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特許7175261レーザー焼結粉末用の補強剤を含むポリアミドブレンド
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  • 特許-レーザー焼結粉末用の補強剤を含むポリアミドブレンド 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】レーザー焼結粉末用の補強剤を含むポリアミドブレンド
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20221111BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20221111BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20221111BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20221111BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K7/02
B29C64/314
B29C64/153
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019504889
(86)(22)【出願日】2017-07-21
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-10-03
(86)【国際出願番号】 EP2017068529
(87)【国際公開番号】W WO2018019728
(87)【国際公開日】2018-02-01
【審査請求日】2020-07-17
(31)【優先権主張番号】16181983.4
(32)【優先日】2016-07-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエル,クラウス
(72)【発明者】
【氏名】エルレ,ナタリー ベアトリス ジャニーン
(72)【発明者】
【氏名】マイアー,トマス
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/080820(WO,A1)
【文献】特開2015-081321(JP,A)
【文献】特表2016-505409(JP,A)
【文献】国際公開第2012/041793(WO,A1)
【文献】特表2002-512645(JP,A)
【文献】Characterization of polyamide powders for determination of laser sintering processability,European Polymer Journal,2015年12月21日,75,163-174
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/00
C08K 7/02
B29C 64/314
B29C 64/153
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結粉末(SP)の選択的レーザー焼結によって成形体を製造する方法であって、焼結粉末(SP)が、次の成分:
(A)-NH-(CH-NH-単位(式中、mは、4、5、6、7、または8である)、-CO-(CH-NH-単位(式中、nは、3、4、5、6、または7である)、および-CO-(CH-CO-単位(式中、oは、2、3、4、5、または6である)からなる群から選択される少なくとも1つの単位を含む少なくとも1種の半結晶性ポリアミドと、
(B)少なくとも1種のナイロン6I/6Tと、
(C)少なくとも1種の補強剤と
を含み、成分(C)が、繊維状補強剤であり、繊維状補強剤の長さ対繊維状補強剤の直径の比が、2:1~40:1の範囲である、方法。
【請求項2】
焼結粉末(SP)が、各場合において成分(A)、(B)、および(C)の質量百分率の総計に対して、成分(A)を30質量%~70質量%の範囲で、成分(B)を5質量%~25質量%の範囲で、成分(C)を15質量%~50質量%の範囲で含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
焼結粉末(SP)が、
10~30μmの範囲のD10、
25~70μmの範囲のD50、および
50~150μmの範囲のD90
を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
焼結粉末(SP)が、焼結ウィンドウ(WSP)を有し、焼結ウィンドウ(WSP)が、溶融開始温度(T 開始)と結晶化開始温度(T 開始)の差であり、焼結ウィンドウ(WSP)が、15~40Kの範囲である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
焼結粉末(SP)が、180~270℃の範囲の溶融温度(T)を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
焼結粉末(SP)が、120~190℃の範囲の結晶化温度(T)を有する、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
成分(A)、(B)、および(C)を-210~-195℃の範囲の温度で粉砕することにより焼結粉末(SP)を製造する、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
成分(A)が、PA6、PA6.6、PA6.10、PA6.12、PA6.36、PA6/6.6、PA6/6I6T、PA6/6l、およびPA6/6Tからなる群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
成分(C)が繊維状補強剤であり、繊維状補強剤の長さ対繊維状補強剤の直径の比が3:1~30:1の範囲である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
成分(C)が、カーボンナノチューブ、炭素繊維、ホウ素繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、セラミック繊維、玄武岩繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、およびポリエチレン繊維からなる群から選択される、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
焼結粉末(SP)が、成核防止剤、安定剤、末端基官能化剤、および染料からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
次の成分:
(A)-NH-(CH-NH-単位(式中、mは、4、5、6、7、または8である)、-CO-(CH-NH-単位(式中、nは、3、4、5、6、または7である)、および-CO-(CH-CO-単位(式中、oは、2、3、4、5、または6である)からなる群から選択される少なくとも1つの単位を含む少なくとも1種の半結晶性ポリアミド、
(B)少なくとも1種のナイロン6I/6T、
(C)少なくとも1種の補強剤
を含む焼結粉末(SP)においてナイロン6I/6Tを、成分(A)と(C)の混合物の焼結ウィンドウ(WAC)に比べて焼結粉末(SP)の焼結ウィンドウ(WSP)を広くするために使用する方法であって、各場合における焼結ウィンドウ(WSP、WAC)が溶融開始温度(T 開始)と結晶化開始温度(T 開始)の差である、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、焼結粉末(SP)の選択的レーザー焼結によって成形体を製造する方法に関する。焼結粉末(SP)は、少なくとも1種の半結晶性ポリアミドと、少なくとも1種のナイロン6I/6Tと、少なくとも1種の補強剤とを含む。本発明はさらに、本発明の方法によって得ることができる成形体、ならびに、少なくとも1種の半結晶性ポリアミドと、少なくとも1種のナイロン6I/6Tと、少なくとも1種の補強剤とを含む焼結粉末(SP)においてナイロン6I/6Tを、焼結粉末(SP)の焼結ウィンドウ(WSP)を広くするために使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試作品の速やかな提供は、昨今では頻繁に発生する課題である。この、いわゆる「速やかな試作品製作」に特に適する1つの方法は、選択的レーザー焼結(SLS)である。これは、チャンバーの中のポリマー粉末を、選択的にレーザービームに曝露するものである。粉末は溶融し、溶融した粒子は、癒着し、再び凝固する。プラスチック粉末の適用と、その後のレーザー照射を繰り返すことで、三次元成形体のモデリングは容易になる。
