(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-09
(45)【発行日】2022-11-17
(54)【発明の名称】荷電粒子線装置の調整方法及び荷電粒子線装置システム
(51)【国際特許分類】
H01J 37/22 20060101AFI20221110BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20221110BHJP
H01L 21/66 20060101ALI20221110BHJP
【FI】
H01J37/22 502E
H01J37/28 B
H01J37/22 502F
H01L21/66 J
(21)【出願番号】P 2020556632
(86)(22)【出願日】2019-09-09
(86)【国際出願番号】 JP2019035369
(87)【国際公開番号】W WO2020095531
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2021-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2018210167
(32)【優先日】2018-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】君塚 平太
(72)【発明者】
【氏名】津野 夏規
(72)【発明者】
【氏名】福田 宗行
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/045498(WO,A1)
【文献】特開2016-025048(JP,A)
【文献】国際公開第2017/187548(WO,A1)
【文献】特開2014-146615(JP,A)
【文献】特開2017-224553(JP,A)
【文献】特開2007-218711(JP,A)
【文献】国際公開第2018/077471(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/22
H01J 37/28
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを試料に走査したときに得られる画像のコントラストとブライトネスを調整し、画像に含まれるパターンを検査する方法であって、
第1の荷電粒子ビームの走査によって得られる第1の画像に含まれるパターンの輝度が所定値となるように、荷電粒子線装置の信号処理装置のオフセット調整を行い、
前記第1の荷電粒子ビームとは照射時間、照射距離、照射点間遮断時間、及び照射点間距離の少なくとも1つが異なるパルス状ビームである第2の荷電粒子ビームの走査によって得られる第2の画像に含まれるパターンの輝度
と、前記第1の画像に含まれるパターンの輝度との輝度差が、所定値となるように前記信号処理装置のゲイン調整を行い、
前記オフセット調整及び前記ゲイン調整を行うことによって、前記コントラストと前記ブライトネスを調整し、
前記オフセット調整及び前記ゲイン調整を行った後に、パルス状ビームである第3の荷電粒子ビームの走査によって得られた第3の画像に含まれるパターンを検査する方法。
【請求項2】
試料に対して荷電粒子ビームを走査することによって得られる画像のコントラストとブライトネスを調整し、画像に含まれるパターンを検査する方法であって、
前記試料に第1の条件のビームを走査する工程と、
前記試料に、前記第1の条件とは異なる第2の条件のビームを走査する工程と、
前記第1の条件のビームの走査によって得られる第1の画像の特徴を評価する工程と、 前記第2の条件のビームの走査によって得られる第2の画像の特徴を評価する工程と、 前記第1の画像の特徴が、所定の状態となるように、荷電粒子線装置の信号処理装置
のオフセットを調整する工程と、
前記第2の画像の特徴
と前記第1の画像の特徴との差異が、所定の状態となるように、前記信号処理装置
のゲインを調整する工程を備え、
前記第1の条件のビーム及び前記第2の条件のビームのうち少なくとも1つはパルス状ビームであり、
前記信号処理装置を調整することによって、前記コントラストと前記ブライトネスを調整し、
前記オフセット調整及び前記ゲイン調整を行った後に、パルス状ビームである第3の荷電粒子ビームの走査によって得られた第3の画像に含まれるパターンを検査する方法。
【請求項3】
請求項2において、
前記第1の条件のビームと、前記第2の条件のビームは、前記試料に形成されたパターンに対する帯電条件が異なる方法。
【請求項4】
請求項2において、
前記第1の条件のビーム及び前記第2の条件のビームがパルス状ビームである方法。
【請求項5】
請求項4において、
前記第1の条件のビームと、前記第2の条件のビームは、照射時間、照射距離、照射点間遮断時間、及び照射点間距離の少なくとも1つが異なる方法。
【請求項6】
請求項2において、
前記第1の画像に含まれるパターンの輝度が、第1の所定値となるようにオフセット調整を行い、前記第2の画像に含まれるパターンの輝度と
前記第1の画像に含まれるパターンの輝度との輝度差が第2の所定値となるように、ゲイン調整を行う方法。
【請求項7】
荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームを走査するように構成された偏向器と、試料に対する前記荷電粒子ビームの走査によって得られる荷電粒子を検出した信号を処理する信号処理装置と、制御装置と、を備えた荷電粒子ビームシステムにおいて、
前記制御装置は、
第1の条件のビーム走査によって得られる第1の画像の特徴と、前記第1の条件とは異なる第2の条件のビーム走査によって得られる第2の画像の特徴を評価し、
前記第1の画像の特徴が所定の状態になるとともに、前記第1の画像の特徴と前記第2の画像の特徴
の差異が所定の状態となるように、前記信号処理装置を制御することによって、前記荷電粒子ビームを前記試料に走査したときに得られる画像のコントラストとブライトネスを調整し、前記オフセット調整及び前記ゲイン調整を行った後に、パルス状ビームである第3の荷電粒子ビームの走査によって得られた第3の画像に含まれるパターンを検査するように構成されており、
前記第1の条件のビーム及び前記第2の条件のビームのうち少なくとも1つはパルス状ビームである荷電粒子ビームシステム。
【請求項8】
請求項
7において、
画像から検査パターンを指定する操作インターフェースを有し、
前記制御装置は、
前記第1の条件のビームで前記検査パターンに対応する試料領域を走査し、前記第2の条件のビームで前記検査パターンに対応する試料領域を走査するように構成されている荷電粒子ビームシステム。
【請求項9】
請求項
8において、
前記第1の条件のビーム及び前記第2の条件のビームがパルス状ビームである荷電粒子ビームシステム。
【請求項10】
請求項
9において、
前記第1の条件のビームと、前記第2の条件のビームは、照射時間、照射距離、照射点間遮断時間、及び照射点間距離の少なくとも1つが異なる荷電粒子ビームシステム。
【請求項11】
請求項
7において、
前記制御装置は、前記第1の条件又は前記第2の条件を複数の状態にしたときに得られる前記特徴の変化に基づいて、前記第1の条件又は前記第2の条件を設定する荷電粒子ビームシステム。
【請求項12】
請求項
11において、
前記制御装置は、前記ビームの照射点間時間、及び照射点間距離の少なくとも一方を変化させて、複数の前記特徴を取得し、当該特徴の変化が所定条件となる照射点間時間、及び照射点間距離の少なくとも一方を設定する荷電粒子ビームシステム。
【請求項13】
請求項
7において、
前記制御装置は、予め設定されたビーム条件、及び予め設定された画像の特徴、或いは画像の特徴の範囲に基づいて、前記信号処理装置を制御する荷電粒子ビームシステム。
【請求項14】
請求項
7において、
前記荷電粒子ビームの照射時間、照射距離、照射点間時間、及び照射点間距離の少なくとも1つを設定する操作インターフェースを有する荷電粒子ビームシステム。
【請求項15】
請求項
7において、
前記第1の画像の特徴、及び前記第2の画像の特徴の少なくとも1つを設定する操作インターフェースを有する荷電粒子ビームシステム。
【請求項16】
請求項1において、
前記第1の荷電粒子ビームが、パルス状ビームである方法。
【請求項17】
請求項
6において、
前記第1の画像に含まれるパターンの輝度が第1の所定値となるように、前記第1の条件のビーム走査と前記オフセット調整とを繰り返し行い、
前記第2の画像に含まれるパターンの輝度
と前記第1の画像に含まれるパターンの輝度との輝度差が第2の所定値となるように、前記第2の条件のビーム走査と前記ゲイン調整とを繰り返し行う方法。
【請求項18】
請求項1において、
前記パターンは、コンタクトプラグを形成するパターンである方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料に対して荷電粒子線を照射する荷電粒子線装置に係り、特に、荷電粒子線をパルス化して照射する荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
