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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】ウェアラブルディスプレイデバイス
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/02 20060101AFI20221110BHJP
   H04N 5/64 20060101ALI20221110BHJP
   G02B 5/26 20060101ALI20221110BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20221110BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
G02B27/02 Z
H04N5/64 511A
G02B5/26
G02B5/30
G09F9/00 359
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020539626
(86)(22)【出願日】2019-08-30
(86)【国際出願番号】 JP2019034114
(87)【国際公開番号】W WO2020045626
(87)【国際公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-02-19
(31)【優先権主張番号】P 2018163451
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】矢内 雄二郎
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-039086(JP,A)
【文献】国際公開第2016/194961(WO,A1)
【文献】特開平10-319240(JP,A)
【文献】特開2003-307702(JP,A)
【文献】国際公開第2017/030176(WO,A1)
【文献】米国特許第07949214(US,B2)
【文献】米国特許第08189263(US,B1)
【文献】特開2002-277818(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 27/01 - 27/02
H04N 5/64
G02B 5/20 - 5/30
G09F 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明スクリーンと、前記透明スクリーンに画像を投映する投映装置とを少なくとも備え、
さらに、前記投映装置が投映する画像を前記透明スクリーンへ導光する導光板としての機能を有する透明支持体と、前記透明スクリーンの少なくとも一部を覆うように前記透明スクリーンの前記画像を反射する側に配置され、前記透明スクリーンから反射された前記画像を視認するための拡大レンズとを有し、
前記導光板としての機能を有する透明支持体の一方の面に前記透明スクリーンが配置され、他方の面に前記拡大レンズが配置されるウェアラブルディスプレイデバイス。
【請求項2】
前記投映装置から前記透明スクリーンへ投映される画像の入射光線とその正反射光線の成す角の2等分線が、前記透明スクリーンの表面の法線方向に対して5°以上傾斜している請求項1に記載のウェアラブルディスプレイデバイス。
【請求項3】
前記透明スクリーンが、選択反射性を示すコレステリック液晶層を有する、請求項1または2に記載のウェアラブルディスプレイデバイス。
【請求項4】
前記コレステリック液晶層がさらに拡散反射性を示す、請求項3に記載のウェアラブルディスプレイデバイス。
【請求項5】
前記コレステリック液晶層が、液晶化合物を用いて形成されたものであり、
前記コレステリック液晶層の一対の主面のうち少なくとも一方の主面において、前記液晶化合物の分子軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化しており、
前記液晶化合物の分子軸が、前記コレステリック液晶層の主面に対して傾斜している、請求項3に記載のウェアラブルディスプレイデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェアラブルディスプレイデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヘッドマウントディスプレイ等のウェアラブルディスプレイデバイスの普及が進んでいる。このようなウェアラブルディスプレイデバイスは、小型のディスプレイ、もしくは、小さく表示した映像を、拡大光学系で拡大し、ユーザの眼の至近距離に画像を表示する装置である。
【0003】
このようなウェアラブルディスプレイデバイスは、観察者の視野全面をディスプレイで覆うため臨場感はあるものの(特許文献1)、背景がみえないことから周囲の状況が確認できず、ものにぶつかる可能性がある。
【0004】
また、背景も視認可能で、背景に映像を重ねて投映するウェアラブルディスプレイデバイスもあるが、視野角(FOV)が狭いため、画像が視認できる範囲が限定される。また、前述のデバイスに比べると複雑な光学系になっており(特許文献2)、現状手軽に使えるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-68184号公報
【文献】米国公開2016/0231568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記実情を鑑みて、背景視認性が良好であり、投映画像を視認可能な視野角が広く、かつ、構造が簡便なウェアラブルディスプレイデバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題に対して鋭意検討したところ、所定の光学素子を用いることにより、所望の効果が得られることを知見した。
すなわち、下記構成により、上記課題が解決できることを見出した。
【0008】
[1]透明スクリーンと、前述の透明スクリーンに画像を投映する投映装置を少なくとも備え、さらに前述の透明スクリーンから反射された前述の画像を視認するための拡大レンズが前述の透明スクリーンの少なくとも一部を覆うように視認側に配置されたウェアラブルディスプレイデバイス。
[2]前述の透明スクリーンへの少なくとも一方向からの入射光線とその正反射光線の成す角の2等分線が、前述の透明スクリーンのその正反射面の法線方向に対して5°以上傾斜している[1]に記載のウェアラブルディスプレイデバイス。
[3]前述の透明スクリーンが、選択反射性を示すコレステリック液晶層を有する、[1]または[2]に記載のウェアラブルディスプレイデバイス。
[4]前述のコレステリック液晶層がさらに拡散反射性を示す、[1]~[3]のいずれかに記載のウェアラブルディスプレイデバイス。
[5]前述の投映装置が投映する画像を前述の透明スクリーンへ導光する導光板を有する、[1]~[4]のいずれかに記載のウェアラブルディスプレイデバイス。
[6] 導光板の一方の面に透明スクリーンが配置され、他方の面にレンズが配置される[5]に記載のウェアラブルディスプレイデバイス。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、背景視認性が良好であり、投映画像を視認可能な視野角が広く、かつ、構造が簡便なウェアラブルディスプレイデバイスを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明のウェアラブルディスプレイデバイスの一例を模式的に表す斜視図である。
図2図1に示すウェアラブルディスプレイデバイスの一部を拡大して表す断面図である。
図3】本発明に用いられる透明スクリーンを説明する模式図である。
図4図1に示すウェアラブルディスプレイデバイスの一部を示す正面図である。
図5】本発明のウェアラブルディスプレイデバイスの他の一例を模式的に表す断面図である。
図6】本発明のウェアラブルディスプレイデバイスの他の一例を模式的に表す上面図である。
図7】本発明に用いられる透明スクリーンの一例を示す模式図である。
図8】コレステリック液晶層20のX-Z面の模式図である。
図9】コレステリック液晶層20のX-Z面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)にて観察した際の模式図である。
図10】傾斜コレステリック液晶層10のX-Y面の模式図である。
図11】傾斜コレステリック液晶層10のX-Z面の模式図である。
図12】傾斜コレステリック液晶層10のX-Z面を走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)にて観察した際の模式図である。
図13】傾斜コレステリック液晶層30のX-Y面の模式図である。
図14】傾斜コレステリック液晶層30のX-Z面をSEMにて観察した際の模式図である。
図15】傾斜コレステリック液晶層40のX-Y面の模式図である。
図16】傾斜コレステリック液晶層40のX-Z面の模式図である。
図17】工程2-1において、条件1を満たす組成物層の実施形態の一例を説明するための断面模式図である。
図18】積層体50の断面模式図である。
図19】キラル剤A及びキラル剤Bの各々について、螺旋誘起力(HTP: Helical Twisting Power)(μm-1)×濃度(質量%)と光照射量(mJ/cm2)との関係をプロットしたグラフの模式図である。
図20】キラル剤A及びキラル剤Bを併用した系において、加重平均螺旋誘起力(μm-1)と光照射量(mJ/cm2)との関係をプロットしたグラフの模式図である。
図21】キラル剤A及びキラル剤Bの各々について、HTP(μm-1)×濃度(質量%)と温度(℃)との関係をプロットしたグラフの模式図である。
図22】キラル剤A及びキラル剤Bを併用した系において、加重平均螺旋誘起力(μm-1)と温度(℃)との関係をプロットしたグラフの模式図である。
図23】配向膜に対して干渉光を照射する露光装置の概略構成図である。
図24】コレステリック液晶層28のX-Z面をSEMにて観察した際の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ウェアラブルディスプレイデバイス>
本発明のウェアラブルディスプレイデバイスは、透明スクリーンと、前述の透明スクリーンに画像を投映する投映装置を少なくとも備え、さらに前述の透明スクリーンから反射された前述の画像を視認するためのレンズが前述の透明スクリーンの少なくとも1部を覆うように視認側に配置されており、視認者が身体に装着して少なくともディスプレイの機能を有する装置である。ウェアラブルディスプレイデバイスとは、特に視認者の頭部に装着するヘッドマウントディスプレイ(HMD)を包含するものである。
【0012】
以下、図1図2を用いて本発明のウェアラブルディスプレイデバイスについて説明する。
図1は、本発明のウェアラブルディスプレイデバイスの一例を模式的に表す斜視図である。図2は、図1に示すウェアラブルディスプレイデバイスの一部を拡大して表す断面図である。
【0013】
図1および図2に示すウェアラブルディスプレイデバイス80は、フレーム82、透明支持体84a、透明支持体84b、光吸収層85、透明スクリーン86a、透明スクリーン86b、導光部材88a、導光部材88b、投映装置90a、投映装置90b、および、レンズ92を有している。
なお、以下の説明において、透明支持体84aと透明支持体84bとを区別する必要がない場合には透明支持体84として説明する。同様に、透明スクリーン86aと透明スクリーン86bとを区別する必要がない場合には透明スクリーン86として説明する。導光部材88aと導光部材88bとを区別する必要がない場合には導光部材88として説明する。投映装置90aと投映装置90bとを区別する必要がない場合には投映装置90として説明する。
【0014】
フレーム82は、透明支持体84aおよび透明支持体84bを支持し、視認者の頭部に装着される部位である。フレーム82は、視認者の頭部に装着された際に、透明支持体84aが視認者の右目の視野を覆う位置に透明支持体84aを支持し、透明支持体84bが視認者の左目の視野を覆う位置に透明支持体84aを支持する。
フレーム82の形状および材料には特に制限はなく、従来公知のウェアラブルディスプレイデバイスで用いられるフレームと同様の形状および材料を用いることができる。
【0015】
透明支持体84は、視認者が背景を視認できる透明性を有し、ウェアラブルディスプレイデバイス80が視認者の頭部に装着された際に、視認者の視野の少なくとも一部を覆うものである。透明支持体84は、ウェアラブルディスプレイデバイス80が視認者の頭部に装着された際に、透明スクリーン86およびレンズ92を視認者の視野内で支持する。
また、透明支持体84は、投映装置90が投映する画像(光)を透明スクリーン86へ導光する導光板としての機能も有する。
【0016】
透明スクリーン86は、視認者が背景を視認できる透明性を有し、かつ、少なくとも一部の光を反射するものである。透明スクリーン86は、透明支持体84の一方の主面に配置されている。図1に示す例においては、透明スクリーン86は、透明支持体84の、ウェアラブルディスプレイデバイス80が視認者の頭部に装着された際の視認者とは反対側の主面に配置されている。また、図1に示す例においては、透明スクリーン86は、透明支持体84の主面よりも小さく、主面の一部を覆う。
なお、以下の説明において、ウェアラブルディスプレイデバイス80が視認者の頭部に装着された際の視認者側を単に視認者側、視認者とは反対側を単に視認者とは反対側ともいう。
【0017】
ここで、透明スクリーン86は、透明スクリーンへの少なくとも一方向からの入射光線とその正反射光線の成す角の2等分線が、透明スクリーンの表面の法線方向に対して5°以上傾斜していることが好ましい。
この点について、図3を用いて説明する。
【0018】
透明スクリーン86にある方向から入射する光をI1とし、この入射光I1が透明スクリーンで反射された反射光をI2とすると、I1とI2とが成す角の二等分線a2と、透明スクリーン86の表面(主面)の法線方向a1との成す角度θxが5°以上である。
このような透明スクリーンを用いることで、透明スクリーンに対して斜めから投映された画像を視認者に向けて透明スクリーンに垂直な方向に反射することができる。
【0019】
導光部材88は、投映装置90が投映する画像を透明支持体84に導光するものである。図1に示す例では、導光部材88は板状の部材であり、長手方向を透明支持体84の主面に略垂直な方向に一致させて、端部を透明支持体84の側面に接続されている。また、導光部材88の透明支持体84とは反対側の端面には投映装置90が配置されている。
図2に示すように、導光部材88内の透明支持体84に接続される側の端部には反射層89を有している。反射層89は、投映装置90が投映し導光部材88内を導光した光を透明支持体84の方向に反射して、光を透明支持体84に入射させる。
【0020】
導光部材88の材料としては、透明支持体84と同様の材料が利用可能である。また、導光部材88の形状および大きさ等は、透明支持体84および投映装置90の大きさ、配置等に応じて適宜設定すればよい。
反射層89はアルミニウム等の金属を蒸着した金属蒸着膜など、反射層として用いられている従来公知の反射層が適宜利用可能である。
【0021】
投映装置90は、導光部材88の、透明支持体84とは反対側の端面に配置され、導光部材88内に向けて映像を投映する。
【0022】
レンズ92は、透明支持体84の、透明スクリーン86が配置される面とは反対側の主面に配置されている。すなわち、レンズ92は、透明スクリーン86よりも視認側に配置されている。透明支持体84の主面の面方向において、レンズ92は、透明スクリーン86に重複する位置に配置される。すなわち、レンズ92は、視認者から見た際に、透明スクリーン86の少なくとも一部を覆うように配置される。
【0023】
レンズ92は接眼レンズであり、透明スクリーン86が反射した映像(光)を拡大して視認者の目に結像させる拡大レンズである。
【0024】
光吸収層85は、透明支持体84の、導光部材88が配置される端面(画像が入射される端面)とは反対側の端面に設けられている。光吸収層85は、透明支持体84内を導光された光のうち透明スクリーン86で正面方向に反射されず、端面に到達した光を吸収する。これによって、透明支持体84の端面から光が出射されてホットスポットとなることを防止できる。
【0025】
このような構成を有するウェアラブルディスプレイデバイス80の作用について図2および図4を用いて説明する。なお、図2は視認者の右目側に配置される部材のみを示しているが、左目側に配置される部材においても同様の作用を奏する。また、図2において、上方が視認者側である。
【0026】
投映装置90aから映像が投映されると、映像は導光部材88a内を導光され、導光部材88a内の反射層89で反射される。反射層89で反射された映像は透明支持体84aの界面(主面)で全反射されながら透明支持体84a内を導光される。透明支持体84a内を導光される映像の少なくとも一部は透明スクリーン86aに入射して視認者の方向(図中上方向)に反射される。透明スクリーン86aで反射された映像は透明支持体84aを透過してレンズ92に入射する。レンズ92に入射した映像は視認者の目に結像される。これによって、透明スクリーン86aに投映される映像が視認者に視認される。また、透明支持体84内を導光された映像のうち透明スクリーン86で正面方向に反射さなかった映像は、端面の光吸収層85に到達し吸収される。
【0027】
このように透明スクリーン86に映像が投映されると、図4に示すように、透明スクリーン86が配置された領域には、投映された映像が視認され、また、透明スクリーン86が配置されていない、透明支持体84の領域には背景が視認される。これによって、ウェアラブルディスプレイデバイス80は、背景に映像を重ねて表示することができる。ここで、本発明のウェアラブルディスプレイデバイス80は、レンズ92を介して映像を視認者に視認させる。従来のARメガネ等において透明スクリーン等を用いて映像を表示する場合、透明スクリーンによって反射された映像光はほぼ平行光であるため、視野角が狭くなる。これに対して、本発明では、拡散した映像光をレンズ92で拡大しているため、映像を視認可能な視野角を広くすることができる。また、ウェアラブルディスプレイデバイス80は、透明スクリーン86を用いているため映像が投映されない領域は背景が視認できる。また、ウェアラブルディスプレイデバイス80は、上記のとおり、簡便な構造で上記効果を達成できる。
【0028】
ここで、図1に示す例では、透明スクリーン86は透明支持体84の主面よりも小さいものとしたが、これに限定はされない。透明スクリーン86は透明支持体84の主面と同じ大きさで、透明支持体84の主面の全面を覆うものであってもよい。
【0029】
また、図2に示す例では、透明スクリーン86の全面で映像を反射するものとしたが、これに限定はされない。透明スクリーン86の一部の領域が映像を反射する構成としてもよい。この場合、レンズ92は、透明スクリーン86の映像を反射する領域に対応して配置されていればよい。すなわち、レンズ92は、透明支持体84の主面の面方向において、透明スクリーン86の映像を反射する領域に重複する位置に配置されればよい。
【0030】
また、図1に示す例では、投映装置90が投映する映像を透明支持体84(導光板)に導光する導光部材88を有する構成としたがこれに限定はされない。投映装置90が透明支持体84内に直接、映像を投映してもよい。
【0031】
また、図1に示す例では、視認者の右目用および左目用それぞれの透明支持体84、透明スクリーン86、投映装置90およびレンズ92等を有する構成としたが、右目用および左目用のいずれか一方のみを有する構成であってもよい。
【0032】
また、図1に示す例では、視認者の右目用および左目用それぞれの透明支持体84を有する構成としたが、右目用および左目用の透明支持体が一体的に形成されていてもよい。すなわち、1つの透明支持体が視認者の右目の視野および左目の視野を覆う大きさであってもよい。このような1つの透明支持体を有する構成の場合には、1つの透明支持体に右目用の透明スクリーンおよびレンズ、ならびに、左目用の透明スクリーンおよびレンズがそれぞれ透明支持体上に設けられてもよい。