【0003】
粉状ポリマーから成形体を製造する選択的レーザー焼結の方法は、特許明細書US6,136,948およびWO96/06881に詳細に記載されている。
【0004】
選択的レーザー焼結における特に重要な因子は、焼結粉末の焼結ウィンドウである。焼結ウィンドウは、レーザー焼結操作の際の成分の反りを軽減するために、可能な限り広くすべきである。さらに、焼結粉末の再利用性も、特に重要である。先行技術は、選択的レーザー焼結において使用する種々の焼結粉末を記載している。
【0005】
WO2009/114715は、少なくとも20質量%のポリアミドポリマーを含む、選択的レーザー焼結用の焼結粉末を記載している。このポリアミド粉末は、分岐ポリアミドを含み、分岐ポリアミドは、3つ以上のカルボン酸基を有するポリカルボン酸から出発して製造されている。
【0006】
WO2011/124278は、PA11のPA1010との、PA11のPA1012との、PA12のPA1012との、PA12のPA1212との、またはPA12のPA1013との共沈物を含む焼結粉末を記載している。
【0007】
EP1443073は、選択的レーザー焼結法のための焼結粉末を記載している。こうした焼結粉末は、ナイロン12、ナイロン11、ナイロン6,10、ナイロン6,12、ナイロン10,12、ナイロン6、またはナイロン6,6と、流動助剤とを含む。
【0008】
US2015/0259530は、選択的レーザー焼結用の焼結粉末中に使用することのできる半結晶性ポリマーおよび二次的材料を記載している。ポリエーテルエーテルケトンまたはポリエーテルケトンケトンを半結晶性ポリマーとして、ポリエーテルイミドを二次的材料として使用することが好ましい。
【0009】
R.D.Goodridgeら、Polymer Testing 2011、30、94~100は、ナイロン12/炭素ナノ繊維複合材料の、溶融物中で混合し、その後低温粉砕することによる製造を記載している。得られる複合材料は、その後、選択的レーザー焼結法において焼結粉末として使用される。
【0010】
C.Yanら、Composite Science and Technology 2011、71、1834~1841は、炭素繊維/ナイロン12複合材料の沈殿法による製造を記載している。得られる複合材料は、その後、選択的レーザー焼結法において焼結粉末として使用される。
【0011】
J.Yangら、J.Appl.Polymer Sci.2010、117、2196~2204は、沈殿法によって製造されるナイロン12/チタン酸カリウムウィスカー複合材料を記載している。得られる複合材料は、その後、選択的レーザー焼結法において焼結粉末として使用される。
【0012】
R.D.Goodridgeら、Polymer Testing 2011、30、94~100、C.Yanら、Composite Science and Technology 2011、71、1834~1841、およびJ.Yangら、J.Appl.Polymer Sci.2010、117、2196~2204に記載されている方法および焼結粉末の短所は、得られる焼結粉末が、特にその粒径に関して、均一性が往々にして不十分であるため、選択的レーザー焼結法において、困難なくしては使用できないことである。選択的レーザー焼結法において使用する場合、焼結粉末の粒子が互いに対して不十分にしか焼結していない成形物が得られることは往々にして事実である。
【0013】
US2014/014116は、3Dプリンティング法においてフィラメントとして使用するためのポリアミドブレンドを記載している。このポリアミドブレンドは、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,9、ナイロン7、ナイロン11、ナイロン12、およびこれらの混合物などの半結晶性ポリアミドと、非晶質ポリアミドとして、たとえば、30~70質量%のナイロン6/3Tとを含む。
【0014】
WO2008/057844は、半結晶性ポリアミド、たとえば、ナイロン6、ナイロン11、またはナイロン12と、補強剤とを含む焼結粉末を記載している。しかし、こうした焼結粉末から製造された成形体は、弱い強度しかもたない。
【0015】
加えて、焼結粉末の焼結ウィンドウのサイズが、純粋なポリアミドまたは純粋な半結晶性ポリマーの焼結ウィンドウに比べて、往々にして縮小されることも、選択的レーザー焼結による成形体の製造について先行技術に記載されている焼結粉末の短所である。焼結ウィンドウのサイズが縮小されると、選択的レーザー焼結による製造の際、成形体に頻繁に反りが生じることになるため、不利益である。この反りによって、成形体の使用またはさらなる加工処理は、事実上不可能になる。反りは、成形体の製造中でさえ、さらなる層の適用が不可能になり、したがって製造工程を中断しなければならないほど激しくなる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【文献】US6,136,948
【文献】WO96/06881
【文献】WO2009/114715
【文献】WO2011/124278
【文献】EP1443073
【文献】US2015/0259530
【文献】US2014/014116
【文献】WO2008/057844
【非特許文献】
【0017】
【文献】R.D.Goodridgeら、Polymer Testing 2011、30、94~100
【文献】C.Yanら、Composite Science and Technology 2011、71、1834~1841
【文献】J.Yangら、J.Appl.Polymer Sci.2010、117、2196~2204
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の目的は、先行技術に記載されている方法の前述の短所が、存在したとしてもより少ない程度でしかない、選択的レーザー焼結による成形体の製造方法を提供することである。本方法は、いたって単純であり、実施に費用がかからないものになっている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この目的は、焼結粉末(SP)の選択的レーザー焼結によって成形体を製造する方法であって、焼結粉末(SP)が、次の成分:
(A)-NH-(CH-NH-単位(式中、mは、4、5、6、7、または8である)、-CO-(CH-NH-単位(式中、nは、3、4、5、6、または7である)、および-CO-(CH-CO-単位(式中、oは、2、3、4、5、または6である)からなる群から選択される少なくとも1つの単位を含む少なくとも1種の半結晶性ポリアミドと、
(B)少なくとも1種のナイロン6I/6Tと、
(C)少なくとも1種の補強剤と
を含み、成分(C)が、繊維状補強剤であり、繊維状補強剤の長さ対繊維状補強剤の直径の比が、2:1~40:1の範囲である、方法によって実現される。
【0020】
本発明はまた、焼結粉末(SP)の選択的レーザー焼結によって成形体を製造する方法であって、焼結粉末(SP)が、次の成分:
(A)-NH-(CH-NH-単位(式中、mは、4、5、6、7、または8である)、-CO-(CH-NH-単位(式中、nは、3、4、5、6、または7である)、および-CO-(CH-CO-単位(式中、oは、2、3、4、5、または6である)からなる群から選択される少なくとも1つの単位を含む少なくとも1種の半結晶性ポリアミドと、
(B)少なくとも1種のナイロン6I/6Tと、
(C)少なくとも1種の補強剤と
を含む方法を提供する。
【0021】
驚いたことに、本発明の方法において使用する焼結粉末(SP)は、本焼結粉末(SP)の選択的レーザー焼結によって製造された成形体において、反りが存在したとしても明確に軽減されるほど、焼結ウィンドウ(WSP)が広がっていることが見出された。さらに、成形体は、破損時の伸びが向上している。加えて、驚いたことに、半結晶性ポリアミドとナイロン6I/6Tだけを含む焼結粉末に比べて、本焼結粉末(SP)の熱酸化安定性の向上、すなわち、詳細には、本発明の方法において使用する焼結粉末(SP)のより良好な再利用性も実現された。したがって、本焼結粉末(SP)は、幾度かのレーザー焼結サイクルの後でさえ、最初の焼結サイクルと同様に有利な焼結特性を有する。
【0022】
ナイロン6I/6Tを使用することで、本焼結粉末(SP)における焼結ウィンドウ(WSP)は、少なくとも1種の半結晶性ポリアミドと少なくとも1種の補強剤の混合物の焼結ウィンドウ(WAC)に比べて、さらに広げられる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1に例として加熱運転(H)および冷却運転(C)を含むDSC線図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明による方法について、以下でより詳細に説明する。
選択的レーザー焼結