荷電粒子線装置、例えば走査電子顕微鏡は、ナノメートルオーダーの形状パターンが識別可能であり、半導体デバイス等の検査計測に利用されている。主に欠陥検査では、走査電子顕微鏡によるパターンの画像の輝度の差を用いて欠陥部を抽出する。以下では、輝度とは荷電粒子線装置で取得した画像又は画素の明るさの程度のことを表す。特許文献1には、電子線のパルス化により電子の照射量や照射間の待ち時間を制御することで、正常パターンと欠陥パターンの画像の輝度の差を強調する技術が開示されている。また、特許文献2には、試料からので検出した信号強度を用いて画像のコントラストを自動調整する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2017/187548
【文献】特開2001-148230号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
荷電粒子線装置には、検出器の出力信号を調整する調整器が備えられている。画像内に含まれる欠陥パターンを顕在化するためには、調整器を適正に設定する必要があるが、視野内に欠陥パターンがないと、欠陥パターンにとって適切な装置条件(例えばゲイン)を設定することは困難である。特許文献1、2共に、視野内に顕在化したいパターンが含まれていない状態で、適正な装置条件を設定する手法についての開示がない。
【0005】
以下に、試料の状態によらず、適切に装置条件を設定することを目的とする荷電粒子線装置の調整方法及び荷電粒子線装置システムを提案する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための一態様として、以下に荷電粒子ビームを試料に走査したときに得られる画像のコントラストとブライトネスを調整する方法であって、第1の荷電粒子ビームの走査によって得られる画像に含まれるパターンの輝度が所定値となるように、荷電粒子線装置の信号処理装置のオフセット調整を行い、前記第1の荷電粒子ビームとは照射時間、照射距離、照射点間遮断時間、及び照射点間距離の少なくとも1つが異なるパルス状ビームである第2の荷電粒子ビームの走査によって得られる画像に含まれるパターンの輝度が、所定値となるように前記信号処理装置のゲイン調整を行う方法を提案する。
【0007】
また、上記目的を達成するための他の態様として、試料に対して荷電粒子ビームを走査することによって得られる画像のコントラストとブライトネスを調整する方法であって、前記試料に第1の条件のビームを走査する工程と、前記試料に、前記第1の条件とは異なる第2の条件のビームを走査する工程と、前記第1の条件のビームの走査によって得られる画像の特徴を評価する工程と、前記第2の条件のビームの走査によって得られる画像の特徴を評価する工程と、第1の条件のビーム走査によって得られる画像の特徴が、所定の状態となるように、荷電粒子線装置の信号処理装置を調整する工程と、第2の条件のビーム走査によって得られる画像の特徴が、所定の状態となるように、信号処理装置を調整する工程を備えた方法を提案する。
【0008】
また、上記目的を達成するための更に他の態様として、荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームを走査するように構成された偏向器と、試料に対する前記荷電粒子ビームの走査によって得られる荷電粒子を検出するように構成された検出器を含む荷電粒子線装置と、当該荷電粒子線装置に接続される制御装置を含み、当該制御装置は、異なるビーム条件のビーム走査によって得られる第1の画像と第2の画像の特徴を評価し、当該第1の画像の特徴と第2の画像の特徴が所定の条件を満たすように、前記信号処理装置を制御するように構成されているシステムを提案する。
【発明の効果】
【0009】
上記構成によれば、試料の状態によらず、適切な装置条件の設定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】ゲイン調整及びオフセット調整を行う工程を示すフローチャート。
【
図19】ゲイン調整及びオフセット調整を行い、断続条件を決定する工程を示すフローチャート。
【
図23】走査電子顕微鏡画像における検査パターンの輝度と各画像の照射点間遮断時間の関係を示す図。
【
図30】複数の断続条件で取得した画像を用いた輝度調整を自動で実施する工程を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
例えば、走査電子顕微鏡による半導体デバイスパターンの検査を行う場合、正常パターンと欠陥パターンの特徴量(例えば輝度)の違いから、正常パターンと欠陥パターンを判別することが考えられる。正常パターンと欠陥パターンの輝度差が大きくなるほど、欠陥パターンの検出感度が向上する。
【0012】
一方、電子顕微鏡に搭載されている信号検出系の入出力のゲインや、画像処理系における信号のアナログ-デジタル変換のゲインを大きく設定した場合、信号強度の差が大きくなり、正常パターンと欠陥パターンの画像の輝度差が大きくなるが、ゲインを大きく設定しすぎると、ショットノイズや回路ノイズ等の雑音に対する感度も大きくなってしまうため、虚報率(正常パターンを誤って欠陥パターンと判断してしまう確率)が増大する。
【0013】
欠陥パターンの検出感度の向上と虚報率の低減を実現するためには、正常パターンおよび欠陥パターンの信号強度が、検出器の感度の範囲や画像の全階調の輝度の表示範囲となるよう、信号検出系や画像処理系を制御し、画像の輝度を調整することが考えられる。例えば、輝度ヒストグラム上、欠陥パターンの信号強度に対応する第1の輝度と、正常パターンの信号強度に対応する第2の輝度が、それぞれ最小階調と最大階調に近く、且つその中心が全階調の中心に位置づけられるように、信号処理系や画像処理系を調整する。
【0014】
例えば画像の輝度調整時に、調整領域の画像に正常パターンと欠陥パターンの両方が含まれていれば、正常パターンと欠陥パターンの信号強度の差に基づいて検出器の信号検出感度や画像の全階調の輝度の表示範囲を決定することができる。
【0015】
しかし、画像に正常パターンしか含まれない場合、欠陥パターンの信号強度がわからないため、適切に装置条件を設定することは困難である。
【0016】
以下に、欠陥パターンの高感度検出と虚報率低下の両立を実現する装置条件調整法、及び荷電粒子線装置について説明する。
【0017】
以下の実施例では、例えば、荷電粒子源から放出された荷電粒子ビームを走査するように構成された偏向器と、試料に対する前記荷電粒子ビームの走査によって得られる荷電粒子を検出するように構成された検出器と、当該検出器の出力信号及び当該出力信号から生成される画像信号の少なくとも一方を調整するように構成された調整器と、当該調整器を制御するように構成された制御装置を備えた荷電粒子線装置であって、前記制御装置は、異なるビーム条件のビーム走査によって得られる第1の画像と第2の画像から抽出される特徴が、所定の条件を満たすように、前記信号処理装置を制御するように構成されている荷電粒子線装置システムを提案する。
【0018】
より具体的には例えば、荷電粒子源から放出された荷電粒子線をパルス化する断続照射系を有し、前記パルス化した前記荷電粒子線を走査しながら試料に集束照射する荷電粒子線光学系と、前記試料から放出される二次荷電粒子、或いは当該二次荷電粒子が他部材(例えば二次電子変換電極)に衝突することによって、当該他部材から発生する二次荷電粒子(例えば三次電子)を検出する二次荷電粒子検出系と、前記二次荷電粒子の検出信号の強度に応じた輝度を持つ画像を生成する画像処理系と、前記断続照射系、前記荷電粒子光学系、前記二次荷電粒子検出系、及びと前記画像処理系を制御する制御装置を備え、前記制御装置は、前記荷電粒子線の複数の断続条件によって得られる、前記複数の画像の解析値、又は複数の検出信号の解析値が所定の範囲となるよう、二次荷電粒子検出系、又は画像処理系を制御することを特徴とする荷電粒子線装置であって、前記制御装置は、照射時間、照射距離、照射と照射の間の遮断時間、及び照射点間距離の内の少なくとも1つの条件を変えて荷電粒子線走査したときに得られる複数の画像を取得するように、前記荷電粒子線光学系を制御することを特徴とする荷電粒子線装置であって、前記二次荷電粒子検出系は、前記試料に前記荷電粒子線を照射することによって得られる二次荷電粒子を検出する検出器と、前記検出器からの検出信号の強度を調整する信号強度調整回路を備え、前記信号強度調整回路は、信号の入出力のゲインが、前記照射と照射の間の遮断時間の異なる荷電粒子線走査によって得られた画像の輝度差が所定の範囲となるように調整し、さらに、前記ゲインが調整された前記照射と照射の間の遮断時間の異なる荷電粒子線走査によって得られた画像が所定の範囲となるように信号オフセット調整を行う荷電粒子線装置を提供する。
【0019】
