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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】キャパシタ用電極材料
(51)【国際特許分類】
   H01G 11/32 20130101AFI20221111BHJP
   C01B 32/25 20170101ALI20221111BHJP
   G01N 27/30 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
H01G11/32
C01B32/25
G01N27/30 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019553707
(86)(22)【出願日】2018-08-28
(86)【国際出願番号】 JP2018032517
(87)【国際公開番号】W WO2019097815
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2021-06-14
(31)【優先権主張番号】P 2017220842
(32)【優先日】2017-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002239
【氏名又は名称】弁理士法人G-chemical
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛史
(72)【発明者】
【氏名】相川 達男
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 真
(72)【発明者】
【氏名】宮下 健丈
(72)【発明者】
【氏名】西川 正浩
(72)【発明者】
【氏名】鄭 貴寛
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-076130(JP,A)
【文献】特開2015-174793(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03067324(EP,A1)
【文献】SHAKHOV, F. M., et al.,Boron doped diamond synthesized from detonation nanodiamond in a C-O-H fluid at high pressure and high temperature,Journal of Solid State Chemistry,2017年08月18日,Vol.256,p.72-92
【文献】中嶋啓人 ほか,粒子径の異なる導電性ダイヤモンドパウダーの作製と特性評価,電気化学会講演要旨集 第82回大会,公益社団法人 電気化学会,2015年,p.1004
【文献】近藤剛史,ボロンドープダイヤモンドパウダー(BDDP)を用いたセンサデバイス開発,化学センサ,Vol.33, No.3,2017年09月30日,p.88-94
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B32/00-32/991
H01G11/00-11/86
G01N27/30
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分散媒と、
前記分散媒中においてメディアン径が50~150nm、比表面積が110m2/g以上であり、且つ20℃における電気伝導度が5.0×10-3S/cm以上であり、光源波長325nmのラマンスペクトルにおいて1370~1420cm -1 、及び1580~1620cm -1 にバンドを有するホウ素ドープナノダイヤモンドを含み、前記ホウ素ドープナノダイヤモンド濃度が20質量%以上である、電極形成用インク。
【請求項2】
前記分散媒が、乾燥処理により蒸発する分散媒である、請求項1に記載の電極形成用インク。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のインクを使用して電極を製造する、電極の製造方法
【請求項4】
質量当たりの電気二重層容量が3F/g以上である電極を製造する、請求項に記載の電極の製造方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の製造方法により電極を製造する工程を経て、前記電極を備えたセンサーを製造する、センサーの製造方法。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の製造方法により電極を製造する工程を経て、前記電極を備えた蓄電デバイスを製造する、蓄電デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャパシタ用電極材料等として有用な、ホウ素ドープナノダイヤモンド、ホウ素ドープナノダイヤモンドを含む電極、及び前記電極を備えたセンサー若しくは蓄電デバイスに関する。尚、本発明のホウ素ドープナノダイヤモンドの用途は、キャパシタ用電極材料に限定されるものではない。本願は、2017年11月16日に日本に出願した、特願2017-220842号の優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
絶縁性のダイヤモンドにホウ素を高濃度にドープするとホールが生成し(p型半導体)、金属的導電性が付与されることが知られている。そして、ダイヤモンドにホウ素を高濃度にドープしたホウ素ドープダイヤモンド(BDD:Boron Doped Diamond)は、ダイヤモンド由来の高い物理的安定性及び化学的安定性、並びに優れた導電性を有し、当該ホウ素ドープダイヤモンドを含む電極は広い電位窓(水の電気分解が起きない電位範囲)と小さいバックグラウンド電流を有するため、貴金属や炭素などの電極材料に比べ、電気化学分析や電気分解に有効な機能性電極材料として注目されている。
【0003】