選択的レーザー焼結の方法は、たとえば、US6,136,948およびWO96/06881から、当業者にそれ自体が知られている。
【0025】
レーザー焼結では、焼結性粉末の第1の層が粉体床に配置され、短い間、レーザービームに局部的に曝露される。焼結性粉末の、レーザービームに曝露された部分だけが、選択的に溶融する(選択的レーザー焼結)。溶融した焼結性粉末は、癒着し、したがって、曝露された領域において均一な溶融物を形成する。その領域は、その後再び冷却し、均一な溶融物は、再凝固する。次いで、粉体床は、第1の層の層厚さだけ下げられ、焼結性粉末の第2の層が適用され、選択的にレーザー曝露および溶融を受ける。これによって、焼結性粉末の上部の第2の層が下部の第1の層とまず接合され、第2の層内の焼結性粉末の粒子も、溶融によって互いに接合される。粉体床を下げること、焼結性粉末の適用、および焼結性粉末の溶融を繰り返すことにより、三次元成形体を製造することが可能である。ある特定の場所のレーザービームへの選択的曝露により、たとえば空洞を有する成形体を製造することも可能になる。溶融していない焼結性粉末それ自体が支持体材料として働くため、追加の支持体材料は必要ない。
【0026】
当業者に知られ、レーザーへの曝露により溶融可能なすべての粉末が、選択的レーザー焼結における焼結性粉末として適する。本発明によれば、選択的レーザー焼結において使用する焼結性粉末は、焼結粉末(SP)である。
【0027】
したがって、本発明との関連において、用語「焼結性粉末」および「焼結粉末(SP)」は、同義語として使用される場合があり、その場合、これらの用語は、同じ意味を有する。
【0028】
選択的レーザー焼結に適するレーザーは、当業者に知られており、たとえば、ファイバレーザー、Nd:YAGレーザー(ネオジムでドープしたイットリウムアルミニウムガーネットレーザー)、および二酸化炭素レーザーがある。
【0029】
選択的レーザー焼結法において特に重要なのは、「焼結ウィンドウ(W)」と呼ばれる、焼結性粉末の溶融範囲である。焼結性粉末が本発明の焼結粉末(SP)であるとき、本発明との関連において、焼結ウィンドウ(W)を、焼結粉末(SP)の「焼結ウィンドウ(WSP)」と呼ぶ。焼結性粉末が、焼結粉末(SP)中に存在する成分(A)と(C)の混合物である場合、本発明との関連において、焼結ウィンドウ(W)を、成分(A)と(C)の混合物の「焼結ウィンドウ(WAC)」と呼ぶ。
【0030】
焼結性粉末の焼結ウィンドウ(W)は、たとえば、示差走査熱量測定、すなわちDSCによって求めることができる。
【0031】
示差走査熱量測定では、試料、すなわち、本事例では焼結性粉末の試料の温度、および基準物の温度を時間と共に線形に変化させる。この目的のために、試料および基準物に熱が供給され/これらから熱が移される。試料を基準物と同じ温度に保つのに必要な熱Qの量を求める。基準物に供給され/基準物から移される熱Qの量を、基準値とする。
【0032】
試料が吸熱相変態を経れば、試料を基準物と同じ温度に保つために追加の量の熱Qを供給する必要がある。発熱相変態が起これば、試料を基準物と同じ温度に保つために熱Qの量を移動させる必要がある。測定から、試料に供給され/試料から移される熱Qの量が温度Tに対してプロットされている、DSC線図が得られる。
【0033】
測定は通常、加熱運転(H)を冒頭に行うことを含み、すなわち、試料および基準物は、線形に加熱される。試料が溶融(固相/液相相変態)する間は、追加の量の熱Qを供給して、試料を基準物と同じ温度に保つ必要がある。次いで、DSC線図において、溶融ピークと呼ばれるピークが観察される。
【0034】
加熱運転(H)の後、通常は冷却運転(C)が測定される。これは、試料および基準物を線形に冷却することを含み、すなわち、試料および基準物から熱が移される。試料が結晶化/凝固(液相/固相変態)する間は、結晶化/凝固の過程で熱が放たれるため、より多い量の熱Qを移動させて、試料を基準物と同じ温度に保つ必要がある。次いで、冷却運転(C)のDSC線図において、溶融ピークと逆の方向に、結晶化ピークと呼ばれるピークが観察される。
【0035】
本発明においては、加熱運転の間の加熱は、通常は20K/分の加熱速度で実施される。冷却運転の間の冷却は、本発明においては、通常20K/分の冷却速度で実施される。
【0036】
加熱運転(H)および冷却運転(C)を含むDSC線図を、図1に例として示す。DSC線図を使用して、溶融開始温度(T 開始)および結晶化開始温度(T 開始)を求めることができる。
【0037】
溶融開始温度(T 開始)を求めるには、溶融ピークより低い温度の箇所において、加熱運転(H)のベースラインに対して接線を引く。溶融ピークの極大点の温度より低い温度の箇所において、溶融ピークの屈曲の最初の点に対して、第2の接線を引く。2本の接線を、これらが交わるまで外挿する。交点を温度軸まで垂直に外挿することで、溶融開始温度(T 開始)が示される。
【0038】
結晶化開始温度(T 開始)を求めるには、結晶化ピークより高い温度の箇所において、冷却運転(C)のベースラインに対して接線を引く。結晶化ピークの極小点の温度より高い温度の箇所において、結晶化ピークの屈曲の点に対して、第2の接線を引く。2本の接線を、これらが交わるまで外挿する。交点を温度軸まで垂直に外挿することで、結晶化開始温度(T 開始)が示される。
【0039】
焼結ウィンドウ(W)は、溶融開始温度(T 開始)と結晶化開始温度(T 開始)の差である。すなわち、
W=T 開始-T 開始
となる。
【0040】
本発明との関連において、用語「焼結ウィンドウ(W)」、「焼結ウィンドウ(W)のサイズ」、および「溶融開始温度(T 開始)と結晶化開始温度(T 開始)の差」は、同じ意味を有し、同義に使用される。
【0041】
焼結粉末(SP)の焼結ウィンドウ(WSP)の決定、および成分(A)と(C)の混合物の焼結ウィンドウ(WAC)の決定は、上述のとおりに実施される。そこで、焼結粉末(SP)の焼結ウィンドウ(WSP)の決定に使用される試料は、焼結粉末(SP)である。成分(A)と(C)の混合物の焼結ウィンドウ(WAC)は、焼結粉末(SP)中に存在する成分(A)と(C)の混合物(ブレンド)を試料として使用して決定される。
【0042】
焼結粉末(SP)
本発明によれば、焼結粉末(SP)は、成分(A)としての少なくとも1種の半結晶性ポリアミドと、成分(B)としての少なくとも1種のナイロン6I/6Tと、成分(C)としての少なくとも1種の補強剤とを含む。
【0043】
本発明との関連において、用語「成分(A)」と「少なくとも1種の半結晶性ポリアミド」は、同義に使用され、したがって、同じ意味を有する。
【0044】
用語「成分(B)」と「少なくとも1種のナイロン6I/6T」、および用語「成分(C)」と「少なくとも1種の補強剤」にも、同じことが当てはまる。これらの用語も、本発明との関連において、同様にそれぞれ同義に使用され、したがって、同じ意味を有する。
【0045】
焼結粉末(SP)は、成分(A)、(B)、および(C)を、所望のいずれかの量で含む場合がある。
【0046】
たとえば、焼結粉末(SP)は、各場合において成分(A)、(B)、および(C)の質量百分率の総計に対して、好ましくは、焼結粉末(SP)の総質量に対して、成分(A)を30質量%~70質量%の範囲で、成分(B)を5質量%~30質量%の範囲で、成分(C)を10質量%~60質量%の範囲で含む。
【0047】
好ましくは、焼結粉末(SP)は、各場合において成分(A)、(B)、および(C)の質量百分率の総計に対して、好ましくは、焼結粉末(SP)の総質量に対して、成分(A)を35質量%~65質量%の範囲で、成分(B)を5質量%~25質量%の範囲で、成分(C)を15質量%~50質量%の範囲で含む。
【0048】
より好ましくは、焼結粉末は、各場合において成分(A)、(B)、および(C)の質量百分率の総計に対して、好ましくは、焼結粉末(SP)の総質量に対して、成分(A)を40質量%~60質量%の範囲で、成分(B)を5質量%~20質量%の範囲で、成分(C)を15質量%~45質量%の範囲で含む。
【0049】
したがって、本発明は、焼結粉末(SP)が、各場合において成分(A)、(B)、および(C)の質量百分率の総計に対して、成分(A)を30質量%~70質量%の範囲で、成分(B)を5質量%~25質量%の範囲で、成分(C)を15質量%~50質量%の範囲で含む方法も提供する。
【0050】
焼結粉末(SP)は、成核防止剤(antinucleating agent)、安定剤、末端基官能化剤(end group functionalizers)、および染料からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含む場合もある。
【0051】
したがって、本発明は、焼結粉末(SP)が、成核防止剤、安定剤、末端基官能化剤、および染料からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤をさらに含む方法も提供する。