上記構成によれば、画像の検査パターンに正常パターンしか含まれない場合であっても、正常パターンおよび欠陥パターンの信号強度が、検出器の感度の範囲や画像の全階調の輝度の表示範囲となるよう、前記荷電粒子線光学系における検出器の感度の範囲や画像の全階調の輝度の表示範囲を調整することが可能となり、欠陥の検出感度を向上し、虚報率を低減することができる。
【0020】
以下に、荷電粒子線を照射することによって得られる信号に基づいて、試料の拡大画像を形成する荷電粒子線装置について説明する。荷電粒子線装置のうち、試料に対して電子線を走査する走査電子顕微鏡は、高分解能画像を得られる装置である。走査電子顕微鏡は、電磁場を印加することで電子源から出射される電子線を、試料上で集束かつ走査し、電子線を照射した際に試料から放出される電子を検出器で検出し画像化する装置である。検出される電子の数は試料の情報を反映するので、電子線を走査することでコントラストをもった画像を形成することができる。
【0021】
また、以下に説明する実施例では、例えば、荷電粒子源から放出される荷電粒子線を集束する手段と、前記荷電粒子線を断続的にパルス照射する手段と、前記荷電粒子線の照射位置を制御する手段と、前記荷電粒子線を連続して照射する時間である照射時間を制御する手段と、前記照射時間に走査する距離である照射距離を制御する手段と、前記荷電粒子線の照射と照射の間の時間である照射点間遮断時間を制御する手段と、前記照射点間遮断時間に走査する照射点間の距離間隔である照射点間距離を制御する手段と、試料に対する荷電粒子線の照射に基づいて得られる荷電粒子を検出する手段と、前記検出手段の入出力のゲインを調整する手段と、前記検出手段の出力信号のオフセットを調整する手段と、前記出力信号の強度を画像の輝度に変換する手段と、前記出力信号の強度を画像の輝度に変換する際の変換のゲイン又は変換輝度値のオフセットを調整する手段と、前記変換輝度値と照射位置情報に基づいて前記画像を表示する手段と、前記画像を表示する手段を含む荷電粒子線装置であって、前記画像内で選択した検査パターンの輝度を決定する手段と、前記照射時間、或いは前記照射距離、或いは前記照射点間遮断時間、或いは前記照射点間距離の条件を変えた複数の条件で荷電粒子線走査したときに得られる複数の画像の輝度及び画像間の輝度差を決定する手段と、前記複数の画像の輝度及び画像間の輝度差が所定値となるように前記検出手段のゲイン調整及び出力のオフセット調整を行う手段を有する荷電粒子線装置について説明する。
【0022】
前記荷電粒子線装置は、異なる複数の断続条件の荷電粒子線走査によって得られる画像を用いて検出器の信号検出感度の範囲であるダイナミックレンジを決定することで、欠陥パターンの検出感度が向上し、かつ虚報率増大が抑制されるよう、画像の輝度を調整することができる。
【0023】
なお、パルス状ビームとは、照射と非照射を繰り返すことによって、断続状に照射されるビームである。以下、図面を用いてパルス状ビームの照射時間、照射距離、照射点間遮断時間、照射点間距離の設定法、及び検出器のダイナミックレンジの設定法を実行する荷電粒子線装置について説明する。なお、以下の説明では、荷電粒子線を試料上に照射し、二次荷電粒子を検出して画像を生成する荷電粒子線装置の一例として、電子線を試料上に照射し、二次電子を検出して画像を生成する走査電子顕微鏡を例にとって説明するが、これに限られることはなく、例えばイオン線を試料上に照射し、二次イオンを検出して画像を生成するイオン線装置への適用も可能である。
【実施例1】
【0024】
本実施例では、走査電子顕微鏡画像の輝度の差から欠陥箇所を特定する検査装置に関し、画像の輝度の調整に用いる領域に正常パターンしか含まれない場合であっても、輝度が小さい欠陥パターンの検出感度が向上し、かつ虚報率増大が抑制されるよう、画像の輝度の調整を行う走査電子顕微鏡について述べる。
【0025】
図1に本実施例における走査電子顕微鏡の一例を示す。走査電子顕微鏡は断続照射系、電子光学系、二次電子検出系、ステージ機構系、画像処理系、制御系、操作系により構成されている。断続照射系は電子線源1、パルス電子生成器4により構成されている。本実施例では、別途パルス電子生成器4を設ける構成としたが、パルス電子を照射可能な電子線源を用いても実施可能である。
【0026】
電子光学系は加速電圧制御器2、集光レンズ3、絞り5、偏向器6、対物レンズ7、試料電界制御器8により構成されている。偏向器6は、電子線を試料上で一次元的、或いは二次元的に走査するために設けられており、後述するような制御の対象となる。
【0027】
二次電子検出系は検出器9、出力調整回路10により構成されている。ステージ機構系は試料ステージ16、試料17により構成されている。制御系(制御装置)は加速電圧制御部21、照射電流制御部22、パルス照射制御部23、偏向制御部24、集束制御部25、試料電界制御部26、ゲイン制御部27、オフセット制御部28、ステージ位置制御部29、制御伝令部30、アナログ-デジタル変換制御部31により構成されている。制御伝令部30は、操作インターフェース41から入力された入力情報に基づいて、各制御部に制御値を書き込み制御する。操作インターフェース41は、入力装置として用意されるコンピューターシステムの表示装置等に表示され、当該操作インターフェースを介した入力に基づいて、制御装置は、二次電子検出系等を制御する。
【0028】
制御装置は、1つ以上のプロセッサに後述するステップを実行させるのに適切なプログラム命令を実行するように構成された1つ以上のプロセッサを含んでいる。例えば制御装置に含まれる1以上のプロセッサは、制御装置の1以上のプロセッサに後述するような処理を実行させるように構成されたプログラム命令を含む、記憶媒体と通信可能に構成されている。
【0029】
ここで、パルス照射制御部23は、複数の異なるビーム条件の生成が可能なように構成され、電子線を連続して照射する時間である照射時間、或いは電子線を連続して照射する距離である照射距離、或いは電子線の照射時間の間の時間である照射点間遮断時間、或いは電子線の照射距離間の距離間隔である照射点間距離を制御する。
【0030】
画像処理系は、検出信号処理部32、画像形成部33、画像表示部34により構成されている。画像処理系の検出信号処理部32また画像形成部33には1つ以上のプロセッサを備え、指定された検査パターンの輝度の演算、或いは複数の検査パターン間の輝度差の演算等を実行する。得られた演算値が所望の輝度設定値となるようにゲイン制御部27、オフセット制御部28の制御値を調整する。輝度は、画像の画素に対応する個所から放出された電子量に応じた値であり、試料から放出された電子が多い程、輝度が大きくなる。
【0031】
また、本実施例では輝度に基づいて、ゲイン調整及びオフセット調整を行う手法(或いは調整回路(調整器))について説明するが、輝度に変えて輝度の解析値、例えば検査パターン内の全画素の輝度のヒストグラム等を用いてゲイン調整及びオフセット調整を行っても良いし、輝度に変えて検出の信号電圧などの検出信号に基づいて、ゲイン調整及びオフセット調整を行う調整器を用いた調整を行っても良い。また、本実施例では検出器9より出力されるアナログ検出信号のI/V変換ゲインおよびアナログオフセットの重畳を行う回路(調整器)によって輝度調整を行う方法について述べるが、例えば、16bitで検出したアナログ信号を8bitのデジタル信号に割り当てる際、アナログ-デジタル変換制御部31を用いて画像の信号レンジとオフセットを調整するデジタル調整用調整器を用いても良い。また、出力信号と画像信号を両方調整するようにしても良い。上述のようなゲイン調整やオフセット調整を行う調整器を含む信号処理装置は、走査電子顕微鏡のモジュールとしてだけではなく、検出器出力の受領が可能であり、且つ走査電子顕微鏡に対する制御信号の供給が可能な1つ以上のコンピューターシステムで構成するようにしても良い。操作系は、操作インターフェース41により構成されている。
【0032】
また、制御装置は、走査電子顕微鏡をサブシステムとするシステムの一部と定義することができる。制御装置は、走査電子顕微鏡の少なくとも1つの部分と通信可能に結合されている。更に、制御装置は、検出系によって得られた画像に含まれる輝度情報等に基づいて、走査電子顕微鏡を制御することができる。特に、制御装置は、得られた輝度情報に基づいて、検出系及び画像処理系の少なくとも一方の制御パラメータを調整する。更に制御装置は、当該調整のために所定の位置にビームを照射するようにステージ、或いは視野移動用の偏向器を制御すると共に、後述するような条件のビームが照射されるように、電子光学系を制御する。
【0033】
図2に本実施例においてゲイン調整及びオフセット調整を行う工程を示すフローチャートを示す。まず、観察場所に移動する(S101)。次に、画像を取得する(S102)。次に、取得した画像から、検査パターンを指定する(S103)。本実施例ではオペレータが検査パターンの領域を指定したが、画像の輝度から、走査電子顕微鏡が自動で検査パターンを抽出してもよい。
【0034】
