(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-10
(45)【発行日】2022-11-18
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20221111BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20221111BHJP
C08L 101/00 20060101ALI20221111BHJP
H01L 23/29 20060101ALI20221111BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20221111BHJP
【FI】
C01B21/064 M
C01B21/064 G
C08K3/38
C08L101/00
H01L23/30 R
(21)【出願番号】P 2022089339
(22)【出願日】2022-06-01
【審査請求日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2021093061
(32)【優先日】2021-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003182
【氏名又は名称】株式会社トクヤマ
(72)【発明者】
【氏名】台木 祥太
(72)【発明者】
【氏名】上田 晃平
(72)【発明者】
【氏名】幸泉 哲太
(72)【発明者】
【氏名】廣實 佑樹
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/179662(WO,A1)
【文献】特開2005-343728(JP,A)
【文献】特開2015-062872(JP,A)
【文献】国際公開第2018/164123(WO,A1)
【文献】特開2012-236972(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
B03B 1/00 - 13/06
C04B 35/5833
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/00
H01L 23/29
H01L 23/31
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿式粒度分布測定における5~20μmの粒子の割合が50体積%以上、グラインドゲージ測定粒径が44μm以下であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
比表面積が3.0~6.0m
2/gである、請求項1記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
グラインドゲージ測定粒径(μm)/湿式粒度分布測定D100(μm)が1.0~1.6である、請求項1または2記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項4】
膜厚X(μm)の樹脂シート用フィラーであり(ただし、膜厚Xは20~45μmの範囲である)、前記グラインドゲージ測定粒径の上限がX-1(μm)であることを特徴とする請求項1または2記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項5】
請求項4記載の六方晶窒化ホウ素粉末と樹脂とを含有する樹脂組成物からなる、膜厚X(μm)の樹脂シート。
【請求項6】
湿式粒度分布測定D50が5.0~20.0μmの原料六方晶窒化ホウ素粉末が含有割合14質量%以下で溶媒に分散した六方晶窒化ホウ素スラリーを、目開き15μm~25μmのフィルターを通過させて処理する工程を含む、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項7】
前記フィルターを通過させる工程は、内側でスクリューを回転させた円筒フィルターに原料六方晶窒化ホウ素スラリーを投入する工程を含むことを特徴とする、請求項6記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は六方晶窒化ホウ素粉末に関する。詳しくは、粗大粒子が極めて少なく、薄い樹脂シートにおいて、熱伝導率と絶縁耐力が良好な六方晶窒化ホウ素粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子部品の小型化と高性能化への要求から、半導体デバイスの高集積化が進み、同時にデバイスから発生する熱を効率的に逃がすための放熱材料の使用量が拡大しており、さらに材料の放熱性能の向上が求められている。半導体素子から発生する熱をヒートシンクや筺体等に逃がす経路には様々な放熱材料が用いられる。部品を実装する基板には、熱伝導性の高い窒化アルミニウムや窒化ケイ素などのセラミック基板が用いられるケースが増えている。また金属板に放熱性の絶縁樹脂層を設けたメタルベース基板の使用も増加しており、そうした樹脂層には熱伝導率の高いフィラーとしてアルミナ、窒化アルミニウム、六方晶窒化ホウ素などが充填される。他にも半導体デバイスにおける、封止材、接着剤、グリース、樹脂シートなどにも高熱伝導性のフィラーが使用されている。これら放熱部材は、近年、更なる軽量化を求めて小型化への検討が進められており、高熱伝導性フィラーのなかでも六方晶窒化ホウ素は、比重が低く、軽いフィラーであるため、部品の軽量化に寄与出来る魅力的なフィラーである。
【0003】
高熱伝導性フィラーを充填した樹脂シートにおいては、より薄膜化することで、樹脂シートの熱抵抗を下げる検討が行われており、特に膜厚45μm以下のような薄膜化した樹脂シートが求められてきている。薄膜化した樹脂シートにおいては、高熱伝導性フィラーの粒径が重要であり、シート厚みに応じた粒径の粒子を含み、且つ樹脂シートの厚み以上の粗大粒子を含まないことが重要となる。薄膜シートの厚みよりも大きい粗大粒子を含んでいると、シート内を粗大粒子が貫通し、絶縁耐力の低下や、均一な薄膜樹脂シートの製造が困難になるなどの課題があった。しかし、絶縁耐力の低下を防止するため、樹脂シート厚みに対して高熱伝導性フィラーの粒径を小さくしすぎると、樹脂シートの熱伝導率を高くすることが出来ず、樹脂シートの熱伝導率を高めるためには、高熱伝導性フィラーの粒径を、樹脂シートの厚みに応じて適した粒径に制御する必要がある。このように、薄膜樹脂シートにおいて高い絶縁耐力と高い熱伝導率を得るためには、使用する高熱伝導性フィラーの粒径を高度に制御することが必要である。
【0004】
従来、高熱伝導フィラーを充填した樹脂シートの薄膜化を実現するにあたって、特許文献1では、小粒径の六方晶窒化ホウ素粉末を使用するという技術が報告されている。特許文献2では、湿式レーザー回折粒度分布において、36μm以上の粒子が0.1~5.0体積%含有する窒化ホウ素粉末が報告されている。しかしながら、これらの六方晶窒化ホウ素粉末は粗大粒子が十分に除去されておらず、上記問題点を十分に解決することが出来るものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2015/122378号公報
【文献】WO2019/172440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、六方晶窒化ホウ素粉末から粗大粒子を除去することにより、薄膜樹脂シートにおいて高い絶縁耐力を得ることが出来、且つ高い熱伝導性も得られる、薄膜樹脂シートに特に適した六方晶窒化ホウ素粉末を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った。しかしながら、従来の六方晶窒化ホウ素粉末を、単に乾式篩で分級して粗大粒子を除去するのみでは、粗大粒子の量をコントロールすることが出来たとしても、微粉が増加してしまい、該シートの熱伝導性を高めるのに適した粒径である粒径5~20μm程度の粒子の存在割合が少なくなってしまった。