【0033】
また、図2に示す例では、透明スクリーン86およびレンズ92が1つの透明支持体84上に設けられる構成としたが、これに限定はされない。
例えば、図5に示すように、透明支持体84および透明支持体94を有し、透明支持体84および透明支持体94が主面を略平行にしてフレーム82に支持されており、透明支持体84の主面に透明スクリーン86が設けられ、透明支持体94の主面にレンズ92が設けられる構成としてもよい。
【0034】
また、図1に示す例では、透明スクリーン86およびレンズ92が透明支持体84上に設けられる構成としたがこれに限定はされない。透明スクリーン86および/またはレンズ92がフレームに直接支持されている構成としてもよい。
【0035】
また、図2に示す例では、投映装置90が投映する映像を透明支持体84で導光して透明スクリーン86に導くものとしたが、これに限定はされない。
例えば、図6に示すように、投映装置90からの映像を直接、透明スクリーン86に投映する構成としてもよい。図6に示す例は、透明支持体84の主面に透明スクリーン86が設けられ、透明支持体94の主面にレンズ92が設けられる構成であり、透明スクリーン86に対して斜め方向から投映装置90が映像を投映する。このような構成の場合には、投映装置90から透明スクリーン86に投映された映像は、透明スクリーン86で反射される。透明スクリーン86は、投映された映像をレンズ92の方向に反射する。反射された映像はレンズ92によって視認者の目に結像される。
【0036】
なお、投映装置から透明スクリーンに直接、映像を投映する構成の場合には、透明スクリーンで反射されなかった映像が透明スクリーンを透過してしまうおそれがある。この点から、ウェアラブルディスプレイデバイスは、導光板(透明支持体)を有し、投映装置が投映する映像を透明スクリーンに導光する構成が好ましい。
【0037】
以下、各構成要素の構成について詳述する。
【0038】
<透明スクリーン>
本発明において透明スクリーンは、視認者が背景を視認できる透明性を有し、アクリル板等の透明性部材を基材として有しており、さらにその透明性部材上に投映された画像を反射するための透明性の光反射部材を有することが好ましい。
【0039】
本発明において、透明スクリーンが好ましく有する透明性の光反射部材は、表面に凹凸形状のない平坦な表面を有することが好ましく、特に選択反射性を示すコレステリック液晶層を有することが好ましく、右円または左円のいずれかの円偏光を選択反射することが好ましく、特に青(B)、緑(G)、赤(R)の各々の選択反射波長を有することが好ましい。
【0040】
また、前述の透明スクリーンは、斜めから投映された画像を視認者に向けて正面に反射するために、前述の透明スクリーンへの少なくとも一方向からの入射光線とその正反射光線の成す角の2等分線が、前述の透明スクリーンのその主面の法線方向に対して5°以上傾斜していることが好ましく、さらに15°~75°傾斜していることがより好ましく、30°~60°傾斜していることが最も好ましく、その傾斜を実現するための手段としてはコレステリック液晶層の螺旋軸が少なくとも一方向に平均的に傾斜することによって得られる。
以下、透明スクリーン内にある、入射光線が正反射する面(反射面)の法線と、透明スクリーンの表面の法線とのなす角度を「反射面の傾斜角度」ともいう。
【0041】
その傾斜角度は、右目用と左目用の前述の光反射部材で同じであってもよいが、投映装置からの投映光の角度に併せて異なっていることが好ましく、右目用と左目用の投映装置を独立に設ければ、例えば立体表示にも利用できる。
【0042】
また、前述の透明スクリーンの透明性の光反射部材は、視野角をより広げるために拡散反射性を示すことが好ましく、それを実現するための手段としては、コレステリック液晶層の螺旋軸が一定範囲で揺らぐことによって得られる。
従って前述の透明スクリーンの透明性の光反射部材に好ましく用いられるコレステリック液晶層としてはその螺旋軸が少なくとも一方向に平均的に傾斜し、かつ螺旋軸が一定範囲で揺らぐことが最も好ましい。
【0043】
透明スクリーンとしては、光反射部材として螺旋軸が少なくとも一方向に平均的に傾斜したコレステリック液晶層を有する透明スクリーン(以下、傾斜コレステリック型透明スクリーンという)、あるいは、リニアフレネルレンズ形状の凹凸面を有し、リニアフレネルレンズの傾斜面に反射体を有し、さらに反射体の傾斜面側とは反対側の表面が、樹脂で覆われており、表面が平担化されたシート状の透明スクリーン(以下、リニアフレネルレンズ型透明スクリーンという)等を使用することが好ましい。
以下、透明スクリーンの具体的な構成について説明する。
【0044】
(リニアフレネルレンズ型透明スクリーン)
図7は、本発明のディスプレイに用いられる透明スクリーンの一例を模式的に示す図である。
図7に示す透明スクリーン200は、透明基材202と、反射体204と、樹脂層206とを有する。
【0045】
透明基材202は、リニアフレネルレンズ形状の凹凸面を有する透明な部材である。透明基材202の材料としては透明性を有するものであれば特に制限はなく、アクリル樹脂等の樹脂、ガラス等が挙げられる。
透明基材202の表面(反射体204とは反対側の面)は平坦である。
【0046】
反射体204は、透明性を有し、少なくとも一部の光に対する光反射性を有する部材である。反射体204は透明基材202の凹凸面の傾斜面に配置される。
反射体204としては、誘電体多層膜、金属薄膜、あるいは、所定の波長の光の右円偏光または左円偏光を反射し、他の波長域の光および他方の円偏光を透過する、すなわち、波長選択反射性および円偏光選択反射性を有するコレステリック液晶層が好適に用いられる。
【0047】
周知のとおり、コレステリック液晶層は、液晶化合物をコレステリック配向させてなるコレステリック液晶相を固定化してなる層である。なお、本発明において、コレステリック液晶層は、コレステリック液晶相の光学的性質が層中において保持されていれば十分であり、層中の液晶化合物は液晶性を示さなくてもよい。この点は後述する傾斜コレステリック液晶層も同様である。
図8に示すコレステリック液晶層20は、コレステリック液晶相由来の螺旋軸C2がコレステリック液晶層20の主面に垂直であり、反射面T2は主面に平行な面である。
図9に示すように、コレステリック液晶層20のX-Z面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察すると、明部25と暗部26とが交互に配列された配列方向P2は主面と垂直となる。
図9に示すコレステリック液晶相は鏡面反射性であるため、例えば、コレステリック液晶層20に斜め方向から光が入射される場合、入射角と同じ角度の反射角度で斜め方向に光が反射される(図8中の矢印参照)。
【0048】
樹脂層206は、反射体204の、透明基材202側とは反対側で、反射体204の表面および透明基材202の表面を覆う透明な層である。樹脂層206の材料としては透明性を有するものであれば特に制限はなく、アクリル樹脂等の樹脂等が挙げられる。
樹脂層206の表面(反射体204とは反対側の面)は平坦である。
【0049】
このような構成を有する透明スクリーン200では、反射体204が透明スクリーン200の主面に対して傾斜しているため、反射面の傾斜角度を5°以上とすることができる。すなわち、反射体204が配置される、透明基材202の傾斜面の角度を適宜設定することで、透明スクリーン200の反射面の傾斜角度を適宜設定することができる。
【0050】
(傾斜コレステリック型透明スクリーン)
傾斜コレステリック型透明スクリーンが有する傾斜コレステリック液晶層について図10図12を用いて説明する。
【0051】
<<液晶配向パターン>>
図10及び図11に、傾斜コレステリック液晶層中の液晶化合物の配向状態を概念的に示す模式図を示す。
図10は、主面11及び主面12からなる一対の主面13を有する傾斜コレステリック液晶層10の、主面11及び主面12の面内における液晶化合物の配向状態を示す模式図である。また、図11は、主面11及び主面12に垂直な断面におけるコレステリック液晶相の状態を示す断面模式図である。以下においては、傾斜コレステリック液晶層10の主面11及び主面12をX-Y面とし、このX-Y面に対して垂直な断面をX-Z面として説明する。つまり、図10は、傾斜コレステリック液晶層10のX-Y面の模式図に相当し、図11は、傾斜コレステリック液晶層10のX-Z面の模式図に相当する。
なお、以下においては、液晶化合物として棒状液晶化合物の態様を例に挙げて説明する。
【0052】
図10に示すように、傾斜コレステリック液晶層10のX-Y面において、液晶化合物14は、X-Y面内の互いに平行な複数の配列軸D1に沿って配列しており、それぞれの配列軸D1上において、液晶化合物14の分子軸L1の向きは、配列軸D1に沿った面内の一方向に連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する。ここで、説明のため、配列軸D1がX方向に向いているとする。また、Y方向においては、分子軸L1の向きが等しい液晶化合物14が等間隔で配向している。
なお、「液晶化合物14の分子軸L1の向きが配列軸D1に沿った面内の一方向に連続的に回転しながら変化している」とは、液晶化合物14の分子軸L1と配列軸D1とのなす角度が、配列軸D1方向の位置により異なっており、配列軸D1に沿って分子軸L1と配列軸D1とのなす角度がθからθ+180°あるいはθ-180°まで徐々に変化していることを意味する。つまり、配列軸D1に沿って配列する複数の液晶化合物14は、図10に示すように、分子軸L1が配列軸D1に沿って一定の角度ずつ回転しながら変化する。
また、本明細書において、液晶化合物14が棒状液晶化合物である場合、液晶化合物14の分子軸L1は、棒状液晶化合物の分子長軸を意図する。一方、液晶化合物14が円盤状液晶化合物である場合、液晶化合物14の分子軸L1は、円盤状液晶化合物の円盤面に対する法線方向に平行な軸を意図する。
【0053】
図11に、傾斜コレステリック液晶層10のX-Z面の模式図を示す。
図11に示す傾斜コレステリック液晶層10のX-Z面において、液晶化合物14は、主面11及び主面12(X-Y面)に対して、その分子軸L1が傾斜して配向している。
液晶化合物14の分子軸L1と主面11及び主面12(X-Y面)とのなす平均角度(平均チルト角)θ3は、5~45°が好ましく、12~22°がより好ましい。なお、角度θ3は、傾斜コレステリック液晶層10のX-Z面を偏光顕微鏡観察することにより測定できる。なかでも、傾斜コレステリック液晶層10のX-Z面において、液晶化合物14は、主面11及び主面12(X-Y面)に対して、その分子軸L1が同一の方向に傾斜配向することが好ましい。
なお、上記平均角度は、コレステリック液晶層断面の偏光顕微鏡観察において、液晶化合物14の分子軸L1と主面11及び主面12とのなす角度を任意の5か所以上で測定して、それらを算術平均した値である。
分子軸L1が上述した配向をとることで、図11に示すように、傾斜コレステリック液晶層10において、コレステリック液晶相由来の螺旋軸C1は、主面11及び主面12(X-Y面)に対して所定角度で傾斜している。つまり、傾斜コレステリック液晶層10の反射面(螺旋軸C1に直交し、方位角が等しい液晶化合物が存在する平面)T1は、主面11及び主面12(X-Y面)に対して略一定の方向に傾斜している。
なお、「方位角が等しい液晶分子」とは、主面11及び主面12(X-Y面)に投影したときに、分子軸の配向方向が同一にある液晶分子をいう。
【0054】
図11に示す傾斜コレステリック液晶層10のX-Z面をSEMにて観察すると、図12に示すような明部15と暗部16とが交互に配列された配列方向P1が、主面11及び主面12(X-Y面)に対して所定角度θ2で傾斜している縞模様が観察される。なお、図12中の明部15が2つと暗部16が2つで螺旋1ピッチ分(螺旋の巻き数1回分)に相当する。
【0055】
傾斜コレステリック液晶層10において、液晶化合物14の分子軸L1は、明部15と暗部16とが交互に配列された配列方向P1に対して略直交する。
分子軸L1と配列方向P1とのなす角度は、80~90°が好ましく、85~90°がより好ましい。
【0056】
以下、傾斜コレステリック液晶層10の反射異方性が得られる理由に関して説明する。
<<反射異方性>>
図10及び図11に示す傾斜コレステリック液晶層10は、その反射面T1が主面11及び主面12(X-Y面)に対して所定方向に傾斜しているため、反射光異方性を有する。例えば、傾斜コレステリック液晶層10に斜め方向から光を入射させると、反射面T1によって、主面11及び主面12(X-Y面)の法線方向に光が反射される(図11中の矢印参照)。
【0057】
<<コレステリック液晶相>>
コレステリック液晶相は、特定の波長において選択反射性を示すことが知られている。選択反射の中心波長(選択反射中心波長)λは、コレステリック液晶相における螺旋構造のピッチP(=螺旋の周期)に依存し、コレステリック液晶相の平均屈折率nとλ=n×Pの関係に従う。そのため、この螺旋構造のピッチを調節することによって、選択反射中心波長を調節することができる。コレステリック液晶相のピッチは、光学異方性層の形成の際、液晶化合物と共に用いるキラル剤の種類、またはその添加濃度に依存するため、これらを調節することによって所望のピッチを得ることができる。
なお、ピッチの調節については富士フイルム研究報告No.50(2005年)p.60-63に詳細な記載がある。螺旋のセンスおよびピッチの測定法については「液晶化学実験入門」日本液晶学会編 シグマ出版2007年出版、46頁、および、「液晶便覧」液晶便覧編集委員会 丸善 196頁に記載の方法を用いることができる。
【0058】
コレステリック液晶相は、特定の波長において左右いずれかの円偏光に対して選択反射性を示す。反射光が右円偏光であるか左円偏光であるかは、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向(センス)による。コレステリック液晶相による円偏光の選択反射は、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向が右の場合は右円偏光を反射し、螺旋の捩れ方向が左の場合は左円偏光を反射する。
なお、コレステリック液晶相の旋回の方向は、光学異方性層を形成する液晶化合物の種類および/または添加されるキラル剤の種類によって調節できる。
【0059】
また、選択反射を示す選択反射帯域(円偏光反射帯域)の半値幅Δλ(nm)は、コレステリック液晶相のΔnと螺旋のピッチPとに依存し、Δλ=Δn×Pの関係に従う。そのため、選択反射帯域の幅の制御は、Δnを調節して行うことができる。Δnは、(傾斜)コレステリック液晶層を形成する液晶化合物の種類およびその混合比率、ならびに、配向固定時の温度により調節できる。
反射波長帯域の半値幅は、(傾斜)コレステリック液晶層の用途に応じて調節され、例えば10~500nmであればよく、好ましくは20~300nmであり、より好ましくは30~100nmである。
【0060】
ここで、図12に示す例では、傾斜コレステリック液晶層10の明部15及び暗部16は、直線状である構成としたが、これに限定はされず、図14に示す傾斜コレステリック液晶層30のように、X-Z面においてSEMにより観察されるコレステリック液晶相に由来する明部35および暗部36からなる明暗線の形状が波状(波打ち構造)である構成としてもよい。
前述のとおり、コレステリック液晶層において、明部および暗部に平行な面が反射面となる。したがって、傾斜コレステリック液晶層の、コレステリック液晶相に由来する明部および暗部の形状を波状とすることで、反射面が波状となる。そのため、傾斜コレステリック液晶層30での反射光の反射角度は、位置によって異なるものとなり、光拡散性が得られる。
【0061】
傾斜コレステリック液晶層30の、コレステリック液晶相に由来する明部35および暗部36からなる明暗線の形状が波状(波打ち構造)であるとは、螺旋軸と傾斜コレステリック液晶層の表面とのなす角が周期的に変化する構造を有する層である。言い換えれば、傾斜コレステリック液晶層30は、SEMにて観測される断面図において暗部がなす線の法線とコレステリック液晶層の表面となす角が周期的に変化する層である。
好ましくは、波打ち構造とは、以下の構成を有する。
暗部の一方の端部がコレステリック液晶層の主面、もしくは、側面と交わる点をa1とし、暗部の他方の端部がコレステリック液晶層の主面、もしくは、側面と交わる点をa2として、点a1と点a2からなる線分を基準線とする。暗部のある点における接線とこの基準線とのなす角度を暗部の傾斜角度とすると、波打ち構造は、暗部がなす線状における傾斜角度の変動量が5°以上である。
【0062】
このように明部35および暗部36が波状となる傾斜コレステリック液晶層30は、一例として、一方の主面31における液晶化合物34の分子軸L3の配列を、図13に示すように、面内の一定の方向を向くように配向することで形成されやすい。
なお、他方の主面32における液晶化合物34の分子軸L3の配列は、図10に示す傾斜コレステリック液晶層10のX-Y面と同様の配向である。また、傾斜コレステリック液晶層30のX-Z面は、傾斜コレステリック液晶層10のX-Z面と同様の配向をとっている。つまり、傾斜コレステリック液晶層30は、液晶化合物34が主面31及び主面32(X-Y面)に対して分子軸L3が所定方向で傾斜配向し、且つ、コレステリック液晶相由来の螺旋軸が主面31及び主面32(X-Y面)に対して所定角度で傾斜している。
【0063】
あるいは、明部35および暗部36が波状となる傾斜コレステリック液晶層30は、後述する液晶配向パターンにおける液晶化合物の分子軸の向きが180°回転する長さを1周期Λを、配列軸に沿って変動させることでも形成できる。
あるいは、他の方法としては、コレステリック液晶層を形成するための液晶組成物に界面活性剤を添加する方法もある。
【0064】
一方、傾斜コレステリック液晶層10は、上述した通り、X-Z面において、液晶化合物14が、主面11及び主面12(X-Y面)に対してその分子軸L1が傾斜配向し、且つ、主面11及び主面12(X-Y面)において、液晶化合物14の分子軸L1の向きが配列軸D1に沿った面内の一方向に連続的に回転しながら変化している。傾斜コレステリック液晶層10は、この構成によって、X-Z面におけるSEMにより観測されるコレステリック液晶相由来の明部及び暗部からなる明暗線が高い直線性を示すと推測される。この結果として、ヘイズが低く、高い透明性を有する。
【0065】
ここで、図11に示す傾斜コレステリック液晶層10の例では、液晶化合物14の分子軸が、傾斜コレステリック液晶層10の主面13に対して傾斜している構成としたが、これに限定はされず、液晶化合物の分子軸が、傾斜コレステリック液晶層の主面に平行であってもよい。
図15及び図16に、本発明に用いられる傾斜コレステリック液晶層の他の一例の模式図を示す。具体的には、図15は、主面41及び主面42からなる一対の主面43を有する傾斜コレステリック液晶層40の、主面41及び主面42での液晶化合物の配向状態を概念的に示す模式図である。また、図16は、傾斜コレステリック液晶層40の主面43に垂直な断面での傾斜コレステリック液晶層の状態を示す。以下においては、傾斜コレステリック液晶層40の主面41及び主面42をX-Y面とし、このX-Y面に対して垂直な断面をX-Z面として説明する。つまり、図15は、傾斜コレステリック液晶層40のX-Y面での模式図であり、図16は、傾斜コレステリック液晶層40のX-Z面での模式図である。
図15に示すように、傾斜コレステリック液晶層40のX-Y面において、液晶化合物44は、X-Y面内の互いに平行な複数の配列軸D2に沿って配列しており、それぞれの配列軸D2上において、液晶化合物44の分子軸L4の向きは、配列軸D2に沿った面内の一方向に連続的に回転しながら変化している。つまり、傾斜コレステリック液晶層40のX-Y面における液晶化合物44の配向状態は、図10に示す傾斜コレステリック液晶層10のX-Y面における液晶化合物14の配向状態と同じである。
【0066】
