(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】固体触媒およびブタジエンの製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 23/06 20060101AFI20221111BHJP
C07C 1/20 20060101ALI20221111BHJP
C07C 1/207 20060101ALI20221111BHJP
C07C 11/167 20060101ALI20221111BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20221111BHJP
B01J 23/10 20060101ALI20221111BHJP
B01J 23/26 20060101ALI20221111BHJP
B01J 23/34 20060101ALI20221111BHJP
B01J 23/08 20060101ALI20221111BHJP
B01J 23/80 20060101ALI20221111BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20221111BHJP
B01J 23/60 20060101ALN20221111BHJP
【FI】
B01J23/06 Z
C07C1/20
C07C1/207
C07C11/167
B01J35/10 301G
B01J23/10 Z
B01J23/26 Z
B01J23/34 Z
B01J23/08 Z
B01J23/80 Z
C07B61/00 300
B01J23/60 Z
(21)【出願番号】P 2018123143
(22)【出願日】2018-06-28
【審査請求日】2021-05-20
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(74)【代理人】
【識別番号】100181179
【氏名又は名称】町田 洋一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197295
【氏名又は名称】武藤 三千代
(72)【発明者】
【氏名】田邊 祐介
(72)【発明者】
【氏名】日座 操
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 朋久
(72)【発明者】
【氏名】藤谷 忠博
(72)【発明者】
【氏名】崔 隆基
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/125389(WO,A1)
【文献】特開2018-008248(JP,A)
【文献】特開2016-023141(JP,A)
【文献】ChemCatChem,2016年,vol.8,p.2376 -2386,DOI:10.1002/cctc.201600331
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C07C 1/00-409/44
C07B 61/00
CA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物からブタジエンを得る反応で使用する固体触媒であって、
金属(A)と金属(B)と金属(C)とを担体に担持してなる固体触媒であ
り、
前記金属(A)が、
亜鉛であり、
前記金属(B)が、
ジルコニウムであり、
前記金属(C)が、
Ca、Mg、Ba、Sc、Nd、Gd、Ce、Cr、Mn、CoおよびGaからなる群から選択されるいずれかの金属であ
り、
前記金属(A)の含有量が、前記担体の質量に対して0.5~30質量%であり、
前記金属(B)の含有量が、前記担体の質量に対して0.5~30質量%であり、
前記金属(C)の含有量が、前記担体の質量に対して0.05~5質量%であって前記金属(A)および前記金属(B)のいずれの含有量よりも少ない量である、固体触媒。
【請求項2】
前記担体が、シリカである、請求項
1に記載の固体触媒。
【請求項3】
前記シリカが、平均細孔径が3~15nmの範囲にあるシリカである、請求項
2に記載の固体触媒。
【請求項4】
触媒の存在下で、エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物からブタジエンを得るブタジエンの製造方法であって、
前記触媒が、請求項1~
3のいずれかに記載の固体触媒である、ブタジエンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体触媒およびそれを用いたブタジエンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、1,3-ブタジエン(以下、「ブタジエン」とも略す。)は、モノマーとしてブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)等の合成ゴムの原料として使用されており、主として、ナフサをエチレンクラッカー(ナフサクラッカー)により熱分解してエチレンやプロピレンを生成させる際の副生成物として得られている。
しかしながら、近年の原料のライトフィード化により、ブタジエンの生成量が減少してきている。
そこで、石化代替原料として、バイオマス(トウモロコシやサトウキビ)を発酵させ、ブタンジオール、ブタノール、ブテンまたはエタノールを経由してブタジエンを製造するプロセスが研究されている。
【0003】
ここで、エタノールからブタジエンを1ステップ法で製造する方法としては、例えば、非特許文献1には、ZrとZnをシリカに担持してなる触媒や、CuとZrとZnをシリカに担持してなる触媒などにエタノールを接触させることで、エタノールの転化率が高くなり、また、生成物中のブタジエンの選択率が高くなることが開示されている。
【0004】