【0008】
そこでさらに検討を進めた結果、特定の粒径の原料六方晶窒化ホウ素粉末を得た後、特定の湿式分級処理を行う、製造方法を採用することによって得られた六方晶窒化ホウ素粉末により、前記課題を全て解消できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち本発明は、以下に記載のものである。
【0010】
[1]
湿式粒度分布測定における5~20μmの粒子の割合が50体積%以上、グラインドゲージ測定粒径が44μm以下であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末。
【0011】
[2]
さらに比表面積が3.0~6.0m2/gである、六方晶窒化ホウ素粉末。
【0012】
[3]
さらにグラインドゲージ測定粒径(μm)/湿式粒度分布測定D100(μm)が1.0~1.6である、六方晶窒化ホウ素粉末。
【0013】
[4]
膜厚X(μm)の樹脂シート用の六方晶窒化ホウ素フィラー(ただし、膜厚Xは20~45μmの範囲である)であって、前記グラインドゲージ測定粒径の上限がX-1(μm)、であることを特徴とする前記六方晶窒化ホウ素粉末。
【0014】
[5]
前記六方晶窒化ホウ素粉末と樹脂とを含有する樹脂組成物からなる、膜厚X(μm)の樹脂シート。
【0015】
[6]
湿式粒度分布測定D50が5.0~20.0μmの原料六方晶窒化ホウ素粉末を、含有割合12質量%以下で溶媒に分散した六方晶窒化ホウ素スラリーを、目開き15~25μmのフィルターを通過させて処理する工程を含む、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【0016】
[7]
前記フィルターを通過させる工程は、内側でスクリューを回転させた円筒フィルターに六方晶窒化ホウ素スラリーを投入する工程を含むことを特徴とする、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は粗大粒子が少ないため、薄膜樹脂シートに用いた際に絶縁異常を起こし難く、且つ高い熱伝導率を発現する事が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、湿式粒度分布測定における5~20μmの粒子の割合が50体積%以上である。
【0019】
本発明における六方晶窒化ホウ素粉末の湿式粒度分布測定において、測定サンプルは、50mLスクリュー管瓶にエタノール20gを分散媒として加え、エタノール中に六方晶窒化ホウ素粉末1gを分散させることで調製した。なお、測定サンプルに対して超音波処理は行わない。これを、レーザー回折散乱型粒度分布計を用いて粒度分布を測定した。測定装置としては、これに限定されるものではないが、例えば、後述する実施例に記載しているように、日機装株式会社製:粒子径分布測定装置MT3000を用いることができる。これにより得られた粒子径の体積頻度分布から、5~20μmの粒子の体積割合を求める。また、前記粒子径の体積頻度分布において、体積頻度の累積値が50%となるところの粒径の値をD50、95%となるところの粒径の値をD95、100%となるところの粒径の値をD100とする。
【0020】
膜厚20~45μmの薄膜樹脂シートにおいては、粒径5~20μm付近の粒子により、効果的な熱伝導パスが形成され、樹脂シートの熱伝導率を高めることが出来る。そのため、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、湿式粒度分布測定における5~20μmの粒子の割合が50体積%以上、好ましくは60体積%以上、より好ましくは70体積%以上であることにより、膜厚20~45μmの薄膜樹脂シートに高い熱伝導率を付与することが可能となる。
【0021】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、D50が4.0~9.0μm、D95が9.5~19.0μm、D100が35μm以下の範囲にあることが好ましい。D50が4.0μm、D95が9.5μmよりも小さい六方晶窒化ホウ素粉末は、膜厚20μm~45μm程度の薄膜樹脂シートにおいて、高い熱伝導率が得られにくくなる。また、D50が9.0μm、D95が19.0μmより大きいと、絶縁耐力が低下しやすい傾向にある。D50は、より好ましくは4.5~8.5μm、さらに好ましくは5.0~8.3μm、特に好ましくは、6.0~8.0μm、D95は、より好ましくは10.0~18.5μm、さらに好ましくは10.5~18.0μm、特に好ましくは11.0~17.5μmである。また、D100が35μmを超えると、薄膜シートに対して、大き過ぎる粗大粒子が混入し、絶縁耐力が低下する恐れがある。
【0022】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、グラインドゲージ測定粒径が44μm以下である。グラインドゲージ測定粒径が44μm以下であることで、膜厚45μm程度の樹脂シートにおいて、シート膜厚以上の粗大粒子が混入する事を避ける事が可能となる。
【0023】
従来の湿式粒度分布測定では、ある一定量以上含まれる粒子しかカウントされないため、実際に存在する粒子でも、粒度分布上には現れず、また、溶媒に分散している間に、凝集した粗大粒子が緩やかにほぐれてしまうこともある。そのため、実際の六方晶窒化ホウ素粉末中には、湿式粒度分布で測定したD100よりも大きな粒子が含まれている場合が多く、湿式粒度分布測定では粗大粒子や凝集粒子の存在を十分に評価することは困難であり、従来は薄膜樹脂シートに特に適した六方晶窒化ホウ素粉末が得られていなかった。一方で、グラインドゲージで測定すると、極微量の粗大粒子で斑点を生じるため、実際に六方晶窒化ホウ素粉末を薄膜樹脂シートのフィラーとして使用した際に問題発生の原因となる粗大粒子を、精度よく検出することが出来る。そのため、粒度分布測定には現れない粗大粒子や凝集粒子の量をコントロールするために、グラインドゲージ測定粒径を制御することが重要である。
【0024】
六方晶窒化ホウ素粉末のグラインドゲージ測定粒径の上限値を調整することで、45μmよりも膜厚が薄い樹脂シートに対しても使用可能となるため、目的とする樹脂シートの膜厚に応じた六方晶窒化ホウ素粉末を開示することが出来る。具体的には、目的とする樹脂シートの膜厚がX(μm)である場合、グラインドゲージ測定粒径の上限をX-1(μm)に調整することが好ましく、例えば膜厚40μmの樹脂シートに使用する場合は、グラインドゲージ測定粒径の上限を39μmに、膜厚が35μmの樹脂シートに使用する場合は、グラインドゲージ測定粒径の上限を34μmに制御することが好ましい。そのため、湿式粒度分布測定粒径における5~20μmの粒子の割合が50体積%以上、グラインドゲージ測定粒径の上限がX-1(μm)である、膜厚X(μm)の樹脂シート用フィラーである六方晶窒化ホウ素粉末(ただし、膜厚Xは20~45μmの範囲である)を、本発明として開示することもできる。
【0025】
グラインドゲージ測定粒径の下限は特に限定されないが、膜厚20~45μm程度の樹脂シートにおいて高い熱伝導率の樹脂シートが得られやすくなるためグラインドゲージ測定粒径は20μm以上であることが好ましい。
【0026】
また、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、グラインドゲージ測定粒径(μm)/湿式粒度分布測定D100(μm)が1.0~1.6の範囲にあることが好ましい。グラインドゲージ測定粒径(μm)/湿式粒度分布測定D100(μm)が1.0を下回る粉末を作製する事は困難であり、グラインドゲージ測定粒径(μm)/湿式粒度分布測定D100(μm)が1.6を超えると、膜厚20~45μmの樹脂シートにおいて高い熱伝導率が得られにくくなる傾向にある。グラインドゲージ測定粒径(μm)/湿式粒度分布測定D100(μm)は、好ましくは1.0~1.5、より好ましくは1.0~1.4の範囲である。
