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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】光画像計測装置、光画像計測方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 21/00 20060101AFI20221110BHJP
   G01N 21/17 20060101ALI20221110BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20221110BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
G02B21/00
G01N21/17 A
C12M1/00 A
C12M1/34 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018221945
(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公開番号】P2020086204
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大澤 賢太郎
【審査官】殿岡 雅仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-095012(JP,A)
【文献】特開2012-014066(JP,A)
【文献】特開2016-044999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 21/00 - 21/36
C12M 1/00 - 3/10
G01N 21/00 - 21/61
G01B 9/00 - 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の画像を取得する光画像計測装置であって、
光を出射する光源、
前記対象物に対して前記光を集光して光スポットを生成する集光光学系、
前記光スポットを前記対象物の分割された第1および第2測定領域において走査する走査部、
前記対象物から反射した反射光または前記対象物を透過した透過光を検出する検出部、 前記検出部が検出した光強度に基づき前記対象物の画像を生成する画像生成部、
を備え、
前記走査部は、前記対象物の前記第1測定領域において前記光スポットを繰り返し走査した後、前記第2測定領域において前記光スポットを繰り返し走査し、
前記画像生成部は、前記第1測定領域を繰り返し走査することで前記検出部が検出した光強度の時系列データを用いて前記第1測定領域における前記対象物の時間的変動を反映した前記画像を生成し、
前記画像生成部は、前記第2測定領域を繰り返し走査することで前記検出部が検出した光強度の時系列データを用いて前記第2測定領域における前記対象物の時間的変動を反映した前記画像を生成し、
前記画像生成部は、前記第1測定領域における前記対象物の時間的変動を反映した前記画像と、前記第2測定領域における前記対象物の時間的変動を反映した前記画像とを合成することにより、前記第1測定領域と前記第2測定領域それぞれにおける前記対象物の時間的変動を反映した単一の前記画像を生成し、
前記対象物は生体の細胞であり、
前記画像生成部は、前記細胞の活性度を表す指標として、前記対象物の時間的変動を反映した前記画像を出力する
ことを特徴とする光画像計測装置。
【請求項2】
前記対象物は3つ以上の測定領域に分割されていることを特徴とする請求項1記載の光画像計測装置。
【請求項3】
前記走査部は、前記対象物の前記第1測定領域において前記光スポットを繰り返し走査した直後、連続的に前記第2測定領域において前記光スポットを繰り返し走査する
ことを特徴とする請求項1記載の光画像計測装置。
【請求項4】
前記画像生成部は、前記画像のピクセル位置に対応する走査位置ごとに、前記繰り返し走査の過程において得られた光強度の時系列データを取得し、
前記画像生成部は、前記画像のピクセル位置ごとに、前記時系列データを用いて時系列ピクセル値を生成し、
前記画像生成部は、前記画像のピクセル位置ごとに、前記時系列ピクセル値を平均化した平均化ピクセル値を生成し、
前記画像生成部は、前記画像のピクセル位置ごとに、前記時系列ピクセル値と前記平均化ピクセル値を用いて算出した標準偏差画像を生成することにより、前記標準偏差画像において前記対象物の時間的変動を反映する
ことを特徴とする請求項1記載の光画像計測装置。
【請求項5】
前記画像生成部は、前記画像のピクセル位置に対応する走査位置ごとに、前記繰り返し走査の過程において得られた光強度の時系列データを取得し、
前記画像生成部は、前記画像のピクセル位置ごとに、前記時系列データを用いて時系列ピクセル値を生成し、