また、特許文献1には、(A)成分:第11族及び第10族からなる群から選択される金属と、(B)成分:第12族及び第3族ランタノイドからなる群から選択される金属と、(C)成分:第4族から選択される金属とを担体に担持してなる固体触媒の存在下で、エタノール又はエタノールとアセトアルデヒドとの混合物からブタジエンを生成させる工程を含む、ブタジエンの製造方法が開示されている([請求項1])。
【0005】
更に、特許文献2には、1,3-ブタジエンを生産するためのプロセスであって、ランタン、ジルコニウム、及び亜鉛含む担持触媒であって、担体がシリカを含むものである担持触媒を用いる方法が開示されている([請求項1])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-023141号公報
【文献】特表2016-518395号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Matthew D. Jones et. al, “Investigations into the conversion of ethanol into 1,3-butadiene”, Catalysis Science & Technology, 2011, 1, 267-272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、特許文献1および2ならびに非特許文献1に記載されたブタジエンの製造方法について、使用する固体触媒について検討したところ、担持させる金属の組み合わせによっては、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率のいずれか一方または両方が低くなるため、ブタジエンの収率向上に改善の余地があることを明らかとした。
【0009】
そこで、本発明は、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率をいずれも高くし、ブタジエンの収率を向上させることができる固体触媒およびそれを用いたブタジエンの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討した結果、第12族から選択される金属(A)と、第4族から選択される金属(B)と、第2族、スカンジウム、セリウム、ネオジム、ガドリニウム、第6族、第7族、第9族、パラジウム、および、第13族からなる群から選択される少なくとも1種の金属(C)とを担持させた固体触媒を用いることにより、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率がいずれも高くなり、ブタジエンの収率が向上することを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
【0011】
[1] 金属(A)と金属(B)と金属(C)とを担体に担持してなる固体触媒であって、
上記金属(A)が、第12族から選択される金属であり、
上記金属(B)が、第4族から選択される金属であり、
上記金属(C)が、第2族、スカンジウム、セリウム、ネオジム、ガドリニウム、第6族、第7族、第9族、パラジウム、および、第13族からなる群から選択される少なくとも1種の金属である、固体触媒。
[2] 上記金属(A)が亜鉛であり、上記金属(B)がジルコニウムである、[1]に記載の固体触媒。
[3] 上記金属(C)が、第2族、第6族、第7族、第9族、および、第13族からなる群から選択される少なくとも1種の金属である、[1]または[2]に記載の固体触媒。
[4] 上記金属(A)の含有量が、上記担体の質量に対して0.5~50質量%であり、上記金属(B)の含有量が、上記担体の質量に対して0.5~50質量%であり、上記金属(C)の含有量が、上記担体の質量に対して0.05~5質量%である、[1]~[3]のいずれかに記載の固体触媒。
[5] 上記担体が、シリカである、[1]~[4]のいずれかに記載の固体触媒。
[6] 上記シリカが、平均細孔径が3~15nmの範囲にあるシリカである、[5]に記載の固体触媒。
[7] 触媒の存在下で、エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物からブタジエンを得るブタジエンの製造方法であって、
上記触媒が、[1]~[6]のいずれかに記載の固体触媒である、ブタジエンの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率をいずれも高くし、ブタジエンの収率を向上させることができる固体触媒およびそれを用いたブタジエンの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の固体触媒、および、本発明のブタジエンの製造方法について説明する。
なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において「ブタジエン」とは、「1,3-ブタジエン」のことを示す。
【0014】
[固体触媒]
本発明の固体触媒は、金属(A)と金属(B)と金属(C)とを担体に担持してなる固体触媒である。
ここで、上記金属(A)は、第12族から選択される金属であり、上記金属(B)は、第4族から選択される金属であり、上記金属(C)は、第2族、スカンジウム、セリウム、ネオジム、ガドリニウム、第6族、第7族、第9族、パラジウム、および、第13族からなる群から選択される少なくとも1種の金属である。
本発明においては、金属(A)、金属(B)および金属(C)は、担体上に、金属として存在していてもよいし、金属酸化物等の化合物として存在していてもよい。
【0015】
〔担体〕
本発明の固体触媒に用いる担体は、後述する金属(A)、金属(B)および金属(C)を担持できれば特に限定されず、その具体例としては、シリカ、アルミナ、マグネシアなどが挙げられる。