【0027】
なお、グラインドゲージ測定粒径は、JISK5600-2-5によって測定されるものである。具体的には、六方晶窒化ホウ素粉末1質量部と、25℃での動粘度が1000cStのシリコーン樹脂10質量部を混合して得た樹脂ペーストを、グラインドゲージを使用した際に斑点が表れる点を観察することで測定したものである。
【0028】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、窒素吸着1点法で測定したBET比表面積が3.0~6.0m2/gの範囲にあることが好ましい。比表面積が3.0m2/g未満だと、六方晶窒化ホウ素単粒子の粒径が大きく、特に上記単粒子が凝集する場合や上記単粒子が楕円形や細長い粒子である場合、粗大粒子が存在しやすくなり、絶縁耐力の低下発生による歩留まり低下の虞がある。 比表面積が6.0m2/gを超えると、一次粒子径が小さいため凝集粒子を構成して粗大粒子が発生しやすくなる。比表面積は、3.2~5.7m2/gがより好ましく、3.5~5.0m2/gがさらに好ましい。
【0029】
本発明の六方晶窒化ホウ素粒子の一次粒子の平均アスペクト比(長径/厚み)は3~20、特には5~15であることが好ましい。アスペクト比3未満は製造困難であり、20を超えると長径が大きい薄片板状粒子により絶縁耐力が低下する場合がある。
【0030】
また、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、単粒子が凝集した凝集粒子を含むことが好ましい。一般に六方晶窒化ホウ素の一次粒子は扁平であり、且つ幅方向の熱伝導性が高く厚み方向の熱伝導性が低い熱伝導異方性がある。従って、樹脂に配合されたとき、熱伝導に異方性を示し、粒子の幅方向の熱伝導性が高く、粒子の厚み方向の熱伝導性は低い。このような熱伝導の異方性は、厚みが薄い樹脂シートや小間隙に充填される封止材において、特に顕著に表れ、熱伝導率が低くなる方向が生じてしまう。しかしながら、一次粒子が凝集していると、凝集体中で単粒子がランダムな向きを指向しているため、上記のような熱伝導の異方性が抑制され、熱伝導性の低い方向の発生を有効に防止することができる。
【0031】
本発明において、六方晶窒化ホウ素粉末における凝集粒子の存在は、超音波処理を行う湿式粒度分布測定から算出したD50Sと前記湿式粒度分布測定でのD50との比(D50S/D50)から確認することができる。即ち、凝集粒子は超音波によって解砕されるため、凝集粒子を多く含んでいれば、D50S/D50の値が小さくなる。例えば、D50S/D50の値は、0.40~0.85、特には0.50~0.80が好ましい。
【0032】
なお、超音波処理を行う湿式粒度分布測定は、測定サンプルの調製において、50mLスクリュー管瓶にエタノール20gを分散媒として加え、エタノール中に六方晶窒化ホウ素粉末1gを分散させた後、90Wで20分超音波処理を行う以外は、超音波処理を行わない場合と同様の方法で行うことができる。
【0033】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、高純度であることが好ましいため、不純物酸化ホウ素量が300ppm以下であることが好ましい。より好ましくは250ppm以下である。また、同様の理由で、炭素含有量が0.001~0.050質量%、酸素含有量が0.01~0.95質量%であることが好ましい。
【0034】
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、還元窒化法によって得られる所定の原料六方晶窒化ホウ素粉末から、湿式分級により粗大粒子を取り除くことにより得ることができる。前記原料六方晶窒化ホウ素粉末は、湿式粒度分布測定D50が5.0~20.0μmである。D50が5.0μm未満であると、小粒径粒子の割合が増えたり、凝集の発生によりグラインドゲージ測定粒径が大きくなったりしやすくなるため好ましくなく、20.0μmを超えると粗大粒子が混入しやすくなる。原料六方晶窒化ホウ素粉末は、粒度分布測定D50が、5.0~15.0μmであることが好ましく、6.0μm~10.0μmであることがより好ましい。また、後述のように湿式分級後に凝集粒子が生成して粗大粒子が発生する場合もあるため、原料窒化ホウ素粉末の比表面積は6.0m2/g以下であることが好ましく、5.7m2/g以下であることがより好ましく、5.0m2/g以下であることがさらに好ましい。比表面積が6.0m2/g以下であることで、一次粒子が小さく、湿式分級後に凝集が発生しにくい。
【0035】
(原料六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法)
本発明において、原料六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、特に制限されるものではないが、例えば還元窒化法を挙げることが出来る。代表的な製造方法を例示すれば、含酸素ホウ素化合物、カーボン源、含酸素カルシウム化合物を、含酸素ホウ素化合物に含まれるB源とカーボン源に含まれるC源の割合であるB/C(元素比)換算で0.75~1.00、含酸素ホウ素化合物とカーボン源との合計量(B基準のB2O3、C換算値)100質量部に対して含酸素カルシウム化合物をCa基準のCaO換算で4~15質量部となる割合で混合し、窒素雰囲気下にて1500~1700℃の最高温度に加熱して、還元窒化した後、反応生成物中に存在する窒化ホウ素以外の副生成物を酸洗浄により除去することを特徴とする原料六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法が挙げられる。かかる製造方法により、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を得るために好適な、所定の原料六方晶窒化ホウ素粉末が得られる。
【0036】
(含酸素ホウ素化合物)
前記製造方法において、原料の含酸素ホウ素化合物としては、ホウ素原子を含有する化合物が制限なく使用される。例えば、ホウ酸、無水ホウ酸、メタホウ酸、過ホウ酸、次ホウ酸、四ホウ酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウムなどが使用できる。一般的には、入手が容易なホウ酸、酸化ホウ素が好適に用いられる。また、使用する含酸素ホウ素化合物は、粗大粒子が存在すると、カーボン源や含酸素カルシウムと均一に混合することが難しくなるため、425μm篩上残分が3質量%以下、特には、1.5質量%以下にすることが好ましい。また、300μm篩上残分が50質量%以下であることが好ましく、250μm篩上残分が70質量%以下であることが好ましい。
【0037】
(含酸素カルシウム化合物)
前記製造方法において、含酸素カルシウム化合物は、含酸素ホウ素化合物と複合酸化物を形成することで、高融点の複合酸化物を形成し、含酸素ホウ素化合物の揮散を防止する役割を有する。
【0038】
前記含酸素カルシウム化合物としては、例えば、炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、硝酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、シュウ酸カルシウム等が挙げられる。その中でも、酸化カルシウム、炭酸カルシウムを使用するのが好ましい。上記含酸素カルシウム化合物は、2種類以上を混合して使用することも可能である。また、上記含酸素カルシウム化合物の平均粒子径は、平均粒子径0.01~200μmが好ましく、0.05~120μmがより好ましく、0.10~80μmが特に好ましい。
【0039】
(カーボン源)