次に、光学条件を設定する(S104)。ここで、光学条件は、電子線の照射電圧、電子線の照射電流、試料電界を含む。次に、複数の断続条件を設定する(S105)。S105で設定する複数の断続条件は、照射時間、照射距離、照射点間遮断時間、及び照射点間距離のうち、少なくとも1つが互いに異なる。本実施例では、複数の断続条件(ビーム条件)を設定することによって、画像の特徴が異なる複数の画像(例えば第1の画像と第2の画像)を生成する。
【0035】
次に、ゲインとオフセットの初期値を設定する(S106)。なお、S106は省略してもよい。設定したゲイン値とオフセットは、ゲイン制御部27とオフセット制御部28を介し検出器9と出力調整回路10に設定される。次に、複数の断続条件を用いて取得した複数の画像の検査パターンのうち、第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度と、第1の断続条件と第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度差の収束値を設定する(S107)。次に、第1の断続条件で画像を取得する(S108)。次に、第2の断続条件で画像を取得する(S109)。次に、2つの断続条件で取得した画像の検査パターンの輝度を解析する(S110)。次に、第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度の解析結果が、収束値であるか判定する(S111)。収束値でない場合、オフセット調整を実施し(S112)、S108に進み、S108からS110を繰り返す。収束値である場合、S113に進む。次に第1の断続条件と第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度差が収束値であるか判定する(S113)。収束値でない場合、ゲイン調整を実施し(S114)、S108に進み、S108からS110を繰り返す。収束値である場合、S115に進む。次に、ゲイン調整及びオフセット調整を終了する(S115)。
図2に例示する処理は手動で行うようにしても良いし、自動的に実行するためのプログラム命令を用意し、制御装置の制御に基づいて自動で行うようにしても良い。
【0036】
図3に本実施例で用いた操作インターフェースを示す。操作インターフェースは、検査画像を表示し、検査画像から検査パターンを指定するための、検査パターン設定部51を有している。また、光学条件及び走査条件及び断続条件設定部52を有しており、照射電圧設定部53、照射電流設定部54、試料電界設定部55、走査速度設定部56、走査領域設定部57を有している。さらに光学条件及び走査条件及び断続条件設定部52は、照射時間或いは照射距離を設定する照射設定部58と、照射点間遮断時間或いは照射点間距離を設定する照射点間設定部59を有している。
【0037】
図2のフローチャートにおいて設定する複数の断続条件は、照射設定部58或いは照射点間設定部59のどちらか一方、または両方の設定が互いに異なる。また、
図2のフローにおける、ゲインとオフセットの初期値及び輝度と輝度差の収束値を設定する、輝度制御部60を有している。ここで収束値は一定の範囲値でも構わない。
【0038】
輝度制御部60は、手動/自動切り替え部61、ゲイン入力兼表示部62、オフセット入力兼表示部63、輝度設定部64、輝度差設定部65を有している。本実施例のゲイン調整及びオフセット調整においては、手動/自動切り替え部61を自動に設定し、ゲイン入力兼表示部62でゲインの初期値を設定し、オフセット入力兼表示部63でオフセットの初期値を設定し、輝度設定部64で第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度の収束値を設定し、輝度差設定部65で第1の断続条件と第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度差の収束値を設定した。なお、輝度制御部60の手動/自動切り替え部61を手動に設定した場合、ゲイン入力兼表示部62及びオフセット入力兼表示部63によってゲイン及びオフセットを手動で制御することができる。
【0039】
次に本ゲイン調整及びオフセット調整を実施した走査電子顕微鏡を用いた欠陥検査の概要について説明する。
図4に本実施例で用いた試料の一部の断面図を例示する。
図4に例示する試料は、シリコン基板71の上に、底部絶縁膜72とコンタクトプラグ73が積層された積層層と、層間絶縁膜74が積層されている。底部絶縁膜72及びコンタクトプラグ73の積層方向の長さが、所定の条件を満たしている検査対象パターンが正常パターンであり、底部絶縁膜72の積層方向の長さが所定値より長く、コンタクトプラグ73の積層方向の長さが所定値より短い検査対象パターン(左から2番目コンタクトプラグ)が欠陥パターンである。
【0040】
図5に本実施例においてゲインとオフセットの調整時に使用した試料の走査電子顕微鏡画像の一例を示す。
図5に例示する画像に含まれるパターンは、全て正常パターンである。画像の輝度は256階調で表示するよう設定した。また、以下に説明する実施例で用いる図面は、明るさの程度を示すべく、明るさに応じた異なるパターンでホールパターンを表現している。
図5に例示するゲージは右に行くほど高輝度(左にいくほど低輝度)である状態を示している。
図5の例では第1の断続条件において、輝度の調整後のホールパターンの輝度が、輝度の調整前のホールパターンの輝度より低輝度である状態を示している。
【0041】
第1の断続条件を照射時間0.1μs、照射点間遮断時間1μsに設定し、第2の断続条件を照射時間0.1μs、照射点間遮断時間5μsに設定した。ここで、輝度の照射時間及び照射点間遮断時間は、画像の1画素あたりに電子線を照射する時間を最小単位として設定した。
【0042】
輝度の調整前は、第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度が80、第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度が100であった。本実施例では、第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度の収束値(任意の輝度設定値)を50に、第1の断続条件と第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度差の収束値を200に設定し、輝度の調整を実施した。ここで設定した収束値の
前後10%以内に収まれば収束したと判断した。第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度が50であり、第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度が250になるよう、
図2のフローチャートに従って、ゲインとオフセットを調整した。
【0043】
なお、
図2のフローチャートでは、オフセット調整を実施した後、ゲイン調整を行っているが、逆であっても良い。また、本実施例では2つの画像を取得した後、オフセット調整とゲイン調整を行っているが、1の画像を取得し、1の調整を行った後、他の画像を取得し、他の調整を行うようにしても良い。オフセット調整は、例えば低い方の値が所定値(上述の例では50)となるように、検出器の出力を増幅する増幅器のバイアス電圧を調整し、ゲイン調整は、低い側の値と高い側の値との差分が所定値(上述の例では200)となるように検出器を調整する。
【0044】
電子ビームは電荷を持っているため、画像生成のために検査対象試料にビームを照射すると電荷が蓄積する。一方、電子ビームの照射を止めると蓄積した電荷が抜ける(緩和する)。即ち、試料にビームを断続的に照射すると、電子ビームが照射されているときの電荷の蓄積(充電)と、電子ビームが照射されていないときの蓄積の緩和(放電)が繰り返されることになる。第1の断続条件のビームは、第2の断続条件と比較すると、照射時間が同じである一方、遮断時間が短いため、相対的に帯電が緩和せず、パターンにより多くの電荷が蓄積する。
【0045】
一方で、
図4に例示するような欠陥パターン(左から2番目のコンタクトプラグ)は、正常パターンと比較すると底部絶縁膜72が厚い(即ち、静電容量が小さい)ため、電荷の蓄積により試料表面電位が蓄積し易い(即ち、相対的に放電の影響を受けにくい)パターンであると言える。上述の実施例にて第1の断続条件として、相対的に遮断時間の短い(電荷が蓄積し易い)ビームを用いて画像を形成した理由は、正常な検査対象パターンを、欠陥パターンと同様に帯電させるためであり、この試料状態で検査対象パターンの輝度が任意の所定値(上記実施例では50)となるように、ゲインやオフセットを調整することによって、輝度が250となるように設定された正常パターンに対するコントラストを拡大することができる。
【0046】
図6に本実施例において取得した走査電子顕微鏡の検査画像の一例を示す。
図6は第2の断続条件で取得した検査時の画像である。
図6の検査画像内の検査パターンのうち、1点が欠陥パターンであり、その他は正常パターンである。
【0047】