図16に示すように、傾斜コレステリック液晶層40のX-Z面においては、液晶化合物44の分子軸L4は、主面41及び主面42(X-Y面)に対して傾斜していない。言い換えると、分子軸L4は主面41及び主面42(X-Y面)に対して平行である。
傾斜コレステリック液晶層40は、上述した図15に示すX-Y面及び図16に示すX-Z面を有することにより、コレステリック液晶相由来の螺旋軸C3は、主面41及び主面42(X-Y面)に対して垂直であり、その反射面T3は主面41及び主面42(X-Y面)に対して所定方向に傾斜している。なお、上記傾斜コレステリック液晶層40のX-Z面をSEMにて観察すると、明部と暗部とが交互に配列された配列方向が主面41及び主面42(X-Y面)に対して所定角度で傾斜している縞模様が観察される(図12と同様)。
このように、傾斜コレステリック液晶層は、液晶化合物の分子軸が、傾斜コレステリック液晶層の主面に平行であってもよい。
【0067】
なお、図10及び図11に示す傾斜コレステリック液晶層10においては、分子軸L1は、X-Z面におけるSEM観察により観察される明部15と暗部16とが交互に配列された配列方向P1に対して略直交する。つまり、螺旋軸C1の方向は、明部15と暗部16とが交互に配列された配列方向P1に対して略平行となる。この結果として、斜め方向から入射する光と螺旋軸C1とがより平行となりやすく、反射面での反射光は、円偏光度が高くなる。これに対して、傾斜コレステリック液晶層40の場合、螺旋軸C3は主面41及び主面42(X-Y面)に対して垂直であることから、斜め方向から入射する光の入射方向と螺旋軸C3の方向とは、そのなす角度がより大きくなる。つまり、斜め方向から入射する光の入射方向と螺旋軸C3の方向とがより非平行となる。このため、傾斜コレステリック液晶層10は、傾斜コレステリック液晶層40と比較すると、反射面での反射光は、円偏光度がより高くなる。
【0068】
ここで、図10および図11に示す傾斜コレステリック液晶層10では、主面11及び主面12の両主面において、液晶化合物14の分子軸L1の向きが配列軸D1に沿った面内の一方向に連続的に回転しながら変化している形態を示したが、一方の主面のみにおいて、液晶化合物の分子軸の向きが配列軸に沿った面内の一方向に連続的に回転しながら変化している形態であってもよい。
また、傾斜コレステリック液晶層において、一方の主面に存在する配列軸と他方の主面に存在する配列軸とは、平行であることが好ましい。
【0069】
また、傾斜コレステリック液晶層は、X-Z面においてSEMにより観察されるコレステリック液晶相由来の明部がなす線(明線)同士の間隔が異なる領域が複数存在する形態であってもよい。上述したとおり、明部が2つと暗部が2つで螺旋1ピッチ分に相当する。つまり、コレステリック液晶相由来の明線同士の間隔が互いに異なる各領域においては、各領域毎に螺旋ピッチが異なっているため、選択反射の中心波長λも異なる。上記形態の傾斜コレステリック液晶層とすることで、反射波長帯域をより広げることができる。
この形態の具体例としては、コレステリック液晶層が、赤色光波長域に選択反射の中心波長を有する領域AR、緑色光波長域に選択反射の中心波長を有する領域AG、及び青色光波長域に選択反射の中心波長を有する領域ABを有する形態が挙げられる。領域AR、領域AG、及び、領域ABは、主面に対して斜め方向から光を照射して実施する(好ましくは、配列方向に略平行な方向から光を照射して実施する)マスク露光(パターン状の露光)によって形成できる。特に、傾斜コレステリック液晶層は、主面の面内の任意の方向において螺旋ピッチが連続的に変化する領域を有していることが好ましい。具体的には、主面の面内の任意の方向において領域AR、領域AG、及び領域ABが連続して配置されていることが好ましい。この場合、傾斜コレステリック液晶層は、X-Z面においてSEMにより観察されるコレステリック液晶相由来の明部がなす線同士の間隔が連続的に変化している領域を有する。
なお、上記では、傾斜コレステリック液晶層10が領域AR、領域AG、及び領域ABを有する形態について説明したが、これに制限されない。傾斜コレステリック液晶層は、選択反射波長の異なる領域を2領域以上有する形態であってもよい。また、選択反射の中心波長は赤外または紫外としてもよい。
【0070】
上記1周期Λは、反射偏光顕微鏡観察における明暗線の間隔に相当する。したがって、1周期Λの変動係数(標準偏差/平均値)は、反射偏光顕微鏡観察における明暗線の間隔を傾斜コレステリック液晶層の両主面についてそれぞれ10点測定して算出すればよい。
【0071】
<<傾斜コレステリック液晶層の製造方法>>
本発明に用いられる傾斜コレステリック液晶層を製造するための製造方法として、傾斜コレステリック液晶層の配向基板として所定の液晶層を用い、且つ光照射により螺旋誘起力(HTP)が変化するキラル剤X、又は温度変化により螺旋誘起力が変化するキラル剤Yを含む液晶組成物を使用する方法が挙げられる。
以下に、傾斜コレステリック液晶層の製造方法について詳述する。
【0072】
傾斜コレステリック液晶層の製造方法の一実施形態は、下記工程1及び下記工程2を有する。
工程1:円盤状液晶化合物を含む組成物を用いて、少なくとも一方の表面において上記円盤状液晶化合物の分子軸が上記表面に対して傾斜している液晶層を形成する工程1と、
工程2: 上記液晶層上に、液晶化合物を含む組成物を用いて、傾斜コレステリック液晶層を形成する工程2と、を有する。
以下、工程1及び工程2について、上述した傾斜コレステリック液晶層10を例に挙げて詳述する。
【0073】
〔工程1〕
工程1は、円盤状液晶化合物を含む組成物を用いて液晶層を形成する工程である。
上記液晶層の少なくとも一方の表面において、円盤状液晶化合物の分子軸は、上記表面に対して傾斜している。言い換えると、上記液晶層の少なくとも一方の表面において、円盤状液晶化合物は、その分子軸が上記表面に対して傾斜するように配向している。なお、本製造方法においては、円盤状液晶化合物が傾斜配向した表面(以下「傾斜配向面」ともいう。)を有する液晶層の上記傾斜配向面上に傾斜コレステリック液晶層を形成する。
【0074】
工程1の具体的な方法としては特に制限されず、下記工程1-1及び下記工程1-2を含むことが好ましい。なお、以下においては、円盤状液晶化合物を傾斜配向させる手法として、プレチルト角を有するラビング配向膜を表面に配置した基板を用いて組成物層を形成する方法(工程1-1)を示すが、円盤状液晶化合物を傾斜配向させる手法はこれに制限されず、例えば、液晶層形成用組成物に界面活性剤を添加する手法(例えば下記工程1-1’)であってもよい。この場合、工程1において、工程1-1の代わりに、下記工程1-1’を実施すればよい。
工程1-1’:円盤状液晶化合物及び界面活性剤を含む組成物を用いて、基板(表面にラビング配向膜を配置していなくてもよい)上に組成物層を形成する工程
【0075】
また、円盤状液晶化合物が重合性基を有する場合、工程1は、後述するように、組成物層に対して硬化処理を実施することが好ましい。
【0076】
工程1-1:円盤状液晶化合物を含む組成物(液晶層形成用組成物)を用いて、プレチルト角を有するラビング配向膜を表面に配置した基板上に組成物層を形成する工程
工程1-2:上記組成物層中の円盤状化合物を配向させる工程
以下に、工程1について説明する。
【0077】
<<基板>>
基板は、後述する組成物層を支持する板である。なかでも、透明基板であることが好ましい。なお、透明基板とは、可視光の透過率が60%以上である基板を意図し、その透過率は80%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。
基板を構成する材料は特に制限されず、例えば、セルロース系ポリマー、ポリカーボネート系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、(メタ)アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマー、塩化ビニル系ポリマー、アミド系ポリマー、イミド系ポリマー、スルホン系ポリマー、ポリエーテルスルホン系ポリマー、及び、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー等が挙げられる。
基板には、UV(紫外線)吸収剤、マット剤微粒子、可塑剤、劣化防止剤、及び、剥離剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
なお、基板は、可視光領域で低複屈折性であることが好ましい。例えば、基板の波長550nmにおける位相差は50nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましい。
【0078】
基板の厚さは特に制限されないが、薄型化、及び、取り扱い性の点から、10~200μmが好ましく、20~100μmがより好ましい。
上記厚さは平均厚さを意図し、基板の任意の5点の厚さを測定し、それらを算術平均したものである。この厚さの測定方法に関しては、後述する液晶層の厚さ、及び傾斜コレステリック液晶層の厚さも同様である。
【0079】
プレチルト角を有するラビング配向膜の種類としては特に制限されないが、例えば、ポリビニルアルコール配向膜、及びポリイミド配向膜等を使用できる。
【0080】
<<液晶層形成用組成物>>
以下、液晶層形成用組成物について説明する。
(円盤状液晶化合物)
液晶層形成用組成物は、円盤状液晶化合物を含む。
円盤状液晶化合物としては特に制限されず、公知の化合物を使用できるが、なかでも、トリフェニレン骨格を有するものが好ましい。
円盤状液晶化合物は、重合性基を有していてもよい。重合性基の種類は特に制限されず、付加重合反応が可能な官能基が好ましく、重合性エチレン性不飽和基又は環重合性基がより好ましい。より具体的には、重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基、エポキシ基、又は、オキセタン基が好ましく、(メタ)アクリロイル基がより好ましい。
【0081】
(重合開始剤)
液晶層形成用組成物は、重合開始剤を含んでいてもよい。特に、円盤状液晶化合物が重合性基を有する場合、液晶層形成用組成物は重合開始剤を含むことが好ましい。
重合開始剤としては、紫外線照射によって重合反応を開始可能な光重合開始剤であることが好ましい。光重合開始剤としては、α-カルボニル化合物(米国特許第2367661号、同2367670号の各明細書記載)、アシロインエーテル(米国特許第2448828号明細書記載)、α-炭化水素置換芳香族アシロイン化合物(米国特許第2722512号明細書記載)、多核キノン化合物(米国特許第3046127号、同2951758号の各明細書記載)、トリアリールイミダゾールダイマーとp-アミノフェニルケトンとの組み合わせ(米国特許第3549367号明細書記載)、アクリジン及びフェナジン化合物(特開昭60-105667号公報、米国特許第4239850号明細書記載)及びオキサジアゾール化合物(米国特許第4212970号明細書記載)等が挙げられる。
液晶層形成用組成物中での重合開始剤の含有量(重合開始剤が複数種含まれる場合にはその合計量)は特に制限されないが、円盤状液晶化合物全質量に対して、0.1~20質量%が好ましく、1.0~8.0質量%がより好ましい。
【0082】
(界面活性剤)
液晶層形成用組成物は、上記組成物層の基板側表面及び/又は基板とは反対側の表面に偏在し得る界面活性剤を含んでいてもよい。液晶層形成用組成物が界面活性剤を含む場合、円盤状化合物が所望の傾斜角度で配向しやすくなる。
界面活性剤としては、例えば、オニウム塩化合物(特開2012-208397号明細書記載)、ボロン酸化合物(特開2013-54201明細書記載)、パーフルオロアルキル化合物(特許4592225号明細書記載、ネオス社フタージェント等)、及びこれらの官能基を含む高分子等が挙げられる。
【0083】
界面活性剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
液晶層形成用組成物中での界面活性剤の含有量(界面活性剤が複数種含まれる場合にはその合計量)は特に制限されないが、円盤状化合物全質量に対して、0.01~10質量%が好ましく、0.01~5.0質量%がより好ましく、0.01~2.0質量%が更に好ましい。
【0084】
(溶媒)
液晶層形成用組成物は、溶媒を含んでいてもよい。
溶媒としては、水又は有機溶媒が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;ピリジン等のヘテロ環化合物;ベンゼン、及びヘキサン等の炭化水素;クロロホルム、及びジクロロメタン等のアルキルハライド類;酢酸メチル、酢酸ブチル、及びプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、及びシクロペンタノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、及び1,2-ジメトキシエタン等のエーテル類;1,4-ブタンジオールジアセテート;等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0085】
(その他の添加剤)
液晶層形成用組成物は、1種又は2種類以上の酸化防止剤、紫外線吸収剤、増感剤、安定剤、可塑剤、連鎖移動剤、重合禁止剤、消泡剤、レべリング剤、増粘剤、難燃剤、界面活性物質、分散剤、並びに、染料及び顔料等の色材、等の他の添加剤を含んでいてもよい。
【0086】
<<工程1-1の手順>>
工程1-1において、基板上に組成物層を形成する工程としては、上記基板上に、上述した液晶層形成用組成物の塗膜を形成する工程であることが好ましい。
塗布方法は特に制限されず、例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、及びダイコーティング法等が挙げられる。
なお、必要に応じて、液晶層形成用組成物の塗布後に、基板上に塗布された塗膜を乾燥する処理を実施してもよい。乾燥処理を実施することにより、塗膜から溶媒を除去できる。
【0087】
塗膜の膜厚は特に制限されないが、0.1~20μmが好ましく、0.2~15μmがより好ましく、0.5~10μmが更に好ましい。
【0088】
<<工程1-2の手順>>
工程1-2は、上記塗膜を加熱することによって、上記組成物層中の円盤状化合物を配向させる工程であることが好ましい。
好ましい加熱条件としては、40~150℃(好ましくは、60~100℃)で0.5~5分間(好ましくは、0.5~2分間)にわたって組成物層を加熱することが好ましい。なお、組成物層を加熱する際には、液晶化合物が等方相(Iso)となる温度まで加熱しないことが好ましい。円盤状液晶化合物が等方相となる温度以上に組成物層を加熱してしまうと、傾斜配向した液晶相の欠陥が増加してしまい、好ましくない。
【0089】
〔硬化処理〕
なお、円盤状液晶化合物が重合性基を有する場合、組成物層に対して硬化処理を実施することが好ましい。
硬化処理の方法は特に制限されず、光硬化処理及び熱硬化処理が挙げられる。なかでも、光照射処理が好ましく、紫外線照射処理がより好ましい。円盤状液晶化合物が重合性基を有する場合には、硬化処理は、光照射(特に紫外線照射)による重合反応であるのが好ましく、光照射(特に紫外線照射)によるラジカル重合反応であるのがより好ましい。
紫外線照射には、紫外線ランプ等の光源が利用される。
紫外線の照射エネルギー量は特に制限されないが、一般的には、100~800mJ/cm2程度が好ましい。なお、紫外線を照射する時間は特に制限されないが、得られる層の充分な強度及び生産性の双方の観点から適宜決定すればよい。
【0090】
〔円盤状液晶化合物の平均傾斜角度、及び液晶層の傾斜配向面の方位角規制力〕
上記液晶層の上記傾斜配向面においては、液晶層の表面に対する円盤状液晶化合物の平均傾斜角度(平均チルト角)が、例えば、20~90°であることが好ましく、20~80°であることがより好ましく、30~80°であることが更に好ましく、30~65°であることが更に好ましい。
なお、上記平均傾斜角度は、液晶層断面の偏光顕微鏡観察において、円盤状液晶化合物の分子軸と液晶層の表面とのなす角度を任意の5か所以上で測定して、それらを算術平均した値である。
上記液晶層の上記傾斜配向面における、液晶層の表面に対する円盤状液晶化合物の平均傾斜角度は、液晶層断面の偏光顕微鏡観察することにより測定できる。
また、上記液晶層の上記傾斜配向面は、方位角規制力が、例えば、0.00030J/m2以下であり、0.00020J/m2未満であることが好ましく、0.00010J/m2以下がより好ましく、0.00005J/m2以下が更に好ましい。なお、下限は特に制限されないが、例えば、0.00000J/m2以上である。
上記液晶層の上記傾斜配向面における方位角規制力は、J. Appl. Phys. 1992, 33, L1242に記載の方法により測定できる。
【0091】
上記液晶層の上記傾斜配向面における円盤状液晶化合物の傾斜角度を調整することにより、傾斜コレステリック液晶層中の液晶化合物の分子軸の主面に対する傾斜角度が所定の角度に調整しやすい利点がある。つまり、上述した傾斜コレステリック液晶層10(図10及び図11参照)を例に挙げると、傾斜コレステリック液晶層10中の液晶化合物14の分子軸L1の主面11に対する平均角度θ3の調整がし易い利点がある。
また、上記液晶層の上記傾斜配向面における方位角規制力を調整することにより、傾斜コレステリック液晶層中の主面において、液晶化合物の分子軸の向きが面内の一方向に連続的に回転しながら変化しやすくなる。つまり、上述した傾斜コレステリック液晶層10(図10及び図11参照)を例に挙げると、上記液晶層の上記傾斜配向面における方位角規制力を調整することにより、液晶化合物14は、X-Y面内の互いに平行な複数の配列軸D1に沿って配列し、且つ、それぞれの配列軸D1上において、液晶化合物14の分子軸L1の向きが、配列軸D1に沿った面内の一方向に連続的に回転しながら変化しやすい。
【0092】
〔工程2〕
工程2は、上記液晶層上に、液晶化合物を含む組成物を用いて傾斜コレステリック液晶層を形成する工程である。以下、工程2について説明する。
【0093】
工程2は、下記工程2-1及び下記工程2-2を有することが好ましい。
工程2-1:
工程1で形成した液晶層上に、下記条件1又は下記条件2を満たす組成物層を形成する工程
条件1:上記組成物層中の上記液晶化合物の少なくとも一部が、上記組成物層表面に対して、傾斜配向している
条件2:上記組成物層中の上記液晶化合物のチルト角が厚み方向に沿って連続的に変化するように、上記液晶化合物が配向している
工程2-2:
上記組成物層中の上記液晶化合物をコレステリック配向させる処理を実施して、傾斜コレステリック液晶層を形成する工程。
以下に、工程2-1及び工程2-2について説明する。
【0094】
<<工程2-1の作用機序>>
まず、図17に、工程2-1により得られる条件1を満たす組成物層の断面模式図を示す。なお、図17に示す液晶化合物14は、棒状液晶化合物である。
【0095】
図17に示すように、組成物層100は、円盤状液晶化合物を用いて形成された液晶層102上に形成される。液晶層102は、組成物層100と接する側の表面において、円盤状液晶化合物の分子軸が、液晶層102の表面に対して傾斜している傾斜配向面102aを有する(図18参照)。
図17に示すように、液晶層102の傾斜配向面102a上に配置される組成物層100中、液晶化合物14は、傾斜配向面102aによって緩く配向規制されることで、傾斜配向面102aに対して傾斜するように配向する。言い換えると、組成物層100中において、液晶化合物14は、液晶化合物14の分子軸L1が組成物層100の表面に対して所定の角度θ10となるように一定の方向(一軸方向)に配向している。
【0096】
