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特許7175254非水電解質二次電池負極用添加剤、及び、非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池負極用添加剤、及び、非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20221111BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20221111BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20221111BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/139
H01M4/48
H01M4/36 E
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019221155
(22)【出願日】2019-12-06
(65)【公開番号】P2021093239
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】松野 拓史
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 貴一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 広太
(72)【発明者】
【氏名】大沢 祐介
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-060771(JP,A)
【文献】特開2018-152250(JP,A)
【文献】特開2018-049811(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/139
H01M 4/48
H01M 4/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水電解質二次電池負極用添加剤であって、
前記添加剤は、ケイ素系負極活物質粒子を含む水系負極スラリー組成物を調製する時に該水系負極スラリー組成物に添加する添加剤であり、
前記添加剤は添加剤粒子を含み、
前記添加剤粒子は、ケイ酸塩粒子及びリン酸塩粒子のうち少なくとも1種以上を含むことを特徴とする非水電解質二次電池負極用添加剤。
【請求項2】
前記ケイ酸塩粒子がケイ酸アルミニウムであり、
前記リン酸塩粒子がリン酸アルミニウムであることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池負極用添加剤。
【請求項3】
前記ケイ酸アルミニウムの組成式がAlSiOであることを特徴とする請求項2に記載の非水電解質二次電池負極用添加剤。
【請求項4】
前記組成式AlSiOで表されるケイ酸アルミニウムの結晶構造が斜方晶系であることを特徴とする請求項3に記載の非水電解質二次電池負極用添加剤。
【請求項5】
前記リン酸アルミニウムが第三リン酸アルミニウムであることを特徴とする請求項2に記載の非水電解質二次電池負極用添加剤。
【請求項6】
前記第三リン酸アルミニウムがクリストバライト型の結晶構造を持つことを特徴とする請求項5に記載の非水電解質二次電池負極用添加剤。
【請求項7】
前記添加剤粒子の平均粒子径が0.1μm以上20μm以下であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池負極用添加剤。
【請求項8】
前記非水電解質二次電池負極用添加剤を10質量%の割合で純水中に分散させた分散液のpHの値が3以上7以下であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池負極用添加剤。
【請求項9】
非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物であって、
前記非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物は、請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池負極用添加剤、及び前記ケイ素系負極活物質粒子を含み、
前記ケイ素系負極活物質粒子は、ケイ素化合物(SiO:0.5≦x≦1.6)を含むケイ素化合物粒子を含有し、
前記ケイ素化合物粒子は、アルカリ金属元素を含むケイ酸塩、及びアルカリ土類金属元素を含むケイ酸塩のうち少なくとも1種以上を含むことを特徴とする非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物。
【請求項10】
前記ケイ素化合物粒子が、前記アルカリ金属元素を含むケイ酸塩としてLiSiO及びLiSiのうち少なくとも1種以上を含むことを特徴とする請求項9に記載の非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物。
【請求項11】
前記非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物のpHが、10以上12.5以下であることを特徴とする請求項9または請求項10に記載の非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物。
【請求項12】
前記非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物中に含まれる前記ケイ素化合物粒子の質量に対する前記非水電解質二次電池負極用添加剤の質量分率が、0.01質量%以上3質量%以下であることを特徴とする請求項9から請求項11のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物。
【請求項13】
前記非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物が、カルボキシル基を有する高分子を含むことを特徴とする請求項9から請求項12のいずれか1項に記載の非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池負極用添加剤、及び、非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器が広く普及しており、さらなる小型化、軽量化、及び、長寿命化が強く求められている。このような市場要求に対し、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。この二次電池は、小型の電子機器に限らず、自動車などに代表される大型の電子機器、家屋などに代表される電力貯蔵システムへの適用も検討されている。
【0003】
その中でも、リチウムイオン二次電池は小型かつ高容量化が行いやすく、また、鉛電池、ニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるため、大いに期待されている。
【0004】
上記のリチウムイオン二次電池は、正極、負極、及び、セパレータと共に電解液を備えており、負極は充放電反応に関わる負極活物質を含んでいる。
【0005】
この負極活物質としては、炭素系活物質が広く使用されている一方で、最近の市場要求から電池容量のさらなる向上が求められている。電池容量向上のために、負極活物質材としてケイ素を用いることが検討されている。なぜならば、ケイ素の理論容量(4199mAh/g)は黒鉛の理論容量(372mAh/g)よりも10倍以上大きいため、電池容量の大幅な向上を期待できるからである。負極活物質材としてのケイ素材の開発はケイ素単体だけではなく、合金、酸化物に代表される化合物などについても検討されている。また、活物質形状は、炭素系活物質では標準的な塗布型から、集電体に直接堆積する一体型まで検討されている。
【0006】
しかしながら、負極活物質としてケイ素を主原料として用いると、充放電時に負極活物質が膨張及び収縮するため、主に負極活物質表層近傍で割れやすくなる。また、活物質内部にイオン性物質が生成し、負極活物質が割れやすい物質となる。負極活物質表層が割れると、それによって新表面が生じ、活物質の反応面積が増加する。この時、新表面において電解液の分解反応が生じるとともに、新表面に電解液の分解物である被膜が形成されるため電解液が消費される。このためサイクル特性が低下しやすくなる。
【0007】
これまでに、電池初期効率やサイクル特性を向上させるために、ケイ素材を主材としたリチウムイオン二次電池用負極活物質材料、電極構成についてさまざまな検討がなされている。
【0008】
具体的には、良好なサイクル特性や高い安全性を得る目的で、気相法を用いケイ素及びアモルファス二酸化ケイ素を同時に堆積させている(例えば特許文献1参照)。また、高い電池容量や安全性を得るために、ケイ素酸化物粒子の表層に炭素材(電子伝導材)を設けている(例えば特許文献2参照)。さらに、サイクル特性を改善するとともに高入出力特性を得るために、ケイ素及び酸素を含有する活物質を作製し、かつ、集電体近傍での酸素比率が高い活物質層を形成している(例えば特許文献3参照)。また、サイクル特性を向上させるために、ケイ素活物質中に酸素を含有させ、平均酸素含有量が40at%以下であり、かつ集電体に近い場所で酸素含有量が多くなるように形成している(例えば特許文献4参照)。