まず、正常パターンに着目すると、輝度の調整前は、正常パターンの輝度が100であったのに対し、輝度の調整後は250である。次に、欠陥パターンに着目すると、輝度の調整前は、欠陥パターンの輝度が85であったのに対し、輝度の調整後は50である。即ち、輝度の調整前は15であった正常パターンと欠陥パターンの輝度差が、輝度の調整後は200に拡大しており、調整によって欠陥パターンの検出感度が向上した。
【0048】
図7に本実施例においてゲインとオフセットの調整時に取得した走査電子顕微鏡画像の一例を示す。
図7の画像内のパターン、及び第1の断続条件、及び第2の断続条件は、
図5と同じである。輝度の調整前は、第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度が0、第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度が250であった。ただし、第2の断続条件で取得した検査パターンには、輝度が0のパターン及び輝度が0より大きく250より小さいパターンが複数含まれていた。第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度の収束値と、第1の断続条件と第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度差の収束値は
図5と等しく設定し、輝度の調整を実施した。
【0049】
図8に本実施例において取得した走査電子顕微鏡の検査画像の一例を示す。
図8は第2の断続条件で取得した検査画像である。
図8の検査画像内の検査パターンのうち、1点が欠陥パターンであり、その他は正常パターンである。
【0050】
輝度の調整前は、輝度が0のパターンを複数点検出したのに対し、輝度の調整後は、輝度が50のパターンを1点のみ検出し、その他のパターンの輝度は250であった。輝度の調整前において、輝度が0のパターンに正常パターンと欠陥パターンの両方が含まれるため、輝度が0のパターンを欠陥パターンと判断した場合、正常パターンを誤って欠陥パターンと判断してしまう、虚報が発生した。一方、輝度の調整後は、輝度が50のパターンを欠陥パターンと判断することで、虚報が防止できた。即ち、調整によって虚報率を低減できる。
【0051】
上述のような実施例によれば、異なる複数の断続条件の電子線走査によって得られる画像を取得し、複数の検査パターンの輝度及び検査パターン間の輝度差が所定値になるよう調整することで、欠陥パターンの検出感度が向上し、かつ虚報率が低減された。
【0052】
なお、上述の実施例では、異なるビーム条件のそれぞれで、輝度値という特徴を評価し、当該特徴が設定値(収束値)となるようゲインやオフセットを調整する例について説明したが、輝度値自体ではなく、輝度値に伴って変化する他のパラメータを評価対象となる特徴とするようにしても良い。例えば背景に対する輝度比(コントラスト)やパターンエッジの先鋭度等、他のパラメータを評価対象とし、当該評価対象が所定値となるように、調整器を用いた調整を行うようにしても良い。更に、ビーム条件についても照射点間遮断時間や照射時間だけではなく、正常パターンから欠陥パターンの状態を再現できるような他のビーム条件を適用するようにしても良い。
【実施例2】
【0053】
本実施例では、走査電子顕微鏡画像の輝度の差から欠陥箇所を特定する検査装置に関し、画像の輝度の調整に用いる領域に正常パターンしか含まれない場合であっても、輝度が大きい欠陥パターンの検出感度が向上し、かつ虚報率が低減できるよう、画像の輝度の調整を行う走査電子顕微鏡について述べる。本実施例では、
図1記載の走査電子顕微鏡を用いた。本実施例では、
図2記載のフローチャートを用い、ゲイン調整及びオフセット調整を行った。本実施例では、
図3記載の操作インターフェースを用いた。
【0054】
本ゲイン調整及びオフセット調整を実施した走査電子顕微鏡を用いた欠陥検査について述べる。
図9に本実施例で用いた試料の一部の断面図を示す。図
9の試料は、ボロンを注入したシリコン基板81の一部にリンを注入した不純物拡散層82を形成し、シリコン基板81の上にコンタクトプラグ83又は層間絶縁膜84を積層した構造をしている。本実施例においては、コンタクトプラグ83の走査電子顕微鏡画像が検査パターンである。このうち、コンタクトプラグ83がシリコン基板81に対し垂直に形成されており、コンタクトプラグ83の底面全体が不純物拡散層82と接している検査パターンが正常パターンである。一方、コンタクトプラグ83がシリコン基板81に対し垂直に形成されておらず、コンタクトプラグ83の底面の一部又は全体がシリコン基板81と接している検査パターンが欠陥パターンである。
【0055】
図10に本実施例においてゲインとオフセットの調整時に取得した走査電子顕微鏡画像の一例を示す。
図10の画像内のパターンは、全て正常パターンである。画像の輝度は256階調で表示するよう設定した。第1の断続条件を照射時間2μs、照射点間遮断時間0μsに設定(即ち断続的ではなく連続的にビームが走査される状態)し、第2の断続条件を照射時間2μs、照射点間遮断時間10μsに設定した。ここで、輝度の照射時間及び照射点間遮断時間は、画像の1画素あたりに電子線を照射する時間を最小単位として制御した。輝度の調整前は、第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度が140、第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度が180であった。
【0056】
本実施例では、第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度の収束値を80に、第1の断続条件と第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度差の収束値を150に設定し、輝度の調整を実施した。ここで設定した収束値の
前後10%以内に収まれば収束したと判断した。第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度が80であり、第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度が230になるよう、
図2のフローチャートに従って、ゲインとオフセットを調整した。
【0057】
図9に例示するような欠陥パターン(左から2番目のコンタクトプラグ83)は正常パターンと比較すると、シリコン基板81に直接接続された状態にあるため、電気抵抗が小さい、電荷が放電し易いパターンであると言える。本実施例において、第2の断続条件(照射時間2μs、照射点間遮断時間10μs)として、相対的に遮断時間の長い(電荷が放出し易い)ビームを用いて画像を形成した理由は、正常な検査パターンを、欠陥パターンと同様に帯電させるためである。
図4に例示した欠陥の場合、欠陥パターンは正常パターンより帯電し易いパターンであるのに対し、
図9に例示するような欠陥パターンの場合、欠陥パターンの方が、電気抵抗が小さいので正常パターンより帯電しにくい(電荷を放出し易い)パターンであると言える。
【0058】
よって、正常パターンに対して、検査ビームより帯電しにくいビーム(第2の断続条件のビーム)を照射することによって、検査ビーム(第1の断続条件のビーム)を照射したときの欠陥パターンの輝度を再現すると共に、欠陥パターンの輝度が所定値(正常パターンの収束値から離れた収束値)となるように、ゲインやオフセットを調整することで、正常パターンとのコントラストを拡大することができる。
【0059】
図11に本実施例において走査電子顕微鏡の検査画像の一例を示す。
図11は第1の断続条件で取得した検査画像である。
図11の検査画像内の検査パターンのうち、1点が欠陥パターンであり、その他は正常パターンである。
【0060】
まず、正常パターンに着目すると、輝度の調整前は、正常パターンの輝度が140であったのに対し、輝度の調整後は80である。次に、欠陥パターンに着目すると、輝度の調整前は、欠陥パターンの輝度が175であったのに対し、輝度の調整後は225である。即ち、輝度の調整前は35であった正常パターンと欠陥パターンの輝度差が、輝度の調整後は145に拡大しており、調整によって欠陥パターンの検出感度が向上した。
【0061】
図12に本実施例においてゲインとオフセットの調整時に取得した走査電子顕微鏡画像の一例を示す。
図12の画像内のパターン、及び第1の断続条件、及び第2の断続条件は、
図10と同じである。輝度の調整前は、第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度が20、第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度が255であった。第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度の収束値と、第1の断続条件と第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度差の収束値は