前記製造方法において、カーボン源としては、還元剤として作用する公知の炭素材料が特に制限無く使用される。例えば、カーボンブラック、活性炭、カーボンファイバー等の非晶質炭素の他、ダイヤモンド、グラファイト、ナノカーボン等の結晶性炭素、モノマーやポリマーを熱分解して得られる熱分解炭素等が挙げられる。そのうち、反応性の高い非晶質炭素が好ましく、更に、工業的に品質制御されている点で、カーボンブラックが特に好適に使用される。また、上記カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック等を使用することができる。また、上記カーボン源の平均粒子径は、0.01~5μmが好ましく、0.02~4μmがより好ましく、0.05~3μmが特に好ましい。即ち、該カーボン源の平均粒子径を5μm以下とすることにより、カーボン源の反応性が高くなり、また、0.01μm以上とすることにより、取り扱いが容易となる。
【0040】
前記製造方法において、上記の各原料を含む混合物の反応への供給形態は特に制限されず、粉末状のままでもよいが、造粒体を形成して行ってもよい。
【0041】
本発明の製造方法において、前記原料の混合方法は特に制限されず、スパルタンミキサー、振動ミル、ビーズミル、ボールミル、ヘンシェルミキサー、ドラムミキサー、振動攪拌機、V字混合機等の一般的な混合機が使用可能である。
【0042】
(原料の調製)
前記製造方法において、還元窒化反応は、カーボン源と窒素の供給により実施されるが、目的とする六方晶窒化ホウ素粉末を効果的に得るためには、含酸素ホウ素化合物に含まれるB源とカーボン源との割合は、B/C(元素比)換算で0.75~1.00、特には0.80~0.95とすることが好ましい。即ち、該モル比が1.00を超えると、還元されずに揮散するホウ素化合物の割合が増加し、Ca助剤と複合酸化物を形成し易く、また上記複合酸化物の融点が低く、揮散物が増え好ましくない。また、該モル比が0.75未満では、カーボン含有割合が多く、カーボン由来の不純物残存の恐れがある。
【0043】
前記製造方法において、目的とする六方晶窒化ホウ素粉末を効果的に得るためには、含酸素ホウ素化合物とカーボン源との合計量(B基準のB2O3、C換算値)100質量部に対して含酸素カルシウム化合物をCa基準のCaO換算で4~15質量部となる割合で混合することが好ましい。このとき、CaO換算質量部が4質量部未満では、還元されずに揮散するホウ素化合物の割合が増加し、収率が低下するばかりでなく、残存するホウ素化合物と形成するCaO-B2O3複合酸化物の融点が下がり好ましくない。CaO換算質量部が15質量部を超えると、カルシウム由来の不純物が残存する虞があり好ましくない。
【0044】
本発明においては、上記組成比を調整し、後述する反応温度で還元窒化することで、目的の粒径の原料六方晶窒化ホウ素粉末を得ることが出来る。
【0045】
(還元窒化)
前記製造方法において、反応系への窒素源の供給は、公知の手段によって形成することが出来る。例えば、後に例示した反応装置の反応系内に窒素ガスを流通させる方法が最も一般的である。また、使用する窒素源としては、上記窒素ガスに限らず、還元窒化反応において窒化が可能なガスであれば特に制限されない。具体的には、前記窒素ガスの他、アンモニアガスを使用することも可能である。また、窒素ガス、アンモニアガスに、水素、アルゴン、ヘリウム等の非酸化性ガスを混合したガスも使用可能である。
【0046】
前記製造方法において、目的の粒径の六方晶窒化ホウ素粉末を得るために、還元窒化反応における加熱温度は、1700℃以下、好ましくは、1650℃以下の温度を採用することが必要である。加熱温度を1700℃以下にすることで、原料六方晶窒化ホウ素粉末の粒径を目的とする粒度に調整することが可能となる。なお、加熱温度の下限は特に限定されないが、効率的に還元窒化反応を進行させるために、1400℃以上、好ましくは1500℃以上とすることが一般的である。また、還元窒化反応の時間は適宜決定されるが、一般に、6~30時間程度である。
【0047】
上述の製造方法は、反応雰囲気制御の可能な公知の反応装置を使用して行うことができる。例えば、高周波誘導加熱やヒーター加熱により加熱処理を行う雰囲気制御型高温炉が挙げられ、バッチ炉の他、プッシャー式トンネル炉、竪型反応炉等の連続炉も使用可能である。
【0048】
(解砕工程)
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法において、上述の還元窒化によって得られた窒化物は、適度に凝集しているため、粒径の調整を目的に解砕工程を設けても良い。かかる解砕工程は、窒化物に含有される六方晶窒化ホウ素一次粒子が凝集することにより構成された窒化物を解砕する工程である。解砕方法は特に限定されずロールクラッシャーやジェットミル、ビーズミル、遊星ミル、石臼型摩砕機などによる解砕であって良い。また、これらの解砕方法を組み合わせても良く、さらに複数回行っても良い。なお、解砕工程により装置等から金属不純物が混入する場合があるが、後述の酸洗浄工程及び水洗工程により高度に除去することが可能である。
【0049】
(酸洗浄)
前記製造方法において、上述の還元窒化によって得られる窒化物は、六方晶窒化ホウ素粉末の他に、酸化ホウ素―酸化カルシウムから成る複合酸化物等の不純物が存在するため、酸を用いて洗浄することが好ましい。かかる酸洗浄の方法は特に制限されず、公知の方法が制限無く採用される。例えば、窒化処理後に得られた窒化物を解砕して容器に投入し、該窒化物の5~10倍量の希塩酸(5~20質量%HCl)を加え、4~8時間接触せしめる方法などが挙げられる。上記酸洗浄時に用いる酸としては、塩酸以外にも、硝酸、硫酸、酢酸等を用いることも可能である。
【0050】
上記酸洗浄の後、残存する酸を洗浄する目的で、純水を用いて洗浄しても良い。上記洗浄の方法としては、上記酸洗浄時の酸をろ過した後、使用した酸と同量の純水に酸洗浄した窒化ホウ素を分散させ、再度ろ過する。
【0051】
(乾燥)
上記酸洗浄と、必要に応じて水洗浄を行った後の含水塊状物を、50~250℃の大気、もしくは減圧下での乾燥を行うことが好ましい。乾燥時間は、特に指定しないが、含水率が0%に限りなく近づくまで乾燥することが好ましい。
【0052】
(乾式分級)
乾燥後の原料六方晶窒化ホウ素粉末は、解砕後、後述の湿式分級の前に、必要に応じて、乾式篩等による粗大粒子の除去や、気流分級等による微粉除去を行うことが出来る。特に乾式篩工程を行うことが好ましい。原料六方晶窒化ホウ素粉末が、粒度分布が広く、粗粒が多い場合、後述の湿式分級時に、目詰まりが生じて湿式分級処理が行うことが困難となる場合が多いが、湿式分級の前に乾式篩によりある程度粗粒を除いておくことで、これを防止することが容易となる。前記乾式篩は目開き38~90μm篩であることが好ましい。ここで、目開きの下限を38μmとしたのは、乾式篩においては、目開き38μm未満の処理は、目詰まりなどを起こし、連続した篩処理を行うことが困難になるためである。なお、目開き38μmの乾式篩を行った場合でも、原料六方晶窒化ホウ素粉末には扁平形状の一次粒子が存在しているため、目開き対角線サイズの粒子が篩下として得られてしまうため、グラインドゲージ測定粒径を44μm以下制御することは困難である。
【0053】
上記製造方法により、湿式粒度分布測定D50が5.0~20.0μmの原料六方晶窒化ホウ素粉末を容易に得ることが出来る。なお、上記製造方法では、一次粒子の平均アスペクト比(長径/厚み)が5~15であり、薄片粒子の含有割合が少なく、後述する湿式分級処理を行うのに適した原料六方晶窒化ホウ素粉末を容易に得ることが出来る。
【0054】
(湿式分級操作)
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、上記のような原料六方晶窒化ホウ素粉末を湿式分級して、特定の粒径以上の粗大粒子を除去することで得ることができる。湿式分級を行うことで、効率的に粗大粒子を除去して本願の六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができる。湿式分級は、前記原料六方晶窒化ホウ素粉末を溶媒に分散した六方晶窒化ホウ素スラリーを、フィルターを通過させて処理する方法(以下、「フィルター分級」と称することがある)と、流体状にして粗大粒子と微粒子を分ける流体分級があるが、フィルター分級が、分級精度が良く、生産能力も高いため好ましい。