前記画像生成部は、前記画像のピクセル位置ごとに、前記時系列ピクセル値を用いて算出した平均二乗変位画像を生成することにより、前記平均二乗変位画像において前記対象物の時間的変動を反映する
ことを特徴とする請求項1記載の光画像計測装置。
【請求項6】
前記画像生成部は、前記画像のピクセル位置に対応する走査位置ごとに、前記繰り返し走査の過程において得られた光強度の時系列データを取得し、
前記画像生成部は、前記画像のピクセル位置ごとに、前記時系列データを用いて時系列ピクセル値を生成し、
前記画像生成部は、前記画像のピクセル位置ごとに、前記時系列ピクセル値を周波数成分ごとに分離した周波数成分画像を生成することにより、前記周波数成分画像において前記対象物の時間的変動を反映する
ことを特徴とする請求項1記載の光画像計測装置。
【請求項7】
前記集光光学系は、前記対象物に対して前記光を集束する対物レンズを備え、
前記走査部は、前記対物レンズの位置を駆動することにより前記光スポットの位置を走査するアクチュエータを備える
ことを特徴とする請求項1記載の光画像計測装置。
【請求項8】
前記走査部は、前記光を反射する反射面の角度を変更することにより前記光スポットの位置を走査するミラーを備える
ことを特徴とする請求項1記載の光画像計測装置。
【請求項9】
前記光源はレーザ光源であり、
前記光画像計測装置はさらに、
前記光源から出射されたレーザ光を、前記対象物に対して照射する信号光と照射しない参照光とに分岐する光分岐部、
前記対象物から反射した反射光または前記対象物を透過した透過光を前記参照光と合波することにより、互いに位相関係が異なる3つ以上の干渉光を生成する干渉光学系、
を備える
ことを特徴とする請求項1記載の光画像計測装置。
【請求項10】
前記走査部は、前記細胞の細胞内小器官の運動速度よりも速く、前記光スポットを走査する
ことを特徴とする請求項1記載の光画像計測装置。
【請求項11】
対象物の画像を取得する光画像計測方法であって、
前記対象物の複数に分割された測定領域それぞれに対してレーザ光から出射した光を集光して生成された光スポットを走査するステップ、
前記対象物から反射した反射光または前記対象物を透過した透過光を検出するステップ、
前記ステップにおいて検出した光強度に基づき前記対象物の画像を生成する画像生成ステップ、
を有し、
前記光スポットを走査するステップにおいては、前記対象物の前記複数に分割された所定の測定領域において前記光スポットを繰り返し走査した後、前記所定の測定領域とは異なる別の測定領域において前記光スポットを繰り返し走査し、
前記画像生成ステップにおいては、それぞれの前記分割された測定領域を繰り返し走査することで検出した光強度の時系列データを用いて前記分割された測定領域それぞれにおける前記対象物の時間的変動を反映した前記画像を生成し、
前記画像生成ステップにおいては、それぞれの前記分割された測定領域における前記対象物の時間的変動を反映した前記画像を合成することにより、それぞれの前記分割された測定領域における前記対象物の時間的変動を反映した単一の前記画像を生成し、
前記対象物は生体の細胞であり、
前記画像生成ステップにおいては、前記細胞の活性度を表す指標として、前記対象物の時間的変動を反映した前記画像を出力する
ことを特徴とする光画像計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光を用いて対象物の画像を取得する光画像計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞から作製した組織を損傷部位に移植することにより、損傷した組織や器官の再生や機能回復を実現する再生医療が近年注目されている。iPS細胞(induced Pluripotent Stem cell)の発明にともない、本分野の研究はより活性化しているが、産業化に向けてはまだ様々な課題がある。その課題の1つとして、安全性および有効性を確認するための細胞の非侵襲的な品質検査方法を確立することがある。細胞は同一の培養条件であっても個体ごとに品質がばらつくことがあるので、移植する細胞を検査するためには、抜き取りによる破壊検査ではなく、患者に移植する組織そのものを非侵襲的に検査することが望ましい。非侵襲的評価方法は、移植直前だけでなく培養過程をモニタリングすることができるという利点がある。
【0003】