図10と等しく設定し、輝度の調整を実施した。
【0062】
図13に本実施例において取得した走査電子顕微鏡による検査画像の一例を示す。
図13は第1の断続条件で取得した検査画像である。
図13の検査画像内の検査パターンのうち、1点が欠陥パターンであり、その他は正常パターンである。
【0063】
輝度の調整前は、輝度が255であるパターンを複数点検出したのに対し、輝度の調整後は、輝度が175のパターンを1点のみ検出し、その他のパターンの輝度は50であった。輝度の調整前において、輝度が255であるパターンに正常パターンと欠陥パターンの両方が含まれるため、輝度が255であるパターンを欠陥パターンと判断した場合、正常パターンを誤って欠陥パターンと判断してしまう、虚報が発生した。一方、輝度の調整後は、輝度が175のパターンを欠陥と判断できるため、虚報が防止され虚報率を低減できる。
【0064】
上述のような実施例によれば、異なる複数の断続条件の電子線走査によって得られる画像を取得し、複数の検査パターンの輝度及び検査パターン間の輝度差が所定値になるよう調整することで、欠陥パターンの検出感度が向上し、かつ虚報率増大が抑制された。
【実施例3】
【0065】
本実施例では、走査電子顕微鏡画像の輝度の差から欠陥箇所を特定する検査装置に関し、画像の輝度の調整に用いる領域に正常パターンしか含まれない場合であっても、輝度が大きい欠陥パターンの検出感度が向上し、かつ虚報率が低減されるよう、画像の輝度の調整を行う走査電子顕微鏡について述べる。本実施例では、
図1記載の走査電子顕微鏡を用いた。本実施例では、
図2記載のフローチャートを用い、ゲイン調整及びオフセット調整を行った。本実施例では、
図3記載の操作インターフェースを用いた。
【0066】
本ゲイン調整及びオフセット調整を実施した走査電子顕微鏡を用いた欠陥検査について述べる。
図14に本実施例で用いた試料の一部の断面図を示す。本実施例で用いた試料は
図4と同じく、シリコン基板71の上に、底部絶縁膜72とコンタクトプラグ73、又は層間絶縁膜74を積層した構造をしている。また、
図4と同じく、コンタクトプラグ73の走査電子顕微鏡画像が検査パターンであり、底部絶縁膜72及びコンタクトプラグ73の積層方向の長さが所定値の場合の検査パターンが正常パターンである。一方、
図4とは異なり、底部絶縁膜72の積層方向の長さが所定値より短く、コンタクトプラグ73の積層方向の長さが所定値より長い場合の検査パターン(右から3番目のコンタクトプラグ)が欠陥パターンである。
【0067】
図15に本実施例においてゲインとオフセットの調整時に取得した走査電子顕微鏡画像の一例を示す。
図15の画像内のパターンは、全て正常パターンである。画像の輝度は256階調で表示するよう設定した。第1の断続条件を照射距離10nm、照射点間距離100nmに設定し、第2の断続条件を照射距離10nm、照射点間距離500nmに設定した。ここで、輝度の照射距離及び照射点間距離は、画像の1画素あたりに電子線を照射する距離を最小単位として制御した。輝度の調整前は、第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度が90、第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度が100であった。本実施例では、第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度の収束値を20に、第1の断続条件と第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度差の収束値を80に設定し、輝度の調整を実施した。ここで設定した収束値の
前後10%以内に収まれば収束したと判断した。第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度が20であり、第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度が100になるよう、
図2のフローチャートに従って、ゲインとオフセットを調整した。
【0068】
本実施例の場合、実施例1と異なり、照射時間と照射点間遮断時間に換えて、照射距離と照射点間距離を、充電と放電を制御するパラメータとして用いている。ビームの走査速度が固定されていれば、照射時間と照射間遮断時間と同様、照射距離と照射点間距離の適切な設定によって、充電と放電を制御することが可能となる。
【0069】
図16に本実施例において取得した走査電子顕微鏡の検査画像の一例を示す。
図16は第2の断続条件で取得した検査画像である。
図16の検査画像内の検査パターンのうち、1点が欠陥パターンであり、その他は正常パターンである。
【0070】
まず、正常パターンに着目すると、輝度の調整前と調整後のいずれにおいても、正常パターンの輝度は100である。次に、欠陥パターンに着目すると、輝度の調整前は、欠陥パターンの輝度が110であったのに対し、輝度の調整後は180である。即ち、輝度の調整前は10であった正常パターンと欠陥パターンの輝度差が、輝度の調整後は80に拡大しており、調整によって欠陥パターンの検出感度が向上した。
【0071】
図17に本実施例においてゲインとオフセットの調整時に取得した走査電子顕微鏡画像の一例を示す。
図17の画像内のパターン、及び第1の断続条件、及び第2の断続条件は、
図15と同じである。輝度の調整前は、第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度が0、第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度が130であった。第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度の収束値と、第1の断続条件と第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度差の収束値は
図15と等しく設定し、輝度の調整を実施した。
【0072】
図18に本実施例において取得した走査電子顕微鏡の検査画像の一例を示す。
図18は第2の断続条件で取得した検査画像である。
図18の検査画像内の検査パターンのうち、1点が欠陥パターン(左から4番目、上から3番目のパターン)であり、その他は正常パターンである。
【0073】
輝度の調整前は、輝度が256のパターンを複数点検出したのに対し、輝度の調整後は、輝度が180のパターンを1点のみ検出し、その他のパターンの輝度は100であった。輝度の調整前において、輝度が256のパターンに正常パターンと欠陥パターンの両方が含まれるため、輝度が256のパターンを欠陥パターンと判断した場合、正常パターンを誤って欠陥パターンと判断してしまう、虚報が発生した。一方、輝度の調整後は、輝度が180のパターンを欠陥パターンと判断することで、虚報が防止できた。即ち、調整によって虚報率を低減できた。
【0074】
上述のような実施例によれば、異なる複数の断続条件の電子線走査によって得られる画像を取得し、複数の検査パターンの輝度及び検査パターン間の輝度差が所定値になるよう調整することで、欠陥パターンの検出感度が向上し、かつ虚報率増大が抑制された。
【実施例4】
【0075】
本実施例では、走査電子顕微鏡画像の輝度の差から欠陥箇所を特定する検査装置に関し、画像の輝度の調整に用いる領域に正常パターンしか含まれない場合であっても、欠陥パターンの検出感度が向上し、かつ虚報率が低減できるよう、画像の輝度の調整及び欠陥検査の断続条件の決定を行う走査電子顕微鏡について述べる。
【0076】
本実施例では、
図1記載の走査電子顕微鏡を用いた。
図19に本実施例においてゲイン調整及びオフセット調整を行い、断続条件を決定する工程を示すフローチャートを示す。本実施例の基本的なフローは
図2のフローと共通している。本実施例のフローは、複数の断続条件を設定する際、3つ以上の断続条件を設定する(S405)。また、ゲイン調整及びオフセット調整を終了した後、設定した3つ以上の全ての断続条件で画像を取得し(S416)、取得した画像の検査パ-タンの輝度を解析する(S417)。次に、検査パターンの輝度から、欠陥検査の断続条件を決定する(S418)。
【0077】
本実施例で設定した3つ以上の断続条件は、それぞれ断続条件である照射点間遮断時間が異なる。本実施例では、照射点間遮断時間の変化に対する輝度の平均変化率を算出し、設定した各断続条件の照射点間遮断時間のうち輝度の平均変化率が最大の条件に断続条件を決定した。本実施例では、
図3記載の操作インターフェースを用いた。
【0078】
本ゲイン調整及びオフセット調整を実施した走査電子顕微鏡を用いた欠陥検査について述べる。
図20に本実施例で用いた試料の一部の断面図を示す。
図20の試料は、リンを注入したシリコン基板91の一部にボロンを注入した不純物拡散層92を形成し、シリコン基板91の上にコンタクトプラグ93又は層間絶縁膜94を積層した構造をしている。本実施例においては、コンタクトプラグ93の走査電子顕微鏡画像が検査パターンである。このうち、コンタクトプラグ93と接合する不純物拡散層92の不純物濃度が所定値の場合の検査パターンが正常パターンであり、不純物濃度が所定値より大きいまたは小さい検査パターンが欠陥パターンである。