ホウ素ドープダイヤモンドの製造方法として、例えば特許文献1には、ホウ素とダイヤモンド粒子とアルカリ土類炭酸塩粉末との混合物において、5.0~8.0GPaの加圧条件下、1300~1800℃の温度で加熱することにより、ホウ素をダイヤモンド粒子にドープし、ホウ素ドープダイヤモンド粒子を製造する方法が開示されている。しかし、上記特許文献1のホウ素ドープダイヤモンド粒子の平均粒径は1~8μmであり、比表面積が小さく、蓄電デバイス用の電極として使用するのに十分な静電容量の確保が困難であった。
【0004】
また、特許文献2には、ホウ素とナノダイヤモンド粒子を水素雰囲気下において700~1000℃で加熱すると、比表面積が大きいホウ素ドープナノダイヤモンドが得られることが記載されている。しかし、この方法で得られたホウ素ドープナノダイヤモンドは、導電性の点で未だ不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-133173号公報
【文献】特開2015-174793号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、比表面積が大きく、高い電気伝導度を有するホウ素ドープナノダイヤモンド(以後、「BDND」と称する場合がある)を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記BDNDを含む電極を提供することにある。
本発明の他の目的は、前記電極を備えたセンサーを提供することにある。
本発明の他の目的は、前記電極を備えた蓄電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題を解決するため鋭意検討した結果、ナノダイヤモンド粒子の表面に、化学気相成長法(CVD法:Chemical Vapor Deposition)によりホウ素を含有するダイヤモンド層及び/又は炭素層を形成することによって得られるBDNDは比表面積が大きく、高い電気伝導度を有すること、当該BDNDを電極に用いれば静電容量が大きい電極が得られることを見いだした。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、比表面積が110m/g以上であり、且つ20℃における電気伝導度が5.0×10-3S/cm以上であることを特徴とする、ホウ素ドープナノダイヤモンドを提供する。
【0009】
本発明は、また、メディアン径が200nm以下である前記のホウ素ドープナノダイヤモンドを提供する。
【0010】
本発明は、また、光源波長325nmのラマンスペクトルにおいて、1370~1420cm-1、及び1580~1620cm-1にバンドを有する前記のホウ素ドープナノダイヤモンドを提供する。
【0011】
本発明は、また、前記のホウ素ドープナノダイヤモンドを含む電極を提供する。
【0012】
本発明は、また、質量当たりの電気二重層容量が3F/g以上である前記の電極を提供する。
【0013】
本発明は、また、前記の電極を備えたセンサーを提供する。
【0014】
本発明は、また、前記の電極を備えた蓄電デバイスを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のBDNDは、ダイヤモンド由来の高い物理的安定性、化学的安定性、優れた導電性、及び大きな比表面積を有する。そのため、本発明のBDNDを使用すれば、静電容量が大きい電極が得られる。
また、本発明のBDNDを含む電極は高感度であり、且つ質量当たりの電気二重層容量が大きい。すなわち、静電容量が大きい。また、広い電位窓を有する。そのため、前記電極は、電気化学センサーや蓄電デバイス用電極として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施例で得られたBDND(1)、(2)の動的光散乱法による粒子径測定結果を示す図である。
図2】実施例で得られたBDND(1)、(2)のUVラマンスペクトルデータを示す図である。
図3】実施例で使用したND(1)のUVラマンスペクトルデータを示す図である。
図4】実施例で得られたBDND(2)のTEM観察結果を示す図であり、図中の矢印1はダイヤモンド格子面を示し、矢印2はグラファイト状積層構造を示す。
図5】BDND電極(2)、又は活性炭(AC)電極を使用した3電極系の、1MのHSO中のCV測定(走査速度:10mV/s)結果を示す図である。
図6】BDND電極(2)を使用した3電極系の、飽和NaClO水溶液中のCV測定(走査速度:10mV/s)結果を示す図である。
図7】BDND電極(2)、又はAC電極を使用した対称2電極セルの、1MのHSO中のCV測定(走査速度:10mV/s)結果を示す図である。
図8】BDND電極(2)を使用した対称2電極セルの、飽和NaClO水溶液中のCV測定(走査速度:10mV/s)結果を示す図である。
図9】BDND電極(1)、BDND(2)、又はAC電極を使用した対称2電極セルの、1MのHSO中の走査速度10~10000mV/sにおける電気二重層容量を算出し、走査速度に対してプロットした図である。
図10】BDND(2)、又はAC電極を使用した対称2電極セルの、飽和NaClO水溶液中の走査速度10~10000mV/sにおける電気二重層容量を算出し、走査速度に対してプロットした図である。
図11】BDND(2)及びAC電極を使用した対称2電極セルの、1MのHSO中のエネルギー密度-出力密度をプロットした図である。
図12】BDND(2)及びAC電極を使用した対称2電極セルの、飽和NaClO水溶液中のエネルギー密度-出力密度をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[BDND]
本発明のBDNDは、比表面積が110m/g以上であり、且つ20℃における電気伝導度が5.0×10-3S/cm以上であることを特徴とする。
【0018】
本発明のBDNDは、ナノダイヤモンド粒子(ND粒子)の表面にホウ素を含有する。本発明のBDNDは、好ましくは、ND粒子の表面に、ホウ素を含有するダイヤモンド層及び/又は炭素層が堆積した構成を有する。
【0019】