【0055】
(湿式分級の分散媒)
湿式分級は、原料六方晶窒化ホウ素粉末を溶媒に分散させた六方晶窒化ホウ素スラリーを処理することで行う。六方晶窒化ホウ素スラリーの溶媒は、原料六方晶窒化ホウ素粉末を分散可能な溶媒であれば特に制限なく使用可能であり、例えば、イオン交換水、純水、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類などが好適に使用できる。これらの溶媒は、1種のみを使用してもよく、あるいは2種以上を併用してもよい。
【0056】
(分散媒の量)
六方晶窒化ホウ素スラリーは、原料六方晶窒化ホウ素粉末の含有量が14質量%以下である。これにより、スラリーの粘度を低減でき分散性を高めることが容易となる。分散性が低い場合、得られる六方晶窒化ホウ素粉末において、5μm未満の小粒径粒子の含有割合が増加し、高い熱伝導性が得られにくくなる。原料六方晶窒化ホウ素の含有量は、12質量%以下がより好ましく、5質量%以下が更に好ましい。また、生産性の観点から、原料六方晶窒化ホウ素の含有量は1質量%以上が好ましい。
【0057】
(分散方法)
原料六方晶窒化ホウ素を溶媒に分散させる工程は、特に限定されず、所定量の原料六方晶窒化ホウ素粉末と溶媒とを測り取って混合して、スラリーを調整すれば良い。なお、溶媒に分散させる前の原料六方晶窒化ホウ素粉末は、大部分の粒子が緩い凝集状態にある場合が多い。そのため、十分に分散させて目詰まりを抑制するために、ディスパーザー、ホモジナイザー、超音波分散機、ナノマイザー、プラネタリーミキサー、エジェクター、ウォータージェットミル、高圧分散機などの衝突分散機、湿式ボールミル、湿式振動ボールミル、湿式ビーズミルなどでスラリーを処理することが好ましく、ディスパーザー、ホモジナイザー、超音波分散機などで処理することが特に好ましい。
【0058】
(スラリー粘度)
前記原料六方晶窒化ホウ素スラリーは、25℃における粘度が1.0~60mPa・Sであることが好ましい。粘度を前記範囲とすることによって、後述の湿式フィルター分級を効率的に行うことが出来る。
【0059】
(湿式フィルター分級)
フィルター分級では、目開き15~25μmのフィルターを使用する。これにより、グラインドゲージ測定粒径が44μm以下である本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を効率的に製造することが可能となる。後述する溶媒除去・乾燥を行うと、六方晶窒化ホウ素粒子が凝集体を形成する場合があり、乾燥後の六方晶窒化ホウ素粉末中には湿式フィルター分級の目開きより大きい粒子が存在して、前記六方晶窒化ホウ素粉末のグラインドゲージ測定粒径は湿式フィルター分級の目開きより大きくなるが、本製造方法においては、湿式フィルター分級の目開きを25μm以下とすることで、グラインドゲージ測定粒径を44μm以下に制御しやすくなる。目開き15μm未満では、5~20μmの粒子割合が50%以下にすることが困難である。
【0060】
なお、フィルターの目開きの上限を変更することで、目的とするグラインドゲージ測定粒径に応じた六方晶窒化ホウ素粉末を製造することも可能であり、目的とするグラインドゲージ測定粒径の最大値が44μm未満の場合、フィルターの目開きを25μm未満の適した範囲に調整すれば良く、例えばフィルターの目開きを15μmとすることで、グラインドゲージ測定粒径の最大値が39μm以下の六方晶窒化ホウ素粉末を効率的に製造することが出来る。
【0061】
フィルターは複数の目開きの物を段階的に組み合わせて使用しても良く、例えば、目開き15~25μmのフィルターの前に、目開きが25μmより大きなフィルターを通過させても良い。
【0062】
フィルターの材質、構造、形状などは特に制限されないが、フィルターのこれらの性質により分級ポイント、分級精度、詰まり発生の度合いなどが異なるため、原料六方晶窒化ホウ素粉末の物性や目的とするグラインドゲージ測定粒径に応じて適宜選択すれば良い。
【0063】
フィルターとしてはメンブレンフィルター、樹脂フィルター、金属製フィルター、ろ紙などが使用できるが、高純度な六方晶窒化ホウ素粉末が得られやすいことから、樹脂フィルターやステンレス製フィルターが好ましい。なお、前記原料六方晶窒化ホウ素の製造方法において、酸洗浄後に水洗浄を行わない場合は、スラリーが酸性となるため、樹脂フィルターを使用する事が必要である。
【0064】
また、フィルターは、使用前に六方晶窒化ホウ素スラリーに使用する溶媒浸漬させることで、六方晶窒化ホウ素スラリーとの馴染みが向上し、効率的に濾過を行うことが出来る。
【0065】
スラリーを、フィルターに通過させる方法は特に制限されず、重力式、吸引式、加圧式、圧送式など公知の方法を使用することが出来るが、内側でスクリューを回転させた円筒フィルターに六方晶窒化ホウ素スラリーを投入する方法を好ましい方法として例示することが出来る。この方法は、スクリューの遠心力によって、目詰まりが発生しにくいため、効率的に湿式分級を行うことが容易であり好ましい。
【0066】
(溶媒除去・乾燥)
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を得るためには、湿式分級後に上記スラリーから溶媒を除去する必要がある。溶媒の除去方法は特に限定されず、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末を含むスラリーを加熱装置で加熱することで行うことが出来る。加熱装置は、スラリーから溶媒を蒸発除去させることが可能であれば特に制限なく使用でき、具体的にはコニカルドライヤー、ドラムドライヤー、V型ドライヤー、振動乾燥機、ロッキングミキサー、ナウタミキサー、リボコーン、真空造粒装置、真空乳化装置、その他攪拌型真空乾燥装置が好適に使用できる。乾燥は複数段階に分けて行っても良く、加熱装置での加熱の前に、例えば、ロータリーエバポレーター、薄膜乾燥装置、スプレードライヤー、ドラムドライヤー、ディスクドライヤー、流動層乾燥機などを使用して溶媒の一部を除去しても良い。また、加熱装置で加熱して乾燥を行う前に、ろ過を行って、溶媒の一部を除去しても良い。ろ過を行う装置は、スラリーを固体成分と液体成分に分離する装置であれば好適に使用でき、具体的には吸引ろ過装置、遠心ろ過機、デカンター、ギナ式遠心分離機、加圧ろ過機、フィルタープレス機、およびろ過と乾燥を1台で実施できるろ過乾燥装置などが挙げられる。使用するろ材の材質、保留粒子径、分離の条件等は、用いる方法や捕集率に応じて適宜選択すれば良い。
【0067】
加熱装置で加熱する際の雰囲気は特に限定されないが、真空、不活性ガス雰囲気、乾燥空気雰囲気が好ましく、中でも環境の水分の影響が少ない真空または不活性ガス雰囲気がより好ましく、真空が特に好ましい。
【0068】
スラリーからの溶媒の除去は、得られた六方晶窒化ホウ素粉末を大気中で120℃3分間静置した前後の質量変化率が0.9%未満となるまで行うことが好ましい。
【0069】
<樹脂組成物>
本発明の六方晶窒化ホウ素粉末と樹脂とを配合することで樹脂組成物を得ることが出来る。樹脂組成物は例えば樹脂シートとして使用することが可能であり、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末により、特に、膜厚が薄く、且つ高熱伝導性および高絶縁耐力を示す樹脂シートを得ることができる。
【0070】