なお、図17では、組成物層100の厚み方向R1の全域に渡って、液晶化合物14が、傾斜配向面102aに対して分子軸L1が所定の角度θ10となるように配向している実施形態を示したが、工程2-1により得られる条件1を満たす組成物層としては、液晶化合物14の一部が傾斜配向していればよく、組成物層100の傾斜配向面102a側表面(図17中の領域Aに該当)、及び、組成物層100の傾斜配向面102a側とは反対側の表面(図17中の領域Bに該当)の少なくとも一方において、液晶化合物14が組成物層100の表面に対して分子軸L1が所定の角度θ10となるように配向していることが好ましく、傾斜配向面102a側表面において、液晶化合物14が、組成物層100の表面に対して分子軸L1が所定の角度θ10となるように傾斜配向していることがより好ましい。なお、領域A及び領域Bのいずれか少なくとも一方において、液晶化合物14が組成物層100の表面に対して分子軸L1が所定の角度θ10となるように配向していれば、続く工程2-2において液晶化合物14をコレステリック液晶相の状態とした際に、領域A及び/又は領域B中の配向された液晶化合物14に基づく配向規制力により、他の領域の液晶化合物14のコレステリック配向を誘起させることができる。
【0097】
また、図示はしないが、上述した条件2を満たす組成物層は、上記図17に示す組成物層100において、液晶化合物14が、組成物層100の表面に対してハイブリッド配向したものに相当する。つまり、上述の図17の説明において、角度θ10が厚さ方向で連続的に変化する態様に相当する。具体的には、液晶化合物14は、そのチルト角θ20(組成物層100の表面に対する分子軸L1の角度)が組成物層100の厚み方向Rに沿って連続的に変化するように配向する。
なお、工程2-1により得られる条件2を満たす組成物層としては、液晶化合物14の一部がハイブリッド配向していればよく、組成物層100の傾斜配向面102a側表面(図17中の領域Aに該当)、及び、組成物層100の傾斜配向面102a側とは反対側の表面(図17中の領域Bに該当)の少なくとも一方において、液晶化合物14が傾斜配向面102aに対してハイブリッド配向していることが好ましく、傾斜配向面102a側表面において液晶化合物14が組成物層100の表面に対してハイブリッド配向していることがより好ましい。
【0098】
角度θ10及びθ20は、組成物層全体において0°でなければ特に制限されない(なお、角度θ10が組成物層全体において0°である場合、液晶化合物14の分子軸L1は、液晶化合物14が棒状液晶化合物であるときは傾斜配向面102aに対して平行となる。)。言い換えると、組成物層の一部の領域において角度θ10及びθ20が0°であることを妨げるものではない。
角度θ10及びθ20としては、例えば0~90°である。なかでも、角度θ10及びθ20は、0~50°であることが好ましく、0~10°であることがより好ましい。
【0099】
なお、傾斜コレステリック液晶層の反射異方性がより優れる点で、工程2-1により得られる組成物層は、条件1又は条件2を満たす組成物層が好ましく、条件2を満たす組成物層がより好ましい。
【0100】
<<工程2-2の作用機序>>
上記工程2-1により条件1又は条件2を満たす組成物層を得た後、工程2-2において上記組成物層中の液晶化合物をコレステリック配向させて(言い換えると、上記液晶化合物をコレステリック液晶相として)、傾斜コレステリック液晶層を形成する。
この結果として、図18に示すような傾斜コレステリック液晶層(図10及び図11に示す傾斜コレステリック液晶層10)が得られる。
【0101】
図18に示す積層体50は、円盤状液晶化合物18を用いて形成された液晶層102と、液晶層102上に接するように配置された傾斜コレステリック液晶層10とを含む。
液晶層102は、傾斜コレステリック液晶層10と接する側の表面において、円盤状液晶化合物18の分子軸L5が、液晶層102の表面(傾斜コレステリック液晶層10の主面11及び主面12(X-Y面)にも相当する。)に対して傾斜している傾斜配向面102aを有する。つまり、傾斜配向面102aにおいて、円盤状液晶化合物18は、その分子軸L5が液晶層102の表面に対して傾斜するように配向している。
上記液晶層102の上記傾斜配向面102aにおいては、上記液晶層102の表面に対する円盤状液晶化合物18の平均傾斜角度θ4(上記液晶層102の表面と円盤状液晶化合物18のなす角度θ5の角度の平均値)が、例えば、20~90°であることが好ましく、20~80°であることがより好ましく、30~80°であることが更に好ましく、30~65°であることが特に好ましい。
上記液晶層102の上記傾斜配向面102aにおける、液晶層102の表面に対する円盤状液晶化合物18の平均傾斜角度θ5は、液晶層断面を偏光顕微鏡観察することにより測定できる。なお、上記平均傾斜角度は、液晶層断面の偏光顕微鏡観察において、円盤状液晶化合物18の分子軸L5と液晶層102の表面とのなす角度を任意の5か所以上で測定して、それらを算術平均した値である。
また、上記液晶層102の上記傾斜配向面102aは、方位角規制力が、例えば、0.00030J/m2以下であり、0.00020J/m2未満であることが好ましく、0.00010J/m2以下がより好ましく、0.00005J/m2以下がより好ましい。なお、下限は特に制限されないが、例えば、0.00000J/m2以上である。
上記液晶層102の上記傾斜配向面102aにおける方位角規制力は、J. Appl. Phys. 1992, 33, L1242に記載の方法により測定できる。
なお、図18において傾斜コレステリック液晶層の螺旋軸と円盤状液晶化合物の分子軸とは逆方向に傾斜しているように記載されているが、この傾斜方向は一致していてもよい。
また、積層体50において、円盤状液晶化合物18は、その配向状態が層中において保持されていれば十分であり、最終的に層中の組成物がもはや液晶性を示す必要はない。
【0102】
なお、傾斜コレステリック液晶層10については、既に上述したとおりである。
【0103】
<<液晶組成物の作用機序>>
上述したとおり、本発明者らは、上記傾斜コレステリック液晶層の製造方法を達成する方法の一つとして、光照射により螺旋誘起力(HTP)が変化するキラル剤X、又は温度変化により螺旋誘起力が変化するキラル剤Yを含む液晶組成物を使用する方法を見いだしている。以下において、キラル剤Xを含む液晶組成物の作用機序、及びキラル剤Yを含む液晶組成物の作用機序について詳述する。
【0104】
なお、キラル剤の螺旋誘起力(HTP)は、下記式(1A)で表される螺旋配向能力を示すファクターである。
式(1A) HTP=1/(螺旋ピッチの長さ(単位:μm)×液晶組成物中におけるキラル剤濃度(質量%))[μm-1
螺旋ピッチの長さとは、コレステリック液晶相の螺旋構造のピッチP(=螺旋の周期)の長さをいい、液晶便覧(丸善株式会社出版)の196ページに記載の方法で測定できる。なお、液晶組成物中におけるキラル剤濃度とは、組成物中の全固形分に対するキラル剤の濃度(質量%)を意図する。
なお、上記HTPの値は、キラル剤の種類のみならず、組成物中に含まれる液晶化合物の種類によっても影響を受ける。よって、例えば、所定のキラル剤X及び液晶化合物Aを含む組成物と、所定のキラル剤X及び液晶化合物Aとは異なる液晶化合物Bを含む組成物とを用意し、同一温度で両者のHTPを測定した場合、その値が異なる場合もある。
なお、キラル剤の螺旋誘起力(HTP)は、下記式(1B)としても表される。
式(1B):HTP=(液晶化合物の平均屈折率)/{(液晶組成物中におけるキラル剤濃度(質量%))×(中心反射波長(nm))}[μm-1
なお、液晶組成物が、2種以上のキラル剤を含む場合、上記式(1A)及び(1B)における「液晶組成物中におけるキラル剤濃度」は全キラル剤の濃度の総和に相当する。
【0105】
(キラル剤Xを含む液晶組成物の作用機序)
以下において、キラル剤Xを含む液晶組成物を使用して傾斜コレステリック液晶層を形成する方法を説明する。
【0106】
キラル剤Xを含む液晶組成物を使用して傾斜コレステリック液晶層を形成する場合、工程2-1において条件1又は条件2を満たす組成物層を形成した後、工程2-2において、上記組成物層に光照射処理を施すことにより、上記組成物層中の液晶化合物をコレステリック配向させる。つまり、上記工程2-2では、光照射処理によって、組成物層中のキラル剤Xの螺旋誘起力を変化させることにより、組成物層中の液晶化合物をコレステリック配向させている。
【0107】
ここで、組成物層中の液晶化合物を配向させてコレステリック液晶相の状態とする上で、液晶化合物の螺旋を誘起する螺旋誘起力は、組成物層中に含まれているキラル剤の加重平均螺旋誘起力に概ね該当すると考えられる。ここでいう加重平均螺旋誘起力とは、例えば、2種類のキラル剤(キラル剤A及びキラル剤B)を併用した場合、下記式(1C)により表される。
式(1C) 加重平均螺旋誘起力(μm-1)=(キラル剤Aの螺旋誘起力(μm-1)×液晶組成物中におけるキラル剤Aの濃度(質量%)+キラル剤Bの螺旋誘起力(μm-1)×液晶組成物中におけるキラル剤Bの濃度(質量%))/(液晶組成物中におけるキラル剤Aの濃度(質量%)+液晶組成物中におけるキラル剤Bの濃度(質量%))
ただし、上記式(1C)において、キラル剤の螺旋方向が右巻きの場合、その螺旋誘起力は正の値とする。また、キラル剤の螺旋方向が左巻きの場合、その螺旋誘起力は負の値とする。つまり、例えば、螺旋誘起力が10μm-1のキラル剤の場合、上記キラル剤により誘起される螺旋の螺旋方向が右であるときは、螺旋誘起力を10μm-1として表す。一方、上記キラル剤により誘起される螺旋の螺旋方向が左であるときは、螺旋誘起力を-10μm-1として表す。
なお、上記式(1C)により得られる加重平均螺旋誘起力(μm-1)は、上記式(1A)及び上記式(1B)からも算出できる。
【0108】
以下に、例えば、組成物層中に下記特性を有するキラル剤A及びキラル剤Bが含まれている場合の加重平均螺旋誘起力について述べる。
図19に示すように、上記キラル剤Aは、キラル剤Xに該当し、左方向(-)の螺旋誘起力を有し、光照射により螺旋誘起力を低減させるキラル剤である。
また、図19に示すように、上記キラル剤Bは、キラル剤Aとは逆方向である右方向(+)の螺旋誘起力を有し、光照射により螺旋誘起力が変化しないキラル剤である。ここで、未光照射時の「キラル剤Aの螺旋誘起力(μm-1)×キラル剤Aの濃度(質量%)」と「キラル剤Bの螺旋誘起力(μm-1)×キラル剤Bの濃度(質量%)」は等しいものとする。なお、図19において、縦軸の「キラル剤の螺旋誘起力(μm-1)×キラル剤の濃度(質量%)」は、その値がゼロから離れるほど、螺旋誘起力が大きくなる。
組成物層が上記キラル剤A及びキラル剤Bを含む場合、液晶化合物の螺旋を誘起する螺旋誘起力は、キラル剤A及びキラル剤Bの加重平均螺旋誘起力に一致する。この結果として、上記キラル剤Aと上記キラル剤Bとを併用した系においては、図20に示すように、液晶化合物の螺旋を誘起する螺旋誘起力は、照射光量が大きいほど、キラル剤B(キラル剤Yに該当)が誘起する螺旋の方向(+)に螺旋誘起力が大きくなると考えられる。
【0109】
本実施形態の傾斜コレステリック液晶層の製造方法においては、工程2-1により形成される組成物層中のキラル剤の加重平均螺旋誘起力の絶対値は特に制限されないが、組成物層が形成しやすい点で、例えば、0.0~1.9μm-1が好ましく、0.0~1.5μm-1がより好ましく、0.0~0.5μm-1が更に好ましく、ゼロが最も好ましい(図19参照)。一方で、工程2-2の光照射処理の際においては、組成物層中のキラル剤の加重平均螺旋誘起力の絶対値は、液晶化合物をコレステリック配向させることが可能であれば特に制限されないが、例えば、10.0μm-1以上が好ましく、10.0~200.0μm-1がより好ましく、20.0~200.0μm-1が更に好ましい。
つまり、工程2-1の際には組成物層中のキラル剤Xはその螺旋誘起力が略ゼロに相殺されることによって、組成物層中の液晶化合物を配向させて、傾斜配向、又はハイブリッド配向とすることができる。次いで、工程2-2の光照射処理を契機として、キラル剤Xの螺旋誘起力を変化させて、組成物層中のキラル剤の加重平均螺旋誘起力を右方向(+)又は左方向(-)のいずれかの方向に増大させることで、傾斜コレステリック液晶層(例えば、傾斜コレステリック液晶層10)が得られる。
【0110】
(キラル剤Yを含む液晶組成物の作用機序)
次に、キラル剤Yを含む液晶組成物を使用して傾斜コレステリック液晶層を形成する方法を説明する。
キラル剤Yを含む液晶組成物を使用して傾斜コレステリック液晶層を形成する場合、工程2-1において条件1又は条件2を満たす組成物層を形成した後、工程2-2において、上記組成物層に冷却処理又は加熱処理を施すことにより、上記組成物層中の液晶化合物をコレステリック配向させる。つまり、上記工程2-2では、冷却処理又は加熱処理によって、組成物層中のキラル剤Yの螺旋誘起力を変化させることにより、組成物層中の液晶化合物をコレステリック配向させている。
【0111】
上述の通り、組成物層中の液晶化合物を配向させてコレステリック液晶相の状態とする上で、液晶化合物の螺旋を誘起する螺旋誘起力は、組成物層中に含まれているキラル剤の加重平均螺旋誘起力に概ね相当すると考えられる。ここでいう加重平均螺旋誘起力とは、上述した通りである。
以下に、工程2―2において冷却処理を施すことによって上記組成物層中の液晶化合物をコレステリック配向させる実施形態を一例として、キラル剤Yの作用機序を説明する。
まず、以下において、例えば、組成物層中に下記特性を有するキラル剤A及びキラル剤Bが含まれている場合の加重平均螺旋誘起力について述べる。
図21に示すように、上記キラル剤Aは、キラル剤Yに該当し、工程1において条件1又は条件2を満たす組成物層を形成するための液晶化合物の配向処理が実施される温度T11、及び工程2-2の冷却処理が実施される温度T12において左方向(-)の螺旋誘起力を有し、より低温領域であるほど左方向(-)への螺旋誘起力を増大させるキラル剤である。また、図21に示すように、上記キラル剤Bは、キラル剤Aとは逆方向である右方向(+)の螺旋誘起力を有し、温度変化により螺旋誘起力が変化しないキラル剤である。ここで、温度T11時の「キラル剤Aの螺旋誘起力(μm-1)×キラル剤Aの濃度(質量%)」と「キラル剤Bの螺旋誘起力(μm-1)×キラル剤Bの濃度(質量%)」は等しいものとする。
組成物層が上記キラル剤A及びキラル剤Bを含む場合、液晶化合物の螺旋を誘起する螺旋誘起力は、キラル剤A及びキラル剤Bの加重平均螺旋誘起力に一致する。この結果として、上記キラル剤Aと上記キラル剤Bとを併用した系においては、図22に示すように、液晶化合物の螺旋を誘起する螺旋誘起力は、より低温領域であるほど、キラル剤A(キラル剤Yに該当)が誘起する螺旋の方向(-)に螺旋誘起力が大きくなると考えられる。
【0112】
本実施形態の傾斜コレステリック液晶層の製造方法においては、組成物層中のキラル剤の加重平均螺旋誘起力の絶対値は特に制限されないが、工程2-1の条件1又は条件2を満たす組成物層を形成する際においては(つまり、本実施形態の場合、条件1又は条件2を満たす組成物層を形成するための液晶化合物の配向処理が実施される温度T11においては)組成物層が形成しやすい点で、0.0~1.9μm-1が好ましく、0.0~1.5μm-1がより好ましく、0.0~0.5μm-1が更に好ましく、ゼロが最も好ましい。
一方で、工程2-2の冷却処理が実施される温度T12においては、組成物層中のキラル剤の加重平均螺旋誘起力の絶対値は、液晶化合物をコレステリック配向させることが可能であれば特に制限されないが、10.0μm-1以上が好ましく、10.0~200.0μm-1がより好ましく、20.0~200.0μm-1が更に好ましい(図22参照)。
つまり、温度T11においてキラル剤Yはその螺旋誘起力が略ゼロに相殺されているため、液晶化合物を傾斜配向又はハイブリッド配向とすることができる。次いで、工程2-2の冷却処理又は加熱処理(温度T12への温度変化)を契機として、キラル剤Yの螺旋誘起力を増大させて、組成物層中のキラル剤の加重平均螺旋誘起力を右方向(+)又は左方向(-)のいずれかの方向に増大させることで、傾斜コレステリック液晶層(例えば、傾斜コレステリック液晶層10)が得られる。
【0113】
<<工程2の手順>>
以下に、工程2の手順について詳述する。なお、以下においては、キラル剤Xを含む液晶組成物を使用する態様と、キラル剤Yを含む液晶組成物を使用する態様とに分けて詳述する。
【0114】
(キラル剤Xを含む液晶組成物を使用する態様)
以下、キラル剤Xを含む液晶組成物を使用した工程2の手順(以下、「工程2X」ともいう。)について説明する。
工程2Xは、下記工程2X-1及び工程2X-2を少なくとも有する。
工程2X-1:キラル剤X及び液晶化合物を含む液晶組成物を用いて、液晶層上に下記条件1又は下記条件2を満たす組成物層を形成する工程
工程2X-2:上記組成物層に対して光照射処理を施すことにより、上記組成物層中の上記液晶化合物をコレステリック配向させて傾斜コレステリック液晶層を形成する工程
条件1:上記組成物層中の上記液晶化合物の少なくとも一部が、上記組成物層表面に対して、傾斜配向している
条件2:上記組成物層中の上記液晶化合物のチルト角が厚み方向に沿って連続的に変化するように、上記液晶化合物が配向している
また、液晶化合物が重合性基を有する場合、工程2Xは、後述するように、組成物層に対して硬化処理を実施することが好ましい。
【0115】
以下、各工程で使用される材料、及び、各工程の手順について詳述する。
【0116】
≪工程2X-1≫
工程2X-1は、キラル剤X及び液晶化合物を含む液晶組成物(以下、「組成物X」ともいう)。を用いて、液晶層上に上記条件1又は上記条件2を満たす組成物層を形成する工程である。
以下では、組成物Xについて詳述し、その後、工程の手順について詳述する。
【0117】
≪≪組成物X≫≫
組成物Xは、液晶化合物と、光照射により螺旋誘起力が変化するキラル剤Xと、を含む。以下に、各成分について説明する。
上述したとおり、工程2X-1により得られる組成物層中のキラル剤の加重平均螺旋誘起力の絶対値は、組成物層が形成しやすい点で、0.0~1.9μm-1が好ましく、0.0~1.5μm-1がより好ましく、0.0~0.5μm-1が更に好ましく、ゼロが最も好ましい。したがって、キラル剤Xが未光照射処理の状態で上記所定範囲を超える螺旋誘起力を有する場合、組成物Xは、キラル剤Xとは逆方向の螺旋を誘起させるキラル剤(以下、「キラル剤XA」ともいう。)を含み、工程2X-1の際にはキラル剤Xの螺旋誘起力を略ゼロに相殺させておく(つまり、工程2X-1により得られる組成物層中のキラル剤の加重平均螺旋誘起力を上記所定範囲としておく)ことが好ましい。なお、キラル剤XAは、光照射処理により螺旋誘起力を変化させない化合物であることがより好ましい。
また、液晶組成物がキラル剤としてキラル剤Xを複数種含むときであって、未光照射処理の状態で複数種のキラル剤Xの加重平均螺旋誘起力が上記所定範囲外の螺旋誘起力である場合、「キラル剤Xとは逆方向の螺旋を誘起させる他のキラル剤XA」とは、上記複数種のキラル剤Xの加重平均螺旋誘起力に対して逆方向の螺旋を誘起させるキラル剤を意図する。
キラル剤Xが一種単独で、未光照射処理の状態で螺旋誘起力を有さず、光照射によって螺旋誘起力を増大させる特性を有する場合、キラル剤XAを併用しなくてもよい。
【0118】
・液晶化合物
液晶化合物の種類は、特に制限されない。
一般的に、液晶化合物はその形状から、棒状タイプ(棒状液晶化合物)と円盤状タイプ(ディスコティック液晶化合物、円盤状液晶化合物)とに分類できる。更に、棒状タイプ及び円盤状タイプには、それぞれ低分子タイプと高分子タイプとがある。高分子とは一般に重合度が100以上のものを指す(高分子物理・相転移ダイナミクス,土井 正男 著,2頁,岩波書店,1992)。本発明では、いずれの液晶化合物を用いることもできる。また、2種以上の液晶化合物を併用してもよい。
【0119】
液晶化合物は、重合性基を有していてもよい。重合性基の種類は特に制限されず、付加重合反応が可能な官能基が好ましく、重合性エチレン性不飽和基又は環重合性基がより好ましい。より具体的には、重合性基としては、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、スチリル基、アリル基、エポキシ基、又は、オキセタン基が好ましく、(メタ)アクリロイル基がより好ましい。
【0120】
液晶化合物としては、以下の式(I)で表される液晶化合物が、好適に利用される。
【0121】
【化1】
【0122】
式中、