本発明のBDNDの比表面積は110m/g以上であり、好ましくは150m/g以上、より好ましくは200m/g以上、更に好ましくは300m/g以上、更に好ましくは400m/g以上、特に好ましくは500m/g以上、最も好ましくは600m/g以上である。尚、比表面積の上限は、例えば1500m/gである。
【0020】
本発明のBDNDの20℃における電気伝導度は5.0×10-3S/cm以上であり、好ましくは10×10-3S/cm以上、より好ましくは15×10-3S/cm以上、更に好ましくは20×10-3S/cm以上、特に好ましくは25×10-3S/cm以上、最も好ましくは30×10-3S/cm以上である。尚、20℃における電気伝導度の上限は、例えば1000S/cm程度である。
【0021】
本発明のBDNDにおけるホウ素含有量は、例えば0.1~100mg/gであり、好ましくは0.2~50mg/g、特に好ましくは0.3~10mg/g、最も好ましくは0.4~5mg/g、とりわけ好ましくは0.5~2mg/gである。本発明のBDNDが前記範囲でホウ素を含有すると、優れた導電性を発揮することができる。
【0022】
本発明のBDNDの粒子径(D50、メディアン径)は例えば200nm以下であり、好ましくは150nm以下、特に好ましくは120nm以下である。BDNDの粒子径の下限は、例えば1nmである。粒子径が上記範囲を上回ると比表面積が低下し、当該BDNDを含む電極の静電容量が低下する傾向がある。BDNDの粒子径は、動的光散乱法によって測定することができる。
【0023】
また、本発明のBDNDは、光源波長325nmのラマンスペクトルにおいて、1370~1420cm-1、及び1580~1620cm-1にバンドを有する。
【0024】
本発明のBDNDは、例えば、熱CVD法、プラズマCVD法、光CVD法、レーザーCVD法等のCVD法(Chemical Vapor Deposition:化学気相成長法)によって製造することができる。詳細には、必要に応じてキャリアガス(例えば、水素ガス、窒素ガス等)の存在下で、気化した状態の成膜材料(ホウ素源と炭素源)に、熱、プラズマ、紫外光、レーザー光などのエネルギーを付与して化学反応を励起・促進して、基材としてのND粒子の表面にホウ素を付着させる(若しくは、ホウ素を含有するダイヤモンド層及び/又は炭素層を積層する)ことによって製造することができる。本発明においては、なかでも、プラズマCVD法(特に、マイクロ波プラズマCVD法)を採用することが、不純物が少なく高品質なBDNDが得られる点で好ましい。
【0025】
前記ホウ素源としては、ホウ素又はホウ素化合物を使用することができる。前記ホウ素化合物としては、例えば、酸化ホウ素、炭化ホウ素、窒化ホウ素、ホウ酸、ジボラン、トリエチルボラン、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリプロポキシボラン、トリ(1,1-ジメチルエトキシ)ボラン等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0026】
前記炭素源としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロヘキサン等の脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン;ジエチルエーテル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0027】
前記炭素源としては、ケトンとアルコールの混合物(例えば、アセトンとメタノール混合溶液)を使用することが、気化し易く、且つ上記ホウ素源の溶解性に優れる点で好ましい。ケトンとアルコールの混合比(v/v)は、例えば95/5~60/40である。
【0028】
また、成膜材料に含まれるホウ素源の濃度としては、炭素源に対して、例えば10000~30000ppm、好ましくは15000~25000ppmである。ホウ素源の濃度が上記範囲を上回ると、ダイヤモンド層及び/又は炭素層の結晶性が劣化する傾向がある。一方、ホウ素源の濃度が上記範囲を下回ると、導電性が得られにくくなる傾向がある。
【0029】
CVD法による処理時圧力は、例えば30~80Torrである。
【0030】
CVD法による処理時間(若しくは、成膜時間)は、例えば1~24時間、好ましくは5~12時間である。
【0031】
CVD法によってND粒子の表面にホウ素をドープした(詳細には、ND粒子の表面にホウ素を含有するダイヤモンド層及び/又は炭素層を成長させた)後は、得られたBDNDに加熱処理を施して当該BDNDに含まれるダイヤモンド層及び/又は炭素層の構造を最適化することで、BDNDの比表面積を飛躍的に高めることができ、当該BDNDを含む電極の電気二重層容量を高めることができる点で好ましい。
【0032】
前記加熱処理における加熱温度は、例えば400~600℃、好ましくは400~500℃である。また、加熱時間は、例えば1~24時間、好ましくは5~12時間である。
【0033】
基材としてのND粒子の粒子径(D50、メディアン径)は、例えば50nm以下であり、好ましくは30nm以下、特に好ましくは20nm以下、最も好ましくは10nm以下である。基材としてのND粒子の粒子径の下限は、例えば1nmである。
【0034】
基材としてのND粒子としては、例えば、爆轟法ND(すなわち、爆轟法によって生成したND)や、高温高圧法ND(すなわち、高温高圧法によって生成したND)を使用することができる。本発明においては、なかでも、より比表面積が大きい点で爆轟法NDが好ましい。
【0035】
以下に、ND粒子の製造方法の一例を以下に説明するが、本発明におけるND粒子は以下の製造方法によって得られるものに限定されない。
【0036】
(生成工程)
成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置し、容器内において大気組成の常圧の気体と使用爆薬とが共存する状態で、容器を密閉する。容器は例えば鉄製で、容器の容積は例えば0.5~40mである。爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)とシクロトリメチレントリニトロアミンすなわちヘキソーゲン(RDX)との混合物を使用することができる。TNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、例えば40/60~60/40の範囲である。