【0052】
適切な成核防止剤の一例は、塩化リチウムである。適切な安定剤は、たとえば、フェノール類、ホスフィット、および銅安定剤である。適切な末端基官能化剤は、たとえば、テレフタル酸、アジピン酸、およびプロピオン酸である。好ましい染料は、たとえば、カーボンブラック、ニュートラルレッド、無機黒色染料、および有機黒色染料からなる群から選択される。
【0053】
少なくとも1種の添加剤は、安定剤および染料からなる群から選択されることがより好ましい。
【0054】
フェノール類は、安定剤として特に好ましい。
【0055】
したがって、少なくとも1種の添加剤は、フェノール類、カーボンブラック、無機黒色染料、および有機黒色染料からなる群から選択されることが特に好ましい。
【0056】
カーボンブラックは、当業者に知られており、たとえば、EvonikからSpezialschwarz4という商品名で、EvonikからPrintex Uという商品名で、EvonikからPrintex140という商品名で、EvonikからSpezialschwarz350という商品名で、またはEvonikからSpezialschwarz100という商品名で入手可能である。
【0057】
好ましい無機黒色染料は、たとえば、BASF SEからSicopal Black K0090という商品名で、またはBASF SEからSicopal Black K0095という商品名で入手可能である。
【0058】
好ましい有機黒色染料の一例は、ニグロシンである。
【0059】
焼結粉末(SP)は、たとえば、少なくとも1種の添加剤を、各場合において焼結粉末(SP)の総質量に対して、0.1質量%~10質量%の範囲で、好ましくは、0.2質量%~5質量%の範囲で、特に好ましくは、0.3質量%~2.5質量%の範囲で含む場合がある。
【0060】
成分(A)、(B)、(C)、および任意に、少なくとも1種の添加剤の重量百分率の総計は、通常、合計100重量パーセントとなる。
【0061】
焼結粉末(SP)は、粒子を含む。そうした粒子は、たとえば、10~250μmの範囲、好ましくは15~200μmの範囲、より好ましくは20~120μmの範囲、特に好ましくは20~110μmの範囲の大きさを有する。
【0062】
本発明の焼結粉末(SP)は、たとえば、
10~30μmの範囲のD10、
25~70μmの範囲のD50、および
50~150μmの範囲のD90
を有する。
【0063】
本発明の焼結粉末(SP)は、
20~30μmの範囲のD10、
40~60μmの範囲のD50、および
80~110μmの範囲のD90
を有することが好ましい。
【0064】
したがって、本発明は、焼結粉末(SP)が、
10~30μmの範囲のD10、
25~70μmの範囲のD50、および
50~150μmの範囲のD90
を有する方法も提供する。
【0065】
本発明との関連において、「D10」は、粒子の総体積に対して10体積%の粒子がD10より小さいかまたはこれと同等であり、粒子の総体積に対して90体積%の粒子がD10より大きい粒径を意味すると理解される。類推によって、「D50」は、粒子の総体積に対して50体積%の粒子がD50より小さいかまたはこれと同等であり、粒子の総体積に対して50体積%の粒子がD50より大きい粒径を意味すると理解される。これに対応して、「D90」は、粒子の総体積に対して90体積%の粒子がD90より小さいかまたはこれと同等であり、粒子の総体積に対して10体積%の粒子がD90より大きい粒径を意味すると理解される。
【0066】
粒径を求めるには、焼結粉末(SP)を、圧縮空気を使用して乾燥状態で浮遊させるか、または溶媒、たとえば水やエタノールに懸濁させ、この浮遊物または懸濁液を分析する。D10、D50、およびD90値は、Malvern Master Sizer 3000を使用してレーザー回折によって求められる。評価は、フラウンホーファーの回折による。
【0067】
焼結粉末(SP)は、通常、180~270℃の範囲の溶融温度(T)を有する。焼結粉末(SP)の溶融温度(T)は、185~260℃の範囲、特に好ましくは190~245℃の範囲であることが好ましい。
【0068】
したがって、本発明は、焼結粉末(SP)が、180~270℃の範囲の溶融温度(T)を有する方法も提供する。
【0069】
溶融温度(T)は、本発明においては、示差走査熱量測定(DSC)によって求められる。上述のとおり、加熱運転(H)および冷却運転(C)を測定することが通例である。これにより、図1に例として示すとおりのDSC線図が得られる。そこで、溶融温度(T)は、DSC線図の加熱運転(H)の溶融ピークが極大を示す温度を意味すると理解される。すなわち、溶融温度(T)は、溶融開始温度(T 開始)とは異なる。通常、溶融温度(T)は、溶融開始温度(T 開始)より高い。
【0070】
焼結粉末(SP)はまた、通常、120~190℃の範囲の結晶化温度(T)を有する。焼結粉末(SP)の結晶化温度(T)は、130~180℃の範囲、特に好ましくは140~180℃の範囲であることが好ましい。
【0071】
したがって、本発明は、焼結粉末(SP)が、120~190℃の範囲の結晶化温度(T)を有する方法も提供する。
【0072】
結晶化温度(T)は、本発明においては、示差走査熱量測定(DSC)によって求められる。上述のとおり、これは通例、加熱運転(H)および冷却運転(C)を測定するものである。これにより、図1に例として示すとおりのDSC線図が得られる。そこで、結晶化温度(T)は、DSC曲線の結晶化ピークの極小点の温度である。すなわち、結晶化温度(T)は、結晶化開始温度(T 開始)とは異なる。結晶化温度(T)は通常、結晶化開始温度(T 開始)より低い。
【0073】
焼結粉末(SP)はまた、通常、ガラス転移温度(T)を有する。焼結粉末(SP)のガラス転移温度(T)は、たとえば、30~80℃の範囲、好ましくは40~70℃の範囲、特に好ましくは45~60℃の範囲である。
【0074】
焼結粉末(SP)のガラス転移温度(T)は、示差走査熱量測定によって求められる。求めるには、本発明によれば、焼結粉末(SP)の試料(出発質量約8.5g)について、まずは第1の加熱運転(H1)、次いで冷却運転(C)、引き続いて第2の加熱運転(H2)を測定する。第1の加熱運転(H1)および第2の加熱運転(H2)における加熱速度は、20K/分であり、冷却運転(C)における冷却速度も、同様に20K/分である。DSC線図において、焼結粉末(SP)のガラス転移の領域には、第2の加熱運転(H2)の際に段が得られる。焼結粉末(SP)のガラス転移温度(T)は、DSC線図における段の高さの半分の箇所の温度に相当する。ガラス転移温度を求めるこの過程は、当業者に知られている。
【0075】
焼結粉末(SP)はまた、通常、焼結ウィンドウ(WSP)を有する。焼結ウィンドウ(WSP)は、上述のとおり、溶融開始温度(T 開始)と結晶化開始温度(T 開始)の差である。溶融開始温度(T 開始)および結晶化開始温度(T 開始)は、上述のとおりに求められる。
【0076】
焼結粉末(SP)の焼結ウィンドウ(WSP)は、好ましくは15~40K(ケルビン)の範囲、より好ましくは20~35Kの範囲、特に好ましくは20~33Kの範囲である。
【0077】
したがって、本発明は、焼結粉末(SP)が、焼結ウィンドウ(WSP)を有し、焼結ウィンドウ(WSP)が、溶融開始温度(T 開始)と結晶化開始温度(T 開始)の差であり、焼結ウィンドウ(WSP)が、15~40Kの範囲である、方法も提供する。
【0078】
焼結粉末(SP)は、当業者に知られているいずれかの方法によって製造することができる。焼結粉末(SP)は、成分(A)、(B)、(C)、および任意に、少なくとも1種の添加剤を粉砕することにより製造されるのが好ましい。
【0079】
粉砕による焼結粉末(SP)の製造は、当業者に知られているいずれかの方法によって行うことができる。たとえば、成分(A)、(B)、(C)、および任意に、少なくとも1種の添加剤を、ミルに導入し、その中で粉砕する。
【0080】
適切なミルには、当業者に知られているすべてのミル、たとえば、分級ミル、対向ジェットミル、ハンマーミル、ボールミル、振動ミル、またはローターミルが含まれる。
【0081】
ミルにおける粉砕も、同様に、当業者に知られているいずれかの方法によって実施することができる。たとえば、粉砕は、不活性ガス中で、および/または液体窒素で冷却しながら行われる場合がある。液体窒素での冷却が好ましい。
【0082】
粉砕温度は、望みどおりである。粉砕は、液体窒素の温度、たとえば、-210~-195℃の範囲の温度で実施することが好ましい。
【0083】
したがって、本発明は、成分(A)、(B)、および(C)を-210~-195℃の範囲の温度で粉砕することにより焼結粉末(SP)を製造する方法も提供する。
【0084】