【0009】
また、初回充放電効率を改善するためにSi相、SiO、MO金属酸化物を含有するナノ複合体を用いている(例えば特許文献5参照)。また、サイクル特性改善のため、SiO(0.8≦x≦1.5、粒径範囲=1μm~50μm)と炭素材を混合して高温焼成している(例えば特許文献6参照)。また、サイクル特性改善のために、負極活物質中におけるケイ素に対する酸素のモル比を0.1~1.2とし、活物質、集電体界面近傍におけるモル比の最大値、最小値との差が0.4以下となる範囲で活物質の制御を行っている(例えば特許文献7参照)。また、電池負荷特性を向上させるため、リチウムを含有した金属酸化物を用いている(例えば特許文献8参照)。また、サイクル特性を改善させるために、ケイ素材表層にシラン化合物などの疎水層を形成している(例えば特許文献9参照)。
【0010】
また、サイクル特性改善のため、酸化ケイ素を用い、その表層に黒鉛被膜を形成することで導電性を付与している(例えば特許文献10参照)。特許文献10において、黒鉛被膜に関するRAMANスペクトルから得られるシフト値に関して、1330cm-1及び1580cm-1にブロードなピークが現れるとともに、それらの強度比I1330/I1580が1.5<I1330/I1580<3となっている。また、高い電池容量、サイクル特性の改善のため、二酸化ケイ素中に分散されたケイ素微結晶相を有する粒子を用いている(例えば特許文献11参照)。また、過充電、過放電特性を向上させるために、ケイ素と酸素の原子数比を1:y(0<y<2)に制御したケイ素酸化物を用いている(例えば特許文献12参照)。
【0011】
ケイ素材を用いる場合、Liなどの金属元素をドープしたケイ素材を用いることで高い初期効率及び容量維持率を得ることができる。その一方で、Liなどの金属元素をドープしたケイ素材は水系溶媒に対する安定性が低く、負極作製時に作製するケイ素材を混合した水系負極スラリーの安定性が低下してしまうため、工業的に不向きであった。水系負極スラリーの安定性を改善するため、Liをドープしたケイ素材の最表層部にリン酸塩を付着させることで耐水性を高めている(例えば特許文献13参照)。しかしながら、水系負極スラリーの保管時に経時による粘度変化がみられることなど水系負極スラリーの安定性は不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2001-185127号公報
【文献】特開2002-042806号公報
【文献】特開2006-164954号公報
【文献】特開2006-114454号公報
【文献】特開2009-070825号公報
【文献】特開2008-282819号公報
【文献】特開2008-251369号公報
【文献】特開2008-177346号公報
【文献】特開2007-234255号公報
【文献】特開2009-212074号公報
【文献】特開2009-205950号公報
【文献】特開平6-325765号公報
【文献】特開2017-152358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述したように、近年、モバイル端末などに代表される小型の電子機器は高性能化、多機能化がすすめられており、その主電源であるリチウムイオン二次電池は電池容量の増加が求められている。この問題を解決する1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極からなるリチウムイオン二次電池の開発が望まれている。
【0014】
また、ケイ素材を用いる場合、Liなどの金属元素をドープしたケイ素材を用いることで高い初期効率及び容量維持率を得ることができるが、その一方で、Liなどの金属元素をドープしたケイ素材は水系溶媒に対する安定性が低く、負極作製時に作製するケイ素材を混合した水系負極スラリーの安定性が低下してしまうため、工業的に不向きであった。水系負極スラリーの安定性を改善するため、Liをドープしたケイ素材の最表層部にリン酸塩を付着させることで耐水性を高めている(例えば特許文献13参照)。しかしながら、著者らが検討した範囲では、Liをドープしたケイ素材の最表層部にリン酸塩を付着させた負極材は、粉末状態での保時にリン酸塩の含む水分及び酸成分により凝集体を生成するため、水系負極スラリーの経時による粘度変化が大きくなるという問題がみられた。
【0015】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、非水電解質二次電池の負極作製時に作製する水系負極スラリーを安定化することができる負極用添加剤を提供することを目的とする。また、負極作製時において安定であり、かつ、非水電解質二次電池の負極を作製した際には、高容量で初期充放電効率が高い負極を得ることができる水系負極スラリー組成物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を解決するために、本発明は、非水電解質二次電池負極用添加剤であって、前記添加剤は、ケイ素系負極活物質粒子を含む水系負極スラリー組成物を調製する時に該水系負極スラリー組成物に添加する添加剤であり、前記添加剤は添加剤粒子を含み、前記添加剤粒子は、ケイ酸塩粒子及びリン酸塩粒子のうち少なくとも1種以上を含むことを特徴とする非水電解質二次電池負極用添加剤を提供する。
【0017】
本発明の非水電解質二次電池負極用添加剤を、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属をプレドープしたケイ素系負極活物質粒子を含む水系負極スラリーに添加することで、負極活物質粒子に対するバインダー成分の被覆状態が良好な状態となり、保管状態での経時によるガス発生を抑制することができる。また、プレドープしたケイ素系負極活物質粒子から溶出したアルカリ金属イオン、またはアルカリ土類金属イオンを中和して、水系負極スラリーのpHを適度に保つことができる。そのため、バインダー成分の変性を抑えることでき、水系負極スラリーの粘度変化を抑制することができる。また、水系負極スラリー中のケイ素系活物質粒子表面にてケイ酸塩、またはリン酸塩を形成することで、表面近傍のアルカリ金属イオン濃度、またはアルカリ土類金属イオン濃度を高め、活物質粒子内部からのアルカリ金属イオン、またはアルカリ土類金属イオンの溶出を抑制することができる。そのため、プレドープしたケイ素系負極活物質粒子の性能低下を抑えることができる。また、本発明の負極用添加剤は、ケイ素系活物質を含む水系負極スラリー組成物の調製時に添加するため、プレドープしたケイ素系負極活物質粒子に添加剤を付着させて作製した負極材と比較して、粉末状態で保管した際の負極材の凝集を抑えることができる。そのため、水系負極スラリーの粘度変化を小さく抑えることができる。
【0018】
このとき、前記ケイ酸塩粒子がケイ酸アルミニウムであり、前記リン酸塩粒子がリン酸アルミニウムであることが好ましい。
【0019】
上記のケイ酸塩、又はリン酸塩は、構成元素としてアルミニウムを含むため、水系負極スラリー中において、バインダー成分が有するアニオン性の官能基と作用して、スラリーの安定性をより高めることができる。
【0020】
また、前記ケイ酸アルミニウムの組成式がAlSiOであることが好ましい。
【0021】
上記のケイ酸塩は、ケイ酸塩全体に対するアルミニウム元素の比率が高いため、スラリーの安定性をより高めることができる。
【0022】
また、前記組成式AlSiOで表されるケイ酸アルミニウムの結晶構造が斜方晶系であることが好ましい。
【0023】
上記の結晶構造を持つケイ酸アルミニウムは、水系負極スラリー中で適度な溶解性を有するため、スラリーの安定性をより高めることができる。
【0024】
また、前記リン酸アルミニウムが第三リン酸アルミニウムであることが好ましい。
【0025】
上記のリン酸塩は、リン酸塩全体に対するアルミニウム元素の比率が高いため、スラリーの安定性をより高めることができる。
【0026】
また、前記第三リン酸アルミニウムが、クリストバライト型の結晶構造を持つことが好ましい。
【0027】
上記のリン酸塩は、水系負極スラリー中で適度な溶解性を有するため、スラリーの安定性をより高めることができる。
【0028】
また、前記非水電解質二次電池負極用添加剤の平均粒子径が0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0029】
添加剤の平均粒子径が上記の範囲であれば、水系負極スラリー中で適度な溶解性、及び分散性を有するため、長時間にわたって水系負極スラリー安定化効果を持続することができる。
【0030】
また、前記非水電解質二次電池負極用添加剤を10質量%の割合で純水中に分散させた分散液のpHの値が3以上7以下であることが好ましい。
【0031】
分散液のpHが上記の範囲であれば、水系負極スラリー中に添加した際のpHを適度な値にすることができ、安定な水系負極スラリーを得ることができる。
【0032】