【0037】
生成工程では、次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させる。爆轟とは、化学反応に伴う爆発のうち反応の生じる火炎面が音速を超えた高速で移動するものをいう。爆轟の際、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素を原料として、爆発で生じた衝撃波の圧力とエネルギーの作用によってNDが生成する。生成したNDは、隣接する一次粒子ないし結晶子の間がファンデルワールス力の作用に加えて結晶面間クーロン相互作用が寄与して非常に強固に集成し、凝着体を成す。
【0038】
生成工程では、次に、室温において24時間程度放置することにより放冷し、容器およびその内部を降温させる。この放冷の後、容器の内壁に付着しているND粗生成物(上述のようにして生成したNDの凝着体および煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、ND粗生成物を回収する。以上のような方法によって、ND粒子の粗生成物を得ることができる。
【0039】
(酸化処理工程)
酸化処理工程は、酸化剤を用いてND粗生成物からグラファイトを除去する工程である。爆轟法で得られるND粗生成物にはグラファイト(黒鉛)が含まれるが、このグラファイトは、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素のうちND結晶を形成しなかった炭素に由来する。ND粗生成物に、水溶媒中で所定の酸化剤を作用させることにより、ND粗生成物からグラファイトを除去することができる。また、酸化剤を作用させることにより、ND表面にカルボキシル基や水酸基などの酸素含有基を導入することができる。
【0040】
この酸化処理に用いられる酸化剤としては、例えば、クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、過マンガン酸、過塩素酸、硝酸、及びこれらの混合物や、これらから選択される少なくとも1種の酸と他の酸(例えば、硫酸等)との混酸、及びこれらの塩が挙げられる。本発明においては、なかでも、混酸(特に、硫酸と硝酸との混酸)を使用することが、環境に優しく、且つグラファイトを酸化・除去する作用に優れる点で好ましい。
【0041】
前記混酸における硫酸と硝酸との混合割合(前者/後者;質量比)は、例えば60/40~95/5であることが、常圧付近の圧力(例えば、0.5~2atm)の下でも、例えば130℃以上(特に好ましくは150℃以上。尚、上限は、例えば200℃)の温度で、効率よくグラファイトを酸化して除去することができる点で好ましい。下限は、好ましくは65/35、特に好ましくは70/30である。また、上限は、好ましくは90/10、特に好ましくは85/15、最も好ましくは80/20である。
【0042】
混酸における硝酸の割合が上記範囲を上回ると、高沸点を有する硫酸の含有量が少なくなるため、常圧付近の圧力下では、反応温度が例えば120℃以下となり、グラファイトの除去効率が低下する傾向がある。一方、混酸における硝酸の割合が上記範囲を下回ると、グラファイトの酸化に大きく貢献するのは硝酸であるため、グラファイトの除去効率が低下する傾向がある。
【0043】
酸化剤(特に、前記混酸)の使用量は、ND粗生成物1質量部に対して、例えば10~50質量部、好ましくは15~40質量部、特に好ましくは20~40質量部である。また、前記混酸中の硫酸の使用量は、ND粗生成物1質量部に対して、例えば5~48質量部、好ましくは10~35質量部、特に好ましくは15~30質量部であり、前記混酸中の硝酸の使用量は、ND粗生成物1質量部に対して、例えば2~20質量部、好ましくは4~10質量部、特に好ましくは5~8質量部である。
【0044】
また、酸化剤として前記混酸を使用する場合、混酸と共に触媒を使用しても良い。触媒を使用することにより、グラファイトの除去効率を一層向上することができる。前記触媒としては、例えば、炭酸銅(II)等を挙げることができる。触媒の使用量は、ND粗生成物100質量部に対して例えば0.01~10質量部程度である。
【0045】
酸化処理温度は例えば100~200℃である。酸化処理時間は例えば1~24時間である。酸化処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。
【0046】
このような酸化処理の後、例えばデカンテーションにより上澄みを除去することが好ましい。また、デカンテーションの際には、固形分の水洗を行うことが好ましい。水洗当初の上澄み液は着色しているが、上澄み液が目視で透明になるまで、当該固形分の水洗を反復して行うことが好ましい。
【0047】
また、酸化処理後のND粒子には、必要に応じて、気相にて酸化処理や還元処理を施しても良い。気相にて酸化処理を施すことにより、表面にC=O基を多く有するND粒子が得られる。また、気相にて還元処理を施すことにより、表面にC-H基を多く有するND粒子が得られる。
【0048】
更に酸化処理後のND粒子には、必要に応じて、解砕処理を施してもよい。解砕処理には、例えば、高剪断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル等を使用することができる。尚、解砕処理は湿式(例えば、水等に懸濁した状態での解砕処理)で行ってもよいし、乾式で行ってもよい。乾式で行う場合は、解砕処理前に乾燥工程を設けることが好ましい。
【0049】
(乾燥工程)
本方法では、次に、乾燥工程を設けることが好ましく、例えば、上記工程を経て得られたND含有溶液から噴霧乾燥装置やエバポレーター等を使用して液分を蒸発させた後、これによって生じる残留固形分を乾燥用オーブン内での加熱乾燥によって乾燥させる。加熱乾燥温度は、例えば40~150℃である。このような乾燥工程を経ることにより、ND粒子が得られる。