成分(A)、成分(B)、成分(C)、および任意に、少なくとも1種の添加剤は、当業者に知られているいずれかの方法によってミルに導入することができる。たとえば、成分(A)、成分(B)、成分(C)、および任意に、少なくとも1種の添加剤は、ミルに別々に導入され、その中で粉砕される、したがって、相互に混合される場合がある。また、本発明によれば、成分(A)、成分(B)、成分(C)、および任意に、少なくとも1種の添加剤を、相互に配合し、次いでミルに導入することも可能であり、好ましい。
【0085】
配合する方法は、当業者にそれ自体として知られている。たとえば、成分(A)、成分(B)、成分(C)、および任意に、少なくとも1種の添加剤を、押出機において配合し、次いで、そこから押し出し、ミルに導入することができる。
【0086】
成分(A)
成分(A)は、少なくとも1種の半結晶性ポリアミドである。
【0087】
本発明によれば、「少なくとも1種の半結晶性ポリアミド」とは、厳密に1種の半結晶性ポリアミド、または2種以上の半結晶性ポリアミドの混合物のいずれかを意味する。
【0088】
本発明との関連において、「半結晶性」とは、ポリアミドが、各場合においてISO11357-4:2014に従って示差走査熱量測定(DSC)によって測定した融解エンタルピーΔH2(A)が、45J/gより大きい、好ましくは50J/gより大きい、特に好ましくは55J/gより大きいことを意味する。
【0089】
本発明の成分(A)はまた、各場合においてISO11357-4:2014に従って示差走査熱量測定(DSC)によって測定した融解エンタルピーΔH2(A)が、200J/g未満、より好ましくは150J/g未満、特に好ましくは100J/g未満であることが好ましい。
【0090】
本発明によれば、成分(A)は、-NH-(CH-NH-単位(式中、mは、4、5、6、7、または8である)、-CO-(CH-NH-単位(式中、nは、3、4、5、6、または7である)、および-CO-(CH-CO-単位(式中、oは、2、3、4、5、または6である)からなる群から選択される少なくとも1つの単位を含む。
【0091】
好ましくは、成分(A)は、-NH-(CH-NH-単位(式中、mは、5、6、または7である)、-CO-(CH-NH-単位(式中、nは、4、5、または6である)、および-CO-(CH-CO-単位(式中、oは、3、4、または5である)からなる群から選択される少なくとも1つの単位を含む。
【0092】
特に好ましくは、成分(A)は、-NH-(CH-NH-単位、-CO-(CH-NH-単位、および-CO-(CH-CO-単位からなる群から選択される少なくとも1つの単位を含む。
【0093】
成分(A)が、-CO-(CH-NH-単位からなる群から選択される少なくとも1つの単位を含む場合、そうした単位は、5~9個の環員を有するラクタム、好ましくは、6~8個の環員を有するラクタム、特に好ましくは、7個の環員を有するラクタム由来である。
【0094】
ラクタムは、当業者に知られている。ラクタムは、本発明によれば、一般には、環式アミドを意味すると理解される。本発明によれば、ラクタムは、環中に4~8個の炭素原子、好ましくは5~7個の炭素原子、特に好ましくは6個の炭素原子を有する。
【0095】
たとえば、ラクタムは、ブチロ-4-ラクタム(γ-ラクタム、γ-ブチロラクタム)、2-ピペリジノン(δ-ラクタム、δ-バレロラクタム)、ヘキサノ-6-ラクタム(ε-ラクタム、ε-カプロラクタム)、ヘプタノ-7-ラクタム(ζ-ラクタム、ζ-ヘプタノラクタム)、およびオクタノ-8-ラクタム(η-ラクタム、η-オクタノラクタム)からなる群から選択される。
【0096】
好ましくは、ラクタムは、2-ピペリジノン(δ-ラクタム、δ-バレロラクタム)、ヘキサノ-6-ラクタム(ε-ラクタム、ε-カプロラクタム)、およびヘプタノ-7-ラクタム(ζ-ラクタム、ζ-ヘプタノラクタム)からなる群から選択される。特に好ましいのは、ε-カプロラクタムである。
【0097】
成分(A)が、-NH-(CH-NH-単位からなる群から選択される少なくとも1つの単位を含む場合、そうした単位は、ジアミン由来である。したがって、その場合、成分(A)は、ジアミンを反応させる、好ましくは、ジアミンをジカルボン酸と反応させることにより得られる。
【0098】
適切なジアミンは、4~8個の炭素原子、好ましくは5~7個の炭素原子、特に好ましくは6個の炭素原子を含む。
【0099】
この種のジアミンは、たとえば、1,4-ジアミノブタン(ブタン-1,4-ジアミン、テトラメチレンジアミン、プトレシン)、1,5-ジアミノペンタン(ペンタメチレンジアミン、ペンタン-1,5-ジアミン、カダベリン)、1,6-ジアミノヘキサン(ヘキサメチレンジアミン、ヘキサン-1,6-ジアミン)、1,7-ジアミノヘプタン、および1,8-ジアミノオクタンからなる群から選択される。1,5-ジアミノペンタン、1,6-ジアミノヘキサン、および1,7-ジアミノヘプタンからなる群から選択されるジアミンが好ましい。1,6-ジアミノヘキサンが特に好ましい。
【0100】
成分(A)が、-CO-(CH-CO-単位からなる群から選択される少なくとも1つの単位を含む場合、そうした単位は通常、ジカルボン酸由来である。したがって、その場合、成分(A)は、ジカルボン酸を反応させる、好ましくは、ジカルボン酸をジアミンと反応させることにより得た。
【0101】
この場合、ジカルボン酸は、4~8個の炭素原子、好ましくは5~7個の炭素原子、特に好ましくは6個の炭素原子を含む。
【0102】
そうしたジカルボン酸は、たとえば、ブタンニ酸(コハク酸)、ペンタン二酸(グルタル酸)、ヘキサン二酸(アジピン酸)、ヘプタン二酸(ピメリン酸)、およびオクタン二酸(スベリン酸)からなる群から選択される。好ましくは、ジカルボン酸は、ペンタン二酸、ヘキサン二酸、およびヘプタン二酸からなる群から選択され、ヘキサン二酸が特に好ましい。
【0103】
成分(A)は、これ以外の単位をさらに含む場合もある。たとえば、カプリロラクタムおよび/またはラウロラクタムなどの、10~13個の環員を有するラクタム由来の単位。
【0104】
加えて、成分(A)は、9~36個の炭素原子、好ましくは9~12個の炭素原子、より好ましくは9~10個の炭素原子を有するジカルボン酸アルカン(脂肪族ジカルボン酸)から導かれる単位を含む場合もある。芳香族ジカルボン酸も適する。
【0105】
ジカルボン酸の例としては、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸に加え、テレフタル酸および/またはイソフタル酸が挙げられる。
【0106】
成分(A)は、たとえば、m-キシリレンジアミン、ジ(4-アミノフェニル)メタン、ジ(4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ジ(4-アミノフェニル)プロパンおよび2,2-ジ(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、および/または1,5-ジアミノ-2-メチルペンタンから導かれる単位を含むことも可能である。
【0107】
以下の非網羅的な一覧は、本発明の焼結粉末(SP)中に使用するのに好ましい成分(A)および存在するモノマーを含む。
【0108】
ABポリマー:
PA4 ピロリドン
PA6 ε-カプロラクタム
PA7 エナントラクタム
PA8 カプリロラクタム
AA/BB ポリマー:
PA46 テトラメチレンジアミン、アジピン酸
PA66 ヘキサメチレンジアミン、アジピン酸
PA69 ヘキサメチレンジアミン、アゼライン酸
PA610 ヘキサメチレンジアミン、セバシン酸
PA612 ヘキサメチレンジアミン、デカンジカルボン酸
PA613 ヘキサメチレンジアミン、ウンデカンジカルボン酸
PA6T ヘキサメチレンジアミン、テレフタル酸
PAMXD6 m-キシリレンジアミン、アジピン酸
PA6/6I (PA6を参照されたい)、ヘキサメチレンジアミン、イソフタル酸
PA6/6T (PA6およびPA6Tを参照されたい)
PA6/66 (PA6およびPA66を参照されたい)
PA6/12 (PA6を参照されたい)、ラウリロラクタム
PA66/6/610 (PA66、PA6、およびPA610を参照されたい)
PA6I/6T/PACM PA6I/6Tおよびジアミノジシクロヘキシルメタンとして
PA6/6I6T (PA6およびPA6Tを参照されたい)、ヘキサメチレンジアミン、イソフタル酸
【0109】
したがって、成分(A)は、PA6、PA6.6、PA6.10、PA6.12、PA6.36、PA6/6.6、PA6/6I6T、PA6/6T、およびPA6/6Iからなる群から選択されることが好ましい。
【0110】
特に好ましくは、成分(A)は、PA6、PA6.10、PA6.6/6、PA6/6T、およびPA6.6からなる群から選択される。より好ましくは、成分(A)は、PA6およびPA6/6.6からなる群から選択される。最も好ましくは、成分(A)は、PA6である。