現在、非侵襲的な評価方法として位相差顕微鏡による目視評価が実施されているが、定量性の低さや検査者によるバラつきが問題となる。検査者によらない方法として、例えば位相差顕微鏡画像から画像解析によって細胞の形状情報を抽出し、クラスタ分析等によりiPS細胞の正常度を評価する方法が検討されている。下記特許文献1は、所定の時間間隔で取得された一連の位相差顕微鏡画像から、画像処理によって細胞の活性度を評価する方法について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-022318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように細胞形状に基づいた評価方法を用いる場合、(a)細胞形状を定量化すること自体が困難であること、(b)状態の違いが必ずしも形状に反映されるとは限らないこと、(c)状態が同じであっても形状が異なる場合もあること、などを考慮すると、細胞品質の定量評価は困難と考えられる。また特許文献1記載の方法は、msオーダの時間スケールで生じている細胞内小器官の運動を捉えることができないので、細胞活性度を精度よく測定することができない可能性がある。さらにいずれの方法も、位相差顕微鏡画像に基づいて評価するので、細胞シートやスフェロイドのような3次元再生組織の内部を評価することは困難である。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、サンプルの品質を定量的かつ高精度に評価することができる光画像計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る光画像計測装置は、対象物の第1測定領域において光スポットを繰り返し走査した後、前記対象物の前記第1測定領域とは異なる第2測定領域において前記光スポットを繰り返し走査することにより、前記第1測定領域と前記第2測定領域それぞれにおける前記対象物の時間的変動を反映した観察画像を生成する。これにより、従来の顕微鏡よりも高い時間分解能で対象物を観察することが可能となり、対象物の時間的変動をより高い精度で定量的に評価することができる。
【0008】
1例として、前記対象物上に複数の走査領域をセットするとともに、各前記走査領域を前記測定領域として、前記光スポットを前記測定領域ごとに繰り返し走査することとした。これにより、時間分解能と測定時間を必要に応じて適切に調整することができる。
【0009】
1例として、対象物の標準偏差画像、平均二乗変位画像、または周波数成分画像を生成することとした。これにより、対象物の時間的変動に関する多様な情報を取得することができる。
【0010】
1例として、走査光学系として対物レンズを駆動するアクチュエータを用いることとした。これにより、安価で小型な構成で従来の顕微鏡よりも高い時間分解能を達成することができる。
【0011】
1例として、走査光学系として反射面の角度を駆動可能なミラーを用いることとした。これにより、機械的に安定した構成で光スポットの走査が可能となる。
【0012】
1例として、レーザ光源から出射されたレーザ光を信号光と参照光に分岐し、対象物からの反射光または透過光を前記参照光と合波することにより、互いに位相関係が異なる3つ以上の干渉光を生成することとした。このような構成とすることにより、深さ方向に高い空間分解能を実現することができるので、3次元組織の内部を評価することが可能となる。
【0013】
1例として、対象物の同じ測定領域において光スポットを100Hz以上の走査速度で繰り返し走査し、前記同じ測定領域における前記対象物の時間的変動を反映した前記画像を生成することとした。これにより、従来の顕微鏡よりも時間分解能が向上するので、対象物の時間的変動をより高い精度で定量的に評価することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る光画像計測装置によれば、サンプルの品質を高精度かつ非侵襲的に測定することができる。上記した以外の課題、構成、および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態1に係る光画像計測装置100の構成を示す模式図である。
図2】光スポットを走査する方法の違いを説明する図である。
図3】観察画像が形成される過程を走査方法ごとに示す図である。
図4】細胞の通常画像と周波数成分画像の模式図である。
図5】実施形態2に係る光画像計測装置100の構成を示す模式図である。
図6】実施形態3に係る光画像計測装置100の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<実施の形態1:装置構成>
図1は、本発明の実施形態1に係る光画像計測装置100の構成を示す模式図である。光源101から直線偏光状態で出射されたレーザ光は、コリメートレンズ102によって平行光に変換される。λ/2板103は、結晶軸方向を調整可能であり、平行光の偏光状態を調整する。偏光ビームスプリッタ104は、入射した平行光を信号光(透過成分)と参照光(反射成分)とに分岐する。信号光と参照光の分岐比は、λ/2板103により自由に調整することができ、典型的な強度比は1対1である。
【0017】