【0050】
[電極]
本発明の電極は、例えば導電性粒子として、上記BDNDを含む。上記BDNDは広い電位窓を有し、ダイヤモンド由来の高い物理的安定性及び化学的安定性、並びに優れた導電性を有する。また、比表面積が大きい。そのため、当該BDNDを含む電極は高い静電容量を有する。
【0051】
本発明の電極は高い静電容量を有し、本発明の電極の質量当たりの電気二重層容量は、例えば3F/g以上、好ましくは5F/g以上、特に好ましくは8F/g以上、最も好ましくは10F/g以上、とりわけ好ましくは12F/g以上である。尚、質量当たりの電気二重層容量の上限は、例えば20F/g程度である。
【0052】
本発明の電極は、例えば、BDNDを含むインクを基材に塗布、若しくは基材に含浸させ、その後、BDNDをバインダー等で固定することにより製造することができる。
【0053】
前記基材としては、絶縁性基板や導電性基板を使用することができる。絶縁性基板としては、例えば、シリコン基板、ガラス基板、石英基板、セラミックス基板、ダイヤモンド基板等が挙げられる。また、導電性基板としては、例えば、チタン、モリブデン、ニオブ、アルミニウム、ステンレス等の金属基板や、ガラス状炭素等の炭素材料基板等が挙げられる。
【0054】
BDNDを含むインクとしては、例えば、上述のBDNDを分散媒(例えば、エタノール等のアルコール等)中に分散させたBDND分散液を使用することができる。前記インク中のBDND濃度としては、例えば20質量%以上が好ましく、より好ましくは20~50質量%である。
【0055】
BDNDを分散媒中に分散させる際には、例えば、高剪断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル等を使用してBDNDを分散媒中に高分散させることが好ましく、インク中のBDNDの粒子径(D50、メディアン径)が、例えば50~200nm(好ましくは50~150nm、特に好ましくは50~120nm)となるまで、解砕処理を施すことが好ましい。
【0056】
BDNDを含むインクを基材に塗布若しくは含浸させた後は、乾燥処理を施して分散媒を蒸発させることが好ましい。
【0057】
前記バインダーとしては、例えば、高いプロトン導電性を有する高分子化合物(特に、スルホン酸基を有する高分子化合物)が挙げられ、例えば、商品名「ナフィオン」(SIGMA-ALDRICH社製)等の市販品を使用することができる。
【0058】
前記バインダーの使用量としては、BDND1質量部に対して例えば0.1~5質量部程度、好ましくは0.5~2質量部である。
【0059】
本発明の電極は電気二重層容量が大きいため、例えば、電気二重層キャパシタ(EDLC)等の蓄電デバイス用の電極として好適に使用することができる。また、本発明の電極は広い電位窓と小さいバックグラウンド電流を有するため、金属電極ではノイズに隠れてしまうような微量な信号も分析することができるので、例えば、環境分析、臨床検査、食品検査等の分野における微量測定用センサーに使用することもできる。
【0060】
[蓄電デバイス]
本発明の蓄電デバイスは、上記BDND電極を備えることを特徴とする。蓄電デバイスには、電気二重層キャパシタやハイブリッドキャパシタ(特に、リチウムイオンキャパシタ)等が含まれる。
【0061】
電気二重層キャパシタは、上記BDND電極と共に電解液とセパレーターとを備えることが好ましい。また、リチウムイオンキャパシタは、電極と電解液とセパレーターとを備え、正極としてBDND電極を使用し、負極としてリチウムを吸蔵可能な炭素材料を使用することが好ましい。
【0062】
本発明の電気二重層キャパシタは、電解液として水系電解液と非水系電解液を使用することができ、耐電圧特性の優れた水系電解液が好ましい。水系電解液としては、例えば、塩酸、硫酸、酢酸、リン酸等の酸の水溶液;水酸化ナトリウム、アンモニア等の塩基の水溶液;過塩素酸リチウム、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸カルシウム、過塩素酸バリウム、過塩素酸アルミニウム、過塩素酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等の塩の水溶液等が挙げられる。水系電解液としては、なかでも、塩の水溶液(特に、過塩素酸ナトリウム等の過塩素酸塩の(例えば、飽和)水溶液)を使用することが、より一層広い電位窓を有する水系電気二重層キャパシタが得られる点で好ましい。
【0063】
また、水系電解液は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で添加剤や水溶性有機溶媒を、それぞれ1種又は2種以上含んでいてもよい。前記添加剤としては、例えば、過塩素酸テトラエチルアンモニウム等の塩が挙げられる。また、前記水溶性有機溶媒としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、グリセリン、ポリC2-4アルキレングリコール(例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール)等の多価アルコールや、ラクトン類等が挙げられる。
【0064】
前記非水系電解液としては、例えば、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートなどの4級アンモニウム塩を含む、プロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、アセトニトリル等の有機系電解液が挙げられる。
【0065】
リチウムイオンキャパシタは、電解液として、LiBF、LiPF等のリチウム塩を有機溶媒に溶解した有機系電解液を使用することができる。
【0066】
前記セパレーターとしては、例えば、PP、PEなどのポリオレフィン系セパレーター;不織布、ガラス繊維などの多孔質セパレーター等が挙げられる。
【0067】