また、上記目的を達成するために、本発明は、非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物であって、前記非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物は、上記非水電解質二次電池負極用添加剤、及び前記ケイ素系負極活物質粒子を含み、前記ケイ素系負極活物質粒子は、ケイ素化合物(SiO:0.5≦x≦1.6)を含むケイ素化合物粒子を含有し、前記ケイ素化合物粒子は、アルカリ金属元素を含むケイ酸塩、及びアルカリ土類金属元素を含むケイ酸塩のうち少なくとも1種以上を含むことを特徴とする非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物を提供する。
【0033】
このように水系負極スラリー中にケイ素系負極活物質粒子を含むため、電池容量を向上できる。また、ケイ素化合物粒子がケイ酸塩を含むことにより、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。これにより、初回効率を向上できる。さらに、前述の非水電解質二次電池負極用添加剤を含むため、負極活物質粒子に対するバインダー成分の被覆状態が良好な状態となり、水系負極スラリーの保管状態での経時によるガス発生を抑制することができる。また、ケイ素化合物粒子から溶出したアルカリ金属イオン、またはアルカリ土類金属イオンを中和して、水系負極スラリーのpHを適度に保つことができる。そのため、水系負極スラリーの保管状態での経時によるバインダー成分の変性を抑制することで、粘度変化を抑制することができる。また、水系負極スラリー中のケイ素系活物質粒子表面にてケイ酸塩、またはリン酸塩を形成することで、表面近傍のアルカリ金属イオン濃度、またはアルカリ土類金属イオン濃度を高め、活物質粒子内部からのアルカリ金属イオン、またはアルカリ土類金属イオンの溶出を抑制することができる。そのため、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属をプレドープしたケイ素系負極活物質粒子の性能低下を抑えることができる。
【0034】
また、前記ケイ素化合物粒子が、前記アルカリ金属元素を含むケイ酸塩としてLiSiO及びLiSiのうち少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
【0035】
上記のケイ酸塩であれば、水系負極スラリー中での溶出が小さく、また、充放電時に良好なリチウムイオン伝導性を得ることができる。
【0036】
また、前記水系負極スラリー組成物のpHが、10以上12.5以下であることが好ましい。
【0037】
水系負極スラリー組成物のpHが上記の範囲であれば、保管状態での経時によるバインダー成分の変性を抑制することができる。
【0038】
また、前記非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物中に含まれる前記ケイ素系負極活物質粒子の質量に対する前記非水電解質二次電池負極用添加剤の質量分率が、0.01質量%以上3質量%以下であることが好ましい。
【0039】
質量分率が上記の範囲であれば、より安定な水系負極スラリーを得ることができる。
【0040】
また、前記水系負極スラリー組成物が、カルボキシル基を有する高分子を含むことが好ましい。
【0041】
水系負極スラリー組成物が上記のように、カルボキシル基を有する高分子を含む場合、添加剤と良好な相互作用を有するため、保管時の経時による粘度変化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0042】
本発明の負極用添加剤は、負極作製時に作製する水系負極スラリーの粘度などの経時変化を抑えることができる。かつ、ケイ酸塩を含むケイ素系負極活物質粒子、及びこの負極用添加剤を含む水系負極スラリーは、経時によるガス発生やpH変化を抑制することができる。そのため、本発明の負極用添加剤を含む水系負極スラリーを用いて作製した負極は、高容量、かつ、高い初期充放電効率となる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
図1】本発明の負極用添加剤を含む非水電解質二次電池用負極の構成の一例を示す断面図である。
図2】クリストバライト型の結晶構造を有する第三リン酸アルミニウムから測定されるX線回折スペクトルの一例である。
図3】熱ドープ法により改質を行った場合にケイ素化合物粒子から測定される29Si-MAS-NMR スペクトルの一例である。
図4】本発明の負極用添加剤を含むリチウム二次電池の構成例(ラミネートフィルム型)を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
以下、本発明について実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0045】
前述のように、リチウムイオン二次電池の電池容量を増加させる1つの手法として、ケイ素材を主材として用いた負極をリチウムイオン二次電池の負極として用いることが検討されている。このケイ素材を用いたリチウムイオン二次電池は、炭素系活物質を用いたリチウムイオン二次電池と同等に近いスラリー安定性、初期充放電特性、及び、サイクル特性が望まれているが、炭素系活物質を用いたリチウムイオン二次電池と同等のスラリー安定性、及び、初期充放電特性を有する負極活物質を提案するには至っていなかった。
【0046】
そこで、本発明者らは、二次電池に用いた場合、高電池容量となるとともに、スラリー安定性、及び、初回効率が良好となる負極用添加剤を得るために鋭意検討を重ね、本発明に至った。
【0047】
[本発明の負極用添加剤]
本発明の負極用添加剤は、ケイ酸塩粒子及びリン酸塩粒子のうち少なくとも1種以上を含む。本発明の負極用添加剤を、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属をプレドープしたケイ素系負極活物質粒子を含む水系負極スラリーに添加した場合、負極活物質粒子に対するバインダー成分の被覆状態が良好な状態となり、保管状態での経時によるガス発生を抑制することができる。また、プレドープしたケイ素系負極活物質粒子から溶出したアルカリ金属イオン、またはアルカリ土類金属イオンを中和して、水系負極スラリーのpHを適度に保ち、保管状態での経時によるバインダー成分の変性を抑えることで、粘度変化を抑制することができる。また、水系負極スラリー中のケイ素系活物質粒子表面にてケイ酸塩、またはリン酸塩を形成することで、表面近傍のアルカリ金属イオン濃度、またはアルカリ土類金属イオン濃度を高め、活物質粒子内部からのアルカリ金属イオン、またはアルカリ土類金属イオンの溶出を抑制することができる。そのため、プレドープしたケイ素系負極活物質粒子の性能低下を抑えることができる。その結果、二次電池の電池容量、サイクル特性、及び、初回充放電効率を向上させることができる。
【0048】
上記ケイ酸塩粒子としては、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸リチウム、ケイ酸アルミニウムなどがあげられる。上記リン酸塩粒子としては、リン酸ナトリウム、リン酸リチウム、リン酸アルミニウムなどがあげられる。
【0049】
また、本発明の負極用添加剤が含むケイ酸塩粒子がケイ酸アルミニウムであり、本発明の負極用添加剤が含むリン酸塩粒子がリン酸アルミニウムであることが好ましい。これらのケイ酸塩及びリン酸塩は、構成元素としてアルミニウムを含むため、水系負極スラリー中において、バインダー成分が有するアニオン性の官能基と作用して、スラリーの安定性をより高めることができる。
【0050】
上記アニオン性の官能基としては、カルボキシル基があげられる。
【0051】
また、前記ケイ酸アルミニウムの組成式がAlSiOであることが好ましい。AlSiOであれば、ケイ酸塩全体に対するアルミニウム元素の比率が高いため、スラリーの安定性をより高めることができる。
【0052】
また、前記組成式AlSiOで表されるケイ酸アルミニウムの結晶構造が斜方晶系であることが好ましい。このようなケイ酸アルミニウムは、水系負極スラリー中で適度な溶解性を有するため、スラリーの安定性をより高めることができる。
【0053】
また、本発明の負極用添加剤が含むリン酸塩粒子は、第三リン酸アルミニウムであることが好ましい。第三リン酸アルミニウムであれば、第一リン酸アルミニウムやポリリン酸アルミニウムよりもアルミニウム元素の含有率が高いため、リン酸塩を含むことによる中和効果、及び、アルミニウム元素を含むことによるバインダー成分との相互作用効果をバランスよく得ることができる。
【0054】
上記第三リン酸アルミニウムのアルミニウム元素に対するリン元素の物質量比は、1.0以上1.2以下であることが好ましい。上記範囲内であれば、不純物として含む五酸化二リンの量が少ないため、水系負極スラリーに添加した際にも適度な中和効果を得ることができる。上記物質量比が1.0以上の場合、十分な中和効果を得ることができる。また、上記物質量比が1.2以下の場合、酸性が強すぎないため、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属をプレドープしたケイ素系負極活物質粒子からのアルカリ金属イオン、またはアルカリ土類金属イオンの溶出を促進してしまうことがない。