偏光ビームスプリッタ104を透過した信号光は、ガルバノミラー105と106からなるスキャンユニット107に入射する。スキャンユニット107は、ユーザが入力部133に入力した内容に基づいて制御部134によって制御され、これにより信号光の角度が変化する。スキャンユニット107を通過した信号光は、走査レンズ108とチューブレンズ109からなるビームエキスパンダ110によってビーム径を拡大された後、信号光ミラー111によって反射され、光学軸方向が水平方向に対して約22.5度に設定されたλ/4板112に導かれる。λ/4板112は、信号光の偏光状態をp偏光から円偏光に変換する。対物レンズ113は、信号光をサンプル容器114内の細胞115に対して集光して照射する。信号光の光スポットの位置は、スキャンユニット107によって光軸に垂直な平面内で走査される。
【0018】
細胞115から反射した信号光は、対物レンズ113を再び通過し、λ/4板112よって偏光状態を円偏光からs偏光に変換され、往路と同一の光路をたどって偏光ビームスプリッタ104へ入射する。
【0019】
λ/4板116は、光学軸方向が水平方向に対して約22.5度に設定されている。λ/4板116は、参照光の偏光状態をs偏光から円偏光に変換する。参照光レンズ117は、参照光を参照光ミラー118上に集光して照射する。参照光ミラー118を反射した参照光は、再び参照光レンズ117を通過し、λ/4板116によって偏光状態を円偏光からp偏光に変換された後、偏光ビームスプリッタ104に入射する。
【0020】
信号光と参照光は、偏光ビームスプリッタ104によって偏光が直交した状態で合波され、合成光が生成される。合成光は、干渉光学系126へ導かれる。干渉光学系126は、ハーフビームスプリッタ119、λ/2板120、λ/4板123、集光レンズ121と124、ウォラストンプリズム122と125、を備える。干渉光学系126へ入射した合成光は、ハーフビームスプリッタ119によって透過光と反射光に2分岐される。
【0021】
ハーフビームスプリッタ119を透過した合成光は、光学軸が水平方向に対して約22.5度に設定されたλ/2板120を透過した後、集光レンズ121によって集光され、ウォラストンプリズム122によって偏光分離される。これにより、互いに位相関係が180度異なる第1干渉光と第2干渉光が生成される。第1干渉光と第2干渉光は、電流差動型の光検出器127によって検出される。光検出器127は、それらの強度差に比例した差動出力信号129を出力する。
【0022】
ハーフビームスプリッタ119を反射した合成光は、光学軸が水平方向に対して約45度に設定されたλ/4板123を透過した後、集光レンズ124によって集光され、ウォラストンプリズム125によって偏光分離される。これにより、互いに位相関係が約180度異なる第3干渉光と第4干渉光が生成される。第3干渉光は、第1干渉光に対して位相が約90度異なる。第3干渉光と第4干渉光は、電流差動型の光検出器128によって検出される。光検出器128は、それらの強度差に比例した差動出力信号130を出力する。
【0023】
画像生成部131は差動出力信号129と130を受け取り、これらの信号に基づき細胞115の観察画像を生成する。表示部132は、その観察画像を表示する。
【0024】
<実施の形態1:細胞活性度の評価方法>
以下では細胞活性度の評価について説明する。細胞内では様々な生体分子を輸送するために細胞質が流れるように運動していることが知られており(原形質流動)、この運動を反映して、細胞に対して照射された光の反射光強度がわずかに時間的に変化することが予想される。すなわち、反射光の時間変動の大きさと細胞内の運動の大きさ(細胞活性度)との間には相関があると考えられる。そこで本発明では、反射光の時間変化に基づき細胞活性度を表す画像を生成することとした。
【0025】
図2は、光スポットを走査する方法の違いを説明する図である。細胞活性度の計測精度は、制御部134が光スポットを走査する方法により異なる。以下では従来の走査方法と比較しながら、本発明における光スポットの走査方法について説明する。
【0026】
図2(a)は、従来の走査型顕微鏡において用いられる走査方法(以下では走査方法1と称する)を示す。走査方法1においては、光スポットを繰り返し走査方向(x方向)にライン走査しながらy方向に一定速度で変位させることにより、測定領域内の各点に光スポットをほぼ1回ずつ通過させる。
【0027】
図2(b)は、本発明における走査方法(以下では走査方法2と称する)を示す。走査方法2は、後述するように走査方法1よりも高い時間分解能を得るためのものである。走査方法2においては、対象物を複数の測定領域に分割し、同じ測定領域において光スポットを繰り返し走査する。したがって光スポットは、各測定領域内の各点を複数回通過することになる。
【0028】
図3は、観察画像が形成される過程を走査方法ごとに示す図である。図3(a)は走査方法1によって観察画像が形成される過程を示し、図3(b)は走査方法2によって観察画像が形成される過程を示す。
【0029】
走査方法1によって取得した画像に基づき、細胞の活性度を評価する場合について考える。ガルバノミラー105と106による光スポットの走査方向をそれぞれx方向とy方向、ガルバノミラー105の駆動周波数を500Hz、画像のピクセル数を100×100ピクセルとする。画像を1枚取得するためにはx方向に少なくとも100ライン分だけ光スポットを走査する必要がある。したがってこの場合の最短の画像取得時間(時間分解能)は約100msである(1往復の走査で2ライン分取得することを前提とする)。