本発明の電気二重層キャパシタは、電解液に浸漬した二枚のBDND電極間に電源を繋いで電圧を印加することで充放電できる。充電時は電解質イオンがBDND電極表面に吸着する。放電時にはBDND電極表面に吸着していた陽イオン並びに陰イオンが脱離して、電解液中に再び拡散する。充放電には、BDND電極の化学的変化を伴わないため、BDND電極が化学反応に伴う発熱等により劣化することがなく、長寿命を保つことができる。
【0068】
本発明の蓄電デバイスは、比表面積が大きいBDNDを含む電極を備えるため、大きな電荷を蓄えることができ、大きい静電容量を実現し得る。また、一般的な二次電池に比べて高速での充放電が可能であり、充放電サイクル寿命に優れる。そのため、コンピュータのメモリのバックアップ用電源や、鉄道車両に搭載した電力貯蔵システムやハイブリッド車の補助電源として有用である。
【0069】
[センサー]
本発明のセンサーは、上記BDNDを含む電極(以後、「BDND電極」と称する場合がある)を備えることを特徴とする。本発明の、BDND電極を備えたセンサーは更に、例えば、BDND電極の電位を制御する電圧制御手段と、前記電極に流れる電流値の変化を計測する電流計測手段とを備えることが好ましい。
【0070】
また、BDND電極には電圧リード線・電流リード線が接続され、電圧制御手段によって電位が制御されることが好ましい。
【0071】
電圧制御手段としては、例えば、ポテンショスタット、定電位電源装置等が挙げられる。
【0072】
電流計測手段としては、例えば、電流計、検流器等が挙げられる。
【0073】
対電極と共に、BDND電極を検出対象試料を含む電解質溶液に接触させ、電圧制御手段により電位を制御しながら電流値を計測する。電圧を印加すると、BDND電極上で検出対象試料の電気分解による酸化又は還元反応が生じるが、この反応に伴う電流値は、試料の濃度と相関関係を有するため、電流計測手段により計測された電流値から検出対象試料の濃度を算出することができる。
【0074】
前記対電極としては、例えば、白金、炭素、ステンレス、金、ダイヤモンド、SnO等を使用することができる。
【0075】
本発明のセンサーは、広い電位窓と小さいバックグラウンド電流を有するBDND電極を備えるため、金属電極ではノイズに隠れてしまうような微量な信号も分析することができるので、例えば、環境分析、臨床検査、食品検査等の分野における微量測定に使用することもできる。
【実施例
【0076】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0077】
実施例1(BDNDの製造)
(生成工程)
まず、成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器(鉄製容器、容積:15m)の内部に設置して容器を密閉した。爆薬としては、TNTとRDXとの混合物(TNT/RDX(質量比)=50/50)0.50kgを使用した。次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させた。次に、室温で24時間静置して、容器およびその内部を降温させた。この放冷の後、容器の内壁に付着しているND粗生成物(ND粒子の凝着体と煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行い、ND粗生成物を回収した。ND粗生成物の回収量は0.025kgであった。
【0078】
(酸化処理工程)
次に、50℃の冷媒を循環させた凝縮器と前記凝縮器に接続されたアルカリトラップとを備えた反応器中において、1atm下、反応器を加熱しつつ、生成工程で得られたND粗生成物(3g)と濃硫酸(80.6g)と炭酸銅(触媒量)とを反応器に仕込んだ。
そこへ、発煙硝酸(20.4g、前記濃硫酸と硝酸の割合が80/20(前者/後者;質量比)となる量)を滴下した。反応の進行に伴って蒸発した硝酸、及び生成したHOは凝縮器で凝縮して反応器内に戻した。一方、NO、NO、CO、及びCOは凝縮器に接続されたアルカリトラップで捕集した。このとき、反応温度は150℃であった。
反応開始から48時間経過後、反応器の加熱を停止し、反応器内を室温まで冷却した。冷却後、デカンテーションにより、固形分(ND凝着体を含む)の水洗を行った。水洗当初の上澄み液は着色しているところ、上澄み液が目視で透明になるまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
【0079】
(解砕工程)
次に、ビーズミル(商品名「ウルトラアペックスミルUAM-015」、寿工業(株)製)を使用して、前工程を経て得られたスラリー300mLを解砕処理に付した。本処理では、解砕メディアとしてジルコニアビーズ(直径0.03mm)を使用し、ミル容器内に充填されるビーズの量はミル容器の容積に対して60%とし.ミル容器内で回転するローターピンの周速は10m/sとした。また、装置を循環させるスラリーの流速を10L/hとして90分間の解砕処理を行った。
【0080】
(遠心分離工程)
次に、上述の解砕工程を経たNDを含有する溶液から、遠心力の作用を利用した分級操作によって粗大粒子を除去した(遠心分離処理)。本工程の遠心分離処理において、遠心力は20000×gとし、遠心時間は10分とした。これにより、黒色透明のND水分散液(1)を得た。
【0081】
(乾燥工程)
次に、遠心分離工程で得られたND水分散液(1)からエバポレーターを使用して液分を蒸発させた後、残留固形分を乾燥用オーブンを使用して120℃で加熱して乾燥させた。
【0082】
以上のようにして、ND(1)(粉体、動的光散乱法によって測定したメディアン径(粒径D50):5nm)を得た。
【0083】
(ホウ素ドープ工程)
得られたND(1)を基材として、MPCVD法により、下記条件下でホウ素をドープした。原料溶液として、炭素源としてのアセトン/メタノール混合溶液(9:1,v/v)に、トリメトキシボランを、炭素原子に対するホウ素原子濃度が20000ppmとなる割合で添加したものを使用したこれにより、BDND(1)を得た。
<MPCVD条件>
マイクロ波出力:1300W
圧力:50Torr
水素ガス流量:400sccm