【0079】
図21に本実施例において取得した走査電子顕微鏡画像の一例を示す。
図21の画像内のパターンは、全て正常パターンである。画像の輝度は256階調で表示するよう設定した。第1の断続条件を照射時間20μs、照射点間遮断時間20μsに設定し、第2の断続条件を照射時間20μs、照射点間遮断時間100μsに設定した。ここで、輝度の照射時間及び照射点間遮断時間は、1ライン走査あたりに電子線を照射する時間を最小単位として制御した。
【0080】
輝度の調整前は、第1の遮断条件で取得した検査パターンの輝度が140、第2の遮断条件で取得した検査パターンの輝度が150であった。本実施例では、第1の遮断条件で取得した検査パターンの輝度の収束値を40に、第1の遮断条件と第2の遮断条件で取得した検査パターンの輝度差の収束値を180に設定し、輝度の調整を実施した。ここで設定した収束値の
前後10%以内に収まれば収束したと判断した。第1の遮断条件で取得した検査パターンの輝度が40であり、第2の遮断条件で取得した検査パターンの輝度が220になるよう、
図19のフローチャートに従って、ゲインとオフセットを調整した。
【0081】
図20の左から4番目のコンタクトプラグ93は、正常パターン(例えば1番左のコンタクトプラグ93)と比較すると、イオン打ち込み装置による打ち込み濃度が高いパターンである。即ち、電気抵抗が小さく、電荷が放電し易いパターンであると言える。一方、左から2番目のコンタクトプラグ93は、正常パターンと比較すると、打ち込み濃度が低いパターンである。即ち、電気抵抗が大きく、放電しにくいパターンであると言える。
【0082】
本実施例において、照射点間遮断時間が大きく異なる2種のビーム(20μsと100μs)を用いて画像を形成した理由は、正常パターンに対して帯電し易いパターンから、正常パターンに対して帯電しにくいパターンまでの広い帯電状態を示すパターンの識別を可能とするためである。本実施例では、第1の断続条件のビームと第2の断続条件のビームの遮断時間の間で、複数の断続条件の画像を生成することによって、適正なビーム条件を特定する例について説明する。
【0083】
図22は複数の断続条件のビームによって得られた走査電子顕微鏡画像の一例を示す図である。
図22はゲイン調整及びオフセット調整を終了後、S405で設定した5つの全ての断続条件で取得した検査画像である。ここで、第3の断続条件は照射時間20μs、照射点間遮断時間40μsであり、第4の断続条件は照射時間20μs、照射点間遮断時間60μsであり、第5の断続条件は照射時間20μs、照射点間遮断時間80μsである。
【0084】
図23に、
図22に示した走査電子顕微鏡画像における検査パターンの輝度と、各画像の照射点間遮断時間との関係を示す。照射点間遮断時間を変化させた20μsから100μsの範囲において、照射点間遮断時間が60μsの際に輝度の平均変化率が最大であることから、欠陥検査の断続条件は、照射点間遮断時間が60μsである断続条件、即ち第4の断続条件に決定した。
【0085】
上述のような検査用画像のビーム条件決定法によれば、適切に設定されたゲインとオフセット条件のもと、適切なビーム条件を選択することが可能となる。なお、本実施例では、遮断時間の変化に対する輝度変化が最大となる照射点間遮断時間である60μsを選択する例について説明したが、これに限られることはなく、理想となる輝度変化率がある場合は、当該値を所定値とし、当該所定値となる遮断時間を選択するようにしても良い。また、輝度を固定して検査したい場合は、当該輝度を所定値とし、当該所定値となる遮断時間を選択すると良い。
【0086】
図24に本実施例において取得した走査電子顕微鏡の検査画像の一例を示す。
図24は第4の断続条件で取得した検査画像である。
図24の検査画像内の検査パターンのうち、不純物濃度が所定値より大きい欠陥パターンが1点、不純物濃度が所定値より小さい欠陥パターン(上から3番目、左から4番目)が1点あり、その他は正常パターンである。
【0087】
まず、正常パターンに着目すると、輝度の調整前は、正常パターンの輝度が145であったのに対し、輝度の調整後は140である。次に、欠陥パターンに着目すると、輝度の調整前は、不純物濃度が所定値より大きい欠陥パターンの輝度及び不純物濃度が所定値より小さい欠陥パターンの輝度が共に145であったのに対し、輝度の調整後は、不純物濃度が所定値より大きい欠陥パターンの輝度が190、不純物濃度が所定値より小さい欠陥パターンの輝度が90である。即ち、輝度の調整前は0であった正常パターンと欠陥パターンの輝度差が、輝度の調整後は50に拡大しており、調整によって欠陥パターンの検出感度が向上した。
【0088】
図25に本実施例において取得したゲインとオフセットの調整時の走査電子顕微鏡画像の一例を示す。
図25の検査画像内の検査パターン、及び第1の断続条件、及び第2の断続条件は、
図21と同じである。輝度の調整前は、第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度が0、第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度が255であった。第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度の収束値と、第1の断続条件と第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度差の収束値は
図22と等しく設定し、輝度の調整を実施した。
【0089】
図26に本実施例において取得した走査電子顕微鏡画像の一例を示す。図
26は第4の断続条件で取得した検査画像である。
図26の検査画像内の検査パターンのうち、不純物濃度が所定値より大きい欠陥パターンが1点、不純物濃度が所定値より小さい欠陥パターンが1点あり、その他は正常パターンである。
【0090】
輝度の調整前は、輝度が140より小さいパターンと輝度が140より大きいパターンをそれぞれ複数点検出したのに対し、輝度の調整後は、輝度が140より小さいパターン(上から3番目、左から4番目)と輝度が140より大きいパターン(上から4番目、左から2番目)をそれぞれ1点ずつのみ検出した。なお、輝度の調整前は、正常パターンの輝度の一部が140であったのに対し、輝度の調整後は、正常パターンの輝度の全部が140であった。
【0091】
輝度の調整前において、輝度が140でないパターンに正常パターンと欠陥パターンの両方が含まれるため、輝度が140でないパターンを欠陥パターンと判断した場合、正常パターンを誤って欠陥パターンと判断してしまう、虚報が発生した。一方、輝度の調整後は、輝度が140でないパターンを欠陥パターンと判断することで、虚報が防止できた。即ち、調整によって虚報率を低減できた。
上述のような実施例によれば、異なる3つ以上の断続条件の電子線走査によって得られる画像を取得し、複数の検査パターンの輝度及び検査パターン間の輝度差が所定値になるよう調整し、かつ照射点間遮断時間を変化させた際の輝度の平均変化率から断続条件を決定することで、欠陥パターンの検出感度が向上し、かつ虚報率が低減された。
【実施例5】
【0092】
本実施例では、走査電子顕微鏡画像の輝度の差から欠陥箇所を特定する検査装置に関し、画像の輝度の調整に用いる領域に正常パターンと欠陥パターンの両方が含まれる場合に、欠陥パターンの検出率が向上し、かつ虚報率増大が抑制されるよう、画像の輝度の調整を行う走査電子顕微鏡について述べる。本実施例では、
図1記載の走査電子顕微鏡を用いた。本実施例では、
図2記載のフローチャートを用い、ゲイン調整及びオフセット調整を行った。本実施例では、
図3記載の操作インターフェースを用いた。
【0093】
本ゲイン調整及びオフセット調整を実施した走査電子顕微鏡を用いた欠陥検査について述べる。
図27に本実施例で用いた試料の一部の断面図を示す。
図27の試料は、窒素を注入したシリコンカーバイド基板101の一部にアルミニウムを注入した不純物拡散層102を形成し、シリコンカーバイド基板101の上にコンタクトプラグ103又は層間絶縁膜104を積層した構造をしている。
【0094】
本実施例においては、コンタクトプラグ103の走査電子顕微鏡画像が検査パターンである。このうち、コンタクトプラグ103が不純物拡散層102で止まり、コンタクトプラグ103の底面全体が不純物拡散層102と接している検査パターンが正常パターンである。一方、コンタクトプラグ103が不純物拡散層102を突き抜け、コンタクトプラグ103の底面の一部がシリコンカーバイド基板101と接している検査パターンが欠陥パターンである。欠陥パターンの中には、コンタクトプラグ103の底面とシリコンカーバイド基板101との接触面積が大きいパターン(以下、欠陥パターンA)と、コンタクトプラグ103の底面とシリコンカーバイド基板101との接触面積が小さいパターン(以下、欠陥パターンB)が混在する。