【0030】
走査方法1によって例えば100枚の画像を取得する場合、図3(a)に示すように100msごとに1枚の画像が得られ、合計の測定時間は約10sである。これら100枚の画像から、測定領域の各点における信号のゆらぎの大きさに比例した輝度を持つ画像を生成する。この画像は細胞の活性度を反映していると考えられ、細胞の定量的は評価指標となり得る。しかしながら、細胞内小器官や生体分子の運動の時間スケールは数msのオーダであることが知られており、時間分解能100msでは正確に細胞の活性度を評価することが困難である。
【0031】
走査方法2を用いて、走査方法1と同じ条件下で、領域の分割数を100とした場合(小領域が1ライン分に相当する場合)について考える。1ラインを100回繰り返しライン走査すると、1ライン分の測定時間は100msである。連続的に100ライン分の走査を実施することにより画像1枚に相当するデータが得られ、合計の測定時間は10sである(図3(b))。
【0032】
走査方法2の場合、測定領域内のある1点に着目すると、その点からの反射光は1ms以下の時間間隔で検出されている。すなわち、走査方法2を用いる場合の時間分解能は1msとなり、走査方法1を用いる場合よりも100倍高い。これにより、数msオーダの細胞内の運動に由来する信号変動を捉えることができる。すなわち、細胞の数msオーダの時間変動を反射光の時間変動として捕捉し、観察画像上にその時間変動を反映することができる。これにより高精度に細胞品質を評価することができる。上記例で分割数を例えば50とした場合には、小領域は2ライン分に相当し、時間分解能は2ms、合計の測定時間は5sとなる。
【0033】
さらに本発明においては、入力部133によって走査方法1と走査方法2をユーザが切り替え可能とした。ユーザは、高フレームレートで画像を視認したい場合やそれほど高い時間分解能を要求しない場合などは走査方法1を用い、高い時間分解能を要求する場合は走査方法2を選択する。領域の分割数も入力部133を介してユーザが任意に選択することができる。
【0034】
走査方法2は、本実施形態1の装置構成に限らず走査型共焦点顕微鏡やOCT(Optical Coherence Tomography)などのあらゆる走査型のイメージング装置に対して適用できる。一方、CCD(Charge Coupled Device)等のイメージセンサにサンプルの像を結像される結像型のイメージング装置においては、時間分解能はイメージセンサの性能によって制限されており、典型的には数十ms程度である。
【0035】
細胞活性度を表す指標としては様々なものが考えられるが、代表的なものとして標準偏差、平均二乗変位、周波数成分などが挙げられる。標準偏差画像は以下の式から求められる。α(n,m)、μ(n,m)、SD(n,m)はそれぞれk番目に取得された画像、平均化画像、標準偏差画像のピクセル座標(n,m)における輝度、Nは取得した画像の枚数である。標準偏差画像は信号の揺らぎの積算値であり、あらゆる周波数成分を含んだ活性度を表す。
【0036】
【数1】
【0037】
【数2】
【0038】
平均二乗変位MSD(n,m)は以下の式から求められる。lはN以下の任意の自然数であり、注目する運動の時間スケールに応じて選択されるものである。lが小さいほど、早い周波数性成分に着目することになる。
【0039】
【数3】
【0040】
周波数成分画像FFT(n,m)は、下記式にしたがって各ピクセルをフーリエ変換することにより求められる。周波数成分画像は複素数成分を有するので、表示部132は実部と虚部を別々に表示するか、または絶対値を表示する。
【0041】
【数4】
【0042】
図4は、細胞の通常画像と周波数成分画像の模式図である。通常画像においては反射率が高い部分が輝度の高い画像となるのに対して、周波数成分画像においては信号が変動する部分の輝度が高くなるので、これらは互いに異なるコントラストを持つ画像となる。また、細胞の部位によって細胞内の運動の周波数が異なることも考えられ、周波数成分ごとにもコントラストは変わると思われる。さらに、図4に示すように細胞状態によって周波数画像は異なると考えられるので、これらの画像に基づいて細胞状態の定量評価が実現できる可能性がある。
【0043】
<実施の形態1:空間分解能および信号強度の説明>