Aは、置換基を有していてもよいフェニレン基又は置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基を示し、Aのうち少なくとも1つは置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基を示し、
Lは、単結合、又は、-CH2O-、-OCH2-、-(CH22OC(=O)-、-C(=O)O(CH22-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-CH=N-N=CH-、-CH=CH-、-C≡C-、-NHC(=O)-、-C(=O)NH-、-CH=N-、-N=CH-、-CH=CH-C(=O)O-、及び、-OC(=O)-CH=CH-からなる群から選択される連結基を示し、
mは3~12の整数を示し、
Sp1及びSp2は、それぞれ独立に、単結合、又は、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、及び、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において1つ又は2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、又はC(=O)O-で置換された基からなる群から選択される連結基を示し、
1及びQ2は、それぞれ独立に、水素原子、又は、以下の式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基を示し、ただしQ1及びQ2のいずれか一方は重合性基を示す;
【化2】
【0123】
Aは、置換基を有していてもよいフェニレン基、又は、置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基である。本明細書において、フェニレン基というとき、1,4-フェニレン基であるのが好ましい。
なお、Aのうち少なくとも1つは置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基である。
m個のAは、互いに同一でも異なっていてもよい。
【0124】
mは3~12の整数を示し、3~9の整数であるのが好ましく、3~7の整数であるのがより好ましく、3~5の整数であるのが更に好ましい。
【0125】
式(I)中の、フェニレン基及びトランス-1,4-シクロヘキシレン基が有していてもよい置換基としては、特に制限されず、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アルキルエーテル基、アミド基、アミノ基、及びハロゲン原子、並びに、上記の置換基を2つ以上組み合わせて構成される基からなる群から選択される置換基が挙げられる。また、置換基の例としては、後述の-C(=O)-X3-Sp3-Q3で表される置換基が挙げられる。フェニレン基及びトランス-1,4-シクロヘキシレン基は、置換基を1~4個有していてもよい。2個以上の置換基を有するとき、2個以上の置換基は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0126】
本明細書において、アルキル基は直鎖及び分岐のいずれでもよい。アルキル基の炭素数は1~30が好ましく、1~10がより好ましく、1~6が更に好ましい。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,1-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、及び、ドデシル基等が挙げられる。アルコキシ基中のアルキル基の説明も、上記アルキル基に関する説明と同じである。また、本明細書において、アルキレン基というときのアルキレン基の具体例としては、上記のアルキル基の例それぞれにおいて、任意の水素原子を1つ除いて得られる2価の基が挙げられる。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、及び、ヨウ素原子が挙げられる。
【0127】
本明細書において、シクロアルキル基の炭素数は、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、また、20以下が好ましく、10以下がより好ましく、8以下が更に好ましく、6以下が特に好ましい。シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、及び、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0128】
フェニレン基及びトランス-1,4-シクロヘキシレン基が有していてもよい置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、及び、-C(=O)-X3-Sp3-Q3からなる群から選択される置換基が好ましい。ここで、X3は単結合、-O-、-S-、もしくは-N(Sp4-Q4)-を示すか、又は、Q3及びSp3と共に環構造を形成している窒素原子を示す。Sp3及びSp4は、それぞれ独立に、単結合、又は、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、及び、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において1つ又は2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、又はC(=O)O-で置換された基からなる群から選択される連結基を示す。
3及びQ4はそれぞれ独立に、水素原子、シクロアルキル基、シクロアルキル基において1つもしくは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、もしくは-C(=O)O-で置換された基、又は式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの重合性基を示す。
【0129】
シクロアルキル基において1つ又は2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、又はC(=O)O-で置換された基として、具体的には、テトラヒドロフラニル基、ピロリジニル基、イミダゾリジニル基、ピラゾリジニル基、ピペリジル基、ピペラジニル基、及び、モルホルニル基等が挙げられる。これらのうち、テトラヒドロフラニル基が好ましく、2-テトラヒドロフラニル基がより好ましい。
【0130】
式(I)において、Lは、単結合、又は、-CH2O-、-OCH2-、-(CH22OC(=O)-、-C(=O)O(CH22-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-CH=CH-C(=O)O-、及び、-OC(=O)-CH=CH-からなる群から選択される連結基を示す。Lは、-C(=O)O-又はOC(=O)-であるのが好ましい。m個のLは互いに同一でも異なっていてもよい。
【0131】
Sp1及びSp2は、それぞれ独立に、単結合、又は、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、及び、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において1つ又は2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、又は、-C(=O)O-で置換された基からなる群から選択される連結基を示す。Sp1及びSp2はそれぞれ独立に、両末端にそれぞれ-O-、-OC(=O)-、及び、-C(=O)O-からなる群から選択される連結基が結合した炭素数1から10の直鎖のアルキレン基、-OC(=O)-、-C(=O)O-、-O-、及び、炭素数1から10の直鎖のアルキレン基からなる群から選択される基を1又は2以上組み合わせて構成される連結基であるのが好ましく、両末端に-O-がそれぞれ結合した炭素数1から10の直鎖のアルキレン基であるのがより好ましい。
【0132】
1及びQ2はそれぞれ独立に、水素原子、又は、以下の式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基を示す。ただし、Q1及びQ2のいずれか一方は重合性基を示す。
【0133】
【化3】
【0134】
重合性基としては、アクリロイル基(式(Q-1))又はメタクリロイル基(式(Q-2))が好ましい。
【0135】
上記液晶化合物の具体例としては、以下の式(I-11)で表される液晶化合物、式(I-21)で表される液晶化合物、式(I-31)で表される液晶化合物が挙げられる。上記以外にも、特開2013-112631号公報の式(I)で表される化合物、特開2010-70543号公報の式(I)で表される化合物、特開2008-291218号公報の式(I)で表される化合物、特許第4725516号の式(I)で表される化合物、特開2013-087109号公報の一般式(II)で表される化合物、特開2007-176927号公報の段落[0043]記載の化合物、特開2009-286885号公報の式(1-1)で表される化合物、WO2014/10325号の一般式(I)で表される化合物、特開2016-81035号公報の式(1)で表される化合物、並びに、特開2016-121339号公報の式(2-1)及び式(2-2)で表される化合物、等に記載の公知の化合物が挙げられる。
【0136】
式(I-11)で表される液晶化合物
【化4】
【0137】
式中、R11は水素原子、炭素数1から12の直鎖もしくは分岐のアルキル基、又は、-Z12-Sp12-Q12を示し、
11は単結合、-C(=O)O-、又は、-O(C=O)-を示し、
12は-C(=O)O-、-OC(=O)-、又は、-CONR2-を示し、
2は、水素原子、又は、炭素数1から3のアルキル基を示し、
11及びZ12はそれぞれ独立に、単結合、-O-、-NH-、-N(CH3)-、-S-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、又は、-C(=O)NR12-を示し、
12は水素原子又はSp12-Q12を示し、
Sp11及びSp12はそれぞれ独立に、単結合、Q11で置換されていてもよい炭素数1から12の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、又は、Q11で置換されていてもよい炭素数1から12の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において、いずれか1つ以上の-CH2-を-O-、-S-、-NH-、-N(Q11)-、又は、-C(=O)-に置き換えて得られる連結基を示し、
11は水素原子、シクロアルキル基、シクロアルキル基において1つ又は2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、もしくは-C(=O)O-で置換された基、又は、式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基を示し、
12は水素原子又は式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基を示し、
11は0~2の整数を示し、
11は1又は2の整数を示し、
11は1~3の整数を示し、
複数のR11、複数のL11、複数のL12、複数のl11、複数のZ11、複数のSp11、及び、複数のQ11はそれぞれ互いに同じでも異なっていてもよい。
また、式(I-11)で表される液晶化合物は、R11として、Q12が式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基である-Z12-Sp12-Q12を少なくとも1つ含む。
また、式(I-11)で表される液晶化合物は、Z11が-C(=O)O-又はC(=O)NR12-、及び、Q11が式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基である-Z11-Sp11-Q11であるのが好ましい。また、式(I-11)で表される液晶化合物は、R11として、Z12が-C(=O)O-又はC(=O)NR12-、及び、Q12が式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基である-Z12-Sp12-Q12であるのが好ましい。
【0138】
式(I-11)で表される液晶化合物に含まれる1,4-シクロヘキシレン基はいずれもトランス-1,4-シクロヘキレン基である。
式(I-11)で表される液晶化合物の好適態様としては、L11が単結合、l11が1(ジシクロヘキシル基)、かつ、Q11が式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基である化合物が挙げられる。
式(I-11)で表される液晶化合物の他の好適態様としては、m11が2、l11が0、かつ、2つのR11がいずれも-Z12-Sp12-Q12を表し、Q12が式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択される重合性基である化合物が挙げられる。
【0139】
式(I-21)で表される液晶化合物
【化5】
【0140】
式中、Z21及びZ22は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基、又は、置換基を有していてもよいフェニレン基を示し、
上記置換基はいずれもそれぞれ独立に、-CO-X21-Sp23-Q23、アルキル基、及びアルコキシ基からなる群から選択される1から4個の置換基であり、
m21は1又は2の整数を示し、n21は0又は1の整数を示し、
m21が2を示すときn21は0を示し、
m21が2を示すとき2つのZ21は同一であっても異なっていてもよく、
21及びZ22の少なくともいずれか一つは置換基を有していてもよいフェニレン基であり、
21、L22、L23及びL24はそれぞれ独立に、単結合、又は、-CH2O-、-OCH2-、-(CH22OC(=O)-、-C(=O)O(CH22-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-CH=CH-C(=O)O-、及びOC(=O)-CH=CH-からなる群から選択される連結基を示し、
21は-O-、-S-、もしくは-N(Sp25-Q25)-を示すか、又は、Q23及びSp23と共に環構造を形成する窒素原子を示し、
21は1から4の整数を示し、
Sp21、Sp22、Sp23、及びSp25はそれぞれ独立に、単結合、又は、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、及び、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において1つ又は2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、又はC(=O)O-で置換された基からなる群から選択される連結基を示し、
21及びQ22はそれぞれ独立に、式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの重合性基を示し、
23は水素原子、シクロアルキル基、シクロアルキル基において1つもしくは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、もしくは-C(=O)O-で置換された基、式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの重合性基、又は、X21がQ23及びSp23と共に環構造を形成する窒素原子である場合において単結合を示し、
25は、水素原子、シクロアルキル基、シクロアルキル基において1つもしくは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、もしくは-C(=O)O-で置換された基、又は、式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの重合性基を示し、Sp25が単結合のとき、Q25は水素原子ではない。
【0141】
式(I-21)で表される液晶化合物は、1,4-フェニレン基及びトランス-1,4-シクロヘキシレン基が交互に存在する構造であることも好ましく、例えば、m21が2であり、n21が0であり、かつ、Z21がQ21側からそれぞれ置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基であるか、又は、m21が1であり、n21が1であり、Z21が置換基を有していてもよいアリーレン基であり、かつ、Z22が置換基を有していてもよいアリーレン基である構造が好ましい。
【0142】
式(I-31)で表される液晶化合物;
【0143】
【化6】
【0144】
式中、R31及びR32はそれぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、及び、-C(=O)-X31-Sp33-Q33からなる群から選択される基であり、
n31及びn32はそれぞれ独立に、0~4の整数を示し、
31は単結合、-O-、-S-、もしくは-N(Sp34-Q34)-を示すか、又は、Q33及びSp33と共に環構造を形成している窒素原子を示し、
31は、置換基を有していてもよいフェニレン基を示し、
32は、置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキシレン基、又は、置換基を有していてもよいフェニレン基を示し、
上記置換基はいずれもそれぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、及び、-C(=O)-X31-Sp33-Q33からなる群から選択される1から4個の置換基であり、
m31は1又は2の整数を示し、m32は0~2の整数を示し、
m31及びm32が2を示すとき2つのZ31、Z32は同一であっても異なっていてもよく、
31及びL32はそれぞれ独立に、単結合、又は、-CH2O-、-OCH2-、-(CH22OC(=O)-、-C(=O)O(CH22-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-CH=CH-C(=O)O-、及びOC(=O)-CH=CH-からなる群から選択される連結基を示し、
Sp31、Sp32、Sp33及びSp34はそれぞれ独立に、単結合、又は、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、及び、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において1つ又は2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、又はC(=O)O-で置換された基からなる群から選択される連結基を示し、
31及びQ32はそれぞれ独立に、式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの重合性基を示し、
33及びQ34はそれぞれ独立に、水素原子、シクロアルキル基、シクロアルキル基において1つもしくは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、もしくは-C(=O)O-で置換された基、又は、式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの重合性基を示し、Q33はX31及びSp33と共に環構造を形成している場合において、単結合を示してもよく、Sp34が単結合のとき、Q34は水素原子ではない。
式(I-31)で表される液晶化合物として、特に好ましい化合物としては、Z32がフェニレン基である化合物及びm32が0である化合物が挙げられる。
【0145】
式(I)で表される化合物は、以下の式(II)で表される部分構造を有することも好ましい。
【化7】

式(II)において、黒丸は、式(I)の他の部分との結合位置を示す。式(II)で表される部分構造は式(I)中の下記式(III)で表される部分構造の一部として含まれていればよい。