【0095】
図28に本実施例において取得した走査電子顕微鏡画像の一例を示す。
図28の検査画像内の検査パターンのうち、1点が欠陥パターンA(上から2番目、左から2番目)、1点が欠陥パターンB(上から2番目、左から3番目)であり、その他は正常パターンである。画像の輝度は256階調で表示するよう設定した。第1の断続条件を照射距離0.1μm、照射点間距離1μmに設定し、第2の断続条件を照射距離0.1μm、照射点間距離5μmに設定した。ここで、輝度の照射距離及び照射点間距離は、画像の1画素あたりに電子線を照射する距離を最小単位として制御した。
【0096】
図2のフローチャートに沿った処理を行うことなく、単数の断続条件で取得した画像ごとにゲイン調整及びオフセット調整を行った場合は、第1の断続条件と第2の断続条件でともに、欠陥パターンAの輝度が200、欠陥パターンBと正常パターンの輝度が30であった。本実施例では、第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度の平均値の収束値を50に、第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度の平均値と第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度の平均値の差分の収束値を100に設定し、輝度の調整(ゲインとオフセットの調整)を実施した。ここで設定した収束値の
前後10%以内に収まれば収束したと判断した。第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度が50であり、第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度が150になるよう、
図2のフローチャートに従い、複数の断続条件で取得した画像を用いてゲイン調整及びオフセット調整を行った。
【0097】
ゲイン調整及びオフセット調整の後は、第1の断続条件において、欠陥パターンAの輝度が150、欠陥パターンBの輝度が100、正常パターンの輝度が50以上60以下であった。また、第2の断続条件において、欠陥パターンAの輝度が210、欠陥パターンBの輝度が200、正常パターンの輝度が150以上155以下であった。
【0098】
単数の断続条件で取得した画像ごとにゲイン調整及びオフセット調整を行った場合は、輝度が30のパターンに欠陥パターンBと正常パターンの両方が含まれるため、輝度が30のパターンを正常パターンと判断した場合、欠陥パターンBを検出できなかった。一方、複数の断続条件で取得した画像ごとにゲイン調整及びオフセット調整を行った場合は、第1の断続条件において、輝度が60以下のパターンを正常パターンと判断し、輝度が100以上のパターンを欠陥パターンと判断することで、欠陥パターンBを検出できた。即ち、欠陥パターンの検出率が向上した。
【0099】
図29に本実施例において取得した走査電子顕微鏡画像の一例を示す。
図29の検査画像内の検査パターン、及び第1の断続条件、及び第2の断続条件は、
図28と同じである。単数の断続条件で取得した画像ごとにゲイン調整及びオフセット調整を行った場合は、第1の断続条件と第2の断続条件でともに、欠陥パターンAと欠陥パターンBの輝度が200、正常パターンの輝度が30以上200以下であり、輝度が200である正常パターンが複数含まれていた。
【0100】
第1の断続条件で取得した検査パターンの輝度の収束値と、第1の断続条件と第2の断続条件で取得した検査パターンの輝度差の収束値は
図28と等しく設定し、複数の断続条件で取得した画像を用いて輝度の調整を実施した。単数の断続条件で取得した画像ごとにゲイン調整及びオフセット調整を行った場合は、輝度が200のパターンに、欠陥パターンAと欠陥パターンBに加えて正常パターンが含まれるため、輝度が200のパターンを欠陥パターンと判断した場合、正常パターンを誤って欠陥パターンと判断してしまう、虚報が発生した。
【0101】
一方、複数の断続条件で取得した画像ごとにゲイン調整及びオフセット調整を行った場合は、輝度が100以上のパターンを欠陥パターンと判断することで、虚報が防止できた。即ち、虚報率増大を抑制できた。
【0102】
上述のような実施例によれば、異なる複数の断続条件の電子線走査によって得られる画像を取得し、複数の検査パターンの輝度及び検査パターン間の輝度差が所定値になるよう調整することで、欠陥パターンの検出率が向上し、かつ虚報率増大が抑制された。
【実施例6】
【0103】
本実施例では、走査電子顕微鏡画像の輝度の差から欠陥箇所を特定する検査装置に関し、複数の断続条件で取得した画像を用いた輝度調整を自動で行う走査電子顕微鏡について述べる。本実施例では、
図1記載の走査電子顕微鏡を用いた。
【0104】
図30に複数の断続条件で取得した画像を用いた輝度調整を自動で実施する工程を示すフローチャートを示す。まず、検査レシピを開始する(S601)。検査レシピとは、検査点で画像を撮像する前に行う処理と、検査点における画像の取得を自動で行う、一連のシーケンスを制御する手順のことである。次に、試料を走査電子顕微鏡にロードする(S602)。次に、所定の場所に試料ステージを移動する(S603)。次に、複数の断続条件で画像を取得する(S604)。次に、複数の断続条件で取得した画像を用いて輝度調整を実施する(S605)。
【0105】
S605における輝度調整のフローは、
図2記載のフローチャートの一部に従った。本実施例では、単数の試料ステージ位置において輝度調整を行ったが、複数の試料ステージ位置において輝度調整を行ってもよい。複数の試料ステージ位置における輝度調整の一例として、試料の中心部1点と周辺部1点の各点においてS603からS605までのフローチャートを実施し、検査点では中心部又は周辺部のいずれかの輝度調整値を用いてもよい。
【0106】
複数の試料ステージ位置における輝度調整の一例として、試料の中心部複数点と周辺部複数点の各点においてS603からS605までのフローチャートを実施し、検査点では全点の輝度調整値の平均値を用いてもよい。次に、自動断続条件調整の実施有無を決定する(S606)。実施する場合はS607に進み、実施しない場合はS609に進む。自動断続条件調整を実施する場合、複数の断続条件で画像を取得する(S607)。次に、欠陥検査の断続条件を決定する(S608)。S608における断続条件の決定のフローは、
図19記載のフローチャートの一部に従った。次に、予め指定した検査点に試料ステージを移動し、予め指定した断続条件又はS608で決定した断続条件を用いて画像を取得する(S609)。
【0107】
図31に本実施例で用いた操作インターフェースを示す。本実施例の操作インターフェースの一部は
図3と共通している。本実施例の操作インターフェースは、走査速度設定部56、走査領域設定部57、照射時間或いは照射距離を設定する照射設定部58、照射点間遮断時間或いは照射点間距離を設定する照射点間設定部59に加え、検査レシピにおける自動輝度調整の実施有無を選択する、自動輝度調整選択部111と、検査レシピにおける自動断続条件調整の実施有無を選択する、自動断続条件調整選択部112と、検査の進捗状況を表示する、検査ステータス表示部113を有している。
【0108】
上述のような実施例によれば、走査電子顕微鏡画像の輝度の差から欠陥箇所を特定する検査装置に関し、複数の断続条件で取得した画像を用いた輝度調整を自動で行うことができた。
【符号の説明】
【0109】
1…電子線源、2…加速電圧制御器、3…集光レンズ、4…パルス電子生成器、5…絞り、6…偏向器、7…対物レンズ、8…試料電界制御器、9…検出器、10…出力調整回路、16…試料ステージ、17…試料、21…加速電圧制御部、22…照射電流制御部、23…パルス照射制御部、24…偏向制御部、25…集束制御部、26…試料電界制御部、27…ゲイン制御部、28…オフセット制御部、29…ステージ位置制御部、30…制御伝令部、31…アナログ-デジタル変換制御部、32…検出信号処理部、33…画像形成部、34…画像表示部、41…操作インターフェース、51…検査パターン設定部、52…光学条件及び走査条件及び断続条件設定部、53…照射電圧設定部、54…照射電流設定部、55…試料電界設定部、56…走査速度設定部、57…走査領域設定部、58…照射設定部、59…照射点間設定部、60…輝度制御部、61…手動/自動切り替え部、62…ゲイン入力兼表示部、63…オフセット入力兼表示部、64…輝度設定部、65…輝度差設定部、71…シリコン基板、72…底部絶縁膜、73…コンタクトプラグ、74…層間絶縁膜、81…シリコン基板、82…不純物拡散層、83…コンタクトプラグ、84…層間絶縁膜、91…シリコン基板、92…不純物拡散層、93…コンタクトプラグ、94…層間絶縁膜、101…シリコンカーバイド基板、102…不純物拡散層、103…コンタクトプラグ、104…層間絶縁膜、111…自動輝度調整選択部、112…自動断続条件調整選択部、113…検査ステータス表示部