これらのうち、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率がより高くなる理由から、シリカであることが好ましい。
【0016】
本発明においては、ブタジエンの選択率がより高くなる理由から、担体として、平均細孔径が3~15nmの範囲にあるシリカを用いることが好ましく、平均細孔径が3nm超10nm以下の範囲にあるシリカを用いることがより好ましい。
ここで、「平均細孔径」とは、窒素の吸着等温線からBJH法あるいはDFT法で求めた細孔径分布曲線のピーク値を示す細孔径をいう。
【0017】
〔金属(A)〕
本発明の固体触媒が有する金属(A)は、第12族から選択される金属である。
第12族の金属としては、具体的には、例えば、亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)が挙げられる。
これらのうち、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率がより高くなる理由から、亜鉛であることが好ましい。
【0018】
上記金属(A)の原料は特に限定されないが、例えば、第12族から選択される金属の硝酸塩、酢酸塩、およびこれらの水和物などが挙げられる。具体的には、Zn(NO3)2、Zn(NO3)2・6H2O、Zn(OCOCH3)2などが挙げられる。
【0019】
上記金属(A)の含有量は、上述した担体の質量に対して、0.1~50質量%であることが好ましく、0.1~40質量%であることがより好ましく、0.2~30質量%であることが更に好ましい。
ここで、金属(A)、後述する金属(B)および金属(C)の「含有量」は、例えば、ICPまたは蛍光X線等により測定することができる。
【0020】
〔金属(B)〕
本発明の固体触媒が有する金属(B)は、第4族から選択される金属である。
第4族の金属としては、具体的には、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)が挙げられる。
これらのうち、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率がより高くなる理由から、ジルコニウムが好ましい。
【0021】
上記金属(B)の原料は特に限定されないが、例えば、第4族から選択される金属の硝酸塩、オキシ硝酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、および、これらの水和物などが挙げられる。具体的には、ZrO(NO3)2、ZrO(NO3)2・2H2O、ZrO(OCOCH3)2などが挙げられる。
【0022】
上記金属(B)の含有量は、上述した担体の質量に対して、0.1~50質量%であることが好ましく、0.1~40質量%であることがより好ましく、0.2~30質量%であることが更に好ましい。
【0023】
〔金属(C)〕
本発明の固体触媒が有する金属(C)は、第2族、スカンジウム、セリウム、ネオジム、ガドリニウム、第6族、第7族、第9族、パラジウム、および、第13族からなる群から選択される少なくとも1種の金属である。
【0024】
<第2族>
第2族の金属としては、具体的には、例えば、ベリリウム(Ba)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)が挙げられる。
これらのうち、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率がより高くなる理由から、マグネシウム、カルシウム、バリウムであることが好ましい。
第2族の金属原料は特に限定されないが、例えば、第2族から選択される金属の硝酸塩、オキシ硝酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、および、これらの水和物などが挙げられる。具体的には、硝酸マグネシウム六水和物、硝酸カルシウム四水和物、硝酸バリウムなどが挙げられる。
【0025】
<スカンジウム>
スカンジウム(Sc)の金属原料は特に限定されないが、例えば、第3族から選択される金属の硝酸塩、オキシ硝酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、および、これらの水和物などが挙げられる。具体的には、硝酸スカンジウム五水和物などが挙げられる。
【0026】
<セリウム>
セリウム(Ce)の金属原料は特に限定されないが、例えば、第3族ランタノイドから選択される金属の硝酸塩、オキシ硝酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、および、これらの水和物などが挙げられる。具体的には、硝酸セリウム(III)六水和物などが挙げられる。
<ネオジム>
ネオジム(Nd)の金属原料は特に限定されないが、例えば、第3族ランタノイドから選択される金属の硝酸塩、オキシ硝酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、および、これらの水和物などが挙げられる。具体的には、硝酸ネオジム(III)六水和物などが挙げられる。
<ガドリニウム>
ガドリニウム(Gd)の金属原料は特に限定されないが、例えば、第3族ランタノイドから選択される金属の硝酸塩、オキシ硝酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、および、これらの水和物などが挙げられる。具体的には、硝酸ガドリニウム六水和物などが挙げられる。
【0027】
<第6族>
第6族の金属としては、具体的には、例えば、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)が挙げられる。
これらのうち、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率がより高くなる理由から、クロムであることが好ましい。