【0146】
【化8】
【0147】
式中、R1及びR2はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、及び、-C(=O)-X3-Sp3-Q3で表される基からなる群から選択される基である。ここで、X3は単結合、-O-、-S-、もしくは-N(Sp4-Q4)-を示すか、又は、Q3及びSp3と共に環構造を形成している窒素原子を示す。X3は単結合又はO-であることが好ましい。R1及びR2は、-C(=O)-X3-Sp3-Q3であることが好ましい。また、R1及びR2は、互いに同一であることが好ましい。R1及びR2のそれぞれのフェニレン基への結合位置は特に制限されない。
【0148】
Sp3及びSp4はそれぞれ独立に、単結合、又は、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基、及び、炭素数1から20の直鎖もしくは分岐のアルキレン基において1つ又は2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-、又はC(=O)O-で置換された基からなる群から選択される連結基を示す。Sp3及びSp4としては、それぞれ独立に、炭素数1から10の直鎖又は分岐のアルキレン基が好ましく、炭素数1から5の直鎖のアルキレン基がより好ましく、炭素数1から3の直鎖のアルキレン基が更に好ましい。
3及びQ4はそれぞれ独立に、水素原子、シクロアルキル基、シクロアルキル基において1つもしくは2つ以上の-CH2-が-O-、-S-、-NH-、-N(CH3)-、-C(=O)-、-OC(=O)-もしくは-C(=O)O-で置換された基、又は、式(Q-1)~式(Q-5)で表される基からなる群から選択されるいずれかの重合性基を示す。
【0149】
式(I)で表される化合物は、例えば、以下式(II-2)で表される構造を有することも好ましい。
【0150】
【化9】
【0151】
式中、A1及びA2はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよいフェニレン基又は置換基を有していてもよいトランス-1,4-シクロヘキレン基を示し、上記置換基はいずれもそれぞれ独立に、アルキル基、アルコキシ基、及び、-C(=O)-X3-Sp3-Q3からなる群から選択される1から4個の置換基であり、
1、L2及びL3は単結合、又は、-CH2O-、-OCH2-、-(CH22OC(=O)-、-C(=O)O(CH22-、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-OC(=O)O-、-CH=CH-C(=O)O-、及び、-OC(=O)-CH=CH-からなる群から選択される連結基を示し、
n1及びn2はそれぞれ独立に、0から9の整数を示し、かつn1+n2は9以下である。
1、Q2、Sp1、及び、Sp2の定義は、上記式(I)中の各基の定義と同義である。X3、Sp3、Q3、R1、及び、R2の定義は、上記式(II)中の各基の定義と同義である。
【0152】
本発明に用いる液晶化合物としては、特開2014-198814号公報に記載される、以下の式(IV)で表される化合物、特に、式(IV)で表される1つの(メタ)アクリレート基を有する重合性液晶化合物も、好適に利用される。
【0153】
式(IV)
【化10】
【0154】
式(IV)中、A1は、炭素数2~18のアルキレン基を表し、アルキレン基中の1つのCH2又は隣接していない2つ以上のCH2は、-O-で置換されていてもよい;
1は、-C(=O)-、-O-C(=O)-又は単結合を表し;
2は、-C(=O)-又はC(=O)-CH=CH-を表し;
1は、水素原子又はメチル基を表し;
2は、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4の直鎖アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、置換基を有していてもよいフェニル基、ビニル基、ホルミル基、ニトロ基、シアノ基、アセチル基、アセトキシ基、N-アセチルアミド基、アクリロイルアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、マレイミド基、メタクリロイルアミノ基、アリルオキシ基、アリルオキシカルバモイル基、アルキル基の炭素数が1~4であるN-アルキルオキシカルバモイル基、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)カルバモイルオキシ基、N-(2-アクリロイルオキシエチル)カルバモイルオキシ基、又は、以下の式(IV-2)で表される構造を表し;
1、L2、L3及びL4は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数2~5のアルコキシカルボニル基、炭素数2~4のアシル基、ハロゲン原子又は水素原子を表し、L1、L2、L3及びL4のうち少なくとも1つは水素原子以外の基を表す。
【0155】
-Z5-T-Sp-P 式(IV-2)
式(IV-2)中、Pはアクリル基、メタクリル基又は水素原子を表し、Z5は単結合、-C(=O)O-、-OC(=O)-、-C(=O)NR1-(R1は水素原子又はメチル基を表す)、-NR1C(=O)-、-C(=O)S-、又は、-SC(=O)-を表し、Tは1,4-フェニレンを表し、Spは置換基を有していてもよい炭素数1~12の2価の脂肪族基を表し、脂肪族基中の1つのCH2又は隣接していない2以上のCH2は、-O-、-S-、-OC(=O)-、-C(=O)O-又はOC(=O)O-で置換されていてもよい。
【0156】
上記式(IV)で表される化合物は、以下の式(V)で表される化合物であることが好ましい。
式(V)
【化11】

式(V)中、n1は3~6の整数を表し;
11は水素原子又はメチル基を表し;
12は、-C(=O)-又はC(=O)-CH=CH-を表し;
12は、水素原子、炭素数1~4の直鎖アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、アリルオキシ基、又は、以下の式(IV-3)で表される構造を表す。
-Z51-T-Sp-P 式(IV-3)
式(IV-3)中、Pはアクリル基又はメタクリル基を表し;
51は、-C(=O)O-、又は、-OC(=O)-を表し;Tは1,4-フェニレンを表し;
Spは置換基を有していてもよい炭素数2~6の2価の脂肪族基を表す。この脂肪族基中の1つのCH2又は隣接していない2以上のCH2は、-O-、-OC(=O)-、-C(=O)O-又はOC(=O)O-で置換されていてもよい。
【0157】
上記n1は3~6の整数を表し、3又は4であることが好ましい。
上記Z12は、-C(=O)-又はC(=O)-CH=CH-を表し、-C(=O)-を表すことが好ましい。
上記R12は、水素原子、炭素数1~4の直鎖アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、アリルオキシ基、又は、上記式(IV-3)で表される基を表し、メチル基、エチル基、プロピル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、又は、上記式(IV-3)で表される基を表すことが好ましく、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、又は、上記式(IV-3)で表される構造を表すことがより好ましい。
【0158】
本発明に用いる液晶化合物としては、特開2014-198814号公報に記載される、以下の式(VI)で表される化合物、特に、以下の式(VI)で表される(メタ)アクリレート基を有さない液晶化合物も好適に利用される。
【0159】
式(VI)
【化12】

式(VI)中、Z3は、-C(=O)-又はCH=CH-C(=O)-を表し;
4は、-C(=O)-又はC(=O)-CH=CH-を表し;
3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~4の直鎖アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、置換基を有していてもよい芳香環、シクロヘキシル基、ビニル基、ホルミル基、ニトロ基、シアノ基、アセチル基、アセトキシ基、アクリロイルアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、マレイミド基、メタクリロイルアミノ基、アリルオキシ基、アリルオキシカルバモイル基、アルキル基の炭素数が1~4であるN-アルキルオキシカルバモイル基、N-(2-メタクリロイルオキシエチル)カルバモイルオキシ基、N-(2-アクリロイルオキシエチル)カルバモイルオキシ基、又は、以下の式(VI-2)で表される構造を表し;
5、L6、L7及びL8は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数2~5のアルコキシカルボニル基、炭素数2~4のアシル基、ハロゲン原子、又は、水素原子を表し、L5、L6、L7及びL8のうち少なくとも1つは水素原子以外の基を表す。
【0160】
-Z5-T-Sp-P 式(VI-2)
式(VI-2)中、Pはアクリル基、メタクリル基又は水素原子を表し、Z5は-C(=O)O-、-OC(=O)-、-C(=O)NR1-(R1は水素原子又はメチル基を表す)、-NR1C(=O)-、-C(=O)S-、又はSC(=O)-を表し、Tは1,4-フェニレンを表し、Spは置換基を有していてもよい炭素数1~12の2価の脂肪族基を表す。ただし、この脂肪族基中の1つのCH2又は隣接していない2以上のCH2は、-O-、-S-、-OC(=O)-、-C(=O)O-又はOC(=O)O-で置換されていてもよい。
【0161】
上記式(VI)で表される化合物は、以下の式(VII)で表される化合物であることが好ましい。
式(VII)
【化13】
【0162】
式(VII)中、Z13は、-C(=O)-又はC(=O)-CH=CH-を表し;
14は、-C(=O)-又はCH=CH-C(=O)-を表し;
13及びR14は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~4の直鎖アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、アリルオキシ基、又は上記式(IV-3)で表される構造を表す。
【0163】
上記Z13は、-C(=O)-又はC(=O)-CH=CH-を表し、-C(=O)-が好ましい。
13及びR14は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~4の直鎖アルキル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、アリルオキシ基、又は、上記式(IV-3)で表される構造を表し、メチル基、エチル基、プロピル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、又は、上記式(IV-3)で表される構造を表すことが好ましく、メチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基、フェニル基、アクリロイルアミノ基、メタクリロイルアミノ基、又は、上記式(IV-3)で表される構造を表すことがより好ましい。
【0164】
本発明に用いる液晶化合物としては、特開2014-198814号公報に記載される、以下の式(VIII)で表される化合物、特に、以下の式(VIII)で表される2つの(メタ)アクリレート基を有する重合性液晶化合物も好適に利用される。
【0165】
式(VIII)
【化14】
【0166】
式(VIII)中、A2及びA3は、それぞれ独立して、炭素数2~18のアルキレン基を表し、アルキレン基中の1つのCH2又は隣接していない2つ以上のCH2は、-O-で置換されていてもよい;
5は、-C(=O)-、-OC(=O)-又は単結合を表し;
6は、-C(=O)-、-C(=O)O-又は単結合を表し;
5及びR6は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表し;
9、L10、L11及びL12は、それぞれ独立して、炭素数1~4のアルキル基、炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数2~5のアルコキシカルボニル基、炭素数2~4のアシル基、ハロゲン原子又は水素原子を表し、L9、L10、L11及びL12のうち少なくとも1つは水素原子以外の基を表す。
【0167】
上記式(VIII)で表される化合物は、下記式(IX)で表される化合物であることが好ましい。
式(IX)
【化15】
【0168】
式(IX)中、n2及びn3は、それぞれ独立して、3~6の整数を表し;
15及びR16は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表す。
【0169】
式(IX)中、n2及びn3は、それぞれ独立して、3~6の整数を表し、上記n2及びn3が4であることが好ましい。
式(IX)中、R15及びR16は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基を表し、上記R15及びR16が水素原子を表すことが好ましい。
【0170】
このような液晶化合物は、公知の方法により製造できる。
なお、上記条件1及び上記条件2を満たす組成物層を得る上では、界面におけるプレチルト角が大きい液晶化合物を使用することが好ましい。
【0171】
・光照射により螺旋誘起力が変化するキラル剤X
キラル剤Xは、液晶化合物の螺旋を誘起する化合物であり、光照射により螺旋誘起力(HTP)が変化するキラル剤であれば特に制限されない。
また、キラル剤Xは、液晶性であっても、非液晶性であってもよい。キラル剤Xは、一般に不斉炭素原子を含む。ただし、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物又は面性不斉化合物を、キラル剤Xとして用いることもできる。キラル剤Xは、重合性基を有していてもよい。
【0172】
キラル剤Xとしては、いわゆる光反応型キラル剤が挙げられる。光反応型キラル剤とは、キラル部位と光照射によって構造変化する光反応部位を有し、例えば、照射光量に応じて液晶化合物の捩れ力を大きく変化させる化合物である。
光照射によって構造変化する光反応部位の例としては、フォトクロミック化合物(内田欣吾、入江正浩、化学工業、vol.64、640p,1999、内田欣吾、入江正浩、ファインケミカル、vol.28(9)、15p,1999)等が挙げられる。また、上記構造変化とは、光反応部位への光照射により生ずる、分解、付加反応、異性化、及び2量化反応等を意味し、上記構造変化は不可逆的であってもよい。また、キラル部位としては、例えば、野平博之、化学総説、No.22液晶の化学、73p:1994に記載の不斉炭素等が相当する。
【0173】
上記光反応型キラル剤としては、例えば、特開2001-159709号公報の段落0044~0047に記載の光反応型キラル剤、特開2002-179669号公報の段落0019~0043に記載の光学活性化合物、特開2002-179633号公報の段落0020~0044に記載の光学活性化合物、特開2002-179670号公報の段落0016~0040に記載の光学活性化合物、特開2002-179668号公報の段落0017~0050に記載の光学活性化合物、特開2002-180051号公報の段落0018~0044に記載の光学活性化合物、特開2002-338575号公報の段落0016~0055に記載の光学活性化合物、及び特開2002-179682号公報の段落0020~0049に記載の光学活性化合物等が挙げられる。
【0174】
キラル剤Xとしては、なかでも、光異性化部位を少なくとも一つ有する化合物が好ましい。上記光異性化部位としては、可視光の吸収が小さく、光異性化が起こりやすく、且つ、光照射前後の螺旋誘起力差が大きいという点で、シンナモイル部位、カルコン部位、アゾベンゼン部位、スチルベン部位又はクマリン部位が好ましく、シンナモイル部位又はカルコン部位がより好ましい。なお、光異性化部位は、上述した光照射によって構造変化する光反応部位に該当する。
また、キラル剤Xは、光照射前後の螺旋誘起力差が大きいという点で、イソソルビド系光学活性化合物、イソマンニド系光学化合物、又はビナフトール系光学活性化合物が好ましい。つまり、キラル剤Xは、上述したキラル部位として、イソソルビド骨格、イソマンニド骨格、又はビナフトール骨格を有していることが好ましい。キラル剤Xとしては、なかでも、光照射前後の螺旋誘起力差がより大きいという点で、イソソルビド系光学活性化合物又はビナフトール系光学活性化合物がより好ましく、イソソルビド系光学活性化合物が更に好ましい。
【0175】
コレステリック液晶相の螺旋ピッチはキラル剤Xの種類及びその添加濃度に大きく依存するため、これらを調節することによって所望のピッチを得ることができる。
【0176】
キラル剤Xは、1種単独で使用しても、複数種を併用してもよい。
【0177】
組成物X中におけるキラル剤の総含有量(組成物X中の全てのキラル剤の総含有量)は、液晶化合物の全質量に対して、2.0質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましい。また、組成物X中におけるキラル剤の総含有量の上限は、傾斜コレステリック液晶層のヘイズ抑制の点で、液晶化合物の全質量に対して、15.0質量%以下が好ましく、12.0質量%以下がより好ましい。
【0178】
・任意の成分
組成物Xには、液晶化合物、キラル剤X以外の他の成分が含まれていてもよい。
【0179】
・・キラル剤XA
キラル剤XAとしては、液晶化合物の螺旋を誘起する化合物であり、光照射により螺旋誘起力(HTP)が変化しないキラル剤が好ましい。
また、キラル剤XAは、液晶性であっても、非液晶性であってもよい。キラル剤XAは、一般に不斉炭素原子を含む。ただし、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物又は面性不斉化合物を、キラル剤XAとして用いることもできる。キラル剤XAは、重合性基を有していてもよい。
キラル剤XAとしては、公知のキラル剤を使用できる。
液晶組成物が、キラル剤Xを1種単独で含み、キラル剤Xが未光照射処理の状態で所定範囲(例えば、0.0~1.9μm-1)を超える螺旋誘起力を有する場合、キラル剤XAは、上述したキラル剤Xと逆向きの螺旋を誘起するキラル剤であることが好ましい。つまり、例えば、キラル剤Xにより誘起する螺旋が右方向の場合には、キラル剤XAにより誘起する螺旋は左方向となる。
また、液晶組成物がキラル剤としてキラル剤Xを複数種含むときであって、未光照射処理の状態でその加重平均螺旋誘起力が上記所定範囲を超える場合、キラル剤XAは、上記加重平均螺旋誘起力に対して逆方向の螺旋を誘起させるキラル剤であることが好ましい。
【0180】
・・重合開始剤
組成物Xは、重合開始剤を含んでいてもよい。特に、液晶化合物が重合性基を有する場合、組成物Xが重合開始剤を含むことが好ましい。
重合開始剤としては、液晶層中に含み得る重合開始剤と同様のものが挙げられる。なお、液晶層中に含み得る重合開始剤については上述の通りである。
組成物X中での重合開始剤の含有量(重合開始剤が複数種含まれる場合にはその合計量)は特に制限されないが、液晶化合物全質量に対して、0.1~20質量%が好ましく、1.0~8.0質量%がより好ましい。
【0181】
・・界面活性剤
組成物Xは、組成物層の傾斜配向面102a側表面及び/又は傾斜配向面102aとは反対側の表面に偏在し得る界面活性剤を含んでいてもよい。
組成物Xに配向制御剤が界面活性剤を含む場合、上記条件1又は上記条件2を満たす組成物層が得られやすくなり、また、安定的又は迅速なコレステリック液晶相の形成が可能となる。
界面活性剤としては、液晶層中に含み得る界面活性剤と同様のものが挙げられる。なお、液晶層中に含み得る界面活性剤については上述の通りである。