【0055】
また、本発明の負極用添加剤が含むリン酸塩粒子は、クリストバライト型の結晶構造を持つ第三リン酸アルミニウムであることが好ましい。このようなリン酸塩粒子は、水系負極スラリー中で適度な溶解性を有するため、より安定な水系負極スラリーを得ることができる。
【0056】
上記第三リン酸アルミニウムの結晶構造は、Cu-Kα線を用いたX線回折スペクトルの測定により確認することができる。図2にクリストバライト型の結晶構造を持つ第三リン酸アルミニウムのX線回折スペクトルを示す。21.6°±0.5°近辺にメインピークを有し、20.6°、31.1°、35.7°近辺にもピークを有する。
【0057】
また、本発明の負極用添加剤の粒子は、平均粒子径が0.1μm以上20μm以下であることが好ましい。
【0058】
上記負極用添加剤の粒子の平均粒子径が0.1μm以上であれば、水系負極スラリー中への溶出を適度に抑えることができる。また、比表面積が大きすぎないため、二次凝集を抑え、分散状態を保つことができる。また、上記負極用添加剤の粒子の平均粒子径が20μm以下であれば、水系負極スラリー中での沈降を抑えることができる。その結果、安定な水系負極スラリーを得ることができる。
【0059】
また、本発明の負極用添加剤を10質量%の割合で純水中に分散させた分散液のpHの値が3以上7以下であることが好ましい。分散液のpHが上記の範囲であれば、水系負極スラリー中に添加した際のpHを適度な値にすることができ、安定な水系負極スラリーを得ることができる。
【0060】
ケイ酸塩を有するケイ素系負極活物質粒子を含む水系負極スラリーに対して上記の負極用添加剤を添加する場合、上記分散液のpHが3以上であれば、上記添加剤を添加した水系負極スラリーのpHが低すぎない値となり、プレドープしたケイ素系負極活物質粒子からのアルカリ金属イオン、またはアルカリ土類金属イオンの溶出を促進してしまうことがない。また、上記分散液のpHが7以下の場合には、中和できるため、バインダー成分の変性を十分に抑えることができる。
【0061】
<本発明の非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物>
本発明の非水電解質二次電池用水系負極スラリー組成物は、ケイ素系負極活物質粒子を含む。ケイ素系負極活物質粒子は、ケイ素化合物(SiO:0.5≦x≦1.6)を含むケイ素化合物粒子を含有する。そのため、電池容量を向上できる。また、ケイ素化合物粒子は、アルカリ金属元素を含むケイ酸塩、及びアルカリ土類金属元素を含むケイ酸塩のうち少なくとも1種以上を含む。そのため、充電時に発生する不可逆容量を低減し、初回充放電効率を向上できる。また、このスラリーは、上記負極用添加剤を含む。そのため、負極活物質粒子に対するバインダー成分の被覆状態が良好な状態となり、保管状態での経時によるガス発生を抑制することができる。また、ケイ素化合物粒子から溶出したアルカリ金属イオン、またはアルカリ土類金属イオンを中和して、水系負極スラリーのpHを適度に保つことができる。そのため、保管状態での経時によるバインダー成分の変性を抑制することで、粘度変化を抑制することができる。また、水系負極スラリー中のケイ素系活物質粒子表面にてケイ酸塩、またはリン酸塩を形成することで、表面近傍のアルカリ金属イオン濃度、またはアルカリ土類金属イオン濃度を高め、活物質粒子内部からのアルカリ金属イオン、またはアルカリ土類金属イオンの溶出を抑制することができる。そのため、アルカリ金属、またはアルカリ土類金属をプレドープしたケイ素系負極活物質粒子の性能低下を抑えることができる。
【0062】
また、本発明の水系負極スラリー組成物中に含むケイ素化合物粒子は、アルカリ金属元素を含むケイ酸塩としてLiSiO及びLiSiのうち少なくとも1種以上を含むことが好ましい。
【0063】
上記のケイ酸塩であれば、水系負極スラリー中での溶出が小さく、また、充放電時に良好なリチウムイオン伝導性を得ることができる。
【0064】
また、本発明の水系負極スラリー組成物のpHは、10以上12.5以下であることが好ましい。
【0065】
上記水系負極スラリー組成物のpHが10以上の場合、ケイ素化合物粒子中に含むケイ酸塩の溶出を促進してしまうことがないため、スラリーの安定性をより高めることができる。また、12.5以下の場合は、バインダー成分の変性を抑制することができるため、粘度低下を抑制することができる。
【0066】
また、本発明の水系負極スラリー組成物中に含まれるケイ素系負極活物質粒子に対する負極用添加剤の質量分率が、0.01質量%以上3質量%以下であることが好ましい。
【0067】
上記質量分率が0.01質量%以上の場合、上記負極用添加剤の効果をより得ることができる。上記質量分率が3質量%以下の場合、上記負極用添加剤とバインダー成分の相互作用が大きくなりすぎないため、スラリーの安定性をより高めることができる。
【0068】
また、本発明の水系負極スラリー組成物は、カルボキシル基を有する高分子を含むことが好ましい。
【0069】
上記カルボキシル基を有する高分子を含む場合、上記負極用添加剤と良好な相互作用を有するため、水系負極スラリーの保管時の経時による粘度変化を抑制することができる。
【0070】
上記カルボキシル基を有する高分子としては、ポリアクリル酸及びその塩または、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCとも呼称する)及びその塩などがあげられる。
【0071】
<非水電解質二次電池用負極>
次に、本発明の負極用添加剤を含む非水電解質二次電池用負極(以下、「負極」とも呼称する)について説明する。図1は本発明の負極用添加剤を含む非水電解質二次電池用負極の構成の一例を示す断面図である。
【0072】
[負極の構成]
図1に示したように、負極10は、負極集電体11の上に負極活物質層12を有する構成になっている。この負極活物質層12は負極集電体11の両面、又は、片面だけに設けられていてもよい。さらに、本発明の負極用添加剤を用いた水系スラリーから作製された負極であれば、負極集電体11はなくてもよい。
【0073】
[負極集電体]
負極集電体11は、優れた導電性材料であり、かつ、機械的な強度に長けた物で構成される。負極集電体11に用いることができる導電性材料として、例えば銅(Cu)やニッケル(Ni)があげられる。この導電性材料は、リチウム(Li)と金属間化合物を形成しない材料であることが好ましい。
【0074】
負極集電体11は、主元素以外に炭素(C)や硫黄(S)を含んでいることが好ましい。負極集電体の物理的強度が向上するためである。特に、充電時に膨張する活物質層を有する場合、集電体が上記の元素を含んでいれば、集電体を含む電極変形を抑制する効果があるからである。上記の含有元素の含有量は、特に限定されないが、中でも、それぞれ100質量ppm以下であることが好ましい。より高い変形抑制効果が得られるからである。このような変形抑制効果によりサイクル特性をより向上できる。
【0075】
また、負極集電体11の表面は粗化されていてもよいし、粗化されていなくてもよい。粗化されている負極集電体は、例えば、電解処理、エンボス処理、又は、化学エッチング処理された金属箔などである。粗化されていない負極集電体は、例えば、圧延金属箔などである。
【0076】
[負極活物質層]
負極活物質層12は、本発明の負極用添加剤、または本発明の水系負極スラリー組成物を乾燥して得た合材を含んでおり、電池設計上の観点から、さらに、負極結着剤(バインダー)や導電助剤など他の材料を含んでいてもよい。本発明の負極用添加剤は、ケイ酸塩粒子及びリン酸塩粒子のうち少なくとも1種以上を含んでいる。
【0077】
また、負極活物質層12は、ケイ素系活物質と炭素系活物質とを含む混合負極活物質を含んでいてもよい。炭素系活物質を含むことにより、負極活物質層の電気抵抗が低下するとともに、充電に伴う膨張応力を緩和することが可能となる。炭素系活物質としては、例えば、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、カーボンブラック類などを使用できる。また、ケイ素系活物質を炭素系活物質に混合することで電池容量を増加させることができる。
【0078】
また、混合負極活物質は、ケイ素系活物質と炭素系活物質の質量の合計に対する、ケイ素系活物質の質量の割合が6質量%以上であることが好ましい。ケイ素系活物質と炭素系活物質の質量の合計に対する、ケイ素系活物質の質量の割合が6質量%以上であれば、電池容量を確実に向上させることが可能となる。
【0079】
また、上記のように本発明の水系負極スラリー組成物中に含むケイ素系負極活物質粒子は、ケイ素化合物(SiO:0.5≦x≦1.6)を含有する酸化ケイ素材であるが、その組成はxが1に近い方が好ましい。なぜならば、高いサイクル特性が得られるからである。なお、本発明におけるケイ素化合物の組成は必ずしも純度100%を意味しているわけではなく、微量の不純物元素を含んでいてもよい。
【0080】