【0111】
したがって、本発明は、成分(A)が、PA6、PA6.6、PA6.10、PA6.12、PA6.36、PA6/6.6、PA6/6I6T、PA6/6T、およびPA6/6Iからなる群から選択される方法も提供する。
【0112】
成分(A)は、一般に、70~350mL/g、好ましくは70~240mL/gの粘度数を有する。本発明によれば、粘度数は、ISO307に従って、成分(A)の0.5質量%溶液から、25℃の96質量%硫酸中で求められる。
【0113】
成分(A)は、500~2000000g/molの範囲、より好ましくは5000~500000g/molの範囲、特に好ましくは10000~100000g/molの範囲の重量平均分子量(M)を有することが好ましい。重量平均分子量(M)は、ASTM D4001に従って求められる。
【0114】
成分(A)は通常、溶融温度(T)を有する。成分(A)の溶融温度(T)は、たとえば、70~300℃の範囲、好ましくは220~295℃の範囲である。成分(A)の溶融温度(T)は、示差走査熱量測定によって、焼結粉末(SP)の溶融温度(T)について上述のとおりに求められる。
【0115】
成分(A)は通常、ガラス転移温度(T)も有する。成分(A)のガラス転移温度(T)は、たとえば、0~110℃の範囲、好ましくは40~105℃の範囲である。
【0116】
成分(A)のガラス転移温度(T)は、示差走査熱量測定によって求められる。求めるには、本発明によれば、成分(A)の試料(出発質量約8.5g)について、まずは第1の加熱運転(H1)、次いで冷却運転(C)、引き続いて第2の加熱運転(H2)を測定する。第1の加熱運転(H1)および第2の加熱運転(H2)における加熱速度は、20K/分であり、冷却運転(C)における冷却速度も、同様に20K/分である。DSC線図において、成分(A)のガラス転移の領域には、第2の加熱運転(H2)の際に段が得られる。成分(A)のガラス転移温度(T)は、DSC線図における段の高さの半分の箇所の温度に相当する。ガラス転移温度を求めるこの過程は、当業者に知られている。
【0117】
成分(B)
本発明によれば、成分(B)は、少なくとも1種のナイロン6I/6Tである。
【0118】
本発明との関連において、「少なくとも1種のナイロン6I/6T」とは、厳密に1種のナイロン6I/6T、または2種以上のナイロン6I/6Tの混合物のいずれかを意味する。
【0119】
ナイロン6I/6Tは、ナイロン6Iとナイロン6Tのコポリマーである。
【0120】
成分(B)は、ヘキサメチレンジアミン、テレフタル酸、およびイソフタル酸から導かれる単位からなることが好ましい。
【0121】
言い換えれば、成分(B)は、すなわち、ヘキサメチレンジアミン、テレフタル酸、およびイソフタル酸から出発して調製されたコポリマーであることが好ましい。
【0122】
成分(B)は、ランダムコポリマーであることが好ましい。
【0123】
成分(B)として使用される少なくとも1種のナイロン6I/6Tは、所望のいずれの割合の6I単位と6T単位を含んでもよい。6I単位対6T単位のモル比は、1:1~3:1の範囲、より好ましくは、1.5:1~2.5:1の範囲、特に好ましくは、1.8:1~2.3:1の範囲であることが好ましい。
【0124】
成分(B)は、非晶質のコポリアミドである。
【0125】
本発明との関連において、「非晶質」とは、純粋な成分(B)が、ISO11357に従って測定した示差走査熱量測定(DSC)において融点をもたないことを意味する。
【0126】
成分(B)は、ガラス転移温度(T)を有する。成分(B)のガラス転移温度(T)は、通常、100~150℃の範囲、好ましくは115~135℃の範囲、特に好ましくは120~130℃の範囲である。成分(B)のガラス転移温度(T)は、動的走査熱量測定(dynamic scanning calorimetry)によって、成分(A)のガラス転移温度(T)の決定について上述のとおりに求められる。
【0127】
MVR(275℃/5kg)(メルトボリュームフローレート)は、好ましくは、50mL/10分~150mL/10分の範囲、より好ましくは、95mL/10分~105mL/10分の範囲である。
【0128】
成分(B)のゼロせん断速度粘度ηは、たとえば、770~3250Pasの範囲である。ゼロせん断速度粘度ηは、TA Instrumentsの「DHR-1」回転粘度計、ならびに直径25mmおよびプレート間隙1mmのプレート-プレート配置を用いて求められる。成分(B)の平衡化していない試料を、減圧下にて80℃で7日間乾燥させ、次いでこれを、角周波数範囲を500~0.5rad/sとする時間依存的な周波数掃引(シーケンステスト)を用いて分析する。次のさらなる分析パラメーターを使用する。すなわち、変形:1.0%、分析温度:240℃、分析時間:20分、試料準備後の予熱時間:1.5分。
【0129】
成分(B)は、好ましくは30~45mmol/kgの範囲、特に好ましくは35~42mmol/kgの範囲のアミノ末端基濃度(AEG)を有する。
【0130】
アミノ末端基濃度(AEG)を求めるには、1gの成分(B)を30mLのフェノール/メタノール混合物(フェノール:メタノールの体積比75:25)に溶解させ、次いで、0.2N塩酸水溶液を用いた電位差滴定に供する。
【0131】
成分(B)は、好ましくは60~155mmol/kgの範囲、特に好ましくは80~135mmol/kgの範囲のカルボキシル末端基濃度(CEG)を有する。
【0132】
カルボキシル末端基濃度(CEG)を求めるには、1gの成分(B)を30mLのベンジルアルコールに溶解させる。この後、0.05N水酸化カリウム水溶液を用いて120℃で目視滴定を行う。
【0133】
成分(C)
本発明によれば、成分(C)は、少なくとも1種の補強剤を含む。
【0134】
本発明との関連において、「少なくとも1種の補強剤」とは、厳密に1種の補強剤、または2種以上の補強剤の混合物のいずれかを意味する。
【0135】
本発明との関連において、補強剤は、本発明の方法によって製造された成形体の機械的性質を、補強剤を含まない成形体に比べて向上させる材料を意味すると理解される。
【0136】
補強剤それ自体は、当業者に知られている。成分(C)は、たとえば、球状の形態、小板状の形態、または繊維状の形態である場合がある。成分(C)は、繊維状の形態であることが好ましい。
【0137】
したがって、本発明は、成分(C)が繊維状補強剤である方法も提供する。
【0138】
「繊維状補強剤」は、繊維状補強剤の長さ対繊維状補強剤の直径の比が2:1~40:1の範囲、好ましくは3:1~30:1の範囲、特に好ましくは5:1~20:1の範囲の補強剤を意味すると理解され、繊維状補強剤の長さおよび繊維状補強剤の直径は、少なくとも70000部の灰化後繊維状補強剤を評価する灰化後試料の画像評価により、顕微鏡法によって求められる。
【0139】
したがって、本発明は、成分(C)が繊維状補強剤であり、繊維状補強剤の長さ対繊維状補強剤の直径の比が2:1~40:1の範囲である、方法も提供する。
【0140】
成分(C)の長さは、通常、灰化後に画像評価を行う顕微鏡法によって求められる、5~1000μmの範囲、好ましくは10~600μmの範囲、特に好ましくは20~500μmの範囲である。
【0141】
成分(C)の直径は、たとえば、灰化後に画像評価を行う顕微鏡法によって求められる、1~30μmの範囲、好ましくは2~20μmの範囲、特に好ましくは5~15μmの範囲である。
【0142】
成分(C)が、焼結粉末(SP)の製造の開始時に、上述のものより長い長さおよび/またはより大きい直径を有し、成分(C)の長さおよび/または直径は、焼結粉末(SP)の製造過程で、たとえば、配合および/または粉砕により縮小される結果、焼結粉末(SP)において、成分(C)の上述の長さおよび/または直径を実現することが可能であることは、当業者に明白となる。
【0143】
成分(C)は、たとえば、無機補強剤および有機補強剤からなる群から選択される。
【0144】
無機補強剤は、当業者に知られており、たとえば、カーボンナノチューブ、炭素繊維、ホウ素繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、セラミック繊維、および玄武岩繊維からなる群から選択される。
【0145】
適切なシリカ繊維は、たとえば、珪灰石である。珪灰石は、シリカ繊維として好ましい。
【0146】
有機補強剤も、同様に当業者に知られており、たとえば、アラミド繊維、ポリエステル繊維、およびポリエチレン繊維からなる群から選択される。
【0147】
したがって、成分(C)は、カーボンナノチューブ、炭素繊維、ホウ素繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、セラミック繊維、玄武岩繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、およびポリエチレン繊維からなる群から選択されることが好ましい。