成長時間:8h
【0084】
(加熱処理工程)
BDND(1)を、空気雰囲気下、425℃で8時間の加熱処理に付して、BDND(2)を得た。
【0085】
比較例1~3
基材をND(1)から、ダイヤモンド粒子(DP(1)~(3))に変更した以外は実施例1のBDND(1)と同様にしてホウ素ドープダイヤモンド粒子(BDDP(1)~(3))を得た。
【0086】
(粒子径、比表面積、及び電気伝導度の測定)
得られたBDND(1)、(2)、及びBDDP(1)~(3)について、粒子径(メディアン径:D50)を動的光散乱法によって測定した。図1にBDND(1)、(2)の粒子径測定結果を示す。
また、BET比表面積を窒素吸着法により測定した。
また、20℃において、内径1mmのガラスキャピラリーにBDND(1)を充填し、両端の直流抵抗から電気伝導度を算出した。
【0087】
結果を下記表にまとめて示す。
【表1】
【0088】
表1より、BDND(1)、(2)は導電性に優れ、その上、BDDPに比べ比表面積が大きいことが確かめられた。
また、ND(1)、BDND(1)、(2)のUVラマンスペクトル(光源波長:325nm)測定結果より、BDND(1)、(2)では、sp炭素由来のDバンドおよびGバンドが顕著に観察された(図2、3)。
更に、BDND(2)は、X線回折ではダイヤモンド結晶の回折パターンが観測され、ダイヤモンドが含まれていることが確かめられた。
更にまた、BDND(2)のTEM観察の結果、ダイヤモンド格子面のほかにグラファイト状積層構造が観察された(図4)。
また、BDND(2)の元素分析をICP-AES法により行った結果、620mg/kgのホウ素が含まれていることがわかった。
以上の結果より、本発明のBDNDはナノダイヤモンド粒子の表面にホウ素を含むsp炭素層が堆積された構造を有する複合体であることが示唆された。
【0089】
実施例2(電極の製造)
得られたBDND(1)10mgを0.5mLの30質量%エタノールに分散させて、BDNDインクを調製した。
集電体であるガラス状炭素電極上にBDNDインク20μLをキャストし、乾燥させた後、5質量%ナフィオン(疎水性テフロン(登録商標)骨格に、スルホン酸基を持つパーフルオロ側鎖が結合した構成を有するパーフルオロカーボン)10μLを最表面にキャストし、被覆することでBDND電極(1)を得た。
【0090】
実施例3(電極の製造)
BDND(1)に代えてBDND(2)を使用した以外は実施例2と同様にしてBDND電極(2)を得た。
【0091】
比較例4(電極の製造)
BDND(1)に代えてBDDP(1)を使用した以外は実施例2と同様にしてBDDP電極(1)を得た。
【0092】
比較例5(電極の製造)
BDND(1)に代えてBDDP(2)を使用した以外は実施例2と同様にしてBDDP電極(2)を得た。
【0093】
比較例6(電極の製造)
BDND(1)に代えてBDDP(3)を使用した以外は実施例2と同様の方法でBDDP電極(3)を得た。
【0094】
比較例7(電極の製造)
BDND(1)に代えて活性炭(AC;比表面積1318m/g)を使用した以外は実施例2と同様の方法でAC電極を得た。この場合、ACは導電性が低いため、導電助剤としてアセチレンブラック(AB)をAC:AB(質量比)が8:1となるように添加した。
【0095】
[評価]
実施例及び比較例で得られた電極の性能を評価した。
[1]電位窓、セル電圧測定
(1-1)BDND電極(2)およびAC電極の、1MのHSO中のCV(走査速度:10mV/s)を測定した。対極に白金線、参照極にAg/AgCl電極を用いた3電極系にて実施した。
電位窓はAC電極では1.5V程度であったのに対し、BDND電極(2)では1.9Vであり、広いことがわかった(図5)。
(1-2)超純水100mL中に過剰量の過塩素酸ナトリウム(NaClO)を加えた後、吸引ろ過を行い、過剰分の過塩素酸ナトリウムを除去することで、飽和NaClO水溶液を得た。BDND電極(2)の、飽和NaClO水溶液中でのCV(走査速度:10mV/s)を測定した。対極に白金線、参照極にAg/AgCl電極を用いた3電極系にて実施した。
電位窓は3.1Vであり、として過塩素酸塩水溶液を使用することにより電位窓が広くなることがわかった(図6)。
【0096】
(1-3)BDND電極(2)、又はAC電極を使用した対称2電極セルで、1MのHSO中のCV測定(cyclic voltammetry、走査速度:10mV/s)を行ったところ、AC電極ではセル電圧(両極間の電位差)を0.8V以上とすると溶媒(水)の電解が起き始めたのに対し、BDND電極(2)では、1.8Vまで電圧印加可能であることがわかった(図7)。BDDP電極(3)についても同様にCV測定を行ったところ、セル電圧(両極間の電位差)を1.6V以上とすると溶媒(水)の電解が起き始めた。
(1-4)BDND電極(2)を使用した対称2電極セルで、飽和NaClO水溶液中のCV測定(走査速度:10mV/s)を行ったところ、BDND電極(2)は2.8Vまで電圧印加可能であることがわかった(図8)。また、2.8V以上に印加すると溶媒(水)の電解が起き始めた。
【0097】
従って、水溶液中で大きなセル電圧を印加できるBDND(2)は、高エネルギー密度の水系EDLCを実現するのに適した電極材料であることが示唆された。
また、水溶液中で大きなセル電圧を印加できる飽和NaClO水溶液は、高エネルギー密度の水系EDLCを実現するのに適した電解質であることが示唆された。
【0098】
尚、EDLCに蓄積できる静電エネルギーはCV/2で表される(C:電気二重層容量、V:セル電圧)。
【0099】
[2]走査速度を変更した際のCV
(2-1)走査速度を変更して、BDND電極(1)、BDND電極(2)、又はAC電極のCV(1MのHSO中、対称2電極セル)を測定した結果、BDND電極(1)、BDND電極(2)は、1000mV/sの比較的速い走査速度においても、CV形状のひずみが小さく、良好な応答を示すことがわかった。
【0100】
