を再び行う。これにより、磁性細線10の導入領域11に、下向きの磁区を形成することができる。
【0046】
次に、
図8(d)に示す磁性細線10の磁化状態から、続けて、下向き磁区を記録したい場合、磁壁移動型デバイス1のデータ記録方法は、双方向第1磁区形成工程に続けて、例えば
図8(e)に示す一方向第1磁区形成工程を行うこともできる。この一方向第1磁区形成工程は、磁性細線10に流す電流Cに連動させて、第2導体配線22に電流を流さずに第1導体配線21に電流Aを流すことで発生する磁場Aにより磁性細線10の導入領域11に第1磁化方向(下向きの磁化)の磁区を形成する工程である。
【0047】
この一方向第1磁区形成工程によれば、パルス電流(電流C)を印加することで下向き磁区を1ビット分の長さだけビットシフトさせると共に、導入領域11に生じた記録スペースには電流磁場(磁場A)により、下向き磁区を形成することができる。上記2回の磁壁駆動工程および一方向第1磁区形成工程によって、磁性細線10のデータ領域12には、右から順に、下向き磁区、上向き磁区、および下向き磁区が記録される。以後は同様に磁区形成およびビットシフトを繰り返すことによって、磁性細線10の長さ方向にシーケンシャルな磁区列のデータを蓄積することができる。磁性細線10のデータ領域12は、順次情報をデータ領域12中にそのままの順番で蓄積することが可能なFirst-in-first-out型のメモリ構成である。
【0048】
なお、前記磁壁駆動工程等の説明では、一例として、
図8(a)を参照して磁性細線10は初期状態で上向きの磁区が形成されているものとして説明したが、これに限らない。例えば、磁壁移動型デバイス1の磁性細線10の全体に、下向きの磁区を形成した上で(
図3(c)参照)、双方向第2磁区形成工程を行うことで磁性細線10の導入領域11に、上向きの磁区を形成した状態(
図3(d)参照)からでも、前記磁壁駆動工程等を行うことができる。すなわち、双方向第2磁区形成工程に続けて磁壁駆動工程を行うこともできる。
【0049】
双方向第2磁区形成工程を行う場合、磁壁移動型デバイス1のデータ記録方法は、前記一方向第1磁区形成工程の代わりに、一方向第2磁区形成工程を行うことができる。この一方向第2磁区形成工程は、磁性細線10に流す電流Cに連動させて、第2導体配線22に電流を流さずに第1導体配線21に電流Bを流すことで発生する磁場Bにより磁性細線10の導入領域11に第2磁化方向(上向きの磁化)の磁区を形成する工程である。
【0050】
また、磁壁移動型デバイス1のデータ記録方法は、例えば磁性細線10の導入領域11へのデータ書き込みに関して、双方向第1磁区形成工程と双方向第2磁区形成工程の両方を行うこととしてもよい。この場合、初期状態において、磁性細線10は磁化されていなくてもよいし、あるいは、磁性細線10において、部分的に上向きの磁化と下向きの磁化とがランダムに配置された状態(ランダム磁化)であっても構わない。
【0051】
(第2実施形態)
図9(a)に示す磁壁移動型デバイス1Bは、図示しない基板上に、複数の磁性細線10と、第1導体配線21と、第2導体配線22と、絶縁層30と、を備える。磁壁移動型デバイス1Bは、複数の磁性細線10を備えている点が
図1(a)に示す磁壁移動型デバイス1と相違している。磁壁移動型デバイス1Bにおいて、磁壁移動型デバイス1と同じ構成には、同じ符号を付して説明を省略する。
図9(a)には、3個の磁性細線10を図示しているが、個数は特に限定されない。y方向に隣り合う磁性細線10は、微小距離だけ離間して配設されている。隣り合う磁性細線10の間には絶縁層を設けてもよい。
【0052】
磁壁移動型デバイス1Bのデータ記録方法は、一度に複数の磁性細線10に対して所定の磁化方向の磁区を形成できる点を除いて、磁壁移動型デバイス1のデータ記録方法と同様である。例えば、磁壁移動型デバイス1Bのデータ記録方法は、
図9(b)に示すように、第1導体配線21に電流Aを流すことで発生する磁場Aと、第2導体配線22に電流Bを流すことで発生する磁場Bと、により、一度に複数の磁性細線10に対して第1磁化方向(下向き)の磁区を形成する工程(双方向第1磁区形成工程)を行う。
【0053】