本実施形態1に係る光画像計測装置100の光軸方向(z方向)の空間分解能および信号強度について説明する。本実施形態1の光画像計測装置100において、信号光に含まれる対物レンズ113の焦点以外からの反射光成分はデフォーカス収差を有しており、参照光と波面形状が一致しないので、参照光と空間的に一様に干渉せず、検出器の受光面上で干渉縞が多数形成される。このような干渉縞が形成されると、検出される干渉光の強度を受光部面内で積分した値は、単に信号光と参照光の強度和とほぼ等しくなるので、対物レンズ113の焦点以外からの反射光成分に対応する差動出力信号129と130の強度は小さくなる。このような原理により、対物レンズ113の焦点以外からの反射光成分は実効的に参照光と干渉しなくなり、対物レンズ113の焦点からの反射光成分だけが選択的に検出され、高いz分解能が達成される。
【0044】
z方向の応答関数の半値全幅により定義されるz分解能は、対物レンズ113の開口数NAと、レーザ光の波長λによって決まり、λ/NAに比例する。一般的に生体イメージングで使用される光の波長は、ヘモグロビンにも水にも吸収されにくい600nmから1300nm程度である。例えば対物レンズの開口数を0.4とすると、波長600nm~1300nmでのz方向の空間分解能は約3.3μm~約7.2μmとなる。
【0045】
このように、本発明に係る光画像計測装置100は高いz分解能を有しているので、再生医療における細胞シートやスフェロイドのような3次元組織の内部を非侵襲的に評価することが可能である。
【0046】
検出される信号の強度は、信号光電場の振幅と参照光電場の振幅の積に比例している。このことから、小さな信号光パワーでも、参照光パワーを大きくすることにより検出感度を向上することが可能であるため、信号光によるサンプルへのダメージを抑制しつつ、高感度な反射光検出が可能である。
【0047】
<実施の形態1:光学系の機能>
本実施形態1に係る光画像計測装置100の光学系の機能について数式を用いて説明する。干渉光学系126へ入射する時点での合成光のジョーンズベクトルを、対物レンズ113の焦点から反射した信号光の複素振幅Esigと参照光の複素振幅Erefを用いて下記式5により表す。
【0048】
【数5】
【0049】
ハーフビームスプリッタ119とλ/2板120を透過した後の合成光のジョーンズベクトルは下記式6で表される。
【0050】
【数6】
【0051】
式6で示される合成光は、ウォラストンプリズム122によってp偏光成分とs偏光成分に2分岐されたのち、電流差動型の光検出器127によって差動検出される。このとき光検出器127から出力される差動出力信号129(記号Iで表す)は下記式7で表される。Asig(ref)、θsig(ref)は、それぞれ複素数Esig(ref)を極座標表示で表した際の振幅と位相である。dは光検出器の受光部の半径である。積分領域は光検出器127の受光部の面内である。1/πdは計算を簡略化するために導入した因子である。ここでは信号光と参照光は平坦な強度分布および位相分布を持つものとして積分を実行した。
【0052】
【数7】
【0053】
ハーフビームスプリッタ119で反射され、さらにλ/4板123を透過した後の合成光のジョーンズベクトルは、下記式8で表される。
【0054】
【数8】
【0055】
式8で示される合成光は、ウォラストンプリズム125によってp偏光成分とs偏光成分に2分岐された後、電流差動型の光検出器128によって差動検出される。このとき光検出器128から出力される差動出力信号130(記号Qで表す)は下記式9で表される。
【0056】
【数9】
【0057】
画像生成部131は、式7と式9で表わされる信号に対して、下記式10で表される演算を実施することにより、信号光と参照光の位相差に依存しない、信号光の強度に比例した反射信号強度Sを生成する。
【0058】
【数10】
【0059】
本実施形態1においては、干渉光学系126において4つの干渉光を生成することとしたが、位相に依存しない信号を取得する上では、干渉光の数は3つ以上であればいくつでもかまわない。
【0060】
<実施の形態1:まとめ>
本実施形態1に係る光画像計測装置100は、対象物を複数の測定領域に分割し、各測定領域において光スポットを繰り返し走査することにより得られた光強度の時系列データを用いて、各測定領域における対象物の時間変動を反映した観察画像を生成する。これにより、例えば細胞内小器官の運動のように数msオーダで変動する動きを評価することができる。したがって本実施形態1によれば、観察画像を介して細胞活性度を評価することができる。
【0061】
<実施の形態2>
図5は、本発明の実施形態2に係る光画像計測装置100の構成を示す模式図である。図1に示した部品と同じものには同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態2は、信号光の集光位置を走査するためにアクチュエータ501を用いている点において実施形態1と異なる。アクチュエータ501としては、例えば光ディスク記録再生用の光ピックアップで用いられている電磁アクチュエータや、圧電アクチュエータなどを用いることができる。本実施形態2においては、制御部134からの指示にしたがってアクチュエータ501が対物レンズ113の位置を駆動することにより、信号光の集光位置を2次元的に走査する。このような構成とすることにより、ガルバノミラーやビームエキスパンダ等の高額な部品が不要となり、装置を安価に提供することができるとともに、光路長を短くできるので装置を小型化できる。