前記樹脂組成物を構成する樹脂は、特に制限されず、例えばシリコーン系樹脂またはエポキシ系樹脂であってよい。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型の水素添加エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、ポリテトラメチレングリコール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラキスフェノールメタン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、四官能ナフタレン型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、トリスフェノールエポキシ樹脂、ナフトールノボラックエポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、芳香族グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン型エポキシ樹脂、アラルキル型エポキシ樹脂、ポリプロピレングリコール型エポキシ樹脂、ポリサルファイド編成エポキシ樹脂、トリアジン核を骨格に有するエポキシ樹脂、およびビスフェノールAアルキレンオキサイド付加物型のエポキシ樹脂等が挙げられる。これらエポキシ樹脂の1種を単独で、あるいは、2種以上を混合して使用してもよい。また、硬化剤としてアミン系樹脂、酸無水物系樹脂、フェノール系樹脂、イミダゾール類、活性エステル系硬化剤、シアネートエステル系硬化剤、ナフトール系硬化剤、ベンゾオキサジン系硬化剤等を用いてもよい。これら硬化剤も1種を単独で、あるいは、2種以上を混合して使用してもよい。これら、硬化剤のエポキシ樹脂に対する配合量は、エポキシ樹脂に対する当量比で、0.5~1.5当量比、好ましくは0.7~1.3当量比である。本明細書において、これらの硬化剤も樹脂に包含される。
【0071】
また、シリコーン系樹脂としては、付加反応型シリコーン樹脂とシリコーン系架橋剤との混合物である公知の硬化性シリコーン樹脂を制限なく使用することができる。付加反応型シリコーン樹脂としては、例えば、分子中にビニル基やヘキセニル基のようなアルケニル基を官能基としてもつポリジメチルシロキサン等のポリオルガノシロキサン等が挙げられる。シリコーン系架橋剤としては、例えば、ジメチルハイドロジェンシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジエンシロキサン共重合体、トリメチルシロキシ基末端封鎖ジメチルシロキサン-メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、トリメチルシロキサン基末端封鎖ポリ(メチルハイドロジエンシロキサン)、ポリ(ハイドロジエンシルセスキオキサン)等のケイ素原子結合水素原子を有するポリオルガノシロキサン等が挙げられる。また、硬化触媒には、シリコーン樹脂の硬化に用いられる公知の白金系触媒等を制限なく使用することができる。例えば、微粒子状白金、炭素粉末に担持した微粒子状白金、塩化白金酸、アルコール変性塩化白金酸、塩化白金酸のオレフィン錯体、パラジウム、ロジウム触媒等が挙げられる。
【0072】
また、樹脂としては、液晶ポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリフタルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリカーボネート、ポリアリールエーテルケトン、ポリフェノレンオキシド、フッ素樹脂、シアン酸エステル化合物、マレイミド化合物などを使用することも可能である。
【0073】
液晶ポリマーには、溶融状態で液晶性を示すサーモトロピック液晶ポリマーと、溶液状態で液晶性を示すレオトロピック液晶ポリマーとがあり何れの液晶ポリマーを用いてもよい。
【0074】
サーモトロピック液晶ポリマーとしては、例えば、パラヒドロキシ安息香酸(PHB)と、テレフタル酸と、4,4’-ビフェノールから合成されるポリマー 、PHBと2,6-ヒドロキシナフトエ酸から合成されるポリマー、PHBと、テレフタル酸と、エチレングリコールから合成されるポリマーなどが挙げられる。
【0075】
フッ素樹脂としては、例えば、例えば四ふっ化エチレン樹脂(PTFE)、四ふっ化エチレン-六ふっ化プロピレン共重合樹脂(PFEP)、四ふっ化エチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合樹脂(PFA)などが挙げられる。
【0076】
シアン酸エステル化合物としては、例えば、フェノールノボラック型シアン酸エステル化合物、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物、ビフェニルアラルキル型シアン酸エステル化合物、ナフチレンエーテル型シアン酸エステル化合物、キシレン樹脂型シアン酸エステル化合物、アダマンタン骨格型シアン酸エステル化合物が好ましく、フェノールノボラック型シアン酸エステル化合物、ビフェニルアラルキル型シアン酸エステル化合物、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物が挙げられる。
【0077】
マレイミド化合物としては、例えば、N-フェニルマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、ビス(4-マレイミドフェニル)メタン、2,2-ビス{4-(4-マレイミドフェノキシ)-フェニル}プロパン、ビス(3,5-ジメチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン、ビス(3,5-ジエチル-4-マレイミドフェニル)メタン、下記式(1)で表されるマレイミド化合物、下記式(2)で表されるマレイミド化合物などが挙げられる。
【0078】
【0079】
上記式(1)中、R5は、各々独立して、水素原子又はメチル基を示し、好ましくは水素原子を示す。また、n1は、1以上の整数を表し、好ましくは10以下の整数であり、より好ましくは7以下の整数である。
【0080】
【0081】
上記式(2) 中、複数存在するRは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~5のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基等)、又はフェニル基を表し、耐燃性及びピール強度をより一層向上する観点から、水素原子、メチル基、及びフェニル基からなる群より選択される基であることが好ましく、水素原子及びメチル基の一方であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。nは、1~20の整数である。
【0082】
樹脂と六方晶窒化ホウ素粉末との配合比は、用途に応じて適宜決定すればよく、例えば、全樹脂組成物中に上述の六方晶窒化ホウ素粉末を好ましくは30~90体積%、より好ましくは40~80体積%、さらに好ましくは50~70体積%配合することができる。
【0083】
樹脂組成物は、六方晶窒化ホウ素および樹脂以外の成分を含んでいてもよい。樹脂組成物は、例えば、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、シリカ、窒化アルミニウムのような無機フィラー、硬化促進剤、変色防止剤、界面活性剤、分散剤、カップリング剤、着色剤、可塑剤、粘度調整剤、抗菌剤などを本発明の効果に影響を与えない範囲で適宜含んでいてもよい。
【0084】
本発明の樹脂組成物の用途は、例えば、接着フィルム、プリプレグ等のシート状積層材料(樹脂シート)、回路基板(積層板用途、多層プリント配線板用途)、ソルダーレジスト、アンダ-フィル材、熱接着剤、ダイボンディング材、半導体封止材、穴埋め樹脂、部品埋め込み樹脂、熱インターフェース材(シート、ゲル、グリース等)、パワーモジュール用基板、電子部品用放熱部材等を挙げることができる。
【0085】