また、磁壁移動型デバイス1Bのデータ記録方法は、例えば、双方向第1磁区形成工程の代わりに、第1導体配線21に電流Bを流すことで発生する磁場Bと、第2導体配線22に電流Aを流すことで発生する磁場Aと、により、一度に複数の磁性細線10に対して第2磁化方向(上向き)の磁区を形成する工程(双方向第2磁区形成工程)を行うこととしてもよい。さらに、磁壁移動型デバイス1Bのデータ記録方法は、双方向第1磁区形成工程と双方向第2磁区形成工程の両方を行うこととしてもよい。
【0054】
また、磁壁移動型デバイス1Bのデータ記録方法は、双方向第1磁区形成工程または双方向第2磁区形成工程に続けて、前記した磁壁駆動工程を行うことができる。磁壁駆動工程は、磁性細線10ごとに行うことができる。
また、磁壁移動型デバイス1Bのデータ記録方法は、双方向第1磁区形成工程に続けて、前記した一方向第1磁区形成工程を行うこととしてもよい。
また、磁壁移動型デバイス1Bのデータ記録方法は、双方向第2磁区形成工程に続けて、前記した一方向第2磁区形成工程を行うこととしてもよい。
第2実施形態では、一方向第1磁区形成工程または一方向第2磁区形成工程は、一度に複数の磁性細線10に対して所定の磁化方向の磁区を形成する工程である。
【0055】
前記実施形態に係る磁壁移動型デバイス1,1Bは、磁性細線10と、第1導体配線21および第2導体配線22と、の間に絶縁層30を備える形態で説明したが、本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。例えば、平板状の絶縁層30を有する代わりに、第1導体配線21および第2導体配線22に絶縁被膜を設けることもできる。
【0056】
[磁壁移動型デバイスの適用例]
(磁性細線メモリ)
磁壁移動型デバイス1,1Bは、例えば磁性細線メモリに適用することができる。
図10に示す記録再生装置100は、図示しない基板上に設けられた磁性細線メモリ110と、パルス電流源120と、を備え、磁性細線メモリ110への情報の記録処理や磁性細線メモリ110から情報を読み出す再生処理を行う。磁性細線メモリ110は、データの記録トラックとしての複数の磁性細線10と、第1導体配線21および第2導体配線22と、再生用の磁気ヘッド(再生ヘッド)40と、を備えている。ここで、複数の磁性細線10と、第1導体配線21および第2導体配線22と、によって磁壁移動型デバイス1Bが構成されている。なお、
図10では、絶縁層30を省略している。
【0057】
磁性細線メモリ110は、不図示の基板上に複数の磁性細線10を備えている。ここで、磁性細線10は、予め例えば上向きに磁化しておく。また、隣接する磁性細線10は、互いに不図示の絶縁層を挟み、微小距離だけ離間して配設されている。各磁性細線10は、第2導体配線22から、第1導体配線21とは反対側に所定距離だけ離れた所定位置に再生ヘッド40を有している。再生ヘッド40は、直下の磁区から生じた漏えい磁束の方向を検出し、磁化の向きに対応した信号を出力する。
【0058】
各磁性細線10は、パルス電流源120に接続されている。各磁性細線10には、
図10において右から左にパルス電流が流される。パルス電流を流す方向とは逆向き(
図10において左から右)に電子が移動する。電子の移動方向と磁区Dの移動方向とは同じ向き(
図10において左から右)である。これにより、磁区Dを再生ヘッド40に対向する位置に高速でシフト移動させて読出しを行うように構成されている。なお、磁性細線10の磁性膜を構成する材料によっては、電子の移動方向とは逆方向(電流方向)に磁壁が駆動する場合がある。
【0059】
また、
図10に示すように、記録再生装置100は、記録系制御部130と、再生系制御部140と、を備える。記録系制御部130は、入力された情報信号を分割し、分割された単位情報を各磁性細線10に記録するために、第1導体配線21および第2導体配線22に電流を供給すると共に、パルス電流源120から各磁性細線10へのパルス電流の供給タイミングを制御する。再生系制御部140は、各再生ヘッド40で得られた情報信号を合成して信号を復元し、外部に出力する。
【0060】
記録再生装置100が、磁性細線メモリ110へデータを記録する手順は、