また、本発明の水系負極スラリー組成物中に含むケイ素系負極活物質粒子は、LiSiO及びLiSiのうち少なくとも1種以上を含有している。このようなものは、ケイ素化合物中の、電池の充放電時のリチウムの挿入、脱離時に不安定化するSiO成分部を予め別のリチウムシリケートに改質させたものであるので、充電時に発生する不可逆容量を低減することができる。
【0081】
また、ケイ素化合物粒子のバルク内部にLiSiO及びLiSiのうち少なくとも1種以上存在することで電池特性が向上するが、上記2種類のLi化合物を共存させる場合に電池特性がより向上する。なお、これらのリチウムシリケートは、NMR(Nuclear Magnetic Resonance:核磁気共鳴)又はXPS(X-ray photoelectron spectroscopy:X線光電子分光)で定量可能である。XPSとNMRの測定は、例えば、以下の条件により行うことができる。
XPS
・装置: X線光電子分光装置、
・X線源: 単色化Al Kα線、
・X線スポット径: 100μm、
・Arイオン銃スパッタ条件: 0.5kV/2mm×2mm。
29Si MAS NMR(マジック角回転核磁気共鳴)
・装置: Bruker社製700NMR分光器、
・プローブ: 4mmHR-MASローター 50μL、
・試料回転速度: 10kHz、
・測定環境温度: 25℃。
【0082】
また、負極活物質層に含まれる負極結着剤としては、例えば、高分子材料、合成ゴムなどのいずれか1種類以上を用いることができる。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、カルボキシメチルセルロースなどである。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴム、エチレンプロピレンジエンなどである。
【0083】
また、負極導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、アセチレンブラック、黒鉛、ケチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料のいずれか1種以上を用いることができる。
【0084】
負極活物質層は、例えば、塗布法で形成される。塗布法とは、負極活物質粒子と上記の結着剤など、また、必要に応じて導電助剤、炭素系活物質粒子を混合した負極活物質を、有機溶剤や水などに分散させ、負極集電体などに塗布する方法である。
【0085】
[負極活物質の製造方法]
負極活物質は、例えば、以下の手順により製造できる。まず、負極に使用する負極活物質の製造方法を説明する。
【0086】
最初に、ケイ素化合物(SiO:0.5≦x≦1.6)を含むケイ素化合物粒子を作製する。次に、ケイ素化合物粒子にアルカリ金属、またはアルカリ土類金属を挿入し、ケイ酸塩を形成させる。このようにして、負極活物質粒子を作製する。
【0087】
より具体的には以下のように負極活物質を製造できる。先ず、酸化珪素ガスを発生する原料を不活性ガスの存在下、減圧下で900℃~1600℃の温度範囲で加熱し、酸化珪素ガスを発生させる。金属珪素粉末の表面酸素及び反応炉中の微量酸素の存在を考慮すると、混合モル比が、0.8<金属珪素粉末/二酸化珪素粉末<1.3の範囲であることが望ましい。
【0088】
発生した酸化珪素ガスは吸着板上で固体化され堆積される。次に、反応炉内温度を100℃以下に下げた状態で酸化珪素の堆積物を取出し、ボールミル、ジェットミルなどを用いて粉砕し、粉末化を行う。このようにして得られた粉末を分級してもよい。本発明では、粉砕工程及び分級工程時にケイ素化合物粒子の粒度分布を調整することができる。以上のようにして、ケイ素化合物粒子を作製することができる。なお、ケイ素化合物粒子中のSi結晶子は、気化温度の変更、又は、生成後の熱処理で制御できる。
【0089】
ここで、ケイ素化合物粒子の表層に炭素材の層を生成してもよい。炭素材の層を生成する方法としては、熱分解CVD法が望ましい。熱分解CVD法で炭素材の層を生成する方法について説明する。
【0090】
先ず、ケイ素化合物粒子を炉内にセットする。次に、炉内に炭化水素ガスを導入し、炉内温度を昇温させる。分解温度は特に限定しないが、1200℃以下が望ましく、より望ましいのは950℃以下である。分解温度を1200℃以下にすることで、負極活物質粒子の意図しない不均化を抑制することができる。所定の温度まで炉内温度を昇温させた後に、ケイ素化合物粒子の表面に炭素層を生成する。また、炭素材の原料となる炭化水素ガスは、特に限定しないが、C組成においてn≦4であることが望ましい。n≦4であれば、製造コストを低くでき、また、分解生成物の物性を良好にすることができる。
【0091】
次に、上記のように作製したケイ素化合物粒子に、アルカリ金属、アルカリ金属水素化物、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属水素化物の内いずれか1種以上を挿入し、ケイ酸塩を形成させ、ケイ素化合物粒子の改質を行う。この改質は、酸化還元法により行うことが好ましい。
【0092】
酸化還元法による改質では、例えば、まず、エーテル溶媒にリチウムを溶解した溶液Aにケイ素化合物粒子を浸漬することで、リチウムを挿入できる。この溶液Aに更に多環芳香族化合物又は直鎖ポリフェニレン化合物を含ませてもよい。リチウムの挿入後、多環芳香族化合物やその誘導体を含む溶液Bにケイ素化合物粒子を浸漬することで、ケイ素化合物粒子から活性なリチウムを脱離できる。この溶液Bの溶媒は、例えば、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、アミン系溶媒、又は、これらの混合溶媒を使用できる。さらに、溶液Bに浸漬した後、アルコール系溶媒、カルボン酸系溶媒、水、又は、これらの混合溶媒を含む溶液Cにケイ素化合物粒子を浸漬することで、ケイ素化合物粒子から活性なリチウムをより多く脱離できる。また、溶液Cの代わりに、溶質として分子中にキノイド構造を持つ化合物を含み、溶媒としてエーテル系溶媒、ケトン系溶媒、エステル系溶媒、又は、これらの混合溶媒を含む溶液C’を用いてもよい。また、溶液B、C、C’へのケイ素化合物粒子の浸漬は繰り返し行ってもよい。このようにして、リチウムの挿入後、活性なリチウムを脱離すれば、より耐水性の高い負極活物質となる。その後、アルコール、炭酸リチウムを溶解したアルカリ水、弱酸、又は、純水などで洗浄する方法などで洗浄してもよい。
【0093】
溶液Aに用いるエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、又は、これらの混合溶媒等を用いることができる。この中でも特にテトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタンを用いることが好ましい。これらの溶媒は、脱水されていることが好ましく、脱酸素されていることが好ましい。
【0094】
また、溶液Aに含まれる多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン、及び、これらの誘導体のうち1種類以上を用いることができ、直鎖ポリフェニレン化合物としては、ビフェニル、ターフェニル、及び、これらの誘導体のうち1種類以上を用いることができる。
【0095】
溶液Bに含まれる多環芳香族化合物としては、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ナフタセン、ペンタセン、ピレン、ピセン、トリフェニレン、コロネン、クリセン、及び、これらの誘導体のうち1種類以上を用いることができる。
【0096】
また、溶液Bのエーテル系溶媒としては、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、及び、テトラエチレングリコールジメチルエーテル等を用いることができる。
【0097】
ケトン系溶媒としては、アセトン、アセトフェノン等を用いることができる。
【0098】
エステル系溶媒としては、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、及び、酢酸イソプロピル等を用いることができる。
【0099】
アルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、及び、イソプロピルアルコール等を用いることができる。
【0100】
アミン系溶媒としては、メチルアミン、エチルアミン、及び、エチレンジアミン等を用いることができる。
【0101】
溶液Cを用いる場合、例えば、ケトン系溶媒とケイ素化合物を混合して撹拌後、アルコール系溶媒を加えるなど、複数段階にわたって溶媒を混合してもよい。
【0102】
溶液Cのアルコール系溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール等を使用できる。
【0103】
カルボン酸系溶媒としては、ギ酸、酢酸、シュウ酸等を使用できる。
【0104】
また、溶媒を水とする場合、純水以外にも、アンモニア水、酢酸リチウム水、炭酸リチウム水、水酸化リチウム水などの溶質を含んだ水溶液としてもよい。
【0105】
また、上記のアルコール系溶媒、カルボン酸系溶媒、及び、水のうち、2種以上を組み合わせた混合溶媒等を用いてもよい。