【0148】
より好ましくは、成分(C)は、カーボンナノチューブ、炭素繊維、ホウ素繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、セラミック繊維、玄武岩繊維からなる群から選択される。
【0149】
最も好ましくは、成分(C)は、珪灰石、炭素繊維、およびガラス繊維からなる群から選択される。
【0150】
したがって、本発明は、成分(C)が、カーボンナノチューブ、炭素繊維、ホウ素繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、セラミック繊維、玄武岩繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維、およびポリエチレン繊維からなる群から選択される方法も提供する。
【0151】
別の好ましい実施形態では、成分(C)は、珪灰石でない。その場合において、焼結粉末(SP)は、珪灰石を含まないことがより好ましい。
【0152】
この実施形態では、成分(C)が、炭素繊維およびガラス繊維からなる群から選択されることがさらに好ましい。
【0153】
したがって、本発明は、焼結粉末(SP)が珪灰石を含まず、成分(C)が、炭素繊維およびガラス繊維からなる群から選択される方法も提供する。
【0154】
成分(C)はさらに、表面処理される場合もある。適切な表面処理は、当業者に知られている。
【0155】
成形体
本発明によれば、これより上に記載した選択的レーザー焼結の方法によって、成形体が得られる。選択的曝露においてレーザーによって溶融した焼結粉末(SP)は、曝露後に再凝固し、そうして本発明の成形体を形成する。成形体は、溶融した焼結粉末(SP)が再凝固した直後に、粉体床から取り出すことができ、同様に、まず成形体を冷却し、そこで初めて成形体を粉体床から取り出すことも可能である。付着している、溶融しなかった焼結粉末(SP)の粒子は、既知の方法によって、表面から機械的に除去することができる。成形体の表面処理の方法には、たとえば、振動粉砕またはバレル研磨に加え、サンドブラスチング、ガラスブラスチング、ビードブラスチング、またはマイクロビードブラスチングが含まれる。
【0156】
得られた成形体は、たとえば表面を処理するために、さらなる加工処理に供することも可能である。
【0157】
本発明の成形体は、各場合において成形体の総質量に対して、成分(A)を30質量%~70質量%の範囲で、成分(B)を5質量%~50質量%の範囲で、成分(C)を10質量%~60質量%の範囲で含む。
【0158】
成形体は、好ましくは、各場合において成形体の総質量に対して、成分(A)を35質量%~65質量%の範囲で、成分(B)を5質量%~25質量%の範囲で、成分(C)を15質量%~50質量%の範囲で含む。
【0159】
成形体は、より好ましくは、各場合において成形体の総質量に対して、成分(A)を40質量%~60質量%の範囲で、成分(B)を5質量%~20質量%の範囲で、成分(C)を15質量%~45質量%の範囲で含む。
【0160】
本発明によれば、成分(A)は、焼結粉末(SP)中に存在していた成分(A)である。成分(B)も同様に、焼結粉末(SP)中に存在していた成分(B)であり、成分(C)も同様に焼結粉末(SP)中に存在していた成分(C)である。
【0161】
焼結粉末(SP)が少なくとも1種の添加剤を含んでいた場合、本発明に従って得られた成形体も、少なくとも1種の添加剤を含む。
【0162】
レーザーへの焼結粉末(SP)の曝露の結果として、成分(A)、成分(B)、成分(C)、および任意に、少なくとも1種の添加剤が化学反応に入り、結果として変化しかねないことは、当業者に明白となる。この種の反応は、当業者に知られている。
【0163】
成分(A)、成分(B)、成分(C)、および任意に、少なくとも1種の添加剤は、レーザーへの焼結粉末(SP)の曝露の結果としていかなる化学反応にも入らず、その代わりとして、ただ焼結粉末(SP)が溶融するに過ぎないことが好ましい。
【0164】
したがって、本発明は、本発明の方法によって得ることができる成形体も提供する。
【0165】
本発明の焼結粉末(SP)中にナイロン6I/6Tを使用することで、焼結粉末(SP)の焼結ウィンドウ(WSP)は、成分(A)と(C)の混合物の焼結ウィンドウ(WAC)に比べて広くなる。
【0166】
したがって、本発明は、次の成分:
(A)-NH-(CH-NH-単位(式中、mは、4、5、6、7、または8である)、-CO-(CH-NH-単位(式中、nは、3、4、5、6、または7である)、および-CO-(CH-CO-単位(式中、oは、2、3、4、5、または6である)からなる群から選択される少なくとも1つの単位を含む少なくとも1種の半結晶性ポリアミド、
(B)少なくとも1種のナイロン6I/6T、
(C)少なくとも1種の補強剤
を含む焼結粉末(SP)においてナイロン6I/6Tを、成分(A)と(C)の混合物についての焼結ウィンドウ(WAC)に比べて焼結粉末(SP)の焼結ウィンドウ(WSP)を広くするために使用する方法であって、各場合における焼結ウィンドウ(WSP、WAC)が溶融開始温度(T 開始)と結晶化開始温度(T 開始)の差である、方法も提供する。
【0167】
たとえば、成分(A)と(C)の混合物の焼結ウィンドウ(WAC)は、10~21K(ケルビン)の範囲、より好ましくは13~20Kの範囲、特に好ましくは15~19Kの範囲である。
【0168】
焼結粉末(SP)ブレンドの焼結ウィンドウ(WSP)は、成分(A)と(C)の混合物の焼結ウィンドウ(WAC)と比較して、たとえば、5~15K、好ましくは6~12K、特に好ましくは7~10K広くなる。
【0169】
焼結粉末(SP)の焼結ウィンドウ(WSP)が、焼結粉末(SP)中に存在する成分(A)と(C)の混合物の焼結ウィンドウ(WAC)より広いことは明白となる。
【0170】
以下で、本発明について、実施例によって、それに限定することなく、詳細に説明する。
【実施例
【0171】
以下の成分を使用する。
- 半結晶性ポリアミド(成分(A)):
(P1)ナイロン6(Ultramid(登録商標)B27、BASF SE)
- 非晶質ポリアミド(成分(B)):
(AP1)ナイロン6I/6T(GrivoryG16、EMS)、6I:6Tのモル比は1.9:1
(AP2)ナイロン6/3T(Trogamid T5000、Evonik)
- 補強剤(成分(C)):
(RA1)Tenax E HT C604炭素繊維、東邦テナックス(チョップド繊維、6mm、ポリアミド用のサイズ剤)
(RA2)Tenax A HT M100炭素繊維、東邦テナックス(粉砕繊維、60μm、サイズ剤未適用)
(RA3)Tremin939 300 AST珪灰石(Quarzwerke)(アミノシランサイズ剤を施したケイ酸カルシウム)
(RA4)直径6μmのガラス繊維ECS-03T-488DE(NEG)(チョップド繊維)
(RA5)DS1110(3B)ガラス繊維、アミノシランサイズ剤適用、チョップド繊維、4~5mm、直径10μm
(RA6)直径6μmのガラス繊維ECS03T-289DE(NEG)(チョップド繊維)
(RA7)ガラスビーズ、Potters Spheriglass7025 CP03(ポリアミド用のアミノシランサイズ剤適用、平均ビーズ直径10μm)
- 添加剤:
(A1)Irganox1098(N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド))、BASF SE)
(A2)Spezialschwarz4(カーボンブラック、CAS No.1333-86-4、Evonik)
【0172】
表1に、使用した半結晶性ポリアミド(成分(A))の必須パラメーターを示し、表2に、使用した非晶質ポリアミド(成分(B))の必須パラメーターを示す。
【0173】
【表1】
【0174】
【表2】
【0175】
AEGは、アミノ末端基濃度を示す。これは、滴定によって求められる。アミノ末端基濃度(AEG)を求めるために、1gの成分(半結晶性ポリアミドまたは非晶質ポリアミド)を30mLのフェノール/メタノール混合物(フェノール:メタノールの体積比75:25)に溶解させ、次いで、0.2N塩酸水溶液を用いた電位差滴定に供した。
【0176】
CEGは、カルボキシル末端基濃度を示す。これは、滴定によって求められる。カルボキシル末端基濃度(CEG)を求めるために、1gの成分(半結晶性ポリアミドまたは非晶質ポリアミド)を30mLのベンジルアルコールに溶解させた。この後、0.05N水酸化カリウム水溶液を用いて120℃で目視滴定を行った。
【0177】
半結晶性ポリアミドの溶融温度(T)およびすべてのガラス転移温度(T)は、それぞれ示差走査熱量測定によって求めた。
【0178】