組成物Xは、なかでも、工程2X-1において形成される組成物層中、傾斜配向面102a側表面において液晶化合物14の分子軸Lの傾斜配向面102a面に対する傾斜角(図16参照)を制御し得る界面活性剤(例えば、オニウム塩化合物(特開2012-208397号明細書記載))、及び、傾斜配向面102a側とは反対側の表面において上記液晶化合物14の分子軸L1の傾斜配向面102a面に対する傾斜角(図16参照)を制御し得る界面活性剤(例えば、パーフルオロアルキル基を側鎖に有する高分子等)を含むことが好ましい。また、組成物Xが上述の界面活性剤を含む場合、得られる傾斜コレステリック液晶層はヘイズが小さいという利点も有する。
【0182】
界面活性剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
組成物X中での界面活性剤の含有量(界面活性剤が複数種含まれる場合にはその合計量)は特に制限されないが、液晶化合物全質量に対して、0.01~10質量%が好ましく、0.01~5.0質量%がより好ましく、0.01~2.0質量%が更に好ましい。
【0183】
・・溶媒
組成物Xは、溶媒を含んでいてもよい。
溶媒としては、液晶層中に含み得る溶媒と同様のものが挙げられる。なお、液晶層中に含み得る溶媒については上述の通りである。
【0184】
・・その他の添加剤
組成物Xは、1種又は2種類以上の酸化防止剤、紫外線吸収剤、増感剤、安定剤、可塑剤、連鎖移動剤、重合禁止剤、消泡剤、レべリング剤、増粘剤、難燃剤、界面活性物質、分散剤、並びに、染料及び顔料等の色材、等の他の添加剤を含んでいてもよい。
【0185】
組成物Xを構成する化合物の1以上が、複数の重合性基を有する化合物(多官能性化合物)であるのが好ましい。更に、組成物Xにおいては、複数の重合性基を有する化合物の総含有量が、組成物X中の全固形分に対して、80質量%以上であるのが好ましい。なお、この上記固形分とは、傾斜コレステリック液晶層を形成する成分であり、溶媒は含まれない。
組成物X中の全固形分の80質量%以上を、複数の重合性基を有する化合物とすることにより、コレステリック液晶相の構造を強固に固定して耐久性を付与できる等の点で好ましい。
なお、複数の重合性基を有する化合物とは、1分子内に2つ以上の固定化可能な基を有する化合物である。本発明において、組成物Xが含む多官能性化合物は、液晶性を有するものでも、液晶性を有さないものでもよい。
【0186】
≪≪工程2X-1の手順≫≫
工程2X-1は、下記工程2X-1-1と、下記工程2X-1-2と、を有することが好ましい。
工程2X-1-1:組成物Xと上記液晶層とを接触させて、上記液晶層上に塗膜を形成する工程
工程2X-1-2:上記塗膜を加熱することによって、上記条件1又は上記条件2を満たす組成物層を形成する工程
【0187】
・工程2X-1-1:塗膜形成工程
工程2X-1-1では、まず、上述した組成物Xを液晶層上に塗布する。塗布方法は特に制限されず、例えば、ワイヤーバーコーティング法、押し出しコーティング法、ダイレクトグラビアコーティング法、リバースグラビアコーティング法、及び、ダイコーティング法等が挙げられる。なお、組成物Xの塗布に先立ち、上記液晶層に公知のラビング処理を施してもよい。
なお、必要に応じて、組成物Xの塗布後に、上記液晶層上に塗布された塗膜を乾燥する処理を実施してもよい。乾燥処理を実施することにより、塗膜から溶媒を除去できる。
【0188】
塗膜の膜厚は特に制限されないが、傾斜コレステリック液晶層の反射異方性及びヘイズがより優れる点で、0.1~20μmが好ましく、0.2~15μmがより好ましく、0.5~10μmが更に好ましい。
【0189】
・工程2X-1-2:組成物層形成工程
組成物Xの液晶相転移温度は、製造適性の面から10~250℃の範囲内が好ましく、10~150℃の範囲内がより好ましい。
好ましい加熱条件としては、40~100℃(好ましくは、60~100℃)で0.5~5分間(好ましくは、0.5~2分間)にわたって組成物層を加熱することが好ましい。
組成物層を加熱する際には、液晶化合物が等方相(Iso)となる温度まで加熱しないことが好ましい。液晶化合物が等方相となる温度以上に組成物層を加熱してしまうと、傾斜配向した液晶相又はハイブリッド配向した液晶相の欠陥が増加してしまい、好ましくない。
【0190】
上記工程2X-1-2により、上記条件1又は上記条件2を満たす組成物層が得られる。
なお、液晶化合物を傾斜配向又はハイブリッド配向させるためには、界面にプレチルト角度を与えることが有効であり、具体的には、下記の方法が挙げられる。
(1)組成物X中に、空気界面及び/又は液晶層界面に偏在して、液晶化合物の配向を制御する配向制御剤を添加する。
(2)組成物X中に、液晶化合物として、界面におけるプレチルト各が大きい液晶性化合物を添加する。
【0191】
≪工程2X-2≫
工程2X-2は、工程2X-1により得られた組成物層に対して光照射処理を施すことにより、キラル剤Xの螺旋誘起力を変化させ、組成物層中の液晶化合物をコレステリック配向させて傾斜コレステリック液晶層を形成する工程である。
なお、光照射領域を複数のドメインに分割し、各ドメイン毎に照射光量を調整することにより、更に螺旋ピッチが異なる領域(選択反射波長が異なる領域)を形成できる。
【0192】
工程2X-2における光照射の照射強度は特に制限されず、キラル剤Xの螺旋誘起力に基づいて適宜決定することができる。工程2X-2における光照射の照射強度は、一般的には、0.1~200mW/cm2程度が好ましい。また、光を照射する時間は特に制限されないが、得られる層の充分な強度及び生産性の双方の観点から適宜決定すればよい。
また、光照射時における組成物層の温度は、例えば、0~100℃であり、10~60℃が好ましい。
【0193】
光照射に使用される光は、キラル剤Xの螺旋誘起力を変化させる活性光線又は放射線であれば特に制限されず、例えば、水銀灯の輝線スペクトル、エキシマレーザーに代表される遠紫外線、極紫外線(EUV光:Extreme Ultraviolet)、X線、紫外線、及び電子線(EB:Electron Beam)等を意味する。なかでも、紫外線が好ましい。
【0194】
ここで、上述の傾斜コレステリック液晶層の製造方法においては、組成物層が風に晒されると、形成される傾斜コレステリック液晶層の表面の面状にムラが生じてしまう可能性がある。この点を考慮すると、上述の傾斜コレステリック液晶層の製造方法では、工程2Xの全工程において、組成物層が晒される環境の風速が低い方が好ましい。具体的には、上述の傾斜コレステリック液晶層の製造方法では、工程2Xの全工程において、組成物層が晒される環境の風速は、1m/s以下が好ましい。
【0195】
≪硬化処理≫
なお、液晶化合物が重合性基を有する場合、組成物層に対して硬化処理を実施することが好ましい。組成物層に対して硬化処理を実施する手順としては、以下に示す(1)及び(2)が挙げられる。
【0196】
(1)工程2X-2の際に、コレステリック配向状態を固定化する硬化処理を施し、コレステリック配向状態が固定化された傾斜コレステリック液晶層を形成する(つまり、工程2X-2と同時に硬化処理を実施する)か、又は、
(2)工程2X-2の後に、コレステリック配向状態を固定化する硬化処理を施し、コレステリック配向状態が固定化された傾斜コレステリック液晶層を形成する工程3Xを更に有する。
【0197】
つまり、硬化処理を実施して得られる傾斜コレステリック液晶層は、コレステリック液晶相を固定してなる層に該当する。
なお、ここで、コレステリック液晶相を「固定化した」状態は、コレステリック液晶相となっている液晶化合物の配向が保持された状態が最も典型的、且つ、好ましい態様である。それだけには制限されず、具体的には、通常0~50℃、より過酷な条件下では-30~70℃の温度範囲において、層に流動性が無く、また、外場もしくは外力によって配向形態に変化を生じさせることなく、固定化された配向形態を安定に保ち続けることができる状態を意味するものとする。本発明では、後述するように、紫外線照射によって進行する硬化反応により、コレステリック液晶相の配向状態を固定することが好ましい。
なお、コレステリック液晶相を固定してなる層においては、コレステリック液晶相の光学的性質が層中において保持されていれば十分であり、最終的に層中の組成物がもはや液晶性を示す必要はない。
【0198】
硬化処理の方法は特に制限されず、光硬化処理及び熱硬化処理が挙げられる。なかでも、光照射処理が好ましく、紫外線照射処理がより好ましい。また、前述のように、液晶化合物は、重合性基を有する液晶化合物であるのが好ましい。液晶化合物が重合性基を有する場合には、硬化処理は、光照射(特に紫外線照射)による重合反応であるのが好ましく、光照射(特に紫外線照射)によるラジカル重合反応であるのがより好ましい。
紫外線照射には、紫外線ランプ等の光源が利用される。
紫外線の照射エネルギー量は特に制限されないが、一般的には、100~800mJ/cm2程度が好ましい。なお、紫外線を照射する時間は特に制限されないが、得られる層の充分な強度及び生産性の双方の観点から適宜決定すればよい。
【0199】
(キラル剤Yを含む液晶組成物を使用する態様)
以下、キラル剤Yを含む液晶組成物を使用した傾斜コレステリック液晶層の製造方法(以下、「工程2Y」ともいう。)について説明する。
【0200】
製造方法2Yは、下記工程2Y-1及び工程2Y-2を少なくとも有する。
工程2Y-1:キラル剤Y及び液晶化合物を含む液晶組成物を用いて、上記液晶層上に下記条件1又は下記条件2を満たす組成物層を形成する工程
工程2Y-2:上記組成物層に対して冷却処理又は加熱処理を施すことにより、上記組成物層中の上記液晶化合物をコレステリック配向させて傾斜コレステリック液晶層を形成する工程
条件1:上記組成物層中の上記液晶化合物少なくとも一部が、上記組成物層表面に対して、傾斜配向している
条件2:上記組成物層中の上記液晶化合物のチルト角が厚み方向に沿って連続的に変化するように、上記液晶化合物が配向している
また、液晶化合物が重合性基を有する場合、工程2Yは、後述するように、組成物層に対して硬化処理を実施することが好ましい。
【0201】
以下、各工程で使用される材料、及び、各工程の手順について詳述する。
≪工程2Y-1≫
工程2Y-1は、キラル剤Y及び液晶化合物を含む液晶組成物(以下、「組成物Y」ともいう)。を用いて、液晶層上に上記条件1又は上記条件2を満たす組成物層を形成する工程である。
工程2Y-1は、組成物Xの代わりに組成物Yを使用する点以外は、工程手順はいずれも上述した工程2X-1と同様であり、説明を省略する。
【0202】
≪≪組成物Y≫≫
組成物Yは、液晶化合物と、温度変化により螺旋誘起力が変化するキラル剤Yと、を含む。以下に、各成分について説明する。
なお、上述したとおり、組成物層中のキラル剤の加重平均螺旋誘起力の絶対値は、工程2Y-1における上記条件1又は上記条件2を満たす組成物層を形成するための液晶化合物の配向処理が実施される温度T11においては、組成物層が形成しやすい点で、例えば、0.0~1.9μm-1であり、0.0~1.5μm-1が好ましく、0.0~0.5μm-1が更に好ましく、ゼロが特に好ましい。したがって、キラル剤Yが上記温度T11において上記所定範囲を超える螺旋誘起力を有する場合、組成物Yは、上記温度T11においてキラル剤Yとは逆方向の螺旋を誘起させるキラル剤(以下、「キラル剤YA」ともいう。)を含み、工程2Y-1の際においてキラル剤Yの螺旋誘起力を略ゼロに相殺させておく(つまり、組成物層中のキラル剤の加重平均螺旋誘起力を上記所定範囲としておく)ことが好ましい。なお、キラル剤YAは温度変化により螺旋誘起力を変化させないことが好ましい。
また、液晶組成物がキラル剤としてキラル剤Yを複数種含むときであって、上記温度T11において複数種のキラル剤Yの加重平均螺旋誘起力が上記所定範囲外の螺旋誘起力である場合、「キラル剤Yとは逆方向の螺旋を誘起させる他のキラル剤YA」とは、上記複数種のキラル剤Yの加重平均螺旋誘起力に対して逆方向の螺旋を誘起させるキラル剤を意図する。
キラル剤Yが一種単独で、上記温度T11において螺旋誘起力を有さず、温度変化により螺旋誘起力を増大させる特性を有する場合、キラル剤YAを併用しなくてもよい。
【0203】
以下、組成物Yが含む各種材料について説明する。なお、組成物Y中に含まれる材料のうちキラル剤以外の成分については、組成物Xに含まれる材料と同様であるため、その説明を省略する。
【0204】
・冷却又は加熱により螺旋誘起力が変化するキラル剤Y
キラル剤Yは、液晶化合物の螺旋を誘起する化合物であり、冷却又は加熱により螺旋誘起力が大きくなるキラル剤であれば特に制限されない。なお、ここでいう「冷却又は加熱」とは、工程2Y-1において実施される冷却処理又は加熱処理を意味する。また、冷却又は加熱の温度の上限は、通常±150℃程度である(言い換えると、±150℃以内の冷却又は加熱により螺旋誘起力が大きくなるキラル剤が好ましい)。なかでも、冷却により螺旋誘起力が大きくなるキラル剤が好ましい。
【0205】
キラル剤Yは、液晶性であっても、非液晶性であってもよい。キラル剤は、公知の種々のキラル剤(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4-3項、TN(Twisted Nematic)、STN(Super Twisted Nematic)用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989に記載)から選択できる。キラル剤Yは、一般に不斉炭素原子を含む。ただし、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物又は面性不斉化合物を、キラル剤Yとして用いることもできる。軸性不斉化合物又は面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファン及びこれらの誘導体が含まれる。キラル剤Yは、重合性基を有していてもよい。
キラル剤Yは、なかでも、温度変化後の螺旋誘起力差が大きいという点で、イソソルビド系光学活性化合物、イソマンニド系光学活性化合物又はビナフトール系光学活性化合物が好ましく、ビナフトール系光学活性化合物がより好ましい。
【0206】
組成物Y中におけるキラル剤の総含有量(組成物Y中の全てのキラル剤の総含有量)は、液晶化合物の全質量に対して、2.0質量%以上が好ましく、3.0質量%以上がより好ましい。また、組成物X中におけるキラル剤の総含有量の上限は、傾斜コレステリック液晶層のヘイズ抑制の点で、液晶化合物の全質量に対して、15.0質量%以下が好ましく、12.0質量%以下がより好ましい。
なお、上記キラル剤Yの使用量は、より少ないことが液晶性に影響を及ぼさない傾向があるため好まれる。従って、上記キラル剤Yとしては、少量でも所望の螺旋ピッチの捩れ配向を達成可能なように、強い捩り力のある化合物が好ましい。
【0207】
・キラル剤YA
キラル剤YAとしては、液晶化合物の螺旋を誘起する化合物であり、温度変化により螺旋誘起力(HTP)が変化しないことが好ましい。
また、キラル剤YAは、液晶性であっても、非液晶性であってもよい。キラル剤XAは、一般に不斉炭素原子を含む。ただし、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物又は面性不斉化合物を、キラル剤YAとして用いることもできる。キラル剤YAは、重合性基を有していてもよい。
キラル剤YAとしては、公知のキラル剤を使用できる。
液晶組成物が、キラル剤Yを1種単独で含み、キラル剤Yが上記温度T11において所定範囲(例えば、0.0~1.9μm-1)を超える螺旋誘起力を有する場合、キラル剤YAは、上述したキラル剤Yと逆向きの螺旋を誘起するキラル剤であることが好ましい。つまり、例えば、キラル剤Yにより誘起する螺旋が右方向の場合には、キラル剤YAにより誘起する螺旋は左方向となる。
また、液晶組成物がキラル剤としてキラル剤Yを複数種含むときであって、上記温度T11において複数種のキラル剤Yの加重平均螺旋誘起力が上記所定範囲を超える場合、キラル剤YAは、上記加重平均螺旋誘起力に対して逆方向の螺旋を誘起させるキラル剤であることが好ましい。
【0208】
≪工程2Y-2≫
工程2Y-2は、工程2Y-1により得られた組成物層に対して冷却処理又は加熱処理を施すことにより、キラル剤Yの螺旋誘起力を変化させ、組成物層中の液晶化合物をコレステリック配向させて傾斜コレステリック液晶層を形成する工程である。本工程では、なかでも、組成物層を冷却するのが好ましい。
【0209】
組成物層を冷却する際には、傾斜コレステリック液晶層の反射異方性がより優れる点で、組成物層の温度が30℃以上下がるように、組成物層を冷却することが好ましい。なかでも、上記効果がより優れる点で、40℃以上下がるように組成物層を冷却することが好ましく、50℃以上下がるように組成物層を冷却することがより好ましい。上記冷却処理の低減温度幅の上限値は特に制限されないが、通常、150℃程度である。
なお、上記冷却処理は、言い換えると、冷却前の工程1に得られた上記条件1又は上記条件2を満たす組成物層の温度をT℃とする場合、T-30℃以下となるように、組成物層を冷却することを意図する(つまり、図21に示す態様の場合、T12≦T11-30℃となる)。
上記冷却の方法は特に制限されず、組成物層が配置された液晶層を所定の温度の雰囲気中に静置する方法が挙げられる。
【0210】
冷却処理における冷却速度には制限はないが、傾斜コレステリック液晶層の反射異方性がより優れる点で、冷却速度を、ある程度の速さにするのが好ましい。
具体的には、冷却処理における冷却速度は、その最大値が毎秒1℃以上であるのが好ましく、毎秒2℃以上であるのがより好ましく、毎秒3℃以上であるのが更に好ましい。なお、冷却速度の上限は、特に制限されないが、毎秒10℃以下の場合が多い。
【0211】
ここで、上述の傾斜コレステリック液晶層の製造方法においては、組成物層が風に晒されると、形成される傾斜コレステリック液晶層の表面の面状にムラが生じてしまう可能性がある。この点を考慮すると、上述の傾斜コレステリック液晶層の製造方法では、工程2Yの全工程において、組成物層が晒される環境の風速が低い方が好ましい。具体的には、上述の傾斜コレステリック液晶層の製造方法では、工程2Yの全工程において、組成物層が晒される環境の風速は、1m/s以下が好ましい。
【0212】
なお、組成物層を加熱する場合、加熱処理の増加温度幅の上限値は特に制限されないが、通常、150℃程度である。
【0213】
≪硬化処理≫
なお、液晶化合物が重合性基を有する場合、組成物層に対して硬化処理を実施することが好ましい。組成物層に対して硬化処理を実施する手順としては、製造方法2Xにて述べた方法と同様であり、好適態様も同じである。
【0214】
<<傾斜コレステリック液晶層の製造方法の他の態様>>
本発明に用いられる傾斜コレステリック液晶層を製造するための他の製造方法として、傾斜コレステリック液晶層を形成する際の下地層として、傾斜コレステリック液晶層中の液晶化合物を上述した液晶配向パターンに配列するようにパターンが形成された配向膜を用いる方法が挙げられる。
【0215】
支持体上に配向膜を形成し、その配向膜上に組成物を塗布、硬化することにより、液晶組成物の硬化層からなる、所定の液晶配向パターンが固定化された傾斜コレステリック液晶層を得ることができる。
【0216】
支持体としては、透明支持体が好ましく、上述した基板と同様の透明基板を用いることができる。
【0217】
<<配向膜>>
配向膜としては、光配向性の素材に偏光又は非偏光を照射して配向膜とした、いわゆる光配向膜を用いることもできる。即ち、支持体上に、光配光材料を塗布して光配向膜を作製してもよい。偏光の照射は、光配向膜に対して、垂直方向又は斜め方向から行うことができ、非偏光の照射は、光配向膜に対して、斜め方向から行うことができる。特に、斜め方向からの照射の場合、液晶にプレチルト角を付与することが出来る。
【0218】