【0106】
また、熱ドープ法によって、ケイ素化合物粒子にアルカリ金属粉、またはアルカリ土類金属粉を挿入してもよい。熱ドープ法による改質では、例えば、ケイ素化合物粒子を水素化リチウム粉、またはリチウム粉と混合し、非酸化雰囲気下で加熱をすることで改質可能である。非酸化雰囲気としては、例えば、Ar雰囲気などが使用できる。より具体的には、まず、Ar雰囲気下で水素化リチウム粉、またはリチウム粉と酸化珪素粉末を十分に混ぜ、封止を行い、封止した容器ごと撹拌することで均一化する。その後、700℃~750℃の範囲で加熱し改質を行う。またこの場合、活性なLiの一部をケイ素化合物から脱離して、スラリーをより安定させるために、加熱後の粉末を十分に冷却し、その後アルコールやアルカリ水、弱酸や純水で洗浄してもよい。
【0107】
また、図3に酸化還元法により改質を行った場合にケイ素化合物粒子から測定される29Si-MAS-NMRスペクトルの一例を示す。図3において、-75ppm近辺に与えられるピークがLiSiOに由来するピークであり、-80~-100ppmに与えられるブロードなピークがSiに由来するピークである。また、-90~-100ppm近辺に与えられるピークがLiSiに由来するピークである。
【0108】
<負極の製造方法>
以上のようにして作製した負極活物質及び本発明の負極用添加剤に、必要に応じて、負極結着剤、導電助剤などの他の材料も混合した後に、水を加えることで水系負極スラリー組成物を得ることができる。
【0109】
このような水系負極スラリー組成物であれば、保管時のガス発生などによる経時変化を小さく抑えることができるため、製造プロセスの自由度も大きく、工業化に適している。また、上記の水系負極スラリー組成物を用いて負極を作製することで、高容量であるとともに良好な初期充放電特性を有する二次電池とすることができる。
【0110】
次に、負極集電体の表面に、上記の水系負極スラリー組成物を塗布し、乾燥させて、負極活物質層を形成する。この時、必要に応じて加熱プレスなどを行ってもよい。以上のようにして、負極を作製できる。
【0111】
<リチウムイオン二次電池>
次に、本発明の負極用添加剤を含むリチウムイオン二次電池について説明する。ここでは具体例として、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池を例に挙げる。
【0112】
[ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池の構成]
図4に示すラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池20は、主にシート状の外装部材25の内部に巻回電極体21が収納されたものである。この巻回電極体21は正極、負極間にセパレータを有し、巻回されたものである。また正極、負極間にセパレータを有し積層体を収納した場合も存在する。どちらの電極体においても、正極に正極リード22が取り付けられ、負極に負極リード23が取り付けられている。電極体の最外周部は保護テープにより保護されている。
【0113】
正負極リードは、例えば、外装部材25の内部から外部に向かって一方向で導出されている。正極リード22は、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成され、負極リード23は、例えば、ニッケル、銅などの導電性材料により形成される。
【0114】
外装部材25は、例えば、融着層、金属層、表面保護層がこの順に積層されたラミネートフィルムであり、このラミネートフィルムは融着層が巻回電極体21と対向するように、2枚のフィルムの融着層における外周縁部同士が融着、又は、接着剤などで張り合わされている。融着部は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのフィルムであり、金属部はアルミ箔などである。保護層は例えば、ナイロンなどである。
【0115】
外装部材25と正負極リードとの間には、外気侵入防止のため密着フィルム24が挿入されている。この材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン樹脂である。
【0116】
[正極]
正極は、例えば、図1の負極10と同様に、正極集電体の両面又は片面に正極活物質層を有している。
【0117】
正極集電体は、例えば、アルミニウムなどの導電性材により形成されている。
【0118】
正極活物質層は、リチウムイオンの吸蔵放出可能な正極材のいずれか1種又は2種以上を含んでおり、設計に応じて結着剤、導電助剤、分散剤などの他の材料を含んでいてもよい。この場合、結着剤、導電助剤に関する詳細は、例えば既に記述した負極結着剤、負極導電助剤と同様である。
【0119】
正極材料としては、リチウム含有化合物が望ましい。このリチウム含有化合物は、例えばリチウムと遷移金属元素からなる複合酸化物、又は、リチウムと遷移金属元素を有するリン酸化合物があげられる。これら記述される正極材の中でもニッケル、鉄、マンガン、コバルトの少なくとも1種以上を有する化合物が好ましい。これらの化学式として、例えば、LiM1OあるいはLiM2POで表される。式中、M1、M2は少なくとも1種以上の遷移金属元素を示す。x、yの値は電池充放電状態によって異なる値を示すが、一般的に0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10で示される。
【0120】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物としては、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)、リチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)などが挙げられる。リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物としては、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO)あるいはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-uMnPO(0<u<1))などが挙げられる。これらの正極材を用いれば、高い電池容量が得られるとともに、優れたサイクル特性も得られるからである。
【0121】
[負極]
負極は、上記した図1のリチウムイオン二次電池用負極10と同様の構成を有し、例えば、負極集電体11の両面に負極活物質層12を有している。この負極は、正極活物質剤から得られる電気容量(電池として充電容量)に対して、負極充電容量が大きくなることが好ましい。負極上でのリチウム金属の析出を抑制することができるためである。
【0122】
正極活物質層は、正極集電体の両面の一部に設けられており、負極活物質層も負極集電体の両面の一部に設けられている。この場合、例えば、負極集電体上に設けられた負極活物質層は対向する正極活物質層が存在しない領域が設けられている。これは、安定した電池設計を行うためである。
【0123】
非対向領域、すなわち、上記の負極活物質層と正極活物質層とが対向しない領域では、充放電の影響をほとんど受けることが無い。そのため負極活物質層の状態が形成直後のまま維持される。これによって負極活物質の組成など、充放電の有無に依存せずに再現性良く組成などを正確に調べることができる。
【0124】
[セパレータ]
セパレータは正極、負極を隔離し、両極接触に伴う電流短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。このセパレータは、例えば合成樹脂、あるいはセラミックからなる多孔質膜により形成されており、2種以上の多孔質膜が積層された積層構造を有してもよい。合成樹脂として例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。
【0125】
[電解液]
活物質層の少なくとも一部、又は、セパレータには、液状の電解質(電解液)が含浸されている。この電解液は、溶媒中に電解質塩が溶解されており、添加剤など他の材料を含んでいてもよい。
【0126】
溶媒は、例えば、非水溶媒を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、1,2-ジメトキシエタン、又は、テトラヒドロフランなどが挙げられる。この中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種以上を用いることが望ましい。より良い特性が得られるからである。またこの場合、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどの高粘度溶媒と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒を組み合わせることにより、より優位な特性を得ることができる。電解質塩の解離性やイオン移動度が向上するためである。
【0127】