本発明の樹脂組成物は、特に、膜厚20~45μmの樹脂シートに好適に使用することが出来る。上記のように、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末は、粗大粒子が存在しないため薄い膜厚の樹脂シートにおいて高い絶縁耐力を得ることが出来、且つ膜厚20~45μmの樹脂シートにおいて高熱伝導性を実現する粒度分布を有している。そのため、本発明の六方晶窒化ホウ素粉末を含有する樹脂組成物は、膜厚20~45μmの樹脂シートに特に適している。なお、六方晶窒化ホウ素粉末のグラインドゲージ測定粒径の上限値は、膜厚X(μm)に応じて調整することが好ましく、具体的には、膜厚X(μm)の樹脂シートの場合、六方晶窒化ホウ素粉末のグラインドゲージ測定粒径の上限はX-1(μm)であることが好ましい。
【0086】
なお、本発明の樹脂組成物は、膜厚20~45μmの薄い樹脂シートに特に適しているが、膜厚45μm超の樹脂シートに使用することも、可能である。
【0087】
前記樹脂シートの用途は特に限定されないが、例えば回路基板用途(特に樹脂組成物と銅箔とを積層した銅張積層板用途)や多層プリント配線板の絶縁層用途に使用することが可能である。これらの用途においては、薄膜樹脂シートを使用することで、熱抵抗を低下させたり、各種デバイスを小型化したりすることが可能であり、本発明の樹脂組成物による薄膜樹脂シートの用途として、特に好適な物として挙げることが出来る。
【0088】
銅張積層板用途においては、好適な樹脂として、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリマー、ふっ素樹脂、シアン酸エステル化合物、マレイミド化合物等を挙げることが出来る。この中でも衛星放送の受信機器や携帯電話等の電子通信機器に搭載される銅張積層板用途においては、高周波特性、耐熱性、耐候性、耐薬品性、撥水性に優れていることから、ふっ素樹脂が特に好適な樹脂として挙げられる。また、回路基板が鉛フリー半田を使用して製造される場合には、鉛フロー半田のリフロー温度が260℃程度であることから、耐熱性の高い液晶ポリマーを使用することが好適であり、耐熱性や難燃性により優れることから、サーモトロピック液晶ポリマーが特に好適である。
また、銅張積層板用途においては、エポキシ樹脂及び/またはマレイミド化合物と、シアン酸エステル化合物とを使用することも好ましい形態として挙げることが出来る。このような樹脂組成とすることで、ピール強度や吸湿耐熱性に優れた樹脂組成物とすることが容易となる。この場合、エポキシ樹脂としては、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂、多官能フェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂が難燃性や耐熱性の観点から好ましく、マレイミド化合物としては、2,2’-ビス{4-(4-マレイミドフェノキシ)-フェニル}プロパン、ビス(3-エチル-5-メチル-4-マレイミドフェニル)メタン及び前記式(B-1)で表されるマレイミド化合物、及び前記式(B-2)で表されるマレイミド化合物が、熱膨張率やガラス転移温度の観点から好ましく、シアン酸エステル化合物としては、フェノールノボラック型シアン酸エステル化合物、ビフェニルアラルキル型シアン酸エステル化合物、ナフトールアラルキル型シアン酸エステル化合物が、ガラス転移温度やめっき密着性の観点から好ましい。
【0089】
多層プリント配線板の絶縁層として使用する場合、樹脂としては、耐熱性と銅箔回路への接着性に優れることから、エポキシ樹脂を使用することが好ましい。エポキシ樹脂としては、温度20℃で液状のエポキシ樹脂と、温度20℃で固形状のエポキシ樹脂とを併用することが、優れた可撓性を有する樹脂組成物が得られると共に、絶縁層の破断強度が向上するため好ましい。好ましい温度20℃で液状のエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂が挙げられる。好ましい温度20℃で固形状のエポキシ樹脂としては、4官能ナフタレン型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフチレンエーテル型エポキシ樹脂が挙げられる。温度20℃で液状のエポキシ樹脂と、温度20℃で固形状のエポキシ樹脂の配合比は、質量比で1:0.1~1:4の範囲が好ましく、1:0.8~1:2.5がより好ましい。
【0090】
本発明の樹脂組成物の用途としては、前記樹脂シート以外にも、例えばアンダーフィル材やグリース状の熱インターフェース材として使用することも可能である。本発明の粗粒をカットした六方晶窒化ホウ素粉末を使用することで、狭い間隙への充填性に優れたアンダーフィル材やグリース状の熱インターフェース材として使用する事が出来る。
【0091】
本発明の樹脂組成物をアンダーフィル材としてとして使用する場合、樹脂としては、耐熱性、体質性、機械的強度等の観点からエポキシ樹脂であることが好まし、常温で液状のエポキシ樹脂を使用することが特に好ましい。
【0092】
樹脂組成物をグリース状の熱インターフェース材として使用する場合には、樹脂としてシリコーン樹脂を使用することが好ましい。シリコーン樹脂としては、付加反応型シリコーン樹脂として下記式(3)で示されるポリオルガノシロキサンと、シリコーン系架橋剤として1分子中に少なくともケイ素原子結合水素原子を有するポリオルガノシロキサンとを使用することが好ましい。
【0093】
【0094】
式中、R1は独立に非置換又は置換の1価炭化水素基であり、炭素数1~3の1価の炭化水素基であることが好ましい。R3は独立に炭素数1~ 4のアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケニル基又はアシル基である。pは5~100の整数であり、好ましくは10~50である。aは1~3の整数である。
【実施例】
【0095】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に
制限されるものではない。本発明における各種物性測定方法は、それぞれ以下のとおりである。
【0096】
[湿式粒度分布測定]
日機装株式会社製:粒子径分布測定装置MT3000を使用して測定した。なお、測定サンプルは、以下に示す方法により調製した。まず、50mLスクリュー管瓶にエタノール20gを分散媒として加え、エタノール中に六方晶窒化ホウ素粉末1gを分散させた。これを、レーザー回折散乱型粒度分布計を用いて粒度分布を測定した。このときに、凝集粒子を壊さないために、超音波処理等は行わずに測定した。得られた粒子径の体積頻度分布から、粒径5~20μm程度の粒子の存在割合を求めた。また、体積頻度の累積値が50%となるところの粒径の値をD50、95%となるところの粒径の値をD95、100%となるところの粒径の値をD100として求めた。
【0097】
[超音波処理湿式粒度分布測定]
日機装株式会社製:粒子径分布測定装置MT3000を使用して測定した。なお、測定サンプルは、以下に示す方法により調製した。まず、50mLスクリュー管瓶にエタノール20gを分散媒として加え、エタノール中に六方晶窒化ホウ素粉末1gを分散させた。これを、レーザー回折散乱型粒度分布計を用いて粒度分布を測定した。このときに、凝集粒子を壊すために、90W20分の超音波処理を行った。得られた粒子径の体積頻度分布から、体積頻度の累積値が50%となるところの粒径の値をD50Sとして求めた。
【0098】
[BET比表面積]
六方晶窒化ホウ素粉末のBET比表面積測定には、比表面積測定装置(島津製作所製:フローソーブ2-2300型)を用いて、BET法(窒素吸着1点法)により求めた
[酸素・炭素分析]
六方晶窒化ホウ素粉末の酸素含有量は、堀場製作所製:酸素/窒素分析装置EMGA-620を使用して測定した。六方晶窒化ホウ素粉末の炭素含有量は、炭素分析装置(堀場製作所製EMIA-110)で測定した。本発明の実施例の六方晶窒化ホウ素粉末は全て、酸素含有量が0.01~0.95質量%、炭素含有量が0.001~0.050質量%の範囲内であった。
【0099】
[不純物酸化ホウ素量]