溶融温度(T)を求めるために、上述のとおり、20K/分の加熱速度での第1の加熱運転(H1)を測定した。そこで、溶融温度(T)は、加熱運転(H1)の溶融ピークの極大点の温度に相当した。
【0179】
ガラス転移温度(T)を求めるために、第1の加熱運転(H1)後、冷却運転(C)およびその後の第2の加熱運転(H2)を測定した。冷却運転は、20K/分の冷却速度で測定し、第1の加熱運転(H1)および第2の加熱運転(H2)は、20K/分の加熱速度で測定した。次いで、上述のとおり、第2の加熱運転(H2)の段の高さの半分の箇所において、ガラス転移温度(T)を求めた。
【0180】
ゼロせん断速度粘度ηは、TA Instrumentsの「DHR-1」回転粘度計、ならびに直径25mmおよびプレート間隙1mmのプレート-プレート配置を用いて求めた。平衡化していない試料を、減圧下にて80℃で7日間乾燥させ、次いでこれを、角周波数範囲を500~0.5rad/sとする時間依存的な周波数掃引(シーケンステスト)を用いて分析した。次のさらなる分析パラメーターを使用した。すなわち、変形:1.0%、分析温度:240℃、分析時間:20分、試料準備後の予熱時間:1.5分。
【0181】
小型押出機において製造したブレンド
ブレンドを製造するために、表3において指定する成分を、DSMの15cm小型押出機(DSM-Micro15小型配合機)において、80rpm(毎分回転数)の速度で、260℃にて、3分間の混合時間にかけて、表3において指定する比で配合し、次いで押し出した。次いで、得られた押出品をミルで粉砕し、篩にかけて、粒径を200μm未満とした。
【0182】
得られたブレンドを特徴付けた。結果は、表4において見ることができる。
【0183】
【表3】
【0184】
【表4】
【0185】
溶融温度(T)は、上述のとおりに求めた。
【0186】
結晶化温度(T)は、示差走査熱量測定によって求めた。この目的のために、20K/分の加熱速度での第1の加熱運転(H)、次いで、20K/分の加熱速度での冷却運転(C)を測定した。結晶化温度(T)は、結晶化ピークの極値の箇所における温度である。
【0187】
複素せん断粘度の大きさは、プレート-プレート回転レオメーターによって、角周波数を0.5rad/sとし、温度を240℃として求めた。TA Instrumentsの「DHR-1」回転粘度計を使用し、直径を25mmとし、プレート間隙を1mmとした。平衡化していない試料を、減圧下にて80℃で7日間乾燥させ、次いでこれを、角周波数範囲を500~0.5rad/sとする時間依存的な周波数掃引(シーケンステスト)を用いて分析した。次のさらなる分析パラメーターを使用した。すなわち、変形:1.0%、分析時間:20分、試料準備後の予熱時間:1.5分。
【0188】
焼結ウィンドウ(W)は、上述のとおり、溶融開始温度(T 開始)と結晶化開始温度(T 開始)の差として求めた。
【0189】
ブレンドの熱酸化安定性を明らかにするために、新たに製造されたブレンド、ならびに酸素0.5%および195℃で16時間オーブンエージング後のブレンドの複素せん断粘度を求めた。貯蔵後(エージング後)粘度対貯蔵前(エージング前)粘度の比を求めた。粘度は、回転レオロジーによって、測定周波数0.5rad/s、温度240℃で測定される。
【0190】
比較例C2、C3、C9、およびC11では、成分(A)と(C)の混合物が、純粋な成分(A)(比較例C1)についての焼結ウィンドウに比べて縮小された焼結ウィンドウ(WAC)を有することがはっきりと示されている。これは、こうした比較例において使用された成分(C)の成核効果の結果である。
【0191】
対照的に、実施例I5、I6、I10、およびI12からの本発明の焼結粉末(SP)は、成分(A)と(C)の混合物に比べても、純粋な成分(A)に比べても、広くなった焼結ウィンドウ(WSP)を有する。
【0192】
また、本発明の焼結粉末(SP)におけるエージング後の粘度の変化が、補強剤を含まない焼結粉末の場合より小さい(実施例I8を比較例C7と比較した場合)ことも認めることができる。すなわち、焼結粉末(SP)の再利用性は、より高い。
【0193】
二軸スクリュー押出機において製造したブレンド
焼結粉末を製造するために、表5において指定する成分を、二軸スクリュー押出機(MC26)において、300rpm(毎分回転数)の速度、10kg/hの押出量で、温度270℃にて、表5において指定する比で配合し、その後、押出品をペレット化した。そうして得られたペレット化された材料を粉砕して、粒径を20~100μmとした。
【0194】
得られた焼結粉末を、上述のとおりに特徴付けた。加えて、DIN EN ISO60に従うかさ密度、およびDIN EN ISO787-11に従う填塞密度(tamped density)も求め、填塞密度対かさ密度の比としてのHausner比(Hausner factor)も求めた。
【0195】
d10、d50、およびd90として報告する粒度分布は、Malvern Mastersizerを用いて上述のとおりに求めた。
【0196】
焼結粉末(SP)の補強剤含有量は、灰化後に重量測定によって求めた。
【0197】
結果は、表6aおよび6bにおいて見ることができる。
【0198】
【表5】
【0199】
【表6】
【0200】
本発明の焼結粉末(SP)が、エージングの後でさえ、ナイロン6I,6Tでなくナイロン6,3Tが成分(B)として存在する焼結粉末より大きい焼結ウィンドウを有することは明らかである。したがって、本発明の焼結粉末は、選択的レーザー焼結法において成形体を製造する際の反りの傾向も、明確により弱まっている。以下の表7から認めうるとおり、結果として、本発明の焼結粉末では、選択的レーザー焼結法において成形体を製造する際に必要となる設置スペース温度もより低い。これにより、方法は、費用効率がより高くなる。
【0201】
レーザー焼結実験
焼結粉末を、表7で指定する温度において、0.1mmの層厚さでキャビティーに導入した。引き続いて、焼結粉末を、表7で指定するレーザー出力および指定の点間隔でレーザーに曝露し、曝露中に試料にかかるレーザーの速度は、5m/sとした。点間隔は、レーザー間隔またはレーン間隔としても知られる。選択的レーザー焼結は通常、縞状に走査するものである。点間隔によって、縞の中央と中央の間、すなわち、2本の縞のためのレーザービームの2箇所の中央の間に距離が生じる。
【0202】
【表7】
【0203】
その後、得られる引張試験片(焼結片)の性質を明らかにした。得られる引張試験片(焼結片)は、減圧下にて80℃で336時間乾燥させた後、乾燥状態で試験した。結果を表9に示す。加えて、シャルピー片も製作し、これも同様に乾燥形態で試験した(ISO179-2/1eU:1997+Amd.1:2011に従う)。
【0204】
引張強さ、引張弾性率、および破断点伸びは、ISO527-1:2012に従って明らかにした。
【0205】
加熱撓み温度(HDT)は、ISO75-2:2013に従い、1.8N/mmのエッジ繊維応力を用いる方法Aと、0.45N/mmのエッジ繊維応力を用いる方法Bの両方を使用して求めた。
【0206】
焼結粉末の加工性および焼結片の反りは、表8において指定する尺度に従って、定性的に評価した。
【0207】
【表8】
【0208】
【表9】
【0209】
表10は、状態調節された状況における成形体の性質を示す。状態調節については、成形体を、上述のとおりに乾燥させた後、70℃、相対湿度62%で336時間貯蔵した。含水量は、乾燥後および状態調節後に試料を秤量することにより求めた。
【0210】
【表10】
【0211】
本発明の焼結粉末から製造された成形体において反りが少ないことは明らかであり、したがって、本発明の焼結粉末は、選択的レーザー焼結法において効率的に使用することができる。
【0212】
加えて、機械的性質においても、意義深い利点、たとえば、耐熱度の上昇だけでなく、引張強さおよび弾性率の向上も明らかである。驚いたことに、破断点伸びの増大さえ認められる(I15)。
【0213】
たとえばガラスビーズ(比較例C22)でなく、繊維状補強剤を使用すると、繊維状補強剤の割合が少なくても、より良好な機械的性質が得られる。たとえば、明確な引張弾性率の増大、ならびに、同様に耐衝撃性の向上および耐熱変形性の増大がある。こうしたプラスの効果は、成形体が状態調節された状況においても維持されるため、成形体は、温度および湿度上昇下で貯蔵された後でさえ、良好な機械的性質を有する。
【0214】
ナイロン6I/6Tを成分(B)として使用すると、ナイロン6/3Tを使用するのに比べて、より高い引張弾性率およびより良好な耐熱変形性が実現される。さらに、ナイロン6I/6Tと組み合わせて繊維を使用することで、引張弾性率の明確な向上が実現され、引張強さが向上する。対照的に、使用する成分(B)がナイロン6/3Tであるときに繊維を加える場合では、実現される引張弾性率の向上は、明確により小さく、引張強さは、それどころか低下する。
図1