合金系負極を用いる場合、特に溶媒として、ハロゲン化鎖状炭酸エステル、又は、ハロゲン化環状炭酸エステルのうち少なくとも1種を含んでいることが望ましい。これにより、充放電時、特に充電時において、負極活物質表面に安定な被膜が形成される。ここで、ハロゲン化鎖状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)鎖状炭酸エステルである。また、ハロゲン化環状炭酸エステルとは、ハロゲンを構成元素として有する(すなわち、少なくとも1つの水素がハロゲンにより置換された)環状炭酸エステルである。
【0128】
ハロゲンの種類は特に限定されないが、フッ素が好ましい。これは、他のハロゲンよりも良質な被膜を形成するからである。また、ハロゲン数は多いほど望ましい。これは、得られる被膜がより安定的であり、電解液の分解反応が低減されるからである。
【0129】
ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ジフルオロメチルメチルなどが挙げられる。ハロゲン化環状炭酸エステルとしては、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン、4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンなどが挙げられる。
【0130】
溶媒添加物として、不飽和炭素結合環状炭酸エステルを含んでいることが好ましい。充放電時に負極表面に安定な被膜が形成され、電解液の分解反応が抑制できるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルとして、例えば炭酸ビニレン又は炭酸ビニルエチレンなどが挙げられる。
【0131】
また溶媒添加物として、スルトン(環状スルホン酸エステル)を含んでいることが好ましい。電池の化学的安定性が向上するからである。スルトンとしては、例えばプロパンスルトン、プロペンスルトンが挙げられる。
【0132】
さらに、溶媒は、酸無水物を含んでいることが好ましい。電解液の化学的安定性が向上するからである。酸無水物としては、例えば、プロパンジスルホン酸無水物が挙げられる。
【0133】
電解質塩は、例えば、リチウム塩などの軽金属塩のいずれか1種類以上含むことができる。リチウム塩として、例えば、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)などが挙げられる。
【0134】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.5mol/kg以上2.5mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0135】
[ラミネートフィルム型二次電池の製造方法]
本発明では、上記の本発明の負極用添加剤を含む水系スラリーを用いた製造方法によって負極を作製でき、該作製した負極を用いてリチウムイオン二次電池を製造することができる。
【0136】
最初に上記した正極材を用い正極電極を作製する。まず、正極活物質と、必要に応じて結着剤、導電助剤などを混合し正極合剤としたのち、有機溶剤に分散させ正極合剤スラリーとする。続いて、ナイフロール又はダイヘッドを有するダイコーターなどのコーティング装置で正極集電体に合剤スラリーを塗布し、熱風乾燥させて正極活物質層を得る。最後に、ロールプレス機などで正極活物質層を圧縮成型する。この時、加熱しても良く、また加熱又は圧縮を複数回繰り返してもよい。
【0137】
次に、上記したリチウムイオン二次電池用負極10の作製と同様の作業手順を用い、負極集電体に負極活物質層を形成し負極を作製する。
【0138】
正極及び負極を作製する際に、正極及び負極集電体の両面にそれぞれの活物質層を形成する。この時、どちらの電極においても両面部の活物質塗布長がずれていてもよい(図1を参照)。
【0139】
続いて、電解液を調整する。続いて、超音波溶接などにより、正極集電体に正極リード22を取り付けると共に、負極集電体に負極リード23を取り付ける。続いて、正極と負極とをセパレータを介して積層、又は、巻回させて巻回電極体21を作製し、その最外周部に保護テープを接着させる。次に、扁平な形状となるように巻回体を成型する。続いて、折りたたんだフィルム状の外装部材25の間に巻回電極体を挟み込んだ後、熱融着法により外装部材の絶縁部同士を接着させ、一方向のみ解放状態にて、巻回電極体を封入する。正極リード、及び、負極リードと外装部材の間に密着フィルムを挿入する。解放部から上記調整した電解液を所定量投入し、真空含浸を行う。含浸後、解放部を真空熱融着法により接着させる。以上のようにして、ラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池20を製造することができる。
【実施例
【0140】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0141】
(実施例1-1)
以下の手順により、図4に示したラミネートフィルム型のリチウムイオン二次電池20を作製した。
【0142】
最初に正極を作製した。正極活物質はリチウムニッケルコバルト複合酸化物であるLiNi0.7Co0.25Al0.05Oを95質量%と、正極導電助剤2.5質量%と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン:PVDF)2.5質量%とを混合し、正極合剤とした。続いて正極合剤を有機溶剤(N-メチル-2-ピロリドン:NMP)に分散させてペースト状のスラリーとした。続いてダイヘッドを有するコーティング装置で正極集電体の両面にスラリーを塗布し、熱風式乾燥装置で乾燥した。この時正極集電体は厚み15μmのものを用いた。最後にロールプレスで圧縮成型を行った。
【0143】
次に、負極用添加剤を作製した。試薬グレードのLiSiOを用意し、粉砕分級を行うことで、粒子径を2μmに調整した。
【0144】
上記負極用添加剤を10質量%の割合で純水中に分散させた分散液のpHを測定したところ、pH5であった。
【0145】
次に、負極を作製した。まず、負極活物質を以下のようにして作製した。金属ケイ素と二酸化ケイ素を混合した原料を反応炉に導入し、10Paの真空度の雰囲気中で気化させたものを吸着板上に堆積させ、十分に冷却した後、堆積物を取出しボールミルで粉砕した。このようにして得たケイ素化合物粒子のSiOのxの値は0.9であった。続いて、ケイ素化合物粒子の粒径を分級により調整した。その後、熱分解CVDを行うことで、ケイ素化合物粒子の表面に炭素材を被覆した。
【0146】
続いて、酸化還元法によりケイ素化合物粒子にリチウムを挿入し改質した。
【0147】
次に、リチウムを挿入したケイ素化合物粒子を、25℃、相対湿度50%の環境下で1週間保管した。
【0148】
次に、この負極活物質を、炭素系活物質に、ケイ素系活物質粒子と炭素系活物質粒子の質量比が1:9となるように配合し、混合負極活物質を作製した。ここで、炭素系活物質としては、ピッチ層で被覆した天然黒鉛及び人造黒鉛を5:5の質量比で混合したものを使用した。また、炭素系活物質のメジアン径は20μmであった。
【0149】
次に、上記混合負極活物質、上記負極用添加剤、導電助剤1(カーボンナノチューブ、CNT)、導電助剤2(メジアン径が約50nmの炭素微粒子)、スチレンブタジエンゴム(スチレンブタジエンコポリマー、以下、SBRと称する)、カルボキシメチルセルロース(以下、CMCと称する)92.4:0.1:1:1:2.5:3の乾燥質量比で混合した後、純水で希釈し水系負極スラリーとした。なお、上記のSBR、CMCは負極バインダー(負極結着剤)である。
【0150】
また、負極集電体としては、厚さ15μmの電解銅箔を用いた。この電解銅箔には、炭素及び硫黄がそれぞれ70質量ppmの濃度で含まれていた。最後に、水系負極スラリーを負極集電体に塗布し真空雰囲気中で100℃×1時間の乾燥を行った。乾燥後の、負極の片面における単位面積あたりの負極活物質層の堆積量(面積密度とも称する)は5mg/cmであった。
【0151】
次に、溶媒(4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン(FEC)、エチレンカーボネート(EC)、及び、ジメチルカーボネート(DMC))を混合した後、電解質塩(六フッ化リン酸リチウム:LiPF)を溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成を体積比でFEC:EC:DMC=10:20:70とし、電解質塩の含有量を溶媒に対して1.2mol/kgとした。
【0152】
次に、以下のようにして二次電池を組み立てた。最初に、正極集電体の一端にアルミリードを超音波溶接し、負極集電体の一端にはニッケルリードを溶接した。続いて、正極、セパレータ、負極、セパレータをこの順に積層し、長手方向に巻回させ巻回電極体を得た。その巻き終わり部分をPET保護テープで固定した。セパレータは多孔性ポリプロピレンを主成分とするフィルムにより多孔性ポリエチレンを主成分とするフィルムを挟んだ積層フィルム(厚さ12μm)を用いた。続いて、外装部材間に電極体を挟んだ後、一辺を除く外周縁部同士を熱融着し、内部に電極体を収納した。外装部材はナイロンフィルム、アルミ箔、及び、ポリプロピレンフィルムが積層されたアルミラミネートフィルムを用いた。続いて、開口部から調整した電解液を注入し、真空雰囲気下で含浸した後、熱融着し、封止した。