図8を参照して説明した記録手順と同様なので、ここでは説明を省略する。
なお、記録再生装置100は、再生系制御部140を除く構成の記録装置101を備えている。すなわち、記録装置101は、磁性細線メモリ110と、パルス電流源120と、記録系制御部130と、を備え、磁性細線メモリ110への情報の記録処理を行うことができる。
【0061】
記録再生装置100が、磁性細線メモリ110に記録されている情報を再生するには、磁性細線10に連続的にパルス電流を印加して、記録された磁区列を再生ヘッド40の直下まで移動させる。これにより、再生ヘッド40は直下の磁区から生じた漏えい磁束の方向を検出し、磁化の向きに対応した信号を出力する。以後は、同様にビットシフト(磁壁駆動)および再生ヘッド40による磁区の検出を繰り返すことにより、元の2値情報を再生する。このような磁性細線10を複数用意し、それらを同期させて駆動することで、磁性細線メモリ110は高速記録を実現する。
【0062】
(空間光変調器)
磁壁移動型デバイス1,1Bは、例えば空間光変調器に適用することができる。
図11は、磁壁移動型デバイス1を用いた空間光変調器200の構成を示す説明図である。この空間光変調器200は、不図示の基板上に第1導体配線21および第2導体配線22と、絶縁層30と、磁性細線10と、偏光フィルタ201,202と、を備えている。なお、磁性細線10と、第1導体配線21および第2導体配線22と、絶縁層30と、によって磁壁移動型デバイス1が構成されている。
【0063】
空間光変調器200では、磁性細線10にデータを記録するために、
図10に示す記録装置101と同様の構成の記録装置を用いることができる。不図示の記録装置は、磁壁移動型デバイス1と、パルス電流源120と、記録系制御部130(
図10参照)と、を備えている。
磁性細線10は、パルス電流源120に接続されている。磁性細線10には、
図11において右から左にパルス電流が流される。パルス電流を流す方向とは逆向き(
図11において左から右)に電子が移動することで、磁壁が電子の移動方向に駆動する。なお、磁性細線10の磁性膜を構成する材料によっては、電子の移動方向とは逆方向(電流方向)に磁壁が駆動する場合がある。
記録系制御部130は、空間光変調器200で所定の明暗像を表示するためのデータを磁性細線10に記録する処理を行う。なお、磁性細線10へデータを記録する手順は、
図8を参照して説明した記録手順と同様なので、ここでは説明を省略する。
【0064】
一例として
図11に示すように磁性細線10に、長さ方向の右から順に、「下向き、下向き、下向き、上向き、上向き」のデータがそれぞれ記録されているものとする。この場合の空間光変調器200の動作は次の通りである。例えばレーザー光源等の光源300から空間光変調器200に照射された光は、様々な偏光成分を含んでいるが偏光フィルタ201を透過して1つの偏光成分の光301となり、磁性細線10に入射する。磁性細線10で反射した光のうち、特定の偏光302は、偏光フィルタ202で遮光される。また、磁性細線10で反射した光のうち他の光303は、偏光フィルタ202を透過する。
【0065】
詳細には、磁性細線10に入射した光301は、磁性細線10で反射したときに、その偏光の向きが、磁気光学効果により回転する(旋光する)。
図11においては、磁性細線10の上向きの磁化方向を示す領域で反射した光303は、入射光301に比べて+θ
Kだけ旋光する。また、磁性細線10の下向きの磁化方向を示す領域で反射した光302は、入射光301と比べて-θ
Kだけ旋光する。したがって、空間光変調器200は、明暗像を表示することができる。
【符号の説明】
【0066】
1、1B 磁壁移動型デバイス
10 磁性細線
11 導入領域
12 データ領域
13,14 導入領域における端部
15 左端部
21 第1導体配線
22 第2導体配線
30 絶縁層
40 再生用の磁気ヘッド(再生ヘッド)
100 記録再生装置
101 記録装置
110 磁性細線メモリ
120 パルス電流源
130 記録系制御部
140 再生系制御部
200 空間光変調器
201 偏光フィルタ
202 偏光フィルタ
300 光源
301 入射光
302 偏光
303 反射光