【0062】
アクチュエータ501として電磁アクチュエータを用いる場合、数百μm程度の幅でスポット走査する際の駆動周波数は最大100Hz程度である。したがって本実施形態2において、走査方法2を用いた場合の時間分解能は10msとなる。これは、実施形態1の装置構成において走査方法1を用いる場合よりも10倍高い時間分解能である。上記以外の装置動作は実施形態1と同じであるため、ここでは説明を省略する。本実施形態2においては安価で小型な構成で従来よりも高い時間分解能を達成し、高精度に細胞の活性度を評価することができる。
【0063】
<実施の形態3>
図6は、本発明の実施形態3に係る光画像計測装置100の構成を示す模式図である。図1に示した部品と同じものには同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態3は、サンプルからの反射光ではなく透過光に基づき細胞の活性度を評価している点において実施形態1とは異なる。
【0064】
光源601から出射された光はコリメートレンズ602によって平行光に変換され、ガルバノミラー603と604からなるスキャンユニット605に入射する。スキャンユニット605は、ユーザが入力部133に入力した内容に基づいて制御部134によって制御され、光の角度を変化させる。スキャンユニット605を通過した信号光は、走査レンズ606とチューブレンズ607から成るビームエキスパンダ608によってビーム径を拡大された後に、ミラー609によって反射され、対物レンズ610によって培養容器611内の細胞612に集光して照射される。光スポットの位置は、スキャンユニット605によって光軸に垂直な平面内で走査される。
【0065】
細胞612を透過した光は、対物レンズ613によって平行光に変換される。平行光となった光は、ミラー614を反射してチューブレンズ615と走査レンズ616からなるビームエキスパンダ617に入射する。ビームエキスパンダ617を通過した光は、ガルバノミラー618と619からなるスキャンユニット620に入射する。スキャンユニット620は、制御部134によってスキャンユニット605と同期して制御されており、スキャンユニット605によって生じた光の光軸傾きがスキャンユニット620によって相殺される。結果として、スキャンユニット620を通過した後の光の光軸は常に一定の角度を保つ。
【0066】
スキャンユニット620を通過した後の光は、ミラー621を反射して集光レンズ622に導かれる。光は集光レンズ622によって集光され、焦点位置に配置されたピンホール623を通過したのちに、検出器624によって検出される。検出器624からは、光の強度に比例した電気信号625が出力され、画像生成部131に入力される。上記以外の装置の動作は実施形態1と同一であるため、ここでは説明を省略する。
【0067】
本実施形態3においては、透過光の時間的変動に基づき細胞の活性度を評価することができる。これにより、実施形態1の反射光検出に基づく方法とは異なる細胞に関する情報を得ることができる。
【0068】
<本発明の変形例について>
本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0069】
以上の実施形態においては、測定対象として細胞を例に挙げて説明したが、本発明の測定対象は細胞に限定されない。ヒトや動物から摘出した組織のin vitro観察、皮膚のin vivo観察、生体分子のダイナミクスの評価など、光をある程度透過・反射する物質の動きを分析するあらゆる用途に適用可能である。
【0070】
以上の実施形態においては、繰り返しライン走査の周波数は500Hzとしたが、この値はどのような時間スケールの運動を評価対象とするかに応じて異なる。細胞内小器官の運動の時間スケールは数ms程度といわれているので、細胞を評価する場合にはそれに対応した周波数(数百~500Hz)以上とすることが望ましい。少なくとも100Hz以上とすることにより、既存の技術では評価困難であった高速(5ms以下)の運動を捉えることが可能となる。
【符号の説明】
【0071】
101:光源
102:コリメートレンズ
104:偏光ビームスプリッタ
105、106:ガルバノミラー
103、120:λ/2板
116、112、123:λ/4板
113:対物レンズ
114:サンプル容器
115:細胞
117:参照光レンズ
119:ハーフビームスプリッタ
121、124:集光レンズ
122、125:ウォラストンプリズム
126:干渉光学系
127、128:電流差動型の光検出器
131:画像生成部
132:表示部
133:入力部
134:制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6