【0153】
以上のようにして作製した二次電池の初回充放電特性を評価した。
【0154】
初回充放電特性を調べる場合には、初回効率(以下では初期効率と呼ぶ場合もある)を算出した。初回効率は、初回効率(%)=(初回放電容量/初回充電容量)×100で表される式から算出した。雰囲気温度は、サイクル特性を調べた場合と同様にした。
【0155】
また、スラリーのポットライフは、スラリーからガスが発生するまでの時間として評価した。この時間が長いほどスラリーがより安定していると言える。具体的には、作製したスラリーから10gを分取してアルミラミネートパックに封止し、作製直後(0時間後)、6時間後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、120時間後、144時間後、及び、168時間後の体積をアルキメデス法により測定した。ガス発生の判定は、作製直後からの体積変化が1mlを超えた場合にガス発生とした。スラリーの保管温度は20℃とした。
【0156】
スラリーの粘度変化は、作製直後の粘度から20%以上粘度低下するまでの時間として評価した。具体的には、回転式粘度計を用いて、作製直後(0時間後)、6時間後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、120時間後、144時間後、及び、168時間後の粘度を測定した。回転粘度計のせん断速度は、1/sとした。
【0157】
(実施例1-2~実施例1-8)
添加剤の種類を変更したことを除き、実施例1-1と同様に、二次電池の製造を行った。
【0158】
(比較例1-1)
添加剤を添加しなかったことを除き、実施例1-1と同様に、二次電池の製造を行った。
【0159】
このとき、実施例1-1~1-8、及び、比較例1-1のケイ素系活物質粒子は以下のような性質を有していた。負極活物質粒子中のケイ素化合物粒子の内部には、LiSiO及びLiSiが含まれていた。また、表面に被覆された炭素材の平均厚さは40nmであった。また、負極活物質粒子のメジアン径は6μmであった。また、負極活物質粒子のBET比表面積は2m/gであった。
【0160】
実施例1-1~1-8、比較例1-1の評価結果を表1に示す。
【0161】
【表1】
【0162】
表1に示すように、添加剤を含まない比較例1-1では、スラリー作製直後からガス発生が見られ、粘度の経時変化も大きい結果であった。それに対して、添加剤としてケイ酸塩粒子または、リン酸塩粒子を含む実施例1-1~実施例1-8では、安定性の高いスラリーが得られた。また、添加剤がアルミニウムを含む場合、粘度の経時変化の小さいスラリーが得られた。さらに、添加剤がAlSiOである実施例1-3及び添加剤が第三リン酸アルミニウムである実施例1-8では、より高いスラリー安定性が得られた。
【0163】
(実施例2-1)
添加剤として含むAlSiOの結晶構造を変更したこと以外、実施例1-3と同じ条件で水系負極スラリーを作製し、スラリー安定性を評価した。
【0164】
【表2】
【0165】
表2のように添加剤としてAlSiOを含む場合、スラリー安定性は、良好であった。結晶構造が三斜晶系と比較して、斜方晶系の場合に、より安定性の高いスラリーが得られた。
【0166】
(実施例3-1~実施例3-2)
添加剤として含む第三リン酸アルミニウムの結晶構造を変更したこと以外、実施例1-8と同じ条件で水系負極スラリーを作製し、スラリー安定性を評価した。
【0167】
実施例3-1~実施例3-2、実施例1-8の結果を表3に示す。
【0168】
【表3】
【0169】
表3のように添加剤として第三リン酸アルミニウムを含む場合、スラリー安定性は、良好であった。結晶構造がベルリナイト型やトリディマイト型の場合と比較して、クリストバライト型の場合に、より安定性の高いスラリーが得られた。
【0170】
(実施例4-1~実施例4-4)
表4のように添加剤の粒子径を調整したことを除き、実施例1-8と同じ条件で水系負極スラリーを作製し、スラリー安定性を評価した。
【0171】
実施例4-1~実施例4-4、実施例1-8の結果を表4に示す。
【0172】
【表4】
【0173】
表4から分かるように、添加剤の粒子径が0.1μm以上20μm以下の場合、スラリーの安定性が改善された。粒子径0.1μm未満の場合には、ガス発生が早まる結果であった。また、粒子径が20μmよりも大きい場合は、経時による粘度変化が大きくなる結果であった。
【0174】
(実施例5-1~実施例5-4)
表5のように添加剤10質量%分散液のpHを調整したことを除いて、実施例1-8と同じ条件で水系負極スラリーを作製し、スラリー安定性を評価した。
【0175】
【表5】
【0176】
表5に示すように、添加剤10質量%分散液のpHが3以上7以下の範囲の場合、安定性の高いスラリーが得られた。pHが3未満の場合には、ガス発生が早まり、pHが7よりも大きい場合は、粘度の経時変化が大きくなる結果であった。
【0177】
(実施例6-1~実施例6-2、比較例6-1~比較例6-2)
ケイ素化合物のバルク内酸素量を調整したことを除き、実施例1-8と同じ条件で水系負極スラリー及び二次電池を作製し、スラリーの安定性、初回効率を評価した。
【0178】
【表6】
【0179】
表6に示すように、SiOxで表わされるケイ素化合物において、xの値が、0.5≦x≦1.6の範囲外の場合、電池特性またはスラリー安定性が悪化した。例えば、比較例6-1に示すように、酸素が十分にない場合(x=0.3)、スラリーのガス発生が著しく早まる。一方、比較例6-2に示すように、酸素量が多い場合(x=1.8)は導電性の低下が生じ、実質的にケイ素酸化物の容量が発現しないため、評価を停止した。
【0180】
(実施例7-1~実施例7-6)
負極活物質粒子が含むシリケート種を変更したこと以外、実施例1-8と同じ条件で水系負極スラリー及び二次電池を作製し、スラリーの安定性、初回効率を評価した。
【0181】
(実施例7-7)
負極活物質内にアルカリ金属またはアルカリ土類金属の挿入を行わなかったこと以外、施例1-8と同じ条件で水系負極スラリー及び二次電池を作製し、スラリーの安定性、初回効率を評価した。
【0182】
【表7】
【0183】
表7のように、ケイ素化合物がケイ酸塩を含むことで、初回効率が向上した。一方で、改質を行わず、ケイ素化合物にケイ酸塩を含ませなかった実施例7-7では初回効率が低下した。本発明は、負極活物質粒子がアルカリ金属元素を含むケイ酸塩及びアルカリ土類金属を含むケイ酸塩のうち少なくとも一種以上を含む場合、特に好適である。また、LiSiO及びLiSiのうち少なくとも一種を含む場合、良好な安定性を有するスラリーが得られた。
【0184】
(実施例8-1~実施例8-4)
水系負極スラリーのpHを表8のように変化させたこと以外、実施例1-8と同じ条件で水系負極スラリーを作製し、スラリーの安定性を評価した。スラリーのpHは、粒子表面に含むLi塩の量が異なる負極活物質粒子を用いることで変化させた。
【0185】
【表8】
【0186】
表8に示すように、スラリーpHが10以上12.5以下の範囲内で、良好なスラリー安定性が得られた。スラリーpHが10未満の場合、ガス発生が早まり、スラリーpHが12.5よりも大きい場合、粘度の経時変化が大きい結果であった。
【0187】
(実施例9-1~実施例9-4)
ケイ素化合物の質量に対する添加剤の質量分率を変更したこと以外、実施例1-8と同じ条件で水系負極スラリーを作製し、スラリーの安定性を評価した。
【0188】
【表9】
【0189】
表9から分かるように、添加剤の質量分率が0.01質量%以上3質量%以下の範囲で、安定性の高いスラリーが得られた。質量分率が上記範囲外の場合、ガス発生が早まる結果であった。
【0190】
(実施例10-1~実施例10-2)
水系負極スラリー中の高分子種類を変化させたこと以外、実施例1-8と同じ条件で水系負極スラリーを作製し、スラリーの安定性を評価した。
【0191】
【表10】
【0192】
表10のように、ポリアクリル酸(PAA)やカルボキシメチルセルロース(CMC)などカルボキシル基を有する高分子を含む場合、安定性の高いスラリーが得られた。カルボキシル基を有する高分子を含まない場合、カルボキシル基を有する高分子を含む場合よりも粘度の経時変化が大きい結果であった。
【0193】
(比較例11-1)
リチウムを挿入したケイ素化合物粒子と添加剤を乾式混合した後、25℃、相対湿度50%の環境下で1週間保管したことを除き、実施例1-8と同様に、二次電池の製造を行った。
【0194】
【表11】
【0195】
表11から分かるようにケイ素化合物粒子と添加剤を乾式混合した後、1週間保管した比較例11-1では、粘度の経時変化が大きくなる結果であった。
【0196】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0197】
10…負極、 11…負極集電体、 12…負極活物質層、
20…リチウム二次電池(ラミネートフィルム型)、 21…巻回電極体、
22…正極リード、 23…負極リード、 24…密着フィルム、
25…外装部材。
図1
図2
図3
図4