第6族の金属原料は特に限定されないが、例えば、第6族から選択される金属の硝酸塩、オキシ硝酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、および、これらの水和物などが挙げられる。具体的には、硝酸クロム(III)九水和物、灰重石などが挙げられる。
【0028】
<第7族>
第7族の金属としては、具体的には、例えば、マンガン(Mn)、テクネチウム(Tc)、レニウム(Re)が挙げられる。
これらのうち、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率がより高くなり、かつ、原料コストが低く、入手容易性などの理由から、マンガンであることが好ましい。
第7族の金属原料は特に限定されないが、例えば、第7族から選択される金属の硝酸塩、オキシ硝酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、および、これらの水和物などが挙げられる。具体的には、硝酸マンガン六水和物などが挙げられる。
【0029】
<第9族>
第9族の金属としては、具体的には、例えば、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)が挙げられる。
これらのうち、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率がより高くなる理由から、コバルトであることが好ましい。
第9族の金属原料は特に限定されないが、例えば、第9族から選択される金属の硝酸塩、オキシ硝酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、塩化物、および、これらの水和物などが挙げられる。具体的には、硝酸コバルト六水和物、塩化イリジウム水和物、塩化ロジウム三水和物などが挙げられる。
【0030】
<パラジウム>
パラジウム(Pd)の金属原料は特に限定されないが、例えば、パラジウムの硝酸塩、オキシ硝酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、および、これらの水和物などが挙げられる。具体的には、硝酸パラジウム、塩化パラジウムなどが挙げられる。
【0031】
<第13族>
第13族の金属としては、具体的には、例えば、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)が挙げられる。
これらのうち、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率がより高くなる理由から、ガリウムであることが好ましい。
第13族の金属原料は特に限定されないが、例えば、第13族から選択される金属の硝酸塩、オキシ硝酸塩、酢酸塩、オキシ酢酸塩、および、これらの水和物などが挙げられる。具体的には、硝酸アルミニウム九水和物、硝酸ガリウム水和物、硝酸インジウム三水和物などが挙げられる。
【0032】
本発明においては、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率がより高くなる理由から、上記金属(C)が、上述した第2族、第6族、第7族、第9族、および、第13族からなる群から選択される少なくとも1種の金属であることが好ましい。
【0033】
上記金属(C)の含有量は、上述した担体の質量に対して、0.1~50質量%であることが好ましく、0.1~40質量%であることがより好ましく、0.2~30質量%であることが更に好ましい。
なお、上述した金属(A)および金属(B)の合計質量に対する金属(C)の質量比〔C/(A+B)〕は、触媒寿命が向上し、ブタジエンの選択率がより向上する理由から、1/9~5/1であることが好ましく、2/8~5/2であることがより好ましい。
【0034】
〔固体触媒の調製方法〕
本発明の固体触媒の調製方法は特に限定されず、例えば、含浸法、ゾルゲル法等の公知の方法を採用することができる。これらの中でも、得られる固体触媒の活性および選択性が高く、また、簡便であることから、含浸法が好ましい。
含浸方法としては、例えば、噴霧法、コーティング法、ポアフィリング法、選択吸着法などの公知の手法を採用することができる。具体的には、上述した金属(A)、金属(B)および金属(C)の原料となる金属の硝酸塩、酢酸塩等を水に溶解させ、得られた水溶液を上述した担体に含浸させ、その後、担体を乾燥させる方法が挙げられる。なお、乾燥方法や乾燥時間は特に限定されないが、60~80℃で減圧乾燥することが好ましい。また、乾燥後に、200~600℃の温度で焼成することが好ましい。
また、上述した調製方法以外にも、例えば、上述した金属(A)、金属(B)および金属(C)の原料となる金属の硝酸塩、酢酸塩等を混合した後に、加熱、濃縮、水熱合成などの処理を施し、乾燥・焼成する方法も挙げられる。
また、調製した触媒は、使用前に、必要に応じて、成型、整粒などを施してもよい。
【0035】
[ブタジエンの製造方法]
本発明のブタジエンの製造方法(以下、「本発明の製造方法」とも略す。)は、上述した本発明の固体触媒の存在下で、エタノールまたはエタノールとアセトアルデヒドとの混合物からブタジエンを得るブタジエンの製造方法である。
【0036】
〔原料〕
本発明の製造方法では、目的生成物であるブタジエンの原料として、エタノール、または、エタノールとアセトアルデヒドとの混合物を使用する。
また、原料は、適宜希釈して、固体触媒に接触させてもよい。
また、原料を希釈する媒体(以下、「希釈媒体」ともいう。)としては、具体的には、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが挙げられる。
また、原料は、エタノール、アセトアルデヒド、希釈媒体以外の不純物等を含んでいてもよい。