そこで、各走査速度における電気二重層容量を算出し、走査速度に対してプロットした(図9)。電極活物質(BDND(1)、(2)、又はAC)の質量あたりの容量を比較すると、100mV/s以下の低速走査ではAC電極において容量が大きいものの、100mV/s以上の高速走査ではBDND電極(1)、(2)の方が大きくなることがわかった。
これは、ACは粒子内部に発達したミクロ孔を有しており、その大きな比表面積を利用して大きな電気二重層容量を得る電極材料であるが、ミクロ孔内の電解質イオンは移動しにくいため、表面への吸脱着が高速走査時における電位変化に追随できず、容量が低下するが、BDND(1)、(2)はミクロ孔が存在しないため、このような大きな容量低下が起きなかったものと考えられる。
【0101】
(2-2)走査速度を変更して、BDND電極(2)又はAC電極のCV(飽和過塩素酸ナトリウム水溶液中、対称2電極セル)を測定した結果、BDND電極(1)、BDND電極(2)は、1000mV/sの比較的速い走査速度においても、CV形状のひずみが小さく、良好な応答を示すことがわかった。一方、AC電極は速い走査速度においてCV形状のひずみが大きいことから、高速充放電における応答が良くないことがわかった。
【0102】
各走査速度における電気二重層容量を算出し、走査速度に対してプロットした(図10)。電極活物質の質量あたりの容量を比較すると、20mV/s以上の高速走査ではBDND電極(2)の方が大きくなることがわかった。
【0103】
従って、高速走査時でも容量が低下しにくいという特徴から、BDND(1)、(2)は高出力のEDLC作製に適した電極材料であると考えられる。
【0104】
また、走査速度を変えた時の電気二重層容量の結果を用いて、エネルギー密度を算出した。セル電圧(V)はBDND電極(2)、AC電極の何れも2.8Vで計算した。電気二重層容量のグラフと同様に、高速走査速度時(20mV/s以上)において、BDND電極(2)はAC電極よりも大きなエネルギー密度を示すことがわかった。
【0105】
また、電極の活物質層の体積あたりで容量を示した場合、10~1000mV/sの範囲でAC電極よりもBDND電極(1)、(2)の方が大きな容量を示すことがわかった。これは、ACはミクロ孔を有するため、かさ密度が小さい物質であるのに対して、BDND(1)、(2)はミクロ孔を有さず、ACに比べてかさ密度が大きいためであると考えられる。
従って、BDND(1)、(2)は省スペースなEDLCデバイスの作製に有用であると考えられる。
【0106】
実施例2、3、及び比較例4~6で得られた電極について、用いられた導電性粒子(BDND又はBDDP)の粒子径及び比表面積と、得られた電極の電気二重層容量(走査速度:10mV/s)との関係を下記表に示す。下記表より、本発明の電極は、比表面積が大きいBDNDを含むため、電気二重層容量(若しくは、静電容量)が大きいことが分かる。
【表2】
【0107】
図11にBDND電極(2)又はAC電極を使用した対称2電極セルのラゴンプロット(エネルギー密度-出力密度プロット)を示す。この結果から、BDND電極(2)は、AC電極よりも高エネルギー密度、且つ高出力密度の水系EDLCデバイスを作製できることがわかる。特に、体積当たりの特性に関して、高エネルギー密度を保ちながら出力密度を大きくすることができるため、コンパクトで高出力のデバイスの作製に有用であると考えられる。
【0108】
図12より、BDND電極(2)又はAC電極を使用した対称2電極セルのラゴンプロットでは、飽和NaClO水溶液中のBDND電極(2)は、1MHSO中のBDND電極(2)と比較して、セル電圧が増加した分、出力密度は維持しつつ、エネルギー密度が向上することが確認された。従って、飽和NaClO水溶液中のBDND電極(2)は、1MHSO中のBDND電極(2)と比較して、高性能化していることが確認できた。
【0109】
以上のまとめとして、本発明の構成及びそのバリエーションを以下に付記する。
[1] 比表面積が110m/g以上であり、且つ20℃における電気伝導度が5.0×10-3S/cm以上であることを特徴とする、ホウ素ドープナノダイヤモンド。
[2] メディアン径が200nm以下である、[1]に記載のホウ素ドープナノダイヤモンド。
[3] ホウ素含有量が0.1~100mg/gである、[1]又は[2]に記載のホウ素ドープナノダイヤモンド。
[4] 光源波長325nmのラマンスペクトルにおいて、1370~1420cm-1、及び1580~1620cm-1にバンドを有する、[1]~[3]の何れか1つに記載のホウ素ドープナノダイヤモンド。
[5] ナノダイヤモンド粒子の表面に、化学気相成長法(好ましくは、マイクロ波プラズマCVD法)によりホウ素を含有するダイヤモンド層及び/又は炭素層を積層することによって[1]~[4]の何れか1つに記載のホウ素ドープナノダイヤモンドを得る、ホウ素ドープナノダイヤモンドの製造方法。
[6] [1]~[4]の何れか1つに記載のホウ素ドープナノダイヤモンドを含む電極。
[7] 質量当たりの電気二重層容量が3F/g以上である、[6]に記載の電極。
[8] [6]又は[7]に記載の電極を備えたセンサー。
[9] [6]又は[7]に記載の電極を備えた蓄電デバイス。
[10] 電気二重層キャパシタである、[9]に記載の蓄電デバイス。
[11] 電解液として過塩素酸塩の飽和水溶液を使用する水系電気二重層キャパシタであ、[9]に記載の蓄電デバイス。
[12] リチウムイオンキャパシタである、[9]に記載の蓄電デバイス。
[13] [9]~[12]の何れか1つに記載の蓄電デバイスを備える電源。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のBDNDは、ダイヤモンド由来の高い物理的安定性、化学的安定性、優れた導電性、及び大きな比表面積を有する。そのため、本発明のBDNDを使用すれば、静電容量が大きい電極が得られる。
また、本発明のBDNDを含む電極は高感度であり、且つ質量当たりの電気二重層容量が大きく、且つ、広い電位窓を有する。そのため、電気化学センサーや蓄電デバイス用電極として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12