150ccのビーカーに、0.04mol/Lの濃度の硫酸水溶液50g、六方晶窒化ホウ素粉末2gを投入し、振盪撹拌した後、120分静置した。その間、液の温度を25℃ に調整した。その後、得られた液中のホウ素をICP発光分光分析装置(THERMO FISHER社製iCAP6500)により分析して測定されたホウ素量をB2O3に換算し、これを前記六方晶窒化ホウ素粉末の質量で除して不純物酸化ホウ素量(ppm)を求めた。本発明の実施例の六方晶窒化ホウ素粉末は全て、不純物酸化ホウ素量が250ppm以下であった。
【0100】
[グラインドゲージ測定粒径]
JIS―K5600-2-5に準拠して、幅90mm、長さ240mm、最大深さ50μmのグラインドゲージ(粒ゲージ)を用いて評価した。六方晶窒化ホウ素粉末0.4gと、25℃での動粘度が1000cStのシリコーン樹脂(モメンティブ社製:Element14 PDMS 1000-J)4gとを、24mlのプラ軟こう壺に投入し、この軟こう壺を自転・公転ミキサー(株式会社シンキ―社製:ARE-310)で公転速度2000rpm、自転速度800rpmで2分間処理し、測定用ペーストを得た。グラインドゲージに測定用ペーストを載せ、スクレーパーを垂直に当てて溝の上をスライドさせ、顕著な斑点が現れ始める点を観察した。観察は2.5μm刻みで行い、溝を横切って3mmの幅に5個以上の粒子を含む最も大きな点を、グラインドゲージ測定粒径として求めた。操作はn=6で行い、6回の平均値をグラインドゲージ測定粒径とした。
【0101】
[熱伝導率]
作製した樹脂シートの熱伝導率(W/m・K)を、熱拡散率(m2/秒)×密度(kg/m3)×比熱(J/kg・K)で求めた。熱拡散率は温度波熱分析法(アイフェイズ社製:ai-Phase Mobile u、ISO22007-3)、密度はアルキメデス法(メトラー・トレド社製:XS204V)、比熱は示差走査熱量計(DSC)法(リガク社製:Thermo Plus Evo DSC8230)で測定した。
【0102】
[絶縁耐力]
作製した樹脂シートの絶縁耐力(kV/mm)を、耐電圧試験機(京南電機株式会社製:YPAD-0225)を使用し、JIS K6911の熱硬化性プラスチック一般試験方法に準じて測定した。
【0103】
[アスペクト比]
六方晶窒化ホウ素一次粒子のアスペクト比は分析走査電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ株式会社製:S-3400N)を用いて測定した。倍率5000倍の走査電子顕微鏡観察像から異なる六方晶窒化ホウ素一次粒子100個を無作為に選び、六方晶窒化ホウ素一次粒子の長径の長さ、厚みを測定してそれぞれのアスペクト比(長径の長さ/厚みの長さ)を算出し、その平均値をアスペクト比とした。その結果、全ての実施例と比較例において、原料六方晶窒化ホウ素及び六方晶窒化ホウ素のアスペクト比は、5~15の範囲にあった。
【0104】
[スラリー粘度の測定]
原料六方晶窒化ホウ素スラリーを、粘度計(アズワン社製:ASJ-8ST)を用いて、回転数3rpmで測定した。全ての実施例において、25℃における原料六方晶窒化ホウ素スラリーの粘度は1~60mPa・Sの範囲内であった。
【0105】
実施例1
酸化ホウ素1950g、カーボンブラック710g、炭酸カルシウム552gを、スパルタンミキサーを使用して混合した。該混合物の(B/C)元素比換算は0.95、含酸素ホウ素化合物、カーボン源の、B2O3、C換算質量合計量100質量部に対する上記含酸素カルシウム化合物のCaO換算質量含有割合は11.6質量部である。該混合物1500gを、黒鉛製タンマン炉を用い、窒素ガス雰囲気下、1500℃6時間、1600℃で2時間保持することで窒化処理して、窒化物を得た。
次いで、前記窒化物を解砕して容器に投入し、該窒化物の5倍量の塩酸(7質量%HCl)を加え、スリーワンモーター回転数350rpmで24時間撹拌した。該酸洗浄の後、酸をろ過し、使用した酸と同量の純水に、ろ過して得られた窒化物を分散させ、再度ろ過した。この操作をろ過後の水溶液が中性になるまで繰り返した後、200℃で12時間真空乾燥させた。乾燥後に得られた粉末を目開き45μmの篩にかけて、原料六方晶窒化ホウ素粉末を得た。
原料六方晶窒化ホウ素粉末を純水と混合して4質量%の原料六方晶窒化ホウ素スラリー(原料六方晶窒化ホウ素粉末:純水=1質量:25質量)を準備した。次いで、アコージャパン株式会社製スラリースクリーナーを用いて、内側でスクリュー回転数:50Hz、回転角度40°で回転させた目開き25μmのナイロン円筒フィルターに、純水を浸漬させるため5L通水した後、前記原料六方晶窒化ホウ素スラリー10Lを1L/分のスラリー投入速度で投入し、内側でスクリューを回転させた円筒フィルターに原料六方晶窒化ホウ素スラリーを投入する湿式分級処理を行い、フィルター通過スラリーを得た。前記フィルター通過スラリーを濾別し、脱水ケーキとし、上記脱水ケーキを200℃で真空乾燥し、目的とする六方晶窒化ホウ素粉末を得た。なお、フィルター上に残留した粉末とフィルターを通過しなかったスラリーを乾燥させて得られた粉末は、原料六方晶窒化ホウ素粉末に対して5質量%未満であり、原料六方晶窒化ホウ素粉末の95質量%以上は、25μmフィルターを通過した。製造条件を表1に、得られた六方晶窒化ホウ素粉末の評価結果を表2、表3に示す。
【0106】
実施例2~10
表1に示すように各条件を変更した以外は実施例1と同様に行った。製造条件を表1に、得られた六方晶窒化ホウ素粉末の評価結果を表2、表3に示す。
【0107】
比較例1~5
表1に示すように各条件を変更した以外は実施例1と同様に行った。なお比較例1~3に関しては、100μmのグラインドゲージを使用してグラインドゲージ測定粒径を測定した。製造条件を表1に、得られた六方晶窒化ホウ素粉末の評価結果を表2、表3に示す。
【0108】
比較例6
市販のBN粉末を表1に示すように実施例1と同様に湿式分級処理を行った。製造条件を表1に、得られた六方晶窒化ホウ素粉末の評価結果を表2、表3に示す。
【0109】
以下のように、実施例1~10、比較例1~6で得られた六方晶窒化ホウ素粉末をエポキシ樹脂に充填し、樹脂組成物を作製し、熱伝導率と絶縁耐力の評価を行った。硬化性エポキシ樹脂(三菱化学株式会社製JER828)100質量部と、硬化剤(イミダゾール系硬化剤、四国化成株式会社製キュアゾール2E4MZ)5質量部と、溶媒としてメチルエチルケトン210質量部とを混合したワニス状混合物を準備した後、前記ワニス状混合物と前記六方晶窒化ホウ素粉末とを、樹脂35体積%、六方晶窒化ホウ素粉末65体積%となるように、自転・公転ミキサー(倉敷紡績株式会社製MAZERUSTAR)にて混合して樹脂複合体混合物を得た。
【0110】
上記樹脂複合体混合物を,テスター産業社製自動塗工機PI-1210を用いて、PETフィルム上に厚み60μm程度に塗工・乾燥し、減圧下、温度:200℃、圧力:5MPa、保持時間:30分の条件で硬化させ、厚さ45μmの樹脂シートを作製した。なお、実施例2で作製した六方晶窒化ホウ素粉末を使用した樹脂シートは厚さ35μmで作製した。該樹脂シートの熱伝導率と絶縁耐力を測定した結果を表4に示す。実施例1~10で作製した本発明の六方晶窒化ホウ素粉末と樹脂からなる樹脂組成物からなる樹脂シートは、熱伝導率2.8W/m・K以上、絶縁耐力75kV/mm以上と、高熱伝導率高絶縁耐力であった。一方、比較例1~6で作製した六方晶窒化ホウ素粉末を充填した樹脂シートは、熱伝導率2.8W/m・K以上、絶縁耐力75kV/mm以上を同時に満たすことが出来なかった。
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【要約】
【課題】粗粒の少ない六方晶窒化ホウ素粉末を提供する。
【解決手段】湿式粒度分布測定における5~20μmの粒子の割合が50体積%以上、グランドゲージ測定粒径が44μm以下であることを特徴とする六方晶窒化ホウ素粉末。このような六方晶窒化ホウ素粉末は、粗粒が少なく、薄膜シート用のフィラーとして好適に使用出来、高い熱伝導率と絶縁耐力が得られる。
【選択図】 なし