【0037】
本発明の製造方法においては、原料として、エタノールとアセトアルデヒドとの混合物を使用する場合、エタノールとアセトアルデヒドの質量比(エタノール:アセトアルデヒド)は、特に限定されるものではないが、例えば、19:1~1:9の範囲が好ましく、16:4~2:8の範囲が更に好ましい。
【0038】
〔反応条件等〕
本発明の製造方法は、公知の反応形式で実施でき、流通式でも、バッチ式でも、その他でもよいが、生産性の観点から、流通式で実施することが好ましい。
また、本発明の製造方法は、気相で行っても、液相で行ってもよいが、高い反応温度を適用でき、原料の転化率が向上する観点から、気相条件下で行うことが好ましい。
また、所望により、反応開始前に、触媒を還元してもよく、例えば、水素気流中、200~500℃で、触媒を還元した後、原料と接触させて、ブタジエンの生成工程を実施してもよい。
【0039】
原料を固体触媒に接触させる方法としては、例えば、懸濁床方式、流動床方式、固定床方式等を挙げることができる。また、本発明は、気相法、液相法のいずれであってもよいが、気相法を用いることが好ましい。
【0040】
気相で反応を行う場合、原料ガス(例えば、エタノールガス、好ましくはエタノールガスとアセトアルデヒドガスの混合物)は、希釈することなく反応器に供給してもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、水蒸気、などの不活性ガスにより適宜希釈して反応器に供給してもよい。
【0041】
反応温度としては、260~500℃であることが好ましく、300~480℃であることがより好ましい。
反応圧力は、常圧から高圧までの広い範囲で適宜設定できるが、製造効率や装置構成などの観点から、1.0MPa以下に設定することが好ましい。
【0042】
原料と固体触媒との接触時間は、原料の供給速度を調整することによりコントロールすることができ、単位触媒あたりの重量空間速度(WHSV)は1.0~40g-原料/g-cat・hであることが好ましく、2.0~20g-原料/g-cat・hであることがより好ましい。
【0043】
反応終了後、反応生成物は、例えば、蒸留、抽出、膜分離等の分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により、軽質ガス、C4留分、重質分、水、エタノール、アセトアルデヒド等に分離精製することができる。
【実施例】
【0044】
以下に実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容および処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0045】
〔実施例1〕
Ca(NO3)2・4H2O(Ca塩)0.021g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.108gを水1mlに溶解させて水溶液1を調製した。
調製した水溶液1を、シリカ(富士シリシア株式会社製、商品名:CARiACT G-6、平均細孔径:6nm)に含浸させた後、110℃で4時間乾燥し、更に500℃で4時間焼成することにより、Ca、ZnおよびZrがシリカに担持されてなる固体触媒1を調製した。
下記表1に、担体の平均細孔径および半値幅、ならびに、担持させる金属の種類および担持量を示す。
【0046】
得られた固体触媒1の0.3gを固定床流通式反応器に充填し、N2ガスを5~15ml/minで流し、更に、エタノール(EtOH)を0.03ml/minの割合で、N2ガス流に添加し、反応温度425℃、大気圧下において、重量空間速度(WHSV)4.7g-原料/g-cat・hの条件で流通させた。下記表1に、原料、反応温度および重量空間速度(WHSV)を示す。
反応を2時間行い、得られた生成物をガスクロマトグラフ(島津製作所社製)を用いて分析した。
また、以下の式に従って、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
原料の転化率=(原料投入量-未反応原料の留出量)/(原料投入量)×100(%)
BD選択率=(ブタジエンの生成量)/(原料投入量-未反応原料の留出量)×100(C-mol%)
BD収率=(原料の転化率)×(BD選択率)÷100(C-mol%)
BD生産性=(1時間あたりのブタジエンの生成質量)/(使用した触媒質量)(g-BD/g-cat・h)
【0047】
〔実施例2〕
水溶液1に代えて、Mg(NO3)2・6H2O(Mg原料)0.032g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.108gを水1mlに溶解させた水溶液2を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0048】
〔実施例3〕
水溶液1に代えて、Ba(NO3)2(Ba原料)0.009g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.108gを水1mlに溶解させた水溶液3を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0049】
〔実施例4〕
水溶液1に代えて、Sc(NO3)2(Sc原料)0.022g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.108gを水1mlに溶解させた水溶液4を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0050】
〔実施例5〕
水溶液1に代えて、Nd(NO3)3・6H2O(Nd原料)0.013g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.108gを水1mlに溶解させた水溶液5を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0051】