本発明に利用可能な光配向膜に用いられる光配向材料としては、例えば、特開2006-285197号公報、特開2007-76839号公報、特開2007-138138号公報、特開2007-94071号公報、特開2007-121721号公報、特開2007-140465号公報、特開2007-156439号公報、特開2007-133184号公報、特開2009-109831号公報、特許第3883848号、特許第4151746号に記載のアゾ化合物、特開2002-229039号公報に記載の芳香族エステル化合物、特開2002-265541号公報、特開2002-317013号公報に記載の光配向性単位を有するマレイミドおよび/又はアルケニル置換ナジイミド化合物、特許第4205195号、特許第4205198号に記載の光架橋性シラン誘導体、特表2003-520878号公報、特表2004-529220号公報、特許第4162850号に記載の光架橋性ポリイミド、ポリアミド、又はエステル、特開平9-118717号公報、特表平10-506420号公報、特表2003-505561号公報、WO2010/150748号公報、特開2013-177561号公報、特開2014-12823号公報に記載の光二量化可能な化合物、特にシンナメート化合物、カルコン化合物、クマリン化合物が好ましい例として挙げられる。特に好ましくは、アゾ化合物、光架橋性ポリイミド、ポリアミド、エステル、シンナメート化合物、カルコン化合物である。
【0219】
配向膜を支持体上に塗布して乾燥させた後、配向膜をレーザ露光して配向パターンを形成する。配向膜の露光装置の模式図を図23に示す。露光装置61は、レーザ62およびλ/2板65を備えた光源64と、レーザ62(光源64)からのレーザ光Mを2つに分離する偏光ビームスプリッター68と、分離された2つの光線MA、MBの光路上にそれぞれ配置されたミラー70A、70Bおよびλ/4板72A、72Bを備える。λ/4板72Aおよび72Bは互いに直交する光学軸を備えており、λ/4板72Aは、直線偏光Pを右円偏光Pに、λ/4板72Bは直線偏光Pを左円偏光Pに変換する。
なお、光源64はλ/2板65を有し、レーザ62が出射したレーザ光Mの偏光方向を変えて直線偏光P0を出射する。λ/4板72Aは、直線偏光P0(光線MA)を右円偏光PRに、λ/4板72Bは直線偏光P0(光線MB)を左円偏光PLに、それぞれ変換する。
【0220】
配向パターンを形成される前の配向膜54を備えた支持体52が露光部に配置され、2つの光線MA、MBを配向膜54上で交差させて干渉させ、その干渉光を配向膜54に照射して露光する。この際の干渉により、配向膜54に照射される光の偏光状態が干渉縞状に周期的に変化するものとなる。これによって、配向状態が周期的に変化する配向パターンを有する配向膜(以下、パターン配向膜ともいう)54が得られる。露光装置61において、2つの光MAおよびMBの交差角αを変化させることにより、配向パターンのピッチを変化させることができる。配向状態が周期的に変化した配向パターンを有するパターン配向膜上に後述の光学異方性層を形成することにより、この周期に応じた液晶配向パターンを備えた傾斜コレステリック液晶層を形成することができる。
また、λ/4板72Aおよび72Bの光学軸を、それぞれ、90°回転することにより、液晶配向パターンにおける液晶化合物の光学軸の回転方向を逆にすることができる。
【0221】
上述のとおり、パターン配向膜は、パターン配向膜の上に形成される傾斜コレステリック液晶層中の液晶化合物の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンとなるように、液晶化合物を配向させる配向パターンを有する。パターン配向膜が、液晶化合物を配向させる向きに沿った軸を配向軸とすると、パターン配向膜は、配向軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している配向パターンを有するといえる。パターン配向膜の配向軸は、吸収異方性を測定することで検出することができる。例えば、パターン配向膜に直線偏光を回転させながら照射して、パターン配向膜を透過する光の光量を測定した際に、光量が最大または最小となる向きが、面内の一方向に沿って漸次変化して観測される。
【0222】
≪傾斜コレステリック液晶層の形成≫
傾斜コレステリック液晶層は、パターン配向膜上に液晶組成物を多層塗布することにより形成することができる。多層塗布とは、配向膜の上に液晶組成物を塗布し、加熱し、さらに冷却した後に紫外線硬化を行って1層目の液晶固定化層を作製した後、2層目以降はその液晶固定化層に重ね塗りして塗布を行い、同様に加熱し、冷却後に紫外線硬化を行うことを繰り返すことをいう。傾斜コレステリック液晶層を上記のように多層塗布して形成することにより、傾斜コレステリック液晶層の総厚が厚くなった場合でも配向膜の配向方向を、傾斜コレステリック液晶層の下面から上面にわたって反映させることができる。
【0223】
本製造方法において液晶組成物に含まれる液晶化合物としては前述の棒状液晶化合物および円盤状液晶化合物を用いることができる。
本製造方法において液晶組成物に含まれるキラル剤は、特に制限はなく、目的に応じて、公知の化合物(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4-3項、TN(twisted nematic)、STN(Super Twisted Nematic)用カイラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989に記載)、イソソルビド、および、イソマンニド誘導体等を用いることができる。
【0224】
また、本製造方法において液晶組成物は、重合開始剤、架橋剤、配向制御剤等を含んでいてもよく、さらに、必要に応じて、さらに重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、色材、および、金属酸化物微粒子等を、光学的性能等を低下させない範囲で添加することができる。
【0225】
また、コレステリック液晶層を透明スクリーンとして用いる場合には、基板および配向膜が積層された積層体を透明スクリーンとして用いてもよいし、基板、あるいは、基板および配向膜を剥離したコレステリック液晶層を透明スクリーンとして用いてもよい。また、ウェアラブルディスプレイデバイスが透明支持体(導光板)を有する構成の場合には、透明支持体をコレステリック液晶層の基板として用いてもよい。
【0226】
〔拡散反射性を有する透明スクリーン〕
拡散反射性を有する透明スクリーンは、斜めから投映された画像を種々の方向に反射する。これにより、導光板内を導光された投影画像の光を導光板(ディスプレイ)の正面方向にも反射して投影画像を表示する。
【0227】
拡散反射性を有する透明スクリーンとしては、JXTGエネルギー社製のKaleido Screen(高輝度フロントタイプ)、三菱製紙株式会社製のSaivis等の公知の拡散反射型の透明スクリーンを用いることができる。
【0228】
あるいは、拡散反射性を有する透明スクリーンとして、図24に示すコレステリック液晶層28のように、X-Z面においてSEMにより観察されるコレステリック液晶相に由来する明部25および暗部26からなる明暗線の形状が波状(波打ち構造)である構成のコレステリック液晶層を用いることもできる。
【0229】
図24に示すコレステリック液晶層28は、明部25および暗部26からなる明暗線の形状が波状である以外は、図9に示すコレステリック液晶層20と同様の構成を有する。
すなわち、コレステリック液晶層28は、コレステリック液晶構造を有し、螺旋軸と反射層の表面とのなす角が周期的に変化する構造を有する層である。言い換えれば、コレステリック液晶層は、コレステリック液晶構造を有し、コレステリック液晶構造はSEMにて観測される断面図において明部と暗部との縞模様を与え、暗部がなす線の法線と反射層の表面となす角が周期的に変化する層である。
【0230】
好ましくは、波打ち構造とは、縞模様を成す明部または暗部の連続線において、コレステリック液晶層の平面に対する傾斜角度の絶対値が5°以上である領域Mが少なくとも1つ存在し、かつ、領域Mを面方向に挟んで最も近い位置にある、傾斜角度が0°の山または谷が特定される構造である。
傾斜角度0°の山または谷とは、凸状、凹状を含むが、傾斜角度0°であれば、階段状および棚状の点も含む。波打ち構造は、縞模様の明部または暗部の連続線において、傾斜角度の絶対値が5°以上である領域Mと、それを挟む山または谷とが、複数、繰り返すのが好ましい。
【0231】
波打ち構造を有するコレステリック液晶層は、ラビング等の配向処理を施さない形成面にコレステリック液晶層を形成することで、形成できる。
【0232】
<画像を投映する投映装置>
本発明のウェアラブルディスプレイデバイスは、透明スクリーンに画像を投映するための投映装置を備えている。その投映装置は公知の技術を用いて得ることができる。投影装置は、ウェアラブルディスプレイデバイスに内蔵させるために小型であることが好ましい。また、投映装置は、可視光を発するものであればよい。また、透明スクリーンが円偏光(右円または左円のいずれか)を選択反射する場合は、投映装置は、その反射に適した円偏光を発するものが好ましい。
また、右目と左目で異なる画像を投映する二つの投映装置を備えることで立体画像を表示することもできる。
【0233】
<レンズ>
本発明のウェアラブルディスプレイデバイスは、前述の透明スクリーンから反射された前述の画像を視認するためのレンズが前述の透明スクリーンの少なくとも一部を覆うように視認側に配置されており、好ましくは透明スクリーンの一部のみを覆うように視認側に配置されることが好ましい。レンズは拡大レンズであり、接眼レンズであってもよい。それらレンズは、右目と左目で別々のレンズを有することが好ましい。
前述のレンズの焦点距離を調節することにより透明スクリーンで反射された投映画像を視認者が視認することができる。レンズは公知の技術を用いて得ることができる。
【0234】
<導光板(透明支持体)>
本発明のウェアラブルディスプレイデバイスは、前述の投映装置が投映する画像を前述の透明スクリーンへ導光する導光板を有することが好ましく、透明スクリーンの少なくとも一部が導光板であることが好ましい。
【0235】
導光板としては、公知のものを使用することができ、例として透明なアクリル樹脂からなるアクリル板や、ガラス板などが挙げられる。
【0236】
また、導光板の厚みについては特に制約はないが、実用性を考慮すると、10mm以下が好ましい。
【実施例
【0237】
[実施例1]
<配向層付き支持体>
トリアセチルセルレート支持体(富士フイルム社製、TG40)上に、下記の組成の配向層塗布液Y1を#3.6のワイヤーバーコーターで塗布した。その後、45℃で60秒乾燥し、25℃にて紫外線照射装置により、500mJ/cmの紫外線を照射して、配向層Y1付き支持体を作製した。
【0238】
(配向層塗布液Y1の組成物)
・KAYARAD PET30(日本化薬(株)製) 100質量部
・IRGACURE 907 (BASF(株)社製) 3.0質量部
・カヤキュアーDETX(日本化薬(株)製) 1.0質量部
・フッ素系水平配向剤F1 0.01質量部
・メチルイソブチルケトン 243質量部
【0239】
フッ素系水平配向剤F1
【化16】
【0240】
<コレステリック液晶層B1、G1、R1の組成物>
(コレステリック液晶層用塗布液B1、G1、R1)
下記の成分を混合し、下記組成のコレステリック液晶層形成用塗布液を調製した。
・液晶化合物の混合物1 100質量部
・フッ素系水平配向剤F1 0.08質量部
・フッ素系水平配向剤F2 0.20質量部
・右旋回性キラル剤LC-756(BASF社製) 表1に記載
・フッ素系界面活性剤B1 0.08質量部
・IRGACURE OXE01(BASF社製) 1.5質量部
・メチルエチルケトン 表1に記載
【0241】
【表1】
【0242】
・液晶化合物の混合物1
数値は質量%である。
【化17】
【0243】
フッ素系水平配向剤F2
【化18】
【0244】
・フッ素系界面活性剤B1
数値は質量%である。
【化19】
【0245】
上記塗布液組成のキラル剤LC-756の処方量とメチルエチルケトン量を調整してコレステリック液晶塗布液B1、G1、R1を調製した。それぞれの塗布液を用いて、以下の機能層作製時と同様に剥離性支持体上に各々の単一層のコレステリック液晶層を作製し、反射特性を確認したところ、作製されたコレステリック液晶層はすべて右円偏光反射層であり、選択反射の中心反射波長は塗布液B1、G1、R1の順に、それぞれ435nm、545nm、650nmであった。
ここで、中心反射波長は、分光光度計(日本分光(株)製、V-550)に大型積分球装置(日本分光(株)製、ILV-471)を取り付けたものを用いて、コレステリック液晶層側から光が入射するように、光トラップを用いずに測定した積分反射率をもとに算出した値である、具体的には、波長を横軸にした山型(上に凸型)である積分反射スペクトルにおける積分反射率の最大値と最小値の平均反射率(算術平均)を求め、波形と平均反射率の2交点の2つの波長のうち、短波側の波長の値をλA(nm)、長波側の波長の値をλB(nm)とし、下記式により算出した値である。
中心反射波長=(λA+λB)/2
【0246】
<表示部材01の作製>
配向層Y1付き支持体の配向層Y1の表面に、上記で調製した塗布液B1を#2.6のワイヤーバーコーターで塗布し、95℃で60秒乾燥し、25℃にて500mJ/cmの紫外線を照射することで、中心波長435nmの光を反射するコレステリック液晶B1層を作製した。次いで、そのB1層表面に、塗布液G1を#2.0のワイヤーバーコーターで塗布し、95℃で60秒乾燥し、25℃にて500mJ/cmの紫外線を照射することで、コレステリック液晶層G1を積層した。次いで、そのG1層の表面に、塗布液R1を#2.0のワイヤーバーコーターで塗布し、95℃で60秒乾燥し、25℃にて500mJ/cmの紫外線を照射することで、コレステリック液晶層R1を積層した。さらに作製した積層体の支持体において、コレステリック液晶層を有する側とは反対側の面に透明なアクリル板を粘着剤で貼合し、表示部材01を作製した。
【0247】
[実施例2]
<傾斜液晶層>
(キラル剤化合物CD-1)
以下の合成手順に従い、一般的な手法にて化合物CD-1を合成した。
なお、化合物CD-1は、螺旋方向は左であり、温度変化又は光照射により螺旋誘起力が変化しないキラル剤である。
【0248】
【化20】
【0249】
(キラル剤化合物CD-2の合成)
特開2002-338575号公報に準じて、下記化合物CD-2を合成して使用した。
なお、化合物CD-2は、螺旋方向は右であり、光照射により螺旋誘起力が変化するキラル剤である(キラル剤Xに該当する)。
【0250】
【化21】
【0251】
(円盤状液晶化合物D-1)
円盤状液晶化合物として、特開2007-131765号公報に記載の下記円盤状液晶化合物D-1を使用した。
【0252】
【化22】
【0253】
(界面活性剤S-1)
界面活性剤S-1は、特許第5774518号に記載された化合物であり、下記構造を有する。
【0254】
【化23】

S-1
【0255】
<工程1:傾斜液晶層1の作製>
(傾斜液晶層用組成物)
下記組成の試料溶液を調製した。
・化合物D-1 100質量部
・化合物S-1 0.1質量部
・開始剤Irg-907(BASF製) 3.0質量部
・溶剤(MEK(メチルエチルケトン)/シクロヘキサノン=90/10(質量比)) 溶質濃度が30質量%となる量
【0256】
(傾斜液晶層1の作製方法)
次に、ポリイミドSE-130(日産化学製)を塗布した長方形のガラス基板を長手方向にラビング処理することにより、配向膜付き基板を作製した。この配向膜のラビング処理面に、30μLの上記傾斜液晶層用組成物を回転数1000rpm、10秒間の条件でスピンコートし、120℃で1分間熟成した。続いて、30℃、窒素雰囲気下で500mJ/cm2の照射量でUV(紫外線)を照射することにより上記塗膜を硬化し、傾斜液晶層1を得た。
傾斜液晶層1の液晶の配向は基板の長手方向に対して平均16°傾斜していることを確認した。
【0257】
<工程2:コレステリック液晶層の作製>
(コレステリック液晶層G1の組成物)
下記組成の試料溶液を調製した。
・下記構造で表される液晶性化合物LC-1 100質量部
・化合物S-1 0.1質量部
・化合物CD-1 5.5質量部
・化合物CD-2 5.5質量部
・フッ素系界面活性剤B1 0.03質量部
・開始剤Irg-907(BASF製) 2.0質量部
・溶剤(MEK(メチルエチルケトン)/シクロヘキサノン=90/10(質量比)) 溶質濃度が30質量%となる量
【0258】
【化24】
【0259】
(コレステリック液晶層G1の作製)
次に、傾斜液晶層1上に、40μLの上記コレステリック液晶層G1の組成物を回転数1500rpm、10秒間の条件でスピンコートして組成物層を形成した後、90℃で1分間熟成した。続いて、熟成後の上記組成物層に対して、30℃にて光源(UVP社製、2UV・トランスイルミネーター)より365nm光を2mW/cm2の照射強度で60秒間紫外線を照射した。続いて、30℃、窒素雰囲気下で500mJ/cm2の照射量でUV(紫外線)を照射して液晶化合物の重合反応を実施することにより、コレステリック配向状態が固定化されたコレステリック液晶層G1を得た。反射中心波長は550nmであった。
上記の工程により、傾斜液晶層1と、傾斜液晶層1の上に配置されたコレステリック液晶層G1とを有する積層体Gを作製した。
【0260】
得られた仮の積層体1中のコレステリック液晶層1について、下記の評価を実施した。
【0261】
(断面SEM観察)
積層体Gのコレステリック液晶層G1の断面SEM観察(断面SEM写真)によって、コレステリック液晶相に由来する明部及び暗部の配列方向が、コレステリック液晶層G1の両主面(傾斜液晶層1との界面側表面、及び空気界面側表面)に対して一方向に傾斜しており、角度がおよそ15度であることを確認した。
【0262】
<反射異方性の確認>
三次元変角分光測色システム((株)村上色彩技術研究所製、GCMS-3B)を用いて、受光角度をフィルムの法線方向に固定し、測定光入射角度の極角依存性を測定した。この時、配向膜付き基板をラビング処理した長手方向を含む平面において極角を変化させ、入射光の波長は550nmとした。結果、測定光入射角度が約45~50度のとき、仮の積層体1の法線方向の受光角度がもっとも強くなることから、積層体Gの法線方向を正反射光線の方向と見なし、積層体Gへの少なくとも一方向からの入射光線とその正反射光線の成す角の2等分線が、前述の積層体Gの正反射面の法線方向に対して5°以上傾斜しており、反射異方性を有することを確認した。
【0263】
<表示部材02の作製>
次に、反射中心波長が435nm、もしくは、650nmとなるように、コレステリック液晶層G1の調製において、化合物CD-1、および、化合物CD-2の添加量を調整した以外は同様に、傾斜液晶層1上にコレステリック液晶層B1、R1をそれぞれ作製し、積層体B,積層体Rを得た。これらを、コレステリック液晶層B1、G1、R1の積層順に粘着剤(SK粘着剤、総研化学製)を介して貼合し、さらに作製した積層体の支持体において、コレステリック液晶層を有する側とは反対側の面に透明なアクリル板を粘着剤で貼合し、表示部材02を作製した。
【0264】
次に、レンズ付きVR(virtual reality)用メガネ(ペーパーVRグラス、エレコム株式会社製)のディスプレイ配置部に、表示部材01、または、表示部材02を配置した。表示部材02を配置する場合は、コレステリック液晶層が視認側となり、配向膜付き基板をラビング処理した長手方向が地面と水平方向となるようにした。
これら表示部材に対して、コレステリック液晶層の反射光が法線方向となるよう、斜め方向からプロジェクター(SHOWWX+、MicroVision社製)を投映したところ、投映画像が広視野で見えることを確認した。また、レンズがない部分は、背景がぼけることなく視認できることを確認した。
表示部材02の方が、表示部材01よりも明るく見え、視認性は良かった。
これらから、本発明のウェアラブルディスプレイデバイスが作製可能であることを確認した。
図1
図2
図3
図4
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図8
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図10
図11
図12
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