〔実施例6〕
水溶液1に代えて、Gd(NO3)3・6H2O(Gd原料)0.012g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.108gを水1mlに溶解させた水溶液6を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0052】
〔実施例7〕
水溶液1に代えて、Ce(NO3)3・6H2O(Ce原料)0.012g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.108gを水1mlに溶解させた水溶液7を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0053】
〔実施例8〕
水溶液1に代えて、Cr(NO3)3・9H2O(Cr原料)0.026g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.108gを水1mlに溶解させた水溶液8を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0054】
〔実施例9〕
水溶液1に代えて、Mn(NO3)2・6H2O(Mn原料)0.016g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.108gを水1mlに溶解させた水溶液9を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0055】
〔実施例10〕
水溶液1に代えて、Co(NO3)2・6H2O(Co原料)0.018g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.108gを水1mlに溶解させた水溶液10を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0056】
〔実施例11〕
水溶液1に代えて、Pd(NO3)2(Pd原料)0.009g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.108gを水1mlに溶解させた水溶液11を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0057】
〔実施例12〕
水溶液1に代えて、Ga(NO3)2・nH2O(Ga原料)0.014g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.108gを水1mlに溶解させた水溶液12を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0058】
〔比較例1〕
水溶液1に代えて、Cu(NO3)2・3H2O(Cu原料)0.015g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.108gを水1mlに溶解させた水溶液C1を用い、反応温度を下記表1に示す温度(400℃)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0059】
〔比較例2〕
水溶液1に代えて、Ni(NO3)2・3H2O(Ni原料)0.019g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.108gを水1mlに溶解させた水溶液C2を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0060】
〔比較例3〕
水溶液1に代えて、Cu(NO3)2・3H2O(Cu原料)0.015g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.108gを水1mlに溶解させた水溶液C3を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0061】
〔比較例4〕
水溶液1に代えて、AgNO3(Ag原料)0.007g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.183g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.108gを水1mlに溶解させた水溶液C4を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0062】
〔比較例5〕
水溶液1に代えて、Cu(NO3)2・3H2O(Cu原料)0.0088g、Zn(NO3)2・6H2O(Zn塩)0.050g、および、ZrO(NO3)2・2H2O(Zr塩)0.105gを水1mlに溶解させた水溶液C5を用い、シリカ(富士シリシア株式会社製、商品名:CARiACT G-6、平均細孔径:6nm)に代えて、シリカ(シグマアルドリッチ社製、商品名:Davisil Grade 636、平均細孔径:6nm)を用い、反応温度を下記表1に示す温度(400℃)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、原料の転化率、ブタジエン(BD)選択率、BD収率、および、BD生産性を算出した。これらの結果を下記表1に示す。
【0063】
【0064】
表1に示す結果から、第12族から選択される金属(A)と、第4族から選択される金属(B)と、第2族、第3族、第3族ランタノイド、第6族、第7族、第9族、パラジウム、および、第13族からなる群から選択される金属(C)とを担持させた固体触媒を用いた場合、エタノールの転化率およびブタジエンの選択率がいずれも高くなり、ブタジエンの収率が向上することが分かった(実施例1~12)。